特許第6850669号(P6850669)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6850669-燻煙剤組成物 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6850669
(24)【登録日】2021年3月10日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】燻煙剤組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/18 20060101AFI20210322BHJP
   A01N 25/20 20060101ALI20210322BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20210322BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20210322BHJP
   A61L 2/22 20060101ALI20210322BHJP
   A61L 9/03 20060101ALI20210322BHJP
   A01M 1/20 20060101ALN20210322BHJP
   A61L 101/02 20060101ALN20210322BHJP
   A61L 101/32 20060101ALN20210322BHJP
   A61L 101/34 20060101ALN20210322BHJP
【FI】
   A01N25/18 103
   A01N25/20 101
   A01N59/16 A
   A01P3/00
   A61L2/22
   A61L9/03
   !A01M1/20 R
   A61L101:02
   A61L101:32
   A61L101:34
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-86474(P2017-86474)
(22)【出願日】2017年4月25日
(65)【公開番号】特開2018-184359(P2018-184359A)
(43)【公開日】2018年11月22日
【審査請求日】2020年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】山岸 弘
(72)【発明者】
【氏名】柳曽 聡美
【審査官】 進士 千尋
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−099001(JP,A)
【文献】 特開2000−351702(JP,A)
【文献】 特開2003−089611(JP,A)
【文献】 特開2015−044876(JP,A)
【文献】 特開平05−017306(JP,A)
【文献】 特開平02−006401(JP,A)
【文献】 特開平03−149054(JP,A)
【文献】 特開平11−246306(JP,A)
【文献】 特開昭58−032801(JP,A)
【文献】 特開2000−342155(JP,A)
【文献】 特開2002−193702(JP,A)
【文献】 特開2010−280577(JP,A)
【文献】 特表2006−501126(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/098730(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第104256849(CN,A)
【文献】 特許第3453292(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/18
A01N 59/16
A01P 3/00
A61L 2/22
A61L 9/03
A01N 25/20
A61L 101/02
A61L 101/32
A61L 101/34
A01M 1/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(C)成分を含有し、
前記(B)成分の含有量が燻煙剤組成物の総質量に対し、50〜90質量%であり、
(B)成分/(C)成分で表される質量比が10〜350である燻煙剤組成物。
(A)成分:薬剤。
(B)成分:発泡剤。
(C)成分:無機水酸化物。
【請求項2】
前記(C)成分が、2価の金属を含む、請求項1に記載の燻煙剤組成物。
【請求項3】
