(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6850987
(24)【登録日】2021年3月11日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】銀めっき被覆ステンレス鋼材
(51)【国際特許分類】
C25D 5/12 20060101AFI20210322BHJP
C25D 5/26 20060101ALI20210322BHJP
C25D 7/00 20060101ALN20210322BHJP
C25D 7/04 20060101ALN20210322BHJP
【FI】
C25D5/12
C25D5/26 Q
!C25D7/00 X
!C25D7/00 G
!C25D7/04
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-221486(P2016-221486)
(22)【出願日】2016年11月14日
(65)【公開番号】特開2018-80351(P2018-80351A)
(43)【公開日】2018年5月24日
【審査請求日】2019年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137800
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100148253
【弁理士】
【氏名又は名称】今枝 弘充
(74)【代理人】
【識別番号】100148079
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 裕明
(74)【代理人】
【識別番号】100158241
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 安子
(72)【発明者】
【氏名】秋草 順
【審査官】
菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−216277(JP,A)
【文献】
特開2002−216807(JP,A)
【文献】
特開昭61−023789(JP,A)
【文献】
特開2003−328156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D5/00−7/12
H01M8/00−8/0297
H01M8/08−8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライト系ステンレス鋼母材、
前記フェライト系ステンレス鋼母材の少なくとも一部上に施与されたニッケルめっき膜、及び
前記ニッケルめっき膜を覆って施与された銀めっき膜、
からなる銀めっき被覆ステンレス鋼材であって、
前記銀めっき膜の厚み(dA)が5〜10μmであり、
前記銀めっき膜の厚み(dA)に対する前記ニッケルめっき膜の厚み(dN)の比(dN/dA)が0.8〜1.2であり、
燃料電池の電流取り出し端子、高温用導線、加熱炉の内壁、又は配管の内壁のいずれかに使用される
ことを特徴とする銀めっき被覆ステンレス鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀めっき被覆ステンレス鋼材及び燃料電池用セパレータに関し、詳細には下地ニッケルめっき膜の厚みが、銀めっき膜の厚みに対して所定の範囲内である銀めっき被覆ステンレス鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼材は表面に酸化皮膜を有するため、耐食性、耐酸化性に優れる。しかし、酸化皮膜は半田付け性が極めて悪い。そこで、ステンレス鋼材を電気・電子部品として使用する際には、通常、銀めっきが施される。その際、銀めっき膜のステンレス鋼材への密着性を高めるために、下地としてニッケルめっきが施される。
【0003】
ステンレス鋼材としてフェライト系ステンレス鋼を用い、該フェライト系ステンレス鋼にニッケルめっきを施した上に銀めっきを施すことにより、高温酸化雰囲気下で使用されても表面が酸化されることがなく、良好な導電性を示す銀めっき被覆フェライト系ステンレス鋼材が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3918611号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の銀めっき被覆フェライト系ステンレス鋼材は、500℃以上の温度の高温酸化雰囲気に曝された場合であっても良好な導電性等の特性を示すものの、さらなる導電性の向上が求められている。そこで、本発明は高温酸化雰囲気下での導電性をより向上することができる銀めっき被覆ステンレス鋼材及び燃料電池用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
導電性を向上すべく本発明者らが種々検討したところ、下地ニッケルめっき膜の厚みを、銀めっき膜の厚みとほぼ同程度に厚くすることによって、耐高温酸化性が著しく向上することが見出された。即ち、本発明の銀めっき被覆ステンレス鋼材の第1の観点は、フェライト系ステンレス鋼母材、前記フェライト系ステンレス鋼母材の少なくとも一部上に施与されたニッケルめっき膜、及び前記ニッケルめっき膜を覆って施与された銀めっき膜、からなる銀めっき被覆ステンレス鋼材であって、前記銀めっき膜の厚み(dA)が1μm以上であり、前記銀めっき膜の厚み(dA)に対する前記ニッケルめっき膜の厚み(dN)の比(dN/dA)が0.5〜1.5であることを特徴とする。
【0007】
本発明の銀めっき被覆ステンレス鋼材の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記dAが5〜10μmであり、且つ、dN/dAが0.8〜1.2であることを特徴とする。
【0008】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点に基づく銀めっき被覆ステンレス鋼材で構成された燃料電池用セパレータであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の第1の観点は、従来、銀めっき膜厚よりも薄いニッケルめっき膜厚を銀めっき膜厚とほぼ同程度に厚くし、それによって、高温酸化雰囲気下で長時間維持した後であっても比電気抵抗値の増加が少なく、優れた導電性を示すという効果を奏する。該銀めっき被覆ステンレス鋼材は、耐高温酸化性が要求される導電部材としての用途は勿論のこと、高温での金属光沢を利用した加熱炉部材としても有用である。
