特許第6850932号(P6850932)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6850932
(24)【登録日】2021年3月10日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】塗装用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 121/00 20060101AFI20210322BHJP
   C09D 125/12 20060101ALI20210322BHJP
   C09D 4/06 20060101ALI20210322BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20210322BHJP
【FI】
   C09D121/00
   C09D125/12
   C09D4/06
   C09D7/40
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-187196(P2020-187196)
(22)【出願日】2020年11月10日
【審査請求日】2020年11月10日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399034220
【氏名又は名称】日本エイアンドエル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高橋 寛城
【審査官】 青鹿 喜芳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−7877(JP,A)
【文献】 特開2003−327779(JP,A)
【文献】 特開平9−302197(JP,A)
【文献】 特表2018−507921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/00
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフト共重合体(A)と共重合体(B)を含有する樹脂組成物であって、下記条件(1)〜(5)を満足する塗装用樹脂組成物。
(1)グラフト共重合体(A)が、ゴム質重合体(a)に、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体を含む単量体がグラフト重合したグラフト共重合体であって、シアン化ビニル系単量体の含有割合がグラフト重合される単量体を100質量%としたとき、27質量%未満。
(2)共重合体(B)が、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体を含む単量体が共重合した共重合体であって、シアン化ビニル系単量体の含有割合が共重合される単量体を100質量%としたとき、27質量%未満。
(3)ゴム質重合体(a)の含有量が、樹脂組成物に対して7〜20質量%。
(4)芳香族ビニル系単量体の2量体、シアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体の2量体、芳香族ビニル系単量体の3量体及びシアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体の3量体からなるオリゴマー成分の含有量が、樹脂組成物に対して0.1質量%以下。
(5)乳化剤成分の含有量が、樹脂組成物に対して0.35質量%以下。











【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装性に優れる塗装用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム強化スチレン系樹脂は、外観、機械的特性ならびに成形加工性に優れ、車両部品、電気製品など種々の分野にて利用されている。その際、成形部品には塗装されることが多く、良好な塗装外観が求められている。塗装性は、材料特性、成形条件、塗料組成、塗装条件など、さまざまな因子が影響しており、その中で材料面からの改善も行われている。
特許文献1には、ゴム質重合体及びシアン化ビニル含有率の高い共重合体を含む樹脂組成物を使用することで塗装後の表面外観や塗膜密着強度の改善を図る技術が開示されている。しかしながら、シアン化ビニル含有率の高い共重合体を用いると流動性に劣る傾向にあり、さらに、近年、塗装部品の生産効率アップによる成形条件の高速化や成形品へのアタック性の強い塗料を使用する傾向にあり、塗装不良も生じやすい傾向になっている。そのため、流動性が良好でこれら条件においても塗装不良を生じにくい材料への市場要求は高くなっており、さらなる材料面の改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−302197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、塗装性に優れる塗装用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、グラフト共重合体と共重合体を含有する樹脂組成物であって、樹脂組成物中の乳化剤成分とオリゴマー成分の含有量を規定することで、上記課題を解消できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の[1]で構成される。
[1] グラフト共重合体(A)と共重合体(B)を含有する樹脂組成物であって、下記条件(1)〜(5)を満足する塗装用樹脂組成物。
(1)グラフト共重合体(A)が、ゴム質重合体(a)に、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体を含む単量体がグラフト重合したグラフト共重合体であって、シアン化ビニル系単量体の含有割合がグラフト重合される単量体を100質量%としたとき、27質量%未満。
