(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6851320
(24)【登録日】2021年3月11日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】燃料の酸化の進行度を継続的にモニターする方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/22 20060101AFI20210322BHJP
【FI】
G01N33/22 B
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-557915(P2017-557915)
(86)(22)【出願日】2016年5月4日
(65)【公表番号】特表2018-522212(P2018-522212A)
(43)【公表日】2018年8月9日
(86)【国際出願番号】EP2016060101
(87)【国際公開番号】WO2016177838
(87)【国際公開日】20161110
【審査請求日】2019年2月22日
(31)【優先権主張番号】1554011
(32)【優先日】2015年5月5日
(33)【優先権主張国】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591007826
【氏名又は名称】イエフペ エネルジ ヌヴェル
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】アルヴェ、 フォルチュナト マイラ
(72)【発明者】
【氏名】ベヌ アマラ、 アリュ
(72)【発明者】
【氏名】ジュラン、 ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】スタルク、 ローリー
【審査官】
倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−281486(JP,A)
【文献】
特開2014−105281(JP,A)
【文献】
特表2013−501090(JP,A)
【文献】
特表2014−505135(JP,A)
【文献】
特開2012−067689(JP,A)
【文献】
特開2009−079978(JP,A)
【文献】
特開2004−156455(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/080108(WO,A1)
【文献】
SVILANS Mikelis et al.,Spectroscopic Monitoring of Biodiesel Aging,Material Science and Applied Chemistry,2013年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/22,31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料の酸化の進行度を継続的にモニターする方法であって、
少なくとも下記のステップ:
a)モニターすべき、前記酸化の反応の進行の指標となる、少なくとも1つの指標物を決定するステップ、
b)前記燃料中における、前記指標物の含有量を測定するステップ、
c)前記燃料の酸化の進行度を等級に分けるステップ、
d)前記等級に従って、講ずべき対策を決定するステップ、
を含み、
前記指標物は、少なくとも1つの中間生成物または最終生成物、あるいは、前記燃料の1つ以上の成分との、少なくとも1つの酸化反応による、少なくとも1つの共生成物であり、及び、
前記燃料が初期酸化段階にあるか、中間酸化段階にあるか、または高度酸化段階にあるかの決定は、前記中間生成物、前記共生成物および/または前記最終生成物の含有量を決定することによって行われ、
前記指標物は、アルデヒド類、アルコール類、ケトン類、ケト酸類、エポキシド類及びカルボン酸類から選択される、族に属している、1つ以上の分子であるか、少なくとも一つの共生成物であり、該共生成物は、直鎖又は分岐のアルケン類、芳香族類、アルデヒド類、アルコール類、ケトン類、ケト酸類、エポキシド類及びカルボン酸類のいずれかの族に属する1つ以上のモノマーから得られた、1つ以上の重合された分子であり、
