(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
  鉄道車両の構体では、アルミニウム合金と比べて軽量の金属材料であり、難燃性を有する難燃性マグネシウム合金の適用が検討されている。このような難燃性マグネシウム合金をシングルスキン材に適用する際には、ハット型やアングル型などのプレス材を骨材として適用することが考えられる。しかし、難燃性マグネシウム合金を用いた骨材やプレス材に適用した事例がなく、難燃性マグネシウム合金の骨材やプレス材を鉄道車両の構体に適用する際には、最適な圧延加工技術及びプレス曲げ技術を検討する必要がある。
【0005】
  この発明の課題は、十分な強度を有し軽量化を図ることができるとともに構造体として剛性を向上させることができるマグネシウム合金のプレス材とその製造方法、補強材、内装材、鉄道車両の構体及び交通輸送手段の構体を提供することである。
 
【課題を解決するための手段】
【0006】
  この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
  なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
  請求項1の発明は、
図4、
図7及び
図10に示すように、カルシウムを含有するマグネシウム合金のプレス材であって、
前記マグネシウム合金は、カルシウムを0.5mass%以上2.5mass%以下含有し、アルミニウムを2.0mass%以上10.0mass%以下含有し、前記マグネシウム合金をプレス金型(11a,11b)によって曲げ加工した曲げ部(7d)を備え、前記曲げ部は、内径R
1と外径R
2との比R
1/R
2が0<R
1/R
2<6であり、外径R
2と板厚tとの比R
2/tが0.2≦R
2/t≦12.0であり、板厚tが1mm≦t≦6mmであることを特徴とするマグネシウム合金のプレス材(7A〜7C)である。
【0007】
  請求項2の発明は、請求項1に記載のマグネシウム合金のプレス材において、
図4及び
図7に示すように、前記マグネシウム合金は、ハット曲げ加工又はV曲げ加工されていることを特徴とするマグネシウム合金のプレス材である。
【0008】
  請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載のマグネシウム合金のプレス材において、前記マグネシウム合金は、Mg-Al-Zn-Ca合金、Mg-Al-Mn-Ca合金又はMg-Al-Zn-Mn-Ca合金であることを特徴とするマグネシウム合金のプレス材である。
【0009】
  請求項4の発明は、
図4、
図7、
図8及び
図10に示すように、カルシウムを含有するマグネシウム合金のプレス材(7A〜7C)の製造方法であって、
前記マグネシウム合金は、カルシウムを0.5mass%以上2.5mass%以下含有し、アルミニウムを2.0mass%以上10.0mass%以下含有し、前記マグネシウム合金をプレス金型(11a,11b)によって曲げ加工する曲げ加工工程(#150)を含み、前記曲げ加工工程は、ダイ(11b)の内径R
1とパンチ(11a)の外径R
2との比R
1/R
2が0<R
1/R
2<6以下であり、パンチの外径R
2と板厚tとの比R
2/tが0.2≦R
2/t≦12.0であり、加工温度Tが200℃<T≦350℃である曲げ加工条件で板厚tが1mm≦t≦6mmの前記マグネシウム合金を曲げ加工する工程を含むことを特徴とするマグネシウム合金のプレス材の製造方法(#100)である。
【0010】
  請求項5の発明は、請求項4に記載のマグネシウム合金のプレス材の製造方法において、前記曲げ加工工程は、前記マグネシウム合金をハット曲げ加工又はV曲げ加工する工程を含むことを特徴とするマグネシウム合金のプレス材の製造方法である。
【0011】
  請求項6の発明は、請求項4又は請求項5に記載のマグネシウム合金のプレス材の製造方法において、前記曲げ加工工程は、Mg-Al-Zn-Ca合金、Mg-Al-Mn-Ca合金又はMg-Al-Zn-Mn-Ca合金を曲げ加工する工程を含むことを特徴とするマグネシウム合金のプレス材の製造方法である。
【0012】
  請求項7の発明は、請求項4から請求項6までのいずれか1項に記載のマグネシウム合金のプレス材の製造方法において、
図8〜
図10に示すように、前記マグネシウム合金を圧延加工する圧延加工工程(#140)を含み、前記曲げ加工工程は、前記圧延加工工程後の前記マグネシウム合金を曲げ加工する工程を含むことを特徴とするマグネシウム合金のプレス材の製造方法である。
【0013】
  請求項8の発明は、請求項7に記載のマグネシウム合金のプレス材の製造方法において、前記圧延加工工程は、材料温度200〜400℃、ロール温度80〜250℃、ロール速度5〜15m/min、及び1パス当たりの圧下量0.5〜2.0mmの圧延条件で前記マグネシウム合金を圧延加工する工程を含むことを特徴とするマグネシウム合金のプレス材の製造方法である。
【0014】
  請求項9の発明は、
請求項7又は請求項8に記載のマグネシウム合金のプレス材の製造方法において、図8に示すように、前記マグネシウム合金の溶融金属を鋳造する鋳造工程(#120)を含み、前記鋳造工程は、前記マグネシウム合金の溶融金属を冷却速度2℃/s以上15℃/s以下で鋳造し、粒径範囲70μm以上700μm以下の所定の形状及び寸法のマグネシウム合金の鋳造ビレットを作製する工程を含み、前記圧延工程は、前記鋳造工程後の前記マグネシウム合金を圧延加工する工程を含むことを特徴とするマグネシウム合金のプレス材の製造方法である。
【0015】
  請求項10の発明は、
図5に示すように、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のマグネシウム合金のプレス材(7B)を備える補強材(5)である。
【0016】
  請求項11の発明は、
図6に示すように、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のマグネシウム合金のプレス材(7C)を備える内装材(6)である。
【0017】
  請求項12の発明は、
図1に示すように、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のマグネシウム合金のプレス材を備える鉄道車両(1)の構体(2)である。
  請求項13の発明は、
図1に示すように、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のマグネシウム合金のプレス材を備える交通輸送手段(1)の構体(2)である。
 
