特許第6851394号(P6851394)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6851394エレベーターのリニューアル方法およびエレベーター制御盤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6851394
(24)【登録日】2021年3月11日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】エレベーターのリニューアル方法およびエレベーター制御盤
(51)【国際特許分類】
   B66B 7/00 20060101AFI20210322BHJP
   B66B 3/00 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   B66B7/00 K
   B66B3/00 U
【請求項の数】16
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-556160(P2018-556160)
(86)(22)【出願日】2016年12月16日
(86)【国際出願番号】JP2016087666
(87)【国際公開番号】WO2018109946
(87)【国際公開日】20180621
【審査請求日】2019年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルテクノサービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194939
【弁理士】
【氏名又は名称】別所 公博
(72)【発明者】
【氏名】奥田 清治
(72)【発明者】
【氏名】吉村 丘
(72)【発明者】
【氏名】田中 麦平
【審査官】 八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05352857(US,A)
【文献】 特開2006−206196(JP,A)
【文献】 特開2013−155013(JP,A)
【文献】 特開平11−349253(JP,A)
【文献】 特開昭62−196290(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/001495(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 7/00
B66B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設のエレベーターの少なくとも一部の機器をリニューアルする際に、リニューアル工事内容を、それぞれの分割施工ステップの終了後にはエレベーターが通常運転可能な状態となる単位で、一連の分割施工ステップとして分割し、前記一連の分割施工ステップに従ってリニューアル工事を実施する、エレベーターのリニューアル方法であって、
前記一連の分割施工ステップのうちの1つである第1の分割施工ステップは、
前記既設のエレベーターの旧制御盤を新制御盤に取り替える工程と、
前記新制御盤が採用する新通信方式を、旧制御盤が採用していた旧通信方式に変換する機能を有する通信変換部を設ける工程と、
旧機器を前記通信変換部に接続し、前記新通信方式を採用する前記新制御盤が、前記通信変換部を介して変換された前記旧通信方式により前記旧機器を制御可能な状態とし、リニューアル工事期間中における前記第1の分割施工ステップの終了後に前記エレベーターを通常運転可能な状態とする工程と、
を含むエレベーターのリニューアル方法。
【請求項2】
前記一連の分割施工ステップは、
それぞれの分割施工ステップがさらにリニューアル工事期間中のリニューアル工事日毎に連続で確保できる、一連の工事時間のそれぞれで完了するように分割されている
請求項1に記載のエレベーターのリニューアル方法。
【請求項3】
前記第1の分割施工ステップ内の、前記通信変換部を設ける工程では、前記通信変換部を前記新制御盤に設ける
請求項1に記載のエレベーターのリニューアル方法。
【請求項4】
前記第1の分割施工ステップ内の、前記エレベーターを通常運転可能な状態とする工程では、
一端が前記旧機器に接続された旧ケーブルの他端を、前記通信変換部に接続することで、前記旧機器を前記通信変換部に接続し、
