特許第6850657号(P6850657)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6850657
(24)【登録日】2021年3月10日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】焙煎紅茶葉の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23F 3/06 20060101AFI20210322BHJP
【FI】
   A23F3/06 F
   A23F3/06 T
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-65249(P2017-65249)
(22)【出願日】2017年3月29日
(65)【公開番号】特開2018-166421(P2018-166421A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】303044712
【氏名又は名称】三井農林株式会社
(72)【発明者】
【氏名】米澤 洋朗
(72)【発明者】
【氏名】原口 拓朗
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−198039(JP,A)
【文献】 特開2016−182115(JP,A)
【文献】 特開2013−051894(JP,A)
【文献】 特開2012−183064(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103444923(CN,A)
【文献】 国際公開第2010/137575(WO,A1)
【文献】 国際公開第99/065322(WO,A1)
【文献】 特開2014−036611(JP,A)
【文献】 特開平01−067161(JP,A)
【文献】 特表2007−519415(JP,A)
【文献】 特開昭48−077098(JP,A)
【文献】 特開2007−236319(JP,A)
【文献】 特開2006−204137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎茶葉の製造方法において、次の工程1〜3を有する焙煎茶葉の製造方法であって、
〈工程1〉焙煎前の茶葉にアルカリ液を添加する工程
〈工程2〉工程1で得られた茶葉を定温で保管する工程
〈工程3〉工程2で得られた茶葉を焙煎する工程
前記工程1において、焙煎前の茶葉とは、荒茶または仕上茶であって、
該焙煎前の茶葉にアルカリ液を添加する工程とは、茶葉に対して50倍量の重量の水による抽出液のpHが5.5を超え、且つ8.5未満の範囲となるよう、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムから選ばれる少なくとも一種または二種以上を2重量%〜30重量%含有するアルカリ性水溶液を、茶葉に対して20〜40重量%を添加すること、
前記工程2において、定温とは10〜30℃であり、かつ保管時間は30分〜24時間であること、
前記工程3において、焙煎時の茶葉の品温を、150℃から180℃以下とすることを特徴とする焙煎茶葉の製造方法
【請求項2】
焙煎前の茶葉が紅茶葉である請求項1に記載の焙煎茶葉の製造方法
【請求項3】
請求項1または2に記載の焙煎茶葉が、次の各香気成分グループ(A)、(B)及び(C)を含有し、
(A)焙煎香成分であるメチルピラジン、2,5−ジメチルピラジン、2,6−ジメチルピラジン、エチルピラジン、2,3−ジメチルピラジン、2−エチル−5−メチルピラジン、2−エチル−6−メチルピラジン、トリメチルピラジン、2−エチル−3,5−ジメチルピラジン、及び2−エチル−3,6−ジメチルピラジン
(B)酸化臭成分である(E,Z)−3,5−オクタジエン −2−オン、(E,E)−3,5−オクタジエン−2−オン、(E)−2−オクテナール、(E,Z)−2,4−ヘプタジエナール、(E,E)−2,4−ヘプタジエナール、(E,Z)−2,4−ヘプタジエナール 、及びイソホロン
(C)こげ臭成分であるフルフラール、5−メチル−2−フルアルデヒド、1−エチル−1H−ピロール−2−カルボアルデヒド、及び3−アセチル−1H−ピロリン
ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS分析法)にて分析した際の各グループ内ピークエリア合計の比が、[(A)/(B)]が1.0以上かつ[(A)/(C)]が1.6以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の焙煎茶葉の製造方法
【請求項4】
次の各香気成分グループ(A)、(B)及び(C)を含有し、
(A)焙煎香成分であるメチルピラジン、2,5−ジメチルピラジン、2,6−ジメチルピラジン、エチルピラジン、2,3−ジメチルピラジン、2−エチル−5−メチルピラジン、2−エチル−6−メチルピラジン、トリメチルピラジン、2−エチル−3,5−ジメチルピラジン、及び2−エチル−3,6−ジメチルピラジン