【発明の効果】
【0018】
  この発明によると、十分な強度を有し軽量化を図ることができるとともに構造体として剛性を向上させることができる。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0020】
  以下、図面を参照して、この発明の実施形態について詳しく説明する。
  
図1に示す交通輸送手段1は、電車又は気動車などの鉄道車両である。構体2は、交通輸送手段1の主構造である。構体2は、
図1に示すように、乗客又は貨物などの重量を支持し車体の床部分又は台枠を構成する床構え2aと、この床構え2aの両縁に固定され車体の側面部分を構成する一対の側構え2b,2cと、この一対の側構え2b,2cの上縁に固定され車体の屋根部分を構成する屋根構え2dと、車両の両端部分を構成する図示しない妻構えなどを備えている。構体2は、
図1及び
図2に示す外板3と、
図1〜
図3に示すプレス材(骨組)7Aなどを備えている。構体2は、プレス材7Aの一部を外板3と一体化させることによってプレス材7Aの簡素化及び製造工程の簡略化を実現するとともに、軽量かつ低コストの構造を実現したシングルスキン構体である。
 
【0021】
  図1及び
図2に示す外板3は、構体2の車外側の板部分を構成する部材である。外板3は、
図1に示す構体2の床構え2a及び側構え2b,2c部分を主として構成する。
図1及び
図2に示す外板3は、例えば、カルシウムを含有するマグネシウム合金の押出形材である。外板3は、素材特性としての難燃性を確保するために製造時にマグネシウムにカルシウムが添加されている難燃性マグネシウム合金である。外板3は、例えば、押出法によってリブ付形材に成形されている。外板3は、
図2(B)に示すように、断面形状がT字状のTリブ形材に成形されている。外板3は、
図2に示す板状部3aと、リブ部3bと、開先部3cと、接合部3dなどを備えている。外板3は、板状部3a、リブ部3b及び開先部3cが一体に成形されている。
 
【0022】
  図2に示す板状部3aは、外板3の本体を構成する部分である。板状部3aは、互いに平行な平坦な表面を備えている。リブ部3bは、板状部3aに剛性を付与する部分である。リブ部3bは、板状部3aの一方の表面から突出してこの板状部3aと一体に形成されている。リブ部3bは、外板3の内側表面となる側の板状部3aの表面に形成されている。開先部3cは、板状部3a同士を溶接するためにこの板状部3aの溶接面に形成する平坦面である。開先部3cは、板状部3aの長さ方向の両縁部に形成されたI形開先であり、板状部3aと一体に形成されている。接合部3dは、板状部3a同士を接合した部分である。接合部3dは、板状部3aの端部同士を開先部3cで突き合せて溶接し形成された継手部(溶接継手)である。接合部3dは、板状部3aの長さ方向と直交する方向に間隔をあけて形成されている。
 
【0023】
  外板3は、厚さが10mmを超えると軽量化を図ることができず、2mmを下回ると強度が不足するため、厚さを2mm以上10mm以下にすることが好ましく、厚さを2mm以上6mm以下にすることが特に好ましい。外板3は、例えば、摩擦撹拌接合(摩擦撹拌溶接)(Friction Stir Welding(FSW))、レーザ溶接、TIG溶接又はMIG溶接などによって端部同士(接合面同士)が接合されて構体2に組み込まれている。
 
