(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記接合界面に沿った単位長さにおいて、長手方向長さが100nm以上の前記Mg−N化合物相の個数密度が8個/μm以上とされていることを特徴とする請求項1に記載の銅/セラミックス接合体。
前記接合界面に沿った単位長さにおいて、長手方向長さが100nm以上の前記Mg−N化合物相の個数密度が8個/μm以上とされていることを特徴とする請求項4に記載の絶縁回路基板。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述の絶縁回路基板の回路層においては、端子材等が超音波接合されることがある。
ここで、特許文献1、2に記載された絶縁回路基板においては、端子材等を接合するために超音波を負荷させた際に、接合界面にクラックが発生し、回路層が剥離してしまうおそれがあった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、超音波接合を行った場合であっても、セラミックス部材と銅部材との剥離や、セラミックス部材でのクラックの発生を抑制することが可能な銅/セラミックス接合体、絶縁回路基板、及び、銅/セラミックス接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の課題を解決するために、本発明の銅/セラミックス接合体は、銅又は銅合金からなる銅部材と、窒化ケイ素からなるセラミックス部材とが接合されてなる銅/セラミックス接合体であって、前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面においては、前記セラミックス部材側から前記銅部材側に向けて延在するMg−N化合物相が存在しており、前記Mg−N化合物相の少なくとも一部が前記銅部材に入り込んでいることを特徴としている。
【0009】
本発明の銅/セラミックス接合体によれば、前記銅部材と前記セラミックス部材との接合界面に、前記セラミックス部材側から前記銅部材側に向けて延在するMg−N化合物相が存在しており、前記Mg−N化合物相の少なくとも一部が前記銅部材に入り込んでいるので、接合材としてのMgとセラミックス部材の窒素とが十分に反応しており、銅部材とセラミックス部材とが強固に接合されている。そして、前記銅部材に入り込んだMg−N化合物相のアンカー効果により、超音波を負荷させた場合であっても、セラミックス部材と銅部材との剥離や、セラミックス部材でのクラックの発生を抑制することが可能となる。
【0010】
ここで、本発明の銅/セラミックス接合体においては、前記接合界面に沿った単位長さにおいて、長手方向長さが100nm以上の前記Mg−N化合物相の個数密度が8個/μm以上とされていることが好ましい。
この場合、前記セラミックス部材側から前記銅部材側に向けて十分に成長したMg−N化合物相の個数が確保され、前記銅部材に入り込んだMg−N化合物相のアンカー効果を確実に得ることができ、超音波を負荷させた場合であっても、セラミックス部材と銅部材との剥離や、セラミックス部材でのクラックの発生をさらに抑制することが可能となる。
【0011】
また、本発明の銅/セラミックス接合体においては、前記Mg−N化合物相におけるSi濃度が25原子%以下であることが好ましい。
この場合、前記Mg−N化合物相内にSi単相が局所的に析出することが抑制され、前記Mg−N化合物相の強度が十分に確保されることになり、前記銅部材に入り込んだMg−N化合物相のアンカー効果を確実に得ることができ、超音波を負荷させた場合であっても、セラミックス部材と銅部材との剥離や、セラミックス部材でのクラックの発生をさらに抑制することが可能となる。
【0012】
本発明の絶縁回路基板は、窒化ケイ素からなるセラミックス基板の表面に、銅又は銅合金からなる銅板が接合されてなる絶縁回路基板であって、前記銅板と前記セラミックス基板との接合界面においては、前記セラミックス基板側から前記銅板側に向けて延在するMg−N化合物相が存在しており、前記Mg−N化合物相の少なくとも一部が前記銅板に入り込んでいることを特徴としている。
【0013】
本発明の絶縁回路基板によれば、前記銅板と前記セラミックス基板との接合界面に、前記セラミックス基板側から前記銅板側に向けて延在するMg−N化合物相が存在しており、前記Mg−N化合物相の少なくとも一部が前記銅板に入り込んでいるので、接合材としてのMgとセラミックス基板の窒素とが十分に反応しており、銅板とセラミックス基板とが強固に接合されている。そして、前記銅板に入り込んだMg−N化合物相のアンカー効果により、超音波を負荷させた場合であっても、セラミックス基板と銅板との剥離や、セラミックス部材でのクラックの発生を抑制することが可能となる。
【0014】
ここで、本発明の絶縁回路基板においては、前記接合界面に沿った単位長さにおいて、長手方向長さが100nm以上の前記Mg−N化合物相の個数密度が8個/μm以上とされていることが好ましい。
