(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の樹脂組成物等について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に限定されない。その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
なお、本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本明細書において組成物に含まれる各成分の量は、組成物中に、各成分に該当する物質が複数含まれる場合、特に断らない限り、当該複数の物質の合計量を意味する。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
また、「置換基」の表記は、特に断りのない限り、無置換のもの、置換基を更に有するものを包含する意味で用いられ、例えば「アルキル基」と表記した場合、無置換のアルキル基と置換基を更に有するアルキル基の双方を包含する意味で用いられる。その他の置換基についても同様である。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0015】
[樹脂組成物]
本開示の樹脂組成物は、磁性粒子、分散剤及び分散媒を含有する磁性流体と、分子内にジエン骨格、シリコーン骨格、ウレタン骨格、環員数4〜7のラクトン骨格、炭素数が6〜30のアルキル基、及び炭素数が6〜30のアルキレン基からなる群より選択される少なくとも1種の部分構造を含む樹脂又はその前駆体と、を含む樹脂組成物である。
なお、本明細書において、樹脂組成物における「樹脂又はその前駆体」の語は、樹脂組成物が樹脂のみを含む態様、樹脂の前駆体のみを含む態様、及び樹脂と樹脂の前駆体との双方を含む態様を包含する意味で用いられる。
本開示の樹脂組成物は、磁性流体中に分散された状態で存在する磁性粒子の状態を維持しており、磁性流体と同様の超常磁性を有しているので、樹脂組成物の硬化体である後述する樹脂組成物成形体も、同様に超常磁性を有している。
なお、本明細書における超常磁性とは強磁性体の微粒子の集合体が有する磁気特性であり、磁気ヒステリシスを示さず、残留磁化もない性質を意味する。本開示の樹脂組成物の超常磁性は、常磁性の原子磁気モーメントと比較して100倍〜100000倍の値を示す。
【0016】
本開示の樹脂組成物は、磁性粒子、分散剤及び分散媒を含有する磁性流体と、既述の特定部分構造を含む樹脂又はその前駆体と、を含む。
本開示の樹脂組成物に含まれる分散媒の含有量を減少させることで、樹脂組成物成形体の形成に、より適する樹脂組成物とすることもできる。
以下、樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0017】
〔1.磁性流体〕
本開示の樹脂組成物に用い得る磁性流体は、磁性粒子と、分散剤と、分散媒とを含み、一般には、分散媒中に磁性粒子を分散剤により分散させたコロイド状の液体である。磁性流体における磁性粒子の分散性は非常に良好であり、重力、磁場などによって磁性粒子が沈殿したり、分離したりするといった固−液分離が生じることなく、流体自身が磁性を有する均一な液体と見なすことができる。
【0018】
本開示において用いられる磁性流体は、適宜調製してもよく、市販品を用いてもよい。
市販品としては、例えば、EXPシリーズ、Pシリーズ、APGシリーズ、RENシリーズ(以上、商品名:フェローテック社製)等が挙げられる。
【0019】
磁性流体を調製する場合、調製方法は、磁性粒子の巨視的粒子をコロイド的サイズまで細分する方法と、原子又はイオンを凝縮させて磁性微粒子を得る方法と、が挙げられる。
磁性粒子を細分する方法としては、粉砕法、スパークエロージョン法が挙げられる。原子又はイオンを凝縮させる方法としては、化学共沈法(湿式法)、金属カルボニルの熱分解法、真空蒸着法などが挙げられる。
なかでも、磁性流体の調製方法としては、生産性に優れる点で、化学共沈法が好適である。
化学共沈法により磁性流体を調製する方法としては、例えば、硫酸第1鉄水溶液と硫酸第2鉄水溶液より調製したマグネタイト水スラリーにオレイン酸ナトリウムを添加し、マグネタイト粒子表面にオレイン酸イオンを吸着させて粒子を得て、得られた粒子を、水洗、乾燥後、分散媒である有機溶剤に分散させる方法が挙げられる。
【0020】
以下、本開示における磁性流体が含むことができる各成分について説明する。
【0021】
(磁性粒子)
磁性流体に含まれる磁性粒子は、例えば、強磁性酸化物;強磁性金属;窒化金属などが挙げられる。
強磁性酸化物としては、例えば、マグネタイト、γ−酸化鉄、マンガンフェライト、コバルトフェライト、もしくはこれらと亜鉛、ニッケルとの複合フェライト、バリウムフェライトなどが挙げられる。強磁性金属としては、鉄、コバルト、希土類などが挙げられる。なかでも、磁性粒子としては、マグネタイトが量産性の点から好ましい。
なお、本開示において用いられる磁性粒子は超常磁性を発現する範囲の平均粒子径、つまり臨界粒子径以下の磁性粒子であれば特に制限はなく用いられる。例えば、マグネタイト粒子及びγ−酸化鉄粒子の場合、平均粒子径は、50nm以下が好ましく、10nm〜40nmの範囲であることが特に好ましい。
【0022】
磁性流体に含まれる磁性粒子の含有量は、量産性の観点から、磁性流体の全質量に対して、30質量%〜70質量%であることが好ましく、40質量%〜60質量%であることがより好ましい。
なお、上記磁性粒子の含有量は、分散剤が表面の少なくとも一部に付着した磁性粒子の質量から算出した含有量である。
