(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(B)に記載の細胞分取ユニットが、(b−1)容器状構造体であって、(b−2)前記容器状構造体を構成する面の少なくとも一部に、細胞分取を可能とする微細孔を有する細胞分取膜を備えてなる構造体であり、;
前記(C)に記載の第1次培養用ユニットが、(c−1)容器状構造体であって、(c−2)当該容器状構造体内に液体を充填した際に、前記細胞分取ユニットを細胞分取膜面と充填した液面とが接する状態にて配設可能な構造を有し、(c−3)当該容器状構造体の内側底面に、細胞分取膜を通過した細胞を培養可能な第1次培養用培養面を有し、(c−4)当該容器状構造体の側面に、当該容器内部に保持していた細胞及び液体を自在に次段階の培養面を有するユニット側に開放可能な構造を有し、;
前記(D)に記載の本体容器ユニットが、(d−1)本体容器及び本体蓋状部から主として構成されてなる容器状構造体であって、(d−2)前段階の培養用ユニットから開放された細胞を培養可能な増殖培養用培養面を当該容器状構造体の内側底面に備え、当該増殖培養用培養面が前段階の培養用ユニットに係る培養面よりも広い面積のものであり、(d−3)当該容器状構造体の内部に、細胞分取ユニット及び前段階までの全ての培養用ユニットを格納可能な構造を有し、(d−4)前記本体蓋状部が、容器全体を密閉状態とすることが可能な蓋状構造体である、;
請求項1に記載の細胞分取培養増殖容器。
前記細胞分取ユニットが、細胞分取膜を介して第1次培養用ユニットの容器状構造体側に所望する対象細胞を分取するためのユニットである、請求項1又は2のいずれかに記載の細胞分取培養増殖容器。
前記増殖培養用培養面の面積が、前段階の培養用ユニットに係る培養面の面積を1とした場合の面積比で1より大きく20以下の範囲にあるものである、請求項1〜3のいずれかに記載の細胞分取培養増殖容器。
前記第1次培養用ユニットが、2以上の部材により構成されてなる容器状構造体であって、当該容器状構造体を構成する部材の分離又は転置によって前記開放可能な構造が開放状態となるように調整可能な構造を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の細胞分取培養増殖容器。
前記第1次培養用ユニットが、本体容器ユニットの外部からの操作と連動して前記開放可能な構造が開放状態となるように調整可能な構造を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の細胞分取培養増殖容器。
前記本体容器ユニットが、本体容器への培地注入及び培地排出を可能とする培地交換口を備えてなるものである、請求項1〜11のいずれかに記載の細胞分取培養増殖容器。
前記細胞分取ユニットが、細胞分取膜及び膜保持構造体から主として構成されてなる容器状構造体であって、前記膜保持構造体に係る細胞分取膜にて被覆される開口部の周辺底面部が、前記開口部に向かって上方向への傾斜を備えた形状である、請求項1〜12のいずれかに記載の細胞分取培養増殖容器。
前記細胞分取膜に形成された微細孔の平均サイズが1〜20μmであり、当該細胞分取膜における開孔率が5〜50%である、請求項1〜14のいずれかに記載の細胞分取培養増殖容器。
前記細胞分取膜に形成された微細孔の一部又は全部が、格子状、略格子状、千鳥状、略千鳥状、渦巻き状、略渦巻き状、同心円状、略同心円状、又はこれらを組み合わせた形状に配列されたものである、請求項1〜16のいずれかに記載の細胞分取培養増殖容器。
前記細胞分取膜が、疎水性ポリマーで構成されてなる基材層の表面に、親水性ポリマーが共有結合された構造を有するものである、請求項1〜17のいずれかに記載の細胞分取培養増殖容器。
前記第1次培養用培養面の表面及び/又は前記増殖培養用培養面の表面が、培養時では細胞接着性を示し且つ刺激応答により細胞剥離作用を示す分子により表面修飾がされたものである、請求項1〜19のいずれかに記載の細胞分取培養増殖容器。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが本発明を限定するものでない。以下の説明における符号番号は、図面中に使用した符号番号を意味する。
【0036】
[用語等の説明]
本明細書中、「前段階の培養用ユニット」とは、1つ前の段階の培養用ユニットを指す。例えば本体容器ユニットから見た場合、増殖培養用ユニットを用いない態様の場合では、第1次培養用ユニットが前段階の培養用ユニットになる。また、増殖培養用ユニットを用いる態様の場合では、1つ前の増殖培養用ユニットが前段階の培養用ユニットとなる。
また、本明細書中、「次段階の培養面を有するユニット」とは、1つ後の段階の培養用ユニットを指す。例えば第1次培養用ユニットから見た場合、増殖培養用ユニットを用いない態様の場合では、本体容器ユニットが次段階の培養面を有するユニットになる。また、増殖培養用ユニットを用いる態様の場合では、次の増殖培養用ユニットが次段階の培養面を有するユニットとなる。
【0037】
本明細書中、「略」を付した図形、形状、配列状態、及び角度等を表す表現は、多少の変形等を加えた図形等を許容して指すものである。
例えば、本明細書中、「略」を付した角度や方向を表す表現は、対象角度や方向に対して±10°以内、好ましくは±5°以内、より好ましくは±2°以内の角度や方向を指す。
また、本明細書中、「略」を付した図形、形状、及び配列等が円等の場合であれば、円周部分がやや歪んだ形状、長円や楕円等の変形図形を許容して指すものである。また、角形等の場合であれば、対象図形に対して角が丸みを帯びた形状、外周がやや歪んだ形状等の変形図形を許容して指すものである。また、格子状等の配列状態の場合も同様に、配列構成要素が形成する図形等の変形が許容される。
【0038】
1.細胞分取培養増殖容器
本発明は、所望する対象細胞を分取し培養増殖することが可能な容器状構造体であって、細胞分取ユニット(2)、第1次培養用ユニット(3)、及び本体容器ユニット(4)を含んで構成されてなる密閉可能な細胞分取培養増殖容器(1)に関する。ここで、本発明に係る細胞分取培養増殖容器(1)を構成する主たる部材について、その構成部材の属性を整理した表を以下に示す。
なお、表1は各構成部材の属性を整理した表であり、必須部材を表したものでない。この点、本発明に係る技術的範囲は表1に記載の部材を全て含む態様に限定されるものではない。
【0040】
[細胞分取ユニット]
本発明に係る細胞分取培養増殖容器(1)は、細胞分取ユニット(2)を備えて構成される容器状構造体である。
本発明に係る細胞分取ユニット(2)は、細胞分取膜(11)を介して第1次培養用ユニット(3)の容器状構造体側に所望する対象細胞(101)を分取するためのユニットである。
【0041】
細胞分取ユニット(2)は、細胞分取を可能とする微細孔を有する細胞分取膜(11)を備えてなる構造体である。詳しくは、細胞分取ユニット(2)は、容器状構造体であって前記容器状構造体を構成する面の少なくとも一部に、細胞分取膜を備えてなる構造体である。
細胞分取ユニット(2)の構造としてより詳しくは、細胞分取が可能な微細孔を有する細胞分取膜(11)及び膜保持構造体(13)により主として構成されてなる容器状構造体であって、液体の注入を可能とする開口部(14)及び細胞分取膜を介して液体の流出を可能とする開口部(15)を備えた構造体である。
当該構造によって、細胞分取ユニットは細胞分取工程において主要な機能を発揮する部材となる。なお、細胞分取ユニットを構成する部材としては、本発明に係る細胞分取培養増殖容器の機能を阻害しない限りは、細胞分取膜及び膜保持構造体以外の部材を含むことが許容される。
また、本発明においては、細胞分取ユニットは、第1次培養用ユニット等と自在に着脱可能な態様であることが好適である。
【0042】
細胞分取膜
細胞分取ユニット(2)は、細胞分取工程において主要な機能を発揮する部材として細胞分取膜(11)を備えてなるものである。
細胞分取膜(11)は、細胞分取が可能な微細孔を有する膜状構造体である。当該微細孔は、所望する対象となる分取細胞を透過させるために形成された孔(ポア)であり、細胞透過孔(12)として機能する。
細胞分取膜に係る細胞分取を実行する膜領域においては、当該微細孔より大きいサイズの孔が存在しないことが好適である。
【0043】
本発明に係る細胞分取膜(11)を製造する場合において、細胞透過孔である微細孔(12)のサイズ、開孔率、規則配列性、及び開孔角度等を、以下に記載の好適範囲にて実現するためには、WO2014/171365号公報の記載に従って、微細な金型を作成したin printing法により行うことが好適である。
なお、従来技術に係る重粒子線等の照射によるランダム開孔を行った場合では、このような構造の細胞分取膜を製造することはできない。
【0044】
細胞透過孔である微細孔(12)のサイズとしては、対象となる細胞のサイズに応じて適したサイズを選択することが可能である。例えば、細胞分取膜に形成された微細孔の平均サイズ(横断面が円状の場合は平均内径)として、1〜20μm、好ましくは2〜15μm、より好ましくは3〜10μmを挙げることができる。特に、幹細胞の分取においては3〜10μmの範囲であることが好適である。
細胞透過孔である微細孔(12)の形状としては、膜面に対する水平断面にて断面が円状、略円状、楕円状、四角形、頂点の数が5以上の多角形等、如何なる形状の孔を採用することができるが、好ましくは円状、略円状、六角形等のものが好適である。
【0045】
細胞分取膜(11)における開孔率としては、4〜50%、好ましくは5〜40%、より好ましくは5〜20%を挙げることができる。開孔率が高い程、所望する対象細胞が細胞分取膜を効率良く通過することが可能となり細胞分取に要する時間が短縮できて好適である。
【0046】
細胞透過孔である微細孔(12)としては、膜面に規則性を有して配列された状態であることが好適である。具体的には、微細孔の一部又は全部が、格子状、略格子状、千鳥状、略千鳥状、渦巻き状、略渦巻き状、同心円状、略同心円状、又はこれらを組み合わせた形状等に配列されたものが好適である。好ましくは、微細孔の全部が、前記規則性を有して配列されたものであることが好適である。
また、細胞透過孔である微細孔(12)としては、膜表面に対して垂直及び/又は略垂直方向に開孔されたものであることが好適である。ここで略垂直とは具体的には、膜表面の垂直方向に対して±10°以内、好ましくは±5°以内、より好ましくは2°以内の角度を指すものである。
なお、本発明に係る細胞分取膜の構造等を用いずに、微細孔がランダムに配置している従来技術に係る膜を採用した場合、細胞の平均移動距離がそれぞれ異なり、分取時間にばらつきが生じやすくなり好適でない。また、分取対象である細胞の含有率が低い場合や損傷等に脆弱な細胞の場合、微細孔に辿りつける細胞が著しく低下する可能性があり好適でない。
また、ランダム開口した微細孔どうしが重なった場合、孔のサイズが分取対象の細胞以外も通過可能となり、細胞種類の選択性が低下して好適でない。
【0047】
細胞分取膜(11)としては、膜厚が0.05〜100μm、好ましくは0.5〜50μm、より好ましくは1〜30μmとすることが好適である。当該膜厚が厚過ぎる場合、対象細胞が細胞透過孔を通過するのに時間を要して分取時間が長くなる傾向があり好適でない。また、対象細胞が細胞透過孔を通過する際の刺激等が多くなる傾向があり好適でない。特に、外的刺激に対して敏感な幹細胞の分取においては、良質な細胞を得るために膜厚が適正範囲であることが望ましい。
