(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
従来、フレキシブル基板は、ポリイミドに代表される樹脂材料から形成されてきた。このような樹脂材料は紫外線を吸収するため、剥離光照射がTFT素子及びOLED素子に及ぼす影響は特に検討する必要がないと考えられてきた。しかしながら、本発明者の検討によると、フレキシブル基板の厚さが5μm〜15μm程度と非常に薄くなると、紫外線を十分に吸収しないことがあり、剥離工程で使用する紫外レーザ光がTFT素子及びOLED素子を劣化させる可能性のあることがわかった。この問題は、アモルファスシリコンから形成されたリリース層を設けた場合でも発生した。アモルファスシリコンは紫外線を透過し得るからである。これに対して、高融点金属からリリース層を形成した場合、高融点金属は紫外線を吸収、もしくは反射して透過しないため、剥離光照射がTFT素子及びOLED素子に及ぼす影響を阻止できる。しかしながら、高融点金属を用いてリリース層を形成することは、製造コストの著しい増加を招く。
【0023】
本開示のフレキシブルOLEDデバイスの製造方法は、剥離光がフレキシブルフィルムを透過し得る場合でも、剥離光の照射がTFT素子及びOLED素子に及ぼす影響の低減を可能にする。
【0024】
以下、図面を参照しながら、本開示によるフレキシブルOLEDデバイスの製造方法及び製造装置の実施形態を説明する。以下の説明において、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。本発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面及び以下の説明を提供する。これらによって請求の範囲に記載の主題を限定することを意図しない。
【0025】
<積層構造体>
図1A及び
図1Bを参照する。本実施形態におけるフレキシブルOLEDデバイスの製造方法では、まず、
図1A及び
図1Bに例示される積層構造体100を用意する。
図1Aは、積層構造体100の平面図であり、
図1Bは、
図1Aに示される積層構造体100のB−B線断面図である。
図1A及び
図1Bには、参考のため、互いに直交するX軸、Y軸、及びZ軸を有するXYZ座標系が示されている。
【0026】
本実施形態における積層構造体100は、ベース(マザー基板またはキャリア)10と、ベース10と機能層領域20との間に位置して機能層領域20を支持するフレキシブルフィルム30と、フレキシブルフィルム30と機能層領域20との間に位置する誘電体多層膜ミラー(誘電体反射膜)36とを備えている。機能層領域20はTFT層20A及びOLED層20Bを有している。この積層構造体100は、更に、複数の機能層領域20を覆う保護シート50と、複数の機能層領域20と保護シート50との間において、機能層領域20の全体を覆うガスバリア膜40とを備えている。積層構造体100は、バッファ層などの図示されていない他の層を有していてもよい。
【0027】
ベース10の典型例は、剛性を有するガラスベースである。フレキシブルフィルム30の典型例は、可撓性を有する合成樹脂フィルムである。以下、「フレキシブルフィルム」を単に「樹脂膜」と称する。誘電体多層膜ミラー36と、誘電体多層膜ミラー36を支持する樹脂膜30と、樹脂膜30を支持しているベース10とを含む構造物を、全体として、フレキシブルOLEDデバイスの「支持基板」と称する。
【0028】
本実施形態における積層構造体100の第1の表面100aはベース10によって規定され、第2の表面100bは保護シート50によって規定されている。ベース10及び保護シート50は、製造工程中に一時的に用いられる部材であり、最終的なフレキシブルOLEDデバイスを構成する要素ではない。
【0029】
図示されている樹脂膜30は、複数の機能層領域20をそれぞれ支持している複数のフレキシブル基板領域30dと、個々のフレキシブル基板領域30dを囲む中間領域30iとを含む。フレキシブル基板領域30dと中間領域30iは、連続した1枚の樹脂膜30の異なる部分にすぎず、物理的に区別される必要はない。言い換えると、樹脂膜30のうち、各機能層領域20の真下に位置している部分がフレキシブル基板領域30dであり、その他の部分が中間領域30iである。
【0030】
複数の機能層領域20のそれぞれは、最終的にフレキシブルOLEDデバイスのパネルを構成する。言い換えると、積層構造体100は、分割前の複数のフレキシブルOLEDデバイスを1枚のベース10が支持している構造を有している。各機能層領域20は、例えば厚さ(Z軸方向サイズ)が数十μm、長さ(X軸方向サイズ)が12cm程度、幅(Y軸方向サイズ)が7cm程度のサイズを持つ形状を有している。これらのサイズは、必要な表示画面の大きさに応じて任意の大きさに設定され得る。各機能層領域20のXY平面内における形状は、図示されている例において、長方形であるが、これに限定されない。各機能層領域20のXY平面内における形状は、正方形、多角形、または、輪郭に曲線を含む形状を有していてもよい。
【0031】
図1Aに示されるように、フレキシブル基板領域30dは、フレキシブルOLEDデバイスの配置に対応して、行及び列状に、二次元的に配列されている。中間領域30iは、直交する複数のストライプから構成され、格子パターンを形成している。ストライプの幅は、例えば1〜4mm程度である。樹脂膜30のフレキシブル基板領域30dは、最終製品の形態において、個々のフレキシブルOLEDデバイスの「フレキシブル基板」として機能する。これに対して、樹脂膜30の中間領域30iは、最終製品を構成する要素ではない。
【0032】
