(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6850787
(24)【登録日】2021年3月10日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】振動アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
B06B 1/04 20060101AFI20210322BHJP
H02K 33/18 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
B06B1/04 S
H02K33/18 B
【請求項の数】15
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-501859(P2018-501859)
(86)(22)【出願日】2016年6月23日
(65)【公表番号】特表2018-521846(P2018-521846A)
(43)【公表日】2018年8月9日
(86)【国際出願番号】EP2016064522
(87)【国際公開番号】WO2017009017
(87)【国際公開日】20170119
【審査請求日】2019年4月30日
(31)【優先権主張番号】102015111527.1
(32)【優先日】2015年7月16日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518008769
【氏名又は名称】ロフェルト・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100077861
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 勝三
(72)【発明者】
【氏名】ベレツアーク,アミール
(72)【発明者】
【氏名】ビュッツナー,ダニエル
【審査官】
三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】
実用新案登録第2592066(JP,Y2)
【文献】
国際公開第03/010998(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0098838(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0221283(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B06B 1/04
H02K 33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動アクチュエータであって、
互いに対向する同じ極性で配置された少なくとも2つの磁石(1)を含む固定磁性部分と、
前記磁性部分を収容する空洞(5)を有する中空部材(4)であって、前記中空部材が管を形成するように2つの開放した端部を有する中空部材、及び
前記中空部材(4)の周りに巻き付けられ固定された少なくとも1つのコイル(2)
を含む可動受け部分と、
前記磁性部分及び前記中空部材(4)を互いに接続する弾性手段(6)と、
シャシ(7)と、
を備え、
前記固定磁性部分が取付け手段(8,10)を介して前記シャシに固定され、
前記弾性手段(6)が、前記中空部材(4)の前記開放した両端部に取り付けられるとともに、前記磁石(1)の配列の長手方向外側端部において前記取付け手段(10)に取り付けられ、
交流電流が前記コイル(2)を通過するときに、前記可動受け部分が方向を変化して直線運動を行い、振動を生じさせる、振動アクチュエータ。
【請求項2】
前記磁石(1)の間に非磁性材料から成るスペーサ(3)が設けられている、請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記少なくとも1つのコイル(2)が、前記中空部材(4)の中心部分の周りに巻かれている、請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
前記取付け手段(8)を摺動可能に受け入れる2つのスロット(9)が、前記中空部材(4)の前記シャシ(7)に面する側の中央部分の外側で前記中空部材(4)を通って延びる、請求項3に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記磁性部分と前記弾性手段(6)が、少なくとも1つのロッド(11)によって互いに保持される、請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記弾性手段(6)が、穿孔された平坦な弾性金属又は穿孔された平坦なプラスチック膜(6)である、請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項7】