(B)酸化臭成分である(E,Z)−3,5−オクタジエン −2−オン、(E,E)−3,5−オクタジエン−2−オン、(E)−2−オクテナール、(E,Z)−2,4−ヘプタジエナール、(E,E)−2,4−ヘプタジエナール、(E,Z)−2,4−ヘプタジエナール 、及びイソホロン
(C)こげ臭成分であるフルフラール、5−メチル−2−フルアルデヒド、1−エチル−1H−ピロール−2−カルボアルデヒド、及び3−アセチル−1H−ピロリン
ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS分析法)にて分析した際の各グループ内ピークエリア合計の比が、[(A)/(B)]が1.0以上かつ[(A)/(C)]が1.6以上である焙煎茶葉。
【請求項5】
紅茶葉である請求項4に記載の焙煎茶葉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ処理した茶葉を焙煎して得られる焙煎茶葉及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
茶飲料は、飲用時の茶葉が本来有する渋み、旨み、香りの3要素がバランス良く一体となって形成された香味が好ましいとされる。特に紅茶では、前記した3要素にかかわる成分の損失は、嗜好性を低下させる原因となってしまう。このような理由により、低級といわれる茶葉または長期保管により香味が失われた茶葉を利用する手段として様々な方法が検討されている。その一つとして茶葉を焙煎して、香ばしさを付与した茶葉の開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には緑茶製造時に生葉に糖を吸収させた後の荒茶を火入れする工程により、緑茶の火香の強化された緑茶葉が得られること、特許文献2には特定のアミノ酸と火入れ乾燥工程との組合せにより、香ばしい香りのみが増強された茶飲料が得られること、特許文献3には焙煎条件をコントロールした緑茶葉の抽出液を主成分として、単糖と二糖とを合わせたの糖類濃度やその濃度比、また糖類と没食子酸との濃度比を調整することにより、焙煎を強くした場合に生じる苦味等の発生を抑え、焙煎香が強く、すっきりとした後味を備えて、冷めた状態でもおいしく飲用できる容器詰ほうじ茶飲料が得られること、特許文献4には紅茶葉を250℃を超える温度で焙じることにより、室温で保存された場合に良好な風味、色味、及び安定性を有するミルクティーの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-149923号公報
【特許文献2】特開2012-183064号公報
【特許文献3】WO2010/098391号公報
【特許文献4】特開2013-051959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のとおり、焙煎によって茶葉に香ばしさを与える目的として、様々な方法が開示されている。しかしながら、これらの方法では、茶の種類によっては香りがふさわしくなく、長期保管時の酸化臭の発生や、焙煎度合いによっては逆にこげ臭やエグみが目立つなど、茶葉の香味の改善が十分に満足しうるものではなく、改善が求められていた。
【0006】
したがって、本発明は、酸化臭を抑制し、更に焙煎によるこげ臭を十分に抑制しながらも、焙煎香と茶本来の香味をバランスがよく、香りと味の一体感を有する嗜好性の高い茶葉およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、焙煎によるこげ臭の原因について検討したところ、驚くべきことに焙煎処理前に茶葉にアルカリ液を添加し、pHを調節することによって焙煎によるこげ臭の発生が抑制され、焙煎香、味ともに嗜好性が高められた茶葉となることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)焙煎茶葉の製造方法において、次の工程1〜3を有する焙煎茶葉の製造方法。
〈工程1〉焙煎前の茶葉にアルカリ液を添加する工程
〈工程2〉工程1で得られた茶葉を定温で保管する工程
〈工程3〉工程2で得られた茶葉を焙煎する工程
(2)前記工程1において、焙煎前の茶葉に対して50倍量の重量の水による抽出液のpHが5.5を超え、且つ8.5未満の範囲となるよう、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウムから選ばれる少なくとも一種または二種以上を2重量%〜30重量%含有するアルカリ性水溶液を、茶葉に対して20〜40重量%を添加する(1)に記載の焙煎茶葉の製造方法。
(3)前記工程3において、焙煎時の茶葉の品温を、140℃を超える温度から180℃以下とすることを特徴とする(1)または(2)に記載の焙煎茶葉の製造方法。焙煎茶葉の製造方法において、焙煎前の茶葉にアルカリ性水溶液を添加することを特徴とする焙煎茶葉の製造方法。
(4)次の各香気成分グループ(A)、(B)及び(C)を含有し、
