(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のクラッチ装置において、プレッシャプレートには、カム機構のカム面を構成するために、軸方向に突出する複数のカム用突起が設けられている。そして、カム機構の作動時に、このカム用突起に軸方向及び円周方向の力が作用すると、カム用突起の基端部等に高い応力が発生する。
【0007】
また、プレッシャプレートには、クラッチセンタに設けられたカム用突起が通過する複数の開口が設けられているので、この開口によって剛性が不足する。
【0008】
本発明の課題は、プレッシャプレートのような複数のカム用突起や開口を有する回転体の強度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の一側面に係るクラッチ装置は、クラッチハウジングと、第1回転体と、第2回転体と、クラッチ部と、カム機構と、を備えている。第1回転体は、第1押圧部と、軸方向の第1側に突出して形成された第1筒状部と、を有し、クラッチハウジングの内部に収容されている。第2回転体は、第2押圧部と、複数のカムと、第2筒状部と、を有している。第2押圧部は、軸方向において第1押圧部と間隔をあけて配置される。カムは、軸方向の第2側に突出して形成されている。第2筒状部は、第1筒状部の内周側において軸方向の第2側に突出して形成され、複数のカムの少なくとも一部を連結する。クラッチ部は、第1押圧部と第2押圧部との間に配置され、クラッチハウジングから出力側への動力の伝達及び遮断を行う。カム機構は、複数のカムを含み、クラッチ部に対する押圧力を制御する。
【0010】
この装置では、クラッチハウジングに入力されたトルクは、クラッチ部を介して出力側へ伝達される。ここで、第2回転体には軸方向に突出する複数のカムが形成されているが、これらのカムは、第2筒状部によって、少なくとも一部が連結されている。このため、従来装置のように、複数のカムがそれぞれ別々に突出して形成されている場合に比較し、カムの基端部等に応力が集中するのを避けることができる。
【0011】
また、第2回転体に開口を設けた場合でも、第2筒状部によって第2回転体の剛性が不足するのを避けることができる。
【0012】
(2)好ましくは、カムは、軸方向の第1側の始端部から軸方向に延びて形成されている。そして、第2筒状部は、軸方向の第1側の端面からカム面の始端部を超えて軸方向に延びている。
【0013】
ここでは、カムの始端部から先端に向かう少なくとも一部が第2筒状部によって環状に連結されている。このため、前記同様に、カムの基端部等に応力が集中するのを避けることができる。
【0014】
(3)好ましくは、第1回転体は、第1筒状部の内周側に、軸方向の第1側に延びる複数の第1突起部を有している。そして、第1突起部は第2筒状部の内周側に配置されている。
【0015】
ここでは、第1回転体の第1突起部と第2回転体の第2筒状部とが重なるように配置されているので、装置に軸方向スペースを短くすることができる。
【0016】
(4)好ましくは、複数の第1突起部は、カム機構を構成するカム面が形成されたカム用突起を有する。
【0017】
(5)好ましくは、第2回転体を挟んで第1回転体と軸方向に対向して配置され、第1回転体と固定される支持部材をさらに備えている。そして、第2回転体は複数の開口を有し、第1突起部は、開口を通過し支持部材が固定される第1固定用突起を有する。
【0018】
ここでは、第1回転体の第1突起部に第1固定用突起が設けられ、この第1固定用突起に支持部材が固定されている。第2回転体には複数の開口が設けられているが、第2筒状部によって複数のカム部が連結されているので、第2回転体の剛性が低下するのを抑えることができる。
【0019】
(6)好ましくは、支持部材は、軸方向の第2側に突出する第2突起部を有している。そして、第2突起部は第1突起部に装着されている。
【0020】
ここでは、第1回転体と支持部材とを連結するための突起部が、第1回転体側の第1突起部と支持部材側の第2突起部とに分割して設けられている。このため、各部材の突起部を強度上有利な形状にすることにより、突起部が形成されていない部分を薄いプレート状に形成することができ、重量を抑えて強度の低下を抑えることができる。
【0021】
(7)好ましくは、第1筒状部の内周面は第2筒状部の外周面に遊びを持ちつつ嵌っている。ここでは、第1筒状部と第2筒状部とを嵌め合わせることにより、径方向における第1回転体と第2回転体との相対的な位置決めを行うことができる。
【0022】
