特許第6850944号(P6850944)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6850944ヒト間葉系幹細胞の品質評価方法、ヒト間葉系幹細胞の分離、選別及び培養方法並びに増殖の早いヒト間葉系幹細胞の細胞集団
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6850944
(24)【登録日】2021年3月11日
(45)【発行日】2021年4月14日
(54)【発明の名称】ヒト間葉系幹細胞の品質評価方法、ヒト間葉系幹細胞の分離、選別及び培養方法並びに増殖の早いヒト間葉系幹細胞の細胞集団
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20210405BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20210405BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20210405BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20210405BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20210405BHJP
   G01N 33/577 20060101ALI20210405BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20210405BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20210405BHJP
【FI】
   C12N5/0775
   C12Q1/6851 Z
   C12Q1/686 Z
   G01N33/53 D
   G01N33/53 Y
   G01N33/48 P
   G01N33/577 B
   !C07K16/18
   !C12P21/08
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-538462(P2016-538462)
(86)(22)【出願日】2015年7月31日
(86)【国際出願番号】JP2015071770
(87)【国際公開番号】WO2016017795
(87)【国際公開日】20160204
【審査請求日】2018年7月18日
(31)【優先権主張番号】特願2014-157367(P2014-157367)
(32)【優先日】2014年8月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516385996
【氏名又は名称】PuREC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】伊谷 有未
(72)【発明者】
【氏名】岡野 栄之
(72)【発明者】
【氏名】馬渕 洋
【審査官】 藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−513708(JP,A)
【文献】 特開2009−060840(JP,A)
【文献】 特開2013−066414(JP,A)
【文献】 特表2009−527485(JP,A)
【文献】 特表2006−524508(JP,A)
【文献】 STEM CELL REPORTS (2013) Vol.1, pp.152-165
【文献】 宮本憲一、外4名,ヒト間葉系幹細胞特異的miRNAによる未分化状態維持機構の解明,再生医療 増刊号,2014年 1月27日,Vol.13 Suppl,p.317, P-2-040
【文献】 SCIENCE (1999) Vol.284, pp.143-147
【文献】 ONCOLOGY LETTERS (2014) Vo.8, pp.85-90
【文献】 INTERNATIONAL JOURNAL OF MOLECULAR MEDICINE (2013) Vol.31, pp.583-588
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12Q 1/00
C07K 16/00
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS/WPIX(STN)
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
初代ヒト組織由来間葉系幹細胞集団から、LNGFR Thy1共陽性細胞またはRor2陽性細胞である増殖の早いヒト間葉系幹細胞を単一細胞培養する工程1、および、
工程1で得られた細胞集団においてRor2を発現している細胞の存在比率を定量して各細胞集団の合否判定を行う工程2を含む、増殖の早いヒト間葉系幹細胞の品質評価方法。
【請求項2】
抗Ror2モノクロナール抗体を用いてRor2を発現している細胞を定量する請求項1に記載の増殖の早いヒト間葉系幹細胞の品質評価方法。
【請求項3】
定量的PCRを用いてRor2のmRNAを発現している細胞を定量する請求項に記載の増殖の早いヒト間葉系幹細胞の品質評価方法。
【請求項4】
