特許第6851093号(P6851093)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6851093低誘電率を有するポリマー及びポリマーの誘電率を低下させるための分子構造設計法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6851093
(24)【登録日】2021年3月11日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】低誘電率を有するポリマー及びポリマーの誘電率を低下させるための分子構造設計法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20210322BHJP
【FI】
   C08G73/10
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-543885(P2019-543885)
(86)(22)【出願日】2018年2月1日
(65)【公表番号】特表2020-506277(P2020-506277A)
(43)【公表日】2020年2月27日
(86)【国際出願番号】CN2018074891
(87)【国際公開番号】WO2018149303
(87)【国際公開日】20180823
【審査請求日】2019年9月4日
(31)【優先権主張番号】201710083465.1
(32)【優先日】2017年2月16日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】503168289
【氏名又は名称】中山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】張 芸
(72)【発明者】
【氏名】銭 超
(72)【発明者】
【氏名】許 家瑞
(72)【発明者】
【氏名】貝 潤▲しん▼
(72)【発明者】
【氏名】劉 四委
(72)【発明者】
【氏名】池 振国
【審査官】 渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0049478(US,A1)
【文献】 特開2009−079092(JP,A)
【文献】 米国特許第04937165(US,A)
【文献】 特表2013−544897(JP,A)
【文献】 米国特許第04959288(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G73
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子構造が主鎖構造と側鎖構造から構成される低誘電率を有するポリマーであって、前記主鎖構造は、トリフェニルアミン又はトリフェニルメタンと、6FDA(2,2−ビス(3,4−アンヒドロジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン)又はPMDA(ピロメリット酸無水物)構造を含むポリイミドであり、前記側鎖構造は主鎖構造に結合するベンゼン環又はビフェニルセグメントを有し、かつ、ベンゼン環又はビフェニル基のメタ位に剛直な直鎖構造を有する置換基を有し、前記側鎖構造は、一般構造式I又はIIのうち一つ又は二つ以上を有することを特徴とする、低誘電率を有するポリマー。
式中、Xは、下記構造式からなる群より選択されるいずれかであり(ただし、0≦n<10):
は、下記構造式からなる群より選択されるいずれかであり(ただし、0≦n<10):
Zは、下記構造式からなる群より選択されるいずれかであり(ただし、0≦m<10):
【請求項2】
前記ポリマーは、粉末材料、繊維材料、又はフィルム材料であることを特徴とする、請求項記載の低誘電率を有するポリマー。
【請求項3】
低誘電ポリマー材料の製造に適用する、請求項記載の低誘電率を有するポリマー。
【請求項4】