(A)焙煎香成分であるメチルピラジン、2,5-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジン、エチルピラジン、2,3-ジメチルピラジン、2-エチル-5-メチルピラジン、2-エチル-6-メチルピラジン、トリメチルピラジン、2-エチル-3,5-ジメチルピラジン、及び2-エチル-3,6-ジメチルピラジン
(B)酸化臭成分である(E,Z)-3,5-オクタジエン -2-オン、(E,E)-3,5-オクタジエン-2-オン、(E)-2-オクテナール、(E,Z)-2,4-ヘプタジエナール、(E,E)-2,4-ヘプタジエナール、(E,Z)-2,4-ヘプタジエナール、及びイソホロン
(C)こげ臭成分であるフルフラール、5-メチル-2-フルアルデヒド、1-エチル-1H-ピロール-2-カルボアルデヒド、及び3-アセチル-1H-ピロリン
ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS分析法)にて分析した際の各グループ内ピークエリア合計の比が、[(A)/(B)]が1.0以上かつ[(A)/(C)]が1.6以上である焙煎茶葉。
(5)茶葉が紅茶葉である(4)に記載の焙煎茶葉。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、焙煎によるこげ臭の発生を十分抑制しながら、長期保管等による茶葉の酸化臭を減少させ、適度な焙じ香により香味の優れた茶葉を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
〈原料茶葉〉
本発明の製造方法における原料茶葉としては、チャノキ(学名:Camellia sinensis)の葉や茎などの摘採物を原料として製造された茶葉である。茶葉の種類としては、緑茶や花茶等の不発酵茶、烏龍茶等の半発酵茶、紅茶等の完全発酵茶、プアール茶などの後発酵茶などの荒茶や仕上茶を挙げることができ、いずれも一般的に流通している茶葉を本発明の製造方法に使用可能である。特に、焙煎前の茶葉において、温水抽出時のpHが5.5以下になる茶葉やアミノ酸、糖を豊富に含んだ茶葉は本発明に有効である。例えば、紅茶葉を使用することが好ましく、ダージリン、アッサム、ニルギリ、ディンブラ、ウバ、ヌアラエリア、ケニア、キーモン等の紅茶葉を1種あるいは2種以上の茶葉をブレンドしたものを原料として使用できる。また、やぶきた、べにほまれ、べにひかり、べにふじ、べにふうきなどの品種から加工された日本産紅茶葉を使用してもよい。本発明で用いる茶葉は市販品を用いることができる。
【0011】
〈アルカリ性水溶液〉
本発明の製造方法では、茶葉原料を焙煎処理する前に、茶葉にアルカリ性の水溶液を添加する。
本発明におけるアルカリ性の水溶液とは、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムの水酸化物または炭酸塩、好ましくは炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ性剤をイオン交換水に溶かしたものであり、なかでも炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムが好ましい。特に、炭酸カリウムは炭酸水素ナトリウムや炭酸ナトリウムなどのナトリウム独特の塩味が少ないことから、風味の点でもより好ましい。これらアルカリ性添加剤を組み合わせてもよく、使用する場合はそれぞれの添加濃度範囲にて適宜調整すればよい。また、pH調整剤として、上記以外のクエン酸、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸またはその塩等を用いても良い。
また、本発明で用いるアルカリ性水溶液の濃度、添加量は茶葉の種類、量により焙煎前の抽出液のpHが、5.5を超え、且つ8.5未満となるように、適時調整すればよい。焙煎後の茶葉のpHが低下することを考慮して、好ましくはpHを6.0〜7.5となるように、更に好ましくは6.5〜7.0となるようにアルカリ性水溶液を添加すればよい。また、アルカリ性水溶液を添加した後焙煎した茶葉の抽出液のpHは6.0〜8.5が好ましく、6.5から8.0がより好ましい。更にpH6.8から7.5が最も好ましい。尚、上記抽出液のpHは、茶葉3グラムに熱湯180mlを注いで3分間抽出させ、茶殻を取り除くことにより調製した抽出液について
測定すれば良い。
一方、pHが5.5以下の場合はこげ臭が発生し、茶葉の風味を損ねてしまい、pHが8.0より高い場合はエグミが強く発生てしまい、茶飲料として適さない。
添加時のアルカリ水溶液の温度は特に指定するものではなく、例えば10〜50℃のその製造環境と同程度の温度であればよい。
例えば、炭酸カリウムの場合、2〜30重量%の炭酸カリウム水溶液を調製し、茶葉100重量部に対し、前記水溶液を1〜20重量部を添加すればよい。また、炭酸水素ナトリウムの場合も炭酸カリウムと同様にして濃度を調整することが可能である。炭酸水素ナトリウムの場合、12重量%の炭酸水素ナトリウム溶液を茶葉100重量部に対して30〜70重量部程度添加すればよい。
