特許第6850981号(P6850981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6850981
(24)【登録日】2021年3月11日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】酸化物スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20210322BHJP
   C04B 35/453 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   C04B35/453
【請求項の数】2
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-230182(P2016-230182)
(22)【出願日】2016年11月28日
(65)【公開番号】特開2018-87360(P2018-87360A)
(43)【公開日】2018年6月7日
【審査請求日】2019年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】歳森 悠人
(72)【発明者】
【氏名】木内 香歩
(72)【発明者】
【氏名】林 雄二郎
【審査官】 山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−098396(JP,A)
【文献】 特開2016−056065(JP,A)
【文献】 特開2016−134320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C04B 35/453
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属成分元素の含有割合が、全金属成分元素量に対してGaが10.0原子%以上20.0原子%以下、Tiが2.0原子%以上5.0原子%以下、残部がZnおよび不可避不純物とされた酸化物からなることを特徴とする酸化物スパッタリングターゲット。
【請求項2】
全金属成分元素量に対して、さらにZr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、B、Al、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi及びランタノイド系列の元素からなる元素群より選ばれる少なくとも1種または2種以上の添加元素を、0.01原子%以上10.0原子%以下の範囲内で含有することを特徴とする請求項1に記載の酸化物スパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電酸化物膜をスパッタ法によって成膜する際に用いられる酸化物スパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルや太陽電池、有機ELディスプレイなどの電子デバイスにはパターニングされた配線膜や電極が広く使用されている。一方、Ag及びAg合金は、優れた導電性と反射率を有し、または薄く成膜した場合に優れた透過率が得られるため、これらの電子デバイスの導電膜としての応用が期待されている。
【0003】
しかしながら、Ag及びAg合金は、ガラス基板や樹脂フィルム基板への密着性が低く、また、製造プロセス及び使用中の環境の湿気や硫黄等の化学物質による腐食が発生しやすい。このため、AgまたはAg合金からなる金属膜の片面あるいは両面に、金属膜と基板との密着性を向上させる密着機能と、金属膜を湿気や化学物質から保護する保護機能とを備えた酸化物膜を積層することが検討されている。この金属膜と積層する酸化物膜としては、ITO膜やZnO膜などの透明性と導電性とを有する透明導電酸化物膜が利用されている(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
ここで、透明導電酸化物膜は、酸化物スパッタリングターゲットを用いたスパッタ法によって成膜される。例えば、特許文献3、4には、スパッタ法により成膜されるZnO膜の特性を向上させるために、酸化物スパッタリングターゲットに各種元素を添加することが提案されている。
【0005】
