(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水補充工程は、指定時間に指定量の水を前記混酸加熱工程で加熱された前記混酸に加えることにより、前記P/Wモル比を前記モル比上限値と前記モル比下限値との間に維持する、定時定量水補充工程を含む、請求項1に記載の基板処理方法。
前記モル比調節工程は、前記混酸におけるリン酸の濃度と前記混酸における水の濃度との少なくとも一方の変化を許容しながら、前記P/Wモル比を前記モル比上限値と前記モル比下限値との間に維持する工程である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の基板処理方法。
前記水補充工程は、前記基板への前記混酸の供給が行われていない期間だけ、水を前記混酸に加えることにより、前記P/Wモル比を低下させる、非処理中水補充工程を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の基板処理方法。
前記水補充工程は、指定時間に指定量の水を前記水吐出口に前記混酸加熱工程で加熱された前記混酸に加えさせることにより、前記P/Wモル比を前記モル比上限値と前記モル比下限値との間に維持する、定時定量水補充工程を含む、請求項9に記載の基板処理装置。
前記モル比調節工程は、前記混酸におけるリン酸の濃度と前記混酸における水の濃度との少なくとも一方の変化を許容しながら、前記P/Wモル比を前記モル比上限値と前記モル比下限値との間に維持する工程である、請求項9〜12のいずれか一項に記載の基板処理装置。
前記水補充工程は、前記基板への前記混酸の供給が行われていない期間だけ、前記水吐出口に前記混酸に水を加えさせることにより、前記P/Wモル比を低下させる、非処理中水補充工程を含む、請求項9〜15のいずれか一項に記載の基板処理装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
処理液の濃度は、処理液に含まれる成分の蒸発や分解によって変化する。処理液を頻繁に交換すれば、安定した濃度の処理液を基板に供給し続けることができるが、これではランニングコストが大幅に増加してしまう。そのため、通常は、処理液の成分を補充して、処理液の濃度を安定させる。そして、処理液の使用を開始してからある程度の時間が経つと、古い処理液を新しい処理液に交換する。
【0005】
処理液が水溶液であれば、成分濃度の安定化は容易であるが、処理液が水以外の2種類以上の成分を含む場合は、成分濃度の安定化が難しい。これは、ある成分の濃度を変化させると、別の成分の濃度も変化してしまうからである。したがって、通常は、特許文献1に記載されているように、全ての成分の濃度を安定させるのではなく、特定の成分の濃度を安定させる。
【0006】
基板の表層で露出する薄膜をエッチング液でエッチングする場合、同じ基板におけるエッチング量の最大値および最小値を基準範囲内に収めると共に、エッチングの面内均一性を高める必要がある。加えて、複数枚の基板間におけるエッチング量のばらつきを基準範囲内に収める必要もある。後者の要求を満足するために、エッチング液が交換されるまでの全期間にわたってエッチングレート(単位時間あたりのエッチング量)を安定させることは重要である。
【0007】
本発明者らの研究によると、リン酸、硝酸、および水を含む混酸で基板上の金属膜をエッチングするエッチング処理において、混酸における水の濃度を安定させると、金属膜のエッチングレートの変動を抑えることができ、複数枚の基板間におけるエッチング量のばらつきを低減できることが分かった。さらに、水の濃度を安定させるのではなく、混酸に含まれる水のモル数に対する混酸に含まれるリン酸のモル数の比率を安定させると、複数枚の基板間におけるエッチング量のばらつきをさらに低減できることが分かった。
【0008】
そこで、本発明の目的の一つは、複数枚の基板間におけるエッチング量のばらつきを低減できる基板処理方法および基板処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するための請求項1記載の発明は、リン酸、硝酸、および水を含む混合液である混酸を、金属膜が露出した基板に供給することより、前記金属膜をエッチングする基板処理方法であって、前記基板に供給される前に前記混酸を加熱する混酸加熱工程と、前記混酸加熱工程で加熱された前記混酸に水を加えることにより、前記混酸に含まれる水のモル数に対する前記混酸に含まれるリン酸のモル数の比率を表すP/Wモル比を低下させる水補充工程を含み、前記P/Wモル比をモル比上限値とモル比下限値との間に維持するモル比調節工程と、前記水補充工程で水が加えられた前記混酸を前記基板に供給することにより、前記基板上の前記金属膜をエッチングするエッチング工程とを含む、基板処理方法である。
【0010】
この構成によれば、リン酸、硝酸、および水を含む混合液である混酸が加熱される。これにより、混酸に含まれる硝酸および水が蒸発し、これらの濃度が低下する。混酸に含まれるリン酸も多少は蒸発するが、硝酸および水よりも沸点が高いので、リン酸の蒸発量は、硝酸および硝酸よりも少ない。したがって、混酸に含まれる水のモル数が減少する一方で、混酸に含まれるリン酸のモル数が増加する。そのため、混酸が加熱されている間は、P/Wモル比(混酸に含まれるリン酸のモル数/混酸に含まれる水のモル数)が上がり続ける。
【0011】
水等の蒸発によってP/Wモル比が上昇すると、混酸に水が加えられる。これにより、水のモル数が増加する。リン酸のモル数が殆ど変わらない一方で、水のモル数が増加するので、水の補充によってP/Wモル比が低下する。これにより、P/Wモル比が、モル比上限値とモル比下限値との間に維持される。そして、P/Wモル比が管理された混酸が基板に供給され、基板の表層で露出する金属膜が安定したエッチングレートでエッチングされる。
【0012】
別々の時期に処理される複数枚の基板間におけるエッチング量のばらつきを低減するために、エッチング液が交換されるまでの全期間にわたってエッチングレートを安定させることは重要である。本発明者らの研究によると、P/Wモル比を安定させると、複数枚の基板間におけるエッチング量のばらつきを小さくできることが分かった。前述のように、P/Wモル比を安定させることにより、複数枚の基板間におけるエッチング量のばらつきを小さくすることができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記混酸におけるリン酸の濃度と前記混酸における水の濃度とを検出する成分濃度検出工程と、前記成分濃度検出工程で検出された検出値に基づいて、前記P/Wモル比を計算するモル比計算工程と、前記モル比計算工程で計算された前記P/Wモル比が、前記モル比下限値を超えており、前記モル比上限値未満であるか否かを判定するモル比判定工程とをさらに含む、請求項1に記載の基板処理方法である。
【0014】