前記(C)成分が、ヒドロキシアパタイト、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、及び水酸化銅からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の燻煙剤組成物。
【請求項4】
前記(A)成分が、無機薬剤である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の燻煙剤組成物。
【請求項5】
筒状の本体、底部、及び蓋部を備える筐体と、
前記筐体内に発熱剤が収容されてなる加熱部と、
前記筐体内に設けられ前記加熱部の上方に位置する金属製の燻煙剤容器とを備え、
前記燻煙剤容器に請求項1〜4のいずれか一項に記載の燻煙剤組成物が充填されてなる、間接加熱型燻煙装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燻煙剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
燻煙剤組成物(以下、燻煙剤ともいう)は、有機発泡剤等の発熱性基剤と、有効成分である有害生物駆除用の薬剤等を含有する。燻煙剤組成物は、燻煙装置に伝熱部を挟んで、発熱剤とともに収容される。発熱剤は、例えば水と反応して発熱するもの等が用いられる。発熱剤から発生した熱は伝熱部を介して燻煙剤に伝えられる。発熱剤からの熱により燻煙剤中の発熱性基剤が分解され、分解により発生するガス及び煙粒子の働きにより、薬剤を短時間に空気中に噴出、拡散させる。これにより、有害生物の防除等を行うことができる。
【0003】
特許文献1は、薬剤と、アルカリ剤とを含む加熱蒸散型燻煙剤を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−99001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の燻煙剤組成物では、ピンク色のヌメリの原因菌であるMethylobacterium sp.等に対する除菌効果は充分ではなかった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、薬剤の効能を高めることができる燻煙剤組成物を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、以下の燻煙剤組成物が、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち本発明は、以下の態様を有する。
[1]下記(A)〜(C)成分を含有し、
(B)成分/(C)成分で表される質量比が10〜350である燻煙剤組成物。
(A)成分:薬剤。
(B)成分:発泡剤。
(C)成分:無機水酸化物。
[2]前記(C)成分が、2価の金属を含む、[1]に記載の燻煙剤組成物。
[3]前記(C)成分が、ヒドロキシアパタイト、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、及び水酸化銅からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]又は[2]に記載の燻煙剤組成物。
[4]筒状の本体、底部、及び蓋部を備える筐体と、
前記筐体内に発熱剤が収容されてなる加熱部と、
前記筐体内に設けられ前記加熱部の上方に位置する金属製の燻煙剤容器とを備え、
前記燻煙剤容器に[1]〜[3]のいずれか一項に記載の燻煙剤組成物が充填されてなる、間接加熱型燻煙装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、薬剤の効能を高めることができる燻煙剤組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】燻煙装置の一例を示す断面図である。
図2】実施例において使用した評価室の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の燻煙剤組成物は、以下の(A)〜(C)成分を含有する。
【0010】
<(A)成分:薬剤>
(A)成分は薬剤である。(A)成分を用いることで、殺菌、抗菌、防カビ、抗カビ等の微生物抑制効果や、消臭効果、殺虫効果等を発揮できる。
【0011】
(A)成分は、燻煙剤の目的に応じて、適宜選択される。(A)成分としては、例えば、殺菌剤、抗菌剤、除菌剤、防カビ剤、抗カビ剤、消臭剤、殺虫剤等として作用するものが挙げられる。これらの(A)成分は従来から、燻煙剤に用いられている、有機系薬剤、銀化合物等を使用することが出来る。
【0012】
有機系薬剤としては、例えば、3−メチル−4−イソプロピルフェノール(IPMP)、3−ヨード−2−プロピニルブチルカーバメイト(IPBC)、o−フェニルフェノール(OPP)、メトキサジアゾン等が挙げられ、IPMPやIPBCが好ましい。
