(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は、あくまで説明用の模式的なものであり、実物の寸法比等を忠実に反映したものではない。
また、数値範囲を示す際の「a〜b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。
さらに、本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
【0013】
<樹脂成形体の製造方法>
本実施形態に係る樹脂成形体の製造方法は、シリンダーと、シリンダーに挿入されたスクリューと、シリンダー内に位置する、供給された樹脂材料を溶融するための加熱部(ヒーター等)とを有する射出成形機を用いる。
【0014】
図1は、射出成形機の構造を模式的に表したものである。この射出成形機は、シリンダー30と、シリンダー30に挿入されたスクリュー10と、シリンダー30の外壁に配置されたヒーター(図示せず)とを備える。このヒーター及びスクリュー10は、制御部(図示せず)によって制御されている。スクリュー10は、スクリュー軸11とフライト12とを備えている。そして、スクリュー10は、長手方向(
図1における左右方向)において、供給部20、圧縮部21、計量部22、及び先端部23に分けられる。
【0015】
供給部20は、樹脂材料が供給される領域である。圧縮部21は、溶融した樹脂材料を圧縮する領域である。圧縮部21において、スクリュー軸11の径は計量部22に近づくにつれて大きくなっている。計量部22は、溶融し圧縮された樹脂材料を貯めておく領域である。計量部22に位置するスクリュー軸11の径は、供給部20に位置するスクリュー軸11の径よりも大きい。このため、圧縮部21は、供給部20と計量部22をなめらかにつなぐ部分ともいえる。先端部23は、計量部22に貯められた溶融樹脂を押し出すため、シリンダー30の先端形状にほぼ沿った形状となっている。供給部20の長さはl
1、圧縮部21の長さはl
2、計量部22の長さはl
3である。
【0016】
本実施形態に係る樹脂成形体の製造方法においては、まず、供給部20に環状オレフィン系樹脂材料(以下、「樹脂材料(A)」ともいう)を供給する。樹脂材料(A)は、典型的にはペレット状で供給される。供給された樹脂材料(A)を、ヒーターで加熱して溶融しつつ、スクリュー10を回転させて圧縮部21およびそれに続く計量部22に押し出す。
【0017】
樹脂成形体の製造時において、供給部20と圧縮部21の境界よりl
2/4だけ供給部20寄りの部分(
図1における、供給部20と圧縮部21の境界よりl
2/4だけ右側の部分、以下「部分1」ともいう)では、樹脂材料(A)は完全には溶融していない。つまり、部分1において樹脂材料(A)は、全く溶融していないか、または溶融樹脂と未溶融のペレットが混在した状態である。別の言い方をすると、部分1においては、ペレットの原形の一部をとどめた、未溶融のペレットを含む樹脂材料(A)が存在する。一方、圧縮部21と計量部22の境界(以下「圧縮部末端」ともいう)においては、樹脂材料(A)は完全に溶融した状態にある。換言すると、部分1から圧縮部末端の間のどこかで、樹脂材料(A)は完全に溶融し、ペレットの原形を全くとどめなくなる。
【0018】
射出成形機の内部における樹脂材料(A)の溶融状態を上記のようにするためには、例えば、制御部が、スクリュー10及びヒーターを適切に制御すればよい。そのようにすると、得られる成形体において黒点が発生することを低減できる。黒点の発生を低減できる理由は必ずしも全てが明らかではないが、発明者らの検討、知見、推測等から以下のように説明することが可能である。
【0019】
黒点の発生原因は、樹脂材料(A)が、射出成形機の中で炭化することにある。
樹脂材料(A)が炭化するには、溶融した樹脂材料(A)が、高温条件下で一定時間以上酸素と接触することが必要である。具体的には、空気中の酸素を取り込む形で溶融した樹脂材料(A)が一定時間以上加熱されることで、樹脂材料(A)と酸素が反応し、炭化反応が進行する。
