(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記NSPPは、コラーゲン、フィブリン、フィブロネクチン、ラミニン(およびそのアイソフォーム)、天然の骨形成タンパク質、合成の骨形成タンパク質、および合成ペプチドからなる群の1種以上より選択され、ただし、α−エラスチン、β−エラスチン、動物由来のエラスチン、または任意の形態のトロポエラスチンは含まれない、請求項1に記載の組成物。
前記重合体が、オリゴ(エチレン)グリコールモノメチルエーテルメタクリレート(OEGMA)、ヒドロキシエチルメタクリレート−ポリ乳酸(HEMA−PLA)、N−アクリロキシコハク酸イミド(NAS)、およびN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)の単量体を含む、請求項1〜8の何れか一項に記載の組成物。
前記重合体が、前記ヒドロゲルに相転移特性を付与して室温での注入および体温でのゲルの形成を可能にする第四の単量体をさらに含む、請求項14〜16の何れか一項に記載のキット。
【背景技術】
【0003】
以下に従来技術についての記載が提供されるが、これは本発明を適切な技術的文脈に置いて、その利点をより完全に理解することができるようにするためである。しかしながら、当然ながら、本明細書を通して従来技術についてのいかなる記載もそのような従来技術が当該分野で広く知られ、または共通する一般的な知識の一部をなしている、あるいは、この従来技術が当業者により適切であると確認され、理解され、および見なされることが合理的に予測され得ると明示的あるいは言外に承認すると見なすべきではない。
【0004】
一般的な知識として、身体は骨の破損を効率的に修復することができる。これらの小さな欠損は、元の骨よりも強い天然骨によって置き換わることが多い。しかしながら、大きな欠損は、身体が修復することができないため、一般に、より多くの問題を生じる。骨欠損は先天性異常、外傷、または病気の結果として起こる場合がある。骨は非常に密度が高い特別な形態の結合組織である。骨基質はI型コラーゲンと、ヒドロキシアパタイトの形態のリン酸カルシウムからなる。緻密な皮質層は長骨の外側領域をなし、骨梁(海綿骨)がその内部を満たしている。関節面を除いて、皮質骨は骨膜という薄い結合組織によって囲まれている。骨膜は、主にコラーゲンに富んだ繊維の層と骨前駆細胞からなる。
【0005】
筋骨格系障害は、オーストラリアで最も一般的な労働に関連した障害の1つであり、年間約10億ドルの経済的負担をオーストラリア経済に与え、その支出の推定70%は長期入院サービスによるものである。骨の治癒速度が遅いため、この障害の回復期間は12〜16週を越えており、大きな欠損は修復にさらに長い時間を要することがある。
【0006】
他の例では、オーストラリアでは年間12,000例に近い開胸心臓手術が行われ、これは肋骨または胸骨の破損をしばしば必要とする。移動が最小限の完全骨折の30%近くは非観血的または観血的整復法が必要である。このため、骨の自然治癒過程は大きく遅れ、完全な回復が遅くなる。労働関連障害に付随および関連する入院費用および開胸心臓手術などの手術から発生する費用を低減するため、骨の治癒速度を加速する必要がある。
【0007】
さらに他の例では、米国だけでも年間800万件を超える歯科移植が行われ、失敗率は30%に近い。この高い失敗率は、主に、埋め込み物の初期固定ができていないこと、および手術後の細菌感染によるものである。この初期固定の問題に対処するため、過去に大きく注目されたのが骨セメントの塗布である。しかしながら、制御不能で時間のかかる硬化反応および埋め込み部位での骨細胞の壊死が問題になっている。これらの影響は、埋め込み物周辺のオッセオインテグレーション速度の低下、金属部分のずれ、そして究極的には歯科用埋め込みの失敗に繋がる。オッセオインテグレーションを向上させる必要がある一方で、接着特性を有し、歯科用埋め込み物周辺の骨の再生を促進することができる生体材料に対する需要がある。また、歯科用埋め込み物の外表面の軟組織の成長もまた、歯科用埋め込み物内層の細菌感染を回避するために重要である。また、従来の歯科用充填剤は軟組織の成長について全く、あるいはほとんど生物学的効果を及ぼさないことがわかっている。
【0008】
骨の破損が深刻で自然治癒できない場合、1つの選択肢としては、骨移植片を用いて再生を刺激することである。別の選択肢としては、骨細胞および内皮細胞の移行、増殖、および分化を促進する3D足場材料を用いることである。このような足場材料は、整形外科手術だけでなく顎顔面手術でも益々、重要になってきている。理想的な骨置換材料は、確実に欠損領域にぴたりと嵌まるように、その場で形成可能、成形可能または重合可能でなければならない。また、理想的な骨置換材料は、細胞接着性および成長を促進し、細胞分化を維持し、栄養素および老廃物を容易に拡散することができる多孔性基質を提供し、身体が通常の生理学的機構により代謝または排泄することができる生体適合性副生成物に制御されたやり方で分解され、骨の形成および血管新生を支援しなければならない。また、最少の線維性反応を示し、骨のリモデリングのための一時的な生体材料として作用しなければならない。また、これら材料が天然の骨に類似した機械特性を有することも重要である。例えば、ヒトの骨梁は、典型的には、5MPaの圧縮強度と50MPaの弾性率を有する。この材料は、新たに再生された組織が適切に荷重を支えられるまで、分解しながら機械特性を維持しなければならない。この材料が機械的に機能しなければ、患者の腕や脚に不具合が生じる場合がある。一方、この材料の強度が高すぎると、残った天然骨の応力遮蔽が生じて、骨侵食に至る場合がある。また、埋め込まれた重合体表面はすぐに生理学的環境に曝されることになる。生体内では、タンパク質が材料の表面を素早く覆って、表面を変性する傾向がある。現在のところ、これらの要件のいくつかまたはすべてを満たす、骨組織の再生に利用可能な有効な方法は、あったとしてもわずかしかない。
【0009】
過去100年以上に渡り、骨の成長を促進・刺激するため、また足場材料として、様々な材料が検討されてきた。例えば、1880年代には硫酸カルシウム(焼石膏)が用いられた。しかしながら、硫酸カルシウムは比較的低い生物活性と比較的大きい分解速度を示す(非特許文献1)。1950年代には、ヒドロキシアパタイトが用いられたが、比較的遅い分解速度と低い機械特性が問題となっている(非特許文献2)。1970年代では、Bioglass(登録商標)が開発された。しかしながら、この材料は、元々脆いために取り扱いが比較的困難である。また、曲げ強度が比較的低い(非特許文献3)。1990年代には、骨の成長を刺激するためにケイ酸カルシウムセラミックスが用いられ始めた。ケイ酸カルシウムセラミックスは、その分解生成物が炎症性反応を引き起こさないことから、可能性のある生物活性材料と見なされている。しかしながら、これらの材料は以下のような欠点があり、物理的および生物学的特性について妥協している。
a)求められる機械特性を開放気孔率と組み合わせることができないこと、
b)機械強度が低く、耐荷重性の用途には適していないこと、および
c)化学安定性が低く(分解速度が速く)、これによって周囲の環境が高アルカリ性状態になること(高アルカリ性状態は細胞生存率には好ましくなく、また材料の長期の生物学的用途を限定する)。
【0010】
他の最近のセラミックス(例えば、HAp、Bioverit(登録商標)、Ceraverit(登録商標))、およびその他のケイ酸カルシウムは、生体の骨に結合して、広い臨床用途に対応する、すなわち、生物活性が良好であることが分かっているが、これらの材料は比較的脆いため、大きな荷重がかかる領域(例えば、脚に見られる皮質骨など)には用いることができない。しかしながら、その高い圧縮強度は、踵骨骨折治療、骨粗鬆症性骨折の増大の治療、および特定の骨髄損傷の治療での使用の根拠となっている。整形外科的損傷の治療でのこれら充填剤の使用に幾分見込みのある転帰があるにもかかわらず、これらの用途は大きな技術的限定という問題があり、回復期間の長期化に繋がる場合がある。これらの問題としては以下のものが挙げられる。
(1)制御不能である(組織の境界で温度が80℃まで上昇する)ため、充填部位の壊死および周囲の組織への漏洩が起こる。また、硬化反応に長時間を要する(術後24時間に完了)。また、
(2)(術後12ヶ月後でも)生体吸収が不完全で、長期の臨床合併症に繋がることがある。
従って、これらの材料は好ましい生物活性を有するものの、埋め込み後の完全な生分解性を欠く。また、非常に脆く、破砕することが多く、その機械強度は妥協したものである。少なくともこれらの理由から、このような材料は、典型的にはその使用が金属の埋め込み物の被覆に限定されている。
【0011】
ヒドロゲルなどの合成足場材料では、基質の設計および化学組成のよりよい制御が得られる。しかしながら、合成分子からなるヒドロゲルの使用には多くの限界がある。1つ目は、ヒドロゲルは重合体で形成されているが、ヒドロゲルを形成することができるようになる前に最初に架橋しなければならない。架橋は、特に毒性成分によるヒドロゲルの汚染の尤度が高まる、そうでなければ、組織との生体適合性の尤度が低下する追加の製造工程である。2つ目は、合成ヒドロゲルは低い生物活性を有するので、生物学的要素との相互作用のための基質を提供することができるという点で限界がある。特に、ヒドロゲルは、典型的には、骨伝導特性の欠如という問題がある。
【0012】
骨の形状、強度、および復元性特性を有効に形成する改良されたヒドロゲルに対する要求がある。
【0013】
化学的架橋あるいはUV照射などによる架橋を用いずに形成することができ、周囲の骨組織を傷つけず、深部組織再生に適用することができる合成ヒドロゲルに対する要求がある。これは、UVを使用すると、ヒドロゲルを投与して、その後で架橋することができる深さが限定されるためである。
【0014】
また、成長因子、薬物などに結合し、基質としてその表面/中での細胞、特に骨芽細胞の成長に有用なヒドロゲルに対する要求がある。
【0015】
また、室温で注入可能であり、体温でヒドロゲルを形成する、骨を修復するための組成物に対する要求がある。
【0016】
また、注入可能で、骨形成性を有し、切開部位で弾性のある接着剤として作用し、かつ(a)欠損した骨の高速治癒率を促進し、(b)骨のずれる危険性を低下させる改良された生体材料に対する要求がある。
【0017】
本発明の好ましい目的は、上記の従来技術の欠点のうち、少なくとも1つを克服または改善すること、あるいは有益な代替え案を提供することである。
【0018】
具体例を参照して本発明を記載するが、当業者には当然ながら、本発明は多くの他の形態で具現化されてもよい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0020】
第1の側面によれば、骨を修復または再建するための重合体の使用が本明細書で提供される。上記重合体は、
*水を結合させるための第一の単量体、
*ヒドロゲルに機械特性を付与するための第二の単量体、および
*天然または合成タンパク質またはペプチド(NSPP)に結合するための第三の単量体
を含み、上記重合体は再生または修復されるべき骨に導入される。
【0021】
特定の実施形態では、上記重合体は、
*ヒドロゲルに相転移特性を付与して、室温での注入および体温でのゲルの形成を可能にする第四の単量体をさらに含む。
【0022】
当然ながら、上記単量体のそれぞれは意図した目的に合わせて選択または採用される。例えば、第一の単量体は、水と結合するように選択あるいは採用される。第二の単量体は、ヒドロゲルに機械特性を与えるために選択あるいは採用される。第三の単量体は、NSPPに結合するために選択または採用される。第四の単量体は、ヒドロゲルに相転移特性を与えるために選択または採用される。
【0023】
一実施形態では、第四の単量体は、約33℃未満の下限臨界溶液温度(LCST)を有する。例えば、LCSTは約33℃、約32℃、約31℃、または約30℃であってもよい。
【0024】
当業者には当然であるが、この温度応答性は第四の単量体に由来する。しかしながら、正確なLCST温度は、最終重合体内での親水性部位の疎水性部位に対する比率を含む複数の因子によって影響を受ける。例えば、疎水性単量体(例えば、疎水性の第二の単量体)の量が多ければ、LCST値は下がる可能性がある。疎水性/親水性比率が親水性特性に傾く重合体ではLCSTは上昇する。
【0025】
一実施形態では、重合体中の第一の単量体の割合は、約4〜15モル%の範囲である。例えば、第一の単量体は、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、または約15モル%の量で存在してもよい。
【0026】
一実施形態では、重合体中の第二の単量体の割合は、約2〜15モル%の範囲である。例えば、第二の単量体は、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、または約15モル%の量で存在してもよい。
【0027】
一実施形態では、重合体中の第三の単量体の割合は、約1〜20モル%の範囲である。例えば、第三の単量体は、約1、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、または約20モル%の量で存在してもよい。
【0028】
