【文献】
河野誠,磁場を使った新しい微粒子分析法 表面修飾体積,細孔体積,成分均一性などを評価する,PETROTECH,2015年 7月 1日,Vol.38, No.7,27-31
【文献】
CHALMERS et al.,Femtogram Resolution of Iron Content on a Per Cell Basis: Ex Vivo Storage of Human Red Blood Cells Leads to Loss of Hemoglobin,Anal. Chem.,2017年 2月23日,89,3702-3709
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記基準粒子状生物が有し得る状態は、前記基準粒子状生物が生きている状態から死んでいる状態へ向かって機能が低下していく各段階のうちの少なくとも一部に対応する、請求項4に記載の分析装置。
前記基準粒子状生物が有し得る状態は、前記基準粒子状生物が生きている状態から死んでいる状態へ向かって機能が低下していく各段階のうちの少なくとも一部に対応する、請求項13に記載の分析方法。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0028】
[実施形態1]
図1は、本実施形態の分析装置10の模式図である。本実施形態の分析装置10は、分析対象である粒子状生物pの種類を分析する。例えば、分析装置10は、酵母の種類、菌類の種類、及び細胞の種類を分析する。以下、酵母の種類を分析する場合を例に、本実施形態を説明する。分析装置10は、磁場生成部20と、観察部30と、演算部40とを備える。磁場生成部20の近傍にセル21が配置される。
【0029】
磁場生成部20は、磁場を生成してセル21内の粒子状生物pを磁気泳動させる。観察部30は、セル21内の粒子状生物pを観察する。演算部40は、観察部30による観察の結果から、粒子状生物pの粒子径及び磁気泳動速度を測定(算出)する。また、演算部40は、粒子状生物pの粒子径及び磁気泳動速度に基づいて、粒子状生物pの体積磁化率を測定(算出)する。そして、演算部40は、粒子状生物pの粒子径及び体積磁化率に基づいて、粒子状生物pの種類を分析する。以下、分析装置10について更に詳細に説明する。
【0030】
磁場生成部20は、磁場勾配(磁束密度の勾配)を生成して、セル21内の粒子状生物pに磁気力を作用させる。この結果、粒子状生物pが磁気泳動する。本実施形態において、磁場生成部20は、磁場勾配を生成する一対の永久磁石を備える。一対の永久磁石を構成する2つの永久磁石は、例えば100μm以上500μm以下の一定距離の空隙を空けて配置される。セル21は、2つの永久磁石の間の空隙に配置される。
【0031】
本実施形態において、セル21はキャピラリー管である。キャピラリー管は管状部材の一例である。セル21の材質は、可視光あるいはレーザー光を透過し得る材質であれば特に限定されない。例えば、セル21は、ガラス製あるいはプラスチック製であり得る。
【0032】
粒子状生物pは、媒体m中に存在する。媒体m中に1つの粒子状生物pが存在してもよいし、媒体m中に複数の粒子状生物pが存在してもよい。媒体m中に複数の粒子状生物pが存在する場合、複数の粒子状生物pは、媒体m中で分散していてもよいし、媒体m中で偏在していてもよい。媒体mは、典型的には、培養液である。
【0033】
粒子状生物pは、例えばマイクロシリンジ、マイクロポンプ、又はオートサンプラーにより、媒体mと共にセル21に導入される。あるいは、粒子状生物pは、サイフォンの原理に基づいて、媒体mと共にセル21に導入され得る。あるいは、粒子状生物pを含む液滴を毛細管現象によってセル21(キャピラリー管)に導入してもよい。粒子状生物pを含む液滴がキャピラリー管の一方端に滴下されると、毛細管現象によって液滴がキャピラリー管を流れる。
【0034】
粒子状生物pの体積磁化率は、粒子状生物pの種類によって異なる。体積磁化率の差異は、粒子状生物pの表層部(細胞壁又は細胞膜)及び内部の組成に由来する。詳しくは、媒体mに対する親和性が細胞壁又は細胞膜の組成によって異なること、及び細胞内部の構成が異なることにより、粒子状生物pの種類に応じて、粒子状生物pの体積磁化率が相違する。
【0035】
観察部30は、セル21内の粒子状生物pを観察して、観察結果を示す信号を生成する。演算部40は、観察部30が生成する信号に基づいて、粒子状生物pの粒子径及び磁気泳動速度を測定(算出)する。演算部40は、記憶部41と、処理部42とを備える。
【0036】
記憶部41は、プログラム及び設定情報などを記憶する。記憶部41は、例えば、ストレージデバイス及び半導体メモリーによって構成され得る。ストレージデバイスは、例えば、HDD(Hard Disk Drive)である。記憶部41は、半導体メモリーとして、例えば、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)を有し得る。処理部42は、記憶部41に記憶されたプログラムを実行することによって、数値計算や情報処理、機器制御のような様々な処理を行う。処理部42は、例えばCPU(Central Processing Unit)のようなプロセッサーによって構成される。演算部40として、例えばパーソナルコンピューターのような汎用コンピューターが用いられる。
【0037】
処理部42は、観察部30の観察結果から、セル21内における粒子状生物pの位置の時間的な変化を分析する。例えば、処理部42は、所定の時間間隔ごとに、セル21内における粒子状生物pの位置を測定する。換言すると、異なる時刻の粒子状生物pの位置を測定する。処理部42は、粒子状生物pの位置の時間的な変化から、粒子状生物pの磁気泳動速度を測定する。
