(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
試料水に含まれる含有物の濃度を、その吸光度を測定することによって分析することがある。吸光度は、ランベルト・ベールの法則により、測定対象の試料水に入射される入射光の強度である入射光強度I
0と、試料水を透過した透過光の強度である透過光強度Iとの強度比の、対数log
10(I
0/I)で表される。
【0003】
また、入射光の一部を分岐させ、参照光として取り出して、この強度を参照光強度として測定し、該参照光強度と蒸留水を透過させたときの透過光の透過光強度との強度比を予め算出しておくことにより、試料測定時に参照光強度から入射光強度を算出することができる。これにより、光源の経時変化による変動に依らずに、上記算出された入射光強度と上記測定された透過光強度とに基づいて吸光度を算出できる。
【0004】
試料水に含まれる含有物の吸光度を算出する装置として、測定対象の試料水がサンプリングされて供給される算出装置と、測定対象の試料水に常時浸漬されている算出装置(例えば特許文献1参照)とが知られている。前者の装置では、吸光度を計測するための測定セル部は、常時試料水に浸漬していない。
【0005】
予め算出された強度比は、例えば算出装置の経時劣化により変動することがあるので、精度を維持するためには、強度比を定期的に校正する必要がある。この場合、前者の算出装置によれば、校正時には、測定セル部に、測定対象の試料水に換えて供給された基準液(ゼロ水、蒸留水)に基づいて校正が実施される。
【0006】
後者の算出装置の場合、測定セル部は試料水に常時浸漬されているため、測定セル部の試料水を基準水に置き換えることは出来ないので、前者の算出装置のような校正方法は適用できない。また、後者の算出装置を試料水から取り出せば蒸留水による校正も可能となるが、この場合、算出装置を試料水中から取り出す手間を要するので、常時浸漬させた状態で連続的に吸光度を算出することが出来なくなる。
【0007】
このため後者の算出装置では、試料水中に浸漬した状態で強度比を校正するための校正フィルタが備えられている。具体的には、算出装置を試料水中に浸漬させた状態で、吸光度が既知の校正フィルタを測定セル部に挿入して算出される吸光度が、校正フィルタの吸光度に一致するように強度比が補正されるようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
算出装置を測定対象の試料水中に浸漬させた状態で校正フィルタを用いて校正する場合、校正フィルタと測定セル部を画定する一対の壁面間との間に機構上不可避の隙間が生じ得る。この結果、該隙間に介在する試料水に起因して、校正の精度が低下してしまう。したがって、該隙間を考慮して校正を行う観点で校正の精度を向上させる余地がある。
【0010】
本発明は、校正フィルタを用いて吸光度算出に係る校正行う場合に吸光度の算出精度を向上させることができる、試料水中含有物の吸光度算出方法及び算出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面は、
光源からの光を参照光と入射光とに分光し、
前記参照光の強度を参照光強度として測定し、
前記入射光を
、測定セル
部を透過させて、この透過光の強度
を透過光強度として測定し、ここで、前記測定セル部は一対の透明な透過部材間の空間として画定されており、
前記測定セル部が蒸留水で満たされた状態で前記透過光強度を測定し、該測定された透過光強度の前記参照光強度に対す
る比である強度比を算出し、
前記測定セル部が試料水で満たされた状態で、前記透過光強度および前記参照光強度を測定し、該測定された透過光強度および前記参照光強度と
、前記強度比
とに基づいて、前記試料水に含まれる含有物の吸光度を算出する方法であって、
前記測定セル部を蒸留水で満たし、該測定セル部に対して校正フィルタを前記一対の透過部材間に隙間を介して挿入した状態で、前記透過光強度および前記参照光強度を測定し、該測定された透過光強度および前記参照光強度と、前記強度比とに基づいて、前記校正フィルタの吸光度をフィルタ吸光度として算出し、