前記燃料の酸化の進行度を等級に分けるステップc)は、前記ステップb)で測定された前記指標物の含有量を、当該燃料に対するEN15751の方法に従って測定された誘導期間(IP)を基準とし、該方法に従う加速酸化の前記IPに基づく所定期間後の燃料中に存在している前記指標物の含有量と比較することを含み、該酸化の進行度は、
・前記ステップb)で測定された前記指標物の含有量が、厳密に0.5 IP未満(0 IP≦P1<0.5 IP)の第1の酸化期間(P1)に対応する場合には、初期酸化段階、
・前記ステップb)で測定された前記指標物の含有量が、0.5 IPまたはそれより大きく、かつ、厳密に1 IP未満(0.5 IP≦P2<1 IP)の第2の酸化期間(P2)に対応する場合には、中間酸化段階、
・前記ステップb)で測定された前記指標物の含有量が、1 IPまたはそれより高い(1 IP≦P3)第3の酸化期間(P3)に対応する場合には、高度酸化段階、
と等級分けされる、
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記燃料は、ケロシン、ガス・オイル及びガソリンから選択される、
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記指標物は、アルデヒド類、アルコール類、ケトン類、ケト酸類、エポキシド類及びカルボン酸類から選択される、特定の分子である、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記指標物は、ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドから選択される、特定の分子である、
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記指標物は、エチレンオキシドである、
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
アルデヒド類に属する前記モノマーは、ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドから選択される、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記モノマーは、エポキシド類に属している、
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの前記指標物の濃度の測定は、UV、IR、GC、MS、SAXS、または、圧力測定による分析の少なくとも1つによって、実施される、
ことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記燃料は、オンボード貯蔵段階にある、
ことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記燃料は、ロジスティカル段階にある、
ことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記燃料が初期の酸化段階にある際、講ずべき対策は、抗酸化剤を添加する是正措置、又は、酸化促進源を除去する予防的処置である、
ことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記燃料が中間の酸化段階にある際、講ずべき対策は、製品の品質を改善するために、新鮮な燃料を加える是正措置である、
ことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記燃料が高度な酸化段階にある際、講ずべき対策は、前記燃料を使用することの明確な危険性の、ユーザーへの警告である、
ことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
環境面、経済面及び規制面での変化は、ケロシンや燃料油等の、中間留出分燃料、ならびに、代替バイオ燃料の出現を奨励してきた。
【0002】
これらの変化は、燃料の調合、物流及び関連する応用の何れにも関係している。しかしながら、これらは、より頻繁に生じる、燃料の劣化を伴う問題を抱えている。バイオ燃料として使用される、脂肪酸メチルエステル(FAME)を基にする、代替燃料は、特に、自動酸化現象ならびに燃料回路内での堆積物の形成を促進する、安定性の低い成分を提供する。
【0003】
