特許第6851204号(P6851204)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6851204
(24)【登録日】2021年3月11日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】磁心、インダクタ、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/255 20060101AFI20210322BHJP
   H01F 3/08 20060101ALI20210322BHJP
   H01F 1/24 20060101ALI20210322BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   H01F27/255
   H01F3/08
   H01F1/24
   H01F41/02 D
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-5750(P2017-5750)
(22)【出願日】2017年1月17日
(65)【公開番号】特開2018-117004(P2018-117004A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【代理人】
【識別番号】100129023
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 敬
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 健一
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 駿
(72)【発明者】
【氏名】嶋 博司
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 博行
【審査官】 久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−168038(JP,A)
【文献】 特開2016−171160(JP,A)
【文献】 特開2013−051276(JP,A)
【文献】 特開平08−213719(JP,A)
【文献】 特開平06−325978(JP,A)
【文献】 特開2005−269599(JP,A)
【文献】 特開2012−129352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/12−1/38、3/00−3/14
H01F 17/00−19/08、27/24−27/26
H01F 30/00−38/12、38/16、38/42
H01F 41/00−41/02
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
扁平状の軟磁性金属粉末を、酸化ケイ素を主成分とするバインダで結着させた複合磁性体のシートを複数枚重ねて加圧して得られた積層体を切断した個片からなり、前記複合磁性体は、60体積%以上の前記軟磁性金属粉末と、10体積%以上、30体積%以下の前記バインダと、10体積%以上、25体積%以下の空孔を含み、前記個片は、弾性を備えると共に多面体の形状を有し、前記多面体の少なくとも一部の稜線部と角部は丸み付けされ、丸み付けされた前記角部の全体の前記軟磁性金属粉末の端部は、該軟磁性金属粉末が剥離や脱落しない程度に前記個片の積層面に対して平行からずれるように褶曲していることを特徴とする磁心。
【請求項2】
前記丸み付けされた部位の曲率半径が0.15mm以上であることを特徴とする、請求項1に記載の磁心。
【請求項3】
前記丸み付けされた部位の曲率半径が0.3mm以上、0.8mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の磁心。
【請求項4】
前記磁心は、ISO7619−typeDによるゴム硬度が92以上、96以下である、請求項1乃至請求項のいずれかに記載の磁心。
【請求項5】
前記磁心の電気抵抗率が、10KΩ・cm以上である、請求項1乃至請求項のいずれかに記載の磁心。
【請求項6】
前記空孔の少なくとも一部に、熱可塑性または熱硬化性樹脂が含浸している、請求項1乃至請求項のいずれかに記載の磁心。
