【実施例】
【0027】
以下に本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0028】
<茶ポリフェノールおよびカフェイン測定用試料液の調製方法>
フードプロセッサーで粉砕した茶葉を約150mgずつ秤量し、100mLメスフラスコに移した後、80%メタノール(v/v)を40mL加え、30分間超音波抽出を行った。次いで、1M塩酸0.4mLを加えて超純水で仮定容し、室温に戻るまで静置後、超純水で100mLに定容した。その抽出液を親水性PTFEフィルター(アドバンテック(株)製,DISMIC−13HP;0.45μm)でろ過し、ろ液の2mL以降を測定用試料液とした。
<茶ポリフェノールの測定方法>
茶ポリフェノールの定量は「日本食品標準成分表2015年度版(七訂)分析マニュアル・解説」(文部科学省科学技術・学術政策局政策課資源室監修、建帛社2016年2月)のp242-243に記載の酒石酸鉄吸光光度法に従って行った。なお、定量用標準物質には没食子酸エチル(東京化成工業(株)製)を用い、調製溶液には1M塩酸を0.4%添加した32%メタノール(v/v)を用いた。また、本発明において茶ポリフェノールは茶に含まれるポリフェノールのことであり、タンニンや茶タンニン等の用語と同義に扱う。
<カフェインの分析条件>
カフェインの定量はHPLC分析法により次の条件で行った。
・標準物質:カフェイン(関東化学(株)製)
・装置:Alliance HPLCシステム(ウォーターズ社製)
・カラム:Poroshell 120 EC‐C18(4.6×100mm,粒子径2.7μm、アジレント社製)
・カラム温度:40℃
・移動相:A液0.05%リン酸水/アセトニトリル=1000/25(体積比)、B液メタノール
・グラジエントプログラム:0〜1分(B液0%)、1〜11分(B液0〜33%)、11〜11.25分(B液33〜95%)、11.25〜13.25分(B95%)、13.25〜13.5分(B液95〜0%)、13.5〜15.5分(B液0%)
・流速:1.5mL/min
・検出:UV275nm
<没食子酸の分析条件>
没食子酸の定量はHPLC分析法により次の条件で行った。
・標準物質:没食子酸(gallic acid)(関東化学(株)製)
・装置:Alliance HPLCシステム(ウォーターズ社製)
・カラム:Poroshell 120 EC‐C18(4.6×100mm,粒子径2.7μm、アジレント社製)
・カラム温度:40℃
・移動相:A液0.05%リン酸水/アセトニトリル=1000/25(体積比)、B液メタノール
・グラジエントプログラム:0〜1分(B液0%)、1〜11分(B液0〜33%)、11〜11.25分(B液33〜95%)、11.25〜13.25分(B液95%)、13.25〜13.5分(B液95〜0%)、13.5〜15.5分(B液0%)
・流速:1.5mL/min
・検出:UV270nm
【0029】
<香気成分の分析方法>
フードプロセッサーで粉砕した茶葉200mgおよび塩化ナトリウム3gを20mLバイアルに入れ、水10mL(内部標準物質としてシクロヘプタノール(東京化成工業(株)製)を終濃度で500ppbとなるように添加)を加えた。このサンプル液について固相マイクロ抽出法(Solid Phase Micro Extraction:SPME)を用いたGC/MS分析に供した。評価は各香気成分のピークエリアと内部標準物質のピークエリアの比によって求めた。
<SPME-GC/MS条件>
GC:TRACE GC ULTRA(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
MS:TSQ QUANTUM XLS(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
SPMEファイバー:50/30μm Divinylbenzene/Carboxen/Polydimethylsiloxane Stableflex
抽出:60℃、30分
カラム:SUPELCO WAX10(0.25mmI.D.×60m×0.25μm、シグマアルドリッチ社製)
オーブンプログラム:40℃で2分間保持した後、160℃まで3℃/分で昇温し、その後280℃まで10℃/分で昇温
キャリアーガス:ヘリウム(100kPa、一定圧力)
インジェクター:スプリットレス、240℃
イオン化:電子イオン化
イオン化電圧:70eV
【0030】
〈試験例1〉 紅茶葉(ケニア産紅茶葉)のアルカリ処理焙煎