(8)好ましくは、第1回転体は、外周部に環状の受圧部を有し、内周部がトランスミッション側の部材に連結されるクラッチセンタであって、第1押圧部は受圧部である。第2回転体は、クラッチセンタの軸方向の第1側にクラッチセンタに対して軸方向に移動自在に配置され、受圧部と間隔をあけて配置される押圧部を有するプレッシャプレートであって、第2押圧部は押圧部である。支持部材は、クラッチセンタに固定されてプレッシャプレートに押圧力を与えるサポートプレートである。そして、サポートプレートとプレッシャプレートとの間に配置され、プレッシャプレートに押圧力を与えてクラッチ部を動力伝達状態にする付勢部材をさらに備えている。
【0023】
この装置では、付勢部材によってプレッシャプレートがクラッチセンタ側に付勢されている。これにより、押圧部がクラッチ部を受圧部に対して押圧し、クラッチ部が動力伝達状態になっている。そして、プレッシャプレートを付勢部材の付勢力に抗して移動させることにより、クラッチ部は動力遮断状態になる。
【0024】
(9)好ましくは、第2回転体は、外周部に環状の受圧部を有し、内周部がトランスミッション側の部材に連結されるクラッチセンタであって、第2押圧部は受圧部である。第1回転体は、クラッチセンタの軸方向の第2側にクラッチセンタに対して軸方向に移動自在に配置され、受圧部と間隔をあけて配置される押圧部を有するプレッシャプレートであって、第1押圧部は押圧部である。
【0025】
そして、リフタプレートと、付勢部材と、をさらに備えているのが好ましい。リフタプレートは、プレッシャプレートに固定されてプレッシャプレートをクラッチセンタに押圧する。付勢部材は、リフタプレートとクラッチセンタとの間に配置され、プレッシャプレートに押圧力を与えてクラッチ部を動力伝達状態にする。
【0026】
この装置では、付勢部材によってプレッシャプレートがクラッチセンタ側に付勢されている。これにより、押圧部がクラッチ部を受圧部に対して押圧し、クラッチ部が動力伝達状態になっている。そして、リフタプレートを介してプレッシャプレートを付勢部材の付勢力に抗して移動させることにより、クラッチ部は動力遮断状態になる。
【発明の効果】
【0027】
以上のような本発明では、複数のカム用突起や開口を有する回転体の強度を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[全体構成]
図1〜
図8に、本発明の一実施形態によるクラッチ装置としてのモータサイクル用クラッチ装置10を示している。
図1Aはクラッチ装置10の断面図、
図1Bは
図1Aとは異なる位置での断面図である。また、
図2〜
図4及び
図7は主な部材の外観斜視図である。
図1A及び
図1Bの断面図において、O−O線が回転軸線である。なお、以下の説明において、「軸方向」とは回転軸Oが延びる方向を示し、
図1に示すように、
図1の右側を「軸方向の第1側」、逆を「軸方向の第2側」とする。
【0030】
クラッチ装置10は、エンジンからの動力をトランスミッションに伝達したり、その伝達を遮断したりするように構成されている。このクラッチ装置10は、クラッチハウジング12、クラッチセンタ13(第1回転体の一例)、プレッシャプレート14(第2回転体の一例)、クラッチ部15、サポートプレート16(支持部材の一例)、アシストカム機構17(
図1B参照)、及びスリッパカム機構18(
図1B参照)を備えている。また、クラッチ装置10は、複数の押圧用のコイルスプリング19をさらに備えている。
【0031】
[クラッチハウジング12]
クラッチハウジング12は、円板部12a及び筒状部12bを備え、入力ギア20に連結されている。入力ギア20はエンジン側のクランク軸に固定された駆動ギア(図示せず)に噛み合っている。
【0032】
円板部12aには、複数のコイルスプリング22を介して入力ギア20が連結されている。複数のコイルスプリング22は、入力ギア20に形成された孔に挿入され、エンジンからの振動を吸収するために設けられたものである。
【0033】
筒状部12bは、円板部12aの外周縁から軸方向の第1側に延びるように形成されている。この筒状部12bには、軸方向に延びる複数の切欠き12cが円周方向に所定の間隔で形成されている。
【0034】
[クラッチセンタ13]
クラッチセンタ13は、クラッチハウジング12の内部、すなわちクラッチハウジング12の筒状部12bの内周部に配置されている。クラッチセンタ13は略円板状であって、中央部に形成されたボス部25と、円板部26と、筒状部27(第1筒状部の一例)と、受圧部28(第1押圧部の一例)と、を有している。
【0035】
ボス部25は、軸方向の第1側に突出するように延びている。ボス部25の中央部には軸方向に延びるスプライン孔25aが形成されている。このスプライン孔25aには、トランスミッションの入力軸(図示省略)が係合する。なお、クラッチセンタ13は、軸方向において移動しない。
【0036】
円板部26は、ボス部25から外周側に延びて形成されている。円板部26には、