穿孔が、前記膜の端縁の3つの側面を追跡し且つビームの自由端のように作用する半島を作り出す、C字形又はU字形の穴(12)から成る、請求項6に記載のアクチュエータ。
【請求項8】
前記膜(6)がベリリウム銅から作られる、請求項6又は7に記載のアクチュエータ。
【請求項9】
前記中空部材(4)及び前記コイル(2)を部分的に取り囲む強磁性材料の磁気誘導手段が、前記磁性部分の長手方向外側端部に取り付けられる、請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項10】
前記磁気誘導手段が、前記磁石(1)の配列から外側に延び、次に前記中空部材(4)及び前記少なくとも1つのコイル(2)を越えて半径方向外側に延び、次いで、前記少なくとも2つの磁石(1)が互いに対向する領域まで再び長手方向内側に延びる、請求項9に記載のアクチュエータ。
【請求項11】
振動アクチュエータの製造方法であって、
少なくとも1つのロッド(11)を使用して専用の組立治具に少なくとも2つの磁石(1)を組み付けることによって磁性部分を組み立てる工程であって、前記磁石(1)を互いに同じ極性で向き合わせ、それらの間に間隙を備える工程と、
2つのスロット(9)を備える中空部材(4)の周りに自己結合性銅線の少なくとも1つのコイル(2)を巻き付け、前記コイル(2)を前記スロット(9)の間の前記中空部材(4)の長手方向中央部分に位置させること、及び、
前記コイル(2)が前記中空部材(4)と強固に結合するように、前記コイル(2)及び前記中空部材(4)を加熱すること、
によって可動部分を組み立てる工程と、
前記可動部分に前記磁性部分を挿入する工程と、
前記磁性部分の長手方向外側端部及び前記中空部材(4)の外側端部に弾性材料の手段(6)を取り付ける工程と、
前記中空部材(4)の前記スロット(9)を通って延びる前記取付け部材(8)を介して、前記シャシ(7)に前記磁性部分を取り付ける工程と、
を備える、製造方法。
【請求項12】
前記磁石(1)の間の間隙に、非磁性材料から成るスペーサ(3)が設けられている、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記磁性部分の長手方向外側端部及び前記中空部材(4)の外側端部に弾性材料の手段(6)を取り付ける前記工程の前に、弾性材料から膜をレーザー切断して弾性手段(6)を提供する工程をさらに備える、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記膜(6)が平坦であり、ベリリウム銅から作られる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
フェライト材料から磁気誘導手段を高圧成形する工程と、
前記磁性部分の長手方向外側端部及び前記中空部材(4)の外側端部に弾性材料の手段(6)を取り付ける前記工程の後に、前記磁性部分の長手方向外側端部に前記磁気誘導手段を接着する工程と、
をさらに備える、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ビデオ、ゲーム及び音楽のための没入感のある体験、その他の没入感のある体験を創出する高精細触覚フィードバックのための小型の振動触覚アクチュエータなどの様々な用途のための振動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
我々が伝統的に聴いている音楽の大部分は、複数の楽器や声のミックスされた音楽信号などの、幾つかの信号を加えて得られた複雑な信号とみなすことができる。特に複雑な音楽信号を電子的に記録及び再生することが可能になると、更なる態様、すなわち、電気信号を音響再生時に聴取者が知覚する音波に変換することが重要となる。再生時の歪みの問題を低減するために、米国特許第3,118,022号は、2つの導電性部材と、エレクトレット及び導電性材料を含み、2つの導電性部材の間に支持されたダイヤフラムと、前記ダイヤフラムと2つの導電性部材とを電気的に接続するための機構とを備える電気音響変換器を開示している。
【0003】