細胞分取膜(11)のフィルター外形は、細胞分取面の面積を十分に確保可能なサイズ及び形状であれば特に制限はない。例えば、円形フィルター形状であって外径2〜50mm、好ましくは3〜20mm、程度のものを採用することができる。
【0048】
細胞分取膜(11)としては、基材層が疎水性ポリマーで主として構成されてなるものであることが好適である。
基材層を構成する材質である疎水性ポリマーとしては、例えば、PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、PLA(ポリ乳酸)等であることが好適である。好ましくは、PE、PET等が好適である。
【0049】
本発明に係る細胞分取ユニット(2)としては、細胞分取膜(11)とは別途のフィルター状構造体を細胞分取膜に重層又は積層して配設させることが可能である。
ここで、フィルター状構造体としては、細胞分取膜の機能を阻害しない構造及び材質にて構成されるものであれば、メンブレンやフィルター等を特に制限なく使用することが可能である。また、材質、間隙サイズ、及び厚さ等は、特に制限なく用いることが可能であるが、所望の対象細胞の移動効率や刺激応答等に大きな影響を与えない構造のものを用いることが望ましい。
フィルター状構造体の配設位置としては、細胞分取膜の分取前細胞懸濁液側に配設する場合には、プレフィルターとして用いることが可能となる。また、第1次培養用ユニット側に配設する場合には、細胞分取膜の支持部材として使用することが可能である。更には、細胞分取膜の両面に配設する態様も可能である。
また、当該フィルター状構造体は、細胞分取膜と一体化させた複合膜構造体とする態様も可能である。
【0050】
親水性ポリマーによる膜表面修飾
細胞分取膜(11)としては、前記基材層の表面に親水性ポリマーが共有結合された構造を有するものであることが好適である。
ここで、細胞分取膜の基材層表面を親水性ポリマーにて修飾された態様では、細胞分取膜は細胞非接着性の作用を奏する膜として表面特性が改質された膜部材となる。これにより、細胞分取工程における細胞分取膜への対象細胞の付着ロスを低減し、対象細胞回収率を大幅に向上させることが可能となる。
また、細胞分取膜の基材層表面と親水性ポリマーとの結合は、培養液等の水を主成分とする液体と接触する状態となるため、水に不溶な状態での結合となることが好適である。
【0051】
本発明における細胞分取膜(11)に係る基材層の表面特性改質のための親水性ポリマーとしては、ビニルピロリドン系ポリマー、エチレングリコール系ポリマー、及びビニルアルコール系ポリマーからなる群から選ばれる1以上を用いることができる。
ビニルピロリドン系ポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体、ビニルピロリドン・ビニルアルコール共重合体、ビニルピロリドン・スチレン共重合体、ビニルピロリドン・ジメチルアミノエチルメタクリレート共重合体、これらの変性ポリマー、等を挙げることができる。エチレングリコール系ポリマーは、ポリエチレングリコール等を挙げることができるが、側鎖にエステル基を含む物も含まれる。ビニルアルコール系ポリマーは、ポリビニルアルコール等を挙げることができるが、鹸化度によって様々な種類のものが含まれる。
特には、ポリビニルピロリドン、ポロビニルアルコール、ポリビニルピロリドン/ポロ酢酸ビニル共重合体等を好適に挙げることができる。
これら親水性ポリマーは、水溶性傾向が強いものであることが好ましい。そのため、例えば、数平均分子量が1万〜100万のポリマーを用いることが好適であるが、水溶性であればこのような分子量には限定されない。
【0052】
細胞分取膜(11)に係る基材層の表面特性改質のための表面分子修飾処理は、孔の閉塞や有機溶剤の残存等の懸念が回避するために、水溶性モノマー、オリゴマー、又はポリマーを含む溶液中に基材層を浸漬し、高エネルギー線を照射する手段を挙げることができる(WO2012/058637号公報)。また、基材層に高エネルギー線を照射し、その後に水溶性モノマー、オリゴマー、又はポリマーを含む溶液に浸漬させた場合でも、ラジカルによる水溶性モノマー、オリゴマーもしくはポリマーの共有結合が可能である。
当該共有結合法においては、疎水性モノマー、オリゴマーもしくはポリマーで構成される基材層の表面に、前記親水性ポリマーを共有結合させることで表面分子修飾が実現される。
【0053】
当該共有結合法に係る表面分子修飾処理に用いる溶液中の水溶性ポリマー濃度としては、10ppm以上、好ましくは100ppm以上、より好ましくは500ppm以上、さらに好ましくは1000ppm以上を挙げることができる。ここで、濃度が高くなり過ぎる場合、微細孔を閉塞するおそれがある。そのため、上限として好ましくは、20000ppm以下、より好ましくは10000ppm以下であることが望ましい。
【0054】
当該表面分子修飾処理においては、基材層を構成する疎水性ポリマーの吸水率が2%以下である場合には、当該表面分子修飾処理に用いる溶液中にアルコールを添加することが望ましい。
ここで、アルコール濃度としては、溶液に対して0.05〜5wt%、好ましくは0.1〜1wt%、を挙げることができる。また、アルコールとしては、安全性の点からエタノールを用いることが好適である。
【0055】
照射する高エネルギー線としては、紫外線、電子線、γ線等を用いることができる。電子線又はγ線を用いることが反応効率を高める点で好適である。
照射線量としては、5〜35KGyが好ましい。特に、滅菌線量として認められている25KGy程度の線量を照射することで、膜表面修飾と滅菌を同時に行うことができ好適である。
【0056】
プラズマ処理による膜表面修飾
細胞分取膜(11)としては、プラズマ処理を行って疎水性基材層表面を直接的に親水化することで、細胞分取膜として好適な特性を備えたものとすることが可能である。プラズマ処理の態様としては、真空プラズマ処理や大気圧プラズマ処理を挙げることができるが、好適には真空プラズマ処理を挙げることができる。
当該プラズマ処理を行う態様では、細胞分取膜は細胞非接着性の作用を奏する膜として表面特性が改質された膜部材となるため、細胞分取工程における細胞分取膜への対象細胞の
非付着性が向上し、対象細胞回収率を大幅に向上させることが可能となる。
【0057】
当該プラズマ処理を行って得られた細胞分取膜は、疎水性ポリマーで構成されてなる基材層の表面近傍に、水酸基、カルボキシル基、及びこれらの官能基を含む化合物構造、から選ばれる1以上が共有結合された構造を有する、及び/又は、疎水性ポリマーで構成されてなる基材層の表面近傍に、当該疎水性ポリマーの良溶媒に対する不溶層を有するものとなる。より具体的な態様としては、水酸基及び/又はカルボキシル基が共有結合された構造を有するものとなる。
ここで、プラズマ処理を真空プラズマ処理にて行う態様では、導入するガスを選定することでより表面近傍に導入する官能基を細かく制御することが可能となる。
【0058】
当該プラズマ処理を行う態様にて得られる細胞分取膜の表面特性としては、接触角が70°以下、好ましくは60°以下、より好ましくは50°以下で示される親水性を示すものを挙げることができる。
細胞分取膜の表面特性としては、表面が超親水性になった場合でも細胞付着を阻害する性質が発揮されるため、接触角の下限値としては原理的には特に制限はないが、実際の実施形態としては、例えば当該値が5°程度以上を挙げることができる。
【0059】
当該プラズマ処理を行う態様では、表面エッチングが起こり表面近傍に水酸基やカルボキシル基が形成されることから、通常は経時劣化が起こることが知られている。しかし、疎水性基材層の表面に対して低エネルギーでの電圧印加による処理が行われる。印加する電圧条件としては、例えば、0.01kV以上、好ましくは0.05kV以上、より好ましくは0.1kV以上、更に好ましくは0.5kV以上を挙げることができる。印加電圧が高い程表面の親水化処理が進行し好適である。印加電圧の上限は特にないが、低エネルギー状態であるほど表面エッチングを少なく抑えられることから、例えば10kV以下、好ましくは5kV以下であることが好適である。
特に、低印加電圧での処理では、膜表面近傍に通常溶ける溶媒(例えばアセトン等)によっても溶けなくなる層を好適に形成させることが可能となる。当該層は表面エッチングが抑えられて架橋層が形成された表面構造と認められ、プラズマ処理の効果を長期に持続させる効果を発揮する。
【0060】
当該プラズマ処理を行う態様では、疎水性基材層の表面が均一に親水化した細胞分取膜を製造することが可能となる。また、当該製造態様にて製造された細胞分取膜は、γ線照射等の高エネルギー線処理と比較して表面エッチングが極めて少ないことから、表面近傍に架橋層を形成し経時劣化が少ない細胞分取膜となる。
また、当該プラズマ処理は、他の膜処理技術と併用することも可能である。例えば、疎水性基材層の一方の面に当該プラズマ処理を行って親水化させ、他方の面に高エネルギー線処理等を施すことも可能である。
【0061】
膜保持構造体
細胞分取ユニット(2)は、膜保持構造体(13)の容器を構成する面の少なくとも一部が、細胞分取膜(11)に被覆されて構成されてなる構造体である。
ここで、膜保持構造体(13)は、細胞分取ユニットにおいて、容器状構造体の容器部分を構成する部材であって、細胞分取膜を物理的に保持するための支持部材となる。また、膜保持構造体(13)は、細胞分取膜を備えた状態において細胞分取ユニット内へ液体を注入及び充填可能とする容器状の構造を有し、当該充填された液体について細胞分取膜を通過可能とする構造を有する。
当該構造体としては、例えば、筒状、略筒状、管状、方体状、略方体状、球状、略球状、円錐状、略円錐状、角錐状、略角錐状、分岐状、カップ状、略カップ状、コップ状、略コップ状、シャーレ状、略シャーレ状、これらを組み合わせた構造体等、上記基本的な構造を充足する限りは、様々なバリエーションの形態を採用することが可能である。
【0062】
膜保持構造体(13)を構成する材質としては、細胞分取膜を物理的に保持可能な強度を有する材質であることが好適である。また、細胞分取膜の挟持等に用いる部材(17)等を除いては、光透過性を有する材質であることが好適である。特に、本体容器ユニット(4)を開封することなく顕微鏡観察を行う場合、細胞分取培養容器(1)に備えられた培養面に対して対向する又は略対向する位置に配設される当該構造体(13)の構成部分について、光透過性を有する材質であることが好適である。ここで、対向方向又は略対向方向の構成部分とは、好ましくは培養面に対して上部側にくる構造部分を指す。
光透過性を有する材質としては、ガラス製を採用することも可能ではあるが、好ましくは無色で透明度が高く且つ取扱いに利便性を有する樹脂製のものが好適である。例えば、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルペンテン、透明ABS樹脂等の材質のものを用いることができる。
【0063】
膜保持構造体(13)としては、当該構造の一部に液体を注入可能とする構造を少なくとも1つ備えるものとなる。当該構造としては、膜保持構造体の内側に液体を注入可能な構造であれば如何なる構造を採用することが可能である。例えば、開口形状を有する開口部(14)のような構造が好適である。当該開口部の開口形状については、特に制限はないが、円形、略円形、楕円形、4以上の多角形が好ましく用いられる。