この構成によれば、混酸におけるリン酸の濃度と混酸における水の濃度とが検出され、これらに基づいてP/Wモル比が計算される。その後、P/Wモル比がモル比上限値とモル比下限値との間であるか否かが判定される。P/Wモル比がモル比上限値以上である場合、混酸に水が加えられ、モル比上限値とモル比下限値との間の値までP/Wモル比が低下する。このように、P/Wモル比自体を監視するので、P/Wモル比を高精度で管理でき、エッチングレートの変動量を低減することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、前記基板処理方法は、前記混酸における水の濃度を検出する成分濃度検出工程をさらに含み、前記水補充工程は、前記混酸加熱工程で加熱された前記混酸に水を加えることにより、前記成分濃度検出工程で検出される水の濃度を、時間の経過に伴って増加する水濃度目標値に近づけ、前記P/Wモル比を前記モル比上限値と前記モル比下限値との間に維持する、水濃度制御工程を含む、請求項1に記載の基板処理方法である。
【0016】
混酸の温度が一定に調節されている間、水などの成分液の補充や混入がなければ、混酸におけるリン酸の濃度およびモル数は、通常、概ね一定の割合で上昇し続ける。これとは反対に、成分液の補充等がなければ、混酸における水の濃度およびモル数は、通常、概ね一定の割合で低下し続ける。この場合、P/Wモル比自体を監視しなくても、リン酸および水の少なくとも一方の濃度を監視すれば、P/Wモル比を間接的に監視することができる。
【0017】
この構成によれば、混酸における水の濃度が検出される。これにより、P/Wモル比を間接的に監視することができる。さらに、検出された水の濃度は、水濃度目標値に近づけられる。水濃度目標値は、時間の経過に伴って段階的または連続的に増加するように設定されている。これは、混酸が加熱されている間は硝酸などの水以外の成分も蒸発するので、水の濃度を一定に維持したとしても、P/Wモル比が上昇し続けるからである。さらに、水濃度目標値の増え方は、P/Wモル比がモル比上限値とモル比下限値との間に維持されるように設定されている。したがって、混酸における水の濃度を水濃度目標値に近づけることにより、エッチングレートの変動を抑えることができる。
【0018】
請求項4に記載の発明は、前記水補充工程は、指定時間に指定量の水を前記混酸加熱工程で加熱された前記混酸に加えることにより、前記P/Wモル比を前記モル比上限値と前記モル比下限値との間に維持する、定時定量水補充工程を含む、請求項1に記載の基板処理方法である。
前述のように、混酸の温度が一定に調節されている間、水などの成分液の補充や混入がなければ、混酸におけるリン酸の濃度およびモル数は、通常、概ね一定の割合で上昇し続け、混酸における水の濃度およびモル数は、通常、概ね一定の割合で低下し続ける。この場合、ある時間におけるリン酸および水の濃度等を実際に測定しなくても、これらを予想できる。したがって、ある時間におけるP/Wモル比も予想できる。
【0019】
この構成によれば、水を混酸に加える時間と加えられる水の量とが基板処理装置の制御装置に予め記憶されている。水は、指定時間に指定量で自動的に混酸に加えられる。指定量は、指定時間におけるP/Wモル比がモル比上限値とモル比下限値との間に維持されるように設定されている。もしくは、指定時間は、指定量の水を混酸に加えると、P/Wモル比がモル比上限値とモル比下限値との間に維持されるように設定されている。これにより、水の濃度等を実際に測定せずに、エッチングレートの変動を抑えることができる。
【0020】
請求項5に記載の発明は、前記モル比調節工程は、前記混酸におけるリン酸の濃度と前記混酸における水の濃度との少なくとも一方の変化を許容しながら、前記P/Wモル比を前記モル比上限値と前記モル比下限値との間に維持する工程である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の基板処理方法である。前記モル比調節工程は、リン酸および水の少なくとも一方に加えて、硝酸などの他の成分の濃度の変化を許容しながら、前記P/Wモル比を前記モル比上限値と前記モル比下限値との間に維持する工程であってもよい。
【0021】
この構成によれば、P/Wモル比がモル比上限値とモル比下限値との間に維持される一方で、混酸におけるリン酸の濃度と混酸における水の濃度との少なくとも一方の変化が許容される。言い換えると、P/Wモル比を安定させておけば、リン酸および水の濃度が多少変動したとしても、エッチングレートの変動を抑えることができる。したがって、混酸におけるリン酸および水の濃度を厳密に管理せずに、複数枚の基板間におけるエッチング量のばらつきを低減できる。
【0022】
請求項6に記載の発明は、前記基板処理方法は、前記混酸におけるリン酸の濃度と前記混酸における水の濃度との少なくとも一方を検出する成分濃度検出工程をさらに含み、前記モル比調節工程は、前記混酸への水の供給を禁止しながら、前記混酸を加熱することにより、前記P/Wモル比を前記モル比下限値以下の値から前記モル比上限値とモル比下限値との間の値まで上昇させる水補充禁止工程をさらに含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の基板処理方法である。
【0023】
何らかの原因で過剰量の水が混酸に補充されると、混酸における水の濃度が過度に上昇し、P/Wモル比がモル比下限値以下になってしまう。バッチ式の基板処理装置では、水で濡れた基板が混酸に浸漬され、混酸に水が混入する場合がある。この場合、基板に付着している水の量が多いと、P/Wモル比がモル比下限値以下になってしまう。P/Wモル比がモル比下限値以下になったことは、混酸における水の濃度を含む判定情報に基づいて判定される。
【0024】
この構成によれば、P/Wモル比がモル比下限値以下になると、混酸に対する水の補充および混入が一時的に禁止される。この状態で混酸が加熱される。これにより、混酸に含まれる水等が蒸発し、水の濃度が低下する。それに伴って、P/Wモル比が上昇する。そして、P/Wモル比がモル比下限値を超えると、水の補充および混入の禁止が解除される。このようにして、P/Wモル比がモル比上限値とモル比下限値との間に維持される。
【0025】
請求項7に記載の発明は、前記混酸は、酢酸をさらに含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の基板処理方法である。
この構成によれば、リン酸、硝酸、および水に加えて酢酸を含む混酸が、基板に供給される。硝酸による金属膜の酸化によって発生した水素ガスは、基板の表面の一部に残り、硝酸による金属膜の酸化を抑制する。したがって、水素ガスが基板の表面にあると、エッチングの均一性が低下する。酢酸は、基板からの水素ガスの剥離を促進し、結果的に、硝酸による金属膜の酸化を促進する。これにより、エッチングの均一性の低下を抑制または防止することができる。
【0026】
