特許第6851455号(P6851455)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6851455-燃料電池 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6851455
(24)【登録日】2021年3月11日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/1016 20160101AFI20210322BHJP
【FI】
   H01M8/1016
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-226766(P2019-226766)
(22)【出願日】2019年12月16日
(65)【公開番号】特開2020-98782(P2020-98782A)
(43)【公開日】2020年6月25日
【審査請求日】2019年12月18日
【審判番号】不服2020-14968(P2020-14968/J1)
【審判請求日】2020年10月28日
(31)【優先権主張番号】特願2018-235735(P2018-235735)
(32)【優先日】2018年12月17日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審理対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】菅 博史
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊之
(72)【発明者】
【氏名】岡田 陽平
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
【合議体】
【審判長】 池渕 立
【審判官】 磯部 香
【審判官】 平塚 政宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−071948(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/1016
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
50℃以上250℃以下で発電する燃料電池であって、
カーボンを含むカソードと、
アノードと、
前記カソードと前記アノードとの間に配置される固体電解質と、
を備え、
前記固体電解質のイオン輸率は、20℃において0.99以下である、
燃料電池。
【請求項2】
前記固体電解質は、水酸化物イオン伝導性を有する、
請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記固体電解質は、層状複水酸化物を含む、
請求項2に記載の燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アノードと、カソードと、アノード及びカソードの間に配置されたイオン伝導性を有する電解質とを備え、比較的低温(例えば、250℃以下)で作動する燃料電池が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような燃料電池では、様々な液体燃料又は気体燃料を使用することができ、例えばメタノールを燃料とした場合には、以下の電気化学反応が生じる。
【0004】
・アノード: CHOH+6OH→6e+CO+5H
・カソード: 3/2O+3HO+6e→6OH
・全体 : CHOH+3/2O→CO+2H
【0005】
ここで、燃料電池の停止中、アノード及びカソードのそれぞれは空気雰囲気に曝されているところ、燃料電池が起動してアノードに燃料が供給され始めると、アノードは、空気雰囲気に曝される燃料排出側部分と、燃料雰囲気に曝される燃料供給側部分とに、一時的に分かれる。このとき、カソードのうちアノードの燃料排出側部分と対向する領域が高電位となり、カソード触媒が著しく酸化反応してしまうことが知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】材料と環境 2009年58巻8号p.288−293 「固体高分子形燃料電池の腐食劣化問題」 西方篤著
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、カソード触媒が酸化反応すると、燃料電池の電池特性が低下してしまうため、起動時におけるカソードの電位変化を低減させたいという要請がある。
【0008】