【0038】
また、処理部42は、観察部30が生成する信号から、粒子状生物pの粒子径を測定する。処理部42は、更に、粒子状生物pの粒子径及び磁気泳動速度に基づいて、粒子状生物pの体積磁化率を測定する。
【0039】
例えば、処理部42は、以下の式(1)に基づいて、粒子状生物pの体積磁化率を算出する。
v={2(χs−χm)r
2/9ημ
o}B(dB/dx)・・・(1)
【0040】
式(1)において、vは粒子状生物pの磁気泳動速度であり、χsは粒子状生物pの体積磁化率であり、χmは媒体mの体積磁化率であり、rは粒子状生物pの半径であり、ηは媒体mの粘性率であり、μ
oは真空の透磁率であり、Bは磁束密度であり、dB/dxは磁場勾配(磁束密度の勾配)である。なお、式(1)は、セル21(キャピラリー管)の軸方向(x方向)において粒子状生物p及び媒体mが受ける磁気力の差と、粘性抵抗力とがほぼ等しいことから導かれる。
【0041】
記憶部41は、基準データ43を記憶している。本実施形態において、基準データ43は、複数種類の粒子状生物のそれぞれの標準的な粒子径と体積磁化率との関係を示す。処理部42は、分析対象の粒子状生物pの粒子径及び体積磁化率を基準データ43と比較することにより、分析対象の粒子状生物pの種類を分析する。本実施形態において、基準データ43は、複数種類の酵母のそれぞれの標準的な粒子径と体積磁化率との関係を示す。なお、以下の説明において、標準的な粒子径と体積磁化率との関係を示す粒子状生物を「基準粒子状生物」と記載する場合がある。
【0042】
続いて
図2(a)及び
図2(b)を参照して、粒子状生物pの動きを説明する。
図2(a)及び
図2(b)は、粒子状生物pの動きを示す図である。詳しくは、
図2(a)及び
図2(b)は、粒子状生物p及び媒体mの体積磁化率と粒子状生物pの移動方向との関係を示す。
図2(a)及び
図2(b)に示すように、磁場生成部20は、磁極がN極の永久磁石20aと、磁極がS極の永久磁石20bとを備える。2つの永久磁石20a、20bは、セル21を挟んで対向する。
【0043】
図2(a)に示すように、粒子状生物pの体積磁化率が媒体mの体積磁化率よりも小さい場合、粒子状生物pは磁場(磁場生成部20)から遠ざかる方向に移動する。一方、
図2(b)に示すように、粒子状生物pの体積磁化率が媒体mの体積磁化率よりも大きい場合、粒子状生物pは磁場(磁場生成部20)に近づく方向に移動する。
【0044】
図2(a)及び
図2(b)に示すように、粒子状生物pの動きは、粒子状生物p及び媒体mの体積磁化率に応じて決定される。なお、粒子状生物pは永久磁石20a、20bの端部の近傍において力を受ける。例えば、粒子状生物pは永久磁石20a、20bの端部の近傍から±200μm程度の範囲で力を受ける。
【0045】
続いて
図3を参照して、分析装置10について更に説明する。
図3は、分析装置10の構成を示す図である。
図3に示すように、分析装置10は、光源50を更に備える。また、観察部30は、拡大部32及び撮像部34を備える。
【0046】
光源50は、可視光成分を含む比較的高い強度の光を出射する。光源50は、セル21に光を照射する。この結果、粒子状生物pに光が照射される。光源50から出射される光の波長スペクトルは比較的ブロードであってもよい。光源50として、例えば、ハロゲンランプが好適に用いられる。
【0047】
セル21に導入された粒子状生物pは、拡大部32によって適当な倍率で拡大されて、撮像部34で撮像される。撮像部34の撮像結果(撮像部34が撮像した画像)から、粒子状生物pの位置を特定できる。例えば、拡大部32は対物レンズを含み、撮像部34は電荷結合素子(Charge Coupled Device:CCD)を含む。あるいは、撮像部34の各画素は、フォトダイオード又は光電子倍増管で構成されてもよい。撮像部34は、例えば、所定の時間間隔ごとに粒子状生物pを撮像する。なお、撮像部34は、光源50から出射されてセル21を透過した光を撮像してもよいし、光源50から出射されて粒子状生物pによって散乱された光を撮像してもよい。
【0048】
演算部40(処理部42)は、撮像部34の撮像結果から、粒子状生物pの位置の時間的な変化を分析し、粒子状生物pの位置の時間的な変化から粒子状生物pの磁気泳動速度を測定する。
【0049】
また、演算部40(処理部42)は、粒子状生物pの撮像結果から粒子状生物pの粒子径を測定する。例えば、演算部40(処理部42)は、以下の処理を実行する。即ち、まず、撮像部34によって撮像された画像をモノクロ化し、その輝度を数値化する。次に、輝度値の微分値をしきい値と比較して粒子状生物pの境界を設定する。次に、設定した境界から粒子状生物pの面積を検出し、その面積に対応する円の半径から粒子径を測定(算出)する。あるいは、粒子状生物pの中心を規定し、粒子状生物pの中心を通過する複数の直線を引き、各直線において粒子状生物pの境界と交わる2つの点の間の距離の平均を算出する。
【0050】
続いて
図4を参照して、複数種類の粒子状生物pのそれぞれの粒子径及び体積磁化率の測定結果について説明する。
図4は、3種類の酵母(分析対象)のそれぞれの粒子径及び体積磁化率の測定結果の一例を示す図である。
【0051】
図4において、横軸は粒子径を示し、縦軸は体積磁化率を示す。また、丸印はビール上面発酵酵母(Saccharomyces cerevisiae (American Ale))の粒子径及び体積磁化率の測定結果を示し、三角印は醤油酵母(Zygosaccharomyces rouxii)の粒子径及び体積磁化率の測定結果を示し、四角印は標準株(Saccharomyces cerevisiae NRIC1560
