(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記2つのサブチャンバーの1つ目が前記精子と関連する未処理の精液を収集するように構成され、前記2つのサブチャンバーの2つ目が運動性精子を前記排出口へと通過させ、非運動性精子を拘束するように構成される、請求項7に記載のシステム。
前記流路内の前記精子を照らすように構成された少なくとも1つの照明、及び前記精子を映すため前記流路に隣接して配置された画像化システムセンサを含む画像化システムを更に備える、請求項1に記載のシステム。
前記画像化システムセンサが少なくとも1つの電荷結合素子(CCD)又は相補形金属酸化膜半導体(CMOS)の画像化システムセンサを含む、請求項11に記載のシステム。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、膣粘液が薄くなり、精子の卵への先導を補助する小さなマイクロチャネルを形成することを認識する。本発明は、精子を選別する機構として消耗を認識し、粗雑なマルチスケールの模擬実験を使用して健康な精子を選別するために消耗を活用することを実験的また論理的に実証した。具体的には、本発明は、効率的で信頼できる、成功した精子の選別のためのマクロ−ミクロ流体精子選別(MMSS)システムを提供する。記載されるように、健康な運動性精子は、選別後の排出口で完全で収集される。このシステムは最小の摂動(perturbation)によって精子選択プロセスの効率を改善することにより、DNA断片化、細片の堆積、及びROSの生成を制御する。
【0016】
さらに、本発明は、精子の選別、モニター、及び評価を同時に行うことができる。具体的には、本システムは、例えば、広視野(FOV)のレンズ無の画像化システム技術を使用する速度応答に基づいて各精子を個別に評価することを可能とする。該システムは、マイクロチップに基づく、影の画像化システムを利用する広FOVのレンズ無技術を提供する。さらに、本発明は、男性不妊症の信頼できる指標である形態計測学的情報を採取するため使用することができる。
【0017】
図1Aを参照すると、精子選別システム10が解説される。システム10は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)系、ポリメチルメタクリル(PMMA)系、又は他の微小流体システムであってもよい。システム10は、注入口14を有するハウジング12と、そこに配置されたフィルタ18を有する収集チャンバー16とを含む。フィルタ18は、ポリカーボネートフィルタ、又は以下に記載されるように、孔又は通路サイズ等の好適な材料特性を有する他のフィルタであってもよい。
図1Bを参照すると、注入口14及び収集チャンバー16は、微小流体チップ22に沿って伸びる通路又は流路20により接続される。以下に記載されるように、微小流体チップ22は、使い捨てであってもよく、例えば、10μl〜3mlの(新鮮又は凍結、加工又は未処理のいずれかの)加工されていない精液試料を取り扱うマイクロチップを含んでもよく、複雑な機器又は熟練した技術者を必要とせずに、迅速に、例えば30分未満で精子を選別する。
【0018】
流路20は、注入口14から収集チャンバー16に伸びる。収集チャンバー16では、第1及び底部のチャンバー24は微小流体チップ22に隣接して配置され、第2及び頂部のチャンバー26は、上記第1又は底部のチャンバー24の上に微小流体チップ22に関して遠位に配置される。以下に記載されるように、第1のチャンバー24は、新鮮又は凍結、加工又は未処理に関わらず、注入口14に提供された精液の試料を収集するように設計され、第2のチャンバー26は運動性精子を濾過するように設計される。
【0019】
図1Cを参照すると、
図1Bに関して上に記載されるシステムは、流体接続27によって頂部チャンバーに接続される追加の収集、すなわち「濃縮」チャンバー25を含むように変更されてもよい。すなわち、これに関して、精子はより容易な採取を促すため収集チャンバー25に濃縮されてもよい。
【0020】
別の配置では、
図1Dに図示されるように、収集チャンバー25は濃縮チャンバー25の反対側の注入口29を各々有する複数のチャネル28によって接続されてもよい。これに関して、
図1Cの複数の流路20から、又は複数の収集チャンバー16からの精子は、共通する濃縮チャンバー25へと送達されてもよい。更に大容量を取り扱うため、又はより高スループットの適用のため複数のフィルタ及び複数のチャネルの使用を容易にするように、上述の設計に対するかかる変化を使用することができる。
【0021】
図2Aを参照すると、統合された画像化システムを含むシステム10の一つの任意の配置の分解立体図が示される。画像化システムは、レンズ無しの広FOV画像化プラットフォームを形成してもよい。この観点からすれば、照明30、画像化センサ31及びガラス保護層32等の統合された画像化システムの構成要素は、上述のシステム10と組み合わされる。機能上、照明30は、注入口14によって微小流体チップ22へと導入された精子34を照らす。照らされた精子34は、電荷結合素子(CCD)、相補形金属酸化膜半導体(CMOS)、又は他の画像化システムデバイスであってもよい画像化センサ31によって画像化システムされ得る。より具体的には、