前記測定セル部
が、吸光度が既知の試料水
で満たされた状態で、校正フィルタが前記一対の透過部材間に隙間を介して前記測定セル部に挿入されたとき
の、前記参照光強度及び前記透過光強度を測定
することにより吸光度を算出し、該吸光度が、前記フィルタ吸光度と前記隙間に満たされた前記試料水の吸光度との合計に一致するように、前記隙間に満たされた前記試料水の吸光度を、前記測定セル部の全体が前記試料水で満たされているときの前記既知の吸光度に乗じて算出するための係数を、隙間係数と
して算出し、
前記測定セル部
が測定対象の試料水
で満たされた状態で、前記測定セル部に校正フィルタが挿入されたときに測定された前記透過光強度
および前記参照光強度に基づいて算出された吸光度が、前記測定セル部に校正フィルタが挿入されて
おらず前記測定セル部が前記測定対象の試料水で満たされているときに測定された前記透過光強度
および前記参照光強度に基づいて算出された吸光度に
前記隙間係数を乗じたものと前記フィルタ吸光度との合計に一致するように、前記強度比を補正し、
前記補正された強度比を使用して、試料水中含有物の吸光度を算出する方法を提供する。
【0012】
本発明によれば、校正フィルタを利用して吸光度を補正する際に、校正フィルタと測定セル部間の隙間に在る試料水及び/又は前記光源の変動及び/又は前記測定セル部の変動に起因した吸光度の変動を補正することができる。これにより、吸光度の測定精度を向上させることができる。測定セル部の変動としては、例えば、測定セル部を画定する一対の透過部材の表面の汚れが考えられる。
【0013】
しかも、測定セル部に試料水が在る状態で校正フィルタを利用して校正できるので、校正に要する手間を省くことができる。
【0014】
また、本発明の他の側面は、
前記参照光強度を測定する参照光受光部と、
前記透過光強度を測定する透過光受光部と、
前記校正フィルタを、前記測定セル部に挿入された挿入位置と、前記測定セル部から退避した退避位置とに移動させる、移動部と、
上記方法によって試料水中の含有物の吸光度を算出する算出部と
を備えた試料水中含有物の吸光度算出装置を提供する。
【0015】
本発明によれば、上記方法に係る発明の効果が、吸光度算出装置において好適に発揮される。
【0016】
好ましくは、前記校正フィルタには、第1ワイパが設けられており、
前記測定セル部の前記一対の透過部材の表面は、前記移動部による前記校正フィルタの移動に伴って前記第1ワイパによって掻かれる。
【0017】
本構成によれば、測定セル部を構成する一対の透過部材の表面から汚れが除去されるので、該表面の汚れに起因した吸光度の変動が抑制される。これにより、吸光度の測定精度が維持される。
【0018】
好ましくは、退避位置に位置する前記校正フィルタと前記測定セル部との間には第2ワイパが設けられており、
前記校正フィルタの表面は、前記移動部により移動させられるときに、前記第2ワイパによって掻かれる。
【0019】
本構成によれば、校正フィルタの表面から汚れが除去されるので、校正フィルタの汚れに起因した吸光度の変動が抑制される。これにより、吸光度の測定精度が維持される。
【0020】
好ましくは、前記校正フィルタは、前記退避位置に位置するとき、表面が保護部材により覆われている。
【0021】
本構成によれば、退避位置に位置する校正フィルタに汚れが付着することが保護部材により抑制される。これにより、校正フィルタが清浄に維持されるので、吸光度の測定精度が維持される。
【0022】
好ましくは、前記移動部は、前記校正フィルタを前記挿入位置と前記退避位置との間を定期的に移動させる。
【0023】
本構成によれば、校正フィルタが定期的に移動させられるので、第1ワイパ及び/又は第2ワイパにより、測定セルの壁面及び/又は校正フィルタの表面が清浄に維持される。これにより、吸光度の測定精度が維持される。
【0024】
好ましくは、前記校正フィルタは石英ガラスにより構成されており、
前記算出部は、測定対象の試料水中の含有物以外の物質による吸光度への影響を除くように、吸光度のゼロ点を補正する機能を有している。
【0025】