T (Type strain))の粒子径及び体積磁化率の測定結果を示す。
図4に示すように、粒子状生物pの体積磁化率は、粒子状生物pの種類によって異なる。したがって、粒子状生物pの体積磁化率に基づいて、粒子状生物pの種類を分析することができる。以下、粒子状生物pが、ビール上面発酵酵母(Saccharomyces cerevisiae (American Ale))、醤油酵母(Zygosaccharomyces rouxii)、及び標準株(Saccharomyces cerevisiae NRIC1560
T (Type strain))のいずれかである場合を例に、本実施形態を説明する。
【0052】
続いて
図5を参照して、基準データ43について説明する。
図5は、実施形態1に係る基準データ43の一例を示す図である。詳しくは、3種類の酵母(ビール上面発酵酵母、醤油酵母、及び標準株)の標準的な粒子径と体積磁化率との関係を示す。なお、以下の説明において、標準的な粒子径と体積磁化率との関係を示す酵母(基準粒子状生物)を「基準酵母」と記載する場合がある。
【0053】
図5において、横軸は粒子径を示し、縦軸は体積磁化率を示す。また、グラフ60は、複数種類の基準酵母のそれぞれの粒子径と体積磁化率との関係を示す。
図1を参照して説明した記憶部41は、基準データ43として、グラフ60に対応するデータを記憶する。具体的には、記憶部41は、基準データ43として、グラフ60の式を示すデータを記憶する。又は、記憶部41は、基準データ43として、グラフ60に対応するテーブルを示すデータを記憶する。
【0054】
例えば、
図5に示すように、グラフ60は、一点鎖線で示す第1グラフ61と、鎖線で示す第2グラフ62と、実線で示す第3グラフ63とを含み得る。本実施形態において、第1グラフ61はビール上面発酵酵母の標準的な粒子径と体積磁化率との関係を示し、第2グラフ62は醤油酵母の標準的な粒子径と体積磁化率との関係を示し、第3グラフ63は標準株の標準的な粒子径と体積磁化率との関係を示す。この場合、基準データ43は、第1グラフ61に対応する第1データと、第2グラフ62に対応する第2データと、第3グラフ63に対応する第3データとを含む。例えば、第1データは、第1グラフ61の式、又は第1グラフ61に対応するテーブルを示すデータであり、第2データは、第2グラフ62の式、又は第2グラフ62に対応するテーブルを示すデータであり、第3データは、第3グラフ63の式、又は第3グラフ63に対応するテーブルを示すデータである。
【0055】
図4を参照して説明したように、ビール上面発酵酵母、醤油酵母、及び標準株はそれぞれ異なる体積磁化率を有する。したがって、処理部42は、第1グラフ61に対応する第1データ、第2グラフ62に対応する第2データ、及び第3グラフ63に対応する第3データを参照して、粒子状生物pが、ビール上面発酵酵母であるのか、醤油酵母であるのか、標準株であるのかを分析することができる。
【0056】
具体的には、処理部42は、基準データ43を参照して、基準粒子状生物の種類ごとに、分析対象の粒子状生物pの粒子径と同じ粒子径を有する基準粒子状生物の体積磁化率を判定する。以下、分析対象の粒子状生物pの粒子径と同じ粒子径を有する基準粒子状生物の体積磁化率を「基準体積磁化率」と記載する場合がある。処理部42は、基準体積磁化率のうちから、分析対象の粒子状生物pの体積磁化率に最も近い基準体積磁化率を判定する。処理部42は、この判定の結果に基づき、分析対象の粒子状生物pの種類を分析する。
【0057】
なお、基準データ43は、粒子径ごとに体積磁化率の範囲を示してもよい。この場合、処理部42は、基準データ43を参照して、基準粒子状生物の種類ごとに、分析対象の粒子状生物pの粒子径と同じ粒子径を有する基準粒子状生物の体積磁化率の範囲を判定する。以下、分析対象の粒子状生物pの粒子径と同じ粒子径を有する基準粒子状生物の体積磁化率の範囲を「基準体積磁化率の範囲」と記載する場合がある。処理部42は、基準体積磁化率の範囲のうちから、分析対象の粒子状生物pの体積磁化率の値を含む基準体積磁化率の範囲を判定する。
【0058】
あるいは、基準データ43は、粒子径ごとに体積磁化率の範囲と体積磁化率の中央値とを示してもよい。この場合、処理部42は、基準データ43を参照して、基準粒子状生物の種類ごとに、分析対象の粒子状生物pの粒子径と同じ粒子径を有する基準粒子状生物の体積磁化率の範囲(基準体積磁化率の範囲)及び中央値を判定する。処理部42は、基準体積磁化率の範囲のうちから、分析対象の粒子状生物pの体積磁化率の値を含む基準体積磁化率の範囲を判定する。複数の基準体積磁化率の範囲が、分析対象の粒子状生物pの体積磁化率の値を含む場合、処理部42は、中央値のうちから、分析対象の粒子状生物pの体積磁化率に最も近い中央値を判定する。なお、基準データ43は、中央値に替えて平均値を示してもよい。
【0059】
続いて
図6を参照して、本実施形態の分析方法について説明する。
図6は、本実施形態の分析方法を示すフローチャートである。本実施形態の分析方法は、
図1〜
図5を参照して説明した分析装置10を使用して実行し得る。
【0060】
図6に示すように、まず、磁気泳動する粒子状生物p(分析対象)を観察する(ステップS1)。次に、観察結果から粒子状生物pの磁気泳動速度と粒子径とを測定する(ステップS2)。次に、測定した磁気泳動測及び粒子径に基づいて粒子状生物pの体積磁化率を測定する(ステップS3)。次に、粒子状生物pの粒子径及び体積磁化率を基準データ43と比較することにより、粒子状生物pの種類を分析する(ステップS4)。