この場合、前記セラミックス基板側から前記銅板側に向けて十分に成長したMg−N化合物相の個数が確保され、前記銅板に入り込んだMg−N化合物相のアンカー効果を確実に得ることができ、超音波を負荷させた場合であっても、セラミックス基板と銅板との剥離や、セラミックス基板でのクラックの発生をさらに抑制することが可能となる。
【0015】
また、本発明の絶縁回路基板においては、前記Mg−N化合物相におけるSi濃度が25原子%以下であることが好ましい。
この場合、前記Mg−N化合物相内にSi単相が局所的に析出することが抑制され、前記Mg−N化合物相の強度が十分に確保されることになり、前記銅板に入り込んだMg−N化合物相のアンカー効果を確実に得ることができ、超音波を負荷させた場合であっても、セラミックス基板と銅板との剥離や、セラミックス基板でのクラックの発生をさらに抑制することが可能となる。
【0016】
本発明の銅/セラミックス接合体の製造方法は、上述の銅/セラミックス接合体を製造する銅/セラミックス接合体の製造方法であって、前記銅部材と前記セラミックス部材との間に、Mgを配置するMg配置工程と、前記銅部材と前記セラミックス部材とをMgを介して積層する積層工程と、Mgを介して積層された前記銅部材と前記セラミックス部材とを積層方向に加圧した状態で、真空雰囲気下において加熱処理して接合する接合工程と、を備えており、前記Mg配置工程では、Mg量を0.34mg/cm
2以上4.35mg/cm
2以下の範囲内とし、前記接合工程では、480℃以上650℃未満の温度領域における昇温速度が5℃/min以上とされるとともに、650℃以上の温度で30min以上保持することを特徴としている。
【0017】
この構成の銅/セラミックス接合体の製造方法によれば、前記Mg配置工程では、Mg量を0.34mg/cm
2以上4.35mg/cm
2以下の範囲内とされているので、界面反応に必要なCu−Mg液相を十分に得ることができる。よって、銅部材とセラミックス部材とを確実に接合することができる。
そして、接合工程において、480℃以上650℃未満の温度領域における昇温速度を5℃/min以上とし、650℃以上の温度で30min以上保持する構成とされているので、界面反応に必要なCu−Mg液相を一定時間以上保持することができ、均一な界面反応を促進し、前記セラミックス部材側から前記銅部材側に向けて延在するMg−N化合物相を確実に形成することが可能となる。
【0018】
本発明の絶縁回路基板の製造方法は、上述の絶縁回路基板を製造する絶縁回路基板の製造方法であって、前記銅板と前記セラミックス基板との間に、Mgを配置するMg配置工程と、前記銅板と前記セラミックス基板とをMgを介して積層する積層工程と、Mgを介して積層された前記銅板と前記セラミックス基板とを積層方向に加圧した状態で、真空雰囲気下において加熱処理して接合する接合工程と、を備えており、前記Mg配置工程では、Mg量を0.34mg/cm
2以上4.35mg/cm
2以下の範囲内とし、前記接合工程では、480℃以上650℃未満の温度領域における昇温速度が5℃/min以上とされるとともに、650℃以上の温度で30min以上保持することを特徴としている。
【0019】
この構成の絶縁回路基板の製造方法によれば、前記Mg配置工程では、Mg量を0.34mg/cm
2以上4.35mg/cm
2以下の範囲内とされているので、界面反応に必要なCu−Mg液相を十分に得ることができる。よって、銅板とセラミックス基板とを確実に接合することができる。
そして、接合工程において、480℃以上650℃未満の温度領域における昇温速度を5℃/min以上とし、650℃以上の温度で30min以上保持する構成とされているので、界面反応に必要なCu−Mg液相を一定時間以上保持することができ、均一な界面反応を促進し、前記セラミックス基板側から前記銅板側に向けて延在するMg−N化合物相を確実に形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、超音波接合を行った場合であっても、セラミックス部材と銅部材との剥離や、セラミックス部材でのクラックの発生を抑制することが可能な銅/セラミックス接合体、絶縁回路基板、及び、銅/セラミックス接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
本実施形態に係る銅/セラミックス接合体は、セラミックスからなるセラミックス部材としてのセラミックス基板11と、銅又は銅合金からなる銅部材としての銅板22(回路層12)及び銅板23(金属層13)とが接合されてなる絶縁回路基板10である。
図1に、本実施形態である絶縁回路基板10を備えたパワーモジュール1を示す。
【0023】
このパワーモジュール1は、回路層12及び金属層13が配設された絶縁回路基板10と、回路層12の一方の面(
図1において上面)に接合層2を介して接合された半導体素子3と、金属層13の他方側(
図1において下側)に配置されたヒートシンク30と、を備えている。
【0024】
半導体素子3は、Si等の半導体材料で構成されている。この半導体素子3と回路層12は、接合層2を介して接合されている。
接合層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材で構成されている。