【請求項7】
前記磁心は、前記多面体の対向する二面を貫通する貫通部を、1つ以上備えることを特徴とする、請求項1乃至請求項のいずれかに記載の磁心。
【請求項8】
前記多面体の対向する二面と前記貫通部を経て接続されるコイルを備える、請求項に記載の磁心を用いたインダクタ。
【請求項9】
扁平状の軟磁性金属粉末を、酸化ケイ素を主成分とするバインダで結着させた複合磁性体のシートを複数枚重ねて加圧して得られた積層体を切断した個片からなり、前記複合磁性体は、60体積%以上の前記軟磁性金属粉末と、10体積%以上、30体積%以下の前記バインダと、10体積%以上、25体積%以下の空孔を含み、前記個片は、弾性を備えると共に多面体の形状を有し、前記多面体の少なくとも一部の稜線部と角部は丸み付けされ、丸み付けされた前記角部の全体の前記軟磁性金属粉末の端部は、該軟磁性金属粉末が剥離や脱落しない程度に前記個片の積層面に対して平行からずれるように褶曲している磁心の製造方法であって、前記軟磁性金属粉末と前記バインダを混合して前記複合磁性体を調整する工程と、前記複合磁性体のシートを複数枚重ねて加圧して、前記積層体を得る工程と、前記複合磁性体の積層体を円盤状の砥石を回転させて前記個片に切断する工程と、前記積層体の切断により前記軟磁性金属粉末が積み重なった構造の断面が露出した前記個片の少なくとも一部の前記稜線部と前記角部を研磨加工により丸み付けする工程と、前記研磨加工を施した前記複合磁性体の前記バインダの揮発成分を、熱処理により除去する工程を含むことを特徴とする、磁心の製造方法。
【請求項10】
扁平状の軟磁性金属粉末を、酸化ケイ素を主成分とするバインダで結着させた複合磁性体のシートを複数枚重ねて加圧して得られた積層体を切断した個片からなり、前記複合磁性体は、60体積%以上の前記軟磁性金属粉末と、10体積%以上、30体積%以下の前記バインダと、10体積%以上、25体積%以下の空孔を含み、前記個片は、弾性を備えると共に多面体の形状を有し、前記多面体の少なくとも一部の稜線部と角部は丸み付けされ、丸み付けされた前記角部の全体の前記軟磁性金属粉末の端部は、該軟磁性金属粉末が剥離や脱落しない程度に前記個片の積層面に対して平行からずれるように褶曲している磁心の製造方法であって、前記軟磁性金属粉末と前記バインダを混合して前記複合磁性体を調整する工程と、前記複合磁性体のシートを複数枚重ねて加圧して、前記積層体を得る工程と、前記複合磁性体の積層体の対向する二面を貫通する貫通部を1つ以上設ける工程と、前記複合磁性体の積層体を円盤状の砥石を回転させて前記個片に切断する工程と、前記積層体の切断により前記軟磁性金属粉末が積み重なった構造の断面が露出した前記個片の少なくとも一部の前記稜線部と前記角部を研磨加工により丸み付けする工程と、前記研磨加工を施した前記複合磁性体の前記バインダの揮発成分を、熱処理により除去する工程を含むことを特徴とする、磁心の製造方法。
【請求項11】
請求項に記載の磁心の製造方法を用いて製造した磁心に導体を巻回してコイルを形成すること特徴とする、インダクタの製造方法。
【請求項12】
請求項10に記載の磁心の製造方法を用いて製造した磁心の対向する二面と前記貫通部を経て導体を接続してコイルを形成すること特徴とする、インダクタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種電子機器に用いられる磁心、インダクタ、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器は小型化、低電圧化が求められており、回路基板に搭載される電子部品、特に電力供給系における半導体素子やインダクタ等は、必然的に大電流化への対応と更なる耐熱性の向上が重要視されている。
【0003】
このような要求に応える電子部品の一つとして、特許文献1のような構成のインダクタが知られている。特許文献1には、扁平形状を有する軟磁性金属粉末をバインダ成分によって結着させ、弾性を備えた磁性体を磁心とするインダクタおよびその製造方法が開示されている。
【0004】
