(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池はエネルギー密度が高く、充放電サイクル特性に優れるため、携帯電話やノート型パソコン等の小型のモバイル機器用の電源等として広く用いられている。
また、近年では、環境問題に対する配慮と省エネルギー化に対する意識の高まりから、電気自動車やハイブリッド電気自動車、電力貯蔵分野といった大容量で長寿命が要求される大型電池に対する需要も高まっている。
【0003】
高エネルギー密度化および長寿命化を目指して、リチウムイオン電池にはさらなる特性向上が求められている。
【0004】
リチウムイオン電池に用いられる正極は、一般的に、正極活物質層と集電体層から主に構成されている。正極活物質層は、例えば、正極活物質、バインダー樹脂、および導電助剤等を含む正極スラリーを金属箔等の集電体層の表面に塗布して乾燥することにより得られる。
【0005】
このようなリチウムイオン電池用正極に関する技術としては、例えば、特許文献1〜3に記載のものが挙げられる。
【0006】
特許文献1(特開平8−17471号公報)には、正極と負極とリチウムイオンを含む非水電解液を有する二次電池であって、上記正極の活物質材料として一般式Li[Mn
2−XLi
X]O
4(但し、0≦x≦0.1)で示されるリチウムマンガン酸化物もしくは一般式Li[Mn
2−XM
X]O
4(但し、MはCo、Ni、Fe、Cr、Zn、Ta等のMn以外の金属元素)で示されるリチウムマンガン酸化物を使用する非水電解液二次電池において、上記正極は比表面積(S)がS≦0.5m
2/gである上記リチウムマンガン酸化物を伝導助材と共に金属集電体の上に固めて活物質層を形成した電極であり、且つ上記活物質層の密度(d)が2.85≦d≦3.2g/ccであることを特徴とする非水電解液二次電池が記載されている。
【0007】
特許文献2(特開2000−251892号公報)には、組成式LiNi
1−xM1
xO
2(M1は、Al、B、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属の元素のうち少なくとも1種以上の金属元素:0<x<0.3)で表されるリチウムニッケル複合酸化物と、組成式LiMn
2−yM2
yO
4(M2は、Al、B、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属の元素のうち少なくとも1種以上の金属元素:0<y<0.3)で表されるリチウムマンガン複合酸化物とを混合してなるリチウム二次電池用正極活物質が記載されている。
【0008】
特許文献3(特開2013−20975号公報)には、少なくともMn、NiおよびCoを含む層状型リチウム・マンガン・ニッケル・コバルト複合酸化物と、スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物とを、活物質として含有する正極合剤層を有しており、上記層状型リチウム・マンガン・ニッケル・コバルト複合酸化物は、比表面積が0.1〜0.6m
2/gであり、上記スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物は、比表面積が0.05〜0.3m
2/gであり、上記正極合剤層では、上記層状型リチウム・マンガン・ニッケル・コバルト複合酸化物と、上記スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物と合計に対し、上記スピネル型リチウム・マンガン複合酸化物の比率が30〜50質量%であり、かつLi/Mnのモル比が0.35〜0.53であり、上記正極合剤層の密度が、3.0〜3.6g/cm
3であり、上記正極合剤層に、導電助剤として少なくともアセチレンブラックを含有する正極を有することを特徴とする非水電解質二次電池が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図において各構成要素は本発明が理解できる程度の形状、大きさおよび配置関係を概略的に示したものであり、実寸とは異なっている。また、本実施形態では数値範囲の「A〜B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0019】
<リチウムイオン電池用正極>
はじめに、本実施形態に係るリチウムイオン電池用正極100について説明する。
図1は、本発明に係る実施形態のリチウムイオン電池用正極100の構造の一例を示す断面図である。
本実施形態に係るリチウムイオン電池用正極100は、集電体層101と、集電体層101の両面に設けられ、かつ、正極活物質、バインダー樹脂および導電助剤を含む正極活物質層103と、を備える。そして、リチウムイオン電池用正極100の体積抵抗率が120Ω・m以上350Ω・m以下であり、正極活物質層103に含まれる上記正極活物質の比表面積をS[m
2/g]、正極活物質層103中の上記導電助剤の含有量をW[質量%]としたとき、S/Wが0.080以上0.140以下である。
【0020】
ここで、リチウムイオン電池用正極100の体積抵抗率は四端子抵抗率測定器を用いて四端子法により測定することができる。より具体的には、リチウムイオン電池用正極100の厚みの法線方向を端子プローブで荷重1kg/cm
2で挟持し、この端子プローブに四端子法による測定端子を結合することによりリチウムイオン電池用正極100の体積抵抗率を測定することができる。
【0021】
本発明者の検討によれば、高容量の正極活物質を用いたり、電極を高密度化したり、活物質層の厚みを厚くしたりしてリチウムイオン電池を高エネルギー密度化すると、高温でのサイクル特性が悪化してしまう場合があることが明らかになった。