【0024】
  図5に示す床板4は、旅客、荷物又は貨物などを直接積載する部材である。床板4は、交通輸送手段1の室内側の床構え2aの一部を構成する。床板4は、例えば、鋼板又はアルミニウム合金などの板材の上にリノリウム又は塩化ビニールの仕上げ材などの敷物が施工されている。床板4は、この床板4と外板3との間に弾性体を挟み込み、これらの間に隙間をあけてこの床板4を支持する浮床構造である。
 
【0025】
  補強材5は、床板4を補強する部材である。補強材5は、外板3と床板4との間に配置されており、床板4を支持した状態で外板3に固定されている。補強材5は、外板3と同様に、摩擦撹拌接合、レーザ溶接、TIG溶接又はMIG溶接などによって、外板3と床板4とに接合されて構体2に組み込まれている。補強材5は、プレス材7Bなどを備えている。
 
【0026】
  内装材6は、構体2の内部の車内設備を構成する部材である。内装材6は、構体2の側構え2b,2cの開口部(側入口)を開閉するために、閉鎖位置と開放位置との間で往復移動可能な側引戸である。内装材6は、戸本体6aと、溝金6bと、プレス材7Cなどを備えている。戸本体6aは、内装材6の主要部材を構成する部材である。溝金6bは、戸本体6aの下端部を移動自在にガイドするレールと嵌合する部材である。
 
【0027】
  図1〜
図7に示すプレス材7A〜7Cは、プレス加工によって成形されるプレス成形体である。プレス材7A〜7Cは、カルシウムを含有するマグネシウム合金であり、このマグネシウム合金をプレス成形法によって成形している。プレス材7A〜7Cは、マグネシウム合金がプレス金型によって曲げ加工されている。プレス材7A〜7Cは、外板3と同様に素材特性としての難燃性を確保するために製造時にマグネシウムにカルシウムが添加されている。
 
【0028】
  図1〜
図4に示すプレス材7Aは、外板3と組み合わせて構体2を構成する形材であり、構体2を構成する主要な骨組として機能する。プレス材7Aは、
図1に示すように、外板3と直交するように外板3の内側(車内側)に配置されており、
図1及び
図2に示すように外板3の長さ方向に所定の間隔をあけて配置されている。プレス材7Aは、断面形状が略U字状の溝形材である。プレス材7Aは、
図2に示すように、切欠部7eに外板3のリブ部3bを貫通させた状態で、このプレス材7Aとこの外板3とを隅肉溶接することによってこの外板3と接合されている。プレス材7Aには、このプレス材7Aの底部7aに内装材などが取り付けられる。プレス材7A〜7Cは、厚さが6mmを超えると軽量化を図ることができず、1mmを下回ると強度が不足するため、厚さを1mm以上6mm以下にすることが好ましい。
 
【0029】
  プレス材7Aは、マグネシウム合金がハット曲げ加工されている。プレス材7Aは、
図3及び
図4に示す平坦な凸状の底部(平部)7aと、平坦な羽根部7bと、底部7aと羽根部7bとをつなぎ底部7a及び羽根部7bと所定の傾斜角度で交わる平坦な側部(斜辺部)7cと、底部7aと側部7cとの間及び羽根部7bと側部7cとの間でマグネシウム合金をプレス金型によって曲げ加工した曲げ部(R部)7dと、
図3に示す外板3のリブ部3bが貫通するようにこのプレス材7Aの両縁部を切り欠いた切欠部7eなどを備えている。プレス材7Aは、
図4に示す底部7aの辺Aと羽根部7bの辺Cとは平行であることが好ましく、側部7cの辺Bと辺A,Bとがなす角度θは0〜30°であることが好ましい。プレス材7Aは、曲げ部7dの内径R
1と外径R
2との比R
1/R
2が0よりも大きく6未満であり、外径R
2と板厚tとの比R
2/tが0.2以上12.0以下であることが好ましい。プレス材7Aは、例えば、マグネシウム合金の圧延材を連続してプレス加工して底部7aが1山以上の多連形のプレス材を成形した後に、このプレス材を所定の幅で切断して形成する。プレス材7Aは、例えば、底部7aが1山の単山形のプレス材を形成するために、マグネシウム合金の圧延材を予め所定の幅で切断した後にこの圧延材を1枚ずつプレス加工して形成する。
 
