特許第6850586号(P6850586)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6850586
(24)【登録日】2021年3月10日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】グリッパー
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/04 20060101AFI20210322BHJP
【FI】
   B25J15/04 C
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-220880(P2016-220880)
(22)【出願日】2016年11月11日
(65)【公開番号】特開2018-75695(P2018-75695A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2019年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000154901
【氏名又は名称】株式会社北川鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 誠
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀治
【審査官】 臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭59−148290(JP,U)
【文献】 特開昭62−054607(JP,A)
【文献】 特開2002−144117(JP,A)
【文献】 特開昭57−008095(JP,A)
【文献】 米国特許第04431202(US,A)
【文献】 米国特許第04550922(US,A)
【文献】 中国実用新案第201046508(CN,Y)
【文献】 韓国特許第10−2008−0075068(KR,B1)
【文献】 特開平11−262940(JP,A)
【文献】 特開2000−265844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 15/00−15/06
B23B 13/02−31/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部位に位置するワークを、径方向にスライドする複数のジョーで支持するグリッパーであって、
前記ジョーの各々は、
前記グリッパーの本体に、径方向にスライド可能に設けられたマスタージョーと、
前記マスタージョーに取り付けられてワークを支持するクランプジョーと、
を有し、
前記マスタージョーは、
スライド方向に直交して延びる軸穴と、
前記軸穴の径方向外側から当該軸穴に連通する貫通穴と、
前記貫通穴にスライド可能に挿入されて先端が前記軸穴に突出可能な抜止部材と、
を有し、
前記クランプジョーは、
前記軸穴に嵌合し、前記抜止部材の先端と係合する係合部が形成された軸部と、
前記軸部の基端に設けられてワークを支持するワーク支持部と、
を有し、
前記軸部が前記軸穴に挿入されて、前記係合部に前記抜止部材の先端が係合することにより、前記クランプジョーが前記マスタージョーに着脱可能に取り付けられていて、
前記マスタージョーは、前記クランプジョーが取り付けられたときに、前記ワーク支持部を受け止める支持面を有し、
前記軸穴に突出する前記抜止部材の先端の位置と前記係合部の位置とがオフセットされていて、前記マスタージョーを前記クランプジョーに取り付けることによって前記ワーク支持部が前記支持面に圧着されるグリッパー。
【請求項2】
請求項1に記載のグリッパーにおいて、
前記マスタージョーは、マスター側回動規制構造を有し、
前記クランプジョーは、前記マスター側回動規制構造と協働して、前記ワーク支持部が位置決めされるように、前記マスタージョーに対して当該クランプジョーの回動を規制するクランプ側回動規制構造を有しているグリッパー。
【請求項3】
請求項2に記載のグリッパーにおいて、
前記ワーク支持部は、前記軸部の中心線に対し周方向の異なる位置に、ワークを挟持する複数の挟持部を有し、
前記マスター側回動規制構造及び前記クランプ側回動規制構造により、前記複数の挟持部のいずれか1つが選択して使用できるグリッパー。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載のグリッパーにおいて、
前記マスタージョーは、前記軸穴に連通し、流体が流れる上流側流体経路を有し、
