【実施例】
【0036】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0037】
(酸化物スパッタリングターゲットの製造)
原料粉末として、Zn、Ga、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、B、Al、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、La、Nd、Sm、Gdの各元素のそれぞれを含む酸化物粉末を準備した。酸化物粉末はすべて純度が99.9質量%以上のものを準備した。
準備した各原料粉末を、各元素の含有割合が表1の酸化物スパッタリングターゲットの元素組成に示す組成となるように選択して秤量した。
ただし、本発明例4は、本発明の発明例ではない。
【0038】
秤量した原料粉末を、ボールミル装置によって粉砕、混合して混合粉末を得た。
得られた混合粉末を、圧力300kgf/cm
2、温度950℃の条件で、3時間ホットプレス(HP)を行い、酸化物焼結体を得た。
得られた酸化物焼結体を機械加工することにより、直径152.4mm×厚さ6mmとされた本発明例及び比較例の酸化物スパッタリングターゲットを製造した。なお、表1に示す酸化物スパッタリングターゲットの元素組成は、ホットプレスを行う前の混合粉末を用いてICP法によって測定した。
【0039】
(酸化物スパッタリングターゲットの元素分布)
本発明例及び比較例の酸化物スパッタリングターゲットについて、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて元素分布を測定した。その結果、本発明例で製造された酸化物スパッタリングターゲットは、いずれもターゲット中のZn、Ga、Tiの各相は分散しており、Ga及びTiの一部はZnと複合酸化物を形成していることが確認された。
図1に、本発明例2で製造した酸化物スパッタリングターゲットの元素分布の測定結果を示す。
【0040】
(異常放電試験)
マグネトロンスパッタ装置に、はんだ付けした酸化物スパッタリングターゲットを取り付け、1×10
−4Paまで排気した後、Arガス圧:0.5Pa、直流電力密度:3.0W/cm
2、ターゲット基板間距離:70mmの条件で、DC(直流)スパッタ法により成膜を行った。スパッタ時の異常放電回数は、MKSインスツルメンツ社製DC電源(型番:RPDG−50A)のアークカウント機能により、放電開始から1時間の異常放電回数として計測した。その結果を、表1に示す。
【0041】
(透明導電酸化物膜の成膜)
本発明例及び比較例の酸化物スパッタリングターゲットを用いて、基板上に500nmの厚さで透明導電酸化物膜を、下記の条件にてDCスパッタ法により成膜した。
基板:無アルカリガラス基板(コーニング社製イーグルXG)
到達真空度:1×10
−4Pa以下
使用ガス:Ar+O
2(O
2分圧2%)
ガス圧:0.7Pa
電力:直流500W
ターゲット/基板間距離:70mm
なお、比較例2のスパッタリングターゲットは、DCスパッタ法によって成膜できなかったので透明導電酸化物膜の成膜は実施しなかった。
【0042】
(透明導電酸化物膜の比抵抗)
成膜された透明導電酸化物膜の膜抵抗を、三菱化学製抵抗測定器ロレスタGPを用いて、四探針法により測定した。そして、下記の式により比抵抗値を算出した。評価結果を表1に示す。
(透明導電酸化物膜の比抵抗値)=(透明導電酸化物膜の膜抵抗)×(透明導電酸化物膜の膜厚)
【0043】
(積層膜の作製)
基板上に、透明導電酸化物膜/Ag合金膜/透明導電酸化物膜からなる3層構造の積層膜を作製した。積層膜は、膜構造(透明導電酸化物膜/Ag合金膜/透明導電酸化物膜)=40nm/8nm/40nmである透明導電積層膜、及び膜構造=10nm/100nm/10nmである反射導電積層膜の二水準とした。
【0044】