銀系化合物としては、例えば、有効成分として、抗菌・殺菌・除菌・防カビ・抗カビ・消臭作用を持つ銀単体;酸化銀;塩化銀、硝酸銀、硫酸銀、炭酸銀、スルホン酸銀塩等の無機銀塩;蟻酸銀、酢酸銀等の有機銀塩等の銀化合物を含むものが挙げられる。
【0013】
また、前記の銀化合物をゼオライト、シリカゲル、低分子ガラス、リン酸カルシウム、ケイ酸塩、酸化チタン等の物質(以下、担体ということがある)に担持させたもの(以下、担持体ということがある)でもよい。担持体としては、例えば、銀単体、酸化銀、無機銀塩、有機銀塩等の銀化合物を担持したゼオライト系抗菌剤、シリカゲル系抗菌剤、酸化チタン系抗菌剤、ケイ酸塩系抗菌剤等が挙げられる。
中でも、(A)成分としては、(A)成分由来の臭気をより低減する観点から、銀単体、酸化銀、硝酸銀等の無機銀塩又はこれらを担体に担持させた銀含有無機薬剤が好ましい。特に銀化合物を担持したゼオライト系抗菌剤が好ましい。無機薬剤を用いることで、燻煙処理時及び燻煙処理後における(A)成分由来の臭気をより低減できる。
これらの(A)成分は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0014】
(A)成分の形態は特に限定されないが、対象空間の広さ等を勘案して決定できる。(A)成分として銀化合物を用いる場合は、粒子が微細であるほど、飛散率が高まって、(A)成分の効果を十分に発揮できると共に、広域に拡散される。一方、(A)成分の粒子は、小さすぎると拡散した後に落下しにくくなり、対象空間の下方における(A)成分の効果の発現までに時間を要する。
例えば、(A)成分として銀系化合物を用いた場合は、体積平均粒子径は、0.01〜1000μmが好ましく、0.5〜100μmがより好ましく、1〜5μmがさらに好ましい。本発明の燻煙剤組成物においては、このような比較的大きな粒子径の(A)成分であっても、飛散して拡散することができる。ここで、「飛散」とは、(A)成分を対象空間に拡散できる状態にすることを意味する。
なお、体積平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(LA910、株式会社堀場製作所製)により求められる値をいい、次のようにして測定できる。(A)成分を固形分1質量%となるように蒸留水に分散して試料とする。この試料をレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置に投入し、装置内で超音波によって分散後、レーザーを照射して粒度分布を測定する。体積頻度の累積が50%(体積)となる径を平均粒子径とする。
【0015】
(A)成分の含有量は、(A)成分の種類や有効成分濃度、燻煙剤に求める機能に応じて決定される。
銀を含む薬剤の場合、燻煙剤組成物中の銀濃度が0.001〜0.5質量%となる量が好ましく、0.05〜0.1質量%となる量がより好ましい。上記数値範囲内であると、(A)成分の効果が得られやすくなる。
0.001質量%より少ないと微生物に対する除菌効果が低下する。0.5質量%超えても除菌効果が飽和しコストが増大するほか、相対的に他の成分の含有量が少なくなり、有効成分の飛散率が低下するおそれがある。
【0016】
一方、有機系薬剤(IPMP等)の場合、(A)成分の含有量は、燻煙剤組成物の総質量に対し、1〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましい。(A)成分の含有量が上記数値範囲内であれば、(A)成分による効果が充分に得られやすい。
1質量%より少ないと微生物に対する除菌効果が低下する。30質量%超えても除菌効果が飽和しコストが増大するほか、相対的に他の成分の含有量が少なくなり、有効成分の飛散率が低下するおそれがある。
【0017】
<(B)成分:発泡剤>
(B)成分は、発泡剤である。(B)成分としては、加熱により熱分解して多量の熱を発生すると共に、炭酸ガスや窒素ガス等(以下、総じて発泡ガスという)を発生するものが用いられ、例えば、アゾジカルボンアミド、p,p’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、アゾビスイソブチロニトリル、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。中でも、分解温度、発泡ガスの発生量等の観点から、アゾジカルボンアミドが好ましい。
これらの(B)成分は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられても良い。