燃料の自動酸化に起因するこれらの堆積物及びラッカーの形成は、航空機ならびに陸上輸送産業において、重要である。これらのラッカーは、実際に、エンジン及びタービンにおける、重大な故障を引き起こす可能性があり、そして、ユーザーの安全の点でも、重要である。したがって、これらの現象を助長する可能性のある、酸化の程度を有する燃料の使用を避けることを可能とするため、化石由来であるか、あるいは、バイオマスから得られるかである、該燃料の酸化状態を正確に決定することは、基本的に重要である。
【背景技術】
【0004】
特許出願:WO 2014/085009 A1(特許文献1)は、硫黄含有化合物、窒素含有化合物、芳香族化合物についての、その初期組成、ならびに、密度の関数として、予想することができる、熱的破断点を有する、ケロシン型燃料の製造に使用できる形態を開示している。記載されたその方法は、その熱安定性を決定するために、特に、航空機用ケロシンのフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴−質量分析(FTICR−MS)タイプの特性評価に基づいている。
【0005】
特許出願:US 2008/0167823 A1(特許文献2)は、インピーダンス分光法を利用して、エステルの濃度の変化、あるいは、脂肪酸、グリセリド若しくはメタノールの存在を測定する方法を記載している。記載されたその方法は、ディーゼル燃料あるいはケロシン型燃料中の、脂肪酸メチルエステル(FAME)の濃度を測定するために、ならびに、燃料の安定性ならびに劣化の指標と考えられる、酸価(総酸価:TAN)を測定するために、使用することができる。
【0006】
特許:US 5,163,982 A(特許文献3)は、比較方法によって、燃料の安定性を決定し、そして、等級分けするために利用可能な、逆相気相クロマトグラフィー(GC)に基づいた、極性種の存在を検出する方法を記載している。
【0007】
特許出願:WO 2009/080049 A1(特許文献4)は、その製造中に、燃料の特性ならびに品質を予測するための、計量化学的手法を使用して、TANをはじめとする、燃料特性と相関させるために、製造工程中、あるは、製造工程時における(近赤外線吸収、蛍光)測定方法を提案している。
【0008】
特許:US 5,475,612 A(特許文献5)及び特許出願:WO 94/17391 A1(特許文献6)は、当該燃料の赤外線スペクトルとその物理化学的特性との間の相関を利用して、燃料の特性を予測する方法を提案しており、その一つの可能な応用は、燃料のリサーチ・オクタン価(RON)又はセタン指数型特性の予測である、
一般的に、分光測定法、特には、赤外線分光法(IR)は、得られたスペクトルを燃料の特性と相関させるために、利用することができる。この点で、日常的に決定される特性は、密度、粘度、あるいは、実際には、オクタン価である。これらの化学分析の従来の技術によっては、燃料の酸化の進行の程度、ならびに、酸化に対する安定性を、決定されない。
【0009】
一例として、航空分野において、燃料の熱的安定性及び酸化安定性は、通常、「合格」又は「不合格」の結論を与える、ジェット燃料熱酸化試験(JFTOT)として知られている方法を用いて、決定されている。
【0010】
現在、ほとんどの場合、燃料の特性評価及び酸化安定性評価のための方法は、酸素の消費、形成された生成物の分析、あるいは、特性(酸価、伝導率など)の変化により、酸化をモニターしながらの、温度における、当該製品の加速酸化に基づいている。しかしながら、これらの方法は、ラッカー形成の可能性と所定の時間における燃料の酸化の実際の状態との間に信頼性のある相関を提供するためには、利用できない。したがって、包括的な状況を把握するためには、いくつかの方法を組み合わせることがしばし必要となる。
【0011】
さらに、燃料の安定性を決定するために、フーリエ変換赤外線分光法(FTIR)、気相クロマトグラフィー(GC)、あるいは、実際にはインピーダンス分光法等の、いくつかの分析技術が提案されている。しかしながら、これらの技術は、初期状態、あるいは、ある時間tにおける状態の測定を提供することのみが可能である。我々の知る限りでは、WO 2009/080049 A1(特許文献4)のみが、燃料製造プロセス内で実施することができる継続的なモニター方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO 2014/085009 A1
【特許文献2】US 2008/0167823 A1
【特許文献3】US 5163982 A