本構成によれば、測定対象の試料水中に含まれる含有物の吸光度を、変動要因を除外して直接に算出できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る試料水中含有物の吸光度算出方法及び算出装置によれば、校正フィルタを用いて吸光度算出に係る校正を行う場合に吸光度の算出精度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは相違している。
【0029】
図1は、本発明の一実施形態に係る吸光度の算出装置1を示す正面図である。
図1に示されるように、算出装置1は、試料水の吸光度を測定する測定部10と、この上部に取り付けられており測定部10を作動させる装置本体60とを有している。なお、
図1において装置本体60の筐体の一部が透過して示されている。
【0030】
(測定部)
測定部10は、円柱状の基台部11と、この下端から下方へ延びる一対の第1支持部20及び第2支持部40とを有している。第1及び第2支持部20,40は互いに離間しており、これらの間に校正フィルタ機構50が設けられている。
【0031】
なお、
図1に示されるように、図中の上下方向を算出装置1の上下方向、第1支持部20から第2支持部40へ向かう方向を算出装置1の前後方向として第1支持部20側を前側とし第2支持部40側を後側とし、さらに上下方向及び前後方向それぞれに直交する方向を算出装置1の左右方向と称して、以下説明する。
【0032】
第1支持部20と第2支持部40との間には、下方及び側方が開放された空間が画定されており、該空間は、下側に位置する測定セル部12と、この上側に位置するフィルタ収容部13とを含んでいる。なお、吸光度の測定時には、測定セル部12は、測定対象の試料水で満たされ、ここに在る試料水の吸光度が計測される。
【0033】
フィルタ収容部13は、後述するフィルタ本体51が退避位置に位置するときにここに収容されるようになっており、測定セル部12に比して前後方向に大きい。このため、第1及び第2支持部20,40は、基台部11側において、内側面が前後方向に凹設されている。
【0034】
第1支持部20には、測定セル部12に面する後端面に円盤状の透明な第1透過部材23が装着されている。第1透過部材23には、UV光の減衰率が小さい材料からなるガラス(例えば、石英ガラス、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム等)が使用されている。第1透過部材23の前方には、発光素子27が配置されている。
【0035】
発光素子27は、例えばLED(発光ダイオード)により構成されており、第1透過部材23を通して、測定セル部12に在る試料水に所定スペクトルの光を照射する。より具体的には、発光素子27は、光を照射する送光軸が、第1透過部材23の中心に略一致するように配置されている。
【0036】
第1透過部材23と発光素子27との前後方向の間には反射部材28が配設されている。反射部材28は、例えば、ハーフミラー(ビームスプリッタ)により構成され、発光素子27の送光軸に対して45°の向きで取り付けられており、発光素子27から照射された光を、この一部を上方に反射させて残りを直進させるように、分光する。
【0037】
また、反射部材28の上方には、反射部材28により上方へ反射された光を受光する第1光電素子31(参照光受光部)が配設されている。第1光電素子31は、受光した光の強度を示す電気信号に変換する。
【0038】
第2支持部40には、測定セル部12に面する前端面に円盤状の透明な第2透過部材43が装着されている。第2透過部材43は、第1透過部材23と同様な形状及び材質から構成されており、第1透過部材23に対向している。第2透過部材43の後方には、第2光電素子47(透過光受光部)が配設されている。
【0039】
第2光電素子47は、発光素子27から照射された光のうち、反射部材28により反射されずに直進して第1透過部材23を介して測定セル部12を透過し、さらに第2透過部材43を通過した光を受光し、受光した光の強度を示す電気信号に変換する。
【0040】
