特許第6851268号(P6851268)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6851268
(24)【登録日】2021年3月11日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】自動車用カバー部材およびその取付構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/08 20060101AFI20210322BHJP
   B60R 13/04 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   B62D25/08 G
   B60R13/04 Z
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-118208(P2017-118208)
(22)【出願日】2017年6月16日
(65)【公開番号】特開2019-1326(P2019-1326A)
(43)【公開日】2019年1月10日
【審査請求日】2020年4月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000158840
【氏名又は名称】鬼怒川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】持田 孝明
【審査官】 米澤 篤
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭61−139306(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0001321(US,A1)
【文献】 特開昭61−60341(JP,A)
【文献】 特開平9−86302(JP,A)
【文献】 特開2010−6329(JP,A)
【文献】 実開平1−148108(JP,U)
【文献】 特開2011−196397(JP,A)
【文献】 韓国登録特許第10−681067(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/08
B60R 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の内装部材または外装部材としてクリップ止め方式により相手側部材に装着される自動車用カバー部材であって、
前記自動車用カバー部材は、プレート状のカバー本体と、前記カバー本体の裏面に突出形成された側面視で変形菱形状をなすクリップ部と、を備え、
前記カバー本体は、裏面側が凸形状で表面側が凹形状となるように湾曲していて、前記凸形状の裏面に前記クリップ部が一体に突出形成され、
前記クリップ部の中央部には、前記変形菱形状とほぼ相似形をなす中空部が形成されていて、
前記クリップ部における変形菱形状の一方の外側面は、根元部から外側に向かって張り出すように傾斜した一方側の保持壁部と、この一方側の保持壁部の最大張り出し部から内側に向かって傾斜した一方側のガイド壁部とにより、略くの字状に屈曲した形状となっている一方、
前記クリップ部における変形菱形状の一方の外側面に対向する他方の外側面は、根元部から外側に向かって張り出すように傾斜した他方側の保持壁部と、この他方側の保持壁部の最大張り出し部から内側に向かって傾斜した他方側のガイド壁部とにより、略くの字状に屈曲した形状となっていて、
前記他方側の保持壁部の根元部外側の角隅部、および前記他方側の保持壁部と前記他方側のガイド壁部とにまたがる内側の角隅部に、それぞれにノッチ部が形成されていることを特徴とする自動車用カバー部材。
【請求項2】
前記クリップ部における変形菱形状の他方の外側面は、根元部から直立する直立壁部と、この直立壁部から外側に向かって張り出すように傾斜した他方側の保持壁部と、この他方側の保持壁部の最大張り出し部から内側に向かって傾斜した他方側のガイド壁部とを有していると共に、前記他方側の保持壁部と前記他方側のガイド壁部とにより略くの字状に屈曲した形状となっていて、
前記直立壁部と前記他方側の保持壁部とにまたがる外側の角隅部に、ノッチ部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の自動車用カバー部材。
【請求項3】
前記一方側の保持壁部の最大張り出し部での張り出し量よりも前記他方側の保持壁部の最大張り出し部での張り出し量の方が大きく設定されていることで、側面視で変形菱形状をなす前記クリップ部が左右非対称形状となっていることを特徴とする請求項2に記載の自動車用カバー部材。