図2Bを参照すると、機能上、精子及び精液34が例えばピペット36を使用して排出口14へと導入され得る。精子は、上述のガラス32、また同様にPMMA又は他の材料層40を含んでもよく、ガラス32とPMMA層40を共に張り付けるためその間に配置された両面粘着(DSA)層42を有する微小流体チップ22に沿って培地38を横切る。最終的には、精子34は、鉱物油44が見られる場合がある排出口16へと微小流体チップ22を縦走する。具体的には、培地の蒸発を回避するため、無菌の胎児で試験した鉱物油の薄層を注入口14及び排出口16の培地38の上部に入れてもよい。
【0022】
図示されるように、有効な精子選別のため異なるチャネル長を使用してもよく、又は選択してもよい。さらに、
図2Cを参照すると、注入口14及び収集チャンバー16が複数のチャネル46によって接続されるマルチチャネル設計を利用してもよい。また、図示されるように、例えば、洗浄に使用するためPBS回収バッファー48が含まれてもよい。
さらに、上記チャネルを収容するチップ基体は使い捨てであってもよい。
【0023】
図2A及び
図2Bを参照すると、含まれる場合には、光電子センサアレイ面31に各個別の精子34の影画像を記録するため、レンズ無し画像化システムを使用することができる。このシステム10は、非常に大きなFOV、例えば、数センチメートル×数センチメートルのFOVに亘るオンチップ(on−chip)の数十万の個々の細胞の動的配置のリアルタムでの細胞の検出/計数、又はモニタリングを標的とする。この技術は、低複雑で小型化が容易なこれらの特徴を提供する。
【0024】
画像化システム能を含むシステム10の或る一つの特定の例を
図2Dに示す。標準的な顕微鏡は、微小流体選別チップ全体をモニターし、リアルタイムで精子を解析することができない。この挑戦は、平行したオンチップモニタリング及び精子の計数を提供するマイクロチャネルを有するレンズ無し画像化システムを統合することによって対処され得る。上記デザインは、胎生学/臨床の研究室及び看護拠点での状況に適したものとするため、この技術の最小化を可能とする。
【0025】
システム10は、
図2Dの例において、上に記載されるように精子34がそれを縦走する微小流体チップ22へと単色光52の焦点を合わせるため、ハウジング12の開口50、例えば50μmの開口によって方向づけられた光源30を含む。システム10は、有線又は無線のいずれでもよい、データコネクション56により接続されたコンピュータシステム54、及び画像能に対して操作可能な動力を供給するため動力コネクション60により連結された再充電電池又は他の動力供給源58に連結されてもよい。
【0026】
或る一つの配置では、1.5mmの厚さのポリメチル−メタクリレート(PMMA)及び50μmの厚さの両面接着(DSA)フィルムの組み合せを使用して、マイクロチャネルを作ってもよい。レーザーカッターを使用して5mm〜40mmの範囲の異なる長さのマイクロチャネルを作るためDSAフィルムをカットしてもよい。注入ポート及び排出ポートは、それぞれ0.65mm〜2mmの直径を有するPMMAを通って伸びた。その後、PMMAにDSAフィルムを直接置いて2つを有効に接合する。チャネルの高さが接着層の高さによって決定されるように、ガラススライドをDSAフィルムの他方の側面に置く。より大きな排出口のサイズは、特にピペットによって容易にアクセス可能なチャネルから選別した精子を抽出するように設計される。注入口と排出口の間の距離はチャネル長を決定した。チャネルの長さは注入口と排出口の間の距離として定義される。
【0027】
排出口における運動性細胞及び高容量の加工に対する細胞の割合を増加するため、ポリカーボネートフィルタをこれらのマイクロチップに統合することができる。このフィルタに基づくデバイスは、50mm×30mmの面積にカットされ、また別に30mm×30mmの面積にカットされた3mmの厚さのPMMAを使用して設計されてもよい。20mmの直径のシリンジを両方のPMMA構成要素へとカットし、150μmのDSAを使用して互いに垂直に配列してもよい。また、0.6mmの精液注入口(injection inlet)を10mmの距離でより大きなデバイス構成要素にカットする。上記システムを2つのPMMA成分間に位置されたワットマンニュークリアポアフィルタを使用して組み立てることができる。
【0028】
図1A〜
図2Dを参照すると、大規模な精液加工にシステム10を使用することができる。そうするため、注入口14により精子34を導入して微小流体チップ22に入れる。この動作の間、照明30及び画像化センサ31を使用して精子34を映すことができる。精子34は排出口16に向かって動く。この排出口/収集チャンバーは2つのチャンバー24及び26を提供する。第1のチャンバー24は、微細孔を提供するフィルタを含み、第2のチャンバー26は微細孔を含む別のフィルタを含む。これに関して、システム10は、女性外性器の通路に近づけるため微細孔によって接続されるマクロ貯蔵器14、16を提供する。そこでは、精子34は、自然に発生するように、排出口16に向かって培地38に沿って集団で動き、互いに影響を受ける。最も運動性の形態学的に正常で成熟な機能性の精子は、第1のチャンバー24に死亡した又は機能性が劣る精子を残して、重力に逆らって微細孔を選択的に通過する。すなわち、精子の頭部は球形であり、約3μm×4.5μmの大きさを有する。精子の尾部は、約45μm〜50μmの長さである。精子の頭部より大きな直径の微細孔を有するフィルタが第1及び第2のチャンバー24、26に置かれる場合、運動性である精子のみが微細孔を通る道を作ることができるのに対し、死亡した、死につつある、又は傷害された精子は、それらの長い尾部のため微細孔を通過することができない。そのかわり、これらの死亡した、死につつある、及び/又は傷害された精子は重力に負け、第1のチャンバー24に残留する。