【0061】
粒子状生物pの粒子径及び体積磁化率を測定する際には、磁場生成部20がセル21内の粒子状生物pを磁気泳動させ、観察部30が、磁気泳動中の粒子状生物pを観察する。そして、処理部42が、観察部30による観察の結果から、粒子状生物pの粒子径と体積磁化率とを測定する。
【0062】
粒子状生物pの種類を分析する際には、処理部42が、粒子状生物pの粒子径及び体積磁化率を、記憶部41が記憶する基準データ43と比較する。基準データ43は、既に説明したように、複数種類の粒子状生物のそれぞれの標準的な粒子径と体積磁化率との関係を示す。
【0063】
以上、実施形態1について説明した。実施形態1によれば、粒子状生物pの品質を評価することができる。具体的には、粒子状生物pの種類を分析することができる。また、実施形態1によれば、磁気泳動中の粒子状生物pを観察することにより、粒子状生物pの粒子径及び体積磁化率を測定することができる。したがって、生きた状態で粒子状生物pの種類を分析できる。したがって、評価後の粒子状生物pを次の研究へ利用することが可能となる。
【0064】
なお、本実施形態では酵母の種類を分析したが、粒子状生物pは酵母に限定されない。粒子状生物pは、例えば、細胞であり得る。粒子状生物pが細胞である場合、例えば、粒子状生物pが、iPS細胞であるのか、ES細胞であるのかを分析することができる。また、粒子状生物pは、例えば、菌類であり得る。以下、
図7及び
図8を参照して、菌類の種類の分析について説明する。菌類の種類を分析する場合、
図1を参照して説明した基準データ43は、複数種類の菌類のそれぞれの標準的な粒子径と体積磁化率との関係を示す。
【0065】
図7は、3種類の菌類(分析対象)のそれぞれの粒子径及び体積磁化率の測定結果の一例を示す図である。
図7において、横軸は粒子径を示し、縦軸は体積磁化率を示す。また、黒三角印は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus ATCC12600)の粒子径及び体積磁化率の測定結果を示し、四角印は乳酸菌(Lactobacillus delbrueckii subsp.bulgaricus)の粒子径及び体積磁化率の測定結果を示し、白三角印はビール上面発酵酵母(Saccharomyces cerevisiae (American Ale))の粒子径及び体積磁化率の測定結果を示す。
【0066】
図7に示すように、菌類の体積磁化率は、菌類の種類によって異なる。したがって、菌類の体積磁化率に基づいて、菌類の種類を分析することができる。以下、菌類の種類の分析について、粒子状生物pが、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus ATCC12600)、乳酸菌(Lactobacillus delbrueckii subsp.bulgaricus)、及びビール上面発酵酵母(Saccharomyces cerevisiae (American Ale))のいずれかである場合を例に説明する。
【0067】
図8は、実施形態1に係る基準データ43の他例を示す図である。詳しくは、3種類の菌類(黄色ブドウ球菌、乳酸菌、及びビール上面発酵酵母)の標準的な粒子径と体積磁化率との関係を示す。なお、以下の説明において、標準的な粒子径と体積磁化率との関係を示す菌類(基準粒子状生物)を「基準菌類」と記載する場合がある。
【0068】
図8において、横軸は粒子径を示し、縦軸は体積磁化率を示す。また、グラフ70は、複数種類の基準菌類のそれぞれの粒子径と体積磁化率との関係を示す。
図1を参照して説明した記憶部41は、基準データ43として、グラフ70に対応するデータを記憶する。具体的には、記憶部41は、基準データ43として、グラフ70の式を示すデータ、又はグラフ70に対応するテーブルを示すデータを記憶する。
【0069】
例えば、
図8に示すように、グラフ70は、一点鎖線で示す第4グラフ71と、鎖線で示す第5グラフ72と、実線で示す第6グラフ73とを含み得る。本実施形態において、第4グラフ71は黄色ブドウ球菌の標準的な粒子径と体積磁化率との関係を示し、第5グラフ72は乳酸菌の標準的な粒子径と体積磁化率との関係を示し、第6グラフ73はビール上面発酵酵母の標準的な粒子径と体積磁化率との関係を示す。この場合、基準データ43は、第4グラフ71に対応する第4データと、第5グラフ72に対応する第5データと、第6グラフ73に対応する第6データとを含む。例えば、第4データは、第4グラフ71の式、又は第4グラフ71に対応するテーブルを示すデータであり、第5データは、第5グラフ72の式、又は第5グラフ72に対応するテーブルを示すデータであり、第6データは、第6グラフ73の式、又は第6グラフ73に対応するテーブルを示すデータである。
【0070】
図7を参照して説明したように、黄色ブドウ球菌、乳酸菌、及びビール上面発酵酵母はそれぞれ異なる体積磁化率を有する。したがって、処理部42は、第4グラフ71に対応する第4データ、第5グラフ72に対応する第5データ、及び第6グラフ73に対応する第6データを参照して、粒子状生物pが、黄色ブドウ球菌であるのか、乳酸菌であるのか、ビール上面発酵酵母であるのかを分析することができる。
【0071】
[実施形態2]
続いて
図1、
図9〜
図11を参照して、本発明の実施形態2について説明する。但し、実施形態1と異なる事項を説明し、実施形態1と同じ事項についての説明は割愛する。実施形態2は、分析対象である粒子状生物pの状態を分析する点で実施形態1と異なる。
【0072】