【請求項4】
前記カバー本体から突出している前記クリップ部の長さをH、前記一方側の保持壁部と前記他方側の保持壁部の最大張り出し部同士のなす距離をWとしたとき、H≒WまたはH<Wの関係を満たすようにそれぞれの寸法が設定されていることを特徴とする請求項3に記載の自動車用カバー部材。
【請求項5】
前記自動車用カバー部材は、自動車のフロントガラスの下部コーナー部上面のうちカウルトップカバーとフロントフェンダーとのなす角隅部に装着されるフロントフェンダーカバーであり、
前記相手側部材は前記カウルトップカバーであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の自動車用カバー部材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の自動車用カバー部材の取付構造であって、
前記クリップ部は前記相手側部材に形成された角孔状の取付孔に挿入されるようになっていると共に、
前記取付孔のうち側面視で変形菱形状をなす前記クリップ部を受容する部分の寸法が、前記一方側の保持壁部と前記他方側の保持壁部の最大張り出し部同士のなす距離よりも小さく設定されていて、
前記相手側部材に対する前記自動車用カバー部材の正規取付状態では、前記一方側および他方側の保持部が前記取付孔の開口縁に係止されて抜け止め機能が発揮されるようになっていることを特徴とする自動車用カバー部材の取付構造。
【請求項7】
前記取付孔の内周面のうち少なくとも一方側の保持部に対応する部分が、その一方側の保持部と同等の傾斜面に形成されていることを特徴とする請求項6に記載の自動車用カバー部材の取付構造。
【請求項8】
前記相手側部材に対する前記自動車用カバー部材の正規取付状態では、前記取付孔の内周面のうち前記直立壁部に対応する部分と当該直立壁部との間に隙間が確保されるようになっていることを特徴とする請求項2に記載の自動車用カバー部材の取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の内装部材または外装部材としてクリップ止め方式により相手側部材に装着される自動車用カバー部材とその取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の自動車用カバー部材として、例えば特許文献1および2に開示されているように、自動車のフロントガラスの下部コーナー部上面のうちカウルトップカバーとフロントフェンダーとのなす角隅部に装着されるフロントフェンダーカバーが知られている。このフロントフェンダーカバーの取り付けに際し、特にカウルトップカバーとの関係に着目した場合に、特許文献2の図7に図示されているように、フロントフェンダーカバーの裏面に一体に突出形成されたクリップ(係止突起)をカウルトップカバー側の係止孔に挿入して、フロントフェンダーカバーをカウルトップカバーに固定保持させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−100166号公報
【特許文献2】特開2011−152870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2の図7に示されているようなクリップによるフロントフェンダーカバーの取付形態において、例えば相手側となるカウルトップカバーの造形上あるいは強度上の観点から、フロントフェンダーカバーの取付部位の裏面側に壁部が設定されることがある。カウルトップカバーの裏面側に壁部が設定されると、フロントフェンダーカバーの取付時にクリップが壁部と干渉してしまい、クリップの長さ(カウルトップカバー側へのクリップの突出長さ)を小さくしないかぎり、フロントフェンダーカバーの取り付けが不能になるおそれがある。
【0005】
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、クリップの長さが制限された場合でも、フロントフェンダーカバーに代表されるカバー部材を確実に相手側部材に固定できるように考慮された構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、請求項1に記載のように、自動車の内装部材または外装部材としてクリップ止め方式により相手側部材に装着される自動車用カバー部材であって、前記自動車用カバー部材は、プレート状のカバー本体と、前記カバー本体の裏面に突出形成された側面視で変形菱形状をなすクリップ部と、を備えている。