【0018】
(B)成分の含有量は、(B)成分の種類や(A)成分の粒子径等を勘案して決定することができる。
(B)成分の含有量は、燻煙剤組成物の総質量に対し、50〜90質量%が好ましく、60〜85質量%がより好ましい。上記下限値以上であると、(A)成分を効率よく飛散しやすい。上記上限値以下であると、(B)成分の分解物の飛散量が少なくなり、対象空間を汚染しにくくなる。
【0019】
<(C)成分:無機水酸化物>
(C)成分は無機水酸化物である。本明細書において無機水酸化物とは、無機塩のうち、水酸基を持つ化合物のことである。
無機水酸化物としては、金属の水酸化物、水酸基を有する鉱物等が挙げられる。
金属の水酸化物としては、1価金属の水酸化物(例えば、LiOH、NaOH、KOH等)、2価金属の水酸化物(例えば、Mg(OH)、Ca(OH)、Zn(OH)、Cu(OH)等)、3価金属の水酸化物(例えば、Al(OH)、Fe(OH)等)が挙げられる。なかでも2価の金属を含むものが好ましい。
水酸化物を有する鉱物としては、ヒドロキシアパタイト(Ca10(PO(OH))、ダイアスポア(AlO(OH))、アタカマ石(Cu(OH)Cl)、孔雀石(Cu(CO)(OH))、トルコ石(CuAl(PO(OH))等が挙げられる。なかでも2価の金属を含むものが好ましい。
これらの中でもさらに好ましいのは、ヒドロキシアパタイト、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化銅である。
なお、ヒドロキシアパタイトは、中性もしくはアルカリ性の水溶液中でとリン酸を室温で反応させて得ることができる。
これらの(C)成分は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0020】
(C)成分の平均粒子径は0.1〜100μmが好ましく、1〜50μmがより好ましい。
尚、平均粒子径は(A)成分と同様にレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(LA910、株式会社堀場製作所製)によって求められる。
【0021】
(C)成分の含有量は、燻煙剤組成物の総質量に対し、0.20〜7.0質量%が好ましく、0.5〜5.0質量%がより好ましく、1.0〜3.0質量%がさらに好ましい。上記下限値以上であると、成分(A)を効率よく飛散しやすい。上記上限値以下であると、成分(B)の異常分解が起こらず、分解物の飛散量が少なくなり、対象空間を汚染しにくくなる。
【0022】
(B)成分/(C)成分で表される質量比(以下、B/C比ともいう)は10〜350であり、14.0〜140.0が好ましく、20.0〜70.0がさらに好ましい。上記数値範囲内であると、薬剤の飛散率が向上し、燻煙処理時の除菌効果(特にピンク色のヌメリの原因菌に対する除菌効果)をより向上しやすい。
【0023】
<任意成分>
また、本発明の燻煙剤組成物は、(A)〜(C)成分に加えて、(A)〜(C)成分以外の任意成分を含有してもよい。
任意成分としては、例えば、結合剤、界面活性剤、賦形剤、発熱助剤、安定剤、効力増強剤、酸化防止剤、賦香剤等が挙げられる。
任意成分は、1種単独で用いられても良いし、2種以上が組み合わされて用いられても良い。
【0024】
本発明の燻煙剤組成物に結合剤が含有されると、顆粒成形性が向上する。
結合剤としては、例えば、セルロース類(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等。)、デンプン系高分子化合物(デンプン、スターチ等。)、天然系高分子化合物(アラビアゴム等。)、合成高分子化合物(ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等。)等が挙げられる。
【0025】
本発明の燻煙剤組成物が結合剤を含有する場合、本発明の燻煙剤組成物(100質量%)中の結合剤の含有量は、3〜8質量%が好ましい。結合剤の含有量が下限値以上であれば、設置から燻煙開始までの時間をより長くすることができ、燻煙開始時に使用者が被煙することを防ぎやすい。結合剤の含有量が上限値以下であれば、良好な燻煙性能(噴出力)が得られやすい。
【0026】
賦形剤としては、例えば、(C)成分以外の無機系鉱物質(クレー、石英、水晶等)等が挙げられる。
本発明の燻煙剤組成物に賦形剤が含有される場合、本発明の燻煙剤組成物(100質量%)中の賦形剤の含有量は、2〜45質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。賦形剤の含有量が下限値以上であれば、顆粒成形性が向上し、燻煙性能がより安定になる。賦形剤の含有量が上限値以下であれば、充分な燻煙性能(噴出力)が得られやすい。