前記リニューアル工事期間中における前記第1の分割施工ステップの終了後に前記旧ケーブルを流用して前記エレベーターを通常運転可能な状態とする
請求項1に記載のエレベーターのリニューアル方法。
【請求項5】
前記第1の分割施工ステップに続く第2の分割施工ステップは、
前記旧機器を新機器に取り替える工程と、
前記旧ケーブルを新ケーブルに取り替え、前記通信変換部を介さずに、前記新制御盤と前記新機器との間を前記新ケーブルにより接続する工程であって、前記新制御盤が、前記旧通信方式とは少なくともデータの伝送速度が異なる新通信方式により前記新機器を制御可能な状態とする、工程と、
を含む請求項4に記載のエレベーターのリニューアル方法。
【請求項6】
前記第1の分割施工ステップ内の、前記エレベーターを通常運転可能な状態とする工程では、
前記旧ケーブルの前記他端に接続されているコネクタを、中継ハーネスを介して、前記通信変換部の接続部に接続することで、前記旧機器を前記通信変換部に接続し、
前記第2の分割施工ステップ内の、前記新制御盤と前記新機器との間を前記新ケーブルにより接続する工程では、
前記中継ハーネスを介さずに、前記新ケーブルを前記新制御盤に直接接続する
請求項5に記載のエレベーターのリニューアル方法。
【請求項7】
前記旧機器および前記新機器は、それぞれ、旧かご機器および新かご機器であり、
前記第2の分割施工ステップに続く第3の分割施工ステップは、
前記既設のエレベーターの旧制御盤を新制御盤に取り替えた後に、前記旧制御盤に接続された旧乗場機器・昇降路機器を、新乗場機器・昇降路機器に取り替える工程と、
前記旧かご機器および前記旧乗場機器・昇降路機器を、それぞれ前記新かご機器および新乗場機器・昇降路機器に取り替えた後に、前記旧制御盤に接続された旧巻上機を新巻上機に取り替える工程と、
を含む請求項5に記載のエレベーターのリニューアル方法。
【請求項8】
前記旧機器および前記新機器は、それぞれ、旧乗場機器・昇降路機器および新乗場機器・昇降路機器であり、
前記第2の分割施工ステップに続く第3の分割施工ステップは、
前記既設のエレベーターの旧制御盤を新制御盤に取り替えた後に、前記旧制御盤に接続された旧かご機器を、新かご機器に取り替える工程と、
前記旧かご機器および前記旧乗場機器・昇降路機器を、それぞれ前記新かご機器および新乗場機器・昇降路機器に取り替えた後に、前記旧制御盤に接続された旧巻上機を新巻上機に取り替える工程と、
を含む請求項5に記載のエレベーターのリニューアル方法。
【請求項9】
前記旧通信方式および前記新通信方式は、ともにシリアル通信方式である
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のエレベーターのリニューアル方法。
【請求項10】
旧通信方式とは少なくともデータの伝送速度が異なる新通信方式によりエレベーターの機器を制御するエレベーター制御部と、
前記エレベーター制御部に接続され、前記旧通信方式と前記新通信方式との間で通信方式を相互に変換する通信変換部と、を備え、
前記エレベーター制御部は、前記通信変換部を介して変換された前記旧通信方式によりエレベーターの旧機器を制御可能になっており、
前記通信変換部は、エレベーター制御盤から着脱可能に設けられている
エレベーター制御盤。
【請求項11】
前記通信変換部は、既設のエレベーターの前記旧機器の旧ケーブルと接続され、前記旧ケーブルに適合したコネクタを有する中継ハーネスと一体的に構成されている
請求項10に記載のエレベーター制御盤。
【請求項12】
前記旧通信方式および前記新通信方式は、ともにシリアル通信方式である
請求項10または請求項11に記載のエレベーター制御盤。
【請求項13】
既設のエレベーターの少なくとも一部の機器をリニューアルするエレベーターのリニューアル方法であって、
前記既設のエレベーターの旧制御盤を新制御盤に取り替える工程と、
通信変換部により新通信方式を旧通信方式に通信方式を変換し、旧通信方式により旧機器を制御する工程と、
前記旧機器を新機器に取り替える工程と、
前記新制御盤が、前記通信変換部を介さずに前記新通信方式により前記新機器を制御する工程と、
を有するエレベーターのリニューアル方法。
【請求項14】
既設のエレベーターの少なくとも一部の機器をリニューアルするエレベーターのリニューアル方法であって、