【0007】
そして、前記カバー本体は、裏面側が凸形状で表面側が凹形状となるように湾曲していて、前記凸形状の裏面に前記クリップ部が一体に突出形成され、
前記クリップ部の中央部には、前記変形菱形状とほぼ相似形をなす中空部が形成されていて、前記クリップ部における変形菱形状の一方の外側面は、根元部から外側に向かって張り出すように傾斜した一方側の保持壁部と、この一方側の保持壁部の最大張り出し部から内側に向かって傾斜した一方側のガイド壁部とにより、略くの字状に屈曲した形状となっている一方、前記クリップ部における変形菱形状の一方の外側面に対向する他方の外側面は、根元部から外側に向かって張り出すように傾斜した他方側の保持壁部と、この他方側の保持壁部の最大張り出し部から内側に向かって傾斜した他方側のガイド壁部とにより、略くの字状に屈曲した形状となっている。
【0008】
その上で、前記他方側の保持壁部の根元部外側の角隅部、および前記他方側の保持壁部と前記他方側のガイド壁部とにまたがる内側の角隅部に、それぞれにノッチ部が形成されていることを特徴とするものである。
【0009】
より具体的には、請求項2に記載のように、前記クリップ部における変形菱形状の他方の外側面は、根元部から直立する直立壁部と、この直立壁部から外側に向かって張り出すように傾斜した他方側の保持壁部と、この他方側の保持壁部の最大張り出し部から内側に向かって傾斜した他方側のガイド壁部とを有していると共に、前記他方側の保持壁部と前記他方側のガイド壁部とにより略くの字状に屈曲した形状となっていて、前記直立壁部と前記他方側の保持壁部とにまたがる外側の角隅部に、ノッチ部が形成されているものとする。
【0010】
望ましくは、請求項3に記載のように、前記一方側の保持壁部の最大張り出し部での張り出し量よりも前記他方側の保持壁部の最大張り出し部での張り出し量の方が大きく設定されていることで、側面視で変形菱形状をなす前記クリップ部が左右非対称形状となっているものとする。
【0011】
同様に、請求項4に記載のように、前記カバー本体から突出している前記クリップ部の長さをH、前記一方側の保持壁部と前記他方側の保持壁部の最大張り出し部同士のなす距離をWとしたとき、H≒WまたはH<Wの関係を満たすようにそれぞれの寸法が設定されているものとする。
【0013】
より具体的には、請求項に記載のように、前記自動車用カバー部材は、自動車のフロントガラスの下部コーナー部上面のうちカウルトップカバーとフロントフェンダーとのなす角隅部に装着されるフロントフェンダーカバーであり、前記相手側部材は前記カウルトップカバーであるものとする。
【0014】
前記自動車用カバー部材の取付構造としては、請求項に記載のように、前記クリップ部は前記相手側部材に形成された角孔状の取付孔に挿入されるようになっていると共に、前記取付孔のうち側面視で変形菱形状をなす前記クリップ部を受容する部分の寸法が、前記一方側の保持壁部と前記他方側の保持壁部の最大張り出し部同士のなす距離よりも小さく設定されていて、前記相手側部材に対する前記自動車用カバー部材の正規取付状態では、前記一方側および他方側の保持部が前記取付孔の開口縁に係止されて抜け止め機能が発揮されるようになっているものとする。
【0015】
具体的には、請求項に記載のように、前記取付孔の内周面のうち少なくとも一方側の保持部に対応する部分が、その一方側の保持部と同等の傾斜面に形成されているものとする。
【0016】
同様に、請求項に記載のように、前記相手側部材に対する前記自動車用カバー部材の正規取付状態では、前記取付孔の内周面のうち前記直立壁部に対応する部分と当該直立壁部との間に隙間が確保されるようになっているものとする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、クリップ部の内外の二箇所にノッチ部が形成されていて、クリップ部自体の屈曲容易性が確保されているので、クリップ部の長さが制限された場合でも、組付性および組付後の保持性が良好なものとなるほか、クリップ部が挿入係止された際の節度感も良好なものとなる。
【0018】
特に請求項3,4に記載の発明によれば、側面視で変形菱形状をなすクリップ部が左右の張り出し量の相違に基づく左右非対称形状となっているので、クリップ部を相手側の取付孔に挿入する際にクリップ部全体が変形しやすくなり、組付性が一段と向上する。
【0019】
また、請求項に記載の発明によれば、取付孔の内周面のうち少なくとも一方側の保持部に対応する部分が傾斜面となっていて、取付孔へのクリップ部の挿入後に取付孔側の傾斜面と一方側の保持部とが傾斜面接触することになるので、取付孔へのクリップ部の挿入容易性と挿入後の抜けにくさを両立することが可能となる。
