(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば、非免震の既存構造物に隣接して免震構造物を設ける際に、既存構造物を免震改修することが考えられる。
【0005】
しかしながら、既存構造物を免震改修するためには、免震装置に支持される既存構造物の上部構造体と、既存構造物に隣接して設けられる免震構造物の上部構造体との間に所定の免震クリアランスを設け、地震時における両者の接触を回避する必要がある。この場合、例えば、必要敷地面積が増加するため、不経済になる可能性がある。
【0006】
本発明は、上記の事実を考慮し、既存構造物の第一上部構造体と、当該第一上部構造体に隣接して設けられる第二上部構造体との間の免震クリアランスをなくすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1態様に係る既存構造物の免震改修方法は、非免震の既存構造物に第一免震装置を設置する免震改修工程と、前記第一免震装置に支持される前記既存構造物の第一上部構造体と、該第一上部構造体に隣接して設けられ、第二免震装置に支持される第二上部構造体とを連結する連結工程と、を備える。
【0008】
第1態様に係る既存構造物の免震改修方法によれば、免震改修工程において、非免震の既存構造物に第一免震装置を設置する。また、連結工程において、第一免震装置に支持される既存構造物の第一上部構造体と、当該第一上部構造体に隣接して設けられ、第二免震装置に支持される第二上部構造体とを連結する。
【0009】
ここで、第一上部構造体と第二上部構造体とを連結しない場合は、地震時に、第一上部構造体及び第二上部構造体が、地盤に対して別々に水平移動する。この場合、第一上部構造体と第二上部構造体との間に所定の免震クリアランスを設け、第一上部構造体と第二上部構造体との接触を回避する必要がある。
【0010】
これに対して本発明では、連結工程において、第一上部構造体と第二上部構造体とを連結する。これにより、地震時に、第一上部構造体及び第二上部構造体が、地盤に対して連動して水平移動する。そのため、地震時における第一上部構造体と第二上部構造体との接触が抑制される。したがって、第一上部構造体と第二上部構造体との間の免震クリアランスをなくすことができる。
【0011】
なお、免震改修工程及び連結工程は、順序を問わない。したがって、免震改修工程及び連結工程の何れの工程を先に行っても良いし、免震改修工程及び連結工程を並行して行っても良い。また、第二上部構造体は、新築でも良いし、既存構造物を免震改修して形成しても良い。
【0012】
第2態様に係る既存構造物の免震改修方法は、
第1態様に係る既存構造物の免震改修方法において、前記第一上部構造体は、構造部材を介して前記第二上部構造体と一体に連結する。
【0013】
第2態様に係る既存構造物の免震改修方法によれば、第一上部構造体は、構造部材を介して第二上部構造体と一体に連結する。これにより、地震時に、第一上部構造体及び第二上部構造体が、地盤に対して一体に水平移動する。そのため、地震時における第一上部構造体と第二上部構造体との接触がより確実に抑制される。したがって、第一上部構造体と第二上部構造体との間の免震クリアランスをなくすことができる。
【0014】
第3態様に係る既存構造物の免震改修方法は、
第1態様又は
第2態様に係る既存構造物の免震改修方法において、前記第一免震装置は、前記既存構造物の地上階に設置する。
【0015】
第3態様に係る既存構造物の免震改修方法によれば、第一免震装置は、既存構造物の地上階に設置する。これにより、第一免震装置を既存構造物の地下階に設置する場合と比較して、第一免震装置の設置が容易となる。
【0016】
また、既存構造物の地下階に第一免震装置を設置する場合は、地震時に地下階が水平移動可能なように、当該地下階の周囲の地盤を掘削し、さらに地下階を囲む擁壁等を構築する必要がある。
【0017】
これに対して本発明では、第一免震装置を既存構造物の地上階に設置するため、前述した地盤の掘削や擁壁の構築が不要になる。したがって、施工コストが軽減される。
【0018】
さらに、既存構造物の地上階は、地下階と比較して階高が高くなり易い。そのため、所定の地上階を床スラブで仕切ることで、第一免震装置を設置する免震層と、例えば居室等が設けられる一般層とを所定の地上階に確保することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明に係る既存構造物の免震改修方法によれば、既存構造物の第一上部構造体と、当該第一上部構造体に隣接して設けられる第二上部構造体との間の免震クリアランスをなくすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る既存構造物の免震改修方法について説明する。