前記既設のエレベーターの旧制御盤を新制御盤に取り替える工程と、
前記既設のエレベーターの旧制御盤との間を接続していた旧機器を、通信変換部に接続する工程と、
前記新制御盤が、前記通信変換部で新通信方式を旧通信方式に通信方式を変換し、旧通信方式により前記旧機器を制御する工程と、
前記旧機器を新機器に取り替える工程と、
前記新制御盤と前記新機器との間を接続する工程と、
前記新制御盤が、前記新通信方式により前記新機器を制御する工程と、
を有するエレベーターのリニューアル方法。
【請求項15】
前記旧機器を制御する工程は、前記新制御盤が、前記通信変換部を介して旧機器を制御することにより、乗客にエレベーター利用を供する通常運転を行う
請求項13または請求項14に記載のエレベーターのリニューアル方法。
【請求項16】
前記旧通信方式および前記新通信方式は、ともにシリアル通信である
請求項13または請求項14に記載のエレベーターのリニューアル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、既設のエレベーターを新規のエレベーターに取り替えるエレベーターのリニューアル方法、およびエレベーターのリニューアルに用いられるエレベーター制御盤に関する。
【背景技術】
【0002】
既設のエレベーターに対して、機器の経年劣化への対応や、省エネルギ等の性能向上を図るために、新規のエレベーターに取り替えるエレベーターのリニューアルが行われている。なお、エレベーターのリニューアル工事期間中は、エレベーターの運転を長期間にわたって連続的に休止する必要がある。
【0003】
そのため、特に高齢者の多いマンションや病院等では、エレベーターの長期間休止がリニューアルの大きな障害となっていた。そこで、エレベーターのリニューアルにおいては、利用者の利便性を考慮して、エレベーターの連続休止期間をなるべく短縮することが求められている。
【0004】
ここで、エレベーターの連続休止期間を短縮するために、旧シリアル伝送方式とは少なくともデータの伝送速度が異なる新シリアル伝送方式の新伝送制御部と、新伝送制御部に接続された新伝送制御用CPUと、乗り場側に設けられた旧シリアル伝送方式の旧伝送制御部に接続された旧伝送制御用CPUと、新伝送制御用CPUおよび旧伝送制御用CPUの双方に接続され、乗り場側の旧伝送変換部から伝送された旧シリアル伝送方式のデータを旧伝送制御用CPUを介して保存するとともに、当該保存されたデータを新伝送制御用CPUを介して新伝送制御部からアクセス可能に保持する一方、新伝送制御部から伝送された新シリアル伝送方式のデータを新伝送制御用CPUを介して保存するとともに、当該保存されたデータを旧伝送制御用CPUを介して乗り場側の旧伝送変換部からアクセス可能に保持するデュアルポートメモリとを含む新旧伝送変換部と、を備えたエレベーター制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5851263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたエレベーター制御装置を用いたエレベーターのリニューアル方法は、既設のエレベーターで使用していた部品を交換せず流用することで、エレベーター制御盤のリニューアルに要する時間を短縮するものであって、既設のエレベーターを新規のエレベーターに取り替えるエレベーターのリニューアルにおいて、エレベーターの連続休止期間の短縮に寄与するものではないという問題がある。
【0007】
また、特許文献1に記載されたエレベーター制御装置は、伝送方式の互いに異なる伝送信号を変換して保持するために、エレベーター制御盤が新伝送制御用CPUおよび旧伝送制御用CPUとデュアルポートメモリとを備える必要があり、構成が複雑になるとともに、コストが高くなるという問題がある。