当該開口部(14)の形成位置としては、膜保持構造体内に注入する液体液面より上側の位置となるように設計することが好適である。具体的には、膜保持構造体の側面及び上面を挙げることができるが、好ましくは、上面にあることが好適である。なお、膜保持構造体が上面と側面の区別がない形状である場合は、注入する液体液面より上側の位置が好適である。
当該具体的態様の一例として、例えば、膜保持構造体が筒状形状である場合は、筒状の一端を開口部(14)とすることができる。
【0064】
膜保持構造体(13)は、容器状構造体であって、注入した液体を内部に保持可能な適度の容積を有するものであることが好適である。
ここで、当該容積としては、細胞分取膜のサイズによって決定することが好適である。例えば、細胞分取膜が外径6mmである場合、液体の液量にて10〜2000μL、好ましくは50〜1000μL、さらに好ましくは100〜500μL程度の液量を一時的に保持可能な容積であることが好適である。
【0065】
膜保持構造体(13)は、当該構造体を構成する面の少なくとも一部に細胞が通過するための開口部(15)を有し、当該開口部が細胞分取膜(11)によって被覆された構造を有する。
当該開口部(15)の形成位置としては、膜保持構造体内に注入する液体液面より下側の位置となるように設計することが好適である。具体的には、膜保持構造体の側面及び底面を挙げることができるが、好ましくは、底面にあることが好適である。なお、膜保持構造体が底面と側面の区別がない形状である場合は、注入する液体液面より下側の位置が好適である。即ち、本発明に係る細胞分取ユニット(2)としては、膜保持構造体の底面に細胞分取膜を備えた構造とすることが好適である。
当該具体的態様の一例としては、例えば、膜保持構造体が筒状形状である場合は、筒状の一端を開口部とすることができる。
当該開口部(15)が、細胞分取膜によって被覆されることにより、膜保持構造体に保持されていた分取対象細胞(101)や液体培地を、細胞分取膜を介して第1次培養用ユニット(3)側に移動させることが可能となる。
【0066】
膜保持構造体(13)の一端が細胞分取膜(11)を物理的に保持する手段としては、特に制限はないが、例えば、2つの構造部材により細胞分取膜を物理的に挟持する手段等を挙げることができる。
当該手段として、具体的には、膜保持構造体の底面部(16)と係合する構造を備えたリング構造体(17)を挙げることができる。この場合、当該リング構造体は、膜保持構造体と物理的に結合された形態の部材であっても良いし、別途の分離部材であっても良い。
ここで、リング構造体(17)は、リング状の開口部(18)を有する部材である。当該開口部(18)を通して、膜保持構造体に保持されていた分取対象細胞(101)や液体培地を第1次培養用ユニット(3)側に移動させることが可能となる。
膜保持構造体(13)、細胞分取膜(11)、及びリング構造体(17)を積層した場合、開口部(15)と開口部(18)が細胞分取膜を介して連通するように重なり合った状態となることが好適である。
当該部材構造によって、膜保持構造体の底面部とリング構造体の間に細胞分取膜が挟持された構造体が実現される。
なお、リング構造体(17)を用いる態様の場合、膜保持構造体側の底面部についても、リング構造体と係合又は嵌合する構造を有するものであることが好適である。ここで、係合又は嵌合構造としては、特に制限はないが、例えば、爪状構造、フランジ構造、フリンジ、これらと嵌合する雌型構造等を挙げることができる。
【0067】
膜保持構造体(13)の形状としては、上記基本的な構造を充足する限りは、様々なバリエーションの形態を採用することが可能である。
例えば、分岐構造を採用して、細胞分取膜を2以上備えた構造体とすることも可能である。また、細胞を注入又は充填する側を2以上備えた構造体とすることも可能である。また、筒状構造が枝分かれした筒や管を1以上備えた形状とすることも可能である。
また、筒状構造体の筒を曲げた筒状にすることも可能である。また、筒の径を段階的に変化させた形状とすることも可能である。
【0068】
本発明に係る膜保持構造体(13)の一態様としては、より具体的には、筒状構造体を挙げることができる。ここで、筒状構造体とは、筒の両端が連通してなる形状を有する構造体を指すものである。
ここで、筒状形状としては、筒の横断面が円状、略円状、楕円状、四角形状、略四角形状、多角形状、略多角形状等と如何なる断面形状のものを挙げることができる。好ましくは横断面が円状又は略円状のもので、膜保持構造体として円筒形状又は略円筒形状ものが好適である。
また、横断面の長軸長(円状の場合は内径)としては、4〜80mm、好ましくは4〜24mmのものを挙げることができる。
当該筒状構造体の形状を採用する場合、筒状構造体の一端が細胞分取膜で被覆された構造を挙げることができる。この場合、筒状構造の内部に注入された液体は、細胞分取膜を通過して第1次培養用ユニットに移動する態様となる。
【0069】
第1次培養用ユニットとの接続部
本発明に係る細胞分取ユニット(2)としては、第1次培養用ユニット(3)と一体化した構造体の態様を排除しないところであるが、好ましくは、第1次培養用ユニット側の第1次培養容器(21)と着脱可能な構造を有する態様であることが好適である。細胞分取ユニットを取り外す態様では、露呈した開口部(23)から培地交換等の操作を容易に行うことが可能となるからである。
具体的には、第1次培養用容器(21)に液体を充填した際に、細胞分取ユニットの細胞分取膜(11)の膜面と、第1次培養容器に充填した液体の液面、とが接する状態において、第1次培養用容器と配設が可能な構造とすることが好適である。
ここで、「膜面と液面とが接する状態」とは、細胞分取膜の膜面と第1次培養容器内に充填した液体全体の液面が揃って接している状態だけでなく、膜保持構造体の外側を第1次培養容器内の液体中に浸漬した状態にして当該膜面と液面とが接している状態も含まれる。また、当該配設状態としては、両部材が固定や接続された状態だけでなく、係合や積載等の配置状態も含まれる。
【0070】
細胞分取ユニット(2)としては、膜保持構造体の底面(16)に細胞分取膜(11)を備えた構造体であることが好適である。具体的には、細胞分取膜が形成される面が膜保持構造体の底面の一部であることが好適である。
ここで、細胞分取膜(11)の膜面と第1次培養用ユニットの液体の液面は、気泡を含まない状態にして接した状態が実現されることが望ましい。
【0071】
気泡防止構造
本発明に係る膜保持構造体(13)においては、第1次培養用ユニット(3)との接続部分の構造として、第1次培養用容器と接続又は積載配置等を行う場合において、細胞分取膜の膜面に気泡が入ることを防止する構造を備えたものであることが好適である。
当該気泡防止構造として、如何なる形態を採用するこができるが、例えば、前記膜保持構造体に係る細胞分取膜にて被覆される開口部(15)の周辺底面部(16)が、前記開口部(15)に向かって上方向への傾斜を備えた形状を採用することができる。
また、例えば膜保持構造体の底面(16)について、開口部(15)に向かって上方向への傾斜を備えた形状とすることが望ましい。ここで、傾斜としては、傾斜角度が一定でも良く、角度が変化したものであっても良い。好ましくは1〜10°さらに好ましくは1〜5°程度の傾斜角度であることが気泡防止の点で望ましい。
【0072】
本体蓋状部との接合部
膜保持構造体(13)は、本体蓋状部(56)の操作と連動して、細胞分取ユニット(2)に係る細胞分取膜(11)の位置が調整可能な構造を有するものであることが好適である。当該態様の一例として、膜保持構造体(13)と本体蓋状部とを接続可能な構造として、本体蓋状部を回動させることによって、膜保持構造体を分離又は転置させ、細胞分取膜の膜面の位置をずらすことを可能とする構造を挙げることができる。例えば、本体蓋状部の回動によって、細胞分取膜の膜面の位置が上側に浮き上がる構造を採用することができる。
本体蓋状部との接続部としては、膜保持構造体の上部に、本体蓋状部と係合又は嵌合する手段を設けることが好適である。
【0073】
[第1次培養用ユニット]
本発明に係る細胞分取培養増殖容器(1)は、第1次培養用ユニット(3)を備えて構成される容器状構造体である。
第1次培養用ユニット(3)は、前記細胞分取膜を通過した細胞を培養可能な第1次培養用培養面を有し、当該ユニット内部に保持していた細胞及び液体を自在に次段階の培養面を有するユニット側に開放可能な構造を有する容器状構造体である。詳しくは、第1次培養用ユニット(3)は、 i)容器状構造体であって、ii)当該容器状構造体内に液体を充填した際に、細胞分取ユニット(2)を、細胞分取膜面(11)と充填した液面とが接する状態にて配設可能な構造を有し、iii)当該容器状構造体を構成する面の少なくとも一部に、細胞分取膜を通過した細胞を培養可能な第1次培養用培養面(27)を有し、iv)当該容器状構造体を構成する面に、容器内部に保持していた細胞及び液体を自在に次段階の培養面を有するユニット(4、5)側に開放可能な構造を有する構造体である。
当該構造によって、第1次培養用ユニット(3)は、細胞分取ユニットにて分取された細胞について、本培養である増殖培養のためのプレカルチャーを行う容器として機能することが可能となる。なお、第1次培養用ユニットを構成する部材としては、本発明に係る細胞分取培養増殖容器(1)の機能を阻害しない限りは、第1次培養用容器以外の部材を含んでなることが許容される。
なお、本発明においては、第1次培養用ユニットは、細胞分取ユニット、増殖培養用ユニット、本体容器ユニット等と自在に着脱可能な態様であることが好適である。
【0074】
第1次培養用容器
第1次培養用ユニット(3)は、第1次培養用容器(21)によって主として構成される容器状構造体である。第1次培養用容器(21)は、上記した第1次培養用ユニットが有する機能を担保する構造及び性質を備えたものである。
【0075】
第1次培養用容器(21)を構成する材質としては、O−リング等の弾性部材(29)を構成する部材等を除いては、光透過性を有する材質であることが好適である。特に、本体容器ユニット(4)を開封することなく顕微鏡観察を行う場合、第1次培養用培養面(27)を形成する容器面について、光透過性を有する材質であることが好適である。また、第1次培養用培養面に対して対向方向又は略対向方向にある容器構造についても、光透過性を有する材質であることが好適である。ここで、対向方向又は略対向方向の容器構造とは、好ましくは培養面に対して上部側の容器構造を指す。
光透過性を有する材質としては、ガラス製を採用することも可能ではあるが、好ましくは透明度が高く且つ取扱いに利便性を有する樹脂製のものが好適である。例えば、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルペンテン、透明ABS樹脂等の材質のものを用いることができる。特に培養面については、ポリスチレンやPETなど、培養する細胞の増殖に適した素材を適宜使用することができる。
【0076】
第1次培養用容器(21)は、液体の保持が可能な容器状構造体である。当該容器状部分の形状としては、上記のような第1次培養用容器の機能を発揮できる構造部材であれば、如何なる形状のものを採用することが可能である。
容器状部分の構造としては、様々な形状やサイズのものを採用することが可能であるが、細胞分取ユニット(2)から分取された細胞の細胞濃度が希薄になりすぎず且つある程度の細胞シートや細胞集団形成が可能な形状及びサイズであれば、様々な形状やサイズのものを採用することが可能である。