【0027】
発熱助剤としては、例えば、酸化亜鉛、リン酸カルシウム、メラミン等が挙げられる。
安定剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドキシアニソール、没食子酸プロピル、エポキシ化合物(エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油等。)等が挙げられる。
効力増強剤としては、例えば、ピペロニルブトキサイド、S−421等が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、トコフェロール等が挙げられる。
(A)〜(C)成分、任意成分の含有量の合計は、100質量%を超えない。
【0028】
<燻煙剤組成物の製造方法>
本発明の燻煙剤組成物は、粉状、粒状、錠剤などの固形製剤として調製される。
燻煙剤組成物の製造方法としては、目的とする剤形に応じて、公知の製造方法が用いられる。例えば、粒状の製剤とする場合は、押出し造粒法、圧縮造粒法、撹拌造粒法、転動造粒法、流動層造粒法等、公知の造粒物の製造方法が用いられる。
燻煙剤組成物は、(A)〜(C)成分を混合することにより得られる。
【0029】
押出し造粒法による製造方法の具体例として、燻煙剤組成物の各成分を、ニーダー等により混合し、必要に応じて適量の水を加えて混合し、得られた混合物を任意の開孔径を有するダイスを用い、前押出しあるいは横押出し造粒機で造粒する方法が挙げられる。該造粒物をさらにカッター等で任意の大きさに切断し、水分除去のための乾燥を行っても良い。
乾燥方法は、例えば、従来公知の乾燥機を用いた加熱乾燥法が挙げられる。
乾燥温度は、特に限定されないが、香料等の揮発を抑制する点から、50〜80℃が好ましい。
乾燥時間は、乾燥温度に応じて適宜決定される。
乾燥した後の燻煙剤組成物の水分含量は、特に限定されないが、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、0質量%であってもよい。水分含量が5質量%以下であると(A)成分の飛散率が良好である。
【0030】
<燻煙剤組成物の使用方法>
本発明の燻煙剤組成物を用いた燻煙方法は、公知の方法を採用できる。例えば、金属製容器、セラミック製容器等の容器に本発明の燻煙剤組成物を収容し、密閉した対象空間内で、直接的又は間接的に燻煙剤を加熱することによって燻煙する方法が挙げられる。
燻煙剤を間接的に加熱することで、直接的に加熱するよりも、燻煙時の(A)成分や(B)成分に由来する臭気の低減や、燻煙剤の燃えカス等による屋内汚染を低減しやすい。
対象空間としては、特に限定されず、例えば、浴室、居室、押入れ、トイレ等が挙げられる。
【0031】
燻煙剤を間接的に加熱する方法としては、燻煙剤を燃焼させることなく、(B)成分が熱分解し得る温度まで燻煙剤に熱エネルギーを供給できるものであればよく、間接加熱方式の燻煙方法に通常用いられる公知の加熱方法を採用できる。
具体的には、例えば、水と接触して発熱する物質と水とを接触させ、その反応熱を利用して燻煙剤を加熱する方法(i)、鉄粉と酸化剤(塩素酸アンモニウム等。)との混合による酸化反応、又は金属と該金属よりイオン化傾向の小さい金属酸化物もしくは酸化剤との混合による酸化反応により発生する熱を利用して燻煙剤を加熱する方法(ii)等が挙げられる。なかでも、実用性の点から、方法(i)が好ましい。
【0032】
水と接触し発熱する物質としては、酸化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化鉄等が挙げられる。なかでも、水と接触して発熱する物質としては、実用性の点から、酸化カルシウムが好ましい。
【0033】
本発明の燻煙剤組成物の使用量は、燻煙処理を行う空間の容積に応じて適宜設定すればよく、1mあたり0.1〜2.4gが好ましく、0.4〜2.0gがより好ましい。
燻煙処理時間(燻煙開始後、対象空間の密閉を解除するまでの時間)は、特に限定されないが、60分程度が好ましく、30分未満では除菌効果が不十分な場合があり、120分以上では使い勝手が低下してしまう。
【0034】
以下、本発明の燻煙剤組成物を用いた燻煙方法の一例として、図1に例示した燻煙装置10を用いた燻煙方法について説明する。
燻煙装置10は、図1に示すように、筐体12と、筐体12の内部に設けられた加熱部20と、筐体12の内部に設けられた燻煙剤部32とで概略構成されている。筐体12は略円筒状の本体14と、底部16と、本体14の上部に設けられた蓋部18とで構成されている。筐体12内には、燻煙剤容器30が設けられ、燻煙剤容器30に燻煙剤組成物が充填されて燻煙剤部32が形成されている。