【0020】
請求項に記載の発明によれば、取付孔の内周面のうち前記直立壁部に対応する部分と当該直立壁部との間に隙間が確保されるようになっているので、取付孔へのクリップ部の挿入容易性と挿入後の抜けにくさを両立しつつ、特にクリップ部の挿入容易性が一段と向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1の実施の形態を示す図で、フロントフェンダーカバーが装着される自動車のフロントガラス周りを左前方側から見た斜視図。
図2図1のa部の拡大図であって、カウルトップカバーとフロントフェンダーカバーとの相対位置関係を示す説明図。
図3図2に示したフロントフェンダーカバーのみを裏側から見た拡大説明図。
図4図3のSA−SA線に沿った断面図。
図5図3のSB−SB線に沿った断面図。
図6図3のSC−SC線に沿った断面図。
図7図3のSD−SD線に沿った断面図。
図8図3のSE−SE線に沿った断面図。
図9図8に示したクリップ部の基本形状を示す説明図。
図10図2のSF−SF線に沿った拡大断面図。
図11図10に示したクリップ部の拡大図。
図12図11に示したクリップ部の挿入途中の状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1〜12は本発明に係る自動車用カバー部材とその取付構造を実施するためのより具体的な形態を示していて、特に図1はフロントフェンダーカバー6が装着される自動車のフロントガラス周りを左前方側から見た斜視図を示し、図2図1のa部の拡大図であって、カウルトップカバー2とフロントフェンダーカバー6との相対位置関係を示している。
【0023】
図1に示すように、自動車の前部には、エンジンルームの上面を覆うフード1が配設されると共に、フード1の後端下面側には車幅方向に沿ってカウルトップカバー2が配設される。このカウルトップカバー2から斜め後方側に向かってフロントガラス3が延びている。フロントガラス3の車幅方向両側にはそのフロントガラス3とほぼ平行に車体骨格部材であるフロントピラー4が位置している。さらに、フロントピラー4の下側にはフロントフェンダー5の上端部がフード1およびフロントピラー4と整合するように位置している。
【0024】
そして、図1のa部の拡大図として図2に示すように、フロントガラス3の下部コーナー部上面であってカウルトップカバー2とフロントフェンダー5の上端部とのなす角隅部に、自動車用の外装材であるカバー部材としてのフロントフェンダーカバー6がカウルトップカバー2と一部重なり合うようにして装着されている。
【0025】
図3図2に示した自動車用のカバー部材としてのフロントフェンダーカバー6のみを裏側から見た拡大図であって、図4〜8は図3のSA−SA線、SB−SB線、SC−SC線、SD−SD線およびSE−SE線に沿ったそれぞれの断面図を示している。ただし、図8のみ図4〜7に比べて拡大倍率を大きくしている。
【0026】
図3に示すフロントフェンダーカバー6は、図2に示したカウルトップカバー2との重合部となる一方の端末部8aから反対側に向かって幅寸法が漸次小さくなるように徐変するプレート状のベース部8と、このベース部8から長手方向に向かって突出して幅寸法が漸次小さくなるように徐変する先細りバー形状の延長部9と、を備えている。そして、これらのベース部8と延長部9とでフロントフェンダーカバー6のカバー本体7が形成される。
【0027】
カバー本体7のベース部8と延長部9との間には段差部10が設定されていると共に、ベース部8と延長部9とを含むカバー本体7全体として略弓形状に滑らかに湾曲した形状となっている。なお、このフロントフェンダーカバー6は、カバー本体7に後述する複数のクリップ部11,12を含むかたちで、例えばPP(ポリプロピレン)とEPDMとの複合樹脂材料により形成されていて、特にカバー本体7は方向を問わず屈曲性および柔軟性に富んでいる。
【0028】
フロントフェンダーカバー6におけるカバー本体7のベース部8は図4〜6から明らかなように、表面側(上面側)が凹形状で裏面側が凸形状となり、且つ幅方向の中央部が低く幅方向の両端部が高くなるように湾曲していて、幅方向の一方の端部には、カウルトップカバー2やフロントフェンダー5(図1参照。)との突き合わせ部となるフランジ部8bが形成されている。
【0029】