また、第1支持部20と第2支持部40とは、密閉状態で閉鎖されるようになっている。また、第1支持部20と第2支持部40に対して、第1透過部材23と第2透過部材43とは、その外縁部に図示しないパッキン等を配置することによりそれぞれ封止状態で取り付けられるようになっている。これにより、第1支持部20と第2支持部40の内部での防水性が確保されている。
【0041】
(校正フィルタ機構)
図2は、測定部10周辺の斜視図であり、基台部11、及び第1及び第2支持部20、40が省略されている。
図2に示されように、校正フィルタ機構50は、前面視矩形状に形成されたフィルタ本体51と、この上部に取り付けられて上方に延びるフィルタ支持軸52と、フィルタ本体51の下部に取り付けられた第1ワイパ53とを有しており、後述する昇降機構61(
図1参照)により上下方向に移動可能に構成されている。
【0042】
なお、
図2には、フィルタ本体51が下方に移動させられて一対の第1及び第2透過部材23,43の間に挿入された挿入位置に位置する状態が示されており、
図1には、フィルタ本体51が挿入位置から上方に退避した退避位置に位置する状態が示されている。
【0043】
フィルタ本体51には、前後方向に矩形状に貫通するフィルタ開口部54が形成されている。フィルタ開口部54は、フィルタ本体51が挿入位置に位置する状態で、第1及び第2透過部材23,43に対向しており、校正用透過部材55(校正フィルタ)が装着されている。校正用透過部材55は、UV光の減衰率が小さい材料からなる部材(例えば、石英ガラス、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム等)が使用されている。
【0044】
図3は、測定部10及び校正フィルタ機構50の正面図であり、校正フィルタ機構50のフィルタ本体51が挿入位置に位置する状態が示されている。なお、
図3において、基台部11、第1及び第2支持部20,40が仮想線で示されている。
図3に示されるように、フィルタ本体51及び校正用透過部材55の前後方向の長さ(厚さ)L2は、測定セル部12の前後方向における距L1よりも小さく構成されている。
【0045】
換言すると、校正用透過部材55は、挿入位置において、前後一対の第1及び第2透過部材23,43に対して隙間Zを介して対向している。これにより、フィルタ本体51を、第1及び第2透過部材23,43に干渉させることなく、退避位置と挿入位置との間を上下方向に移動させることができる。
【0046】
なお、校正用透過部材55と第1及び第2透過部材23,43との間に画定される、前後一対の隙間Zは前後方向長さが同じである必要はない。以下の説明では、前後一対の隙間Zを纏めて隙間Zと称する。
【0047】
図1に示されるように、フィルタ支持軸52は、基台部11を貫通して上下方向に延びている。フィルタ支持軸52の上端部には、昇降機構61が連結されている。フィルタ本体51は、昇降機構61の昇降にしたがって、フィルタ支持軸52を介して上下方向に移動可能に構成されている。
【0048】
図3に示されるように、第1ワイパ53は、板状部材であって厚み方向を上下方向に向けた姿勢で、フィルタ本体51の下端部に設けられている。第1ワイパ53は、弾性部材により構成されており例えばゴム製である。第1ワイパ53は、前後方向の長さL3が測定セル部12の長さL1と略同じか少し大きく構成されている。また、
図2を参照して、第1ワイパ53は、校正用透過部材55と同じ左右方向位置に設けられており、左右方向の幅W1が校正用透過部材55の幅W2と略同じか少し大きく構成されている。
【0049】
校正フィルタ機構50は、退避位置に位置するフィルタを前後方向に挟持して覆う前後一対のフィルタカバー57(保護部材)と、前後一対の第2ワイパ58と、これらを支持する前後一対のブラケット59とを、さらに有しており、これらはフィルタ収容部13に配設されている。
【0050】
第1支持部20に取り付けられたブラケット59は、第1支持部20の内側面に沿って上下方向に延びる縦壁部59aとこの下方においてフィルタ本体51に向かって前後方向(後方)へ延びる下壁部59bとを有しており、側面視略L字状に形成されている。第2支持部40に取り付けられたブラケット59も同様である。