図2に示すように、3つの第1突起部30が形成されている。3つの第1突起部30は、円板部26の径方向の中間部に、円周方向に等角度間隔で並べて、かつ軸方向の第1側に突出して形成されている。また、3つの第1突起部30は、筒状部27の
内周面27aから離れて形成されており、第1突起部30の外周面と、筒状部27の
内周面27aと、の間には隙間が確保されている。
【0037】
第1突起部30は、第1カム用突起31と、第1固定用突起32と、を有している。第1カム用突起31と第1固定用突起32とは、円周方向に連続して一体で形成されている。
【0038】
第1カム用突起31の円周方向の端面(すなわち、第1突起部30の円周方向の一方側の端面)には、スリッパカム機構18を構成するクラッチセンタ13側のカム面(以下、「CC・カム面」と記す)18aが形成されている(詳細は後述する)。
【0039】
第1固定用突起32の軸方向の長さ、すなわち第1固定用突起32の高さは、第1カム用突起31の高さより高い。すなわち、第1固定用突起32の先端面32a(軸方向の第1側の端面)は、第1カム用突起31の先端面31aよりも、軸方向の第1側に突出している。また、第1固定用突起32の高さは、筒状部27の高さより低い。
【0040】
このような第1固定用突起32の構成により、第1固定用突起32の先端面32aを旋盤により加工することが可能になる。
【0041】
また、第1固定用突起32の中心部には、軸方向に延びるねじ孔32bが形成されている。
【0042】
筒状部27は、円板部26の外周部から軸方向の第1側に延びて形成されている。筒状部27は、円筒状の本体271と、本体271の外周面に形成された係合用の複数の第1歯272と、を有している。なお、筒状部27及び係合用の複数の第1歯272についての詳細は後述する。
【0043】
受圧部28は、筒状部27の外周側においてさらに外周側に延びて形成されている。受圧部28は、環状であり、軸方向の第1側を向いている。この受圧部28は、クラッチ部15と対向している。
【0044】
[プレッシャプレート14]
プレッシャプレート14は、
図1A,B、
図3、及び
図4に示すように、円板状の部材であり、クラッチセンタ13の軸方向の第1側に配置されている。なお、
図3はプレッシャプレート14をクラッチセンタ13側から視た図、
図4はプレッシャプレート14をクラッチセンタ13とは逆側から視た図である。
【0045】
プレッシャプレート14は、クラッチセンタ13に対して軸方向に移動自在である。プレッシャプレート14は、中央部に形成されたボス部40と、筒状部41(第2筒状部の一例)と、押圧部42(第2押圧部の一例)と、を有している。
【0046】
ボス部40は、軸方向の第1側に突出するように延びている。ボス部40の中央には、円形の孔40aが形成されている。この孔40aに、図示しないレリーズ部材が挿入される。
【0047】
筒状部41は、ボス部40の外周側に形成され、軸方向の第2側に突出している。筒状部41は、軸方向と直交する方向視で、クラッチセンタ13の筒状部27と重なるように配置されている。また、筒状部41は、クラッチセンタ13の筒状部27と、第1突起部30と、の間の隙間に挿入されるように配置されている。
【0048】
筒状部41は、円筒状の本体411と、本体411の外周面に形成された係合用の複数の第2歯412と、を有している。複数の第2歯412は、本体411の外周面において、軸方向の第1側の端部に設けられている。複数の第2歯412の軸方向長さは、本体411の軸方向長さよりも短い。
【0049】
図5に拡大して示すように、筒状部41の外周面41aは、クラッチセンタ13の筒状部27の内周面27aに遊びを持ちつつ嵌め合わされている。このように、プレッシャプレート14の筒状部41の外周面41aと、クラッチセンタ13の筒状部27の内周面27aと、の嵌合によって、プレッシャプレート14はクラッチセンタ13に対して径方向に位置決めされている。
【0050】
また、筒状部41は、中央部に形成された概略円形の孔41bと、3つのカム用孔41cと、3つの有底穴41d(
図4参照)と、を有している。
【0051】
カム用孔41cは、中央部の孔41bの外周側に、径方向外方に広がるように形成されている。
図3、
図4、及び
図8に示すように、カム用孔41cの円周方向に対向する壁面において、軸方向の第1側にはアシストカム機構17用のカム面(以下、「PPa・カム面」と記す)17bが形成され、軸方向の第2側にはスリッパカム機構18用のカム面(以下、「PPs・カム面」と記す)18bが形成されている。各カム面17b,18bの詳細については後述する。有底穴41dは、孔41bの外周側に、軸方向の第1側の面から所定の深さで形成されている。この有底穴41dに、
図1A及び
図8に示すように、コイルスプリング19が配置されている。