前記クランプジョーは、前記マスタージョーに取り付けられたときに、前記上流側流体経路に連通する下流側流体経路を有しているグリッパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボットなどで物品の搬送等に用いられるグリッパーに関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットには、物品を掴んで搬送等するために、多関節のアームの先端にグリッパーを装着したものがある。グリッパーには、人の手を模したハンドタイプや、真空吸着を利用した吸盤タイプなどがあるが、対象物品が機械加工品(ワーク)である場合には、搬送するだけでなく組み付けなどにも用いられることから、高い精度が求められる。そのため、ワークの搬送等には、主に、旋盤などの工作機械で用いられているチャックに似たタイプのグリッパーが利用される場合が多い。
【0003】
工作機械に用いられているチャックの従来例としては、例えば特許文献1や特許文献2がある。一般に、この種のチャックでは、円柱形状をしたチャック本体の正面に、径方向にスライドする複数のジョーが放射状に配置されている。これらジョーが、中心部に向かってスライドすることで、チャック本体の正面中央に配置されたワークが、ジョーによって挟持される。
【0004】
ジョーは、チャック本体にスライド可能に支持されたマスタージョーと、マスタージョーに着脱可能に取り付けられてワークを把持するクランプジョーとで構成されている。クランプジョーは、支持するワークに応じて取り換えられる。
【0005】
工作機械では、チャックで支持したワークに加工を施すため、ワークを強固に支持する必要がある。そのため、クランプジョーは、ボルトの締結によってマスタージョーに固定されているのが一般的である。具体的には、マスタージョーの正面には、ネジ穴(通常は2つ)が形成されている。クランプジョーには、そのネジ穴に重なるボルト穴が、クランプジョーの正面から背面を貫通して形成されている。クランプジョーの正面には、ボルトの頭部を収容する座グリ穴が凹設されている。そして、ボルト穴に挿入したボルトをネジ穴にねじ込むことにより、クランプジョーはマスタージョーに固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−237212号公報
【特許文献2】特開2015−58529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したチャックに似たタイプのグリッパーにおいても、チャックと同様の構造により、クランプジョーがマスタージョーにボルトで締結して固定されているのが一般的である。
【0008】
そのため、クランプジョーを取り換える際には、全てのクランプジョーを締結しているボルトを抜き取って別のクランプジョーに取り換えた後、ボルトを締め付けてクランプジョーをマスタージョーに固定するという、煩雑で時間のかかる作業が必要となっている。
【0009】
しかも、1つのクランプジョーで対応できるワークの大きさや形状は限られているため、特に、産業用ロボット等、扱われるワークの品種が多い分野では、クランプジョーの交換作業は大きな負担となっている。
【0010】
また、クランプジョーの正面には、座グリ穴が凹設されているため、ワークを把持する際に、座グリ穴の縁にワークが接触して、ワークを傷つけたり変形させたりするおそれがある。
【0011】
そこで本発明の目的は、ワークの損傷が防止でき、把持するワークに応じてジョーがクイックチェンジできるグリッパーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
開示する手段は、中心部位に位置するワークを、径方向にスライドする複数のジョーで支持するグリッパーに関する。
【0013】
前記ジョーの各々は、前記グリッパーの本体に、径方向にスライド可能に設けられたマスタージョーと、前記マスタージョーに取り付けられてワークを支持するクランプジョーと、を有している。前記マスタージョーは、スライド方向に直交して延びる軸穴と、前記軸穴の径方向外側から当該軸穴に連通する貫通穴と、前記貫通穴にスライド可能に挿入されて先端が前記軸穴に突出可能な抜止部材と、を有している。前記クランプジョーは、前記軸穴に嵌合し、前記抜止部材の先端と係合する係合部が形成された軸部と、前記軸部の基端に設けられてワークを支持するワーク支持部と、を有している。そして、前記軸部が前記軸穴に挿入されて、前記係合部に前記抜止部材の先端が係合することにより、前記クランプジョーが前記マスタージョーに着脱可能に取り付けられている。