【0029】
そのため、最小のROS生成を伴う健康で運動性の形態学的正常な精子を回収するため任意の遠心分離工程を必要としないように設計される、マイクロチップに基づくシステムが提供される。そのデバイスの設計は、精子選別手法をより手間がかからず、安価なものとする。上記システムは、精子の選別に対する機構として、空間の制限されたチャネルにおける消耗の利用(utilizes)を組み込む。上記システムは、いかなる遠心分離工程も伴わずに運動性で形態学的に正常な精子を単離することができる。そのため、三次元のフィルタに基づく微小流体デバイスのモデルを作製するため、精子とチャネル壁、及びフィルタ表面及び穴との間の流体力学的相互作用から協同的に生じる効果を組み込み、現在の精子運動性の粗雑なモデルを使用する。このモデルは、微細孔サイズ及びインキュベーション時間等のデバイスのパラメータの設計を可能とする。
【0030】
上述のシステムの設計及び操作は、以下のシステムの一例、かかるシステムに関する配置、及びかかるシステムの試験結果の考察より更に理解され得る。しかしながら、これは一例であって、採用され得る配置、設計、及び操作の変化に関して本質的に非限定的であり、本発明の範囲に含まれる。
【0031】
[実施例]
(MMSSチップの組み立て)
ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA、厚さ3mm;ジョージア州アトランタのMcMaster Carr)及び両面接着剤(DSA、厚さ120μm;ミネソタ州セントポール)をレーザーカッター(アリゾナ州スコッツデールのVersa Laser
TM)を使用してカットした。チップの設計をCoral Draw4で作製し、カットのためUSLE Engraveソフトウェアで実行した。MMSSチップの主な構成要素は、50mm×30mm(底部チャンバー)の面積にカットされた1つの3mm PMMA、及び30mm×30mm(頂部チャンバー)の面積にカットされた別の3mm PMMAを含んだ。また0.6mmの注入点を、チャンバーから5mmの距離で底部PMMAシートに切り込んだ。20mmの直径のシリンダを両方のPMMA成分に切り込んだ。DSAを使用して底部PMMAチャンバー−を最初にガラススライドに付着した。上部PMMAチャンバーを配列し、DSAを使用して底部チャンバーと付着した。Nuclepore
TMのトラックエッチド(track−etched)ポリカーボネートメンブレンフィルタ(Whatman Ltd、直径25mm、3μm、5μm、8μm)をチップ組立ての間に2つのPMMAチャンバーの間に挟んだ。したがって、少なくとも1μm及び10μm未満が有利な孔サイズの範囲であろうと考えられた。組み立てたチップの斜視図を
図3に示す。
【0032】
(MMSSチップを使用した精子選別)
解凍した未加工の精液試料(ストック精子)を第1/底部チャンバーを満たすまでMMSSチップの注入口に注入した。第1/底部チャンバーを最大560μlの精液試料を保持するように設計した。別の一連の実験では、MMSSチップに注入する前にヒト卵管液(HTF)中1パーセントのウシ血清アルブミン(BSA)でストック精液試料を4倍に希釈した。注入の後、第1/上部チャンバーをHTF中1パーセントのBSA560μlでいっぱいにした。その後、頂部チャンバーからの流体を解析用にエッペンドルフチューブに収集する前に、チップを37℃のインキュベーターで15分、30分、45分、及び60分の間隔で保存した。
【0033】
(濃縮及び運動性解析)
濃縮に対しては標準的なMakler血球計算器を使用し、運動性に対しては光学顕微鏡を使用して精子試料を解析した。簡潔には、1μlの精子試料をMakler血球計算器にピペットで滴下し、血球計算器によって提供される覆蓋で覆った。少なくとも3回、クリックカウンターを使用する方法に慣れた職員によって精子を計数した。前方に動く精子を運動性とした。
【0034】
(生存能力の解析)
LIVE/DEAD(登録商標)Sperm Viability Kit(L−7011, Molecular Probes(登録商標))を使用して生存力について精子試料を解析した。SYBR 14染料を使用して生存している精子を染色し、ヨウ化ウロピジウム(PI)を使用して死んだ精子を染色した。製造業のプロトコルに従って試料を染色した。簡潔には、最初にSYBR 14染料を最終濃度100nMまで精子試料に添加した。その試料を37℃で5分間インキュベートした。死んだ精子を染色するためPI染料を最終濃度10μMまでその試料に添加し、更に5分間インキュベートした。精子試料をガラスカバースリップに塗りつけ、蛍光顕微鏡Zeiss Axio Observer.Z1を使用して映した。SYBR 14及びPIに対してそれぞれ緑色及び赤色の発光フィルタを使用した。
