特許第6851111号(P6851111)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6851111
(24)【登録日】2021年3月11日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】踏切障害物検知装置
(51)【国際特許分類】
   B61L 29/00 20060101AFI20210322BHJP
   G01S 13/72 20060101ALI20210322BHJP
   G01S 13/04 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   B61L29/00 A
   G01S13/72
   G01S13/04
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-10727(P2017-10727)
(22)【出願日】2017年1月24日
(65)【公開番号】特開2018-118595(P2018-118595A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2019年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207470
【氏名又は名称】大同信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106345
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 香
(72)【発明者】
【氏名】前 友章
(72)【発明者】
【氏名】村松 鋼二郎
【審査官】 笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−126025(JP,A)
【文献】 特開2005−254869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 29/00
G01S 13/04
G01S 13/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空中伝搬波を平面掃引して反射位置の測定データを取得する平面掃引計測部と、踏切の障害物検知領域を規定する検知領域規定データを保持するとともに前記測定データ及び前記検知領域規定データに基づいて障害物の存否判定を行う判定手段を搭載したフェールセーフコンピュータとを備えた踏切障害物検知装置であって、前記判定手段が、前記平面掃引計測部にて取得された前記測定データを入力し、その後、前記検知領域規定データに基づいて前記測定データのうち前記障害物検知領域に属する位置に係るデータに絞り込んだものを後続処理用データに採用するデータ限定処理を行い、前記後続処理用データを用いて障害物候補の測定点データ群を特定するグルーピング処理と前記測定点データ群の代表点の位置をトラッキング消滅時素の時間に亘って追跡するトラッキング処理とを行い、前記トラッキング処理の追跡対象の有無に応じて障害物の存否を判定するようになっていることを特徴とする踏切障害物検知装置。
【請求項2】
前記トラッキング処理において前記トラッキング消滅時素を前記測定点データ群に係る速度が遅いか速いかに応じて増減するようになっていることを特徴とする請求項1記載の踏切障害物検知装置。
【請求項3】
前記トラッキング処理において前記測定点データ群に係る速度が所定速度より速いときには前記トラッキング消滅時素をゼロ時間にする又は無視するようになっていることを特徴とする請求項1又は2に記載の踏切障害物検知装置。
【請求項4】
前記所定速度が健常者の平均歩行速度に対応した値に設定されていることを特徴とする請求項3記載の踏切障害物検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道の踏切内に赤外線などの空中伝搬波を照射して踏切道における人や車両などの踏切通行体(障害物)を検出する踏切障害物検知装置に関し、詳しくは、空中伝搬波を平面掃引しながらその反射波を受信して位置計測を行う平面掃引レーダ方式の踏切障害物検知装置に関し、更に詳しくは、そのような方式で得た測定データに基づく障害物の存否判定をフェールセーフコンピュータにて行う踏切障害物検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
平面掃引レーダ方式の踏切障害物検知装置は(例えば特許文献1参照)、線路を横切る踏切道のうち線路の両脇の遮断桿の間に位置する部分の領域やその上方の面領域を障害物検知領域として、その障害物検知領域に向けて空中伝搬波を掃引送信しながら反射波を受信して距離と方向とを計測する平面掃引計測部と、その計測にて得られた測定データに基づいて障害物検知領域における障害物の存否を判定する判定部とを具えている。
【0003】
そのうち、平面掃引計測部は(例えば特許文献1,2参照)、障害物検知領域に向けて空中伝搬波の送信と反射波の受信とを行う空中伝搬波送受信部と、この空中伝搬波送受信部を通常は所定角度の範囲内で回転運動させる回転機構と、その回転運動を制御するとともに空中伝搬波の送受信の方向計測を行う又は可能にする回転制御部と、空中伝搬波送受信部の送受信信号に基づいて送信位置から反射位置までの距離を計測する信号処理部とを具えている。
【0004】
また、判定部は、測定データに基づく障害物の存否判定というデータ処理および判別処理の内容を定めるソフトウェアを実行する手段としてコンピュータを具備している。そして、ソフトウェア処理では、データの連なりをトレースして物体形状を把握したうえで、その物体形状を記憶形状と照合する等のことで、障害物か否かを判定するのであるが、その処理の実行を担うコンピュータには、踏切障害物検知に必要な信頼性を確保する必要があるため、ハードウェア故障を顕在化しうるフェールセーフコンピュータが採用されている(例えば特許文献3,4参照)。