免疫染色によりRor2を発現している細胞を定量する請求項2に記載の増殖の早いヒト間葉系幹細胞の品質評価方法。
【請求項5】
初代ヒト組織由来間葉系幹細胞集団から、LNGFR Thy1共陽性細胞またはRor2陽性細胞である増殖の早いヒト間葉系幹細胞を単一細胞培養する工程1、および、
工程1で得られた細胞集団においてRor2を発現している細胞の存在比率を定量して各細胞集団の合否判定を行い、合格の細胞集団のみを選別する工程2を含む、増殖の早いヒト間葉系幹細胞の選別方法。
【請求項6】
抗Ror2モノクロナール抗体を用いてRor2を発現している細胞を定量する請求項5に記載の増殖の早いヒト間葉系幹細胞の選別方法。
【請求項7】
定量的PCRを用いてRor2のmRNAを発現している細胞を定量する請求項に記載の増殖の早いヒト間葉系幹細胞の選別方法。
【請求項8】
前記工程1、抗LNGFRモノクロナール抗体および抗Thy1モノクロナール抗体で染色した細胞をフローサイトメトリー(以下、「FCM」)で解析し、LNGFR Thy1共陽性細胞をセルソーティングする工程を含んでいる請求項5に記載の増殖の早いヒト間葉系幹細胞の選別方法。
【請求項9】
前記工程1、抗Ror2モノクロナール抗体で染色した細胞をFCMで解析し、Ror2陽性細胞をセルソーティングする工程を含んでいる請求項5に記載の増殖の早いヒト間葉系幹細胞の選別方法。
【請求項10】
前記セルソーティングする工程が、培養プレートのウェルに陽性の各細胞を播種、その後さらに、培養によりコンフルエントとなったウェルの細胞を分離及び選別する工程を包含する請求項8または9記載の増殖の早いヒト間葉系幹細胞の選別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト間葉系幹細胞の品質評価方法、ヒト間葉系幹細胞の分離、選別及び培養方法、増殖の早いヒト間葉系幹細胞の細胞集団、並びに、増殖の早いヒト間葉系幹細胞を特異的に認識するモノクローナル抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells:MSC)は細胞採取に伴う倫理的問題が少なく、骨・軟骨・脂肪などへの多様な分化能を持つことから、造血幹細胞に次いで臨床応用が盛んに行われている体性幹細胞の一つである。後述する比較的簡単な手技により分離できることから、主に試験管内で軟骨・骨などへ分化誘導後に局所へ移植するなど、バイオマテリアルの材料として広く用いられている。
ヒト間葉系幹細胞の分離培養方法としては、非特許文献1で報告されている培養法が一般的に用いられる。しかし従来法で得た細胞集団には劣化した(分化・増殖・遊走能を失った)夾雑細胞が多数混入しており、この夾雑物が本来はポテンシャルを持つはずの細胞に影響し、さらなる品質の劣化をまねく要因となる。
かかる従来の実情に鑑みて、増殖能・分化能・遊走能が従来よりも優れたヒト間葉系幹細胞の分離培養方法を確立した(非特許文献2、3、特許文献1)。これらの非特許文献2、3及び特許文献1によれば、CD271(LNGFR)とCD90(Thy1)に対する抗体を用い、ヒト骨髄、胎盤絨毛膜、脂肪組織、末梢血、歯髄などよりLNGFR Thy1共陽性細胞を選別することでヒト間葉系幹細胞を濃縮することができる。
【0003】
また選別したLNGFR Thy1共陽性細胞を単一細胞(クローン)培養し、増殖が速いロット(REC: Rapidly Expanding Clone)を選択することで、増殖能・分化能・遊走能にすぐれた高純度ヒト間葉系幹細胞を得ることが可能となった。
同方法で得た高純度ヒト間葉系幹細胞(REC)は従来法で得た間葉系幹細胞と比較し、増殖能・分化能・遊走能全てが1000倍以上の能力を持っていた。
上記ヒト間葉系幹細胞の分離培養方法の特徴によれば、単一細胞培養を行うことで夾雑細胞を含まない条件が形成され、細胞品質を維持した拡大培養が可能となる。特に遊走能を保持しているため、経静脈内投与が可能となり、骨・軟骨形成不全症等の重篤な全身性疾患への応用が期待できるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−60840号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Pittenger, M.F., Mackay, A.M., Beck, S.C., Jaiswal, R.K., Douglas, R., Mosca, J.D., Moorman, M.A., Simonetti, D.W., Craig, S., and Marshak, D.R. (1999). Multilineage potential of adult human mesenchymal stem cells. Science 284, 143-147.
【非特許文献2】Mabuchi Y, Morikawa S, Harada S, Niibe K, Suzuki S, Renault-Mihara F, Houlihan DD, Akazawa C, Okano H, Matsuzaki Y. (2013). LNGFR+THY-1+VCAM-1hi+ Cells Reveal Functionally Distinct Subpopulations in Mesenchymal Stem Cells. Stem Cell Reports 1, 152-165.