紅茶葉(ケニア産紅茶葉)を原料に用いて、茶葉焙煎前のアルカリ処理のpHと焙煎温度について検討した。
炭酸水素ナトリウムを水に溶解し、12g/100mLのアルカリ性水溶液を調製した。茶葉に前記炭酸水素ナトリウム溶液を、茶葉抽出液のpHが所定のpH(表1参照)となるように添加した。本試験では茶葉重量に対して、30重量%添加し、pHを調整した。アルカリ水溶液を添加した茶葉を30分間、室温(20℃)で保管した。その後、60℃の恒温器で乾燥し、アルカリ処理した茶葉の一部を抽出しpHを確認した。尚、pHは、コンパクトpHメーター(twin pH、HORIBA)を用いて測定した。
得られたアルカリ処理茶葉を小型ドラム型機により焙煎処理を行った。ドラムの表面温度を230℃に設定して加熱を開始後、ドラム温度が100℃に達した時点で茶葉600gを投入し、品温(茶葉温度)が設定の温度(140℃〜180℃)に到達した時点で取り出した。
アルカリ性水溶液を添加したものを実施例、添加しないものを比較例とした。
製造条件を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
上記操作によって得られた実施例1〜9及び比較例1〜9の茶葉の浸出液について専門のパネラー5名で官能評価を行った。浸出液は茶葉3グラムに熱湯180mlを注いで3分間抽出させ、茶殻を取り除くことにより調製した。評価は、香りの評価と呈味の評価を実施した。
香りの評価基準は、比較例1のアルカリ未処理かつ焙煎処理していない茶葉をコントロールとして、酸化臭、こげ臭、焙煎香を評価した。酸化臭、こげ臭を感じない、又は焙煎香を感じるを○とし、酸化臭、こげ臭を感じる、または焙煎香を感じないものを×とした。
香りの総合評価として、3項目すべてが○のものを○、3項目のひとつでも×
がある場合を×とした(表3)。
呈味の評価は、比較例1をコントロールとして香りと味の一体感を表2に従って評価を実施した。評価の平均値より、3以下を×、3を超えて4未満を○、4以上5以下を◎とした。
【0033】
【表2】
【0034】
また、香気成分(A),(B),(C)における(A)/(B)と(A)/(C)の値が、 (A)/(B)1.0以上かつ(A)/(C)1.6以上を○、(A)/(B)、(A)/(C)がともに2以上を◎とした。
更に、全体的な香味評価を含めた総合的な評価を行った。これらの香気成分(A)/(B)と(A)/(C)の評価、香りの評価および呈味評価結果から下記総合評価を求めた。
総合評価基準 (A)/(B)および(A)/(C)が◎、呈味評価が◎・・最適
(A)/(B)および(A)/(C)が○、呈味評価が○・・・適用
(A)/(B)、(A)/(C)と呈味評価のどちらかが×・・・不適
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
表3および表4より、アルカリ処理と150℃〜180℃(実施例1〜9)での焙煎により、香りのバランスに優れ、香りと味の一体感を有する嗜好性の高い茶葉が得られることが確認できた。また、アルカリ処理なしで焙煎した茶葉は、酸化臭は低減され、焙煎香は感じるものの、こげ臭が多く発生し、香りのバランスが崩れることが確認できた。比較例9の焙煎前のpHを8.5とした茶葉では、こげ臭は押さえられたものの、アルカリ添加による塩味を強く感じられた。また、アルカリ処理後に焙煎処理をしない比較例6、焙煎温度を140℃で実施した比較例7では、酸化臭が感じられ、香りと味の一体感も好ましくなかった。
従って、アルカリ液添加による焙煎前の抽出液のpHでは、6.0〜8.0で、焙煎温度150〜180℃で香りのバランス、香りの味の一体感の点で有効であることがわかった。
【0038】
〈試験例2〉アルカリ性水溶液を炭酸カリウムに変更した以外は試験例1の条件で実施した。製造条件を表5に、また官能評価結果を表6及び表7に示す。評価基準は比較例10をコントロールとし、試験例1と同様に実施した。
【0039】
【表5】
【0040】
【表6】
【0041】
【表7】
【0042】
表6,7より、炭酸カリウムでも試験例1と同様に、酸化臭、こげ臭が抑制され、焙煎香とのバランスのよい、更には香りと味の一体感を有する紅茶葉が得られた。
【0043】
実施例4、13、比較例1、5の酸味、雑味、渋味、苦味及び旨味・コク味の官能評価を実施した。評価結果を表9に示す。
