【実施例】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例について説明する。
【0025】
[風速管理システムの概要]
図1は、本実施例に係る風速管理システムの概略構成である。風速管理システムは、自転車において推定された風速(詳しくは自転車の速度によらない絶対風速)の情報を収集及び配信するシステムである。風速管理システムは、主に、各自転車に取り付けられるサイクルコンピュータ1と、各サイクルコンピュータ1とネットワークを介してデータ通信が可能なサーバ装置8と、サーバ装置8から配信情報を受信する端末装置9とを有する。
【0026】
サイクルコンピュータ1は、種々のセンサの出力等に基づき風速の推定値(「推定風速」とも呼ぶ。)等を算出し、算出した推定風速等を位置情報と関連付けてアップロード情報「Su」としてサーバ装置8へ送信する。また、サイクルコンピュータ1は、サーバ装置8から現在位置周辺での道路ごとの風速に関する配信情報「Sd」をサーバ装置8から受信し、現在位置周辺の地図上に配信情報Sdに基づく風速の情報を表示したり、風速の情報を考慮した経路探索などを行ったりする。サイクルコンピュータ1は、本発明における「情報処理装置」の一例である。
【0027】
サーバ装置8は、道路ごとの風速の情報を記録した風速DB80と、各道路の位置情報などを含む地図データ81とを有し、各自転車に取り付けられるサイクルコンピュータ1からアップロード情報Suを受信することで、風速DB80を更新する。また、サーバ装置8は、風速DB80から抽出した風速の情報を含む配信情報Sdをサイクルコンピュータ1や端末装置9に送信する。サーバ装置8は、本発明における「外部装置」の一例である。
【0028】
端末装置9は、スマートフォンなどの携帯端末又はパーソナルコンピュータ等であり、サーバ装置8から配信情報Sdを受信することで、地図上に配信情報Sdに基づく風速の情報を表示したり、風速の情報を考慮した経路探索などを行ったりする。
【0029】
[サイクルコンピュータの構成]
図2(a)、(b)は、サイクルコンピュータ1が自転車に取り付けられている様子を表す外観図である。
図2に示すように、サイクルコンピュータ1は、所定の情報を表示する表示部2と、ボタン31などの操作によって所定の情報を入力させる入力部3とを含む。ここで、サイクルコンピュータ1は、取付部10により自転車のハンドルB1に取り付けられている。
【0030】
図3は、サイクルコンピュータ1のブロック図である。
図3に示すように、サイクルコンピュータ1は、上述した表示部2及び入力部3に加えて、記憶部4と、センサ群5と、通信部6と、制御部7とを有する。これらの各要素は、バスラインを介して相互に接続されている。
【0031】
記憶部4は、制御部7が実行するプログラム及び当該プログラムに基づき制御部7が実行する処理に必要な情報を記憶する。例えば、記憶部4は、経路探索などを行うための道路データなどを含んだ地図データ41を記憶する。また、記憶部4は、制御部7の制御に基づき、制御部7が算出した推定風速を、当該推定風速の算出時の位置情報と関連付けて記憶する。また、記憶部4は、制御部7の制御に基づき、通信部6が受信した配信情報Sdを記憶する。
【0032】
センサ群5は、所定の情報を測定し、測定したデータを制御部7へ供給する。センサ群5は、ペダリングセンサ51と、GPS受信部52と、速度センサ53と、傾斜センサ54と、温度センサ55と、ブレーキセンサ56とを含む。ペダリングセンサ51は、運転者がペダルを漕ぐことにより発生させる漕力のする仕事の仕事率(「ペダリングパワーPp」とも呼ぶ。)を測定する。GPS受信部52は、衛星等による所定の測位システムに組み込まれることで、時刻情報と共に自転車の現在の位置情報を生成する。速度センサ53は、自転車の絶対的な速度「V」を測定する。傾斜センサ54は、自転車の水平線に対する勾配「θ」を検出する。温度センサ55は、自転車の周りの気温を測定する。その他、センサ群5は、湿度センサ、気圧センサなどの種々のセンサをさらに備えてもよい。
【0033】
通信部6は、制御部7の制御に基づき、サーバ装置8に対してアップロード情報Suを送信する。また、通信部6は、サーバ装置8から送信される配信情報Sdを受信して制御部7へ供給する。
【0034】
制御部7は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)などを備え、サイクルコンピュータ1内の各構成要素に対して種々の制御を行う。