他の実施形態では、重合体中の第四の単量体の割合は、約60〜90モル%の範囲である。例えば、第四の単量体は、約60、約61、約62、約63、約64、約65、約66、約67、約68、約69、約70、約71、約72、約73、約74、約75、約76、約77、約78、約79、約80、約81、約82、約83、約84、約85、約86、約87、約88、約89、または約90モル%の量で存在してもよい。
【0029】
第2の側面によれば、骨を修復または再建するためのヒドロゲルを形成するための、組成物の使用が本明細書で提供される。上記組成物は、
*天然または合成タンパク質またはペプチド(NSPP)、および
*重合体
を含み、上記重合体は、
*水を結合させるための第一の単量体、および
*NSPPに結合可能な第二の単量体
を含む。上記NSPPの第二の単量体への結合により上記重合体が架橋され、これにより、上記組成物が水と接触するとヒドロゲルを形成することができる。上記組成物は、再生または修復されるべき骨に導入される。
【0030】
特定の実施形態では、上記重合体は、
*ヒドロゲルに機械特性を付与するための第三の単量体をさらに含む。
この第三の単量体により、重合体はヒドロゲルに追加の機械特性(例えば、強度および復元性)を与えることができる。
【0031】
さらなる実施形態では、上記重合体は、
*ヒドロゲルに相転移特性を付与し、室温での注入および体温でのゲルの形成を可能にする第四の単量体をさらに含む。
【0032】
第3の側面によれば、骨を修復または再建するためのヒドロゲルの使用が本明細書で提供される。上記ヒドロゲルは、
*水、
*天然または合成タンパク質またはペプチド(NSPP)、および
*重合体
を含み、上記重合体は、
*水を結合するための第一の単量体、および
*NSPPに結合可能な第二の単量体
を含む。上記NSPPの第二の単量体への結合により上記重合体が架橋され、これによりヒドロゲルを形成する。
【0033】
特定の実施形態では、上記重合体は、
*ヒドロゲルに機械特性を付与するための第三の単量体をさらに含む。
【0034】
上で開示されたように、この第三の単量体を組み込むと、上記重合体はヒドロゲルに追加の機械特性(例えば、強度および復元性)を与えることができる。
【0035】
さらなる実施形態では、上記重合体は、
*ヒドロゲルに相転移特性を与えて、室温での注入および体温でのゲルの形成を可能にする第四の単量体をさらに含む。
【0036】
第4の側面によれば、ヒドロゲルを形成するための重合体が本明細書で提供される。上記重合体は、
*水を結合させるための第一の単量体、
*上記ヒドロゲルに機械特性を付与するための第二の単量体、および
*天然または合成ペプチドまたはタンパク質(NSPP)に結合するための第三の単量体
を含み、上記重合体は骨の修復または再建に用いられる。
【0037】
第5の側面によれば、ヒドロゲルを形成するための組成物が本明細書で提供される。上記組成物は、
*天然または合成ペプチドまたはタンパク質(NSPP)、および
*重合体
を含み、上記重合体は、
*水を結合させるための第一の単量体、および
*上記NSPPに結合可能な第二の単量体
を含み、
*上記NSPPの第二の単量体への結合により上記重合体が架橋され、これにより上記組成物が水と接触すると上記ヒドロゲルを形成することができ、
*上記組成物は骨を修復または再建するために用いられる。
【0038】
第6の側面によれば、以下のヒドロゲルが本明細書で提供される。上記ヒドロゲルは、
*天然または合成ペプチドまたはタンパク質(NSPP)、および
*重合体
を含み、上記重合体は、
*水を結合させるための第一の単量体、および
*上記NSPPに結合可能な第二の単量体
を含み、
*水の存在下で上記NSPPの第二の単量体への結合により上記重合体が架橋され、
*上記ヒドロゲルは骨を修復または再建するために用いられる。
【0039】
第7の側面によれば、哺乳類の骨の欠損を治療する方法が本明細書で提供される。上記方法は、上記骨の欠損部位に治療有効量の重合体を導入または投与して、これにより上記骨を修復または再建する工程を含み、上記重合体は、
水を結合させるための第一の単量体、
上記ヒドロゲルに機械特性を付与するための第二の単量体、および
天然または合成ペプチドまたはタンパク質(NSPP)に結合するための第三の単量体を含む。
【0040】
第8の側面によれば、哺乳類の骨の欠損を治療する方法が本明細書で提供される。上記方法は、上記哺乳類の骨の欠損部位にヒドロゲルを形成する治療有効量の組成物を導入または投与し、これによって上記骨を修復または再建する工程を含む。上記組成物は、
*天然または合成ペプチドまたはタンパク質(NSPP)、および
*重合体
を含み、上記重合体は、
*水を結合させるための第一の単量体、および
*上記NSPPに結合可能な第二の単量体
を含み、上記NSPPの第二の単量体への結合により上記重合体が架橋され、これにより上記組成物が水と接触すると上記ヒドロゲルを形成することができる。
【0041】
第9の側面によれば、哺乳類の骨の欠損を治療する方法が本明細書で提供される。上記方法は、哺乳類の骨の欠損部位に治療有効量のヒドロゲルを導入または投与し、これにより上記骨を修復または再建する工程を含む。上記ヒドロゲルは、
*天然または合成ペプチドまたはタンパク質(NSPP)、および
*重合体
を含み、上記重合体は、
*水を結合させるための第一の単量体、および
*上記NSPPに結合可能な第二の単量体
を含み、水の存在下で上記NSPPの第二の単量体への結合により上記重合体を架橋する。
【0042】
当然ながら、骨を修復または再建する工程は、骨を再生および/または表面置換および/または安定化させる工程をさらに含んでいてもよい。さらに当然ながら、本明細書で開示される重合体、組成物、またはヒドロゲルは、標的の骨欠損または欠損部位の骨の修復、再建、再生、または表面置換を必要とする骨変性疾患の治療のための薬剤であってもよい。
【0043】
第10の側面によれば、キットが本明細書で提供される。上記キットは、
*重合体
を含み、上記重合体は、
*水を結合させるための第一の単量体、および
*天然または合成タンパク質またはペプチド(NSPP)に結合可能な第二の単量体を含む。
【0044】
第10の側面によるキットは任意でさらに、個別の容器に水を含んでいてもよい。
【0045】
第11の側面によれば、個別の容器に、
*NSPP、および
*重合体
を含むキットが本明細書で提供される。上記重合体は、
*水を結合させるための第一の単量体、および
*NSPPに結合可能な第二の単量体
を含み、NSPPの第二の単量体への結合により重合体が架橋され、これにより上記組成物が水と接触するとヒドロゲルを形成することができる。
【0046】
特定の実施形態では、上記重合体はさらに、
*ヒドロゲルに機械特性を与えるための第三の単量体を含む。
【0047】
この第三の単量体によって、重合体はヒドロゲルに追加の機械特性(例えば、強度および復元性)を与えることができる。さらなる実施形態では、上記重合体はさらに、
*ヒドロゲルに相転移特性を与えて、室温での注入および体温でのゲルの形成を可能にする第四の単量体をさらに含む。
【0048】
上記キットは、その成分を順番に、または同時に投与するための指示書を含むことが好ましい。
【0049】
第12の側面によれば、骨の欠損部位に、本明細書で開示される骨変性疾患の治療のための重合体、組成物、またはヒドロゲルを投与する工程を含む手術の方法が本明細書で提供される。
【0050】
本発明は、哺乳類の骨の欠損の治療に用いられる第10のまたは第11の側面のキットを提供する。
【0051】
定義
本発明の記載および権利の主張において、以下の専門用語は、以下に記述する定義に従って用いられる。また、当然ながら、本明細書で用いられる専門用語は、本発明の特定の実施形態を記述する目的のためのみに用いられ、限定する意図ではない。特に断りがなければ、本明細書で用いられるすべての技術用語および科学用語は、本発明に関する当業者に共通して理解されるのと同じ意味を有する。
【0052】
文脈から明らかに該当しない場合を除き、本明細書の記述および請求項を通して、用語「含む」、「含み」などは、排他的または包括的な意味の反対としての包含的な意味、すなわち、「含むが(それに)限定されない」の意味と解釈される。
【0053】
本明細書を通して、例えば、「1〜5」などの範囲または長さの限定を規定する表現は1〜5の任意の整数、すなわち1、2、3、4、および5を意味する。換言すれば、明記した2つの整数によって規定される任意の範囲は、上記限定を規定する任意の整数および上記範囲に含まれる任意の整数を含みかつ開示することが意図されている。
【0054】
用語「好ましい」および「好ましくは」は、特定の状況で特定の利点を提供する場合がある本発明の実施形態を言う。しかしながら、同じまたは他の状況で他の実施形態もまた好ましいことがある。さらに、1つ以上の好ましい実施形態の引用は、他の実施形態が有用ではないことを含意するものではなく、また、本発明の範囲から他の実施形態を排除することを意図しない。
【0055】
本明細書で用いられる用語「埋め込み物」は、例えば、外科的処置により動物にその全体または一部が設置される物品あるいは装置を言う。上記動物は、ヒト、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジなどであってもよい。
【0056】
本明細書で用いられる用語「天然または合成ペプチドまたはタンパク質」(すなわちNSPP)は、(他の様々な重要な機能を行うのに加えて)動物細胞を構造的に支持する動物組織の細胞外部分に天然に存在するタンパク質またはペプチドを言う。この用語はまた、天然発生タンパク質およびペプチドの機能に類似の機能を有する合成で調製されたタンパク質またはペプチドを言う。天然発生タンパク質およびペプチドの例としては、動物の結合組織を決定づける特徴である細胞外基質(すなわちECM)に共通してみられるものが挙げられる。ECMに共通に見られる天然発生タンパク質としては、コラーゲン、フィブリン、フィブロネクチン、およびラミニン(およびそのアイソフォーム)が挙げられる。好ましいNSPPは、コラーゲン、天然の骨形成タンパク質および合成の骨形成タンパク質、および合成ペプチドである。本発明で考慮するNSPPには、α−エラスチン、β−エラスチン、動物由来のエラスチン、または任意の形態のトロポエラスチンは含まれない。
【0057】
実行例以外で、特に断りがなければ、本明細書で用いられる成分または反応条件の量を表すすべての数字は、すべての例で用語「約」により修飾されていると解釈すべきである。これらの例は本発明の範囲を限定する意図ではない。以下、特に断りがなければ、「%」は「重量%」を、「比」は「重量比」を、「部」は「重量部」を意味する。
【0058】
本発明の広い範囲を規定する数値範囲およびパラメータは近似値であるにも関わらず、具体例に規定された数値は可能な限り正確に報告されている。しかしながら、いかなる値も、各試験測定で見られる標準偏差から必然的に生じる本質的に特定の誤差を含んでいる。
【0059】
以下で、本発明の好ましい実施形態は、添付の図面を参照して、例示としてのみ記載される。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下に、添付の実施例および図面を参照して本発明をより完全に記述する。しかしながら、当然ながら、以下の記述は、例示的なものにすぎず、上記の本発明の一般性を何ら制限するものと解釈するべきではない。
【0062】
以下で、本発明の特定の実施形態を詳細に参照する。本発明は、これらの実施形態と併せて記述されるが、本発明をこれらの実施形態に限定する意図ではないことが理解される。一方、本発明は、請求項によって規定される本発明の範囲内に含まれ得るすべての変更、修正、および均等物を含むことを意図する。
【0063】
当業者であれば、本発明の実践に用いることができるであろう、本明細書で記載されたものに類似または等価な多くの方法および材料を認識するであろう。本発明は、記述される方法および材料に何ら制限されない。
【0064】
当然ながら、本明細書で開示および規定される本発明は、文章または図面で述べられた個々の特徴あるいはそれらから明らかな個々の特徴のうち、2つ以上の組み合わせのすべての代替え案に及ぶ。これらの異なる組み合わせのすべては、本発明の様々な代替えの側面をなしている。
【0065】
本明細書で参照されるすべての特許および文献は、参照によりその全内容が本明細書に組み込まれる。
【0066】
本明細書で開示されるのは、骨修復に合わせた重合体の使用である。この重合体は、ヒドロゲルであることが好ましく、注入可能であることが好ましい。さらに、この重合体は、周囲の組織を破損しない穏やかな架橋反応により体温で熱硬化するという観点から、熱応答性であることが好ましい。この重合体は、骨細胞および内皮細胞の移行、増殖、および分化を促進する3D足場材料を提供することが好ましい。この重合体は、その構造内で骨芽細胞の成長の支持を介して欠損した骨の高速治癒率を促進し、骨形成性であり、骨のずれる危険性を低下させることが好ましい。この重合体は、機械的な強度と弾性を有することが好ましい。この重合体は、栄養素および老廃物を容易に拡散することができる多孔性基質を提供することが好ましい。この重合体は、身体が通常の生理学的機構を介して代謝または排泄することができる生体適合性副生成物に制御されたやり方で分解されることが好ましい。この重合体はまた、骨形成および血管新生を支持し、最少の線維性反応を示し、かつ骨のリモデリングのための一時的な生体材料として作用することが好ましい。この重合体は、天然の骨に類似した機械特性を有し、新たに再生された組織が適切に荷重を支えられるまで、分解しながら機械特性を維持することが好ましい。本発明は、骨修復における弾性重合体の使用を提供する。これは、固い材料を用いる従来のものに比べて利点がある。