【0022】
図1には、本実施形態に係る既存構造物の免震改修方法(以下、単に「免震改修方法」という)によって免震改修される既存構造物10が示されている。既存構造物10は、複数階からなる非免震の構造物とされている。この既存構造物10は、地下階10L及び地上階10Uを有している。
【0023】
図2に示されるように、既存構造物10の隣には、免震構造物30が新設される。本実施形態に係る免震改修方法では、この免震構造物30の新設に伴って既存構造物10を免震改修し、さらに、
図3に示されるように、既存構造物10と免震構造物30とを連結する。具体的には、免震改修方法は、免震改修工程と、免震構造物施工工程と、連結工程とを有している。
【0024】
(免震改修工程)
図2に示されるように、免震改修工程では、既存構造物10の一階F1(地上階10U)に免震層16を形成する。そして、免震層16において、既存構造物10を構造的に第一下部構造体12と第一上部構造体14とに分離する。換言すると、免震層16において、第一下部構造体12と第一上部構造体14との水平方向の縁を構造的に切る。なお、本実施形態では、第一下部構造体12が地下階10Lとなり、第一上部構造体14が地上階10Uとなる。
【0025】
また、免震層16に複数の第一免震装置18を設置し、これらの第一免震装置18を介して第一上部構造体14を第一下部構造体12に支持させる。これにより、第一下部構造体12に対して第一上部構造体14が水平方向に相対変位可能となる。つまり、既存構造物10が免震改修され、免震構造物となる。
【0026】
なお、本実施形態の既存構造物10は、中間免震構造物となる。また、免震層16に対する第一免震装置18の設置方法については、後述する。また、本実施形態では、第一免震装置18の上に第一床スラブ20を新設する。この第一床スラブ20の施工方法についても後述する。
【0027】
(免震構造物施工工程)
免震構造物施工工程では、既存構造物10の隣に免震構造物30を新設する。免震構造物30は、第二下部構造体としての基礎32と、免震層36に設置された複数の第二免震装置38を介して基礎32に支持される第二上部構造体34とを有している。
【0028】
基礎32は、地盤Gを掘削して形成した地下空間の底(根切り底)に形成されている。この基礎32は、例えば、基礎スラブを有して構成されている。また、基礎32と第二上部構造体34との間には、免震層36が形成されており、この免震層36に複数の第二免震装置38が設置されている。つまり、免震構造物30は、基礎免震構造とされている。なお、免震構造物30の施工方法は、種々の施工方法を採用することができる。
【0029】
第二上部構造体34は、複数階からなり、地下階及び地上階を有している。また、第二上部構造体34は、既存構造物10の第一床スラブ20と隣り合う第二床スラブ40を有している。
【0030】
(連結工程)
次に、連結工程について説明する。
図3に示されるように、連結工程では、既存構造物10の第一床スラブ20と、免震構造物30の第二床スラブ40とを構造部材42で一体に連結する。これにより、構造部材42を介して既存構造物10の第一上部構造体14と免震構造物30の第二上部構造体34とを一体に連結する。
【0031】
なお、第一上部構造体14と第二上部構造体34とは、例えば、第一免震装置18及び第二免震装置38にそれぞれ支持され、地盤Gに対して水平移動可能な状態(免震化状態)で連結しても良い。また、第一上部構造体14と第二上部構造体34とは、例えば、第一上部構造体14及び第二上部構造体34の少なくとも一方の水平移動を拘束した状態で連結しても良い。
【0032】
また、第一上部構造体14と第二上部構造体34とを連結する前で、かつ、第一上部構造体14及び第二上部構造体34が地盤Gに対して水平移動可能な状態のときに地震が発生すると、第一上部構造体14と第二上部構造体34とが接触する可能性がある。この場合は、例えば、第一上部構造体14と第二上部構造体34とが接触しない程度に、ストッパ機構又はストッパ構造によって第一上部構造体14及び第二上部構造体34の少なくとも一方の水平移動を制限しても良い。
【0033】
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0034】
本実施形態に係る免震改修方法によれば、免震改修工程において、既存構造物10を免震改修する。これにより、複数の第一免震装置18によって支持される第一上部構造体14を既存構造物10に形成する。また、免震構造物施工工程において、既存構造物10の隣に免震構造物30を設け、当該免震構造物30の第二上部構造体34を既存構造物10の第一上部構造体14に隣接させる。そして、連結工程において、第一上部構造体14の第一床スラブ20と第二上部構造体34の第二床スラブ40とを、構造部材42を介して一体に連結する。
