(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
(1)粉末床溶融結合装置の構成
本発明の実施形態に係る粉末床溶融結合装置10は、レーザ光出射部と、造形部と、制御部とから構成されている。
【0015】
図1(a)は、実施形態の粉末床溶融結合装置10のうち、造形部101の構成を示す上面図である。なお、
図1(a)ではレーザ光出射部と制御装置は図示していない。
図1(b)は
図1(a)のI−I線に沿う断面図で、同図には造形部101の他に、その上方に配置されるレーザ光出射部102も示している。
【0016】
(a)造形部の構成
造形部101には、
図1(a)、(b)に示すように、レーザ光の照射により造形が行われる造形用容器11と、その両側に設置された第1の粉末材料収納容器12a及び第2の粉末材料収納容器12bとを備えている。
【0017】
造形用容器11の内壁に囲まれた領域が造形領域11aであり、粉末材料収納容器12a、12bに囲まれた領域が粉末材料15の収納領域である。
【0018】
このうち、造形用容器11は、3次元造形物が作製される容器であり、例えば、四角い平面形状を有する筒状の容器とすることができる。
【0019】
なお、本明細書において造形用容器11の中心とは、造形用容器11を上から見た時に現れる容器の平面形状(造形領域)の中心をいうものとする。
【0020】
造形用容器11の底部には、パートテーブル13aが設けられている。このパートテーブル13aの上で粉末材料の薄層15aが形成され、その粉末材料の薄層15aをレーザ光の照射により焼結又は溶融させて固化層15bが形成される。
【0021】
パートテーブル13aには、ねじ溝が切られた支持軸13bが取り付けられておりその支持軸13bは駆動装置(不図示)に接続されている。この駆動装置を動作させることでパートテーブル13aが上下方向に移動する。
【0022】
そして、パートテーブル13aを下方に移動させて固化層15bを順次積層し、3次元造形物が作製される。
【0023】
小型の粉末床溶融結合装置10においては、造形用容器11の幅及び奥行きの長さを例えば150mm×150mm程度とすることができる。
【0024】
第1及び第2の粉末材料収納容器12a、12bでは、それぞれフィードテーブル14aの上に粉末材料15が収納されている。
【0025】
そのフィードテーブル14aには、それぞれ支持軸14bが取り付けられており、駆動装置(不図示)によってフィードテーブル14aが上下に移動するようになっている。
【0026】
そして、フィードテーブル14aを上方に移動させることにより、粉末材料15を供給する。
【0027】
造形用容器11及び第1、第2の粉末材料容器12a、12bの上には、リコーター16が設けられている。
【0028】
このリコーター16は、第1の粉末材料容器12aと第2の粉末材料容器12bとの間を往復移動する。
【0029】
そして、フィードテーブル14a、14bの上昇により供給された粉末材料を造形領域11aまで運搬し、造形テーブル13a状に粉末材料の薄層15aを形成する。材料の薄層15aの厚さは、造形テーブル13aの下降量で決まる。
【0030】
粉末材料としては、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリ乳酸、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレンコポリマ(ABS)、エチレン・酢酸ビニルコポリマ(EVA)、スチレン・アクリロニトリルコポリマ、及びポリカプロラクトン等の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0031】
造形用容器11及び第1、第2の粉末材料容器12a、12bは、粉末材料の酸化による劣化や、レーザ光の照射によって発生する材料の蒸気等によるレーザ光射出部102へのダメージを防ぐために、密閉されたチャンバ17内に収められている。
【0032】
図3に示すように、チャンバ17には、不活性ガス導入口17aと、排気口17bとが設けられており、造形中は不活性ガスで満たされている。
【0033】
(b)加熱手段の構成
図3は、チャンバ17の造形用容器11、粉末材料容器12a、12b及び加熱手段11bを示す図である。
【0034】
この粉末床溶融結合装置10には、造形用容器11及び粉末材料収納容器12a、12bのそれぞれの周囲に巻き付けられたヒータ(不図示)が設けられている。
【0035】
さらに、造形用容器11の上方には、造形領域11aの4辺を囲むように配置された4つの赤外線ヒータ11bが設けられている。
【0036】
赤外線ヒータ11bの発熱量は、赤外線ヒータ11bに供給する電力を調整することで個別に設定可能である。この赤外線ヒータ11bの発熱量の組み合わせを適宜調整することにより、造形領域11aの表面を均一な温度に保つ。
【0037】
造形時には、赤外線ヒータ11bを使用することにより、造形領域11aの粉末材料を、その融点よりもやや低い温度に保つ。
【0038】
(c)レーザ光出射部102の構成
