特許第6850622号(P6850622)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6850622三次元積層造形用のスライスデータ生成方法、三次元積層造形方法及び三次元積層造形用のスライスデータ生成プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6850622
(24)【登録日】2021年3月10日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】三次元積層造形用のスライスデータ生成方法、三次元積層造形方法及び三次元積層造形用のスライスデータ生成プログラム
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/16 20060101AFI20210322BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20210322BHJP
   B29C 64/386 20170101ALI20210322BHJP
   B33Y 50/00 20150101ALI20210322BHJP
【FI】
   B22F3/16
   B22F3/105
   B29C64/386
   B33Y50/00
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-19057(P2017-19057)
(22)【出願日】2017年2月3日
(65)【公開番号】特開2018-123413(P2018-123413A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】北村 仁
(72)【発明者】
【氏名】原口 英剛
(72)【発明者】
【氏名】谷川 秀次
(72)【発明者】
【氏名】月元 晃司
(72)【発明者】
【氏名】上谷 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】藤原 宏介
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0039570(US,A1)
【文献】 特開2007−307742(JP,A)
【文献】 特開2015−193184(JP,A)
【文献】 特開2007−106108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/105,3/16,
B29C 64/00−64/40,
B33Y 10/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パウダーベッドを形成するためのリコータを有する三次元積層造形装置による造形に用いられるスライスデータの生成方法であって、
造形物の平面視において前記リコータの幅方向における前記造形物の長手方向両端の角部の位置がずれるように、又は、前記リコータの幅方向に直交する方向から視た側面視において前記リコータの幅方向における前記造形物の高さ方向両端の角部の位置がずれるように、前記造形物の三次元形状データの配向を設定するステップと、
設定された前記配向の前記三次元形状データをスライスして、前記スライスデータを生成するステップと、
を備え
前記造形物の三次元形状データの配向を設定するステップでは、前記造形物の平面視において前記リコータの幅方向における前記造形物の長手方向両端の角部の位置の重複を低減するように、又は、前記リコータの幅方向に直交する方向から視た側面視において前記リコータの幅方向における前記造形物の高さ方向両端の角部の位置の重複を低減するように、前記造形物の三次元形状データの配向を初期配向から変更することを特徴とする三次元積層造形用のスライスデータ生成方法。
【請求項2】
前記リコータの幅方向における複数の位置範囲のそれぞれについて、前記造形物の造形に伴う前記造形物の前記長手方向両端の角部の出現頻度を算出するステップをさらに備え、
前記三次元形状データの配向を設定するステップでは、各々の前記位置範囲における前記造形物の前記長手方向両端の角部の前記出現頻度のばらつきが許容範囲内に収まるような前記三次元形状データの配向を決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の三次元積層造形用のスライスデータ生成方法。
【請求項3】