【0005】
このような平面掃引レーダ方式の踏切障害物検知装置は、空中伝搬波送受信部が降下時の遮断桿と同程度の高さに設置されるので、それよりずっと高い所に設置されて踏切道を俯瞰する三次元踏切障害物検知装置と比べて、コストを低減しやすい。
また、旧来より使用されてきたビーム式のものと比べると、送受信部が集約可能なので設置個数を削減することができる、分解能が良いので自動車等の大きなものはもとより個々の通行人や車椅子など小さなものまでも検知することができる、といった利点がある。
【0006】
さらに、データ処理および判別処理に際しては、一纏まりの平面掃引が行われる度に、測定データに含まれている測定点データ(距離と方向との組)の連なりをトレースして物体形状を把握するという画像内追跡などにより測定データを障害物候補像毎に組み分けするという画像内でのグルーピング処理が行われるとともに、検出物体の一部でも踏切道の上で遮断桿の間に入っていれば踏切内に障害物が在ると判定されるようになっている(例えば特許文献1参照)。このような障害物候補像に係る画像内のグルーピング処理は、降雪や降雨といった低密度な外乱に係る測定データによる不所望な誤検出を回避しつつ、自動車や通行人といった本来の検出対象を高密度な測定データに基づいて検出するので、検出精度の向上に役立っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−007818号公報
【特許文献2】特開2006−214961号公報
【特許文献3】特開2006−338094号公報
【特許文献4】特願2016−163679号(出願)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、ハードウェアからソフトウェアにまで及ぶ多角的な改良によって踏切障害物検知装置の検出性能が高まっているのであるが、実用性に関しては更なる向上が求められるため、測定データに基づく処理を既述したグルーピング処理にとどめておく訳にはいかない。具体的には、踏切の場合、監視領域(障害物検知領域)に物体が存在したからといって直ちにそれを障害物として警報を発したり列車を停止させたりする訳ではなく、規定時間以上に及ぶ滞留物を的確に検出する一方、早々に踏切を通過してしまう高速の移動体は過剰検出防止のため検出対象から除外する、といった機能も求められる。
【0009】
そして、その求めに応じる手立ての一つとして、障害物候補像に係る複数画像間の経時的なトラッキング処理を導入することが考えられる。このトラッキング処理では、一纏まりの平面掃引の度に障害物候補像に係る画像内のグルーピング処理が行われることを前提として、障害物候補像としてグルーピングされた測定点データ群が、平面掃引とグルーピング処理とが繰り返し施される一連の複数測定データにおいて、どのように変化したのか特にどのように移動したのかという経時的な情報が抽出されるので、上記の機能をソフトウェアにて実現することができる。しかも、グルーピング処理にトラッキング処理を組み合わせることで、グルーピング処理だけではできなかった誤検知の抑制も期待できる。
【0010】
一方、トラッキング処理では、トラッキング消滅時素の導入やトラッキング数の複数化が欠かせない。
それらのうち、トラッキング消滅時素とは、追跡対象になっている障害物候補の測定点データ群が消滅した後に追跡情報等を保持し続ける所定時間のことである。これが必要なのは、例えば追跡中の物体の前を別の物体が通ったり追跡中の物体から反射した空中伝搬波が弱まったりして、追跡が一時的に途絶える場合があるところ、そのような場合でも一時的要因の消滅後には速やかに追跡を再開できるようにするためである。その再開待ち時間として適宜な時間が、トラッキング消滅時素として予め定められ、トラッキング処理中に参照しうる状態でデータ保持される。そして、測定点データ群の消滅後もトラッキング消滅時素の経過までは追跡用データ等(追跡情報)が削除されないで維持される。
【0011】
それらのうち、トラッキング数は、同時並行的に経時的な追跡がなされる障害物候補の測定点データ群の個数のことである。
その複数化が重要な理由は、トラッキング数が一個であると、追跡対象になっていた障害物が監視領域(障害物検知領域)を出た直後に別の障害物候補物体が監視領域が入ったような場合に、進入物体の追跡開始が、障害物の進出直後でなく、そのときからトラッキング消滅時素の経過後まで遅れるため、障害物の検出や判定まで遅れてしまい、不都合になるからである。
【0012】
また、一物体に係る障害物候補の測定点データ群は、一個に纏まることが理想であるが、物体の表面形状や反射率といった測定変動要因が大きいときなどには、複数に分かれることもあるので、そのようなときにもトラッキング数の複数化が有益である。
さらに、グルーピング処理で排除しきれなかった不所望な要因の影響、例えば、降雪や、対向レーダからの干渉などの空間的外乱要因による不所望な影響についても、その影響の緩和・抑制がトラッキング数の複数化によって進むと期待される。
【0013】
そして、既述した障害物候補像に係る画像内のグルーピング処理に加えて、上述した障害物候補像に係る複数画像間の経時的なトラッキング処理までも、ソフトウェアにて行うには、それを実行するハードウェアに大きな処理能力が必要になる。
しかしながら、既述したように踏切障害物検知装置のハードウェアにはフェールセーフコンピュータが採用されており、フェールセーフコンピュータは、高信頼性の確保が優先されることから、多くの民生機器等に採用されている一般的なコンピュータと比べて、コストパフォーマンスが犠牲になっているので、非力である。