本実施形態において、基準データ43は、分析対象の粒子状生物pと同じ種類の基準粒子状生物の体積磁化率と粒子径との関係を、基準粒子状生物が有し得る状態ごとに示す。処理部42は、粒子状生物pの体積磁化率及び粒子径を基準データ43と比較することにより、粒子状生物pの状態を分析する。
【0073】
詳しくは、本実施形態に係る基準データ43は、基準粒子状生物が有する機能の低下の程度に対応する。具体的には、基準データ43は、生きている状態から死んでいる状態へ向かって基準粒子状生物の機能が低下していく各段階のうちの少なくとも一部に対応する。したがって、生きている状態から死んでいる状態へ向かって機能が低下していく各段階のうちの何れの段階に粒子状生物pが属しているかを分析することができる。例えば、基準データ43は、基準粒子状生物が生きている状態と、基準粒子状生物が死んでいる状態とに対応する。この場合、粒子状生物pの生死を分析することができる。粒子状生物pが生きている状態、及び粒子状生物pが死んでいる状態は、生きている状態から死んでいる状態へ向かって粒子状生物pの機能が低下していく各段階のうちの2つの段階を示す。
【0074】
以下、粒子状生物pの生死を分析する場合を例に、本実施形態を説明する。この場合、基準データ43は、分析対象の粒子状生物pと同じ種類の基準粒子状生物が生きている場合に示す体積磁化率と粒子径との関係、及び、分析対象の粒子状生物pと同じ種類の基準粒子状生物が死んでいる場合に示す体積磁化率と粒子径との関係を示す。処理部42は、粒子状生物pの体積磁化率及び粒子径を基準データ43と比較することにより、粒子状生物pが生きているか死んでいるかを分析する。
【0075】
図9は、粒子状生物pの粒子径及び体積磁化率の測定結果を示す図である。詳しくは、標準株(Saccharomyces cerevisiae NRIC1560
T (Type strain))の粒子径及び体積磁化率の測定結果を示す。
【0076】
図9において、横軸は粒子径を示し、縦軸は体積磁化率を示す。また、白丸印は、死んでいる粒子状生物pの体積磁化率を示す。黒丸印は、生きている粒子状生物pの体積磁化率を示す。
図9に示すように、粒子状生物pの体積磁化率は、粒子状生物pが生きているか死んでいるかによって異なる。したがって、粒子状生物pの体積磁化率に基づいて、粒子状生物pの生死を分析することができる。以下、粒子状生物pが標準株(Saccharomyces cerevisiae NRIC1560
T (Type strain))である場合を例に、本実施形態を説明する。
【0077】
体積磁化率の差異は、細胞内部の生命活動(酵素反応)の程度を反映している。また、体積磁化率の差異は、細胞を構成する物質(成分)の変化を反映している。具体的には、生命活動(機能)が低下又は停止すると、細胞の分解が始まり、その結果、細胞を構成する物質(成分)が変化する。したがって、本実施形態によれば、体積磁化率を測定することにより、粒子状生物pの機能が低下していく様子をモニタリングすることができる。また、粒子状生物pが生きているか死んでいるかを分析することができる。
【0078】
続いて
図10を参照して、実施形態2に係る基準データ43について説明する。
図10は、実施形態2に係る基準データ43の一例を示す図である。
図10において、横軸は粒子径を示し、縦軸は体積磁化率を示す。また、グラフ100は、基準粒子状生物が生きている場合に示す体積磁化率と粒子径との関係、及び、基準粒子状生物が死んでいる場合に示す体積磁化率と粒子径との関係を示す。
図1に示す記憶部41は、基準データ43として、グラフ100に対応するデータを記憶する。具体的には、
図1に示す記憶部41は、基準データ43として、グラフ100の式を示すデータ、又はグラフ100に対応するテーブルを示すデータを記憶する。
【0079】
図10に示すように、グラフ100は、2種類のグラフ(第7グラフ101及び第8グラフ102)を含む。例えば、鎖線で示す第7グラフ101は、基準粒子状生物が死んでいる場合に示す体積磁化率と粒子径との関係を示し、実線で示す第8グラフ102は、基準粒子状生物が生きている場合に示す体積磁化率と粒子径との関係を示す。この場合、基準データ43は、第7グラフ101に対応する第7データと、第8グラフ102に対応する第8データとを含む。例えば、第7データは、第7グラフ101の式、又は第7グラフ101に対応するテーブルを示すデータであり、第8データは、第8グラフ102の式、又は第8グラフ102に対応するテーブルを示すデータである。
【0080】
本実施形態において、第7グラフ101は、死んでいる標準株の標準的な粒子径と体積磁化率との関係を示し、第8グラフ102は、生きている標準株の標準的な粒子径と体積磁化率との関係を示す。
【0081】
図9を参照して説明したように、死んでいる標準株と、生きている標準株とは、互いに異なる体積磁化率を有する。したがって、処理部42は、第7グラフ101に対応する第7データ、及び第8グラフ102に対応する第8データを参照して、標準株(粒子状生物p)が生きているか死んでいるかを分析することができる。
【0082】
例えば、処理部42は、実施形態1と同様に、基準データ43を参照して、分析対象の粒子状生物pの体積磁化率に最も近い基準体積磁化率を判定する。処理部42は、この判定の結果に基づき、粒子状生物pの機能の低下の程度を分析する。なお、処理部42は、実施形態1において説明したように、基準体積磁化率の範囲、又は、基準体積磁化率の範囲及び中央値を用いて、粒子状生物pの機能の低下の程度を分析してもよい。あるいは、実施形態1において説明したように、基準体積磁化率の範囲及び平均値を用いて、粒子状生物pの機能の低下の程度を分析してもよい。
