【実施例1】
【0061】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。当業者は、本発明の意義を逸脱することなく様々な態様に本発明を変更することができ、かかる変更も本発明の範囲に含まれる。
【0062】
1.不死化巨核球細胞の作製
1−1.iPS細胞からの造血前駆細胞の調製
ヒトiPS細胞(TKDN SeV2:センダイウイルスを用いて樹立されたヒト胎児皮膚繊維芽細胞由来iPS細胞)から、Takayama N., et al. J Exp Med. 2817-2830 (2010)に記載の方法に従って、血球細胞への分化培養を実施した。即ち、ヒトES/iPS細胞コロニーを20ng/mL VEGF (R&D SYSTEMS)存在下でC3H10T1/2フィーダー細胞と14日間共培養して造血前駆細胞(Hematopoietic Progenitor Cells;HPC)を作製した。培養条件は20% O
2、5% CO
2で実施した(特に記載がない限り、以下同条件)。
【0063】
1−2.遺伝子導入システム
遺伝子導入システムは、レンチウイルスベクターシステムを利用した。レンチウイルスベクターは、Tetracycline制御性のTet-on(登録商標)遺伝子発現誘導システムベクターである。LV-TRE-mOKS-Ubc-tTA-I2G(Kobayashi, T., et al. Cell 142, 787-799 (2010))のmOKSカセットをc-MYC、BMI1、BCL-xLに組み替えることで作製した。それぞれ、LV-TRE-c-Myc-Ubc-tTA-I2G、LV-TRE-BMI1-Ubc-tTA-I2G、およびLV-TRE-BCL-xL-Ubc-tTA-I2Gとした。
【0064】
ウイルス粒子は、293T細胞へ上記レンチウイルスベクターを遺伝子導入することにより作成した。
【0065】
かかるウイルス粒子を目的の細胞に感染させることによって、BMI1、MYC、及びBCL-xLの遺伝子が目的の細胞のゲノム配列に導入される。安定的にゲノム配列に導入されたこれらの遺伝子は、培地にドキシサイクリン (clontech #631311)を加えることによって強制発現させることができる。
【0066】
1−3.造血前駆細胞へのc-MYC及びBMI1ウイルス感染
予めC3H10T1/2フィーダー細胞を播種した6 well plate上に、上記の方法で得られたHPCを5x10
4cells/wellずつ播種し、レンチウイルス法にてc-MYCおよびBMI1を強制発現させた。このとき、細胞株1種類につき6 wellずつ使用した。即ち、それぞれMOI 20になるように培地中にウイルス粒子を添加し、スピンインフェクション(32℃ 900rpm、60分間遠心)で感染させた。本操作は、12時間おきに2回実施した。
【0067】
培地は、基本培地(15% Fetal Bovine Serum (GIBCO)、1% Penicillin-Streptomycin-Glutamine (GIBCO)、1% Insulin, Transferrin, Selenium Solution (ITS-G) (GIBCO)、0.45mM 1-Thioglycerol (Sigma-Aldrich)、50μg/mL L-Ascorbic Acid (Sigma-Aldrich)を含有するIMDM (Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium) (Sigma-Aldrich))に50ng/mL Human thrombopoietin (TPO) (R&D SYSTEMS)、50ng/mL Human Stem Cell Factor (SCF) (R&D SYSTEMS)および2μg/mL Doxycycline (Dox)を添加した培地(以下、分化培地)に、更に、Protamineを最終濃度10μg/mL加えたものを使用した。
【0068】
1−4.巨核球自己増殖株の作製および維持培養
上記の方法でcMYC及びBMI1ウイルス感染を実施した日を感染0日目として、以下の通り、cMYC及びBMI1遺伝子導入型巨核球細胞を培養することで、巨核球自己増殖株をそれぞれ作製した。BMI1遺伝子、c-MYC遺伝子の強制発現は、培地にドキシサイクリン(clontech #631311) 1μg/mLを加えることにより行った。
【0069】
・感染2日目〜感染11日目
ピペッティングにて上記の方法で得られたウイルス感染済み血球細胞を回収し、1200rpm、5分間遠心操作を行って上清を除去した後、新しい分化培地で懸濁して新しいC3H10T1/2フィーダー細胞上に播種した(6well plate)。感染9日目に同様の操作をすることによって継代を実施した。細胞数を計測後1×10
5 cells/2mL/wellでC3H10T1/2フィーダー細胞上に播種した(6well plate)。
【0070】
・感染12日目〜感染13日目
感染2日目と同様の操作を実施した。細胞数を計測後3×10
