特許第6850617号(P6850617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6850617
(24)【登録日】2021年3月10日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/44 20060101AFI20210322BHJP
   C08F 2/48 20060101ALI20210322BHJP
   C09J 4/02 20060101ALI20210322BHJP
   C09J 4/06 20060101ALI20210322BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20210322BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20210322BHJP
   C09J 109/02 20060101ALI20210322BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20210322BHJP
   C08F 279/02 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   C08F2/44 C
   C08F2/48
   C09J4/02
   C09J4/06
   C09J11/06
   C09J11/08
   C09J109/02
   C08F220/18
   C08F279/02
【請求項の数】15
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-13374(P2017-13374)
(22)【出願日】2017年1月27日
(65)【公開番号】特開2018-119115(P2018-119115A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2019年12月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】宇野 弘基
【審査官】 藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−197160(JP,A)
【文献】 特開2013−181146(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/129678(WO,A1)
【文献】 特開2001−055423(JP,A)
【文献】 特開昭62−104883(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/041248(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/041710(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00−2/60、6/00−246/00、301/00
C09J 1/00−5/10、9/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜()を含有してなる組成物。
(1)(1−1)〜(1−3)を含有する重合性ビニルモノマー
(1−1)フェニル基を有する単官能(メタ)アクリレート
(1−2)ビスフェノール構造を有する多官能(メタ)アクリレート
(1−3)アルキル基を有する単官能(メタ)アクリレート
(2)(2−1)光ラジカル重合開始剤を含有する重合開始剤、
(3)末端に重合性不飽和二重結合を有さず、かつ、(メタ)アクリロニトリル含有量が1〜30モル%であるエラストマー
【請求項2】
(3)末端に重合性不飽和二重結合を有さず、かつ、(メタ)アクリロニトリル含有量が1〜30モル%であるエラストマーがジエン系共重合体である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
更に、パラフィン類を含有してなる請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
(3)末端に重合性不飽和二重結合を有さず、かつ、(メタ)アクリロニトリル含有量が1〜30モル%であるエラストマーの使用量が、(1)重合性ビニルモノマー100質量部に対して、5〜35質量部である請求項1又は2記載の組成物。
【請求項5】