本開示の実施形態において、積層構造体100の構成は、図示されている例に限定されない。1枚のベース10に支持されている機能層領域20の個数(OLEDデバイスの個数)は、複数である必要はなく、単数であってもよい。機能層領域20が単数である場合、樹脂膜30の中間領域30iは、1個の機能層領域20の周りを囲む単純なフレームパターンを形成する。
【0033】
なお、各図面に記載されている各要素のサイズまたは比率は、わかりやすさの観点から決定されており、実際のサイズまたは比率を必ずしも反映していない。
【0034】
支持基板
図2A及び
図2Bを参照して、本開示の実施形態における支持基板及びその製造方法を説明する。
図2A及び
図2Bは、本開示の実施形態における支持基板200の製造方法を示す工程断面図である。
【0035】
<ベース>
まず、
図2Aに示すように、ベース10を用意する。ベース10は、プロセス用のキャリア基板であり、その厚さは、例えば0.3〜0.7mm程度であり得る。ベース10は、典型的にはガラスから形成される。ベース10は、後の工程で照射する剥離光を透過することが求められる。
【0036】
<樹脂膜>
次に、
図2Bに示すように、ベース10の上に樹脂膜30を形成する。本実施形態における樹脂膜30は、例えば厚さ5μm以上20μm以下、例えば10μm程度のポリイミド膜である。ポリイミド膜は、前駆体であるポリアミド酸またはポリイミド溶液から形成され得る。ポリアミド酸の膜を支持基板200の表面に形成した後に熱イミド化を行ってもよいし、ポリイミドを溶融または有機溶媒に溶解したポリイミド溶液からベース10の表面に膜を形成してもよい。ポリイミド溶液は、公知のポリイミドを任意の有機溶媒に溶解して得ることができる。ポリイミド溶液をベース10の表面に塗布した後、乾燥することによってポリイミド膜が形成され得る。
【0037】
ポリイミド膜は、ボトムエミッション型のフレキシブルディスプレイの場合、可視光領域の全体で高い透過率を実現することが好ましい。ポリイミド膜の透明度は、例えばJIS K7105−1981に従った全光線透過率によって表現され得る。全光線透過率は80%以上、または85%以上に設定され得る。一方、トップエミッション型のフレキシブルディスプレイの場合には透過率の影響は受けない。ポリイミド膜の屈折率は、例えば1.7程度である。
【0038】
樹脂膜30は、ポリイミド以外の合成樹脂から形成された膜であってもよい。ただし、本開示の実施形態では、薄膜トランジスタを形成する工程において、例えば350℃以上の熱処理を行うため、この熱処理によって劣化しない材料から樹脂膜30は形成される。
【0039】
樹脂膜30は、複数の合成樹脂膜の積層体であってもよい。本実施形態のある態様では、フレキシブルディスプレイの構造物をベース10から剥離するとき、ベース10を透過する紫外レーザ光(波長:300〜360nm)を樹脂膜30に照射する剥離光照射工程が行われる。紫外レーザ光を吸収して水素ガスを放出する非晶質シリコン層などのリリース層がベース10と樹脂膜30との間に配置されていてもよい。後述する剥離工程では、紫外レーザ光の照射により、ベース10と樹脂膜30の界面で樹脂膜30の一部(層状部分)が気化して樹脂膜30を、ベース10から剥離することができる。リリース層があると、アッシュの生成が抑制されるという効果が得られる。
【0040】
本開示の実施形態では、以下に説明する誘電体多層膜ミラー36が剥離光照射工程で紫外線透過抑制層として機能する。その結果、紫外レーザ光がベース10から機能層領域20に入射してTFT層20A及びOLED層20Bの特性を劣化させることが回避または抑制される。
【0041】
一般に、透明度の高い樹脂膜30であっても、紫外線はほとんど吸収されると考えられてきた。しかしながら、フレキシブルOLEDデバイスに使用される樹脂膜30は極めて薄い層であるため、剥離光照射工程で機能層領域20にまで紫外レーザ光が入射し得る。紫外レーザ光は、TFT層20A及びOLED層20Bの特性だけではなく、封止構造を構成する有機膜及び無機膜の封止性能を劣化させる可能性もある。更には、現在、広く利用されている樹脂膜30は黄褐色または茶褐色のポリイミド材料から形成されているため、紫外レーザ光の透過が機能層領域の特性劣化を引き起こし得るとは認識されていない。このような透明度の低いポリイミド材料は、紫外レーザ光を強く吸収するからである。しかしながら、本発明者の検討によると、透明度の低い樹脂膜30であっても、その厚さが例えば5〜20μm程度しかなければ、紫外レーザ光は機能層領域20にまで達し得ることがわかった。したがって、本開示の実施形態に係る方法は、透明度が高くて紫外線を透過しやすい材料から形成された樹脂膜(フレキシブル基板)を備えるOLEDデバイスだけではなく、透明度が低くて薄い樹脂膜30(厚さ:5〜20μm程度)を備えるOLEDデバイスの製造に好適に用いられる。
【0042】
樹脂膜30の表面上にパーティクルまたは凸部などの研磨対象(ターゲット)が存在する場合、研磨装置によってターゲットを研磨し平坦化してもよい。パーティクルなどの異物の検出は、例えばイメージセンサによって取得した画像を処理することによって可能である。研磨処理後、樹脂膜30の表面に対する平坦化処理を行ってもよい。平坦化処理は、平坦性を向上させる膜(平坦化膜)を樹脂膜30の表面に形成する工程を含む。平坦化膜は樹脂から形成されている必要はない。
【0043】
<誘電体多層膜ミラー>
次に、
図2Cに示すように、樹脂膜30上に誘電体多層膜ミラー36を形成する。
【0044】
本開示において「誘電体多層膜ミラー」とは、kを5以上の整数とするとき、k層の誘電体層から構成された多層膜(multi-layer)の積層体(stack)であって、相互に異なる屈折率を有する誘電体層の界面による反射光が建設的干渉を生じるように各誘電体層の光学厚さが調整された積層体を意味する。
