(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6850982
(24)【登録日】2021年3月11日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】シリコン破砕片の真空乾燥方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/02 20060101AFI20210322BHJP
F26B 5/04 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
C01B33/02 E
F26B5/04
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-233066(P2016-233066)
(22)【出願日】2016年11月30日
(65)【公開番号】特開2018-90427(P2018-90427A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【弁理士】
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】梅原 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 綾太
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和之
(72)【発明者】
【氏名】渥美 徹弥
(72)【発明者】
【氏名】竹末 久幸
【審査官】
廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−127272(JP,A)
【文献】
特開2005−140536(JP,A)
【文献】
特開2016−056066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保持部材に収容して洗浄した後のシリコン破砕片を乾燥室内に収容し、前記乾燥室内を減圧して乾燥することにより前記シリコン破砕片を乾燥する方法において、
前記保持部材が合成樹脂製保持部材であって、
前記乾燥の温度が50℃以下であり、前記乾燥の時間が5時間以上である
ことを特徴とするシリコン破砕片の真空乾燥方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度の多結晶シリコンの破砕片又は塊状片(以下、単にシリコン破砕片という。)を洗浄した後に真空乾燥する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高純度の多結晶シリコンは、チョクラルスキー法(以下、CZ法という。)で製造される単結晶シリコンの原料に使用される場合、坩堝に充填する作業を円滑にするために、通常100mm以下の破砕片に加工される。この多結晶シリコンから単結晶シリコンをCZ法等により製造する場合、不純物の取り込みを極力低く抑える観点から、多結晶シリコンには極めて高い純度が要求される。
【0003】
このため、通常は多結晶シリコンの破砕時や破砕後にその表面に付着した金属などの汚染を除去するために、多結晶シリコンを酸液により洗浄して、金属を含む表面不純物を多結晶シリコンから除去している。この洗浄工程及び洗浄工程以降の乾燥工程では、乾燥した不活性ガス等を流す温風乾燥又は真空乾燥が行われる。温風乾燥ではシリコン表面の水分に熱を与え、気化した水分を排出しているが、シリコン表面に境膜を形成して乾燥効率が低下するという欠点がある。一方、真空乾燥では、シリコン表面に境膜を形成しにくく、平衡蒸気圧が系内圧力を上回る限り水分は気化し続け、真空ポンプにより排出されるが、気相の伝熱性が悪く、気化熱を与える工夫が必要になるという欠点がある。そこで特許文献1には、合成樹脂製の容器に収容した多数のシリコン破砕片が洗浄後、乾燥室内に配置されて、70〜75℃の温度に保持しながら、真空乾燥工程と乾燥した窒素ガスを導入して真空圧力より高いパージ圧力に保持するパージ工程とを交互に繰り返すことにより、上記欠点を克服し、シリコンの乾燥を促進できたことが示されている。シリコンを真空乾燥する場合、シリコン破砕片が新たに金属で汚染されないように、シリコンと金属との接触を避けるために、容器として、非金属製の保持部材が用いられる。
【0004】
上述の多結晶シリコンの高純度化への要求が高まるにつれて、多結晶シリコンの表面に