【0035】
蓋部18は、貫通孔を有するものであり、メッシュ、パンチングメタル、格子状の枠体等が挙げられる。蓋部18の材質は、例えば、金属、セラミック等が挙げられる。
本体14の材質は蓋部18と同じである。
【0036】
燻煙剤容器30は、燻煙剤部32を充填する容器として機能すると共に、加熱部20で生じた熱エネルギーを燻煙剤部32に伝える伝熱部として機能するものである。燻煙剤容器30は、例えば金属製の容器等が挙げられる。
【0037】
加熱部20は、特に限定されず、燻煙剤部32の飛散に必要な熱量を考慮して適宜決定できる。加熱部20としては、前記した水と接触して発熱する物質を充填して形成したものが好ましく、酸化カルシウムを充填して形成したものが特に好ましい。また、加熱部20は、鉄粉と酸化剤とを仕切り材で仕切って充填して形成してもよく、金属と該金属よりイオン化傾向の小さい金属酸化物又は酸化剤とを仕切り材で仕切って充填して形成してもよい。
【0038】
底部16は、加熱部20の機構に応じて適宜決定すればよい。例えば、加熱部20が水と接触して発熱する物質(酸化カルシウム等。)により構成されている場合、底部16には不織布や金属製のメッシュ等を用いることができる。底部16を不織布や金属製のメッシュとすることで、底部16から水を加熱部20内に浸入させて反応熱を発生させ、燻煙剤組成物を加熱することができる。
【0039】
燻煙装置10を用いた燻煙方法では、まず燻煙装置10を対象空間内に設置する。次いで、加熱部20の機構に応じて加熱部20を発熱させる。例えば、酸化カルシウムを充填した加熱部20が設けられている場合、底部16を水に浸漬する。加熱部20が発熱すると、燻煙剤容器30を介して燻煙剤部32が加熱される。加熱された燻煙剤部32の燻煙剤組成物は、(B)成分の分解によってガスが生じ、該ガスと共に(A)成分が飛散し、蓋部18の貫通孔を通過して噴出する。これにより、対象空間内に(A)成分が拡散して、(A)成分の効果が得られる。
【0040】
以上、説明した通り、本発明の燻煙剤組成物は、(A)〜(C)成分を含み、かつB/C比が特定の範囲内であることにより、薬剤の効能を向上させることができる。
本発明の燻煙剤組成物は、特に居室や浴室用の微生物制御用(防カビ、抗カビ等)の燻煙剤として好適である。なかでも、浴室用防カビ燻煙剤であることが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
各例の燻煙剤組成物の組成(含有量(質量%))を表2〜5に示す。
表中、空欄の配合成分がある場合、その配合成分は配合されていない。
表中、「バランス」は、燻煙剤組成物に含まれる全配合成分の合計の配合量が100質量%となるように加えられる残部を意味する。
本実施例において使用した原料は下記の通りである。
【0042】
<(A)成分>
・A−1:銀担持ゼオライト系無機抗菌剤(商品名:ゼオミックAJ10N 銀含量2.5質量% 、平均粒子径約2.5μm、(株)シナネンゼオミック製)ゼオライトは結晶性。
・A−2:3−メチル−4−イソプロピルフェノール(IPMP)(商品名:ビオゾール、大阪化成(株)製)。
<(B)成分>
・B−1:アゾジカルボンアミド(商品名:ダイブローAC.2040(C)、大日精化工業(株)製)。
<(C)成分>
・C−1:ヒドロキシアパタイト(商品名:アパリン、平均粒子径5.8μm、(株)サンギ製)。
・C−2:ヒドロキシアパタイト(商品名:Hydroxyapatite C、平均粒子径100μm、富田製薬(株))。
・C−3:水酸化カルシウム(試薬、平均粒子径5μm、関東化学(株)製)。
・C−4:水酸化マグネシウム(試薬、粒子径1〜2μm、関東化学(株)製)。
・C−5:水酸化亜鉛(試薬、粒子径15nm〜15μm、Chem Impex(株)製)。
・C−6:水酸化銅(試薬、粒子径0.1μm〜50μm、関東化学(株)製)。
・C−7:水酸化アルミニウム(試薬、粒子径1〜35μm、関東化学(株)製)。
・C−8:水酸化ナトリウム(試薬、粒子径0.5μm〜15μm、関東化学(株)製)。
・C’−1:リン酸三カルシウム(試薬、平均粒子径5μm、関東化学(株)製)。
・C’−2:酸化カルシウム(試薬、粒子径0.1μm〜50μm、関東化学(株)製)。
・C’−3:炭酸カルシウム(試薬、粒子径1〜30μm、純正化学(株)製)。
・C’−4:塩化カルシウム(試薬、粒子径1.5〜5μm、関東化学(株)製)。
・C’−5:酸化亜鉛(日本薬局方 酸化亜鉛、平均粒径0.6μm、真比重5.6g/cm(20℃)、堺化学工業株式会社製)。