【0012】
〈工程1 アルカリ処理〉
以上により調製したアルカリ性水溶液を原料茶葉に添加する方法(以下、アルカリ処理)は、噴霧スプレー、シャワーノズルや送液ポンプなどの当業者に公知の機械または道具を用いて吹き付けまたは滴下などによって行えば良い。また、添加する際の水溶液の温度は特に指定するものではなく、例えば5〜40℃など、その製造環境と同程度の温度であれば良い。
【0013】
〈工程2 定温保管〉
アルカリ性水溶液を添加後、十分に行き渡るよう茶葉を攪拌した後、30分〜24時間、10〜30℃の定温で保管し、よく茶葉になじませる。定温保管時には、茶葉量によっては攪拌してもよい。
上記アルカリ性水溶液処理した茶葉(以下、アルカリ処理茶葉)はそのまま、焙煎工程に用いてもよいし、必要に応じて乾燥してもよい。その乾燥する方法は、従来から使用されている方法を用いればよく、60℃程度の恒温器、温風、又は熱風で乾燥可能な小型熱風乾燥機、ドラムドライヤー、コンベア式熱風乾燥機、スチームチューブドライヤー又は気流式乾燥機等による方法が挙げられる。
【0014】
〈工程3 焙煎〉
本発明の焙煎とは、アルカリ処理茶葉を強い火で焙ること(焙焼ともいう)を意味する(以下、アルカリ処理茶葉を焙煎した茶葉をアルカリ処理焙煎茶葉とする)。焙煎処理としては例えば、「新茶業全書」(第8版、昭和63年10月1日、社団法人静岡県茶業会議所)p435、「茶の科学」(村松敬一郎編、朝倉書店1991年3月15日)p97に記載されている方法が挙げられる。また、「緑茶・紅茶・烏龍茶の化学と機能」(中林敏郎他著 弘学出版(株)1991年10月30日)p93〜96に記載されているように、焙煎によりピラジン類、フラン類、ピロール類を生成し焙じ茶独特の香りが形成される。
【0015】
〈焙煎装置〉
本発明のアルカリ処理焙煎茶葉の焙煎方法は、熱風式、直火式、半直火(熱風と直火)式、遠赤外線方式、マイクロ波方式、過熱水蒸気等のいずれの焙煎方法でもよく、その形状はドラム式、ベルトコンベア等のいずれも本発明の製造方法に利用することができる。
熱源の違いによって様々な方法が挙げられるが、例えば、熱風式焙煎方法では、回分式の棚式乾燥機や連続式の自動乾燥機のような乾燥機が流用され、これらいずれも乾燥室内に熱風を供給して茶葉を焙煎処理することができる。自動乾燥機では熱風が送られる乾燥室内に茶葉を乗せた移送帯を移動させて焙煎処理するものである。本装置では所望する焙煎の程度に合わせた温度や時間を設定することで連続的に処理することができる。
また、直火式による回転式ドラム焙煎方法は円筒形のドラム内に茶葉を投入し、下部外側から加熱しながらドラムを回転させて焙煎処理を行う。回転式ドラム焙煎機にも回分式と連続式があり、回分式では茶葉の投入単位毎に処理を行う。連続式では傾斜した長いドラム内にスパイラルな構造を持たせ、一方の投入口から茶葉を投入し、ドラムを回転させると徐々に茶葉が進行し、他方の取り出し口から茶葉が排出される仕組みになっており、熱量やドラムの回転数等を調節することにより、所望する焙煎程度の茶葉を得ることができる。遠赤外線による回転式ドラム焙煎方法は、ドラム内部に備えている加熱ヒーターで加熱する他は直火式と同様に行うことができる。
【0016】
〈焙煎条件〉
本発明の製造方法における焙煎の条件は、少なくとも品温すなわち茶葉温度が140℃に達する条件が必要である。140℃未満では焙煎香が不十分となる。また、200℃を超える温度では茶葉が炭化するおそれがある。そのため、本発明における焙煎条件としては、茶葉温度が、140℃〜190℃に達した時点で焙煎処理を終了するのが好ましい。焙煎の終了温度はこの範囲内において所望の香味が得られるように調整すれば良いが、異味異臭の除去と、香と味のバランスの観点においては、140℃〜180℃が好ましく、160℃〜180℃がさらに好ましい。例えば、回転ドラム式の場合には、火力を一定条件に設定し、茶葉の温度が140℃〜190℃程度になるまで1分〜30分程度処理すればよい。さらに、製造効率や焙煎効果を考慮すると、2分〜20分が好ましく、5分〜15分処理するのがより好ましい。なお、焙煎の程度を調整する手段としてはドラムの回転速度、加熱温度、茶葉の供給速度などを調整することにより、処理時間と到達温度が設定可能である。
【0017】
〈茶の成分〉
本発明の製造方法によって得られるアルカリ処理焙煎茶葉は、茶ポリフェノール、カフェイン、没食子酸を含有する。各成分は、茶葉3gをその50倍の水で抽出して、含有量を求めることができる。
例えば、紅茶葉を用いたアルカリ焙煎処理した茶葉の場合、茶ポリフェノールの含有量は、90〜140mg/100mL、カフェイン量は、30〜60mg/100mL、没食子酸量は、6〜20mg/100mLであることが好ましい。尚、茶ポリフェノール、カフェイン、没食子酸の分析条件は、本明細書の実施例に記載する。
【0018】
本発明の製造方法によって得られるアルカリ処理焙煎茶葉は、元の茶葉から生じる酸化臭が低減されている以外に、従来の焙煎茶葉と比較して、茶の評価においてマイナス評価の対象となるこげ臭が低減し、芳ばしい香りである焙煎香が保持されているという特徴を有する。