射出成形機の中では、樹脂材料(A)が、空気中の酸素を巻き込みつつ溶融し、その酸素を巻き込んで溶融した樹脂材料(A)がそのまま一定時間以上加熱され続けることで、炭化が起こると考えられる。環状オレフィン系樹脂は、その構造および物性上、他の樹脂と比べて酸素と反応しやすく、炭化の問題が起こりやすい傾向にある。
従来の射出成形機は、スクリューの供給部が比較的長い。よって、供給部に供給された樹脂材料(A)は、圧縮部に送り出されるかなり手前で完全に溶融する。つまり、樹脂材料(A)は、供給部と圧縮部の境界よりl
2/4だけ供給部寄りの部分においては既に完全溶融した状態にあったと考えられる。
このように、供給部における「圧縮部のかなり手前」で樹脂材料(A)が完全溶融する場合、(i)樹脂材料(A)が溶融時に巻き込んだ酸素を排除する手段がないため、酸素の巻き込み量が増えがちと考えられる。また、(ii)供給部は、シリンダーとスクリューとの隙間(クリアランス)が広いため、樹脂材料(A)の流速が小さく、溶融した樹脂の滞留時間が長くなりがちであることも、炭化が起こりやすい原因の1つと考えられる。
【0020】
本発明者らは、上記考えのもと、本実施形態において「供給部20における圧縮部21に近い位置」、または、「圧縮部21」で樹脂材料(A)が完全溶融するようにした。すなわち、供給部20と圧縮部21の境界よりl
2/4だけ供給部20寄りの部分では樹脂材料(A)はまだ完全には溶融していないが、圧縮部21と計量部22の境界では樹脂材料(A)は完全に溶融した状態にある(換言すると、前述の部分1と圧縮部末端の間のどこかで樹脂材料(A)が完全溶融する)ようにして、樹脂成形体を製造することとした。
このようにすると、(i)樹脂材料(A)に巻き込まれた酸素を、溶融後すぐに、圧縮部21において、シリンダー30の壁面と圧縮部21との間の圧力により排除することができると考えられる。また、(ii)圧縮部21および計量部22の部分におけるクリアランス(シリンダー30の壁面とスクリュー10との間隔)は、供給部20におけるクリアランスよりも狭いため、樹脂材料(A)の流速を大きくすることができ、溶融した樹脂の滞留時間を短くすることができると考えられる。結果、従来に比べて樹脂材料(A)の炭化が抑制され、黒点の発生を低減できると考えられる。
【0021】
本実施形態においては、樹脂材料(A)は、圧縮部21と計量部22の境界からl
2/2だけ圧縮部21寄りの部分(
図1における、圧縮部21と計量部22の境界よりl
2/2だけ右側の部分、以下「部分2」ともいう)においては完全には溶融していないことが好ましい。換言すると、部分2と、前述の圧縮部末端との間のどこかで、樹脂材料(A)が完全に溶融することが好ましい。このようにすると、(i)樹脂材料(A)が、完全溶融した後速やかに圧縮されることとなるため、巻き込まれた酸素が、炭化反応を引き起こす前に速やかに排除されやすくなると考えられる。また、(ii)樹脂材料(A)は、完全に溶融する時点で既に、供給部20に比べてクリアランスが狭い圧縮部21に存在することとなり、そしてその後すぐに、クリアランスがより狭い計量部22に送られることとなる。すなわち、樹脂材料(A)の完全溶融後の滞留時間を一層短くすることができると考えられる。これら理由により、黒点の発生をより低減できると考えられる。
本実施形態においては、樹脂材料(A)は、圧縮部21と計量部22の境界からl
2/3だけ圧縮部21寄りの部分において完全には溶融していないことがより好ましく、圧縮部21と計量部22の境界からl
2/4だけ圧縮部21寄りの部分において完全には溶融していないことがさらに好ましい。このような構成、すなわち、樹脂材料(A)が完全に溶融する位置を、圧縮部21におけるできるだけ計量部22寄りの位置とすると、前段落で述べた(i)(ii)の理由に基づく黒点の発生低減効果をさらに得やすくなると考えられる。
【0022】
樹脂成形体の製造時に上記のような樹脂材料(A)の溶融を実現する方法としては、例えば、l
1+l
2+l
3=Lとしたときに、l
1/Lの値が0.3以下であるスクリュー10を用いる方法が挙げられる。
【0023】
従来の溶融混練押出においては、スクリューの供給部が比較的長い装置を用いて成形体を製造することが多かった。これは、原料樹脂の溶融を完全なものとし、溶融が不完全なまま原料樹脂が圧縮部に送られることによる原料樹脂への過度なせん断を避けるためであったと推察される。しかし、後述の実施例にも示すように、l