【0035】
本実施例では、制御部7は、センサ群5の出力に基づき推定風速等を算出し、算出時にGPS受信部52が出力した位置情報と関連付けて記憶部4に記憶させる。そして、制御部1は、所定のタイミングごとに、記憶部に記憶させた推定風速及び位置情報等を含むアップロード情報Suを通信部6によりサーバ装置8へ送信する。また、制御部1は、通信部6がサーバ装置8から配信情報Sdを受信した場合、配信情報Sdを記憶部4に記憶し、配信情報Sdに基づく道路ごとの風速を表示部2に表示させたり、道路ごとの風速を考慮した経路探索などを行ったりする。
【0036】
なお、制御部7は、本発明における「漕力仕事率取得手段」、「抗力仕事率取得手段」、「風速算出手段」、「現在位置取得手段」、「制御手段」及びプログラムを実行するコンピュータの一例である。
【0037】
[サーバ装置の構成]
図4は、サーバ装置8の機能的な構成を示すブロック図である。
図4に示すように、サーバ装置8は、記憶部13と、通信部14と、制御部15とを有する。これらの各要素は、バスラインを介して相互に接続されている。
【0038】
記憶部13は、制御部15が実行するプログラム及び当該プログラムに基づき制御部15が実行する処理に必要な情報を記憶する。また、記憶部13は、風速DB80と、地図データ81とを記憶する。風速DB80は、アップロード情報Suに基づき生成及び更新される風速のデータベースであり、例えば道路ごとに風速が記録されている。地図データ81は、道路ごとに位置情報等を関連付けた道路データなどを含む。
【0039】
通信部14は、複数のサイクルコンピュータ1から送信されるアップロード情報Suを受信する。また、通信部14は、制御部15の制御に基づき、配信情報Sdをサイクルコンピュータ1及びサーバ装置8へ送信する。
【0040】
制御部15は、図示しないCPU、ROM及びRAMなどを備え、サーバ装置8内の各構成要素に対して種々の制御を行う。例えば、制御部15は、アップロード情報Suを通信部14が受信した場合に、アップロード情報Suに含まれる位置情報が示す道路に対し、アップロード情報Suに含まれる推定風速を対応付けて風速情報として風速DB80に登録する。この場合、制御部15は、特定した道路に対応する風速が既に風速DB80に記録されていた場合、最新のアップロード情報Suに含まれる推定風速により上書きしてもよく、記録されていた風速と最新のアップロード情報Suに含まれる推定風速との平均値等により更新してもよい。また、制御部15は、例えば、通信部14がサイクルコンピュータ1又は端末装置9から所定の要求信号を受信した場合に、当該要求信号において指定された位置周辺の風速情報を風速DB80から抽出し、配信情報Sdとして要求元であるサイクルコンピュータ1又はサーバ装置8に送信する。
【0041】
[風速算出処理]
次に、サイクルコンピュータ1の制御部7が実行する推定風速の算出方法について具体的に説明する。以後では、自転車の移動パワー(即ち位置エネルギーの変化量、若しくは重力に逆らってした仕事の仕事率)を「移動パワーPm」と呼び、転がり抵抗のする仕事の仕事率を「転がり抵抗Pr」と呼び、自転車の機械的な駆動ロス(駆動抵抗)のする仕事の仕事率を「駆動ロスPdls」と呼び、空気抵抗のする仕事の仕事率を「空気抵抗Pa」とも呼ぶ。
【0042】
この場合、ペダリングパワーPpは、以下の式(1)に示すように、自転車にかかる抗力の仕事率の和、即ち、移動パワーPmと、転がり抵抗Prと、駆動ロスPdlsと、空気抵抗Paとの和に等しい。
【0043】
【数1】
式(1)は、本発明における「第1の式」の一例である。そして、式(1)を空気抵抗Paについて変形すると、以下の式(2)が得られる。
【0044】
【数2】
また、移動パワーPmは、運転者の重量「mb」、自転車の重量「mc」、重力加速度「g」(≒9,81[m/s
2])、勾配θ及び速度Vを用いて、以下の式(3)により表される。
【0045】
【数3】
また、転がり抵抗Prは、転がり抵抗係数「Crr」、重量mb、mc、重力加速度g及び速度Vを用いて以下の一般式(4)により表される。
【0046】
【数4】
また、本実施例では、駆動ロスPdlsは他の要素に比べて無視できる程度に小さいため「0」とみなす。よって、式(2)に式(3)及び式(4)を代入し、駆動ロスPdlsを「0」とすると、空気抵抗Paは、以下の式(5)により表される。
【0047】
【数5】