一方、音と振動の結合された知覚はよく知られた現象である。音は、気体(空気中の音)又は固体(構造上の音)のような圧縮可能な媒体を伝播する機械的な波であり、音響エネルギーは振動する分子を介して伝送され、聴取者の蝸牛の振動する有毛細胞によって受け取られる。他方、振動は、接触面を介して知覚者の身体の小部分又は大部分を励起する機械的刺激である。音と振動の結合された知覚は、人間の脳が耳だけでなく骨格を介して音を受け取り、コンサートホールや教会での測定で全身の振動の存在を確認するという事実に基づいている。低周波の体の知覚は、生き生きとした音楽や楽しいものが望まれる音楽感覚の没入感のある体験にとって特に重要である。
【0004】
従って、高精細触覚フィードバックは、ビデオ、ゲーム及び音楽のための没入感のある体験、及び、振動が連続的な可聴(又は可視)信号に結合される他の没入感のある体験を創出するために使用することができる。デバイスが連続的な高精細触覚フィードバックを達成するための主な要件は次のとおりである。
1.特に音楽のために、この範囲にわたって良好な品質の振動を生成することができるように、理想的には20〜1000Hzの広い周波数範囲、
2.効果的な加速のために重い移動質量、
3.携帯用又はウェアラブルなデバイスを作るために小型の、特にフラットなサイズ、
4.中断のない使用を可能にする高出力効率、
5.音響体験の妨害を避けるために静かな振動、
6.継続的な使用を可能にする安定した性能、
7.手頃な価格のデバイスを提供するために費用効率の高い製造。
【0005】
人に一般的な触覚体験を実現するための異なる振動装置が知られている。偏心モータは、モータの回転ロッドに取り付けられた偏心質量を使用する。これらのモータは広く使用されており、非常に小さくすることができる。しかしながら、それらには幾つかの欠点がある。これらのモータは非常に狭い周波数範囲で動作し、高い振動力を発揮せず、且つ、継続的な使用を意図していないため、音響体験を強化し、特に音楽を含む多くの用途には適していない。
【0006】
電気活性ポリマーは、圧電モータに非常に類似しているが、より高い相対質量変位を有する。それらはまだ開発の初期段階にあり、その欠点の1つは、偏心モータのように、材料の特性のために継続的な使用に適しておらず、従って、モータの挙動が急速に変化するため、音響体験を強化し、特に音楽を含む継続的な使用には適していない。
【0007】
振動性ボイスコイル又は可動磁石型アクチュエータは、通常、産業用途で使用され、一方が移動し他方が静止している2つの部分から成るボイスコイル又は移動磁石型アクチュエータを使用し、この2つの部分は弾性アタッチメントによって互いに接続されている。振動は、可動永久磁石とその周囲の固定コイルとの相互作用によって生成され、ラプラス力のために、コイルを通過する交流電流が磁石の磁場と相互作用し、磁石上で変化する方向の機械的な力を発生し、これは、方向を変えて磁石を直線的に動かし、振動を引き起こす。しかしながら、標準的な線形共振アクチュエータは、非常に狭い周波数範囲を有しており、音響体験を強化し、特に音楽を含む多くの用途には適さなくなる。欧州特許出願公開第0580117号明細書は、制御機器、電子機器、工作機械等における工業用の可動磁石型アクチュエータを開示している。アクチュエータの性能を向上させるために、固定部分は少なくとも3つのコイルから成り、可動部分は、磁石の間の平面内に高密度の磁場が形成されるため、磁束がより効果的に利用されるように同じ極性を互いに対向して配置された少なくとも2つの永久磁石から成る。磁石とコイルとを互いに接続する弾性アタッチメントは、圧縮スプリングから成る。しかしながら、磁力線は、一旦周囲のコイルを横切ると、失われ、磁石に誘導されず、潜在的な磁場の浪費となる。さらに、すべての産業用振動器のように、このアクチュエータは騒音が強く、音の質の向上、特に音楽を含む多くの用途には適していない。米国特許出願公開第2014/0346901号明細書は、同じ極性が互いに対向するように配置された永久磁石を含む可動部分を有する産業用の同様の可動磁石型アクチュエータを開示しているが、弾性アタッチメントは圧縮ばねではなく弾性ダイヤフラムから成る。欧州特許出願公開第0580117号明細書のアクチュエータのように、磁力線の損失による潜在的な磁場の浪費が依然として存在し、アクチュエータはノイズが大きいので、音響体験を強化し、特に音楽を含む多くの用途には適さなくなる。
【0008】