(1−1)フェニル基を有する単官能(メタ)アクリレートの使用量が、(1)重合性ビニルモノマー100質量部中、15〜90質量部であり、(1−2)ビスフェノール構造を有する多官能(メタ)アクリレートの使用量が、(1)重合性ビニルモノマー100質量部中、2〜50質量部であり、(1−3)アルキル基を有する単官能(メタ)アクリレートの使用量が、(1)重合性ビニルモノマー100質量部中、8〜65質量部であり、(3)末端に重合性不飽和二重結合を有さず、かつ、(メタ)アクリロニトリル含有量が1〜30モル%であるエラストマーの使用量が、(1)重合性ビニルモノマー100質量部に対して、5〜35質量部である請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
更に、(2)重合開始剤が(2−1)光ラジカル重合開始剤と(2−2)熱ラジカル重合開始剤を含有してなる請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
更に、(4)還元剤を含有してなる請求項6記載の組成物。
【請求項8】
第一剤に少なくとも(2−2)熱ラジカル重合開始剤を含有してなり、第二剤に少なくとも(4)還元剤を含有してなる二剤型の請求項7記載の組成物。
【請求項9】
(1−1)フェニル基を有する単官能(メタ)アクリレートが、一般式(A)の化合物である請求項1〜8のいずれか1項記載の組成物。
一般式(A) Z−O−(RO)p−R
〔式中、Zは(メタ)アクリロイル基を示し、Rはフェニル基又は炭素数1〜3個のアルキル基を有するフェニル基を示す。Rは−C−、−C−、−CHCH(CH)−、−C−又は−C12−を示し、pは1〜10の整数を表す。〕
【請求項10】
(1−2)ビスフェノール構造を有する多官能(メタ)アクリレートが、一般式(B)の化合物である請求項1〜9のいずれか1項記載の組成物。
【化1】
【請求項11】
(1−3)アルキル基を有する単官能(メタ)アクリレートが、一般式(C)の化合物で
ある請求項1〜10のいずれか1項記載の組成物。
一般式(C) Z−O−R
〔式中、Zは(メタ)アクリロイル基を示し、Rは炭素数1〜20個のアルキル基を表す。〕
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項記載の組成物を含有してなる硬化性樹脂組成物。
【請求項13】
請求項12記載の硬化性樹脂組成物を含有してなる接着剤組成物。
【請求項14】
請求項13記載の接着剤組成物を使用して被着体を接着してなる接合体。
【請求項15】
請求項13記載の接着剤組成物を使用して被着体を接着してなる接着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、深部硬化性が良好である組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
省力化、省資源及び省エネルギーの点で、常温下、短時間で接着する接着剤として、常温速硬化型接着剤組成物が使用されている。従来、常温速硬化型接着剤組成物としては、二剤型速硬化エポキシ系接着剤組成物、嫌気性接着剤組成物、瞬間接着剤組成物及び第二世代のアクリル系接着剤組成物(SGA)が知られている。
【0003】
二剤型速硬化エポキシ系接着剤は、主剤と硬化剤を計量、混合して被着体に塗布し、主剤と硬化剤の反応により硬化するものである。しかしながら、二剤型速硬化エポキシ系接着剤はより高い剥離強度と衝撃強度が要求されている。
【0004】
嫌気性接着剤は、被着体間において接着剤組成物を圧着して空気を遮断することにより硬化するものである。しかしながら、嫌気性接着剤組成物は、圧着する際に接着剤組成物の一部が被着体からハミ出した場合、ハミ出した部分が空気に接触しても硬化する性質が要求されている。又、被着体間のクリアランスが大きい場合にも硬化する性質が要求されている。
【0005】
瞬間接着剤は通常シアノアクリレートを主成分とし、作業性に優れている。しかしながら、より高い剥離強度や衝撃強度が要求されている。
【0006】
SGAは二剤型アクリル系接着剤であるが、二剤の正確な計量を必要とせず、計量や混合が不完全でも二剤の接触だけで、常温で数分〜数十分で硬化するために、作業性に優れ、しかも剥離強度や衝撃強度が高く、ハミ出し部分の硬化も良好であるために、電気・電子部品分野から土木・建築分野に至るまで幅広く用いられている。最近では、臭気を抑えたSGAも出てきており、換気設備の不十分な場所においても作業が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−147921号公報