【0019】
本発明でいう(A)焙煎香とはメチルピラジン、2,5-ジメチルピラジン、2,6-ジメチルピラジン、エチルピラジン、2,3-ジメチルピラジン、2-エチル-5-メチルピラジン、2-エチル-6-メチルピラジン、トリメチルピラジン、2-エチル-3,5-ジメチルピラジン、及び2-エチル-3,6-ジメチルピラジンを表す。
本発明でいう(B)酸化臭とは(E.Z)-3,5-オクタジエン -2-オン, (E,E)-3,5-オクタジエン-2-オン、(E)-2-オクテナール、(E,Z)-2,4-ヘプタジエナール、(E,E)-2,4-ヘプタジエナール、(E,Z)-2,4-ヘプタジエナール及びイソホロンを表す。
本発明でいう(C)こげ臭とはフルフラール、5-メチル-2-フルアルデヒド、1-エチル-1H-ピロール-2-カルボアルデヒド、及び3-アセチル-1H-ピロリンを表わす。
焙煎処理した茶葉の香気成分は、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS分析法)にて分析し、各々の香気成分のピークエリアを(A)〜(C)のグループ毎に合計した結果として評価する。本発明における茶葉中の前記香気成分のピークエリアとは、固相マイクロ抽出法(Solid Phase Micro Extraction:SPME)を用いたガスクロマトグラフ質量分析法(GC/MS分析法)で得られる値を採用する。詳細な条件は本明細書の実施例の項に記載する。
【0020】
本発明の製造方法で得られる茶葉は、(A)焙煎香成分に対する(B)酸化臭成分の比である[(A)/(B)]が1.0以上であり、かつ(A)焙煎香成分に対する(C)こげ臭成分の比である[(A)/(C)]が1.6以上であることが好ましい。これらの比が香りの観点において大きいほど好ましく、[(A)/(B)]が1.5以上8.0以下であり、かつ[(A)/(C)]が2.0以上5.0以下がより好ましく、[(A)/(B)]が1.5以上であり5.0以下、かつ[(A)/(C)]が2.0以上3.0以下が更に好ましい。
【0021】
〈茶飲料〉
本発明の製造方法によって得られるアルカリ処理焙煎茶葉は様々な用途に利用することができる。
茶葉そのものを主体として利用する例としては、各種容器に茶葉を包装して製品とするほか、ティーバッグ等の形態として、またインスタント茶や容器詰め茶飲料の原料として利用することもできる。また、果皮やハーブなどの茶以外の植物原料をブレンドしても良く、香料を用いて香りを付与した形態としても良い。
本発明のアルカリ処理焙煎茶葉は、アルカリ処理をしない場合と比較して、抽出効率がよいため、当該茶葉をティーバッグに詰めて、通常の熱湯抽出用以外にも、冷水抽出(いわゆる水出し)用に使用することが可能である。
【0022】
〈茶抽出液〉
本発明の製造方法によって得られるアルカリ処理焙煎茶葉から、茶抽出液を製造することができる。
アルカリ処理焙煎紅茶葉を使用した場合を以下に例示する。該茶葉を原料とした紅茶抽出液の調製方法は、従来から知られている紅茶飲料の一般的な方法で調製することができる。本発明のアルカリ処理焙煎紅茶葉を10〜100倍重量の温水又は熱水にて抽出する。抽出時間、温度は目的により適宜調整するが、通常は60℃以上100℃以下で3〜60分の抽出を行い、必要に応じて抽出中に撹拌を行う。次いで茶殻等の固形成分を濾過や遠心分離機により固液分離することにより紅茶抽出液を得ることができる。ここで、抽出時の温度や時間などは、特に限定されず、目的とする香味等に応じて任意に設定することができる。
また、抽出に使用する水に予めアスコルビン酸やアスコルビン酸ナトリウムなどの有機酸又は有機酸塩類、食品加工に使用可能な重曹や炭酸カリウムを添加してもよい。また煮沸脱気や窒素ガスなどの不活性ガスを通気して溶存酸素を除去しつついわゆる非酸化的雰囲気下で抽出する方法を併用してもよい。
【0023】
上記で得られた抽出液は、真空蒸発法や膜濃縮法、凍結濃縮法など、一般的に用いられている方法を用いて濃縮エキスに加工することができる。さらに噴霧乾燥法や凍結乾燥法などを組み合わせることで粉末エキスに加工することもできる。
【0024】
〈紅茶調合液の調整〉
得られた紅茶抽出液は、適宜濃度を調整して、乳成分、香料等を添加して、紅茶調合液を調製し、加熱殺菌後、紅茶飲料として製品化される。紅茶調合液には、必要に応じて、砂糖、ブドウ糖、果糖、異性化液糖などの糖類、植物性油脂、動物性油脂、乳原料、酸味料、酒類、塩類(塩化ナトリウム等)、ハーブ・スパイス類、香辛料抽出物、茶類、pH調整剤、スクラロースやアスパルテーム等の甘味料、増粘安定剤、乳化剤、着色料、調味料、香料、酸化防止剤、日持向上剤、栄養強化剤、保存料等の副成分を単独あるいは併用して配合してもよい。紅茶調合液のpHは、好ましくは25℃換算値でpH6.0〜7.5、より好ましくはpH6.3〜6.8に調整するのが良い。
【0025】
〈容器詰飲料〉