【0051】
図1を併せて参照して、縦壁部59aは、退避位置に位置する校正用透過部材55に対向して位置している。縦壁部59aのフィルタ収容部13側に面する内壁面にはフィルタカバー57が例えば接着剤により取り付けられている。下壁部59bは、退避位置に位置する校正用透過部材55より下方側であって、測定セル部12よりも上側に位置している。
【0052】
一対のフィルタカバー57は、直方体状の弾性部材であり、本実施形態ではスポンジ状部材により構成されている。フィルタカバー57は、前後方向に見て、校正用透過部材55よりも上下方向及び左右方向に大きく構成されており、退避位置に位置するフィルタ本体51を前後方向に挟持してこの前面及び後面を全体的に覆うように配設されている。フィルタカバー57として、このほかゴム製の部材により構成できるが、スポンジ状部材の方が柔軟性に優れているため、校正用透過部材55の前面及び後面にゴム製の部材よりも沿わせやすい。
【0053】
第2ワイパ58は、ゴム製の板状部材であって、厚み方向を上下方向に向けた姿勢で、下壁部59bの下面に例えば不図示の締結手段により固定されている。
図3に示されるように、第2ワイパ58は、フィルタ収容部13の内側へ前後方向に延びており、この先端部が校正用透過部材55の端面と同じ前後方向位置に至っている。
【0054】
すなわち、校正フィルタ機構50は、フィルタ本体51が退避位置に位置するとき、校正用透過部材55の前面及び後面が一対のフィルタカバー57により全体的に覆われているので、試料水中の異物の付着が抑制される。また、
図4に示されるように、フィルタ本体51を退避位置から挿入位置へ若しくは挿入位置から退避位置へ昇降させた場合には、測定セル部12を画定する第1及び第2透過部材23,43の内側面が第1ワイパ53により掻かれて掃除されると共に、校正用透過部材55の前面及び後面が第2ワイパ58により掻かれて掃除される。
【0055】
(装置本体)
図1に示されるように、装置本体60は、校正フィルタ機構50のフィルタ本体51を挿入位置と退避位置とに移動させる昇降機構61(移動部)と、算出装置1の作動を制御する制御装置70とを有している。
【0056】
昇降機構61は、例えば、モータ、ボールネジ、キャリッジから構成されている。
【0057】
図1に示されるように、制御装置70は、CPU、メモリ、記憶装置、および入出力装置を備えた周知のコンピュータと、コンピュータに実装されたソフトウエアとにより構成されており、算出装置1を制御して、測定セル部12に在る試料水の吸光度を算出する。具体的には、制御装置70は、昇降駆動部71と、LED駆動部72と、吸光度算出部73と、補正量算出部74とを有している。
【0058】
昇降駆動部71は、昇降機構61を制御して、フィルタ本体51を退避位置と挿入位置に移動させる。LED駆動部72は、発光素子27に電力を供給することにより発光素子27から測定セル部12に在る試料水への光の照射を制御する。吸光度算出部73は、第1光電素子31により測定された参照光強度と第2光電素子47により測定された透過光強度とに基づいて測定セル部12に在る試料水の吸光度を算出する。補正量算出部74は、校正フィルタを用いて測定される吸光度に基づいて、吸光度算出に係る補正量を算出する。
【0059】
以下、吸光度算出部73における吸光度の算出と、補正量算出部74における補正量の算出とについて説明する。
【0060】
吸光度は、一般に、ランベルト・ベールの法則により、測定セル部12に在る試料水に入射される入射光の強度である入射光強度I
0と、測定セル部12を透過した透過光の強度である透過光強度Iとの比の対数log
10(I
0/I)により表される。
【0061】
ここで、本実施形態では、吸光度算出部73は、入射光強度の測定に換えて、反射部材28により分光されて上方へ90°方向変換された参照光の強度である参照光強度を利用して入射光の強度を推定している。
【0062】