そこで、本発明者は鋭意検討した結果、正極の体積抵抗率および導電助剤の含有量に対する正極活物質の比表面積の比を特定の範囲にすることにより、高容量の正極活物質を用いたり、電極を高密度化したり、活物質層の厚みを厚くしたりしてリチウムイオン電池を高エネルギー密度化したとしても、高温でのサイクル特性の悪化を抑制できることを初めて見出した。
【0022】
リチウムイオン電池用正極100の体積抵抗率の上限は350Ω・m以下であるが、好ましくは300Ω・m以下、より好ましくは250Ω・m以下、さらに好ましくは200Ω・m以下、特に好ましくは180Ω・m以下である。
本実施形態に係るリチウムイオン電池用正極100において、体積抵抗率を上記上限値以下とすることにより、得られるリチウムイオン電池の電気抵抗を低減できるため、電極での副反応(例えば、電解液の分解反応等)による被膜の厚みの増大を抑制でき、その結果、サイクル特性等の電池特性を効果的に向上させることができる。
リチウムイオン電池用正極100の体積抵抗率の下限は120Ω・m以上であるが、好ましくは130Ω・m以上、より好ましくは140Ω・m以上である。
本実施形態に係るリチウムイオン電池用正極100において、体積抵抗率を上記下限値以上とすることにより、電極反応を適度に抑制できるため、膨張収縮による正極活物質の割れが抑制できたり、正極活物質に極端な負荷がかかるのを抑制できたりする。その結果、サイクル特性等の電池特性を効果的に向上させることができる。
【0023】
本実施形態に係るリチウムイオン電池用正極100の体積抵抗率は、(A)正極活物質層103の配合比率、(B)正極活物質層103を形成するための正極スラリーの調製方法、(C)正極スラリーの乾燥方法、(D)正極のプレス方法、(E)正極の作製環境等の製造条件を高度に制御することにより実現することが可能である。
【0024】
また、本実施形態に係るリチウムイオン電池用正極100において、正極活物質層103の上記S/Wの上限は0.140以下であるが、好ましくは0.130以下、より好ましくは0.120以下である。
本実施形態に係るリチウムイオン電池用正極100において、正極活物質層103の上記S/Wを上記上限値以下とすることにより、得られるリチウムイオン電池の電気抵抗を低減できるため、電極での副反応(例えば、電解液の分解反応等)による被膜の厚みの増大を抑制でき、その結果、サイクル特性等の電池特性を効果的に向上させることができる。
正極活物質層103の上記S/Wの下限は0.080以上であるが、好ましくは0.085以上、特に好ましくは0.090以上である。
本実施形態に係るリチウムイオン電池用正極100において、正極活物質層103の上記S/Wを上記下限値以上とすることにより、電極反応を適度に抑制できるため、膨張収縮による正極活物質の割れが抑制できたり、正極活物質に極端な負荷がかかるのを抑制できたりする。その結果、サイクル特性等の電池特性を効果的に向上させることができる。
【0025】
次に、本実施形態に係る正極活物質層103を構成する各成分について説明する。
正極活物質層103は、正極活物質、バインダー樹脂、および導電助剤を含んでいる。
【0026】
本実施形態に係る正極活物質層103に含まれる正極活物質は用途に応じて適宜選択される。
正極活物質としてはリチウムイオン電池の正極に使用可能な通常の正極活物質であれば特に限定されない。例えば、リチウム−ニッケル複合酸化物、リチウム−コバルト複合酸化物、リチウム−マンガン複合酸化物、リチウム−ニッケル−マンガン複合酸化物、リチウム−ニッケル−コバルト複合酸化物、リチウム−ニッケル−アルミニウム複合酸化物、リチウム−ニッケル−コバルト−アルミニウム複合酸化物、リチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物、リチウム−ニッケル−マンガン−アルミニウム複合酸化物、リチウム−ニッケル−コバルト−マンガン−アルミニウム複合酸化物等のリチウムと遷移金属との複合酸化物;TiS
2、FeS、MoS
2等の遷移金属硫化物;MnO、V
2O
5、V
6O
13、TiO
2等の遷移金属酸化物、オリビン型リチウムリン酸化物等が挙げられる。
オリビン型リチウムリン酸化物は、例えば、Mn、Cr、Co、Cu、Ni、V、Mo、Ti、Zn、Al、Ga、Mg、B、Nb、およびFeよりなる群のうちの少なくとも1種の元素と、リチウムと、リンと、酸素とを含んでいる。これらの化合物はその特性を向上させるために一部の元素を部分的に他の元素に置換したものであってもよい。
【0027】
これらの中でも、オリビン型リチウム鉄リン酸化物、リチウム−ニッケル複合酸化物、リチウム−コバルト複合酸化物、リチウム−マンガン複合酸化物、リチウム−ニッケル−マンガン複合酸化物、リチウム−ニッケル−コバルト複合酸化物、リチウム−ニッケル−アルミニウム複合酸化物、リチウム−ニッケル−コバルト−アルミニウム複合酸化物、リチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物、リチウム−ニッケル−マンガン−アルミニウム複合酸化物、リチウム−ニッケル−コバルト−マンガン−アルミニウム複合酸化物が好ましく、リチウム−ニッケル複合酸化物、リチウム−コバルト複合酸化物、リチウム−マンガン複合酸化物、リチウム−ニッケル−マンガン複合酸化物、リチウム−ニッケル−コバルト複合酸化物、リチウム−ニッケル−アルミニウム複合酸化物、リチウム−ニッケル−コバルト−アルミニウム複合酸化物、リチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物、リチウム−ニッケル−マンガン−アルミニウム複合酸化物、リチウム−ニッケル−コバルト−マンガン−アルミニウム複合酸化物等のリチウムと遷移金属との複合酸化物がより好ましく、高容量、サイクル特性およびコストのバランスの観点から、リチウム−ニッケル複合酸化物、リチウム−ニッケル−マンガン複合酸化物、リチウム−ニッケル−コバルト複合酸化物、リチウム−ニッケル−アルミニウム複合酸化物、リチウム−ニッケル−コバルト−アルミニウム複合酸化物、リチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物、リチウム−ニッケル−マンガン−アルミニウム複合酸化物、リチウム−ニッケル−コバルト−マンガン−アルミニウム複合酸化物等のニッケル系の複合酸化物と、リチウム−マンガン複合酸化物と、を併用することがさらに好ましい。