【0023】
(分散剤)
分散剤は、磁性粒子の分散媒への分散性を向上させるために添加される。分散剤としては、公知の界面活性剤、高分子分散剤などを適宜使用し得る。なかでも、分散剤としては、分散性及び得られた磁性粉体の性能の観点から、界面活性剤が好ましい。
磁性流体中に、前記磁性粒子と分散剤とを含むことで、分散剤の少なくとも一部が磁性粒子に付着し、磁性粒子の表面の少なくとも一部が分散剤、好ましくは、界面活性剤で被覆される。したがって、界面活性剤の親水基が磁性粒子の表面に向けて吸着され、且つ、界面活性剤の疎水基が分散媒側へ配向し、磁性粒子が安定に分散媒中に分散する。
本開示において分散剤として用いられる界面活性剤としては、例えば、オレイン酸又はその塩、石油スルホン酸又はその塩、合成スルホン酸又はその塩、エイコシルナフタレンスルホン酸又はその塩、ポリブテンコハク酸又はその塩、エルカ酸又はその塩など、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホン酸基などの極性基を有する炭化水素化合物である陰イオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどの非イオン性界面活性剤;アルキルジアミノエチルグリシンなどの、分子構造中に陽イオン部分と陰イオン部分とを共に持つ両性界面活性剤;などが挙げられる。なかでも、安価であり、入手が容易である観点から、分散剤としては、オレイン酸のナトリウム塩(以下、オレイン酸ナトリウムと称することがある)が好ましい。
【0024】
磁性流体は、分散剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
磁性流体中の分散剤の総含有量は、磁性粒子同士の凝集を防ぐことができる量であれば特に制限はなく、使用目的に応じて適宜選択すればよい。
分散剤の含有量は、例えば、磁性流体全量に対して、3質量%〜30質量%とすることができ、5質量%〜20質量%が好ましい。
【0025】
磁性流体中において、分散剤は磁性粒子に吸着し、磁性粒子表面の少なくとも一部が分散剤にて被覆された状態となる。磁性粒子同士の凝集を防ぐという観点からは、1nm〜5nm程度の分散剤が磁性粒子表面に吸着していることが好ましく、2nm〜3nm程度の分散剤が吸着していることがより好ましい。
分散剤で被覆された磁性粒子の平均粒子径は、磁性粒子がマグネタイト又はγ−酸化鉄である場合には、既述の磁性粒子の好ましい粒径を勘案すれば、平均一次粒子径が55nm以下であることが好ましく、11nm〜45nmであることがより好ましい範囲ということになる。
なお、本明細書においては、以下、磁性粒子の平均一次粒子径は、特に断りのない限り、分散剤で界面活性剤が被覆された磁性粒子の平均粒子径を指す。
本明細書における磁性粒子の平均一次粒子径は、(株)堀場製作所製のナノ粒子解析装置 nano Partica SZ−100シリーズを使用し、動的光散乱法により測定される値である。
【0026】
(分散媒)
磁性流体における分散媒は、常温(25℃)で液状であり、磁性粒子を分散し得るものであれば特に制限はない。
分散媒は、例えば、水、有機溶剤などが挙げられ、水及び有機溶剤から選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。
有機溶剤としては、ポリオレフィン、イソパラフィン、ヘプタン、トルエンなどの分子量5000以下の炭化水素、ポリオールエステルなどのエステル、シリコーンオイルなどが挙げられる。相溶性が良好であれば、複数種の有機溶剤を混合して用いてもよい。
なお、相溶性が良好とは、複数種の有機溶剤を混合し、撹拌し、25℃にて1時間静置した後に、相分離を生じないことを指す。
また、水、水と水溶性有機溶剤との混合物なども好ましく使用される。
水溶性有機溶剤としては、エタノール、メタノールなどが挙げられる。分散媒として水を用いる場合、不純物の少ない純水、イオン交換水などを用いることが好ましい。
【0027】
分散媒に対する各成分の濃度は特に制限はない。なお、樹脂混合物を用いて樹脂組成物を製造する際の作業性などの観点から、分散媒は、樹脂混合物に含まれる前記各成分を合計した固形分濃度が30質量%〜90質量%の範囲となる量で含有されることが好ましく、60質量%〜80質量%の範囲となる量で含有されることがより好ましい。
磁性流体中の固形分における磁性粒子(無機成分)の合計含有量と、界面活性剤に代表される分散剤などの有機成分の合計含有量との割合は、磁性流体が超常磁性を発現する範囲であれば特に制限はない。一般的には磁性粒子と分散剤の質量比、即ち、(磁性粒子含有量:分散剤含有量)は、60:40〜90:10の範囲であることが好ましく、70:30〜85:15の範囲であることがより好ましい。
磁性流体中の無機成分、有機成分の含有比率は、示差熱−熱容量測定により確認することができる。本明細書中の各成分の含有量は、セイコーインスツル(SII)(株)製、EXSTAR6000TG/DTAにて、測定した数値を採用している。
【0028】
(その他の成分)
磁性流体には、本発明の効果を損なわない範囲において、磁性粒子、分散剤及び分散媒に加え、目的に応じて、さらに種々の他の成分を併用してもよい。
他の成分としては、例えば、水酸化カリウム、トリエチルアミンなどのpH調整剤が挙げられる。pH調整剤を含むことで、磁性粒子の分散性を制御することができる。
【0029】
〔2.分子内にジエン骨格、シリコーン骨格、ウレタン骨格、環員数4〜7のラクトン骨格、炭素数が6〜30のアルキル基、及び炭素数が6〜30のアルキレン基からなる群より選択される少なくとも1種の部分構造(特定部分構造)を含む樹脂又はその前駆体〕