請求項8に記載の発明は、前記水補充工程は、前記基板への前記混酸の供給が行われていない期間だけ、水を前記混酸に加えることにより、前記P/Wモル比を低下させる、非処理中水補充工程を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の基板処理方法である。
この構成によれば、混酸が基板に供給されていない非供給期間だけ、水が混酸に加えられる。水を混酸に加えると、混酸の均一性が一時的に低下する。したがって、基板への混酸の供給が行われている供給期間に水の補充を禁止することにより、このような混酸が基板に供給されることを防止できる。
【0027】
請求項9に記載の発明は、リン酸、硝酸、および水を含む混合液である混酸を加熱するヒータと、前記混酸に加えられる水を吐出する水吐出口と、前記混酸を吐出することにより、金属膜が露出した基板に前記混酸を供給して、前記金属膜をエッチングする混酸吐出口と基板処理装置を制御する制御装置とを備える、基板処理装置である。
前記制御装置は、前記基板に供給される前に、前記ヒータに前記混酸を加熱させる混酸加熱工程と、前記水吐出口に前記混酸加熱工程で加熱された前記混酸に水を加えさせることにより、前記混酸に含まれる水のモル数に対する前記混酸に含まれるリン酸のモル数の比率を表すP/Wモル比を低下させる水補充工程を含み、前記P/Wモル比をモル比上限値とモル比下限値との間に維持するモル比調節工程と、前記混酸吐出口に前記水補充工程で水が加えられた前記混酸を前記基板に供給させることにより、前記基板上の前記金属膜をエッチングするエッチング工程とを実行する。この構成によれば、請求項1の発明に関して述べた効果と同様な効果を奏することができる。
【0028】
請求項10に記載の発明は、前記基板処理装置は、前記混酸におけるリン酸の濃度と前記混酸における水の濃度とを検出する成分濃度計と、前記成分濃度計の検出値に基づいて、前記P/Wモル比を計算するモル比計算部と、前記モル比計算部で計算された前記P/Wモル比が、前記モル比下限値を超えており、前記モル比上限値未満であるか否かを判定するモル比判定部とをさらに備える、基板処理装置である。
【0029】
前記制御装置は、前記成分濃度計に前記混酸におけるリン酸の濃度と前記混酸における水の濃度とを検出させる成分濃度検出工程と、前記成分濃度検出工程で検出された検出値に基づいて、前記モル比計算部に前記P/Wモル比を計算させるモル比計算工程と、前記モル比計算工程で計算された前記P/Wモル比が、前記モル比下限値を超えており、前記モル比上限値未満であるか否かを、前記モル比判定部に判定させるモル比判定工程とをさらに実行する。この構成によれば、請求項2の発明に関して述べた効果と同様な効果を奏することができる。
【0030】
請求項11に記載の発明は、前記基板処理装置は、前記混酸における水の濃度を検出する成分濃度計をさらに備え、前記制御装置は、前記成分濃度計に前記混酸における水の濃度を検出させる成分濃度検出工程をさらに実行し、前記水補充工程は、前記水吐出口に前記混酸加熱工程で加熱された前記混酸に水を加えさせることにより、前記成分濃度検出工程で検出される水の濃度を、時間の経過に伴って増加する水濃度目標値に近づけ、前記P/Wモル比を前記モル比上限値と前記モル比下限値との間に維持する、水濃度制御工程を含む、請求項9に記載の基板処理装置である。この構成によれば、請求項2の発明に関して述べた効果と同様な効果を奏することができる。
【0031】
請求項12に記載の発明は、前記水補充工程は、指定時間に指定量の水を前記水吐出口に前記混酸加熱工程で加熱された前記混酸に加えさせることにより、前記P/Wモル比を前記モル比上限値と前記モル比下限値との間に維持する、定時定量水補充工程を含む、請求項9に記載の基板処理装置である。この構成によれば、請求項4の発明に関して述べた効果と同様な効果を奏することができる。
【0032】
請求項13に記載の発明は、前記モル比調節工程は、前記混酸におけるリン酸の濃度と前記混酸における水の濃度との少なくとも一方の変化を許容しながら、前記P/Wモル比を前記モル比上限値と前記モル比下限値との間に維持する工程である、請求項9〜12のいずれか一項に記載の基板処理装置である。この構成によれば、請求項5の発明に関して述べた効果と同様な効果を奏することができる。
【0033】
請求項14に記載の発明は、前記基板処理装置は、前記混酸におけるリン酸の濃度と前記混酸における水の濃度との少なくとも一方を検出する成分濃度計をさらに備え、前記モル比調節工程は、前記混酸への水の供給を禁止しながら、前記ヒータに前記混酸を加熱させることにより、前記P/Wモル比を前記モル比下限値以下の値から前記モル比上限値とモル比下限値との間の値まで上昇させる水補充禁止工程をさらに含む、請求項9〜13のいずれか一項に記載の基板処理装置である。この構成によれば、請求項6の発明に関して述べた効果と同様な効果を奏することができる。
【0034】
請求項15に記載の発明は、前記混酸は、酢酸をさらに含む、請求項9〜14のいずれか一項に記載の基板処理装置である。この構成によれば、請求項7の発明に関して述べた効果と同様な効果を奏することができる。
請求項16に記載の発明は、前記水補充工程は、前記基板への前記混酸の供給が行われていない期間だけ、前記水吐出口に前記混酸に水を加えさせることにより、前記P/Wモル比を低下させる、非処理中水補充工程を含む、請求項9〜15のいずれか一項に記載の基板処理装置である。この構成によれば、請求項8の発明に関して述べた効果と同様な効果を奏することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下では、本発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る基板処理装置1のレイアウトを示す図解的な平面図である。
基板処理装置1は、複数枚の基板Wを一括して処理するバッチ式の装置である。基板処理装置1は、半導体ウエハなどの円板状の基板Wを収容するキャリアCが搬送されるロードポートLPと、ロードポートLPから搬送された基板Wを薬液やリンス液などの処理液で処理する処理ユニット2と、ロードポートLPと処理ユニット2との間で基板Wを搬送する複数の搬送ロボットと、基板処理装置1を制御する制御装置3とを含む。
【0037】
処理ユニット2は、複数枚の基板Wが浸漬される第1薬液を貯留する第1薬液処理槽4と、複数枚の基板Wが浸漬される第1リンス液を貯留する第1リンス処理槽5と、複数枚の基板Wが浸漬される第2薬液を貯留する第2薬液処理槽6と、複数枚の基板Wが浸漬される第2リンス液を貯留する第2リンス処理槽7とを含む。処理ユニット2は、さらに、複数枚の基板Wを乾燥させる乾燥処理槽8を含む。
【0038】
第1薬液は、たとえば、SC1またはフッ酸である。第2薬液は、たとえば、リン酸、酢酸、硝酸、および水の混合液である混酸である。第1リンス液および第2リンス液は、たとえば、純水(脱イオン水:Deionized water)である。第1薬液は、SC1およびフッ酸以外の薬液であってもよい。同様に、第1リンス液および第2リンス液は、純水以外のリンス液であってもよい。第1リンス液および第2リンス液は、互いに異なる種類のリンス液であってもよい。