特許文献3には、ZnOに、Tiと、Ga又はAlから選ばれる1種以上とを添加した酸化物スパッタリングターゲットが記載されている。この特許文献3では、Ga又はAlの含有量は、(Ga+Al)/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比として0.03以下、Tiの含有量は、Ti/(Zn+Ti+Ga+Al)原子数比として0.05〜0.25とされている。
【0006】
特許文献4には、ZnOに、TiとGaを添加した酸化物スパッタリングターゲットが記載されている。この特許文献4では、TiとGaの含有量は、Ti1.1at%以上又はGa4.5at%以上の範囲で、且つGaの含有量y(at%)が、Tiの含有量x(at%)で表される値(−2.5x+9.8)以下の範囲で且つチタンの含有量x(at%)で表される値(−0.5x+1.1)以上の範囲とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平07−114841号公報
【特許文献2】特開2009−252576号公報
【特許文献3】特開2009−298649号公報
【特許文献4】特許第4295811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、パターニングされた配線膜や電極を成形する方法として、導電膜の表面にレジストパターンを形成し、次いで、エッチング液によるエッチング処理によって導電膜の露出部分(レジストパターンが形成されていない部分)を除去した後、アルカリ性の剥離液によりレジストパターンを除去する方法が知られている。このレジストパターンとエッチング処理とを用いる配線膜や電極のパターン形成方法では、導電膜として金属膜と透明導電酸化物とを積層した積層膜を用いる場合、透明導電酸化物は、金属膜と一括してエッチング処理が可能となるようにエッチング加工性が優れていることが好ましい。
【0009】
しかしながら、金属膜とITO膜とを積層した積層膜は、ITO膜と金属膜とでエッチングレートが異なるため、一括してエッチング処理することが難しい。これに対して、金属膜とZnO膜とを積層した積層膜の場合は、一括してエッチング処理できるという利点がある。
【0010】
しかしながら、従来の酸化物スパッタリングターゲットを用いて成膜されるZnOを主成分とする透明導電酸化物膜は、耐アルカリ性が低く、レジストパターンを除去する際に用いられる剥離液に溶解するおそれがあった。また、パターニングされた配線膜や電極は長期間にわたって安定して利用できるように、高い耐環境性(特に、高温高湿環境への耐性)を有することが望まれる。
【0011】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、電子デバイスの配線膜や電極として有用な透明導電酸化膜、すなわち耐環境性(高温高湿環境への耐性)、エッチング加工性、そして耐アルカリ性に優れた透明導電酸化膜を、スパッタ法により成膜することができる酸化物スパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の酸化物スパッタリングターゲットは、金属成分元素の含有割合が、全金属成分元素量に対してGaが10.0原子%以上20.0原子%以下、Tiが2.0原子%以上5.0原子%以下、残部がZnおよび不可避不純物とされた酸化物からなることを特徴としている。
【0013】
本発明のスパッタリングターゲットによれば、Gaを、全金属成分元素量に対して10.0原子%以上含有するので、耐環境性と耐アルカリ性が向上した透明導電酸化物膜を成膜することができる。また、Gaの含有量が全金属成分元素量に対して20.0原子%以下とされているので、DC(直流)スパッタ法などの通常のスパッタ法により安定して、透明導電酸化物膜を成膜することができる。
【0014】
さらに、Tiを、全金属成分元素量に対して2.0原子%以上含有するので、耐環境性と耐アルカリ性がより向上した透明導電酸化物膜を成膜することができる。また、Tiの含有量が全金属成分元素量に対して5.0原子%以下とされているので、エッチング加工性が確保された透明導電酸化物膜を成膜することができる。
【0015】
ここで、本発明の酸化物スパッタリングターゲットにおいては、全金属成分元素量に対して、さらにZr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、B、Al、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi及びランタノイド系列の元素からなる元素群より選ばれる少なくとも1種または2種以上の添加元素を、合計で0.01原子%以上10.0原子%以下の範囲内で含有することが好ましい。