【特許文献4】WO 2009/080049 A1
【特許文献5】US 5475612 A
【特許文献6】WO 94/17391 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、使用中における、これらの燃料の化学組成の進化に基づき、ならびに、温度の関数として、燃料の劣化を継続的にモニターし、そして、重度の劣化の場合には、ユーザーに警告するために、使用することができる方法を開発することは、非常に有益である。
【0014】
本出願人は、当該燃料の組成ならびに品質が、それを使用できるために十分に持続されているかについて、何時でも、決定できることを目的として、燃料の変化を継続的にモニターするための革新的な方法を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
特に、本発明は、燃料の酸化の進行度を継続的にモニターする方法であって、
少なくとも下記のステップ:
a)モニターすべき、前記酸化の反応の進行の
指標となる、少なくとも1つの指標
物を決定するステップ、
b)前記燃料中における、前記指標
物の含有量を測定するステップ、
c)前記燃料の酸化の進行度を等級に分けるステップ、
d)前記等級に従って、講ずべき対策を決定するステップ、
を含み、
前記
指標物は、少なくと
も1つの中間生成物または最終生成物、あるいは、前記燃料の1
つ以上の成分との、少なくとも1つの酸化反応による、少なくとも1つの共生成物であり、及び、
前記
燃料の酸化の進行度を等級
に分け
るステップc)は、
前記ステップb)で測定された前記
指標物の含有量
を、当該燃料に
対する誘導期間(IP)を決定するため
のEN 15751(あるいは、EN 14112、ASTM D6751)の方法に従って測定された、加速酸化の期間後の燃料中に存在してい
る前記指標
物の含有量
と比較することを含み、該酸化の進行度は、
・前記
ステップb)で測定された
前記指標物の含有量が、厳密に0.5 IP未満(0 IP≦P1<0.5 IP)の酸化期間(P1)に対応する場合には、初期、
・前記
ステップb)で測定された
前記指標物の含有量が、0.5 IPまたはそれより大きく、かつ、厳密に1 IP未満(0.5 IP≦P2<
1 IP)の酸化期間(P2)に対応する場合には、中間、
・前記
ステップb)で測定された
前記指標物の含有量が、1 IPまたはそれより高い(1 IP≦P3)酸化期間(P3)に対応する場合には、高度、
と
等級分けされる、
ことを特徴とする、方法に関している。
【0016】
用語「酸化期間」は、前記IPを決定するための基準となる方法と比較して、該燃料が理論的に酸化を受けてきた期間を意味する。
【発明の効果】
【0017】
従って、本発明にかかる方法は、現在の技術水準と比較して、前記燃料の進行度の決定を用いて、燃料の品質を見分けるための、相補的かつ異なる取組み方法を提案している。
【0018】
本発明の1つの利点は、温度の関数として、また、使用中における、これらの燃料の化学的組成中の変化に基づいて、燃料の劣化を継続的にモニターし、そして、重度の劣化の場合には、ユーザーに警報を出すために、該方法を利用することが可能である点である。
【0019】
本発明の別の利点は、液相中及び気相中における、酸化の進行度を表示する、様々な分子又は分子群の継続的なモニタリングに基づいて、燃料の劣化度を決定するための革新的な方法を提供している点である。
【0020】
さらに、本発明にかかる方法は、ロジスティカル段階、あるいは、オンボード貯蔵の段階において、燃料の酸化の進行度を測定するために、有利に使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、様々な酸化期間の後における、新鮮なモデル燃料の状態の変化を実証する、重ね合わされた赤外線スペクトルを示す。
【
図2】
図2は、新鮮なモデル燃料がまだ酸化を受けていない際、0 IPにおける、新鮮なモデル燃料(n−パラフィンと不飽和エステルとの混合物)の状態を示す、気相クロマトグラムである。
【
図3】
図3は、酸化期間の後における、新鮮なモデル燃料の状態を示す、気相クロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以後の記述を通して、酸化の進行度は、以下のように定義される。すなわち、初期の段階、中間の段階及び高度な段階である。燃料の酸化反応は、複数の反応中間体を伴う、複雑な化学反応速度論を有している。これらの反応中間体は、前記酸化反応の進行度の指標である。