(2)共重合体(B)が、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体を含む単量体が共重合した共重合体であって、シアン化ビニル系単量体の含有割合が共重合される単量体を100質量%としたとき、27質量%未満。
(3)ゴム質重合体(a)の含有量が、樹脂組成物に対して7〜20質量%。
(4)芳香族ビニル系単量体の2量体、シアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体の2量体、芳香族ビニル系単量体の3量体及びシアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体の3量体からなるオリゴマー成分の含有量が、樹脂組成物に対して0.1質量%以下。
(5)乳化剤成分の含有量が、樹脂組成物に対して0.35質量%以下。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、塗装性に優れる塗装用樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明につき詳細に説明する。
【0009】
本発明の塗装用樹脂組成物は、グラフト共重合体(A)と共重合体(B)を含有するものである。
【0010】
本発明に用いるグラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体(a)に芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体を含む単量体がグラフト重合したグラフト共重合体である。
【0011】
グラフト共重合体(A)を構成するゴム質重合体(a)として特に制限はなく、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)等の共役ジエン系ゴム;エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエン(エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン等)ゴム等のエチレン−プロピレン系ゴム;ポリブチルアクリレートゴム等のアクリル系ゴム;シリコーン系ゴムを1種又は2種以上用いることができる。上記アクリル系ゴムには、コアシェル構造を有するゴムも含まれる。コアシェル構造を有するゴム(コア/シェルで記載)としては、例えば、共役ジエン系ゴム/アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム/アクリル系ゴム、硬質重合体(ガラス転移温度が20℃以上)/アクリル系ゴム等が挙げられる。硬質重合体(ガラス転移温度が20℃以上)としては、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体から選ばれる1種以上を含有する単量体を重合してなる重合体等が挙げられる。上記の中でも、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、共役ジエン系ゴム/アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム/アクリル系ゴム、硬質重合体(ガラス転移温度が20℃以上)/アクリル系ゴムが好ましい。硬質重合体のガラス転移温度は、FOXの式より算出することができる。
【0012】
また、ゴム質重合体(a)の質量平均粒子径に特に制限はないが、50〜1000nmが好ましく、200〜800nmがより好ましく、300〜500nmがさらに好ましい。上記範囲に調整することで、機械的強度と表面外観のバランスに優れる傾向にある。
【0013】
グラフト共重合体(A)を構成する芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ブロムスチレン等が挙げられ、1種又は2種以上用いることができる。
【0014】
グラフト共重合体(A)を構成するシアン化ビニル系単量体としては、シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル等が挙げられ、1種又は2種以上用いることができる。
【0015】
さらに、グラフト共重合体(A)を構成する単量体には、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体に共重合可能なその他の単量体が含まれていてもよく、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、マレイミド系単量体、アミド系単量体、不飽和カルボン酸系単量体、多官能性単量体等が挙げられ、1種又は2種以上用いることができる。
【0016】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルフェニル、(メタ)アクリル酸(ジ)ブロモフェニル、(メタ)アクリル酸クロルフェニル等が挙げられる。
【0017】
マレイミド系単量体としては、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。
【0018】
アミド系単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド等が挙げられる。
【0019】
不飽和カルボン酸系単量体としては、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸等が挙げられる。
【0020】