【0052】
押圧部42は、環状に形成され、プレッシャプレート14の外周部に形成されている。押圧部42は、軸方向の第2側を向いている。また、押圧部42は、軸方向において、クラッチセンタ13の受圧部28と間隔をあけて配置されている。この押圧部42と受圧部28との間に、クラッチ部15が配置されている。すなわち、軸方向の第2側から第1側に向かって、受圧部28、クラッチ部15、押圧部42の順に並んでいる。
【0053】
<油路>
図6に示すように、クラッチセンタ13の筒状部27には、油路45が形成されている。油路45は、筒状部27の内周側の潤滑油を、筒状部27の外周側のクラッチ部15に供給するものである。
【0054】
油路45は、それぞれ複数の溝45a及び連絡孔45bを有している。溝45aは、筒状部27の内周面27aに形成されている。溝45aは、所定の深さを有し、円周方向に所定の幅を有している。溝45aの円周方向の幅は、連絡孔45bの円周方向の幅よりも広い。また、溝45aは、軸方向の第1側に向かって開いており、軸方向の第2側へは、プレッシャプレート14の筒状部41の先端面よりも延びて形成されている。連絡孔45bは、溝45aの底面から筒状部27の外周面に貫通して形成されている。なお、連絡孔45bが形成された個所の歯272は欠損している。
【0055】
このような油路45により、作動中において、筒状部27の内周側の潤滑油は、遠心力によりいったん溝45aに溜まり、この溝45aから連絡孔45bを介して筒状部27の外周側のクラッチ部15に供給される。また、溝45aは、軸方向の第1側に向かって開いているので、溝45aに溜まった潤滑油は、軸方向の第1側、すなわち、プレッシャプレート14の歯412にも導かれる。この歯412に導かれた潤滑油は、後述する第2ドリブンプレート522の表面にも供給される。
【0056】
[クラッチ部15]
図1A及び
図1Bに示すように、クラッチ部15は、複数のドライブプレート51と、複数のドリブンプレート52と、を有する。ドライブプレート51及びドリブンプレート52は、受圧部28と押圧部42との間に配置されている。両プレート51,52によって、クラッチハウジング12とクラッチセンタ13及びプレッシャプレート14との間で動力を伝達したり、その動力の伝達が遮断されたりする。これらの両プレート51,52はともに環状に形成されており、軸方向に交互に配置されている。
【0057】
ドライブプレート51は、クラッチハウジング12に対して、軸方向に移動可能であり、かつ相対回転不能である。すなわち、ドライブプレート51は、クラッチハウジング12と一体的に回転する。詳細には、ドライブプレート51の外周部には径方向外側に突出する複数の係合突起が形成されている。この係合突起がクラッチハウジング12の筒状部12bに形成された係合用の切欠き12cに噛み合っている。ドライブプレート51には両面に摩擦材が貼付されている。
【0058】
ドリブンプレート52は、複数の第1ドリブンプレート521及び1枚の第2ドリブンプレート522を有している。第1ドリブンプレート521及び第2ドリブンプレート522は、それぞれ内周端部に複数の係合凹部521a,522a(
図1A及び
図5参照)を有している。
【0059】
第1ドリブンプレート521の係合凹部521aは、クラッチセンタ13の筒状部27に形成された係合用の第1歯272に係合している。また、第2ドリブンプレート522の係合用の凹部522aは、プレッシャプレート14の第2歯412に係合している。したがって、第1ドリブンプレート521は、クラッチセンタ13に対して、軸方向に移動可能であり、かつ相対回転不能である。すなわち、第1ドリブンプレート521は、クラッチセンタ13と一体的に回転する。また、第2ドリブンプレート522は、プレッシャプレート14に対して、軸方向に移動可能であり、かつ相対回転不能である。すなわち、第2ドリブンプレート522は、プレッシャプレート14と一体的に回転する。
【0060】
[サポートプレート16]
サポートプレート16は、円板状の部材であり、プレッシャプレート14よりも、軸方向の第1側に配置されている。
図1A,B及び
図7に示すように、サポートプレート16は、中央部に孔16aを有しており、この孔16aをプレッシャプレート14のボス部40が貫通している。また、サポートプレート16は、3つの第2突起部55と、3つの支持用凹部56と、を有している。
【0061】
3つの第2突起部55は、孔16aの外周側に、円周方向に等角度間隔で並べて、かつ軸方向の第2側に突出して形成されている。第2突起部55は、第2カム用突起61と、第2固定用突起62と、を有している。第2カム用突起61と第2固定用突起62とは、円周方向に連続して一体で形成されている。
【0062】