前記造形物の各層の長手方向両端の角部の位置を平面視において前記パウダーベッドが形成されるベースプレートに相当する領域に投影して、前記領域における前記長手方向両端の角部の出現頻度をマッピングするステップと、
マッピングした前記出現頻度を、前記リコータの幅方向における複数の位置範囲のそれぞれについて前記リコータの移動方向に積算することで、前記リコータの幅方向における前記複数の位置範囲のそれぞれにおける前記造形物の造形に伴う前記造形物の長手方向両端の角部の出現頻度の分布を得るステップと、
を備え、
前記三次元形状データの配向を設定するステップでは、前記分布について、前記複数の位置範囲のそれぞれにおける記長手方向両端の角部の出現頻度のばらつきが許容範囲内に収まるように、三次元形状データの配向を決定する、請求項1又は2に記載の三次元積層造形用のスライスデータ生成方法。
【請求項4】
請求項1乃至の何れか一項に記載の方法により、前記スライスデータを生成するステップと、
前記リコータにより前記パウダーベッドを形成するステップと、
生成された前記スライスデータに従って、前記パウダーベッドに対して選択的に光ビームを照射して固化するステップと、
を備えることを特徴とする三次元積層造形方法。
【請求項5】
前記パウダーベッドが形成されるベースプレート又は前記リコータの配向を指定する配向指定データに従って、各層の造形前に前記ベースプレート又は前記リコータの少なくとも一方を制御して、前記リコータに対する各造形層の相対的配向を調整するステップをさらに備えることを特徴とする請求項に記載の三次元積層造形方法。
【請求項6】
パウダーベッドを形成するためのリコータを有する三次元積層造形装置による造形に用いられるスライスデータの生成プログラムであって、
造形物の平面視において、前記リコータの幅方向における前記造形物の複数の長手方向両端の角部の位置がずれるように、又は、前記リコータの幅方向に直交する方向から視た側面視において前記リコータの幅方向における前記造形物の高さ方向両端の角部の位置がずれるように、前記造形物の三次元形状データの配向を設定する処理と、
設定された前記配向の前記三次元形状データをスライスして、前記スライスデータを生成する処理と、
をコンピュータに実行させ
前記造形物の三次元形状データの配向を設定する処理では、前記造形物の平面視において前記リコータの幅方向における前記造形物の長手方向両端の角部の位置の重複を低減するように、又は、前記リコータの幅方向に直交する方向から視た側面視において前記リコータの幅方向における前記造形物の高さ方向両端の角部の位置の重複を低減するように、前記造形物の三次元形状データの配向を初期配向から変更することを特徴とする、三次元積層造形用のスライスデータの生成プログラム。
【請求項7】
前記造形物の各層の長手方向両端の角部の位置を平面視において前記パウダーベッドが形成されるベースプレートに相当する領域に投影して、前記領域における前記長手方向両端の角部の出現頻度をマッピングする処理と、
マッピングした前記出現頻度を、前記リコータの幅方向における複数の位置範囲のそれぞれについて前記リコータの移動方向に積算することで、前記リコータの幅方向における前記複数の位置範囲のそれぞれにおける前記造形物の造形に伴う前記造形物の長手方向両端の角部の出現頻度の分布を得る処理と、
をコンピュータに実行させ、
前記三次元形状データの配向を設定する処理では、前記分布について、前記複数の位置範囲のそれぞれにおける記長手方向両端の角部の出現頻度のばらつきが許容範囲内に収まるように、三次元形状データの配向を決定する、請求項6に記載の三次元積層造形用のスライスデータの生成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、三次元積層造形用のスライスデータ生成方法、三次元積層造形方法及び三次元積層造形用のスライスデータ生成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属積層造形法では、リコータにより基板上に金属粉末を敷設し、造形物部分に相当する金属粉末をレーザで溶融・凝固させ、その上面に新たに金属粉末を敷設し、再び、造形物部分に相当する金属粉末を光ビームで溶融し凝固させる作業を繰り返すことで、造形物を造形する。
【0003】