【0039】
複数の搬送ロボットは、ロードポートLPと処理ユニット2との間でキャリアCを搬送し、複数のキャリアCを収容するキャリア搬送装置9と、キャリア搬送装置9に保持されているキャリアCに対して複数枚の基板Wの搬入および搬出を行い、水平な姿勢と鉛直な姿勢との間で基板Wの姿勢を変更する姿勢変換ロボット10とを含む。姿勢変換ロボット10は、複数のキャリアCから取り出した複数枚の基板Wで1つのバッチを形成するバッチ組み動作と、1つのバッチに含まれる複数枚の基板Wを複数のキャリアCに収容するバッチ解除動作とを行う。
【0040】
複数の搬送ロボットは、さらに、姿勢変換ロボット10と処理ユニット2との間で複数枚の基板Wを搬送する主搬送ロボット11と、主搬送ロボット11と処理ユニット2との間で複数枚の基板Wを搬送する複数の副搬送ロボット12とを含む。複数の副搬送ロボット12は、第1薬液処理槽4と第1リンス処理槽5との間で複数枚の基板Wを搬送する第1副搬送ロボット12Aと、第2薬液処理槽6と第2リンス処理槽7との間で複数枚の基板Wを搬送する第2副搬送ロボット12Bとを含む。
【0041】
主搬送ロボット11は、複数枚(たとえば50枚)の基板Wからなる1バッチの基板Wを姿勢変換ロボット10から受け取る。主搬送ロボット11は、姿勢変換ロボット10から受け取った1バッチの基板Wを第1副搬送ロボット12Aおよび第2副搬送ロボット12Bに渡し、第1副搬送ロボット12Aおよび第2副搬送ロボット12Bに保持されている1バッチの基板Wを受け取る。主搬送ロボット11は、さらに、1バッチの基板Wを乾燥処理槽8に搬送する。
【0042】
第1副搬送ロボット12Aは、主搬送ロボット11から受け取った1バッチの基板Wを第1薬液処理槽4と第1リンス処理槽5との間で搬送し、第1薬液処理槽4内の第1薬液または第1リンス処理槽5内の第1リンス液に浸漬させる。同様に、第2副搬送ロボット12Bは、主搬送ロボット11から受け取った1バッチの基板Wを第2薬液処理槽6と第2リンス処理槽7との間で搬送し、第2薬液処理槽6内の第2薬液または第2リンス処理槽7内の第2リンス液に浸漬させる。
【0043】
図2は、第2薬液処理槽6の鉛直断面と混酸を循環させる循環システム21と混酸の成分液を補充する補充システム31とを示す断面図である。図示はしないが、第1薬液処理槽4、第1リンス処理槽5、および第2リンス処理槽7についても、第2薬液処理槽6と同様の構成を備えている。
第2薬液処理槽6は、リン酸、酢酸、硝酸、および水の混合液である混酸を貯留する混酸貯留容器の一例である内槽16と、内槽16からあふれた混酸を貯留する外槽15とを含む。基板処理装置1は、第2薬液処理槽6内の混酸を加熱しながら循環させる循環システム21と、混酸の成分液を補充することにより混酸に含まれる水のモル数に対する混酸に含まれるリン酸のモル数の比率を調整する補充システム31とを含む。
【0044】
循環システム21は、内槽16内に配置された混酸吐出口22aから混酸を吐出することにより、混酸を内槽16内に供給すると共に、内槽16内の混酸中に上昇流を形成する混酸ノズル22を含む。循環システム21は、さらに、外槽15内の混酸を混酸ノズル22に案内する循環配管23と、循環配管23内の混酸を混酸ノズル22の方に送る循環ポンプ26と、循環配管23内を流れる混酸を室温(たとえば20〜30℃)よりも高い温度で加熱するヒータ25と、循環配管23内を流れる混酸から異物を除去するフィルター24とを含む。
【0045】
混酸は、内槽16、外槽15、混酸ノズル22、および循環配管23によって形成された循環路を循環する。その間に、混酸がヒータ25で加熱される。これにより、内槽16内の混酸が、室温よりも高い一定の温度に維持される。循環ポンプ26は、常時、循環配管23内の混酸を送る。循環配管23は、外槽15から下流に延びる上流配管23uと、上流配管23uから分岐した複数の下流配管23dとを含む。混酸ノズル22の混酸吐出口22aは、循環配管23から供給された混酸を内槽16内で吐出する。これにより、内槽16内の混酸の量が増加し、混酸の一部が内槽16からあふれる。
【0046】
副搬送ロボット12は、複数枚の基板Wを鉛直な姿勢で保持する複数のホルダー14と、ホルダー14に保持されている複数枚の基板Wが内槽16内の混酸から上方に離れた上位置と、ホルダー14に保持されている複数枚の基板Wが内槽16内の混酸に浸漬される下位置(
図2に示す位置)と、の間で複数のホルダー14を鉛直に昇降させるリフター13とを含む。ホルダー14に保持されている複数枚の基板Wは、内槽16の上端部に設けられた開口部を通じて内槽16の中に入り、内槽16の開口部を通じて内槽16の外に出る。
【0047】
補充システム31は、水吐出口32aから純水を吐出する水補充ノズル32と、水補充ノズル32に純水を案内する水配管33と、水配管33を開閉することにより水補充ノズル32に対する純水の供給を制御する開閉バルブ34と、水配管33から水補充ノズル32に供給される純水の流量を変更する流量調整バルブ35と、水配管33から水補充ノズル32に供給される純水の流量を検出する流量計36とを含む。流量計36に代えてまたは加えて、一定量の液体を送り出す定量ポンプが、水配管33に介装されていてもよい。
【0048】
水補充ノズル32は、内槽16、外槽15、混酸ノズル22、および循環配管23によって形成された循環路のいずれかの位置で混酸に純水を加える。
図2は、水補充ノズル32の水吐出口32aが外槽15の上方に位置しており、水吐出口32aから吐出された純水が外槽15内の混酸に供給される例を示している。循環路上の位置であれば、水補充ノズル32から吐出された純水が最初に供給される位置は、外槽15以外の位置であってもよい。たとえば、水補充ノズル32が循環配管23に接続されていてもよい。
【0049】
補充システム31は、混酸に含まれる各成分の濃度を検出する成分濃度計37を含む。成分濃度計37は、たとえば混酸に含まれる全ての成分の濃度を検出する。制御装置3は、成分濃度計37の検出値に基づいて流量調整バルブ35の開度を設定することにより、適切な量の純水を混酸に加える。水補充ノズル32から外槽15に供給された純水は、外槽15から循環配管23に流れ、循環配管23から混酸ノズル22に流れる。この間に、純水が、使用中の混酸に混ざり、混酸中に均一に分散する。
【0050】
図3は、基板処理装置1の電気的構成を示すブロック図である。
図4は、制御装置3の機能ブロックを示すブロック図である。
図3に示すように、制御装置3は、コンピュータ本体3aと、コンピュータ本体3aに接続された周辺装置3bとを含む。コンピュータ本体3aは、各種の命令を実行するCPU41(central processing unit:中央処理装置)と、情報を記憶する主記憶装置42とを含む。周辺装置3bは、プログラムP等の情報を記憶する補助記憶装置43と、リムーバブルメディアMから情報を読み取る読取装置44と、ホストコンピュータHC等の制御装置3以外の装置と通信する通信装置45とを含む。