本発明は、電池特性を維持可能な燃料電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る燃料電池は、カソードと、アノードと、カソードとアノードとの間に配置される電解質とを備える。電解質のイオン輸率は、20℃において0.99以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電池特性を維持可能な燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】アルカリ形燃料電池の構成を模式的に示す断面図
図2図1の部分拡大図
【発明を実施するための形態】
【0012】
(固体アルカリ形燃料電池10)
以下、燃料電池の一例として、水酸化物イオンをキャリアとする固体アルカリ形燃料電池10について図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、実施形態に係る固体アルカリ形燃料電池10の構成を示す断面図である。固体アルカリ形燃料電池10は、カソード12、アノード14、及び電解質16を備える。
【0014】
固体アルカリ形燃料電池10は、下記の電気化学反応式に基づいて、比較的低温(例えば、50℃〜250℃)で発電する。ただし、下記の電気化学反応式では、燃料の一例としてメタノールが用いられている。
【0015】
・カソード12: 3/2O+3HO+6e→6OH
・アノード14: CHOH+6OH→6e+CO+5H
・全体 : CHOH+3/2O→CO+2H
【0016】
(カソード12)
カソード12は、電解質16に接続される。カソード12は、一般的に空気極と呼ばれる陽極である。固体アルカリ形燃料電池10の発電中、カソード12には、酸化剤供給手段13を介して、酸素(O)を含む酸化剤が供給される。酸化剤としては、空気を用いるのが好ましく、空気は加湿されていることがより好ましい。カソード12は、内部に酸化剤を拡散可能な多孔質体である。カソード12の気孔率は特に制限されない。カソード12の厚みは特に制限されないが、例えば10〜200μmとすることができる。
【0017】
カソード12は、AFCに使用される公知のカソード触媒を含むものであればよく、特に限定されない。カソード触媒の例としては、白金族元素(Ru、Rh、Pd、Ir、Pt)、鉄族元素(Fe、Co、Ni)等の第8〜10族元素(IUPAC形式での周期表において第8〜10族に属する元素)、Cu、Ag、Au等の第11族元素(IUPAC形式での周期表において第11族に属する元素)、ロジウムフタロシアニン、テトラフェニルポルフィリン、Coサレン、Niサレン(サレン=N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミン)、銀硝酸塩、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0018】
カソード触媒は、担体に担持されていてもよい。担体としては、カーボン粒子が好ましい。カソード12の構成材料の好ましい例としては、白金担持カーボン(Pt/C)、白金コバルト担持カーボン(PtCo/C)、パラジウム担持カーボン(Pd/C)、ロジウム担持カーボン(Rh/C)、ニッケル担持カーボン(Ni/C)、銅担持カーボン(Cu/C)、及び銀担持カーボン(Ag/C)などが挙げられる。カソード12における触媒の担持量は特に限定されないが、好ましくは0.05〜10mg/cm、より好ましくは、0.05〜5mg/cmである。
【0019】
カソード12の作製方法は特に限定されないが、例えば、カソード触媒(所望により担体を含む)をバインダーと混合してペースト状にし、このペースト状混合物を電解質16のカソード側表面16Sに塗布することによって形成することができる。
【0020】
(アノード14)
アノード14は、電解質16に接続される。アノード14は、一般的に燃料極と呼ばれる陰極である。固体アルカリ形燃料電池10の発電中、アノード14には、燃料供給手段15を介して、水素原子(H)を含む燃料が供給される。アノード14は、内部に燃料を拡散可能な多孔質体である。アノード14の気孔率は特に制限されない。アノード14の厚みは特に制限されないが、例えば10〜500μmとすることができる。
【0021】
水素原子を含む燃料は、アノード14において水酸化物イオン(OH)と反応可能な燃料化合物を含んでいればよく、液体燃料及び気体燃料のいずれの形態であってもよい。
【0022】
燃料化合物としては、例えば、(i)ヒドラジン(NHNH)、水加ヒドラジン(NHNH・HO)、炭酸ヒドラジン((NHNHCO)、硫酸ヒドラジン(NHNH・HSO)、モノメチルヒドラジン(CHNHNH)、ジメチルヒドラジン((CHNNH、CHNHNHCH)、及びカルボンヒドラジド((NHNHCO)等のヒドラジン類、(ii)尿素(NHCONH)、(iii)アンモニア(NH)、(iv)イミダゾール、1,3,5−トリアジン、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール等の複素環類化合物、(v)ヒドロキシルアミン(NHOH)、硫酸ヒドロキシルアミン(NHOH・HSO)等のヒドロキシルアミン類、及びこれらの組合せが挙げられる。これらの燃料化合物のうち炭素を含まない化合物(すなわち、ヒドラジン、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、アンモニア、ヒドロキシルアミン、硫酸ヒドロキシルアミン等)は、一酸化炭素による触媒被毒の問題が無いため特に好適である。