特許文献1には、金属粉末の固化層と周辺領域との温度差に起因する造形物の変形を抑制するために、固化層の形成領域及びその周辺領域を固化層の形成前に光ビームにより予備加熱する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015‐38237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、造形時に造形物が変形した場合、変形部との接触によってリコータが局所的に損傷して金属粉末を均一に敷設できなくなると、造形物の品質低下や造形処理の中止を招き、高品質な造形物を安定的に造形できなくなる恐れがある。
【0006】
この点、特許文献1には、リコータの局所的な損傷に起因する造形物の品質低下を抑制するための知見については何ら開示されておらず、特許文献1に記載の方法では、高品質な造形物の安定的な造形を実現することは困難である。
【0007】
特に、造形物が大きい場合には造形物の変形量が大きくなりやすく、造形物の形状によっても変形を抑制することが困難になる場合があり、このような場合には特許文献1に記載の方法による造形物の品質低下の抑制効果は限定的になりやすい。
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態は、上述したような従来の課題に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、高品質な造形物の安定的な造形を可能とする三次元積層造形用のスライスデータ生成方法、三次元積層造形方法及び三次元積層造形用のスライスデータ生成プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る三次元積層造形用のスライスデータ生成方法は、パウダーベッドを形成するためのリコータを有する三次元積層造形装置による造形に用いられるスライスデータの生成方法であって、造形物の平面視又は前記リコータの幅方向に直交する方向から視た側面視において、前記リコータの幅方向における前記造形物の複数の角部の位置がずれるように、前記造形物の三次元形状データの配向を設定するステップと、設定された前記配向の前記三次元形状データをスライスして、前記スライスデータを生成するステップと、を備える。
【0010】
造形物の長辺の長さと短辺の長さの差が大きい場合、レーザ照射後の造形物の熱変形(熱収縮)が大きくなるため、造形物の反りによって造形物の角部に大きな浮き上がりが発生することがある。この場合、リコータが造形物を通過する際に造形物の角部がリコータに接触し、リコータにおける造形用の粉末材を敷設するための敷設部品の損傷が生じる可能性がある。特に、リコータの同一箇所に造形物の角部が何度も接触すると、当該同一箇所にてリコータの局所的な損傷による造形物の品質低下リスクが高くなる。
【0011】
この点、上記(1)に記載の三次元積層造形用のスライスデータ生成方法によれば、造形物の平面視又はリコータの幅方向に直交する方向から視た側面視において、リコータの幅方向における造形物の複数の角部の位置がずれるように造形物の三次元形状データの配向を設定する。このため、リコータが造形物を造形する間にリコータに対する造形物の複数の角部が接触する位置をリコータの幅方向に分散させることができる。これにより、リコータの局所的な損傷を抑制し、高品質な造形物の安定的な造形を行うことができる。
【0012】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の三次元積層造形用のスライスデータ生成方法において、前記造形物の三次元形状データの配向を設定するステップでは、前記造形物の平面視又は前記リコータの幅方向に直交する方向から視た側面視において、前記リコータの幅方向における前記造形物の複数の角部の位置の重複を低減するように、前記造形物の三次元形状データの配向を初期配向から変更する。
【0013】
上記(2)に記載の三次元積層造形用のスライスデータ生成方法によれば、造形物の三次元形状データの配向を初期配向から変更して、造形物の平面視又はリコータの幅方向に直交する方向から視た側面視において、リコータの幅方向における造形物の複数の角部の位置の重複を低減する。このため、リコータが造形物を造形する間にリコータに対する造形物の複数の角部が接触する位置をリコータの幅方向に分散させることができる。これにより、リコータの局所的な損傷を抑制し、高品質な造形物の安定的な造形を行うことができる。