当該容器状部分の形状として具体的には、筒状、略筒状、管状、方体状、略方体状、球状構造体、円錐状、略円錐状、角錐状、略角錐状、分岐状、カップ状、略カップ状、コップ状、略コップ状、シャーレ状、略シャーレ状、これらを組み合わせた構造体等、上記基本的な構造を充足する限りは、様々なバリエーションの形態を採用することが可能である。
【0077】
当該容器状部分のサイズとしては、下記段落に記載の第1次培養用培養面(27)として採用可能な面積のものを用いることが好適である。例えば、細胞分取膜(11)の面積にも依存するが、10〜400cm
2のものを用いることが好適である。
また、当該容器状部分の容積としては、第1次培養に適した一定量の液体培地を保持可能な容積であれば良いが、例えば、6〜280mLの液体を保持可能な容器であることが好適である。
【0078】
中空管状部材挿入出構造
第1次培養用容器(
21)としては、容器状構造体の容器壁面に中空管状部材(121)の挿入出を可能とする構造(34)を備えたものであることが好適である。
ここで、第1次培養用容器における中空管状部材挿入出構造(34)は、細胞分取膜(11)と第1次培養用容器内の液体面との接触遮断を、本体容器ユニット(4)を開封することなく実現するための構造である。
なお、第1次培養用容器における中空管状部材挿入出構造(34)は、第1次培養用容器の上方部分が元々開放部分を有する態様である場合には、特別な構造として配設を要しない構造であるところ、第1次培養用容器の上部に天板状の構造である場合には、当該構造の配設が好適態様となる。
【0079】
ここで、中空管状部材(121)としては、内部が空洞であって外部側の吸引機構(プランジャーや減圧器具等)を用いて液体の吸出又は注入が可能な部材を指す。容器内に挿入する際の本体容器ユニットにおける中空管状部材挿入出構造(60)での気密性確保の観点から、外径は0.2〜2.2mm程度であることが好適である。具体的には、シリンジ針、カニューレ、チューブ、パイプ状管等を用いることが好適である。先端部分は、鋭利な中空針状であることが好適である。より好ましくは、14〜33ゲージ、更に好ましくは18〜25ゲージ等のシリンジ針を用いることが好適である。
【0080】
第1次培養用容器における中空管状部材挿入出構造(34)は、第1次培養用容器内に充填した液体について、中空管状部材(121)を介して吸出又は注入による液体交換を可能とするための構造である。当該構造としては、中空管状部材(121)の挿入出が可能となる形状及びサイズの開口構造を採用することが可能である。
ここで、第1次培養用容器における当該中空管状部材挿入出構造(34)は、気密性保持が可能な弾性部材で形成された構造を備えている必要はなく、単なる開口構造を採用することが可能である。また、本体容器ユニットにおける中空管状部材挿入出構造(60)と同様に、気密性保持が可能な弾性部材から主としてなる構造を採用することも可能である。
【0081】
第1次培養用容器における中空管状部材挿入出構造(34)の配設位置としては、本体容器ユニット側の中空管状部材挿入出構造(60)から挿入した中空状部材(121)を介して第1次培養用ユニット内に充填した液体を吸出可能な位置に配設された構造であることが好適である。好ましくは、第1次培養用容器の上方部分又は充填する液面の上方となる側面部分に配設することが好適である。
具体的には、本体容器ユニット(4)側から挿入した中空状部材(121)が、細胞分取膜(11)を貫通することなく第1次培養用ユニット内に充填した液体にアクセス可能となるように、本体容器ユニット側の中空管状部材挿入出構造(60)と第1次培養用ユニット内に充填した液体面とを結んだ線上にくる位置に配設することが好適である。
特には、第1次培養用容器における中空管状部材挿入出構造(34)と本体容器ユニット側の中空管状部材挿入出構造(60)とは、第1次培養用ユニット内に充填した液体面に対して垂直又は略垂直となるように配設することが好適である。
【0082】
第1次培養用培養面
第1次培養用容器(21)は、容器状構造体を構成する面の少なくとも一部に、細胞分取膜(11)を通過した細胞を培養可能な第1次培養用培養面(27)を有する容器状構造体となる。
【0083】
第1次培養用培養面(27)は、第1次培養用容器(21)の底面に備えられた構造であることが好適であるが、底面以外の容器側面等を当該培養面とする態様も可能である。また、第1次培養用培養面を、第1次培養用容器内に複数設置する態様も可能である。例えば、底面を2以上の領域に分割又は区画化して、それぞれを培養面とする態様が可能である。また、底面の他に側面等を第1次培養面とする態様も可能である。
また、第1次培養用培養面としては、面が湾曲又は曲率を有する曲面形状の培養面であっても良いが、好ましくは平面形状又は略平面形状であることが好適である。特に培養面がフラットな平面形状であることが好適である。
【0084】
第1次培養用培養面(27)の構造としては、様々な形状やサイズのものを採用することが可能であるが、細胞分取ユニット(2)から分取された細胞の細胞濃度が希薄になりすぎず且つある程度の細胞シートや細胞集団形成が可能な形状及びサイズのものを採用することが好適である。
当該培養面の形状として具体的には、円形、略円形、四角形状、略四角形状、角形状、略角形状、角が面取りされた多角形等の形状を採用することができる。好ましくは円形形状等の培養面のものが好適である。
当該培養面のサイズとしては、例えば、10〜400cm
2のものを用いることが好適である。
【0085】
第1次培養用培養面(27)は、第1次培養用容器(21)の基材の内側面そのものを培養面とすることができる。また、第1次培養用培養面は、容器を構成する面とは別途に、平板状部材を培養面として備えた構造体とすることもできる。この場合、当該第1次培養用培養面(27)となる平板状部材は、第1次培養用容器(21)を構成する部材の一部となる。
第1次培養用培養面(27)となる当該平板状部材は、例えば、第1次培養用容器を構成する底面等に積層配置することが可能である。また、容器底面自体の代わりに当該平板状部材を嵌め込む構造とすることも可能である。また、底面との間に空隙を設ける段構造として、2段以上の培養面が形成されるように配置することも可能である。
平板状部材の形状及びサイズとしては、上記培養面の形状及びサイズと同様の条件を採用することができる。
【0086】
刺激応答性細胞剥離作用を有する分子による表面修飾
本発明に係る第1次培養用培養面(27)の表面としては、培養時では細胞接着性を示し且つ刺激応答により細胞剥離作用を示す分子により表面修飾がされたものであることが好適である。即ち、当該態様では、当該培養面の表面は、刺激応答性細胞剥離作用を有する分子修飾が施されて、表面特性が改質されたものとなる。
ここで、刺激応答性とは、光や温度等、本発明に係る本体容器ユニット(4)を開封することなく付与可能な刺激に応答する性質であることが好適である。具体的には、光応答性又は温度応答性等の刺激応答性細胞剥離作用を有する分子修飾が施されたものが好適である。
【0087】
本発明においては、培養時では細胞接着性を示し且つ刺激応答により細胞剥離作用を示す分子としては、例えば、温度応答性ポリマーを用いることが好適である。当該態様においては、培養時では疎水性傾向を示し且つ温度応答により急激に親水性傾向を示すように変化する分子修飾がされたものとなる。
温度応答性ポリマーを表面修飾分子として用いる場合、下限臨界温度(LCST)である相転移温度が、分取対象の細胞培養温度より低く且つ細胞の生存に適した温度域にあるポリマー分子を用いることが好適である。当該相転移温度としては、細胞へのダメージや刺激が少ないよう15〜35℃、好ましくは20〜35℃、より好ましくは22〜30℃を挙げることができる。
【0088】
当該温度応答性ポリマーの構成単位としては、具体的には、N−n−プロピルアクリルアミド(LCST21℃)、N−n−プロピルメタクリルアミド(LCST27℃)、N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(LCST約28℃)、N−イソプロピルアクリルアミド(LCST32℃)、N,N−ジエチルアクリルアミド(LCST32℃)、N−エトキシエチルアクリルアミド(LCST約35℃)、N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(LCST約35℃)、メチルビニルエーテル(LCST35℃)等を挙げることができる。
本発明に係る温度応答性ポリマーとしては、上記物質の単重合体を採用することが好適であるところであるが、下限臨界温度(LCST)が所定の範囲にある限りこれらの共重合体を用いることも可能である。
【0089】
上記温度応答性ポリマーを修飾分子として用いて第1次培養用培養面(27)の表面改質を行った場合、細胞培養に適した37℃付近では疎水性傾向を示すが、低温処理を行うのみで培養面の表面が疎水性から親水性性質に急激に変化し、細胞剥離作用を発揮させることが可能となる。
第1次培養用培養面(27)に係る基材面への表面分子修飾処理は、培養面を構成する基材分子に前記温度応答性ポリマーをグラフト共重合させることによって、表面分子修飾を実現することが可能である。基材分子への共有結合は、高エネルギー線を利用した共有結合法により行うことができる。例えば、特許3641301号の記載に準じて行うことが可能である。また、同様にプラズマ処理(好ましくは真空プラズマ処理)によって表面にラジカルを形成させてグラフト共重合をさせることも可能である。
【0090】
プラズマ処理による表面修飾
第1次培養用培養面(27)としては、プラズマ処理を行って疎水性基材層表面を直接的に親水化することで、培養面として好適な特性を備えたものとすることが可能である。プラズマ処理の態様としては、真空プラズマ処理や大気圧プラズマ処理を挙げることができるが、好適には真空プラズマ処理を挙げることができる。
当該プラズマ処理を行う態様では、表面エッチングが起こり表面近傍に水酸基やカルボキシル基が形成されることから、通常は経時劣化が起こることが知られている。しかし、低印加電圧で当該プラズマ処理を行う態様では、表面エッチングが極めて少なく表面近傍に架橋層が厚く形成されることから、顕著に経時劣化が少ない培養面が実現される。また、細胞進展に優れ且つ細胞接着が可能な程度に適度な親水性作用を奏するプレート部材として表面特性が改質された培養面となる。また、当該プラズマ処理を行う態様では、疎水性基材層の表面が均一に親水化した培養面を製造することが可能となる。
【0091】
当該プラズマ処理を行って得られた第1次培養用培養面(27)は、疎水性ポリマーで構成されてなる基材層の表面近傍に、水酸基、カルボキシル基、及びこれらの官能基を含む化合物構造、から選ばれる1以上が共有結合された構造を有する、及び/又は、疎水性ポリマーで構成されてなる基材層の表面近傍に、当該疎水性ポリマーの良溶媒に対する不溶層を有するものとなる。より具体的な態様としては、水酸基及び/又はカルボキシル基が共有結合された構造を有するものとなる。
当該プラズマ処理を行う態様にて得られる第1次培養用培養面(27)の表面特性としては、接触角が70°以下、好ましくは60°以下で示される親水性を示すものを挙げることができる。第1次培養用培養面(27)の表面特性として親水性の程度が強すぎる場合では、細胞接着自体が阻害される傾向となるため、10°以上、好ましくは接触角が20°以上、好ましくは30°以上のものが好適である。
【0092】
