(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6850538
(24)【登録日】2021年3月10日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】作業ロボット
(51)【国際特許分類】
B25J 19/06 20060101AFI20210322BHJP
B25J 13/00 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
B25J19/06
B25J13/00 Z
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-22162(P2016-22162)
(22)【出願日】2016年2月8日
(65)【公開番号】特開2017-140660(P2017-140660A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2019年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105795
【弁理士】
【氏名又は名称】名塚 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100105131
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 満
(72)【発明者】
【氏名】掃 部 雅 幸
(72)【発明者】
【氏名】玉 田 聡 一
【審査官】
石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−123505(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第01810795(EP,A1)
【文献】
特開平08−011085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00−21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットアームと、
前記ロボットアームの表面に設けられ、前記ロボットアームが物体と接触した際の衝撃を緩和するための衝撃緩衝部材と、
前記ロボットアームと前記物体との接触を検出するための接触検出手段と、を備え、
前記接触検出手段は、
前記衝撃緩衝部材の表面側に設けられ、前記衝撃緩衝部材よりも柔らかい軟性多孔質部材と、
前記軟性多孔質部材を内包し、可撓性材料で形成された収容部材と、
前記収容部材の内部に連通する流体排出管であって、前記収容部材に前記物体が接触して前記収容部材の容積が減少したときに前記収容部材の内部の流体を排出する、流体排出管と、
前記流体排出管を介して排出された前記流体を利用して前記収容部材の容積が変化したことを検出するための容積変化検出部と、を有する、ことを特徴とする作業ロボット。
【請求項2】
前記ロボットアームの駆動を制御するためのロボットコントローラをさらに備え、
前記ロボットコントローラは、前記容積変化検出部からの検出信号に基づいて前記ロボットアームの駆動を制御するように構成されている、請求項1記載の作業ロボット。
【請求項3】
前記ロボットコントローラは、既知の物体に対して所定の動作で前記ロボットアームを接触させ、その際の前記容積変化検出部からの検出信号に基づいて、前記接触検出手段が正常に動作するか否かを確認するように構成されている、請求項2に記載の作業ロボット。
【請求項4】
前記既知の物体は、前記作業ロボットの一部を構成する構造体である、請求項3記載の作業ロボット。
【請求項5】
前記衝撃緩衝部材は、前記収容部材の外部に配置されている、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の作業ロボット。
【請求項6】
前記衝撃緩衝部材は、前記収容部材の内部に配置されている、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の作業ロボット。
【請求項7】
前記流体は、空気である、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の作業ロボット。
【請求項8】
ロボットアームと、
前記ロボットアームの表面に設けられ、前記ロボットアームと物体との接触を検出するための接触検出手段と、を備え、
前記接触検出手段は、
前記ロボットアームが物体と接触した際の衝撃を緩和する機能を有する軟性多孔質部材と、
前記軟性多孔質部材を内包し、可撓性材料で形成された収容部材と、
前記収容部材の内部に連通する流体排出管であって、前記収容部材に前記物体が接触して前記収容部材の容積が減少したときに前記収容部材の内部の流体を排出する、流体排出管と、
前記流体排出管を介して排出された前記流体を利用して前記収容部材の容積が変化したことを検出するための容積変化検出部と、を有し、