【0067】
本来の機械強度が低く、骨伝導特性を欠くため、骨再生のための細胞に注入可能なヒドロゲルの完全な可能性は、未だ適切に追求されていない。本発明では、骨の再生のために調節可能な物理化学特性を有する、熱応答性で注入可能な特定の(共)重合体(ヒドロゲル)の使用を詳述する。本明細書で記述するこの共重合体は、様々な異なる天然または合成タンパク質またはペプチド(NSPP)に共有結合することができる。これらのNSPPは、コラーゲン、天然の骨形成タンパク質および合成の骨形成タンパク質、および天然または合成ペプチドからなる群より選択されてもよい。天然および合成タンパク質およびペプチドの組み合わせは本発明により熟考される。天然ペプチドとしては、例えば、コラーゲン単量体ペプチドおよびフィブリンが挙げられる。合成ペプチドの例としては、異なるArg−Gly−Asp−Ser(RGDS)、および合成の骨形成ペプチドが挙げられる。重合体−NSPP前駆体溶液は、注入可能であり、高い圧縮強度、組織接着特性、および骨伝導特性を示す。これらの特性により、これらの重合体−NSPP前駆体溶液を骨再生用途に用いることが可能になり、非侵襲性手術での接着材料として用いることができる。特に、本明細書で記載される重合体は、第一の治療方法として骨の間隙に充填され、骨の破損を無傷のまま固定して、切開手術が必要になるのを究極的に防止するのに用いることができる。
【0068】
好ましい最終生成物は、生体適合性等張緩衝液(PBS)に溶解して、直接骨の破損部位に注入することができる共重合体(PNPHO−NSPP)である。この生体材料は、
(i)骨表面に付着して粉砕骨折において骨を配列し、
(ii)破損部位の間隙に充填して骨形成を促進する
などの非侵襲性治療として整形外科手術に大きな変化をもたらす。
【0069】
本発明者らは、本明細書で開示されるヒドロゲル重合体が骨の修復に驚くべき程有用であることを見出した。当業者であれば、軟骨は基質の構造および組成の点で骨と非常に異なること、および、当該分野での方法は、一方の治療または修復に適しても他方に好適ではないことを理解している。重合体の設計において以下のことを確実にすることが鍵となっている。
(i)ヒドロゲルのすべての成分は、細胞または組織の機構に依存せず、外部供給源から送達されうる。
(ii)これらの成分、特にNSPPは、生体内で解離しないように結合される。
(iii)化学架橋およびUV架橋を必要としない。
(iv)ヒドロゲルは室温で注入可能である。かつ、
(v)ヒドロゲルは、骨細胞および骨組織に対して適合性を有する基質である。
【0070】
この重合体は、NSPPと結合して合成重合体になるための官能基を有する単量体を含むことが好ましい。これにより、NSPPは、組織工学、特に骨の修復および再生に用いることができるヒドロゲル足場材料を形成するための重合体を架橋することができる。好ましいヒドロゲルは、NSPP(例えば、コラーゲン)を、そのNSPPと結合することができる親水性重合体と合わせることで形成される。従って、これらの好ましいヒドロゲルは、重合体の架橋を達成するための追加の薬剤(例えば、架橋開始剤)または特殊な条件(例えば、UVおよび/またはIR放射線での重合体の照射)を何ら用いずに形成することができると同時に、このヒドロゲルを所望の部位に投与した際に、骨の修復および再生を補助する細胞および他のNSPP成分を封入するのに用いることができる足場材料を提供することができる。好ましいヒドロゲルはまた、その相転移特性のため、(例えば、注入によって)所望の部位に直接投与するのが容易であるというさらなる利点を有する。
【0071】
この好ましいヒドロゲルの有利な特性は、NSPPと重合体の特定の成分との組み合わせに起因し得る。特に、発明で用いられる好ましい重合体は、NSPPに結合してそのNSPPを含むヒドロゲルを形成することができるのに必要な水結合能および架橋能(結合能とも言う場合がある)を有する。実施形態によっては、さらに、これらの重合体は、一旦形成されたヒドロゲルの強度、形状、復元性、および相間移動特性に寄与する特定の成分を有する。NSPPは、置換および/または修復対象の骨組織の天然の環境をある程度模倣した環境を提供し、それに加えて、求められる強度および形状を本発明のヒドロゲルにもたらす。これは特に、骨の修復および置換などの用途に重要である。このような用途では、ヒドロゲルは、骨に通常かかる応力に耐える必要がある。
【0072】
本発明に有用な重合体は、これらの特性のいくつかを元々有する成分、あるいは一旦形成されるとヒドロゲルにそのような特性を与えることができる成分を合わせることで骨組織の修復のためのヒドロゲル、特に骨の修復および置換のためのヒドロゲルの使用に望ましい特性を有する重合体である。従って、好ましい重合体は、そのような重合体から形成されたヒドロゲルに所望の水結合、架橋、強度、復元性、および相間移動特性を与える能力に基づいて選択された特定の単位(例えば、単量体、マクロモノマーなど)をその構造内に含む。また、異なる単量体を異なる割合で選択的に重合体に組み込むことができるという意味において、これら重合体(従って、これら重合体から形成されたヒドロゲル)の特性は調節することができる。
【0073】
本明細書を通して、これらの好ましいヒドロゲルの有利な特性が記述される。特に実施例でそのような特性が示される。実施例では、本発明で用いられる好ましいヒドロゲルは、NSPPとの比較的単純な組み合わせを用いて比較的簡単なやり方で作製することができることが示される。また、このように形成されたヒドロゲルは、骨組織工学の用途で用いることができるように求められる強度、復元性、および形状という特性を有することが示される。
【0074】
また、重合体、組成物、ヒドロゲル(本明細書で規定されるような)の、皮質骨のマイクロドリルまたは振動鋸による骨内膜領域または骨切り部位への投与が本明細書で開示される。
【0075】
A.重合体
本明細書で用いられる用語「重合体」は、繰り返し構成単位(単量体)からなる大きな分子(巨大分子)を言う。これらの下位単位は、典型的には共有化学結合により結合される。重合体は、直鎖状または分岐状重合体であってもよい。本発明の重合体は、3種以上の異なる単量体を含む共重合体である。
【0076】
従って、一実施形態では、本明細書で用いられる好ましい重合体は、第一の水結合単量体、ヒドロゲルに機械特性を与える第二の単量体、およびNSPPと結合するための官能基を有する第三の単量体を含む。
【0077】
本明細書で用いられる用語「単量体」は、結合させて重合体を形成することができる構成単位を言うが、それ自体が重合体、あるいは単量体または重合体の誘導体であってもよい。後者の単量体はまた、本明細書では「マクロモノマー」とも言う。
【0078】
本明細書で、「マクロモノマー」は、その分子がそれぞれ、単量体分子として作用する1個の末端基を有する重合体またはオリゴマーである。その結果、各重合体またはオリゴマー分子により生成物である重合体の分子鎖にもたらされる単量体単位は1つのみである。
【0079】
A1.水結合単量体
上述のように、本明細書で用いられる好ましいヒドロゲルの有利な特性は、NSPPと好ましい重合体の特定の成分との組み合わせに起因し得る。これらの好ましい重合体の有利な特性の1つは、その水結合能である。ヒドロゲルに水が存在すると、損傷した組織の天然の環境に似た環境(組織の再生を補助する)と求められる圧縮耐性の両方がヒドロゲルにもたらされる。
【0080】
従って、本明細書で用いられる好ましい重合体は、水と結合して重合体がNSPPおよび水と接触した時にヒドロゲルを形成することができるような単量体または単位を含んでいなければならない。また、このように形成されたヒドロゲルは、求められる圧縮耐性および復元性を有していなければならない。これは骨の修復および再建に重要である。というのは、上述のように、骨には一般に大きな機械的応力が加わるからである。
【0081】
当業者であれば当然だが、水結合単量体は、本発明で用いられる好ましい重合体中にこれらの要件を満たす重合体を作るのに十分な割合で存在する必要がある。一般に、重合体中の水結合単量体の割合は、水結合単量体:機械強度単量体のモル比で、約10:1、約5:1、約4:1、約3:1、約2:1、約1:1、約1:2、約1:3、約1:4、または約1:5であってもよい。実際、これらの水結合単量体は、重合体を親水性にするだけなく、重合体により高い水結合能をもたらすのに必要である。従って、本発明で用いられる好ましい重合体は、約70%〜約500%、約80%〜約400%、約90%〜300%、または約100%〜200%の水結合能を有する。例えば、本明細書で用いられる好ましい重合体の水結合能は、約70%、約80%、約90%、約100%、約110%、約120%、約130%、約140%、約150%、約160%、約170%、約180%、約190%、約200%、約210%、約220%、約230%、約240%、約250%、約260%、約270%、約280%、約290%、約300%、約310%、約320%、約330%、約340%、約350%、約360%、約370%、約380%、約390%、約400%、約410%、約420%、約430%、約440%、約450%、約460%、約470%、約480%、約490%、または約500%である。
【0082】
水結合単量体の適切な例としては、ポリエーテル(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)などのアルカリ性ポリイミド、オリゴエチレングリコール(OEG)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレンオキシド−co−プロピレンオキシド(PPO)、co−ポリエチレンオキシドブロックまたはランダム共重合体)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアミノ酸、およびデキストランなどの重合体に合成することができる単量体が挙げられる。ポリエーテル、および特にオリゴオキシアルキレン(例えば、OEG)がとりわけ好ましい。というのは、これらは求められる水結合能を有し、合成および/または購入が簡単であるためである。また、これらの単量体が配置される組織の免疫応答が最少あるいはまったくないという意味でこれらの単量体は不活性であるためである。
【0083】
また、様々な親水性官能基のいずれかを用いて単量体(従ってこのような単量体から形成される重合体)を水溶性にしてもよい。例えば、水溶性官能基(例えば、リン酸、硫酸、第四級アミン、ヒドロキシル、アミン、スルホン酸、およびカルボン酸)を単量体に導入して、その単量体を水溶性にしてもよい。
【0084】
A2.機械特性の付与
上述したように、本発明で用いられる好ましいヒドロゲルの有利な特性は、一部、重合体を構成する特定の成分に起因し得る。実施形態によっては、本発明で用いられる好ましい重合体は、ヒドロゲルに追加の機械特性を与えることができる。これにより、その強度および復元性という理由から骨組織の修復および再建に用いることができるヒドロゲルが得られる。
【0085】
従って、本発明で用いられる好ましい重合体は、骨の修復および再建に要求される強度および復元性をもたらすことができる単量体または単位を含んでいてもよい。
【0086】
当業者には当然であるが、ヒドロゲルに機械特性を付与することができる単量体は、所望の機械特性を有するヒドロゲルを得るのに十分な割合で好ましい重合体中に存在する必要がある。一般に、重合体中の「機械的」単量体の割合は、水結合単量体:機械強度単量体のモル比で、約10:1、約5:1、約4:1、約3:1、約2:1、約1:1、約1:2、約1:3、約1:4、または約1:5であってもよい。ヒドロゲルに機械特性(例えば、圧縮耐性)を与える単量体の好適な例としては、メタクリレート(例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ヒドロキシエチルメタクリレート−ポリ乳酸共重合体(HEMA−PLA)、ポリエステル(例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコリド)およびそれらのランダム共重合体(例えば、ポリ(グリコリド−co−ラクチド)、およびポリ(グリコリド−co−カプロラクトン))が挙げられる。
【0087】
A3.NSPP結合
上述したように、本発明に用いられる好ましいヒドロゲルは、水の存在下で重合体をNSPPと合わせることによって形成される。重合体をNSPPと有効に合わせるために、重合体は、好ましくは架橋能を有する単量体または単位を含む。
【0088】
この架橋能は、重合体がNSPP(以下でさらに述べる)に結合することができること、それによってNSPPを架橋して、NSPPを含むヒドロゲルを形成することができることを意味する。あるいは、同様の機構により、NSPPは架橋剤として作用し、これによって重合体が架橋されてヒドロゲルを形成する。
【0089】
本発明者らは、コラーゲンなどと結合するための官能基を有する単量体を重合体に含めるという重合体の設計を利用することで、重合体は、ヒドロゲルを形成するのに、例えば、化学架橋またはUV架橋などでさらに架橋する必要がないことを認識した。
【0090】