当該プラズマ処理を行う態様では、疎水性基材層の表面に対して低エネルギーでの電圧印加による処理が行われる。印加する電圧条件としては、基材層ポリマー素材の種類によって変動するものであるが、一態様としては、0.01kV以上、好ましくは0.05kV以上、より好ましくは0.1kV以上、更に好ましくは0.5kV以上を挙げることができる。印加電圧の上限としては、電圧が高すぎる場合には接着に影響が出るため、例えば5kV以下、好ましくは3kV以下、より好ましくは2kV以下であることが好適である。
特に、低印加電圧での処理では、第1次培養用培養面表面近傍に、通常溶ける溶媒(例えばアセトン等)によっても溶けなくなる層を好適に形成させることが可能となる。当該層は表面エッチングが抑えられて架橋層が形成された表面構造と認められ、プラズマ処理の効果を長期に持続させる効果を発揮する。
【0093】
細胞分取ユニットとの接続構造
第1次培養用容器(21)は、当該容器状構造体内に液体を充填した際に、前記細胞分取ユニット(2)を、細胞分取膜面(11)と充填した液体の液面とが接する状態にて配設可能な構造を有する構造体である。
ここで、「膜面と液面とが接する状態」とは、細胞分取膜の膜面と第1次培養容器内に充填した液体全体の液面が揃って接している状態だけでなく、膜保持構造体の外側を第1次培養容器内の液体中に浸漬した状態にして当該膜面と液面とが接している状態も含まれる。また、当該配設状態としては、両部材が固定や接続された状態だけでなく、係合や積載等の配置状態も含まれる。
当該容器における細胞分取ユニットとの接続部分の構造体として具体的には、第1次培養用容器を構成する容器面のいずれかにおいて、膜保持構造体の細胞分取膜(11)と通ずる開口部(23)を有するものとなる。当該接続部においては、当該開口部(23)と細胞分取ユニット側の開口部(15)とが、細胞分取膜を介して連通した構造となる。
【0094】
開口部(23)の形状としては、通常の穴状の開口構造を挙げることができるが、開口構造の周辺が筒状になった構造等のものも挙げることができる。
開口部(23)のサイズとしては、細胞分取膜(11)からの液体移動がスムースに可能なものであれば特に制限はないが、細胞分取膜より大きいサイズのものであることが好適である。なお、細胞分取膜のサイズより小さい形状のものや、当該小さいサイズのものを組み合わせた形状を排除するものではない。
開口部(23)として好ましくは、細胞分取ユニット(2)を外した場合において、当該開口部を介して各工程間における培地交換操作等を行うことができる形状であれば更に好適である。例えば、最長部分のサイズが3〜50cm、好ましくは5〜30cm程度の開口部が好適である。
【0095】
開口部(23)の形成位置としては、特に制限はなく、第1次培養用容器(21)を構成する上面又は側面であって、液体培地を充填した際に液体培地面と細胞分取膜(11)が接する位置であることが好ましい。好ましくは、細胞回収率や気泡防止の観点から、第1次培養用容器を構成する基材の上面に形成させたものであることが好適である。なお、当該容器が上面と側面の区別がない形状であっても上記上限を満たす限り採用することが可能である。
【0096】
開口部(23)周辺部には、細胞分取ユニットに係る細胞分取膜付近の周辺部(16)と係合又は嵌合可能な構造を有することが好適である。ここで、係合又は嵌合構造としては、特に制限はないが、例えば、爪状構造、フランジ構造、フリンジ構造、これらと嵌合する雌型構造等を挙げることができる。
【0097】
開口部(23)周辺部には、細胞分取ユニット(2)との接続又は積載等の操作時に溢れた培地を貯留するための培地トラップ構造を備えた態様であることが好適である。
ここで、本発明に係る容器(1)を用いて細胞分取工程を行うためには、細胞分取ユニットの細胞分取膜面(11)を、第1次培養用ユニット内に充填した液体の液面が接する状態にすることを要するところ、当該操作時には膜面と液面の間の気泡混入を防止する観点から液面ギリギリの状態まで培地充填して配設操作を行われる場合が多い。この場合、開口部(23)周辺に培地がオーバーフローして、容器中に溢れ出た状態となり好適でない。
当該培地トラップ構造としては、具体的には、開口部(23)に対して周設配設してなる溝状構造や堀状構造等のオーバーフローした培地を貯留可能な構造を採用することが可能である。溝や堀の配置は、円状、略円状、多角状、面取り多角状等如何なる配置も採用可能であるが、開口部(23)の周囲を囲むような配置であることが好適である。
【0098】
第1次培養用容器(21)における細胞分取膜(11)が配設される位置としては、細胞分取膜と開口部(23)が配設された反対側の壁面(具体的には培養面)との間には、一定の間隔を有する空隙が形成された位置であることが望ましい。
当該間隔としては、細胞分取膜を通過した細胞が培地に浸漬された状態にて培養可能な空間が担保できる間隔であれば良い。例えば、細胞分取膜の膜面と第1次培養用培養面(27)の間隔が1〜50mm、好ましくは2〜40mm程度の間隔を挙げることができる。
また、当該位置を調整するために、第1次培養用容器内に位置調整手段を設けることも可能である。また、別途にスペーサー部材や支持体部材を噛ませて、当該位置を調整する態様とすることも可能である。
第1次培養工程においては、当該空隙内の容器内の空間に液体培地を充填することによって、分取細胞の第1次培養を行うことが可能となる。
【0099】
開放構造
第1次培養用容器(21)は、容器状構造体を構成する面に、容器内部に保持していた細胞及び液体を自在に次段階の培養面を有するユニット(4、5)側に開放可能な構造を有する容器状構造体である。
当該開放構造(28)は、当該構造が閉じた状態においては容器内の液体の保持を可能にするところ、当該構造を開いた状態に変化させることにより容器内に保持していた細胞及び液体を当該容器の次段階の培養面を有するユニット側である外側に開放可能とする構造である。
当該構造によって、第1次培養工程においては第1次培養用容器内の液体培地の保持していた細胞を含む液体培地を、当該容器の外側の構造体側に放出することが可能となる。
【0100】
開放構造(28)としては、自在な開閉制御が可能な機構を有するものであって、上記機能を発揮し得る構造体であれば、特に制限はなく採用することができる。例えば、開閉可能な開放口構造、開閉可能な開放窓構造、嵌合状態の栓状部材を分離又は転置して内部を開放可能な構造、嵌合状態の容器を分離又は転置して内部を開放可能な構造、等を採用することができる。
ここで、開放構造(28)の形成位置としては、第1次培養用容器(21)に液体を充填した場合において、当該液体の液面より下になる位置であれば特に制限はない。具体的には、第1次培養用容器の底面又は側面を挙げることができる。
また、開放構造(28)の数としても特に制限はないが、例えば開放口や開放窓の場合であれば、間隔を開けて2以上設置することが可能である。また、開放構造(28)の構造としては、第1次培養用容器の外側のユニット(4、5)側に液体培地の開放が可能な形状及びサイズであれば、特に制限はなく採用可能である。
【0101】
開放構造(28)の一態様としては、第1次培養用容器(21)を2以上の構造体からなる容器状構造体として形成させ、これらの分離又は転置によって前記開放可能な構造が開放状態となるように調整可能な構造を挙げることができる。
当該態様においては、第1次培養用容器は2以上の部材により構成されてなる容器状構造体となる。そして、当該容器状構造体を構成する部材の分離又は転置によって、前記開放可能な構造が開放状態となるように調整可能な構造を有する構造体となる。
当該態様としてより具体的には、第1次培養用容器を上部構造体(22)及び下部構造体(26)から主として構成されてなる容器状構造体として、上部構造体と下部構造体の分離又は転置によって前記開放可能な構造が開放状態となるように調整可能な構造を挙げることができる。
なお、上部構造体(22)と下部構造体(26)が接する位置には、密着性を担保するためにO−リング等の弾性部材(29)を噛ませる態様を採用することもできる。
【0102】
開放構造(28)の開閉制御を可能とする機構としては、例えば、開放窓を塞ぐ形状の嵌め込み部材、充填部材、蓋状部材、栓状部材、シール部材等、開放構造閉塞部材(35)を構成部材として採用することが可能である。また、当該開閉制御機構としては、上部構造体の一部分を開放構造閉塞部材(35)とする態様も可能である。
当該開放構造閉塞部材(35)を装着した際には、開放構造(28)が閉じた状態となるため、第1次培養用容器内に液体が保持される。一方、当該部材を分離又は転置させた際には、開放構造(28)が開いた状態となるため、第1次培養用容器内に液体が外側に開放される。
【0103】
開放構造(28)の開放状態を実現する手段としては、本体容器ユニット(4)を開封して、第1次培養用ユニットに直接触れて操作する方法を挙げることができる。例えば、本体容器ユニットの本体蓋状部(56)を取り外して、開放構造閉塞部材(35)を分離又は転置させて開放構造を開いた状態にする方法を挙げることができる。
【0104】
また、開放構造(28)の開放状態を実現する手段としては、本体容器ユニット(4)を開封することになく本体容器ユニットの外側から操作して、開放構造を開いた状態にする調整機構を備える態様とすることも可能である。
当該調整機構を備えた態様としては、具体的には、第1次培養用ユニット(3)として、本体蓋状部(56)の操作と連動して開放可能な構造(28)が開放状態となるように調整可能な構造を採用することができる。一例として、開放構造閉塞部材(35)又はその連結部材と本体蓋状部(56)とを接続可能な構造として、本体蓋状部を回動させることによって、開放構造閉塞部材をずらして分離又は転置させ、開放構造(28)を開放状態にする構造を挙げることができる。例えば、本体蓋状部(56)の回動によって、開放構造閉塞部材(35)の位置が上側に浮き上がらせて転置させ、開口構造(28)が開放する構造を採用することができる。
本体蓋状部(56)との接続部としては、開放構造閉塞部材(35)の上部又はその連結部材に、本体蓋状部と係合又は嵌合する手段を設けることが好適である。
【0105】
また、当該調整機構を備えた別態様としては、マグネット等を使用した操作によって、開放構造(28)を開いた状態にする構造を採用することも可能である。例えば、開放構造閉塞部材(35)をマグネット又は磁性体にて構成された部材として、外側からの磁力を与えて開放構造(28)から開放構造閉塞部材(35)を分離又は転置させることによって、開放構造を開放状態にする構造を採用することが可能である。
【0106】
第1次培養用ユニット全体の構成
第1次培養用ユニット(3)は、第1次培養用容器(21)と実質的に同じ範囲を指す用語である。当該ユニットは、容器状部分、第1次培養用培養面、液体培地等の開放構造、及び細胞分取ユニットとの接続構造等を、全て一体化した構造体とすることも可能である。また、これらの構造を部材集合体として実現する態様も可能である。部材集合体が第1次培養用容器を構成する部材となる。
当該部材集合体としては、各構造に対応する部材をパーツとして組み立てることが可能である。また、各構造を複数備えた部材を2〜3組み合わせる態様を採用することも可能である。
例えば一例として、上部構造体(22)と下部構造体(26)に分割した集合部材態様とすることが可能である。上部構造体の一例としては、容器状部分の上面部分、細胞分取ユニットとの接続構造、及び液体培地等の開放構造の開閉制御機構、等を含む構造体とすることが可能である。一方、下部構造体の一例としては、容器状部分の側面及び底面、第1次培養用培養面、及び液体培地等の開放構造の窓部分、等を含む構造体とすることが可能である。