主鎖構造がトリフェニルアミン又はトリフェニルメタンと、6FDA(2,2−ビス(3,4−アンヒドロジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン)又はPMDA(ピロメリット酸無水物)構造を含むポリイミドであるポリマーに側鎖構造を導入し、前記側鎖構造が主鎖構造に結合するベンゼン環又はビフェニルセグメントを有し、前記側鎖構造は、一般構造式I又はIIのうち一つ又は二つ以上を有し、かつ、ベンゼン環又はビフェニル基のメタ位に剛直な直鎖構造を有する置換基を有することを特徴とする、ポリマーの誘電率を低下できる分子構造設計法。
式中、Xは、下記構造式からなる群より選択されるいずれかであり(ただし、0≦n<10):
は、下記構造式からなる群より選択されるいずれかであり(ただし、0≦n<10):
Zは、下記構造式からなる群より選択されるいずれかであり(ただし、0≦m<10):
【請求項5】
前記ポリマーは、粉末材料、繊維材料、又はフィルム材料であることを特徴とする、請求項記載のポリマーの誘電率を低下できる分子構造設計法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料科学の分野、特に、低誘電率を有するポリマー及びポリマーの誘電率を低下させるための分子構造設計法に関する。
【背景技術】
【0002】
高密度、高速、多機能、高性能の超大規模集積回路(ULSI)には、大きなチップ面積と小さなフィーチャサイズが必要であるため、配線密度を高め、金属ラインの幅とライン間の距離を小さくする必要がある。デバイス密度と配線密度が大幅に増加することにより、相互接続システムにおける抵抗とライン間の容量結合が急速に増加する。信号伝送の遅延、さらには歪み、干渉ノイズの増大、消費電力の増加が、高性能の超大規模集積回路(ULSI)のさらなる開発のボトルネックとなる。信号伝送遅延(RC)と電力(P)の算出式モデル及び関連理論によれば、集積回路のRC遅延を削減し、消費電力Pを削減しなければならない。この問題の解決は、新規な低誘電率の層間材料の開発及びその応用に依存している。
【0003】
Clausius・Mossottiの式によれば、材料の誘電率を低下させる最も効果的な方法は、材料の内部空隙を増やすことである。しかしながら、材料の内部空隙を増加させる一方で、材料の他の特性(機械的特性、熱安定性及び吸湿性など)を損傷する可能性がある。ポリマー材料自体に存在する自由体積は、ポリマー固有の特性であり、ポリマー材料の固有の空隙に属する。その大きさは、サブナノメートルであり、材料内に均一に分散する。そのサイズは、ポリマーの鎖構造に密接に関連するが、材料の全体的な性能の安定性にはほとんど影響しない。
【0004】
ポリマー材料の自由体積を増加させることは、その分子鎖構造に対する設計により実現することができる。例えば、中国特許CN105622834A、CN105860075Aなどでは、フッ素含有成分をポリマーの分子構造に導入することにより、材料の分子間の緻密な堆積を抑制し、ポリマー材料の誘電率を効果的に減少させている。しかしながら、大量のフッ素含有成分を導入すると、材料の結合特性が低下し、高温で放出されるフッ酸が非常に強い腐食性をもち、環境適合性が悪く、精密電子機器の分野に適用できない。中国特許CN105461924A、CN1302254などでは、高分子の分子構造に大きな体積を有する基を導入することにより、分子間の緻密な堆積を抑制し、材料の誘電率をある程度まで低下させている。しかしながら、この方法で設計された高分子の分子構造は比較的複雑であり、必然的に、材料生産プロセスの煩雑さと生産コストの大幅な増加に繋がり、大規模な工業生産を達成することは困難となる。また、ポリマー材料の誘電率の低下は、マイクロフォーミング、ポロゲンの添加などの物理的細孔形成手段によっても達成できる。しかしながら、そのような方法では、材料の機械的特性が低下したり、吸水性が増加するなど、材料の実用的な応用価値に影響を与える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、プロセスが簡単で、低コストで、工業生産が容易である利点を有する、低誘電率を有するポリマー及びポリマーの誘電率を低下させる分子構造設計法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、下記により達成される:低誘電率を有するポリマーであって、その分子構造は主鎖構造と側鎖構造から構成され、前記側鎖構造は主鎖構造に結合するベンゼン環又はビフェニルセグメントを有し、かつ、ベンゼン環又はビフェニル基のメタ位に剛直な直鎖構造を有する置換基を有することを特徴とする。