前記容積変化検出部は、前記収容部材の容積の変化の検出によって前記収容部材の内部の圧力の変化率を監視するように構成されている、ことを特徴とする作業ロボット。
【請求項9】
前記ロボットアームの駆動を制御するためのロボットコントローラをさらに備え、
前記ロボットコントローラは、前記容積変化検出部からの検出信号に基づいて前記ロボットアームの駆動を制御するように構成されている、請求項8記載の作業ロボット。
【請求項10】
ロボットアームと、
前記ロボットアームの表面に設けられ、前記ロボットアームと物体との接触を検出するための接触検出手段と、を備え、
前記接触検出手段は、
軟性多孔質部材と、
前記軟性多孔質部材を内包し、可撓性材料で形成された収容部材と、
前記収容部材の内部に連通する流体排出管であって、前記収容部材に前記物体が接触して前記収容部材の容積が減少したときに前記収容部材の内部の流体を排出する、流体排出管と、
前記流体排出管を介して排出された前記流体を利用して前記収容部材の容積が変化したことを検出するための容積変化検出部と、を有し、
前記容積変化検出部は、前記収容部材の容積の変化の検出によって前記収容部材の内部の圧力の変化率を監視するように構成されている、ことを特徴とする作業ロボット。
【請求項11】
前記ロボットアームの少なくとも一部は、前記ロボットアームが物体と接触した際の衝撃を緩和するための衝撃緩衝部材で形成されており、
前記収容部材は、前記衝撃緩衝部材の表面に設けられている、請求項10記載の作業ロボット。
【請求項12】
前記ロボットアームの駆動を制御するためのロボットコントローラをさらに備え、
前記ロボットコントローラは、前記容積変化検出部からの検出信号に基づいて前記ロボットアームの駆動を制御するように構成されている、請求項10または11に記載の作業ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットアームを駆動してワークの搬送などの作業を行うための作業ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人とロボットとの協調作業を想定したロボットの開発が積極的に進められており、ロボットとの協調作業に際して人の安全を確保するために様々な方策が検討されている。
【0003】
そのような方策の一つとして、ロボットに人が接近したことをセンサで検知して、その検知結果に基づいてロボットの動作を制御する技術が提案されている(特許文献1参照)。例えば、ロボットに人が接近したことをセンサで検知したら、ロボットの動作を停止させて人との接触を回避し、或いは、ロボットの動作速度を遅くして、人と接触した場合でも人に与える衝撃力を小さくするというものである。
【0004】
また、ロボットアームの表面にセンサ(例えば、静電容量センサ)を取り付けて、人や障害物がロボットアーム表面に接近したことをセンサで検知したら、ロボットの動作を停止させる技術が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−302496号公報
【特許文献2】特表2013−545625号公報
【特許文献3】特開2009−229453公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、人や障害物の接近を検知するためのセンサに誤検出が生じると、作業中のロボットの動作が不必要に制限され、作業時間が減少して生産効率の低下が引き起こされるので、そのような誤作動を防止する必要がある。
【0007】
しかしながら、人や障害物の接近を、ロボットアームに接触する前にセンサで検知する従来の技術では、センサの感度や位置を適切に設定して誤検出を防止しようとしても、様々な作業環境のすべてに適切に対応することは困難であり、誤検出の可能性を許容レベルまで十分に小さくすることが難しかった。
【0008】
また、ロボットアームの表面に緩衝材を設けることにより、動作中のロボットアームに人が接触した場合でも、その際に人に与える衝撃を緩和することも考えられる。しかしながら、このようにした場合でも、人とロボットアームとの接触を検知した後、ロボットの動作に何らかの制限を加えるようにしないと、動き続けるロボットアームによって人が挟み込まれる可能性があるなど、十分な安全レベルを確保することができない。
【0009】
ここで、ロボットアームに人が接触したことを検知するためのセンサをロボットアームに配置しようとすると、ロボットアームの表面には緩衝材が設けられているため、センサの配置位置の確保が難しいという問題がある。この問題を解決するためには、例えば、緩衝材の内部にセンサを埋設して、緩衝材の変形でセンサを動作させる方式が考えられる(特許文献3参照)。
【0010】