【0014】
すなわち、このグリッパーは、径方向にスライドする2つ以上のジョーでワークを挟んで支持するタイプであり、本体に設けられたマスタージョーにクランプジョーを取り付けることによって、各ジョーが構成されている。マスタージョーは、スライドする方向に直交して延びる軸穴(ここでは断面形状は円形であっても多角形であってもよい)を有しており、その径方向外側から軸穴に連通する貫通穴に、抜止部材がスライド可能に挿入されている。一方、クランプジョーは、軸穴に嵌合する軸部とワークを支持するワーク支持部とを有しており、軸部には、抜止部材の先端と係合する係合部が形成されている。そして、クランプジョーは、軸穴に軸部が挿入されて、係合部に抜止部材の先端が係合することにより、マスタージョーに着脱可能に取り付けられている。
【0015】
従って、抜止部材の先端と係合部とが係合する分だけ、抜止部材の先端が軸穴に突出するように、抜止部材を僅かにスライドさせれば、軸穴から軸部を抜き出し不能にでき、抜止部材の先端と係合部との係合が外れる分だけ、抜止部材を僅かに逆方向にスライドさせれば、軸穴から軸部を抜き出し可能にできる。すなわち、僅かな操作でマスタージョーからクランプジョーを脱着できるので、クランプジョーのクイックチェンジが可能になる。
【0016】
クランプジョーは、軸部を介してマスタージョーに取り付けられるため、ワーク支持部にボルト穴や座グリ穴を設ける必要がない。従って、座グリ穴の縁でワークを損傷するおそれがないし、ワーク支持部を小さくしたり薄くしたり改良できる。また、クランプジョーの強度も向上する。
【0017】
具体的には、前記マスタージョーは、マスター側回動規制構造を有し、前記クランプジョーは、前記マスター側回動規制構造と協働して、前記ワーク支持部が位置決めされるように、前記マスタージョーに対して当該クランプジョーの回動を規制するクランプ側回動規制構造を有しているようにするとよい。
【0018】
そうすれば、クランプジョーの回動が規制されて、クランプジョーを正確に位置決めすることができるので、ワークを精度高く支持できる。
【0019】
この場合、前記ワーク支持部は、前記軸部の中心線に対し周方向の異なる位置に、ワークを挟持する複数の挟持部を有し、前記マスター側回動規制構造及び前記クランプ側回動規制構造により、前記複数の挟持部のいずれか1つが選択して使用できるようにしてもよい。
【0020】
すなわち、ワーク支持部にボルト穴や座グリ穴を設ける必要が無いので、ワーク支持部の形態の自由度が高まっていることに加え、マスター側回動規制構造及びクランプ側回動規制構造によって、クランプジョーを正確に位置決めできることから、ワーク支持部に複数の挟持部を形成することが可能になる。そこで、軸部の中心線に対し周方向の異なる位置に複数の挟持部を設ければ、クランプジョーをマスタージョーから取り外すことなく、軸部回りにクランプジョーを回動させるだけで、ワークに合わせて挟持部を選択して使用できるようになる。従って、よりいっそう簡単かつ短時間でのクランプジョーの交換が実現できる。
【0021】
より具体的には、前記マスタージョーは、前記クランプジョーが取り付けられたときに、前記ワーク支持部を受け止める支持面を有し、前記ワーク支持部が前記支持面に圧着されるように、前記軸穴に突出する前記抜止部材の先端の位置と前記係合部の位置とがオフセットされているようにしてもよい。
【0022】
そうすれば、抜止部材を僅かにスライドさせるだけで、クランプジョーを、マスタージョーに強固に固定することができる。
【0023】
更には、前記マスタージョーは、前記軸穴に連通し、流体が流れる上流側流体経路を有し、前記クランプジョーは、前記マスタージョーに取り付けられたときに、前記上流側流体経路に連通する下流側流体経路を有しているようにすることもできる。
【0024】
そうすれば、マスタージョーを通じてクランプジョーに、空気等の流体を供給することができるので、クランプジョーを取り換える度に、流体経路の脱着作業をする必要が無くなり、作業性に優れる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ワークの損傷が防止でき、把持するワークに適応したジョーにクイックチェンジできるので、高性能で扱い易いグリッパーが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施形態のグリッパーを正面から見た概略図である。
図2図1における矢印II−II線での概略断面図である。マスタージョーが待機位置にある状態を表している。
図3】マスタージョーが支持位置にある状態を表した、図2に相当する図である。