従って、上述した先行技術に鑑みて、上述した従来技術の欠点を克服し、且つ、上記の要件を満たすことによって、ビデオ、ゲーム及び音楽のための没入感のある体験を創出する高精細触覚フィードバックを含む様々な用途に使用できる振動アクチュエータが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、大きな周波数範囲、高い振動力、小さいサイズ、高い電力効率、静音振動、安定した性能及び費用効率の高い製造を提供する触覚フィードバックを含む様々な用途のための振動アクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1つの態様では、本発明は、互いに対向する同じ極性で配置された少なくとも2つの磁石を含む磁性部分と、磁性部分を収容する空洞を有する中空部材、及び中空部材の周りに巻き付けられ固定された少なくとも1つのコイルを含む受け部分と、磁性部分及び中空部材を互いに接続する弾性手段と、シャシとを備え、磁性部分が取付け手段を介してシャシに固定されて、磁性部分、取付け手段及びシャシが静止し、交流電流がコイルを通過するときに、受け部分が方向を変化して直線運動を行い、振動を生じさせる、振動アクチュエータを提供している。
【0011】
別の態様では、本発明は、互いに対向する同じ極性で配置された少なくとも2つの磁石を含む磁性部分と、磁性部分を収容する空洞を有する中空部材、及び中空部材の周りに巻き付けられ固定された少なくとも1つのコイルを含む受け部分と、磁性部分及び中空部材を互いに接続する弾性手段と、シャシとを備え、弾性手段が、平坦な弾性金属又はプラスチック膜である、振動アクチュエータを提供している。
【0012】
さらに別の態様では、本発明は、互いに対向する同じ極性で配置された少なくとも2つの磁石を含む磁性部分と、磁性部分を収容する空洞を有する中空部材、及び中空部材の周りに巻き付けられ固定された少なくとも1つのコイルを含む受け部分と、磁性部分及び中空部材を互いに接続する弾性手段と、シャシとを備え、中空部材及びコイルを部分的に取り囲む強磁性材料の磁気誘導手段が、磁性部分の長手方向外側端部に取り付けられている、振動アクチュエータを提供している。
【0013】
また、本発明は、振動アクチュエータの製造方法であって、少なくとも1つのロッドを使用して専用の組立治具に少なくとも2つの磁石を組み付けることによって磁性部分を組み立てる工程であって、磁石を互いに同じ極性で向き合わせ、それらの間に間隙を備える工程と、2つのスロットを備える中空部材の周りに自己結合性銅線の少なくとも1つのコイルを巻き付け、コイルをスロットの間の中空部材の長手方向中央部分に位置させること、及び、コイルが中空部材と強固に結合するように、コイル及び中空部材を加熱すること、によって可動部分を組み立てる工程と、可動部分に磁性部分を挿入する工程と、磁性部分の長手方向外側端部及び中空部材の外側端部に弾性材料の手段を取り付ける工程と、中空部材のスロットを通って延びる取付け部材を介して、シャシに磁性部分を取り付ける工程とを備える、振動アクチュエータの製造方法を提供している。
【0014】
さらなる有利な特徴は、本明細書及び特許請求の範囲から得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、様々な用途のための振動アクチュエータに関する。典型的な用途では、ビデオ、ゲーム及び音楽のための没入感のある体験、その他の没入感のある体験を創出する高精細触覚フィードバックのための振動触覚ボイスコイル又は可動磁石型アクチュエータは、ラウドスピーカのような増幅器を介し、また追加のローパスフィルタを介してオーディオ装置に接続され、オーディオ周波数範囲を皮膚の触覚的な知覚可能範囲に制限する。アクチュエータは、例えば、ブレスレットのようにユーザの手首又は他の身体部分の周りに装着することができる。
【0017】
アクチュエータの構造
一態様では、本発明は、振動アクチュエータの独自の構造を提供する。本発明によれば、アクチュエータは、磁石1と、少なくとも1つのコイル2と、空洞5を有する中空部材4と、シャシ7とを備え、可動部分は、コイル2と中空部材4とを含む外部装置であり、固定部分は内部の磁石1とシャシ7とから成る。交流電流がコイル2を通過すると、磁石1の磁場と相互作用して、コイル2及び中空部材4を含む可動部分の方向を変化させる機械的な力を発生させ、この結果、方向を変化させることで可動部が直線的に移動し振動が発生する。コイル2及び中空部材4を含む可動部分は、磁石1を含む内部部分よりも容積、従って質量が大きいので、振動は強い。従って、従来技術の装置と比較して、本発明のアクチュエータは、アクチュエータの全体的なサイズ及び質量を変更することなく、より良好な振動性能をもたらし、これは、特にアクチュエータが携帯用又はウェアラブルである場合に重要である。本発明のアクチュエータの構造及び機能は、アクチュエータの異なる図を示す