【0035】
(速度の測定)
精子の解析に関してWHOラボマニュアルに記載される方法を使用し、精子試料を解析した。簡潔には、精子を30分後にMMSSチップ(3μm、5μm、8μm)から回収した。6μlの精子試料をガラススライドに置くことによりスライドを作製し、18mm×18mmのカバースリップを使用して覆って試料に深さ20.7μmを与えた。試料の乾燥を回避するため、スライドを同時ではなく定期的に作製した。コンピュータのモニターに映し出される試料のライブ画像により、光学顕微鏡を使用して20倍(Carl Zeiss)で各スライドを分析した。ビデオ撮像ソフトウェア(TechSmithのSnagit)を使用して、精子試料の動きを5秒間に亘り無作為の位置で撮像した。ビデオを100fpsでVideotoJpegソフトウェアを使用して画像配列に変換した。精子速度パラメータ、すなわち、直線速度(VSL)、曲線速度(VCL)及び平均経路速度(VAP)をモニターするためのCASAプラグインを使用する分析に対して、画像配列をImageJ(国立衛生研究所、http://rsbweb.nih.gov/ij/)にインプットした。
【0036】
(精子の形態学的判断)
5μm及び8μmのMMSSチップから取り出した精子懸濁物を30分後に収集した。3μmのMMSSチップから回収した精子は、形態学的解析には精子濃度が低すぎるため、精子形態学について解析しなかった。その後、10μLの精子懸濁物を取り、清浄で無菌の顕微鏡スライドに置いて、羽で塗った塗抹(feathered smear)を作製した。塗抹を風乾して固定用に調製した。FertiProによって提供されるものに類似するSpermac染色プロトコルに従って形態学的判断のため精子を染色した。簡潔には、乾燥した塗抹をSpermacの固定化溶液に少なくとも5分間沈めた後、DI水で濯いだ。染料Aをスライドの一端にピペットで滴下し、塗抹上に流した。その後、スライドを平面に置いて、1分間染料に浸した。その後、スライドをDI水で2回洗浄した。次に染料Bを染料Aと同様に塗布し、1分間に亘って精子に入り込ませた。この後、DI水で一回濯いだ。最後に、染料Cを塗抹上にピペットで滴下し、1分間置いてDI水で濯いだ。この時、油浸の100倍対物レンズを使用して、少なくとも100の精子を映した(N(反復回数)=3)。精子がWHO形態学的判定基準(頭部:球形頭部;頭部面積の40%〜70%を覆う先体;頭部長さ3.7μm〜4.7μm;頭部幅2.5μm〜3.2μm;幅に対する長さの比率1.3〜1.8;2以下の小空胞;先体後領域はいかなる空胞も含まない。中間部:中間部には細胞質の残留がない;中間部の長さは頭部の長さとほぼ同じ;頸部の破損がない。主部:尾部の破損を示す鋭角又は屈曲がない;中間部より薄い;主部の長さは頭部の長さのおよそ10倍である)に含まれる場合に形態学的に正常と見なした。
【0037】
(精子成熟の判断)
5μm及び8μmのMMSSチップから取り出した精子懸濁物を30分後に回収した。3μmのMMSSチップから回収した精子は、この解析には精子濃度が低すぎるため、核の成熟について解析しなかった。乾燥した塗抹をSpermac固定溶液で5分間固定した後、DI水で濯いだ。4%酢酸溶液中の5%アニリンブルーを調製し、塗抹上に注いだ。塗抹を染色溶液に5分間浸した後、DI水で濯いだ。油浸100倍対物レンズを使用して、少なくとも100の精子を判断した(N(反復回数)=3)。濃い青で染色された精子の頭部を未熟とし、染色されていないままのものを成熟と見なした。
【0038】
(ROS検出)
精子洗浄:1mlの精液を凍結保存タンクから取り出し、37℃の温浴で15分間解凍した。1mlの精液に9mlのHTF+1%BSA培地を添加し、500xgで5分間遠心分離して、チューブの底に精子ペレットを残して上清を除去することによって洗浄した精液試料を作製した。この手順を3回繰り返した。HTF培地を精子ペレットに添加し、ROS研究により試料を染色した。
【0039】
スイムアップ法:1mlの精液を凍結保存タンクから取り出し、37℃(37 desires C)の温浴で15分間解凍した。精液を9mLのHTF+1%BSAで希釈した。その後、希釈した精子懸濁物を500xgで5分間遠心分離した。続いて、上清を除去して廃棄した。残りのペレットを500xgで5分間に亘って試料を遠心分離することによって再度洗浄した。再度上清を除去し廃棄した。最後に、ペレットを破壊しないように500μLの培地を遠心チューブの壁に沿って添加した。その後、試料をインキュベーターに入れ、30分間に亘って運動性精子をペレットからスイムアップさせた。ペレットを残して運動性精子を収集した。MMSSチップを30分間インキュベートし、ROS研究のため精子懸濁物を取り出した。
【0040】