付着する有機物に起因した炭素汚染が問題となり、熱処理などによってその汚染を除去し、表面炭素濃度を20ppbw未満に低減する方法が開示されている(例えば、特許文献2及び特許文献3参照。)。
【0005】
特許文献2では、多結晶シリコンの表面における炭素による汚染を除去するための改善が提案されている。具体的には、特許文献2には、多結晶シリコン破砕片を酸素を排除した雰囲気中において、不活性ガス(例えば、窒素やアルゴンガス)によるパージを350〜600℃の温度下で、一定時間熱処理を行う方法が示されている。この方法では、熱処理後には、不活性ガスをパージしながらほぼ室温まで冷却することで、例えば接触により表面に付着したポリエチレンやポリプロピレンの除去が実質的に可能とされている。これらのポリエチレンやポリプロピレンなどのいわゆるポリマーは、有機化合物であり、多結晶シリコン製品の表面不純物としては、炭素不純物として扱われるが、酸素を排除した雰囲気での加熱処理により、表面の炭素濃度が低減された多結晶シリコンが得られるとされている。
【0006】
また特許文献3では、特許文献2と同様に多結晶シリコンの表面洗浄化方法として、多結晶シリコンを不活性ガスを流しながら、その雰囲気中で180〜350℃の範囲で熱処理することで、多結晶シリコンの表面に付着した炭素による汚染を低コストで効果的に除去することができるとされている。特許文献3には、このような多結晶シリコン表面の炭素不純物は、金属汚染を防止するために合成樹脂コーティングされた治具や部品、プラスチック製の手袋でシリコン表面を触るなどのシリコンとの接触で生じるおそれがあることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015−127272号公報
【特許文献2】特許第5615946号公報
【特許文献3】特開2016−56066号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】有機汚染物質/アウトガスの発生メカニズムとトラブル対策事例集(株式会社技術情報協会発行)28-29頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に示されるように、シリコン破砕片を合成樹脂製洗浄籠に収容して70〜75℃で真空乾燥する場合、金属汚染を抑制できるが、有機物汚染の低減について考慮されていない。特許文献2及び特許文献3に示されているのはシリコンの表面炭素汚染を除去する方法であり、炭素汚染の原因については、有機ポリマー又はプラスチックとの機械的接触で完全に回避することはできないとしている。
【0010】
本発明の目的は、シリコン破砕片を保持部材に収容して保持部材の耐熱温度未満の温度にて真空乾燥する場合に、乾燥時の保持部材から発生する有機性ガスを低減してシリコン破砕片の表面への炭素による汚染を低減するシリコン破砕片の真空乾燥方法を提供することにある。
【0011】
本発明者らは、炭素汚染源を排除するべく、酸洗浄以降の工程において、多結晶シリコンを破砕した後の有機物の付着する工程を鋭意調査した結果、意外にも、酸洗浄後の水分を蒸発させるために加熱する乾燥工程において保持部材等を構成する樹脂材料からの有機性ガス発生が顕著であることを確認し、ポリエチレン等の合成樹脂製保持部材を用いた場合、真空乾燥中に発生した樹脂添加剤等の有機性ガスがシリコン破砕片表面に付着することが炭素汚染を生じる極めて大きな要因であることを突き止めた。更に、本発明者らは、乾燥工程において樹脂材料からの有害な有機性ガスの発生を抑制することで、シリコン破砕片の表面炭素汚染を低減できることを確認し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の観点は、保持部材に収容して洗浄した後のシリコン破砕片を乾燥室内に収容し、前記乾燥室内を減圧して乾燥することにより前記シリコン破砕片を乾燥する方法において、前記保持部材が合成樹脂製保持部材であって、
上記乾燥
の温度が50℃以下であ
り、上記乾燥の時間が5時間以上であることを特徴とするシリコン破砕片の真空乾燥方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の観点のシリコン破砕片の真空乾燥方法では、保持部材がポリエチレン等の合成樹脂製であっても、乾燥温度を50℃以下に設定することにより、乾燥中に、合成樹脂製保持部材から樹脂添加剤等の有機性ガスの発生を抑えるため、シリコン破砕片の炭素による汚染を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明第1の実施形態の多数のシリコン破砕片を収容した保持部材の斜視図である。