すなわち、扁平形状を有する軟磁性金属粉末にバインダ成分を混合してスラリーを作製し、ダイスロット法やドクターブレード法等により塗付したスラリーを乾燥させて溶媒を揮発させた後、所望する大きさに切断して複数枚のシートを得る。前記シートを磁心の構成に応じて複数枚重ねて加圧し、積層体を得た後、積層体の所定の位置にフライス盤等により孔部やスリットを形成した後、熱処理を行って平板形状の弾性を備えた磁性体を得るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−39222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記の磁性体は、磁心1個毎に積層体を形成することもできるが、量産への適用を考慮すると、積層体には磁心を構成する孔部やスリットを複数組形成した後、切断機で個片に切り出す方法が好ましい。
【0007】
磁心の端面は、その稜線部、または稜線部が合一する角部を起点とする扁平状粉末の剥離や脱落が発生し易いという課題がある。磁心製造工程やインダクタ製品の実装工程において扁平状粉末の剥離や脱落、磁心のクラックが発生すると、製品の品質を低下させる原因となる。
【0008】
複合磁性体を切断やフライス加工することで形成された端面は、稜線部や角部が鋭い形状となり、加工工程や組立実装工程で周辺の物体と接触すると、局部的に応力が集中して微細な破壊が生じる場合がある。特に、バインダの有機成分を分解する熱処理を施した複合磁性体は、熱処理前の状態よりも硬く、かつ脆くなることから、複数シートを積層した積層体の構成で層間剥離やクラック等の原因となる場合がある。
【0009】
複合磁性体のシートを積層して熱処理を施した成形体は、軟磁性金属粉末が整然と積み重なった構造となり、非常に堅固かつ弾性を備えたものとなる。しかしながら、切断やフライス加工等の外力を加えると、シートの層間や軟磁性金属粉末の粒子間のように、相対的に結合力が低い部位で結合組織の破壊や剥離が生じる場合がある。また、切断やフライス加工で形成された端面は稜線部や角部が鋭い形状となるため、加工工程や組立実装工程で周辺の物体と接触すると局部的な応力の集中によって微細な破壊が生じる場合がある。
【0010】
多面体形状に成形し、熱処理した磁心の一部の稜線部と角部を丸み付け加工すれば、前記の局部的な応力集中による微細な破壊を、ある程度は緩和することが可能である。しかしながら、熱処理後の堅固な成形体を加工することは、加工応力自体で層間剥離等の破壊を生じかねない。また、複合磁性体の端面には相変わらず、剥離の起点となる軟磁性金属粉末が整然と積み重なった構造の断面が露出していることから、単純な丸み付け加工では端面の稜線部または角部を起点とする扁平状粉末の剥離や脱落を防ぐことは困難である。
【0011】
そこで本発明は、端面の稜線部、または稜線部が合一する角部を起点とする扁平状粉末の剥離や脱落、クラックが発生し難い磁心、インダクタ、およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、扁平状の軟磁性金属粉末を、酸化ケイ素を主成分とするバインダで結着させた複合磁性体からなり、前記複合磁性体は、60体積%以上の前記軟磁性金属粉末と、10体積%以上、30体積%以下の前記バインダと、10体積%以上、25体積%以下の空孔を含み、弾性を備えると共に多面体の形状を有し、前記多面体の少なくとも一部の稜線部と角部は丸み付けされ、前記丸み付けされた部位の少なくとも一部の前記軟磁性金属粉末は、端部が褶曲していることを特徴とする磁心が得られる。
【0013】
また、本発明によれば、前記丸み付けされた部位の曲率半径が0.15mm以上である磁心が得られる。
【0014】
また、本発明によれば、前記丸み付けされた部位の曲率半径が0.3mm以上、0.8mm以下である磁心が得られる。
【0015】
また、本発明によれば、前記軟磁性金属粉末の前記端部が褶曲する角度は、10度以上、180度未満である磁心が得られる。
【0016】
また、本発明によれば、前記軟磁性金属粉末の前記端部が褶曲する角度は、20度以上、180度未満である磁心が得られる。
【0017】
また、本発明によれば、前記磁心は、前記多面体の対向する二面を貫通する貫通部を、1つ以上備える磁心が得られる。
【0018】
また、本発明によれば、前記磁心は、ISO7619−typeDによるゴム硬度が92以上、96以下である磁心が得られる。
【0019】
また、本発明によれば、前記磁心の電気抵抗率が、10KΩ・cm以上である磁心が得られる。