【非特許文献3】CGHアレイデータ Gene Expression Omnibus (GEO) (accession number: GSE34484)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
不死化細胞株とは異なり、RECといえども継代培養を長期に繰り返すことによる細胞品質の劣化は避けられないが、現時点では品質劣化の明確な指標が存在しない。
【0007】
本発明では、ヒト間葉系幹細胞の品質評価方法、ヒト間葉系幹細胞の分離、選別及び培養方法、増殖の早いヒト間葉系幹細胞の細胞集団、並びに、増殖の早いヒト間葉系幹細胞を特異的に認識するモノクローナル抗体を提供することを目的とする。
【0008】
また、RECとそれ以外の劣化したクローン(MEC: Moderately Expanding Clone, SEC: Slowly Expanding Clone)とで遺伝子発現解析を行い、REC特異的遺伝子を選別した。さらに特異的遺伝子が発現する蛋白を認識する新規モノクローナル抗体の作製を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係るヒト間葉系幹細胞の品質評価方法の特徴は、ヒト間葉系幹細胞が含まれる細胞集団から、増殖の早いヒト間葉系幹細胞を分離、選別及び培養し、同分離、選別及び培養した細胞集団においてRor2またはFzd5を発現している細胞(の存在比率)を定量して各細胞集団の合否判定を行うことにある。同構成によれば、Ror2またはFzd5は、単独発現によりRECであるか否かを判定でき、培養細胞も利用可能であるため、判定をより簡便に行うことができる。なお、LNGFRは培養細胞ではRECであっても発現せず、Thy1は単独ではREC判定不能である。
【0010】
上記構成において、抗Ror2モノクローナル抗体または抗Fzd5モノクローナル抗体を用いてRor2またはFzd5を発現している細胞を定量するとよい。この場合、定量的PCRを用いてRor2のmRNA発現を定量してもよいし、免疫染色によりRor2またはFzd5を発現している細胞を定量してもよい。ただしRor2は細胞外発現であるため、FMCの適用が容易であるが、Fzd5は細胞内発現であるため、免疫染色の目視評価等が適切である。
【0011】
一方、上記目的を達成するため、ヒト間葉系幹細胞の分離、選別及び培養方法の特徴は、ヒト間葉系幹細胞が含まれる細胞集団から、増殖の早いヒト間葉系幹細胞を分離、選別及び培養し、同分離、選別及び培養した細胞集団においてRor2またはFzd5を発現している細胞(の存在比率)を定量して各細胞集団の合否判定を行い、合格の細胞集団のみを選別することにある。
【0012】
同構成において、抗Ror2モノクローナル抗体または抗Fzd5モノクローナル抗体を用いてRor2またはFzd5を発現している細胞を定量するとよい。ここで、定量的PCRを用いてRor2のmRNAを発現している細胞を定量してもよいし、免疫染色によりRor2またはFzd5を発現している細胞を定量してもよい。
【0013】
また、前記増殖の早いヒト間葉系幹細胞として分離、選別及び培養する工程が、ヒト間葉系幹細胞が含まれる細胞集団から、抗LNGFRモノクローナル抗体および抗Thy1モノクローナル抗体で染色した細胞をフローサイトメトリー(以下、「FCM」)で解析し、LNGFR Thy1共陽性細胞をセルソーティングする工程を含んでいてもよい。これに限らず、前記増殖の早いヒト間葉系幹細胞として分離、選別及び培養する工程が、ヒト間葉系幹細胞が含まれる細胞集団から、抗Ror2モノクローナル抗体で染色した細胞をFCMで解析し、Ror2陽性細胞をセルソーティングする工程を含んでいてもよい。
【0014】
さらに、上記各方法において、骨髄を始めとする各組織由来細胞から直接前記細胞集団を調製する工程を包含してもよい。一方、Ror2陽性細胞をセルソーティングする工程を含む方法では、骨髄をはじめとする組織由来細胞を付着培養することにより、前記細胞集団を調製する工程を包含してもよい。RECの培養細胞はLNGFR陽性とならない一方、Ror2陽性となるからである。
【0015】
上記方法において、前記セルソーティングする工程が、培養プレートのウェルに陽性の各細胞を播種するものであり、その後さらに、培養によりコンフルエントとなったウェルの細胞を分離及び選別する工程を包含させてもよい。
【0016】
上記目的を達成するため、増殖の早いヒト間葉系幹細胞の細胞集団の特徴は、ヒト間葉系幹細胞が含まれる細胞集団から、増殖の早いヒト間葉系幹細胞を分離、選別及び培養し、同分離、選別及び培養した細胞集団においてRor2またはFzd5を発現している細胞(の存在比率)を定量して各細胞集団の合否判定を行い、合格の細胞集団のみを選別することにある。
【0017】
同特徴において、ヒト間葉系幹細胞が含まれる細胞集団から、抗LNGFRモノクローナル抗体および抗Thy1モノクローナル抗体で染色した細胞をFCMで解析し、LNGFR Thy1共陽性細胞をセルソーティングし、培養プレートのウェルに同共陽性の各細胞を播種し、培養によりコンフルエントとなったウェルの細胞を分離及び選別した後、前記定量を行ってもよい。
【0018】