【0025】
ヒートシンク30は、前述の絶縁回路基板10からの熱を放散するためのものである。このヒートシンク30は、銅又は銅合金で構成されており、本実施形態ではりん脱酸銅で構成されている。このヒートシンク30には、冷却用の流体が流れるための流路31が設けられている。
なお、本実施形態においては、ヒートシンク30と金属層13とが、はんだ材からなるはんだ層32によって接合されている。このはんだ層32は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材で構成されている。
【0026】
そして、本実施形態である絶縁回路基板10は、
図1に示すように、セラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図1において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(
図1において下面)に配設された金属層13と、を備えている。
【0027】
セラミックス基板11は、絶縁性および放熱性に優れた窒化ケイ素(Si
3N
4)で構成されている。このセラミックス基板11の厚さは、例えば、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.32mmに設定されている。
【0028】
回路層12は、
図4に示すように、セラミックス基板11の一方の面(
図4において上面)に、銅又は銅合金からなる銅板22が接合されることにより形成されている。
本実施形態においては、回路層12は、無酸素銅の圧延板からなる銅板22がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
なお、回路層12となる銅板22の厚さは0.1mm以上2.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。回路層12となる銅板22と して、タフピッチ銅を用いることもできる。
【0029】
金属層13は、
図4に示すように、セラミックス基板11の他方の面(
図4において下面)に、銅又は銅合金からなる銅板23が接合されることにより形成されている。
本実施形態においては、金属層13は、無酸素銅の圧延板からなる銅板23がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
なお、金属層13となる銅板23の厚さは0.1mm以上2.0mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。金属層13となる銅板23として 、タフピッチ銅を用いることもできる。
【0030】
そして、セラミックス基板11と回路層12(金属層13)との接合界面においては、
図2(a)に示すように、セラミックス基板11側から回路層12(金属層13)側に向けて延在するMg−N化合物相41が存在している。このMg−N化合物相41は、その少なくとも一部が、回路層12(金属層13)に入り込んでいる。なお、このMg−N化合物相41は、接合材として用いられるマグネシウム(Mg)とセラミックス基板11に含まれる窒素(N)とが反応することによって形成されたものである。Mg−N化合物相41は、MgとNが共存する領域であって、Mg,N,Siの合計を100原子%として、Mgの濃度が40原子%以上65原子%以下であり、かつ、当該領域のアスペクト比(長手方向長さ/短手方向長さ)が1.2以上である領域であってもよい。
【0031】
ここで、本実施形態においては、接合界面に沿った単位長さにおいて、長手方向長さが100nm以上のMg−N化合物相41の個数密度が8個/μm以上とされていることが好ましい。
図2(a)における補助線Lが接合界面を示している。本実施形態では、酸素の検出位置を接合界面とした(
図2(b)参照)。
なお、長手方向長さが100nm以上のMg−N化合物相41の個数密度は10個/μm以上であることが好ましく、12個/μm以上であることがさらに好ましい。
【0032】
以下に、本実施形態に係る絶縁回路基板10の製造方法について、
図3及び
図4を参照して説明する。
【0033】
(Mg配置工程S01)
まず、窒化ケイ素(Si
3N
4)からなるセラミックス基板11を準備し、
図4に示すように、回路層12となる銅板22とセラミックス基板11との間、及び、金属層13となる銅板23とセラミックス基板11との間に、それぞれMgを配置する。
本実施形態では、回路層12となる銅板22とセラミックス基板11との間、及び、金属層13となる銅板23とセラミックス基板11との間に、Mg箔25を配設している。
ここで、Mg配置工程S01では、配置するMg量を0.34mg/cm
2以上4.35mg/cm
2以下の範囲内とする。
なお、配置するMg量は0.52mg/cm
2以上とすることが好ましく、0.69mg/cm
2以上とすることがさらに好ましい。一方、配置するMg量は3.48mg/cm
2以下とすることが好ましく、2.61mg/cm
2以下とすることがさらに好ましい。