【0035】
ここで、第一上部構造体14と第二上部構造体34とを連結しない場合は、地震時に、第一上部構造体14及び第二上部構造体34が、地盤Gに対して別々に水平移動する。この場合、第一上部構造体14と第二上部構造体34との間に所定の免震クリアランスを設け、第一上部構造体14と第二上部構造体34との接触を回避する必要がある。
【0036】
これに対して本実施形態では、前述したように、連結工程において、第一上部構造体14と第二上部構造体34とを構造部材42を介して一体に連結する。これにより、地震時に、第一上部構造体14及び第二上部構造体34が、地盤Gに対して一体に水平移動する。そのため、地震時における第一上部構造体14と第二上部構造体34との接触が抑制される。したがって、第一上部構造体14と第二上部構造体34との間の免震クリアランスをなくすことができる。
【0037】
また、第一免震装置18は、既存構造物10の地上階10U(一階F1)に設置する。これにより、第一免震装置18を既存構造物の地下階10Lに設置する場合と比較して、第一免震装置18の設置が容易となる。したがって、既存構造物10の免震改修が容易となる。
【0038】
また、既存構造物10の地下階10Lに第一免震装置18を設置する場合は、地震時に地下階10Lが水平移動可能なように、当該地下階10Lの周囲の地盤Gを掘削し、さらに地下階10Lを囲む擁壁等を構築する必要がある。
【0039】
これに対して本実施形態では、第一免震装置18を既存構造物10の地上階10Uに設置するため、前述した地盤Gの掘削や擁壁の構築が不要になる。したがって、施工コストが軽減される。
【0040】
さらに、既存構造物10の地上階10Uは、地下階10Lと比較して階高が高くなり易い。そのため、
図7で後述するように、第一免震装置18を設置する所定の地上階10U(一階F1)を第一床スラブ20で仕切ることで、免震層16と、例えば居室等が設けられる一般層17とを所定の地上階10U(一階F1)に確保することができる。
【0041】
なお、免震改修工程及び免震構造物施工工程は、順序を問わず、免震改修工程及び免震構造物施工工程の何れの工程を先に行っても良いし、免震改修工程及び免震構造物施工工程を並行して行っても良い。したがって、例えば、既存構造物10を免震改修してから、免震構造物30を構築しても良いし、免震構造物30を構築してから既存構造物10を免震改修しても良い。さらに、既存構造物10の免震改修と免震構造物30の施工とを並行して行っても良い。
【0042】
また、免震改修工程及び連結工程は、順序を問わず、免震改修工程及び連結工程の何れの工程を先に行っても良いし、免震改修工程及び連結工程を並行して行っても良い。したがって、例えば、既存構造物10の免震改修後に、第一上部構造体14と第二上部構造体34とを連結しても良いし、既存構造物10の免震改修前に、免震改修後に第一上部構造体14となる既存構造物10の部位と第二上部構造体34とを連結しても良い。
【0043】
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0044】
上記実施形態では、既存構造物10に地下階10Lがあるが、上記実施形態はこれに限らない。例えば、
図4(A)に示されるように、既存構造物50には、地下階がなくても良い。
【0045】
具体的には、既存構造物50は、第一下部構造体としての基礎52と、第一上部構造体54とを有している。第一上部構造体54は、免震層56に設置された複数の第一免震装置18を介して基礎52に支持される。この第一上部構造体54は、複数階からなるが、全ての階が地上階とされる。また、第一上部構造体54は、第一免震装置18に支持される第一床スラブ58を有する。この第一床スラブ58は、構造部材42を介して免震構造物30の第二床スラブ40と連結される。これにより、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0046】
次に、上記実施形態では、既存構造物10の一階F1に第一免震装置18を設置したが、上記実施形態はこれに限らない。例えば、
図4(B)に示されるように、既存構造物70の二階F2以上に第一免震装置18を設置しても良い。
【0047】
具体的には、既存構造物70は、第一下部構造体72と、第一上部構造体74とを有している。第一上部構造体74は、免震層76に設置された第一免震装置18を介して第一下部構造体72に支持される。この第一下部構造体72は、一階以上の地上階を有し、この第一下部構造体72と第一上部構造体74との間に免震層76が形成される。また、第一上部構造体74は、第一免震装置18に支持される第一床スラブ78を有する。この第一床スラブ78は、免震構造物30の第二床スラブ40と構造部材42を介して連結される。これにより、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0048】
