特許第6850994号(P6850994)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6850994
(24)【登録日】2021年3月11日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】サージ防護素子
(51)【国際特許分類】
   H01T 1/22 20060101AFI20210322BHJP
   H01T 2/02 20060101ALI20210322BHJP
   H01T 4/12 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   H01T1/22
   H01T2/02 F
   H01T4/12 F
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-52010(P2017-52010)
(22)【出願日】2017年3月17日
(65)【公開番号】特開2018-156800(P2018-156800A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2019年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】山田 真
(72)【発明者】
【氏名】尾木 剛
(72)【発明者】
【氏名】田中 芳幸
【審査官】 内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−124983(JP,A)
【文献】 特開平03−230487(JP,A)
【文献】 米国特許第04628399(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 1/00 − 4/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性管と、
前記絶縁性管の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極と、
前記絶縁性管内に配された柱状又は筒状の絶縁性部材と、
前記絶縁性部材の両端部に設けられ対向する前記封止電極の内面と接触した一対のキャップ電極と、
前記絶縁性部材の軸線方向中間部の表面に前記一対のキャップ電極から離間して配されイオン源材料で形成された放電補助部とを備え、
前記キャップ電極が、前記絶縁性部材の端部側の外周面を覆っているキャップ外周部を有し、
前記キャップ外周部の端面における外周縁が、内周縁よりも軸線方向に突出しており、
前記放電補助部が、前記絶縁性部材の軸線方向中央の周面に線環状に形成されていることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項2】
請求項1に記載のサージ防護素子において、
前記キャップ外周部の端面が、軸線に対して傾斜して軸線側に向いた傾斜面とされていることを特徴とするサージ防護素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のサージ防護素子において、
前記放電補助部が、周方向に延在した環状に形成されていることを特徴とするサージ防護素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷等で発生するサージから様々な機器を保護し、事故を未然に防ぐのに使用するサージ防護素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電話機、ファクシミリ、モデム等の通信機器用の電子機器が通信線と接続する部分、電源線、アンテナ或いはCRT、液晶テレビおよびプラズマテレビ等の画像表示駆動回路等、雷サージや静電気等の異常電圧(サージ電圧)による電撃を受けやすい部分には、異常電圧によって電子機器やこの機器を搭載するプリント基板の熱的損傷又は発火等による破壊を防止するために、サージ防護素子が接続されている。
【0003】
従来、例えば特許文献1に示すように、一対の封止電極から対向状態に突出した一対の突出電極部を備え、絶縁性管の内周面に放電補助部が形成されたアレスタ型のサージ防護素子が記載されている。
また、特許文献2に示すように、ガラス管と、ガラス管の両端開口部を閉塞して内部に放電ガスを封止する一対の封止電極と、両端側に一対の封止電極を配してガラス管内に収納された碍子と、一対の封止電極のうち少なくとも一方と碍子との間に介在された金属平板とを備えたサージアブソーバが記載されている。このサージアブソーバでは、碍子の表裏面の中間部にカーボン等の導電性材料で形成されたトリガ部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−354244号公報
【特許文献2】特開2014−154528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
従来の技術では、繰り返し放電によってカーボントリガ等の放電補助部が損傷し易く、放電開始電圧や応答電圧が上昇してしまう問題があった。