【0030】
  図5及び
図7に示すプレス材7Bは、外板3及び床板4と組み合わせて構体2の床構え2aの一部を構成する形材であり、床板4を補強する補強材として機能する。プレス材7Bは、外板3の長さ方向に沿ってこの外板3と床板4との間に配置されており、
図1に示す外板3の長さ方向と直交する方向に所定の間隔をあけて配置されている。プレス材7Bは、
図5に示すように、このプレス材7Bを外板3と床板4とに隅肉溶接することによって、外板3と床板4とに接合されている。プレス材7Bは、断面形状が略L字状のアングル材である。
 
【0031】
  図6及び
図7に示すプレス材7Cは、内装材6の一部を構成する形材であり、内装材6を補強する補強材として機能する。プレス材7Cは、
図6に示すように、戸本体6aの幅方向に沿って溝金6bと戸本体6aとの間に配置されている。プレス材7Cは、
図6(C)に示すように、このプレス材7Cを戸本体6aと溝金6bとに隅肉溶接することによって、戸本体6aと溝金6bとに接合されている。プレス材7Cは、プレス材7Bと同様に、断面形状が略L字状のアングル材である。
 
【0032】
  図5〜
図7に示すプレス材7B,7Cは、マグネシウム合金がV曲げ加工されている。プレス材7B,7Cは、
図7に示すように、平坦な板部7f,7gと、板部7fと板部7gとの間で曲げ加工がされた曲げ部7hなどを備えている。プレス材7B,7Cは、板部7f,7gの辺A',B'の長さ比に制限がなく、板部7fの辺A'と板部7gの辺B'とがなす角度θは90°±5°であることが好ましい。プレス材7B,7Cは、プレス材7Aと同様に、曲げ部7hの内径R
1と外径R
2との比R
1/R
2が0よりも大きく6未満であり、外径R
2と板厚tとの比R
2/tが0.2以上12.0以下であることが好ましい。
 
【0033】
  マグネシウム合金は、例えば、アルミニウム、亜鉛及びカルシウムを含有し残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるMg-Al-Zn-Ca合金(AZX合金)、アルミニウム、マンガン及びカルシウムを含有し残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるMg-Al-Mn-Ca合金(AMX合金) 、又はアルミニウム、亜鉛、マンガン及びカルシウムを含有し残部がマグネシウム及び不可避的不純物からなるMg-Al-Zn-Mn-Ca(AZMX合金)が好ましく、Mg-Al-Zn-Ca合金が特に好ましい。このようなマグネシウム合金としては、AZX311(Mg-3Al-Zn-Ca)、AMX601(Mg-6Al-Mn-Ca)、AMX602(Mg-6Al-Mn-2Ca)、AZX611(Mg-6Al-Zn-Ca)、AZX612(Mg-6Al-Zn-2Ca) 又はAZX911(Mg-9Al-Zn-Ca)が好ましい。マグネシウム合金は、カルシウムの含有量が0.5mass%未満であると十分な難燃性の効果を発揮することができず、2.5mass%を超えると難燃性が飽和し圧延等の加工が困難になるため、カルシウムを0.5mass%以上2.5mass%以下含有することが好ましい。
 
【0034】
  マグネシウム合金は、アルミニウムの含有量が2.0mass%未満であると強度が低下し、10.0mass%を超えると金属間化合物の量が増加して加工性が低下するため、アルミニウムを2.0mass%以上10.0mass%以下含有することが好ましい。マグネシウム合金は、亜鉛の含有量が0.1mass%未満であると耐食性、鋳造性、塑性加工性が低下し、1.5mass%を超えると溶接性が悪くなる他、耐食性や鋳造性に効果が少なくなるため、亜鉛を0.1mass%以上1.5mass%以下含有することが好ましい。マグネシウム合金は、マンガンの含有量が0.1mass%未満であると耐食性と鋳造性が悪くなり、1.5mass%を超えると加工性が低下するため、マンガンを0.1mass%以上1.5mass%以下含有することが好ましい。
 
【0035】
  マグネシウム合金は、不可避的不純物としてケイ素、鉄、銅及びニッケルを含有する。マグネシウム合金は、ケイ素の含有量が0.1mass%を超えると不純物として強度に影響を及ぼすため、ケイ素を0.01mass%以上0.1mass%以下含有することが好ましい。マグネシウム合金は、鉄及び銅の含有量がそれぞれ0.002mass%以上であると耐食性の問題があるため、鉄及び銅をそれぞれ0.002mass%未満含有することが好ましい。マグネシウム合金は、ニッケルの含有量が0.002mass%以上になると耐食性及び溶接性の問題があるため、ニッケルの含有量を0.002mass%未満含有することが好ましい。
 