また、図示を省略するが、第一免震装置18は、既存構造物10の地下階10L(
図1参照)に設置しても良い。
【0049】
次に、上記実施形態では、免震構造物30に地下階があるが、上記実施形態はこれに限らない。例えば、
図5(A)に示されるように、免震構造物80には、地下階が無くても良い。
【0050】
具体的には、免震構造物80は、第二下部構造体としての基礎82と、第二上部構造体84とを有している。第二上部構造体84は、免震層86に設置された複数の第二免震装置38を介して基礎82に支持される。この第二上部構造体84は、複数階からなるが、全ての階が地上階とされる。また、第二上部構造体84は、第二免震装置38に支持される第二床スラブ88を有する。この第二床スラブ88は、構造部材42を介して既存構造物50の第一床スラブ58と連結される。これにより、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0051】
なお、
図5(A)に示される変形例では、既存構造物50及び免震構造物80が、基礎免震構造とされている。また、既存構造物50の基礎52と免震構造物80の基礎82とは、水平方向に連続している。さらに、既存構造物50の免震層56と免震構造物80の免震層86とは、水平方向に連続している。
【0052】
次に、上記実施形態では、既存構造物10の隣に免震構造物30を新設したが、上記実施形態はこれに限らない。例えば、免震構造物施工工程において、既存構造物10の隣にある非免震の既存構造物(以下、「隣接既存構造物」という)を免震改修することにより、既存構造物10の第一上部構造体14に第二上部構造体を隣接して設けても良い。具体的には、免震構造物施工工程において、既存構造物10の隣にある非免震の隣接既存構造物に第二免震装置を設置し、当該第二免震装置によって支持される第二上部構造体を形成することにより、既存構造物10の第一上部構造体14に隣接既存構造物の第二上部構造体を隣接して設けても良い。
【0053】
なお、隣接既存構造物を免震改修して第二上部構造体を形成する場合、連結工程では、隣接既存構造物の免震改修前において、免震改修後に第二上部構造体となる隣接既存構造物の部位と、既存構造物の第一上部構造体とを連結しても良い。また、連結工程では、既存構造物及び隣接既存構造物の免震改修前において、免震改修後に第一上部構造体となる既存構造物10の部位と、免震改修後に第二上部構造体となる隣接既存構造物の部位とを連結しても良い。さらに、連結工程では、既存構造物の免震改修前において、免震改修後に第一上部構造体14となる既存構造物10の部位と、隣接既存構造物の第二上部構造体とを連結しても良い。
【0054】
次に、上記実施形態では、第一上部構造体14の第一床スラブ20と、第二上部構造体34の第二床スラブ40とを連結したが、上記実施形態はこれに限らない。例えば、
図5(B)に示されるように、第一上部構造体14及び第二上部構造体34の最上階同士を、構造部材42を介して連結しても良い。また、図示を省略するが、第一上部構造体14及び第二上部構造体34の中間階同士を連結しても良い。
【0055】
また、第一上部構造体14と第二上部構造体34とは、複数階で連結しても良い。したがって、例えば、第一上部構造体14と第二上部構造体34とは、隣り合う各階の床スラブ同士を連結しても良い。
【0056】
また、第一上部構造体14と第二上部構造体34とは、床スラブに限らず、柱や梁を連結しても良い。また、第一上部構造体14と第二上部構造体34とは、床や、梁、ブレース等の種々の構造部材を介して連結することができる。さらに、第一上部構造体14と第二上部構造体34とは、ダンパー等の制振装置を介して連結することも可能である。
【0057】
次に、上記実施形態では、既存構造物10の高さと免震構造物30の高さとが同じ又は略同じとされるが、既存構造物10の高さと免震構造物30の高さとは異なっていても良い。この場合、第一上部構造体14及び第二上部構造体34は、所定階において適宜連結することができる。
【0058】
次に、既存構造物10に対する第一免震装置18の設置方法の一例について説明する。
【0059】
図6には、免震改修前の既存構造物10の一階F1(地上階10U)が示されている。この一階F1に、第一免震装置18を設置するとともに、第一床スラブ20を新設することで免震層16を形成する。
【0060】
具体的には、既存構造物10の一階F1は、架構(ラーメン架構)90を有している。架構90は、既存柱92と、既存柱92に接合される既存上梁94及び既存下梁96を有している。既存柱92は、CFT造(コンクリート充填鋼管構造)とされており、柱鋼管92Aと、柱鋼管92Aに充填される充填コンクリート92B(
