【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、窓部を通して外部から加工領域内を視認するその必要性は、オペレータが加工状態を確認することで、加工が正常に行われているかどうかを把握することができるという点にある。
【0009】
その一方、加工領域内で行われる加工によっては、例えば、レーザ加工など、加工の際に生じる光が人の目に悪影響を与える場合には、窓部を通した外部からの視認状態を目に悪影響が出ない程度に制限する必要がある。
【0010】
また、機密性の高いワーク(例えば、特殊な材質のワーク)を加工している場合、或いは、機密性の高い加工方法を実施している場合には、外部から加工領域内を視認できる状態に一定の制限を加えたい場合がある。
【0011】
このような場合に、上述した従来の遮蔽板機構を設ければ、窓部を通した外部からの加工領域内の視認に制限を加えることができ、機密性の高いワークや加工方法について、その機密性を守ることができる。
【0012】
ところが、上述した従来の遮蔽板機構によれば、アクチュエータによって遮蔽板を移動させるようにしているので、仮に、加工中に遮蔽板を移動させる場合には、その動作に起因して振動が生じ、当該振動が加工精度に悪影響を与えるという問題があった。このため、窓部を通した外部からの視認状態を、上記従来の遮蔽板機構を用いて制限するのは、必ずしも好ましい態様とは言えなかった。尚、このような不都合を回避するために、加工動作が行なわれていない時間帯に遮蔽板を移動させることが考えられるが、このような対応では、遮蔽板の移動中に加工を行うことができないため、加工効率が低下するという別の問題を生じる。更には、遮蔽板を移動するのに時間を要する為、速やかな遮断が出来ないという不都合も生じていた。
【0013】
また、従来の遮蔽板機構では、遮蔽板により窓部を遮断して外部から加工領域内を完全に見えなくするか、又は、遮蔽板が窓部を遮断しないように移動させ、窓部を通して外部から加工領域内を見えるようにするかの二者択一の態様しかとることができないという問題もあった。上述したように、工作機械を用いた加工では、加工領域内の視認性に一定の制限を加えたいという要請がある反面、不明瞭ではあるものの、加工領域内で何が行なわれているのかを把握できる程度の視認性が確保された中間的な態様が求められることが多い。従来の遮蔽板機構では、このような中間的、或いは段階的な態様を実現することができない。
【0014】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであって、窓部を通した外部からの視認状態を、加工精度に悪影響を与えず、また、加工効率を低下させることなく制限、或いは調整することができ、更に、ある程度の視認性が確保された中間的な態様を実現可能な工作機械の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための本発明は、少なくとも加工領域を外部と隔てるカバー体を備え、該カバー体には前記加工領域と外部とを連通させる開口部が形成され、該開口部を通して外部から加工領域内を視認することができるように構成された工作機械であって、
前記開口部を閉塞するように配設され、前記加工領域と外部との間の透光率を変更するフィルタリング機構と、
前記フィルタリング機構の透光率を設定するための設定情報を取得し、取得した設定情報に応じて前記フィルタリング機構の透光率を設定する制御部とを備えた工作機械に係る。
【0016】
この態様(第1の態様)の工作機械では、上記のように、開口部を通して外部から加工領域内を視認することができ、この開口部はフィルタリング機構によって閉塞されている。フィルタリング機構は、加工領域と外部との間の透光率が制御部によって設定(調整)され、制御部は取得(入力)される設定情報に従ってフィルタリング機構の透光率を設定(調整)する。尚、ここでいう透光率の調整は、透光率が高い状態と低い状態の2段階に調整する場合の他、透光率を多段階に調整する場合、透光率をアナログ的に連続して変化させるように調整する場合など、透光率を必要に応じて細かく調整する場合を含む。
【0017】