【特許文献2】特開2001−55423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
二剤型アクリル系接着剤は、特許文献1〜2に開示されている。しかしながら、光ラジカル重合開始剤について記載がない。
【0009】
本発明は、例えば、深部硬化性に優れる組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者等は、特定の組成の重合性ビニルモノマーと、光ラジカル重合開始剤と、特定のエラストマーと、を含有する組成物を用いた場合に、深部硬化性に優れる二剤型(メタ)アクリル系接着剤を提供できることを見出した。
【0011】
即ち、本発明は、
下記(1)〜(4)を含有してなる組成物であり、
(1)(1−1)〜(1−3)を含有する重合性ビニルモノマー
(1−1)フェニル基を有する単官能(メタ)アクリレート
(1−2)ビスフェノール構造を有する多官能(メタ)アクリレート
(1−3)アルキル基を有する単官能(メタ)アクリレート
(2)(2−1)光ラジカル重合開始剤を含有する重合開始剤
(3)末端に重合性不飽和二重結合を有さず、かつ、(メタ)アクリロニトリル含有量が1〜30モル%であるエラストマー
(3)末端に重合性不飽和二重結合を有さず、かつ、(メタ)アクリロニトリル含有量が1〜30モル%であるエラストマーがジエン系共重合体である該組成物であり、
更に、パラフィン類を含有してなる該組成物であり、
(3)末端に重合性不飽和二重結合を有さず、かつ、(メタ)アクリロニトリル含有量が1〜30モル%であるエラストマーの使用量が、(1)重合性ビニルモノマー100質量部に対して、5〜35質量部である該組成物であり、
(1−1)フェニル基を有する単官能(メタ)アクリレートの使用量が、(1)重合性ビニルモノマー100質量部中、15〜90質量部であり、(1−2)ビスフェノール構造を有する多官能(メタ)アクリレートの使用量が、(1)重合性ビニルモノマー100質量部中、2〜50質量部であり、(1−3)アルキル基を有する単官能(メタ)アクリレートの使用量が、(1)重合性ビニルモノマー100質量部中、8〜65質量部であり、(3)末端に重合性不飽和二重結合を有さず、かつ、(メタ)アクリロニトリル含有量が1〜30モル%であるエラストマーの使用量が、(1)重合性ビニルモノマー100質量部に対して、5〜35質量部である該組成物であり、
更に、(2)重合開始剤が(2−1)光ラジカル重合開始剤と(2−2)熱ラジカル重合開始剤を含有してなる該組成物であり、
更に、(4)還元剤を含有してなる該組成物であり、
第一剤に少なくとも(2−2)熱ラジカル重合開始剤を含有してなり、第二剤に少なくとも(4)還元剤を含有してなる二剤型の該組成物であり、
(1−1)フェニル基を有する単官能(メタ)アクリレートが、一般式(A)の化合物である該組成物であり、
一般式(A) Z−O−(RO)p−R
〔式中、Zは(メタ)アクリロイル基を示し、Rはフェニル基又は炭素数1〜3個のアルキル基を有するフェニル基を示す。Rは−C−、−C−、−CHCH(CH)−、−C−又は−C12−を示し、pは1〜10の整数を表す。〕
(1−2)ビスフェノール構造を有する多官能(メタ)アクリレートが、一般式(B)の化合物である該組成物であり、
【化2】

(1−3)アルキル基を有する単官能(メタ)アクリレートが、一般式(C)の化合物である該組成物であり、
一般式(C) Z−O−R
〔式中、Zは(メタ)アクリロイル基を示し、Rは炭素数1〜20個のアルキル基を表す。〕
該組成物を含有してなる硬化性樹脂組成物であり、
該硬化性樹脂組成物を含有してなる接着剤組成物であり、
該接着剤組成物を使用して被着体を接着してなる接合体であり、
該接着剤組成物を使用して被着体を接着してなる接着方法
である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、例えば、深部硬化性に優れる組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
本発明の一実施形態においては、下記(1)〜(4)を含有してなる組成物である。
(1)(1−1)〜(1−3)を含有する重合性ビニルモノマー
(1−1)フェニル基を有する単官能(メタ)アクリレート
(1−2)ビスフェノール構造を有する多官能(メタ)アクリレート
(1−3)アルキル基を有する単官能(メタ)アクリレート
(2)光ラジカル重合開始剤を含有する重合開始剤