一方、同特徴において、ヒト間葉系幹細胞が含まれる細胞集団から、抗Ror2モノクローナル抗体で染色した細胞をFCMで解析し、Ror2陽性細胞をセルソーティングし、培養プレートのウェルに同陽性の各細胞を播種し、培養によりコンフルエントとなったウェルの細胞を分離及び選別した後、前記定量を行ってもよい。
【0019】
上記本発明に係る目的を達成するため、本発明に係る新規なモノクローナル抗体は、抗Ror2モノクローナル抗体であり、クローン名が7C9である。また、本発明に係る他の新規なモノクローナル抗体は、抗Fzd5モノクローナル抗体であり、クローン名が6F5である。
【発明の効果】
【0020】
特定した2つの遺伝子(Fzd5, Ror2:詳細は後述)がコードする蛋白の発現はRECに特異的であり、品質が劣化した細胞集団では発現が認められない。またRECの未分化状態維持に必須の遺伝子であり、1)発現阻害により細胞性能の劣化が誘導される、2)遺伝子の強制発現により未分化状態が延長する、などの結果から単なるバイオマーカーではなく、細胞機能に密接に関与し、細胞性能を担保する有効な指標である。
【0021】
このように、本発明によれば、ヒト間葉系幹細胞の品質評価方法、ヒト間葉系幹細胞の分離、選別及び培養方法、増殖の早いヒト間葉系幹細胞の細胞集団、並びに、増殖の早いヒト間葉系幹細胞を特異的に認識するモノクローナル抗体を提供することが可能となった。
【0022】
本発明の他の目的、構成及び効果については、以下の発明の実施の形態の項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】高品質間葉系幹細胞(REC)の選別、分離、培養及び品質評価工程を示す図である。
図2】REC, MEC, SECを様々なパラメータで比較した結果である。
図3】Ror2, Fzd5がREC特異的に発現することを示す図とグラフである。
図4】Fzd5の阻害がRECの細胞性質の劣化を誘導することを示す図とグラフである。
図5】Fzd5の強制発現がRECの未分化性を誘導することを示す写真とグラフである。
図6】新規に作製した抗Fzd5モノクローナル抗体の染色性を示す写真とグラフである。
図7】新規に作製した抗Ror2モノクローナル抗体の染色性を示す写真と図である。
図8】REC特異的抗体を用いた、培養MSCの品質評価を行う模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、RECの選択、分離及び培養の工程の概要について説明し、続いて、各工程の趣旨と詳細について説明する。本発明では、工程1でRECの選択、分離及び培養を行い、工程2で培養されたRECの評価を行う。工程の組み合わせを表1に例示するが、「プロセス評価欄」で「不可」とされているもの以外は実施しうる。以下、プロセス番号P1,P2のものをまず例示する。
【0025】
【表1】
【0026】
[工程1] 図1に単クローン培養法によるREC分離工程を例示する。
1)ヒト骨髄(または脂肪・胎盤絨毛膜)より単核細胞を調製し、骨髄単核細胞を抗LNGFR、抗Thy1で染色する(LNGFR Thy1共陽性細胞をLT細胞とする。)。
2)フローサイトメトリー(FCM、セルソータ)を用い、LNGFR陽性・Thy1陽性細胞を96穴培養プレートにクローンソート(1ウェルに細胞1個ずつ播種すること、表1で「単一」と表記)を行う。
なお、抗CD106モノクローナル抗体を加え、LNGFR陽性・Thy1陽性かつCD106強陽性の細胞をクローンソートしてもよい。
3)単一細胞培養2週間後に培養プレートを顕微鏡下で撮影し、コンフレントになったウェルを選別し、各ウェルに含まれる細胞をREC(Rapidly Expanding Cells)とする。遅れて増殖しているウェルMEC/SEC(Moderately/Slowly Expanding Cells)は破棄する。
4)RECとして選別した各ウェルから細胞をウェル毎に別々に回収する。1ウェルから回収したRECを1ロットとする。
【0027】
[工程2] 図1に、さらにRECマーカー(抗Ror2・抗Fzd5)による培養細胞の評価を示す。
1)96穴プレートから回収したRECを各ウェル毎に培養皿または培養フラスコに移入し、コンフレントになるまで培養する(拡大培養)。
2)拡大培養後、全ロットから付着増殖した細胞を回収し、各ロットの一部 (1−3×103個程度)の細胞をとりわけて、RECマーカー(抗Ror2・抗Fzd5)に対するモノクローナル抗体で単一染色を行う。
3)RECマーカー陽性細胞をフローサイトメトリーで解析し、回収細胞におけるRECマーカー陽性細胞の比率を求める(定量的PCRを用いてRor2のmRNA発現を定量してもよいし、顕微鏡により同比率をマニュアルにより求めてもよい)。
4)上記陽性比率が一定値(例えば65%)以上のロット(細胞集団)を合格とする。
5)合格ロットの細胞を凍結バイアルに封入し液体窒素中で保存する。
6)凍結細胞したものを高品質ヒト間葉系幹細胞(製品)とする。
7)ユーザーはバイアルに入った細胞を融解後、培養皿またはフラスコ上で拡大培養を行うことで、最終的に1×1010以上の高純度間葉系幹細胞を安定して使用することが可能である。
【0028】