図10参照)とを有している。
【0061】
既存柱92の上下の柱梁仕口部92Sには、既存上梁94及び既存下梁96がそれぞれ接合されている。既存上梁94及び既存下梁96は、例えば、鉄骨造とされている。また、各既存上梁94及び既存下梁96の上には、床スラブ98,100がそれぞれ設けられている。なお、既存柱92、既存上梁94、及び既存下梁96の構造は、適宜変更可能であり、例えば、鉄骨造、RC造、SRC造等であっても良い。
【0062】
(免震装置の設置構造)
ここで、本実施形態では、各既存柱92の柱脚部に第一免震装置18を設置する。具体的には、二点鎖線で示されるように、既存柱92の柱脚部分92Xを切除し、
図7に示されるように、上柱92Uと下柱92Lとに分離する。そして、既存柱92の切除部分、すなわち上柱92Uと下柱92Lとの間に第一免震装置18を設置し、当該第一免震装置18と上柱92U及び下柱92Lとをそれぞれ接合する。
【0063】
図8に示されるように、第一免震装置18は、例えば、積層ゴム支承とされる。この第一免震装置18は、装置本体部18Aと、装置本体部18Aの上端部に接合される上フランジ部18Bと、装置本体部18Aの下端部に接合される下フランジ部18Cとを有している。なお、第一免震装置18は、積層ゴム支承に限らず、転がり支承や、滑り支承等であっても良い。
【0064】
第一免震装置18の上フランジ部18Bは、上側ブラケット110を介して上柱92Uの下端部に接合される。上側ブラケット110は、柱鋼管部110Aと、柱鋼管部110Aの下端部に溶接等によって接合されたフランジ部110Bとを有している。柱鋼管部110Aの上端部は、上柱92Uの柱鋼管92Aの下端部に溶接等によって接合される。また、柱鋼管部110Aには、充填コンクリートが充填される。一方、フランジ部110Bは、第一免震装置18の上フランジ部18Bの上面に重ねられた状態で、ボルト112及びナット114によって接合(ボルト接合)される。
【0065】
第一免震装置18の下フランジ部18Cは、下側ブラケット120を介して下柱92Lの上端部に接合される。下側ブラケット120は、柱鋼管部120Aと、柱鋼管部120Aの上端部に溶接等によって接合されたフランジ部120Bとを有している。柱鋼管部120Aの下端部は、下柱92Lの柱鋼管92Aの上端部に溶接等によって接合される。また、柱鋼管部120Aには、充填コンクリートが充填される。一方、フランジ部120Bは、第一免震装置18の下フランジ部18Cの下面に重ねられた状態で、ボルト112及びナット114によって接合(ボルト接合)される。
【0066】
ここで、現場において上柱92Uの下端部に、第一免震装置18とのフランジ部110Bを直接溶接する場合、溶接熱によってフランジ部110Bの変形量(湾曲変形量)が大きくなり易い。そのため、フランジ部110Bと、第一免震装置18の上フランジ部18Bの接合精度が低下する可能性がある。また、現場において上柱92Uの下端部にフランジ部110Bを直接溶接する場合は、溶接熱によって充填コンクリート92B(
図10参照)が劣化する可能性がある。
【0067】
これに対して本実施形態では、上側ブラケット110の柱鋼管部110Aとフランジ部110Bとを工場等で溶接する。これにより、溶接の施工管理等が容易になるため、溶接熱によるフランジ部110Bの変形量を小さくすることができる。したがって、フランジ部110Bと、第一免震装置18の上フランジ部18Bとの接合精度を確保することができる。
【0068】
また、本実施形態では、柱鋼管部110Aにフランジ部110Bを溶接した後に、現場において柱鋼管部110Aに充填コンクリートを充填する。そのため、溶接熱によって、フランジ部110B周辺の充填コンクリートが劣化することを抑制することができる。
【0069】
これと同様に、下側ブラケット120においても、フランジ部120Bと、第一免震装置18の下フランジ部18Cとの接合精度を確保することができる。また、溶接熱によって、フランジ部120C周辺の充填コンクリートが劣化することを抑制することができる。
【0070】
なお、
図9に示される変形例のように、上柱92Uの下端部にフランジ部122を溶接することも可能である。この場合、前述したように、フランジ部122が変形(湾曲変形)し易くなる。そのため、本変形例では、フランジ部122と第一免震装置18の上フランジ部18Bとの間にグラウトやモルタル等の充填材Wを充填している。これにより、上柱92Uと第一免震装置18との間の応力伝達が良好になる。これと同様に、下柱92Lの上端部に溶接されたフランジ部124と、第一免震装置18の下フランジ部18Cとの間にも充填材Wを充填している。
【0071】
また、図示を省略するが、