(3)末端に重合性不飽和二重結合を有さず、かつ、(メタ)アクリロニトリル含有量が1〜30モル%であるエラストマー、
【0015】
(1)(1−1)〜(1−3)は、下記の化合物が好ましい。
(1−1)一般式(A)の化合物
一般式(A) Z−O−(RO)p−R
〔式中、Zは(メタ)アクリロイル基を示し、Rはフェニル基又は炭素数1〜3個のアルキル基を有するフェニル基を示す。Rは−C−、−C−、−CHCH(CH)−、−C−又は−C12−を示し、pは1〜10の整数を表す。〕
(1−2)一般式(B)の化合物
【化3】

(1−3)一般式(C)の化合物
一般式(C) Z−O−R
〔式中、Zは(メタ)アクリロイル基を示し、Rは炭素数1〜20個のアルキル基を表す。〕
【0016】
本実施形態では、重合性ビニルモノマーとして、(1−1)、(1−2)及び(1−3)を含有する。(1)重合性ビニルモノマーは、ラジカル重合可能であれば良い。中でも硬化速度等の点から、重合性ビニルモノマーが、重合性(メタ)アクリル酸誘導体であることがより好ましい。重合性ビニルモノマー100質量部中、重合性(メタ)アクリル酸誘導体が70質量部以上であることが好ましく、重合性ビニルモノマーが全て重合性(メタ)アクリル酸誘導体(以下(メタ)アクリレートということもある)であることがより好ましい。以下、(1)重合性ビニルモノマー100質量部中とは、(1−1)、(1−2)及び(1−3)の合計100質量部中であることが好ましい。
【0017】
単官能(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリロイルオキシ基を1個有する化合物をいう。多官能(メタ)アクリレートとは、(メタ)アクリロイルオキシ基を2個以上有する化合物をいう。多官能(メタ)アクリレートの中では、(メタ)アクリロイルオキシ基を2個有する化合物が好ましい。
【0018】
本実施形態で使用する(1−1)は、フェニル基を有する単官能(メタ)アクリレートである。フェニル基は、置換基を有しても良い。フェニル基は、ベンジル基を包含する。
【0019】
本実施形態で使用する(1−1)の中では、一般式(A)の化合物が好ましい。
一般式(A) Z−O−(RO)p−R
〔式中、Zは(メタ)アクリロイル基を示し、Rはフェニル基又は炭素数1〜3個のアルキル基を有するフェニル基を示す。Rは−C−、−C−、−CHCH(CH)−、−C−又は−C12−を示し、pは1〜10の整数を表す。〕
【0020】
(1−1)一般式(A)の化合物としては、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート及びフェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では、接着性の点で、フェノキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0021】
(1−1)フェニル基を有する単官能(メタ)アクリレートの使用量は、(1)重合性ビニルモノマー100質量部中、15〜90質量部が好ましく、30〜80質量部がより好ましい。15質量部未満だと接着性が低下するおそれがあり、90質量部を越えても接着性が低下するおそれがある。
【0022】
本実施形態で使用する(1−2)は、ビスフェノール構造を有する多官能(メタ)アクリレートである。ビスフェノール構造の中では、ビスフェノールA構造が好ましい。
【0023】
本実施形態で使用する(1−2)の中では、一般式(B)の化合物が好ましい。
【0024】
【化4】
【0025】
このような(メタ)アクリル系モノマーとしては、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシテトラエトキシフェニル)プロパン及び2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン等が挙げられる。これらの中では、接着性の点で、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパンが好ましい。
【0026】
又、qは0以上の数である。qは1以上が好ましく、3以上がより好ましい。qは15以下が好ましく、10以下がより好ましく、8以下が最も好ましい。qは5が尚更好ましい。
【0027】
(1−2)ビスフェノール構造を有する多官能(メタ)アクリレートの化合物の使用量は、(1)重合性ビニルモノマー100質量部中、2〜50質量部が好ましく、5〜30質量部がより好ましい。2質量部未満だと接着性が低下するおそれがあり、50質量部を越えると耐湿性が低下するおそれがある。
