【実施例1】
【0030】
本発明の踏切障害物検知装置の実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。
図1は、(a)が踏切道4への踏切障害物検知装置10の設置状況を示す概要平面図、(b)が踏切障害物検知装置10のハードウェア構成を示す概要ブロック図、(c)が踏切障害物検知装置10のソフトウェア構成を示す概要ブロック図である。また、
図2(a)が空中伝搬波を平面掃引しているところの模式図、
図2(b)が測定データのイメージ図、
図2(c)が後続処理用データのイメージ図、
図2(d)と
図3(b)と
図3(d)とが測定点データ群の画像イメージ図、
図3(a)と
図3(c)と
図3(e)とが追跡情報のイメージ図である。
【0031】
この踏切障害物検知装置10は(
図1(a),(b),特許文献4参照)、先ずハードウェア構成を説明すると、踏切道4の上方であって遮断桿に挟まれる空間領域である障害物検知領域7に向けて赤外線等の空中伝搬波(二点鎖線を参照)を掃引送信しながら反射波を受信して距離と方向とを計測する平面掃引レーダ方式の平面掃引計測部11〜13と、その計測で得られた測定データから障害物検知領域7における障害物の存否を判定する判定プログラム20がインストールされたフェールセーフコンピュータ14とを具えている。
【0032】
平面掃引計測部11〜13は、障害物検知領域7に向けて空中伝搬波の送信と反射波の受信とを行う空中伝搬波送受信部12と、空中伝搬波送受信部12の送信方向を例えば130゜や190゜といった角度範囲内で掃引させる回転機構の回転運動を制御するとともに空中伝搬波の送受信の方向計測を行う又は可能にする回転制御部11と、空中伝搬波送受信部12の送受信信号に基づいて送信位置から反射位置までの距離を計測する信号処理部13とを具えている。この例では、障害物検知領域7の全域を領域分担にて測定するために、二組(複数)の平面掃引計測部11〜13が設けられている。
【0033】
フェールセーフコンピュータ14は、公知品で足りるので(例えば特許文献3,4参照)、それが採用されており、データメモリには、何れも予め設定された定数である検知領域規定データ及びトラッキング消滅時素と、判定プログラム20の実行に伴って変更される変数や配列である測定データと後続処理用データと測定点データ群のデータと追跡情報とを保持するようになっている。
【0034】
判定プログラム20は(
図1(c)参照)、要するに測定データ及び検知領域規定データに基づいて障害物の存否判定を行うものであるが、そのために、データ入力プログラム21とデータ限定プログラム22とグルーピングプログラム23とトラッキングプログラム24と最終判定プログラム25とを具備しており、それらをその順に例えば所定周期で繰り返し実行する或いは所定事象発生の度に実行するようになっている。
【0035】
詳述すると、検知領域規定データは、踏切道4に係る障害物検知領域7を規定するものであり、例えば障害物検知領域7の各角の位置の二次元座標を周回順に並べたものであり、座標は直交座標でも良いが極座標の方が平面掃引レーダ方式と相性が良い。
トラッキング消滅時素は、既述のように、追跡対象になっている障害物候補の測定点データ群が消滅した後に追跡情報等を保持し続ける所定時間のことであり、複数の踏切通行体の行き交いによる測定点データ群の合体から分離までの時間などを勘案して決められる。
【0036】
データ入力プログラム21は、平面掃引計測部11〜13が平面掃引での測定を行う度に(
図2(a)参照)、それで得られた反射位置の極座標値の集合を平面掃引計測部11〜13から入力して測定データとするものであるが(
図1(c),
図2(b)参照)、この例では、二組実装されている平面掃引計測部11〜13から同時期・対応時期に得られた二組のデータをマージ(併合)して一組の測定データにするようになっている(
図2(a),(b)参照)。
【0037】
この測定データには、障害物検知領域7(
図2(a),(b)の一点鎖線を参照)に入っている踏切通行体(
図2(a),(b)の三台の車両を参照)の輪郭の画像データ(
図2(b)の黒点を参照)が含まれるが、それだけでなく、それらのうち障害物検知領域7からはみ出ている部分や(
図2(b)の黒点を参照)、図示は割愛したが障害物検知領域7の外の設備等でも、平面掃引範囲内なら、その画像データが含まれる。
本実施例では、測定データが、距離と方向との組からなる測定点データの連なりであって、距離も方向も測定にて得られる変動値なので、例えば二行N列(Nは正の整数)の配列領域に保持される。
【0038】
データ限定プログラム22は、データ限定処理を実行して検知領域規定データに基づき測定データから後続処理用データを作成するものであるが(