そのため、ソフトウェア処理の負荷を軽くすることが重要な課題となる。
【0014】
具体的には、障害物候補像に係る複数画像間の経時的なトラッキング処理では上述のようにトラッキング数が単数にとどまらず複数になることが想定されるが、トラッキング数が多いと処理負担も重くなる傾向が強いので、追跡性能を犠牲にすることなくトラッキング数の増加を抑制することが、第1技術課題となる。
また、トラッキング処理では、カルマンフィルタ等を用いた位置推定や位置予測が多用されているところ、そのような位置推定等では障害物候補の測定点データ群のデータをそのまま用いるのでなく代表点を決めてその点座標に係る推定演算が行われる。
【0015】
そのため、検出物体の一部でも踏切道の上で遮断桿の間に入っていれば踏切内に障害物が在ると判定する既述の踏切障害物存否判定手法とは相性があまり良くない。
すなわち、測定データ取得に続くグルーピング処理の後のトラッキング処理では代表点を用いて障害物候補の測定点データ群の代表点の位置を算出したにもかかわらず、更に後続の判定処理では、トラッキング処理より先のグルーピング処理で得た障害物候補の測定点データ群に係る複数点のデータに戻って処理を繰り返すので、処理負担が重い。
【0016】
かといって、測定データ取得に続けてグルーピング処理とトラッキング処理とを行い、それから複数データの測定点データ群に戻ることなく単に代表点の位置が監視領域(障害物検知領域)の中に入っているか否かを判別するという判断手法では、処理負担は軽減されるが、障害物候補の測定点データ群の端部等が監視領域(障害物検知領域)に残っていても代表点が監視領域(障害物検知領域)から出ていれば、その障害物候補の測定点データ群は障害物として検出されないので、判定の正確性が犠牲になってしまいかねない。
そこで、処理負担の軽い代表点利用のトラッキング処理を行っても存否判定の負担が重くならず正確性が損なわれることもないように改良することが、第2技術課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の踏切障害物検知装置は(解決手段1)、このような課題を解決するために創案されたものであり、空中伝搬波を平面掃引して反射位置の測定データを取得する平面掃引計測部と、踏切の障害物検知領域を規定する検知領域規定データを保持するとともに前記測定データ及び前記検知領域規定データに基づいて障害物の存否判定を行う判定手段を搭載したフェールセーフコンピュータとを備えた踏切障害物検知装置であって、前記判定手段が、前記検知領域規定データに基づいて前記測定データのうち前記障害物検知領域に属する位置に係るデータに絞り込んだものを後続処理用データに採用するデータ限定処理を行い、前記後続処理用データを用いて障害物候補の測定点データ群を特定するグルーピング処理と前記測定点データ群の代表点の位置をトラッキング消滅時素の時間に亘って追跡するトラッキング処理とを行い、前記トラッキング処理の追跡対象の有無に応じて障害物の存否を判定するようになっていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の踏切障害物検知装置は(解決手段2)、上記解決手段1の踏切障害物検知装置であって、前記トラッキング処理において前記トラッキング消滅時素を前記測定点データ群に係る速度が遅いか速いかに応じて増減するようになっていることを特徴とする。
【0019】
さらに、本発明の踏切障害物検知装置は(解決手段3)、上記解決手段1,2の踏切障害物検知装置であって、前記トラッキング処理において前記測定点データ群に係る速度が所定速度より速いときには前記トラッキング消滅時素をゼロ時間にする又は無視するようになっていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の踏切障害物検知装置は(解決手段4)、上記解決手段3の踏切障害物検知装置であって、前記所定速度が健常者の平均歩行速度に対応した値に設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
このような本発明の踏切障害物検知装置にあっては(解決手段1)、空中伝搬波の平面掃引の度に踏切道の通行体等に係る二次元の測定データが得られるが、判定手段は、測定データをそのまま用いてグルーピング処理等を行うのでなく、グルーピング処理等に先だって測定データを後続処理用データに絞り込み、それから後続処理用データを用いてグルーピング処理等を行うようになっている。そして、このデータ絞り込みによって障害物候補の測定点データ群の分布範囲が縮小され、それに伴ってデータ処理量が縮小・軽減されるとともにトラッキング数も縮減されるか少なくとも増加は阻止される一方、障害物検知領域に属する位置に係るデータは外されることなくグルーピング等の後続処理に供されるので、追跡性能を犠牲にすることなくトラッキング数の増加が抑制されることとなる。
【0022】
また、障害物検知領域に対応した後続処理用データを用いてグルーピング処理が行われるので、障害物検知領域から進出した障害物の測定点データ群は速やかに消滅するが、測定点データ群の消滅後も所定のトラッキング消滅時素が経過するまでは該当の追跡情報を保持し続けて追跡を継続するトラッキング処理も行われることから、障害物候補の測定点データ群の経時的な追跡が一時的な要因では途絶することなく的確になされるので、これによっても、追跡性能を犠牲にすることなくトラッキング数の増加が抑制されることとなる。
【0023】