【0107】
第1次培養用容器の外面には、外側の容器状構造体である本体容器ユニット(4)又は増殖培養用ユニット(5)に格納した際に、外側容器と係合する構造を備えていることが好適である。係合又は嵌合構造としては、特に制限はないが、例えば、爪状構造、フランジ構造、フリンジ構造、これらと嵌合する雌型構造等を挙げることができる。
また、当該係合又は嵌合構造は、スペーサー部材や支持体部材を別途に採用して実現する態様も可能である。
【0108】
[本体容器ユニット]
本発明に係る細胞分取培養増殖容器(1)は、本体容器ユニットを備えて構成される容器状構造体である。
本体容器ユニット(
4)は、前段階の培養用ユニットから開放された細胞を培養可能な増殖培養用培養面を備え、当該増殖培養用培養面が前段階の培養用ユニットに係る培養面よりも広い面積のものであり、細胞分取ユニット及び前段階までの全ての培養用ユニットを格納可能な構造を有する容器状構造体である。詳しくは、本体容器ユニット(
4)は、 i)本体容器(41)及び本体蓋状部(56)から主として構成されてなる容器状構造体であって、ii)前段階の培養用ユニット(3、5)から開放された細胞を培養可能な増殖培養用培養面(55)を備え、当該増殖培養用培養面が前段階の培養用ユニットに係る培養面よりも広い面積のものであり、iii)当該容器状構造体の内部に、細胞分取ユニット(2)及び前段階までの全ての培養用ユニット(3、5)を格納可能な構造を有し、iv)前記本体蓋状部が、容器全体を密閉状態とすることが可能な蓋状構造体である、ことを特徴とする容器状構造体である。
【0109】
本体容器ユニット(4)は、本発明に係る容器全体の内部空間を密閉状態に維持することを可能とする構造を有する。これにより、本発明においては、細胞分取、第1次培養、増殖培養等の各培養工程を同一容器内にて行うことが可能となる。また、本発明に係る細胞分取培養増殖容器(1)の物理的強度を担保しえる筐体機能を奏する構造体となる。
当該本体容器ユニット(4)は、増殖培養工程において主要な機能を発揮する部材となる。特にガス交換口(47)や培地交換口(51)を備える態様とすることによって、増殖培養工程において好適態様となる。
【0110】
本体容器ユニット(4)を構成する部材としては、本発明に係る細胞分取培養増殖容器(1)の機能を阻害しない限りは上記以外の部材を含むことが許容される。
また、本体容器ユニットは、第1次培養用ユニットや増殖培養用ユニット等と自在に着脱可能な態様であることが好適である。
【0111】
本体容器
本体容器(41)は、液体の保持が可能な容器状構造体である。本体容器(41)は、上記した本体容器ユニット(4)が有する容器状部分の機能を担保する構造を備えた構造体である。
本体容器(41)に係る容器構造としては、様々な形状やサイズのものを採用することが可能であるが、前段階の培養用ユニットから放出された細胞の細胞濃度が希薄になりすぎず且つある程度の細胞シートや細胞集団形成が可能な形状及びサイズであれば、様々な形状やサイズのものを採用することが可能である。
当該容器状部分の形状として具体的には、筒状、略筒状、管状、方体状、略方体状、球状構造体、円錐状、略円錐状、角錐状、略角錐状、分岐状、カップ状、略カップ状、コップ状、略コップ状、シャーレ状、略シャーレ状、これらを組み合わせた構造体等、上記基本的な構造を充足する限りは、様々なバリエーションの形態を採用することが可能である。
【0112】
本体容器(41)を構成する材質としては、O−リング等の弾性部材(57)を構成する部材等を除いては、光透過性を有する材質であることが好適である。特に、本体容器ユニット(4)を開封することなく顕微鏡観察を行う場合、増殖培養用培養面(55)を形成する容器面について、光透過性を有する材質であることが好適である。また、増殖培養用培養面に対して対向方向又は略対向方向にある容器構造について、光透過性を有する材質であることが好適である。ここで、対向方向又は略対向方向にある容器構造とは、好ましくは培養面に対して上部側の容器構造を指す。
光透過性を有する材質としては、ガラス製を採用することも可能ではあるが、好ましくは透明度が高く且つ取扱いに利便性を有する樹脂製のものが好適である。例えば、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルペンテン、透明ABS樹脂等の材質のものを用いることができる。特に培養面については、ポリスチレンやPETなど、培養する細胞の増殖に適した素材を適宜使用することができる。
【0113】
本体容器(41)の容器状部分のサイズとしては、下記段落に記載の増殖培養用培養面(55)として採用可能な面積のものを用いることが好適である。例えば、インキュベーター等での使用を想定する場合であれば30〜1600cm
2のものを用いることが好適であるが、大規模スケール等での使用の場合は特にこれに制限されない。
また、当該容器状部分の容積としては、細胞増殖培養に適した一定量の液体培地を保持可能な容積であれば良いが、例えば、インキュベーター等での使用を想定する場合であれば30〜1500mL程度の液体を保持可能な容器であることが好適であるが、大規模スケール等での使用の場合は特にこれに制限されない。
【0114】
中空管状部材挿入出構造
本体容器(41)としては、容器状構造体の容器壁面に中空管状部材(121)の挿入出を可能とする構造(60)を備えたものであることが好適である。
本体容器における中空管状部材挿入出構造(60)は、本体容器ユニット(4)を開封することなく、細胞分取膜(11)と第1次培養用容器内の液体の液面との接触遮断を実現するための構造である。
ここで、中空管状部材(121)としては、内部が空洞であって外部側の吸引機構(プランジャーや減圧器具等)を用いて液体吸出又は注入が可能な部材を指す。詳細は、上記した第1次培養用容器(21)の説明にて詳述した通りである。
【0115】
本体容器における中空管状部材挿入出構造(60)は、第1次培養用容器内に充填した液体について、中空管状部材(121)を介して吸出又は注入による液体交換排出可能とするための構造である。当該構造としては、中空管状部材の非挿入状態での気密性保持並びに中空管状部材の挿入状態での気密性保持が可能な弾性部材から主として構成されてなる構造を採用することができる。
具体的には、中空管状部材(121)を当該構造に穿孔貫通した際には、中空管状部材の外側と接触する部分に密着して気密性保持を可能とする材質であることが好適である。また、穿孔貫通した中空管状部材を抜出した際には、貫通孔部分の内側がお互いに密着して気密性保持を可能とする材質であることが好適である。
当該中空管状部材挿入出構造(60)を構成する部材としては、樹脂性の弾性部材を挙げることができる。例えば、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ゴム等を挙げることができる。
【0116】
本体容器における中空管状部材挿入出構造(60)の配設位置としては、当該中空管状部材挿入出構造から挿入した中空状部材を介して第1次培養用ユニット内に充填した液体を吸出可能な位置に配設されたものであることが好適である。好ましくは、本体容器(41)の上方部分又は充填する液面の上方となる側面部分に配設することが好適である。より好ましくは、本体蓋状部(56)に配設することが好適である。
具体的には、外側から挿入した中空状部材(121)が、細胞分取膜(11)を貫通することなく第1次培養用ユニット内に充填した液体にアクセス可能となる位置に配置することが好適である。特には、第1次培養用ユニット内に充填した液体の液面に対して、垂直又は略垂直となるように配設することが好適である。
【0117】
増殖培養用培養面
本体容器(41)は、容器状構造体を構成する面の少なくとも一部に、前段階の培養用ユニット(3,5)から開放された細胞を培養可能な増殖培養用培養面(55)を有する容器状構造体となる。
【0118】
増殖培養用培養面(55)は、本体容器(41)の底面に備えられた構造であることが好適であるが、底面以外の容器側面等を当該培養面とする態様も可能である。また、増殖培養用培養面を、本体容器内に複数設置する態様も可能である。例えば、底面を2以上の領域に分割又は区画化して、それぞれを培養面とする態様が可能である。また、底面の他に側面等を
増殖培養用培養面とする態様も可能である。
また、増殖培養用培養面(55)としては、面が湾曲又は曲率を有する曲面形状の培養面であっても良いが、好ましくは平面形状又は略平面形状であることが好適である。特に培養面がフラットな平面形状であることが好適である。
【0119】
増殖培養用培養面(55)の構造としては、様々な形状やサイズのものを採用することが可能であるが、前段階の培養用ユニット(3、5)から開放された細胞の細胞濃度が希薄になりすぎず且つある程度の細胞シートや細胞集団形成が可能な形状及びサイズのものを採用することが好適である。
当該培養面の形状として具体的には、円形、略円形、四角形状、略四角形状、角形状、略角形状、角が面取りされた多角形等の形状を採用することができる。好ましくは角が面取りされた四角形状の培養面のものが好適である。
【0120】
増殖培養用培養面(55)のサイズとしては、前段階の培養用ユニット(3、5)に係る培養面の面積を1とした場合の面積比で1より大きく且つ20以下、好ましくは1.5〜15、より好ましくは2〜10、更に好ましくは3〜8の範囲にあるものが好適である。面積比が当該範囲にある場合、細胞特性を維持しつつ且つ適切な増殖培養が可能となり望ましい。
ここで、面積比の値が大き過ぎる場合、培養面積当たりの細胞数が少なくなるため、細胞間コミュニケーションがとりにくく増殖能が低下する傾向があり好適でない。また、更に細胞特性が変化する可能性もあり好適でない。
一方、面積比が小さ過ぎる場合、培養面積当たりの細胞数が多くなるため、継代回数が増大する傾向があり作業性の点で好適でない。また、継代の際、細胞凝集により分化誘導が生じる可能性があるため、細胞特性が変化しやすくなり好適でない。
【0121】
増殖培養用培養面(55)は、本体容器(41)の基材の内側面そのものを培養面とすることができる。また、増殖培養用培養面(55)は、容器を構成する面とは別途に、平板状部材を培養面として備えた構造体とすることもできる。この場合、当該増殖培養用の平板状部材は、本体容器を構成する部材の一部となる。
増殖培養用培養面(55)である平板状部材の設置態様としては、例えば、本体容器を構成する底面等に積層配置することが可能である。また、底面との間に空隙を設ける段構造として、2段以上の培養面が形成されるように配置する構造とすることも可能である。
平板状部材の形状及びサイズとしては、上記培養面の形状及びサイズと同様の条件を採用することができる。
【0122】
刺激応答性細胞剥離作用を有する分子修飾
本発明に係る増殖培養用培養面(55)の表面としては、培養時では細胞接着性を示し且つ刺激応答により細胞剥離作用を示す分子により表面修飾がされたものであることができる。即ち、当該態様では、当該培養面の表面は、刺激応答性細胞剥離作用を有する分子修飾が施されて表面特性が改質されたものとなる。