【0045】
誘電体多層膜ミラーを構成する誘電体層を、剥離光が入射する側からカウントして、i番目の層を誘電体層(i)と呼ぶことにする。iは、1以上k以下の整数である。誘電体層(i)の屈折率をn(i)、厚さをd(i)とする。本開示の実施形態において、iが奇数のとき、n(i+1)は、n(i)及びn(i+2)よりも低い。このため、奇数番目の誘電体層(奇数)を「高屈折率層」と称し、偶数番目の誘電体層(偶数)を「低屈折率層」と称する。
【0046】
誘電体層(i)の光学厚さは、n(i)×d(i)によって定義される。剥離光の真空中における波長をλとするとき、本実施形態における光学厚さ、すなわちn(i)×d(i)は、λ/4に一致している。n(i)×d(i)=λ/4が成立していれば、全ての「高屈折率層」のそれぞれの屈折率及び厚さは、相互に一致している必要はない。同様に、全ての「低屈折率層」のそれぞれの屈折率及び厚さが相互に一致している必要もない。ただし、典型的には、「高屈折率層」は同一の屈折率を有する同じ材料から形成されるため、それぞれの「高屈折率層」の厚さは同一である。また、典型的には、「低屈折率層」も同一の屈折率を有する同じ材料から形成されるため、それぞれの「低屈折率層」の厚さは同一である。ただし、本開示の実施形態は、このような例に限定されない。
【0047】
図2Cに示される例において、誘電体多層膜ミラー36は、5層の誘電体層(1)、誘電体層(2)、誘電体層(3)、誘電体層(4)、誘電体層(5)から構成されている。誘電体層(1)、誘電体層(3)及び誘電体層(5)は、高屈折率層36Aである。誘電体層(2)及び誘電体層(4)は、低屈折率層36Bである。言い換えると、図の例における誘電体多層膜ミラー36は、それぞれが第1の屈折率を有する3層以上の高屈折率層36Aと、それぞれが第1の屈折率よりも低い第2の屈折率を有し、かつ前記3層以上の高屈折率層36Aの間に位置する、2層以上の低屈折率層36Bとを有している。なお、「高屈折率層」及び「低屈折率層」の用語における「高」及び「低」は、絶対的な大きさではなく、界面を形成するように隣接する誘電体層の間にある屈折率の相対的な関係のみを意味している。
【0048】
高屈折率層は、例えば、Si
3N
4、SiN
x、Al
2O
3、HfO
2、Sc
2O
3、Y
2O
3、ZrO
2、Ta
2O
5、TiO
2、及びNb
2O
5からなる群から選択された少なくとも1つの材料から形成され得る。低屈折率層は、例えば、SiO
2、MgF
2、CaF
2、AlF
3、YF
3、LiF、及びNaFからなる群から選択された少なくとも1つの材料から形成され得る。1個の誘電体多層膜ミラー36に含まれる「高屈折率層」は屈折率が異なる複数種類の材料から形成されてもよい。その意味において、「第1の屈折率」は単数に限定されない。「低屈折率層」及び「第2の屈折率」の用語についても同様に解釈され得る。
【0049】
高屈折率層と低屈折率層の界面における反射率は、高屈折率層と低屈折率層との間にある屈折率の差異が大きいほど、高くなる。このため、屈折率差が大きくなるように材料が選択されることが好ましい。低屈折率層は、例えばフッ素系材料から好適に形成され、その屈折率は1.5未満であることが望ましい。高屈折率層は、例えばシリコンの窒化物、タンタル(Ta)、ハフニウム(Hf)、イットリウム(Y)、またはニオブ(Nb)などの金属の酸化物から好適に形成され、その屈折率は1.7以上であることが望ましい。
【0050】
樹脂膜30の屈折率は、合成樹脂の材料によって異なる。合成樹脂の屈折率は、典型的には、約1.5〜1.7程度の範囲内にある。このため、誘電体多層膜ミラー36が樹脂膜30の樹脂材料に直接に接する場合は、誘電体多層膜ミラー36に含まれる高屈折率層36Aが樹脂材料に接するように配置される。このような配置により、樹脂膜30と高屈折率層36Aの界面の反射率を高めることができる。
【0051】
図示されている例において、剥離光がベース10及び樹脂膜30を透過して誘電体多層膜ミラー36に入射すると、剥離光の一部は、まず誘電体層(1)である高屈折率層36Aと樹脂膜30との界面によって反射される。この界面を透過した光は、その後、誘電体層(1)と誘電体層(2)の界面、誘電体層(2)と誘電体層(3)の界面、誘電体層(3)と誘電体層(4)の界面、及び誘電体層(4)と誘電体層(5)の界面で、それぞれ、反射及び透過を繰り返す。剥離光が高屈折率層36Aから低屈折率層36Bに入射するときは、その界面において、いわゆる固定端反射が生じて位相がπ、すなわち半波長だけシフトする。これに対して、剥離光が低屈折率層36Bから高屈折率層36Aに入射するときは、その界面において、いわゆる自由端反射が生じて位相がシフトしない。このため、高屈折率層36A及び低屈折率層36Bのそれぞれの光学厚さをλ/4に調整しておくと、各界面による反射の位相が揃い、反射光の建設的干渉が実現する。なお、本発明の効果を得るためには、光学厚さはλ/4の値に厳密に一致している必要は無く、±20%以下のずれは許容され得る。また、各界面からの反射光が建設的干渉を実現するときの光学厚さは、より一般に、λ/4+(L×λ/2)であればよい。ここで、Lは0以上の整数である。
【0052】
図の例において、高屈折率層36A及び低屈折率層36Bの繰り返しは、2.5周期である。本開示の実施形態は、この例に限定されない。高屈折率層36A及び低屈折率層36Bの繰り返し周期は、2周期、または3周期以上であってもよい。
【0053】