【0034】
(積層工程S02)
次に、銅板22とセラミックス基板11を、Mg箔25を介して積層するとともに、セラミックス基板11と銅板23を、Mg箔25を介して積層する。
【0035】
(接合工程S03)
次に、積層された銅板22、Mg箔25、セラミックス基板11、Mg箔25、銅板23を、積層方向に加圧するとともに、真空炉内に装入して加熱し、銅板22とセラミックス基板11と銅板23を接合する。
ここで、接合工程S03における熱処理条件は、480℃以上650℃未満の温度領域における昇温速度を5℃/min以上とするとともに、650℃以上の温度で30min以上保持する。このように熱処理条件を規定することにより、Cu−Mg液相を高温状態で維持することが可能となり、界面反応が促進され、Mg−N化合物相41が形成されることになる。
【0036】
なお、480℃以上650℃未満の温度領域における昇温速度の下限は7℃/min以上とすることが好ましく、9℃/min以上とすることがさらに好ましい。一方、480℃以上650℃未満の温度領域における昇温速度の上限に特に制限はないが、15℃/min以下とすることが好ましく、12℃/min以下とすることがさらに好ましい。
また、保持温度は700℃以上とすることが好ましく、750℃以上とすることがさらに好ましい。一方、保持温度としては、850℃以下とすることが好ましく、830℃以下とすることがさらに好ましい。
さらに、保持時間は45min以上とすることが好ましく、60min以上とすることがさらに好ましい。一方、保持時間としては、180min以下とすることが好ましく、150min以下とすることがさらに好ましい。
【0037】
なお、接合工程S03における加圧荷重は、0.049MPa以上3.4MPa以下の範囲内とすることが好ましい。
さらに、接合工程S03における真空度は、1×10
−6Pa以上5×10
−2Pa以下の範囲内とすることが好ましい。
【0038】
以上のように、Mg配置工程S01と、積層工程S02と、接合工程S03とによって、本実施形態である絶縁回路基板10が製造されることになる。
【0039】
(ヒートシンク接合工程S04)
次に、絶縁回路基板10の金属層13の他方の面側にヒートシンク30を接合する。
絶縁回路基板10とヒートシンク30とを、はんだ材を介して積層して加熱炉に装入し、はんだ層32を介して絶縁回路基板10とヒートシンク30とをはんだ接合する。
【0040】
(半導体素子接合工程S05)
次に、絶縁回路基板10の回路層12の一方の面に、半導体素子3をはんだ付けにより接合する。
上述の工程により、
図1に示すパワーモジュール1が製出される。
【0041】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)によれば、回路層12(及び金属層13)とセラミックス基板11との接合界面に、セラミックス基板11側から回路層12(及び金属層13)側に向けて延在するMg−N化合物相41が存在しており、このMg−N化合物相41の少なくとも一部が回路層12(及び金属層13)に入り込んでいるので、接合材としてのMgとセラミックス基板11の窒素とが十分に反応しており、回路層12(及び金属層13)とセラミックス基板11とが強固に接合されている。そして、回路層12(及び金属層13)に入り込んだMg−N化合物相41のアンカー効果により、例えば、銅などの端子材等を回路層12(金属層13)へ超音波接合するために、絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)に、超音波を負荷させた場合であっても、回路層12(金属層13)とセラミックス基板11の剥離や、セラミックス基板11でのクラックの発生を抑制することができる。
【0042】
また、本実施形態の絶縁回路基板10において、接合界面に沿った単位長さにおける長手方向長さが100nm以上のMg−N化合物相41の個数密度が8個/μm以上とされている場合には、セラミックス基板11側から回路層12(及び金属層13)側に向けて十分に成長したMg−N化合物相41の個数が確保され、回路層12(及び金属層13)に入り込んだMg−N化合物相41のアンカー効果を確実に得ることができ、超音波を負荷させた場合であっても、セラミックス基板11と回路層12(及び金属層13)との剥離や、セラミックス基板11でのクラックの発生をさらに抑制することが可能となる。
【0043】
また、本実施形態の絶縁回路基板10において、前記Mg−N化合物相41におけるSi濃度が25原子%以下であることが好ましい。Si濃度は、例えば、9.7原子%以上とすることができる。
この場合、Mg−N化合物相41内にSi単相が局所的に析出することが抑制され、Mg−N化合物相41の強度が十分に確保されることになり、回路層12(及び/又は金属層13)に入り込んだMg−N化合物相41のアンカー効果を確実に得ることができ、超音波を負荷させた場合であっても、セラミックス基板と銅板との剥離や、セラミックス基板でのクラックの発生をさらに抑制することが可能となる。
【0044】