多官能性単量体としては、ジビニルベンゼン、アリル( メタ) アクリレート、エチレングリコールジ( メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジシクロペンタジエンジ( メタ) アクリレート、トリメチロールプロパントリ( メタ) アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ( メタ)アクリレート、1 , 4 − ブタンジオールジ( メタ) アクリレート、1 , 6 − ヘキサンジオールジ( メタ) アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0021】
グラフト共重合体(A)のゴム質重合体(a)にグラフト重合される単量体を100質量%としたとき、シアン化ビニル系単量体の含有割合が27質量%未満であり、
26質量%未満であることが好ましい。また、下限としては10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。この範囲に調整することで塗装性と流動性のバランスに優れる傾向にある。
【0022】
グラフト共重合体(A)中のゴム質重合体(a)の含有割合については特に制限はなく、20〜80質量%が好ましく、40〜70質量%がより好ましい。上記範囲に調整することで、機械的強度と表面外観のバランスに優れる傾向にある。
【0023】
グラフト共重合体(A)のグラフト率及びアセトン可溶分の還元粘度に特に制限はないが、グラフト率は20〜150%であることが好ましく、30〜100%がより好ましく、36〜75%がさらに好ましい。アセトン可溶分の還元粘度は、0.2〜1.5dl/gであることが好ましく、0.3〜1.0dl/gであることがより好ましい。上記範囲に調整することで、機械的強度と流動性のバランスに優れる傾向にある。
【0024】
上記グラフト率及びアセトン可溶分の還元粘度は、下記により求めることができる。
【0025】
分別方法
三角フラスコにグラフト共重合体を約2g、アセトンを60ml投入し、24時間浸漬させた。その後、遠心分離器を用いて15,000rpmで30分間、遠心分離することで可溶部と不溶部に分離する。不溶分は、真空乾燥により常温で一昼夜乾燥させることで得られる。可溶分は、アセトン可溶部をメタノールに沈殿させ、真空乾燥により常温で一昼夜乾燥させることで得られる。
グラフト率
グラフト率(%)=(X―Y)/Y×100
X:真空乾燥後のアセトン不溶分量(g)
Y:グラフト共重合体中のゴム状重合体量(g)
アセトン可溶分の還元粘度(dl/g)
アセトン可溶分をN,N−ジメチルホルムアミドに溶解し、0.4g/100mlの濃度の溶液とした後、キャノンフェンスケ型粘度管を用い30℃で測定した流下時間より還元粘度を求める。
【0026】
本発明に用いる共重合体(B)は、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体を含む単量体が共重合した共重合体である。
【0027】
共重合体(B)を構成する芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ブロムスチレン等が挙げられ、1種又は2種以上用いることができる。
【0028】
共重合体(B)を構成するシアン化ビニル系単量体としては、シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル等が挙げられ、1種又は2種以上用いることができる。
【0029】
さらに、共重合体(B)を構成する単量体には、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル系単量体に共重合可能なその他の単量体が含まれていてもよく、上述の段落0015〜0020に記載されたものを用いることができる。
【0030】
また、共重合体(B)は、共重合される単量体を100質量%としたとき、シアン化ビニル系単量体の含有割合が27質量%未満であり、26質量%未満であることが好ましい。また、下限としては10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。この範囲に調整することで塗装性と流動性のバランスに優れる傾向にある。
【0031】
共重合体(B)の還元粘度に特に制限はないが、0.2〜1.5dl/gであることが好ましく、0.3〜1.0dl/gであることがより好ましい。上記範囲に調整することで、機械的強度と流動性のバランスに優れる傾向にある。
【0032】
上記還元粘度は、下記式により求めることができる。
【0033】
共重合体(B)を、N,N−ジメチルホルムアミドに溶解し、0.4g/100mlの濃度の溶液とした後、キャノンフェンスケ型粘度管を用い30℃で測定した流下時間より還元粘度を求める。
【0034】
上記ゴム質重合体(a)、グラフト共重合体(A)及び共重合体(B)の重合方法には特に制限はなく、公知の乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法およびこれらを組み合わせた方法により製造することができる。
【0035】
本発明に用いる樹脂組成物は、ゴム質重合体(a)を7〜20質量%含むものであり、10〜18質量%であることが好ましい。ゴム質重合体(a)の含有量が上記範囲であることで、機械的強度と流動性のバランスに優れるものが得られる。
【0036】
さらに、本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、グラフト共重合体(A)と共重合体(B)以外のその他樹脂を含んでもよい(しかし、ゴム質重合体に、シアン化ビニル系単量体を含む単量体がグラフト重合したグラフト共重合体であって、シアン化ビニル系単量体の含有割合がグラフト重合される単量体を100質量%としたとき、27質量%以上のグラフト共重合体やシアン化ビニル系単量体を含む単量体が共重合した共重合体であって、シアン化ビニル系単量体の含有割合が共重合される単量体を100質量%としたとき、27質量%以上の共重合体は除く)。その他樹脂としては、例えばポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリ乳酸樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド系樹脂等が挙げられる。