ROS検出のための染色:2つの蛍光染料、ジヒドロエチジウム(DHE)とSYTOXグリーンとを組み合わせたフローサイトメトリーを使用してROS生成を検査した。DHEは、精子DNAに結合して赤色蛍光を生じる2つの蛍光色素を産生するスーパーオキシドアニオンと反応する。一方、SYTOXグリーンは細胞生存能力の指標であり、細胞が死んでいる場合に緑色蛍光を生じる。この実験のため、いずれも20μLの過酸化水素と混合した、取り出した精子懸濁物200μLからなる4つの対照試料を作製した。これに続いて、37℃で30分間のインキュベーションを行った。試料に染料を添加した。すなわち、陰性対照には色素を添加せず、5μMのDHEを第2の試料に添加し、50nMのSYTOXグリーンを第3の試料に添加し、それぞれ5μMと50nMのDHEとSYTOXの両方を第4の試料に添加した。染料を15分間インキュベートした後、試料を試験する15分前に測定のためフローサイトメトリーへと移した。実験の間FACSCaliburフローサイトメーター(カリフォルニア州サンジョーズのBecton Becton Dickinson)を使用した。488nmでのアルゴンレーザー励起と、FL1とFL2に対してそれぞれ530/30バンドパス(緑)及び585/42バンドパス(赤)のフィルタを使用する発光測定とを組み合わせた。どの精子の事象もゲートアウトせず、少なくとも10,000の細胞を検査した。試験試料に対して、解凍した精液由来の500μLの試料、スイムアップ懸濁物、3μm、5μm及び8μmのフィルタ孔サイズのマイクロチップを収集した。それぞれ5μMと50nMのDHE及びSYTOXを各試料に添加し、15分間インキュベートした。測定のため試料をフローサイトメーターに取った。
【0041】
(DNA断片化)
TUNELアッセイキット(In Situ Cell Death Detection Kit、Roche Applied Scienceによるフルオレセイン)を使用し、未処理の精液、スイムアップ、並びに3μm、5μm及び8μmの孔サイズのフィルタを備えたマイクロチップデバイスから回収した精子の集団についてDNA断片化を定量化した。これらの試料は全て先に言及されたROS検出の欄で獲得された。最初に、全ての精子懸濁物をPBS及び1%BSAを用いて5分間に亘り500xgの遠心分離によって2回洗浄した。洗浄してすぐに、精子細胞の濃度を2×10
6細胞/mlに調整した。その後、精子懸濁物をPBS中4%パラホルムアルデヒド(100μLの細胞懸濁物毎に200μL)で30分間に亘って室温で固定した。精子細胞をPBS及び1%BSAを用いて6分間に亘り500xgで2回洗浄し、2分間氷中/氷上で0.1%クエン酸ナトリウム中0.1%TritonXを用いて透過処理した。精子を2回洗浄した後、5μLの酵素(TdT)溶液及び45μlの標識(dUTP−フルオレセイン)溶液と共に37℃で1時間インキュベートした。同様に、陰性及び陽性の対照試料を調製した。ただし、染色に先立って、陽性対照をDNaseと共に37℃で40分間インキュベートした。染色の間、陰性対照のみを標識溶液(酵素溶液を含まない)と共にインキュベートした。染色の後、試料をPBS及び1%BSAで2回洗浄し、PBS中に再懸濁した(Muratori et al,2000)。DNA断片化細胞の蛍光発光をフローサイトメーターで判断し、FL−1検出器(521nm)により検出した。合計5000の事象を取得した。精子集団をデータからゲートアウトして細片からのいかなるシグナルも除外した。実験を6回繰り返した(N=6)。
【0042】
(結果及び考察)
化学物質不使用で遠心分離不使用のハイスループットな縦断的な(vertical)精子選別デバイスを開発するため、上に記載されるようにMMSSチップを作り、組み立てた。簡潔には、それは、例えば3μm、5μm、8μm等の様々な直径のポリカーボネートフィルタによって分離される2つのチャンバーチップである。精子試料を底部チャンバーに注入し、選別された運動性の/健康な精子を頂部回収チャンバーから収集する。例えば、2つのチャンバーの間で均一なサイズの孔を有するフィルタの存在は、最も運動性の健康な精子がフィルタ孔を通って移動し得るように設計された。精子選別に使用したポリカーボネートフィルタの走査型電子顕微鏡(SEM)画像は、
図4に図示されるように均一な孔径を示した。種々の微細孔径、i)3μm、ii)5μm、及びiii)8μmのポリカーボネートニュークリアポアトラックエッチドメンブレンフィルタのSEM画像である。スケールバーは10μmである。これらの画像は、様々なフィルタ孔と精子の相対的なサイズを示す。
【0043】
精子の頭部は球形であり、約3μm×4.5μmのサイズを有する。精子の尾部は約45μm〜50μmの長さである。精子の頭部よりも大きな直径のフィルタがこの2つのチャンバーチップの間に設置される場合、運動性の精子のみが微細孔を通る道を作ることができるのに対し、死亡した/死につつある精子は尾部が長いため微細孔を通過することができない。
【0044】
(精子の運動性及び回収率)
選別した精子の運動性を調べるため、本発明者らは、3つ全てのMMSSチップ(3μm、5μm、及び8μmの直径のフィルタチップ)の頂部回収チャンバーから収集した精子を解析した。
図5Aに図示されるように、結果は、MMSSチップにより選別された精子がストック精子試料と比較して著しく高い運動性を示すことを示した。具体的には、3μm、5μm、及び8μmのフィルタチップは、それぞれ95パーセント±10以上、90.4パーセント±1.8以上、85.9パーセント±1.5以上の精子運動性を示し、これはストック精子の運動性(39.8パーセント±1.9)よりも著しく高かった。本発明者らは、精子運動性に対するインキュベーション時間の効果を更に調べた。精子を15分後、30分後、45分後、及び60分後に収集した。