この場合、耐環境性がより向上し、抵抗値がより低減した透明導電酸化物膜を成膜することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電子デバイスの配線膜や電極として有用な透明導電酸化膜、すなわち耐環境性(高温高湿環境への耐性)、エッチング加工性、そして耐アルカリ性に優れた透明導電酸化膜を、スパッタ法により成膜することができる酸化物スパッタリングターゲットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明例2で製造した酸化物スパッタリングターゲットの元素分布像である。
図2】本発明例2で作製した透明導電積層膜の恒温恒湿試験後の外観観察写真である。
図3】比較例1で作製した透明導電積層膜の恒温恒湿試験後の外観観察写真である。
図4】本発明例2で作製した透明導電積層膜のエッチング処理後の断面SEM画像である。
図5】比較例4で作製した透明導電積層膜のエッチング処理後の断面SEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の一実施形態である酸化物スパッタリングターゲットについて、説明する。
【0019】
本実施形態であるスパッタリングターゲットは、例えば、金属膜の片面または両面に積層される透明導電酸化物膜を、DC(直流)スパッタ法により成膜する際に使用されるものである。この透明導電酸化物膜を金属膜の片面または両面に積層した導電積層膜は、例えば、タッチパネルや太陽電池、有機ELディスプレイなどの電子デバイスの配線膜(透明導電積層膜)として用いることができる。また、導電積層膜はトップエミッション方式の有機ELディスプレイの反射電極(反射導電積層膜)として用いることができる。
金属膜は、例えば、Ag膜またはAg合金膜である。Ag膜またはAg合金膜の厚さは、通常、5〜400nmの範囲にある。透明導電積層膜として用いる場合、Ag膜またはAg合金膜の厚さは、好ましくは5〜20nmの範囲にある。反射導電積層膜として用いる場合、Ag膜またはAg合金膜の厚さは、好ましくは40〜400nmの範囲にある。
また、このAg膜またはAg合金膜に積層する透明導電酸化物膜の膜厚は、通常、10〜100nmの範囲である。
【0020】
本実施形態である酸化物スパッタリングターゲットは、金属酸化物からなり、この金属酸化物における金属成分元素の含有割合が、全金属成分元素量に対してGaが10.0原子%以上20.0原子%以下、Tiが0.5原子%以上5.0原子%以下、残部がZnおよび不可避不純物とされている。
【0021】
本実施形態の酸化物スパッタリングターゲットにおいて、上記のZn、Ga、Tiの各金属の酸化物はそれぞれ分散していることが好ましい。但し、Gaは、その一部がZnと複合酸化物を形成してもよい。また、Tiは、その一部がZnと複合酸化物を形成してもよい。
【0022】
本実施形態の酸化物スパッタリングターゲットは、全金属成分元素量に対して、さらにZr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、B、Al、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi及びランタノイド系列の元素からなる元素群より選ばれる少なくとも1種または2種以上の添加元素を、合計で0.01原子%以上10.0原子%以下の範囲内で含有することが好ましい。ここで、本実施形態の酸化物スパッタリングターゲットにおいて、全金属成分元素量とは、添加元素を含まない場合はTiとGaとZnの合計含有量を意味し、添加元素を含む場合はTiとGaとZnと添加元素の合計含有量を意味する。
【0023】
以下に、本実施形態である酸化物スパッタリングターゲットの金属成分元素の含有割合を上述のように規定した理由について説明する。
【0024】
(Ga)
Gaは、成膜された透明導電酸化物膜の耐環境性と耐アルカリ性を向上させる作用がある。Gaはまた、Agとの相性がよく、成膜された透明導電酸化物膜の金属膜への濡れ性を向上させる作用もある。透明導電酸化物膜の金属膜に対する濡れ性が向上することによって、透明導電酸化物膜と金属膜とが強く密着するので、積層膜としての導電性、透明性、耐環境性を向上させることができる。