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、エレベーターのリニューアル工事期間中におけるエレベーターの連続休止期間を短縮することができるエレベーターのリニューアル方法を得るとともに、簡素な構成で、コストを低減することができるエレベーター制御盤を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るエレベーターのリニューアル方法は、既設のエレベーターの少なくとも一部の機器をリニューアルする際に、リニューアル工事内容を、それぞれの分割施工ステップの終了後にはエレベーターが通常運転可能な状態となる単位で、一連の分割施工ステップとして分割し、一連の分割施工ステップに従ってリニューアル工事を実施する、エレベーターのリニューアル方法であって、一連の分割施工ステップのうちの1つである第1の分割施工ステップは、既設のエレベーターの旧制御盤を新制御盤に取り替える工程と、新制御盤が採用する新通信方式を、旧制御盤が採用していた旧通信方式に変換する機能を有する通信変換部を設ける工程と、旧機器を通信変換部に接続し、新通信方式を採用する新制御盤が、通信変換部を介して変換された旧通信方式により旧機器を制御可能な状態とし、リニューアル工事期間中における第1の分割施工ステップの終了後にエレベーターを通常運転可能な状態とする工程と、を含むものである。
【0010】
この方法に係るエレベーター制御盤は、旧通信方式とは少なくともデータの伝送速度が異なる新通信方式によりエレベーターの機器を制御するエレベーター制御部と、エレベーター制御部に接続され、旧通信方式と新通信方式との間で通信方式を相互に変換する通信変換部と、を備え、通信変換部は、エレベーター制御盤から着脱可能に設けられているものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エレベーターのリニューアル工事期間中でもエレベーターを利用でき、エレベーターのリニューアル工事期間中におけるエレベーターの連続休止期間を短縮することができるエレベーターのリニューアル方法を得るとともに、簡素な構成で、コストを低減することができるエレベーター制御盤を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】この発明の実施の形態1に係るエレベーターのリニューアル方法が適用されるエレベーター装置を示す構成図である。
図2】この発明の実施の形態1に係るエレベーターのリニューアル方法における各分割施工ステップのリニューアル内容および主な取り替え機器を示す説明図である。
図3】この発明の実施の形態1に係るエレベーターのリニューアル方法が適用されるエレベーター装置における初期状態を示すブロック構成図である。
図4】この発明の実施の形態1に係るエレベーターのリニューアル方法が適用されるエレベーター装置における制御盤取り替え後の状態を示すブロック構成図である。
図5】この発明の実施の形態1に係るエレベーター制御盤における通信変換基板を示すハードウェア構成図である。
図6】この発明の実施の形態1に係るエレベーターのリニューアル方法が適用されるエレベーター装置における乗場機器およびかご機器取り替え後の状態を示すブロック構成図である。
図7】この発明の実施の形態1に係るエレベーターのリニューアル方法が適用されるエレベーター装置におけるケーブルの接続関係を示す説明図である。
図8】この発明の実施の形態1に係るエレベーターのリニューアル方法が適用される新エレベーター装置と旧バッテリー装置盤との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明に係るエレベーターのリニューアル方法、およびエレベーターのリニューアルに用いられるエレベーター制御盤の好適な実施の形態につき図面を用いて説明するが、各図において同一、または相当する部分については、同一符号を付して説明する。なお、これ以降、エレベーター制御盤を単に制御盤とも称する。
【0014】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係るエレベーターのリニューアル方法が適用されるエレベーター装置を示す構成図である。図1において、機械室1には、巻上モータを含む巻上機2、制御盤3および調速機4が設けられており、昇降路5には、かご6、釣り合いおもり7、かご6と釣り合いおもり7とを連結する主索8、ガイドレール9および終点スイッチ10が設けられており、かご6には、ドアモータを含むドア駆動装置11およびかご操作盤12が設けられており、乗場13には、乗場操作盤14が設けられており、ピット15には、緩衝器16が設けられている。制御盤3とかご上ステーション18との間は、移動ケーブル17で接続され、かご上ステーション18とかご機器とが接続されている。なお、かご上ステーション18は、ドアの開閉制御その他かご機器との中継機能を有する。