本開示の実施形態で採用可能な誘電体多層膜ミラー36の構成例について、シミュレーションによって反射率を求めた。このシミュレーションの結果については後述する。
【0054】
誘電体多層膜ミラー36は、蒸着などの薄膜堆積技術により、高屈折率層36A及び低屈折率層36Bを交互に形成することによって作製される。高屈折率層36A及び低屈折率層36Bは、典型的には、連続した膜であるが、パターニングされていてもよい。誘電体多層膜ミラー36は、剥離光がTFT層20A及びOLED層20Bに入射することを抑制する領域に存在していればよい。
【0055】
なお、シート状に形成された樹脂膜30をベース10に貼付する場合、貼付前の樹脂膜30に誘電体多層膜ミラー36を形成しておいてもよい。
【0056】
誘電体多層膜ミラー36は、リフトオフ工程の剥離光照射時に光学的な機能を発揮する部材であるが、フレキシブルOLEDデバイスとして使用されているとき、環境光に含まれる紫外線がTFT層20A及びOLED層20Bに入射して経年劣化させることを抑制する機能も発揮し得る。更に、誘電体多層膜ミラー36は、光学的な機能を発揮するだけではなく、以下に説明するガスバリア膜の機能も発揮し得る。
【0057】
<下層ガスバリア膜>
次に、
図3Aに示すように誘電体多層膜ミラー36上にガスバリア膜38を形成する。ガスバリア膜38は、種々の構造を有し得る。ガスバリア膜の例は、シリコン酸化膜またはシリコン窒化膜などの膜である。ガスバリア膜の他の例は、有機材料層及び無機材料層が積層された多層膜であり得る。このガスバリア膜は、機能層領域20を覆う後述のガスバリア膜から区別するため、「下層ガスバリア膜」と呼んでもよい。また、機能層領域20を覆うガスバリア膜は、「上層ガスバリア膜」と呼ぶことができる。
【0058】
なお、ガスバリア膜38は、誘電体多層膜ミラー36を構成する高屈折率層36Aまたは低屈折率層36Bに接触していてもよいし、ガスバリア膜38と誘電体多層膜ミラー36との間に他の層が介在してもよい。ガスバリア膜38と誘電体多層膜ミラー36とが直接に接する場合、ガスバリア膜38と誘電体多層膜ミラー36との界面によっても剥離光が強く反射されることが好ましい。このため、ガスバリア膜38に接する誘電体層は、ガスバリア膜38の屈折率とは実質的に異なる屈折率を有する材料から形成されることが望ましい。
【0059】
機能層領域
次に、TFT層20A及びOLED層20Bなどを含む機能層領域20、並びに上層ガスバリア膜40を形成する工程を説明する。機能層領域20は、より詳細には、下層に位置するTFT層20Aと、上層に位置するOLED層20Bとを含んでいる。TFT層20A及びOLED層20Bは、公知の方法によって順次形成される。TFT層20Aは、アクティブマトリクスを実現するTFTアレイの回路を含む。OLED層20Bは、各々が独立して駆動され得るOLED素子のアレイを含む。TFT層20Aの厚さは例えば4μmであり、OLED層20Bの厚さは例えば1μmである。
【0060】
<TFT層>
まず、
図3Bに示すように下層ガスバリア膜38上に半導体層21を形成する。半導体層は、この段階において非晶質である。半導体層21の少なくとも一部を多結晶化する(改質する)ためにレーザ光で半導体層21を照射する。このとき、レーザ光の一部は、半導体層21を透過して誘電体多層膜ミラー36に入射する可能性がある。誘電体多層膜ミラー36によってレーザ光が反射されて半導体層21に入射すると、誘電体多層膜ミラー36が無い場合に比べて半導体層21の昇温レートなどの熱処理条件が変化する可能性がある。
【0061】
しかしながら、半導体層21がシリコンから形成されている場合、下層ガスバリア膜38と半導体層21との間で大きな屈折率差が生じる。具体的には、下層ガスバリア膜38が例えばSiN
x(屈折率:約1.9)から形成されている場合、シリコンの屈折率が4以上であるため、大きな屈折率差が界面に発生し、この界面でレーザ光は強く反射される。このため、レーザ光が、この界面を透過して誘電体多層膜ミラー36によって反射される影響は小さくなる。このことは、半導体層21を多結晶化するためのレーザ光照射条件を誘電体反射ミラーの有無によって変更する必要がないことを意味する。
【0062】
なお、半導体層を多結晶化するためのレーザ光の波長が剥離光の波長と異なる場合、誘電体多層膜ミラー36の反射率は剥離光の波長に合わせて最適化される。このため、そのような誘電体多層膜ミラー36は、他の波長の光を強く反射しないため、半導体多結晶化条件の変動はそもそも生じにくい。
【0063】
次に、
図3Cに示すように、公知TFT製造プロセスによってTFT層20Aを形成する。具体的には、半導体層21をパターニングした後、接地ラインGLを形成する。ゲート絶縁膜22を形成した後、半導体層21のチャネル領域を覆うようにゲート電極Gを形成する。イオン注入法により、ゲート電極Gに自己整合したソース・ドレイン領域を半導体層21に形成する。層間絶縁膜23を堆積した後、コンタクトホールを形成し、トランジスタTrのソース電極S及びドレイン電極D、並びに接地ラインGL上の電極E1を形成する。これらを覆う第一無機バリア層24を堆積した後、有機平坦化膜25及び第二無機バリア層26を形成する。こうしてTFT層20Aが形成される。TFT層20Aの構成及び製造方法は、この例に限定されず、多様であり得る。
【0064】
<OLED層>
次に、
図3Dに示すように、有機平坦化膜25及び第二無機バリア層26にコンタクトホールを形成した後、OLED発光素子28のアノード電極E2及びカソード電極E3を形成する。バンク27を形成した後、アノード電極E2上にOLED発光素子28を形成する。OLED発光素子28は、正孔輸送層、発光層、電子輸送層などの有機半導体層を含んでいる。OLED発光素子28の電子輸送層とカソード電極E3とを電気的に接続する透明電極29を形成することにより、OLED層20Bが形成される。OLED層20Bの構成及び製造方法は、この例に限定されず、多様であり得る。こうして、機能層領域20が完成する。