【
図2】本発明第1の実施形態の真空乾燥機の乾燥室の外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1の実施形態>
先ず本発明を実施するための第1の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、保持部材10の中には多数のシリコン破砕片11が収容される。これらのシリコン破砕片11は、シーメンス法等により得られた柱状の多結晶シリコンを破砕して得られ、100mm以下のサイズを有する。この実施の形態で用いるかご状の保持部材10は、上部を開放したポリエチレン製の直方体の箱状容器である。保持部材10の貫通孔10aの形状とサイズは、収容したシリコン破砕片が貫通孔から抜け出ないように、シリコン破砕片の形状とサイズに合わせて任意に設定される。これらのシリコン破砕片11を保持部材10に所定量収容した後、フッ化水素酸と硝酸との混合液のような酸液に保持部材10を浸漬させることで、酸液が貫通孔10aから保持部材内に浸入してシリコン破砕片と接触する。これにより、シリコン破砕片の表面に付着した異物や酸化膜が除去される。
【0022】
この実施形態の特徴ある構成は、純水でシリコン破砕片が洗浄された後の乾燥方法にある。シリコン破砕片が純水で洗浄され、保持部材10内の純水が流下して水切りがなされた後、シリコン破砕片を収容した保持部材10は、
図2に示すように、乾燥機の乾燥室20内に配置される。この実施の形態では、乾燥室20内には複数の棚21が設けられ、それぞれの棚21の上にシリコン破砕片を収容した複数の保持部材10が配置される。乾燥室20には図示しない配管を介して真空ポンプが接続される。また乾燥室20の周囲に温水浴が設けられ、乾燥室内を周囲から加熱することができるようになっている。
【0023】
第1の実施形態のシリコン破砕片の真空乾燥方法では、ポリエチレン製の保持部材10に収容されたシリコン破砕片11が、上述したように、保持部材10内の純水の水切りを行った後、乾燥室20の棚21の上に配置される。乾燥室20を密閉状態にした後、温水浴を作動させ、50℃に維持する。乾燥機の真空ポンプを作動させ、乾燥室20内の圧力を減圧し、この圧力で一定時間保持する。到達圧力としては、水の平衡蒸気圧以下であることが必要で、50℃では10kPa以下が好ましい。ただし、1kPa程度の残圧がある方が、熱伝導に寄与して望ましい場合がある。また保持時間は5時間以上
である。この保持時間は、乾燥室内真空圧力及び温度に依存する。
【0024】
乾燥室内の温度を50℃以下にするのは、ポリエチレン製保持部材から発生する樹脂添加剤等の有機性ガス量を減少させるためである。一般論として、樹脂材料からのガス発生量Vと温度T(絶対温度)には、logV=−C1/T+C2(C1、C2は材料固有の係数)という相関があるとされており、非特許文献1によれば、50℃でのガスの発生量は70℃の1/10程度まで低減できると考えられる。好ましい乾燥室内の乾燥温度は30℃以上50℃以下である。好ましい乾燥温度の下限値を30℃にするのは、乾燥速度はおよそ水の平衡蒸気圧に比例すると考えられ、30℃では50℃の1/3となり、これ以上温度を低下させた場合に乾燥に要する時間が実用的とは言えなくなるためである。ただし、炭素汚染低減という観点からは、温度は低い方が望ましく、30℃以下で乾燥した場合に本発明の効果が得られなくなるわけではない。
【0025】
<第2の実施形態>
次に本発明を実施するための第2の実施形態のシリコン破砕片の真空乾燥方法について説明する。この実施の形態のシリコン破砕片の乾燥方法では、石英製保持部材又は保持部材表面をシリカコーティングした合成樹脂製かごを保持部材に用いる。これは、有機性ガスを発生する表面をなくすためであり、石英製部材を用いた場合には加熱温度によらず有機性ガスの発生は原理的には全く生じない。しかしながら、石英は樹脂と比較して高価な材質である上に、脆性材料であり取り扱いに多大な注意が必要になる。シリカコーティングは、現実的には完全に樹脂表面を覆い切ることは難しく、有機性ガスの多少の透過性も残ることから、石英部材を用いる場合よりは汚染防止の効果は落ちるが、簡便で実用的である。シリカコーティングされる合成樹脂は特に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート等が例示される。シリカコーティングの手法としては、溶射などが知られているが、樹脂材料へのシリカ溶射は困難であり、実用的にはポリシラザンを使用したコーティングが有用である。
【0026】