【0051】
制御装置3は、入力装置48および表示装置46に接続されている。入力装置48は、ユーザーやメンテナンス担当者などの操作者が基板処理装置1に情報を入力するときに操作される。情報は、表示装置46の画面に表示される。入力装置48は、キーボード、ポインティングデバイス、およびタッチパネルのいずれかであってもよいし、これら以外の装置であってもよい。入力装置48および表示装置46を兼ねるタッチパネルディスプレイが基板処理装置1に設けられていてもよい。
【0052】
CPU41は、補助記憶装置43に記憶されたプログラムPを実行する。補助記憶装置43内のプログラムPは、制御装置3に予めインストールされたものであってもよいし、読取装置44を通じてリムーバブルメディアMから補助記憶装置43に送られたものであってもよいし、ホストコンピュータHCなどの外部装置から通信装置45を通じて補助記憶装置43に送られたものであってもよい。
【0053】
補助記憶装置43およびリムーバブルメディアMは、電力が供給されていなくても記憶を保持する不揮発性メモリーである。補助記憶装置43は、たとえば、ハードディスクドライブ等の磁気記憶装置である。リムーバブルメディアMは、たとえば、コンパクトディスクなどの光ディスクまたはメモリーカードなどの半導体メモリーである。リムーバブルメディアMは、プログラムPが記録されたコンピュータ読取可能な記録媒体の一例である。
【0054】
図4に示すように、制御装置3は、P/Wモル比(混酸に含まれるリン酸のモル数/混酸に含まれる水のモル数)をモル比上限値とモル比下限値との間に維持するモル比調節部51を含む。モル比調節部51は、制御装置3にインストールされたプログラムPをCPU41が実行することにより実現される機能ブロックである。モル比調節部51は、成分濃度計37の検出値に基づいてP/Wモル比を計算するモル比計算部52と、モル比計算部52で計算されたP/Wモル比が、モル比下限値を超えており、モル比上限値未満であるか否かを判定するモル比判定部53とを含む。
【0055】
モル比調節部51は、さらに、P/Wモル比がモル比上限値以上であるとモル比判定部53が判定したときに、補充システム31に水を混酸に加えさせる水補充部54と、P/Wモル比がモル比下限値以下であるとモル比判定部53が判定したときに、補充システム31および副搬送ロボット12に混酸への水の供給を一時的に禁止させる水補充禁止部55とを含む。水補充部54は、たとえば、混酸が基板Wに供給されていないとき、つまり、基板Wが混酸に浸漬されていないときに、補充システム31に水を混酸に加えさせる非処理中水補充部である。
【0056】
制御装置3は、ホストコンピュータHCによって指定されたレシピにしたがって基板Wが処理されるように基板処理装置1を制御する。補助記憶装置43は、複数のレシピを記憶している。レシピは、基板Wの処理内容、処理条件、および処理手順を規定する情報である。複数のレシピは、基板Wの処理内容、処理条件、および処理手順の少なくとも一つにおいて互いに異なる。以下の各工程は、制御装置3が基板処理装置1を制御することにより実行される。言い換えると、制御装置3は、以下の各工程を実行するようにプログラムされている。
【0057】
図5は、基板処理装置1によって行われる基板Wの処理の一例を説明するための工程図である。以下では、
図1、
図2、および
図5を参照する。また以下では、金属膜の一例であるタングステンの薄膜(
図6参照)が表層で露出した基板Wに、リン酸、酢酸、硝酸、および水の混合液である混酸を供給して、タングステンの薄膜をエッチングするエッチング処理について説明する。
【0058】
主搬送ロボット11は、複数枚の基板Wからなる1バッチの基板Wを姿勢変換ロボット10から受け取る。主搬送ロボット11は、姿勢変換ロボット10から受け取った1バッチの基板Wを第1副搬送ロボット12Aに搬送し、第1副搬送ロボット12Aに渡す。第1副搬送ロボット12Aは、主搬送ロボット11から受け取った1バッチの基板Wを第1薬液処理槽4内の第1薬液に浸漬させ(
図5のステップS1)、その後、第1リンス処理槽5内の第1リンス液に浸漬させる(
図5のステップS2)。その後、第1副搬送ロボット12Aは、1バッチの基板Wを主搬送ロボット11に渡す。
【0059】
主搬送ロボット11は、第1副搬送ロボット12Aから受け取った1バッチの基板Wを第2副搬送ロボット12Bに渡す。第2副搬送ロボット12Bは、主搬送ロボット11から受け取った1バッチの基板Wを第2薬液処理槽6内の第2薬液、つまり、混酸に浸漬させ(
図5のステップS3)、その後、第2リンス処理槽7内の第2リンス液に浸漬させる(
図5のステップS4)。その後、第2副搬送ロボット12Bは、1バッチの基板Wを主搬送ロボット11に渡す。主搬送ロボット11は、第2副搬送ロボット12Bから受け取った1バッチの基板Wを乾燥処理槽8に搬送する。
【0060】
乾燥処理槽8は、主搬送ロボット11によって搬送された1バッチの基板Wを減圧乾燥などの乾燥方法で乾燥させる(
図5のステップS5)。その後、主搬送ロボット11は、1バッチの基板Wを姿勢変換ロボット10に渡す。姿勢変換ロボット10は、主搬送ロボット11から受け取った1バッチの基板Wの姿勢を鉛直な姿勢から水平な姿勢に変更し、その後、1バッチの基板Wをキャリア搬送装置9に保持されている複数のキャリアCに収容する。この一連の動作が繰り返されることにより、基板処理装置1に搬送された複数枚の基板Wが処理される。
【0061】
図6は、混酸によってタングステンがエッチングされるメカニズムを説明するための基板Wの断面図である。
図6において丸で囲まれた数字は、以下で説明する現象の番号に対応している。たとえば、
図6中の丸で囲まれた1は、以下で説明する現象1に対応している。
図6に示すように、混酸には、リン酸(H
3PO
4)、酢酸(CH
3COOH)、硝酸(HNO
3)、水(H
2O)が含まれている。硝酸は、タングステン(W)を酸化させる(現象1)。これにより、タングステン化合物(W(NO
3)
x)と水素ガス(H
2)とが生成される(現象2)。
【0062】
硝酸によるタングステンの酸化によって発生したタングステン化合物(W(NO
3)
x)は、リン酸水溶液(リン酸+水)によってエッチングされ、リン酸水溶液に溶解する(現象3)。このエッチングは、混酸の加熱により促進される(現象4)。したがって、混酸の加熱は、タングステンのエッチングに間接的に寄与している。
その一方で、硝酸によるタングステンの酸化によって発生した水素ガスは、基板Wの表面の一部に残り、硝酸によるタングステンの酸化を抑制する(現象5)。したがって、水素ガスが基板Wの表面にあると、エッチングの均一性が低下する。酢酸は、基板Wからの水素ガスの剥離を促進し、結果的に、硝酸によるタングステンの酸化を促進する(現象6)。基板W上の混酸の流れも、基板Wからの水素ガスの剥離を促進する(現象7)。これにより、エッチングの均一性の低下を抑制または防止することができる。
【0063】