さらに、そのようなトラッキング処理の追跡対象の有無に応じて障害物の存否が判定されるようにもしたことにより、トラッキング処理より先のグルーピング処理で得た障害物候補の測定点データ群に係る複数点のデータに戻って存否判定を繰り返すという負担の重い処理を行うことなく、且つ、正確性を犠牲にしがちな障害物検知領域への代表点位置の属否判別処理を行うこともなく、簡便かつ迅速に障害物の存否を判定することができる。そのため、この踏切障害物検知装置では、処理負担の軽い代表点利用のトラッキング処理を行っても、存否判定の負担が重くならず。正確性が損なわれることもない。
【0024】
したがって、この発明によれば、上述した第1,第2技術課題を共に解決することができる。しかも、以下に述べる更なる作用効果をも奏する。すなわち、グルーピング処理等に先だって処理対象の画像データが障害物検知領域に係るものに絞り込まれていることから、障害物が障害物検知領域に対して進入するときも進出するときも、その途中では、障害物候補の測定点データ群が、障害物の全体でなく障害物検知領域に属する部分に限定されるので、障害物検知領域の境界線に張り付いたまま拡縮することとなる。そして、その画像の各部の移動速度をみると、境界線から最も離れてる部分は障害物の速度かそれに近い速度で移動するのに対し、境界線沿い部分はほとんど停止し続けるので、障害物候補の測定点データ群における中心点などの内点は、障害物より遅い速度で移動することになる。
【0025】
一方、カルマンフィルタ等を用いた位置推定や位置予測は、以前の位置と速度などから次の位置を算出することから、一般に不連続な跳躍的速度変化に弱いので、追跡の開始時や終了時の速度変化が緩やかなほど的確に追跡することができるという性質を持っている。そのため、代表点利用のトラッキング処理で追跡する障害物候補の測定点データ群の代表点に測定点データ群の内点を採用することで簡便に、特に内点のうちでも中央位置算出や重心位置算出などで求めた中心点を採用することで簡便かつ的確に、トラッキング処理での追跡能力を高めることができる。
【0026】
また、本発明の踏切障害物検知装置にあっては(解決手段2)、トラッキング処理にて測定点データ群を追跡する際に、測定点データ群に係る速度が遅いときにはトラッキング消滅時素の時間が長くなり、測定点データ群に係る速度が速いときにはトラッキング消滅時素の時間が短くなるようにもしたことにより、例えば高齢者のようにゆっくり移動するため踏切を渡りきるのに時間が係るものについては、しっかり追跡して安全を確保する一方、例えば自動車のように素早く移動していて踏切内にとどまり続けるおそれの無いものについては追跡を早々に切り上げてデータ処理の負担を軽減することができる。
【0027】
さらに、本発明の踏切障害物検知装置にあっては(解決手段3,4)、高齢者等の遅い踏切通行体については安全のためトラッキング消滅時素に基づく追跡延長を行いつつも、自動車等の速い踏切通行体についてはトラッキング消滅時素に基づく追跡延長を省くことで、踏切通行の安全とデータ処理負担の軽減とが高位に達成される。
しかも、それが、トラッキング消滅時素をゼロ時間にすることで、或いはトラッキング消滅時素を無視することで、簡便になされる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施例1について、踏切障害物検知装置の構造を示し、(a)が設置先の踏切道の概要平面図、(b)が踏切障害物検知装置のハードウェアの概要ブロック図、(c)が踏切障害物検知装置のソフトウェアの概要ブロック図である。
図2】(a)が空中伝搬波を平面掃引しているところの模式図、(b)が測定データのイメージ図、(c)が後続処理用データのイメージ図、(d)が測定点データ群の画像イメージ図である。
図3】(a)が追跡情報のイメージ図、(b)が測定点データ群の画像イメージ図、(c)が追跡情報のイメージ図、(d)が測定点データ群の画像イメージ図、(e)が追跡情報のイメージ図である。
図4】(a)〜(f)が測定点データ群と追跡情報のイメージ図、(g)が速度変化例のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
このような本発明の踏切障害物検知装置について、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1〜3により説明する。
図1〜4に示した実施例1は、上述した解決手段1(出願当初の請求項1)を具現化したものであり、図示を割愛した実施例2,3は、上述した解決手段2〜4(出願当初の請求項2〜4)を具現化したものである。
なお、それらの図示に際しては、簡明化等のため、筐体や,フレーム,ボルト等の締結具,電動モータ等の駆動源,ギヤ等の伝動部材,モータドライバ等の電気回路,コントローラ等の電子回路などは図示を割愛し、発明の説明に必要なものや関連するものを中心にブロック図等にて示した。
【実施例1】
【0030】
本発明の踏切障害物検知装置の実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。
図1は、(a)が踏切道4への踏切障害物検知装置10の設置状況を示す概要平面図、(b)が踏切障害物検知装置10のハードウェア構成を示す概要ブロック図、(c)が踏切障害物検知装置10のソフトウェア構成を示す概要ブロック図である。また、図2(a)が空中伝搬波を平面掃引しているところの模式図、図2(b)が測定データのイメージ図、図2(c)が後続処理用データのイメージ図、図2(d)と図3(b)と図3(d)とが測定点データ群の画像イメージ図、図3(a)と図3(c)と図3(e)とが追跡情報のイメージ図である。
【0031】