本開示の樹脂組成物は、分子内に特定部分構造を含む樹脂又はその前駆体を含む。特定部分構造としての、ジエン骨格、シリコーン骨格、ウレタン骨格、環員数4〜7のラクトン骨格、炭素数が6〜30のアルキル基、及び炭素数が6〜30のアルキレン基からなる群より選択される少なくとも1種の部分構造を含むことで、樹脂又はその前駆体は、特定部分構造に起因して、樹脂内部に所謂ソフトセグメントを有することになる。樹脂組成物における樹脂の硬化に際して形成される架橋などの結合構造の間にソフトセグメントが存在することにより、結合構造間の距離が適度な範囲に調整され、それぞれの結合構造の間隙に磁性粒子が保持される。このため、樹脂の硬化時に、溶媒又は分散媒の減少、硬化反応の進行などにより発生が懸念される磁性粒子の凝集、或いは、磁性粒子に界面活性剤を介して吸着する分散媒に起因する硬化阻害の発生が抑制されると考えられる。
また、樹脂組成物が熱可塑性樹脂を含む場合には、加熱により溶媒が除去される際に、熱可塑性樹脂の分子内に存在するソフトセグメントの領域に磁性粒子が互いに離間して保持され、溶媒又は分散媒の減少、硬化反応の進行に伴って生じる磁性粒子の凝集が抑制されると考えられる。
【0030】
樹脂又はその前駆体が特定部分構造を有していれば、特定部分構造は樹脂のいずれの部分に含まれてもよい。
即ち、特定部分構造は、樹脂の主骨格に含まれてもよく、樹脂が側鎖構造を有する場合、側鎖に含まれてもよい。
また、特定部分構造は、樹脂中に後から導入されてもよい。具体的には、樹脂の原料となる樹脂前駆体に特定部分構造が含まれることで、樹脂の形成時に樹脂の分子内に特定部分構造が導入されてもよい。また、特定部分構造は、樹脂の主骨格に高分子反応により導入されてもよい。
【0031】
(特定部分構造)
1.ジエン骨格
本明細書におけるジエン骨格は、骨格中に2つの二重結合を有する構造を指す。
ジエン骨格を有する化合物としては、共役ジエン化合物の単独重合体、共重合体、及びその部分水添物;ゴム成分などが挙げられる。ゴム成分としては、例えば、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、カルボキシ基末端変性ブタジエンニトリルゴム(CTBN)、ブタジエンゴム、アクリルゴムなどのゴム成分が挙げられる。これらの中で、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、及びカルボキシ基末端変性ブタジエンニトリルゴム(CTBN)が好ましい。
【0032】
2.シリコーン骨格
本明細書におけるシリコーン骨格は、シロキサン結合を有する構造を指す。シロキサン結合は、−Si−O−単位を意味する。本明細書においてはこの単位が1〜1000繰り返したものを有することが好ましい。シロキサン結合を有していればよいため、シロキサン結合に有機基が結合したオルガノポリシロキサンも含まれる。有機基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、ビニル基、アリル基などのアルケニル基、フェニル基、トリル基などのアリール基などが挙げられる。これらの中でビニル基含有オルガノポリシロキサンが好ましい。
【0033】
3.ウレタン骨格
本明細書におけるウレタン骨格は、主鎖中にウレタン結合を含む構造を指す。ウレタン結合は、ポリイソシアネートとポリオールとの反応によって得られる。ポリイソシアネートとしては、TDI(トルエンジイソシアネート)、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、NDI(ナフタレンジイソシアネート)、TODI(トリジンジイソシアネート)、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)、IPDI(イソホロンジイソシアネート)などが挙げられる。ポリオールとしてはポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリルポリオール、ポリヒドロキシアルカン、天然油ポリオール、ポリウレタンポリオールなどが挙げられる。
【0034】
4.環員数4〜7のラクトン骨格
本明細書におけるラクトン骨格は、環内にエステル基をもつ構造を指す。環員数が4〜7のラクトン骨格としては、β−プロピオラクトン(4)γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン(5、6)、δ−カプロラクトン、ε−カプロラクトン(6、7)などが挙げられる。前記ラクトン骨格の中でも、ε−カプロラクトンが好ましい。なお、前記化合物に併記したかっこ( )内の数字は、ラクトン骨格の環員数を示している。
【0035】
5.炭素数が6〜30のアルキル基、及び炭素数が6〜30のアルキレン基
特定部分構造としてのアルキル基及びアルキレン基における炭素数は6以上であり、7以上が好ましい。また、アルキル基及びアルキレン基における炭素数は、30以下であり、24以下が好ましく、18以下がより好ましい。
特定部分構造としてのアルキル基又はアルキレン基は、炭素数が上記の範囲であれば、直鎖状であってもよく、分枝鎖を有していてもよい。
特定部分構造としてのアルキル基及びアルキレン基における炭素数は、6〜24が好ましく、7〜24がより好ましく、7〜18がさらに好ましい。
炭素数が6〜30のアルキル基としては、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、エイコシル基、ドコシル基、テトラコシル基、オクタコシル基、トリアコンチル基などが挙げられる。