本実施形態の絶縁回路基板10(銅/セラミックス接合体)の製造方法によれば、Mg配置工程S01において、銅板22(銅板23)とセラミックス基板11との間に配置するMg量を0.34mg/cm
2以上4.35mg/cm
2以下の範囲内としているので、界面反応に必要なCu−Mg液相を十分に得ることができる。よって、銅板22(銅板23)とセラミックス基板11とを確実に接合することができ、回路層12(及び金属層13)とセラミックス基板11との接合強度を確保することができる。
【0045】
そして、接合工程S03において、480℃以上650℃未満の温度領域における昇温速度を5℃/min以上とし、650℃以上の温度で30min以上保持する構成とされているので、銅板22(銅板23)とセラミックス基板11との間に、界面反応に必要なCu−Mg液相を一定時間以上保持することができ、均一な界面反応を促進させ、回路層12(及び金属層13)とセラミックス基板11との接合界面にMg−N化合物相41を確実に形成することが可能となる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、絶縁回路基板に半導体素子を搭載してパワーモジュールを構成するものとして説明したが、これに限定されることはない。例えば、絶縁回路基板の回路層にLED素子を搭載してLEDモジュールを構成してもよいし、絶縁回路基板の回路層に熱電素子を搭載して熱電モジュールを構成してもよい。
【0047】
また、本実施形態の絶縁回路基板では、回路層と金属層がともに銅又は銅合金からなる銅板によって構成されたものとして説明したが、これに限定されることはない。
例えば、回路層とセラミックス基板とが本発明の銅/セラミックス接合体で構成されていれば、金属層の材質や接合方法に限定はなく、金属層がなくてもよいし、金属層がアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されていてもよく、銅とアルミニウムの積層体で構成されていてもよい。
一方、金属層とセラミックス基板とが本発明の銅/セラミックス接合体で構成されていれば、回路層の材質や接合方法に限定はなく、回路層がアルミニウム又はアルミニウム合金で構成されていてもよく、銅とアルミニウムの積層体で構成されていてもよい。
【0048】
さらに、本実施形態では、Mg配置工程において、銅板とセラミックス基板との間に、Mg箔を積層する構成として説明したが、これに限定されることはなく、セラミックス基板及び銅板の接合面に、Mgからなる薄膜を、スパッタ法や蒸着法等によって成膜してもよい。また、MgまたはMgH
2を用いたペーストを塗布してもよい。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0050】
(実施例1)
まず、窒化ケイ素(Si
3N
4)からなるセラミックス基板からなるセラミックス基板(40mm×40mm×0.32mm)を準備した。
このセラミックス基板の両面に、無酸素銅からなる銅板(37mm×37mm×厚さ0.5mm)を、表1に示す条件で銅板とセラミックス基板とを接合し、本発明例1〜9、比較例1の絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)を得た。なお、接合時の真空炉の真空度は2×10
−3Paとした。
【0051】
得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)について、接合界面におけるMg−N化合物相の有無、長手方向長さが100nm以上のMg−N化合物相の個数密度、初期接合率、超音波接合の評価について、以下のようにして評価した。
【0052】
(Mg−N化合物相)
得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)の中央部から観察試料を採取し、銅板とセラミックス基板との接合界面を、透過型電子顕微鏡(FEI社製Titan ChemiSTEM)を用いて加速電圧200kV、倍率2万倍で、2μm×2μmの範囲を観察し、MgとNが共存する領域が存在し、その領域において、Mg,N,Siの合計を100原子%として、Mgの濃度が40原子%以上65原子%以下であり、かつ、当該領域のアスペクト比(長手方向長さ/短手方向長さ)が1.2以上であった場合を、Mg−N化合物相が「有」と判断した。
また、同様の測定視野で接合界面に沿った単位長さにおいて、長手方向長さが100nm以上のMg−N化合物相の個数密度を算出した。長手方向長さが100nm以上のMg−N化合物相の個数密度の測定では、酸素の検出位置を銅板とセラミックス基板との接合界面とした。個数密度は、以下の式から算出した。
(個数密度)=(測定視野における長手方向長さが100nm以上のMg−N化合物相の総数)/(測定視野における接合界面の長さ)
なお、測定視野の境界部に存在して全体が把握できないMg−N化合物相は個数として除外している。5視野で個数密度の測定を行い、その平均値を表に示した。
【0053】
(初期接合率)