この踏切障害物検知装置10は(図1(a),(b),特許文献4参照)、先ずハードウェア構成を説明すると、踏切道4の上方であって遮断桿に挟まれる空間領域である障害物検知領域7に向けて赤外線等の空中伝搬波(二点鎖線を参照)を掃引送信しながら反射波を受信して距離と方向とを計測する平面掃引レーダ方式の平面掃引計測部11〜13と、その計測で得られた測定データから障害物検知領域7における障害物の存否を判定する判定プログラム20がインストールされたフェールセーフコンピュータ14とを具えている。
【0032】
平面掃引計測部11〜13は、障害物検知領域7に向けて空中伝搬波の送信と反射波の受信とを行う空中伝搬波送受信部12と、空中伝搬波送受信部12の送信方向を例えば130゜や190゜といった角度範囲内で掃引させる回転機構の回転運動を制御するとともに空中伝搬波の送受信の方向計測を行う又は可能にする回転制御部11と、空中伝搬波送受信部12の送受信信号に基づいて送信位置から反射位置までの距離を計測する信号処理部13とを具えている。この例では、障害物検知領域7の全域を領域分担にて測定するために、二組(複数)の平面掃引計測部11〜13が設けられている。
【0033】
フェールセーフコンピュータ14は、公知品で足りるので(例えば特許文献3,4参照)、それが採用されており、データメモリには、何れも予め設定された定数である検知領域規定データ及びトラッキング消滅時素と、判定プログラム20の実行に伴って変更される変数や配列である測定データと後続処理用データと測定点データ群のデータと追跡情報とを保持するようになっている。
【0034】
判定プログラム20は(図1(c)参照)、要するに測定データ及び検知領域規定データに基づいて障害物の存否判定を行うものであるが、そのために、データ入力プログラム21とデータ限定プログラム22とグルーピングプログラム23とトラッキングプログラム24と最終判定プログラム25とを具備しており、それらをその順に例えば所定周期で繰り返し実行する或いは所定事象発生の度に実行するようになっている。
【0035】
詳述すると、検知領域規定データは、踏切道4に係る障害物検知領域7を規定するものであり、例えば障害物検知領域7の各角の位置の二次元座標を周回順に並べたものであり、座標は直交座標でも良いが極座標の方が平面掃引レーダ方式と相性が良い。
トラッキング消滅時素は、既述のように、追跡対象になっている障害物候補の測定点データ群が消滅した後に追跡情報等を保持し続ける所定時間のことであり、複数の踏切通行体の行き交いによる測定点データ群の合体から分離までの時間などを勘案して決められる。
【0036】
データ入力プログラム21は、平面掃引計測部11〜13が平面掃引での測定を行う度に(図2(a)参照)、それで得られた反射位置の極座標値の集合を平面掃引計測部11〜13から入力して測定データとするものであるが(図1(c),図2(b)参照)、この例では、二組実装されている平面掃引計測部11〜13から同時期・対応時期に得られた二組のデータをマージ(併合)して一組の測定データにするようになっている(図2(a),(b)参照)。
【0037】
この測定データには、障害物検知領域7(図2(a),(b)の一点鎖線を参照)に入っている踏切通行体(図2(a),(b)の三台の車両を参照)の輪郭の画像データ(図2(b)の黒点を参照)が含まれるが、それだけでなく、それらのうち障害物検知領域7からはみ出ている部分や(図2(b)の黒点を参照)、図示は割愛したが障害物検知領域7の外の設備等でも、平面掃引範囲内なら、その画像データが含まれる。
本実施例では、測定データが、距離と方向との組からなる測定点データの連なりであって、距離も方向も測定にて得られる変動値なので、例えば二行N列(Nは正の整数)の配列領域に保持される。
【0038】
データ限定プログラム22は、データ限定処理を実行して検知領域規定データに基づき測定データから後続処理用データを作成するものであるが(図1(c)参照)、その際に、測定データに含まれている画像データの各点のうち(図2(b)の黒点を参照)、障害物検知領域7(図2(b)の一点鎖線を参照)の外に位置しているものを除外することで、測定データの各点のうち障害物検知領域7に属する位置に係るデータに絞り込んだものを後続処理用データに採用するようになっている(図2(c)の黒点を参照)。
この後続処理用データには、障害物検知領域7の境界を跨いでいる物体の場合、領域内の部分の画像データしか含まれない(図2(c)の左右の黒点群を参照)。
【0039】
グルーピングプログラム23は、後続処理用データから障害物候補の測定点データ群を作成する画像内グルーピング処理を実行するものであり(図1(c)参照)、後続処理用データの画像データの各点(図2(c)の黒点を参照)について、近距離のものを次々に纏めて測定点データ群にしたり、更には人や車両など踏切通行体の特徴を考慮した条件に基づいて測定点データ群同士を合体させたりして、障害物候補像となりうる測定点データ群だけを特定し(図2(d)における三つの実線の所や,図3(b)における二つの実線の所を参照)、障害物候補になるような踏切通行体が無ければ直ちに測定点データ群が消滅するようになっている(図3(d)参照)。
【0040】
トラッキングプログラム24は、画像内グルーピング処理で得られた測定点データ群を複数画像間に亘って経時的に追跡するトラッキング処理を実行するものであり(図1(c)参照)、測定点データ群が複数なら、それと同数だけ追跡情報を生成保持して各測定点データ群に割り振ることで、夫々の測定点データ群を個々に追跡するようになっている。
しかも、各測定点データ群について、例えば中央点算出あるいは重心算出といった適宜な演算にて測定点データ群の中心点すくなくとも内点を求め、それを測定点データ群の代表点に採用するようにもなっている(図3(a),(c)の黒点を参照)。
【0041】