<任意成分>
・HPMC:ヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名:メトローズ60SH−50、信越化学工業株式会社製)。
・香料:表1に記載の香料組成物。
・クレー:(商品名:NK−300、昭和KDE株式会社製)。
【0043】
【表1】
【0044】
<燻煙剤組成物の製造方法>
室温(20℃)条件下において、表に示す組成に従い、各成分をニーダー(S5−2G型、株式会社モリヤマ製)で攪拌混合した後、組成全量を100部として10部の水を加えて混合し混合物を得た。得られた混合物を直径2mmの開孔を有するダイスの前押し出し造粒機(EXK−1、株式会社不二パウダル製)を用い造粒し造粒物を得た。得られた造粒物をフラッシュミル(FL300、株式会社不二パウダル製)により長さ2〜5mmに切断し、70℃に設定した乾燥機(RT−120HL、アルプ株式会社製)により2時間乾燥させ、顆粒状の燻煙剤を得た。
【0045】
<充填方法>
底面に不織布を用い略円筒状の本体からなる筐体に酸化カルシウム56gを充填し加熱部とした。燻煙剤容器に各例の燻煙剤組成物5gを充填し燻煙装置を作製した。
【0046】
<除菌効果の評価>
図2に示すように、1818タイプ(メーターモジュール用)の浴室とほぼ同体積の密閉可能な評価室100(床面から天井面までの高さ:約2m)の床隅に、下記の方法(1)で作成した供試用プラスチック板1(菌を接種したプラスチック板)を、菌を接種した面を上側に向けて取り付けた。
評価室の床中央部に23mLの水を入れた給水用プラスチック容器を設置した。
作製した燻煙装置10に燻煙剤組成物5gを入れ、燻煙装置10を給水用プラスチック容器に入れて燻煙を開始し、評価室100を密閉した。
発煙が開始してから60分後に排気し、回収したプラスチック板1から下記の方法(2)で菌を回収し、トリプトソイ寒天培地に塗抹接種して、30℃にて3日間培養した後のコロニーを計測した。
未処理のプラスチック板から菌を回収し、トリプトソイ寒天培地に塗抹接種して、30℃にて3日間培養した後のコロニーを計測した。
(1)供試用プラスチック板作製方法
(細菌に対する除菌評価)
トリプトソイ寒天(Difco社製)の平板培地にて30℃、3日間培養したMethylobacterium sp.を、滅菌した0.05%Tween80(関東化学製)水溶液にて約10CFU/mLの菌液を調製した。次いで、該菌液をプラスチック板(FRP板、50mm×50mm)に0.5mL接種し、室温にて乾燥固定した(薄膜状、板上の菌数は約10CFU)。
(2)プラスチック板から菌の回収方法
菌を接種したプラスチック板とSCDLP培地(日本製薬社製)10mLを滅菌プラスチックシャーレ(アズワン社製)に入れ、滅菌したピペットの先端で撹拌し、プラスチック板から菌を抽出した。
プラスチック板から回収した菌液を、計測可能な濃度となるように生理食塩水で適宜希釈したものを、トリプトソイ寒天培地に塗抹接種して、30℃にて3日間培養した後、目視により、形成されたコロニー数を計測した。計測したコロニー数と菌液の希釈倍率から生菌数を求め、その値を「処理後の菌数」とした。
上記の結果から、下記の評価基準に従い、除菌効果を評価した。
【0047】
[評価基準]
床の隅部に設置したプラスチック板及び未処理のプラスチック板について求めた菌数を常用対数(log)に変換し、未処理の菌数から処理後の菌数を差し引いた値(log(未処理菌数)−log(処理後の菌数))を求め、その値を除菌活性値とした。その値から、下記の基準で除菌効果を判定した。◎◎◎〜○を合格とした。
(判定基準)
◎◎◎:除菌活性値が4以上
◎◎ :除菌活性値が3.5以上4未満
◎ :除菌活性値が3以上3.5未満
○ :除菌活性値が2以上3未満
△ :除菌活性値が1以上2未満
× :除菌活性値が1未満
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
表2〜5に示す結果から、本発明を適用した実施例1〜23は、除菌活性において優れていた。
B/C比が10未満の比較例1は、除菌活性において劣っていた。
B/C比が350超の比較例2は、除菌活性に劣っていた。
(C)成分の代わりに各種の無機化合物を使用した比較例3〜7は、除菌活性において劣っていた。
(C)成分を含まない比較例8は、除菌活性において劣っていた。
B/C比が10未満の比較例9は、除菌活性において劣っていた。
B/C比が350超の比較例10は、除菌活性に劣っていた。
【符号の説明】
【0053】
10 燻煙装置
20 加熱部
30 燻煙剤容器
32 燻煙剤部
1 供試用プラスチック板
100 評価室
図1
図2