【0015】
ここで、かご機器とは、ドア駆動装置11、かご操作盤12、かご上ステーション18等のかご周りの機器のことをいう。また、乗場機器とは、乗場操作盤14等の乗場周りの機器のことをいう。また、昇降路機器とは、終点スイッチ10および図1に示していない昇降路ケーブル等のことをいう。
【0016】
なお、この発明の実施の形態1では、エレベーターのリニューアル工事期間中におけるエレベーターの連続休止期間を短縮するために、リニューアル工事を複数の分割施工ステップに分割するとともに、各分割施工ステップが完了した後、エレベーターを利用可能とすべく、新旧双方の巻上機等を制御することができるエレベーター制御盤を開発した。
【0017】
すなわち、エレベーターのリニューアル工事期間中におけるエレベーターの連続休止期間を短縮するためには、リニューアル工事の各分割施工ステップが完了した時点でエレベーターを利用可能とすることが前提となる。例えば、マンションでは、通勤や通学等の利用者が多い朝晩の時間帯、飲食テナントビルでは、夕方や夜の営業時間帯にエレベーターを利用可能とする必要がある。
【0018】
そこで、1日に確保できる工事時間を設定して、工事内容および各工事に要する時間を分析した結果に基づき、時間内に完了する工事内容を分割施工ステップ毎に設定した。各分割施工ステップのリニューアル内容および主な取り替え機器を図2に示す。図2において、リニューアル工事は、主に5つの分割施工ステップに分かれるが、エレベーターの仕様によっては、各分割施工ステップを更に分割することが必要になる。
【0019】
具体的には、旧機器と新機器とを取り替える一連の分割施工ステップの内、エレベーターを利用可能とする時間帯を設ける分割施工ステップ群に分割してリニューアル工事を実施する。また、エレベーターを利用可能とする時間帯は、リニューアル前のエレベーターの起動頻度、建物の用途により決定される。また、少なくとも1日に確保できる工事時間と工事完了後にエレベーターが利用できる分割施工ステップ群に分割してリニューアル工事を実施する。すなわち、通常運転モードと据付作業モードとがあり、各分割施工ステップが完了するたびに据付作業モードから通常運転モードに切替えて、エレベーターを就役(サービス)可能とし、乗客にエレベーター利用を供する通常運転を行うことができる。
【0020】
(リニューアル方法)
続いて、図1図2とともに、図3図8を参照しながら、この発明の実施の形態1に係るエレベーターのリニューアル方法について説明する。図3は、この発明の実施の形態1に係るエレベーターのリニューアル方法が適用されるエレベーター装置における初期状態を示すブロック構成図である。
【0021】
図3において、エレベーター装置の初期状態では、取り替え前の旧制御盤100に、旧シリアル通信方式により旧乗場機器200および旧かご機器300が接続されている。旧制御盤100は、旧乗場機器200や旧かご機器300、図示しない旧巻上機等の動作を制御する旧エレベーター制御基板110を有している。
【0022】
(分割施工ステップ1:機械室改修)
ここで、このエレベーター装置に対して、図2で示した分割施工ステップ1により、エレベーター制御盤を取り替える。図4は、この発明の実施の形態1に係るエレベーターのリニューアル方法が適用されるエレベーター装置における制御盤取り替え後の状態を示すブロック構成図である。
【0023】
なお、分割施工ステップ1によりエレベーター制御盤を最初に取り替えるのは、乗場機器やかご機器を先に取り替えると、これらの機器との情報のやりとりが増えることになり、既設のエレベーター制御盤では対応が困難になり、改造する必要が生じるためである。そのため、エレベーター制御盤を分割施工ステップ1で最初に取り替えることにより、その後、乗場機器やかご機器を取り替えても、先に取り替えたエレベーター制御盤で対応可能になる。
【0024】
図4において、旧制御盤100が新制御盤100Aに取り替えられたことにより、新制御盤100Aには、旧乗場機器200および旧かご機器300が接続されている。また、新制御盤100Aは、図3に示した旧エレベーター制御基板110に代えて、新エレベーター制御基板110Aを有している。
【0025】