ここで、Gaの含有量が10原子%未満の場合には、成膜された透明導電酸化物膜の耐環境性と耐アルカリ性を向上させる効果を確保できず、また透明導電酸化物膜のAg膜への濡れ性を向上させることができないおそれがある。一方、Gaの含有量が多くなりすぎると、却って酸化物スパッタリングターゲットの導電性が悪化しDCスパッタが不可となるおそれがある。
このような理由から、本実施形態では、Gaの含有量を10.0原子%以上20.0原子%以下の範囲に設定している。
【0025】
(Ti)
Tiは、成膜された透明導電酸化物膜の耐環境性と耐アルカリ性をより向上させる効果を有する。
ここで、Tiの含有量が0.5原子%未満の場合には、成膜された透明導電酸化物膜の耐環境性と耐アルカリ性を十分に向上させることができないおそれがある。一方、Tiの含有量が5.0原子%を超えると、成膜された透明導電酸化物膜のエッチング加工性が低下して、金属膜との積層膜とした場合に、一括でエッチングすることが難しくなるおそれがある。
このような理由から、本実施形態では、Tiの含有量を0.5原子%以上5.0原子%以下の範囲に設定している。
【0026】
(Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、B、Al、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi及びランタノイド系列の元素からなる元素群より選ばれる少なくとも1種または2種以上の添加元素)
上記の添加元素は、成膜された透明導電酸化物膜の耐環境性をより向上させる効果を有する。また、上記の添加元素は、三価以上の原子価を有することから、酸化亜鉛のドーパントとして作用して、成膜された透明導電酸化物膜の導電性を向上させて、抵抗値をより低くすることができ、その結果、この透明導電酸化物膜と金属膜とを積層した積層膜の抵抗値を、長期間にわたって安定化させることができる。
ここで、上記添加元素の含有量が0.01原子%未満の場合には、成膜された透明導電酸化物膜の耐環境性と導電性を十分に向上させることができないおそれがある。一方、添加元素の含有量が10.0原子%を超えると、成膜された透明導電酸化物膜の金属膜に対する濡れ性が低下して、金属膜との積層膜とした場合に、積層膜としての導電性や透明性が低下するおそれがある。また、成膜された透明導電酸化物膜のエッチング加工性が低下して、金属膜との積層膜とした場合に、一括でエッチングすることが難しくなるおそれがある。
このような理由から、本実施形態では、添加元素の含有量を0.01原子%以上10.0原子%以下の範囲に設定している。
【0027】
(Zn)
Znの酸化物であるZnOは、Agの結晶性を向上させるとともに、AgまたはAg合金を薄膜化した場合でもAgの凝集を抑える効果がある。このため、ZnOを主成分とする透明導電酸化物膜を下地とすることによって、薄膜で光の透過率の高いAg膜またはAg合金を形成することができる。
このような理由から、本実施形態では、Znの含有量を、上記の元素の残部と設定している。
【0028】
(不可避不純物)
不可避不純物は、本実施形態である酸化物スパッタリングターゲットを製造する際に用いる原料粉末に混入している元素、あるいはその製造の過程で混入することが避けられない元素であって、酸化物スパッタリングターゲットの特性に影響を及ぼさない元素を意味する。不可避不純物の含有量は、酸化物スパッタリングターゲットの全体量に対して、100質量ppm以下であることが好ましい。
【0029】
次に、本実施形態であるスパッタリングターゲットの製造方法について説明する。
先ず、原料粉末として、酸化亜鉛(ZnO)粉末、酸化ガリウム(Ga)粉末、酸化チタン(TiO)粉末を準備する。さらに、必要に応じて、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、B、Al、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、La、Nd、Sm、Gdの各添加元素をそれぞれ含む酸化物粉末を準備する。この酸化物粉末は、添加元素を3価の酸化物として含むものであることが好ましい。
これらの原料粉末は、純度が99.9質量%以上であることが好ましい。
【0030】
次に、原料粉末を、各元素の含有割合が上述の範囲となるように秤量する。秤量した原料粉末を混合して混合粉末を得る。原料粉末の混合は、ボールミル装置を用いることができる。
【0031】
次に、混合粉末を造粒し、ホットプレス等を用いて焼結して焼結体を得る。そして、この焼結体を機械加工することで、本実施形態であるスパッタリングターゲットが製造される。