具体的には、測定セル部12を蒸留水で満たした状態で、発光素子27からの光を反射部材28により入射光と参照光とに分光すると共に入射光を測定セル部12に透過させたときの、第1光電素子31により測定される参照光強度V0refと第2光電素子47により測定される透過光強度V0mes(蒸留水透過光強度)との強度比Aを式(1)により算出する。なお、このとき、測定セル部12を画定する第1及び第2透過部材23,43の表面は汚れておらずクリアである状態とする。
【0064】
強度比Aを使用することにより、参照光強度から蒸留水で満たされた測定セル部12を透過した透過光の透過光強度を算出することができる。この透過光強度を測定セル部12に在る試料水に照射される入射光強度とみなし、該入射光強度と測定された透過光強度とに基づいて吸光度を算出することにより、第1及び第2透過部材23,43及び蒸留水による吸光度への影響を除いて、試料水中の含有物による吸光度を算出できる。これにより、測定セル部12に蒸留水が或る状態における吸光度をゼロ点とみなすゼロ点校正ができる。また、強度比Aを用いることにより、光源である発光素子27の強度のバラツキによる影響を抑制して吸光度を算出できる。
【0065】
例えば、吸光度がNである試料水が測定セル部12に在るとき、参照光強度をVNrefとすると、入射光強度VNinは強度比Aを用いて式(2)により表されるので、透過光強度をVNmesとすると、この試料水の吸光度は補正係数Bを用いて式(3)により表される。
【0068】
ここで、補正係数Bは、第1及び第2光電素子31,47のバラツキを補正するものである。すなわち、補正係数Bは、式(4)により表される。
【0070】
すなわち、吸光度算出部73は、吸光度が未知の試料水で測定について参照光強度Vrefと透過光強度Vmesとを測定することにより、強度比A、補正係数Bを用いて式(5)により吸光度X1を算出する。
【0072】
すなわち、測定セル部12を構成する第1及び第2透過部材23,43の表面が汚れていない測定の初期段階においては、吸光度算出部73は式(5)により試料水の吸光度を算出する。一方、算出装置1を連続的に測定対象の水域に設置して、測定セル部12が常時、試料水で満たされている状態で連続的に吸光度を算出しようとすれば、第1及び第2透過部材23,43の表面に異物が付着して汚れる場合があるので、強度比Aが変化する虞があり吸光度の算出精度が悪化する。
【0073】
このため、本実施形態では、補正量算出部74により、強度比Aが定期的に補正されるようになっている。このとき、算出装置1を水域から取り出さずに、吸光度が既知である校正用透過部材55を用いて、算出装置1を試料水中に浸漬させた状態で強度比Aを補正できるように構成されている。
【0074】
まず、算出装置1を試料水に浸漬させる前に、事前に校正用透過部材55の吸光度α(フィルタ吸光度)を算出しておく。具体的には、測定セル部12が蒸留水で満たされた状態で、昇降駆動部71により昇降機構61を制御してフィルタ本体51を挿入位置に移動させる。この状態で、参照光強度VC0refと透過光強度VC0mesとを測定し、式(5)により、校正用透過部材55の吸光度αが式(6)により表される。
【0076】
さらに、測定セル部12に吸光度がNである試料水で満たした状態で、同様にフィルタ本体51を挿入位置に移動させて、参照光強度VCNrefと透過光強度VCNmesとを測定し、式(5)により、吸光度X2が式(7)で表される
【0078】
ここで、挿入位置に位置する校正用透過部材55と測定セル部12を画定する第1及び第2透過部材23,43との間には、隙間Zがあり、ここに試料水が存在する。したがって、式(7)で算出された吸光度X2は、校正用透過部材55の吸光度αと隙間Zに在る試料水の吸光度との合計として、式(8)により表される。ここで、βは、測定セル部12全体に在るときの吸光度がNである試料水が、隙間Zに在る場合の吸光度を表すための隙間係数である。
【0080】
したがって、隙間係数βは、式(8)を整理して、式(9)により表される
【0082】
上述したように、校正用透過部材55の吸光度αと、校正用透過部材55と測定セル部12を画定する第1及び第2透過部材23,43との間の隙間Zに基づく隙間係数βとを事前に算出しておくことにより、測定開始後、時間が経過し、強度比AがA’に変化した場合には、補正量算出部74は、上記αとβとを利用することにより強度比A’を算出する。