新エレベーター制御基板110Aは、後述する新乗場機器や新かご機器、新巻上機等の動作を制御する機能だけでなく、図2で示した各分割施工ステップに応じてパラメータの設定を変更することにより、旧乗場機器200や旧かご機器300、旧巻上機等の動作を制御する機能も有している。
【0026】
しかしながら、新エレベーター制御基板110Aは、かご機器との間で、旧シリアル通信方式よりも大容量のデータの送受信を可能とした新シリアル通信方式、例えばCAN(Controller Area Network)通信方式により通信を行うので、新エレベーター制御基板110Aと旧かご機器300とは、直接通信することができない。ここで、旧シリアル通信方式の一例としては、通信速度が4800bpsであり、CAN通信方式の一例としては、通信速度が122.88kbpsであり、旧シリアル通信方式に比べて、新シリアル通信方式のデータの伝送速度は、約10倍以上の伝送速度となっている。
【0027】
また、旧シリアル通信方式よりもCAN通信方式が大容量のデータを通信できるため、新かご機器に搭載された表示装置には、旧かご機器に搭載された表示装置よりも大容量の表示が行える効果がある。また、旧かご機器にはない例えば表示装置と一体となったタッチ式のかご操作機能などが、新かご機器で実現することができる。
【0028】
なお、新エレベーター制御基板110Aと旧かご機器300との通信の具体的な内容は、ドア駆動装置11の状態情報、かご操作盤12の表示指令、かご操作盤12の釦やスイッチ類の動作情報、アナウンス指令等である。
【0029】
そこで、新制御盤100Aは、旧シリアル通信方式とCAN通信方式との間で通信方式を相互に変換する通信変換部としての通信変換基板120Aをさらに有している。図5は、この発明の実施の形態1に係るエレベーター制御盤における通信変換基板を示すハードウェア構成図である。図5において、通信変換基板120Aは、CPU121およびRAM122を有している。
【0030】
CPU121は、新エレベーター制御基板110Aからのデータを、旧かご機器300に対応したデータにフォーマット変換し、RAM122に記憶する。また、CPU121は、旧かご機器300からのデータを、新エレベーター制御基板110Aに対応したデータにフォーマット変換し、RAM122に記憶する。なお、フォーマットとは、bit数等のデータ構造を指している。
【0031】
また、CPU121は、新エレベーター制御基板110Aからの求めに応じて、フォーマット変換されたデータをRAM122から取り出して出力し、旧かご機器300からの求めに応じて、フォーマット変換されたデータをRAM122から取り出して出力する。これにより、新エレベーター制御基板110Aと旧かご機器300とが、通信変換基板120Aを介して互いに通信することができる。
【0032】
また、通信変換基板120Aを用いることにより、例えば伝送周期を変えない場合であっても、通信速度が増えているため、1周期あたりの送信できるデータ量が増えている。また、データ量が増えることにより、エラーチェック機能を強化させることができる。
【0033】
なお、通信変換基板120Aは、新制御盤100Aから着脱可能に設けられている。すなわち、後述する乗場機器およびかご機器の取り替え後は、これらの機器と新エレベーター制御基板110Aとが通信変換基板120Aを介さずに直接通信できるようになるので、通信変換基板120Aは不要になる。
【0034】
そこで、通信変換基板120Aを新制御盤100Aから取り外すことにより、他の現場で通信変換基板120Aを再利用することができ、コストを低減することができる。なお、必要に応じて、新エレベーター制御基板110Aと旧乗場機器200との間に通信変換基板を設けてもよい。
【0035】
これにより、既設のエレベーターの旧制御盤を新制御盤に取り替える工程の後に、新制御盤100Aが、通信変換部(通信変換基板120A)を介して旧かご機器300を制御することにより、乗客にエレベーター利用を供する通常運転を行うことが可能となる。そのため、リニューアル工事の各工程の間に乗客がエレベーターを利用可能となるため、エレベーターのリニューアル工事期間中におけるエレベーターの連続休止期間を短縮することが可能となる。
【0036】
(分割施工ステップ2:かご改修)および(分割施工ステップ3:昇降路・乗場改修)