1/Lの値が0.3以下であっても、樹脂材料(A)を十分に溶融させたうえで計量部22に送り出すことは可能であり、結果、高品質な成形品を得ることができる。
なお、l
1/Lの値を0.3以下とすることは、樹脂材料(A)を、供給後早く圧縮するということであり、その分、前述した空気の巻き込みを一層低減させる効果も期待できる。
【0024】
l
1/Lの値は、好ましくは0.05〜0.3、より好ましくは0.1〜0.25である。この数値範囲とすることで、樹脂材料(A)の安定的な溶融と、黒点の発生低減の効果とを両立可能である。また、l
1/Lの値が0.3以下であるとき、l
2/Lの値は通常0.1〜0.4であり、0.15〜0.3がより好ましく、l
3/Lの値は通常0.3〜0.85であり、0.33〜0.6がより好ましい。
【0025】
上記のような樹脂材料(A)の溶融位置を実現する別の方法としては、現時点で入手可能な射出成形機のヒーターの配置を改造したり、制御部におけるヒーターの温度設定を変更したりして、溶融位置を制御する方法もある。
【0026】
なお、射出成形機の内部における樹脂材料(A)の溶融状態は、目視等で確認することができる。すなわち、シリンダー30をヒーターで加熱した状態でペレット状の樹脂原料(A)を供給部20に供給し、スクリュー10を回転させて樹脂材料(A)を圧縮部21の方向に送り出しつつ溶融させた後、シリンダー30の加熱を保持した状態でスクリュー10を抜き出す。この抜き出したスクリュー10の各部への樹脂の付着状態を観察する(または写真を撮影するなどする)ことで、射出成形機の内部における樹脂材料(A)の溶融状態の確認が可能である。
【0027】
この観察において、スクリュー10には、溶融樹脂と未溶融のペレットが混在している箇所が観察される。この、溶融樹脂と未溶融ペレットが混在する箇所で、最も供給部20寄りの位置が、樹脂材料(A)の溶融開始位置である。また、スクリュー10の先端側には、未溶融ペレットが存在せず、溶融樹脂のみが観察される箇所がある。この、溶融樹脂のみが観察される箇所で、最も供給部20寄りの位置が、樹脂材料(A)の完全溶融位置である。
【0028】
本実施形態に係るシリンダー30やスクリュー10等について補足する。
上述のとおり、本実施形態において、計量部22のクリアランスは狭いことが好ましい。一例として、スクリュー軸11とシリンダー30の内壁との間隔(
図1のd)は、1〜3mmであることが好ましい。このようにすると、溶融樹脂が供給部20に滞留する時間を短くすることができるため、黒点の発生を一層抑制できると考えられる。
また、本実施形態に係るスクリュー10は、一例として、光学レンズ等の比較的小さな成形品を製造する場合、l
1+l
2+l
3=Lの値は250〜500mmである。
さらに、本実施形態において、圧縮比は、例えば1.5〜2.5である。
これら数値は、製造しようとする成形体1個あたりの樹脂使用量や、所望する製造スピード等に基づき適宜設定することが可能であり、必ずしも上記数値範囲内でなくてもよい。
【0029】
<環状オレフィン系樹脂材料>
本実施形態における環状オレフィン系樹脂材料(樹脂材料(A))について、以下説明する。
【0030】
樹脂材料(A)は、環状オレフィン系樹脂(a)を含む(以下、環状オレフィン系樹脂(a)を、単に樹脂(a)ともいう)。樹脂(a)は、環状オレフィン(モノマー)から誘導される構造単位を含む樹脂(ポリマー)であれば、特に限定されない。
ここで、環状オレフィン(モノマー)の構造としては、単環構造でも多環構造でもよい。例えば、シクロペンテン構造、シクロヘキセン構造、シクロペンタジエン構造、ノルボルネン構造、ノルボルナジエン構造、ジヒドロジシクロペンタジエン構造、テトラシクロドデセン構造、トリシクロデセン構造、トリシクロウンデセン構造、ペンタシクロペンタデセン構造、ペンタシクロヘキサデセン構造等が挙げられる。
【0031】
樹脂(a)は、環状オレフィンではないモノマーから誘導される構造単位を含んでもよい。例えば、樹脂(a)は、環状オレフィンから誘導される構造単位と、環状オレフィン構造を有しないモノマーから誘導される構造単位とを含む共重合体であってもよい。環状オレフィンではないモノマーから誘導される構造単位としては、エチレンモノマーから誘導される構造単位、ビニレン単位、α−オレフィンモノマーから誘導される構造単位等が挙げられる。