よって、制御部7は、式(5)に相当する情報を予め記憶部4等に記憶しておくことで、空気抵抗Paを好適に算出することができる。この場合、制御部7は、ペダリングセンサ51が出力するペダリングパワーPpと、速度センサ53が出力する速度Vと、傾斜センサ54が出力する勾配θと、ユーザ入力等に基づき記憶部4に予め記憶された係数Crr、重量mb、mcとを用いて、式(5)から空気抵抗Paを算出する。なお、制御部7は、重量mb、mcを、運転者の携帯端末から通信部6を介してデータ通信により取得してもよく、入力部3によるユーザ入力を受け付けることで取得してもよい。また、制御部7は、勾配情報が地図データ41に記憶されている場合には、現在位置に基づき地図データ41を参照することで勾配θを取得してもよい。また、制御部7は、駆動ロスPdlsを0とみなすかわりに、駆動ロスPdlsを予め定めた所定値に設定してもよく、センサ群5の出力に基づき駆動ロスPdlsを算出してもよい。
【0048】
また、空気抵抗Paは、空気抵抗係数「Cd」、移動体(即ち運転者及び自転車)が地面と垂直な鉛直面に投影される面積である前面投影面積「A」、自転車に対する相対的な風速「V
all」及び大気密度「ρ」を用いて、以下の式(6)により表される。
【0049】
【数6】
式(6)は、本発明における「第2の式」の一例である。
図5は、前面投影面積Aを概略的に示した図である。前面投影面積Aは、予め記憶部4に記憶された値であってもよく、国際公開番号WO2011/158365の記載に従い運転者の身長及び自転車の種類情報等に基づき算出された値であってもよい。また、相対風速V
allは、以下の式(7)に示すように、絶対的な風速である絶対風速「V
wind」と、自転車の速度Vとの和に相当する。
【0050】
【数7】
ここで、空気抵抗Paを表す式(6)に式(7)を代入して絶対風速V
windについて整理すると、絶対風速V
windは以下の式(8)により表される。
【0051】
【数8】
従って、制御部7は、式(8)に相当する情報を予め記憶部4等に記憶しておくことで、式(5)に基づき算出した空気抵抗Paを用いて、絶対風速V
windを好適に算出することができる。この場合、制御部7は、速度センサ53が出力する速度Vと、記憶部4等に予め記憶させた空気抵抗係数Cd及び大気密度ρと、上述した前面投影面積Aとを用いて、式(8)から絶対風速V
windを算出する。なお、制御部7は、式(5)に基づき空気抵抗Paを算出し、その算出結果を用いて式(8)から絶対風速V
windを算出する代わりに、式(8)の空気抵抗Paに式(5)が代入された式を参照することで、絶対風速V
windを算出してもよい。
【0052】
また、一般的に、地上気象観測における「風速」とは、地上約10mの高さにおける10分間の風速を示し、「瞬間風速」とは、0.25秒ごとのサンプルにおける3秒間の平均の風速を示す。よって、好適には、制御部7は、上述の定義に即した瞬間風速及び風速を算出するとよい。この場合、制御部7は、式(8)に基づき0.25秒ごとに算出した絶対風速V
windの3秒間の平均値を瞬間風速として推定し、瞬間風速の10分間の平均値を風速として推定する。なお、制御部7は、処理負荷の低減のため、式(8)に基づき3秒ごとに算出した絶対風速V
windを瞬間風速であると推定してもよい。
【0053】
なお、式(5)に基づく空気抵抗Paは、自転車の進行方向に対する空気抵抗の仕事率であるため、式(8)に基づき算出される絶対風速V
windは、自転車の進行方向成分での絶対風速となる。さらに、ほぼ同位置・時刻に複数の進行方向成分の絶対風速が得られた場合には、ベクトル法等を用いてその位置の風向や風速を推定しても良い。以上を勘案し、以後では、式(8)の絶対風速V
windに基づき算出した瞬間風速を「推定瞬間風速」と呼び、式(8)の絶対風速V
windに基づき算出した風速を「推定風速」と呼ぶ。
【0054】
[処理フロー]
図6は、サイクルコンピュータ1が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。サイクルコンピュータ1は、
図6に示すフローチャートを繰り返し実行する。
【0055】
まず、サイクルコンピュータ1は、センサ群5から出力される種々の情報(センサ情報)を取得する(ステップS101)。次に、サイクルコンピュータ1は、ペダリングセンサ51が出力するペダリングパワーPpが0ワットであるか否か判定する(ステップS102)。そして、サイクルコンピュータ1は、ペダリングパワーPpが0ワットである場合(ステップS102;Yes)、ブレーキセンサ56の出力等に基づき、自転車のブレーキがオンであるか否か判定する(ステップS103)。そして、サイクルコンピュータ1は、ブレーキがオンであると判断した場合(ステップS103;Yes)、絶対風速V