【0065】
<上層ガスバリア膜>
機能層領域20を形成した後、
図3Dに示すように、機能層領域20の全体を薄膜封止層(上層ガスバリア膜)40によって覆う。上層ガスバリア膜40の典型例は、無機材料層と有機材料層とが積層された多層膜である。なお、上層ガスバリア膜40と機能層領域20との間、または上層ガスバリア膜40の更に上層に、粘着膜、タッチスクリーンを構成する他の機能層、偏光膜などの要素が配置されていてもよい。上層ガスバリア膜40の形成は、薄膜封止(Thin Film Encapsulation:TFE)技術によって行うことができる。封止信頼性の観点から、薄膜封止構造のWVTR(Water Vapor Transmission Rate)は、典型的には1×10
-4g/m
2/day以下であることが求められている。本開示の実施形態によれば、この基準を達成している。上層ガスバリア膜40の厚さは例えば1.5μm以下である。
【0066】
<保護シート>
次に、積層構造体100の上面に保護シート50(
図1B)を張り付ける。保護シート50は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)やポリ塩化ビニル(PVC)などの材料から形成され得る。前述したように、保護シート50の典型例は、離型剤の塗布層を表面に有するラミネート構造を有している。保護シート50の厚さは、例えば50μm以上150μm以下であり得る。
【0067】
こうして作製された積層構造体100を用意した後、後述の製造装置(剥離装置220)を用いて本開示による製造方法を実行することができる。
【0068】
本開示の製造方法に用いられ得る積層構造体100は、
図1A及び
図1Bに示される例に限定されない。保護シート50は、樹脂膜30の全体を覆い、樹脂膜30よりも外側に拡がっていてもよい。あるいは、保護シート50は、樹脂膜30の全体を覆い、かつ、ベース10よりも外側に拡がっていてもよい。後述するように、積層構造体100からベース10が隔離された後、積層構造体100は、剛性を有しないフレキシブルな薄いシート状の構造物になる。保護シート50は、ベース10の剥離を行う工程、及び、剥離後の工程において、機能層領域20が外部の装置または器具などに衝突したり、接触したりしたとき、機能層領域20を衝撃及び摩擦などから保護する役割を果たす。保護シート50は、最終的に積層構造体100から剥がし取られるため、保護シート50の典型例は、接着力が比較的小さな接着層(離型剤の塗布層)を表面に有するラミネート構造を有している。積層構造体100のより詳細な説明は、後述する。
【0069】
<等価回路>
図4は、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイにおけるサブ画素の基本的な等価回路図である。ディスプレイの1個の画素は、例えばR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)などの異なる色のサブ画素によって構成され得る。
図4に示される例は、選択用TFT素子Tr1、駆動用TFT素子Tr2、保持容量CH、及びOLED素子ELを有している。選択用TFT素子Tr1は、データラインDLと選択ラインSLとに接続されている。データラインDLは、表示されるべき映像を規定するデータ信号を運ぶ配線である。データラインDLは選択用TFT素子Tr1を介して駆動用TFT素子Tr2のゲートに電気的に接続される。選択ラインSLは、選択用TFT素子Tr1のオン/オフを制御する信号を運ぶ配線である。駆動用TFT素子Tr2は、パワーラインPLとOLED素子ELとの間の導通状態を制御する。駆動用TFT素子Tr2がオンすれば、OLED素子ELを介してパワーラインPLから接地ラインGLに電流が流れる。この電流がOLED素子ELを発光させる。選択用TFT素子Tr1がオフしても、保持容量CHにより、駆動用TFT素子Tr2のオン状態は維持される。駆動用TFT素子Tr2は、
図3DのトランジスタTrに相当する。
【0070】
TFT層20Aは、選択用TFT素子Tr1、駆動用TFT素子Tr2、データラインDL、及び選択ラインSLなどを含む。OLED層20BはOLED素子ELを含む。OLED層20Bが形成される前、TFT層20Aの上面は、TFTアレイ及び各種配線を覆う層間絶縁膜によって平坦化されている。OLED層20Bを支持し、OLED層20Bのアクティブマトリクス駆動を実現する構造体は、「バックプレーン」と称される。
【0071】
図4に示される回路要素及び配線の一部は、TFT層20A及びOLED層20Bのいずれかに含まれ得る。また、
図4に示されている配線は、不図示のドライバ回路に接続される。
【0072】
本開示の実施形態において、TFT層20A及びOLED層20Bの具体的な構成は多様であり得る。これらの構成は、本開示の内容を制限しない。TFT層20Aに含まれるTFT素子の構成は、ボトムゲート型であってもよいし、トップゲート型であってもよい。また、OLED層20Bに含まれるOLED素子の発光は、ボトムエミション型であってもよいし、トップエミション型であってもよい。OLED素子の具体的構成も任意である。
【0073】
TFT素子を構成する半導体層の材料は、例えば、結晶質のシリコン、非晶質のシリコン、酸化物半導体を含む。本開示の実施形態では、TFT素子の性能を高めるために、TFT層20Aを形成する工程の一部が350℃以上の熱処理工程を含む。