【0028】
本実施形態で使用する(1−3)は、アルキル基を有する単官能(メタ)アクリレートである。アルキル基としては、非置換の飽和炭化水素基が好ましい。アルキル基の炭素数は1〜20個が好ましい。
【0029】
本実施形態で使用する(1−3)の中では、一般式(C)の化合物が好ましい。
一般式(C) Z−O−R
〔式中、Zは(メタ)アクリロイル基を示し、Rは炭素数1〜20個のアルキル基を表す。〕
【0030】
(1−3)一般式(C)の化合物としては、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート及びトリデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では接着性や耐湿性の点で、2−エチルへキシル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0031】
式中、Rの炭素数は3〜16個が好ましく、4〜13個がより好ましい。3個未満だと耐湿性が低下するおそれがあり、16個を越えると接着性が低下するおそれがある。
【0032】
(1−3)アルキル基を有する単官能(メタ)アクリレートの使用量は、(1)重合性ビニルモノマー100質量部中、8〜65質量部が好ましく、10〜50質量部がより好ましい。8質量部未満だと耐湿性が低下するおそれがあり、65質量部を越えると接着性、特に鉄に対する引張剪断強度が低下するおそれがある。
【0033】
本発明で使用する(2)重合開始剤は、(2−1)光ラジカル重合開始剤を含有する。
【0034】
光ラジカル重合開始剤としては、ベンゾフェノン及びその誘導体、ベンジル及びその誘導体、エントラキノン及びその誘導体、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール等のベンゾイン誘導体、ジエトキシアセトフェノン、4−t−ブチルトリクロロアセトフェノン等のアセトフェノン誘導体、2−ジメチルアミノエチルベンゾエート、p−ジメチルアミノエチルベンゾエート、ジフェニルジスルフィド、チオキサントン及びその誘導体、カンファーキノン、7,7−ジメチル−2,3−ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン−1−カルボン酸、7,7−ジメチル−2,3−ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン−1−カルボキシ−2−ブロモエチルエステル、7,7−ジメチル−2,3−ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン−1−カルボキシ−2−メチルエステル、7,7−ジメチル−2,3−ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン−1−カルボン酸クロライド等のカンファーキノン誘導体、2−メチル−1−[4-(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1等のα−アミノアルキルフェノン誘導体、ベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシポスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジエトキシフェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド誘導体、オキシ−フェニル−アセチックアシッド2−[2−オキソ−2−フェニル−アセトキシ−エトキシ]−エチルエステル及びオキシ−フェニル−アセチックアシッド2−[2−ヒドロキシ−エトキシ]−エチルエステル等が挙げられる。これらの中では、硬化性に優れる点で、ベンジルジメチルケタールが好ましい。
【0035】
(2−1)光ラジカル重合開始剤の使用量は、(1)重合性ビニルモノマー100質量部に対して、0.5〜10質量部が好ましく、1〜7質量部がより好ましい。0.5質量部未満だと硬化速度が遅いおそれがあり、10質量部を越えると貯蔵安定性が悪くなるおそれがある。
【0036】
更に、(2)重合開始剤は、(2−1)光ラジカル重合開始剤と(2−2)熱ラジカル重合開始剤を含有することが好ましい。
【0037】