図1(c)参照)、その際に、測定データに含まれている画像データの各点のうち(
図2(b)の黒点を参照)、障害物検知領域7(
図2(b)の一点鎖線を参照)の外に位置しているものを除外することで、測定データの各点のうち障害物検知領域7に属する位置に係るデータに絞り込んだものを後続処理用データに採用するようになっている(
図2(c)の黒点を参照)。
この後続処理用データには、障害物検知領域7の境界を跨いでいる物体の場合、領域内の部分の画像データしか含まれない(
図2(c)の左右の黒点群を参照)。
【0039】
グルーピングプログラム23は、後続処理用データから障害物候補の測定点データ群を作成する画像内グルーピング処理を実行するものであり(
図1(c)参照)、後続処理用データの画像データの各点(
図2(c)の黒点を参照)について、近距離のものを次々に纏めて測定点データ群にしたり、更には人や車両など踏切通行体の特徴を考慮した条件に基づいて測定点データ群同士を合体させたりして、障害物候補像となりうる測定点データ群だけを特定し(
図2(d)における三つの実線の所や,
図3(b)における二つの実線の所を参照)、障害物候補になるような踏切通行体が無ければ直ちに測定点データ群が消滅するようになっている(
図3(d)参照)。
【0040】
トラッキングプログラム24は、画像内グルーピング処理で得られた測定点データ群を複数画像間に亘って経時的に追跡するトラッキング処理を実行するものであり(
図1(c)参照)、測定点データ群が複数なら、それと同数だけ追跡情報を生成保持して各測定点データ群に割り振ることで、夫々の測定点データ群を個々に追跡するようになっている。
しかも、各測定点データ群について、例えば中央点算出あるいは重心算出といった適宜な演算にて測定点データ群の中心点すくなくとも内点を求め、それを測定点データ群の代表点に採用するようにもなっている(
図3(a),(c)の黒点を参照)。
【0041】
また、トラッキングプログラム24は、公知のカルマンフィルタ等の推定演算にて以前の代表点位置等から次の代表点位置を推定することで障害物候補像に係る複数画像間の経時的なトラッキング処理を行うものであり、具体的には、それぞれの追跡情報について、以前の代表点の位置や速度などから例えば一次式のカルマンフィルタにて次の予測位置を算出し、その予測位置から所定範囲に代表点が入っている測定点データ群について、その代表点位置などのグループ特定情報を、該当する追跡情報に含ませるようになっている。
【0042】
ここで、上記の所定範囲は、予め値の設定された予測半径などで決められるが、多用されている等速直線運動モデルでは、予測半径を大きくすると、追跡可能な最大速度も大きくなるという利点がある一方、追跡対象が複数存在しているときに追跡対象の分離性能が低下するという不利益や、追跡すべきでないものまでもが予測半径の内側に入り込んでしまって誤追跡が生じる可能性が高まるという不都合もあるので、それらのバランスを勘案して予測半径の設定値が予め決めらている。
【0043】
さらに、トラッキングプログラム24は、そのようなトラッキング処理を行うに際し、予め値の設定されたトラッキング消滅時素を参照して(
図1(c)参照)、その時素の時間に亘って追跡するものとなっている。具体的には、追跡対象の測定点データ群がグルーピング処理で消滅したとき、その測定点データ群に係る追跡情報を直ちに削除するのでなくトラッキング消滅時素が経過するまでは存続させるようになっている。例えば、追跡対象になっている三つの測定点データ群が右方へ移動して(
図2(d),
図3(a)参照)、右端の測定点データ群が無くなったときでも(
図3(b)参照)、トラッキング消滅時素の経過前は右端の測定点データ群の代表点に係る追跡情報が存続し続け(
図3(c)参照)、その追跡情報の削除はトラッキング消滅時素の経過後に行われるようになっている。
【0044】
最終判定プログラム25は、障害物検知領域7における障害物の存否を判定するものであるが、その判定処理をトラッキング処理の追跡対象の有無に応じて行うようになっている(
図1(c)参照)。具体的には、トラッキングプログラム24が作成した追跡情報が一つでもあれば(
図3(a),(c)参照,同図では三個)、障害物検知領域7に障害物が存在すると判定し、そのような追跡情報が全く無ければ(
図3(e)参照)、障害物検知領域7に障害物が存在しないと判定するようになっている。
【0045】
この実施例1の踏切障害物検知装置10について、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。
【0046】
図2(a)が、空中伝搬波送受信部12,12にて踏切道4の上方の障害物検知領域7に向けて空中伝搬波を平面掃引している状態を示しており、
図2(b)が測定データのイメージ図であり、
図2(c)が後続処理用データのイメージ図であり、