リン酸、酢酸、硝酸、および水を含む混酸を加熱しながら循環させると、各成分の蒸発等によりタングステンのエッチングレートが時間の経過に伴って低下する。本発明者らは、エッチングレートの低下量を減少させるための研究を行った。その結果、混酸における硝酸および酢酸の濃度の変動は、エッチングレートの変動に対する影響が小さいこと分かった。したがって、リン酸および水の両方または一方が、エッチングレートの変動に対して大きな影響を与えていること分かった。
【0064】
本発明者らの研究によると、混酸における水の濃度を安定させると、タングステンのエッチングレートの減少を抑えられることが分かった。さらに、混酸における水の濃度を安定させるのではなく、P/Wモル比(リン酸のモル濃度/水のモル濃度)を安定させると、タングステンのエッチングレートの減少をさらに抑えられることが分かった。P/Wモル比の許容変動量、つまり、モル比上限とモル比下限値との差は、たとえば0.01〜0.05、好ましくは、0.01〜0.03である。
【0065】
図7は、混酸に含まれる各成分(リン酸、酢酸、硝酸、および水)の濃度と、水のモル数を基準とした各成分のモル数とを示す表である。
図7中のNO.2〜4は、いずれも、混酸の温度を調整しながら、混酸の交換時期まで混酸を循環させたときの計算値を示している。
図7中のNO.3は、混酸における水の濃度を安定させる点でNO.2と異なる。
図7中のNO.4は、P/Wモル比を安定させる点でNO.3と異なる。
【0066】
図7に示すように、NO.4のリン酸の濃度は、NO.1の新しいリン酸の濃度とは異なっている。同様に、NO.3のリン酸の濃度は、NO.1の新しいリン酸の濃度とは異なっている。新しいリン酸の濃度に対する変化量は、NO.3よりもNO.4の方が大きい。それにもかかわらず、タングステンのエッチングレートの変動量は、NO.4の方が小さいという結果が得られた。
【0067】
図7に示すように、NO.4のリン酸のモル比は、NO.2のリン酸のモル比、つまり、水の濃度の安定化もP/Wモル比の安定化も行わなかったときのリン酸のモル比とは異なっているものの、NO.4のリン酸の濃度は、NO.2のリン酸の濃度と等しい。NO.2とNO.4は、リン酸の濃度が互いに等しいにもかかわらず、エッチングレートの変動量は、NO.4の方が小さいという結果が得られた。
【0068】
以上のことから、混酸に含まれる各成分(リン酸、酢酸、硝酸、および水)の濃度が多少変動したとしても、P/Wモル比を安定させれば、水の濃度を安定させた場合よりもタングステンのエッチングレートの変動量を減らすことができることが分かる。したがって、基板Wに対する混酸の供給時間が一定であれば、混酸が交換されるまでの全期間にわたって複数枚の基板W間におけるタングステンのエッチング量のばらつきを低減することができる。
【0069】
以下では、P/Wモル比を安定させる制御の一例について説明する。
図8は、P/Wモル比を安定させる制御の一例について説明するためのフローチャートである。
図9Aおよび
図9Bは、P/Wモル比の時間的変化を示すグラフである。以下の各工程は、制御装置3が基板処理装置1を制御することにより実行される。
制御装置3は、P/Wモル比がモル比上限値とモル比下限値との間にあるか否かを監視している。具体的には、制御装置3は、P/Wモル比がモル比上限値未満であるか否かを判定する(
図8のステップS11)。P/Wモル比がモル比上限値未満であれば(
図8のステップS11でYes)、制御装置3は、P/Wモル比がモル比下限値を超えているか否かを判定する(
図8のステップS12)。P/Wモル比がモル比下限値を超えていれば(
図8のステップS12でYes)、制御装置3は、所定時間が経過した後に、再び、P/Wモル比がモル比上限値未満であるか否かを判定する(
図8のステップS11に戻る)。
【0070】
リン酸、酢酸、硝酸、および水の沸点は、それぞれ、213℃、118℃、82.6℃、100℃である。混酸の温度を調節しながら混酸を循環させると、混酸に含まれる酢酸、硝酸、および水が蒸発する。混酸に含まれるリン酸も多少は蒸発するが、他の成分と比べて蒸発量が少ないので、混酸に含まれるリン酸の量は殆ど変わらない。そのため、水のモル数は、時間の経過に伴って低下していく一方で、リン酸のモル数は、時間の経過に伴って上昇していく。したがって、水などの他の成分液が混酸に追加されなければ、P/Wモル比は、時間の経過に伴って上昇していく。
【0071】
P/Wモル比がモル比上限値以上である場合(
図8のステップS11でNo)、制御装置3は、第2薬液処理槽6内の混酸に基板Wが浸漬されているか否かを判定する(
図8のステップS13)。基板Wが浸漬されている場合(
図8のステップS13でYes)、制御装置3は、所定時間が経過した後に、再び、第2薬液処理槽6内の混酸に基板Wが浸漬されているか否かを判定する(
図8のステップS13)。基板Wが浸漬されていない場合(
図8のステップS13でNo)、つまり、第2薬液処理槽6に基板Wがない場合、制御装置3は、開閉バルブ34(
図2参照)を開いて、水補充ノズル32に水を吐出させ、P/Wモル比をモル比上限値とモル比下限値との間の値まで低下させる(
図8のステップS14)。その後、制御装置3は、再び、P/Wモル比がモル比上限値未満であるか否かを判定する(
図8のステップS11に戻る)。
【0072】
図9Aに示すように、P/Wモル比がモル比上限値に達すると、水が混酸に加えられ、P/Wモル比が低下する。水の追加量が適正であれば、P/Wモル比は、モル比上限値とモル比下限値との間の値まで減少する。水の追加によってP/Wモル比が調節された後は、酢酸、硝酸、および水の蒸発によって、再び、P/Wモル比がモル比上限値まで上昇する。P/Wモル比は、通常、このような変動を繰り返す。
【0073】
図9Bは、P/Wモル比がモル比下限値以下まで低下したときの例を示している。前述の基板Wの処理の一例では、基板Wは、第1リンス処理槽5から第2薬液処理槽6に搬送される。そのため、純水が付着した基板Wが第2薬液処理槽6内の混酸に浸漬され、第1リンス処理槽5内の純水が第2薬液処理槽6に混入する。
図9Bでは、純水が混酸に複数回混入する例を示している。混酸に混入する純水が多いと、P/Wモル比がモル比下限値以下まで低下してしまう場合がある。
【0074】
P/Wモル比がモル比下限値以下である場合(
図8のステップS12でNo)、制御装置3は、第2薬液処理槽6内の混酸に基板Wを浸漬させる新規投入の禁止を実行し(
図8のステップS15)、第2薬液処理槽6に異常が発生したことを知らせる警報を警報装置47(
図4参照)に発生させる(
図8のステップS16)。新規投入が禁止されれば、第1リンス処理槽5から第2薬液処理槽6への純水の混入が発生しないので、混酸の各成分の蒸発によりP/Wモル比が上昇していく。
【0075】
制御装置3は、新規投入を禁止してから所定時間が経過した後、P/Wモル比がモル比下限値を超えているか否かを判定する(
図8のステップS17)。P/Wモル比がモル比下限値以下であれば(