炭素数が6〜30のアルキレン基としては、ヘキシレン基、オクチレン基、デシレン基、ドデシレン基、ヘキサデシレン基、エイコシレン基、ドコシレン基、テトラコシレン基、オクタコシレン基、トリアコンチレン基などが挙げられる。
【0036】
既述のアルキル基及びアルキレン基は、それぞれ置換基を有していてもよい。
例えば、置換基として酸基を有するアルキル基である脂肪酸及びその誘導体由来の部分構造も、本明細書における特定部分構造に含まれる。
前記特定部分構造に含まれる脂肪酸は、飽和脂肪酸でもよく、不飽和脂肪酸でもよい。
また、不飽和脂肪酸を二量化したダイマー酸由来の部分構造及び不飽和脂肪酸を三量化したトリマー酸由来の部分構造からなる群より選ばれる少なくとも1種も前記特定部分構造に含まれる。
特定部分構造を形成しうる不飽和脂肪酸を含む化合物としては、例えば、リンデル酸、ツズ酸、フィセトレイン酸、ミリストレイン酸、ゾーマリン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、ガドレン酸、ゴンドウ酸、鯨油酸、エルカ酸、ブラシジン酸、セラコレイン酸、リノール酸、リノエライジン酸、リノレン酸、エレオステアリン酸などが挙げられる。
【0037】
本開示の樹脂組成物における樹脂又はその前駆体は、特定部分構造を有する以外には、特に制限はなく、樹脂組成物及びその硬化物である樹脂組成物成形体の使用目的に応じて適宜選択することができる。
樹脂組成物に含まれる樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。
【0038】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。なかでも、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、及びポリウレタン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の熱硬化性樹脂又はその前駆体が好ましい。
【0039】
熱可塑性樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、オレフィン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂、テフロン(登録商標)などのポリテトラフルオロエチレン樹脂などが挙げられる。なかでも、オレフィン樹脂、及びアクリル樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂が好ましい。
【0040】
その他の、特定部分構造の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの炭素数2〜5のアルキレン基を含むポリアルキレングリコール;炭素数2)〜5のアルキレン基を含むポリオキシアルキレングリコールなどの長鎖ポリオール;(メタ)アクリレートと、エチレン、酢酸ビニル及び(メタ)アクリル酸エステルから選ばれるラジカル重合性モノマーと、の共重合体などが挙げられる。
【0041】
特定部分構造は、前記熱硬化性樹脂又は前記熱可塑性樹脂の前駆体に含まれてもよい。樹脂の前駆体が特定部分構造を含むことで、前記樹脂の前駆体により得られた樹脂は、分子内に特定部分構造を有する。
特定部分構造を有する樹脂の前駆体としては、例えば、ポリオール、及びアルケニル基含有オルガノポリシロキサンなどが挙げられる。
ポリオールはウレタン樹脂の前駆体である。ポリオールとしてはポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルアミドポリオール、アクリルポリオール、ポリヒドロキシアルカン、天然油ポリオール、ポリウレタンポリオールなどが挙げられる。
アルケニル基含有オルガノポリシロキサンはシリコーン樹脂の前駆体である。前記アルケニル基としては、ビニル基、アリール基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基などが挙げられる。
なお、本明細書では、特定部分構造を含む樹脂又はその前駆体を、単に、「樹脂又はその前駆体」と称することがある。また、特定部分構造を含む樹脂又はその前駆体を、当該樹脂名又は特定部分構造の名称を付した変性樹脂名として記載することがある。
【0042】
樹脂組成物を、耐熱性を重視する用途に用いる場合、得られる樹脂組成物成形体の強度の観点から、特定部分構造を含む樹脂は、特定部分構造を含むエポキシ樹脂、及び特定部分構造を含むシリコーン樹脂が好ましい。
特定部分構造を含むエポキシ樹脂としては、例えば、脂肪族変性エポキシ樹脂、ブタジエン系エポキシ樹脂;カプロラクトン変性エポキシ樹脂;NBR、CTBN、ポリブタジエン、アクリルゴムなどのゴムを特定部分構造として有するゴム変性エポキシ樹脂;シリコーン変性エポキシ樹脂;ダイマー酸変性エポキシ樹脂;トリマー酸変性エポキシ樹脂;ウレタン変性エポキシ樹脂;ポリオール変性エポキシ樹脂などが挙げられる。
特定部分構造を含むシリコーン樹脂としては、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンを付加反応させたシリコーン樹脂、高級脂肪酸変性シリコーン樹脂などが挙げられる。
【0043】
特定部分構造を有する樹脂は、樹脂組成物を粘着剤として用いる場合には、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などを含むことが好ましい。