【0036】
  次に、この発明の実施形態に係るマグネシウム合金のプレス材の製造方法について説明する。
  図
8に示す製造方法#100は、カルシウムを含有するマグネシウム合金のプレス材を製造する方法である。製造方法#100は、図
8に示すように、加熱溶解工程#110と、鋳造工程#120と、均質化工程#130と、圧延加工工程#140と、曲げ加工工程#150などを含む。
 
【0037】
  加熱溶解工程#110は、マグネシウム合金とカルシウムとを加熱溶解する工程である。加熱溶解工程#110では、Mg-Al-Zn系のマグネシウム合金とカルシウムとを真空又はアルゴンガス雰囲気化で600〜750℃の範囲内で加熱溶解する。
 
【0038】
  鋳造工程#120は、マグネシウム合金の溶融金属を鋳造する工程である。鋳造工程#120では、加熱溶解工程#110後のマグネシウム合金の溶融金属を溶湯温度600℃以上700℃以下、冷却速度2℃/s以上15℃/s以下で鋳造し、溶融金属から粒径範囲70μm以上700μm以下の所定の形状及び寸法のマグネシウム合金の鋳造板又は鋳造棒などの鋳造ビレットを作製する。
 
【0039】
  均質化処理工程#130は、マグネシウム合金を均質化処理する工程である。均質化処理工程#130では、マグネシウム合金の金属材料の合金元素がこの金属材料中に均質に分布するように、この金属材料を所定の温度に加熱して一定時間保持される。均質化処理工程#130では、鋳造工程#120後のマグネシウム合金のビレットを均質加熱(均質化処理)により熱処理する。均質化処理工程#130では、マグネシウム合金の鋳造ビレットの均質加熱温度が300℃未満であると均質不十分の問題があり、500℃を超えると結晶粒粗大化及び部分溶融が発生する可能性があるため、均質加熱温度を300℃以上500℃以下で均質化処理することが好ましい。均質化処理工程#130では、形成される金属間化合物の状態によっては部分溶融が起こらない範囲内で400℃以上500℃以下の温度で均質化処理することがある。また、均質化処理工程#130では、マグネシウム合金の鋳造ビレットの均質加熱時間が5時間未満であると均質不十分及び合金元素の偏析の問題があり、10時間を超えると結晶粒粗大化の問題があるため、均質加熱温度を5時間以上10時間以下で均質化処理することが好ましい。
 
【0040】
  圧延加工工程#140は、マグネシウム合金を圧延加工する工程である。圧延加工工程#140では、図
9に示すように、マグネシウム合金の鋳造ビレット9を圧延機8によって所定の形状寸法の形材に圧延加工する。ここで、
図9に示す圧延機8は、金属材料の断面積を減少させながらこの金属材料を所定の形材に成形する機械である。圧延機8は、回転する一対の圧延ロール8a,8bを備えており、複数の圧延ロール8a,8b間にマグネシウム合金の鋳造ビレット9を通過させることによってこのマグネシウム合金の鋳造ビレット9の厚さを減少させながら所定の形状寸法の圧延材(型材)10に加工する。図
8に示す圧延加工工程#140では、均質化工程#130後のマグネシウム合金の材料温度が200℃未満及び400℃を超えると圧延時の表面割れや耳割れ及び結晶粒粗大化に伴う凹凸模様や中伸びが発生しやすくなるため、材料温度200℃以上400℃以下で圧延加工することが好ましい。圧延加工工程#140では、鋳造工程#120後のマグネシウム合金のロール温度が80℃未満の場合、圧延時の割れが発生しやすく、250℃を超えると中伸びが発生しやすくなるため、ロール温度80℃以上250℃以下で圧延加工することが好ましい。圧延加工工程#140では、均質化工程#130後のマグネシウム合金のロール速度が5m/min未満であると加工抜熱が作用し加工硬化による耳割れの発生や圧延加工中の破断の問題があり、ロール速度が15m/minを超えると加工発熱による結晶粒成長や軟化による強度低下の問題があるため、ロール速度5m/min以上15m/min以下で圧延加工することが好ましい。圧延加工工程#140では、1パス当たりの圧下量が0.5mm未満であると鋳造材内部までせん断変形が付与されず、最終的に結晶組織の混粒を招き、2.0mmを超えると鋳造材に対する圧下量が高くなりすぎ圧延材料が割れる可能性があることから圧下量0.5mm以上2.0mm以下で圧延加工することが好ましい。
 