【0074】
図5は、上層ガスバリア膜40が形成された段階における積層構造体100の上面側を模式的に示す斜視図である。1個の積層構造体100は、ベース10に支持された複数のOLEDデバイス1000を含んでいる。
図5に示される例において、1個の積層構造体100は、
図1Aに示される例よりも多くの機能層領域20を含んでいる。前述したように、1枚のベース10に支持される機能層領域20の個数は任意である。
【0075】
<OLEDデバイスの分割>
本実施形態のフレキシブルOLEDデバイスの製造方法では、積層構造体100を用意する工程を実行した後、樹脂膜30の中間領域30iと複数のフレキシブル基板領域30dのそれぞれとを分割する工程を行う。分割を行う工程は、LLO工程の前に行う必要はなく、LLO工程の後に行ってもよい。
【0076】
分割は、レーザビームまたはダイシングソーによって隣接するOLEDデバイスの中央部を切断することによって行うことができる。本実施形態では、積層構造体のベース10以外の部分を切断し、ベース10は切断しない。しかし、ベース10を切断して個々のOLEDデバイスと各OLEDデバイスを支持するベース部分とを備える部分積層構造に分割してもよい。
【0077】
以下、レーザビームの照射によってベース10以外の積層構造を切断する工程を説明する。切断のためのレーザビームの照射位置は、個々のフレキシブル基板領域30dの外周に沿っている。
【0078】
図6A及び
図6Bは、それぞれ、樹脂膜30の中間領域30iと複数のフレキシブル基板領域30dのそれぞれとを分割する位置を模式的に示す断面図及び平面図である。切断のためのレーザビームの照射位置は、個々のフレキシブル基板領域30dの外周に沿っている。
図6A及び
図6Bにおいて、矢印または破線で示される照射位置(切断位置)CTを切断用のレーザビームで照射し、積層構造体100のうちでベース10以外の部分を複数のOLEDデバイス1000とその他の不要部分とに切断する。切断により、個々のOLEDデバイス1000と、その周囲との間に数十μmから数百μmの隙間が形成される。このような切断は、前述したように、レーザビームの照射に代えて、ダイシングソーによって行うことも可能である。切断後も、OLEDデバイス1000及びその他の不要部分は、ベース10に固着されている。
【0079】
図6Bに示されているように、積層構造体100における「不要部分」の平面レイアウトは、樹脂膜30の中間領域30iの平面レイアウトに整合している。図示されている例において、この「不要部分」は、開口部を有する1枚の連続したシート状構造物である。しかし、本開示の実施形態は、この例に限定されない。切断用レーザビームの照射位置CTは、「不要部分」を複数の部分に分けるように設定されていてもよい。なお、「不要部分」であるシート状構造物は、樹脂膜30の中間領域30iのみならず、中間領域30i上に存在する積層物(例えばガスバリア膜40及び保護シート50)の切断された部分を含んでいる。
【0080】
レーザビームによって切断を行う場合、レーザビームの波長は、赤外、可視光、紫外のいずれの領域にあってもよい。ベース10に及ぶ切断の影響を小さくすると言う観点からは、波長が緑から紫外域に含まれるレーザビームが望ましい。例えば、Nd:YAGレーザ装置によれば、2次高調波(波長532nm)、または3次高調波(波長343nmまたは355nm)を利用して切断を行うことができる。その場合、レーザ出力を1〜3ワットに調整して毎秒500mm程度の速度で走査すれば、ベース10に損傷を与えることなく、ベース10に支持されている積層物をOLEDデバイスと不要部分とに切断(分割)することができる。
【0081】
本開示の実施形態によれば、上記の切断を行うタイミングが従来技術に比べて早い。樹脂膜30がベース10に固着した状態で切断が実行されるため、隣接するOLEDデバイス1000の間隔が狭くても、高い正確度及び精度で切断の位置合わせが可能になる。このため、隣接するOLEDデバイス1000の間隔を短縮して、最終的に不要になる無駄な部分を少なくできる。
【0082】
<剥離光照射>
図7Aは、不図示の製造装置(剥離装置)におけるステージ212が積層構造体100を支持する直前の状態を模式的に示す図である。本実施形態におけるステージ212は、吸着のための多数の孔を表面に有する吸着ステージである。吸着ステージの構成は、この例に限定されず、積層構造体を支持する静電チャックまたは他の固定装置を備えていてもよい。積層構造体100は、積層構造体100の第2の表面100bがステージ212の表面212Sに対向するように配置され、ステージ212に密着している。
【0083】
図7Bは、ステージ212が積層構造体100を支持している状態を模式的に示す図である。ステージ212と積層構造体100との配置関係は、図示される例に限定されない。例えば、積層構造体100の上下が反転し、ステージ212が積層構造体100の下方に位置していてもよい。
【0084】
図7Bに示される例において、積層構造体100は、ステージ212の表面212Sに接しており、ステージ212は積層構造体100を吸着している。
【0085】
次に、
図7Cに示されるように、樹脂膜30とベース10との界面を紫外レーザ光(剥離光)216で照射する。
図7Cは、図の紙面に垂直な方向に延びるライン状に成形された剥離光216によってベース10の側から樹脂膜30を照射している状態を模式的に示す図である。樹脂膜30は、紫外レーザ光を吸収して短時間に加熱される。樹脂膜30の一部は、ベース10と樹脂膜30との界面において、気化または分解(消失)する。剥離光216で樹脂膜30をスキャンすることにより、樹脂膜30のベース10に対する固着の程度を低下させる。剥離光216の波長は、紫外域にある。ベース10の光吸収率は、例えば波長が343〜355nmの領域では10%程度だが、308nmでは30〜60%に上昇し得る。