図1−4を参照してより詳細に説明される。
【0018】
アクチュエータの固定部分は、少なくとも1つの間隙を有する少なくとも2つの磁石1を含み、磁石1は、互いに対向する、すなわち北が北に対向し又は南が南に対向する、同じ極性で配置されて、それらの間の平面に高密度の磁場を生成する。磁石間の間隙は、非磁性材料から成る少なくとも1つのスペーサ3で充填することができる。磁石1の配列は、シャシと同じ材料にし得る材料で作られた2つの取付け部材8によってシャシ7に取り付けられ、シャシ7は、(ユーザが装着する)ブレスレット、又はアクチュエータと他の電子機器の両方を含む少なくとも1つのケーシングとすることができる。取付け部材8は、例えば、「クリップイン」タイプの取付けを容易にし、且つ、磁石1の配列が(シャシに取り付けることにより)固定したままであるとともに、少なくとも2つの磁石1の同じ極性が(磁場を形成するために)対向するように領域の位置を維持することを保証する。取付け部材8は、その一方の側(例えば下側)を取付け部材10に取り付けられ、取付け部材10は、磁石1の配列の長手方向外側端部に取り付けられる。従って、固定部分は、磁石1と、任意のスペーサ3と、シャシ7と、取付け部材8及び10とを備える。
【0019】
アクチュエータの可動部分は、可動質量である中空部材4を含み、質量が大きいほどアクチュエータの振動性能が良好であるため、重くて高密度の金属で作られる。上述したように、少なくとも1つのコイル2を担持する中空部材4である可動質量は、磁力の損失を減少させるためにコイル1と磁石2との間の間隙が比較的小さくなるように、磁石1の形状に応じて成形される。例えば、中空部材4の内部空洞5及びその外形は、磁石1の配列が平坦で横長である場合には平坦で横長とし、又は、中空部材4の内部空洞5及びその外形は、磁石1の配列が円筒で横長の場合には円筒で横長としなければならず、もちろん、磁石1の配列を内部空洞5内で動かすことができるように、磁石1の配列と中空部材4の内面との間には、空洞5を画定する間隔が存在しなければならない。スロット9は、中空部材4の長手方向の一方の側(例えば下側)を通って延びており、磁石1の配列を固定部分に関連して上述したようにシャシ7に接続するための取付け部材8を受け入れる。可動部分の直線運動は、アクチュエータの長手方向軸(すなわち、磁石1の配列及び中空部材4の長手方向軸)に沿って生じるので、スロット9は比較的長くなければならず、また、可動部分の移動、ひいては振動を容易にするために、取付け部材8の延長は長手方向に十分短くなければならない。長方形の中空部材4の各端部は、磁石配列1の長手方向外側端部で両方の取付け部材10及び中空部材4の両端に弾性要素6(以下参照)を取り付けることができるように開放している(中空部材4、従って管を形成している)。弾性要素6は、固定部分、すなわち磁石1、シャシ7及び取付け部材8の配列に当たることなく、可動部分が前後に長手方向運動することを可能にする。中空部材4に加えて、可動部分はまた、中空部材4の周りに巻き付けられた少なくとも1つのコイル2を含み、これらは1つの可動片を形成する。中空部材4にコイル2を取り付けることは、例えば、製造中に何らかの形の熱処理によって達成することができる。中空部材4上の静止位置において、コイル2は、少なくとも2つの磁石1の同じ極性が互いに対向している(上記参照)が磁石1の配列の全長ではない領域を、少なくとも取り囲む。従って、可動部分は、少なくとも1つのコイル2と中空部材4とを備える。
【0020】
弾性要素6は、本質的に、固定部分(すなわち、磁石1、任意のスペーサ3、シャシ7、取付け部材8及び10)と、可動部分(すなわち、中空部材4及び少なくとも1つのコイル2)と連結する境界面を形成する。弾性要素6は、取付け部材10(磁石1の配列の長手方向外側端部に位置する)と、取付け部材10、磁石1及び任意のスペーサ3を貫通する2つの長手方向「ケバブ」ロッド11(以下参照)とに取り付けられる。中空部材4への弾性要素6の取付けは、接着剤又はリベットを使用することによって得ることができ、弾性要素6の外側輪郭は中空部材4の外側輪郭(横断面で見た)と同じである。従って、弾性要素6は、中空部材4にその周縁部で、また取付け部材10にその中央部で固定される。可動部分(すなわち、少なくとも1つのコイル2及び中空部材4)の十分な移動を可能にして振動を生起するために、弾性要素6は非常に撓み易くなければならない。
【0021】