しかしながら、この方式では、センサの動作が緩衝材の変形状態に依存するため、十分な感度を確保することが難しいという問題がある。すなわち、緩衝材の表面に対して略垂直方向に外力が作用する場合には、センサを動作させるのに十分な変形状態が緩衝材において生じるので問題ないとしても、緩衝材の表面に対して斜め方向に外力が作用した場合には、緩衝材の変形状態が、センサを動作させるには不十分となってしまう可能性がある。
【0011】
このため、動作中のロボットアームが人に接触した場合でも、その接触方向によってはセンサが作動せず、ロボットアームが動き続けて人を挟み込んでしまう可能性がある。
【0012】
また、ロボットアームに人が接触したことを検知するためのセンサを、緩衝材を備えていないロボットアームに直接設けることも考えられるが、その場合には、接触を瞬時に且つ確実に検出してロボットアームの動作に制限を加える必要がある。
【0013】
本発明は、上述した従来の技術の問題点に鑑みてなされたものであって、人とロボットとの協調作業などにおいて、ロボットアームに人が接触した場合でも、接触を瞬時に且つ確実に検出してロボットの動作に制限を加えることにより、その安全性を十分に確保することができる作業ロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様による作業ロボットは、ロボットアームと、前記ロボットアームの表面に設けられ、前記ロボットアームが物体と接触した際の衝撃を緩和するための衝撃緩衝部材と、前記ロボットアームと前記物体との接触を検出するための接触検出手段と、を備え、前記接触検出手段は、前記衝撃緩衝部材の表面側に設けられ、前記衝撃緩衝部材よりも柔らかい軟性多孔質部材と、前記軟性多孔質部材を内包し、可撓性材料で形成された収容部材と、前記収容部材の内部に連通する流体排出管であって、前記収容部材に前記物体が接触して前記収容部材の容積が減少したときに前記収容部材の内部の流体を排出する、流体排出管と、前記流体排出管を介して排出された前記流体を利用して前記収容部材の容積が変化したことを検出するための容積変化検出部と、を有する、ことを特徴とする。
【0015】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記ロボットアームの駆動を制御するためのロボットコントローラをさらに備え、前記ロボットコントローラは、前記容積変化検出部からの検出信号に基づいて前記ロボットアームの駆動を制御するように構成されている、ことを特徴とする。
【0016】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様において、前記ロボットコントローラは、既知の物体に対して所定の動作で前記ロボットアームを接触させ、その際の前記容積変化検出部からの検出信号に基づいて、前記接触検出手段が正常に動作するか否かを確認するように構成されている、ことを特徴とする。
【0017】
本発明の第4の態様は、第3の態様において、前記既知の物体は、前記作業ロボットの一部を構成する構造体である、ことを特徴とする。
【0018】
本発明の第5の態様は、第1乃至第4のいずれかの態様において、前記衝撃緩衝部材は、前記収容部材の外部に配置されている、ことを特徴とする。
【0019】
本発明の第6の態様は、第1乃至第4のいずれかの態様において、前記衝撃緩衝部材は、前記収容部材の内部に配置されている、ことを特徴とする。
【0020】
本発明の第7の態様は、第1乃至第6のいずれかの態様において、前記流体は、空気である、ことを特徴とする。
【0021】
上記課題を解決するために、本発明の第8の態様による作業ロボットは、ロボットアームと、前記ロボットアームの表面に設けられ、前記ロボットアームと前記物体との接触を検出するための接触検出手段と、を備え、前記接触検出手段は、前記ロボットアームが物体と接触した際の衝撃を緩和する機能を有する軟性多孔質部材と、前記軟性多孔質部材を内包し、可撓性材料で形成された収容部材と、前記収容部材の内部に連通する流体排出管であって、前記収容部材に前記物体が接触して前記収容部材の容積が減少したときに前記収容部材の内部の流体を排出する、流体排出管と、前記流体排出管を介して排出された前記流体を利用して前記収容部材の容積が変化したことを検出するための容積変化検出部と、を有する、ことを特徴とする。
【0022】
本発明の第9の態様は、第8の態様において、前記ロボットアームの駆動を制御するためのロボットコントローラをさらに備え、前記ロボットコントローラは、前記容積変化検出部からの検出信号に基づいて前記ロボットアームの駆動を制御するように構成されている、ことを特徴とする。
【0023】
上記課題を解決するために、本発明の第10の態様による作業ロボットは、ロボットアームと、前記ロボットアームの表面に設けられ、前記ロボットアームと前記物体との接触を検出するための接触検出手段と、を備え、前記接触検出手段は、軟性多孔質部材と、前記軟性多孔質部材を内包し、可撓性材料で形成された収容部材と、前記収容部材の内部に連通する流体排出管であって、前記収容部材に前記物体が接触して前記収容部材の容積が減少したときに前記収容部材の内部の流体を排出する、流体排出管と、前記流体排出管を介して排出された前記流体を利用して前記収容部材の容積が変化したことを検出するための容積変化検出部と、を有する、ことを特徴とする。