【0086】
図7Dは、剥離光216が樹脂膜30に入射する様子を模式的に示している。この図では、わかりやすいさのため、剥離光216は、樹脂膜30に対して斜めに入射している。剥離光216は、典型的には樹脂膜30に対して垂直に入射する。
【0087】
図7Dには、樹脂膜30を透過した剥離光216の一部が誘電体多層膜ミラー36から反射される様子が模式的に記載されている。
【0088】
<剥離光反射のシミュレーション>
下記の表1、表2、表3及び表4に示す材料、屈折率、厚さを持つ層構成について、308nmの波長における剥離光の反射率を計算した。表1、表2、表3、表4の構成について、それぞれ、79%、56%、60%、60%の反射率が得られた。
【0093】
上記の例では、高屈折率層及び低屈折率層の繰り返しは2.5周期であるが、周期数を増加させると反射率は増加する。例えば、表2の層構成において、繰り返しの周期数を4.5周期にすると、82%の反射率が実現し、繰り返しの周期数を5.5周期にすると、90%の反射率が実現した。しかし、このように高い反射率を達成する必要は無く、反射率は30%以上あればよく、50%以上あれば十分に効果が得られる。
【0094】
前述したように、TFT層20Aのための半導体層21を堆積した後、本開示の実施形態では、レーザ光で半導体層21を照射して半導体層21の結晶性を高める改質を行う。このレーザ光は、
図3Bに示される方向から半導体層21に入射する。剥離光216は、
図7C及び
図7Dに示されるように、ベース10及び樹脂膜30を透過した後に誘電体多層膜ミラー36に入射するが、半導体層21を多結晶化するレーザ光は、半導体層21を透過した後に誘電体多層膜ミラー36に入射することになる。半導体改質のためのレーザ光の波長は、剥離光の波長と一致している必要は無く、半導体層21の多結晶化に適した帯域から選択され得る。シリコンなどの半導体の層を多結晶化するためのレーザ照射装置としては、波長308nmのレーザ光を放射するエキシマレーザ装置が広く利用されている。
【0095】
本開示の実施形態では、剥離光の波長と半導体層の改質に用いるレーザ光の波長とが異なり得ることに着目し、誘電体多層膜ミラー36の存在が剥離光の反射を効果的に実現する一方で、半導体層の改質に与える影響を少なくすることを検討した。半導体層21の改質の程度にムラが生じると、有機ELディスプレイのサブ画素を駆動するTFTの特性がTFT毎に異なってしまうからである。TFTの特性ばらつきは、電流駆動によって動作する有機ELディスプレイでは、画素毎の輝度ムラを引き起こし、表示品位を低下させる。このため、
図3Bの矢印の方から入射するレーザ光(多結晶化アニール用)に対しては、誘電体多層膜ミラー36による反射を少なくすることが望ましい。本発明者による検討の結果、半導体層21と誘電体多層膜ミラー36との間に無機材料から形成したガスバリア膜38を配置し、そのガスバリア膜38の厚さを適切な大きさに調整することにより、目的の機能を実現し得ることを見出した。
【0096】
以下、表5、表6、表7及び表8は、剥離に用いるレーザ光の波長(346nmまたは355nm)では反射率が相対的に高く維持され、半導体層の多結晶化に用いるレーザ光の波長(308nm)では反射率が相対的に低下する構成の例を示している。
【0097】
下記の表5の構成例によると、SiN
x(屈折率n=1.94)から形成したガスバリア膜38の厚さを190nmに設定することにより、波長308nmにおける反射率を45.2%にするとともに、波長343nm及び355nmにおける反射率を、それぞれ、76.4%及び85.7%にしている。
【0099】
下記の表6に示す構成例では、SiN
x(屈折率n=1.94)から形成したガスバリア膜38の厚さを181.8nmに設定することにより、波長308nmにおける反射率を12.4%にするとともに、波長343nm及び355nmにおける反射率を、それぞれ、60.9%及び63.6%にしている。
【0101】
下記の表7に示す構成例では、SiN
x(屈折率n=1.94)から形成したガスバリア膜38の厚さを24nmに設定することにより、波長308nmにおける反射率を17.1%にするとともに、波長343nm及び355nmにおける反射率を、それぞれ、60.8%及び78.0%にしている。
【0103】
下記の表8に示す構成例では、SiN
x(屈折率n=1.94)から形成したガスバリア膜38の厚さを190nmに設定することにより、波長308nmにおける反射率を20.4%にするとともに、波長343nm及び355nmにおける反射率を、それぞれ、53.8%及び71.5%にしている。
【0105】
このように、誘電体多層膜ミラー36の構成及びガスバリア膜38の光学厚さを調整することにより、誘電体多層膜ミラー36の反射率を、剥離光の波長(第1の波長)よりも半導体層改質のためのレーザ光の波長(第2の波長)において相対的に低くすることができる。
【0106】
また、誘電体多層膜ミラー36に含まれる高屈折率層は、一般に緻密な材料から構成され、水蒸気などのガスに対するバリア効果を発揮する。このため、誘電体多層膜ミラー36に含まれる高屈折率層の合計厚さが100nm以上であると、フレキシブルOLEDデバイスの耐湿性が向上することを期待できる。誘電体多層膜ミラー36が光学的な機能とは別に耐湿性向上の機能も発揮し得るため、誘電体多層膜ミラー36と機能層領域20との間にガスバリア膜38を配置する場合、ガスバリア膜38の厚さを200nm以下にすることも可能である。