【0014】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)に記載の三次元積層造形用のスライスデータ生成方法において、前記リコータの幅方向における複数の位置範囲のそれぞれについて、前記造形物の造形に伴う前記造形物の前記角部の出現頻度を算出するステップをさらに備え、前記三次元形状データの配向を設定するステップでは、各々の前記位置範囲における前記角部の前記出現頻度のばらつきが許容範囲内に収まるような前記三次元形状データの配向を決定する。
【0015】
上記(3)に記載の三次元積層造形用のスライスデータ生成方法によれば、リコータの幅方向における複数の位置範囲での角部の出現頻度のばらつきを小さくすることにより、リコータに対する造形物の複数の角部の接触位置を、リコータの幅方向に効果的に分散させることができる。これにより、リコータの局所的な損傷を効果的に抑制し、高品質な造形物の安定的な造形を行うことができる。
【0016】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れか一項に記載の三次元積層造形用のスライスデータ生成方法において、前記三次元形状データの配向を設定するステップでは、平面視において、前記リコータの前記幅方向に対して前記造形物の長手方向が斜めになるように、前記三次元形状データの配向を決定する。
【0017】
上記(4)に記載の三次元積層造形用のスライスデータ生成方法によれば、直方体等の一定の対称性を有する造形物を造形する場合に、リコータに対する造形物の複数の角部の接触位置を、リコータの幅方向に容易に分散させることができる。これにより、リコータの局所的な損傷を容易に抑制し、高品質な造形物の安定的な造形を行うことができる。
【0018】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れか1項に記載の三次元積層造形用のスライスデータ生成方法において、前記三次元形状データの配向を設定するステップでは、前記リコータの幅方向に直交する方向から視た側面視において、前記造形物の高さ方向が鉛直方向に対して斜めになるように、前記三次元形状データの配向を決定する。
【0019】
上記(5)に記載の三次元積層造形用のスライスデータ生成方法によれば、直方体等の一定の対称性を有する造形物を造形する場合に、リコータに対する造形物の複数の角部の接触位置を、リコータの幅方向に容易に分散させることができる。これにより、リコータの局所的な損傷を容易に抑制し、高品質な造形物の安定的な造形を行うことができる。
【0020】
(6)本発明の少なくとも一実施形態に係る三次元積層造形方法は、上記(1)乃至(5)の何れか一項に記載の方法により、前記スライスデータを生成するステップと、前記リコータにより前記パウダーベッドを形成するステップと、生成された前記スライスデータに従って、前記パウダーベッドに対して選択的に光ビームを照射して固化するステップと、を備える。
【0021】
上記(6)に記載の三次元積層造形方法によれば、上記(1)乃至(5)の何れか一項に記載の方法によって前記スライスデータを生成するため、リコータの局所的な損傷を容易に抑制し、高品質な造形物の安定的な造形を行うことができる。
【0022】
(7)幾つかの実施形態では、上記(6)に記載の三次元積層造形方法において、前記パウダーベッドが形成されるベースプレート又は前記リコータの配向を指定する配向指定データに従って、各層の造形前に前記ベースプレート又は前記リコータの少なくとも一方を制御して、前記リコータに対する各造形層の相対的配向を調整するステップをさらに備える。
【0023】
上記(7)に記載の三次元積層造形方法によれば、各層の造形前にリコータに対する各造形層の相対的配向を調整することにより、リコータに対する造形物の複数の角部の接触位置を、リコータの幅方向に効果的に分散させることができる。これにより、リコータの局所的な損傷を効果的に抑制し、高品質な造形物の安定的な造形を行うことができる。
【0024】
(8)本発明の少なくとも一実施形態に係る三次元積層造形方法は、パウダーベッドを形成するためのリコータを有する三次元積層造形装置を用いた三次元積層造形方法であって、平面視において、前記リコータの幅方向に対して造形物の長手方向が斜めになるように、前記造形物の三次元形状データの配向を設定するステップと、設定された前記配向の前記三次元形状データをスライスして、スライスデータを生成するステップと、生成された前記スライスデータに従って、前記パウダーベッドに対して選択的に光ビームを照射して固化するステップと、を備える。
【0025】