上記において、LT細胞をクローンソーティングする代わりに、Ror2陽性細胞をクローンソーティングしてもよい(表1、P6,7)。また、LT細胞、Ror2陽性細胞を選定し、96穴培養プレートの各ウェルに複数個播種してもよい(表1で「複数」と表記、P5,9,14)が、この場合は、クローンソートよりも純度が低下する。なお、コンフレントとは培養容器表面の90%以上を培養細胞が覆っている状態である。また、セミコンフレントとは培養容器表面の70−80%を培養細胞が覆っている状態である。使用する培養器具のサイズおよび種類は細胞の増殖速度に応じ適宜変更可能である。
【0029】
上記実施形態では、骨髄を始めとする各組織由来細胞から直接前記細胞集団を調製したが、Ror2陽性細胞でソーティングする場合は、骨髄をはじめとする組織由来細胞を付着培養することにより、前記細胞集団を調製してもよい(表1、P10−15、「付着培養細胞」と表記)。この場合、骨髄単核細胞を10−20%血清+bFGF添加培地(37℃、1−5% CO2)上に播種して約2週間培養し、培養後に出現する繊維芽細胞様の付着細胞(CFU−F)を回収する。細胞集団を調製する工程は、骨髄をコラゲナーゼで処理する工程を包含してもよい。また、同工程は、G−CSF投与後の末梢血から細胞集団を調製するようにしてもよい。
【0030】
なお、出荷前の評価(工程2の2),3))は必ずしも必要ではなく、表1プロセスP15の如く、付着培養細胞を利用し、Ror2陽性のものをFMCでソーティングにより分離し、必要に応じて拡大培養し、これを[工程2]の5)以降の処理により出荷してもよい。
【0031】
ここで、図2を参照しながら、RECとMEC/SECの細胞性能を比較する。REC,
MEC, SECの細胞性能を様々なパラメータで比較した結果を示す。
図Aは、ヒト骨髄単核細胞をLNGFRおよびThy1に対する抗体で染色後、FCM解析を行った結果である。楕円で囲まれた部分がLT細胞である。
図Bは、LT細胞を96穴プレートに単一細胞分離(クローンソート)することの模式図である。
図Cは、単一細胞培養後の細胞数を定期的に計測した結果を示すグラフである。RECはMEC/SECと比較し増殖速度が速く、約2週間で0.5−1×104個まで増殖する。0.5−1×104個は96穴プレートのウェルがコンフレントになる数である。
図Dは、REC・MEC・SECを骨・脂肪へ分化誘導した後、骨・脂肪細胞に特異的な遺伝子発現を定量PCRにて計測した結果を示す。RECはMEC, SECと比較し、特に脂肪分化能が高いことが示された。
図Eは、REC・MEC・SECを再度96穴プレートにクローンソート後、2次コロニーを形成したウェルの数を比較した結果のグラフである。2次コロニーの形成は未分化状態の目安とされる自己複製能の指標である。RECの約33%が2次コロニーを形成するのに対し、MEC/SECはごく僅かなコロニーしか形成されない。
図Fは、Luc(ルシフェラーゼ)遺伝子発現ベクターを導入した以下の細胞集団、WBM(通常法で得たMSC、WBMはWhole Bone Marrowの略称である)、REC、MEC/SEC、および陰性対照群としてルシフェラーゼで標識していないWBM(Luc(-) Cultured MSC)をそれぞれ免疫不全マウスに対し経静脈的に投与後に、Lucの基質であるルシフェリンを腹腔内投与し、ルシフェラーゼの発光を体外から検出できる装置(IVIS)を用いて、移植24時間後に観察した結果を示す。上段)グラフは各マウスにおけるLuc発光量を数値化し、WBM ・MSC移植した群を100%とした時の他の細胞を移植したマウスの発光比率(%)をプロットしたものである。下段)画像は各群のレシピエントマウスにおけるLucの発光をイメージ化したものである。いずれの結果からも、RECを移植したマウスは肺での発光量が極端に低いことから、RECは肺毛細血管にほとんどトラップされないのに対し、MEC/SECはWBM(通常上で得た培養MSC)とほぼ同等に補足され、肺中にとどまっていることがわかる。
以上の結果を総合すると、RECは増殖能・分化能・遊走能ともに優れた細胞集団であり、特に後述する難治疾患への全身投与が可能という点で、新鮮骨髄中のMSCに匹敵する遊走性を維持していることがポイントとなる。
【0032】
以上を含め、発明者らの実験によれば、RECは通常MSCと比較し以下の特徴を持つ。
1.形態的に極めて均一な細胞集団である
2.細胞老化が見られない
3.分裂速度が早く、未分化性を維持したまま培養増幅が可能
4.分化能が高く骨・脂肪へ分化させやすい細胞集団
5.遊走能を維持している
RECはヒトMSCのうち最も未分化な細胞集団であり、骨髄中のMSCに最も近い性質を持つ。またMEC/SECあるいは通常法で得たMSCと比較し、高い分化・増殖・遊走能にすぐれた、新鮮かつ変異の少ない、細胞性能が保証された細胞集団である。
【0033】
続いて、図3を参照しながら、未分化MSC(REC)特異的遺伝子Ror2,Fzd5の同定について説明する。
REC,MEC,SECそれぞれで発現する遺伝子の発現レベルをDNAアレイ法により比較し、Wnt(ウイント)受容体の一つであるFzd5およびその共受容体であるRor2がREC特異的であることを確認した。
図Aは、REC,MEC,SECそれぞれにおける定量的PCRによるRor2 mRNAの発現比較である。
図BはREC,MEC,SECそれぞれにおける定量的PCRによるFzd5 mRNAの発現比較である。
図Cはウエスタンブロッティング法によるFzd5蛋白発現の比較である。