図2(d)と
図3(a)が、当初の測定点データ群と追跡情報のイメージ図であり、
図3(b)と(c)が、その後の測定点データ群と追跡情報のイメージ図であり、
図3(d)と(e)が、最後の測定点データ群と追跡情報のイメージ図である。また、
図4は、(a)〜(f)が何れも測定点データ群と追跡情報とを重ねて示したイメージ図、(g)が踏切道4を通過したときの速度変化状態を示すグラフであり、横軸が時刻で、縦軸が速度である。
【0047】
踏切障害物検知装置10を使用するには(
図2(a)参照)、適宜個数(図では二個)の空中伝搬波送受信部12,12を踏切道4に臨ませて設置して、なるべく障害物検知領域7の全域より広い範囲を複数方向(図では対向する二方向)から平面掃引させる。
そうすると、踏切障害物検知装置10では、二組の平面掃引計測部11〜13,11〜13によって平面掃引が繰り返し行なわれ、その度に、踏切道4に通行体があれば(図では三台の車両)、その反射波が検出されて、その反射位置が極座標値で取得され、その極座標値の集合データとして、障害物検知領域7より広い範囲の領域に係る測定データが出来上がる(
図2(b)において三台の車両のほぼ全体に係る黒点を参照)。
【0048】
そして、そのような平面掃引による一組・一纏まりの測定データが得られる度に、フェールセーフコンピュータ14によって判定プログラム20が実行される。
その判定手順を詳述すると、先ずデータ入力プログラム21の実行によって測定データがフェールセーフコンピュータ14に取り込まれ、次にデータ限定プログラム22の実行によって測定データから後続処理用データが作成されて、以後の処理対象になる画像データが障害物検知領域7に属するものに絞り込まれる(
図2(c)において右側の車両の後端部分と中央の車両の全体と左側の車両の前端部分とに係る黒点を参照)。
【0049】
このように、判定処理の初期段階で、障害物候補を含んだ画像データが限定されることから、後続のデータ処理の負荷が軽減される。
それから、グルーピングプログラム23の実行によって画像内グルーピング処理が行われて、後続処理用データから障害物候補の測定点データ群のデータが作成される(
図2(d)において、右側の車両の後端周縁部分に係る匚の字状の実線と、中央の車両の全周に係る口の字状の実線と、左側の車両の前端周縁部分に係るコの字状の実線とを参照)。
【0050】
さらに、トラッキングプログラム24の実行によって、それぞれの測定点データ群について、経時的な追跡のために代表点が選定されるとともに、その経時的な追跡に用いる追跡情報が一つ(一組)ずつ作成される(
図3(a)における三つの黒点を参照)。
新たな測定点データ群が追跡対象に加わる度に追跡情報が追加され、それぞれの追跡情報には、例えば追跡対象の測定点データ群の代表点の位置データやその変化から算出した速度データ等が含められる。追跡対象が消滅すると、対応する追跡情報は削除される。そのため、追跡対象が全く無いときは、追跡情報も完全に無くなる(
図3(e)参照)。
【0051】
それから、最終判定プログラム25の実行によって、追跡情報が一つ(一組)でも有れば、踏切道4に障害物が存在しているという判定がなされる。追跡情報の有無は、追跡情報を管理するため情報たとえば追跡情報個数データや一つ目の追跡情報の有無マーク等が有ればそのうち何れか一つを参照するだけで迅速かつ的確に確認することができる。
そのため、総ての追跡情報について追跡対象の測定点データ群やその代表点が障害物検知領域7に属しているか否かを判別してからでないと下せなかった障害物不存在の判定が、この踏切障害物検知装置10にあっては軽負荷で速やかに出される。そして、この判定結果は、踏切制御装置等に送られて、特殊信号発光機への警報出力などに利用される。
【0052】
こうして、平面掃引計測部11〜13によって踏切道4に対する平面掃引と反射波測定とが行われる度に、その測定データに係る障害物検知領域7へのデータ限定処理とグルーピング処理とトラッキング処理と障害物存否判定処理とがフェールセーフコンピュータ14によって行われ、さらに、それらが所定周期等で繰り返えされる。そして、それらの処理のうち平面掃引からグルーピング処理までは、その時々の通行状態や画像データによって処理結果の測定点データ群が一意に定まるが、後続のトラッキング処理では、複数画像間での経時的な追跡に際して、測定点データ群の代表点の位置がトラッキング消滅時素の時間に亘って追跡されるため、測定点データ群の消滅後も暫くは追跡情報が存続する。
【0053】
例えば、三台の車両に係る三つの測定点データ群を追跡しているときには(
図2(d),
図3(a)の右側のイメージの黒点を参照)、測定点データ群のデータも追跡情報のデータも三組ずつ保持されているが(
図2(d),