特定部分構造を有するアクリル樹脂としては、例えば、(メタ)アクリレートとエチレン、酢酸ビニルもしくは(メタ)アクリル酸エステルなどのラジカル重合性モノマーを含む共重合体を挙げることができる。
特定部分構造を有するウレタン樹脂としては、前記長鎖ポリオールを特定部分構造として含むものを挙げることができる。
特定部分構造を有するエポキシ樹脂としては、樹脂組成物を、耐熱性を重視する用途に用いる場合に挙げた例と同じエポキシ樹脂を挙げることができる。
【0044】
樹脂組成物は、特定部分構造を含む樹脂又はその前駆体を1種のみ含んでもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0045】
(特定部分構造を含まない樹脂又はその前駆体)
樹脂組成物には、特定部分構造を含まない樹脂又はその前駆体(以下、他の樹脂と称することがある)を含んでもよい。
他の樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などであって、既述の特定部分構造を含まない樹脂が挙げられる。
【0046】
樹脂組成物に樹脂又はその前駆体を含有させる際の、樹脂又はその前駆体の形態には特に制限はない。樹脂又はその前駆体は、ペレット状、粉体状などの固体の形態で含有させてもよく、液状の形態で含有させてもよい。
例えば、樹脂の前駆体は低分子量であり液状の形態をとることがある。また、液状の形態の樹脂としては、加熱溶融して液状とした樹脂、適切な溶媒で溶解させて液状とした樹脂などを挙げることができる。
【0047】
(樹脂又はその前駆体の含有量)
特定部分構造を含む樹脂及びその前駆体の合計含有量は、樹脂組成物に含まれる樹脂及びその前駆体の全質量に対して質量比で10質量%以上100質量%以下であることが好ましく、15質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。
特定部分構造を含む樹脂及びその前駆体の合計含有量が、樹脂組成物に含まれる樹脂又はその前駆体の全質量に対して、10質量%以上であることで、磁性流体において磁気特性を発現する磁性粒子が、磁性流体中で分散媒に分散された場合と同様に、樹脂組成物中においても、樹脂母材中で、互いに間隔を置いて均一に分散され、樹脂組成物及び樹脂組成物の硬化物が超常磁性を発現し易くなるため好ましい。
【0048】
(磁性粒子の含有量)
本開示の樹脂組成物における磁性粒子の含有量は、樹脂組成物の使用目的により、適宜選択される。
例えば、樹脂組成物を硬化させてなる樹脂組成物成形体をセンサなどに使用する場合には、樹脂組成物成形体全量に対する磁性粒子の含有量は、50質量%〜80質量%であることが好ましい。また、樹脂組成物を磁性塗料、磁性を有する接着剤などに用いる場合には、20質量%〜40質量%の範囲であることが好ましく、磁性インクに用いる場合には、5質量%〜15質量%であることが好ましい。
【0049】
(分散媒の含有量)
本開示の樹脂組成物の全質量に対する分散媒の含有量は、5質量%以下であることが好ましい。分散媒の含有量が5質量%以下であることで、樹脂組成物を成形体の製造に使用する場合、硬化性がより良好となる。
また、樹脂組成物全量に対する分散媒の含有量が5質量%以下であることで、樹脂組成物成形体を形成する際においてボイドの発生が抑制される。
【0050】
〔3.その他の成分〕
樹脂組成物には、磁性流体と、特定部分構造を含む樹脂又はその前駆体と、に加え、効果を損なわない限り、目的に応じて種々の成分(その他の成分)を含有することができる。
その他の成分としては、例えば、硬化剤、硬化促進剤、架橋剤、軟化剤、着色剤、充填剤、離型剤、難燃剤などが挙げられる。
【0051】
樹脂組成物は、硬化剤及び架橋剤から選ばれる少なくとも1種を含有することができる。
樹脂組成物が、硬化剤及び架橋剤から選ばれる少なくとも1種を含有することで、樹脂組成物に含まれる樹脂の硬化反応が促進される。
硬化剤又は架橋剤は、用いる樹脂又はその前駆体に適する化合物を選択して用いればよい。
樹脂組成物に用い得る硬化剤としては、例えば、アミン系化合物、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、尿素系化合物、酸無水物系化合物、アミド系化合物、ヒドラジド系化合物、フェノール系化合物、ポリスルフィド系化合物などが挙げられる。
樹脂組成物に用い得る架橋剤としては、例えば、硫黄、硫黄化合物類、セレン、酸化マグネシウム、一酸化鉛、有機過酸化物、ポリアミン、オキシム、ニトロソ化合物、アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド縮合物、アンモニウム塩、H−Si基含有オルガノポリシロキサンなどが挙げられる。
硬化剤の含有量としては、用いられる樹脂又はその前駆体全体に含まれる官能基1当量に対して、0.6当量〜1.2当量であることが好ましい。
【0052】
本開示の樹脂組成物の製造方法には特に制限はない。既述の樹脂組成物は、例えば、下記本開示の樹脂組成物の製造方法により製造することが好ましい。
以下、本開示の樹脂組成物の製造方法について説明する。
【0053】
[樹脂組成物の製造方法]
本開示の樹脂組成物は、磁性粒子、分散剤、及び分散媒を含有する磁性流体と、分子内にジエン骨格、シリコーン骨格、ウレタン骨格、環員数4〜7のラクトン骨格、炭素数が6〜30のアルキル基、及び炭素数が6〜30のアルキレン基からなる群より選択される少なくとも1種の部分構造を含む樹脂又はその前駆体と、を含む樹脂混合物を調製する工程(工程A)と、得られた樹脂混合物を加熱して分散媒を除去する工程(工程B)と、を含む樹脂組成物の製造方法により製造することができる。