また、トラッキングプログラム24は、公知のカルマンフィルタ等の推定演算にて以前の代表点位置等から次の代表点位置を推定することで障害物候補像に係る複数画像間の経時的なトラッキング処理を行うものであり、具体的には、それぞれの追跡情報について、以前の代表点の位置や速度などから例えば一次式のカルマンフィルタにて次の予測位置を算出し、その予測位置から所定範囲に代表点が入っている測定点データ群について、その代表点位置などのグループ特定情報を、該当する追跡情報に含ませるようになっている。
【0042】
ここで、上記の所定範囲は、予め値の設定された予測半径などで決められるが、多用されている等速直線運動モデルでは、予測半径を大きくすると、追跡可能な最大速度も大きくなるという利点がある一方、追跡対象が複数存在しているときに追跡対象の分離性能が低下するという不利益や、追跡すべきでないものまでもが予測半径の内側に入り込んでしまって誤追跡が生じる可能性が高まるという不都合もあるので、それらのバランスを勘案して予測半径の設定値が予め決めらている。
【0043】
さらに、トラッキングプログラム24は、そのようなトラッキング処理を行うに際し、予め値の設定されたトラッキング消滅時素を参照して(図1(c)参照)、その時素の時間に亘って追跡するものとなっている。具体的には、追跡対象の測定点データ群がグルーピング処理で消滅したとき、その測定点データ群に係る追跡情報を直ちに削除するのでなくトラッキング消滅時素が経過するまでは存続させるようになっている。例えば、追跡対象になっている三つの測定点データ群が右方へ移動して(図2(d),図3(a)参照)、右端の測定点データ群が無くなったときでも(図3(b)参照)、トラッキング消滅時素の経過前は右端の測定点データ群の代表点に係る追跡情報が存続し続け(図3(c)参照)、その追跡情報の削除はトラッキング消滅時素の経過後に行われるようになっている。
【0044】
最終判定プログラム25は、障害物検知領域7における障害物の存否を判定するものであるが、その判定処理をトラッキング処理の追跡対象の有無に応じて行うようになっている(図1(c)参照)。具体的には、トラッキングプログラム24が作成した追跡情報が一つでもあれば(図3(a),(c)参照,同図では三個)、障害物検知領域7に障害物が存在すると判定し、そのような追跡情報が全く無ければ(図3(e)参照)、障害物検知領域7に障害物が存在しないと判定するようになっている。
【0045】
この実施例1の踏切障害物検知装置10について、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。
【0046】
図2(a)が、空中伝搬波送受信部12,12にて踏切道4の上方の障害物検知領域7に向けて空中伝搬波を平面掃引している状態を示しており、図2(b)が測定データのイメージ図であり、図2(c)が後続処理用データのイメージ図であり、図2(d)と図3(a)が、当初の測定点データ群と追跡情報のイメージ図であり、図3(b)と(c)が、その後の測定点データ群と追跡情報のイメージ図であり、図3(d)と(e)が、最後の測定点データ群と追跡情報のイメージ図である。また、図4は、(a)〜(f)が何れも測定点データ群と追跡情報とを重ねて示したイメージ図、(g)が踏切道4を通過したときの速度変化状態を示すグラフであり、横軸が時刻で、縦軸が速度である。
【0047】
踏切障害物検知装置10を使用するには(図2(a)参照)、適宜個数(図では二個)の空中伝搬波送受信部12,12を踏切道4に臨ませて設置して、なるべく障害物検知領域7の全域より広い範囲を複数方向(図では対向する二方向)から平面掃引させる。
そうすると、踏切障害物検知装置10では、二組の平面掃引計測部11〜13,11〜13によって平面掃引が繰り返し行なわれ、その度に、踏切道4に通行体があれば(図では三台の車両)、その反射波が検出されて、その反射位置が極座標値で取得され、その極座標値の集合データとして、障害物検知領域7より広い範囲の領域に係る測定データが出来上がる(図2(b)において三台の車両のほぼ全体に係る黒点を参照)。
【0048】
そして、そのような平面掃引による一組・一纏まりの測定データが得られる度に、フェールセーフコンピュータ14によって判定プログラム20が実行される。
その判定手順を詳述すると、先ずデータ入力プログラム21の実行によって測定データがフェールセーフコンピュータ14に取り込まれ、次にデータ限定プログラム22の実行によって測定データから後続処理用データが作成されて、以後の処理対象になる画像データが障害物検知領域7に属するものに絞り込まれる(図2(c)において右側の車両の後端部分と中央の車両の全体と左側の車両の前端部分とに係る黒点を参照)。
【0049】
このように、判定処理の初期段階で、障害物候補を含んだ画像データが限定されることから、後続のデータ処理の負荷が軽減される。
それから、グルーピングプログラム23の実行によって画像内グルーピング処理が行われて、後続処理用データから障害物候補の測定点データ群のデータが作成される(図2(d)において、右側の車両の後端周縁部分に係る匚の字状の実線と、中央の車両の全周に係る口の字状の実線と、左側の車両の前端周縁部分に係るコの字状の実線とを参照)。
【0050】
さらに、トラッキングプログラム24の実行によって、それぞれの測定点データ群について、経時的な追跡のために代表点が選定されるとともに、その経時的な追跡に用いる追跡情報が一つ(一組)ずつ作成される(図3(a)における三つの黒点を参照)。
新たな測定点データ群が追跡対象に加わる度に追跡情報が追加され、それぞれの追跡情報には、例えば追跡対象の測定点データ群の代表点の位置データやその変化から算出した速度データ等が含められる。追跡対象が消滅すると、対応する追跡情報は削除される。そのため、追跡対象が全く無いときは、追跡情報も完全に無くなる(図3(e)参照)。
【0051】