図4】クランプジョーの一例を示す図である。クランプジョーの縦断面(図の左側)及び正面(図の右側)を表している。クランプジョーの固定を説明するため、別途、図の一部を拡大して表してある。
図5】クランプジョーの他の一例を示す図である。クランプジョーの縦断面(図の左側)及び正面(図の右側)を表している。
図6】抜止部材の別形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。なお、説明で方向を表す際、特に言及しない限り、ワークが支持される側を正面側、その反対側を背面側とする。
【0028】
図1及び図2に、本発明を適用したグリッパー1を示す。グリッパー1は、主に、工作機械で加工される材料や加工品などからなる把持対象物(ワーク)の搬送や組み付けを行うために、産業用ロボットに用いられている。従って、本実施形態では、産業用ロボットの多関節アーム2にグリッパー1を用いた場合を例に説明する。
【0029】
グリッパー1は、厚みが大きい円盤状の外観を有しており、その背面側の端面が、多関節アーム2の先端部分に設けられた取付面2aに、ボルトB1を締結することによって取り付けられている。グリッパー1の正面側の端面には、その中心部位に位置するワークを、内側又は外側から把持するために、径方向にスライドする複数(図示のグリッパー1では3つ)のジョー10が、周方向に等間隔で配置されている。
【0030】
各ジョー10は、大きさや形状が異なる複数のワークに対応できるように、グリッパー1の本体に設けられたマスタージョー11と、ワークを支持するクランプジョー60とで構成されていて、クランプジョー60は、マスタージョー11に着脱可能に取り付けられている。詳細は後述するが、クランプジョー60は、短時間の簡単な操作で交換、すなわちクイックチェンジできるように工夫されている。
【0031】
<グリッパー1の本体>
グリッパー1の本体は、マスタージョー11と共に、ボディ20、ピストン30、プランジャー40、カバー50などで構成されている。ボディ20は、リアボディ21とフロントボディ22とでシリンダ状に構成されている。
【0032】
リアボディ21は、有底円筒状の部材からなり、底面を構成する円板状の底壁部21aと、底壁部21aの周縁に連なる円筒状の周壁部21bと、を有している。
【0033】
フロントボディ22は、その中心部分に円形の開口部22aが形成された厚みの大きな略円板状の部材からなり、リアボディ21の開口を塞ぐように、ボルトB2で周壁部21bの突端に締結することにより、リアボディ21に組み付けられている。フロントボディ22の正面側には、中央から放射状に3方に延びるY状凹部22bが形成されている。リアボディ21とフロントボディ22の接合部には、弾性を有するリング状のシール部材23が設けられていて、ボディ20の内部には、ピストン30を組み付けることで密閉されるシリンダ空間24が形成されている。
【0034】
ピストン30は、周壁部21bの内径と略同一の外径を有する円板状の隔壁部31、隔壁部31の中心に立設されたロッド部32などで構成されている。ロッド部32が開口部22aに挿通された状態で、隔壁部31がシリンダ空間24に収容されることにより、ピストン30は、その中心線Jに沿ってボディ20に摺動自在に組み付けられている。隔壁部31の周囲の端部には、シール材33が取り付けられており、隔壁部31と周壁部21bとの間が密封されている。また、開口部22aの内周面にもシール材34が取り付けられており、ロッド部32と開口部22aとの間も密封されている。それにより、シリンダ空間24は、密閉された状態で、隔壁部31によって背面側の第1室24aと正面側の第2室24bとに区画されている。
【0035】
プランジャー40は、Y形状の部材からなり、中央から放射状に張り出す3つの張出部41を有している。各張出部41の両側面には、正面側から背面側に向かって中央側から下り傾斜した傾斜溝41aが対向して形成されている。プランジャー40は、フロントボディ22のY状凹部22bに嵌め込まれた状態でピストン30に組み付けられている。具体的には、プランジャー40は、開口部22aを通じてボディ20から突出したロッド部32の突端に、取付ボルト43を締結して固定することにより、ピストン30と一体化されている。従って、プランジャー40は、ピストン30の摺動に伴い、中心線Jに沿って往復動する。
【0036】
カバー50は、Y状凹部22bの中央部分を覆うように、フロントボディ22に装着されている。
【0037】