図5Aに図示されるように、60分の時間点の場合の運動性が最も高かったのに対し、15分の時間点では最も低く、本発明者らは、精子試料がより長い時間の後に収集された場合に回収された精子の運動性が増すことを見出した。この運動性の増加は、3つ全てのチップにおいて認められた。各実験の開始時にHTF+1パーセントBSAをMMSSチップの頂部チャンバーにピペットで滴下した場合、2つの液体、すなわちストック精子試料とHTF+1パーセントBSA培地の混合に起因して精子試料においてわずかな乱流が生じ得る。この精子試料における乱流は、後の時間点(30分後、45分後、及び60分後)と比較して実験開始時(15分後)におけるより低い精子運動性に対する可能性のある理由である。さらに本発明者らは、様々な時間点における精子回収率、すなわち、ストック試料から回収された健康な精子の割合(%)を計算した。回収率は、精子試料の精子数少ない(精子減少症標本及び無精子標本)状況では特にどの精子選別デバイスにとっても重要なパラメータである。MMSSチップでは、
図5Bに図示されるように、或る期間、すなわち15分、30分、45分、及び60分の時間点に亘って精子回収率を分析した。精子回収率は30分の時間点で収集された試料で最大であった(3μm、5μm、及び8μmのMMSSチップに対してそれぞれ3.08パーセント±0.42、23.75パーセント±3.96、及び28.58パーセント±2.81)。本発明者らは、
図5Bに図示されるように、30分超に亘って試料をインキュベーションした場合に精子の回収率が減少することから、この30分の時間点を飽和時間点と呼ぶ。本発明者らは、30分後に一部の精子がフィルタを逆行して底部チャンバーに戻っている可能性があると考える。
【0045】
(精子の生存能力)
運動性の精子を生存可能とした。選別された精子が生存可能であるという本発明者らの知見を実証するため、本発明者らは30分の時間点で選別した精子に対して生/死染色を行った。選別された精子の生存能力は、ストック精子試料よりも著しく高く、すなわち41.0パーセント±0.45(ストック精子)、91.32パーセント±3.43(3μmのMMSSチップ)、89.83パーセント±5.82(5μmのMMSSチップ)、91.59パーセント±4.44(3μmのMMSSチップ)であった。
【0046】
(精子運動性及び回収に対する試料希釈の効果)
運動性及び回収率に対する精子試料の希釈の効果を調べるため、MMSSチップを使用して加工する前に、本発明者らは1:4の比率でHTF+1パーセントBSAを用いてストック精子試料を希釈した。
図5Aに図示されるように、選別した精子の運動性は4つの時間点(15分、30分、45分、及び60分)の全てにおいてストック精子試料よりも著しく高く、すなわち45.8パーセント±1.5(ストック精子)、95.0パーセント±0.5以上(3μmのMMSSチップ)、93.7パーセント±4.7以上(5μmのMMSSチップ)、90.7パーセント±2.5以上(8μmのMMSSチップ)であったのに対し、希釈されていない精子試料を使用した場合には異ならなかった。しかしながら、
図5Bに図示されるように、希釈されていないストック精子試料に代えて希釈した精子試料を使用する場合、精子回収率は増加した。最大回収率は、30分後の時間点で8μmのチップに対して52.68パーセント±4.97であることがわかった。希釈した試料では、精子は、別の精子にぶつかる前に平均自由行程の増加を有した。この現象が、精子がフィルタの微細孔により速く到達して横切ることを補助した可能性がある。さらに、フィルタは固定された数の孔(14パーセント未満の空隙率)を有する。希釈した試料では、より少ない数の精子がフィルタ孔を横切ろうとすると、各精子が空の孔を見つけ、それを通って移動する可能性がより高かった。
【0047】
(精子速度の解析)
様々な精子の速度パラメータ、すなわち、曲線速度(VCL)、直線速度(VSL)、及び平均経路速度(VAP)を解析した。これらの速度の定義を示す精子の通り道の代表的な画像を補足図面3に示す。
図3の通り道が作製されたオリジナルの精子のビデオが補足動画1として与えられる。MMSSチップを使用して選別された精子は、
図6に図示されるようにストック精子試料よりも著しく速い精子速度を示した。具体的には、
図6Aに図示されるように、平均精子VCLは、3μm、5μm、及び8μmのMMSSチップに対してそれぞれ52.7±6.0μm/秒(ストック精子)から59.9±3.5μm/秒、75.3±3.1μm/秒、及び75.6±4.5μm/秒に増加した。平均精子VSLは、
図6Bに図示されるように、3μm、5μm、及び8μmのチップに対してそれぞれ44.4±5.6μm/秒(ストック精子)から52.1±3.5μm/秒、63.4±3.5μm/秒、及び64.1±3.9μm/秒に増加した。平均精子VAPは、