熱ラジカル重合開始剤の中では、有機過酸化物が好ましい。有機過酸化物としては、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンジハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド及びターシャリーブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。これらの1種又は2種以上が使用できる。これらの中では反応性の点で、クメンハイドロパーオキサイドが好ましい。
【0038】
(2−2)熱ラジカル重合開始剤の使用量は、(1)重合性ビニルモノマー100質量部に対して、0.5〜10質量部が好ましく、1〜7質量部がより好ましい。0.5質量部未満だと硬化速度が遅いおそれがあり、10質量部を越えると貯蔵安定性が悪くなるおそれがある。
【0039】
(2−2)熱ラジカル重合開始剤を使用する場合、(4)還元剤を併用することが好ましい。
本実施形態で使用する(4)還元剤は、前記重合開始剤と反応し、ラジカルを発生する公知の還元剤であれば使用できる。代表的な還元剤としては例えば、第3級アミン、チオ尿素誘導体及び遷移金属塩等が挙げられる。
【0040】
第3級アミンとしては例えば、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン及びN,N−ジメチルパラトルイジン等が挙げられる。チオ尿素誘導体としては例えば、2−メルカプトベンズイミダゾール、メチルチオ尿素、ジブチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素及びエチレンチオ尿素等が挙げられる。遷移金属塩としては、例えば、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅及びバナジルアセチルアセトネート等が挙げられる。これらの中では、反応性の点で、遷移金属塩が好ましく、バナジルアセチルアセトネートがより好ましい。
【0041】
(4)還元剤の使用量は(1)重合性ビニルモノマー100質量部に対して、0.01〜5質量部が好ましく、0.05〜1質量部がより好ましい。0.01質量部未満だと硬化速度が遅いおそれがあり、5質量部を越えると貯蔵安定性が低下するおそれがある。
【0042】
本実施形態では、(3)末端に重合性不飽和二重結合を有さず、かつ、(メタ)アクリロニトリル含有量が1〜30モル%であるエラストマーを使用する。
【0043】
(3)末端に重合性不飽和二重結合を有さず、かつ、(メタ)アクリロニトリル含有量が1〜30モル%であるエラストマーとしては、(メタ)アクリロニトリル−ブタジエン−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリロニトリル−ブタジエン−メチル(メタ)アクリレート共重合体、(メタ)アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体等といったジエン系共重合体等が挙げられる。
【0044】
(3)末端に重合性不飽和二重結合を有さず、かつ、(メタ)アクリロニトリル含有量が1〜30モル%であるエラストマーとしては、(1)重合性ビニルモノマーに可溶なエラストマーが好ましい。
【0045】
これらの中では、溶解性及び接着性の点で、ジエン系共重合体が好ましい。ジエン系共重合体の中では、(メタ)アクリロニトリル−ブタジエン−(メタ)アクリル酸共重合体及び/又は(メタ)アクリロニトリル−ブタジエン共重合体が好ましく、(メタ)アクリロニトリル−ブタジエン共重合体がより好ましい。
【0046】
(3)末端に重合性不飽和二重結合を有さず、かつ、(メタ)アクリロニトリル含有量が1〜30モル%であるエラストマーにおいて、(メタ)アクリロニトリル含有量は、低温における剥離強度に優れ、強い衝撃にも耐えられる点で、1〜30モル%が好ましく、10〜27モル%がより好ましく、13〜25モル%が最も好ましく、15〜20モル%が尚更好ましい。(メタ)アクリロニトリル含有量が1モル%以上であると本発明の効果が得られやすく、30モル%以下であると銅等の金属が被着対象である場合にも腐食を生じにくい。
【0047】
(3)末端に重合性不飽和二重結合を有さず、かつ、(メタ)アクリロニトリル含有量が1〜30モル%であるエラストマーの使用量は、(1)重合性ビニルモノマー100質量部に対して、5〜35質量部が好ましく、10〜30質量部がより好ましく、15〜20質量部が最も好ましい。5質量部未満だと低温での剥離強度や耐衝撃性が小さいおそれがあり、35質量部を超えると、粘度が上昇し、作業性が悪くなり、硬化性が不十分であるおそれがある。
【0048】