【0032】
樹脂(a)は、一般式(1)または(2)で表される環状オレフィンから誘導される構造単位と、エチレン単位(−CH
2−CH
2−)および/またはビニレン単位(−CH=CH−)とを有することが好ましい。
【0034】
式(1)において、
nは0または1であり、
mは0または正の整数であり、
qは0または1であり、
R
1〜R
18ならびにR
aおよびR
bは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子および炭化水素基よりなる群から選ばれる原子または基を表す。R
15〜R
18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、この単環または多環は二重結合を有していてもよい。また、R
15とR
16とで、またはR
17とR
18とでアルキリデン基を形成していてもよい。
qが0の場合には、それぞれの結合手が結合して5員環を形成する。
【0036】
式(2)において、
pおよびqはそれぞれ独立に0または1以上の整数であり、
mおよびnはそれぞれ独立に0、1または2であり、
R
1〜R
19はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R
9およびR
10が結合している炭素原子と、R
13またはR
11が結合している炭素原子とは直接あるいは炭素数1〜3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またn=m=0のとき、R
15とR
12またはR
15とR
19とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。
【0037】
樹脂(a)は、サーマル・メカニカル・アナライザーで測定した軟化温度(TMA)が通常は60℃以上であり、好ましくは70〜210℃、さらに好ましくは80〜180℃である。なお軟化温度(TMA)は、シート上に直径1.0mmの石英製針を載せ、荷重49gをかけ、5℃/分の速度で昇温させたときに、針がシートに0.635mm侵入した温度である。
【0038】
樹脂(a)は、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が、通常は0.01〜10dl/gであり、好ましくは0.05〜2.0dl/g、さらに好ましくは0.4〜1.2dl/gである。
【0039】
樹脂(a)は、ガラス転移温度(Tg)が、通常50℃以上、好ましくは60〜200℃、さらに好ましくは、90〜180℃である。
【0040】
樹脂(a)は、メルトフローレート(MFR)が、通常1〜100g/10分であり、好ましくは5〜80g/10分である。
【0041】
式(1)または(2)で表される環状オレフィンとしては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン誘導体、テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]−3−ドデセン誘導体、ヘキサシクロ[6.6.1.1
3,6.1
10,13.0
2,7.0
9,14]−4−ヘプタデセン誘導体、オクタシクロ[8.8.0.1
2,9.1
4,7.1
11,18.1
13,16.0
3,8.0
12,17]−5−ドコセン誘導体、ペンタシクロ[6.6.1.1
3,6.0
2,7.0
9,14]−4−ヘキサデセン誘導体、ヘプタシクロ−5−エイコセン誘導体、ヘプタシクロ−5−ヘンエイコセン誘導体、トリシクロ[4.3.0.1
2,5]−3−デセン誘導体、トリシクロ[4.4.0.1
2,5]−3−ウンデセン誘導体、ペンタシクロ[6.5.1.1
3,6.0
2,7.0
9,13]−4−ペンタデセン誘導体、ペンタシクロペンタデカジエン誘導体、ペンタシクロ[7.4.0.1
2,5.1
9,12.0
8,13]−3−ペンタデセン誘導体、ヘプタシクロ[8.7.0.1
3,6.1
10,17.1
12,15.0
2,7.0
11,16]−4−エイコセン誘導体、ノナシクロ[10.9.1.1