【0020】
また、本発明によれば、前記空孔の少なくとも一部に、熱可塑性または熱硬化性樹脂が含浸している磁心が得られる。
【0021】
また、本発明によれば、前記多面体の対向する二面と前記貫通部を経て接続されるコイルを備える、前記の磁心を用いたインダクタが得られる。
【0022】
また、本発明によれば、扁平状の軟磁性金属粉末と酸化ケイ素を主成分とするバインダを混合して複合磁性体を調整する工程と、前記複合磁性体を円盤状の砥石を回転させて個片に切断する工程と、前記個片の少なくとも一部の稜線部と角部を研磨加工により丸み付けする工程と、前記研磨加工を施した前記複合磁性体の前記バインダの有機成分を、熱処理により分解する工程を含むことを特徴とする、磁心の製造方法が得られる。
【0023】
また、本発明によれば、扁平状の軟磁性金属粉末と酸化ケイ素を主成分とするバインダを混合して複合磁性体を調整する工程と、前記複合磁性体の対向する二面を貫通する貫通部を1つ以上設ける工程と、前記複合磁性体を円盤状の砥石を回転させて個片に切断する工程と、前記個片の少なくとも一部の稜線部と角部を研磨加工により丸み付けする工程と、前記研磨加工を施した前記複合磁性体の前記バインダの有機成分を、熱処理により分解する工程を含むことを特徴とする、磁心の製造方法が得られる。
【0024】
また、本発明によれば、前記磁心に導体を巻回してコイルを形成すること特徴とする、インダクタの製造方法が得られる。
【0025】
また、本発明によれば、前記磁心の対向する二面と前記貫通部を経て導体を接続してコイルを形成すること特徴とする、インダクタの製造方法が得られる。
【0026】
本発明は、多面体形状に成形した複合磁性体の稜線部と角部を丸み付け加工するとともに、丸み付け加工した部位の一部の軟磁性金属粉末を、端部が褶曲するよう構成するものである。軟磁性金属粉末の端部の褶曲変形により、整然と積み重なった構造となることが回避され、複合磁性体の端面の稜線部や角部が起点となるような連鎖的な剥離や脱落が発生し難くなる。
【0027】
本発明の磁心の製造方法は、扁平状の軟磁性金属粉末と酸化ケイ素を主成分とするバインダを混合して複合磁性体を作製し、各種加工機等で所望の形状に成形し、バレル研磨やショットブラスト加工等の研磨加工を施して稜線部と角部を丸み付けすることで、未だ柔軟性を有する複合磁性体の軟磁性金属粉末の端部が褶曲変形し、その後に複合磁性体のバインダの有機成分を熱処理により分解することで、所望の特性と強度、耐熱性を兼ね備えた磁心を得るものである。この磁心にコイル巻線を施すとインダクタを構成することができる。
【0028】
また、本発明の磁心の製造方法としては、複合磁性体を多面体形状に加工した後、多面体の対向する二面を貫通する貫通部を1つ以上設けてから研磨加工による丸み付けを行っても良い。磁心の対向する二面と貫通部を経て導体を接続してコイルを形成することにより、インダクタを構成することができる。
【0029】
前記個片に切断する工程では、切断加工を行う部位にダイヤモンド砥粒を用いた円盤状の砥石を高速で回転させ、対象物を切断や溝入れ加工を行う外周刃切断機や、内周刃切断機を用いることができる。
【0030】
複合磁性体の熱処理前に切断等の成形加工を行うのは、熱処理後の複合磁性体が非常に堅固で硬くて脆いことから、後加工に適用できる加工方法が限定されることによるコスト高と、複合磁性体の加工時のダメージ(角部のチッピングや層間のクラックの発生等)を避けるために、望ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、端面の稜線部、または稜線部が合一する角部を起点とする扁平状粉末の剥離や脱落、クラックが発生し難い磁心、インダクタ、およびその製造方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の実施例による磁心の稜線部、角部を含む端面を示す画像である。
図2】本発明の実施例による磁心の角部を含む断面を示す画像である。
図3】比較例による磁心の稜線部、角部を含む端面を示す画像である。
図4】比較例による磁心の角部を含む断面を示す画像である。
図5】比較例による磁心の層間剥離を示す画像である。
図6】本発明の実施の形態における、個片に切断した磁心の一例を示す斜視図である。