図2は、実施形態に係る粉末床溶融結合装置のレーザ光出射部102を示すブロック図である。
【0039】
レーザ光出射部102は、
図2に示すように、レーザ光を出射するレーザ光源23と、光走査素子21、フォーカス光学系21cとを備えている。これらの光出射部102は、チャンバ17の外側に設置されている。
【0040】
レーザ光源23は、例えば、波長1000nm程度の近赤外域のレーザ光を出射するYAGレーザ光源、又はファイバレーザ光源などが用いることができる。
【0041】
なお、粉末材料の波長吸収率やコストパフォーマンス等を考慮して使用波長を適宜変更してもよく、例えば、波長10000nm程度の遠赤外域のレーザ光を出射する高出力CO
2レーザ光源を用いてもよい。
【0042】
光走査素子21は、レーザ光に対する角度を変化させてレーザ光をX方向に走査するガルバノメータミラー(Xミラー)21aとレーザ光に対する角度を変化させてレーザ光をY方向に走査するガルバノメータミラー(Yミラー)21bとを備えている。
【0043】
この光走査素子21によって、レーザ光は造形領域11aの上をX方向及びY方向に走査される。
【0044】
また、フォーカス光学系21cは、レーザ光の焦点距離を調整する機能を担っている。フォーカス光学系21cは、レーザ光の走査位置に応じて変わる焦点距離を粉末材料の薄層15aの表面に合わせるように動作する。
【0045】
なお、光走査素子21の光軸(走査範囲の中心軸)を、造形領域11aの中心と一致させておくことで、走査位置と焦点距離との関係が光軸周りに対象となり、フォーカス光学系21cの制御が容易になり、精度よく照射を行うことができる。
【0046】
したがって、光走査素子21の光軸を、造形領域11aの中心と一致させておくことが好ましい。
【0047】
光走査素子21のXミラー21a、Yミラー21b及びフォーカス光学系21cは、XYZドライバ24の制御信号によって動作する。
【0048】
XYZドライバ24は、コントローラ(制御装置)25により制御され、かつレーザ光源23のON(点灯)及びOFF(消灯)もコントローラ25により制御される。コントローラ25として、例えばCPU(Central Processing Unit)及び制御用のプログラムが格納されたメモリを備えたコンピュータを用いることができる。
【0049】
レーザ光源23から出射したレーザ光は、順にフォーカス光学系21c、Xミラー21a、Yミラー21bという経路を経て造形部101のパートテーブル13a上の材料の薄層15aに照射される。
【0050】
レーザ光はコントローラ25による光走査素子21の制御により操作されることにより焼結又は溶融領域に選択的に照射されるようになっている。
【0051】
さらに、レーザ光が走査されている間、レーザ光が粉末材料の薄層15aのちょうど表面に焦点を結ぶように絶えず光学系21cのレンズが動いて焦点距離が調整されるようになっている。
【0052】
光走査素子21の制御は、作製すべき3次元造形物のスライスデータ(描画パターン)に基づき行われる。
【0053】
(d)赤外線カメラ31とレーザーウインドウ32の構成
光走査素子21は、
図3に示すように、造形領域11aの上方に取り付けられている。本実施形態では、光走査素子21は、その制御を容易にするとともに、精度を確保する観点から、造形領域11aの中心と光走査素子21の光軸を一致させるように配置する。
【0054】
また、赤外線カメラ31は光走査素子21に隣接して配置する。
【0055】
このように、赤外線カメラ31を造形領域11aの中心にできるだけ近い部分に配置することで、造形領域11aを撮像した際の画像の歪みが小さくなる。その結果、撮像した画像データの画素位置と実際の造形領域11aの位置との対応関係が比較的正確に求まる。
【0056】
なお、造形中には、レーザ光の照射や赤外線ヒータ11bで加熱された粉末材料の一部が昇華して、チャンバ17の内壁などに再付着することがある。そのため、光走査素子21及び赤外線カメラ31等の光学機器を直接チャンバ17に取り付けたのでは、これらの光学機器が短時間で故障してしまう。
【0057】
そこで、光走査素子21及び赤外線カメラ31と造形用容器11との間にレーザーウインドウ32を配置している。
【0058】
レーザーウンドウ32は、例えばセレン化亜鉛よりなる円盤状の結晶基板よりなり、レーザ光や造形領域11aの表面から放射される赤外線を透過させる。
【0059】
レーザ光出射部102のレーザ光は、そのレーザーウインドウ32を介してチャンバ17内に照射される。
【0060】
さらに、本実施形態ではレーザーウインドウ32への粉末材料の付着を防ぐために、不活性ガスをレーザーウインドウ32に吹き付ける噴出口32aが設けられている。この噴出口32aは、レーザーウインドウ32の周囲に設けられており、その噴出口32aから噴き出す不活性ガスの流れで粉末材料の蒸気や微粒子をチャンバ17内に押し返してレーザーウインドウ32への再付着を防止できる。
【0061】
光走査素子21の光軸は、造形領域11aの全域を走査範囲に収めるべく、造形用容器11の上方に配置される。このとき、フォーカス制御を容易にするために、造形領域11aの中心Oと、光走査素子21の光軸の中心とを一致させることが好ましい。