【0083】
具体的には、算出装置1を測定対象の試料水に浸漬させた状態で、昇降駆動部71はフィルタ本体51を挿入位置に移動させる。このときの強度比をA’として、測定される参照光強度VCZrefと透過光強度VCZmesとに基づいて式(5)により、この状態の吸光度X3は式(10)により表される。
【0085】
また、昇降駆動部71によりフィルタ本体51を退避位置に移動させた状態で、測定される参照光強度VZrefと透過光強度VZmesと強度比A’とに基づいて式(5)から、この状態の吸光度X4は式(11)により表される。
【0087】
また、吸光度X3は、校正用透過部材55の吸光度αと、隙間Zに在る試料水の吸光度の和であることから、吸光度X3は式(12)により表される。
【0089】
したがって、式(10)〜式(12)から強度比A’を式(13)のように求めることができる。
【0091】
したがって、強度比A’として、参照光強度をVrefとし、透過光強度をVmesとすると、式(14)により、吸光度算出部73は吸光度Xcを算出する。
【0093】
また、当初強度比Aにより算出される吸光度からの補正量をDとすると、吸光度Xcは、式(15)のように表すことができる。
【0095】
式(15)をDについて解くと、式(16)が得られる。
【0097】
したがって、補正量Dを、式(5)により算出される吸光度X1から引くことにより、強度比Aの経時変化を考慮して試料水の吸光度を算出できる。このように、補正量算出部74により算出された補正量Dを用いて、吸光度算出部73は式(5)、式(15)及び式(16)から吸光度を算出することもできる。
【0098】
また、昇降駆動部71は、定期的(例えば1時間に1回の頻度)に、フィルタ本体51を退避位置から挿入位置へ移動させると共に、挿入位置から退避位置に移動させる。これにより、定期的に、校正用透過部材55,第1及び第2透過部材23,43の表面が、第1及び第2ワイパ53,58により掃除されるようになっている。
【0099】
また、補正量算出部74は、フィルタ本体51が挿入位置に位置する毎に、強度比A’及び補正量Dを算出するようにしてもよい。このほか、補正量算出部74は、フィルタ本体51が挿入位置に位置する毎に、強度比A’及び補正量Dを算出しなくてもよく、例えば1日に1回程度の割合で、フィルタ本体51が挿入位置に位置するときに、強度比A’及び補正量Dを算出するようにしてもよい。
【0100】
図5には、校正用透過部材55を用いてゼロ点校正に係るゼロ点の補正(強度比A’及び補正量Dの算出)を定期的に実施した場合と、しなかった場合とで、ゼロ点の吸光度変化量を調査した結果が示されている。
図5において、ゼロ点を定期的に補正した場合のゼロ点の変化量が実線で示されており、ゼロ点を補正しなかった場合のゼロ点の変化量が破線で示されている。
【0101】
また、本調査においては、一定の吸光度を持つ試料水の流路にて100日超測定し、その間定期的に流路から取り出して、蒸留水に浸漬させて測定したゼロ点(吸光度ゼロ点)の推移を示したものである。ゼロ点を定期的に補正した場合では、流路での測定中に1時間に1回の頻度で、第1及び第2ワイパ53,58により、校正用透過部材55、第1及び第2透過部材23,43の表面の清掃を行い、さらに、24時間に1回の頻度で、強度比A’及び補正量Dを算出して、ゼロ点校正に係る補正をしている。
【0102】
図5中破線で示されるように、ゼロ点校正に係るゼロ点を補正しない場合、時間の経過とともにゼロ点の吸光度変化量が増大してドリフトしていることがわかる。これに対して、
図5中実線で示されるように、ゼロ点校正に係るゼロ点を補正した場合、ゼロ点はほぼ変化していない。これにより、ゼロ点校正に係るゼロ点を定期的に補正することにより、算出装置1を流路に3ヶ月以上にわたって浸漬させた状態で、メンテナンスを行うことなく、測定精度を高く維持しつつ、試料水中の含有物の吸光度を安定して算出できていることがわかる。
【0103】