【0083】
続いて
図11を参照して、実施形態2に係る分析方法について説明する。
図11は、実施形態2に係る分析方法を示すフローチャートである。実施形態2に係る分析方法は、
図1、
図9、及び
図10を参照して説明した分析装置10を使用して実行し得る。
【0084】
図11に示すように、ステップS1〜ステップS3までの処理は、
図6を参照して説明した分析方法と同様であるため、説明を割愛する。実施形態2に係る分析方法では、粒子状生物p(分析対象)の体積磁化率を測定すると(ステップS3)、粒子状生物pの粒子径及び体積磁化率を基準データ43と比較することにより、粒子状生物pの機能の低下の程度を分析する(ステップS5)。粒子状生物pを分析する際には、処理部42が、粒子状生物pの粒子径及び体積磁化率を、記憶部41が記憶する基準データ43と比較する。基準データ43は、既に説明したように、生きている状態から死んでいる状態へ向かって基準粒子状生物の機能が低下していく各段階のうちの少なくとも一部に対応する。
【0085】
以上、実施形態2について説明した。実施形態2によれば、実施形態1と同様に、粒子状生物pの品質を評価することができる。具体的には、粒子状生物pの機能の低下の程度を分析することができる。また、評価後に、生きている粒子状生物pを分離して、次の研究へ利用することが可能となる。
【0086】
なお、本実施形態では、酵母(標準株)の状態(機能の低下の程度)を分析したが、粒子状生物pは酵母に限定されない。粒子状生物pは、酵母以外の細胞であり得る。例えば、粒子状生物pは、動物細胞であり得る。
【0087】
図12は、3種類の動物細胞のそれぞれの粒子径及び体積磁化率の測定結果の一例を示す図である。詳しくは、
図12は、機能の低下の程度が異なる3種類のJurkat細胞(ヒト由来の急性T細胞性白血病)のそれぞれの粒子径及び体積磁化率の測定結果の一例を示す。具体的には、MES(2−モルホリノエタンスルホン酸)培地を使用し、雰囲気温度37℃、二酸化炭素濃度7%の環境の下で、培地交換を行うことなく、Jurkat細胞を培養した。培養開始時の細胞には、凍結細胞を3代継代培養して得た細胞を用いた。培地交換を行うことなく動物細胞を培養した場合、細胞は貧栄養化し、時間の経過とともに劣化していく。動物細胞の劣化の程度は、動物細胞の機能の低下の程度に対応する。
【0088】
図12において、横軸は粒子径を示し、縦軸は体積磁化率を示す。また、
図12において、三角印は、培養開始時のJurkat細胞の粒子径及び体積磁化率の測定結果を示す。四角印は、24時間培養したJurkat細胞の粒子径及び体積磁化率の測定結果を示す。菱形印は、264時間培養したJurkat細胞の粒子径及び体積磁化率の測定結果を示す。
【0089】
図12に示すように、培地交換を行うことなくJurkat細胞を培養した場合、Jurkat細胞の体積磁化率は、培養時間に応じて変化する。換言すると、Jurkat細胞の体積磁化率は、Jurkat細胞の劣化の程度(機能の低下の程度)によって異なる。具体的には、培養時間が長いほど、Jurkat細胞の反磁性が弱まる。換言すると、Jurkat細胞の機能の低下が大きいほど、反磁性が弱まる。したがって、動物細胞の体積磁化率に基づいて、動物細胞の状態(機能の低下の程度)を分析することができる。
【0090】
[実施形態3]
続いて
図1、
図13〜
図15を参照して、本発明の実施形態3について説明する。但し、実施形態1及び2と異なる事項を説明し、実施形態1及び2と同じ事項についての説明は割愛する。実施形態3は、分析対象である粒子状生物pの状態として、粒子状生物pが有する能力の程度を分析する点で実施形態1及び2と異なる。粒子状生物pの能力は、例えば、生理活性能力(活性度)、分化能力、又はタンパク質等の生成能力を含む。
【0091】
本実施形態において、基準データ43は、分析対象の粒子状生物pと同じ種類の基準粒子状生物の体積磁化率と粒子径との関係を、基準粒子状生物が有する能力の程度ごとに示す。処理部42は、粒子状生物pの体積磁化率及び粒子径を基準データ43と比較することにより、粒子状生物pが有する能力の程度を分析する。以下では、粒子状生物pの活性度を分析する場合を例に、本実施形態を説明する。この場合、基準データ43は、分析対象の粒子状生物pと同じ種類の基準粒子状生物の体積磁化率と粒子径との関係を活性度ごとに示す。
【0092】
図13(a)は、粒子状生物pの活性度の測定結果を示す図である。詳しくは、標準株(Saccharomyces cerevisiae NRIC1560
T (Type strain))の活性度の測定結果を示す。具体的には、標準株の培養を開始してから7時間後の活性度の測定結果を示している。
【0093】
図13(a)において、横軸は測定時間を示し、縦軸は活性度を示す。詳しくは、縦軸は、450nmの光の吸光度を示す。具体的には、NADPHによりホルマザン色素が還元されることで、450nmの光を吸収するようになることから、この波長における吸光度を測定した。NADPHは、ATP(adenosine tri−phosphate:アデノシン三リン酸)の合成時に生成される補酵素であり、NADPHの生成量が多い程、吸光度が高くなる。換言すると、ATPの合成量が多い程、吸光度が高くなる。ATPの合成量は、粒子状生物pの活性度に対応しており、ATPの合成量が多い程、粒子状生物pの活性度は高くなる。したがって、吸光度は、粒子状生物pの活性度に対応する。具体的には、粒子状生物pの活性度が高い程、吸光度が高くなる。
【0094】
また、