他方、ベース部8の幅方向の他方の端部には、後述する図10に示すように、フロントガラス3に密着するリップ部8cが形成されている。ベース部8の一方の端末部8aの裏面には、図3に示すように、相手側部材であるカウルトップカバー2に対する固定部として機能する二つのクリップ部11,12が一体に突出形成されている。このうち、クリップ部12の詳細については後述する。また、ベース部8の裏面の各部は、複数個並設されたリブ8d,8e,8fやウェブ8gによって補強されている。
【0030】
また、図3に示したベース部8に連続する延長部9についても、図7に示すように、ベース部8と同様に、幅方向の両端部にフランジ部9aとリップ部9bがそれぞれに形成されていると共に、裏面の各部は、複数個並設されたリブ9c,9dによって補強されている。さらに、延長部9の裏面における長手方向の中間部には、図7から明らかなように、単一の係止爪13が突出形成されている。以上の説明から明らかなように、ベース部8と延長部9とからなるカバー本体7に、少なくとも単一のクリップ部12を含むかたたちで、自動車用の外装材であるカバー部材としてのフロントフェンダーカバー6が形成されている。
【0031】
そして、後述する図10に示すフロントフェンダーカバー6の正規組付状態では、図3に示したベース部8の裏面の二つのクリップ部11,12がカウルトップカバー2側の取付孔に係止される一方で、延長部9の裏面の係止爪13がフロントガラス3の端縁に係止されることになる。
【0032】
図3のSE−SE線断面である図8に拡大して示すように、カバー本体7におけるベース部8の裏面に突出形成されたクリップ部12は、外形状が側面視にて略変形菱形状をなしていて、図3に示すように所定の厚みtを有している。そして、クリップ部12の中央部には外形状とほぼ相似形をなす中空部14が厚み方向に貫通するようにして形成されている。
【0033】
図8に示したクリップ部12における変形菱形状の一方の外側面(図8の左側の外側面)は、根元部から外側に向かって張り出すように傾斜した一方側の保持壁部15aと、この一方側の保持壁部15aの最大張り出し部となる頂部15cから内側に向かって傾斜した一方側のガイド壁部15bとにより、略くの字状に屈曲した形状に形成されている。ここで、上記根元部とは、カバー本体7を形成しているベース部8の裏面と、その裏面から突出形成されたクリップ部12との境界部近傍とする。
【0034】
他方、図8に示したクリップ部12における変形菱形状の一方の外側面に対向する他方の外側面(図8の右側の外側面)は、根元部から外側に向かって張り出すように傾斜した他方側の保持壁部17aと、この他方側の保持壁部17aの最大張り出し部である頂部17cから内側に向かって傾斜した他方側のガイド壁部17bとにより、略くの字状に屈曲した形状に形成されている。
【0035】
そして、図8に示した他方側の保持壁部17aの根元部外側の角隅部に、逃がし凹部として機能する円弧状のノッチ部18が形成されていると共に、他方側の保持壁部17aと他方側のガイド壁部17bとにまたがる内側の角隅部に、同じく逃がし凹部として機能する円弧状のノッチ部19が形成されている。
【0036】
より詳しくは、図8に示したクリップ部12は、双方のノッチ部18,19が形成されていない状態では、図9に示す形状を基本形状としている。図9に示す基本形状のクリップ部12Aでは、変形菱形状の他方の外側面(図9の右側の外側面)は、根元部から直立する直立壁部16と、この直立壁部16から外側に向かって張り出すように傾斜した他方側の保持壁部17aと、この他方側の保持壁部17aの最大張り出し部である頂部17cから内側に向かって傾斜した他方側のガイド壁部17bとを有している。そして、他方側の保持壁部17aと同じく他方側のガイド壁部17bとにより略くの字状に屈曲した形状に形成されている。
【0037】
また、図9に示すクリップ部12Aの根元部の幅寸法を二分する線を基準中心線C1とし、この基準中心線C1から一方側の保持壁部15aの最大張り出し位置である頂部15cまでの距離をWa、同様に基準中心線C1から他方の保持壁部17aの最大張り出し位置である頂部17cまでの距離をWbとした場合、Wa<Wbの関係を満たすようにそれぞれの寸法が設定されている。
【0038】
そして、図9に示すクリップ部12Aの先端の頂部20は、基準中心線C1よりも一方側の保持壁部15aおよびガイド壁部15b側に偏倚している。さらに、カバー本体7におけるベース部8の裏面から突出しているクリップ部12Aの長さをH、一方側の保持壁部15aと他方側の保持壁部17aの最大張り出し部である頂部15c,17c同士のなす距離をWとしたとき、H≒WまたはH<Wの関係を満たすようにそれぞれの寸法が設定されている。これらにより、側面視にて変形菱形状をなす基本形状のクリップ部12Aは、基準中心線C1を基準とした場合に左右非対称の形状となっている。