図8のステップS17でNo)、制御装置3は、所定時間が経過した後、再び、P/Wモル比がモル比下限値を超えているか否かを判定する(
図8のステップS17)。
【0076】
P/Wモル比がモル比下限値を超えていれば(
図8のステップS17でYes)、制御装置3は、新規投入の禁止を解除し(
図8のステップS18)、警報装置47に警報の発生を停止させる(
図8のステップS19)。その後、制御装置3は、再び、P/Wモル比がモル比上限値未満であるか否かを判定する(
図8のステップS11に戻る)。
以上のように本実施形態では、水等の蒸発によってP/Wモル比が上昇すると、混酸に水が加えられる。これにより、水のモル数が増加する。リン酸のモル数が殆ど変わらない一方で、水のモル数が増加するので、水の補充によってP/Wモル比が低下する。これにより、P/Wモル比が、モル比上限値とモル比下限値との間に維持される。そして、P/Wモル比が管理された混酸が基板Wに供給され、金属膜の一例であるタングステンの薄膜が安定したエッチングレートでエッチングされる。
【0077】
別々の時期に処理される複数枚の基板W間におけるエッチング量のばらつきを低減するために、エッチング液が交換されるまでの全期間にわたってエッチングレートを安定させることは重要である。本発明者らの研究によると、P/Wモル比を安定させると、複数枚の基板W間におけるエッチング量のばらつきを小さくできることが分かった。前述のように、P/Wモル比を安定させることにより、複数枚の基板W間におけるエッチング量のばらつきを小さくすることができる。
【0078】
本実施形態では、混酸におけるリン酸の濃度と混酸における水の濃度とが検出され、これらに基づいてP/Wモル比が計算される。たとえば、成分濃度計37によってリン酸と水の質量比(例.リン酸の質量濃度:水の質量濃度=75%:15%)が検出される。そして、モル比計算部52によってリン酸と水の質量比が各成分の分子量で除されて、P/Wモル比(たとえば、(75%/98):(15%/18)=(0.92:1))が計算される。
【0079】
その後、P/Wモル比がモル比上限値とモル比下限値との間であるか否かが判定される。P/Wモル比がモル比上限値以上である場合、混酸に水が加えられ、モル比上限値とモル比下限値との間の値までP/Wモル比が低下する。このように、P/Wモル比自体を監視するので、P/Wモル比を高精度で管理でき、エッチングレートの変動量を低減することができる。
【0080】
本実施形態では、P/Wモル比がモル比上限値とモル比下限値との間に維持される一方で、混酸におけるリン酸の濃度と混酸における水の濃度との少なくとも一方の変化が許容される。言い換えると、P/Wモル比を安定させておけば、リン酸および水の濃度が多少変動したとしても、エッチングレートの変動を抑えることができる。したがって、混酸におけるリン酸および水の濃度を厳密に管理せずに、複数枚の基板W間におけるエッチング量のばらつきを低減できる。
【0081】
何らかの原因で過剰量の水が混酸に補充されると、混酸における水の濃度が過度に上昇し、P/Wモル比がモル比下限値以下になってしまう。バッチ式の基板処理装置1では、水で濡れた基板Wが混酸に浸漬され、混酸に水が混入する場合がある。この場合、基板Wに付着している水の量が多いと、P/Wモル比がモル比下限値以下になってしまう。P/Wモル比がモル比下限値以下になったことは、混酸における水の濃度を含む判定情報に基づいて判定される。
【0082】
本実施形態では、P/Wモル比がモル比下限値以下になると、混酸に対する水の補充および混入が一時的に禁止される。この状態で混酸が加熱される。これにより、混酸に含まれる水等が蒸発し、水の濃度が低下する。それに伴って、P/Wモル比が上昇する。そして、P/Wモル比がモル比下限値を超えると、水の補充および混入の禁止が解除される。このようにして、P/Wモル比がモル比上限値とモル比下限値との間に維持される。
【0083】
本実施形態では、リン酸、硝酸、および水に加えて酢酸を含む混酸が、基板Wに供給される。硝酸による金属膜の酸化によって発生した水素ガスは、基板Wの表面の一部に残り、硝酸による金属膜の酸化を抑制する。したがって、水素ガスが基板Wの表面にあると、エッチングの均一性が低下する。酢酸は、基板Wからの水素ガスの剥離を促進し、結果的に、硝酸による金属膜の酸化を促進する。これにより、エッチングの均一性の低下を抑制または防止することができる。
【0084】
本実施形態では、混酸が基板Wに供給されていない非供給期間だけ、水が混酸に加えられる。水を混酸に加えると、混酸の均一性が一時的に低下する。したがって、基板Wへの混酸の供給が行われている供給期間に水の補充を禁止することにより、このような混酸が基板Wに供給されることを防止できる。
第2実施形態
図10は、本発明の第2実施形態に係るP/Wモル比の時間的変化と混酸における水の濃度の時間的変化とを示すグラフである。以下では、
図4および
図10を参照する。
【0085】
図4に示すように、第2実施形態では、モル比調節部51は、モル比計算部52およびモル比判定部53に代えてまたは加えて、混酸における水の濃度を制御する水濃度制御部56を含む。
水濃度制御部56は、成分濃度計37の検出値に基づいて水補充ノズル32(
図2参照)から吐出される水の量を変更するフィードバック制御を行う。これにより、
図10に示すように、混酸における水の濃度が、時間の経過に伴って連続的に増加する水濃度目標値に近づけられる。水濃度目標値は、補助記憶装置43に記憶されている。
【0086】
混酸の温度が一定に調節されている間、水などの成分液の補充や混入がなければ、混酸におけるリン酸の濃度およびモル数は、通常、概ね一定の割合で上昇し続ける。これとは反対に、成分液の補充等がなければ、混酸における水の濃度およびモル数は、通常、概ね一定の割合で低下し続ける。この場合、P/Wモル比自体を監視しなくても、リン酸および水の少なくとも一方の濃度を監視すれば、P/Wモル比を間接的に監視することができる。
【0087】
本実施形態では、混酸における水の濃度が検出される。これにより、P/Wモル比を間接的に監視することができる。さらに、検出された水の濃度は、水濃度目標値に近づけられる。水濃度目標値は、時間の経過に伴って増加するように設定されている。これは、混酸が加熱されている間は硝酸などの水以外の成分も蒸発するので、水の濃度を一定に維持したとしても、P/Wモル比が上昇し続けるからである。さらに、水濃度目標値の増え方は、P/Wモル比がモル比上限値とモル比下限値との間に維持されるように設定されている。したがって、混酸における水の濃度を水濃度目標値に近づけることにより、エッチングレートの変動を抑えることができる。
【0088】
第3実施形態
図11は、本発明の第3実施形態に係るP/Wモル比の時間的変化と水を混酸に加える時間と加えられる水の量とを示すグラフである。以下では、
図4および
図11を参照する。
図4に示すように、第3実施形態では、モル比調節部51は、モル比計算部52およびモル比判定部53に代えてまたは加えて、指定時間に指定量の水を混酸に加える定時定量水補充部57を含む。第3実施形態では、成分濃度計37(