【0023】
燃料化合物は、そのまま燃料として用いてもよいが、水及び/又はアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコール等)に溶解させた溶液として用いてもよい。例えば、上記燃料化合物のうち、ヒドラジン、水化ヒドラジン、モノメチルヒドラジン及びジメチルヒドラジンは液体であるので、そのまま液体燃料として使用可能である。また、炭酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、カルボンヒドラジド、尿素、イミダゾール、及び3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、及び硫酸ヒドロキシルアミンは固体であるが水に可溶である。1,3,5−トリアジン及びヒドロキシルアミンは固体であるがアルコールに可溶である。アンモニアは気体であるが水に可溶である。このように、固体の燃料化合物は、水又はアルコールに溶解させて液体燃料として使用可能である。燃料化合物を水及び/又はアルコールに溶解させて用いる場合、溶液中の燃料化合物の濃度は、例えば30〜99.9重量%であり、好ましくは66〜99.9重量%である。
【0024】
また、メタノール、エタノール等のアルコール類やエーテル類を含む炭化水素系液体燃料、メタン等の炭化水素系ガス、或いは純水素などは、そのまま燃料として用いることができる。特に、本実施形態に係る固体アルカリ形燃料電池10に用いられる燃料としては、メタノールが好適である。メタノールは、気体状態、液体状態、及び、気液混合状態のいずれであってもよい。
【0025】
アノード14は、AFCに使用される公知のアノード触媒を含むものであればよく、特に限定されない。アノード触媒の例としては、Pt、Ni、Co、Fe、Ru、Sn、及びPd等の金属触媒が挙げられる。金属触媒は、カーボン等の担体に担持されるのが好ましいが、金属触媒の金属原子を中心金属とする有機金属錯体の形態としてもよく、この有機金属錯体を担体として担持されていてもよい。アノード14及びそれを構成する触媒の好ましい例としては、ニッケル、コバルト、銀、白金担持カーボン(Pt/C)、白金ルテニウム担持カーボン(PtRu/C)、パラジウム担持カーボン(Pd/C)、ロジウム担持カーボン(Rh/C)、ニッケル担持カーボン(Ni/C)、銅担持カーボン(Cu/C)、及び銀担持カーボン(Ag/C)が挙げられる。
【0026】
アノード14の作製方法は特に限定されないが、例えば、アノード触媒(所望により担体を含む)をバインダーと混合してペースト状にし、このペースト状混合物を電解質16のアノード側表面16Tに塗布することによって形成することができる。
【0027】
(電解質16)
電解質16は、カソード12とアノード14との間に配置される。電解質16は、カソード12及びアノード14のそれぞれに接続される。電解質16は、カソード12と接触するカソード側表面16Sと、アノード14と接触するアノード側表面16Tとを有する。電解質16は、膜状、層状、或いは、シート状に形成される。
【0028】
電解質16は、イオン伝導体である。ただし、本実施形態に係る電解質16は、イオン伝導性と電子伝導性とを有する。具体的に、電解質16の20℃におけるイオン輸率(以下、「イオン輸率」と略称する。)は、0.99以下である。これにより、固体アルカリ形燃料電池10の起電力を抑えることができるため、固体アルカリ形燃料電池10の起動時に、カソードの瞬間的な高電位化によってカソード触媒が著しく酸化反応してしまうことを抑制できる。その結果、固体アルカリ形燃料電池10の電池特性が低下してしまうことを抑制できる。
【0029】
電解質16のイオン輸率は、0.98以下が更に好ましい。これにより、カソード触媒の酸化反応をより抑制できる。電解質16のイオン輸率の下限値は特に制限されないが、0.90以上とすることによって、運転時の固体アルカリ形燃料電池10の起電力を高く保つことができる。
【0030】
本明細書において、電解質16のイオン輸率とは、イオン伝導度と電子伝導度とを足し合わせた全電気伝導度に対するイオン伝導度の比(イオン伝導度/全電気伝導度)を意味する。
【0031】