第2カム用突起61の円周方向の端面(すなわち、第2突起部55の円周方向の一方側の端面)には、アシストカム機構17を構成するサポートプレート16側のカム面(以下、「SP・カム面」と記す)17aが形成されている。
【0063】
第2固定用突起62の軸方向の長さ、すなわち第2固定用突起62の高さは、第2カム用突起61の高さより高い。すなわち、第2固定用突起62の先端面62a(軸方向の第2側の端面)は、第2カム用突起61の先端面61aよりも、軸方向の第2側に突出している。
【0064】
このような第2固定用突起62の構成により、第2固定用突起62の先端面62aを旋盤により加工することが可能になる。
【0065】
また、第2固定用突起62の中心部には、軸方向に延びる貫通孔62bが形成されている。そして、クラッチセンタ13の第1固定用突起32の先端面32aとサポートプレート16の第2固定用突起62の先端面62aとを当接させ、第2固定用突起62の貫通孔62bを貫通するボルト63(
図1A参照)をクラッチセンタ13の第1固定用突起32のねじ孔32bに螺合することにより、クラッチセンタ13にサポートプレート16が固定されている。
【0066】
また、第2固定用突起62の外周部には、第2固定用突起62の先端面62aよりもさらに軸方向の第2側に突出する位置決め部62cが形成されている。位置決め部62cの内周側の面は、クラッチセンタ13の第1固定用突起32の外周面に沿った形状であり、両者は当接している。この両者の当接によって、サポートプレート16はクラッチセンタ13に対して径方向に位置決めされている。
【0067】
支持用凹部56には、コイルスプリング19の端面が当接している。すなわち、コイルスプリング19は、プレッシャプレート14の有底穴41dの底面とサポートプレート16の支持用凹部56との間に配置され、プレッシャプレート14を軸方向の第2側に付勢している。この付勢力よって、クラッチ部15はレリーズ機構が作動していない状態では、クラッチオン(動力を伝達する状態)である。
【0068】
[アシストカム機構17及びスリッパカム機構18]
アシストカム機構17は、プレッシャプレート14とサポートプレート16との軸方向間に配置されている。アシストカム機構17は、クラッチセンタ13及びプレッシャプレート14に駆動力が作用したときに(正側のトルクが作用したときに)、クラッチ部15の結合力を増加させるための機構である。また、スリッパカム機構18は、プレッシャプレート14とクラッチセンタ13の軸方向間に配置されている。スリッパカム機構18は、クラッチセンタ13及びプレッシャプレート14に逆駆動力が作用したときに(負側のトルクが作用したときに)、クラッチ部15の結合力を低減させるための機構である。
【0069】
<アシストカム機構17>
アシストカム機構17は、
図4,
図7及び
図8で示すように、複数(ここでは3個)のサポートプレート16に設けられたSP・カム面17aと、複数(ここでは3個)のプレッシャプレート14に設けられたPPa・カム面17bと、を有する。
【0070】
SP・カム面17aはサポートプレート16の第2カム用突起61に形成されている。第2カム用突起61は、前述のように、第2突起部55に第2固定用突起62とともに、サポートプレート16の軸方向の第2側の側面に軸方向に突出して形成されている。第2突起部55はプレッシャプレート14のカム用孔41cに挿入されている。そして、第2突起部55の円周方向の一方の端面にSP・カム面17aが形成されている。SP・カム面17aは、円周方向に対して所定の角度で傾斜している。
【0071】
PPa・カム面17bは、プレッシャプレート14のカム用孔41cに形成されている。具体的には、カム用孔41cは、円周方向の一方の端面(壁面)にPPa・カム面17bを有している。PPa・カム面17bは、円周方向に対して、SP・カム面17aと同じ方向に同じ角度で傾斜している。そして、このPPa・カム面17bに、SP・カム面17aが当接可能である。
【0072】
<スリッパカム機構18>
スリッパカム機構18は、
図2,
図3及び
図8で示すように、複数(ここでは3個)のクラッチセンタ13に設けられたCC・カム面18aと、複数(ここでは3個)のプレッシャプレート14に設けられたPPs・カム面18bと、を有する。
【0073】
CC・カム面18aはクラッチセンタ13の第1カム用突起31に形成されている。第1カム用突起31は、前述のように、第1突起部30に第1固定用突起32とともに、クラッチセンタ13の軸方向の第1側の側面に軸方向に突出して形成されている。第1突起部30はプレッシャプレート14のカム用孔41cに挿入されている。そして、第1突起部30の円周方向の一方の端面にCC・カム面18aが形成されている。CC・カム面18aは、円周方向に対して所定の角度で傾斜している。
【0074】