図6Cに図示されるように、3μm、5μm、及び8μmのチップに対してそれぞれ48.4±5.8μm/秒(ストック精子)から54.1±3.4μm/秒、68.0±2.9μm/秒及び67.5±4.1μm/秒に増加した。より速い精子速度は、選別された精子がストック試料よりも健康であることを示す。本発明者らが3つの異なるMMSSチップを使用して選別された精子間で速度を比較したところ、5μm及び8μmのMMSSチップを使用して選別された精子は、3μmのフィルタチップよりも速いVCL、VSL及びVAPの速度を与えたことを認めた。これは、おそらくは、3μmより小さい頭部サイズを有するほとんどの未熟な運動性精子が3μmの微細孔を通過できたという事実による。この唯一の例外は、2以上の3μmの孔が共に結合してより大きな孔を作るフィルタ領域であった。
【0048】
(精子の形態学的解析)
形態学的解析のため、精子をSpermac Stainにより染色した。WHOによって定義された厳しい基準に基づいて精子を形態学的に正常と見なした。4パーセント超の形態学的に正常な精子を有する精子試料をいずれも正常と見なした。本発明者らは、5μmのMMSSチップを使用して選別した精子は全体的な形態学に関して精子の質を改善しなかったが、選別された精子は運動性であったことを見出した。8μmのMMSSチップを使用して選別された精子は、ストック及び5μmのMMSSチップを使用して選別された精子に対して著しく改善された形態学、すなわち、30.0パーセント±7.6(8μmのMMSSチップ)、17.0パーセント±3.2(5μmのMMSSチップ)、及び17.6パーセント±0.5(ストック精子)を示した。
【0049】
(精子核の成熟解析)
アニリンブルーで精子を染色し、核成熟について解析した。アニリンブルー染色は、未熟な精子のリジンに富む核と成熟な精子のアルギニン/システインに富む核を区別する。未熟な精子の核をアニリンブルーで染色し、核と先体の色の対比を示した。アニリンブルーで染色した精子の代表的な画像及びそれらの判断基準を
図7に示す。5μmのフィルタチップを使用して選別した精子は、核の成熟に関してストック精子に対して何らの改善も示さなかった。一方、8μmのフィルタチップを使用して選別した精子は、
図8に図示されるようにストック精子試料よりもより高い核の成熟、すなわち、40.8パーセント±5.1(8μmのMMSSチップ)、25パーセント±4.6(5μmのMMSSチップ)、及び26.9パーセント±5.8(ストック精子)を示した。
【0050】
(ROS生成解析)
選別した精子をROS生成について解析した。本発明者らは、洗浄法、従来のスイムアップ法、及びMMSSチップの後、精子におけるROS精製を比較した。本発明者らは、MMSSチップによって選別された精子は、スイムアップ及び洗浄法よりもROSの生産が著しく少ないことを見出した(
図9)。精子洗浄及びスイムアップ法は、それぞれ精子の10.1%±0.3%及び10.6%±1.1%においてROSを産生したのに対し、MMSSチップを使用して選別された精子は、精子のわずか0.8%±0.4%(3μmのMMSSチップ)、0.7%±0.1%(5μmのMMSSチップ)及び1.0%±0.1%(8μmのMMSSチップ)でROS産生を示した。選別していない精子試料は、精子の1.8%±0.6%においてROS産生を示し、これは、スイムアップ法及び洗浄法におけるROSの生成の増加が遠心分離工程に起因することを明確に示した。
【0051】
(DNA断片化解析)
精子DNAの断片化の解析は、生殖可能な男性と不妊症の男性を区別することができ、より高レベルのDNA断片化を示す精子試料はIVF/ICSIにおいて結果的により低い受精率、胚の発達不全、及びより低い妊娠率をもたらす。MMSSチップを使用して選別された精子をDNA断片化について解析した。DNA断片化(%)は1.1%±0.3%(8μmのMMSS)、2.1%±0.7%(5μmのMMSSチップ)、3.4%±0.8%(3μmのMMSSチップ)、3.7%±1.2%(スイムアップ法)、及び31.2%±1.2%(選別していない精液)であった。5μm及び8μmのチップを使用して選別された精子は、選別されていない精子試料及びスイムアップ法を使用して選別された精子よりも著しく低いDNA断片化(%)を示した(
図10)。
【0052】
理想的な精子選別技術は、(i)迅速で費用対効果が高く、(ii)手間がかからず、(iii)大容量の精子を加工することができ、(iv)死亡した/非運動性の精子から運動性の精子の単離するため高い回収効率を有する、(v)より速度の速い精子を単離する、(vi)形態学的に正常で成熟な精子を単離する、(vii)遠心分離工程を除外することによってROSの生成及び形態学的な損傷を軽減する、(viii)精子のDNA断片化の割合を減少するものでなくてはならない。これらのパラメータは、一般的には、どの精子選別デバイスに対しても望ましい特徴であり、本発明のシステムはこれらの特徴を提供するプラットフォームを提案する。
【0053】
本明細書で提供される特定の実施例では、1つのチップを作り上げるための全材料費は、1ドル未満(フィルタに50セント、PMMA及びDSAに50セント未満)である。MMSSチップは、スイムアップ技術(20パーセント未満)よりも高い回収率(ストック精子からの28.58パーセント±2.81パーセントの回収)で非運動性精子から運動性精子を迅速に(およそ30分)単離する。回収は、希釈試料を使用することにより52.68パーセント±4.97(8μmフィルタ)まで更に高められる。精子希釈は健康な精子のより高い回収をもたらすが、一時に加工可能な実際のストック精子の容量を減少する。(i)小容量の射精、及び(ii)非常に少ない精子数を伴う射精については、加工する前にストック精子を希釈することが望ましい場合がある。MMSSチップのデザインは非常に拡張性があり、より大きなフィルタ(例えば、1.5ml以上)を使用することにより大容量の精液を加工することができる。大量の精液試料を加工することは、IVF手法に十分な精子を回収するため必要である。さらに、高容量の加工は、精子数減少又は低い精子運動性を有する試料に非常に重要である。