4,7.1
13,20.1
15,18.0
3,8.0
2,10.0
12,21.0
14,19]−5−ペンタコセン誘導体、ペンタシクロ[8.4.0.1
2,5.1
9,12.0
8,13]−3−ヘキサデセン誘導体、ヘプタシクロ[8.8.0.1
4,7.1
11,18.1
13,16.0
3,8.0
12,17]−5−ヘンエイコセン誘導体、ノナシクロ[10.10.1.1
5,8.1
14,21.1
16,19.0
2,11.0
4,9.0
13,22.0
15,20]−5−ヘキサコセン誘導体、1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン誘導体、1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセン誘導体、およびシクロペンタジエン−アセナフチレン付加物などに起因するものを挙げることができる。環状オレフィンとして特に好ましいものは、ノルボルネンおよびテトラシクロドデセン(より具体的にはテトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]−3−ドデセン)である。
樹脂(a)を得るに際して、環状オレフィンは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0042】
樹脂(a)は、通常、樹脂(a)の全体を基準として、エチレン単位及び/又はビニレン単位を30〜90モル%、好ましくは40〜80モル%の量で、環状オレフィンから誘導される構成単位を10〜70モル%、好ましくは20〜60モル%の量で含む。なお、これらの量は
13C−NMRによって測定可能である。
【0043】
樹脂(a)は、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて他の共重合可能なモノマーから誘導される構造単位を含んでいてもよい。このような他のモノマーとしては、上記のようなエチレンまたは環状オレフィン以外のオレフィンや、非共役ジエン類などを挙げることができる。これらの他のモノマーは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。このような単位は、樹脂(a)中、例えば20モル%以下、好ましくは10モル%以下の量で含有されていてもよい。
【0044】
樹脂(a)は、付加重合や開環重合など、公知の方法に基づき製造(合成)できる。
【0045】
具体的には、例えば、樹脂(a)は、エチレンと、環状オレフィン(一般式(1)または(2)で表される環状オレフィン等)とを用いて、付加重合により製造できる。より具体的には、共重合を炭化水素溶媒中で行い、触媒としてこの炭化水素溶媒に可溶性のバナジウム化合物および有機アルミニウム化合物から形成されるバナジウム系触媒、チタン化合物および有機アルミニウム化合物から形成されるチタン系触媒、または少なくとも2個の共役シクロアルカジエニル基が低級アルキレン基を介して結合した多座配位性化合物を配位子とするジルコニウム錯体およびアルミノオキサンから形成されるジルコニウム系触媒を用いて製造することが好ましい。
【0046】
また、樹脂(a)は、環状オレフィン(式(1)で表される環状オレフィン等)を開環重合して得ることもできる。開環重合の方法として具体的には、環状オレフィンを開環重合触媒の存在下に、重合または共重合させることにより製造することができる。このような開環重合触媒としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムまたは白金などから選ばれる金属のハロゲン化物、硝酸塩またはアセチルアセトン化合物と、還元剤とからなる触媒、あるいは、チタン、パラジウム、ジルコニウムまたはモリブテンなどから選ばれる金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒を用いることができる。
【0047】
開環重合により製造された樹脂は、公知の水素添加触媒の存在下に水素化することで、より良好な物性のものを得ることができる。水添率は、好ましくは50〜100%、より好ましくは80〜100%である。
【0048】