また、NSPPを重合体に共有結合させることで、NSPPはヒドロゲルのネットワーク中により有効に保持される。これは、一旦ヒドロゲルを修復部位に投与すると、NSPPは修復部位から容易に移行することができないことを意味する。これは、(上述のように、NSPPの機械特性により)修復部位でのゲルの構造的な完全性が維持されて、骨組織の天然の環境に近くなるように模倣した環境が修復部位にもたらされるように促進することを意味する。
【0091】
NSPPに結合することができる重合体を得るために、当業者には当然であるが、NSPPに結合することができる単量体は、水の存在下でヒドロゲルを形成することができるようにNSPPと架橋するのに十分な割合で本発明の重合体中に存在する必要がある。一般に、重合体中の「架橋」単量体の割合は、架橋単量体:水結合単量体のモル比で少なくとも約1:1である。この比率は、例えば、約2:1、約3:1、約4:1、約5:1、約6:1、約7:1、約8:1、約9:1、または約10:1まで増やしてもよい。
【0092】
一般に、NSPPに結合することができる単量体は、例えば、NSPPの求核性官能基が単量体の求電子性官能基と反応して共有結合を形成することができるように、求電子性官能基または求核性官能基の何れかを有する。重合体は、2種以上のNSPP結合単量体を含むことが好ましい。これにより、求電子性−求核性反応の結果、重合体は、NSPPと結合して架橋された重合体産物を形成する。このような反応を「架橋反応」と言う。
【0093】
従って、例えば、NSPPがアミンなどの求核性官能基を有する場合、重合体はN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)などの求電子性官能基を有していてもよい。本発明で用いられるのに好適な他の求電子性官能基は、N−ヒドロキシスルホコハク酸イミド(SNHS)およびN−ヒドロキシエトキシ化コハク酸イミド(ENHS)である。この種の単量体の例としては、N−アクリロキシコハク酸イミド(NAS)が挙げられる。一方、NSPPが求電子性官能基を有する場合、重合体はアミンまたはチオールなどの求核性官能基を有していてもよい。
【0094】
A4.相転移単量体
他の実施形態では、好ましい重合体は、ヒドロゲルに相転移特性を付与することができる第四の単量体をさらに含んでいてもよく、これにより複合体は室温では注入可能な形態で、体温ではヒドロゲルの形態を取ることができる。さらに、これらの相転移特性により、本発明で用いられる好ましい重合体は、因子(例えば、pHおよび温度)を変えることで様々な特性(例えば、粘性)を変化させることができるヒドロゲルを形成することができる。熱応答性で注入可能なヒドロゲルは、下限臨界溶液温度(LCST)が体温より低くなるように設計されている。従って、ゲル化は、例えば、ヒドロゲルが自然に体温になるまで放置する(ヒドロゲルが身体内に投与されると起こる)など、単にヒドロゲルの温度を上げることで達成することができる。ポリエチレンオキシド/ポリプロピレンオキシドおよびポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)単独重合体および共重合体を含む様々な熱応答性で注入可能な重合体が本発明での使用に好適である。PNIPAAmは特に好適である。というのは、LCSTが32℃で、体温でゲルの形態になることができるからである。
【0095】
熱応答性重合体を得るために、当業者には当然であるが、相転移単量体は、ヒドロゲルを温度およびpHの異なる条件に曝すことで重合体を含むヒドロゲルの粘度を変化させることができるのに十分な割合で本発明で用いられる重合体中に存在しなければならい。一般に、重合体中の「相転移」単量体の割合は、相転移単量体:水結合単量体のモル比で少なくとも約9:1である。この比率は、例えば、相転移単量体:水結合単量体のモル比で約10:1、約11:1、約12:1、約13:1、約14:1、約15:1、約16:1、約17:1、約18:1、約19:1、約20:1、約21:1、約22:1、約23:1、約24:1、約25:1、約26:1、約27:1、約28:1、約29:1、または約30:1まで増やしてもよい。
【0096】
本発明で用いられる好ましいヒドロゲルの低温(例えば、4℃)での粘度は、ヒドロゲルが注入可能な程度である。その後、温度が上昇すると、ヒドロゲルの粘度は高くなり、約37℃の温度で所望の粘度を有するゲルを形成する。これは、本発明で用いられる好ましいヒドロゲルは、低い温度では、例えば注射により容易に修復部位に投与することができることを意味する。その後、ヒドロゲルは、体内で身体の自然温度まで温められることで、所望の強度および弾性特性を有する、より粘度の高いゲルに変換される。
【0097】
A5.他の重合体特性および重合体の合成
当業者には当然であるが、異なる種類の単量体を合わせることで、異なる範囲の特性を有する重合体を得ることができる。また、特定の単量体または官能基を既存の重合体に導入することで、重合体の特性を変化させることができる。例えば、HEMA単量体と他の単量体(例えば、メチルメタクリレート)の共重合を用いて、膨張特性および機械特性などの特性を変化させることができる。また、単量体を他の化合物と反応させて、本発明に用いられる好ましい重合体に含まれる(上述の)「マクロモノマー」を形成してもよい。例えば、HEMAをラクチドと反応させてHEMA−ポリ乳酸重合体(HEMA−PLA)を形成してもよい。HEMA−PLAそのものは、本発明の重合体の単量体として用いることができる。また、単量体自体は、単量体単位の組み合わせであってもよく、これらの組み合わせが重合体に組み込まれる。この種の単量体の例としては、オリゴ(エチレングリコール)モノメチルエーテルメタクリレート(OEGMA)が挙げられる。OEGMAは、2種の親水性単量体:エチレングリコールおよびメタクリレートからなる親水性単量体である。
【0098】
本発明で用いられる好ましい重合体は、1つ以上の部分構造および/または官能基でさらに修飾されていてもよい。必要に応じて如何なる部分構造または官能基を用いてもよい。実施形態によっては、重合体は、ポリエチレングリコール(PEG)、炭水化物、および/または多糖由来の非環式ポリアセタールで修飾されていてもよい。また、上述のように、親水性基を単量体(従って重合体)に組み込んで、重合体の水結合能を高めてもよい。
【0099】
配列については、共重合体はブロック共重合物、グラフト共重合体、ランダム共重合体、ブレンド、混合物、および/またはこれらおよび他の重合体の任意の付加物であってもよい。典型的には、本発明に従って用いられる重合体は有機重合体である。本発明で用いられる重合体は生体適合性であることが好ましい。実施形態によっては、重合体は生分解性である。他の実施形態では、重合体は生体適合性および生分解性の両方である。
【0100】
本発明に用いられる好ましい重合体はまた、その構造に他の単量体を含んでいてもよい。例えば、上記単量体は、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエステル、アクリル重合体、およびイオン性重合体などの重合体、またはこれらの単量体であってもよい。
【0101】
上記重合体が生分解性または吸収性であることが望ましい場合、生分解性結合を有する1種以上の単量体を用いてもよい。それに代えて、またはそれに加えて、単量体の反応生成物が生分解性結合になるように単量体を選択してもよい。それぞれの手法で、得られる生分解性重合体が所望の期間内に分解または吸収されるように、単量体および/または結合を選択してもよい。生理的条件で上記重合体が分解する際に得られる生成物が非毒性であるように、上記単量体および/または結合を選択することが好ましい。
【0102】
生分解性結合は、化学的に、あるいは酵素により加水分解可能または吸収可能であってもよい。化学的加水分解性の生分解性結合の例としては、グリコリド、ラクチド、カプロラクトン、ジオキサノン、およびカルボン酸トリメチレンの重合体、共重合体、およびオリゴマーが挙げられる。酵素加水分解性の生分解性結合の例としては、メタロプロテイナーゼおよびコラゲナーゼにより開裂可能なペプチド結合が挙げられる。さらなる生分解性結合の例としては、ポリヒドロキシル酸、ポリオルトカーボネート、ポリ無水物、ポリラクトン、ポリアミノ酸、ポリカーボネート、およびポリホスホネートの重合体および共重合体が挙げられる。
【0103】
一実施形態では、本発明で用いられる好ましい重合体は、式(I)の重合体である。
【0105】
式中、Aは水結合単量体であり、Bはヒドロゲルに機械特性を付与することができる単量体であり、CはNSPPと結合するための官能基を有する単量体であり、mは1〜20の整数であり、nは1〜20の整数であり、pは1〜20の整数である。
【0106】
従って、本発明で用いられる好ましい重合体は式(Ia)の重合体であってもよい。
【0108】
式中、Aは水結合単量体OEGMAであり、Bは強化単量体HEMA−PLAであり、Cは架橋剤NASであり、m、n、およびpは上記で定義した通りであり、xは1〜1000の整数であり、yは1〜1000の整数である。
【0109】
本発明で用いられる好ましい重合体がヒドロゲルに相転移特性を付与することができる第四の単量体を含む場合、この重合体は式(II)の重合体であってもよい。
【0111】
式中、A、B、C、m、n、およびpは上で定義した通りであり、Dはヒドロゲルに相転移特性を付与することができる単量体であり、qは1〜10の整数である。そのような重合体の一例は、式(IIa)の重合体である。
【0113】
式中、Aは水結合単量体OEGMA、Bは強化単量体HEMA−PLAであり、Cは架橋剤NASであり、Dは相転移単量体NIPAAmであり、m、n、p、q、x、およびyは上で定義した通りである。
【0114】
また、いくつかの単量体(例えば、HEMA−PLA)、ポリエステル(例えば、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコリド)、およびそれらのランダム共重合体(例えば、ポリ(グリコリド−co−ラクチド)およびポリ(グリコリド−co−カプロラクトン))、およびその他の生分解性および生体適合性重合体は、生体内での生分解性セグメント(例えば、PLA)の分解中に本発明で用いられる好ましい重合体のLCSTを上昇させることができ、上記重合体の生体吸収に繋がることが発見された。これにより、本発明で用いられる重合体が生体内で生分解性であるように設計されうるさらなる利点がもたらされる。
【0115】
当業者は、求められる水結合能、強化能および/または架橋能が達成される条件で、単量体A、B、C、およびDは任意の順序で重合体に存在してもよいことを知っているであろう。
【0116】
本発明で用いられる好ましい重合体全体の大きさは、例えば、重合体に組み込まれる単量体の種類、ヒドロゲルを形成するのに用いられるNSPPの種類、およびタンパク質を重合体に結合させる条件などの因子によって異なってもよい。しかしながら、一般に、本発明で用いられる好ましい重合体は約1〜約100kDa、約5〜約60kDa、または約30kDaの分子であってもよい。
【0117】
当業者であれば、本発明で用いられる好ましい重合体を合成する好適な方法について知っている。これらの例としては、開環重合、付加重合(遊離ラジカル重合を含む)、および縮合重合などの方法が挙げられる。
【0118】
骨の再生に用いるための好ましい重合体は、式(IIa)の重合体である。
【0120】
式IIに基づいて、
Aはオリゴ(エチレン)グリコールモノメチルエーテルメタクリレート(OEGMA)であり、
Bはヒドロキシエチルメタクリレート−ポリ乳酸(HEMA−PLA)であり、
CはN−アクリロキシコハク酸イミド(NAS)であり、
DはN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)である。
また、xは1〜1000の範囲内であり、yは1〜1000の範囲内であり、m、n、p、およびqは1〜20の範囲内である。一実施形態では、Aの量は約2〜8モル%であり、Bの量は約8〜10モル%であり、Cの量は約14モル%であり、Dの量は約73モル%であることが好ましい。他の実施形態では、Aは4〜15モル%の間の量、例えば、5、6、7、8、9、10、11、12、13、または14モル%で含まれる。Bは4〜15モル%の間の量、例えば、5、6、7、8、9、10、11、12、13、または14モル%で含まれることが好ましい。Cは1〜20モル%の量、例えば、2、3、4、5、6、5 7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、または19モル%で含まれることが好ましい。Dは、100%になるよう重合体の組成の残部を構成する量、例えば、約60〜90モル%、例えば、65、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、または89モル%で含まれることが好ましい。本明細書で引用した割合は、最終重合体の組成に関するものであり、重合体を形成する際に利用する供給量ではない。
【0121】
他の実施形態では、Aの量は約2〜8モル%(例えば、約2、3、4、5、6、または7モル%であり、Bの量は約5〜10モル%(例えば、約5、6、7、8、9、または10モル%)であり、Cの量は約14モル%であり、Dの量は約79モル%である。
【0122】
B.ハイドロゲルを形成するための組成物
本発明はまた、本発明に用いるヒドロゲルを形成するのに有用な好ましい組成物に関する。この組成物は、NSPPおよび重合体を含み、上記重合体は、
*第一の水結合単量体、および
*NSPPに結合する官能基を有する第二の単量体