【0023】
従って、その酸化度の関数として、燃料の化学組成は、変化するため、酸化反応の進行度は、燃料の1つまたはそれより多くの成分を用いて、少なくとも1つの酸化反応から生じる産物、反応中間体、共生成物、ならびに、最終生成物の量に対して、直接的に相関している。すなわち、前記反応中間体、共生成物、及び/又は、最終生成物の含有量を決定することによって、燃料が、初期の酸化段階、中間の酸化段階、あるいは、高度な酸化段階のいずれにあるかを決定することが可能である。
【0024】
従って、本発明は、燃料の酸化の進行度を継続的にモニターする方法であって、
少なくとも下記のステップ:
a)モニターすべき、前記酸化の反応の進行の
指標となる、少なくとも1つの指標
物を決定するステップ、
b)前記燃料中における、前記指標
物の含有量を測定するステップ、
c)前記燃料の酸化の進行度を等級に分けるステップ、
d)前記等級に従って、講ずべき対策を決定するステップ、
を含み、
前記
指標物は、少なくと
も1つの中間生成物または最終生成物、あるいは、前記燃料の1
つ以上の成分との、少なくとも1つの酸化反応による、少なくとも1つの共生成物であり、及び、
前記
燃料の酸化の進行度を等級
に分け
るステップc)は、
前記ステップb)で測定された前記
指標物の含有量
を、当該燃料に
対する誘導期間(IP)を決定するため
のEN 15751(あるいは、EN 14112、ASTM D6751)の方法に従って測定された、加速酸化の期間後の燃料中に存在してい
る前記指標
物の含有量
と比較することを含み、該酸化の進行度は、
・前記
ステップb)で測定された
前記指標物の含有量が、厳密に0.5 IP未満(0 IP≦P1<0.5 IP)の酸化期間(P1)に対応する場合には、初期、
・前記
ステップb)で測定された
前記指標物の含有量が、0.5 IPまたはそれより大きく、かつ、厳密に1 IP未満(0.5 IP≦P2<
1 IP)の酸化期間(P2)に対応する場合には、中間、
・前記
ステップb)で測定された
前記指標物の含有量が、1 IPまたはそれより高い(1 IP≦P3)酸化期間(P3)に対応する場合には、高度、
と
等級分けされる、
ことを特徴とする、方法にかかわっている。
【0025】
本発明にかかる方法は、化石起源の燃料、あるいは、バイオマスから取得された燃料に、有利に適用可能である。
【0026】
1つの好ましい実施態様では、該燃料は、ケロシン、ガス・オイル及びガソリンから選択される。
【0027】
本発明にかかる方法は、ロジスティカル段階、あるいは、オンボード貯蔵の段階における、燃料の酸化の進行度を測定するために、有利に使用することが可能である。
【0028】
「ロジスティカル段階」という用語は、燃料が、モータービークルのリザーバー内にはない、一連の段階を意味する。
【0029】
「オンボード貯蔵の段階」という用語は、エンジンが作動しているか否かに関わらず、燃料が、モータービークルのリザーバー内にある、一連の段階を意味する。
【0030】
本発明において、該方法は、モニターすべき、該酸化の反応の進行の
指標となる、少なくとも1つの指標
物を決定するための、ステップa)を含んでいる。
【0031】
本発明において、前記指標
物は、中間生成物、最終生成物、あるいは、燃料の1つ
以上の成分と、少なくとも1つの酸化反応による共生成物である。
【0032】
炭化水素の酸化は、必然的に、少なくとも1つの酸素化された官能基を有する分子の形成につながる。酸化の進行度に依存して、分子は、より多く又はより少ない数の酸素原子を含む官能基を有することになる。一例として、2個の酸素原子を含む、カルボン酸タイプの官能基は、単一の酸素原子を含んでいる、アルデヒド官能基の酸化から得られる。従って、その官能基、ならびに、少なくとも1つの酸素化された官能基を有する分子内の変化のモニターを、前記燃料の酸化の程度を測定するために利用できる。
【0033】
該
指標物が、少なくとも1つの酸素化された官能基を有する族に属する1つ
以上の分子、あるいは、実際には、これらの族に属するモノマーから得られた、1つ
以上の重合された分子の分子量分布であることが有利である。
【0034】
第1の実施態様では、該