【0037】
さらに、本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、ヒンダードアミン系の光安定剤;ヒンダードフェノール系、含硫黄有機化合物系、含リン有機化合物系等の酸化防止剤;フェノール系、アクリレート系等の熱安定剤;ベンゾエート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系等の紫外線吸収剤;有機ニッケル系、高級脂肪酸アミド類等の滑剤;リン酸エステル類等の可塑剤;ポリブロモフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノール−A、臭素化エポキシオリゴマー、臭素化等の含ハロゲン系化合物、リン系化合物、三酸化アンチモン等の難燃剤・難燃助剤;臭気マスキング剤;カーボンブラック、酸化チタン等の顔料;染料等を添加することもできる。さらに、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスウール、炭素繊維、金属繊維等の補強剤や充填剤を添加することもできる。
【0038】
本発明の樹脂組成物は、上述の成分を溶融混練することで得ることができる。溶融混練するためには、例えばロール、バンバリーミキサー、単軸押出機、多軸押出機、ニーダー等公知の混練機を用いることができる。
【0039】
本発明の樹脂組成物は、芳香族ビニル系単量体の2量体、シアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体の2量体、芳香族ビニル系単量体の3量体及びシアン化ビニル系単量体と芳香族ビニル系単量体の3量体からなるオリゴマー成分の含有量が、樹脂組成物に対して0.1質量%以下であることが必要であり、0.08質量%以下であることがより好ましい。オリゴマー成分の含有量が上記範囲であることで、塗装性に優れるものが得られる。
【0040】
樹脂組成物のオリゴマー成分の含有量は、例えば、グラフト共重合体(A)や共重合体(B)を製造する際の重合方法の選択や、重合温度、開始剤量及び開始剤種の調整、また、樹脂組成物を溶融混練する際の脱気の程度により、オリゴマー成分の含有量を調整することができる。
【0041】
オリゴマー成分の含有量は、ガスクロマトグラフィー(GC)分析を適用することによって解析可能である。より具体的には、実施例に記載の方法で解析することができる。
【0042】
本発明の樹脂組成物は、乳化剤成分の含有量が、樹脂組成物に対して0.35質量%以下であることが必要であり、0.25質量%以下であることがより好ましい。乳化剤成分の含有量が上記範囲であることで、塗装性に優れるものが得られる。
【0043】
樹脂組成物の乳化剤成分の含有量は、例えば、グラフト共重合体(A)や共重合体(B)を製造する際の重合方法の選択や乳化剤使用量の調整、グラフト共重合体(A)や共重合体(B)のパウダー化工程で洗浄を行う場合には洗浄の程度、さらには樹脂組成物を溶融混練する際の脱気の程度により、乳化剤成分の含有量を調整することができる。
【0044】
乳化剤成分の含有量は、ガスクロマトグラフィー(GC)分析やキャピラリー電気泳動(CZE)分析等の公知の方法を適用することによって解析可能である。より具体的には、実施例に記載の方法で解析することができる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、実施例及び比較例中にて示す部および%は質量に基づくものである。
また、各実施例、比較例での各種物性の測定は次の方法による。
【0046】
[オリゴマー成分の含有量]
<GC分析>
サンプル調整
各実施例及び比較例で得られたペレット1gを精秤し、N,N−ジメチルホルムアミド50mlに溶解した後、密閉容器内で24時間放置後、これを測定サンプルとした。
測定条件
装置:島津製作所社製ガスクロマトグラフGC−2010
カラム名:DB−5
サンプル量:1μL
検出器:FID
Inj温度:230℃
Det温度:325℃
カラム温度:70℃で5分間維持後、20分間かけて320℃まで昇温し、320℃に到達後9分間維持した。
キャリアガス:ヘリウム、1.38mL/min
水素:40mL/min
エアー:400mL/min
定量方法
FID検出器では、炭化水素成分に対しては、相対モル感度がほぼ含有炭素数に正比例するとして、計算により求めることが出来る。またO,Cl,Nなどのヘテロ元素を含む有機成分についてもSternbergらによって提唱された化合物中の有効炭素数から相対モル感度を算出して求めることが出来る。検定液として試薬特級DMF溶液中にスチレンを100ppmになるように秤量し、上記法よりスチレンに対する各成分の相対モル感度を算出し、これをもとにスチレンの2量体、アクリロニトリルとスチレンの2量体、スチレンの3量体及びアクリロニトリルとスチレンの3量体について定量した。定量の際、1つの試料について3回測定し、平均値をペレット中のオリゴマー量とした。
【0047】
[乳化剤成分の含有量]
<GC分析>
サンプル調整
各実施例及び比較例で得られたペレット2.5gを精秤し、アセトン25mLに16時間放置し溶解させた。溶解後、メタノール/1N塩酸混合溶液(容量比100:1)に再沈殿させ、ろ過により分別した。ろ液を濃縮、乾燥させて濃縮乾固物を得た。この濃縮乾固物をメチルエステル化し、アセトン100mLで定容し、測定サンプルとした。
測定条件
装置:Agilent社製ガスクロマトグラフGC−7890A
カラム名:UA−SIL10C
カラム温度:70℃から20℃/minで260℃まで
サンプル量:1.0μL
検出器:FID
Inj温度:230℃
Det温度:270℃
キャリアガス:ヘリウム,52.2mL/min
水素:40mL/min
エアー:450mL/min
【0048】
[塗装性評価]