また、従来の技術では、カーボントリガ等の放電補助部が、絶縁性管の内周面に複数箇所にまばらに存在していたり、碍子の中間部に部分的に存在しているため、放電経路上に放電補助部が存在しない箇所が存在し、放電開始電圧やサージ応答性の安定性に欠ける不都合があった。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、耐久性に優れ、放電開始電圧等のサージ特性の高い安定性を得ることができるサージ防護素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係るサージ防護素子は、絶縁性管と、前記絶縁性管の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極と、前記絶縁性管内に配された柱状又は筒状の絶縁性部材と、前記絶縁性部材の両端部に設けられ対向する前記封止電極の内面と接触した一対のキャップ電極と、前記絶縁性部材の軸線方向中間部の表面にイオン源材料で形成された放電補助部とを備え、前記キャップ電極が、前記絶縁性部材の端部側の外周面を覆っているキャップ外周部を有し、前記キャップ外周部の端面における外周縁が、内周縁よりも軸線方向に突出していることを特徴とする。
【0008】
このサージ防護素子では、キャップ電極が、絶縁性部材の端部側の外周面を覆っているキャップ外周部を有し、キャップ外周部の端面における外周縁が、内周縁よりも軸線方向に突出しているので、突出したキャップ外周部の端面における外周縁から放電し易くなり、放電補助部から主放電が離れることで、放電補助部の損傷を抑えることができ、繰り返し放電に対する耐久性が向上する。また、絶縁性部材の外周面から離間したキャップ外周部の端面における外周縁で主放電が発生することで、放電により飛散した金属が絶縁性部材の外周面に付着することを抑制できる。さらに、絶縁性管の内周面に放電補助部を設けた場合に比べて、絶縁性管の内周面から離れた内側でアーク放電が発生すると共に、キャップ電極と放電補助部との距離が近くなり、初期放電がより生じ易くなる。また、絶縁性部材の外周面近傍でアーク放電が発生することで、放電が進展し易く応答性も向上する。
【0009】
第2の発明に係るサージ防護素子は、第1の発明において、前記キャップ外周部の端面が、軸線に対して傾斜して軸線側に向いた傾斜面とされていることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、キャップ電極のキャップ外周部の端面が、軸線に対して傾斜して軸線側に向いた傾斜面とされているので、キャップ外周部の端面における外周縁が鋭角な断面形状となり、より先端で放電し易くなる。
【0010】
第3の発明に係るサージ防護素子は、第1又は第2の発明において、前記放電補助部が、周方向に延在した環状に形成されていることを特徴とする。
すなわち、このサージ防護素子では、放電補助部が、周方向に延在した環状に形成されているので、軸線方向に沿った放電経路に常に放電補助部が存在することで、放電開始電圧やサージ応答性の安定性が向上する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るサージ防護素子によれば、キャップ電極が、絶縁性部材の端部側の外周面を覆っているキャップ外周部を有し、キャップ外周部の端面における外周縁が、内周縁よりも軸線方向に突出しているので、放電補助部の損傷を抑えることができ、繰り返し放電に対する耐久性が向上すると共に、放電開始電圧等が安定する。
したがって、本発明に係るサージ防護素子では、耐久性に優れ、放電開始電圧等のサージ特性の高い安定性を得ることができ、高い信頼性を有すると共に精度の高い放電特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るサージ防護素子の第1実施形態において、キャップ電極を取り付けた絶縁性部材を示す断面図である。
図2】第1実施形態において、絶縁性管及び封止電極だけを軸方向で破断した正面図である。
図3】本発明に係るサージ防護素子の第2実施形態において、絶縁性管及び封止電極だけを軸方向で破断した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るサージ防護素子の第1実施形態を、図1及び図2を参照しながら説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能又は認識容易な大きさとするために縮尺を適宜変更している。
【0014】
本実施形態のサージ防護素子1は、図1及び図2に示すように、絶縁性管2と、絶縁性管2の両端開口部を閉塞して内部に放電制御ガスを封止する一対の封止電極3と、絶縁性管2内に配された柱状又は筒状の絶縁性部材4と、絶縁性部材4の両端部に設けられ対向する封止電極3の内面と接触した一対のキャップ電極5と、絶縁性部材4の軸線C方向中間部にイオン源材料で形成された放電補助部6とを備えている。
【0015】
上記キャップ電極5は、絶縁性部材4の端部側の外周面を覆っているキャップ外周部5aを有し、キャップ外周部5aの端面における外周縁5bが、内周縁5cよりも軸線C方向に突出している。