指標物は、アルデヒド類、アルコール類、ケトン類、ケト酸類、エポキシド類及びカルボン酸類から選択される族に属する、1つ
以上の分子であることが好ましい。
【0035】
酸化前、該燃料を構成している分子は、直鎖若しくは分枝のアルカン類、直鎖若しくは分枝のアルケン類、あるいは、は芳香族類に属していることが好ましい。
【0036】
好ましくは、該
指標物は、上に定義された族に属する、特定の分子である。
【0037】
指標物がアルデヒド類に属する分子である場合、該
指標物は、ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドから選択される。
【0038】
指標物がアルコール類に属する分子である場合、該
指標物は、メタノールである。
【0039】
指標物がエポキシド類に属する分子である場合、該
指標物は、エチレンオキシドである。
【0040】
あるいは、該
指標物は、前記燃料が曝される、様々な酸化反応から得られた、1つ
以上の共生成物である。
【0041】
指標物が1つ
以上の共生成物である場合、該
指標物は、1つ
以上のモノマーから得られた、1つ
以上の重合された分子であることが有利である。
【0042】
好ましくは、該モノマーは、直鎖又は分岐のアルケン類、芳香族類、アルデヒド類、アルコール類、ケトン類、ケト酸類、エポキシド類及びカルボン酸類の族に属している。
【0043】
モノマーがアルデヒド類に属する場合、該モノマーは、ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドから選択されることが好ましい。
【0044】
モノマーがアルコール類に属する場合、該モノマーは、メタノールであることが好ましい。
【0045】
モノマーがエポキシド類に属する場合、該モノマーは、エチレンオキシドであることが好ましい。
【0046】
モノマーが過酸化物類に属する場合、該モノマーは、前記燃料の、過酸化物、アルコキシド、あるいは、ラジカル種(RO2・、RO・、R・)から選択されることが好ましい。
【0047】
本発明において、本方法は、前記燃料中における、酸化の反応に対する進行の指標
となる指標物の含有量を測定す
る、ステップb)を含んでいる。
【0048】
一実施態様において、前記少なくとも1つの
指標物の含有量の測定は、紫外線分析法(UV)、赤外線分析法(IR)、気相クロマトグラフィー法(GS)、質量分析法(MS)、小角X線散乱法(SAXS)、あるいは、実際には、圧力測定法等、当業者に知られている、少なくとも1つの分析方法により実施される。
【0049】
本発明において、本方法は、前記燃料の酸化の進行度を等級に分けるための、ステップc)を含んでいる。
【0050】
本発明において、本等級分けは、
ステップb)で測定された
指標物の含有量と、当該燃料の誘導期間(IP)を決定するため
にEN 15751(EN 14112、ASTM D6751)の方法に従って測定された加速酸化の期間の後に、該燃料中に存在してい
る該指標
物の含有量との間の比較によって、実施される。
【0051】
誘導期間又はIPは、該燃料が所定の酸化度に達するのに要する時間である。その使用目的ならびにその使用分野に応じて、最低限の仕様を満たすために、燃料は、一定の時間を超えるIPを持たなければならない。
【0052】
基準の方法 EN 15751では、特定温度(383K)において、燃料の7.5gのサンプルを通して、空気(10L/h)をバブリングさせる。サンプルを脱した空気は、蒸留水を含んでいるフラスコ中に捕集され、そこで電導率を測定する。該セルの電導率の上昇は、サンプルの酸化に因る、揮発性の酸の水中への蓄積を示している。IPは、該蒸留水の電導度測定における、傾斜率の変化で特徴付けられる。
【0053】
本発明において、当該燃料の酸化の進行度は、IPの関数として表され、そして、以下のように等級分けされる:
・前記
ステップb)で測定された
前記指標物の含有量が、厳密に0.5 IP未満(0 IP≦P1<0.5 IP)の酸化期間(P1)に対応する場合には、初期、
・前記
ステップb)で測定された
前記指標物の含有量が、0.5 IPよりも大きい、または等しく、かつ、厳密に1 IP未満(0.5IP≦P2<
1 IP)の酸化期間(P2)に対応する場合には、中間、
・前記
ステップb)で測定された
前記指標物の含有量が、1 IPまたはそれより高い(1 IP≦P3)酸化期間(P3)に対応する場合には、高度。
【0054】