これらの正極活物質は作用電位が高いことに加えて容量も大きく、大きなエネルギー密度を有する。
正極活物質は、一種のみを単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
正極活物質の平均粒子径は、充放電時の副反応を抑えて充放電効率の低下を抑える点から、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、5μm以上がさらに好ましく、入出力特性や電極作製上の観点(電極表面の平滑性等)から、80μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましい。ここで、平均粒径は、レーザ回折散乱法による粒度分布(体積基準)における積算値50%での粒子径(メジアン径:D
50)を意味する。
【0029】
正極活物質の含有量は、正極活物質層103の全体を100質量%としたとき、85質量%以上99.4質量%以下であることが好ましく、90.5質量%以上98.5質量%以下であることがより好ましく、90.5質量%以上97.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0030】
本実施形態に係る正極活物質層103に含まれるバインダー樹脂は用途に応じて適宜選択される。例えば、溶媒に溶解可能なフッ素系バインダー樹脂を使用することができる
【0031】
フッ素系バインダー樹脂としては電極成形が可能であり、十分な電気化学的安定性を有していれば特に限定されないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、フッ素ゴム等が挙げられる。これらのフッ素系バインダー樹脂は一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が好ましい。フッ素系バインダー樹脂は、例えば、N−メチル-ピロリドン(NMP)等の溶媒に溶解させて使用することができる。
【0032】
バインダー樹脂の含有量は、正極活物質層103の全体を100質量%としたとき、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下がさらに好ましい。バインダー樹脂の含有量が上記範囲内であると、正極スラリーの塗工性、バインダーの結着性および電池特性のバランスがより一層優れる。
また、バインダー樹脂の含有量が上記上限値以下であると、正極活物質質の割合が大きくなり、正極質量当たりの容量が大きくなるため好ましい。バインダー樹脂の含有量が上記下限値以上であると、電極剥離が抑制されるため好ましい。
【0033】
本実施形態に係る正極活物質層103に含まれる導電助剤としては正極の導電性を向上させるものであれば特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、天然黒鉛、人工黒鉛、炭素繊維等が挙げられる。これらの中でも、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、炭素繊維が好ましい。これらの導電助剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
導電助剤の窒素吸着BET法による比表面積は、例えば、10m
2/g以上100m
2/g以下であることが好ましく、30m
2/g以上80m
2/g以下であることがより好ましく、50m
2/g以上70m
2/g以下であることが特に好ましい。
【0035】
導電助剤の含有量は、正極活物質層103の全体を100質量%としたとき、0.5質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上4.5質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以上4.5質量%以下がさらに好ましく、2.0質量%以上4.5質量%以下が特に好ましい。導電助剤の含有量が上記範囲内であると、正極スラリーの塗工性、バインダー樹脂の結着性および電池特性のバランスがより一層優れる。
また、導電助剤の含有量が上記上限値以下であると、正極活物質の割合が大きくなり、正極質量当たりの容量が大きくなるため好ましい。導電助剤の含有量が上記下限値以上であると、正極の導電性がより良好になるため好ましい。
【0036】
本実施形態に係る正極活物質層103は、正極活物質層103の全体を100質量%としたとき、正極活物質の含有量は好ましくは85質量%以上99.4質量%以下、より好ましくは90.5質量%以上98.5質量%以下、さらに好ましくは90.5質量%以上97.5質量%以下である。また、バインダー樹脂の含有量は好ましくは0.1質量%以上10.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上5.0質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以上5.0質量%以下である。また、導電助剤の含有量は好ましくは0.5質量%以上5.0質量%以下、より好ましくは1.0質量%以上4.5質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以上4.5質量%以下、特に好ましくは2.0質量%以上4.5質量%以下である。