電解質16のイオン伝導度は、カソード12/電解質16/アノード14の接合体を作成した後、カソード12及びアノード14それぞれにリード付きの端子を接続し、20℃の中性環境下でバッテリーハイテスタBT3562(HIOKI)を用いて測定する抵抗値から算出される。
【0032】
また、電解質16の全電気伝導度は、カソード12/電解質16/アノード14の接合体を作成した後、カソード12及びアノード14それぞれにリード付きの端子を接続し、20℃の中性環境下で直流抵抗RM3545(HIOKI)を用いて測定する抵抗値から算出される。
【0033】
例えば、燃料電池用電解質として広く使用されるNafion(登録商標)を本手法で測定すると、0.9998のイオン輸率が算出される。
【0034】
電解質16のイオン輸率は、後述する無機固体電解質体22に遷移金属(例えば、Fe、Mn、Tiなど)を添加して電子伝導性を発現させることで調整できる。具体的には、無機固体電解質体22に添加する遷移金属の添加量を増減させることによって無機固体電解質体22の電子伝導度を制御し、それによって電解質16全体としてのイオン輸率が調整される。従って、無機固体電解質体22における遷移金属の含有量は、イオン輸率が0.99以下になるよう調整されている限り、特に制限されない。
【0035】
図2は、電解質16の断面を拡大して示す模式図である。電解質16は、多孔質基材20と無機固体電解質体22とを有する。
【0036】
多孔質基材20は、連続孔20aを形成する。連続孔20aは、多孔質基材20の表裏面に連なるように形成される。連続孔20aには、後述する無機固体電解質体22が含浸されている。
【0037】
多孔質基材20は、三次元網目構造を有していてもよい。「三次元網目構造」とは、基材の構成物質が立体的かつ網目状に繋がった構造である。ただし、多孔質基材20は、三次元網目構造を有していなくてもよい。
【0038】
多孔質基材20は、金属材料、セラミックス材料及び高分子材料から選択される少なくとも1種によって構成することができる。
【0039】
多孔質基材20を構成する金属材料としては、ステンレス(Fe−Cr系合金、Fe−Ni−Cr系合金など)、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、又は、チタンなどを用いることができる。このような金属材料は、セラミックス材料や高分子材料に比べて熱伝導性が高いため、多孔質基材20の放熱効率を向上させることができるとともに、多孔質基材20内の温度分布を低減させることができる。三次元網目構造を有する限り、多孔質基材20の形態は特に制限されず、例えば、多孔質金属材料(例えば、発砲金属材料)によって構成されるセル状又はモノリス状の構造物であってもよいし、細線金属材料によって構成されるメッシュ状の塊であってもよい。
【0040】
また、多孔質基材20が金属材料によって構成される場合、多孔質基材20の表面には絶縁膜が形成されていてもよい。絶縁膜は、Cr、Al(OH)、Al、ZrO、MgO、MgAlなどによって構成することができる。多孔質基材20をステンレスによって構成する場合、ステンレスを酸化処理することにより、絶縁膜としてのCr膜を簡便に形成することができる。また、アルマイト処理等によって形成されるAl(OH)等の不働態被膜は、アルカリ環境下において安定的であるため好ましい。ただし、本実施形態では、後述する第1及び第2膜状部22b,22cが、カソード12及びアノード14それぞれとの間で絶縁膜として機能するため、多孔質基材20の表面には、絶縁膜が形成されていなくてもよい。
【0041】
多孔質基材20を構成するセラミックス材料としては、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、カルシア、コージェライト、ゼオライト、ムライト、酸化亜鉛、炭化ケイ素、及びこれらの任意の組合せが挙げられる。
【0042】
多孔質基材20を構成する高分子材料としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂(PVDF、PTFE等)、セルロース、ナイロン、ポリエチレン、ポリイミド及びこれらの任意の組合せが挙げられる。多孔質基材20をフレキシブル性の高い高分子材料で構成する場合には、連続孔20aの体積を大きくしながら厚さを薄くしやすいため、水酸化物イオン伝導性を向上させることができる。高分子材料によって構成される多孔質基材20としては、市販の微多孔膜を用いることができる。
【0043】
多孔質基材20の厚さは特に制限されないが、例えば、200μm以下とすることができ、好ましくは100μm以下、より好ましくは75μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは25μm以下であり、5μm以下が最も好ましい。多孔質基材20の厚さの下限値は、用途に応じて適宜設定すればよいが、ある程度の堅さを確保するには1μm以上が好ましく、2μm以上がより好ましい。