すなわち、誘導期間は、本発明にかかる等級分けにおける、3つの酸化度を規定する限度を表している。一例として、
前記ステップb)で測定された
前記指標物の含有量が、当該燃料の組成は、厳密に0.5 IP未満の酸化期間に対応していると示す場合には、該燃料は、初期の酸化段階にあると、等級分けされる。
【0055】
本発明において、本方法は、前記等級分けに従って、実施すべき対策を決定するための、ステップd)を含んでいる。ユーザーには、燃料の劣化度、ならびに、該当するならば、講ずべき予防的対策又は改善に有効な対策が知らされる。
【0056】
燃料が初期の酸化段階にある際、実施すべき対策は、抗酸化性添加剤の添加等の是正措置、あるいは、好ましくは、酸化促進源の除去等の予防的処置であることが有利でなる。
【0057】
前記抗酸化剤は、ブチル ヒドロキシトルエン(BHT)、2,4−ジ−tert−ブチルフェノール(2,4−DTBP)、2−tert−ブチル−4−メチルフェノール(TBMP)及びトリフェニルホスフィン(TPP)から選択されることが有利である。
【0058】
前記酸化促進源の例は、過度に強力な通気、過度に高い光度、あるいは、実際には、汚染源の存在でありえる;その場合、該酸化促進源に対する、燃料の暴露を、適切に制限することができる。
【0059】
燃料が、中間の酸化段階にある際、実施すべき対策は、製品の品質を改善するために、新鮮な燃料を加えるなどの是正措置であることが有利である。一実施態様において、実施すべき対策は、中間の酸化段階である、当該燃料の迅速な使用が好ましいことを、ユーザーに知らせることである。
【0060】
燃料が、高度な酸化段階にある際、実施すべき対策は、特に、当該燃料を使用することの明確な危険性の、ユーザーへの警告である。
【実施例】
【0061】
実施例1:本発明にかかる、等級分けの開発
いくつかの1mLの燃料のサンプルを、様々な酸化時間の後に採取した。これらのサンプルは、DTGS検出器、単位スペクトル当たり32スキャン、
ならびに、KBrセルを使用する、BRUKER Vertex 70 FTIR(フーリエ変換赤外分光分析)装置を用いて、H
2O/CO
2を含まない空気気流中、2cm
−1の分解能で分析された。
図1は、酸化を受けている、モデル燃料のFTIRスペクトルの変化を示す。オレフィンの吸光度ピークは、図中において文字Aで示され、そして、酸素化された分子の吸光度ピークは、図中において文字Bで示されている。実線の曲線は、0 IPと同等である酸化期間に相当する。破線の曲線は、0.5 IPの酸化期間に相当する。太点線の曲線は、1 IPの酸化期間に相当する。細い破線の曲線は、1.5 IPの酸化期間に相当する。これらの結果は、表1に記載されている。
【0062】
【表1】
【0063】
したがって、本実施例では、厳密に1%未満の酸素化された分子の含有量は、期間P1、すなわち、本発明における、初期と呼ばれる酸化の進行度に対応しており、1%またはそれより高く、かつ、厳密に3%未満である、酸素化された分子の含有量は、期間P2、すなわち、本発明における、中間と呼ばれる酸化の進行度に対応しており、3%またはそれより高い、酸素化された分子の含有量は、期間P3、すなわち、本発明における、高度と呼ばれる酸化の進行度に対応している。
【0064】
実施例2:本発明の実施のための質量分析法の使用
その酸化の進行度を測定すべき、1mLの燃料のサンプルを、採取した。該サンプルは、GC/FID装置(DB1カラム、60m、0.320mm、0.25μm)を用いて分析された。
図2のクロマトグラムは、新鮮なモデル燃料の状態;0 IPにおける、酸素化された分子の含有量は、0.0、すなわち、新鮮な製品中には、酸化物が存在していない状態を示す。
【0065】
図3のクロマトグラムは
、該サンプルを採取した、燃料の状態を示す。ケトン類およびエポキシド類の含有量を、測定し、その結果は、表2中に記載されている。
【0066】
図2及び3のクロマトグラムにおいて、ケトン類に相当する、保持時間帯は、文字Cで、エポキシド類に相当する、保持時間帯は、文字Dで表示されている。
【0067】
【表2】
【0068】
酸素化された分子の含有量は、1 IPより長い酸化期間に相当した。本発明によれば、この結果は、酸化期間P3に対応している。したがって、実施例2の燃料は、「高度な酸化度」の区分に等級分けされた。講すべき対策は、当該製品を使用する際の明確なリスクのユーザーへの警告であった。