【0041】
  図
8に示す曲げ加工工程#150は、マグネシウム合金をプレス金型によって曲げ加工する工程である。曲げ加工工程#150では、
図10に示すように、圧延加工工程#140後のマグネシウム合金の圧延材10をプレス機械11によって、このマグネシウム合金をハット曲げ加工又はV曲げ加工してプレス材7A〜7Cを成形する。ここで、
図10に示すプレス機械11は、このプレス機械11に着脱自在に装着されるプレス加工用の工具であるパンチ(金型)11aとダイ(金型)11bとを備えており、パンチ11aとダイ11bとの間でマグネシウム合金の圧延材10を曲げ加工する。曲げ加工工程#150は、ダイ11bの内径R
1とパンチ11aの外径R
2との比R
1/R
2が0よりも大きく6未満であり、パンチ11aの外径R
2と板厚tとの比R
2/tが0.2以上12.0以下であり、加工温度が200℃以上350℃以下である曲げ加工条件で板厚tが1mm以上6mm以下のマグネシウム合金の圧延材10を曲げ加工する。曲げ加工工程#150では、加工温度Tが200℃を超え350℃以下になるように、200℃を超える温度にパンチ11a及びダイ11bを加熱するとともに、200℃を超える温度にマグネシウム合金の温度を加熱した状態で、電気炉内でマグネシウム合金をプレス加工する。
 
【0042】
  この発明の実施形態に係るマグネシウム合金のプレス材には、以下に記載するような効果がある。
(1) この実施形態では、マグネシウム合金をプレス金型によって曲げ加工して曲げ部7dを形成し、この曲げ部7dの内径R
1と外径R
2との比R
1/R
2が0<R
1/R
2<6であり、外径R
2と板厚tとの比R
2/tが0.2≦R
2/t≦12.0であり、板厚tが1mm≦t≦6mmである。また、この実施形態では、曲げ加工工程#150においてマグネシウム合金をプレス加工によって曲げ加工し、ダイ11bの内径R
1とパンチ11aの外径R
2との比R
1/R
2が0<R
1/R
2<6以下であり、パンチ11aの外径R
2と板厚tとの比R
2/tが0.2≦R
2/t≦12.0であり、加工温度Tが200℃<T≦350℃である曲げ加工条件で板厚tが1mm≦t≦6mmのマグネシウム合金を曲げ加工する。このため、アルミニウム合金よりも軽量であるマグネシウム合金のプレス材を適用することによって、従来のアルミニウム合金よりも軽量化を図るとともに難燃性を確保することができる。また、交通輸送手段1に適用する場合には、従来のアルミニウム合金に比べて構体2の重量を軽減することができる。
 
【0043】
(2) この実施形態では、マグネシウム合金がハット曲げ加工又はV曲げ加工されている。また、この実施形態では、曲げ加工工程#150においてマグネシウム合金をハット曲げ加工又はV曲げ加工する。このため、十分な強度及び剛性のプレス材7A〜7Cを作製することができ、軽量な交通輸送手段1を製造することができる。
 
【0044】
(3) この実施形態では、マグネシウム合金がMg-Al-Zn-Ca合金、Mg-Al-Mn-Ca合金又はMg-Al-Zn-Mn-Ca合金である。また、この実施形態では、曲げ加工工程#150においてMg-Al-Zn-Ca合金、Mg-Al-Mn-Ca合金又はMg-Al-Zn-Mn-Ca合金を曲げ加工する。このため、従来のアルミニウム合金に比べて難燃性を向上させることができる。
 
【0045】
(4) この実施形態では、材料温度200〜400℃、ロール温度80〜250℃、ロール速度5〜15m/min、及び1パス当たりの圧下量0.5〜2.0mmの圧延条件でマグネシウム合金を圧延加工する。このため、難燃性マグネシウム合金を圧延加工によって薄板に作製しプレス材に成形することができる。また、異方性がない圧延加工後の難燃性マグネシウム合金をプレス加工することによって、プレス加工中にしわや偏肉などが発生せず十分な強度及び剛性を有するプレス材7A〜7Cを製造することができる。
 