上記のように調製した紅茶調合液は、加熱殺菌を行った後、密閉容器に封入して容器詰飲料とする。使用される容器は、一般の飲料と同様にポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶などで、通常の形態で提供することができる。
殺菌条件は、食品衛生法に定められた条件と同等の効果が得られる方法を選択すれば良いが、容器として耐熱性容器(金属缶、ガラス等)を使用する場合にはレトルト殺菌(121〜124℃、4〜40分間)を行えばよい。また容器として非耐熱性容器(PETボトル、紙容器等)を用いる場合は、例えば、調合液を予めプレート式熱交換器等で高温短時間殺菌後(120〜150℃、1〜数十秒間)、一定の温度まで冷却し、熱時充填するか、30〜50℃で無菌充填を行うことで製造することができる。
【0026】
〈ティーバッグ〉
本発明のアルカリ処理焙煎紅茶葉は、ティーバッグ用の原料として利用することができる。カップ1杯分毎にティーバッグに小分け包装し、それをカップに入れ水又は熱水を注いで飲用することができる。なお、カップの容量は180〜320mLであることが好ましく、またティーバッグの大きさは上記カップ容量に適合するように適宜設定することが可能である。尚、ティーバッグのサイズ、材質、形状、タグの有無等は、公知の方法を適宜利用することができる。
【実施例】
【0027】
以下に本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0028】
<茶ポリフェノールおよびカフェイン測定用試料液の調製方法>
フードプロセッサーで粉砕した茶葉を約150mgずつ秤量し、100mLメスフラスコに移した後、80%メタノール(v/v)を40mL加え、30分間超音波抽出を行った。次いで、1M塩酸0.4mLを加えて超純水で仮定容し、室温に戻るまで静置後、超純水で100mLに定容した。その抽出液を親水性PTFEフィルター(アドバンテック(株)製,DISMIC−13HP;0.45μm)でろ過し、ろ液の2mL以降を測定用試料液とした。
<茶ポリフェノールの測定方法>
茶ポリフェノールの定量は「日本食品標準成分表2015年度版(七訂)分析マニュアル・解説」(文部科学省科学技術・学術政策局政策課資源室監修、建帛社2016年2月)のp242-243に記載の酒石酸鉄吸光光度法に従って行った。なお、定量用標準物質には没食子酸エチル(東京化成工業(株)製)を用い、調製溶液には1M塩酸を0.4%添加した32%メタノール(v/v)を用いた。また、本発明において茶ポリフェノールは茶に含まれるポリフェノールのことであり、タンニンや茶タンニン等の用語と同義に扱う。
<カフェインの分析条件>
カフェインの定量はHPLC分析法により次の条件で行った。
・標準物質:カフェイン(関東化学(株)製)
・装置:Alliance HPLCシステム(ウォーターズ社製)
・カラム:Poroshell 120 EC‐C18(4.6×100mm,粒子径2.7μm、アジレント社製)
・カラム温度:40℃
・移動相:A液0.05%リン酸水/アセトニトリル=1000/25(体積比)、B液メタノール
・グラジエントプログラム:0〜1分(B液0%)、1〜11分(B液0〜33%)、11〜11.25分(B液33〜95%)、11.25〜13.25分(B95%)、13.25〜13.5分(B液95〜0%)、13.5〜15.5分(B液0%)
・流速:1.5mL/min
・検出:UV275nm
<没食子酸の分析条件>
没食子酸の定量はHPLC分析法により次の条件で行った。
・標準物質:没食子酸(gallic acid)(関東化学(株)製)
・装置:Alliance HPLCシステム(ウォーターズ社製)
・カラム:Poroshell 120 EC‐C18(4.6×100mm,粒子径2.7μm、アジレント社製)
・カラム温度:40℃
・移動相:A液0.05%リン酸水/アセトニトリル=1000/25(体積比)、B液メタノール
・グラジエントプログラム:0〜1分(B液0%)、1〜11分(B液0〜33%)、11〜11.25分(B液33〜95%)、11.25〜13.25分(B液95%)、13.25〜13.5分(B液95〜0%)、13.5〜15.5分(B液0%)
・流速:1.5mL/min
・検出:UV270nm
【0029】
<香気成分の分析方法>
フードプロセッサーで粉砕した茶葉200mgおよび塩化ナトリウム3gを20mLバイアルに入れ、水10mL(内部標準物質としてシクロヘプタノール(東京化成工業(株)製)を終濃度で500ppbとなるように添加)を加えた。このサンプル液について固相マイクロ抽出法(Solid Phase Micro Extraction:SPME)を用いたGC/MS分析に供した。評価は各香気成分のピークエリアと内部標準物質のピークエリアの比によって求めた。
<SPME-GC/MS条件>
GC:TRACE GC ULTRA(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
MS:TSQ QUANTUM XLS(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)