本実施形態における組成物は空気に接している部分の硬化を迅速にするために各種パラフィン類を使用することができる。パラフィン類としては例えば、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、カルナバろう、蜜ろう、ラノリン、鯨ろう、セレシン及びカンデリラろう等が挙げられる。これらの中では、パラフィンが好ましい。パラフィン類の融点は40〜100℃が好ましい。
【0049】
パラフィン類の使用量は、(1)重合性ビニルモノマー100質量部に対して、0.1〜5質量部が好ましい。0.1質量部未満だと空気に接している部分の硬化が悪くなるおそれがあり、5質量部を越えると接着強度が低下するおそれがある。
【0050】
更に、貯蔵安定性を改良する目的で重合禁止剤を含む各種の酸化防止剤等を使用することができる。
【0051】
更に、本実施形態では接着性を向上させ、硬化速度を速くするために、リン酸塩を使用することが好ましい。
【0052】
尚、これらの他にも所望により可塑剤、充填剤、着色剤及び防錆剤等の既に知られている物質を使用することもできる。
【0053】
以上、本実施形態で使用する成分について説明したが、更に上記(1−1)、(1−2)及び(1−3)以外の臭気の少ない化合物を使用してもよい。
【0054】
本発明の実施態様としては、接着剤組成物として使用することが好ましい。(2−2)熱ラジカル重合開始剤を使用する場合には例えば、二剤型の接着剤組成物として使用することが挙げられる。二剤型については、成分全てを貯蔵中は混合せず、接着剤組成物を第一剤及び第二剤に分け、第一剤に少なくとも(2−2)熱ラジカル重合開始剤を、第二剤に少なくとも(4)還元剤と必要に応じてリン酸塩を含有させ、別々に貯蔵する。この場合、両剤を同時に又は別々に塗布して接触、硬化することによって、二剤型の接着剤組成物として使用できる。
【0055】
別の実施態様としては、第一剤及び第二剤のいずれか一方又は両方に重合性ビニルモノマー及びその他の任意の成分を予め含有せしめ、硬化時に両者を混合することによって、一剤型の接着剤組成物として使用できる。
【0056】
これらの実施態様の中では、貯蔵安定性に優れる点で、二剤型の接着剤組成物として使用することが好ましい。
本実施態様が(2−1)光ラジカル重合開始剤と(2−2)熱ラジカル重合開始剤を含有する場合、以下の効果を有する。
可視光線又は紫外線が進入できない部分が存在しても、熱ラジカル重合により、接着剤組成物を硬化できる。
接着剤組成物を使用して被着体を接着する際、予め被着体の端部に存在する接着剤組成物に可視光線又は紫外線を照射して仮固定し、その後静置して被着体を本硬化することができる。可視光線又は紫外線を照射して仮固定することにより、高精度な寸法にて被着体を接着できる。
【0057】
本発明では、硬化性樹脂組成物の硬化物により、被着体を接合して接合体を作製する。被着体の各種材料については、紙、木材、セラミック、ガラス、陶磁器、ゴム、プラスチック、モルタル、コンクリート及び金属等制限はないが、被着体が金属の場合、特に鉄やステンレスの場合により優れた接着性を示す。
【実施例】
【0058】
以下実験例により本発明を更に詳細に説明する。
【0059】
(実験例)
表1に示す組成からなる接着剤組成物を調製し、各種物性を測定した。結果を表1に示す。
各物質の使用量の単位は質量部で示す。各種物性については、下記記載の方法にて測定した。
【0060】
【表1】
【0061】
表中に記載した各物質については、次のような略号を使用した。
2,2−ビス(4−メタクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン:q=5のものを用使用。
パラフィン類:融点40〜100℃のパラフィンを使用。
アクリロニトリル−ブタジエンゴム:末端に重合性不飽和二重結合を有さない、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体
AN量:アクリロニトリル−ブタジエンゴムに含まれるアクリロニトリル含有量(モル%)
【0062】
〔引張剪断強度(引張剪断接着強さ)〕試験片として100×25×1.6mmのSPCC−Dのウエス拭き処理鋼板を用いた。温度23℃、湿度50%の環境下でJIS K−6850に従い、一枚の試験片の片面に第一剤を塗布し、もう一枚の試験片に第二剤を塗布した。その後直ちに塗布面同士を重ね合わせて貼り合わせた。こののち、室温で24時間養生し、これを引張剪断強度測定用試料とした。試料の引張剪断強度(単位:MPa)は、温度23℃、湿度50%の環境下で引張速度10mm/分で測定した。