【0024】
本発明の第11の態様は、第10の態様において、前記ロボットアームの少なくとも一部は、前記ロボットアームが物体と接触した際の衝撃を緩和するための衝撃緩衝部材で形成されており、前記収容部材は、前記衝撃緩衝部材の表面に設けられている、ことを特徴とする。 本発明の第12の態様は、第10または第11の態様において、前記ロボットアームの駆動を制御するためのロボットコントローラをさらに備え、前記ロボットコントローラは、前記容積変化検出部からの検出信号に基づいて前記ロボットアームの駆動を制御するように構成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、人とロボットとの協調作業などにおいて、ロボットアームに人が接触した場合でも、接触を瞬時に且つ確実に検出してロボットの動作に制限を加えることにより、その安全性を十分に確保することができる作業ロボットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態による作業ロボットの概略構成を示した図。
【
図2】
図1に示した作業ロボットの主要部を拡大して示した図。
【
図3】
図2に示した作業ロボットの主要部の動作を説明するための図。
【
図4】本発明の他の実施形態による作業ロボットの概略構成を示した図。
【
図5】
図4に示した作業ロボットの主要部を拡大して示した図。
【
図6】
図5に示した作業ロボットの主要部の動作を説明するための図。
【
図7】本発明のさらに他の実施形態による作業ロボットの主要部を拡大して示した図。
【
図8】本発明のさらに他の実施形態による作業ロボットの主要部を拡大して示した図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態による作業ロボットについて、図面を参照して説明する。なお、本実施形態による作業ロボットは、人とロボットとの協調作業に際して、人の安全を確保するための機能を備えたものである。
【0028】
図1に示したように、本実施形態による作業ロボット1は、ロボット基台2と、ロボット基台2に基端部が接続されたロボットアーム3と、ロボットアーム3の動作を制御するロボットコントローラ4と、を備えており、これにより六軸多関節型ロボットが構成されている。
【0029】
なお、本発明の適用対象となる作業ロボットは、六軸多関節型ロボットに限られず、ロボットアームを備えた各種の作業ロボットに本発明を適用することができる。
【0030】
図1および
図2に示したように、本実施形態による作業ロボット1においては、さらに、ロボットアーム3が物体(人や障害物)と接触した際の衝撃を緩和するための衝撃緩衝部材5が、ロボットアーム3の表面に設けられている。衝撃緩衝部材5は、例えばスポンジによって形成することができる。衝撃緩衝部材5の硬度(硬さ/柔らかさ)および厚さは、例えば、最高速度で動作しているロボットアーム3が人に衝突した場合でも、人に危害を加えないような値に設定される。
【0031】
なお、
図1においては、ロボットアーム3の先端側のリンクに衝撃緩衝部材5を設けているが、衝撃緩衝部材5を設ける位置はこれに限られず、動作中に人や障害物と接触する可能性があるロボットアーム3の適宜の部位に設けることができる。
【0032】
本実施形態による作業ロボット1は、さらに、ロボットアーム3と物体との接触を検出するための接触検出手段6を備えている。接触検出手段6は、衝撃緩衝部材5の表面に配置しても緩衝効果を減じることがないよう、全体が十分な可撓性を有している。
【0033】
具体的には、
図2に示したように、接触検出手段6は、衝撃緩衝部材5の表面側(ロボットアーム3と反対側)に設けられたスポンジ部材7を有している。このスポンジ部材7は、連続気泡の軟性多孔質部材で構成されており、この軟性多孔質部材は、衝撃緩衝部材5よりも柔らかい材料で形成されている。
【0034】
スポンジ部材7は、その全体が可撓性材料で形成された袋状の収容部材8の中に収容されている。収容部材8は、その裏面側が衝撃緩衝部材5の表面に載置されている。
図2に示したように、本例においては、衝撃緩衝部材5が収容部材8の外部に配置されており、ロボットアーム3の表面に設けられた衝撃緩衝部材5の上に、スポンジ部材7を内包する収容部材8が積層された構造である。
【0035】
収容部材8には、収容部材8の内部に連通する流体排出管9の一端が接続されている。この流体排出管9は、収容部材8に物体が接触してスポンジ部材7が変形し、収容部材8の容積が減少したときに、収容部材8の内部から押し出される空気(流体)を排出する。
【0036】