SPMEファイバー:50/30μm Divinylbenzene/Carboxen/Polydimethylsiloxane Stableflex
抽出:60℃、30分
カラム:SUPELCO WAX10(0.25mmI.D.×60m×0.25μm、シグマアルドリッチ社製)
オーブンプログラム:40℃で2分間保持した後、160℃まで3℃/分で昇温し、その後280℃まで10℃/分で昇温
キャリアーガス:ヘリウム(100kPa、一定圧力)
インジェクター:スプリットレス、240℃
イオン化:電子イオン化
イオン化電圧:70eV
【0030】
〈試験例1〉 紅茶葉(ケニア産紅茶葉)のアルカリ処理焙煎
紅茶葉(ケニア産紅茶葉)を原料に用いて、茶葉焙煎前のアルカリ処理のpHと焙煎温度について検討した。
炭酸水素ナトリウムを水に溶解し、12g/100mLのアルカリ性水溶液を調製した。茶葉に前記炭酸水素ナトリウム溶液を、茶葉抽出液のpHが所定のpH(表1参照)となるように添加した。本試験では茶葉重量に対して、30重量%添加し、pHを調整した。アルカリ水溶液を添加した茶葉を30分間、室温(20℃)で保管した。その後、60℃の恒温器で乾燥し、アルカリ処理した茶葉の一部を抽出しpHを確認した。尚、pHは、コンパクトpHメーター(twin pH、HORIBA)を用いて測定した。
得られたアルカリ処理茶葉を小型ドラム型機により焙煎処理を行った。ドラムの表面温度を230℃に設定して加熱を開始後、ドラム温度が100℃に達した時点で茶葉600gを投入し、品温(茶葉温度)が設定の温度(140℃〜180℃)に到達した時点で取り出した。
アルカリ性水溶液を添加したものを実施例、添加しないものを比較例とした。
製造条件を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
上記操作によって得られた実施例1〜9及び比較例1〜9の茶葉の浸出液について専門のパネラー5名で官能評価を行った。浸出液は茶葉3グラムに熱湯180mlを注いで3分間抽出させ、茶殻を取り除くことにより調製した。評価は、香りの評価と呈味の評価を実施した。
香りの評価基準は、比較例1のアルカリ未処理かつ焙煎処理していない茶葉をコントロールとして、酸化臭、こげ臭、焙煎香を評価した。酸化臭、こげ臭を感じない、又は焙煎香を感じるを○とし、酸化臭、こげ臭を感じる、または焙煎香を感じないものを×とした。
香りの総合評価として、3項目すべてが○のものを○、3項目のひとつでも×ある場合を×とした(表3)。
呈味の評価は、比較例1をコントロールとして香りと味の一体感を表2に従って評価を実施した。評価の平均値より、3以下を×、3を超えて4未満を○、4以上5以下を◎とした。
【0033】
【表2】
【0034】
また、香気成分(A),(B),(C)における(A)/(B)と(A)/(C)の値が、 (A)/(B)1.0以上かつ(A)/(C)1.6以上を○、(A)/(B)、(A)/(C)がともに2以上を◎とした。
更に、全体的な香味評価を含めた総合的な評価を行った。これらの香気成分(A)/(B)と(A)/(C)の評価、香りの評価および呈味評価結果から下記総合評価を求めた。
総合評価基準 (A)/(B)および(A)/(C)が◎、呈味評価が◎・・最適
(A)/(B)および(A)/(C)が○、呈味評価が○・・・適用
(A)/(B)、(A)/(C)と呈味評価のどちらかが×・・・不適
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
表3および表4より、アルカリ処理と150℃〜180℃(実施例1〜9)での焙煎により、香りのバランスに優れ、香りと味の一体感を有する嗜好性の高い茶葉が得られることが確認できた。また、アルカリ処理なしで焙煎した茶葉は、酸化臭は低減され、焙煎香は感じるものの、こげ臭が多く発生し、香りのバランスが崩れることが確認できた。比較例9の焙煎前のpHを8.5とした茶葉では、こげ臭は押さえられたものの、アルカリ添加による塩味を強く感じられた。また、アルカリ処理後に焙煎処理をしない比較例6、焙煎温度を140℃で実施した比較例7では、酸化臭が感じられ、香りと味の一体感も好ましくなかった。
従って、アルカリ液添加による焙煎前の抽出液のpHでは、6.0〜8.0で、焙煎温度150〜180℃で香りのバランス、香りの味の一体感の点で有効であることがわかった。
【0038】
〈試験例2〉アルカリ性水溶液を炭酸カリウムに変更した以外は試験例1の条件で実施した。製造条件を表5に、また官能評価結果を表6及び表7に示す。評価基準は比較例10をコントロールとし、試験例1と同様に実施した。
【0039】
【表5】
【0040】
【表6】
【0041】
【表7】
【0042】
表6,7より、炭酸カリウムでも試験例1と同様に、酸化臭、こげ臭が抑制され、焙煎香とのバランスのよい、更には香りと味の一体感を有する紅茶葉が得られた。
【0043】
実施例4、13、比較例1、5の酸味、雑味、渋味、苦味及び旨味・コク味の官能評価を実施した。評価結果を表9に示す。