【0010】
本発明の第2の観点は、ニッケルめっき膜厚を銀めっき膜厚と略同じにすることによって、高温酸化雰囲気下で長時間維持した後の比電気抵抗値の増加を大きく抑制するという効果を奏する。
【0011】
本発明の第3の観点は、上記第1又は第2の観点の銀めっき被覆ステンレス鋼材で構成された燃料電池用セパレータであり、優れた耐熱性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態において、母材のフェライト系ステンレス鋼としては、フェライト系であれば任意の組成のステンレス鋼を用いることができる。例えば、SUS430、SUS430をベースに種々の元素が添加又は低下されたステンレス鋼、例えばTiを含むSUH409、Alを含むSUS405、Sを含むSUS430F、Moを含むSUS434、Cが低減されたSUS410L、Crが低減されたSUS429等が挙げられる。これらのうち、精密加工性に優れ安価であることから、SUS430が好ましい。
【0013】
ニッケルめっき膜は、フェライト系ステンレス鋼母材の少なくとも一部、例えば電気接点部位、に施与されている。ニッケルめっき膜は、電解めっき膜、無電解めっき膜のいずれであってよい。厚み制御がし易い点で、電解めっき膜であることが好ましい。
【0014】
銀めっき膜は、ニッケルめっき膜を覆って施与されている。銀めっき膜は、電解めっき膜、無電解めっき膜のいずれであってよく、好ましくは電解めっき膜である。銀めっき膜は、その厚み(dA)が少なくとも1μmであり、好ましくは少なくとも5μmである。dAが1μm未満では、高温酸化性雰囲気中で十分な導電性を達成することが難しい。dAの上限値については特に制限は無いが、コスト等の点で10μm程度であるのが一般的である。但し、銀の融点(960℃)に近い程の高温環境下で使用する場合は、できるだけ厚くすることが好ましい。
【0015】
本実施形態の銀めっき被覆ステンレス鋼材は、ニッケルめっき膜の厚み(dN)と銀めっき膜の厚み(dA)の比(dN/dA)が0.5〜1.5であることを特徴とする。該範囲内においては、銀めっき被覆ステンレス鋼材が高温(500℃〜960℃)の酸化雰囲気に長時間(100〜1000時間)曝された後であっても、比電気抵抗値の初期比電気抵抗値に対する上昇率が14%以下、好ましくは12%以下である。好ましくはdN/dAが0.7〜1.3であり、より好ましくは0.8〜1.2である。
【0016】
より好ましくは、dAが5〜10μmであり、且つ、dN/dAが0.8〜1.2である。
【0017】
本実施形態において、めっき膜の厚みの測定方法は特に限定されず、例えばJIS H 8501:1999に定められている電解式試験法、蛍光X線式試験法、走査電子顕微鏡試験方法に準じて行うことができる。本発明では、試験片の断面を切り出し、EPMA(電子線マイクロアナライザー)により測定した。
【0018】
本実施形態の銀めっき被覆ステンレス鋼材の用途としては、高温酸化雰囲気下における耐酸化性及び導電性が必要とされる用途、例えば、燃料電池のセパレータ又は電流取り出し端子、及び高温用導線等が挙げられる。また、銀めっき被覆ステンレス鋼材は、高温雰囲気下においても金属光沢を維持することから、高温雰囲気における輻射熱を利用する用途、例えば、加熱炉又は配管の内壁等にも使用できる。
【0019】
本実施形態の銀めっき被覆ステンレス鋼材は、定法に従い作ることができる。例えば、フェライト系ステンレス鋼母材に、脱脂、活性化等の前処理を施した後、ニッケルめっきを施す。ニッケルめっきは、上述のように電解めっき、例えばウッド浴、ワット浴、黒色ニッケルめっき浴、又はスルファミン酸浴で行うことが好ましい。次いで、ニッケルめっきされたフェライト系ステンレス鋼母材を水洗した後、シアン浴にて銀めっきを施し、水洗、乾燥を行う。めっき膜厚の制御は、めっき電流密度とめっき時間によって行うことができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1〜9及び比較例1〜6]
SUS430製の金属母材の表面に、表1〜3に示す厚みのニッケルめっき膜と銀めっき膜を形成した。
先ず、SUS430から、幅20×長さ40×厚み2mmの板状の試験片を切り出した。該金属母材の組成は以下のとおりである:
SUS430:Cr18wt%、C(炭素)0.12wt%以下、Si0.75wt%以下、Mn1.0wt%以下、P(リン)0.04wt%以下、S(硫黄)0.03wt%以下、残Feおよび不可避不純物。
【0021】
試験片の全表面上に、表1〜3に示す厚みのニッケル(dN)めっき、次いで銀(dA)めっき膜を形成した。同じめっき条件で3試験片ずつめっきし、夫々について厚み及び初期比電気抵抗値を測定して平均を求めた。
【0022】
<ニッケルめっきの条件>
ニッケルめっきは、塩化ニッケルを240g/L、及び塩酸を125mL/Lで含むウッド浴を用い、25℃において、電流密度5A/dm
2の条件で実施した。その後、蒸留水で良く洗浄し、乾燥した。
【0023】
<銀めっきの条件>
銀めっきは、シアン化銀カリウム2g/L、及びシアン化ナトリウムを100g/Lで含む浴を用い、25℃において、電流密度2A/dm
2の条件で実施した。その後、蒸留水で良く洗浄し、乾燥した。
【0024】
<めっき膜厚測定法>
蛍光X線装置(日本電子社製)を用いてめっき表面の膜厚を測定した。
【0025】
<電気抵抗値の測定法>
ミリオームメータ(ソーラートロン社製)を用いて、2枚の白金メッシュ(面積1cm
2)に試験片を挟み、5kgfの荷重をかけて面積被抵抗値(mΩ・cm
2)を測定した。
<耐高温酸化性試験>
得られた各試験片を、800℃の空気雰囲気下において、1000時間保持した後に比電気抵抗値を測定し、初期比電気抵抗値からの上昇率ΔR(%)を求めた。結果を表1〜3に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
上表に示す通り、dN/dAが本発明の範囲であるものは、比電気抵抗値の上昇率ΔR(%)が少なく、導電性に優れていた。特に、実施例5及び8については、ΔR(%)が4%以下という極めて優れた導電性を示した。