5cells/10mL/100mm dishでC3H10T1/2フィーダー細胞上に播種した(100mm dish)。
【0071】
・感染14日目
ウイルス感染済み血球細胞を回収し、細胞1.0×10
5個あたり、抗ヒトCD41a-APC抗体(BioLegend)、抗ヒトCD42b-PE抗体(eBioscience)、抗ヒトCD235ab-pacific blue(BioLegend)抗体をそれぞれ2μL、1μL、1μLずつを用いて抗体反応した。反応後に、FACS Verse(BD)を用いて解析した。感染14日目において、CD41a陽性率が50%以上であった細胞を、巨核球自己増殖株とした。
【0072】
1−4.巨核球自己増殖株へのBCL-xLウイルス感染
前記感染14日目の巨核球自己増殖株に、レンチウイルス法にてBCL-xLを遺伝子導入した。MOI 10になるように培地中にウイルス粒子を添加し、スピンインフェクション(32℃ 900rpm、60分間遠心)で感染させた。BCL-xL遺伝子の強制発現は、培地にドキシサイクリン (clontech #631311) 1μg/mLを加えることにより行った。
【0073】
1−5.巨核球不死化株の作成及び維持培養
・感染14目〜感染18日目
前述の方法で得られたBCL-xLを遺伝子導入した巨核球自己増殖株を回収し、1200rpm、5分間遠心操作を行った。遠心後、沈殿した細胞を新しい分化培地で懸濁した後、新しいC3H10T1/2フィーダー細胞上に2×10
5cells/2mL/wellで播種した(6well plate)。
【0074】
・感染18日目:継代
細胞数を計測後、3×10
5 cells/10mL/100mm dishで播種した。
【0075】
・感染24日目:継代
細胞数を計測後、1×10
5 cells/10mL/100mm dishで播種した。以後、4-7日毎に継代を行い、維持培養を行った。
【0076】
感染24日目にBCL-xLを遺伝子導入した巨核球自己増殖株を回収し、細胞1.0×10
5個あたり、抗ヒトCD41a-APC抗体(BioLegend)、抗ヒトCD42b-PE抗体(eBioscience)、抗ヒトCD235ab-Pacific Blue(Anti-CD235ab-PB; BioLegend)抗体をそれぞれ2μL、1μL、1μLずつを用いて免疫染色した後にFACS Verse(BD)を用いて解析して、感染24日目においても、CD41a陽性率が50%以上である株を不死化巨核球細胞株とした。感染後24日以上増殖することができたこれらの細胞を、不死化巨核球細胞株SeV2-MKCLとした。
【0077】
得られたSeV2-MKCLを、10cmディッシュ(10mL/ディッシュ)で静置培養した。培地は、IMDMを基本培地として、以下の成分を加えた(濃度は終濃度)。
FBS(シグマ#172012 lot.12E261)15%
L-Glutamin (Gibco #25030-081) 2mM
ITS (Gibco #41400-045) 100倍希釈
MTG (monothioglycerol, sigma #M6145-25ML) 450μM
アスコルビン酸 (sigma #A4544) 50μg/mL
Puromycin (sigma #P8833-100MG) 2μg/mL
SCF (和光純薬 #193-15513) 50ng/mL
TPO様作用物質 200ng/mL
培養条件は、37℃、5%CO
2とした。
【0078】
2.血小板の生産
【0079】
次に、ドキシサイクリンを含まない培地で培養することで強制発現を解除した。具体的には、1.の方法で得た不死化巨核球細胞株(SeV2-MKCL)を、PBS(-)で2度洗浄し、1.0x10
5 cells/mLの播種密度で次の培地に懸濁した。
【0080】
培地は、IMDMを基本培地として、以下の成分を加えた(濃度は終濃度)。
FBS 15%
L-Glutamin (Gibco #25030-081) 2mM
ITS (Gibco #41400-045) 100倍希釈
【0081】
MTG (monothioglycerol, sigma #M6145-25ML) 450μM
アスコルビン酸 (sigma #A4544) 50μg/mL
SCF (和光純薬 #193-15513) 50ng/mL
TPO様作用物質 200ng/mL
ADAM阻害剤 15μM
SR1 750nM
ROCK阻害剤 5μM
【0082】
得られた不死化巨核球細胞株懸濁液を125 mL振とう(シェーカー)フラスコ(培地25 mL)及びバイオリアクターの撹拌培養槽(培地700 mL)に添加した。かかる培養条件で、3日〜9日間培養することによって血小板を生産させた。バイオリアクターは、バイオット社のBCP撹拌培養槽(以下、BCPと記載する)を用いた。
【0083】