増殖培養用培養面の表面への分子修飾は、第1次培養用培養面(27)の表面修飾手段と同様にして行うことが可能である。なお、本発明においては、増殖培養面の表面修飾について、第1次培養用培養面とは異なる手法により行っても良い。例えば、第1次培養用培養面の表面修飾は温度応答性分子等で行って、増殖培養用培養面の表面修飾を光応答性分子等で行うことも可能である。
【0123】
プラズマ処理による表面修飾
本発明に係る増殖培養用培養面(55)の表面としては、プラズマ処理を行って疎水性基材層表面を直接的に親水化することで、培養面として好適な特性を備えたものとすることが可能である。
当該プラズマ処理を行う態様では、表面エッチングが起こり表面近傍に水酸基やカルボキシル基が形成されることから、通常は経時劣化が起こることが知られている。しかし、低印加電圧で当該プラズマ処理を行う態様では、表面エッチングが極めて少なく表面近傍に架橋層が厚く形成されることから、顕著に経時劣化が少ない培養面が実現される。また、細胞進展に優れ且つ細胞接着が可能な程度に適度な親水性作用を奏するプレート部材として表面特性が改質された培養面となる。また、当該プラズマ処理を行う態様では、疎水性基材層の表面が均一に親水化した培養面を製造することが可能となる。
【0124】
当該プラズマ処理を行って得られた増殖培養用培養面(55)は、疎水性ポリマーで構成されてなる基材層の表面近傍に、水酸基、カルボキシル基、及びこれらの官能基を含む化合物構造、から選ばれる1以上が共有結合された構造を有する、及び/又は、疎水性ポリマーで構成されてなる基材層の表面近傍に、当該疎水性ポリマーの良溶媒に対する不溶層を有するものとなる。より具体的な態様としては、水酸基及び/又はカルボキシル基が共有結合された構造を有するものとなる。
増殖培養用培養面の表面へのプラズマ処理は、第1次培養用培養面(27)の表面修飾手段と同様にして行うことが可能である。
特に、低印加電圧での処理では、膜表面近傍に通常溶ける溶媒(例えばアセトン等)によっても溶けなくなる層を好適に形成させることが可能となる。当該層は表面エッチングが抑えられて架橋層が形成された表面構造と認められ、プラズマ処理の効果を長期に持続させる効果を発揮する。
【0125】
前段階培養用ユニットの格納構造
本体容器(41)は、容器状構造体の内部に、細胞分取ユニット(2)及び前段階までの全ての培養用ユニット(3、5)を格納可能な構造を有する構造体である。
本体容器(41)は、細胞分取ユニット及び培養用ユニット等を挿入出するための開口部(43)を備えた構造体である。細胞分取ユニット及び培養用ユニット等は、当該開口部(43)を通して本体容器(41)内部に格納することが可能となる。
【0126】
開口部(43)の形状としては、通常の穴状の開口構造を挙げることができるが、開口構造の周辺が本体蓋状部との嵌合に適した形状等のものが好適である。開口部(43)のサイズとしては、前段階における培養用ユニット(3、5)の挿入出を円滑に行うことを可能なものであれば、特に制限はない。特には、前段階の培養用ユニットの外枠サイズより大きいサイズであることが望ましい。更には、前段階の培養用ユニットの外枠サイズより若干大きい形状であって当該開口部の内側と物理的に接続可能なものが好適である。
開口部(43)の構造としては、好ましくは、開口部(43)の内側壁に前段階の培養用ユニットの外枠と係合又は嵌合する形状を備えたものであって、当該前段階の培養用ユニットを固定可能な構造を有するものが好適である。係合又は嵌合構造としては、特に制限はないが、例えば爪状構造、フランジ構造、フリンジ構造、これらと嵌合する雌型構造等を挙げることができる。
また、当該係合又は嵌合構造は、スペーサー部材や支持体部材を別途に採用して実現する態様も可能である。
【0127】
本体容器(41)に培養用ユニット等を格納した状態においては、本体容器の内側に細胞分取ユニット(2)及び培養用ユニット(3、5)等が配設された状態となる。
当該格納状態としては、本発明に係る容器(1)のコンパクトな格納状態を実現する態様としては、前段階の培養用ユニット(3、5)の容器底面外壁と本体容器(41)の内側面(具体的には増殖培養面(55))が接触した状態にて格納される態様を挙げることができる。また、増殖培養面(55)の面積確保のために、所望に応じて本体容器内に前段階の培養用ユニット(3、5)の容器底面外壁の高さ方向の位置を調整する手段を設けることも可能である。また、別途にスペーサー部材や支持体部材を噛ませて、前段階の培養用ユニット(3、5)の容器底面外壁の高さ方向の位置を調整する態様を採用することも可能である。
また、前記位置調整手段を設けない態様の場合においては、増殖培養面(55)の面積確保のために、前段階の培養用ユニット(3、5)の容器底面の外壁が本体容器(41)の内側面(具体的には底面)が予め接触しない状態にて格納する態様を採用することも可能である。
【0128】
本体容器(41)は、細胞分取ユニット(2)及び培養用ユニット(3、5)等の格納状態を実現するために、垂直方向に一定の容器高を有する構造体である。
本体容器(41)における垂直方向の容器高は、細胞分取ユニット及び培養用ユニット等の格納が可能であれば特に制限はない。また、当該垂直方向の容器高が培養用ユニット等の容器高よりも短い場合であっても、本体蓋状部(56)の構造をドーム状等にして、当該格納を実現することも可能である。
本体容器(41)の容器高としては、例えば、顕微鏡で観察するステージコンデンサ間を担保可能な容器高を挙げることができる。
【0129】
本体容器の開口部(43)は、本体容器(41)が本体蓋状部(56)と嵌合して接続した際は、本体蓋状部(56)が開口部(43)を覆うように嵌合接続される構造体であることが好適である。そのため、本体容器の開口部(43)の周辺の構造としては、本体蓋状部(56)と嵌合可能とする構造を有するものが好適である。
本体蓋状部(56)の側面構造と嵌合可能とする本体容器側の構造(45)としては、特に制限はないが、例えば、スクリュー構造、フリンジ構造、爪状構造等、通常の蓋と係合可能な構造を採用することが可能である。
【0130】
本体蓋状部
本体容器ユニット(4)は、本体蓋状部(56)を備えた構造である。本体蓋状部(56)は、容器全体を密閉状態とすることが可能な蓋状構造体である。
【0131】
本体蓋状部(56)の構造としては、上記様々な形状やサイズのものを採用することが可能であるが、本体容器(41)の容器状構造体の内部に、細胞分取ユニット(2)及び前段階までの全ての培養用ユニット(3、5)を格納した状態にて、容器全体を密閉可能な機能を発揮する構造であれば、特に制限なく採用することが可能である。
【0132】
本体蓋状部(56)は、本体容器の開口部(43)と嵌合可能な構造を備えたものである。また、当該蓋部分における本体容器と係合又は嵌合構造としては、特に制限はないが、本体蓋状部(56)の側面構造によって、本体容器の開口部側の構造体と嵌合させる構造、本体容器の開口部側とスクリューネジ様にキャップする構造、フランジ構造を介して係合する構造等、爪状構造を介して係合する構造等、通常の蓋構造を採用することが可能である。
なお、本体容器(41)と本体蓋状部(56)との嵌合部には、本体容器全体の気密性を担保するために、O−リング等の弾性部材(57)を噛ませる構造を採用することが好適である。
【0133】
本体蓋状部(56)の上面の構造としては、細胞分取ユニット(2)及び前段階までの全ての培養用ユニット(3、5)が格納された状態を確保できれば特に制限はない。例えば、平板状やドーム状等、如何なる形状を採用することが可能である。
また、本体蓋状部の上面内側には、本体容器内部の空間に格納した細胞分取ユニット及び/又は培養用ユニットの一部と接触固定又は係合固定するための嵌合構造(58)を備えることが好適である。
【0134】
本体蓋状部(56)としては、本体蓋状部(56)の回動操作と連動させて、各構成ユニットの状態変化を操作する態様とすることが可能である。当該態様としては、例えば、第1次培養用ユニットに係る開放可能な構造(28)の調整状態を挙げることができる。また、第1次培養用容器底面の外壁高の調整状態を挙げることもできる。また、細胞分取ユニットに係る細胞分取膜(11)の位置調整状態を挙げることもできる。
また、これら複数の状態変化を本体蓋状部(56)の回動操作のみで実現する態様とすることも可能である。
【0135】
本体蓋状部(56)としては、本体蓋状部の操作と連動して、第1次培養用ユニットに係る開放可能な構造(28)が開放状態となるように調整可能な構造を有するものであることが好適である。
当該態様の一例として、本体蓋状部(56)と開放構造閉塞部材(35)又はその連結部材とを接続可能な構造として、本体蓋状部(56)を回動させることによって、開放構造閉塞部材(35)をずらして分離又は転置させ、開放構造(28)を開放状態にする構造を挙げることができる。具体的には、開放構造閉塞部材(35)又はその連結部材を上方向に分離又は転置させる態様を採用することができる。
当該態様では、本体蓋状部の回動を行った場合においても、本体容器ユニット(4)の気密性保持が可能な構造であることが好適である。
【0136】
本体蓋状部(56)としては、本体蓋状部の操作と連動して、第1次培養用容器(21)の底面外壁を増殖培養面(55)から上方向に分離又は転置させて、第1次培養用容器底面の外壁高を調整可能な構造を有するものが好適である。当該構造により第1次培養用容器(21)の底面外壁と増殖培養面(55)の間に空隙又は空間が形成され、細胞培養が可能な増殖培養面(55)の面積を増大させることが可能となる。
当該態様の一例として、本体蓋状部(56)と第1次培養用容器(21)又はその連結部材とを接続可能な構造として、本体蓋状部(56)を回動させることによって、第1次培養用容器底面を上方向に分離又は転置させる構造を挙げることができる。当該態様では、本体蓋状部の回動を行った場合においても、本体容器ユニット(4)の気密性保持が可能な構造であることが好適である。
【0137】
本体蓋状部(56)としては、本体蓋状部の操作と連動して、細胞分取ユニットに係る細胞分取膜(11)の位置が調整可能な構造を有するものであることが好適である。
当該態様の一例として、本体蓋状部(56)と膜保持構造体(13)とを接続可能な構造として、本体蓋状部(56)を回動させることによって、膜保持構造体(13)を分離又は転置させ、細胞分取膜(11)の膜面の位置をずらすことを可能とする構造を挙げることができる。当該態様では、本体蓋状部の回動を行った場合においても、本体容器ユニット(4)の気密性保持が可能な構造であることが好適である。
【0138】
本体蓋状部(56)を構成する材質としては、O−リング等の弾性部材(57)を構成する部材等を除いては、光透過性を有する材質であることが好適である。特に、本体容器ユニット(4)を開封することなく顕微鏡観察を行う場合、光透過性を有する材質にて本体蓋状部の少なくとも一部を構成させることが好適である。
光透過性を有する材質としては、ガラス製を採用することも可能ではあるが、好ましくは透明度が高く且つ取扱いに利便性を有する樹脂製のものが好適である。例えば、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルペンテン、透明ABS樹脂等の材質のものを用いることができる。特に培養面については、ポリスチレンやPETなど、培養する細胞の増殖に適した素材を適宜使用することができる。
【0139】
回動調節機構
本発明に係る容器において、本体蓋状部(56)の回動操作と連動した上記操作を可能とする態様を採用する場合では、本体蓋状部(56)の回動度合と容器形状の状態変化とを段階的に対応させることを可能とする回動調節機構(61)を採用することが可能である。