斯くして、この工作機械によれば、制御部によってフィルタリング機構の透光率を調整することで、開口部を通した外部からの加工領域内の視認状態を調整することができる。したがって、例えば、加工領域内でレーザ加工が行われ、加工の際に有害光が生じる場合でも、前記視認状態に制限を加えて、レーザ光が外部に透過し難くすることで、有害光による悪影響を押さえることができる。或いは、加工領域内で生じた可視光の輝度が高すぎるために、却って加工領域内が視認し難くなる場合に、透光率を下げて透過する光量を下げることにより、加工領域内をより明瞭に視認することができるようになる。
【0018】
また、機密性の高いワークを加工している場合や、機密性の高い加工方法を実施している場合に、開口部を通した外部からの視認状態を制限することで、機密性の高いワークや加工方法について、その機密性を守ることができる。
【0019】
そして、この工作機械によれば、フィルタリング機構の透光率を設定(調整)することによって、開口部を通した外部からの視認状態を調整することができるので、遮蔽板を移動させる従来の機構のように、遮蔽板の移動に起因した振動が生じることは無く、したがって、加工中に開口部を通した外部からの視認状態を調整することによって、加工精度に悪影響を与えるといったことは起こり得ないし、また、加工効率が低下することもない。
【0020】
尚、前記フィルタリング機構は透光率を変更可能なフィルタを意味し、例えば、印加する電圧を調節することによって透光率が変化する液晶パネルの他、調光ガラスなどを例示することができるが、これに限定されるものではない。尚、液晶パネルや調光ガラスの場合には、透光率の調整を瞬時に行うことができる。
【0021】
また、透光率の設定は、フィルタリング機構の全面に渡ってこれを設定するようにしても良く、或いは、フィルタリング機構の一部分について透光率を変更するようにしても良い。
【0022】
上記第1の態様の工作機械において、当該工作機械の周辺の状況に関する情報を認識し、認識した周辺情報を前記設定情報として前記制御部に送信する周辺情報認識部を備えていても良い。
【0023】
この態様(第2の態様)の工作機械によれば、周辺情報認識部により工作機械の周辺情報が認識され、認識された周辺情報が設定情報として制御部に送信される。そして、制御部は取得した周辺情報に応じてフィルタリング機構の透光率を設定(調整)する。尚、この周辺情報は工作機械を含む所定の領域内に存在する人間の情報や、その人間が有する権限(例えば、機密情報へのアクセス権限)といった情報の他、工作機械の周辺の環境などの情報を含む包括的な概念である。
【0024】
上記第2の態様の工作機械において、前記周辺情報認識部は、前記工作機械を含む所定領域内に存在する人間を認識する個人認識部を含み、当該個人認識部は、認識した人情報を前記設定情報として前記制御部に送信するように構成されていても良い。
【0025】
この態様(第3の態様)の工作機械によれば、前記所定領域内に存在する人間が個人認識部によって認識され、認識された人情報に応じて、前記制御部により前記フィルタリング機構の透光率が設定(調整)され、開口部を通した外部からの視認状態が人情報に応じて調整される。例えば、得られた人情報から、当該所定領域内に居る人間を、一般のオペレータ、当該加工ラインの責任者、当該加工場の責任者、部外者のいずれに分類されるかを認識し、認識された分類、言い換えれば、個人に認められた権限(機密情報にアクセスすることができる権限)に応じて前記視認状態を調整することができ、このようにすることで、機密情報を適切に守ることができる。尚、前記権限は、複数の段階的なものに区分することができる。また、個人認識には、IDカード,RFIDなどID情報が格納された機器を用いた認証の他、カメラを用いた顔認証や指紋認証などの公知の全ての認証手法を用いることができる。
【0026】
また、上記第1の態様の工作機械において、前記制御部は、当該工作機械の運動機構部を数値制御する数値制御装置に接続され、NCプログラムに記述された情報を前記設定情報として取得するように構成されていても良い。
【0027】
この態様(第4の態様)の工作機械によれば、NCプログラム中にNCコードとして記述された前記設定情報が含まれている場合に、数値制御装置による制御の下で、当該NCプログラムに従って運動機構部が駆動され、これによって加工が実行されているときに、前記設定情報に関するNCコードが数値制御装置によって読み取られると、当該数値制御装置は読み取ったNCコードに対応した設定情報を前記制御部に送信し、制御部は受信した設定情報に応じてフィルタリング機構の透光率を設定(調整)する。
【0028】