図7】本発明の実施の形態における、インダクタの一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0034】
(実施の形態)
本実施の形態の磁心に用いる複合磁性体は、扁平状の軟磁性金属粉末を、酸化ケイ素を主成分とするバインダ(絶縁材料)で結着させたものであり、60体積%以上の軟磁性金属粉末と、10体積%以上、30体積%以下のバインダと、10体積%以上、25体積%以下の空孔を含み、弾性を備える。
【0035】
扁平状の軟磁性金属粉末は、例えば粒子状の軟磁性金属粉末を、ボールミル等を使用して扁平化することで作製される。軟磁性金属粉末は、磁気特性の良好なFe系合金を用いることが好ましく、軟磁気特性が良好なFe−Si系合金や、Fe−Si−Cr系合金、センダスト(登録商標)と呼ばれるFe−Si−Al系合金からなることが好ましい。軟磁性金属粉末がSi及びAlを含む場合、結晶磁気異方性定数及び磁歪定数が低下して磁気特性が向上することから、Siの比率は3重量%以上、18重量%以下であることが好ましく、Alの比率は1重量%以上、12重量%以下であることが好ましい。
【0036】
扁平状の軟磁性金属粉末を結着するバインダとしては、酸化ケイ素を主成分とするものとして、例えばメチル系シリコーンレジン、メチルフェニル系シリコーンレジンを使用すれば良い。
【0037】
軟磁性金属粉末にバインダと溶媒、必要によって増粘剤等の添加剤を加えて混合し、スラリーを調整する。スラリーを剥離基板等に塗布して加熱乾燥および硬化させ、シート状の複合磁性体を得る。この状態の複合磁性体は、バインダ成分が柔軟性を保持していることから加圧成型が可能であり、複合磁性体のシートを磁心の構成に応じて複数枚重ねて加圧し、予備成型体としての積層体を得る。所望の寸法の磁心とするには、積層体を切断して多面体形状の個片とする。
【0038】
また、磁心の構成により、積層体の対向する二面を貫通する貫通部やスリット状の長穴等を設けることもできる。予備成型体の状態であれば、複合磁性体の成形加工は比較的容易であり、貫通部の加工は、ドリル、フライス、金型プレス等の手段を適宜用いることができる。
【0039】
必要な加工を行った後、複合磁性体の積層体を、所望する寸法の個片に切断する。切断には、ダイヤモンド砥粒を用いた円盤状の砥石を高速で回転させ、加工部位に当てて対象物の切断や溝入れ加工を行う、外周刃切断機や内周刃切断機を用いることが望ましい。
【0040】
図6は、本発明の実施の形態における、個片に切断した磁心の一例を示す斜視図である。図中において、複合磁性体である磁心1には、所定位置に貫通部2を四個設けている。貫通部2の寸法、個数、形状、位置等は、必要に応じて適宜設定することができ、磁心1に直接巻線する場合は設けなくとも良い。
【0041】
複合磁性体を個片に切断して多面体を形成後、研磨加工を施して稜線部と角部の丸み付けを行う。ここで、研磨加工とは砥粒を用いて対象物表面を物理的に削る加工方法を意味するものであり、砥粒は遊離砥粒でも固定砥粒でも良く、加工自体も乾式でも湿式でも良い。本実施の形態ではバレル研磨について詳述するが、加工方法はバレル研磨に限定されるものではなく、砥粒を空気圧や羽根車の遠心力で投射するサンドブラスト(ショットブラスト)や、磁性メディアを磁力で運動させる磁気研磨を用いることもできる。
【0042】
バレル研磨では、加工は応力の集中する角部や稜線部ほど進行し、所謂「角が取れた」状態となるため本発明の磁心の加工方法として適しているが、加工が対象物全体に及ぶことから、局所的な加工や、高速な加工を必要とする場合はショットブラストを選択しても良い。
【0043】
バレル研磨は、研磨槽中に対象物とメディア(研磨材)を入れて相互運動させ、研磨を行う加工方法であり、研磨槽を回転させる回転式、研磨槽を振動させる振動式、各々が自転する偶数個の研磨槽を有して全体を自転とは逆方向に公転させる遠心式、底部回転盤を回転させて固定槽内壁に流動状態を作り出す流動式(渦流式)などの方式が、それぞれの特徴に応じて利用されている。本発明の複合磁性体の丸み付け加工はいずれの方式でも可能であるが、回転式のバレル研磨装置は小型で安価なものがあり、導入に際してのコストが低い利点がある。
【0044】