を含み、NSPPの第二の単量体への結合により重合体が架橋され、これにより上記組成物が水と接触するとヒドロゲルを形成することができる。
【0123】
本明細書で用いられる用語「組成物」は、上記の成分を含む固体または液体組成物を言う。実施形態によっては、本発明で用いられる好ましい組成物はまた、医薬的に許容される賦形剤および生物活性剤(例えば、薬物、ビタミン、および鉱物)など、標的骨組織の修復および/または再生を補助し、かつ/または生物活性化合物の標的への送達を達成するための方法を提供する他の成分を含む。
【0124】
一般に、本発明で用いられる組成物中の重合体の量は、ヒドロゲルの形成を可能にする量である。実施形態によっては、組成物中の重合体の量は、約1%(w/w)〜約90%(w/w)、約2%(w/w)〜約80%(w/w)、約4%(w/w)〜約70%(w/w)、約5%(w/w)〜約60%(w/w)、約5%(w/w)〜約50%(w/w)、約6%(w/w)〜約40%(w/w)、約7%(w/w)〜約30%20(w/w)、または約8%(w/w)〜約20%(w/w)の範囲内である。実施形態によっては、重合体の量は、約1%(w/w)、約2%(w/w)、約3%(w/w)、約4%(w/w)、約5%(w/w)、約6%(w/w)、約7%(w/w)、約8%(w/w)、約9%(w/w)、約10%(w/w)、約15%(w/w)、約20%(w/w)、約25%(w/w)、約30%(w/w)、約35%(w/w)、約40%(w/w)、約45%(w/w)、約50%(w/w)、約55%(w/w)、約60%(w/w)、約65%(w/w)、約70%(w/w)、約75%(w/w)、約80%(w/w)またはそれ以上である。実施形態によっては、重合体の量は約85%(w/w)である。概して、組成物中の重合体濃度が高くなるにつれてヒドロゲルの硬さも増す。
【0125】
B1.賦形剤および生物活性剤
本発明に用いられる好ましい組成物および/またはヒドロゲルは医薬的に許容される賦形剤を含んでいてもよい。これらの賦形剤としては、所望の特定の投与形態に合わせたありとあらゆる溶媒、分散媒、不活性希釈剤、またはその他の液体ビヒクル、分散または懸濁助剤、造粒剤、表面活性剤、崩壊剤、等張剤、増粘剤または乳化剤、保存料、結着剤、潤滑剤、緩衝剤、油、などが挙げられる。Remington(Gennaro、A.R.、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、21st Ed (2006) Lippincott Williams&Wilkins)には、医薬品組成物の処方に用いられる様々な賦形剤、およびそれらを調製するための既知の技術が開示されている。何らかの望ましくない生物学的効果が生じる、あるいは医薬品組成物の何れか他の成分と有害な形で相互作用するなど、従来の任意の賦形剤がある物質またはその誘導体と相容れない場合を除いて、これらの賦形剤の使用は本発明の範囲内であると想定される。
【0126】
処方者の判断に従って、着色剤、被覆材、甘味料、風味料、および香料などの賦形剤が組成物に存在していてもよい。
【0127】
本発明で用いられる好ましい組成物および/またはヒドロゲルに添加してもよい生物活性剤または薬物化合物としては、タンパク質、グリコサミノグリカン、炭水化物、核酸、並びに無機および有機生物活性化合物(例えば、酵素、抗生物質、抗腫瘍剤、局所麻酔薬、ホルモン、血管形成剤、血管新生阻害剤、成長因子(例えば、インスリン様成長因子−1(IGF−1)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、および形質転換成長因子−b(TGFb))、抗体、神経伝達物質、向精神薬、抗がん剤、化学療法薬、生殖器に影響を及ぼす薬物、遺伝子、およびオリゴヌクレオチド))が挙げられる。
【0128】
賦形剤および/または生物活性剤などの成分を含む組成物は、本明細書で開示される好ましい重合体をNSPPと混合し、得られた組成物を乾燥させ、これに1種以上の他の成分を混合して調製してもよい。得られた組成物は、粉末またはその他の粒子形態であってもよく、本発明に従って、これに水を加えてヒドロゲルを形成する。従って、これらの成分を含むヒドロゲルは、単に所望の水性溶媒をこの組成物に加えることで調製することができる。
【0129】
本発明で用いられる好ましい組成物中に存在する重合体、NSPP、および生物活性剤の量は、特定の薬物および治療する症状に必然的に依存する。当業者であれば、症状を治療するのに用いる適切な薬剤および量を知っているであろう。
B2.天然または合成ペプチドまたはタンパク質(NSPP)
【0130】
本発明の文脈において、NSPPは重要である。というのは、上述のように、NSPPは重合体を架橋し、これによって重合体はヒドロゲルを形成することができるからである。本発明で用いられる好ましいヒドロゲルを、例えば、コラーゲンを式(I)の重合体に曝すことで形成してもよい。NSPPはまた、以下の理由からも重要である。NSPPは、ヒドロゲルに追加の機械特性(例えば、強度および復元性)を与え、天然の環境を模倣した環境を修復部位にもたらし、これによって骨組織の修復および再生を補助する。
【0131】
一実施形態では、NSPPは、異なるアイソフォームの範囲(例えば、コラーゲン1型、2型、3型、4型)あるいは異なるタンパク質またはペプチドの範囲の組み合わせであってもよい。Arg−Gly−Asp−Ser(RGDS)、合成骨形成ペプチド、サイモシンβ−4、成長ホルモンセグメント、骨形成成長因子、およびインスリン成長因子およびインスリン成長因子のスプライス変異体(例えば、メカノ成長因子)から他の合成ペプチドを選択することもできる。
【0132】
NSPPは、側鎖または他の官能基を含むことが重要である。NSPP−結合単量体の官能基と反応することができるように側鎖または他の官能基を露出し、これによってNSPP−結合単量体を介してNSPPを重合体に結合させる。好適な側鎖としては、例えばグルタミン酸側鎖またはリシル側鎖が挙げられる。
【0133】
本発明はまた、NSPPの変異体(例えば、種の変異体または多型変異体)の使用を想定している。本発明は、同じ活性を示すNSPPの機能活性変異体をすべて含めることを意図している。本発明はまた、NSPPのアポ形態およびハロ形態、翻訳後修飾形態、グリコシル化または脱グリコシル化誘導体を含む。このような機能活性断片および変異体としては、例えば、保存的アミノ酸置換を有するものが挙げられる。
【0134】
一般に、本発明の組成物中のNSPPの量は、ヒドロゲルの形成が可能である量である。実施形態によっては、組成物のNSPPの量は、約0.01%(w/w)〜約60%(w/w)、約1%(w/w)〜約50%(w/w)、約1%(w/w)〜約40%(w/w)、約5%(w/w)〜約30%(w/w)、約5%(w/w)〜約20%(w/w)、または約5%(w/w)、または約10%(w/w)の範囲である。実施形態によっては、NSPPの割合は約1%(w/w)、約2%(w/w)、約3%(w/w)、約4%(w/w)、約5%(w/w)、約6%(w/w)、約7%(w/w)、約8%(w/w)、約9%(w/w)、約10%(w/w)、約20%(w/w)、約30%(w/w)、約40%(w/w)、約50%(w/w)、またはそれ以上である。
【0135】
本発明に用いられるNSPPは、天然源から抽出または合成することもできるが、組み換え源から得ることが好ましい。
【0136】
C.ハイドロゲル
本発明はまた、水、NSPP、および重合体を含むヒドロゲルの使用に関し、上記重合体は、
*第一の水結合単量体、および
*NSPPに結合可能な第二の単量体
を含み、NNSPPの第二の単量体への結合により上記重合体が架橋され、これによって含まれている水でヒドロゲルを形成する。
【0137】
一実施形態では、ヒドロゲルは、低温での液状から体温でのゲル状へのヒドロゲルの相転移を可能にするための上記の単量体を有する重合体を含む。この目的に有用な単量体の一例は、NIPAAmである。特に驚くべき発見としては、この単量体を用いることで、コラーゲンなど、別の不溶性の分子を温度分布によって液状からゲル状に変化させることができることである。従って、その利点として、本発明に用いられる好ましいヒドロゲルは、低い温度で、例えば、注入などにより容易に投与することができる。次いで、ヒドロゲルは、より粘度のあるゲルに変換される。このゲルは所望の強度および弾性特性を有する。そして、体内で自然の体温まで温められる。
【0138】
上述の重合体組成物を備えることで、当業者に既知の何れかのやり方で組成物に水を加えてヒドロゲルを形成してもよい。実際、本発明の1つの利点として、ヒドロゲルを形成するために、NSPPと接触させる前に上記の重合体を何らかのやり方で架橋する必要がない。
【0139】
C1.細胞
本発明で用いられる好ましいヒドロゲルはまた、標的骨組織の修復および/または再生を補助する細胞を含んでいてもよい。
【0140】
一般に、本発明に従って用いられる細胞は、任意の種類の細胞である。これらの細胞は、本発明で用いられる好ましいヒドロゲル内に封入された際に生存能力があるものでなければならない。実施形態によっては、ヒドロゲル内に封入することができる細胞としては、哺乳類細胞(例えば、ヒト細胞、霊長類細胞、哺乳類細胞、齧歯類細胞など)、鳥類細胞、魚類細胞、昆虫細胞、植物細胞、菌類細胞、細菌細胞、およびハイブリッド細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。実施形態によっては、ヒドロゲル内に封入することができる細胞の例としては、幹細胞、全能細胞、多能性細胞、および/または胚性幹細胞が挙げられる。実施形態によっては、ヒドロゲル内に封入することができる細胞の例としては、一次細胞および/または任意の組織由来の細胞株が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、心筋細胞、筋細胞、肝細胞、ケラチン生成細胞、メラニン細胞、神経細胞、星状膠細胞、胚性幹細胞、成体幹細胞、造血幹細胞、造血細胞(例えば、単球、好中球、マクロファージなど)、エナメル芽細胞、線維芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、神経細胞、精子細胞、卵細胞、肝臓細胞、肺由来の上皮細胞、胃腸由来の上皮細胞、腸由来の上皮細胞、肝臓細胞、皮膚由来の上皮細胞および/またはこれらのハイブリッドは、本発明に従って用いられる好ましいヒドロゲル内に封入されてもよい。
【0141】
本発明に従って用いられる好ましいヒドロゲル内に封入することができる哺乳類細胞の例としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒーラ細胞、メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MOCK)細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK細胞)、NSO細胞、MCF−7細胞、MDA−MB−438細胞、U87細胞、A172細胞、HL60細胞、A549細胞、SP10細胞、DOX細胞、DG44細胞、HEK293細胞、SHSY5Y、ジャーカット細胞、BCP−1細胞、COS細胞、ベロ細胞、GH3細胞、9L細胞、3T3細胞、MC3T3細胞、C3H−10T1/2細胞、NIH−3T3細胞、およびC6/36細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0142】
実施形態によっては、細胞はヒドロゲル全体に均一に分布されていることが望ましい。均一に分布すると、より均一な組織様ヒドロゲルの供給を助け、封入された細胞により均一な環境を提供する。実施形態によっては、細胞は、ヒドロゲルの表面に配置される。実施形態によっては、細胞は、ヒドロゲルの内部に配置される。実施形態によっては、細胞は、ヒドロゲル内で層になっている。実施形態によっては、ヒドロゲルは、異なる種類の細胞を含む。
【0143】
実施形態によっては、細胞生存率を最大にするため、細胞をヒドロゲル内に封入する条件は変わる。実施形態によっては、例えば、重合体濃度が下がるに従って細胞生存率は上昇する。実施形態によっては、ヒドロゲルの周囲に配置された細胞は、ヒドロゲル内に完全に封入された細胞に対して生存率が下がる傾向がある。実施形態によっては、細胞生存率を最大にするため、周囲の環境条件(例えば、pH、イオン強度、養分利用性、温度、酸素利用性、浸透圧モル濃度など)を調節および/または変化させる必要がある場合がある。
【0144】
実施形態によっては、細胞生存率は、多くの細胞生存率の指標の1つを監視することで測定することができる。実施形態によっては、細胞生存率の指標としては、細胞内エストラーゼ活性、細胞膜完全性、代謝活性、遺伝子の発現、およびタンパク質の発現が挙げられるが、これらに限定されない。一例に過ぎないが、細胞が蛍光性エストラーゼ基質(例えば、カルセインAM)に曝されると、生きた細胞は、細胞内エストラーゼ活性によりエストラーゼ基質が緑色の蛍光生成物に加水分解された結果、緑色の蛍光を発する。別の例では、細胞が蛍光核酸染料(例えば、エチジウムホモ二量体−1)に曝されると、死んだ細胞は赤色の蛍光を発する。というのは、それらの細胞膜は侵入しやすく、従って、親和性の高い核酸染料に対して透過性であるためである。
【0145】