【0107】
<剥離光照射の詳細>
以下、本実施形態における剥離光の照射を詳しく説明する。
【0108】
本実施形態における剥離装置は、剥離光216を出射するラインビーム光源を備えている。ラインビーム光源は、レーザ装置と、レーザ装置から出射されたレーザ光をラインビーム状に成形する光学系とを備えている。
【0109】
図8Aは、剥離装置220のラインビーム光源214から出射されたラインビーム(剥離光216)で積層構造体100を照射する様子を模式的に示す斜視図である。わかりやすさのため、ステージ212、積層構造体100、及びラインビーム光源214は、図のZ軸方向に離れた状態で図示されている。剥離光216の照射時、積層構造体100の第2の表面100bはステージ212に接している。
【0110】
図8Bは、剥離光216の照射時におけるステージ212の位置を模式的に示している。
図8Bには表れていないが、積層構造体100はステージ212によって支持されている。
【0111】
剥離光216を放射するレーザ装置の例は、エキシマレーザなどのガスレーザ装置、YAGレーザなどの固体レーザ装置、半導体レーザ装置、及び、その他のレーザ装置を含む。XeClのエキシマレーザ装置によれば、波長308nmのレーザ光が得られる。ネオジウム(Nd)がドープされたイットリウム・四酸化バナジウム(YVO
4)、またはイッテルビウム(Yb)がドープされたYVO
4をレーザ発振媒体として使用する場合は、レーザ発振媒体から放射されるレーザ光(基本波)の波長が約1000nmであるため、波長変換素子によって340〜360nmの波長を有するレーザ光(第3次高調波)に変換してから使用され得る。
【0112】
アッシュの生成を抑制するという観点からは、波長が340〜360nmのレーザ光よりも、エキシマレーザ装置による波長308nmのレーザ光を利用することが、より有効である。また、リリース層を設けると、アッシュ生成の抑制に顕著な効果を発揮する。
【0113】
剥離光216の照射は、例えば50〜400mJ/cm
2のエネルギ照射密度で実行され得る。なお、ラインビーム状の剥離光216は、ベース10を横切るサイズ、すなわちベースの1辺の長さを超えるライン長さ(長軸寸法、
図8BのY軸方向サイズ)を有する。ライン長さは、例えば750mm以上であり得る。一方、剥離光216のライン幅(短軸寸法、
図8BのX軸方向サイズ)は、例えば0.2mm程度であり得る。これらの寸法は、樹脂膜30とベース10との界面における照射領域のサイズである。剥離光216は、パルス状または連続波として照射され得る。パルス状の照射は、例えば毎秒200回程度の周波数で行われ得る。
【0114】
剥離光216の照射位置は、ベース10に対して相対的に移動し、剥離光216のスキャンが実行される。剥離装置220内において、剥離光を出射する光源214及び光学装置(不図示)が固定され、積層構造体100が移動してもよいし、その逆であってもよい。本実施形態では、ステージ212が
図8Bに示される位置から
図8Cに示される位置に移動する間、剥離光216の照射が行われる。すなわち、X軸方向に沿ったステージ212の移動により、剥離光216のスキャンが実行される。
【0115】
<リフトオフ>
図9Aは、剥離光の照射後、積層構造体100がステージ212に接触している状態を記載している。この状態を維持したまま、ステージ212からベース10までの距離を拡大する。このとき、本実施形態におけるステージ212は積層構造体100のOLEDデバイス部分を吸着している。
【0116】
不図示の駆動装置がベース10を保持してベース10の全体を矢印の方向に移動させることにより、剥離(リフトオフ)が実行される。ベース10は、不図示の吸着ステージによって吸着した状態で吸着ステージとともに移動し得る。ベース10の移動の方向は、積層構造体100の第1の表面100aに垂直である必要はなく、傾斜していてもよい。ベース10の移動は直線運動である必要はなく、回転運動であってもよい。また、ベース10が不図示の保持装置または他のステージによって固定され、ステージ212が図の上方に移動してもよい。
【0117】
図9Bは、こうして分離された積層構造体100の第1部分110と第2部分120とを示す断面図である。積層構造体100の第1部分110は、ステージ212に接触した複数のOLEDデバイス1000を含む。各OLEDデバイス1000は、機能層領域20と、樹脂膜30の複数のフレキシブル基板領域30dとを有している。これに対して、積層構造体100の第2部分120は、ベース10である。
【0118】
ステージ212に支持された個々のOLEDデバイス1000は、相互に切断された関係にあるため、同時または順次に、ステージ212から容易に取り外され得る。
【0119】
上記の実施形態では、LLO工程の前に各OLEDデバイス1000の切断分離を行ったが、LLO工程の後に各OLEDデバイス1000の切断分離を行ってもよい。また、各OLEDデバイス1000の切断分離は、ベース10を対応する部分に分割することを含んでいてもよい。
【0120】
図10は、本開示の実施形態におけるフレキシブルOLEDデバイスを示す断面図である。ベース10から剥離された樹脂膜30のフレキシブル基板領域30dによって機能層領域20が支持されている。
【0121】
本開示の実施形態によれば、紫外線を透過する透明度の高いポリイミド及びPETからフレキシブルフィルムを用いる場合、あるいは透明度は低いが薄く(厚さが5〜20μm)て紫外線を透過し得るフレキシブルフィルムを用いる場合でも、紫外線による機能層領域の特性劣化、及びガスバリア膜の性能劣化を抑制することができる。