上述した本発明のアクチュエータの構造は、幾つかの利点を有する。第1に、アクチュエータの全体的なサイズ及び質量を変更することなく、より良い振動性能をもたらし、これは、アクチュエータが携帯用又はウェアラブルである場合には重要である。第2に、磁石1が可動部分である場合、従来技術の場合のように、それらの軌道は、磁石が金属表面に引きつけられるために、アクチュエータが金属表面の近くに置かれたときに固定部分に当たるように歪む可能性がある(携帯用又はウェアラブルであれば容易に起こり得る)。これは、アクチュエータの摩擦、ひいては非能率を生じさせる。本発明によれば、磁石1は固定され、所定の位置に保持されているので、コイル2及び中空部材4(可動部分を形成する)は金属表面により影響を受けず、従って軌道を変更しないために、アクチュエータに近づく金属表面は、その機能に影響しない。
【0022】
膜
別の態様では、本発明は、アクチュエータの可動部分と固定部分とを相互接続する新規な膜を提供する。上述したように、振動磁石型アクチュエータの可動部分と固定部分は、振動用スプリング緩衝器として作用する弾性要素6によって相互接続されており、弾性要素6は、取付け部材10(磁石1の配列の長手方向外側端部に位置する)に中央部で、また中空部材4に周縁部で接着剤又はリベットを用いて固定される。弾性要素6は、強い振動を得るために比較的大きい変位を可能にするが、同時に、アクチュエータが携帯用又はウェアラブルである場合には比較的小さな空間を占めなければならない。従って、平坦な弾性膜6は、これらの目的に理想的なようである。
【0023】
本発明による膜6を
図1−4に示す。膜は非常に薄く、すなわち約0.1mmの厚さを有する。さらに、非常に柔軟な金属材料、例えばベリリウム銅は、膜のほぼ理想的な挙動をもたらすことが判明している。アクチュエータの可動部分と固定部分との間の位置合わせは、従来技術の圧縮ばね又は非金属(例えばゴム)膜よりも金属膜では遥かに正確であり、振動する際に、可動部分をその軌道を介して遥かに正確に案内する結果となる。ゴムなどの従来技術の材料を使用する場合、可動部分はその軌道を通して揺れながら移動し、移動部分がその軌道を通って移動する際に可動部分と固定部分が衝突して、ノイズ及び摩擦を生じさせる振動を生起し、アクチュエータの効率を低下させる結果となる。従って、本発明による金属膜によって可能となる滑らかな軌道を達成することにより、アクチュエータは、振動性能に関する限り、より効率的に且つより静かになる。しかしながら、コスト効率が要求される場合には、平坦なものである限り、プラスチック膜を使用することもできる。
【0024】
特に、一般的に音楽及び音響を再生するためには、アクチュエータが比較的静かであることが特に重要である。アクチュエータの騒音は、穿孔された平坦膜6を用いることによってさらに低減することができる。すべての膜は、可動部分を振動させるように撓むときに空気を分散させる。穿孔された膜を使用することにより、従来技術の固体膜とは対照的に、より少ない空気が分散され、従って、アクチュエータはより静かになる。
【0025】
以下では、本発明による膜6がどのように配置され、さらに穿孔された場合にはどのように機能するかをより詳細に説明する。膜は、弾性ビームであり、従って、例えば一端が机に固定され、他端が机を越えて自由に伸びて撓むビームのように撓むこととなる。本発明の膜6の外側(周辺)縁部は、可動部分(すなわち、少なくとも1つのコイル2を担持する中空部材4)に取り付けられている。膜6の穿孔は、膜の端縁の3つの側面を追跡し且つ膜6の中央に金属の「半島」(peninsula)を作り出す、C字形の穴12(磁石1の配列と中空部材4が円筒形である場合)又はU字形の穴12(磁石1の配列と中空部材が長方形である場合)とすることができる。この「半島」は、取付け部材10(磁石1の配列の長手方向外側端部に配置される)に取り付けられる。従って、穿孔された膜が従来技術のアクチュエータと共に使用される場合、「半島」はビームの自由端(可動部分と共に動くので撓む)のように作用し、膜6の残りの部分はビームの固定端のように作用する。穿孔された膜6が上述した本発明のアクチュエータと共に使用される場合、「半島」は上記ビームの固定端のように作用し、膜6の残りの部分は、可動部分と共に動くためビームの撓む自由端のように作用する。
【0026】
磁気誘導機構
さらに別の態様では、本発明は、磁場の誘導機構を提供する。上述したように、振動磁石型アクチュエータでは、少なくとも1つのコイル2の内部に高密度の磁場を発生させ得るように、複数の磁石1を同じ極性で対向させて配置することができる。しかしながら、一旦磁界が周囲のコイルを横切ると、磁力線は磁石に戻されないため失われる。適切な磁気回路を使用することによって、この潜在的に無駄になる磁場の大部分が磁石1に戻り誘導され、追加の力を発生させ、従って、より強い振動を発生できることが判かった。磁気回路を用いることにより、磁石1のサイズを大きくすることなく、アクチュエータの振動性能を高めることができ、あるいは、サイズが重要であれば、振動性能を失うことなく、従来技術のアクチュエータに比べて磁石1の容積(従ってアクチュエータの容積)を低減させることができる。