【0007】
前記側鎖構造は、一般構般式I又はIIのうち一つ又は二つ以上を有する。
式中、Xは、下記構造式からなる群より選択されるいずれかであり(ただし、0≦n<10):
は、下記構造式からなる群より選択されるいずれかであり(ただし、0≦n<10):
Zは、下記構造式からなる群より選択されるいずれかであり(ただし、0≦m<10):
【0008】
ポリマーの誘電率を低下できる分子構造設計法であって、前記方法は、ポリマーの主鎖構造に側鎖構造を導入し、前記側鎖構造は主鎖構造に結合するベンゼン環又はビフェニルセグメントを有し、かつ、ベンゼン環又はビフェニル基のメタ位に剛直な直鎖構造を有する置換基を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ポリマー分子鎖の側鎖の豊富な設計可能性を利用し、側鎖ベンゼン環又はビフェニルセグメント構造の間の位置に直鎖剛直基を導入し、側鎖ベンゼン環の緩和回転により材料内により大きな自由体積空隙を形成する。これにより、分子鎖の堆積を抑制し、さらにポリマー材料の誘電率を低下させる。この方法は、簡単で、一般的な高性能ポリマー材料に適用でき、得られるポリマー材料の誘電率が著しく低下し、工業的な生産を容易に実現できる。本発明による低誘電率ポリマーは、低誘電材料の製造に適用でき、エレクトロニクス、マイクロエレクトロニクス、情報工学、航空宇宙などのハイテク産業、特に超大規模集積回路の分野に適する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】異なる周波数でのポリマーフィルムTmBPPA、TPPA及びTpBPPAの誘電率を示すグラフである。図面から、周波数10000Hzで、ポリマーフィルムTmBPPAの誘電率は2.23であり、ポリマーフィルムTPPAの誘電率は3.59であり、ポリマーフィルムTpBPPAの誘電率は2.76であることが分かる。
図2】異なる周波数でのポリマーフィルムTmBPHF、TPAHF及びTpBPHFの誘電率を示すグラフである。図面から、周波数10000Hzで、ポリマーフィルムTmBPHFの誘電率は2.09であり、ポリマーフィルムTPAHFの誘電率は2.65であり、ポリマーフィルムTpBPHFの誘電率は2.51であることが分かる。
図3】異なる周波数でのポリマーフィルムTM3BPhHF、TPMHF及びTM4BPhHFの誘電率を示すグラフである。図面から、周波数10000Hzで、ポリマーフィルムTM3BPhHFの誘電率は1.92であり、ポリマーフィルムTPMHFの誘電率は2.45であり、ポリマーフィルムTM4BPhHFの誘電率は2.46であることが分かる。
図4】異なる周波数でのポリマーフィルムTPMHFとTM35Ph2CF3HFの誘電率を示すグラフである。図面から、周波数10000Hzで、ポリマーフィルムTM35Ph2CF3HFの誘電率は1.91であり、ポリマーフィルムTPMHFの誘電率は2.45であることが分かる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、分子構造が主鎖構造と側鎖構造から構成される、低誘電率を有するポリマーであって、前記側鎖構造が主鎖構造に結合するベンゼン環又はビフェニルセグメントを有し、かつ、ベンゼン環又はビフェニル基のメタ位に剛直な直鎖構造を有する置換基を有することを特徴とする、低誘電率を有するポリマーである。
【0012】
ポリマー分子鎖は、異なる温度で複数の緩和段階がある。ここで、分子の主鎖セグメントの緩和運動に対応する温度は、ガラス転移温度と呼ばれ、側鎖ベンゼン環の緩和回転は、β緩和温度となる。β緩和温度は、ガラス転移温度よりもはるかに低いため、ポリマー材料がガラス転移温度で使用される際、高分子の主鎖セグメントが凍結されても、その分子主鎖における側鎖ベンゼン環が緩和回転できる。このような動的回転を利用して構造を設計することにより、分子鎖の緻密な堆積を抑制し、より大きな自由体積を獲得することができる。
【0013】