【0054】
より速い速度パラメータを有する精子は、ICSIの受精率を高めることができる。MMSSチップによって選別された精子は、選別された精子がより高品質であることを明確に示したストック精子と比較して、著しい速度パラメータ(VCL、VSL、及びVAP)の向上を示した。精子形態学は、受精の成功の別の重要な指標である。形態学的に正常な精子は、IVF手法の間の受精率を高める。8μmのMMSSチップを使用して精子を選別することは、精子形態学的を1.7倍改善し、これは
図7に図示されるように顕著な改善である。また、精子の運動性と形態学の関連を記すことも興味深い。本発明者らは、形態学的に正常な精子は良好な速度も示すことを見出し、これら2つの機能的パラメータ(精子の速度及び形態学)が関連することを実証した。
【0055】
精子の核成熟は、男性不妊症との関連が示されている。核の成熟によって説明されるクロマチン濃縮は、IVFの結果に対する別の予測因子である。8μmのMMSSチップを使用して選別された精子は、
図8に図示されるように、ストック試料と比較して著しく改善された精子の成熟を示した。また、本発明者らは、ヒト精子によるROS生成を調べた。ROS生成は、精子の質及びそのアポトーシス状態を判断するための重要な調査手段である。精子形成の間の分化不良、クロマチン凝縮の不良、重金属への暴露、熱又は電磁波の照射、長期のin vitro培養、及びROS生成細胞の近辺の精子の存在等の精子のROS生成をもたらす多くの経路及び理由が存在する。健康な精子を選別するため遠心分離工程を利用する従来の技術は、これらの技術が白血球等のROS生成細胞と共に精子を遠心分離することから、別のROS生成の理由である。本発明者らは、3つ全てのMMSSチップを使用して選別された精子は、ストック精子と比較して著しく低いROS生成を示すことを見出した。
【0056】
DNAの断片化は、男性不妊症の別の非常に重要な指標である。幾つかの報告によれば、精子のDNA完全性は、受精に対する独立したマーカーとして見なされる場合がある。MMSSチップを使用して選別された精子は、
図10に図示されるように選別されていない精液試料と比較して、DNA断片化において著しい改善を示す。現在、精子のスイムアップ法がより低いDNA断片化を伴う精子を選別するための基準とされている。5μm及び8μmのMMSSチップによって選別された精子がスイムアップ法よりもかつてないほど低いDNA断片化を示したことは興味深い。本発明者らは、これらの機能性アッセイに基づき、8μmのMMSSチップを使用して選別された精子が従来の方法と比較してより良好な質であると考える。形態学的に正常で成熟した運動性且つ機能性の精子の選別は、IVF/ICSIの結果を改善する可能性がある。
【0057】
ここで
図11を参照すると、精子を選択するプロセスの工程100の幾つかの例が提供される。プロセスブロック102で開始する工程100は、上に記載されるような微小流体システムの注入口へと精子の試料を受け取ることを含む。その後、プロセスブロック104では、微小流体システムから選別された精子を採取するため、微小流体システムに対してアクセスを提供する排出口へと微小流体システムを通る流路に試料の精子を縦走させる。プロセスブロック106では、精子を排出口に到達する前にフィルタに供する。記載されるように、フィルタは複数の微細孔を有し、重力を使用してフィルタによって精子の動きを制限するように(restrict)向けられる。したがって、プロセスブロック108において、選別された精子は排出口に供給される。選別された精子は、フィルタを通過し、重力を克服した後排出口を通過する精子を含む。
【0058】
そのため、本発明は、(i)健康な精子を選別し、運動性、速度及び形態学を解析するための化学物質不使用でフローフリーのシステムの開発、(ii)選別された健康な精子の単離、及び(iii)精子の枯渇及び集団運動のよりよい理解を発達させるためのシステム及び方法を提供する。このプラットフォームは、スイムアップ技術及びミクロドロップ(microdrop)技術等の既存の臨床手法を超えた革新である。また、精子の選別及び解析のため空間が制限されたチャネルにおける枯渇の新たな草分け的な知識を使用することから、報告されている微小流体に基づく精子選別デバイスに対して新規である。
臨床生殖医学は手間のかかる困難な分野であったことを考えると、かかる使用が容易なマイクロチップが健康な精子の選択の改善をもたらすことができ、操作者の熟練度への依存を低下し、反復可能で信頼できる操作工程を容易にする。
【0059】
本発明は、1又は複数の好ましい実施形態に関して記載され、明らかに述べられたもの以外の多くの等価物、代替物、変化及び修飾が可能であり、本発明の範囲に含まれることが理解される。