銅板とセラミックス基板との接合率を評価した。具体的には、絶縁回路基板において、銅板とセラミックス基板との界面の接合率について超音波探傷装置(株式会社日立パワーソリューションズ製FineSAT200)を用いて評価し、以下の式から算出した。ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、すなわち回路層の面積とした。超音波探傷像を二値化処理した画像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。
(接合率)={(初期接合面積)−(非接合部面積)}/(初期接合面積)×100
【0054】
(超音波接合の評価)
得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)に対して、超音波金属接合機(超音波工業株式会社製:60C−904)を用いて、銅端子(10mm×5mm×1mm厚)をコプラス量0.3mmの条件で超音波接合した。なお、銅端子はそれぞれ10個ずつ接合した。
接合後に、超音波探傷装置(株式会社日立ソリューションズ製FineSAT200)を用いて、銅板とセラミックス基板の接合界面を検査した。10個中3個以上で銅板とセラミックス基板との剥離又はセラミックス割れが観察されたものを「×」、10個中1個以上2個以下で銅板とセラミックス基板との剥離又はセラミックス割れが観察されたものを「△」、10個全てで銅板とセラミックス基板との剥離又はセラミックス割れが観察されなかったものを「〇」と評価した。評価結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
480℃以上650℃未満の温度領域における昇温速度が2℃/minとされた比較例においては、接合界面にMg−N化合物相が形成されなかった。このため、初期接合率が低くなった。また、超音波接合を実施した際に、銅板とセラミックス基板との剥離又はセラミックス割れが多く認められた。
【0057】
これに対して、接合界面にMg−N化合物相が形成された本発明例1−9においては、初期接合率が高く、セラミックス基板と銅板とを強固に接合することができた。そして、超音波接合を実施した際に、銅板とセラミックス基板との剥離又はセラミックス割れの発生が少なかった。
【0058】
(実施例2)
上述の実施例1と同様に、窒化ケイ素(Si
3N
4)からなるセラミックス基板からなるセラミックス基板(40mm×40mm×0.32mm)を準備した。
このセラミックス基板の両面に、無酸素銅からなる銅板(37mm×37mm×厚さ0.5mm)を、表2に示す条件で銅板とセラミックス基板とを接合し、本発明例11〜19の絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)を得た。なお、接合時の真空炉の真空度は2×10
−3Paとした。
【0059】
得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)について、接合界面におけるMg−N化合物相の有無、長手方向長さが100nm以上のMg−N化合物相の個数密度、初期接合率について、実施例1と同様に評価した。さらに、Mg−N化合物相におけるSi濃度、不良個数について、以下のように評価した。
【0060】
(Mg−N化合物相のSi濃度)
得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)の中央部から観察試料を採取し、銅板とセラミックス基板との接合界面を、透過型電子顕微鏡(FEI社製Titan ChemiSTEM)を用いて加速電圧200kV、倍率2万倍で、2μm×2μmの範囲を観察し、MgとNが共存する領域が存在し、その領域において、Mg,N,Siの合計を100原子%として、Si濃度を測定した。5視野でSi濃度の測定を行い、その平均値を表2に示した。
【0061】
(不良個数)
得られた絶縁回路基板(銅/セラミックス接合体)に対して、超音波金属接合機(超音波工業株式会社製:60C−904)を用いて、銅端子(10mm×5mm×1.5mm厚)をコプラス量0.5mmの条件で超音波接合した。なお、銅端子はそれぞれ10個ずつ接合した。
接合後に、超音波探傷装置(株式会社日立ソリューションズ製FineSAT200)を用いて、銅板とセラミックス基板の接合界面を検査し、銅板とセラミックス基板との剥離又はセラミックス割れが観察されたものを「不良」とし、その個数を表2に示した。
【0062】
【表2】
【0063】
Mg−N化合物相におけるSi濃度が25原子%以下とされた本発明例11−18は、Mg−N化合物相におけるSi濃度が25原子%を超える本発明例19よりも、超音波接合時の不良個数が少なくなった。Si単相が局所的に析出することが抑制され、Mg−N化合物相の強度が確保されたためと推測される。
【0064】
以上の結果、本発明例によれば、超音波接合を行った場合であっても、セラミックス部材と銅部材との剥離や、セラミックス部材でのクラックの発生を抑制することが可能な銅/セラミックス接合体、絶縁回路基板、及び、銅/セラミックス接合体の製造方法、絶縁回路基板の製造方法を提供可能であることが確認された。