【0032】
以上のような構成とされた本実施形態である酸化物スパッタリングターゲットにおいては、Gaを、全金属成分元素量に対して10.0原子%以上含有するので、耐環境性と耐アルカリ性が向上した透明導電酸化物膜を成膜することができる。また、Gaの含有量が全金属成分元素量に対して20.0原子%以下とされているので、DC(直流)スパッタ法などの通常のスパッタ法により安定して、透明導電酸化物膜を成膜することができる。
【0033】
さらに、Tiを、全金属成分元素量に対して0.5原子%以上含有するので、耐環境性と耐アルカリ性がより向上した透明導電酸化物膜を成膜することができる。また、Tiの含有量が全金属成分元素量に対して5.0原子%以下とされているので、エッチング加工性が確保された透明導電酸化物膜を成膜することができる。このため、本実施形態である酸化物スパッタリングターゲットを用いて成膜された透明導電酸化物膜を、金属膜の片面または両面に積層した積層膜は、レジストパターンとエッチング処理とを用いる配線膜や電極のパターン形成方法に有利に用いることができる。
【0034】
また、本実施形態であるスパッタリングターゲットにおいて、全金属成分元素量に対して、さらにZr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、B、Al、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi及びランタノイド系列の元素からなる元素群より選ばれる少なくとも1種または2種以上の添加元素を、合計で0.01原子%以上10.0原子%以下の範囲内で含有する場合は、耐環境性がより向上し、抵抗値がより低減した透明導電酸化物膜を成膜することができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0037】
(酸化物スパッタリングターゲットの製造)
原料粉末として、Zn、Ga、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、B、Al、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、La、Nd、Sm、Gdの各元素のそれぞれを含む酸化物粉末を準備した。酸化物粉末はすべて純度が99.9質量%以上のものを準備した。
準備した各原料粉末を、各元素の含有割合が表1の酸化物スパッタリングターゲットの元素組成に示す組成となるように選択して秤量した。ただし、本発明例4は、本発明の発明例ではない。
【0038】
秤量した原料粉末を、ボールミル装置によって粉砕、混合して混合粉末を得た。
得られた混合粉末を、圧力300kgf/cm、温度950℃の条件で、3時間ホットプレス(HP)を行い、酸化物焼結体を得た。
得られた酸化物焼結体を機械加工することにより、直径152.4mm×厚さ6mmとされた本発明例及び比較例の酸化物スパッタリングターゲットを製造した。なお、表1に示す酸化物スパッタリングターゲットの元素組成は、ホットプレスを行う前の混合粉末を用いてICP法によって測定した。
【0039】
(酸化物スパッタリングターゲットの元素分布)
本発明例及び比較例の酸化物スパッタリングターゲットについて、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて元素分布を測定した。その結果、本発明例で製造された酸化物スパッタリングターゲットは、いずれもターゲット中のZn、Ga、Tiの各相は分散しており、Ga及びTiの一部はZnと複合酸化物を形成していることが確認された。
図1に、本発明例2で製造した酸化物スパッタリングターゲットの元素分布の測定結果を示す。
【0040】
(異常放電試験)
マグネトロンスパッタ装置に、はんだ付けした酸化物スパッタリングターゲットを取り付け、1×10−4Paまで排気した後、Arガス圧:0.5Pa、直流電力密度:3.0W/cm、ターゲット基板間距離:70mmの条件で、DC(直流)スパッタ法により成膜を行った。スパッタ時の異常放電回数は、MKSインスツルメンツ社製DC電源(型番:RPDG−50A)のアークカウント機能により、放電開始から1時間の異常放電回数として計測した。その結果を、表1に示す。
【0041】
(透明導電酸化物膜の成膜)
本発明例及び比較例の酸化物スパッタリングターゲットを用いて、基板上に500nmの厚さで透明導電酸化物膜を、下記の条件にてDCスパッタ法により成膜した。