また、本発明で用いられる環状オレフィン系樹脂(a)は、グラフト変性されたものであってもよい。グラフト変性物は、上記の付加重合または開環重合で得られた樹脂(a)の一部を変性剤でグラフト変性して得られる。このようなグラフト変性物は、所望の変性率になるように変性剤を配合してグラフト重合させて製造することもできるし、予め高変性率の変性物を調製し、次いでこの変性物と未変性の環状オレフィン系樹脂とを混合することにより製造することもできる。変性剤としては、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸、これらの酸無水物又はアルキルエステル等の誘導体などを挙げることができる。本発明においては、変性剤から誘導される構成単位の含有率は、樹脂(a)の全体に対して10モル%以下であることが望ましい。
【0049】
樹脂(a)は、一般的には単独の方法で製造された樹脂であるが、異なる方法で製造された樹脂の混合物であってもよい。
【0050】
樹脂材料(A)は、樹脂(a)の特性を損なわない範囲で、必要に応じ、樹脂(a)とは異なる熱可塑性樹脂を含んでもよい。このような熱可塑性樹脂としては、樹脂(a)との相溶性の観点から、特にポリオレフィンが好ましい。ポリオレフィンとしては、炭素数2〜20のα−オレフィンの(共)重合体が好ましい。また、ポリオレフィンは、特性を損なわない範囲内で、非共役ジエン類などの他の単量体が共重合されていてもよい。
【0051】
また、樹脂材料(A)は、樹脂(a)の特性を損なわない範囲で、衝撃強度を向上させるためのゴム成分(ゴム質重合体など)、耐熱安定剤、耐候安定剤、耐光安定剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、核剤、滑剤、特定波長の光だけを吸収する染料、顔料、天然油、合成油、ワックス、可透光性の充填剤などを含んでいてもよい。
【0052】
樹脂材料(A)が、樹脂(a)以外の成分を含む場合は、その量は、樹脂材料(A)の全量中、0.01〜50質量%であることが好ましく、0.01〜10質量%であることがより好ましい。なお、樹脂材料(A)は、樹脂(a)以外の成分を含まなくてもよい(これは、樹脂材料(A)が不可避的に含む不純物を排除するものではない)。
なお、樹脂材料(A)が、樹脂(a)以外の成分を含む場合、樹脂材料(A)全体としての軟化温度(TMA)、極限粘度[η]、ガラス転移温度(Tg)、メルトフローレート(MFR)等の好ましい数値範囲は、前述の、樹脂(a)におけるこれらの好ましい数値範囲と同様である。
【0053】
本実施形態においては、樹脂(a)として、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]−3−ドデセンのランダム共重合体、および、エチレンとビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンのランダム共重合体を使用した場合に効果が顕著である。
【0054】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
射出成形機を用いた樹脂成形体の製造方法であって、
前記射出成形機は、シリンダーと、シリンダーに挿入されたスクリューと、前記シリンダー内に位置する樹脂材料を溶融するための加熱部とを有し、
前記スクリューは、長さl1の供給部、長さl2の圧縮部および長さl3の計量部をこの順に備え、
前記供給部に、前記樹脂材料として環状オレフィン系樹脂材料を供給し、供給された前記樹脂材料を加熱して溶融しつつ前記圧縮部および前記計量部に押し出す際に、前記供給部と前記圧縮部の境界よりl2/4だけ前記供給部寄りの部分においては、前記樹脂材料は完全には溶融しておらず、かつ、前記圧縮部と前記計量部の境界においては、前記樹脂材料は完全に溶融していることを特徴とする樹脂成形体の製造方法。
2.
1.に記載の樹脂成形体の製造方法であって、
前記樹脂材料が、前記圧縮部と前記計量部の境界からl2/2だけ圧縮部寄りの部分においては完全には溶融していないことを特徴とする樹脂成形体の製造方法。
3.
1.または2.に記載の樹脂成形体の製造方法であって、
l1+l2+l3=Lとしたとき、l1/Lの値が0.3以下である樹脂成形体の製造方法。
4.