【0044】
多孔質基材20の断面における連続孔20aの平均内径は特に制限されないが、例えば、0.001〜1.5μmとすることができ、好ましくは0.001〜1.25μm、より好ましくは0.001〜1.0μm、さらに好ましくは0.001〜0.75μm、特に好ましくは0.001〜0.5μmである。これらの範囲内とすることによって、多孔質基材20に支持体としての強度を付与しつつ、無機固体電解質体22の緻密度を向上させることができる。連続孔20aの平均内径とは、多孔質基材20の断面を電子顕微鏡で観察した場合に、観察画像上で無作為に選出した20箇所における連続孔20aの円相当径を算術平均することによって得られる。連続孔20aの円相当径とは、観察画像において、連続孔20aの断面積と同じ面積を有する円の直径である。なお、電子顕微鏡の倍率は、連続孔20aの断面サイズに応じて適宜設定すればよい。
【0045】
連続孔20aの体積率は特に制限されないが、例えば、10〜60%とすることができ、好ましくは15〜55%、より好ましくは20〜50%である。これらの範囲内とすることによって、多孔質基材20に支持体としての強度を確保しつつ、無機固体電解質体22の緻密度を向上させることができる。連続孔20aの体積率は、アルキメデス法により測定することができる。
【0046】
また、図2では図示されていないが、多孔質基材20は、それ自体の内部に複数の細孔を有することが好ましい。複数の細孔は、多孔質基材20の内部において、互いに繋がっていてもよい。そして、各細孔は多孔質基材20の表面に開口する開気孔であって、各細孔には無機固体電解質体22が含浸していることがより好ましい。これによって、連続孔20a→多孔質基材20内の細孔→連続孔20aという短距離イオン伝導パスや、連続孔20a→多孔質基材20内の細孔→第2膜状部22c、或いは、第1膜状部22b→多孔質基材20内の細孔→第2膜状部22cという長距離イオン伝導パスを形成することができる。その結果、複合部22a内のイオン伝導可能領域が広がるため、電解質16全体としてのイオン伝導性を向上させることができる。
【0047】
無機固体電解質体22は、水酸化物イオン伝導性と電子伝導性とを有する。固体アルカリ形燃料電池10の発電中、無機固体電解質体22は、カソード12側からアノード14側に水酸化物イオン(OH)を伝導させる。無機固体電解質体22の水酸化物イオン伝導度は、電解質16のイオン輸率が0.99以下である限り特に制限されないが、10-3mS/cm以上10mS/cm以下とすることができる。無機固体電解質体22の電子伝導度は、電解質16のイオン輸率が0.99以下である限り特に制限されないが、10-6mS/cm以上10-2mS/cm以下とすることができる。
【0048】
無機固体電解質体22は、緻密であることが好ましい。アルキメデス法で算出される無機固体電解質体22の相対密度は特に制限されないが、90%以上が好ましく、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは95%以上である。無機固体電解質体22は、例えば水熱処理によって緻密化することができる。
【0049】
無機固体電解質体22は、水酸化物イオン伝導性を有するセラミックス材料によって構成することができる。このようなセラミックス材料としては、水酸化物イオン伝導性を有する周知のセラミックスを用いることができるが、以下に説明する層状複水酸化物(LDH:Layered Double Hydroxide)が特に好適である。
【0050】
LDHは、M2+1−x3+(OH)n−x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4、mは水のモル数を意味する任意の整数である)の一般式で示される基本組成を有する。M2+の例としてはMg2+、Ca2+、Sr2+、Ni2+、Co2+、Fe2+、Mn2+、及びZn2+が挙げられ、M3+の例としては、Al3+、Fe3+、Ti3+、Y3+、Ce3+、Mo3+、及びCr3+が挙げられ、Anの例としてはCO2−及びOHが挙げられる。M2+及びM3+としては、それぞれ1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0051】
LDHは、複数の水酸化物基本層と、これら複数の水酸化物基本層間に介在する中間層とから構成される。中間層は、陰イオン及びHOで構成される。水酸化物基本層は、例えば金属MがNi、Al、Tiの場合には、Ni、Al、Ti及びOH基を含む。以下、LDHの水酸化物基本層がNi、Al、Ti及びOH基を含む場合について説明する。
【0052】