造形物の長辺の長さと短辺の長さの差が大きい場合、レーザ照射後の造形物の熱変形(熱収縮)が大きくなるため、造形物の反りによって造形物の角部に大きな浮き上がりが発生することがある。この場合、リコータが造形物を通過する際に造形物の角部がリコータに接触し、リコータにおける造形用の粉末材を敷設するための敷設部品の損傷が生じる可能性がある。特に、リコータの同一箇所に造形物の角部が何度も接触すると、当該同一箇所にてリコータの局所的な損傷による造形物の品質低下リスクが高くなる。
【0026】
この点、上記(8)に記載の三次元積層造形用のスライスデータ生成方法によれば、平面視においてリコータの幅方向に対して造形物の長手方向が斜めになるように、造形物の三次元形状データの配向を設定する。このため、直方体等の一定の対称性を有する造形物を造形する場合に、リコータに対する造形物の複数の角部の接触位置を、リコータの幅方向に容易に分散させることができる。これにより、リコータの局所的な損傷を抑制し、高品質な造形物の安定的な造形を行うことができる。
【0027】
(9)本発明の少なくとも一実施形態に係る三次元積層造形方法は、パウダーベッドを形成するためのリコータを有する三次元積層造形装置を用いた三次元積層造形方法であって、前記リコータの幅方向に直交する方向から視た側面視において、造形物の高さ方向が鉛直方向に対して斜めになるように、前記造形物の三次元形状データの配向を設定するステップと、設定された前記配向の前記三次元形状データをスライスして、スライスデータを生成するステップと、生成された前記スライスデータに従って、前記パウダーベッドに対して選択的に光ビームを照射して固化するステップと、を備える。
【0028】
造形物の長辺の長さと短辺の長さの差が大きい場合、レーザ照射後の造形物の熱変形(熱収縮)が大きくなるため、造形物の反りによって造形物の角部に大きな浮き上がりが発生することがある。この場合、リコータが造形物を通過する際に造形物の角部がリコータに接触し、リコータにおける造形用の粉末材を敷設するための敷設部品の損傷が生じる可能性がある。特に、リコータの同一箇所に造形物の角部が何度も接触すると、当該同一箇所にてリコータの局所的な損傷による造形物の品質低下リスクが高くなる。
【0029】
この点、上記(9)に記載の三次元積層造形用のスライスデータ生成方法によれば、リコータの幅方向に直交する方向から視た側面視において、造形物の高さ方向が鉛直方向に対して斜めになるように造形物の三次元形状データの配向を設定する。このため、直方体等の一定の対称性を有する造形物を造形する場合に、リコータに対する造形物の複数の角部の接触位置を、リコータの幅方向に容易に分散させることができる。これにより、リコータの局所的な損傷を抑制し、高品質な造形物の安定的な造形を行うことができる。
【0030】
(10)本発明の少なくとも一実施形態に係る三次元積層造形用のスライスデータ生成プログラムは、パウダーベッドを形成するためのリコータを有する三次元積層造形装置による造形に用いられるスライスデータの生成プログラムであって、造形物の平面視又は前記リコータの幅方向に直交する方向から視た側面視において、前記リコータの幅方向における前記造形物の複数の角部の位置がずれるように、前記造形物の三次元形状データの配向を設定する処理と、設定された前記配向の前記三次元形状データをスライスして、前記スライスデータを生成する処理と、をコンピュータに実行させる。
【0031】
造形物の長辺の長さと短辺の長さの差が大きい場合、レーザ照射後の造形物の熱変形(熱収縮)が大きくなるため、造形物の反りによって造形物の角部に大きな浮き上がりが発生することがある。この場合、リコータが造形物を通過する際に造形物の角部がリコータに接触し、リコータにおける造形用の粉末材を敷設するための敷設部品の損傷が生じる可能性がある。特に、リコータの同一箇所に造形物の角部が何度も接触すると、当該同一箇所にてリコータの局所的な損傷による造形物の品質低下リスクが高くなる。
【0032】
この点、上記(10)に記載の三次元積層造形用のスライスデータ生成プログラムによれば、造形物の平面視又はリコータの幅方向に直交する方向から視た側面視において、リコータの幅方向における造形物の複数の角部の位置がずれるように造形物の三次元形状データの配向を設定する。このため、リコータが造形物を造形する間にリコータに対する造形物の複数の角部が接触する位置をリコータの幅方向に分散させることができる。これにより、リコータの局所的な損傷を抑制し、高品質な造形物の安定的な造形を行うことができる。