図13(a)において、四角印は、5重量%の塩化ナトリウム(NaCl)を含む培養液内で培養した標準株の活性度を示す。また、三角印は、pH(水素イオン指数)を1.0に調整した培養液内で培養した標準株の活性度を示す。一方、丸印は、ストレスを与えることなく培養した標準株の活性度を示す。
図13(a)に示すように、ストレスを与えることにより、粒子状生物pの活性度(ATP合成量)は低くなる。
【0095】
図13(b)は、分析対象の粒子状生物pの粒子径及び体積磁化率の測定結果を示す図である。詳しくは、7時間培養した標準株(Saccharomyces cerevisiae NRIC1560
T (Type strain))の粒子径及び体積磁化率の測定結果を示す。
【0096】
図13(b)において、横軸は粒子径を示し、縦軸は体積磁化率を示す。また、
図13(b)において、四角印は、5重量%の塩化ナトリウム(NaCl)を含む培養液内で7時間培養した標準株の体積磁化率を示す。また、三角印は、pH(水素イオン指数)を1.0に調整した培養液内で7時間培養した標準株の体積磁化率を示す。一方、丸印は、ストレスを与えることなく7時間培養した標準株の体積磁化率を示す。
【0097】
図13(a)及び
図13(b)に示すように、粒子状生物pの体積磁化率は、活性度に応じて異なる。したがって、粒子状生物pの粒子径及び体積磁化率に基づいて、粒子状生物pの活性度を分析することができる。以下、粒子状生物pが標準株(Saccharomyces cerevisiae NRIC1560
T (Type strain))である場合を例に、本実施形態を説明する。
【0098】
体積磁化率の差異は、細胞内部の生命活動の程度を反映している。また、体積磁化率の差異は、細胞膜の表層(表面修飾分子)における物質動態の強弱を反映している。細胞膜の表層における物質動態の強弱は、ATP生成量に対応する。
【0099】
続いて
図14を参照して、実施形態3に係る基準データ43について説明する。
図14は、実施形態3に係る基準データ43の一例を示す図である。
図14において、横軸は粒子径を示し、縦軸は体積磁化率を示す。また、グラフ130は、基準粒子状生物の体積磁化率と粒子径との関係を活性度ごとに示す。
図1に示す記憶部41は、基準データ43として、グラフ130に対応するデータを記憶する。具体的には、
図1に示す記憶部41は、基準データ43として、グラフ130の式を示すデータ、又はグラフ130に対応するテーブルを示すデータを記憶する。
【0100】
例えば、
図14に示すように、グラフ130は、3種類のグラフ(第9グラフ131、第10グラフ132、及び第11グラフ133)を含み得る。この場合、基準データ43は、第9グラフ131に対応する第9データと、第10グラフ132に対応する第10データと、第11グラフ133に対応する第11データとを含む。例えば、第9データは、第9グラフ131の式、又は第9グラフ131に対応するテーブルを示すデータであり、第10データは、第10グラフ132の式、又は第10グラフ132に対応するテーブルを示すデータであり、第11データは、第11グラフ133の式、又は第11グラフ133に対応するテーブルを示すデータである。
【0101】
本実施形態において、第9グラフ131は、5重量%の塩化ナトリウム(NaCl)を含む培養液内で7時間培養した標準株の標準的な粒子径及び体積磁化率の関係を示し、第10グラフ132は、pH(水素イオン指数)を1.0に調整した培養液内で7時間培養した標準株の標準的な粒子径及び体積磁化率の関係を示し、第11グラフ133は、ストレスを与えることなく7時間培養した標準株の標準的な粒子径及び体積磁化率の関係を示す。
【0102】
図13を参照して説明したように、標準株は活性度に応じて異なる体積磁化率を有する。したがって、処理部42は、第9グラフ131に対応する第9データ、第10グラフ132に対応する第10データ、及び第11グラフ133に対応する第10データを参照して、粒子状生物pの活性度を分析することができる。
【0103】
例えば、処理部42は、実施形態1と同様に、基準データ43を参照して、粒子状生物pの体積磁化率に最も近い基準体積磁化率を判定する。処理部42は、この判定の結果に基づき、粒子状生物pの能力の程度を分析する。なお、処理部42は、実施形態1において説明したように、基準体積磁化率の範囲、又は、基準体積磁化率の範囲及び中央値を用いて、粒子状生物pの能力の程度を分析してもよい。あるいは、実施形態1において説明したように、基準体積磁化率の範囲及び平均値を用いて、粒子状生物pの能力の程度を分析してもよい。
【0104】
続いて
図15を参照して、実施形態3に係る分析方法について説明する。
図15は、実施形態3に係る分析方法を示すフローチャートである。実施形態3に係る分析方法は、
図1、
図13、及び
図14を参照して説明した分析装置10を使用して実行し得る。
【0105】
図15に示すように、ステップS1〜ステップS3までの処理は、
図6を参照して説明した分析方法と同様であるため、説明を割愛する。実施形態3に係る分析方法では、粒子状生物p(分析対象)の体積磁化率を測定すると(ステップS3)、粒子状生物pの粒子径及び体積磁化率を基準データ43と比較することにより、粒子状生物pの能力の程度を分析する(ステップS6)。粒子状生物pを分析する際には、処理部42が、粒子状生物pの粒子径及び体積磁化率を、記憶部41が記憶する基準データ43と比較する。基準データ43は、既に説明したように、分析対象の粒子状生物pと同じ種類の基準粒子状生物の体積磁化率と粒子径との関係を、基準粒子状生物が有する能力の程度ごとに示す。
【0106】