一般に、組成物中の細胞の量は、本発明に従って用いられる好ましいヒドロゲルを形成することができる量である。実施形態によっては、ヒドロゲルを形成するのに好適な細胞の量は、約0.1%(w/w)〜約80%(w/w)、約1.0%(w/w)〜約50%(w/w)、約1.0%(w/w)〜約40%(w/w)、約1.0%(w/w)〜約30%(w/w)、約1.0%(w/w)〜約20%(w/w)、約1.0%(w/w)〜約10%(w/w)、約5.0%(w/w)〜約20%(w/w)、または約5.0%(w/w)〜約10%(w/w)の範囲である。実施形態によっては、ヒドロゲルを形成するのに好適な組成物中の細胞の量は、約5%(w/w)である。実施形態によっては、ヒドロゲルを形成するのに好適な、前駆体溶液中の細胞濃度は、約10〜約1×10
8細胞/mL、約100〜約1×10
7細胞/mL、約1×10
3〜約1×10
6細胞/mL、または約1×10
4〜約1×10
5細胞/mLの範囲である。実施形態によっては、単一のヒドロゲルは、同一の細胞および/または細胞種の集団を含む。実施形態によっては、単一のヒドロゲルは、同一ではない細胞および/または細胞種の集団を含む。実施形態によっては、単一のヒドロゲルは、少なくとも2種の異なる細胞種を含んでいてもよい。
【0146】
実施形態によっては、単一のヒドロゲルは、3種、4種、5種、10種、またはそれ以上の種類の細胞を含んでいてもよい。一例に過ぎないが、実施形態によっては、単一のヒドロゲルは胚性幹細胞のみを含んでいてもよい。実施形態によっては、単一のヒドロゲルは、胚性幹細胞および造血幹細胞の両方を含んでいてもよい。
【0147】
C2.培地
1種以上の細胞種または細胞株の成長を補助することができる様々な細胞培地(複合培地および/または血清を含まない培地を含む)の何れかを用いて細胞を成長および/または維持してもよい。典型的には、細胞培地は、緩衝剤、塩、エネルギー源、アミノ酸(例えば、天然アミノ酸、非天然のアミノ酸など)、ビタミン、および/または微量の元素を含む。細胞培地は、任意で様々な他の成分を含んでいてもよい。これらの成分としては、炭素源(例えば、天然の糖、非天然の糖など)、補因子、脂質、糖、ヌクレオシド、動物由来成分、加水分解物、ホルモン、成長因子、界面活性剤、指示薬、鉱物、特定の酵素の活性化因子、特定の酵素の活性化因子阻害剤、酵素、有機物、および/または小分子代謝物質などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0148】
本発明に従って用いられる好適な細胞培地は、様々な供給源、例えば、ATCC(バージニア州マナッサス)などから市販されている。特定の実施形態では、細胞の成長に以下の培地の1種以上が用いられる:RPMI−1640培地、ダルベッコ改変イーグル培地、イーグル最小必須培地、F−12K培地、イスコフ改変ダルベッコ培地。
【0149】
当業者は、本明細書で挙げられた細胞は、本発明に従う、前駆体溶液(従って、究極的にはヒドロゲル)内に封入される、例示的で、非包括的な細胞のリストを表していることを認識するであろう。
【0150】
D.骨の治療
疾患、障害、および/または症状の診断の前に、診断と同時に、および/または診断後に、本発明に用いられる好ましいヒドロゲルを治療有効量で患者および/または生物に送達してもよい。実施形態によっては、疾患、障害、および/または症状の兆候の発生前、発生と同時、および/または発生後に治療有効量のヒドロゲルを患者および/または生物に送達する。本明細書では、上記患者はヒトであってもよい。あるいは、上記患者は非ヒト動物であってもよい。
【0151】
従って、一実施形態では、骨組織を修復する方法が本明細書で開示される。上記方法は、本明細書で規定した治療有効量のヒドロゲルの投与を含む。
【0152】
また、本明細書で規定された治療有効量での骨組織を修復するためのヒドロゲルの使用が本明細書で開示される。
【0153】
また、本明細書に記載された実施形態の何れかにおいて、本明細書で規定されたヒドロゲルの骨組織修復での使用が本明細書で開示される。
【0154】
また、本明細書で規定された治療有効量のヒドロゲルの、骨組織を修復するための薬剤の製造での使用が本明細書で開示される。
【0155】
また、骨組織を修復する方法で用いられる際の本明細書で規定されたヒドロゲルが本明細書で開示される。
【0156】
また、骨組織の修復に使用するための薬効成分を有する組成物が本明細書で開示される。上記薬効成分は本明細書で規定されたヒドロゲルである。
【0157】
また、上記のような、本明細書で規定されたヒドロゲルの骨組織の修復での使用が本明細書で開示される。
【0158】
さらに、本明細書で規定された好ましいヒドロゲルの所望の部位への投与が本明細書で開示される。
【0159】
本明細書で用いられる用語「治療有効量」は、病気、障害、および/または症状の1つ以上の兆候または特徴の治療、軽減、改善、緩和、発症の遅延、進行の阻害、重症度および/または発生率の低下を達成するのに十分な、本発明に用いられる好ましいヒドロゲルの量を指す。特に、「治療有効量」は、骨組織の修復に十分な量である。用語「修復」は、好ましくは損傷した骨組織の本来の機能が回復するような損傷骨組織の置換または再建を指す。当業者には当然であるが、再建は、本来の機能の100%が回復した完全なものであってもよく、あるいは、本来の機能の一部が回復した部分的なものであってもよく、また本来の組織と比較して向上していてもよい。
【0160】
本発明に用いられる好ましいヒドロゲルは、治療に有効な任意の量および投与経路を用いて投与されてもよい。必要とする正確な量は、種、年齢、対象者の一般的な状態、感染の重症度、特定のヒドロゲル、その投与法、その活性モードなどにより対象者ごとに異なってもよい。
【0161】
本発明に用いられる好ましいヒドロゲルは、典型的には、投与の容易さと投与量の均一性から投与単位形態で処方される。しかしながら、当然ながら、ヒドロゲルおよび/またはヒドロゲル集合体の1日の総使用量は、適切な医療判断の範囲内で主治医により決定される。
【0162】
任意の特定の対象者または生物に対する特定の治療有効投与量は、様々な因子に依存する。そのような因子としては、例えば、治療対象の障害およびその重症度、用いられる特定の薬効成分の活性、用いられる特定の重合体および/または細胞、年齢、体重、全体的な健康、対象者の性別および食事、投与時間、投与経路、用いられる特定の薬効成分の排出率、治療期間、用いられる特定の薬効成分と組み合わせてあるいは同時に用いられる薬物、および医療分野でよく知られた因子などが挙げられる。
【0163】
本発明に用いられる好ましいヒドロゲルは、任意の経路で投与してもよい。実施形態によっては、ヒドロゲルは、様々な経路(患部への直接投与を含む)で投与される。例えば、ヒドロゲルは、骨組織の再生を必要とする部位付近に局所的に投与してもよい。局所投与は、骨組織の再成長および/または修復を必要とする部位に冷却したヒドロゲルを直接注入して達成されてもよい。
【0164】
特定の実施形態では、所望の治療効果を得るため、送達対象である封入された細胞および/または治療薬が、1日当たり、対象者の体重に対して約0.001mg/kg〜約100mg/kg、約0.01mg/kg〜約50mg/kg、約0.1mg/kg〜約40mg/kg、約0.5mg/kg〜約30mg/kg、約0.01mg/kg〜約10mg/kg、約0.1mg/kg〜約10mg/kg、または約1mg/kg〜約25mg/kgの範囲の濃度で放出されるように、1日1回以上、本発明に用いられる好ましいヒドロゲルを投与してもよい。例えば、1日3回、1日2回、1日3回、1日おき、3日に1回、毎週、2週間に1回、3週間に1回、または4週間に1回、所望の投与量を送達してもよい。特定の実施形態では、複数投与(例えば、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回、12回、13回、14回、またはそれ以上の投与回数)を用いて所望の投与量を送達してもよい。
【0165】
実施形態によっては、本発明は、本発明に用いられる好ましいヒドロゲルを含む「治療カクテル」を包含する。実施形態によっては、ヒドロゲルは、単一の細胞種、および任意で治療薬を含む。実施形態によっては、ヒドロゲルは、複数の異なる細胞種、および任意で治療薬を含む。
【0166】
当然ながら、細胞を搭載したヒドロゲルを組み合わせ療法で用いてもよい。組み合わせ投薬計画に用いられる特定の治療法(治療法または手当)の組み合わせでは、所望の治療法および/または手当の両立性、並びに達成しようとする所望の治療効果を考慮する。当然ながら、用いられる治療法は、同じ目的のために所望の効果を達成してもよく(例えば、骨組織成長の促進のために用いられる特定の細胞種を含むヒドロゲルは、同じ組織の成長を刺激するのに用いられる他の治療薬と同時に投与されてもよい)、あるいは異なる効果(例えば、炎症、感染などの任意の有害効果の制御など)を達成してもよい。
【0167】
驚くべきことに、本明細書で記載する重合体およびヒドロゲルは、これらの骨伝導特性および骨誘導特性によって示されるように骨との生体適合性を有することが発見された。上記重合体は、特に骨の再生に適している。一実施形態では、この重合体は、例えば、整形外科出術および顎顔面手術で骨細胞および内皮細胞の移行、増殖、および分化を促進する3D足場材料の開発に有用であり、しかも荷重がかかる部分に十分な機械特性を提供する。この重合体は、骨組織の再生/形成および血管新生を支援し、また線維性反応を最少にする。1つの形態では、本発明は、骨軟骨欠損のための足場材料を提供する。本発明の材料はまた、骨格組織再生用の被膜としても有用である。本発明はまた、再建および修復目的に加えて化粧目的でも用いられる。本発明は、顎顔面の再建用途および歯科用途に特定の適用可能性がある。
【0168】
本発明の材料は、生理液中に配置された時に生体適合性であることが好ましい。本発明の生体適合性材料は、体液に曝されるとヒドロキシアパタイト層を形成することが好ましい。当業者には当然であるが、ヒドロキシアパタイトの形成は、身体がその材料を独自のもの(sui generis)として受け入れた強い証拠として広く認識されており、生体の骨と化学的に結合する埋め込み物の要件である。
【0169】
本明細書で記載する重合体は、埋め込み可能な3D足場材料、再建手術のための整形外科用埋め込み物、歯科用埋め込み物/補綴、脊椎埋め込み物、頭顔再建および歯茎拡大のための埋め込み物、骨軟骨欠損用の埋め込み物、骨軟骨欠損用の足場材料、血管新生および骨組織の内方成長を促進する骨組織再生および顎顔面再建のための足場材料からなる群より選択される医療用具として特に有用である。しかしながら、当然ながら、本発明の範囲内にある多くの他の装置がある。
【0170】
本発明の好ましい重合体は、比較的高い機械強度、高い構造的安定性、疲労耐性、耐腐食性、および生体適合性を含む、埋め込み物として用いるのに好適な多くの特性を有する。これらの埋め込み物は動物に埋め込まれてもよい。動物の非限定的な例としては、爬虫類、鳥類、および哺乳類が挙げられ、特に好ましいのはヒトである。重合体の圧縮強度は約2〜15MPaであることが好ましい。
【0171】
他の側面に従って、所定の期間、外科的欠損を重合体と接触させる場合において整形外科的欠損の骨組織を形成するための、または治療を必要とする患者の適切な部分を有効再生量の重合体に接触させることによる、本明細書で開示される重合体の使用が提供される。本発明の使用は多様である。1つ以上の実施形態では、本発明は、骨の隙間の充填または皮質骨よりも海綿骨を必要とする領域の拡大、外傷後の骨の欠損の充填、荷重がかからない、あるいは荷重がかかる症状の再建または補正、外傷および整形外科、嚢胞または骨切り術によって生じた隙間の充填、衝撃による破損から生じた欠損の充填、海綿骨採取部位の再充填、関節固定および癒着不能、脊椎手術、後側方固定、椎体間固定(ケージ充填材として)、脊椎切除(脊椎埋め込み物の充填材として)、骨移植片採取部位の再充填、または頭顎顔面手術に有用である場合がある。
【0172】
E.キット
本明細書では、本発明に用いられる好ましいヒドロゲルを1種以上含む様々なキットが開示される。例えば、本発明は、骨の欠損を修復または再生するためのヒドロゲルおよび指示書を含むキットを提供する。キットは、複数の異なるヒドロゲルを含んでいてもよい。キットは、重合体、細胞、NSPP、生物活性化合物、水などを任意で含んでいてもよい。キットは、複数の追加の成分または試薬の何れかを任意の組み合わせで含んでいてもよい。様々な組み合わせをすべて明示的に規定しないが、各組み合わせは本発明の範囲内に含まれる。本発明に従って提供されるいくつかの例示的なキットを以下の段落で記述する。
【0173】
本発明の特定の実施形態によれば、キットは、例えば、(i)重合体を含む溶液、NSPPを含む溶液、および(ii)上記溶液からヒドロゲルを形成するための指示書を含んでいてもよい。
【0174】
他の実施形態によれば、キットは、例えば、以下のものを含んでいてもよい。
(i)重合体およびNSPPを含む組成物、および
(ii)上記組成物からヒドロゲルを形成するための指示書。
【0175】
他の実施形態によれば、キットは、例えば、(i)重合体およびNSPPを含み、何れか一方または両方が固体形態であり、任意で水などの溶媒を含む組成物、および(ii)上記組成物からヒドロゲルを形成するための指示書を含んでいてもよい。
【0176】
商業的見地および使用者の見地からキットは他の望ましい材料(他の緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、および注射器を含む)をさらに含んでいてもよい。