【0063】
〔剥離強度(剥離接着強さ)〕試験片として200×25×1.6mmのSPCC−Dのウエス拭き処理鋼板と200×25×1.5mmのSUS304のウエス拭き処理鋼板を用いた。温度23℃、湿度50%の環境下でJIS K−6854に従い、一枚の試験片の片面に第一剤を塗布し、もう一枚の試験片の片面に第二剤を塗布した。その後直ちに塗布面同士を重ね合わせて貼り合わせた。こののち、室温で24時間養生し、これをT剥離強度測定用試料とした。低温特性の確認として、温度23℃、湿度50%の環境下、引張速度50mm/分でのT剥離強度と、温度−20℃の環境下、引張速度50mm/分でのT剥離強度とを比較した。又、温度−20℃の環境下での剥離の破断距離も比較した。
剥離の破断距離は、以下の方法により測定した。T剥離強度測定用試料を用い、チャック間を1cmに設定し、上記の試験片の上端部と下端部を固定し、−20℃の温度で引張速度50mm/分の速度で試験片を上下に引張り、破断に至る引張り距離を測定した。破断距離が大きいほど、剥離強度が大きい。
【0064】
〔耐衝撃試験〕試験片としてパネル2000×500×1.5mmのSUS304のウエス拭き処理鋼板と補強材1800×20×1.5mmのSPCC−Dのウエス拭き処理鋼板を用いた。温度23℃、湿度50%の環境下でパネルの中央部の位置に第一剤を塗布し、補強材に第二剤を塗布した。その後直ちに塗布面同士を重ね合わせて貼り合わせた。この後、室温で24時間養生し、これを耐衝撃試験測定用試料とした。耐衝撃試験は補強材を裏側にしたパネルを水平にして、両端部を支持持ちで固定した。パネルの表面から800mmの高さ、パネルの端部から1000mmの位置に45kgの鉄球を吊り下げた。鉄球を自然落下してパネルに衝撃を加え、裏面にある補強材がパネルから剥離する状況を観察した。
下記式により補強材の剥離率を算出した。
補強材の剥離率(%)=(補強材が剥がれた面積)/(接着剤を塗布した接着剤塗布面の面積)×100(%)
【0065】
〔深部硬化性試験〕深部硬化性を以下のように測定した。
接着剤を内径4mmの黒色ウレタンチューブ(長さ10mm)へ充填し、開口部から紫外線を照射する。照射条件としては以下の通りである。紫外線照射装置としてはHOYA社のLED照射機を用い、365nmの積算照射量が9000mJ/cmとなる条件にて60秒間照射し、硬化させた。照射後、未硬化部を取り除いた接着剤硬化物の厚みをノギスにより計測した。
【0066】
〔臭気〕各硬化性樹脂組成物の臭気の強さを次のようにした。
樹脂組成物を使用して直径10mm×厚さ1mmの硬化物を作製し、ガラス瓶に硬化物を入れて密栓し、1時間放置後、臭いセンサー(カルモア社製)を使用して臭気を測定した。尚、試験をした室内の測定値360であった。数値が大きいほど、臭気が強いことを表している。臭気の数値は、1000以下が好ましく、600以下がより好ましく、500以下が最も好ましい。
【0067】
表から以下のことが認められる。本発明は、(3)を使用するので、低温における剥離強度が高く、耐衝撃性が大きい。アクリロニトリルを含有しないブタジエンゴムを使用した実験例2は、ブタジエンゴムが溶解せず、評価ができない。アクリロニトリル含有量が大きい実験例1は、低温における剥離強度が低く、耐衝撃性が小さい。実験例5は、(2−1)を含有しないので、深部硬化性が得られない。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の接着剤組成物により、深部硬化性が優れた組成物、例えば、即座に深部まで硬化する二剤型(メタ)アクリル系接着剤組成物が得られる。そのため、硬化物内部の硬化が進行し易く、速硬化性の二剤型(メタ)アクリル系接着剤組成物が得られる。
接着剤硬化物は氷点下の環境に晒されるため、低温環境下での特性が求められている。低温条件では、接着剤硬化物が脆くなり、接着強度が低下し、剥離が生じることがある。
本発明の接着剤組成物により、低臭気かつ低温における剥離強度が高い二剤型(メタ)アクリル系接着剤組成物が得られる。本発明の接着剤組成物はメタクリル酸メチルを含有しないことにより、低臭気、低揮発性の組成物が得られる。そのため、換気が不十分な場所でも作業が可能であり、接着剤硬化物が寒冷地域においても剥離しない、適応環境が広がった接着剤が得られる。
更に、強い衝撃にも耐えられる二剤型(メタ)アクリル系接着剤を提供することができるので、作業環境の改善だけでなく、様々な産業分野に適用することができ、有益である。