各マスタージョー11は、一方が長い直方体状の部材からなり、フロントボディ22のY状凹部22bに嵌め込まれて、抜け外れ不能な状態でプランジャー40に連結されている。具体的には、各マスタージョー11の長辺側の両側面には、フロントボディ22によって抜け外れが規制されるフランジ部11aが設けられている。また、各マスタージョー11の中心側の端部には、正面側から背面側に向かって中央側から下り傾斜した一対の傾斜片部11b,11bが設けられており、これら傾斜片部11b,11bが各傾斜溝41aに嵌合されている。それにより、各マスタージョー11は、ピストン30の摺動に伴って、径方向にスライドする。
【0038】
すなわち、第1室24aが空圧制御によって加圧されるともに第2室24bが減圧されることで、ピストン30は、図2に示すように正面側に移動し、各マスタージョー11は、径方向外側に開いた位置に移動する。そして、第2室24bが空圧制御によって加圧されるともに第1室24aが減圧されることで、ピストン30は、図3に示すように背面側に移動し、各マスタージョー11は、径方向内側に閉じた位置に移動する。
【0039】
従って、ワークを外側から把持する場合には、各マスタージョー11が径方向内側に移動することによってワークが把持される。そして、ワークを内側から把持する場合には、各マスタージョー11が径方向外側に移動することによってワークが把持される。
【0040】
各マスタージョー11の正面側には、クランプジョー60を支持する支持面11cが形成されている。支持面11cには、マスタージョー11がスライドする方向(スライド方向)に直交して延びる断面円形の軸穴13が形成されている。また、各マスタージョー11の外周側の端部には、スライド方向に延びて径方向外側から軸穴13に連通する貫通穴14が形成されている。
【0041】
貫通穴14の内周面には、ネジ溝が形成されている(雌ネジ)。この貫通穴14に、頭頂が、球面形状ないし略円錐台形状の抜止部15aを先端に有する抜止ボルト15(抜止部材の一例)が、軸穴13にその抜止部15aが突出可能な状態で、螺合(スライド可能に挿入)されている。一方、抜止ボルト15の頭部は、スライド位置が検知できるように、マスタージョー11の外側に突出している。
【0042】
また、支持面11cの軸穴13に隣接した部位には、支持面11cから突出する位置決めピン16(マスター側回動規制構造の一例)が設けられている。
【0043】
更に、各マスタージョー11には、軸穴13に連通して、空気が流れる上流側流体経路17が設けられている。具体的には、軸穴13の内周面の一部に、僅かに窪むリング状凹部17aが形成されており、そのリング状凹部17aが、長孔を通じてマスタージョー11の外周側の端部に設けられた接続口17cに連通している。なお、上流側流体経路17はマスタージョー11に必須の構造ではない。
【0044】
<クランプジョー>
図4に、クランプジョー60の一例(クランプジョー60A)を示す。例示のクランプジョー60Aは、マスタージョー11から取り外すことなく、大きさや形状が異なる複数のワークに対応できるように構成されている。クランプジョー60は、交換可能なため、使用目的に応じて様々な形態のクランプジョー60を取り付けることができる。そのため、クランプジョー60Aは、マスタージョー11に対応した、共通の基本構造を有している。
【0045】
具体的には、クランプジョー60Aは、軸穴13に嵌合する円柱状の軸部61と、軸部61の基端に設けられたブロック状のワーク支持部62とを有している。軸部61は、軸穴13に挿入される部分であり、ワーク支持部62は、ワークを支持する部分である。そして、軸部61の外周面の一部には、クランプジョー60Aがマスタージョー11に取り付けられときに、抜止部15aが入り込んで接触する、断面がV形状の環状溝63(係合部)が形成されている。また、ワーク支持部62には、クランプジョー60Aがマスタージョー11に取り付けられときに、支持面11cに受け止められる被支持面62aと、位置決めピン16が挿入されるピン穴64(クランプ側回動規制構造の一例)とが形成されている。なお、ピン穴64は、位置決めピン16の外径と略同一の幅で、軸部61の中心に対して径方向に延びる長穴となっている。
【0046】
クランプジョー60Aをマスタージョー11に取り付ける場合、抜止部15aが軸穴13に突出しないように抜止ボルト15を緩めた状態で、軸穴13に軸部61を挿入し、抜止ボルト15を締め付けて抜止部15aが環状溝63に入り込むように軸穴13に突出させる。クランプジョー60Aをマスタージョー11から取り外す場合、抜止部15aが環状溝63から抜け出るように、抜止ボルト15を緩めて軸部61を軸穴13から抜き出せば、クランプジョー60Aをマスタージョー11から取り外すことができる。このように、抜止ボルト15を数回回転させるだけで、クランプジョー60Aをマスタージョー11から着脱できるので、クランプジョー60Aをクイックチェンジできる。