第2の実施形態のシリコン破砕片の真空乾燥方法では、石英製保持部材又は保持部材表面をシリカコーティングした合成樹脂製保持部材に収容されたシリコン破砕片が、第1の実施形態と同様に、乾燥室内に配置され、乾燥室を密閉状態にして、真空乾燥される。樹脂材料にシリカコーティングした場合には、乾燥室内の温度を樹脂の耐熱温度より低い温度に保持する。それ以外は第1の実施形態と同様にシリコン破砕片を真空乾燥する。上記条件により、乾燥室内を減圧状態にすると、第1の実施形態で述べたように、シリコン破砕片表面に付着した水分が蒸発しやすくなる。これにより、シリコン破砕片から十分に水分を除去できるとともに、保持部材からの樹脂添加剤等の有機性ガスの発生がなく、シリコン破砕片の表面への汚染をより一層低減することができる。
【0027】
<第3の実施形態>
次に本発明を実施するための第3の実施形態のシリコン破砕片の真空乾燥方法について説明する。この実施の形態のシリコン破砕片の乾燥方法では、ポリプロピレン、ポリカーボネート、シリコーン合成樹脂、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、PEEK、PTFE、PFA、FEP及びPVDFからなる群より選ばれた1種又は2種以上の合成樹脂からなる保持部材を用いる。そしてシリコン破砕片の乾燥温度を樹脂の種類に応じて適切に定めるが、例えばポリプロピレンでは70℃以下が望ましい。それ以外は、第1の実施形態と同様にシリコン破砕片を真空乾燥する。
【0028】
第3の実施形態のシリコン破砕片の真空乾燥方法では、ポリプロピレン、ポリカーボネート、シリコーン合成樹脂、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、PEEK、PTFE、PFA、FEP及びPVDFからなる群より選ばれた1種又は2種以上の合成樹脂からなる保持部材に収容されたシリコン破砕片が、第1の実施形態と同様に、乾燥室内に配置され、乾燥室を密閉状態にして、真空乾燥される。第3の実施形態では、乾燥室内の温度を樹脂の種類に応じて適切な温度以下に保持する。それ以外は第1の実施形態と同様にシリコン破砕片を真空乾燥する。上記条件により、乾燥室内を減圧状態にすると、第1の実施形態で述べたように、シリコン破砕片表面に付着した水分が蒸発しやすくなる。これにより、シリコン破砕片表面から十分に水分を除去できるとともに、保持部材からの樹脂添加剤等の有機性ガスの発生を抑制し、シリコン破砕片の表面への汚染をより一層低減することができる。
【0029】
<第4の実施形態>
第1の実施の形態及び第3の実施の形態において、合成樹脂製保持部材を乾燥温度以上の温度であって、前記合成樹脂製保持部材の耐熱温度未満の温度で、予めベーキング処理することが好ましい。ここで「耐熱温度」とは、樹脂の物理的性状を保持できる上限の温度(例えば樹脂材料に軟化・変形が生じる温度、或いは樹脂材料に熱分解が生じる温度等)である。具体的には、耐熱温度とは、物理的耐熱性の観点では軟化温度やガラス転移点等の温度であり、化学的耐熱性の観点では、加熱時の重量減少等が生じる温度である。ベーキング処理の方法としては、第1、第2、第3の実施の形態と同様の乾燥室内に合成樹脂製保持部材をシリコン破砕片を収容しない状態で設置し、窒素等不活性ガス雰囲気下で乾燥室内の温度を設置している合成樹脂の耐熱温度未満に保持しながら、10分以上保持する。ベーキング処理した保持部材にシリコン破砕片が収容されるのは、シリコンの破砕後、洗浄工程の前であることが好ましい。このようなベーキング処理をすることにより、真空乾燥中に発生する樹脂添加剤等の有機性ガスの発生を更に抑制し、シリコン破砕片の炭素による汚染をより一層低減することができる。
【実施例】
【0030】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0031】
<比較例1>
保持部材として底面がたて20cm、よこ20cmで高さが25cmのポリエチレン製のカゴ(すべての側板部と底板部に縦方向5mm、横方向5mmの角孔の貫通孔が格子状に配列される)を用意し、長辺の長さが10〜30mmの高純度シリコン破砕片を約5kg投入し、フッ酸、硝酸によるエッチングと純水による洗浄を行った後に内寸約30cm角のSUS304製の真空乾燥機にて乾燥を行った。乾燥温度は、この真空乾燥機自体を温水に浸漬し、温水の温度を調整することで調整した。真空度はおよそ1kPaまで到達するが、1kPa程度で保持した場合、伝熱性が悪く乾燥が進まないため、1時間毎に窒素ガスを投入して約25kPaで30分間保持することで、内部のシリコン破砕片まで熱が伝わるようにした。温水温度を70℃に設定し、5.5時間後に乾燥機から取り出すと、シリコン破砕片は十分に乾燥された状態であった。