【0054】
〔1.工程A〕
工程Aでは、磁性流体と、特定部分構造を含む樹脂又はその前駆体と、所望により含有されるその他の成分と、を所定量計量して容器に入れ、十分に撹拌混合して樹脂混合物を調製する。
樹脂混合物の調製方法における工程Aは、例えば、磁性流体に、特定部分構造を含む樹脂又はその前駆体と、所望により含有されるその他の成分とを投入し、撹拌して、混合することを含む。樹脂混合物における、磁性流体、特定部分構造を含む樹脂又はその前駆体の含有量は、目的とする樹脂組成物、樹脂組成物成形体の物性に応じて適宜選択される。
一般的には、磁性流体100質量部に対して、特定部分構造を含む樹脂又はその前駆体を20質量部〜500質量部含有することが好ましい。
【0055】
〔2.工程B〕
工程Bは、前記工程Aで得られた樹脂混合物を加熱して前記分散媒を除去すること、及び分散媒を除去した後、冷却して樹脂組成物を得ることを含む。工程Bにより、樹脂混合物中の分散媒の含有量が低減されることで、その後、所望により実施される樹脂組成物成形体の製造がより容易となる。
分散媒を除去する方法には特に制限はなく、例えば、樹脂混合物を、分散媒の沸点近傍、又は沸点以上の温度で加熱して分散媒を蒸発除去する方法などが挙げられる。
【0056】
加熱温度、及び加熱時間は、磁性流体に含まれる分散媒の物性に応じて適宜選択される。
一般的には、磁性流体の分散媒としては、水、水とイソパラフィンなどの有機溶剤との混合物、イソパラフィンなどの有機溶剤などが使用される。従って、分散媒を除去する際の加熱温度は、60℃〜100℃の範囲が好ましく、80℃〜90℃の範囲がより好ましい。
加熱時間は、10分間〜60分間が好ましく、20分間〜40分間がより好ましい。工程Bでは、加熱中に撹拌を継続して行うことが、分散媒の効率的な除去の観点から好ましい。
工程Bでは、樹脂混合物中の分散媒を減量し、除去する。分散媒は樹脂混合物から完全に除去する必要はなく、工程Bを経て得られる樹脂組成物の硬化性を損なわない程度の量であれば、分散媒が樹脂混合物中に残存していてもよい。効果の観点からは、工程Bにおいて、工程Aにおいて得られた樹脂組成物を調製した際に含まれる分散媒全量の95質量%以上を除去することが好ましい。
工程Bを経て得られた樹脂組成物における分散媒の含有量は、既述の如く、樹脂組成物全量に対し、5質量%以下であることが好ましい。
【0057】
加熱後の樹脂混合物の冷却は、樹脂混合物の温度が、室温(25℃)になるまで行うことが好ましい。冷却方法には特に制限はない。冷却方法としては、樹脂混合物を室温に放置して放冷する方法が挙げられる。
【0058】
本開示の樹脂組成物の製造方法は、既述の工程A及び工程Bを有する。樹脂組成物の使用目的に適する物性を樹脂組成物に付与するため、効果を損なわない限り、上記以外の、その他の工程を含んでいてもよい。
その他の工程としては、工程Bにおいて分散媒が除去された樹脂組成物に、硬化剤などの、既述のその他の添加剤を含有させる工程(工程C)が挙げられる。また、例えば、樹脂組成物に着色剤を含有させる場合、混合物を調製する工程(工程A)に先だって、着色剤と特定部分構造を含む樹脂又はその前駆体とを混合する工程(工程D)を含んでいてもよい。
【0059】
〔3.任意の工程〕
(工程C)
工程Cは、所望により設けられる工程であり、前工程Bを経て得られた樹脂組成物に硬化剤などの任意の添加剤を含有させる工程である。
【0060】
(樹脂組成物に含まれるその他の成分)
樹脂組成物には、既述のように、その他の成分を含有することができる。
樹脂組成物に用いうるその他の成分を含有させるタイミングは、その他の成分の特性、含有させる目的に応じて適宜、選択される。
その他の成分は、工程Aにおいて樹脂混合物に含有させてもよく、工程Aに先だって、混合物調整前の特定部分構造を含む樹脂又はその前駆体に含有させてもよく(工程D)、後述する成形体を形成する工程において、成形に使用する樹脂組成物に含有させてもよい(工程C)。
例えば、着色剤などは、均一性の観点から、混合物を調製する工程において樹脂混合物に含有させるか、或いは、混合物を調製する前の樹脂又はその前駆体に含有させることが好ましい。
その他の成分としての離型剤は、成形体の脱型性向上に有用である。離型剤に代表される樹脂組成物成形体の製造適性、物性に寄与するその他の成分などのなかには、混合物を調製する工程Aにて樹脂混合物に含有させるよりも、後述する成形体を形成する工程において、樹脂組成物に含有させることが好ましい成分もある。
本開示の樹脂組成物の製造方法により得られた磁性粒子を含む樹脂組成物は、磁気ヒステリシスを有さず、超常磁性を維持していることから、成形体の作製に有用である。
【0061】
[樹脂組成物成形体]
本開示の樹脂組成物成形体は、既述の本開示の樹脂組成物の硬化物である。樹脂組成物成形体は、磁性流体を含有する本開示の樹脂組成物が有する優れた超常磁性を備える成形体となる。
【0062】
[樹脂組成物成形体の製造方法]
本開示の樹脂組成物成形体は、磁性粒子、分散剤及び分散媒を含有する磁性流体と、分子内にジエン骨格、シリコーン骨格、ウレタン骨格、環員数4〜7のラクトン骨格、炭素数が6〜30のアルキル基、及び炭素数が6〜30のアルキレン基からなる群より選択される少なくとも1種の部分構造を含む樹脂又はその前駆体と、を含む樹脂混合物を調製する工程(工程A)と、前記樹脂混合物を加熱して前記分散媒を除去する工程(工程B)と、分散媒を除去した樹脂混合物を加熱成形する工程(工程E)と、を含む製造方法により製造することができる。