評価方法は、茶葉の浸出液について専門のパネラー5名で香味評価を表8にしたがって行い、平均値を求めた。浸出液は茶葉3グラムに熱湯180mlを注いで3分間抽出させ、茶殻を取り除くことにより調製した。尚、総合評価は、各項目において、一つでも3点未満の場合を×、すべてが3点以上の場合を○とした。
【0044】
【表8】
【0045】
【表9】
【0046】
表9より、アルカリ焙煎紅茶葉の味の評価は、渋味、苦味が抑制され、旨味、コク味がより優れた茶葉が得られた。
【0047】
〈製造例1〉ティーバッグ
ナイロン製の三角錐ティーバッグに実施例4のアルカリ焙煎紅茶葉2.2gを封入し、カップに90℃のお湯160mLを注ぎ、ティーバッグを加え1分間抽出した。比較として、比較例1,5の茶葉を使用した。
【0048】
抽出後の色を比較したところ、実施例4の茶葉を使用したものは、比較例1,5より濃い抽出液が得れらた。また、香りを比較したところ、こげ臭が抑制され、香りの味の一体感のある紅茶が得られた。
【0049】
〈製造例2〉容器詰紅茶飲料
実施例4で得られたアルカリ焙煎紅茶葉300gを90℃の超純水9.0kgに20分間撹拌しながら抽出した。この抽出液を100メッシュのステンレスフィルターで茶葉を分離した後、濾紙(No.27、アドバンテック(株)製)を用いて濾過を行って紅茶抽出液を得た。
タンニン濃度50.0mg%となるように上記紅茶抽出液をステンレス容器に入れ、加水全量に対し0.03重量%となるようL−アスコルビン酸ナトリウムを添加した。炭酸水素ナトリウムでpH5.7に調整し、所定量のイオン交換水を加え、紅茶調合液を得た。得られた紅茶調合液を80℃まで昇温し、スチール缶(東洋製罐(株)製TULC)に分注した。ヘッドスペースを窒素ガスで満たし、缶シーマーにて密封後、レトルト殺菌処理(110℃達温)を行って容器詰紅茶飲料を得た。
比較として、比較例1の焙煎処理なしの紅茶葉、比較例5のアルカリ処理なしの焙煎紅茶葉を使用し、前記同様容器詰紅茶飲料を製造した。
官能評価は、パネリスト5名で実施した。評価基準は、試験例1同様の香りの評価、香りと味の一体感を評価した。更に紅茶らしい苦渋味とコク味が良好であるかによって判断し、◎:非常に良い、○:良い、△:普通、×悪いとし、各評価結果からパネリスト5名が協議により総合評価を求めた(表10)。その結果、実施例4では、香りのバランスのよく、こげ臭が抑制された焙煎香が引き立つ、紅茶らしい苦渋味、コク味をもつ香りと味の一体感をもつ紅茶飲料が得られた。比較例1では、酸化臭が感じられ、比較例5ではこげ臭が目立ち、紅茶飲料としてふさわしいものではなかった。
【0050】
【表10】
【0051】
〈製造例3〉容器詰ミルクティー
実施例4で得られたアルカリ焙煎紅茶葉300gを90℃の超純水9.0kgに20分間撹拌しながら抽出した。この抽出液を100メッシュのステンレスフィルターで茶葉を分離した後、濾紙(No.27、アドバンテック(株)製)を用いて濾過を行って紅茶抽出液を得た。最終的な調合液量に対して茶葉使用率1.0%となる上記紅茶抽出液の相当量をステンレス容器に入れた。
別のステンレス容器に、グラニュー糖、全粉乳、牛乳、乳化剤(ホモゲン:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)、加水全量に対し0.03重量%となるようL−アスコルビン酸ナトリウム、所定量のイオン交換水を加えた。乳固形分は最終濃度0.5重量%(原材料:牛乳、全粉乳又は脱脂粉乳)となるよう調製した。さらに均質化させるために、75℃、5分間攪拌し、冷却することで、乳成分配合液を得た。
次に上記紅茶抽出液および乳成分配合液を混合させ紅茶調合液とした。
炭酸水素ナトリウムでpH6.7に調整し、更に紅茶調合液の液温を75℃に昇温し、高圧ホモジナイザー((株)イズミフードマシナリ)にて20MPaで均質化し、80℃まで昇温後、スチール缶(東洋製罐(株)製TULC)に分注した。次いでヘッドスペースを窒素ガスで満たし、缶シーマーにて密封後、レトルト殺菌処理(123℃、20分間)を行って容器詰ミルクティーを得た。比較として、比較例1の焙煎処理なしの紅茶葉、比較例5のアルカリ処理なしの焙煎紅茶葉を使用し、前記同様容器詰ミルクティーを製造した(タンニン濃度は170.0mg%)。
官能評価は、製造例2と同様に実施した(表11)。その結果、実施例4では、香りのバランスのよく、こげ臭が抑制された焙煎香が引き立つ、紅茶らしい苦渋味、コク味をもつ、香と味の一体感のあるミルクティーが得られた。比較例1では、酸化臭が感じられ、比較例5ではこげ臭が目立ち、ミルクティーとしてふさわしいものではなかった。
【0052】
【表11】
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の方法により製造された茶葉は、焙煎によるこげ臭の発生を十分抑制しながら、長期保管によって発生する酸化臭を減少させ、香味の優れた茶葉であり、該焙煎茶を抽出して得られる茶抽出物は茶飲料のベース素材に利用できる他、乳入り茶飲料などに添加し、渋味、コク味(ボディー感)の付与剤としても利用することができる。