【0177】
キットは、典型的には、本発明に用いられる好ましいヒドロゲルの使用に関する指示書を含む。指示書は、例えば、プロトコルを含み、かつ/またはヒドロゲルの作製条件、それを必要とする対象へのヒドロゲルの投与、ヒドロゲル集合体の作製などについて説明してもよい。キットは、一般に、1つ以上の入れ物または容器を含み、個々の成分および試薬のいくつか、またはすべてを別々に収容してもよい。キットはまた、商業販売のために、個々の容器を入れて比較的しっかりと蓋ができるような手段、例えば、プラスチックの箱を含んでいてもよい。この箱には指示書、梱包材料(例えば、発泡スチロールなど)を入れてもよい。
【0178】
キットまたは「製造品」は、容器、および容器表面の、またはそれに関連付けられたラベルまたは包装袋の挿入物を含んでいてもよい。好適な容器としては、例えば、瓶、バイアル、注射器、ブリスター包装などが挙げられる。この容器は、ガラスまたはプラスチックなど様々な材料から形成されていてもよい。この容器は、症状の治療に有効なヒドロゲルまたは組成物を保持する。また、殺菌した取り出し口を有していてもよい(例えば、この容器は、皮下注射針でさせるような栓を有する静脈内投与溶液入りの袋またはバイアルであってもよい)。ラベルまたは包装袋の挿入物は、ヒドロゲルまたは組成物を選択した症状の治療に使用することを示している。一実施形態では、ラベルまたは包装袋の挿入物は、使用指示書を含み、治療組成物を組織の修復または再生に用いることができることを示すものである。
【0179】
例示的な実施形態
本発明で用いられる好ましい重合体は、タンパク質またはペプチド(NSPP)に結合するPNPHOであり、タンパク質/ペプチドセグメントおよびPNPHOはいずれも規定された役割を有する。上記タンパク質/ペプチドは、
(a)骨再生のための生物活性信号源として作用し、かつ
(b)ヒドロゲル充填剤の中および周辺での血管の形成を促進する。
上記PNPHO重合体は、タンパク質/ペプチドに化学的に結合して、
(a)この生重合体の物理化学特性を骨用途に合わせて調整し、
(b)ヒドロゲル充填剤に急速な熱硬化性を与えてヒドロゲル充填剤を局所的に閉じ込め、
(c)注入可能なヒドロゲルに生体吸収特性を付与する。
これら2種類の主要セグメントの組み合わせにより、骨の治癒に好ましい一連の特性を有する新しいタイプの優れた骨充填剤が形成される。PNPHO重合体の利点は、そのすべての成分の生物医学用途での使用がFDAにより承認されていることである。
【0180】
上記のPNPHO重合体は、生成物にそれぞれ、高い機械強度、高い水溶性、およびアミン基の高い反応性を付与するラクチド、エチレングリコール、およびN−アクリロキシコハク酸イミドのセグメントと共に体温でのヒドロゲル形成を誘導する熱応答性画分(N−イソプロピルアクリルアミド)を含む。PNPHO重合体の分子構造および各セグメントの役割は以下に示すスキームに概略が示される。
【実施例】
【0181】
材料
特に断りがなければ、薬品はSigma−Aldrichから購入した。2−エチルヘキサン酸スズ(II)(Sn(Oct)
2)、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリン酸)(ACVA)、およびN−アクリロキシコハク酸イミド(NAS)を受け取ったそのままで使用した。オリゴ(エチレングリコール)モノメチルエーテルメタクリレート(OEGMA、M
n=475)のジクロロメタン溶液(容積比率1:1)を中性アルミナカラムに通して精製し、使用する前に阻害剤を除去した。使用する前に、D,L−ラクチド(LA)単量体を40℃の真空下で24時間乾燥させた。アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)は、シドニー大学化学研究科の厚意で譲渡された。
【0182】
HEMA−ポリラクチド(HEMA−PLA)マクロモノマーの合成
HEMA−PLAマクロモノマーは、開始剤としてHEMAの水酸基および触媒としてのSn(Oct)
2を用いてLAの開環重合により合成された(スキーム1)。
【0183】
【化6】
【0184】
窒素雰囲気下、110℃で15分間、LAとHEMAを3つ首フラスコ内で混合した。その後、このLA/HEMA溶液に、無水トルエン(1ml)中の(HEMAの供給量に対して)1モル%のSn(Oct)
2の混合物を加えた。得られた混合物を窒素雰囲気下、110℃で1時間、300rpmで撹拌した。反応後、混合物をテトラヒドロフランに溶解して、1℃の冷蒸留水中に沈殿させた。形成された沈殿物を遠心分離法により3000rpmで5分間分離した。遠心分離サイクルを3回繰り返して、すべての未反応の単量体と副生成物(主に塩)を除去した。次いで、沈殿物を酢酸エチルに溶解した。懸濁した固体粒子を6000rpmで5分間遠心分離を行って溶液から除去し、上澄みをMgSO
4で12時間脱水した。脱水した上澄みを濾過して、MgSO
4粒子を除去した。次いで、重合体溶液を60℃の減圧下で乾燥させて、40℃の真空下に24時間置いて溶媒の残部をさらに除去した。得られた粘性油をさらなる使用のために冷蔵庫で保管した。
【0185】
HEMA:LAの供給比を1:1.5から1:2.5まで変化させて、異なる乳酸の長さ(lactate length)を有するPLA/HEMAマクロモノマーを得た。それぞれ、LA単量体に対するHEMAのモル比1:1.5および1:2.5を用いて、乳酸の長さが3および6の2種のPLA/HEMAマクロモノマーを合成した。
【0186】
1H NMRスペクトルを用いて、HEMAおよびLAの両方のプロトンのピークを証拠として、PLA/HEMAマクロモノマーの合成を確認した。PLA/HEMAマクロモノマー中のLAのHEMAに対するモル比を、ピーク(乳酸(lactate)のメチンに対して5.2ppm、HEMAに対して5.7ppmおよび6.0ppmのピークの合計積分値)を用いて
1H NMRスペクトルから算出した。
【0187】
ポリ(NIPAAm−co−NAS−co−(HEMA−PLA)−co−OEGMA)(PNPHO)の合成
以下で説明するように方法(1)または(2)のいずれかを用いてPNPHOを合成した(スキーム2)。
【0188】
【化7】
【0189】
方法1
開始剤としてAIBNを用いて遊離ラジカル重合によりPNPHOを合成した。磁性撹拌棒およびゴムの隔壁を有するシュレンクフラスコにNIPAAm(12mmol)、NAS(1.0mmol)、HEMA−PLA(0.57mmol)、OEGMA(0.56mmol)、AIBN(0.07mmol)、および無水N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)を充填した。3サイクルの凍結脱気によりフラスコから酸素を除去して、密封し、このフラスコを予め70℃に熱した油浴に浸して重合を開始した。24時間後、反応混合物を室温まで冷却して、ジエチルエーテルで沈殿し、濾過して、真空乾燥させた。THF/エチルエーテルに再溶解/再沈殿させて重合体を2回精製し、最後は2日間真空乾燥させた。
【0190】
方法2
開始剤としてACVAを用いて遊離ラジカル重合によりPNPHOを合成した。乳酸の長さ(HEMA−PLAにおいて3および6)、HEMA−PLAのモル比(6、8、および11モル%)、およびOEGMAのモル比(3、5、および8モル%)を変えることで共重合体の組成を変化させた。一首丸底フラスコ内で、既知の量のNIPAAm、NAS、HEMA−PLA、OEGMA、ACVA(7.0×10
−5モル)を無水N,N’−ジメチルホルムアミド(13ml)に溶解させた。次いで、15分間窒素でパージしてこの系から酸素を除去した。この結果はまた、単量体溶液を真空下で、10分間窒素ガスでパージすることによりこの溶液から酸素を除去することが実行可能であることを示した。この技術により、大きいスケールで、溶液から酸素を除去するより効率的な方法が提供される。次いで、反応器を密封して、70℃で24時間油浴に浸した。次いで、得られた重合体溶液を室温1時間冷却して、ジエチルエーテル(250ml)で沈殿させた。次いで、懸濁液を濾過して沈殿物を回収し、6時間真空乾燥させた。乾燥した粉末をテトラヒドロフランに溶解して、ジエチルエーテルで沈殿させ、マクロモノマーの残部をさらに取り出した。最終粉末を少なくとも48時間真空乾燥させた。
【0191】
PNPHO組成物
図2bに示すように、
1H NMRスペクトルを用いて各単量体のプロトンのピークを証拠として、PNPHO共重合体の合成を確認した。NIPAAm(aおよびb)、NAS(e)、HEMA−PLA(f、h、k)、およびOEGMA(mおよびn)で特徴的なプロトンのピークが検出された。共重合体の最終組成は、NIPAAm(a)、NAS(e/2−f)、HEMA−PLA(h)、およびOEGMA(n/2)について各単量体由来のこれらのピークの積分値に基づいて算出された。この調査では、共重合体はPNPHOとして表され、HEMA−PLA(乳酸の長さ)のOEGMAに対するモル比に対応する下付文字が加えられている。例えば、PNPHO
8(6)3は、8モル%のHEMA−PLA(乳酸の長さ=6)と3モル%のOEGMAを用いて合成された共重合体を表す。様々な共重合体が調製された。これらを表1に示す。表1はまた、ゲル化時間および温度に関するデータを示す。
【表1】
【0192】
PBS中のPNPHOの溶解度
注入可能な製剤の開発のため、PNPHOの単量体比率を変えて、PBSなどの水性溶媒に溶解した一連の組成物を得た。NIPAAm系共重合体は、共重合体極性基と水分子との間に形成された水素結合により、LCST未満で水溶液に溶解可能である。この調査では、異なるPNPHO組成物のPBS中の飽和濃度を測定することで、乳酸の長さ、HEMA−PLAとOEGMAの含有量の、PNPHO溶解度に及ぼす効果を調べた。
【0193】
図3の結果から、3〜6の範囲内でHEMA−PLA主鎖の乳酸の長さを増加させても、PBSへのPNPHOの溶解度には有意な影響はないことが示された(p>0.05)。従って、調べた範囲内では、PNPHOの主鎖における側鎖の疎水性特性が水性溶媒へのPNPHOの総溶解度に及ぼす影響は最少であった。従って、水性溶媒へのPNPHOの溶解度に影響を及ぼすことなく、乳酸の長さを変化させることで、ゲル化挙動および機械特性など、PNPHOの他の特性を調節することができる。
【0194】
PBSへのPNPHOの溶解度は、疎水性成分および親水性成分の含有量の両方を変えることで調節することができる。PLAセグメントは主に疎水性主鎖であり、NAS単量体およびHEMA単量体はいずれも比較的限定された親水性特性を示す。従って、共重合体の親水性特性を促進するため、OEGMAをPNPHOの合成に含めた。共重合体中のHEMA−PLA(すなわち、疎水性成分含有量)を6モル%から8モル%および11モル%に増やすと、PBSへのPNPHOの溶解度は、それぞれ30%および50%低下した。例えば、PNPHO
6(6)3の飽和濃度は、PNPHO
8(6)3およびPNPHO
11(6)3ではそれぞれ、250±17mg/mlから190±10mg/mlおよび164±6mg/mlと有意に(p<0.001)低下した。この溶解度の低下はまた、共重合体中の比較的親水性であるセグメントNIPAAmの濃度が低下したことによるものであった(p<0.05)。従って、PNPHO中のNIPAAm含有量が低下すると、共重合体の水和度は実質的に影響を受けた。
【0195】
親水性セグメントとして3モル%(例えば、1.5モル%)超のOEGMAを用いた場合、水へのPNPHOの溶解度は大きく上昇した。結果から、3モル%未満のOEGMA含有量の共重合体は水性溶媒に溶解しないことが示された。
図3の結果から、OEGMA濃度を3モル%からそれぞれ、5モル%および8モル%に上げると、6モル%のPLA−HEMAを有するPNPHO共重合体の溶解度は2倍および3倍と有意に上昇した。しかしながら、疎水性セグメントHEMA−PLAを高いモル比(すなわち、8モル%および11モル%)で含む共重合体では、OEGMA濃度は、PNPHOの溶解度にほとんど効果を及ぼさなかった。この挙動は、水溶液中の共重合体の水和度および溶解度を阻害する長い分子鎖と高いM
Wを有する共重合体の形成に起因するものであった。図示の通り、PNPHO
11(3)8の分子量は、PNPHO
11(3)5に比べて有意に大きく(p<0.01)(26Kに対して27K)、その高い親水性成分含有量の効果が損なわれていた。従って、これらの化合物の飽和濃度はいずれも約300mg/mlであった。
【0196】
水溶性PNPHO共重合体の濃度がその溶液の18G針からの注入しやすさに及ぼす効果を評価した。150mg/mlのPNPHOのPBS溶液は、18G針から注入可能であることが分かった。この濃度の共重合体をさらなる分析に用いた。生体外で(in vitro)の組織の成長のため、他の生物医学用途(例えば、足場材料の作製)などに高濃度の重合体を用いることができる。
【0197】
PNPHOと天然由来タンパク質との結合およびヒドロゲルの形成
PNPHOの分子構造にコハク酸イミドエステル基が存在すると、コラーゲンなどのNSPPとの結合のための表面(facial)活性部位を提供する。(
図1に示すような)異なる結合技術を用いてNSPP共重合体ヒドロゲルを調製した。
【0198】
コラーゲン