【0062】
レーザーウインドウ32は、上記のように、造形領域11aの中心Oの上方に光走査素子21を配置した場合においても、光走査素子21の走査可能範囲を確保することが求められる。
【0063】
さらに、レーザーウインドウ32の周囲から突き出た噴出口32aが照射範囲を制約するおそれがあることから、なるべくレーザーウインドウ32の中心を、光走査素子21の中心の近くに配置することが好ましい。
【0064】
一方で、赤外線カメラ31が造形領域11aの全域を視野に収められるようにレーザーウインドウ32の位置を設定することも求められる。
【0065】
このような条件を満たすために、光走査素子21の走査範囲を確保するのに必要な範囲で、レーザーウインドウ32のサイズを大きくすることが考えられる。
【0066】
しかし、レーザーウインドウ32はサイズが大きくなると、非常に高価となるため、サイズアップは最小限にとどめることが好ましい。
【0067】
図4は、光走査素子21、赤外線カメラ31及びレーザーウインドウ32の配置を示す平面図である。
【0068】
そこで本実施形態では、
図4に示すように、レーザーウインドウ32の中心Pの位置を造形用容器11の中心Oから、赤外線カメラ31の方にずらして配置する。
【0069】
すなわち、レーザーウインドウ32の中心Pを光走査素子21の真下に配置するのではなく、赤外線カメラ31と光走査素子21との間に配置する。
【0070】
さらに、赤外線カメラ31の中心Qを光走査素子21の中心Oとレーザーウインドウ32の中心Pとを結んだ線の延長線上に配置することができる。ここで赤外線カメラ31の中心とは、赤外線カメラ31の機械的な中心の意味であり、レンズの中心がこれと一致しない場合もあり得る。
【0071】
図5は、造形用容器11と光学系(光走査素子)21、及び赤外線カメラ31との配置関係を示す図である。
【0072】
図5に示すように、レーザーウインドウ32の中心Pを光走査素子21と赤外カメラ31の間に配置すると、例えば150mm×150mm程度の造形領域11aを有する小型の粉末床溶融結合装置10において、光走査素子21の走査範囲を造形領域11aの中心に一致させつつ、赤外線カメラ31の視野を確保できる。
【0073】
そのため、本実施形態の粉末床溶融結合装置10によれば、レーザ光出射部102を取り外すことなく、造形領域11aの表面を赤外線カメラ31で撮影することができる。
【0074】
また、造形途中の造形領域11aの表面の温度分布をリアルタイムに検出することができ、ヒータ11bの条件出しも容易に行える。
【0075】
(2)赤外線カメラ31を用いた調整工程の説明
次に、
図6を参照しつつ上記粉末床溶融結合装置10による造形前に行う調整工程について説明する。
【0076】
図6は、粉末床溶融結合装置10における調整工程のフローチャートである。
【0077】
まず、
図6のステップS11に示すように、粉末材料15のセットアップを行う。
【0078】
ここでは、
図1の造形用容器11の内壁に沿って上下移動可能なように造形用容器11にパートテーブル13aを取り付ける。また、左右の粉末材料容器12a、12bにもフィードテーブル14aを取り付ける。
【0079】
次いで左右のフィードテーブル14aを下降させて、フィードテーブル14aの上に粉末材料15を入れる。
【0080】
その後、リコーター16を複数回移動させて造形領域11aに粉末材料の薄層15aを敷き詰める。また、ガス導入口17aから不活性ガスを導入する。
【0081】
次に、ステップS12において、容器11、12a、12bの周囲のヒータで粉末材料15を加熱するとともに、赤外線ヒータ11bで造形領域11aの粉末材料の薄層15aの表面を加熱する。ここでは、実際の造形のときと同様の温度に加熱すればよく、例えば粉末材料の表面をその融点よりも5〜15℃程度低い温度にする。
【0082】
次に、ステップS13において、赤外線カメラ31で造形領域11aの表面の撮像を行う。造形領域11aの各部から放出される赤外線の強度は、その部分の温度に応じて増減するため、赤外線カメラ31の検出する輝度値は温度分布を反映したものとなる。この赤外線カメラ31からの画像データは制御部33に送られて温度分布に変換される。
【0083】
次いで、ステップS14において、制御部33の制御の下で、造形用容器11の周囲に配置された赤外線ヒータ11bの出力の組み合わせを、造形領域11aの表面の温度が均一になるように調整する。
【0084】
その後、ステップS15において、制御部33は、ステップS15で設定した赤外線ヒータ11bの出力値の組み合わせを調整データとして記録して調整工程を終了する。
【0085】
ステップS15で記録した赤外線ヒータ11cの出力データは、その後の造形の際に利用される。
【0086】
以上の例では、赤外線カメラ31を造形開始前の調整工程に使用する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、赤外線カメラ31の検出結果に基づいて、造形中において赤外線ヒータ11cの出力を制御部33で直接制御してもよい。