評価方法は、茶葉の浸出液について専門のパネラー5名で香味評価を表8にしたがって行い、平均値を求めた。浸出液は茶葉3グラムに熱湯180mlを注いで3分間抽出させ、茶殻を取り除くことにより調製した。尚、総合評価は、各項目において、一つでも3点未満の場合を×、すべてが3点以上の場合を○とした。
【0044】
【表8】
【0045】
【表9】
【0046】
表9より、アルカリ焙煎紅茶葉の味の評価は、渋味、苦味が抑制され、旨味、コク味がより優れた茶葉が得られた。
【0047】
〈製造例1〉ティーバッグ
ナイロン製の三角錐ティーバッグに実施例4のアルカリ焙煎紅茶葉2.2gを封入し、カップに90℃のお湯160mLを注ぎ、ティーバッグを加え1分間抽出した。比較として、比較例1,5の茶葉を使用した。
【0048】
抽出後の色を比較したところ、実施例4の茶葉を使用したものは、比較例1,5より濃い抽出液が得れらた。また、香りを比較したところ、こげ臭が抑制され、香りの味の一体感のある紅茶が得られた。
【0049】
〈製造例2〉容器詰紅茶飲料
実施例4で得られたアルカリ焙煎紅茶葉300gを90℃の超純水9.0kgに20分間撹拌しながら抽出した。この抽出液を100メッシュのステンレスフィルターで茶葉を分離した後、濾紙(No.27、アドバンテック(株)製)を用いて濾過を行って紅茶抽出液を得た。
タンニン濃度50.0mg%となるように上記紅茶抽出液をステンレス容器に入れ、加水全量に対し0.03重量%となるようL−アスコルビン酸ナトリウムを添加した。炭酸水素ナトリウムでpH5.7に調整し、所定量のイオン交換水を加え、紅茶調合液を得た。得られた紅茶調合液を80℃まで昇温し、スチール缶(東洋製罐(株)製TULC)に分注した。ヘッドスペースを窒素ガスで満たし、缶シーマーにて密封後、レトルト殺菌処理(110℃達温)を行って容器詰紅茶飲料を得た。
比較として、比較例1の焙煎処理なしの紅茶葉、比較例5のアルカリ処理なしの焙煎紅茶葉を使用し、前記同様容器詰
紅茶飲料を製造した。
官能評価は、パネリスト5名で実施した。評価基準は、試験例1同様の香りの評価、香りと味の一体感を評価した。更に紅茶らしい苦渋味とコク味が良好であるかによって判断し、◎:非常に良い、○:良い、△:普通、×悪いとし、各評価結果からパネリスト5名が協議により総合評価を求めた(表10)。その結果、実施例4では、香りのバランスのよく、こげ臭が抑制された焙煎香が引き立つ、紅茶らしい苦渋味、コク味をもつ香りと味の一体感をもつ紅茶飲料が得られた。比較例1では、酸化臭が感じられ、比較例5ではこげ臭が目立ち、紅茶飲料としてふさわしいものではなかった。
【0050】
【表10】
【0051】
〈製造例3〉容器詰ミルクティー
実施例4で得られたアルカリ焙煎紅茶葉300gを90℃の超純水9.0kgに20分間撹拌しながら抽出した。この抽出液を100メッシュのステンレスフィルターで茶葉を分離した後、濾紙(No.27、アドバンテック(株)製)を用いて濾過を行って紅茶抽出液を得た。最終的な調合液量に対して茶葉使用率1.0%となる上記紅茶抽出液の相当量をステンレス容器に入れた。
別のステンレス容器に、グラニュー糖、全粉乳、牛乳、乳化剤(ホモゲン:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)、加水全量に対し0.03重量%となるようL−アスコルビン酸ナトリウム、所定量のイオン交換水を加えた。乳固形分は最終濃度0.5重量%(原材料:牛乳、全粉乳又は脱脂粉乳)となるよう調製した。さらに均質化させるために、75℃、5分間攪拌し、冷却することで、乳成分配合液を得た。
次に上記紅茶抽出液および乳成分配合液を混合させ紅茶調合液とした。
炭酸水素ナトリウムでpH6.7に調整し、更に紅茶調合液の液温を75℃に昇温し、高圧ホモジナイザー((株)イズミフードマシナリ)にて20MPaで均質化し、80℃まで昇温後、スチール缶(東洋製罐(株)製TULC)に分注した。次いでヘッドスペースを窒素ガスで満たし、缶シーマーにて密封後、レトルト殺菌処理(123℃、20分間)を行って容器詰ミルクティーを得た。比較として、比較例1の焙煎処理なしの紅茶葉、比較例5のアルカリ処理なしの焙煎紅茶葉を使用し、前記同様容器詰ミルクティーを製造した(タンニン濃度は170.0mg%)。
官能評価は、製造例2と同様に実施した(表11)。その結果、実施例4では、香りのバランスのよく、こげ臭が抑制された焙煎香が引き立つ、紅茶らしい苦渋味、コク味をもつ、香と味の一体感のあるミルクティーが得られた。比較例1では、酸化臭が感じられ、比較例5ではこげ臭が目立ち、ミルクティーとしてふさわしいものではなかった。
【0052】
【表11】