コハク酸イミドリンカーは、高い反応性と、アミノ基を含有する化合物に対する最適化された近接性を示すので、注入可能なヒドロゲルの作製においてアミノ基を有する他の種類の天然の重合体にこの重合体を応用することができると考えるのは理にかなっている。この仮定を確かめるため、この重合体とコラーゲンの反応の実行可能性を調べた。コラーゲン溶液(OVICOLL(登録商標)CLEAR、1%、pH:2.5〜3.5)を少量の1MのNaOH溶液で中和した。得られた中和コラーゲン溶液(250マイクロリットル)を250mg/lml重合体/PBS溶液(500マイクロリットル)と完全に混合した。次いで、この混合物を冷蔵庫に移した。4℃で24時間保存した後、この混合物を37℃でゲル化させ、蒸留水で洗浄して不純物を除去した。結果(
図4)は、ヒドロゲルが形成されたことを示す。
【0199】
ゲル化挙動(時間および温度)
表1の結果は、8(6)/5/3.5/83、8(6)/5/7/80、6(6)/8/3.5/82、および6(6)/8/7/80のPNPHO組成で作製したヒドロゲルのゲル化時間は2.5〜5分の範囲内であったことを示している。このゲル化時間は、臨床用途には好ましい。というのは、ゲル化が速いと、送達針を塞いでしまい、送達前の早すぎる時期に製剤が固化する場合がある。また、これらPNPHO製剤のゲル化温度は室温よりも高い。製剤のゲル化温度が高いと、臨床医が溶液を生体内に送達するのに都合がよい。
【0200】
PNPHOの結合効率
表1の異なるPNPHO製剤の結合効率を
図5に示す。この分析では、モデルの天然タンパク質および合成ペプチドとして3モル%のコラーゲンおよびGly−Arg−Gly−Asp−Ser(GRGDS)合成ペプチドをそれぞれ用いた。結果から、加えたコラーゲンの70%近くが、異なるPNPHO製剤に結合したことが示された。この結果は、大きな天然分子(例えば、コラーゲン)との結合およびその送達についてPNPHOが高い効率を有することを示している。PNPHOの合成ペプチドとの結合効率は極めて優れていた。小さい合成ペプチドの95%近くは、PNPHOと結合することができた。
【0201】
タンパク質−PNPHOヒドロゲルの生体吸収挙動
ヒドロゲルを37℃でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に浸して生理学的条件を模倣して、異なるNSPPと結合させた異なるPNPHO製剤の生体吸収挙動を調べた。
図6の結果から、3週間インキュベーションした後の異なるPNPHO−NSPP製剤は、大きく(例えば、20%〜60%)質量が減ったことが示された。この結果から、PNPHOと天然および合成タンパク質/ペプチドの異なる処方で作製したPNPHO−NSPPヒドロゲルの生体吸収性が確認された。
【0202】
生物学的試験
骨芽細胞
SaSo2細胞を用いて、異なるPNPHO系ヒドロゲルの細胞適合性を確認した。コラーゲン−PNPHOをモデル系として用いた。
図7の結果から、ヒドロゲル内の細胞数は培養7日後から15日後で大きく増加した。この結果から、作製されたPNPHO系ヒドロゲルの細胞適合性が確認された。
【0203】
ペプチド−PNPHOヒドロゲルの作製および評価
PNPHO−ペプチド前駆体溶液は、外科医が親指で最少の背力を加えて非常に微細な29Gゲージ針から注入可能であることが分かった。温度を37℃に上げると、ヒドロゲル溶液は2分以内に弾性のある安定したヒドロゲルを形成した。速いゲル化時間と、このヒドロゲル充填剤の組織接着特性により、周囲の組織へのヒドロゲルのずれまたは漏れの危険性は最小限となった。このヒドロゲル系の熱硬化性反応は生物学的に無害である。このことは、生体外(in vitro)試験により確認された。この試験では、封入した細胞の95%超がヒドロゲル形成後に一貫して生存能力があることが示された。ヒドロゲルの機械強度は、注入後数分以内にその最大値に達する。これは、比類のない挙動である。というのも、現在の骨セメントは完全に硬化するのにほぼ24時間を必要とするからである。ヒドロゲル充填剤の引張係数は約700kPaであり、PNPHO−ペプチドヒドロゲルの高い剪断強度と曲げ強度が確認された。生体外(in vitro)試験では、これらのヒドロゲル充填剤が90日以内に完全に生体吸収されることが示された。以下の骨に特異的な生体外(in vitro)および生体内試験と共に、これら物理化学特性のすべてにより、本発明は整形外科治療に大きな改善をもたらすことができることが確認された。
【0204】
PNPHO−ペプチドの骨伝導特性
生体外(in vitro)試験の結果から、表面付近の相互作用性ヒト前骨芽細胞がPNPHO−ペプチド充填剤の表面および内部で増殖したことが示された。骨芽細胞数は、培養1日後から5日後で46.5±4.6%増加した。次いで、石灰化した細胞外基質を堆積するために培養時間を延長した効果を評価した。この目的のため、よく特徴付けられた骨芽細胞様Saos−2細胞株をモデル系として用いた。これら細胞の生体外で(in vitro)の成長から、アルカリホスファターゼ(ALP)の形成量が大きく増加したことが分かった。これは、ALP染色試料の409nmでの吸光度が0.3±0.4(培養7日後)から0.41±0.2(培養15日後)上昇した(
図8)と結論付けた。この結果から、注入可能なPNPHO−ペプチドヒドロゲルの骨伝導特性が確認された。
【0205】
エネルギー分散型X線走査型電子顕微鏡を用いて、生体外(in vitro)14日培養後のPNPHO−ペプチドヒドロゲルの表面の詳細な元素分析を行ったところ(
図9)、カルシウムおよびリン酸塩が堆積していることが分かった。リン酸塩に対するカルシウムの比は1.9であった。これは、天然の骨細胞外基質中のヒドロキシアパタイトの比率と比較的近い。これらの生体外(in vitro)試験により、PNPHO−ペプチドは、骨芽細胞様細胞の成長、増殖、および石灰化を支援する能力があり、骨伝導性であるという信頼性が提供された。
【0206】
PNPHO−ペプチドの生体力学的特性
脛骨の生体外(ex vivo)のきれいな尖った骨折モデルを用いて、ペプチド−PNPHOヒドロゲルの生体力学特性を評価した。これら生体外(ex vivo)試験の結果から、充填剤ヒドロゲルを注入して、ヒツジの死体から採取した新鮮できれいな脛骨の単純骨折を封止することができることが確認された。また、
図9に示されるように、注入されたヒドロゲルはその後、骨に付着して骨折を埋めることが確認された。この試験を、6個の独立した脛骨骨折に対して繰り返し、それぞれの場合の骨の機械強度を測定した。驚くべきことに、PNPHO−ペプチド溶液の注射後に、骨の強度の75%〜90%という際だった強度で回復した。また、対照測定を行ったところ、この効果は、ペプチドおよびPNPHO重合体の両方の存在によることが確認された。というのは、機械的性能はこれらの化合物のどちらが存在しなくても回復しなかったからである。
【0207】
本発明で用いられるヒドロゲル重合体は、生物学的に無害のリシン反応性架橋反応により、生理学的条件(例えば、温度およびpH)で数分以内に安定する。従って、現在の骨修復溶液に古くから見られる壊死の危険性は根絶されている、あるいはどんなに低く見積もって有意に低減されている。また、これらヒドロゲル充填剤は2ヶ月以内に生体吸収される。本明細書で開示されるヒドロゲル重合体に特有の生体分子構造により、この生体吸収速度は骨再形成速度と両立する。皮下マウスモデルの生体内試験の結果からもまた、本発明で用いられる好ましい重合体は、細胞適合性が高く、注入時にこれらヒドロゲル充填剤は、何らかの物理的支持を必要とせずにその場に留まることが示された。また、本明細書で開示される好ましい重合体のマウスへの皮下注射は、架橋された重合体の内部および周囲で血管形成を促進する。現在の骨充填剤すべてと比較して、本発明で用いられる好ましい重合体の血管形成特性は、骨形成前駆細胞の移行を高め、再生された骨の比率および品質を高めることが予想された。従って、これらの重合体は、当然、骨伝導性期間を実質的に短縮して、成長可能な新しい橋渡し骨を生成する。
【0208】
動物実験
骨の破損の修復
8(5)/3/14/75(PLA/HEMA(LA長)/OEGMA/NAS/NIPAAm(モル%))の製剤を有するPNPHOをサイモシンβ−4(よく研究されたNSPPとして)と化学的に結合させた。この特定の製剤では、140mg/mlのPNPHOを30mg/mlのサイモシンβ−4に結合させた。得られた結合系(PNPHO−サイモシン)を用いて、生体内での骨の欠損の治癒速度を促進する技術の可能性を調べた。
【0209】
3mmの半半径脛骨骨切り術(直径:6cm)によるヒツジモデル試験(n=20匹)を用いた。この試験は、ウォガのCharles Sturt Universityで行われた。これらの試験は、Animal Care and Ethics Committee第13105号の倫理審査による承認の元で行われた。振動鋸で脛骨骨切り術を行った(
図10に示す)。標準的な長さ13mmを有する4.5mm骨プレートとねじで骨の損傷部位を内側で固定した。
【0210】
図10に示すように、濾過殺菌したPNPHO−サイモシンを3mlの注射器の21G針から欠損部位に容易に送達した。PNPHO−サイモシンは、注入後数分以内にその場で架橋した(
図10)。注入されたPNPHO−サイモシンのヒドロゲルは、骨切り部位での血液が陽圧であるにもかかわらず注射部位に留まった。
【0211】
術後、8週間の試験期間で、痛み/苦痛、歯ぎしり、脚の前掻き、唇のめくれ、発声、落ち着きのなさ、鬱、および食欲のなさについて動物の挙動を監視した。また、心拍数および呼吸の速さ、体温、食欲、反芻、および跛行の程度も監視した。動物は、試験期間を通してよい状態を維持した。すべての傷は、二次癒合により、跡を残さずに好ましく治癒した。飼育設備では、動物の通常の、穏やかな動きも認められた。これら動物の観察された挙動は、この生成物は、明らかな全身性反応がなく、よく忍容されることを示唆するものである。さらに、外傷部位の部分的炎症の兆候も認められなかった。
【0212】
骨切り術に及ぼすヒドロゲルの生体内効果
PNPHO−サイモシンのヒドロゲルで治療した動物および対照群の動物の骨の治癒の進行および程度を監視した。8週間までの異なる時点でPNPHO−サイモシンの注入による骨の治癒の進行を調べて、文献のまったく同じ動物モデルでの骨の自然治癒過程、および陰性対照群と比較した(Marsell&Einhorn,2011;Vetter et al.,2010)。
【0213】
術後の生きた動物のCTスキャン(
図11)により、ヒドロゲルは損傷部位の骨表面に留まり、付着していることが示された。4週間後、骨切り部位のCTスキャンにより、骨内膜と骨膜仮骨のいずれも形成されたことが示された。
異なる時点での骨密度の指標として骨組織のCT値を測定して、骨切り部位での骨の再生を確認した。水のCT値は0であり、緻密骨は>1000である。骨髄腔領域のCT値は、手術の4週間後に増加した。この結果から、仮骨の骨化は手術の4週間後までに始まった。これは自然治癒過程で予測されているよりも3〜4週間早かった。骨化は、PNPHO−サイモシンで治療した骨切り部位で6週後も継続し、ほとんど完全な骨形成が検出された。上記の文献では、3mm半半径骨切り術でのヒツジの骨の自然治癒過程が包括的に説明されている。その文献での知見をまとめて以下に示す。これらの知見は、骨の治癒速度を高めるための、本明細書で規定された重合体系の有利な特性を強調するものである。
【0214】
上記の文献で報告された自然治癒過程は、ヒツジの3mm半半径脛骨骨切り術モデルの自然治癒過程において、外傷後の最初の7〜14日間、前駆細胞は損傷組織での炎症の結果、この部位に移行した。手術の3〜4週間後、血管の内方成長および仮骨の形成(非常に柔らかいコラーゲン基質)が検出された。その後、類骨(主にI型コラーゲンを含むゼラチン質の非石灰化基質)が分泌されて、生成された基質の石灰化は外傷の6週間後に始まった(Marsell&Einhorn,2011;Vetter et al.,2010)。7週間後、骨切り部位の近位部分と遠位部分の間で骨膜性の骨橋の形成が観察された。外傷の8〜9週間後、仮骨は骨化して、破損断片間に線維性骨の橋渡しが形成された。骨全体のリモデリング期は、損傷後、3〜6ヶ月で完了した(Marsell&Einhorn,2011;Vetter et al.,2010)。
【0215】
PNPHO−サイモシン治療の短期効果
CTスキャンの結果(
図12)から、PNPHO−サイモシンの塗布は、4週間後からでも骨内膜性の骨の形成を促進した。この効果により、脛骨の髄腔領域で骨が分厚くなり、従って、骨切り部位の骨の機械特性を実質的に高めた。
図13では、4週間後の骨の欠損の自然治癒過程が示されている。
図12および
図13の骨切り部位を直接比較すると、PNPHO−サイモシンは、対照群に比べて欠損部位での骨の形成を加速させることが確認された。
【0216】
動物実験での発見のまとめ
動物実験に基づき、試験したPNPHO−サイモシン系は手術の2週間後からでも骨の形成を促進することが示された。骨内膜性の修復骨および骨膜性の骨の形成はいずれも、PNPHO−サイモシンで治療した試料を用いて行われた骨再生試験で分かった。これらの結果は、PNPHO−サイモシンの注入が骨髄部位での緻密な弓状の骨の再生を向上させて脛骨骨幹部を接合させ、骨髄部位での骨内膜性の骨の形成により実質的に骨の強度を回復することができることを示している。
【0217】
当業者には当然であるが、本開示の広く一般的な範囲から逸脱することなく上記の実施形態に多くの多様性および/または修正を行ってもよい。従って、本実施形態は、すべての点において例示的であり、かつ非制限的であると見なされる。