メディアの形状や直径は、加工条件により適宜選択されるが、貫通部の直径よりも大きいメディアを用いると、貫通部の丸み付けはあまり進行しない。貫通部の角部も丸み付けする場合は、少なくとも貫通部開口の数分の一以下の直径を有するメディアを選択する必要がある。貫通部に丸み付け加工を全く行いたくない場合は、バレル研磨後に複合磁性体に穴開けやスリット加工を施しても良い。また、ショットブラスト等の砥粒の運動に方向性のある加工手段を用いれば、複合磁性体の一部や片面のみを研磨することもできる。
【0045】
丸み付け加工を施した複合磁性体の個片を、高温(例えば600℃以上)で熱処理を行うことで、所望の磁気特性や物理的特性を得ることができる。ここでの熱処理温度は、シリコーンレジンの縮合反応による硬化温度(100〜250℃程度)を大きく越え、バインダの有機成分が分解して酸化ケイ素を主成分とするガラス質となることで、軟磁性金属粉末を結着するために十分な温度である。この際、バインダは加熱減量するため、複合磁性体の組織内部に空孔が形成され、弾性を備えるものとなる。このようにして作製された磁心は、260℃程度の高温によるリフローにも耐えると共に、優れた周波数特性と、高い電気抵抗率を有する。
【0046】
本発明の磁心は、軟磁性金属粉末が絶縁性のバインダによって結着された複合磁性体を用いるため、高い電気抵抗率を備える。具体的には、10KΩ・cm以上の電気抵抗率を有するため、良好な絶縁性を示し、絶縁被覆を有していない導体を直接表面に接触させてコイルを形成することができる。
【0047】
複合磁性体が含む空孔の比率(空孔率)は、10体積%以上、25体積%以下であることが望ましく、スラリー中のバインダの量や、積層体の予備成型時の加圧力を調整することで、所望の空孔率を得ることができる。空孔率が10体積%以上において複合磁性体は弾性を有し、空孔率が25体積%以下であれば、磁気特性が良好となる60体積%以上の軟磁性金属粉末を含有させることができる。このような磁心のISO7619−typeDによるゴム硬度は、92以上、96以下であり、弾性変形可能なものとなる。
【0048】
複合磁性体に含まれるバインダ成分の体積比率は、10体積%以上、30体積%以下であることが好ましい。バインダ成分の体積比率が10体積%よりも小さい場合、複合磁性体は十分な強度を有しない。また、バインダ成分の体積比率が30体積%よりも大きい場合、軟磁性金属粉末の体積比率を60体積%以上としつつ、空孔率を10体積%以上とすることができない。
【0049】
本実施の形態によって得られる磁心に導体を巻回するか、磁心の対向する二面と貫通部を経て導体を接続してコイルを形成することで、本発明のインダクタの製造が可能となる。
【0050】
図7は、本発明の実施の形態における、インダクタの一例を示す正面図である。図中において、複合磁性体である磁心3の貫通部4には導体が挿入され、磁心3の一方の面に配する第1の連結部5と、磁心3の他方の面に配する第2の連結部6および端子部7を、電気的に接続することでコイルを形成し、インダクタを得ることができる。
【実施例】
【0051】
(実施例)
以下、本発明の実施例について説明する。
【0052】
図1は、本発明の実施例による磁心の稜線部、角部を含む端面を示す画像であり、複合磁性体を切断後、バレル研磨によって稜線部と角部を丸み付け加工し、熱処理を施した磁心の端面の画像である。また、図2は、本発明の実施例による磁心の角部を含む断面を示す画像であり、図1の磁心を更に切断し、切断面を研磨することで軟磁性金属粉末の積層状態を示した断面拡大画像である。
【0053】
本実施例の複合磁性体に用いる軟磁性金属粉末として、メジアン径(D50)55μmのFe−Si−Al合金のガスアトマイズ粉末を準備し、ボールミルにて8時間粉砕後、窒素雰囲気中で700℃、3時間の熱処理を行って、扁平状の軟磁性金属粉末を得た。
【0054】
扁平状の軟磁性金属粉末を、走査電子顕微鏡を用いて観察し、粉末の長径(D)と、最も厚い部位の厚さ(t)からアスペクト比(D/t)を算出した。得られた粉末の平均アスペクト比は20であった。なお、発明者らの知見によれば、磁心として好ましい磁気的および物理的特性を得るための平均アスペクト比は、10以上であれば良い。
【0055】