LDH中のNiはニッケルイオンの形態を採りうる。LDH中のニッケルイオンは典型的にはNi2+であると考えられるが、Ni3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のAlはアルミニウムイオンの形態を採りうる。LDH中のアルミニウムイオンは典型的にはAl3+であると考えられるが、他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のTiはチタンイオンの形態を採りうる。LDH中のチタンイオンは典型的にはTi4+であると考えられるが、Ti3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を主要構成要素として含むのが好ましいが、他の元素ないしイオンを含んでいてもよいし、不可避不純物を含んでいてもよい。不可避不純物は、製法上不可避的に混入されうる任意元素であり、例えば原料や基材に由来してLDH中に混入しうる。
【0053】
LDHの中間層は、陰イオン及びHOで構成される。陰イオンは1価以上の陰イオン、好ましくは1価又は2価のイオンである。好ましくは、LDH中の陰イオンはOH及び/又はCO2−を含む。
【0054】
上記のとおり、Ni、Al及びTiの価数は必ずしも定かではないため、LDHを一般式で厳密に特定することは非実際的又は不可能である。仮に水酸化物基本層が主としてNi2+、Al3+、Ti4+及びOH基で構成されるものと想定した場合、LDHは、一般式:Ni2+1−x−yAl3+Ti4+(OH)n−(x+2y)/n・mHO(式中、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、好ましくは1又は2であり、0<x<1、好ましくは0.01≦x≦0.5、0<y<1、好ましくは0.01≦y≦0.5、0<x+y<1、mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である)なる基本組成で表すことができる。もっとも、上記一般式はあくまで「基本組成」と解されるべきであり、Ni2+、Al3+、Ti4+等の元素がLDHの基本的特性を損なわない程度に他の元素又はイオン(同じ元素の他の価数の元素又はイオンや製法上不可避的に混入されうる元素又はイオンを含む)で置き換え可能なものとして解されるべきである。
【0055】
本実施形態において、無機固体電解質体22は、複合部22a、第1膜状部22b、及び第2膜状部22cを有する。
【0056】
複合部22aは、第1膜状部22bと第2膜状部22cとの間に配置される。複合部22aは、多孔質基材20の連続孔20a内に配置される。複合部22aは、連続孔20a内に含浸されており、多孔質基材20と一体化している。このように、無機固体電解質体22を多孔質基材20で支持することによって、無機固体電解質体22の強度を向上できるため、無機固体電解質体22を薄くすることができる。その結果、電解質16の低抵抗化を図ることができる。
【0057】
本実施形態において、複合部22aは、多孔質基材20の連続孔20a内の略全域に広がっているが、無機固体電解質体22が第1膜状部22b及び第2膜状部22cの少なくとも一方を有さない場合、複合部22aは、多孔質基材20の一部にのみ含浸されていてもよい。
【0058】
第1膜状部22bは、複合部22aのカソード12側に連なる。第1膜状部22bは、膜状に形成される。第1膜状部22bは、複合部22aと一体的に形成される。第2膜状部22cは、複合部22aのアノード14側に連なる。第2膜状部22cは、膜状に形成される。第2膜状部22cは、複合部22aと一体的に形成される。第1膜状部22b及び第2膜状部22cそれぞれは、水酸化物イオン伝導性セラミックス成分によって構成される。第1膜状部22b及び第2膜状部22cそれぞれの厚さは特に制限されないが、例えば、10μm以下とすることができ、好ましくは7μm以下、より好ましくは5μm以下である。第1膜状部22b及び第2膜状部22cそれぞれは、一様な平面状に形成されていてもよいし、縞状など所望の平面形状にパターン化されていてもよい。
【0059】
電解質16の作製方法は特に限定されないが、例えば、以下の手法を採用することができる。まず、アルミナ及びチタニアの混合ゾルを調製し、この混合ゾルを多孔質基材20内部の全体又は大部分に浸透させる。次に、混合ゾルが浸透した多孔質基材20を熱処理(大気雰囲気、50〜150度、1〜30分)することによって、多孔質基材20の各孔内にアルミナ・チタニア層を形成する。次に、遷移金属、ニッケルイオン(Ni2+)及び尿素を含む原料水溶液に多孔質基材20を浸漬させる。次に、原料水溶液中で多孔質基材20を水熱処理する。この際、水熱処理条件(100〜150度、10〜100時間)を適宜調整することによって、多孔質基材20内に複合部22aが形成されるとともに、多孔質基材20の両主面に第1膜状部22b及び第2膜状部22cが形成されて電解質16となる。