【0032】
<実施例1>
温水温度を50℃に設定し、比較例1と同様に乾燥を行った。5.5時間乾燥を行ったところ、乾燥が不十分であり、10時間後に乾燥機から取り出すと、シリコン破砕片は十分に乾燥された状態であった。
【0033】
<実施例2>
温水温度を30℃に設定し、実施例1と同様に10時間乾燥を行ったところ、乾燥が不十分であり、15.5時間後に乾燥機から取り出すと、シリコン破砕片は十分に乾燥された状態であった。
【0034】
上記比較例1、実施例1、2で乾燥されたシリコン破砕片を試料として、300℃に加熱燃焼させ、この燃焼により発生するCO及びCO
2についてIR(Infrared spectroscopic analysis)測定を行って試料に含まれる炭素濃度を分析した。表1に示すように、実施例1、2で得られた試料は、比較例1で得られた試料に対して、表面炭素濃度が大幅に低下していることを確認できた。
【0035】
【表1】
【0036】
<比較例2、実施例3〜9>
次に、ポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン樹脂、ポリカーボネート、ETFE、PEEK、PTFE、市販のポリシラザンコーティング剤にてシリカコーティングしたシリカコートポリエチレンを材質とする8種類の板(寸法20cm×20cm×2mm)を用意した。ポリエチレンの板を比較例2とし、ポリプロピレンの板を実施例3とし、シリコーン合成樹脂の板を実施例4とし、ポリカーボネートの板を実施例5とし、ETFEの板を実施例6とし、PEEKの板を実施例7とし、PTFEの板を実施例8とし、シリカコートポリエチレンの板を実施例9とした。
【0037】
これら8種類の板の上に、目開き7mmと3mmの篩で分級し、それらの中間から回収して水洗したシリコン破砕片を濡れたままの状態で、それぞれ約10gずつ載せて、それぞれ異なる真空乾燥機に投入した。70℃の温水に全ての真空乾燥機を浸漬させて2時間真空引き(到達圧力約1kPa)したところ、水分は無くなっていた。得られたシリコン破砕片を上記実施例1、2、比較例1と同じ方法で1回目の分析試験を行った。
【0038】
続いて、8種類の板をそのまま使用して、1回目の分析試験で使用したシリコン破砕片と同一ロットから新たに採取したシリコン破砕片を、8種類の板の上にそれぞれ載せて、上記と同じ分析試験を2回実施した(2回目及び3回目の試験を実施した)。その後、ポリエチレン、シリカコートポリエチレン以外の6種類の板を、シリコン破砕片を載せない状態でまとめて、同じ真空乾燥機を用いて80℃の温水に浸漬させて1時間窒素ガス雰囲気にて真空引きせずに保持することで、ベーキング処理を行った。続いて、ポリエチレン、シリカコートポリエチレン以外の6種類の板の上に、上記と同じく目開き7mmと3mmの篩で回収して水洗したシリコン破砕片を約10gずつ載せて、それぞれ異なる真空乾燥機に投入し、70℃の温水に真空乾燥機を浸漬させて2時間真空引きし、得られたシリコン破砕片の4回目の分析試験を行った。
【0039】
上記2回目、3回目及び4回目の試験の結果、表2に示すように材質によって表面炭素量の相違が確認された。比較例2、実施例3〜9に示す試験で用いたシリコン破砕片は実施例1、2、比較例1に示す試験で用いたシリコン破砕片に比べ、長辺が短いため、比表面積が大きく、表面炭素濃度が高めであった。表2に示す結果より、ポリエチレンとその他の材質を板として用いた場合の差異がはっきりと確認できた。1回目の試験では、PTFE、シリカコートポリエチレン以外について、樹脂添加剤等有機物が残留していたため、ポリエチレンとの表面炭素濃度の差異が小さかったが、2回目以降回数を重ねるごとに表面炭素濃度が低下していき、3回目の試験で表面炭素濃度の高かったポリプロピレン、シリコーン合成樹脂、PEEKについて、4回目の試験で表面炭素濃度が大きく低減した。なお、上記材質を2種類以上組み合わせたものを用いた場合も同様の効果が得られる。
【0040】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のシリコン破砕片の真空乾燥方法は、CZ法で製造される単結晶シリコンの原料である高純度の多結晶シリコン破砕片を洗浄後、乾燥するのに利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
10 保持部材
11 シリコン破砕片
20 乾燥室
21 棚