それから、最終判定プログラム25の実行によって、追跡情報が一つ(一組)でも有れば、踏切道4に障害物が存在しているという判定がなされる。追跡情報の有無は、追跡情報を管理するため情報たとえば追跡情報個数データや一つ目の追跡情報の有無マーク等が有ればそのうち何れか一つを参照するだけで迅速かつ的確に確認することができる。
そのため、総ての追跡情報について追跡対象の測定点データ群やその代表点が障害物検知領域7に属しているか否かを判別してからでないと下せなかった障害物不存在の判定が、この踏切障害物検知装置10にあっては軽負荷で速やかに出される。そして、この判定結果は、踏切制御装置等に送られて、特殊信号発光機への警報出力などに利用される。
【0052】
こうして、平面掃引計測部11〜13によって踏切道4に対する平面掃引と反射波測定とが行われる度に、その測定データに係る障害物検知領域7へのデータ限定処理とグルーピング処理とトラッキング処理と障害物存否判定処理とがフェールセーフコンピュータ14によって行われ、さらに、それらが所定周期等で繰り返えされる。そして、それらの処理のうち平面掃引からグルーピング処理までは、その時々の通行状態や画像データによって処理結果の測定点データ群が一意に定まるが、後続のトラッキング処理では、複数画像間での経時的な追跡に際して、測定点データ群の代表点の位置がトラッキング消滅時素の時間に亘って追跡されるため、測定点データ群の消滅後も暫くは追跡情報が存続する。
【0053】
例えば、三台の車両に係る三つの測定点データ群を追跡しているときには(図2(d),図3(a)の右側のイメージの黒点を参照)、測定点データ群のデータも追跡情報のデータも三組ずつ保持されているが(図2(d),図3(a)の左側のブロックを参照)、三台の車両が左から右へ移動して右方の車両が障害物検知領域7を抜け出すと、測定点データ群は直ちに障害物検知領域7に残っている中央の車両と少なくとも一部が掛かっている左方の車両に係る二つになるのに対し(図3(b)の右側のイメージの実線を参照)、追跡情報については、トラッキング消滅時素が経過するまでは右方の車両に係るものも維持される(図3(c)における右側のイメージの黒点と左側のブロックとを参照)。
【0054】
そして、その追跡についてトラッキング消滅時素が経過すると、追跡情報も障害物検知領域7に係る二台の車両に係る二つになる(図示せず)。
こうして、踏切通行体が障害物検知領域7を出たことが、入念に確認される。また、図示は割愛したが、複数の踏切通行体に係る複数の測定点データ群に、踏切通行体の行き交い等に応じて合併や分離が生じた場合にも、合併から分離までの時間がトラッキング消滅時素より短かければ、合併による画像の大きな変化にも乱されることなく的確に障害物候補像に係る複数画像間の経時的な追跡が遂行される。
その後、総ての踏切通行体が障害物検知領域7を出ると、測定点データ群が無くなり(図3(d)参照)、更にそれからトラッキング消滅時素が経過すると、追跡情報も無くなって(図3(e)参照)、障害物検知領域7に障害物の存在しないことが判明する。
【0055】
さらに(図4参照)、代表点利用のトラッキング処理で追跡する障害物候補の測定点データ群の代表点に測定点データ群の内点を採用することと、等速直線運動モデルを用いたカルマンフィルタ等で測定点データ群の位置を予測することとの組み合わせについても、上述のような車両が一台だけ左方から右方へ一定の速度Vで障害物検知領域7を通過するときの状況を具体例に挙げて、説明する(なお、図4(a)〜(f)では、測定点データ群と代表点とを同じ画像イメージ図に重ねて図示したが、それらは測定点データ群のデータと追跡情報のデータとを直感的なイメージで表現したものである)。
【0056】
この場合、測定点データ群とその代表点は、障害物検知領域7の左端から進入している車両の前端部に係るものから始まり(図4(a)参照)、順次、車両の前端部から中央部まで延伸したにものになり(図4(b)参照)、車両の全体に係るものになり(図4(c)参照)、車両の全体に係るもののまま障害物検知領域7の中で左から右へ移動し(図4(d)参照)、障害物検知領域7の右端から進出し始めた車両の中央部と後端部に係るものになり(図4(e)参照)、車両の後端部だけに減縮したものになり(図4(f)参照)、最後は消滅する(図3(d),(e)参照)。
【0057】
そのような車両の移動に応じた測定点データ群とその代表点の位置変化と速度変化とを、簡明化のため代表点が何時も測定点データ群の中心に来ているとして、追って見ると(図4(g)参照)、車両の無いときには速度が“0”であり(図4(g)の太い実線グラフの時刻t1箇所を参照)、そこから始まって車両の進入中は(図4(a),(b)参照)、代表点の速度が障害物検知領域7の静止左端の速度“0”と車両の前端速度Vとの中間速度V/2になり(図4(g)の太い実線グラフの時刻t1〜t2部分を参照)、車両が障害物検知領域7に収まっている間は(図4(c),(d)参照)、代表点の速度が車両と同じ速度Vになる(図4(g)の太い実線グラフの時刻t2〜t3部分を参照)。
【0058】
さらに、車両の進出中は(図4(e),(f)参照)、代表点の速度が車両の後端速度Vと障害物検知領域7の静止右端の速度“0”との中間速度V/2になり(図4(g)の太い実線グラフの時刻t3〜t4部分を参照)、車両の進出後は代表点の速度が“0”に戻る(図4(g)の太い実線グラフの時刻t4箇所を参照)。
そして、このように、車両速度が単一の速度Vであっても、代表点の速度は領域内不存在時と領域進入出時と領域内存在時とに分割されて、代表点の速度の不連続的な変化が半分のV/2にとどめられることから、トラッキング速度等の追跡状態が安定する(図4(g)の一点鎖線を参照)。
【0059】