また、補正量算出部74により算出された強度比A’及び/又は補正量Dに基づいて、算出装置1の故障診断を実施するようにしてもよい。例えば、ゴム製である第1及び第2ワイパ53,58が経時劣化(弾性係数の低下、損傷等)により校正用透過部材55、第1及び第2透過部材23,43の表面を適切に掻くことができなくなった場合には、強度比A’が当初強度比Aに対して大きく変化したり、補正量Dが増大したりする。
【0104】
この場合に、強度比A’及び/又は補正量Dについて、上限となる所定の閾値を予め設定しておくことにより、強度比A’又は補正量Dが前記閾値を超過した際には、算出装置1が故障したと診断するようにしてもよい。
【0105】
上記説明した試料水中の含有物の算出装置1によれば、以下の効果を奏する。
【0106】
(1)校正用透過部材55を利用して補正された強度比A’を算出する際に、校正用透過部材55の吸光度αのみならず、校正用透過部材55と測定セル部12との間の隙間Zに在る試料水の吸光度を考慮して、強度比A’を算出することができる。補正された強度比A’を用いることにより、経時劣化による影響を抑制しつつ、測定セル部12に在る試料水中の含有物の吸光度を精度よく算出することができる。測定セル部12の経時劣化による影響としては、例えば、測定セル部12を構成する一対の第1及び第2透過部材23,43の表面の汚れが考えられる。
【0107】
しかも、測定セル部12に試料水が在る状態で校正用透過部材55を利用して校正できるので、算出装置1を測定対象の試料水中から取り出すことを要せず、校正に要する手間を省くことができ、試料水中含有物の吸光度を連続的に算出できる。
【0108】
(2)フィルタ本体51の下端部には第1ワイパ53が設けられているので、測定セル部12を構成する第1及び第2透過部材23,43の表面は、フィルタ本体51の退避位置から挿入位置への移動、及び挿入位置から退避位置への移動に伴って、第1ワイパ53によって掻かれる。これにより、第1及び第2透過部材23,43の表面から汚れが除去されるので、第1及び第2透過部材23,43の汚れに起因した吸光度の変動が抑制される。これにより、吸光度の測定精度が維持される。
【0109】
(3)フィルタ収容部13において、退避位置に位置する校正用透過部材55と測定セル部12との上下方向間には、フィルタ収容部13の前後方向の中央に向かって突出する第2ワイパ58が設けられており、校正用透過部材55の表面は、フィルタ本体51の退避位置から挿入位置への移動、及び挿入位置から退避位置への移動に伴って、第2ワイパ58によって掻かれる。これにより、校正用透過部材55の表面から汚れが除去されるので、校正用透過部材55の汚れに起因した吸光度の変動が抑制される。これにより、吸光度の測定精度が維持される。
【0110】
(4)校正用透過部材55は、退避位置に位置するとき、表面がフィルタカバー57により覆われている。これにより、退避位置に位置する校正用透過部材55に汚れが付着することがフィルタカバー57により抑制される。これにより、フィルタカバー57が清浄に維持されるので、吸光度の測定精度が維持される。
【0111】
(5)昇降機構61は、フィルタ本体51を挿入位置と退避位置との間を定期的に移動させる。これにより、校正用透過部材55が定期的に移動させられるので、第1ワイパ53及び/又は第2ワイパ58により、測定セル部12を構成する第1及び第2透過部材23,43の表面及び/又は校正用透過部材55の表面が清浄に維持される。これにより、吸光度の測定精度が維持される。
【0112】
(6)前記校正フィルタは石英ガラスにより構成されており、吸光度算出部73は、測定対象の試料水中の含有物以外の物質による吸光度への影響を除くように、吸光度のゼロ点を補正する機能を有している。これにより、吸光度の変動要因、例えば測定セル部12を構成する第1及び第2透過部材23,43の汚れ、光源となる発光素子27の強度バラツキ等の吸光度への影響を除外して、測定対象の試料水中に含まれる含有物による吸光度を直接に算出できる。
【0113】
なお、本発明は、上記実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。