図Dは、蛍光免疫染色法によるFzd5蛋白の細胞内局在比較写真である。
以上、複数の解析方法で評価した結果、Fzd5とRor2の発現はREC特異的であることが確認できた。従ってFzd5およびRor2それぞれの発現を検出し定量化すれば、RECの細胞品質評価の指標として有効と考えられる。また、新規に作製した抗Fzd5モノクローナル抗体と抗Ror2モノクローナル抗体は、フローサイトメトリー、ウエスタンブロッティング、蛍光免疫染色いずれの手法においても対象とするタンパク抗原の検出と定量化が可能である。
【0034】
次に、図4を参照しながら、Fzd5のloss of functionによる細胞老化誘導について検討する。
RNAインタフェレース法は対象とするmRNAに対し相補的な配列を持つ短いRNA(shRNA)を細胞内に導入し、対象とするmRNAを破壊することで目的遺伝子の機能を調べる手法である。Fzd5に対し相補的な配列を持つshRNA(shFZD5)によりFzd5 mRNAを破壊した場合のRECの細胞性質を対照群(shCTRL:Fzd5に対し相補的ではないランダム配列のshRNA)と比較した一連の実験結果を示す。
図Aは、shFZD5またはshCTRLをそれぞれRECに導入した後、Fzd5 のmRNA量を定量的PCR法にて定量化したグラフである。対照群(shCTRL、ショートヘアピンコントロール)におけるFzd5 mRNA量を100とした場合、shFZD5を強制発現したRECではFzd5のmRNA量が約40%に低下していた。
図Bは、shFZD5またはshCTRLをそれぞれRECに導入した後、対照群の細胞数を1とした時のshFZD5強制発現群の細胞数を縦軸、shRNA導入後の日数を横軸にプロットしたグラフである。shFZD5を発現したRECは対照群と比較し、細胞数の急激な減少が認められ、Rzd5の阻害により増殖能の低下が誘導されることが示唆された。
図Cは、shFZD5またはshCTRLをそれぞれRECに導入後、脂肪細胞へ分化誘導し、培養14日目にOil-Red-Oで脂肪滴を染色した画像である。対照群と比較しFzd5を阻害すると脂肪分化能の低下が認められた。
図Dは、細胞老化の指標であるSA-β-gal活性は基質であるX-galを加えると青色に染色され検出できる。shFZD5またはshCTRLをそれぞれRECに導入後、x-gal染色を行った画像および各細胞集団におけるSA-β-gal活性を持つ細胞頻度をプロットしたグラフを示す。
図Eは、細胞老化の指標であるp16(INK4a)のmRNA量を定量的PCR法により定量化したグラフである。対照群を100とした場合、shFZD5導入RECにおけるp16 mRNA量は約300であり、Fzd5の発現阻害により細胞老化が誘導されることが示された。
図Fは、shFZD5またはshCTRLをそれぞれRECに導入後、各細胞集団に対し抗F-actin抗体にて細胞内染色を行いStress Fiberの形成を観察した画像、および同細胞集団それぞれに含まれる各細胞の面積(細胞サイズ)の平均値をプロットしたグラフを示す。
以上の結果から、RECにおけるFzd5の機能を阻害することにより、増殖能の低下、分化能の低下、細胞老化の誘導、Stress fiber形成による遊走性の低下と細胞サイズの増大が誘導され、MEC/SECと同じ性状に変化することから、Fzd5は単なるバイオマーカーではなく、RECの細胞性能の維持を担保する機能分子と考えられる。
【0035】
次に、図5を参照しながら、Fzd5の gain of functionによる長期増殖能維持について考察する。
Fzd5の全長cDNAをRECに強制発現することでFzd5 mRNAを恒常的に発現させたことによる細胞機能への影響を確認した。発現ベクターはFzd5 cDNAと蛍光蛋白GFP(Green Fluorescent Protein、緑色蛍光タンパク質)がタンデムに連なっており、Fzd5遺伝子導入細胞はGFPを同時に発現しているため蛍光顕微鏡を用いて導入した遺伝子の発現が確認できる。
図Aは、蛍光顕微鏡によるGFP発現細胞の形態観察写真である。Fzd5 cDNAとGFPを導入した細胞集団(Fzd5)とGFP遺伝子のみを導入した対照群(CTRL)の遺伝子導入後28日目の細胞形態を撮影した画像である。
対照群では図中矢印で示した細胞老化の特徴であるサイズの大きい多極性細胞が多数出現しているのに対し、Fzd5発現RECはほぼ全てが細胞質の小さい双極性の形態を維持していた。
図Bは、対照群の細胞数を1とした時のFzd5発現RECの細胞数を縦軸、遺伝子導入後の日数を横軸にプロットしたグラフである。対照群と比較し、Fzd5を強制的に発現させたRECでは増殖能が長期的に維持されていた。
以上の結果から、Fzd5を介したWntシグナル刺激により、未分化性を維持した状態で長期的な培養増幅が可能になることが見込まれる。
【0036】
続いて、図6を参照しながら、ヒトFzd5に対する新規モノクローナル抗体の作製について説明する。
ヒトFzd5抗原の細胞外領域を免疫原とし、ホストマウスを免疫後、常法に従いハイブリドーマを作製し、Fzd5遺伝子を発現させたBa/F3細胞でスクリーニングを行うことで、新規の抗Fzd5モノクローナル抗体(クローン名:6F5)を得た。
本抗体を用い様々な手法でFzd5蛋白が検出できるか否かの確認を行った。