図9に示される変形例には、
図8に示される上側ブラケット110及び下側ブラケット120を組み合わせることも可能である。すなわち、
図9に示される変形例において、例えば、上柱92Uは、上側ブラケット110(
図8参照)を介して第一免震装置18の上フランジ部18Bに接合し、下柱92Lは、フランジ部124を介して第一免震装置18の下フランジ部18Cに接合しても良い。また、これとは逆に、上柱92Uは、フランジ部122を介して第一免震装置18の上フランジ部18Bに接合し、下柱92Lは、下側ブラケット120(
図8参照)を介して第一免震装置18の下フランジ部18Cに接合しても良い。
【0072】
なお、第一免震装置18は、既存柱92の柱脚部に限らず、例えば、既存柱92の柱頭部や中間部に設けることも可能である。
【0073】
(架構の補強構造)
次に、架構90の補強構造について説明する。既存柱92に第一免震装置18を設置すると、地震時に、上柱92Uが下柱92Lに対して水平移動し、上柱92Uの材軸と下柱92Lの材軸とが水平方向にずれる。この際、上柱92Uから下柱92Lに伝達される鉛直荷重(長期軸力)によって上柱92U及び下柱92Lの各々に曲げモーメントが発生する。そのため、本実施形態では、上柱92U等を補強している。
【0074】
具体的には、
図7に示されるように、上柱92Uの側面に、柱補強部材130が設けられている。
図10に示されるように、柱補強部材130は、例えば、T形鋼等の形鋼とされている。この柱補強部材130は、上柱92Uの側面から外側へ延出するウェブ部130Aと、ウェブ部130Aの先端部に設けられるフランジ部130Bとを有している。この柱補強部材130によって、上柱92Uの曲げ耐力が高められている。
【0075】
また、
図7に示されるように、H形鋼からなる既存上梁94のウェブ部には、柱補強部材130のフランジ部130Bと連続する補強リブ132が設けられている。これにより、上柱92Uの曲げ耐力がさらに高められている。
【0076】
一方、下柱92L側では、当該下柱92Lに接合される既存下梁96を補強している。既存下梁96は、H形鋼で形成されている。この既存下梁96の上面に、梁補強部材140が設けられている。
【0077】
具体的には、
図11に示されるように、既存下梁96上の床スラブ100を斫りや、カッター、コア抜き等により撤去して、既存下梁96の上フランジ部96Aを露出させ、当該上フランジ部96Aの上面に梁補強部材140を設ける。この梁補強部材140は、T形鋼等の形鋼とされており、既存下梁96の上フランジ部96Aから上方へ延出するウェブ部140Aと、ウェブ部140Aの先端部に設けられるフランジ部140Bとを有している。この梁補強部材140によって、既存下梁96の曲げ耐力が高められている。なお、本実施形態の梁補強部材140の周囲には、床スラブ100を構成するコンクリート142が打設されており、このコンクリート142に梁補強部材140が埋設されている。
【0078】
なお、梁補強部材140では、ウェブ部140A及びフランジ部140Bが一体成形されているが、別体とされたウェブ部140Aとフランジ部140Bとを接合することにより、梁補強部材140を形成しても良い。柱補強部材130のウェブ部130A及びフランジ部130Bについても同様である。
【0079】
(第一床スラブ)
次に、既存構造物10の一階F1に新設される第一床スラブ20について説明する。
図7に示されるように、第一免震装置18に支持される上柱92Uの下部には、新設梁150が架設されている。新設梁150は、例えば、H形鋼等の鉄骨造とされている。なお、新設梁150は、鉄骨造に限らず、RC造、SRC造等であっても良い。
【0080】
新設梁150の上には、第一床スラブ20が新設されている。この第一床スラブ20によって、既存構造物10の一階F1が、第一免震装置18が設置される免震層16と、居室等が設けられる一般層17とに分離されている。
【0081】
このように既存構造物10の一階F1を第一床スラブ20で仕切ることで、前述したように、既存構造物10の一階F1に、免震層16及び一般層17を確保することができる。
【0082】
また、第一免震装置18の直上の第一床スラブ20と免震構造物30の第二床スラブ40とを連結することにより、第一上部構造体14と第二上部構造体34とを効率的に一体化することができる。なお、第一床スラブ20は、必要に応じて設ければ良く、適宜省略可能である。
【0083】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に限定されるものでなく、一実施形態及び各種の変形例を適宜組み合わせて用いても良いし、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは勿論である。