なお、本発明の樹脂組成物成形体の製造方法における樹脂混合物を調製する工程(工程A)、分散媒を除去する工程(工程B)、及び所望により実施される硬化剤などの添加物を含有させる工程(工程C又は工程D)は、既述の、本開示の樹脂組成物の製造方法における工程A〜工程Dと、それぞれ同様である。
【0063】
(工程E)
工程Eでは、前記工程B、さらには、所望により実施される硬化剤を含有させる工程(工程C)を経て得られた樹脂組成物を、樹脂組成物に含まれる樹脂又はその前駆体の特性に応じて加熱し、成形して、目的とする樹脂組成物成形体を得る。
【0064】
樹脂組成物成形体の成形方法としては、使用する樹脂又はその前駆体の特性に応じて、各種の成形方法を採用することができる。
成形方法としては、例えば、注型成形、圧縮成形、ディッピング成形などが包含される。このような成形法で得られる樹脂組成物成形体の形状についても特に制限はない。
加熱温度と加熱時間は、樹脂組成物に含有される樹脂又はその前駆体の特性に応じて調整される。
【0065】
成形体を形成する工程Eでは、樹脂組成物に、目的に応じて既述の「その他の成分」をさらに含有させることができる。
例えば、樹脂組成物成形体を、金型を用いて形成する場合には、樹脂組成物に離型剤を含有させることが好ましい。
【0066】
本開示の樹脂組成物成形体の製造方法により得られた、磁性流体を含有する樹脂組成物成形体は、優れた超常磁性を維持しているため、種々の用途に好適に使用しうる。
【実施例】
【0067】
以下、本開示の樹脂組成物等について、実施例を挙げて説明するが、本実施形態はこれらの実施例によって、何ら限定されるものではない。なお、以下、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を表す。
【0068】
[実施例1]
1.樹脂組成物の調製
磁性流体(A1、商品名:EXP.12038、フェローテック社製、分散剤が被覆された磁性粒子(平均粒子径:15nm、磁性粒子:マグネタイト、分散剤:オレイン酸ナトリウム)、分散媒:イソパラフィン、分散媒の含有率80%)を3gと、特定部分構造としてのNBRを有するエポキシ樹脂(B1、NBR変性エポキシ樹脂(商品名:EPR2000、アデカ社製、エポキシ当量215g/当量)7gをアルミニウム製の容器内にて撹拌し、樹脂混合物を得た(工程A)。
得られた樹脂混合物を、アルミニウム製容器内で撹拌しながら、温度80℃まで加熱して、温度を80℃に維持しながら30分間加熱混合した。加熱により磁性流体中の分散媒が除去され、樹脂混合物の重量が7.7gとなった。このことから、工程Aにおいて、分散媒の95.8質量%以上が除去されたと考えられる。
得られた樹脂混合物を放冷にて、室温(25℃)となるまで冷却した後、硬化剤(D1:ポリアルキレンオキシジアミン、商品名:ジェファーミンD−230、ハンツマン社製)1.96gを添加して、樹脂組成物9.66gを得た(工程B)。
得られた樹脂組成物における磁性粒子の含有量は、樹脂組成物全量に対し、25質量%であった。また、以下のようにして、樹脂組成物に含有される分散媒の含有量を測定したところ、1.0質量%であった。
【0069】
(分散媒の含有量の測定方法)
樹脂組成物に含有される分散媒の含有量は、以下の方法により測定した。
(1)工程Aで得た樹脂混合物の質量(g)を測定した。その後、80℃に維持しながら30分間加熱混合した後の樹脂混合物の質量(g)を測定した。測定値の差を分散媒の減少量(g)とした。
(2)工程Aで用いた磁性流体の全質量に対する分散剤の含有率は80質量%であるため、以下の式により磁性流体における分散媒の含有量、即ち、樹脂混合物に含まれる分散媒の含有量(g)を算出した。
樹脂混合物に含まれる分散媒の含有量(g)=磁性流体の含有量(g)×0.8
(3)得られた樹脂混合物に含まれる分散媒の含有量(g)と、既述の分散媒の減少量(g)から、以下の式により、工程(B)における樹脂組成物中の分散剤の含有量(%)を決定した。
工程(B)における樹脂組成物に含まれる分散媒の含有量(g)=〔磁性流体の含有量(g)×0.8〕‐〔分散媒の減少量(g)〕
(4)得られた値より、以下の式に従い、工程(B)における樹脂組成物中の分散剤の含有量(%)を決定した。
工程(B)で得た樹脂組成物に対する分散媒の含有率(%)=〔80℃で加温後の分散媒の含有量(g)/80℃で加温後の樹脂混合物の量(g)〕×100
【0070】
2.樹脂組成物の相溶性の評価
樹脂組成物の相溶性(均一性)を、以下の基準にて評価した。結果を表1に示す。
その結果、実施例1の樹脂組成物は、相溶性が良好であり、樹脂組成物を調製し、1週間経過した後も、均一な組成物であった。
−評価基準−
A:調製し、1週間経過後も相溶性が良好であり均一な組成物である。
B:調製後2日間は、相溶しているが、1週間経過した後は、凝集分離が観察された。
C:調製後2日未満で凝集分離した。
【0071】
3.磁気ヒステリシスの測定
工程Bで得られた樹脂組成物について、振動試料型磁力計(VSM)VSM−5−15型(東英工業(株)製)により、磁化(磁気分極)M[T]と、磁界の強さH[A/m]との関係を表すM−H曲線を測定し、下記定数を適用し、磁束密度B[T]と、磁界の強さH[A/m]との関係を表すB−H曲線に変換して、B−H曲線を観察することで磁気ヒステリシスの有無を観察した。
B=μ
0H+M
上記式中、μ
0は真空の透磁率と称され、4π×10
−7(H/m)の定数である。
なお、磁気ヒステリシスの測定は、相溶性の評価でAまたはBの評価のものについてのみ実施した。