基板:無アルカリガラス基板(コーニング社製イーグルXG)
到達真空度:1×10−4Pa以下
使用ガス:Ar+O(O分圧2%)
ガス圧:0.7Pa
電力:直流500W
ターゲット/基板間距離:70mm
なお、比較例2のスパッタリングターゲットは、DCスパッタ法によって成膜できなかったので透明導電酸化物膜の成膜は実施しなかった。
【0042】
(透明導電酸化物膜の比抵抗)
成膜された透明導電酸化物膜の膜抵抗を、三菱化学製抵抗測定器ロレスタGPを用いて、四探針法により測定した。そして、下記の式により比抵抗値を算出した。評価結果を表1に示す。
(透明導電酸化物膜の比抵抗値)=(透明導電酸化物膜の膜抵抗)×(透明導電酸化物膜の膜厚)
【0043】
(積層膜の作製)
基板上に、透明導電酸化物膜/Ag合金膜/透明導電酸化物膜からなる3層構造の積層膜を作製した。積層膜は、膜構造(透明導電酸化物膜/Ag合金膜/透明導電酸化物膜)=40nm/8nm/40nmである透明導電積層膜、及び膜構造=10nm/100nm/10nmである反射導電積層膜の二水準とした。
【0044】
透明導電酸化物膜は、本発明例及び比較例のスパッタリングターゲットを用いて、下記の条件にてDCスパッタ法により成膜した。
基板:無アルカリガラス基板(コーニング社製イーグルXG)
到達真空度:1×10−4Pa以下
使用ガス:Ar+O(O分圧2%)
ガス圧:0.7Pa
電力:直流500W
ターゲット/基板間距離:70mm
【0045】
Ag合金膜は、Ag−Cu合金(Cu含有量:1原子%)スパッタリングターゲットを用いて、下記の条件にてDCスパッタ法により成膜した。
到達真空度:5×10−5Pa以下
使用ガス:Ar
ガス圧:0.5Pa
電力:直流200W
ターゲット/基板間距離:70mm
【0046】
得られた積層膜について、シート抵抗、光学特性(透過率、反射率)、耐高温高湿性、耐アルカリ性、エッチング加工性を、以下のようにして評価した。膜構造=40nm/8nm/40nmの透明導電積層膜の評価結果を表2に示し、膜構造=10nm/100nm/10nmの反射導電積層膜の評価結果を表3に示す。
【0047】
(シート抵抗)
三菱化学製抵抗測定器ロレスタGPを用いて、四探針法よりシート抵抗を測定した。
【0048】
(光学特性:透過率)
透過率は、膜構造=40nm/8nm/40nmの透明導電積層膜について測定した。
透過率は、分光光度計(日立分光光度計U−4100)を用いて測定した。なお、表2に記載した透過率は、波長550nmの可視光における透過率である。
【0049】
(光学特性:反射率)
反射率は、膜構造=10nm/100nm/10nmの反射導電積層膜について測定した。
反射率は、分光光度計(日立分光光度計U−4100)を用いて測定した。なお、表3に記載した反射率は、青色波長である波長400nm〜450nmにおける可視光の平均値である。
【0050】
(耐環境性)
積層膜を、温度85℃、湿度85%の雰囲気に調整した恒温恒湿槽中に100時間静置する恒温恒湿試験を実施した。
膜構造=40nm/8nm/40nmの透明導電積層膜については、シート抵抗の反化率から耐環境性を評価した。すなわち、透明導電積層膜については、恒温恒湿試験後のシート抵抗を上述の方法により測定した。そして、恒温恒湿試験前後におけるシート抵抗の変化率(=恒温恒湿試験後のシート抵抗/恒温恒湿試験前のシート抵抗×100)を算出した。
【0051】
膜構造=10nm/100nm/10nmの反射導電積層膜については、反射率の変化量から耐環境性を評価した。すなわち、反射導電積層膜については、恒温恒湿試験後の反射率を上述の方法により測定した。そして、そして、恒温恒湿試験前後における反射率の変化量(=恒温恒湿試験後の反射率―恒温恒湿試験前の反射率)を算出した。
【0052】
また、双方の膜構造の積層膜について、恒温恒湿試験後の積層膜の外観を目視で観察し、積層膜の変色や斑点の有無を確認した。
恒温恒湿試験後の透明導電積層膜の外観観察結果の一例を図2及び図3に示す。図2は、本発明例2で作製した透明導電積層膜の恒温恒湿試験後の外観観察写真であり、積層膜の変色や斑点が発生しない場合の例である。図3は、比較例1で作製した透明導電積層膜の恒温恒湿試験後の外観観察写真であり、透明導電積層膜に斑点が発生した場合の例である。
【0053】
(耐アルカリ性)