次に、このエレベーター装置に対して、図2で示した分割施工ステップ2および分割施工ステップ3により、かご機器および乗場機器・昇降路機器を取り替える。ここでの分割施工ステップ3では、代表的な乗場機器についてのみ説明する。このとき、分割施工ステップ2および分割施工ステップ3は、どちらが先行してもよい。図6は、この発明の実施の形態1に係るエレベーターのリニューアル方法が適用されるエレベーター装置における乗場機器およびかご機器取り替え後の状態を示すブロック構成図である。
【0037】
図6において、旧乗場機器200および旧かご機器300がそれぞれ新乗場機器200Aおよび新かご機器300Aに取り替えられたことにより、新制御盤100Aには、新乗場機器200Aおよび新かご機器300Aが接続されている。
【0038】
ここで、分割施工ステップ1において、旧乗場機器200および旧かご機器300を流用するのに合わせて、新制御盤100Aに接続される旧機器用ケーブルも流用する。しかしながら、旧乗場機器200および旧かご機器300のケーブルのコネクタと、新制御盤100Aのコネクタとは、種類および回路が互いに異なるので、直接接続することができない。
【0039】
そこで、図7に示されるように、新制御盤100Aに中継ハーネス130Aを接続する。図7は、この発明の実施の形態1に係るエレベーターのリニューアル方法が適用されるエレベーター装置におけるケーブルの接続関係を示す説明図である。
【0040】
図7において、分割施工ステップ1のとき、旧ケーブルは、中継ハーネス130Aに接続される。その後、分割施工ステップ2および分割施工ステップ3により、乗場機器およびかご機器を取り替える際に、旧ケーブルおよび中継ハーネス130Aが外されて、新ケーブルが新制御盤100Aに接続される。
【0041】
このため、中継ハーネス130Aを設けることによって、新制御盤100Aに旧機器用ケーブルを接続することができ、この旧機器用ケーブルを流用した形でのリニューアルが実現できる。なお、中継ハーネス130Aは、通信変換基板120Aと一体的に構成されてもよい。
【0042】
(分割施工ステップ4:巻上機取り替え)および(分割施工ステップ5:耐震工事)
続いて、このエレベーター装置に対して、図2で示した分割施工ステップ4により、巻上機を取り替える。また、必要に応じて、分割施工ステップ5として耐震工事を行うことにより、エレベーターのリニューアルが完了する。
【0043】
以上、分割施工ステップ1から分割施工ステップ5までの代表的なリニューアル方法を説明した。その他、分割施工ステップ1においてエレベーターの電源仕様が異なることで影響を受ける停電時自動着床装置について説明する。
【0044】
停電時自動着床装置は、停電時、バッテリー電源で最寄り階までかごを動かして、乗客を救出する装置のことをいう。停電時自動着床装置では、停電を検出した場合に、旧エレベーター装置は、旧バッテリー装置盤から旧制御盤および旧かご上ステーションのかご制御回路に電源を供給し、新エレベーター装置は、新制御盤内のバッテリーから新エレベーター制御基板および新かご上ステーションのかご制御回路に電源を供給している。
【0045】
したがって、分割施工ステップ1でも同様に、旧かご上ステーションのかご制御回路を流用することから、新制御盤内のバッテリーから電源を供給する必要があるが、新旧の制御盤の違いにより電源仕様が異なるため、新制御盤内のバッテリーから旧かご上ステーションのかご制御回路に電源を供給することができない。また、新制御盤内のバッテリーを、旧かご上ステーションのかご制御回路に合わせると、分割施工ステップ2で新かご上ステーションのかご制御回路に取り替えたときに電源を供給できなくなる。
【0046】
そこで、旧かご上ステーションのかご制御回路の電源のみ、旧バッテリー装置から供給するシステムを構築する。図8は、この発明の実施の形態1に係るエレベーターのリニューアル方法が適用される新エレベーター装置と旧バッテリー装置盤との関係を示す説明図である。
【0047】
図8において、新制御盤100Aの新エレベーター制御基板110Aは、停電を検出すると、旧バッテリー装置盤の制御回路に対して駆動命令(停電時自動着床命令)を出力する。また、旧バッテリー装置盤の制御回路は、駆動命令が入力されると、旧バッテリー装置盤内のバッテリーから、インバータを介して旧かご上ステーションのかご制御回路に電源を供給するとともに、新エレベーター制御基板110Aに対して動作信号(停電時自動着床動作信号)を出力する。