【0060】
(実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0061】
[変形例1]
上記実施形態において、電解質16は、無機固体電解質体22を支持する多孔質基材20を有することとしたが、多孔質基材20を有していなくてもよい。この場合、電解質16は、板状に形成された無機固体電解質体によって構成することができる。
【0062】
[変形例2]
上記実施形態において、電解質16は、多孔質基材20の内部にアルミナ・チタニア層を形成した後に、遷移金属を含む原料水溶液に多孔質基材20を浸漬させた状態で水熱処理することによって形成することとしたが、これに限られない。電解質16は、従来周知の水酸化物イオン伝導性物質に遷移金属を混合させることによっても形成することができる。
【0063】
[変形例3]
上記実施形態では、燃料電池の一例として、水酸化物イオンをキャリアとする固体アルカリ形燃料電池10について説明したが、これに限られない。本発明は、PEFC(固体高分子形燃料電池)やDMFC(直接メタノール形燃料電池)などのプロトン(水素イオン)をキャリアとする燃料電池にも適用可能である。
【実施例】
【0064】
以下、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例には限定されない。
【0065】
(アルカリ形燃料電池の作製)
(1)多孔質基材の作製
ジルコニア粉末(東ソー社製、TZ−8YS)100重量部に対して、分散媒(キシレン:ブタノール=1:1)70重量部、バインダー(ポリビニルブチラール:積水化学工業株式会社製BM−2)11.1重量部、可塑剤(DOP:黒金化成株式会社製)5.5重量部、及び分散剤(花王株式会社製レオドールSP−O30)2.9重量部を混合し、この混合物を減圧下で攪拌して脱泡することによりスラリーを得た。
【0066】
次に、テープ成型機を用いて、PETフィルム上にスラリーを塗布して、シート状の成形体を得た。得られた成形体を1100℃で2時間焼成することによって、ジルコニア製の多孔質基材(5.0cm×5.0cm×厚み1.0mm)を得た。
【0067】
(2)多孔質基材へのアルミナ・チタニアゾルコート
無定形アルミナ溶液(Al−ML15、多木化学株式会社製)と酸化チタンゾル溶液(M−6、多木化学株式会社製)を溶液の重量比が1:1となるように混合して混合ゾルを作製した。
【0068】
次に、多孔質基材を混合ゾルに含浸させ、スピンコートにより余剰の混合ゾルを除去後、電気炉にて150℃で10分間熱処理を行った。こうして多孔質基材の内表面に形成されたアルミナ・チタニア層の厚さは1μm程度であった。
【0069】
(3)原料水溶液の作製
硝酸ニッケル六水和物(Ni(NO・6HO、関東化学株式会社製)、及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)に遷移金属(具体的には、コバルト、鉄、マンガン、チタン等)を添加することによって原料を調製した。この際、実施例及び比較例ごとにコバルト、鉄、マンガン、チタン等の添加量を調整することによって、表1に示すようにイオン輸率を変更した。
【0070】
次に、0.03mol/Lとなるように、硝酸ニッケル六水和物を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を75mlとした。
【0071】
次に、得られた溶液を攪拌した後、溶液中に尿素/NO(モル比)=32の割合で秤量した尿素を加え、更に攪拌して原料水溶液を得た。
【0072】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量100ml、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液と多孔質基材とを封入した。このとき、多孔質基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、多孔質基材両面に溶液が接するように水平に設置した。
【0073】
次に、水熱温度120℃で8時間水熱処理を施すことにより、多孔質基材表面と内部にLDHの形成を行った。所定時間の経過後、多孔質基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄した。続いて、室温で12時間放置した後に乾燥させて、LDHが多孔質基材中に含浸された電解質を得た。
【0074】
次に、LDHが含浸した多孔質基材を研磨することによって、所望の厚さに研磨した。実施例及び比較例に係る多孔質基材の厚さは、約50μmであった。
【0075】
(5)カソード及びアノードの作製