PPs・カム面18bは、プレッシャプレート14の
カム用孔41cに形成されている。具体的には、カム用孔41cにおいて、PPa・カム面17bが形成された側面(壁面)と円周方向において対向する逆側の端面(壁面)が、PPs・カム面18bとなっている。ただし、PPa・カム面17bとPPs・カム面18bとは軸方向にずれて形成されている。PPs・カム面18bは、円周方向に対して、CC・カム面18aと同じ方向に同じ角度で傾斜している。そして、このPPs・カム面18bに、CC・カム面18aが当接可能である。
【0075】
[カム面の方向と高さ]
プレッシャプレート14は、前述のように、筒状部41を有しており、この筒状部41に形成されたカム用孔41cの壁面にPPa・カム面17b及びPPs・18bが形成されている。
【0076】
ここで、PPa・カム面17bの軸方向第2側の端部を始端部、第1側の端部を終端部とする。この場合、
図9に示すように、筒状部41の軸方向の第2側の面からの高さH(軸方向長さ)は、PPa・カム面17bの始端部Saを超えて終端部まで延びている。すなわち、筒状部41において、PPa・カム面17bが形成されている部分は環状に連続している。
【0077】
また、同様に、PPs・カム面18bの軸方向第1側の端部を始端部、第2側の端部を終端部とする。この場合、
図9に示すように、筒状部41の軸方向の第1側の面からの高さH(軸方向長さ)は、PPs・カム面18bの始端部Ssを超えて終端部まで延びている。すなわち、筒状部41において、PPs・カム面18bが形成されている部分は環状に連続している。
【0078】
このように、各カム面17b,18bが形成されている部分は、環状に連続している。このため、各カム面17b,18bに力が作用してもプレッシャプレート14に局部的に応力が発生することはなく、従来装置に比較してプレッシャプレート14の強度が向上している。
【0079】
また、SP・カム面17aは、第2突起部55の回転方向の−R側に形成され、CC・カム面18aは、第1突起部30の回転方向の+R側に形成されている。言い換えれば、サポートプレート16の第2カム用突起61は、第2突起部55において、第2固定用突起62の回転方向の−R側に形成され、クラッチセンタ13の第1カム用突起31は、第1突起部30において、第1固定用突起32の回転方向の+R側に形成されている。
【0080】
このような構成において、アシストカム機構17が作動した場合、SP・カム面17aに+R方向の力が作用する。この力は、各固定用突起62,32で受けられるとともに、第1カム用突起31を介してクラッチセンタ13で受けられる。すなわち、板厚の厚い部分で力を受けることができるために、クラッチセンタ13において応力が高くなるのを抑えることができる。
【0081】
スリッパカム機構18が作動した場合も同様であり、CC・カム面18aに−R方向の力が作用した場合、この力は、各固定用突起32,62及び第2カム用突起61を介してサポートプレート16で受けられる。このため、板厚の厚い部分で力を受けることができるために、サポートプレート16において応力が高くなるのを抑えることができる。
【0082】
[第1歯272及び第2歯412について]
前述のように、クラッチセンタ13の筒状部27の外周面には、複数の係合用の第1歯272が形成されている。また、プレッシャプレート14の筒状部41の外周面には、複数の係合用の第2歯412が形成されている。第1歯272と第2歯412の外径は同じである。
【0083】
複数の第1歯272は、
図2に示すように、軸方向の
第1側に突出する複数(この例では6個)の第1突出歯272aを有している。また、複数の第1歯272のうちの6箇所は、歯が欠損する欠損部272bとなっている。なお、軸方向の
第1側は、クラッチセンタ13に対して第1ドリブンプレート521を組み付ける側である。
【0084】
具体的には、第1突出歯272aの第1ドリブンプレート521を組み付ける側の端面は、残りの突出していない複数の非突出歯272cよりも、第1ドリブンプレート521を組み付ける側に突出している。複数の第1突出歯272a及び欠損部272bは、回転中心に対して対称な位置に形成されている。なお、非突出歯272cの先端面は、筒状部27の本体271の軸方向端面と同じ位置である。
【0085】
このような第1突出歯272aを設けることによって、第1ドリブンプレート521をクラッチセンタ13の筒状部27の第1歯272に組み付ける際に、組付けが容易になる。詳細には、仮に第1突出歯272aが設けられていないとすると、第1歯272の端面、すなわち筒状部27の軸端面に対して、第1ドリブンプレート521を高い平行度を保持しつつ、第1歯272と第1ドリブンプレート521の係合凹部521aを位置合わせし、組み付ける必要がある。したがって、第1ドリブンプレート521が筒状部27の軸端面に対して傾斜していると、第1歯272に第1ドリブンプレート521の係合凹部521aが噛み込み、組み付けが困難になる。