これに対し、測定データの障害物検知領域内限定を画像内グルーピング処理より前に済ませておく踏切障害物検知装置10と異なり、測定データの障害物検知領域内限定を行わないか行っても時期の遅い踏切障害物検知装置の場合、トラッキング処理における代表点の速度もその不連続的な変化も車両速度と同じVになることから(図4(g)の破線グラフ参照)、カルマンフィルタ等を用いた位置推定の確度が低いままなので(図4(g)の二点鎖線を参照)、トラッキング速度等の追跡状態が安定しにくいことになる。
そのため、踏切障害物検知装置10は、データ限定を適宜なタイミングで行う簡便な手法にて不連続な跳躍的速度変化の悪影響を緩和することによりトラッキング処理での追跡能力を高めたものになっている、と言える。
【実施例2】
【0060】
図示は割愛したが、実施例2の踏切障害物検知装置が上述した踏切障害物検知装置10と相違するのは、トラッキングプログラム24の処理のうち、トラッキング消滅時素を用いる部分が変更されている点である。
具体的には、一般に健常者の平均歩行速度とされる時速4Kmかそれに近い切道上の物体移動速度を測定データにおける測定点データ群の代表点の移動速度に換算した値が所定速度として予め設定されるとともに、トラッキング処理のときには測定点データ群に係る速度が上記の所定速度より遅いときには実施例1のときと同じく追跡対象の測定点データ群のグルーピング処理での消滅後もトラッキング消滅時素の経過前は追跡情報を存続させるが、測定点データ群に係る速度が上記の所定速度より速いときには、実施例1のときと異なり、トラッキング消滅時素を無視して、追跡対象の測定点データ群がグルーピング処理で消滅すると、速やかに、対応する追跡情報を消滅させるようになっている。
【実施例3】
【0061】
同じく図示は割愛したが、実施例3の踏切障害物検知装置が上述した踏切障害物検知装置10と相違するのは、やはりトラッキング消滅時素を用いるトラッキング処理部分が変更されている点である。
具体的には、トラッキング消滅時素が一つだけでなく複数化されて個々の測定点データ群に一つずつ対応づけられるようになっている。また、トラッキング処理のときには、追跡対象の測定点データ群それぞれについて個別にトラッキング消滅時素を変更するようになっているが、その変更処理は、該当する測定点データ群の代表点の移動速度が遅くなるとトラッキング消滅時素の値が増加するか少なくとも現状を維持し、該当する測定点データ群の代表点の移動速度が速くなるとトラッキング消滅時素の値が減少するか少なくとも現状を維持するように行われる。さらに、個々の測定点データ群について、代表点の移動速度が実施例2の所定速度より速いときには、該当するトラッキング消滅時素の値をクリアしてゼロ時間にすることで、容易かつ迅速に、トラッキング消滅時素に基づく追跡延長を省くようにもなっている。
【0062】
[その他]
上記実施例では、障害物検知領域7が一つしか規定されていなかったが、並走する線路数が多くて一つの踏切道に係る障害物検知領域がとても長い場合など、障害物検知領域を重複しない又は重複する幾つかの部分領域に分割しても良い。
その場合、例えば最終判定プログラム25を中間判定プログラムと判定統合プログラムとに分けるといったことで、比較的容易にソフトウェアで対処することができる。
【0063】
上記実施例では、一つの踏切通行体について一つの測定点データ群が選出される状況を述べたが、一つの踏切通行体について複数の測定点データ群が選出されることも希ではない。例えば、踏切通行体の前後の部分は明瞭に検出されるが中間部が不明瞭な場合や、踏切通行体の左右を別の空中伝搬波送受信部12,12で平面掃引した両画像が踏切通行体の前後の所で離れてしまった場合など、測定点データ群が複数になりやすい。また、二つの踏切通行体が接近した場合など、複数の踏切通行体について測定点データ群が一つしか選出されない場合もある。何れにしても、測定点データ群が一つでも有れば、障害物が存在するという安全側の判定が出るので、データ処理量の多寡は別として、不都合はない。
【0064】
上記実施例では、測定点データの距離も方向も変動値であり、それを連ねた測定データが二行N列の配列領域に保持されるようになっていたが、平面掃引計測部11〜13で掃引計測する方向が予め決まっている場合、例えば計測開始方向が既知の固定方向であり且つその後の方向差分も既知であるような場合、測定データのうち方向に係る既知データの部分は一行N列の常数テーブル等に保持させるとともに、測定データのうち距離に係る変動データの部分については、一つの既知方向に係る距離測定値からなる測距点データを、N個の既知方向に連ねて測距データとし、それを一行N列の配列領域に保持させるようにしても良い。これにより、二次元のマトリクスとしてデータ処理される測定点データ群などが、一次元のベクトルとしてデータ処理される謂わば測距点群などになるので、フェールセーフコンピュータ14の負担が一段と軽減されることになる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の踏切障害物検知装置は、障害物のみ検出するものに適用が限定される訳でなく、障害にはならない状況での踏切通行体の検出や、列車の検出など、障害物に加えて他のものまで検出するものにも、適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
4…踏切道、7…障害物検知領域(監視領域)、
10…踏切障害物検知装置、
11〜13…平面掃引計測部、11…回転制御部、
12…空中伝搬波送受信部、13…信号処理部、14…フェールセーフコンピュータ、
20…判定プログラム、
21…データ入力プログラム、22…データ限定プログラム、
23…グルーピングプログラム(画像内グルーピング処理)、
24…トラッキングプログラム(経時的トラッキング処理)、
25…最終判定プログラム
図1
図2
図3
図4