カソード触媒であるPt担持量50wt%カーボン(Pt/C:田中貴金属工業(株)社製TEC10E50E)と、アノード触媒であるPt−Ru担持量54wt%カーボン(Pt−Ru/C:田中貴金属工業(株)社製TEC61E54)と、バインダーであるPVDF粉末(以下、「PVDFバインダー」という。)とを準備した。
【0076】
次に、(Pt/C):(PVDFバインダー):(水)の重量比が9wt%:0.9wt%:90wt%の比率となるように混合してカソード用ペーストを調製した。また、(Pt−Ru/C):(PVDFバインダー):(水)の重量比が9wt%:0.9wt%:90wt%の比率となるように混合してアノード用ペーストを調製した。
【0077】
次に、カソード用ペーストを電解質の一方の面に印刷してカソードとし、アノード用ペーストを電解質の他方の面に印刷してアノードとした。そして、N雰囲気中において150℃で10分熱処理することによって、カソード/電解質/アノードの接合体を得た。
【0078】
(イオン輸率の測定)
カソード及びアノードそれぞれにリード付きの端子を接続し、20℃の中性環境下でバッテリーハイテスタBT3562(HIOKI)を用いて測定した接合体の抵抗値から電解質のイオン伝導度を算出した。
【0079】
また、20℃の中性環境下で直流抵抗RM3545(HIOKI)を用いて測定した接合体の抵抗値から電解質の全電気伝導度を算出した。
【0080】
そして、イオン伝導度を全電気伝導度で除することによって、電解質のイオン輸率を算出した。電解質のイオン輸率を表1にまとめて示す。
【0081】
(アルカリ形燃料電池の起動停止試験)
まず、コンプレッサーを用いて、定格時における空気利用率が50%となるように量を調整した露点25℃の空気をカソードに供給し、定格時における燃料利用率が50%となるように量を調整した気化メタノールをアノードに供給した。
【0082】
次に、開回路電圧の状態から電圧を1.0Vで30秒静定した。
【0083】
次に、電圧を1.0Vから1.5Vへ1秒の勾配で変更する第1工程と、1.5Vから1.0Vへ1秒の勾配で変更する第2工程とを1サイクルとして、10サイクル繰り返した後、カソードに乾燥空気を供給して10分間パージするとともに、アノードに乾燥窒素を供給して10分間パージした。
【0084】
次に、アルカリ形燃料電池を80℃に加熱した後、定格時における空気利用率が50%となるように量を調整した加湿空気をカソードに供給し、定格時における燃料利用率が50%となるように量を調整した気化メタノールをアノードに供給した。
【0085】
そして、起動状態にあるアルカリ形燃料電池の定格負荷(100mA/cm)における出力を初期出力として測定した。
【0086】
次に、カソードに供給する加湿空気を露点25℃の空気へ切り替えて、ガス流量を維持したまま負荷を切り、開回路電圧の状態からアルカリ形燃料電池を30℃以下まで30分で強制冷却した。
【0087】
次に、開回路電圧の状態から電圧を1.0Vで30秒静定した。
【0088】
次に、上述した第1工程及び第2工程を990サイクル繰り返した後、カソードに乾燥空気を供給して10分間パージするとともに、アノードに乾燥窒素を供給して10分間パージした。
【0089】
次に、アルカリ形燃料電池を80℃に加熱した後、定格時における空気利用率が50%となるように量を調整した加湿空気をカソードに供給し、定格時における燃料利用率が50%となるように量を調整した気化メタノールをアノードに供給した。
【0090】
そして、起動状態にあるアルカリ形燃料電池の定格負荷(100mA/cm)における出力を1000サイクル後の出力として測定した。
【0091】
初期出力(10サイクル後の出力)に対する1000サイクル後の出力の維持率を表1にまとめて示す。表1では、初期出力に対して1000サイクル後の出力が90%以上であった場合を◎と評価し、80%以上90%未満であった場合を○と評価し、80%未満であった場合を×と評価した。
【0092】
【表1】
【0093】
表1に示すように、電解質のイオン輸率が20℃において0.9998であった比較例1では、1000サイクル後の出力が初期出力の80%未満であった。このような結果が得られたのは、カソードのうちアノードの燃料排出側部分と対向する領域が高電位となり、カソード触媒が著しく酸化反応したためと考えられる。
【0094】
一方で、電解質のイオン輸率が20℃において0.9900以下であった実施例1〜4では、1000サイクル後の出力を初期出力の80%以上に維持することができた。特に、電解質のイオン輸率が20℃において0.9800以下であった実施例2〜4では、1000サイクル後の出力を初期出力の90%以上に維持することができた。
【符号の説明】
【0095】
10 固体アルカリ形燃料電池
12 カソード
14 アノード
16 電解質
20 多孔質基材
22 無機固体電解質体
22a 複合部
22b 第1膜状部
22c 第2膜状部
図1
図2