正極活物質層103を構成する各成分の含有量が上記範囲内であると、リチウムイオン電池用正極100の取扱い性と、得られるリチウムイオン電池の電池特性のバランスが特に優れる。
【0037】
正極活物質層103の密度は特に限定されないが、例えば、2.0g/cm
3以上3.6g/cm
3以下とするのが好ましく、2.4g/cm
3以上3.5g/cm
3以下とするのがより好ましく、2.8g/cm
3以上3.4g/cm
3以下とするのがさらに好ましい。正極活物質層103の密度を上記範囲内とすると、高放電レートでの使用時における放電容量が向上するため好ましい。
ここで、正極活物質層の密度が高いほど、得られるリチウムイオン電池の高温でのサイクル特性が悪化しやすい。しかし、本実施形態に係るリチウムイオン電池用正極100はこのサイクル特性の悪化を抑制することができる。そのため、高温でのサイクル特性を良好にしつつ、得られるリチウムイオン電池のエネルギー密度をより一層向上させる観点から、正極活物質層103の密度は2.8g/cm
3以上であることが好ましい。また、高温でのサイクル特性の悪化をより抑制する観点から、正極活物質層103の密度は3.6g/cm
3以下であることが好ましく3.5g/cm
3以下であることがより好ましく、3.4g/cm
3以下であることがさらに好ましい。
【0038】
正極活物質層103の厚み(両面の厚みの合計)は特に限定されるものではなく、所望の特性に応じて適宜設定することができる。例えば、エネルギー密度の観点からは厚く設定することができ、また出力特性の観点からは薄く設定することができる。正極活物質層103の厚み(両面の厚みの合計)は、例えば、10μm以上500μm以下の範囲で適宜設定でき、50μm以上400μm以下が好ましく、100μm以上300μm以下がより好ましい。
ここで、正極活物質層の厚みが厚いほど、得られるリチウムイオン電池の高温でのサイクル特性が悪化しやすい。しかし、本実施形態に係るリチウムイオン電池用正極100はこのサイクル特性の悪化を抑制することができる。そのため、高温でのサイクル特性を良好にしつつ、得られるリチウムイオン電池のエネルギー密度をより一層向上させる観点から、正極活物質層103の厚み(両面の厚みの合計)は100μm以上であることが好ましく、130μm以上であることがより好ましく、150μm以上であることがさらに好ましい。また、高温でのサイクル特性の悪化をより抑制する観点から、正極活物質層103の厚み(両面の厚みの合計)は300μm以下であることが好ましく、250μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることがさらに好ましい。
また、正極活物質層103の厚み(片面の厚み)は特に限定されるものではなく、所望の特性に応じて適宜設定することができる。例えば、エネルギー密度の観点からは厚く設定することができ、また出力特性の観点からは薄く設定することができる。正極活物質層103の厚み(片面の厚み)は、例えば、5μm以上250μm以下の範囲で適宜設定でき、25μm以上200μm以下が好ましく、50μm以上150μm以下がより好ましい。
高温でのサイクル特性を良好にしつつ、得られるリチウムイオン電池のエネルギー密度をより一層向上させる観点から、正極活物質層103の厚み(片面の厚み)は50μm以上であることが好ましく、65μm以上であることがより好ましく、75μm以上であることがさらに好ましい。また、高温でのサイクル特性の悪化をより抑制する観点から、正極活物質層103の厚み(片面の厚み)は150μm以下であることが好ましく、125μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。
【0039】
正極活物質の窒素吸着BET法による比表面積Sは、例えば、0.1m
2/g以上1.0m
2/g以下であることが好ましく、0.2m
2/g以上0.7m
2/g以下であることがより好ましく、0.2m
2/g以上0.5m
2/g以下であることがさらに好ましい。
ここで、本実施形態において、正極活物質層103中に2種類以上の正極活物質が含まれる場合、正極活物質層103中に含まれる、すべての正極活物質の比表面積の平均値を上記比表面積Sとして採用する。
【0040】
本実施形態に係る集電体層101としては特に限定されないが、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタンまたはこれらの合金等を用いることができ、価格や入手容易性、電気化学的安定性等の観点から、アルミニウムが特に好ましい。また、集電体層101の形状についても特に限定されないが、箔状、平板状、メッシュ状等が挙げられる。
【0041】
<リチウムイオン電池用正極の製造方法>
次に、本実施形態に係るリチウムイオン電池用正極100の製造方法について説明する。
本実施形態に係るリチウムイオン電池用正極100の製造方法は、従来の電極の製造方法とは異なるものである。リチウムイオン電池用正極100の体積抵抗率が上記範囲内にある本実施形態に係るリチウムイオン電池用正極100を得るためには、正極活物質層103の配合比率、正極活物質層103を形成するための正極スラリーの調製方法、正極スラリーの乾燥方法、正極のプレス方法、正極の作製環境等の製造条件を高度に制御することが重要である。すなわち、以下の(A)〜(E)の5つの条件に係る各種因子を高度に制御する製造方法によって初めて本実施形態に係るリチウムイオン電池用正極100を得ることができる。