【0033】
(11)本発明の少なくとも一実施形態に係る三次元積層造形装置は、ベースプレートと、前記ベースプレート上にパウダーベッドを形成するためのリコータと、前記パウダーベッドを選択的に固化するように前記パウダーベッドに光ビームを照射するための光ビーム照射ユニットと、前記ベースプレート又は前記リコータの配向を指定する配向指定データに従って、各層の造形前に前記ベースプレート又は前記リコータの少なくとも一方を制御して、前記リコータに対する各造形層の相対的配向を調整するように構成されたコントローラと、を備える。
【0034】
造形物の長辺の長さと短辺の長さの差が大きい場合、レーザ照射後の造形物の熱変形(熱収縮)が大きくなるため、造形物の反りによって造形物の角部に大きな浮き上がりが発生することがある。この場合、リコータが造形物を通過する際に造形物の角部がリコータに接触し、リコータにおける造形用の粉末材を敷設するための敷設部品の損傷が生じる可能性がある。特に、リコータの同一箇所に造形物の角部が何度も接触すると、当該同一箇所にてリコータの局所的な損傷による造形物の品質低下リスクが高くなる。
【0035】
この点、上記(11)に記載の三次元積層造形装置によれば、ベースプレート又はリコータの配向を指定する配向指定データに従って、各層の造形前にベースプレート又はリコータの少なくとも一方を制御して、リコータに対する各造形層の相対的配向が調整される。このため、リコータが造形物を造形する間にリコータに対する造形物の複数の角部が接触する位置をリコータの幅方向に分散させるようにリコータに対する各造形層の相対的配向を調整することにより、リコータの局所的な損傷を抑制し、高品質な造形物の安定的な造形を行うことができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、高品質な造形物の安定的な造形を可能とする三次元積層造形用のスライスデータ生成方法、三次元積層造形方法及び三次元積層造形用のスライスデータ生成プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】一実施形態に係る三次元積層造形方法を実行するための三次元積層造形装置2の構成を示す模式図である。
図2】三次元積層造形装置2による三次元積層造形方法を説明するための図である。
図3】比較例1に係る造形物の配向を示す平面図である。
図4】比較例2に係る造形物の配向を示す平面図である。
図5】実施例1に係る造形物の配向を示す平面図である。
図6】比較例3に係る造形物の配向を示す側面図であり、リコータ8の幅方向に直交する方向から見た図である。
図7】比較例3に係る造形物の配向を示す平面図である。
図8】実施例2に係る造形物の配向を示す図であり、リコータ8の幅方向に直交する方向から見た側面図並びに該側面図におけるB−B視図及びC−C視図を含む図である。
図9】リコータ8と角部14との接触位置を分散させるための造形物の配向の設定方法の一例を説明するための図である。
図10】リコータ8と角部14との接触位置を分散させるための造形物の配向の設定方法の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0039】
図1は、一実施形態に係る三次元積層造形方法を実行するための三次元積層造形装置2の構成を示す模式図である。
【0040】
三次元積層造形装置2は、ベースプレート4と、ベースプレート4上に造形用の粉末材としての金属粉末5からなるパウダーベッド6を形成するためのリコータ8と、パウダーベッド6を選択的に固化するようにパウダーベッド6に光ビームを照射するための光ビーム照射ユニット10と、リコータ8及び光ビーム照射ユニット10を制御するコントローラ12と備える。
【0041】
図2に示すように、三次元積層造形装置2では、リコータ8によりベースプレート4上に金属粉末を敷設してパウダーベッド6を形成し、造形物部分に相当する金属粉末を光ビームとしてのレーザで溶融して凝固させ、ベースプレート4を下降させてから新たに金属粉末を敷設し、再び、造形物部分に相当する金属粉末をレーザで溶融し凝固させる作業を繰り返すことで、造形物の造形を行う。
【0042】
ここで、三次元積層造形装置2による造形に用いられるスライスデータは、造形物の三次元形状データの配向を設定し、設定された配向の三次元形状データをスライスすることで生成される。
【0043】