図2参照)が省略されてもよい。
【0089】
指定時間および指定量は、補助記憶装置43に記憶されている。指定時間および指定量は、レシピに含まれていてもよいし、ホストコンピュータHCまたは操作者によって制御装置3に入力されてもよい。
図11は、複数の指定時間に水が混酸に加えられる例を示している。この場合、指定量、つまり、混酸に加えられる水の量は、時間の経過に伴って連続的にまたは段階的に増加していてもよいし、一定であってもよい。
【0090】
混酸の温度が一定に調節されている間、水などの成分液の補充や混入がなければ、混酸におけるリン酸の濃度およびモル数は、通常、概ね一定の割合で上昇し続け、混酸における水の濃度およびモル数は、通常、概ね一定の割合で低下し続ける。この場合、ある時間におけるリン酸および水の濃度等を実際に測定しなくても、これらを予想できる。したがって、ある時間におけるP/Wモル比も予想できる。
【0091】
本実施形態では、純水が、指定時間に指定量で自動的に混酸に加えられる。指定量は、指定時間におけるP/Wモル比がモル比上限値とモル比下限値との間に維持されるように設定されている。もしくは、指定時間は、指定量の水を混酸に加えると、P/Wモル比がモル比上限値とモル比下限値との間に維持されるように設定されている。これにより、水の濃度等を実際に測定せずに、エッチングレートの変動を抑えることができる。
【0092】
第4実施形態
図12は、本発明の第4実施形態に係る基板処理装置1の概略構成を示す模式図である。前述の
図1〜
図11に示された構成と同等の構成については、
図1等と同一の参照符号を付してその説明を省略する。
第4実施形態に係る基板処理装置1は基板Wを一枚ずつ処理する枚葉式の装置である。基板処理装置1の処理ユニット2は、基板Wを水平に保持しながら基板Wの中央部を通る鉛直な回転軸線A1まわりに回転させるスピンチャック61と、スピンチャック61に保持されている基板Wに向けてリンス液を吐出するリンス液ノズル62と、スピンチャック61に保持されている基板Wに向けて混酸吐出口22aから混酸を吐出する混酸ノズル22とを含む。
【0093】
リンス液ノズル62は、リンス液バルブ64が介装されたリンス液配管63に接続されている。処理ユニット2は、リンス液ノズル62から吐出されたリンス液が基板Wに供給される処理位置とリンス液ノズル62が平面視で基板Wから離れた退避位置との間でリンス液ノズル62を水平に移動させるノズル移動ユニットを備えていてもよい。
リンス液バルブ64が開かれると、リンス液が、リンス液配管63からリンス液ノズル62に供給され、リンス液ノズル62から吐出される。リンス液は、たとえば、純水である。リンス液は、純水に限らず、炭酸水、電解イオン水、水素水、オゾン水、および希釈濃度(たとえば、10〜100ppm程度)の塩酸水のいずれかであってもよい。
【0094】
混酸ノズル22は、吐出バルブ66が介装された供給配管65に接続されている。混酸ノズル22に対する薬液の供給および供給停止は、吐出バルブ66によって切り替えられる。処理ユニット2は、混酸ノズル22から吐出された薬液が基板Wの上面に供給される処理位置と混酸ノズル22が平面視で基板Wから離れた退避位置との間で混酸ノズル22を水平に移動させるノズル移動ユニット67を含む。
【0095】
循環システム21は、第2薬液処理槽6(
図2参照)に代えて、混酸貯留容器の他の例であるタンク68を含む。タンク68内の混酸は、循環配管23およびタンク68によって形成された循環路を循環する。混酸ノズル22に混酸を案内する供給配管65は、循環配管23に接続されている。水補充ノズル32の水吐出口32aから吐出された純水は、たとえば、タンク68の内部に供給される。これにより、P/Wモル比をモル比上限値とモル比下限値との間に維持することができ、複数枚の基板W間におけるエッチング量のばらつきを低減できる。
【0096】
他の実施形態
本発明は、前述の実施形態の内容に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
たとえば、混酸によってエッチングされる金属膜は、タングステンの薄膜に限らず、アルミニウムなどの他の金属の薄膜であってもよい。
【0097】
混酸に含まれる酢酸は、主としてエッチングの面内均一性を高めるだけなので、面内均一性の低下が許容されるのであれば、酢酸が混酸に含まれていなくてもよい。
水に加えてまたは代えて硝酸などの他の成分液を混酸に加えてもよい。この場合、P/Wモル比を安定させるだけでなく、混酸に含まれる各成分の濃度を安定させてもよい。
混酸への水の補充は、混酸が基板Wに供給されている供給期間だけに行われてもよいし、供給期間と非供給期間の両方で行われてもよい。
【0098】
P/W質量比、つまり、混酸における水の質量濃度に対する混酸におけるリン酸の質量濃度の比率を安定させると、P/Wモル比を安定させることになるから、P/W質量比を質量比上限値(後述する濃度比上限値と同義)と質量比下限値(後述する濃度比下限値と同義)との間に維持してもよい。
この制御は、たとえば、
図13に示す制御装置103によって実現することができる。
図13は制御装置103の機能ブロック図を示すブロック図である。濃度比調節部151、濃度比計算部152、濃度比判定部153、水補充部154、および水補充禁止部155は、
図3に示すコンピュータ本体3aや周辺装置3b等のハード構成を備える制御装置103によって実現される。
【0099】
制御装置103では、濃度比計算部152によって、P/W質量濃度比(成分濃度計37から出力されるリン酸の質量濃度と水の質量濃度との比率)がP/W質量比として計算される。補助記憶装置143は、濃度比上限値(
図4を用いて先述したモル比上限値を質量濃度値に換算した値)を濃度比上限値として記憶している。同様に、補助記憶装置143は、濃度比下限値(
図4を用いて先述したモル比下限値を質量濃度値に換算した値)を記憶している。
【0100】
濃度比判定部153は、濃度比計算部152が計算したP/W質量濃度比が、濃度比上限値と濃度比下限値との間にあるかを、
図8を用いて先述した処理フローと同様の処理フローにしたがって判定する。P/W質量濃度比が濃度比上限値と濃度比下限値との間にない場合には、
図8を用いて先述した処理フローと同様の処理フローにしたがって、水補充部154による水補充(
図8におけるステップS14)や水補充禁止部155によるアラーム発生(
図8におけるステップS16)等の制御が実行される。
【0101】
第1実施形態において、第1薬液処理槽4および第1リンス処理槽5が省略されてもよい。
第4実施形態において、混酸を循環させずに基板に供給してもよい。
前述の全ての構成の2つ以上が組み合わされてもよい。前述の全ての工程の2つ以上が組み合わされてもよい。
【0102】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。