−評価基準−
A:B−H曲線において磁気ヒステリシスは観察されなかった。
B:B−H曲線において磁気ヒステリシスが観察された。
その結果、実施例1の樹脂組成物は、磁気ヒステリシスは観察されず、磁気特性に優れることがわかった。
【0072】
4.樹脂組成物成形体の作製
得られた樹脂組成物5gを金型に投入して、金型ごと、恒温槽中に入れて、80℃にて1時間、樹脂組成物を硬化させた。硬化後に脱型して樹脂組成物成形体を得た(工程E)。
【0073】
5.樹脂組成物の硬化性の評価
工程Eにおける樹脂組成物成形体の作製に際し、樹脂組成物の硬化性を、以下の基準にて評価した。結果を表1に示す。
−評価基準−
A:硬化して樹脂組成物成形体が得られる。
B:硬化せず、樹脂組成物成形体が得られない。
その結果、実施例1の樹脂組成物は硬化性が良好であり、樹脂組成物成形体が得られた。
【0074】
[実施例2〜実施例7]
磁性流体、樹脂又はその前駆体、硬化剤及び添加剤の種類と含有量とを、下記表1に記載の如く変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂混合物と樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を用いて、実施例1と同様にして樹脂組成物成形体を得た。
得られた樹脂混合物及び樹脂組成物成形体を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
なお、表1に記載の各成分は以下のものである。
B2:CTBN変性エポキシ樹脂(商品名:TSR960、DIC社製、エポキシ当量230g−250g/当量、特定部分構造:CTBN)
B3:ダイマー酸変性エポキシ樹脂、商品名:B−Tough A2、クローダジャパン社製、特定部分構造:オレイン酸を二量化したダイマー酸)
B4:ビスフェノールF型エポキシ樹脂とビスフェノールA型エポキシ樹脂の50:50混合物、商品名:ZX−1059、新日鐵住金化学社製、エポキシ当量165g/当量)
B5:ポリエーテルポリオール(商品名:パンデックスGCB41、DIC社製)
B6:ビニル基含有オルガノポリシロキサン(YE5822A、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)
D2:ヘキサメチレンジイソシアネート(商品名:パンデックスGCA11、DIC社製)
D3:H−Si基含有オルガノポリシロキサン(YE5822B、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)
【0075】
[比較例1]
実施例1で用いた特定部分構造を含む熱硬化性樹脂(B1)7gに代えて、ダイマー酸(C1:商品名:ツノダイム395、築野食品工業社製)7gを含有させ、硬化剤を用いなかった以外は、実施例1と同様にして比較例1の樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。なお、均一な組成物が得られなかったため、磁気ヒステリシスの評価、及び樹脂組成物硬化体の作製は実施しなかった。
【0076】
[比較例2]
実施例1で用いた特定部分構造を含む熱硬化性樹脂(B1)7gに代えて、特定部分構造を含まない熱硬化性樹脂(B4)6gとダイマー酸(C1)1gを用いた以外は、実施例1と同様にして比較例2の樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。なお、均一な組成物が得られなかったため、磁気ヒステリシスの評価、及び樹脂組成物硬化体の作製は実施しなかった。
【0077】
[比較例3]
実施例1で用いた特定部分構造を含む熱硬化性樹脂(B1)7gに代えて、特定部分構造を含まない熱硬化性樹脂(B4)7gを用いた以外は、実施例1と同様にして比較例3の樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。なお、均一な組成物が得られなかったため、磁気ヒステリシスの評価、及び樹脂組成物硬化体の作製は実施しなかった。
【0078】
【表1】
【0079】
上記表1の組成において、空欄は、当該成分が含有されていないことを表す。
表1に記載のように、実施例1〜実施例6の樹脂組成物は、磁性流体と樹脂との相溶性が良好であり、均一な樹脂組成物であった。また、実施例1〜実施例6の樹脂組成物は、いずれも、磁気ヒステリシスは観測されなかった。実施例7の樹脂組成物は、他の実施例と比較すると相溶性が若干劣ることが理解できるが、実用上は問題のないレベルの相溶性及び硬化性を示し、かつ、磁気ヒステリシスが観測されないことがわかる。
なお、各実施例の樹脂組成物は、樹脂組成物中に磁性粒子が均一に分散されているため磁気ヒステリシスが観測されないと考えられる。従って、硬化剤又は架橋剤を含む各実施例の樹脂組成物をそのまま硬化させて得られた樹脂組成物成形体は、硬化前の樹脂組成物と同様に、磁気ヒステリシスは観察されないことが理解できる。
【0080】
一方、特定部分構造を含む樹脂に代えて、ダイマー酸単体を含む比較例1の樹脂組成物、分子内に特定部分構造を含まない樹脂とダイマー酸とをそれぞれ独立に含む比較例2の樹脂組成物及び特定部分構造を含まない熱硬化性樹脂のみを含む比較例3は、いずれも磁性流体と樹脂との相溶性が不十分であり、均一な樹脂組成物成形体を得られなかった。
また、実施例1と比較例2との対比より、特定部分構造を含まない樹脂と特定部分構造を含むモノマーとを併用した樹脂混合物を用いても、特定部分構造を分子内に含む樹脂を用いた場合の如き効果は得られないことがわかる。