【0047】
クランプジョー60Aは、軸部61を介してマスタージョー11に取り付けられるため、ワーク支持部62にボルトBを締結するために、ボルト穴や座グリ穴を設ける必要がない。従って、座グリ穴の縁でワークを損傷するおそれがないし、ワーク支持部62を小さくしたり薄くしたり改良できる。また、クランプジョー60Aの強度も向上する。
【0048】
更に、クランプジョー60Aがマスタージョー11に取り付けられるとき、クランプジョー60Aは、マスタージョー11に強固に固定されるように工夫されている。すなわち、抜止部15aが環状溝63に入り込むことで、被支持面62aが支持面11cに圧着されるように、抜止部15aの位置と環状溝63の位置とがオフセットされている。詳しくは、図4に拡大して示すように、被支持面62aから環状溝63の中心までの距離の方が、支持面11cから抜止部15aの中心までの距離よりも小さく設定されており、抜止部15aの中心の位置と環状溝63の中心の位置とにズレd1が設けられている。
【0049】
それにより、抜止ボルト15の締め付けにより、矢印a1に示すように、抜止部15aが環状溝63の奥方に入り込むことで、抜止部15aが、環状溝63の背面側の傾斜を押し込み、軸部61が、矢印a2に示すように、背面側に引き込まれる。その結果、被支持面62aが支持面11cに圧着されるので、抜止ボルト15を締め付けるほど、クランプジョー60Aは、マスタージョー11に強固に固定される。
【0050】
また、クランプジョー60Aがマスタージョー11に取り付けられるときに、位置決めピン16がピン穴64に挿入されることで、クランプジョー60Aはマスタージョー11に対して、精度高く所定位置に位置決めされるようになっている。すなわち、軸部61を軸穴13に挿入して固定しただけでは、クランプジョー60Aは回動するおそれがあるが、位置決めピン16がピン穴64に挿入されることで、クランプジョー60Aの回動が規制され、クランプジョー60Aは所定位置に位置決めされる。
【0051】
ワークを挟持するために、通常、ワーク支持部62の中心側又は反中心側に面する部位には、ワークに対応した挟持部65が1つ設けられている。従って、大きさや形状が異なるワークを把持する場合には、その都度、そのワークに適応したクランプジョー60に交換する必要がある。それに対し、このグリッパー1の場合、前述したようにクランプジョー60をクイックチェンジできるので、利便性に優れる。それに加え、このクランプジョー60Aでは、更にマスタージョー11から取り外すことなくクイックチェンジできるように構成されている。
【0052】
すなわち、このクランプジョー60Aのワーク支持部62には、軸部61の中心線Cに対し周方向の異なる位置に複数(図例では、4つ)の挟持部65が設けられている。各挟持部65は、中心線Cからの距離が異なる位置に配置された、曲率の異なる曲面で構成されている。そして、ワーク支持部62の中心側に面する所定位置に、各挟持部65を位置決めする複数のピン穴64が設けられている。
【0053】
従って、これら複数の挟持部65のいずれか1つを選択して使用できる。具体的には、抜止部15aが環状溝63から抜け出るように抜止ボルト15を緩めた後、軸部61をずらして位置決めピン16をピン穴64から抜き出せば、クランプジョー60Aは回動可能になるので、所望の挟持部65がワーク支持部62の中心側又は反中心側に面するようにクランプジョー60Aを回動させる。そうして、その挟持部65に対応したピン穴64に位置決めピン16を挿入しながら軸部61を軸穴13に押し込んで抜止ボルト15を締め付ければ、クランプジョー60Aを取り外さなくても、クランプジョー60Aの交換と実質的に同じ効果が得られる。
【0054】
図5に、クランプジョー60の他の一例(クランプジョー60B)を示す。例示のクランプジョー60Bは、ワークの把持状態が空圧変化によって検知できるように構成されている。軸部61やワーク支持部62等、基本的構造は、前述したように先のクランプジョー60Aと同じである。このクランプジョー60Bには、挟持部65及びピン穴64が1つずつ設けられている。マスタージョー11の接続口17cには、一定の加圧空気の供給が可能な空圧制御装置及び空気圧の変化を検知する空圧検知装置(図示せず)に連なる空気供給経路71が接続されている。
【0055】