(A)正極活物質層103の配合比率
(B)正極活物質層103を形成するための正極スラリーの調製方法
(C)正極スラリーの乾燥方法
(D)正極のプレス方法
(E)正極の作製環境
【0042】
ただし、本実施形態に係るリチウムイオン電池用正極100は、上記5つの条件に係る各種因子を高度に制御することを前提に、例えば、正極スラリーの混練時間、混練温度等の具体的な製造条件は種々のものを採用することができる。言い換えれば、本実施形態に係るリチウムイオン電池用正極100は、上記5つの条件に係る各種因子を高度に制御すること以外の点については、公知の方法を採用して作製することが可能である。
以下、上記5つの条件に係る各種因子を高度に制御していることを前提に、本実施形態に係るリチウムイオン電池用正極100の製造方法の一例について説明する。
【0043】
本実施形態に係るリチウムイオン電池用正極100の製造方法は、以下の(1)〜(3)の3つの工程を含んでいるのが好ましい。
(1)正極活物質と、バインダー樹脂と、導電助剤とを混合することにより正極スラリーを調製する工程
(2)得られた正極スラリーを集電体層101上に塗布して乾燥することにより、正極活物質層103を形成する工程
(3)集電体層101上に形成した正極活物質層103を集電体層101とともにプレスする工程
以下、各工程について説明する。
【0044】
まず、(1)正極活物質と、バインダー樹脂と、導電助剤とを混合することにより正極スラリーを調製する。正極活物質、バインダー樹脂、および導電助剤の配合比率は正極活物質層103中の正極活物質、バインダー樹脂、および導電助剤の含有比率と同じため、ここでは説明を省略する。
【0045】
正極スラリーは、正極活物質と、バインダー樹脂と、導電助剤とを溶媒に分散または溶解させたものである。
各成分の混合手順は正極活物質と導電助剤とを乾式混合した後に、バインダー樹脂および溶媒を添加して湿式混合することにより正極スラリーを調製することが好ましい。
こうすることにより、正極活物質層103中の導電助剤およびバインダー樹脂の分散性が向上し、集電体層101と正極活物質層103との界面における導電助剤およびバインダー樹脂の量を増やすことができ、集電体層101と正極活物質層103との間の界面抵抗をより低下させることができる。その結果、リチウムイオン電池用正極100の体積抵抗率をより低下させることができる。
このとき、用いられる混合機としては、ボールミルやプラネタリーミキサー等の公知のものが使用でき、特に限定されない。
【0046】
次いで、(2)得られた正極スラリーを集電体層101上に塗布して乾燥することにより、正極活物質層103を形成する。この工程では、例えば、上記工程(1)により得られた正極スラリーを集電体層101上に塗布して乾燥し、溶媒を除去することにより集電体層101上に正極活物質層103を形成する。
【0047】
正極スラリーを集電体層101上に塗布する方法は、一般的に公知の方法を用いることができる。例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、ドクターブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、カーテン法、グラビア法、バー法、ディップ法およびスクイーズ法等を挙げることができる。これらの中でも、正極スラリーの粘性等の物性および乾燥性に合わせて、良好な塗布層の表面状態を得ることが可能となる点で、ドクターブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法が好ましい。
【0048】
正極スラリーは、集電体層101の両面に塗布する。集電体層101の両面に塗布する際は、片面ずつ逐次でも、両面同時に塗布してもよい。また、集電体層101の表面に連続で、あるいは、間欠で塗布してもよい。塗布層の厚さや長さ、幅は、電池の大きさに応じて、適宜決定することができる。
【0049】
集電体層101上に塗布した正極スラリーの乾燥方法としては、未乾燥の正極スラリーに熱風を直接当てずに乾燥させる方法が好ましい。例えば、加熱ロールを用いて集電体層101側または既に乾燥した正極活物質層103側から正極スラリーを間接的に加熱し、正極スラリーを乾燥させる方法;赤外線、遠赤外線・近赤外線のヒーター等の電磁波を用いて正極スラリーを乾燥させる方法;集電体層101側または既に乾燥した正極活物質層103側から熱風を当てて正極スラリーを間接的に加熱し、正極スラリーを乾燥させる方法等の方法が好ましい。
こうすることで、バインダー樹脂および導電助剤が正極活物質層103の表面に偏在してしまうことを抑制できるため、集電体層101と正極活物質層103との界面における導電助剤およびバインダー樹脂の量を増やすことができ、集電体層101と正極活物質層103との間の界面抵抗をより低下させることができる。その結果、リチウムイオン電池用正極100の体積抵抗率をより低下させることができる。
【0050】
次いで、(3)集電体層101上に形成した正極活物質層103を集電体層101とともにプレスする。プレスの方法としては線圧を高くすることができ、正極活物質層103と集電体層101との密着性を向上させることができる観点からロールプレスが好ましく、ロールプレス圧は10〜100MPaの範囲であることが好ましい。こうすることにより、正極活物質層103と集電体層101との密着性が向上し、集電体層101と正極活物質層103との間の界面抵抗をより低下させることができる。その結果、リチウムイオン電池用正極100の体積抵抗率をより低下させることができる。