BCPでは、2リットル容積の培養槽中に0.7リットルの、又は、1リットル容積の培養槽中に0.5リットルの、不死化巨核球細胞株懸濁液を培養した。撹拌速度は75 rpm。撹拌は、回転式撹拌翼を用いた。BCPの仕様は、次のとおりである。外寸:300(W)×905(H)×500(D)mm。培養槽:液量0.5〜10L。スピンナーフラスコ又はベッセル。攪拌方式:下部マグネット攪拌。回転数:10〜140rpm。温度調整:室温+10℃〜45℃。計測制御:攪拌,温度,pH,DO,レベル,フィード。
【0084】
125 mL振とうフラスコは、37℃および5%CO
2環境下で、振とう培養器(N-BIOTEK, AniCell)を用いて100 rpmの速度で振とう培養した。
【0085】
3.血小板の測定
【0086】
2.の方法で生産された血小板を測定するために、強制発現解除後、培養6日後の培養上清サンプルを回収し、各種抗体による染色と共に、フローサイトメーターを用いた分析を行った。CD41a陽性CD42b陽性の粒子数を正常血小板数とし、CD41a陽性CD42b陰性の粒子数を劣化血小板数とした。アネキシンV陽性の粒子数を異常血小板数とした。また、サンプルをPMA又はADP/Thrombinで刺激し、刺激前後のPAC-1およびCD62pの陽性率を算出して生理活性を測定した。
【0087】
詳しい測定方法と結果は以下のとおりである。
3−1.血小板の測定
正常血小板、劣化血小板、血小板の生理活性の測定のために、1.5 mLマイクロチューブに希釈液 900 μLを添加し、そこに培養上清100 μLを添加し、混合した。希釈混合した培養上清200 μLをFACSチューブに分注し、以下の標識抗体或はタンパク質を添加して染色を行った。異常血小板の測定のために、培養上清 100 μLをFACSチューブに分注し、以下の標識抗体或はタンパク質を添加して染色を行い、フローサイトメーター分析直前にAnnexin V binding buffer(BD)で5倍希釈し、分析した。
【0088】
使用した抗体は以下のとおりである。
正常血小板および劣化血小板の測定
0.5μL 抗CD41抗体 APC標識(Bio Legend 303710)
0.5μL 抗CD42a抗体PB標識(eBioscience 48-0428-42)
0.5μL 抗CD42b抗体PE標識(eBioscience 12-0428-42)
血小板の生理活性の測定
0.5μL 抗CD42a抗体PB標識(eBioscience 48-0428-42)
0.5μL 抗CD42b抗体PE標識(eBioscience 12-0428-42)
0.5μL 抗CD62p抗体APC標識(Bio Legend 304910)
10μL 抗PAC-1抗体FITC標識(BD 303704)
異常血小板数の測定
0.5μL 抗CD41抗体 APC標識(Bio Legend 303710)
0.5μL 抗CD42a抗体PB標識(eBioscience 48-0428-42)
5μL Annexin V FITC標識(BD, 556419)
【0089】
3−2.血小板生理活性の測定
血小板の刺激は、PMA 0.2 μM (Phorbol 12-myristate 13-acetate, sigma #P1585-1MG)、又は、ADP 100 μM(sigma #A2754)およびThrombin 0.5 U/mL(sigma)で室温にて行った。刺激30分後にBD社FACSverceにて測定を実施した。
CD42a陽性の血小板画分における、刺激前後のPAC-1陽性率及びCD62p陽性率を測定し、比較評価した。
結果を
図1に示す。PMAもしくはADP/Thrombin刺激時のPAC-1陽性率のMFIは、BCPによる撹拌培養の場合、125mLシェーカーフラスコでの振とう培養条件の場合よりも、約2〜3倍向上した。
また、
図2に示すとおり、BCPによる撹拌培養では、シェーカーフラスコでの振とう培養に比較して、CD62p陽性率も2倍以上高く、生理活性の高い血小板が得られたことが示された。
【0090】
3−3.血小板の劣化の測定
前記3−1.の方法によって、各処理サンプルをフローサイトメーターを用いて分析し、CD41a陽性CD42b陽性の粒子数を正常血小板数、CD41a陽性CD42b陰性の粒子数を劣化血小板数として、算出した。
結果を
図3に示す。正常血小板の産生効率は、振とう培養の場合に比べて、BCPによる撹拌培養の場合、約1.7倍に増加した。一方、劣化した血小板は、振とう培養の場合に比べて、BCPによる撹拌培養の場合、約0.75倍に減少した。
【0091】
3−4.異常血小板の測定
前記3−1.の方法によって、各処理サンプルをフローサイトメーターを用いて分析し、アネキシンV陽性の粒子数を異常血小板数とした。結果を
図4に示す。振とう培養の場合に比べて、BCPによる撹拌培養の場合、異常血小板数は、約0.7倍に減少した。
【0092】
4.培養条件の最適化
BCP撹拌培養装置の撹拌回転数を変えたときの血小板生産効率の違いを測定した。撹拌回転数を100rpm、120rpm、140rpmとして、CD41a陽性CD42b陽性粒子を測定した結果を
図5に示す。
最も回転数が高い140rpmのときに、血小板(CD41a陽性CD42b陽性)の生産量が最も高くなった。