以下では、三次元形状データの配向の設定方法について比較例を交えて実施例の説明を行う。以下では、説明を簡単にするために、造形物が直方体である場合を例に説明する。
図3は、比較例1に係る造形物の配向を示す平面図である。図4は、比較例2に係る造形物の配向を示す平面図である。図5は、実施例1に係る造形物の配向を示す平面図である。図3図5に示す例では、直方体の3つの造形物がベースプレート上に配置されている。
【0044】
図3図5に示す例において、造形物の長辺の長さと短辺の長さの差が大きい場合、レーザ照射後の造形物の熱変形(熱収縮)が大きくなるため、造形物の反りによって造形物の角部14に大きな浮き上がりが発生することがある。この場合、リコータ8が造形物を通過する際に造形物の角部14がリコータ8に接触し、リコータ8における金属粉末を敷設するための敷設部品の損傷が生じる可能性がある。特に、リコータ8の同一箇所に造形物の角部14が何度も接触すると、当該同一箇所にてリコータ8の局所的な損傷による造形物の品質低下リスクが高くなる。
【0045】
図3に示す比較例1では、造形物の長手方向(造形物の長辺に平行な方向)がリコータ8の移動方向に一致するように造形物の配向(造形物の三次元形状データの配向)が設定されている。図4に示す比較例2では、造形物の長手方向がリコータ8の移動方向に直交するように造形物の配向が設定されている。図3及び図4に示すように、比較例1及び比較例2の何れにおいても、造形物の平面視において、リコータ8の幅方向(リコータ8の移動方向に直交する方向)における造形物の複数の角部14の位置が重複している。
【0046】
このため、リコータ8が造形物を通過する間に、リコータ8の幅方向における同一箇所に造形物の角部14が複数回接触してしまい、リコータ8が当該同一箇所にて局所的に損傷する可能性が高くなる。このため、高品質な造形物の安定的な造形を行うことが困難となる。
【0047】
これに対し、図5に示す実施例1では、造形物の平面視において、リコータ8の幅方向に対して造形物の長手方向が斜めになっており、リコータ8の幅方向における造形物の複数の角部14の位置がずれるように造形物の配向(造形物の三次元形状データの配向)が設定されている。このため、リコータ8が造形物を通過する間にリコータ8に対する造形物の複数の角部14が接触する位置をリコータ8の幅方向に分散させることができる。これにより、リコータ8の局所的な損傷を抑制し、高品質な造形物の安定的な造形を行うことができる。
【0048】
一実施形態では、例えば造形物の三次元形状データの初期配向が比較例1や比較例2に示す配向である場合に、造形物の三次元形状データの配向を設定するステップにて、造形物の平面視において、リコータ8の幅方向における造形物の複数の角部14の位置の重複を低減するように、造形物の三次元形状データの配向を初期配向から実施例1に示した上述の配向に変更してもよい。これにより、リコータ8の局所的な損傷を抑制し、高品質な造形物の安定的な造形を行うことができる。
【0049】
図6は、比較例3に係る造形物の配向を示す側面図であり、リコータ8の幅方向に直交する方向から見た図である。図7は、比較例3に係る造形物の配向を示す平面図である。図8は、実施例2に係る造形物の配向を示す図であり、リコータ8の幅方向に直交する方向から見た側面図並びに該側面図におけるB−B視図及びC−C視図を含む図である。
【0050】
図6図8に示す例においても、造形物の長辺の長さと短辺の長さの差が大きい場合、レーザ照射後の造形物の熱変形(熱収縮)が大きくなるため、造形物の反りによって造形物の角部14に大きな浮き上がりが発生することがある。この場合、リコータが造形物を通過する際に造形物の角部14がリコータ8に接触し、リコータ8における金属粉末を敷設するための敷設部品の損傷が生じる可能性がある。特に、リコータ8の同一箇所に造形物の角部14が何度も接触すると、当該同一箇所にてリコータ8の局所的な損傷による造形物の品質低下リスクが高くなる。
【0051】
図6及び図7に示す比較例3では、造形物の高さ方向が鉛直方向に一致するように造形物の配向(造形物の三次元形状データの配向)が設定されている。このため、リコータ8が造形物を通過する間に、金属粉末の積層毎にリコータ8の幅方向における同一箇所に角部14が接触してしまい、リコータ8が当該同一箇所にて局所的に損傷する可能性が高くなる。このため、高品質な造形物の安定的な造形を行うことが困難となる。
【0052】