【0051】
ここで、上記の(1)〜(3)の3つの工程はドライルーム内(室温(例えば、10℃以上30℃以下)で、露点温度が、例えば、−20℃以下)でおこなうことが好ましい。これにより、正極を構成する各材料に水蒸気が吸着するのを抑制することができ、正極スラリーの分散性や塗工性等を良好にすることができる。これにより、バインダー樹脂および導電助剤が正極活物質層103の表面に偏在してしまうことを抑制できるため、集電体層101と正極活物質層103との界面における導電助剤およびバインダー樹脂の量を増やすことができ、集電体層101と正極活物質層103との間の界面抵抗をより低下させることができる。その結果、リチウムイオン電池用正極100の体積抵抗率をより低下させることができる。
【0052】
<リチウムイオン電池>
つづいて、本実施形態に係るリチウムイオン電池150について説明する。
図2は、本発明に係る実施形態のリチウムイオン電池150の構造の一例を示す断面図である。
本実施形態に係るリチウムイオン電池150は、本実施形態に係るリチウムイオン電池用正極100を備える。また、本実施形態に係るリチウムイオン電池150は、例えば、本実施形態に係るリチウムイオン電池用正極100と、電解質層110と、負極130とを備える。また、本実施形態に係るリチウムイオン電池150は、必要に応じて電解質層110にセパレータを含んでもよい。
本実施形態に係るリチウムイオン電池150は公知の方法に準じて作製することができる。
電極の形態としては、例えば、積層体や捲回体等が挙げられる。外装体としては、例えば、金属外装体やアルミラミネート外装体等が挙げられる。電池の形状としては、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型、扁平型等の形状が挙げられる。
【0053】
負極130は、負極活物質と、必要に応じて、バインダー樹脂と、導電助剤とを含む負極活物質層を備える。
また、負極130は、例えば、負極集電体と、この負極集電体上に設けられた負極活物質層とを備える。
【0054】
本実施形態に係る負極活物質としては、負極活物質としては、リチウムイオン電池の負極に使用可能な通常の負極活物質であれば特に限定されない。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、樹脂炭、炭素繊維、活性炭、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料;リチウム金属、リチウム合金等のリチウム系金属材料;シリコン、スズ等の金属材料;ポリアセン、ポリアセチレン、ポリピロール等の導電性ポリマー材料等が挙げられる。これらの中でも炭素材料が好ましく、特に天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛質材料が好ましい。
負極活物質は1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
負極活物質としてリチウム金属を用いる場合には融液冷却方式、液体急冷方式、アトマイズ方式、真空蒸着方式、スパッタリング方式、プラズマCVD方式、光CVD方式、熱CVD方式、ゾル−ゲル方式、等の適宜な方式により負極を形成することができる。また、炭素材料の場合には、カーボンとポリビニリデンフルオライド(PVDF)等のバインダー樹脂を混合し、NMP等の溶剤中に分散混錬し、これを負極集電体上に塗布する等の方法や、蒸着法、CVD法、スパッタリング法等の方法により負極を形成することができる。
【0055】
負極活物質の平均粒子径は、充放電時の副反応を抑えて充放電効率の低下を抑える点から、1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましく、5μm以上がさらに好ましく、入出力特性や電極作製上の観点(電極表面の平滑性等)から、80μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましい。ここで、平均粒径は、レーザ回折散乱法による粒度分布(体積基準)における積算値50%での粒子径(メジアン径:D50)を意味する。
【0056】
負極活物質層には、必要に応じて導電助剤やバインダー樹脂を含有してもよい。導電助剤やバインダー樹脂としては、前述した正極活物質層103に用いることができるものと同様のものを用いることができる。また、バインダー樹脂としては、水に分散可能な水系バインダー等も使用することができる
【0057】
水系バインダーとしては電極成形が可能であり、十分な電気化学的安定性を有していれば特に限定されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、スチレン・ブタジエン系ゴム、ポリイミド系樹脂等が挙げられる。これらの水系バインダーは一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、スチレン・ブタジエン系ゴムが好ましい。
なお、本実施形態において、水系バインダーとは、水に分散し、エマルジョン水溶液を形成できるものをいう。
水系バインダーを使用する場合は、さらに増粘剤を使用することができる。増粘剤としては特に限定されないが、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系ポリマーおよびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;ポリカルボン酸;ポリエチレンオキシド;ポリビニルピロリドン;ポリアクリル酸ナトリウム等のポリアクリル酸塩;ポリビニルアルコール;等の水溶性ポリマー等が挙げられる。