各実施例及び比較例で得られたペレットを、射出成形機((株)日本製鋼所製「J−180ADS」)を用いて射出成形した。塗装評価用金型として、(縦150mm×横90mm×厚さ2mm)を用いて、シリンダー温度220℃、金型温度50℃、射出速度は低速(充填時間:3秒)、中速(充填時間:2秒)、高速(充填時間:1秒)の3水準の成形条件で、成形を行った。
得られた試験片にアクリル樹脂塗料を塗装し、成形品に現れる吸い込み現象を目視にて観察し、下記基準で塗装性(吸い込み性)を判定した。
〇:成形品表面に凹凸は全く発生せず、非常に優れている。
×:成形品表面に凹凸が全体に発生し、実用レベルに達していない。
【0049】
<グラフト共重合体(A)の製造>
ガラスリアクターに、凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックス(スチレン5質量%、ブタジエン95質量%、質量平均粒子径440nm)を固形分換算で60質量部仕込み、撹拌を開始させ、窒素置換を行った。窒素置換後、槽内を昇温し65℃に到達したところで、ブドウ糖0.06質量部、無水ピロリン酸ナトリウム0.03質量部及び硫酸第1鉄0.001質量部を脱イオン水10質量部に溶解した水溶液を添加した後に、70℃に昇温した。その後、アクリロニトリル10質量部、スチレン30質量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.3部、t−ブチルハイドロパーオキサイド0.1質量部の混合液及びオレイン酸カリウム1.0質量部(固形分換算)を脱イオン水20質量部に溶解した乳化剤水溶液を4時間かけて連続的に滴下した。滴下後、3時間保持してグラフト共重合体ラテックスを得た。その後、塩析、脱水、乾燥し、グラフト共重合体(A)のパウダーを得た。得られたグラフト共重合体(A)のグラフト率は42%、アセトン可溶部の還元粘度は0.28dl/gであった。
また、上記凝集肥大化スチレン−ブタジエンゴムラテックスの質量平均粒子径は下記のように求めた。
四酸化オスミウム(OsO4)で染色し、乾燥後に透過型電子顕微鏡で写真撮影した。画像解析処理装置(装置名:旭化成(株)製IP−1000PC)を用いて800個のゴム粒子の面積を計測し、その円相当径(直径)を求め、質量平均粒子径を算出した。
【0050】
<共重合体(B−1)の製造>
公知の懸濁重合法により、スチレン75質量部、アクリロニトリル25質量部からなる共重合体(B−1)を得た。上述の方法により、得られた共重合体(B−1)の還元粘度は0.58dl/gであった。
【0051】
<共重合体(B−2)の製造>
公知の塊状重合法により、スチレン75質量部、アクリロニトリル25質量部からなる共重合体(B−2)を得た。上述の方法により、得られた共重合体(B−2)の還元粘度は0.62dl/gであった。
【0052】
<共重合体(B−3)の製造>
ガラスリアクターに、脱イオン水90部を添加した後、窒素置換を行った。その後、反応器を60℃に昇温し、過硫酸カリウム0.28質量部を脱イオン水10質量部に溶解した重合開始剤溶液を添加した。その後、スチレン75質量部、アクリロニトリル25質量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.3質量部からなる混合液と不均化ロジン酸カリウム(商品名:ロンヂスK−25、荒川化学(株))2.0質量部(固形分換算)を脱イオン水20質量部に溶解した乳化剤水溶液とを65℃で4.5時間かけて連続的に滴下した。その後、70℃で2時間保持し、重合を終了した。得られた共重合体ラテックスを塩析・脱水・乾燥することで、共重合体(B−3)のパウダーを得た。上述の方法により、得られた共重合体(B−3)の還元粘度は、0.58dl/gであった。
【0053】
実施例1および比較例1〜2
グラフト共重合体(A)、共重合体(B)を表1記載の配合割合で混合した後、シリンダー温度230℃に設定したφ26mmの2軸押出機にて主スクリュー回転数300rpm、吐出量25kg/hrの条件で溶融混練し、ペレット化した。得られたペレットを用いて、オリゴマー成分及び乳化剤成分の含有量の測定を行った。また、このペレットを用いて塗装評価用平板を成形し塗装性の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1から明らかなように、本発明の塗装用樹脂組成物を使用した実施例1は、塗装性に優れるものが得られた。
比較例1は、オリゴマー成分の含有量が本願規定を満足しないことから、塗装性に劣るものであった。
比較例2は、乳化剤成分の含有量が本願規定を満足しないことから、塗装性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
上記の通り、本発明の塗装用樹脂組成物は、塗装性に優れることから、例えば車両内装、外装用部品等、塗装される部品の多彩な用途に使用することができる。


















【要約】      (修正有)
【課題】塗装性に優れる塗装用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】グラフト共重合体(A)と共重合体(B)を含有する樹脂組成物であって、下記条件(1)〜(5)を満足する塗装用樹脂組成物。(1)グラフト共重合体(A)が、ゴム質重合体(a)に、芳香族ビニル系及びシアン化ビニル系単量体を含む単量体がグラフト重合した共重合体であって、シアン化ビニル系単量体の含有割合がグラフト重合される単量体を100質量%としたとき、27質量%未満。(2)共重合体(B)が、シアン化ビニル系単量体の含有割合が共重合される単量体を100質量%としたとき、27質量%未満である芳香族ビニル系及びシアン化ビニル系単量体の共重合体。(3)ゴム質重合体(a)の含有量が、樹脂組成物に対して7〜20質量%。(4)オリゴマー成分の含有量が、樹脂組成物に対して0.1質量%以下。(5)乳化剤成分の含有量が、樹脂組成物に対して0.35質量%以下。
【選択図】なし