図3(a)の左側のブロックを参照)、三台の車両が左から右へ移動して右方の車両が障害物検知領域7を抜け出すと、測定点データ群は直ちに障害物検知領域7に残っている中央の車両と少なくとも一部が掛かっている左方の車両に係る二つになるのに対し(
図3(b)の右側のイメージの実線を参照)、追跡情報については、トラッキング消滅時素が経過するまでは右方の車両に係るものも維持される(
図3(c)における右側のイメージの黒点と左側のブロックとを参照)。
【0054】
そして、その追跡についてトラッキング消滅時素が経過すると、追跡情報も障害物検知領域7に係る二台の車両に係る二つになる(図示せず)。
こうして、踏切通行体が障害物検知領域7を出たことが、入念に確認される。また、図示は割愛したが、複数の踏切通行体に係る複数の測定点データ群に、踏切通行体の行き交い等に応じて合併や分離が生じた場合にも、合併から分離までの時間がトラッキング消滅時素より短かければ、合併による画像の大きな変化にも乱されることなく的確に障害物候補像に係る複数画像間の経時的な追跡が遂行される。
その後、総ての踏切通行体が障害物検知領域7を出ると、測定点データ群が無くなり(
図3(d)参照)、更にそれからトラッキング消滅時素が経過すると、追跡情報も無くなって(
図3(e)参照)、障害物検知領域7に障害物の存在しないことが判明する。
【0055】
さらに(
図4参照)、代表点利用のトラッキング処理で追跡する障害物候補の測定点データ群の代表点に測定点データ群の内点を採用することと、等速直線運動モデルを用いたカルマンフィルタ等で測定点データ群の位置を予測することとの組み合わせについても、上述のような車両が一台だけ左方から右方へ一定の速度Vで障害物検知領域7を通過するときの状況を具体例に挙げて、説明する(なお、
図4(a)〜(f)では、測定点データ群と代表点とを同じ画像イメージ図に重ねて図示したが、それらは測定点データ群のデータと追跡情報のデータとを直感的なイメージで表現したものである)。
【0056】
この場合、測定点データ群とその代表点は、障害物検知領域7の左端から進入している車両の前端部に係るものから始まり(
図4(a)参照)、順次、車両の前端部から中央部まで延伸したにものになり(
図4(b)参照)、車両の全体に係るものになり(
図4(c)参照)、車両の全体に係るもののまま障害物検知領域7の中で左から右へ移動し(
図4(d)参照)、障害物検知領域7の右端から進出し始めた車両の中央部と後端部に係るものになり(
図4(e)参照)、車両の後端部だけに減縮したものになり(
図4(f)参照)、最後は消滅する(
図3(d),(e)参照)。
【0057】
そのような車両の移動に応じた測定点データ群とその代表点の位置変化と速度変化とを、簡明化のため代表点が何時も測定点データ群の中心に来ているとして、追って見ると(
図4(g)参照)、車両の無いときには速度が“0”であり(
図4(g)の太い実線グラフの時刻t1箇所を参照)、そこから始まって車両の進入中は(
図4(a),(b)参照)、代表点の速度が障害物検知領域7の静止左端の速度“0”と車両の前端速度Vとの中間速度V/2になり(
図4(g)の太い実線グラフの時刻t1〜t2部分を参照)、車両が障害物検知領域7に収まっている間は(
図4(c),(d)参照)、代表点の速度が車両と同じ速度Vになる(
図4(g)の太い実線グラフの時刻t2〜t3部分を参照)。
【0058】
さらに、車両の進出中は(
図4(e),(f)参照)、代表点の速度が車両の後端速度Vと障害物検知領域7の静止右端の速度“0”との中間速度V/2になり(
図4(g)の太い実線グラフの時刻t3〜t4部分を参照)、車両の進出後は代表点の速度が“0”に戻る(
図4(g)の太い実線グラフの時刻t4箇所を参照)。
そして、このように、車両速度が単一の速度Vであっても、代表点の速度は領域内不存在時と領域進入出時と領域内存在時とに分割されて、代表点の速度の不連続的な変化が半分のV/2にとどめられることから、トラッキング速度等の追跡状態が安定する(
図4(g)の一点鎖線を参照)。
【0059】
これに対し、測定データの障害物検知領域内限定を画像内グルーピング処理より前に済ませておく踏切障害物検知装置10と異なり、測定データの障害物検知領域内限定を行わないか行っても時期の遅い踏切障害物検知装置の場合、トラッキング処理における代表点の速度もその不連続的な変化も車両速度と同じVになることから(
図4(g)の破線グラフ参照)、カルマンフィルタ等を用いた位置推定の確度が低いままなので(
図4(g)の二点鎖線を参照)、トラッキング速度等の追跡状態が安定しにくいことになる。
そのため、踏切障害物検知装置10は、データ限定を適宜なタイミングで行う簡便な手法にて不連続な跳躍的速度変化の悪影響を緩和することによりトラッキング処理での追跡能力を高めたものになっている、と言える。