【0058】
負極集電体としては銅、ステンレス鋼、ニッケル、チタンまたはこれらの合金を用いることができ、価格や入手容易性、電気化学的安定性等の観点から、銅が特に好ましい。また、負極集電体の形状についても特に限定されないが、箔状、平板状、メッシュ状等が挙げられる。
【0059】
電解質層110に使用される電解質としては、公知のリチウム塩がいずれも使用でき、電極活物質の種類に応じて選択すればよい。例えば、LiClO
4、LiBF
6、LiPF
6、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、LiAsF
6、LiSbF
6、LiB
10Cl
10、LiAlCl
4、LiCl、LiBr、LiB(C
2H
5)
4、CF
3SO
3Li、CH
3SO
3Li、LiCF
3SO
3、LiC
4F
9SO
3、Li(CF
3SO
2)
2N、低級脂肪酸カルボン酸リチウム等が挙げられる。
【0060】
電解質層110に使用される電解質を溶解する溶媒としては、電解質を溶解させる液体成分として通常用いられるものであれば特に限定されるものではなく、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ビニレンカーボネート(VC)等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン等のオキソラン類;アセトニトリル、ニトロメタン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等の含窒素類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の有機酸エステル類;リン酸トリエステルやジグライム類;トリグライム類;スルホラン、メチルスルホラン等のスルホラン類;3−メチル−2−オキサゾリジノン等のオキサゾリジノン類;1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、ナフタスルトン等のスルトン類等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0061】
セパレータとしては、例えば、多孔性セパレータが挙げられる。セパレータの形態は、膜、フィルム、不織布等が挙げられる。
多孔性セパレータとしては、例えば、ポリプロピレン系、ポリエチレン系等のポリオレフィン系多孔性セパレータ;ポリビニリデンフルオリド、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンフルオリドヘキサフルオロプロピレン共重合体等により形成された多孔性セパレータ;等が挙げられる。
【0062】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
また、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
<正極の作製>
正極活物質1としてリチウム−ニッケル複合酸化物(LiNiO
2、比表面積0.5m
2/g)とリチウム−マンガン複合酸化物(LiMn
2O
4、比表面積0.26m
2/g)の混合物(リチウム−ニッケル複合酸化物/リチウム−マンガン複合酸化物=20/80(質量比))、導電助剤1としてカーボンブラック(比表面積:62m
2/g)、バインダー樹脂としてポリフッ化ビニリデンを用いた。
まず、正極活物質1および導電助剤1を乾式混合した。次いで、得られた混合物にバインダー樹脂およびN−メチル-ピロリドン(NMP)を添加して湿式混合することにより、正極スラリーを調製した。この正極スラリーを、正極集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に連続的に塗布・乾燥し、正極集電体の塗布部と塗布しない未塗布部とを備える正極ロールを作製した。ここで、正極スラリーの乾燥は、120℃の加熱ロールによりアルミニウム箔側または既に乾燥した正極活物質層側から加熱し、正極スラリーを間接的に加熱することによりおこなった。この乾燥により正極スラリー中のNMPを除去し、アルミニウム箔上に正極活物質層(厚み:158μm(両面の厚みの合計))を形成した。
次いで、ロールプレスにより、プレス圧20MPaでアルミニウム箔および正極活物質層をプレスし、正極を得た。得られた正極における正極活物質層の密度は2.97g/cm
3であった。
なお、正極活物質と導電助剤とバインダー樹脂の配合比率は、正極活物質/導電助剤/バインダー樹脂=93/3/4(質量比)である。また、上記の工程はいずれもドライルーム内(温度:23℃、露点温度:−20℃以下)でおこなった。
【0065】
<負極の作製>
負極活物質として人造黒鉛、バインダー樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いた。これらをN−メチル-ピロリドン(NMP)に分散させ、負極スラリーを調製した。この負極スラリーを、負極集電体である厚さ15μmの銅箔に連続的に塗布・乾燥し、負極集電体の塗布部と塗布しない未塗布部とを備える負極ロールを作製した。
【0066】
<リチウムイオン電池の作製>
得られた正極と負極とをポリオレフィン系多孔性セパレータを介して積層し、これに負極端子や正極端子を設け、積層体を得た。次いで、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートからなる溶媒に1MのLiPF
6を溶かした電解液と、得られた積層体を可撓性フィルムに収容することでリチウムイオン電池を得た。
【0067】
<評価>
(1)正極の体積抵抗率の測定