【0039】
本実施の形態では、図9に示した基本形状のクリップ部12Aを前提とし、その上で、図8に示すように、図9の直立壁部16と他方側の保持壁部17aとにまたがる外側の角隅部に逃がし凹部として機能するノッチ部18を形成すると共に、他方側の保持壁部17aと他方側のガイド壁部17bとにまたがる内側の角隅部に、同じく逃がし凹部として機能するノッチ部19を形成することで、図8に示した変形菱形状のクリップ部12が形成されていることになる。これにより、双方のノッチ部18,19が形成された部位の肉厚が、弾性変形の起点となりやすいように局部的に薄肉化されていることになる。
【0040】
その一方、図2のSF−SF線に沿った拡大断面図を図10に示している。なお、図10図3のSE−SE線に沿った断面図である図8にも対応している。また、図10のクリップ部12の拡大図を図11に示し、さらにクリップ部12の挿入途中の状態を図12に示している。なお、図12において、クリップ部12の撓み変形前の外形形状を仮想線で示している。
【0041】
図10に示すように、フロントフェンダーカバー6が装着されることになるカウルトップカバー2は、フロントフェンダーカバー6の少なくとも一方の端末部8a(図3参照。)が着座することになる部分では、フロントフェンダーカバー6の湾曲形状に倣って、上面側が凹形状で裏面側が凸形状となるように湾曲した着座壁部2aが形成されている。
【0042】
カウルトップカバー2の着座壁部2aの一部には、クリップ部12の形状に対応した角孔状の取付孔21が貫通形成されている。そして、図11,12に拡大して示すように、この取付孔21の内周面のうちクリップ部12の一方側の保持壁部15aに対応する部分には、その一方側の保持壁部15aの傾斜度合いに対応した同等の傾斜内周面21aが形成されている。また、図12に示すように、取付孔21のうちクリップ部12の挿入側の寸法Qは、図9に示した寸法Wよりも小さく設定されている。
【0043】
なお、図3に示したフロントフェンダーカバー6の裏面において、必要に応じて、クリップ部12を二個以上設けても良いことは言うまでもない。
【0044】
したがって、このように構成されたフロントフェンダーカバー6によれば、図2に示すように、カウルトップカバー2と一部重なり合うようにフロントフェンダーカバー6を装着するにあたっては次の通りとする。
【0045】
図10に示すように、カウルトップカバー2側の取付孔21とフロントフェンダーカバー6におけるカバー本体7側のクリップ部12の位置を合致させた上で、カバー本体7の上面のうちクリップ部12に相当する位置をカウルトップカバー2側に押し込んで、クリップ部12を取付孔21に挿入・係止させるものとする。なお、図3に示したもう一方のクリップ部11も図示を省略した取付孔に挿入・係止させると共に、同じく図3に示した係止爪13をフロントガラス3に係止させることになるが、これらの事項は本発明の主要部ではないので、ここでの詳細な説明は省略するものとする。
【0046】
図10に示したクリップ部12を相手側となる取付孔21に押し込んで挿入する際には、図12に示すように、双方のガイド壁部15b,17bと取付孔21の開口縁との傾斜面接触により案内効果が発揮され、取付孔21がこの取付孔21よりも幅広の寸法W(図9参照。)を有するクリップ部12を受容するべく、双方のガイド壁部15b,17b同士のなす頂部20の角度を縮小化するようにクリップ部12自体が弾性変形することになる。
【0047】
クリップ部12が弾性変形する際には、図12に示すように、最初にノッチ部18を起点として他方側の保持壁部17aの頂部17c側が矢印P1方向に押し上げられるように撓み変形し、次いで、なおも押し込み力が加わると、一方側のガイド壁部15bと保持壁部15aも根元部から全体的に矢印P2方向に倒れ込むように撓み変形することになる。
【0048】
そのタイミングで、図10,11に示すように、クリップ部12の双方の頂部15c,17cが取付孔21を乗り越えて、クリップ部12全体が取付孔21よりも下方側に挿入されることになる。同時に、クリップ部12の双方の頂部15c,17cが取付孔21を乗り越えたことによる適度な節度感が得られることになる。
【0049】