【0086】
これに対して、第1歯272に第1突出歯272aを設けることによって、第1突出歯272aが組み付け時の挿入ガイドとして機能する。したがって、第1突出歯272aに第1ドリブンプレート521の係合凹部521aの一部のみを差し込み、その第1突出歯272aを案内として第1ドリブンプレート521を筒状部27の第1歯272に挿入していくことができる。このため、組み付け時に、第1歯272と係合凹部521aとの噛み込みの発生を抑えることができ、第1ドリブンプレート521の組付けが容易になる。
【0087】
また、
図3に示すように、プレッシャプレート14側の第2歯412についても、同様に、軸方向の
第2側に突出する複数(この例では6個)の第2突出歯412aを有している。また、複数の第2歯412のうちの6箇所は、歯が欠損する欠損部412bとなっている。なお、軸方向の
第2側は、プレッシャプレート14に対して第2ドリブンプレート522を組み付ける側である。
【0088】
具体的には、第2突出歯412aの第2ドリブンプレート522を組み付ける側の端面は、残りの突出していない複数の非突出歯412cよりも、第2ドリブンプレート522を組み付ける側に突出している。複数の第2突出歯412a及び欠損部412bは、回転中心に対して対称な位置に形成されている。
【0089】
このような第2突出歯412aを設けることによって、前記同様に、第2ドリブンプレート522をプレッシャプレート14の筒状部41の第2歯412に組み付ける際に、組付けが容易になる。
【0090】
ここで、
図10に示すように、クラッチセンタ13及びプレッシャプレート14は、クラッチセンタ13の第1突出歯272aと、プレッシャプレート14の欠損部412bと、が軸方向で対向するように配置されている。また、クラッチセンタ13及びプレッシャプレート14は、プレッシャプレート14の第2突出歯412aと、クラッチセンタ13の欠損部272bと、が軸方向で対向するように配置されている。
【0091】
また、クラッチセンタ13において、欠損部272bの軸方向端面は、非突出歯272cの軸方向端面(先端面)よりも、軸方向の第2側に退避するように形成されている。
【0092】
このような構成により、ドライブプレート51の摩擦材が摩耗し、プレッシャプレート14がクラッチセンタ13に対して初期状態よりも接近するような状況になっても、クラッチセンタ13の第1突出歯272aと、プレッシャプレート14の第2突出歯412aと、が衝突するのを避けることができる。
【0093】
[動作]
クラッチ装置10においてレリーズ操作がなされていない状態では、サポートプレート16とプレッシャプレート14とは、コイルスプリング19によって互いに離れる方向に付勢されている。サポートプレート16はクラッチセンタ13に固定されて軸方向に移動しないため、プレッシャプレート14が軸方向の第2側に移動する。この結果、クラッチ部15がクラッチオンとなる。
【0094】
このような状態では、エンジンからのトルクが、入力ギア20を介してクラッチハウジング12に入力され、クラッチ部15を介してクラッチセンタ13及びプレッシャプレート14に伝達される。
【0095】
次にアシストカム機構17及びスリッパカム機構18の動作について詳細に説明する。
【0096】
クラッチセンタ13及びプレッシャプレート14に駆動力が作用しているとき、すなわち正側のトルクが作用しているときには、クラッチハウジング2から入力されたトルクは、クラッチ部15を介してクラッチセンタ13とプレッシャプレート14に出力される。プレッシャプレート14に入力されたトルクは、アシストカム機構17を介してサポートプレート16に出力される。サポートプレート16に入力されたトルクは、各固定用突起62,32を介してクラッチセンタ13に出力される。このようにしてプレッシャプレート14からサポートプレート16にトルクが伝達されると同時に、アシストカム機構17が作動する。
【0097】
具体的には、駆動力が作用しているときには、サポートプレート16に対してプレッシャプレート14が
図9の+R方向に相対回転する。すると、SP・カム面17aに対してPPa・カム面17bが押圧される。ここで、クラッチセンタ13は軸方向に移動しないために、サポートプレート16も移動せず、SP・カム面17aに沿ってPPa・カム面17bが移動する結果、プレッシャプレート14は軸方向の第2側に移動する。すなわち、プレッシャプレート14の
押圧部42は、クラッチセンタ13の受圧部28に向かって移動する。この結果、
押圧部42と受圧部28とによってクラッチ部15が強固に挟持されることになり、クラッチの結合力が増加する。