正極の厚みの法線方向を端子プローブで荷重1kg/cm
2で挟持し、この端子プローブに四端子法による測定端子を結合することにより正極の体積抵抗率を測定した。
(2)S/Wの測定
窒素吸着BET法により、リチウム−ニッケル複合酸化物の比表面積S
1[m
2/g]およびリチウム−マンガン複合酸化物の比表面積S
2[m
2/g]をそれぞれ測定した。次いで、正極活物質層中の導電助剤の含有量をW[質量%]とし、正極活物質中のリチウム−ニッケル複合酸化物の質量比をW
1[−]とし、正極活物質中のリチウム−マンガン複合酸化物の質量比をW
2[−]とし、下記式(1)によりS/Wを算出した。
S/W=(S
1×W
1+S
2×W
2)/W (1)
【0068】
(3)高温サイクル特性
リチウムイオン電池を用いて、高温サイクル特性を評価した。温度45℃において、充電レート1.0C、放電レート1.0C、充電終止電圧4.15V、放電終止電圧2.5Vとし、CCCV充電およびCC放電をおこなった。容量維持率(%)は500サイクル後の放電容量(mAh)を、10サイクル目の放電容量(mAh)で割った値である。容量維持率(%)が85%超過のものを◎、80%超過85%以下のものを〇、80%以下のものを×とした。
【0069】
(実施例2)
正極活物質をリチウム−ニッケル複合酸化物(LiNiO
2、比表面積0.5m
2/g)とリチウム−マンガン複合酸化物(LiMn
2O
4、比表面積0.43m
2/g)の混合物(リチウム−ニッケル複合酸化物/リチウム−マンガン複合酸化物=22/78(質量比))とし、さらに正極活物質と導電助剤とバインダー樹脂の配合比率を92/4/4(質量比)に変更した以外は実施例1と同様にして正極およびリチウムイオン電池を作製し、各評価をおこなった。
【0070】
(比較例1)
リチウム−マンガン複合酸化物(LiMn
2O
4)を比表面積が0.26m
2/gのものから0.43m
2/gのものに変更した以外は実施例1と同様にして正極およびリチウムイオン電池を作製し、各評価をおこなった。
【0071】
(比較例2)
正極活物質層の密度を2.97g/cm
3から3.10g/cm
3に変更した以外は比較例1と同様にして正極およびリチウムイオン電池を作製し、各評価をおこなった。
【0072】
(比較例3)
正極活物質層の密度を2.97g/cm
3から2.80g/cm
3に変更した以外は比較例1と同様にして正極およびリチウムイオン電池を作製し、各評価をおこなった。
【0073】
(比較例4)
正極活物質と導電助剤とバインダー樹脂の配合比率を94/3/3(質量比)に変更した以外は比較例1と同様にして正極およびリチウムイオン電池を作製し、各評価をおこなった。
【0074】
(比較例5)
リチウム−マンガン複合酸化物(LiMn
2O
4)を比表面積が0.43m
2/gのものから0.26m
2/gのものに変更した以外は実施例2と同様にして正極およびリチウムイオン電池を作製し、各評価をおこなった。
【0075】
(比較例6)
リチウム−マンガン複合酸化物(LiMn
2O
4)を比表面積が0.43m
2/gのものから0.30m
2/gのものに変更した以外は実施例2と同様にして正極およびリチウムイオン電池を作製し、各評価をおこなった。
【0076】
以上の評価結果を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
表1から、正極の体積抵抗率およびS/Wが本願発明の範囲内である実施例のリチウムイオン電池は高温サイクル特性に優れていた。これに対し、正極の体積抵抗率およびS/Wの少なくとも一方が本願発明の範囲外である比較例のリチウムイオン電池は高温サイクル特性に劣っていた。
【0079】
この出願は、2017年2月23日に出願された日本出願特願2017−031840号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
集電体層と、
前記集電体層の両面に設けられ、かつ、正極活物質、バインダー樹脂および導電助剤を含む正極活物質層と、
を備えるリチウムイオン電池用正極であって、
前記リチウムイオン電池用正極の体積抵抗率が120Ω・m以上350Ω・m以下であり、
前記正極活物質層に含まれる前記正極活物質の比表面積をS[m2/g]、前記正極活物質層中の前記導電助剤の含有量をW[質量%]としたとき、S/Wが0.080以上0.140以下であるリチウムイオン電池用正極。
2.
1.に記載のリチウムイオン電池用正極において、
前記正極活物質層の密度が2.8g/cm3以上3.6g/cm3以下あるリチウムイオン電池用正極。
3.
1.または2.に記載のリチウムイオン電池用正極において、
前記正極活物質がリチウムと遷移金属との複合酸化物を含むリチウムイオン電池用正極。
4.
1.乃至3.のいずれか一つに記載のリチウムイオン電池用正極において、
前記バインダー樹脂はフッ素系バインダー樹脂を含むリチウムイオン電池用正極。
5.
1.乃至4.のいずれか一つに記載のリチウムイオン電池用正極において、
前記正極活物質層の全体を100質量%としたとき、
前記バインダー樹脂の含有量が0.1質量%以上10.0質量%以下であるリチウムイオン電池用正極。
6.
1.乃至5.のいずれか一つに記載のリチウムイオン電池用正極において、
前記正極活物質層の全体を100質量%としたとき、
前記導電助剤の含有量が0.5質量%以上5.0質量%以下であるリチウムイオン電池用正極。
7.
1.乃至6.のいずれか一つに記載のリチウムイオン電池用正極において、
前記正極活物質層の厚みが100μm以上300μm以下あるリチウムイオン電池用正極。
8.
1.乃至7.のいずれか一つに記載のリチウムイオン電池用正極を備える、リチウムイオン電池。