透明導電酸化物膜は、本発明例及び比較例のスパッタリングターゲットを用いて、下記の条件にてDCスパッタ法により成膜した。
基板:無アルカリガラス基板(コーニング社製イーグルXG)
到達真空度:1×10
−4Pa以下
使用ガス:Ar+O
2(O
2分圧2%)
ガス圧:0.7Pa
電力:直流500W
ターゲット/基板間距離:70mm
【0045】
Ag合金膜は、Ag−Cu合金(Cu含有量:1原子%)スパッタリングターゲットを用いて、下記の条件にてDCスパッタ法により成膜した。
到達真空度:5×10
−5Pa以下
使用ガス:Ar
ガス圧:0.5Pa
電力:直流200W
ターゲット/基板間距離:70mm
【0046】
得られた積層膜について、シート抵抗、光学特性(透過率、反射率)、耐高温高湿性、耐アルカリ性、エッチング加工性を、以下のようにして評価した。膜構造=40nm/8nm/40nmの透明導電積層膜の評価結果を表2に示し、膜構造=10nm/100nm/10nmの反射導電積層膜の評価結果を表3に示す。
【0047】
(シート抵抗)
三菱化学製抵抗測定器ロレスタGPを用いて、四探針法よりシート抵抗を測定した。
【0048】
(光学特性:透過率)
透過率は、膜構造=40nm/8nm/40nmの透明導電積層膜について測定した。
透過率は、分光光度計(日立分光光度計U−4100)を用いて測定した。なお、表2に記載した透過率は、波長550nmの可視光における透過率である。
【0049】
(光学特性:反射率)
反射率は、膜構造=10nm/100nm/10nmの反射導電積層膜について測定した。
反射率は、分光光度計(日立分光光度計U−4100)を用いて測定した。なお、表3に記載した反射率は、青色波長である波長400nm〜450nmにおける可視光の平均値である。
【0050】
(耐環境性)
積層膜を、温度85℃、湿度85%の雰囲気に調整した恒温恒湿槽中に100時間静置する恒温恒湿試験を実施した。
膜構造=40nm/8nm/40nmの透明導電積層膜については、シート抵抗の反化率から耐環境性を評価した。すなわち、透明導電積層膜については、恒温恒湿試験後のシート抵抗を上述の方法により測定した。そして、恒温恒湿試験前後におけるシート抵抗の変化率(=恒温恒湿試験後のシート抵抗/恒温恒湿試験前のシート抵抗×100)を算出した。
【0051】
膜構造=10nm/100nm/10nmの反射導電積層膜については、反射率の変化量から耐環境性を評価した。すなわち、反射導電積層膜については、恒温恒湿試験後の反射率を上述の方法により測定した。そして、そして、恒温恒湿試験前後における反射率の変化量(=恒温恒湿試験後の反射率―恒温恒湿試験前の反射率)を算出した。
【0052】
また、双方の膜構造の積層膜について、恒温恒湿試験後の積層膜の外観を目視で観察し、積層膜の変色や斑点の有無を確認した。
恒温恒湿試験後の透明導電積層膜の外観観察結果の一例を
図2及び
図3に示す。
図2は、本発明例2で作製した透明導電積層膜の恒温恒湿試験後の外観観察写真であり、積層膜の変色や斑点が発生しない場合の例である。
図3は、比較例1で作製した透明導電積層膜の恒温恒湿試験後の外観観察写真であり、透明導電積層膜に斑点が発生した場合の例である。
【0053】
(耐アルカリ性)
積層膜を、40℃の5質量%NaOH水溶液中に10分間浸漬する浸漬試験を実施した。浸漬試験後の積層膜について膜厚を測定した。そして、浸漬試験前後における膜厚の変化率(=浸漬試験後の膜厚/浸漬試験前の膜厚×100)を算出した。膜厚の変化率が10%未満であったものを「○」、膜厚の変化率が10%以上50%未満であったものを「△」、膜厚の変化率が50%以上であったものを「×」と評価した。
なお、膜厚の測定は、積層膜の形成時に、予めガラス基板上の一部にマスキングテープを貼り付けることによって積層膜内に段差を形成し、その段差を段差測定計(DEKTAK-XT)で測定することによって行った。
【0054】