1.〜3.のいずれか1つに記載の樹脂成形体の製造方法であって、
前記樹脂材料が、前掲の一般式(1)または(2)で表される環状オレフィンから誘導される構造単位と、エチレン単位および/またはビニレン単位とを有する樹脂を含む樹脂材料である樹脂成形体の製造方法。
一般式(1)において、
nは0または1であり、
mは0または正の整数であり、
qは0または1であり、
R1〜R18ならびにRaおよびRbは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子および炭化水素基よりなる群から選ばれる原子または基を表す。R15〜R18は互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつ、この単環または多環は二重結合を有していてもよい。また、R15とR16とで、またはR17とR18とでアルキリデン基を形成していてもよい。
qが0の場合には、それぞれの結合手が結合して5員環を形成する。
一般式(2)において、
pおよびqはそれぞれ独立に0または1以上の整数であり、
mおよびnはそれぞれ独立に0、1または2であり、
R1〜R19はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R9およびR10が結合している炭素原子と、R13またはR11が結合している炭素原子とは直接あるいは炭素数1〜3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またn=m=0のとき、R15とR12またはR15とR19とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を示す。なお、本発明は実施例の形態に限定されるものではない。
【0056】
・環状オレフィン系樹脂材料の準備
環状オレフィン系樹脂材料として、エチレン単量体と、テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]−3−ドデセン(以下TDという)単量体とのランダム共重合体を準備した。
このランダム共重合体のガラス転移温度は135℃、共重合体中のTD単量体に由来する構造単位は36モル%、メルトフローレート(MFR)は40g/10分であった。
以下、このランダム共重合体を単に「原料樹脂」ともいう。
【0057】
・実施例1
型締め力30トン、シリンダー径18mmの射出成形機(ファナック株式会社製、型番:ROBOSHOT S―30iα)に、供給部の長さl
1=90mm、圧縮部の長さl
2=90mm、計量部の長さl
3=180mm(l
1/L=0.25)、圧縮比=2.0のスクリューを搭載した装置を用いて、成形体を製造した。なお、上記射出成形機は、「ホッパー下」「C1」「C2」「C3」「ノズル」の5つのヒーターを有するが、それらの設定温度は、ホッパー下:50℃、C1:280℃、C2:290℃、C3:295℃、ノズル:290℃とした。
スクリューを回転させながら供給部に原料樹脂を供給し、原料樹脂を溶融させつつ圧縮部さらには計量部に送り出した。そして、22秒/回のサイクルで溶融樹脂を金型に射出し、縦100mm、横10mm、厚さ1mmの環状オレフィン系樹脂製の角板(成形体)を連続的に製造した。
なお、実施例1において、原料樹脂の溶融開始位置は、供給部の始点から54mm、原料樹脂の溶融完了位置は、供給部の始点から144mmだった。
つまり、原料樹脂は、供給部と圧縮部の境界よりl
2/4だけ供給部寄りの部分はで部分溶融であり、圧縮部と計量部の境界においては完全に溶融していた。
【0058】
・比較例1
実施例1において、スクリューとして、供給部の長さl
1=180mm、圧縮部の長さl
2=90mm、計量部の長さl
3=90mm(l
1/L=0.50)、圧縮比=2.0のスクリューを用いた以外は、実施例1と同様にして環状オレフィン系樹脂成形体を製造した。
なお、比較例1において、原料樹脂の溶融開始位置は供給部の始点から90mm、原料樹脂の溶融完了位置は供給部の始点から144mmだった。
【0059】
・評価
実施例1および比較例1において、500サイクルごとに、得られた成形体の外観を観察し、黒点の有無を確認した。黒点が発生するまでのサイクル数の結果を下表に示す。
なお、下表において、D
1〜D
4は、以下の定義である。
D
1:供給部の始点から、供給部と圧縮部の境界よりl
2/4だけ供給部寄りの部分までの距離
D
2:供給部の始点から、供給部と圧縮部の境界までの距離
D
3:供給部の始点から、圧縮部と計量部の境界よりl
2/2だけ圧縮部寄りの部分までの距離
D
4:供給部の始点から、圧縮部と計量部の境界までの距離
【0060】
【表1】
【0061】
上記結果より、本実施形態に係る樹脂成形体の製造方法は、射出成形機を用いた環状オレフィン系樹脂成形体の製造において黒点が発生しにくく、歩留まり向上が可能であることが示された。