図Aは、Fzd5の細胞外領域を強制発現させたBa/F3細胞に対し、Biotin標識した6F5抗体で染色後、ストレプトアビジン(SAV)-PEで蛍光標識しフローサイトメトリーで解析を行い、PEの蛍光強度を横軸にプロットしたヒストグラムを示す。図中のグレーで示したヒストグラムは一次抗体としてアイソタイプコントロールを加えた陰性コントロール、白抜きのヒストグラムは6F5で染色したサンプルのPE蛍光強度である。図中の横バーで示した領域がFzd5陽性細胞領域であり、数値は陽性率(%)を表す。
図Bは、RECの異なる3クローンより細胞内蛋白を調製し、6F5を一次抗体としてFzd5蛋白を検出したウエスタンブロッティングの結果を示す。陰性コントロールとして、サル腎臓由来の細胞株COS7より調製した細胞内蛋白を用いた。
図Cは、REC細胞に対し6F5-Biotinを一次抗体として染色後、ストレプトアビジン(SAV)-Alexa555にて蛍光ラベル後に蛍光顕微鏡で観察、撮影した画像である。抗Fzd5抗体(6F5)はフローサイトメトリー、ウエスタンブロッティング、蛍光免疫染色の全てに利用可能であった。
【0037】
次に、図7を参照しながら、ヒトRor2抗原に対する新規モノクローナル抗体の作製について説明する。
ヒトRor2抗原を免疫原とし、新規に抗Ror2抗体(クローン名:7C9)を作製した。同クローンを用い、
図AはRECに対し、1次抗体として7C9-Biotinで染色後、SAV-PEで蛍光ラベルし、フローサイトメトリーを用いてPE蛍光の検出を行った結果を示す。1次抗体としてアイソタイプコントロール抗体を加えたサンプルを陰性コントロールとする。縦軸にFITC蛍光(染色していないため全て陰性)、横軸にPE蛍光をプロットした2次元ドットプロットである。陰性コントロール群ではPE蛍光を発する細胞がほぼ含まれない領域(図中の台形で囲まれた部分:0.011%)がClone7C9で染色したサンプルにおいてPE蛍光を発現している細胞集団(69.3%)であった。
図Bは、RECに対し7C9-Biotinを1次抗体として免疫染色を行い、Streptavidin-Alexa488で蛍光標識後にRor2蛋白の発現を蛍光顕微鏡にて観察・撮影した画像である。RECの大部分がRor2蛋白を発現していることが確認された。
図Cは、新鮮骨髄細胞に対しLNGFR-APC, Thy1-FITC, Ror2-PE(それぞれの抗原に対するモノクローナル抗体)による3重染色を行い、フローサイトメトリー解析を行った結果を示す。左はLNGFRの発現を縦軸に、Thy1の発現を横軸にプロットした図であり、四角枠で囲まれた部分はヒトMSCが高頻度に含まれるLNGFR Thy1共陽性細胞集団である。右2つの図はLNGFR Thy1共陽性細胞集団のみを抽出後、横軸を細胞の大きさの指標であるFSC、縦軸にSAV-PEで標識した抗Ror2-Biotin抗体(7C9)のPE蛍光をプロットした図である。四角枠で囲まれた部分は陰性コントロールを元に設定したRor2陽性領域であり、数値は陽性率(%)を表す。Clone7C9を用いた場合、LNGFR Thy1共陽性細胞の92.3%がRor2陽性であり、LNGFR Thy1に代わるMCSの選別マーカーとして用いることが可能である。
新規に作製した抗Ror2モノクローナル抗体を用いることで、フローサイトメトリー及び蛍光免疫染色によりRor2蛋白の検出と定量化が可能である(図7A,B)。
さらに新規に作製した抗Ror2は骨髄中に含まれるMSCのマーカーとしても利用可能である(図7C)。
【0038】
次に、図8を参照しながら、抗Ror2抗体または抗Fzd5抗体を用いた、細胞品質の評価手順について説明する。
通常法である付着培養を行ったヒトMSC(または継代培養を行ったREC)を回収し、REC特異的なモノクローナル抗体(抗Ror2抗体または抗Fzd5抗体)で染色する。
フローサイトメトリーにて陽性細胞の頻度(含有%)を計測する。その代わりに、蛍光顕微鏡下で陽性細胞の頻度(含有%)を計測してもよい。これらの計測により、その細胞集団にどれだけのRECが含まれているかを定量化することができるため、対象とするMSCがどの程度の分化・増殖・遊走能を持つか、細胞品質を評価することが可能である。発明者らの実験によれば、RECのRor2陽性率は5ロットで72%±8.9%であった。よって、例えば、最低値である63%以上や、65%以上を合否判定の基準値としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、全身性疾患への治療に利用することができるヒト間葉系幹細胞を効率良く分離培養する技術を提供すること、および得られた細胞集団が移植に適しているか、薬効性を示すかの基準となる品質評価を行うことが可能になった。
新規に作製した高純度間葉系幹細胞に特化した染色性を示すモノクローナル抗体のうち、細胞分離に適した候補はナノ磁気微粒子と結合させることによって、間葉系幹細胞分離用試薬として製品化できる。また、分離した間葉系幹細胞の品質を検定するための細胞評価用の試薬として、蛍光物質結合抗体、細胞染色用試薬が実用化できる。