流体排出管9の他端は、容積変化検出部10に接続されており、容積変化検出部10は、流体排出管9を介して排出される空気を利用して、接触検出手段6の収容部材8の内部の圧力の変化を検出し、これにより、収容部材8の容積が変化(減少)したことを検出するように構成されている。
【0037】
容積変化検出部10の出力信号は、ロボットアーム3の駆動を制御するロボットコントローラ4に伝送される。ロボットコントローラ4は、容積変化検出部10からの検出信号に基づいて、ロボットアーム3の駆動を制御するように構成されている。すなわち、ロボットコントローラ4は、容積変化検出部10によって、収容部材8の容積が変化したことが検出されたら、動作中のロボットアーム3の動作の速度を遅くし、或いは動作を停止させるなど、ロボットアーム3の動作を制限して人の安全を確保する。
【0038】
ここで、収容部材8の内部の圧力は、例えば温度の上昇によって空気が膨張して変化することもあるので、そのような自然の変化と、人との接触による変化とを区別する必要がある。そこで、容積変化検出部10は、収容部材8の内圧の変化量の監視に加えて、或いは内圧の変化量の監視に代えて、内圧の変化率(変化量の時間微分値)を監視するようにする。このように内圧の変化率を監視するようにすれば、温度の変化によって空気が膨張して徐々に圧力が変化する場合と、人との接触により圧力が急激に変化する場合とを区別することができる。
【0039】
また、人がロボットアーム3に接触したと判断した後、人が既にロボットアーム3から離れたのか、或いはまだ接触状態のままかを判別するために、内圧の変化率に加え、或いはそれに代わり、内圧そのものを計測し、ある閾値と比較して人の接触を判断するようにしても良い。
【0040】
なお、容積変化検出部10は、必ずしもロボットコントローラ4と別体に構成する必要はなく、ロボットコントローラ4の制御回路の中に組み込むこともできる。
【0041】
また、本実施形態におけるロボットコントローラ4は、接触検出手段6が正常に動作するか否かを、日常的に点検できる機能を備えている。すなわち、ロボットコントローラ4は、既知の物体に対して所定の動作でロボットアーム3を接触させ、その際の接触検出手段6からの検出信号に基づいて、接触検出手段6が正常に動作するか否かを確認するように構成されている。
【0042】
ここで、ロボットアーム3を所定の動作で接触させる上述の既知の物体は、作業ロボット1の一部を構成する構造体とすることができる。このように作業用ロボット1の一部を構成する構造体を用いることにより、作業場所におけるロボットの設置状況によらず、共通の動作プログラムを用いて上述の所定の動作を行わせることができる。
【0043】
なお、本実施形態においては、接触検出手段6の収容部材8の内部に存在する流体は空気であるが、空気以外の気体でも良いし、液体でも良い。
【0044】
また、本実施形態においては、容積変化検出部10において流体の圧力を検出しているが、これに代えて、或いはこれに加えて、流体の流れを検出するようにしても良い。特に、流体として液体を使用する場合には、その流れを検出することが好ましい。
【0045】
なお、接触検出手段6と衝撃緩衝部材5との両方を外側から覆うようにしてカバー部材(図示せず)を設けることもできる。この場合、接触検出手段6と衝撃緩衝部材5とをロボットアーム3の表面に固定するための固定手段としてカバー部材を利用しても良い。
【0046】
次に、本実施形態による作業ロボット1における作用について、図面を参照して説明する。
【0047】
図3に示したように、ロボットアーム3に設けられた接触検出手段6に物体(人や障害物)11が接触すると、接触検出手段6を構成する可撓性の収容部材8の一部およびその内部のスポンジ部材7の一部が、ロボットアーム3の表面側に向けて変形する。このとき、収容部材8はその裏面側も可撓性材料で形成されているので、スポンジ部材7の下方への変形に伴って、収容部材8の裏面も下方に変形する。
【0048】
ここで、接触検出手段6は、スポンジ材料から成る衝撃緩衝部材5の上に設けられているが、接触検出手段6のスポンジ部材7は、衝撃緩衝部材5を構成する材料(スポンジ)よりも柔らかい(すなわち、衝撃緩衝部材5の方が硬い)ので、外力によってスポンジ部材7はその厚み方向に十分に圧縮される。これにより、収容部材8の容積が減少し、流体排出管9を介して収容部材8の内部の空気が押し出される。
【0049】
容積変化検出部10は、流体排出管9を介して排出された空気を利用して、収容部材8の容積が変化(減少)したことを検出し、その検出信号がロボットコントローラ4に伝送される。ロボットコントローラ4は、容積変化検出部10から検出信号を受信すると、ロボットアーム3の動作速度を遅くし、或いは動作を停止させる。これにより、ロボットアーム3によって人が挟まれる等の危険な事態を回避することができる。
【0050】
また、ロボットアーム3の表面には衝撃緩衝部材5が設けられているので、ロボットアーム3が人と接触した際の衝撃が緩和され、接触時に人に危害を加えることを防止することができる。