次に、得られた扁平状の軟磁性金属粉末に、バインダとしてメチル系シリコーンレジンと、増粘剤としてポリアクリル酸エステルと、溶媒としてエタノールを混合してスラリーを調整し、ダイスロット法によりPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に塗布し、60℃で1時間乾燥して溶媒を除去した後、PETフィルムを剥離除去して複合磁性体シートを得た。
【0056】
複合磁性体シートを所定枚数積層して金型に封入し、150℃の温度下で2MPaの圧力を1時間加え、加圧成型を施して予備成型体を得た。予備成型後の複合磁性体の厚さは、1.2mmであった。更に、予備成型体の所定位置に、コイルを形成するための対向する二面を貫通する貫通部を設けるため、ドリル切削にて直径1.2mmの貫通孔を所定個数設けた後、外周刃切断機を用いて、15mm×11mmの個片に切断した。なお、コイルの形状やインダクタの構成によっては、貫通孔の形成が不要な場合や、スリット状の長穴を設ける場合がある。
【0057】
個片とした複合磁性体を、回転式のバレル研磨機で研磨加工を行った。まず、研磨槽に複合磁性体、メディア(研磨材)、コンパウンド(洗浄剤)、水を投入した。メディアはSiC系の球状カーボランダムで、直径3mmのものを使用した。メディアの材質や形状、サイズは処理条件により最適なものが異なる。処理物とメディアの比率も、処理条件によって最適値は異なるが、本実施例では複合磁性体1に対してメディア4の体積比とした。コンパウンドは水に1%の濃度で添加し、研磨槽内部で複合磁性体とメディアの運動に差支えない、適当な空間が生じるように調整した。
【0058】
次に、バレル研磨機を45rpmにて30分間回転させた後、内容物を篩分けして複合磁性体を回収した。更に、丸み付けされた複合磁性体を、窒素雰囲気中で650℃、1時間の熱処理を施し、バインダ成分を熱分解することで、本実施例の磁心を得た。
【0059】
(比較例)
以下、比較例について説明する。
【0060】
複合磁性体の予備成型体を個片に切断する工程までを実施例と同様の条件で作製し、丸み付けのバレル研磨を省略して高温熱処理を行い、比較例の磁心を得た。
【0061】
図3は、比較例による磁心の稜線部、角部を含む端面を示す画像であり、複合磁性体を切断後、高温熱処理を施した磁心の端面の画像である。また、図4は、比較例による磁心の角部を含む断面を示す画像であり、図3の磁心を更に切断し、切断面を研磨することで軟磁性金属粉末の積層状態を示した断面拡大画像である。
【0062】
実施例、比較例の磁心をそれぞれ100個作製し、個片切断から高温熱処理後までに発生した磁心の層間剥離やクラック等の破損を、外観検査によって選別した不良率A(%)と、組み立てから実装に至る取り扱い時の破損し易さを推測するために、実施例のバレル研磨からメディアを除外した構成で、45rmpにて10分間処理した場合の磁心の不良率B(%)を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1において、比較例で不良率A、不良率Bともに高い値となるのは、個片切断時の加工応力によって、複合磁性体内部に層間剥離やクラックのきっかけとなる欠陥が内在し、それが高温熱処理によって拡大したものと考えられる。図5は、比較例による磁心の層間剥離を示す画像であり、端面や稜線部、角部を起点として、相対的に結合力が低い部分から剥離や破壊が拡大する。
【0065】
実施例では、バレル研磨によって磁心の稜線部と角部が丸み付けされ、かつ図2に示すように丸み付けされた部分の軟磁性金属粉末の端部が褶曲するため、端面の稜線部や角部に発生する層間剥離や軟磁性金属粉末の脱落、クラック等の起点となる微小な破壊が拡大するのを防いでいるものと考えられる。
【0066】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は実施例の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の変更や修正が可能である。すなわち、当業者であればなし得るであろう各種変形、修正もまた本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0067】
1、3 磁心
2、4 貫通部
5 第1の連結部
6 第2の連結部
7 端子部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7