したがって、ポリマーの主鎖構造に側鎖構造を導入し、前記側鎖構造が主鎖構造に結合するベンゼン環又はビフェニルセグメントを有し、かつ、ベンゼン環又はビフェニル基のメタ位に剛直な直鎖構造を有する置換基を有することは、ポリマーの誘電率を低下できる分子構造設計法である。
前記側鎖構造は、一般構般式I又はIIのうち一つ又は二つ以上を有する。
Zは、下記構造式からなる群より選択されるいずれかであり(ただし、0≦m<10):
式中、Xは、下記構造式からなる群より選択されるいずれかであり(ただし、0≦n<10):
は、下記構造式からなる群より選択されるいずれかであり(ただし、0≦n<10):
Zは、下記構造式からなる群より選択されるいずれかであり(ただし、0≦m<10):
【0014】
前記ポリマーの主鎖構造は、すべての芳香族ポリマー構造、複素環ポリマー構造又はアルキル鎖ポリマー構造からなる群より選択されることができる。ポリマーは、粉末材料、繊維材料、又はフィルム材料であってもよく、比較的低い誘電率を有するため、低誘電ポリマー材料の製造に適用することができる。
【実施例】
【0015】
以下の実施例は、本発明をより詳細に説明するために提供される。以下の実施例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことに留意すべきである。当業者により、上記発明の内容に基づき、本発明に対して行った非本質的な変更又は調整は、依然として本発明の保護の範囲内にある。
実施例1
本実施例におけるポリマーフィルムTmBPPAの分子構造は、以下の通りである。
【0016】
トリフェニルアミンとPMDA構造を含むポリイミド材料の分子構造の側鎖ベンゼン環のメタ位にビフェニル置換基を導入し、インピーダンスアナライザーにより、ポリマーフィルムの誘電特性を測定し、側鎖ベンゼン環のメタ位に置換基を有しないもの(TPPA)及び側鎖ベンゼン環のパラ位に置換基を有するもの(TpBPPA)のポリマーフィルムと比較した(図1参照)。側鎖ベンゼン環のメタ位にあるビフェニル置換基を有するポリマーフィルムの誘電率は、他の2つのポリマーフィルムよりも著しく低く、2.23まで低下した。
【0017】
実施例2
本実施例におけるポリマーフィルムTmBPHFの分子構造は、以下の通りである。
【0018】
トリフェニルアミンと6FDA構造を含むポリイミド材料の分子構造の側鎖ベンゼン環のメタ位にビフェニル置換基を導入し、インピーダンスアナライザーにより、ポリマーフィルムの誘電特性を測定し、側鎖ベンゼン環のメタ位に置換基を有しないもの(TPAHF)及び側鎖ベンゼン環のパラ位に置換基を有するもの(TpBPHF)のポリマーフィルムと比較した(図2参照)。側鎖ベンゼン環のメタ位にあるビフェニル置換基を有するポリマーフィルムの誘電率は、他の2つのポリマーフィルムよりも著しく低く、2.09まで低下した。
【0019】
実施例3
本実施例におけるポリマーフィルムTM3BPhHFの分子構造は、以下の通りである。
【0020】
トリフェニルメタンと6FDA構造を含むポリイミド材料の分子構造の側鎖ベンゼン環のメタ位にビフェニル置換基を導入し、インピーダンスアナライザーにより、ポリマーフィルムの誘電特性を測定し、側鎖ベンゼン環のメタ位に置換基を有しないもの(TPMHF)及び側鎖ベンゼン環のパラ位に置換基を有するもの(TM4BPhHF)のポリマーフィルムと比較した(図3参照)。側鎖ベンゼン環のメタ位にあるビフェニル置換基を有するポリマーフィルムの誘電率は、他の2つのポリマーフィルムよりも著しく低く、1.92まで低下した。
【0021】
実施例4
本実施例におけるポリマーフィルムTM35Ph2CFHFの分子構造は、以下の通りである。
【0022】
トリフェニルメタンと6FDA構造を含むポリイミド材料の分子構造の側鎖ベンゼン環のメタ位に二つのフッ素含有置換基を導入し、インピーダンスアナライザーにより、ポリマーフィルムの誘電特性を測定し、側鎖ベンゼン環のメタ位に置換基を有しないもの(TPMHF)のポリマーフィルムと比較した(図4参照)。側鎖ベンゼン環のメタ位にある二つのフッ素含有置換基を有するポリマーフィルムの誘電率は、側鎖ベンゼン環のメタ位に置換基を有しないポリマーフィルムよりも著しく低く、1.91まで低下した。
図1
図2
図3
図4