【0027】
以下では、本発明による磁気誘導機構がどのように配置され、どのように機能するかをより詳細に説明する。追加の案内なしに、磁力線はコイル2を通過し、最終的に磁石1の対向する極性に引き寄せられる。従って、アクチュエータの磁石1が北と北を対向して配置されている場合(上記参照)、磁石1が互いに向かい合う領域に形成された界磁線はコイル2を通過し、最も近い磁石の南極にアーチバックする。しかしながら、これらの磁力線は非常に分散しており、従って、磁石1が互いに向かい合う領域に形成された磁力線は、そこから最寄りの反対の極性に移動するのに、たとえこの極性が数ミリメートルしか離れていなくても、数メートルの経路をとるため、磁場の大部分は失われる。磁気回路は、これらの「無駄な」磁力線を磁石に戻すのに役立つ。本質的には、その目的は、磁石1が互いに向かい合う領域に形成された磁力線が磁石1に戻る短い経路を取ることを保証することである。これは、磁石1の配列の長手方向外側端部のそれぞれに強磁性材料片を取り付けることによって達成される。強磁性材料片は、U字型をなし、すなわち、磁石1の配列から外側に少し延び、次に中空部材4及びコイル2を越えて半径方向外側に延び、次いで、磁石1が互いに対向する領域まで再び長手方向内側に延びる。このようにして、磁力線は、コイル2を通過した後に捕捉され、磁石1に直接に戻される。さらに、磁気回路は、(i)磁石1が互いに対向する領域に近接して配置され、そして(ii)強磁性体で構成されているので、磁石1が互いに対向する領域に形成される磁力線は、磁気回路に引きつけられ、従って、通常はたとえコイル2を通過しなくてもすぐに失われ得る、磁石1が互いに対向する領域に形成されるこの磁力線は、コイル2の他方の側(すなわちその周囲)に配置されている、磁気回路の強磁性材料によって引き寄せられる。その結果、より多くの磁力線がコイル2を通過し、より強い電磁力が生成され、より大きな量の磁場を使用するため、アクチュエータがより効率的になる。
【0028】
製造方法
上述した本発明のアクチュエータの製造方法は、以下のとおりである。
少なくとも1つのロッドを使用して専用の組立治具に少なくとも2つの磁石1を組み付けることによって磁性部分を組み立て、磁石1を互いに同じ極性で向き合わせ、それらの間に間隙を備え、
2つのスロット9を備える中空部材4の周りに自己結合性銅線の少なくとも1つのコイル2を巻き付け、コイル2をスロット9の間の中空部材4の長手方向中央部分に位置させること、
コイル2が中空部材4と強固に結合するように、コイル2及び中空部材4を加熱すること、
によって、可動部分を組み立て、
可動部分に磁性部分を挿入し、
磁性部分の長手方向外側端部及び中空部材4の外側端部に弾性材料の要素6を取り付け、
中空部材4のスロット9を貫通して延びる取付け部材8を介して、シャシ7に磁性部分を取り付ける。
【0029】
少なくとも2つの磁石の間の間隙は、真鍮、アルミニウム又はプラスチックのような非磁性材料で作られたスペーサ3によって充填することができる。
【0030】
アクチュエータが上述した新規な膜6を備えていなければならない場合には、製造方法は、弾性材料の要素6を磁性部分の長手方向外側端部及び中空部材4の外側端部に取り付ける工程の前に、弾性材料から膜6をレーザー切断する更なる工程を含む。膜6は、銅ベリリウムのような金属で作ることができる。
【0031】
アクチュエータに上述した磁気誘導機構を設ける必要がある場合には、製造方法は、
フェライト材料からの磁気誘導要素を高圧成形する工程と、
弾性材料の要素6を磁性部分の長手方向外側端部及び中空部材4の外側端部に取り付ける工程の後に、磁性部分の長手方向外側端部に磁気誘導機構を接着する工程と、
をさらに含む。
【0032】
上述したように、本発明の振動アクチュエータは、ビデオ、ゲーム及び音楽のための没入感のある体験、その他の没入感のある体験を創出する高精細触覚フィードバックを含むが、これに限定されない、様々な用途に使用することができる。
【0033】
一般に、バイブレータは、振動フィードバックが望まれる全ての用途に使用することができ、このフィードバックは、人間のユーザへの入力に限定されず、デバイスに提供することもできる。