(エッチング加工性)
積層膜の表面に、フォトリソグフィーにより配線幅30μmの櫛型パターンのフォトレジスト層を形成した。次いで、エッチング液(燐硝酢酸:関東化学SEAシリーズ)を用いて、エッチング処理を行った。そして、エッチング処理後の積層膜の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。積層膜の透明導電酸化物膜/Ag合金膜/透明導電酸化物膜の全ての膜が均一にエッチングされているものを「○」、透明導電酸化物膜/Ag合金膜/透明導電酸化物膜が均一にエッチングされていない(透明導電酸化物膜が残存している)ものを「×」と評価した。
【0055】
エッチング処理後の積層膜の断面SEM画像を
図4及び
図5に示す。
図4は、本発明例2で作製した透明導電積層膜のエッチング処理後の断面SEM画像であり、透明導電酸化物膜/Ag合金膜/透明導電酸化物膜の全ての膜が均一にエッチングされている場合の例である。
図5は、比較例4で作製した透明導電積層膜のエッチング処理後の断面SEM画像であり、基板上に透明導電酸化物膜が残存している場合の例である。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
Gaの含有量が10原子%未満とされた比較例1の酸化物スパッタリングターゲットを用いて透明導電酸化物膜を成膜した積層膜は、シート抵抗が高く、光学特性(透過率/反射率)が低く、耐環境性と耐アルカリ性が不十分であった。これは、透明導電酸化物膜とAg合金膜との密着性が弱いためであると推察される。
【0060】
Gaの含有量が20原子%を超える比較例2の酸化物スパッタリングターゲットは、DCスパッタ法によって成膜できなかった。これは、酸化物スパッタリングターゲットの導電性が低下したためであると推察される。
【0061】
Tiの含有量が0.5原子%未満とされた比較例3の酸化物スパッタリングターゲットを用いて透明導電酸化物膜を成膜した積層膜は、耐環境性と耐アルカリ性が不十分であった。これは、Tiの添加による作用効果が十分に発揮されなかったためであると推察される。
【0062】
Tiの含有量が5.0原子%を超える比較例4の酸化物スパッタリングターゲットは、スパッタ法による成膜時の異常放電の発生回数が多くなった。これは、酸化物スパッタリングターゲット中にZn
2TiO
4相などの複合酸化物相が増加するためのであると推察される。また、この酸化物スパッタリングターゲットを用いて透明導電酸化物膜を成膜した積層膜は、エッチング加工性が不十分であった。これは、透明導電酸化物膜がエッチング液に溶解しにくくなったためであると推察される。
【0063】
添加元素の含有量が10.0原子%を超える比較例5の酸化物スパッタリングターゲットを用いて透明導電酸化物膜を成膜した透明導電積層膜は、シート抵抗が高く、透過率が低下した。これは、透明導電酸化物膜のAg合金膜に対する濡れ性が低下し、透明導電酸化物膜とAg合金膜との密着性が弱くなったためであると推察される。なお、反射導電積層膜では、シート抵抗および反射率は本発明例と同等であった。これは、反射導電積層膜は、透明導電酸化物膜の厚さが10nmと薄いためであると推察される。
エッチング加工性は、透明導電積層膜および反射導電積層膜のいずれも不十分であった。これは、透明導電酸化物膜がエッチング液に溶解しにくくなったためであると推察される。
【0064】
これに対して、本発明例1−32の酸化物スパッタリングターゲットを用いて透明導電酸化物膜を成膜した積層膜は、シート抵抗が低く、光学特性(透過率もしくは反射率)が高く、耐環境性、耐アルカリ性およびエッチング加工性のいずれにおいても優れていることが確認された。特に、添加元素を本発明の範囲で含む本発明例6−32の酸化物スパッタリングターゲットを用いて透明導電酸化物膜を成膜した積層膜は、耐環境性が向上し、比抵抗が低く導電性に優れていることが確認された。