【実施例】
【0046】
  次に、この発明の実施例について説明する。
  カルシウムを含有するマグネシウム合金のプレス材のプレス加工の可否、金属組織及び機械的特性を評価するために、このマグネシウム合金の均質化処理後の鋳造ビレットを圧延加工して圧延材を作製し、この圧延材を曲げ加工してプレス材を作製した。
【0047】
【表1】
【0048】
  表1は、試験材に供したマグネシウム合金のプレス材の組成である。表1に示す単位は、質量パーセントである。表1に示すマグネシウム合金は、カルシウムを添加したMg-Al-Zn-Ca系のマグネシウム合金(AZX611)及びMg-Al-Mn-Ca系のマグネシウム合金(AMX601)の板材である。AZX611のプレス材は、板厚が1mmの試験材(1mm厚材)、板厚が3mmの試験材(3mm厚材)、板厚が6mmの試験材(6mm厚材)及び板厚が10mmの試験材(10mm厚材)を作製した。AMX601のプレス材は、板厚が1mmの試験材(1mm厚材)及び板厚が3mmの試験材(3mm厚材)を作製した。
【0049】
  表1に示す成分になるように各種インゴットを溶解炉で溶解し、鋳造温度650℃及び冷却速度3〜12℃/sで板厚20mm、幅300mm、長さ1000mmの長方形の断面を有するビレットを作製した。次に、このビレットを450℃で5時間均質加熱(均質化処理)した。次に、材料温度370℃、ロール温度210℃、ロール速度5m/min、及び1パス当たりの圧下量0.5〜2.0mmで、所定の圧下率に設定した圧延ロール間を最低8回通過させて目的とする板厚まで圧延させる圧延加工条件で均質化処理後のビレットを圧延し、厚さ1mm,3mm,5mm,6mm,10mmで幅300mmの圧延材を作製した。
【0050】
【表2】
【0051】
  表2は、試験材に係るマグネシウム合金のプレス材に供した圧延材(as rolled)の圧延方向0°,90°の1mm,3mm,5mm厚材の室温における機械的特性である。表2に示すように、AZX611のプレス材は、1mm,3mm,5mm厚材のいずれについても圧延方向0°,90°において顕著な異方性がほとんど認められなかった。
【0052】
  次に、表3に示す曲げ加工条件で厚さの異なる圧延材(ブランク)をプレス機械によってプレス加工して、
図4及び
図7に示すハット型プレス材及びアングル型プレス材を作製した。
図11に示すように、圧延材を連続してプレス加工して底部7aが複数存在する多連形のプレス材を成形し、この多連型のプレス材を所定の幅で切断してプレス材を作製した。作製したハット型プレス材の大きさは、長さ1000mm、幅100mmであり、各部の寸法は
図4に示す底部7aのAが40mm、側部7cのBが17mm、羽根部7bのCが30mmであり、角度θが27°である。作製したアングル型プレス材の大きさは、長さ750mmであり、
図7に示す各部の寸法は板部7f,7gのA',B'が50mm、角度θが90°である。
【0053】
【表3】
【0054】
  表3は、試験材に係るマグネシウム合金のプレス材の板厚毎の曲げ加工条件及び加工可否である。ここで、表3に示す加工温度は、金型温度及び材料温度であり、加工速度はプレス速度である。加工可否は、○が良好な試験材であり、△がしわの発生した試験材であり、×が割れの発生した試験材である。プレス加工は、電気炉雰囲気が400℃であり、加工モーションをパルスで実施した。
図12に示すように、プレス加工条件を適切に設定することによって、プレス材の曲げ部(R部)に割れなどの不良が発生しないことが確認された。
【0055】
  表3に示すように、1mm厚のプレス材は、加工温度が300℃以上350℃以下で比R
1/R
2が0.25以上1.50以下である場合であって、比R
2/tが2.0以上12.0以下である場合には良好であった。一方、1mm厚のプレス材は、加工温度200℃で比R
1/R
2が6.0の場合にはわれが発生し、加工温度250℃で比R
1/R
2が6.0の場合にはしわが発生した。3mm厚のプレス材は、加工温度が250℃以上350℃以下で比R
1/R
2が0.25以上4.0以下である場合であって比R
2/tが0.67以上4.0以下である場合には良好であった。一方、3mm厚のプレス材は、加工温度200℃の場合にはしわや割れが発生した。3mm厚のプレス材は、AMX601の試験材についてもAZX611の試験材と同様に良好なプレス加工が可能なことが確認された。5mm厚のプレス材は、加工温度が350℃で比R
1/R
2が2.0である場合であって、比R
2/tが0.8である場合には良好であった。6mm厚のプレス材は、加工温度が300℃で比R
1/R
2が0.67以上4.0以下である場合であって、比R
2/tが0.33以上2.0以下である場合には良好であった。一方、6mm厚のプレス材は、加工温度200℃の場合にはしわや割れが発生した。10mm厚のプレス材は、比R
1/R
2が6.0で比R
2/tが0.05である場合には割れが発生した。以上より、加工温度Tが200℃を超え350℃以下であり、比R
1/R
2が0を超え6未満であり、比R
2/tが0.2以上12.0以下である曲げ加工条件の場合には、割れの発生なくプレス材を製作可能であることが確認された。
【0056】
【表4】
【0057】
【表5】
【0058】
  表4は、一例として厚さ1mmの圧延材から作製したハット型プレス材の各部の厚さである。表5は、一例として厚さ3mmの圧延材から作製したハット型プレス材の各部の厚さである。厚さは、
図13に示すハット型プレス材のA部(底部)、B部(側部)及びC部(羽根部)を測定した。1mm厚材は、表4に示すように、A部、B部及びC部のいずれについても板厚に大きなばらつきはなかった。3mm以上の厚材は、簡易的にダイにスペーサを取り付けてスペーサとパンチとの間で厚さ3mmの圧延材を挟み込みプレス加工した。その結果、3mm以上の厚材は、表5に示すように、1mm厚材と同様に、A部、B部及びC部のいずれについても板厚に大きなばらつきはなかった。このため、金型のクリアランスと塑性流動とを修正することによって板厚3mm以上の圧延材についても高精度なプレス加工が可能であることが確認された。なお、厚さ10mmの圧延材から作製したハット型プレス材については割れが発生した。
【0059】
  次に、プレス材の金属組織及び機械的特性を確認した。
  