これに対し、図8に示す実施例2では、リコータ8の幅方向に直交する方向から視た側面視において、造形物の高さ方向が鉛直方向に対して斜めになっており、リコータの幅方向における造形物の複数の角部14の位置がずれるように造形物の配向(造形物の三次元形状データの配向)が設定されている。このため、リコータ8に対する造形物の複数の角部14の接触位置を、リコータ8の幅方向に分散させることができる。また、積層毎に熱変形の発生位置をリコータ8の幅方向にずらすことができる。これにより、リコータ8の局所的な損傷を抑制し、高品質な造形物の安定的な造形を行うことができる。
【0053】
また、実施例2では、造形物の高さ方向を鉛直方向に対して斜めに傾けているため、比較例3と比較して、造形物の各層における長辺の長さと短辺の長さの差が小さくなり、造形物の反りを伴う熱変形(熱収縮)による角部14の浮き上がりを抑制することができる。この点においても、リコータ8の局所的な損傷を抑制することができる。
【0054】
一実施形態では、例えば造形物の三次元形状データの初期配向が比較例3に示す配向である場合に、造形物の三次元形状データの配向を設定するステップにて、リコータ8の幅方向に直交する方向から視た側面視において、リコータ8の幅方向における造形物の複数の角部14の位置の重複を低減するように、造形物の三次元形状データの配向を初期配向から実施例2に示した上述の配向に変更してもよい。これにより、リコータ8の局所的な損傷を抑制し、高品質な造形物の安定的な造形を行うことができる。
【0055】
一実施形態では、リコータ8の幅方向における複数の位置範囲のそれぞれについて、造形物の造形に伴う造形物の角部14の出現頻度を算出し、各々の位置範囲における角部14の出現頻度のばらつきが許容範囲内に収まるように三次元形状データの配向を決定してもよい。
【0056】
例えば、まず、図9に示すように、造形物の各層の角部14の位置(図9における丸印の位置)を平面視においてベースプレート4に相当する領域Sに投影して、領域Sにおける角部の出現頻度をマッピングする。そして、マッピングした出現頻度を、図10に示すように、リコータ8の幅方向における複数の位置範囲W1〜Wn(nは自然数)のそれぞれについてリコータ8の移動方向に積算することで、リコータ8の幅方向における複数の位置範囲W1〜Wnのそれぞれにおける角部14の出現頻度の分布Dが得られる。この分布Dについて、位置範囲W1〜Wnのそれぞれにおける角部14の出現頻度のばらつきが許容範囲内に収まるように、三次元形状データの配向を決定する。
【0057】
かかる方法によれば、リコータ8の幅方向における複数の位置範囲での角部14の出現頻度のばらつきを小さくすることにより、リコータ8に対する造形物の複数の角部14の接触位置を、リコータ8の幅方向に効果的に分散させることができる。これにより、リコータ8の局所的な損傷を抑制し、高品質な造形物の安定的な造形を行うことができる。
【0058】
一実施形態では、上記出現頻度の分布Dにおいて、リコータ8の幅方向における位置範囲W1〜Wnのそれぞれにおいて、角部14の出現頻度が基準値を超えないように三次元形状データの配向を決定してもよい。これにより、リコータ8の損傷に起因する造形処理の中止等の事態が発生することを抑制し、手戻りや無駄な工数を削減することができる。また、リコータ8の長寿命化を実現することができる。
【0059】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0060】
例えば、パウダーベッドが形成されるベースプレート4又はリコータ8の配向を指定する配向指定データに従って、各層の造形前にベースプレート4又はリコータ8の少なくとも一方をコントローラ12によって制御して、リコータ8に対する各造形層の相対的配向を調整してもよい。
【0061】
このように、各層の造形前にリコータ8に対する各造形層の相対的配向を調整することにより、リコータ8に対する造形物の複数の角部14の接触位置を、リコータ8の幅方向に効果的に分散させることができる。これにより、リコータ8の局所的な損傷を効果的に抑制し、高品質な造形物の安定的な造形を行うことができる。
【符号の説明】
【0062】
2 三次元積層造形装置
4 ベースプレート
5 金属粉末
6 パウダーベッド
8 リコータ
10 光ビーム照射ユニット
12 コントローラ
14 角部
D 分布
S 領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10