上記キャップ外周部5aの端面は、軸線Cに対して傾斜して軸線C側に向いた傾斜面とされている。すなわち、互いに対向した一対のキャップ外周部5aの端面は、互いに平行面ではなく、半径方向内側に向けて傾斜している。
また、上記放電補助部6は、周方向に延在した環状に形成されている。
【0016】
上記絶縁性管2は、例えばアルミナなどの結晶性セラミックス材で円筒状に形成されている。
上記絶縁性部材4は、例えばアルミナなどの結晶性セラミックス材で円柱状に形成されている。
絶縁性部材4は、その軸線を絶縁性管2の軸線Cに合わせて配されており、キャップ電極5と絶縁性管2の内面とが離間した状態となっている。
上記放電補助部6は、導電性材料であって、例えば炭素材で形成されている。この放電補助部6は、円柱状の絶縁性部材4の周面に円環状に形成されている。
【0017】
上記封止電極3は、例えば42アロイ(Fe:58wt%、Ni:42wt%)やCu等で構成されている。
封止電極3は、絶縁性管2の両端開口部に導電性融着材(図示略)により加熱処理によって密着状態に固定されている。
上記キャップ電極5は、絶縁性部材4の端部が嵌め込み・圧入可能なキャップ型にステンレス鋼等の金属で形成されている。
【0018】
上記導電性融着材は、例えばAgを含むろう材としてAg−Cuろう材で形成されている。
上記絶縁性管2内に封入される放電制御ガスは、不活性ガス等であって、例えばHe,Ar,Ne,Xe,Kr,SF,CO,C,C,CF,H,大気等及びこれらの混合ガスが採用される。
【0019】
このサージ防護素子1では、過電圧又は過電流が侵入すると、まず放電補助部6とキャップ電極5のキャップ外周部5aの外周縁5bとの間で優先的に初期放電が行われ、この初期放電をきっかけに、さらに放電が進展して互いに対向する一対のキャップ電極5のキャップ外周部5a間で主に放電が行われる。
【0020】
このように本実施形態のサージ防護素子1では、キャップ電極5が、絶縁性部材4の端部側の外周面を覆っているキャップ外周部5aを有し、キャップ外周部5aの端面における外周縁5bが、内周縁5cよりも軸線C方向に突出しているので、突出したキャップ外周部5aの端面における外周縁5bから放電し易くなり、放電補助部6から主放電が離れることで、放電補助部6の損傷を抑えることができ、繰り返し放電に対する耐久性が向上する。
【0021】
また、絶縁性部材4の外周面から離間したキャップ外周部5aの端面における外周縁5bで主放電が発生することで、放電により飛散した金属が絶縁性部材4の外周面に付着することを抑制できる。さらに、絶縁性管2の内周面に放電補助部6を設けた場合に比べて、絶縁性管2の内周面から離れた内側でアーク放電が発生すると共に、キャップ電極5と放電補助部6との距離が近くなり、初期放電がより生じ易くなる。また、絶縁性部材4の外周面近傍でアーク放電が発生することで、放電が進展し易く応答性も向上する。
【0022】
また、キャップ電極5のキャップ外周部の端面が、軸線Cに対して傾斜して軸線C側に向いた傾斜面とされているので、キャップ外周部5aの端面における外周縁5bが鋭角な断面形状となり、より先端で放電し易くなる。
さらに、放電補助部6が、周方向に延在した環状に形成されているので、軸線C方向に沿った放電経路に常に放電補助部6が存在することで、放電開始電圧やサージ応答性の安定性が向上する。
【0023】
次に、本発明に係るサージ防護素子の第2実施形態について、図3を参照して以下に説明する。なお、以下の実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0024】
第2実施形態と第1実施形態との異なる点は、第1実施形態では、絶縁性管2がセラミックスで形成された中空セラミックスタイプのサージ防護素子であるのに対し、第2実施形態のサージ防護素子21は、図3に示すように、ガラス管の絶縁性管22を採用したガラス管タイプとなっている点である。
【0025】
すなわち、第2実施形態では、絶縁性管22が、鉛ガラス等の非晶質管を採用していると共に、一対の封止電極23には、それぞれ軸線上にジュメット線23aが外側に突出した状態で埋め込まれている。
この第2実施形態でも、キャップ外周部5aの端面における外周縁5bが、内周縁5cよりも軸線C方向に突出している。
【0026】
このように第2実施形態のサージ防護素子21でも、第1実施形態と同様に、キャップ外周部5aの端面における外周縁5bが、内周縁よりも軸線C方向に突出しているので、放電補助部6の損傷を抑えることができ、繰り返し放電に対する耐久性が向上する。
また、放電補助部6が、周方向に延在した環状に形成されているので、軸線C方向に沿った放電経路に常に放電補助部6が存在することで、放電開始電圧やサージ応答性の安定性が向上する。
【0027】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0028】
1,21…サージ防護素子、2,22…絶縁性管、3,23…封止電極、4…絶縁性部材、5a…キャップ外周部、5b…キャップ外周部の端面における外周縁、5c…キャップ外周部の端面における内周縁、6…放電補助部、C…絶縁性管及び絶縁性部材の軸線
図1
図2
図3