windの算出を行うことなく後述のステップS108へ処理を進める。このように、サイクルコンピュータ1は、自転車のブレーキ中では、風による抵抗と、ブレーキによる抵抗との区別がつかなくなることから、絶対風速V
windを高精度に算出することが困難であると判断し、絶対風速V
windの算出処理を行わない。
【0056】
一方、サイクルコンピュータ1は、ペダリングパワーPpが0ワットでないと判断した場合(ステップS102;No)、又は、ブレーキがオフであると判断した場合(ステップS103;No)、式(5)に基づき、ステップS101で取得したセンサ情報等を参照して空気抵抗Paを算出する(ステップS104)。そして、サイクルコンピュータ1は、算出した空気抵抗Paを表示部2に表示させる(ステップS105)。
【0057】
次に、サイクルコンピュータ1は、式(8)に基づき、ステップS104で算出した空気抵抗PaとステップS101で取得したセンサ情報とを用いて、絶対風速V
windを算出し、算出した絶対風速V
windに基づき推定瞬間風速を算出する(ステップS106)。この場合、サイクルコンピュータ1は、例えば、0.25秒ごとに算出した絶対風速V
windの3秒間ごとの平均値を推定瞬間風速とみなす。
【0058】
次に、サイクルコンピュータ1は、ステップS106で算出した推定瞬間風速の平均処理に基づき、推定風速を計算する(ステップS107)。この場合、例えば、サイクルコンピュータ1は、ステップS106で3秒ごとに算出した推定瞬間風速の10分間の平均値を、推定風速として算出する。なお、サイクルコンピュータ1は、推定瞬間風速又は/及び推定風速を、空気抵抗Paと共に表示部2に表示させてもよい。
【0059】
そして、サイクルコンピュータ1は、算出した推定風速及び推定風速の算出時にGPS受信部52が出力した位置情報等を含むアップロード情報Suを、サーバ装置8へ送信する(ステップS108)。なお、アップロード情報Suには、推定風速及び位置情報の他、速度V、勾配θ、加速度、ペダリングパワーPp、温度、ブレーキのオン及びオフの情報などのステップS101で取得した種々のセンサ情報を含めてもよい。
【0060】
その後、サイクルコンピュータ1からアップロード情報Suを受信したサーバ装置8は、例えば、アップロード情報Suに含まれる位置情報に対応する道路に対して、アップロード情報Suに含まれる推定風速を対応付けて風速DB80に記録する。
【0061】
また、好適には、サイクルコンピュータ1は、サーバ装置8から配信情報Sdを受信した場合に、配信情報Sdを経路探索及び経路案内に用いる。これについて補足説明する。
【0062】
第1の例では、サイクルコンピュータ1は、目的地が指定された場合の経路探索処理において、風速が比較的弱い道路から構成される経路を探索する。この場合、例えば、サイクルコンピュータ1は、各道路(リンク)にコストを設定し、コストの総計が最小となる経路を推奨経路として探索する場合に、風速が弱い道路ほど、当該道路に対するコストを低く(即ち優先度を高く)設定する。このようすることで、サイクルコンピュータ1は、風の影響が少ない安全・快適な経路を、推奨経路として出力することができる。
【0063】
第2の例では、サイクルコンピュータ1は、目的地への経路が設定され、当該経路の案内を実行する場合に、当該経路を構成する道路での風速の情報を表示部2に表示させる。これにより、サイクルコンピュータ1は、経路を構成する各道路の風速を好適に運転者に認識させることができる。
【0064】
以上説明したように、本実施例に係るサイクルコンピュータ1は、ペダリングセンサ51の出力に基づき、車両を運転する運転者の漕力に関する仕事率であるペダリングパワーPp(漕力仕事率)を取得する。また、サイクルコンピュータ1は、車両にかかる抗力に関する仕事率である移動パワーPm、転がり抵抗Pr等を算出する。そして、サイクルコンピュータ1は、ペダリングパワーPpが車両にかかる抗力に関する仕事率と等しいと見なすことで得られる空気抵抗Paの式と、絶対風速V
windをパラメータとする空気抵抗Paの式とに基づき、絶対風速V
windを算出する。このようにすることで、サイクルコンピュータ1は、風速を計測するための構造を特に必要とすることなく、車両の移動速度によらない絶対な風速を好適に推定することができる。