【0051】
以上述べたように、本実施形態による作業ロボット1によれば、ロボットアーム3に人が接触した場合でも、衝撃緩衝部材5によって接触時の衝撃を緩和すると共に、容積変化検出部10からの検出信号に基づいて接触を瞬時に且つ確実に検出してロボットの動作に制限を加えることができるので、人とロボットとの協調作業などにおいて、その安全性を十分に確保することができる。
【0052】
また、本実施形態におけるロボットコントローラ4は、接触検出手段6が正常に動作するか否かを日常的に点検できる機能を備えているので、人とロボットとの協調作業などにおける安全性を確実に確保することができる。
【0053】
また、接触検出手段6と衝撃緩衝部材5とがそれぞれ別体として構成されているので、例えば接触検出手段6に不具合が生じた場合には、衝撃緩衝部材5をそのままとして、接触検出手段6のみを交換することができる。
【0054】
次に、本発明の他の実施形態による作業ロボットについて、図面を参照して説明する。なお、以下では、上述した実施形態と相違する部分について説明し、共通する部分については説明を省略し、または簡略化する。
【0055】
上述の実施形態(
図1)による作業ロボット1においては、衝撃緩衝部材5と接触検出手段6とが、それぞれ別体として構成されていたが、
図4に示したように本実施形態による作業ロボット20においては、衝撃緩衝部材5と接触検出手段6とが一体に構成されている。
【0056】
すなわち、本実施形態による作業ロボット20においては、
図5に示したように、衝撃緩衝部材5が、スポンジ部材7と一緒に収容部材8の内部に配置されている。すなわち、衝撃緩衝部材5の上にスポンジ部材7が積層されており、両者の全体が収容部材8に内包され、収容部材8の裏面が、ロボットアーム3の表面に取り付けられている。
【0057】
本実施形態においても、
図6に示したように、ロボットアーム3に設けられた接触検出手段6に物体(人や障害物)11が接触すると、接触検出手段6を構成する可撓性の収容部材8の一部およびその内部のスポンジ部材7の一部が、ロボットアーム3の表面側に向けて変形する。
【0058】
ここで、接触検出手段6のスポンジ部材7は、スポンジ材料から成る衝撃緩衝部材5の上に積層されているが、上述したように接触検出手段6のスポンジ部材7は、衝撃緩衝部材5を構成する材料(スポンジ)よりも柔らかい(すなわち、衝撃緩衝部材5の方が硬い)ので、外力によってその厚み方向に十分に圧縮される。これにより、収容部材8の容積が減少し、流体排出管9を介して収容部材8の内部の空気が押し出される。
【0059】
このため、本実施形態による作業ロボット20においても、上述した実施形態と同様に、ロボットアーム3に人が接触した場合でも、衝撃緩衝部材5によって接触時の衝撃を緩和すると共に、容積変化検出部10からの検出信号に基づいてロボットの動作に制限を加えることができるので、人とロボットとの協調作業などにおいて、その安全性を十分に確保することができる。
【0060】
また、本実施形態においては、衝撃緩衝部材5が接触検出手段6と一体化されているので、ロボットアーム3への取り付け作業などにおける取り扱いが容易である。
【0061】
次に、本発明のさらに他の実施形態による作業ロボットについて、図面を参照して説明する。なお、以下では、上述した実施形態と相違する部分について説明し、共通する部分については説明を省略し、または簡略化する。
【0062】
図7に示したように、本実施形態による作業ロボットにおいては、接触検出手段6のスポンジ部材7が厚めに形成されており、スポンジ部材7自身が単独で、ロボットアーム3が物体と接触した際の衝撃を十分に緩和する機能を有している。すなわち、本実施形態においては、スポンジ部材7が、衝撃緩衝部材5を兼ねた構造となっている。
【0063】
本実施形態によれば、接触検出手段6のスポンジ部材7が衝撃緩衝部材5を兼ねた構造となっているので、構造の簡素化を図ることができる。
【0064】
次に、本発明のさらに他の実施形態による作業ロボットについて、図面を参照して説明する。なお、以下では、上述した実施形態と相違する部分について説明し、共通する部分については説明を省略し、または簡略化する。
【0065】
図8に示したように、本実施形態による作業ロボットにおいては、ロボットアーム3自身が、物体と接触した際の衝撃を緩和する衝撃緩衝部材5によって形成されている。すなわち、本実施形態においては、ロボットアーム3が、衝撃緩衝部材5を兼ねた構造となっている。
【0066】
本実施形態によれば、ロボットアーム3が衝撃緩衝部材5を兼ねた構造となっているので、構造の簡素化を図ることができる。
【符号の説明】
【0067】
1、20 作業ロボット
2 ロボット基台
3 ロボットアーム
4 ロボットコントローラ
5 衝撃緩衝部材
6 接触検出手段
7 スポンジ部材
8 収容部材
9 流体排出管
10 容積変化検出部
11 物体(人や障害物)