【0048】
これにより、新制御盤100Aと旧バッテリー装置盤との動作を同期する。なお、新エレベーター制御基板110Aは、駆動命令を出力したにもかかわらず、旧バッテリー装置盤の制御回路から動作信号が入力されない場合に、異常と判断する。
【0049】
なお、この旧バッテリー装置盤は、分割施工ステップ2で旧かご上ステーションと新かご上ステーションとを交換すると不要となり、取り外される。
【0050】
以上のように、実施の形態1によれば、エレベーターのリニューアル方法は、リニューアル工事を複数の分割施工ステップに分割する工程と、複数の分割施工ステップの各々において、リニューアル工事を実施する工程と、複数の分割施工ステップの間に、エレベーターを通常運転する工程と、を有している。
また、実施の形態1によれば、エレベーターのリニューアル方法は、既設のエレベーターの旧制御盤を新制御盤に取り替える工程と、既設のエレベーターの旧制御盤との間を接続していた旧かご機器の旧ケーブルを、新制御盤の通信変換部に接続する工程と、新制御盤が、通信変換部および旧ケーブルを介してシリアル通信方式により旧かご機器を制御する工程と、旧かご機器を新かご機器に取り替える工程と、旧ケーブルを新ケーブルに取り替え、新制御盤と新かご機器との間を新ケーブルにより接続する工程と、新制御盤が、シリアル通信方式よりも伝送容量の大きな大容量通信方式により新かご機器を制御する工程と、を有している。
また、実施の形態1によれば、エレベーター制御盤は、シリアル通信方式よりも伝送容量の大きな大容量通信方式によりエレベーターのかご機器および乗場機器を制御するエレベーター制御部と、エレベーター制御部に接続され、シリアル通信方式と大容量通信方式との間で通信方式を相互に変換する通信変換部と、を備え、通信変換部は、1つのCPUと1つのメモリとから構成され、エレベーター制御盤から着脱可能に設けられている。
そのため、エレベーターのリニューアル工事期間中でもエレベーターを利用でき、エレベーターのリニューアル工事期間中におけるエレベーターの連続休止期間を短縮することができるエレベーターのリニューアル方法を得るとともに、簡素な構成で、コストを低減することができるエレベーター制御盤を得ることができる。
【0051】
また、エレベーターのリニューアル工事期間中におけるエレベーターの連続休止期間を短縮するために、リニューアル工事を複数の分割施工ステップに分割することにより、各分割施工ステップの作業エリアを特定のエリアに限定することができ、作業性を向上させることができる。
【0052】
また、通信変換部を、エレベーター制御盤から着脱可能にすることにより、通信変換部をエレベーター制御盤から取り外すことができ、他の現場で通信変換部を再利用することができるので、コストを低減することができる。
【0053】
なお、上記の実施の形態では、旧かご機器を新かご機器に取り替える工程における、通信変換部について説明したが、旧乗場機器を新乗場機器に取り替える場合や、旧オプション機器を新オプション機器に取り替える場合等に適用してもよい。
【0054】
また、上記の実施の形態では、旧通信方式および新通信方式として、シリアル通信を例に挙げて説明したが、これに限定されず、シリアル通信以外の通信方式にもこの発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 機械室、2 巻上機、3 制御盤、4 調速機、5 昇降路、6 かご、7 つり合いおもり、8 主索、9 ガイドレール、10 終点スイッチ、11 ドア駆動装置、12 かご操作盤、13 乗場、14 乗場操作盤、15 ピット、16 緩衝器、17 移動ケーブル、18 かご上ステーション、100 旧制御盤、100A 新制御盤、110 旧エレベーター制御基板、110A 新エレベーター制御基板(エレベーター制御部)、120A 通信変換基板(通信変換部)、130A 中継ハーネス、200 旧乗場機器、200A 新乗場機器、300 旧かご機器、300A 新かご機器、121 CPU、122 RAM。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8