したがって、例えば、特殊な加工方法を実行する工程の前に前記フィルタリング機構の透光率を制限するようなNCコードを含ませることで、当該加工方法が外部から視認されるのを防止することができ、当該加工方法を機密情報として保持することができる。尚、当然のことながら、この特殊な加工工程が終了した後に、前記フィルタリング機構の透光率を基に戻すNCコードを含ませれば、当該特殊な加工工程以降については、通常通り、加工領域内の様子を外部から視認することができるようになる。
【0029】
上記第2の態様の工作機械において、前記周辺情報認識部は、当該工作機械の周辺に来訪する来訪者のスケジュールを管理する管理装置に接続され、該管理装置によって管理されるスケジュール情報を前記周辺情報として認識するスケジュール情報認識部を含み、当該スケジュール情報認識部は、認識したスケジュール情報を前記設定情報として前記制御部に送信するように構成されていても良い。
【0030】
この態様(第5の態様)の工作機械によれば、前記制御部は、前記スケジュール情報認識部により前記管理装置から取得されて送信されるスケジュール情報、即ち、例えば、当該工作機械の周辺に来訪者が何時頃訪れるかという情報に基づいて、来訪者が訪れると予定される時間帯について、前記フィルタリング機構の透光率を制限(調整)する。これにより、来訪者が加工領域内を視認できないようにすることができ、機密性の高いワークを加工している場合や、機密性の高い加工方法を実施している場合に、その機密性を守ることができる。尚、ここで言う来訪者は、何ら限定的に解釈される概念ではなく、社内の人間であるか、社外の人間であるかを問わず、広く工作機械の周辺に訪れる者を意味する。
【0031】
上記第2の態様の工作機械において、前記周辺情報認識部は、前記加工領域内に配設されて、該加工領域内の光量を検出する内部光量検出部を含み、当該内部光量検出部は、検出した光量に係る情報を前記設定情報として前記制御部に送信するように構成されていても良い。
【0032】
この態様(第6の態様)の工作機械によれば、前記制御部は、前記内部光量検出部によって検出された光量に従って、前記フィルタリング機構の透光率が設定(調整)する。例えば、加工領域内でレーザ加工を行うと、当該加工領域内の光量が増加して、これが前記内部光量検出部によって検出される、即ち、内部光量検出部によって検出される検出値が所定の閾値を超えるが、このように、加工領域内の光量が増加したときに、前記制御部は前記フィルタリング機構の透光率を制限する。これにより、レーザ加工の際に生じる有害光が外部に漏出するのを押さえることができ、当該有害光による悪影響を押さえることができる。
【0033】
或いは、高負荷切削加工等によって火花が生じる場合など、前記内部光量検出部によって検出される検出値が所定の閾値を超える場合には、加工領域内で生じた可視光の輝度が高すぎるために、却って加工領域内が視認し難くなることがある。この場合に、透光率を下げて透過する光量を下げることにより、加工領域内をより明瞭に視認することができるようになる。
【0034】
上記第6の態様の工作機械において、前記周辺情報認識部は、工作機械の外部に配設されて、外部の光量を検出する外部光量検出部を更に含み、外部光量検出部は、検出した光量に係る情報を前記設定情報として前記制御部に送信するように構成され、前記制御部は、前記内部光量検出部から受信した設定情報、及び前記外部光量検出部から受信した設定情報を基に、前記フィルタリング機構の透光率を設定するように構成されていても良い。
【0035】
この態様(第7の態様)の工作機械によれば、上記のように、前記内部光量検出部によって検出された光量に係る情報、及び前記外部光量検出部によって検出された光量に係る情報を基に、前記制御部によって前記フィルタリング機構の透光率が設定(調整)される。
【0036】
前記内部光量検出部によって検出される光量と、前記外部光量検出部によって検出される光量との差が所定の閾値を超え、外部に比べて加工領域内が明るすぎると判断される場合には、逆に、外部から加工領域内を視認し難くなるという現象を生じる。この場合に、前記フィルタリング機構の透光率を制限して加工領域内からの光の透過を制限することで、当該加工領域内を外部から視認し易くすることができる。
【0037】
また、本発明では、前記フィルタリング機構の透光率を設定するための設定情報を取得する処理と、取得した設定情報に応じて前記フィルタリング機構の透光率を設定する処理とを、コンピュータプログラムを用いて、コンピュータによって実行することができる。