間葉系幹細胞は、従来行われてきたバイオマテリアルの材料として、あるいはその多分化能を生かし、重症筋無力症、慢性リウマチ症等への投与、さらには脊髄損傷、心・血管、慢性肝不全を始めとする重度の疾患治療に対する細胞治療を行う際に組織の場(ニッシェ)を整える支持細胞として共移植するなど、様々な応用が期待される。特に、遊走性を維持しているRECを用いることにより、これまで治療法が存在しなかった低フォスファターゼ症をはじめとする全身性骨・軟骨疾患等の代謝性疾患、GVHDの治療など経静脈的に投与する必要のある全ての疾患に適用すれば、これまでにない治療効果が見込まれる。
本発明は以下を提供する。
[1]ヒト間葉系幹細胞の品質評価方法であって、
ヒト間葉系幹細胞が含まれる細胞集団から、増殖の早いヒト間葉系幹細胞を分離、選別及び培養し、
同分離、選別及び培養した細胞集団においてRor2またはFzd5を発現している細胞の存在比率を定量して各細胞集団の合否判定を行うヒト間葉系幹細胞の品質評価方法。
[2]抗Ror2モノクロナール抗体または抗Fzd5モノクロナール抗体を用いてRor2またはFzd5を発現している細胞を定量する上記[1]に記載のヒト間葉系幹細胞の品質評価方法。
[3]定量的PCRを用いてRor2のmRNAを発現している細胞を定量する上記[2]に記載のヒト間葉系幹細胞の品質評価方法。
[4]免疫染色によりRor2またはFzd5を発現している細胞を定量する上記[2]に記載のヒト間葉系幹細胞の品質評価方法。
[5]ヒト間葉系幹細胞の分離、選別及び培養方法であって、
ヒト間葉系幹細胞が含まれる細胞集団から、増殖の早いヒト間葉系幹細胞を分離、選別及び培養し、
同分離、選別及び培養した細胞集団においてRor2またはFzd5を発現している細胞の存在比率を定量して各細胞集団の合否判定を行い、合格の細胞集団のみを選別するヒト間葉系幹細胞の分離、選別及び培養方法。
[6]抗Ror2モノクロナール抗体または抗Fzd5モノクロナール抗体を用いてRor2またはFzd5を発現している細胞を定量する上記[5]に記載のヒト間葉系幹細胞の分離、選別及び培養方法。
[7]定量的PCRを用いてRor2のmRNAを発現している細胞を定量する上記[6]に記載のヒト間葉系幹細胞の分離、選別及び培養方法。
[8]免疫染色によりRor2またはFzd5を発現している細胞を定量する上記[6]に記載のヒト間葉系幹細胞の分離、選別及び培養方法。
[9]前記増殖の早いヒト間葉系幹細胞として分離、選別及び培養する工程が、ヒト間葉系幹細胞が含まれる細胞集団から、抗LNGFRモノクロナール抗体および抗Thy1モノクロナール抗体で染色した細胞をフローサイトメトリー(以下、「FCM」)で解析し、LNGFR Thy1共陽性細胞をセルソーティングする工程を含んでいる上記[5]に記載のヒト間葉系幹細胞の分離、選別及び培養方法。
[10]前記増殖の早いヒト間葉系幹細胞として分離、選別及び培養する工程が、ヒト間葉系幹細胞が含まれる細胞集団から、抗Ror2モノクロナール抗体で染色した細胞をFCMで解析し、Ror2陽性細胞をセルソーティングする工程を含んでいる上記[5]に記載のヒト間葉系幹細胞の分離、選別及び培養方法。
[11]骨髄、その他の各組織由来細胞から直接前記細胞集団を調製する工程を包含する上記[9]または[10]記載のヒト間葉系幹細胞の分離、選別及び培養方法。
[12]骨髄、その他の各組織由来細胞を付着培養することにより、前記細胞集団を調製する工程を包含する上記[10]記載のヒト間葉系幹細胞の分離、選別及び培養方法。
[13]前記セルソーティングする工程が、培養プレートのウェルに陽性の各細胞を播種するものであり、その後さらに、培養によりコンフルエントとなったウェルの細胞を分離及び選別する工程を包含する上記[9]または[10]記載のヒト間葉系幹細胞の分離、選別及び培養方法。
[14]ヒト間葉系幹細胞が含まれる細胞集団から、増殖の早いヒト間葉系幹細胞を分離、選別及び培養し、
同分離、選別及び培養した細胞集団においてRor2またはFzd5を発現している細胞の存在比率を定量して各細胞集団の合否判定を行い、合格の細胞集団のみを選別した増殖の早いヒト間葉系幹細胞の細胞集団。
[15]ヒト間葉系幹細胞が含まれる細胞集団から、抗LNGFRモノクロナール抗体および抗Thy1モノクロナール抗体で染色した細胞をFCMで解析し、LNGFR Thy1共陽性細胞をセルソーティングし、培養プレートのウェルに同共陽性の各細胞を播種し、培養によりコンフルエントとなったウェルの細胞を分離及び選別した後、前記定量を行うことにより得られた上記[14]記載の増殖の早いヒト間葉系幹細胞の細胞集団。
[16]ヒト間葉系幹細胞が含まれる細胞集団から、抗Ror2モノクロナール抗体で染色した細胞をFCMで解析し、Ror2陽性細胞をセルソーティングし、培養プレートのウェルに同陽性の各細胞を播種し、培養によりコンフルエントとなったウェルの細胞を分離及び選別した後、前記定量を行うことにより得られた上記[14]記載の増殖の早いヒト間葉系幹細胞の細胞集団。
[17]抗Ror2モノクローナル抗体である増殖の早いヒト間葉系幹細胞を特異的に認識するモノクローナル抗体。
[18]クローン名が7C9である上記[17]記載の増殖の早いヒト間葉系幹細胞を特異的に認識するモノクローナル抗体。
[19]抗Fzd5モノクローナル抗体である増殖の早いヒト間葉系幹細胞を特異的に認識するモノクローナル抗体。
[20]クローン名が6F5である上記[19]記載の増殖の早いヒト間葉系幹細胞を特異的に認識するモノクローナル抗体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8