取付孔21を乗り越えてその取付孔21に挿入されたクリップ部12は直ちに元の状態に自己復元することになる。図11に示すように、傾斜している一方側の保持壁部15aが取付孔21の内周面のうち同じく傾斜している傾斜内周面21aに密着する一方、他方側の保持壁部17aが取付孔21の内周面のうち傾斜内周面21aとは反対側の内周面の開口縁に係止されることになる。この係止状態においては、一方のノッチ部18に相当する部分で取付孔21の内周面との間に所定の隙間Gが確保されている。したがって、先に述べたように、取付孔21をこの取付孔21よりも幅広の寸法Wを有するクリップ部12が通過する際の弾性変形が無理なく許容される。
【0050】
以上により、図10,11に示したクリップ部12による係止保持力をもって、カウルトップカバー2に対してフロントフェンダーカバー6が固定保持され、同時にカウルトップカバー2からのフロントフェンダーカバー6の抜け止め効果が発揮されることになる。すなわち、図10,11に示した状態をもって、クリップ部12の取付孔21への挿入方向とは逆方向の抜き出し力に対して十分に対抗することができる。
【0051】
ここで、図10,11に示すように、カウルトップカバー2の造形上あるいは強度上の観点から、フロントフェンダーカバー6が着座することになるカウルトップカバー2の着座壁部2aの背面側に別の壁部2bが設定されることがある。このような壁部2bが設定されていたとしても、クリップ部12について、先に述べたように、クリップ部12の長さHと双方の頂部15c,17c同士のなす距離Wとの関係として、H≒WまたはH<Wの関係を満たすようにそれぞれの寸法が設定されているので、クリップ部12が壁部2bと干渉するのを未然に回避することができる。
【0052】
しかも、壁部2bの存在によりクリップ部12の長さHが制限されたとしても、クリップ部12は図10,11の状態をもって、カウルトップカバー2に対するフロントフェンダーカバー6の係止固定状態を安定して維持することが可能となる。
【0053】
このように本実施の形態のフロントフェンダーカバー6の取付構造によれば、クリップ部12の内外の二箇所にノッチ部18,19が形成されていて、クリップ部12自体の屈曲容易性が優れているので、クリップ部12の長さが制限された場合でも、組付性および組付後の保持性が良好なものとなるほか、クリップ部12が挿入係止された際の節度感も良好なものとなる。
【0054】
また、側面視で変形菱形状をなすクリップ部12が左右の張り出し量の相違に基づく左右非対称形状となっているので、クリップ部12をカウルトップカバー2側の取付孔21に挿入する際にクリップ部12全体が変形しやすくなり、組付性が一段と向上する。
【0055】
さらに、カウルトップカバー2側の取付孔21の内周面のうち少なくとも一方側の保持部15aに対応する部分が傾斜内周面21aとなっていて、取付孔21へのクリップ部12の挿入後に、その取付孔21側の傾斜内周面21aと一方側の保持部15aとが傾斜面接触することになるので、取付孔21へのクリップ部12の挿入容易性と挿入後の抜けにくさを両立することが可能となる。
【0056】
加えて、図11に示すように、カウルトップカバー2側の取付孔21の内周面のうちノッチ部18に対応する部分では両者の間に隙間Gが確保されるようになっているので、取付孔21へのクリップ部12の挿入容易性と挿入後の抜けにくさを両立しつつ、特にクリップ部12の挿入容易性が一段と向上することになる。
【0057】
ここで、上記実施の形態では、自動車用の外装材であるカバー部材としてのフロントフェンダーカバー6を例にとって説明したが、その実質的特徴はクリップ部12にあるので、本発明の適用範囲は必ずしもフロントフェンダーカバー6のみには限定されない。例えば、カバー部材の裏面にクリップ部を有するものであれば、フロントフェンダーカバー6以外にも、自動車の外装材であるか内装材であるかを問わず、同種のカバー部材に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0058】
2…カウルトップカバー
3…フロントガラス
5…フロントフェンダー
6…フロントフェンダーカバー(自動車用カバー部材)
7…カバー本体
8…ベース部
9…延長部
12…クリップ部
14…中空部
15a…一方側の保持壁部
15b…一方側のガイド壁部
15c…頂部(最大張り出し部)
16…直立壁部
17a…他方側の保持壁部
17b…他方側のガイド壁部
17c…頂部(最大張り出し部)
18…ノッチ部
19…ノッチ部
21…取付孔
21a…傾斜内周面
G…隙間
図1
図2
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