クランプジョー60Bの内部には、マスタージョー11に取り付けられたときに、上流側流体経路17に連通する下流側流体経路72が形成されている。具体的には、間隔を隔てて配置された一対のOリング73,73が、軸部61に取り付けられている。これらOリング73,73は、クランプジョー60Bがマスタージョー11に適切な状態で取り付けられたときに、リング状凹部17aに対向する軸部61の領域(流体経路中継領域)の両側に位置するように配置されている。それにより、リング状凹部17aが密閉されて、流体経路中継領域の周囲には、マスタージョー11の外部に連通するリング状の密閉空間が形成される。
【0056】
そして、クランプジョー60Bの内部には、流体経路中継領域に一端が開口し、挟持部65に他端が開口する下流側流体経路72が形成されている。下流側流体経路72は、ドリルで掘られた孔を組み合わせ、不要な開口を蓋材で塞ぐことによって形成されている。挟持部65に開口する下流側流体経路72の開口端72aは、細孔となっており、ワークが適切に挟持された場合に、ワークによって塞がれるように構成されている。
【0057】
このクランプジョー60Bによれば、上流側流体経路17及び下流側流体経路72に空気を一定圧で供給しておけば、ワークを適切に挟持した場合には、下流側流体経路72の開口端72aが塞がれて、空気供給経路71、上流側流体経路17、及び下流側流体経路72が一定圧に保持される。そして、ワークが適切に挟持されない場合やグリッパー1からワークが離された場合には、空気が開口端72aから流出して、空気供給経路71、上流側流体経路17、及び下流側流体経路72の空気圧が低下する。その空気圧の変化を空圧検知装置で検知することで、グリッパー1によるワークの挟持状態を検知することができる。
【0058】
クランプジョー60として2つのタイプを例示したが、クランプジョー60の形態はこれらに限らない。例えば、挟持部65の個数は、4つや1つに限らず、2つや3つ、5つ以上であってもよい。挟持部65の形状も曲面に限らず平面や凹凸面であってもよい。ワーク支持部62の形状や大きさも仕様に応じて適宜変更できる。
【0059】
また、抜止部材は、抜止ボルト15に限らない。図示しないが、工具に連結される多角形の凹部が端部に形成されている円柱状のネジ部材であってもよい。このようなネジ部材であれば、貫通穴14から大きく突出しないようにできるので、邪魔にならない利点がある。
【0060】
また、工具を使わずにクランプジョー60の交換ができるように、プッシュ式の抜止部材を設けてもよい。図6に、その具体例を示す。図例の抜止部材80は、貫通穴14に固定される円筒状の本体81、本体81の内部に出退可能に収容されて先端に抜止部15aを有するロッド82などで構成されている。図示しないが、本体81には、ロッド82を弾性付勢するコイルバネなどが内蔵されていて、摘まみ83を押し込むことで、抜止部15aが軸穴13に突出する規制位置と、抜止部15aが軸穴13から後退する非規制位置とに、切り換えられるように構成されている。
【0061】
この抜止部材80であれば、工具が不要で、ワンタッチでクランプジョー60の交換が可能になるため、よりいっそう利便性に優れる。
【0062】
なお、本発明にかかるグリッパーは、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0063】
例えば、ジョー10の個数は、複数であればよく、3つに限らない。
【0064】
軸穴13及び軸部61の断面形状は円形に限らない。例えば、四角形や五角形等の多角形の断面形状であってもよい。軸穴13及び軸部61の断面形状を多角形にすれば、クランプジョー60の回動が規制できるので、位置決めピン16が省略できる。すなわち、これら軸穴13及び軸部61で、マスター側回動規制構造及びクランプ側回動規制構造を構成することができる。
【0065】
上流側流体経路17及び下流側流体経路72を流れる流体は空気に限らない。不活性ガスや、洗浄水、クーラント等であってもよい。加圧空気に限らず減圧空気であってもよい。下流側流体経路72から流出又は流入する流体は、ワークの検知に限らず、洗浄や冷却等、様々な用途に利用できる。
【符号の説明】
【0066】
1 グリッパー
10 ジョー
11 マスタージョー
13 軸穴
14 貫通穴
15 抜止ボルト(抜止部材の一例)
15a 抜止部
16 位置決めピン(マスター側回動規制構造の一例)
20 ボディ
30 ピストン
40 プランジャー
60 クランプジョー
61 軸部
62 ワーク支持部
63 環状溝(係合部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6