図14に示すように、1mm厚材及び5mm厚材のそれぞれのA部及びB部から平行部寸法幅5mm×長さ30mmを有する試験片を切り出して、引張試験機(インストロン製5969型)を使用して試験片を室温で引張試験した。また、プレス材のR部近傍の金属組織を観察した。ここで、
図14に示すRDは、圧延方向(ロール方向(ロール目))であり、RD:90°は圧延材の長さ方向と圧延方向とが直交する場合であり、RD:0°は圧延材の長さ方向と圧延方向とが平行である場合である。
【0060】
【表6】
【0061】
  表6は、1mm厚材の引張試験結果である。
図12に示すように、プレス材の曲げ部(R部)では片側に引張応力、片側に圧縮応力がかかり、プレス材のB部では引張ながら圧縮が加わる状況となる。しかし、1mm厚材は、
図15に示すように、RD:0°,90°のいずれについても割れなどの不良の発生や応力集中している様子は確認されなかった。また、プレス後の1mm厚材は、RD:0°,90°のいずれについても圧延方向に配列しているAl-Ca化合物が塑性流動していた。
【0062】
【表7】
【0063】
  表7は、3mm厚材の引張試験結果である。3mm厚材は、表7に示すように、1mm厚材と同様に、RD: 0°,90°のいずれについても割れなどの不良や応力集中が発生している様子は確認されず、圧延方向に配列しているAl-Ca化合物が塑性流動していた。
【0064】
  以上より、1mm厚材及び3mm厚材は、
図15に示すように、R部に亀裂の発生が認められず、表6及び表7に示すように引張試験結果についても十分な機械的強度を有することが確認された。また、表3に示すプレス加工条件によってカルシウムを1mass%含有するマグネシウム合金の圧延材を厚さ1〜6mmの範囲内でハット曲げ加工及びV曲げ加工できることが確認された。
【0065】
  この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、鉄道車両にマグネシウム合金のプレス材を適用した場合を例に挙げて説明したが、自動車、船舶、航空機又は飛翔体などの他の交通輸送手段についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、鉄道車両の構体2にマグネシウム合金のプレス材を適用する場合を例に挙げて説明したが、鉄道車両の床材、パンタグラフカバー又は台車塞ぎ板などについても、この発明を適用することができる。
【0066】
(2) この実施形態では、鉄道車両の構体2の外板3がプレス材7A〜7Cと同様のカルシウムを含有するマグネシウム合金である場合を例に挙げて説明したが、外板3がこのようなマグネシウム合金以外の金属である場合についても、この発明を適用することができる。また、この実施形態では、マグネシウム合金のプレス材7Aを構体2の骨組に適用する場合を例に挙げて説明したが、構体2の床構え2aに取り付けられる波形鋼板(キーストンプレート(デッキプレート))などについても、この発明を適用することができる。さらに、この実施形態では、曲げ加工工程#150において金型温度と材料温度とを同一に設定する場合を例に挙げて説明したが、材料温度よりも金型温度を高く設定して金型上に材料を設置し金型によって材料を加熱する場合についても、この発明を適用することができる。