【0098】
一方、アクセルを緩めた場合はクラッチセンタ13を介して逆駆動力が作用し、この場合はスリッパカム機構18が作動する。すなわち、トランスミッション側からのトルクによって、クラッチセンタ13がプレッシャプレート14に対して
図9の+R方向に相対回転する。逆に言えば、プレッシャプレート14がクラッチセンタ13に対して
図9の−R方向に回転する。この相対回転によって、CC・カム面18aとPPs・カム面18bとが互いに押圧される。クラッチセンタ13は軸方向に移動しないために、この押圧により、CC・カム面18aに沿ってPPs・カム面18bが移動し、プレッシャプレート14は軸方向の第1側に移動する。この結果、
押圧部42が受圧部28から離れる方向に移動することになり、クラッチの結合力が低減する。
【0099】
次に、ライダーがクラッチレバーを握ると、その操作力はクラッチワイヤ等を介してレリーズ機構(図示せず)に伝達される。このレリーズ機構によって、プレッシャプレート14がコイルスプリング19の付勢力に抗して軸方向の第1側に移動する。プレッシャプレート14が軸方向の第1側に移動すると、プレッシャプレート14のクラッチ部15への押圧力が解除され、クラッチ部15はオフ状態になる。このクラッチオフ状態では、クラッチハウジング12からの回転はクラッチセンタ13には伝達されない。
【0100】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0101】
(a)前記実施形態では、第1回転体の一例としてクラッチセンタを、第2回転体の一例としてプレッシャプレートを、支持部材としてサポートプレートを例にとって説明した。すなわち、前記実施形態では、プレッシャプレートを軸方向の第1側に移動させ、クラッチ部をオフする、いわゆるプルタイプのクラッチ装置に本発明を適用したが、いわゆるプッシュタイプのクラッチ装置にも本発明を同様に適用することができる。
【0103】
プッシュタイプのクラッチ装置110では、第1回転体はプレッシャプレート114に、第2回転体はクラッチセンタ113に、支持部材はリフタプレート116に相当する。
【0104】
具体的には、プッシュタイプのクラッチ装置110では、軸方向の
第2側から第1側に向けて、プレッシャプレート114、クラッチセンタ113、及びリフタプレート116が配置されている。プレッシャプレート114とリフタプレート116とは、クラッチセンタ113に形成された開口113aを通して、ボルト163により互いに固定されている。そして、クラッチセンタ113とリフタプレート116との間に、コイルスプリング119が配置されている。また、プレッシャプレート114の押圧部142と、クラッチセンタ113の受圧部128と、の間に、クラッチ部115が配置されている。これらの各部材は、プルタイプのクラッチ装置10と同様に、クラッチハウジング112の内部に収容されている。
【0105】
クラッチセンタ113は軸方向に移動しないので、コイルスプリング119によってリフタプレート116が軸方向の第1側に付勢されている。すなわち、リフタプレート116に固定されたプレッシャプレート114が軸方向の第1側に付勢され、プレッシャプレート114がクラッチセンタ113に対して押圧されて、クラッチ部115がオン状態になっている。
【0106】
そして、リフタプレート116及びプレッシャプレート114を、コイルスプリング119の付勢力に抗して軸方向の第2側に移動させることによって、クラッチ部115がオフされる。
【0107】
また、プッシュタイプのクラッチ装置110では、
図11Bに示すように、プレッシャプレート114とクラッチセンタ113との軸方向間にスリッパカム機構118が設けられ、クラッチセンタ113とリフタプレート116との間にアシストカム機構117が設けられている。各カム機構117,118の作動は、プルタイプのクラッチ装置10と基本的に同様である。
【0108】
(b)クラッチセンタ及びプレッシャプレートの構成は前記実施形態に限定されない。例えば、前記実施形態では、クラッチセンタ13の円板部26、筒状部27、及び受圧部28を一体で形成したが、それぞれ別の部材で形成してもよい。また、プレッシャプレート14についても同様であり、ボス部40、筒状部41、及び押圧部42を、それぞれ別の部材で形成してもよい。
【0109】
(c)前記実施形態では、プレッシャプレートの第2筒状部の高さHが、各カム面17b,18bの終端部まで延びている例を示したが、第2筒状部の高さは、各カム面17b,18bの始端部を超えて延びていればよく、終端部まで延びている必要はない。
【0110】
(d)前記実施形態では、プレッシャプレートをコイルスプリングにより付勢するようにしたが、コイルスプリングの代わりに皿バネなどを使用してもよい。