以上、実施形態3について説明した。実施形態3によれば、実施形態1及び2と同様に、粒子状生物pの品質を評価することができる。具体的には、粒子状生物pの能力の程度を分析することができる。また、評価後の粒子状生物pを次の研究へ利用することが可能となる。
【0107】
なお、本実施形態では、酵母(標準株)の能力の程度を分析したが、粒子状生物pは酵母に限定されない。粒子状生物pは、酵母以外の細胞であり得る。例えば、粒子状生物pは、動物細胞であり得る。
【0108】
また、本実施形態では、粒子状生物pの能力の程度を分析したが、粒子状生物pの能力の程度(例えば、生理活性能力、分化能力、又はタンパク質等の生成能力)に基づいて、粒子状生物pが良品(正常)であるのか不良品(異常)であるのかを更に分析してもよい。あるいは、粒子状生物pの粒子径及び体積磁化率を基準データ43と比較することにより、粒子状生物pの状態として、粒子状生物pが良品であるのか不良品であるのかを分析してもよい。例えば、粒子状生物pが、正常に分化したiPS細胞であるのか、がん化したiPS細胞であるのかを分析することができる。
【0109】
以上、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明した。但し、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である。
【0110】
例えば、本発明の実施形態では、磁場生成部20が一対の永久磁石20a、20bを備えたが、磁場生成部20は、磁場勾配を生成するために一対の磁極片(ポールピース)を備えてもよい。あるいは、磁場生成部20は、磁場勾配を生成するために、電磁石、磁気回路、又は超電導磁石を備えてもよい。磁場生成部20が一対の磁極片を備える場合、一対の磁極片を構成する2つの磁極片は、例えば100μm以上500μm以下の一定距離の空隙を空けて配置される。セル21は、2つの磁極片の間の空隙に配置される。磁極片は、例えば、磁化された鉄片であり得る。鉄片は、例えば永久磁石、電磁石、磁気回路、又は超電導磁石によって磁化し得る。
【0111】
また、本発明の実施形態では、セル21がキャピラリー管であったが、セル21は、ガラスセル又はプラスチックセルであってもよい。ガラスセル及びプラスチックセルは、粒子状生物pを含む媒体mを保持する凹部を有する。あるいは、ガラスセル及びプラスチックセルは、粒子状生物pを含む媒体mが流れる流路を有する。セル21が、マイクロ流路を有するガラスセル又はプラスチックセルである場合、粒子状生物pを含む液滴がマイクロ流路の一方端に滴下されると、毛細管現象によって液滴がマイクロ流路を流れる。
【0112】
また、本発明の実施形態では、画像解析によって粒子状生物pの粒子径を測定したが、粒子状生物pのブラウン運動を解析して、粒子状生物pの粒子径を測定してもよい。
【0113】
具体的には、セル21(キャピラリー管)の軸方向(x方向)に直交する方向(y方向)における粒子状生物pの位置の変化(変位)の分散から拡散係数を算出し、この拡散係数から粒子状生物pの粒子径を測定することができる。詳しくは、粒子状生物pは、セル21(キャピラリー管)の軸方向(x方向)に磁場勾配の影響を受けるが、セル21の軸方向に直交する方向(y方向)には磁場勾配の影響をほとんど受けない。したがって、y方向における粒子状生物pの位置の変位の分散から拡散係数Dを算出することができる。具体的には、拡散係数Dは、ブラウン運動を行う粒子状生物pのy方向の移動距離の2乗を2倍の時間で除算することによって算出することができる。
【0114】
処理部42は、以下の式(2)に基づいて、拡散係数Dから粒子状生物pの粒子径を測定する。式(2)において、dは粒子状生物pの粒子径であり、kはボルツマン定数であり、Tは絶対温度であり、ηは媒体mの粘性率である。
d=kT/(3πηD)・・・(2)
【0115】
また、本発明の実施形態では、分析装置10が光源50を備えたが、分析装置10は、光源50に替えてレーザーを備えてもよいし、光源50に加えてレーザーを更に備えてもよい。分析装置10が光源50とレーザーとを備える場合、光源50から光を出射する際には、レーザーからのレーザー光の出射を停止させ、レーザーからレーザー光を出射する際には、光源50からの光の出射を停止させる。レーザーを使用する場合、セル21に導入された粒子状生物pにレーザー光を照射する。観察部30は、セル21内の粒子状生物pによって散乱されたレーザー光(散乱光)によって粒子状生物pを観察する。例えば、
図3を参照して説明した撮像部34が、拡大部32を介して、粒子状生物pによって散乱されたレーザー光を撮像する。
【0116】
なお、レーザーを使用する場合、例えば動的光散乱法又は静的光散乱法に基づいて粒子状生物pの粒子径を測定してもよい。また、レーザー光を粒子状生物pに照射する場合、キャピラリー管は、その軸方向に直交する断面形状が正方形の正方形型キャピラリーであることが好ましい。正方形型キャピラリーを使用することにより、セル21の側面のうちレーザー光が照射される面を鏡面仕上げにすることが容易になる。
【0117】
また、本発明の実施形態では、演算部40(処理部42)が粒子状生物pの粒子径を測定したが、撮像部34が撮像した画像をディスプレイに表示させ、ディスプレイに表示された画像から、分析者が粒子状生物pの粒子径を測定してもよい。あるいは、撮像部34が撮像した画像を印刷して、印刷した画像から、分析者が粒子状生物pの粒子径を測定してもよい。
【0118】
また、本発明の実施形態では、撮像部34が所定の時間間隔ごとに粒子状生物pを撮像することにより、粒子状生物pの磁気泳動速度を測定したが、レーザーを使用して、例えばレーザードップラー法に基づいて粒子状生物pの磁気泳動速度を測定してもよい。