積層膜を、40℃の5質量%NaOH水溶液中に10分間浸漬する浸漬試験を実施した。浸漬試験後の積層膜について膜厚を測定した。そして、浸漬試験前後における膜厚の変化率(=浸漬試験後の膜厚/浸漬試験前の膜厚×100)を算出した。膜厚の変化率が10%未満であったものを「○」、膜厚の変化率が10%以上50%未満であったものを「△」、膜厚の変化率が50%以上であったものを「×」と評価した。
なお、膜厚の測定は、積層膜の形成時に、予めガラス基板上の一部にマスキングテープを貼り付けることによって積層膜内に段差を形成し、その段差を段差測定計(DEKTAK-XT)で測定することによって行った。
【0054】
(エッチング加工性)
積層膜の表面に、フォトリソグフィーにより配線幅30μmの櫛型パターンのフォトレジスト層を形成した。次いで、エッチング液(燐硝酢酸:関東化学SEAシリーズ)を用いて、エッチング処理を行った。そして、エッチング処理後の積層膜の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。積層膜の透明導電酸化物膜/Ag合金膜/透明導電酸化物膜の全ての膜が均一にエッチングされているものを「○」、透明導電酸化物膜/Ag合金膜/透明導電酸化物膜が均一にエッチングされていない(透明導電酸化物膜が残存している)ものを「×」と評価した。
【0055】
エッチング処理後の積層膜の断面SEM画像を図4及び図5に示す。図4は、本発明例2で作製した透明導電積層膜のエッチング処理後の断面SEM画像であり、透明導電酸化物膜/Ag合金膜/透明導電酸化物膜の全ての膜が均一にエッチングされている場合の例である。図5は、比較例4で作製した透明導電積層膜のエッチング処理後の断面SEM画像であり、基板上に透明導電酸化物膜が残存している場合の例である。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
Gaの含有量が10原子%未満とされた比較例1の酸化物スパッタリングターゲットを用いて透明導電酸化物膜を成膜した積層膜は、シート抵抗が高く、光学特性(透過率/反射率)が低く、耐環境性と耐アルカリ性が不十分であった。これは、透明導電酸化物膜とAg合金膜との密着性が弱いためであると推察される。
【0060】
Gaの含有量が20原子%を超える比較例2の酸化物スパッタリングターゲットは、DCスパッタ法によって成膜できなかった。これは、酸化物スパッタリングターゲットの導電性が低下したためであると推察される。
【0061】
Tiの含有量が0.5原子%未満とされた比較例3の酸化物スパッタリングターゲットを用いて透明導電酸化物膜を成膜した積層膜は、耐環境性と耐アルカリ性が不十分であった。これは、Tiの添加による作用効果が十分に発揮されなかったためであると推察される。
【0062】
Tiの含有量が5.0原子%を超える比較例4の酸化物スパッタリングターゲットは、スパッタ法による成膜時の異常放電の発生回数が多くなった。これは、酸化物スパッタリングターゲット中にZnTiO相などの複合酸化物相が増加するためのであると推察される。また、この酸化物スパッタリングターゲットを用いて透明導電酸化物膜を成膜した積層膜は、エッチング加工性が不十分であった。これは、透明導電酸化物膜がエッチング液に溶解しにくくなったためであると推察される。
【0063】
添加元素の含有量が10.0原子%を超える比較例5の酸化物スパッタリングターゲットを用いて透明導電酸化物膜を成膜した透明導電積層膜は、シート抵抗が高く、透過率が低下した。これは、透明導電酸化物膜のAg合金膜に対する濡れ性が低下し、透明導電酸化物膜とAg合金膜との密着性が弱くなったためであると推察される。なお、反射導電積層膜では、シート抵抗および反射率は本発明例と同等であった。これは、反射導電積層膜は、透明導電酸化物膜の厚さが10nmと薄いためであると推察される。
エッチング加工性は、透明導電積層膜および反射導電積層膜のいずれも不十分であった。これは、透明導電酸化物膜がエッチング液に溶解しにくくなったためであると推察される。
【0064】
これに対して、本発明例1−32の酸化物スパッタリングターゲットを用いて透明導電酸化物膜を成膜した積層膜は、シート抵抗が低く、光学特性(透過率もしくは反射率)が高く、耐環境性、耐アルカリ性およびエッチング加工性のいずれにおいても優れていることが確認された。特に、添加元素を本発明の範囲で含む本発明例6−32の酸化物スパッタリングターゲットを用いて透明導電酸化物膜を成膜した積層膜は、耐環境性が向上し、比抵抗が低く導電性に優れていることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5