【0140】
本発明に係る容器における回動調節機構(61)としては、i)本体蓋状部との嵌合構造(45)の外周付近に配設される本体蓋状部の回動状態を段階的に調節制御可能な構造体と、ii)これに嵌合する本体蓋状部(56)の側面構造に備えられた構造体と、を含んでなる機構であって、本体蓋状部の回動度合を操作者が段階的に認知可能とする機構を挙げることができる。
回動調節機構(61)を構成する部材の一態様としては、本体蓋状部に設けた突起部(66)と緩く嵌合する調節部(63)を配列して備えたリング状構造体(62)を採用することができる。当該態様においては、リング構造体(62)と本体蓋状部側の突起部(66)が回動調節機構(61)を構成する部材となる。
【0141】
当該リング状構造体(62)としては、本体蓋状部との嵌合構造(45)の外周部分に接触配設する態様を挙げることができる。回動調節機構(61)を構成する当該リンク状構造体(62)は、嵌合構造(45)の外周や本体容器の開口部(43)と一体化した構造とする態様とすることも可能である。
また、回動調節機構(61)を構成する当該部材としては、リング状構造体を用いない態様とすることも可能である。例えば、嵌合構造(45)の外周や本体容器の開口部(43)の周辺に、調節部(63)を直接に配列させた態様を採用することが可能である。
【0142】
調節部(63)としては、本体蓋状部側の突起部(
66)との緩やかな嵌合が可能であって、回動操作での加力によって容易に嵌合状態が解消可能な構造体を挙げることができる。調節部(63)の具体的な態様としては、例えば、2つのボス(64)により構成されてなるボス構造を挙げることができる。好適には当該ボス構造の反対面が凹状又は窪んだ構造(65)を採用することができる。このような構造(65)を採用した場合、本体蓋状部側の突起部(66)が2つのボス構造(64)の内側に緩い状態で嵌合され、回動操作の押力によってボス(64)を通過する際に押力変化の感触が発生する構造が実現される。
調節部(63)を構成する素材としては、当該機能を達成可能な素材であれば特に制限なく採用することができるが、好ましくは弾性を備えた硬質の樹脂を用いることが好適である。例えば、ポリカーボネートや透明ABS樹脂製の素材のものを用いることが好適である。また、透光性を有する素材のものが特に好適である。
調節部(63)を構成するボス(64)の形状としては、凸状や山型状等の通常の突起形状を採用することができる。また、調節部(63)を構成する一方のボスについては、逆転回動を防止するために内側に垂直面を有する台形形状の逆転防止ボス(64b)とする態様も可能である。
【0143】
調節部(63)の配設様式としては、リング状構造体(62)又は本体容器の開口部(43)付近に、当該リング状構造体又は本体容器の開口部の中心から等角度にて配列させて配設ことが可能である。一態様としては5〜90°、好ましくは5〜45°程度の間隔で配列させて配設することが可能である。
【0144】
本体蓋状部側の突起部(66)としては、本体蓋状部(56)の側面構造に、調節部(63)との嵌合が可能な位置に配設された構造を挙げることができる。突起部(66)の形状としては、山型形状や三角形状等の突起状の形状を挙げることができる。突起部(66)の配設様式としては、当該嵌合可能な任意の位置に1つを配設する態様を挙げることができる。好ましくは、リング状構造体(62)又は本体容器の開口部(
43)の中心の点対称の位置に2つを配設することが好適である。また、調節部(63)の対応する位置になるように、調節部(63)と同数の突起部(66)を配列して配設することも可能である。
【0145】
回動調節機構(61)を備えた態様においては、本体蓋状部側の突起部(
66)が調節部(63)の隣に移動すると、1段階の回動度合と認知することが可能である。例えば、数段階の回動度合とそれに対応した第1培養用ユニットの状態変化とを連動させた態様の場合、本体蓋状部の回動操作における回動度合及び容器構造の状態を、操作者が段階的に容易に認知することが可能となる。
本発明に係る容器では、本体蓋状部の回動度合の段階及びそれに対応した容器構造の変形状態を、回動操作によってボス(64)を通過する際の押力変化の感触によって操作者に容易に認知させることが可能となる。また、回動操作の押力によってボス(64)を通過する際にクリック的な音が発生させる構造とすることも可能である。更に好ましくは、押力変化の感触とクリック的な音の両方が確認できる構造を採用することが好適である。
【0146】
ガス交換口
本体容器ユニット(4)は、ガス交換口(47)を備えてなる構造であることが好適である。本発明に係る細胞分取工程、第1次培養工程、増殖培養工程において、ガス交換口(47)を介して、外気とのガス交換が可能となる。
ガス交換口(47)の形成位置としては、本体容器(41)の上面又は側面上方が好適である。好ましくは上面部である。また、本体蓋状部(56)に形成することも可能である。また、側面上方、又は、上面及び側面の区別がない容器においては、充填した液体の液面より上方になるようにガス交換口を配置することが望ましい。
【0147】
ガス交換口(47)の数は、ガス交換を効率的に行うために2以上であることが好適である。この場合、一部がガス取込口と他がガス排出口となる。
ガス交換口を介して外気とのガス交換を行う際には、ガス交換口には、通気用の滅菌フィルター(49)を備えた構造であることが望ましい。また、ガス交換口を閉じる場合には、キャップ等の栓様構造体を用いることが望ましい。
ここで、滅菌フィルター(49)としては、気体の通過が可能であり且つ菌等の通過が阻止される微細構造フィルターを挙げることができる。このような滅菌フィルター(49)としては、通常用いられる孔径0.22μm以下の膜を組み込んだ市販のディスクフィルターやポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの菌等の通過を阻止する構造のフィルターを用いることができる。また、ガス交換口に中空糸フィルターを組み込んだ構造体とした場合、本発明に係る容器全体がコンパクトとなり嵩張らなくなるため好適である。
滅菌フィルター(49)に使用する膜の面積は、培養容器内のガス容量に応じて決定することができる。通常は、容器の10倍程度の体積の気体を数分〜10分以内にろ過可能な面積であることが好ましい。滅菌フィルター(49)に使用する膜の種類としては、平面状や中空糸膜状等のものを任意に用いることが可能である。
また、滅菌フィルター(49)の素材としては、親水性及び疎水性のいずれの素材のフィルターを用いることも可能である。好適態様としては、水分との接触による閉塞を回避するために疎水性の素材のフィルターを用いることが好適である。
【0148】
本発明に係る容器(1)においては、ガス交換口(47)からチューブ等を介して任意の組成のガスを充填した後に、キャップ等でガス交換口を閉めた構造とした場合、容器全体が所望の雰囲気の培養条件となるように調整した環境を実現可能である。この場合、インキュベーター全体の雰囲気組成を調整することなく、安価に培養条件の調整が可能となる。
【0149】
培地交換口
本体容器ユニット(4)は、本体容器(41)への培地注入及び培地排出を可能とする培地交換口(51)を備えてなる構造であることが好適である。特に増殖培養工程において、培地交換口(51)を介して、培地交換を簡易に行うことが可能となる。
培地交換口(51)の形成位置としては、キャップ等の密閉構造を備えることで底面や側面下方に形成することも可能であるが、本体容器(41)の上面又は側面上方が好適である。好ましくは上面部である。また、側面上方、又は、上面及び側面の区別がない容器においては、充填した液体の液面より上方になるように培地交換口を配置することが望ましい。
培地交換口(51)の数は、特に制限はないが1以上であることが好適である。また、培地交換口を閉じる場合にはキャップ等の栓様構造体を用いることが望ましい。キャップ等の栓様構造体は、抜けにくいように、例えばルアーロック構造を組み込むことも可能である。
【0150】
培地交換口(51)は、培地交換を容易に行うための補助部材を備えることも可能である。例えば、培地交換口に嵌め込み可能であって、本体容器(41)底面付近まで挿入可能な管状部材(52)等を備えた構造とすることが可能である。
【0151】
本体容器ユニット全体の構成
本体容器ユニット(4)としては、本体容器、本体蓋状部、格納構造、ガス交換口関係の構造、培地交換口関係の構造等を、全て一体化した構造体とすることも可能であるが、これらの構造を部材集合体として実現する態様も可能である。
ここで、当該部材集合体としては、各構造に対応する部材をパーツとして組み立てることが可能である。また、各構造を複数備えた部材を2〜3組み合わせる態様を採用することも可能である。
例えば一例としては、本体容器を上部構造体(42)と下部構造体(54)に分割した集合部材態様とすることが可能である。上部構造体の一例としては、容器状部分の上面部分、本体蓋状部との接続構造等を含む構造体とすることが可能である。一方、下部構造体の一例としては、容器状部分の側面及び底面等を含む構造体とすることが可能である。
また、格納状態としては、所望に応じてスペーサー部材や支持体部材を別途に採用して実現する態様も可能である。
【0152】
[増殖培養用ユニット]
本発明に係る細胞分取培養増殖容器(1)は、上記ユニットに加えて、1以上の増殖培養用ユニット(5)を備えた容器状構造体とすることが可能である。
当該態様においては、本発明に係る細胞分取培養増殖容器(1)は、第1次培養後の増殖培養を多段階的に行うことを可能とする増殖培養用ユニットを1以上備えてなる細胞分取培養増殖容器となる。
当該構造によって、プレカルチャーを段階的に行う培養形態の場合や、誘導操作を行う場合、増殖培養を多段階で行いたい場合に、好適な培養容器形態となる。
【0153】
増殖培養用ユニット(5)は、 i)容器状構造体であって、ii)前段階の培養用ユニットから開放された細胞を培養可能な増殖培養用培養面を備え、当該増殖培養用培養面が前段階の培養用ユニットに係る培養面よりも広い面積のものであり、iii)当該容器状構造体の内部に、細胞分取ユニット及び前段階までの全ての培養用ユニットを積載又は格納可能な構造を有し、iv)当該容器状構造体を構成する面に、容器内部に保持していた細胞及び液体を自在に次段階の培養面を有するユニット側に開放可能な構造を有することを特徴とする構造体である。
【0154】
増殖培養用ユニット(5)の基本的な構造については、本体容器(41)及び第1次培養用容器(21)の構造を採用することができる。具体的には、上記 i)〜iii)の構造については、本体容器(41)と同様の構造を採用することができる。また、上記 iv)の構造については、第1次培養用容器(21)の構造を採用することができる。
ここで、増殖培養用ユニット(5)に特徴的な構造としては、前段階までの培養用ユニット等を積載又は格納可能な構造を有する点を挙げることができる。増殖培養用ユニット(5)の容器状部分は、本体容器と違って前段階の培養用ユニットを格納する必要性はない。そのため、前段階の培養用ユニットを単に増殖培養用ユニット(5)の容器状構造の内に積載する態様とすることも可能となる。
【0155】
増殖培養用ユニット(5)は、当該ユニットの内側壁に前段階の培養用ユニットと嵌合する形状を備えたものであって、当該前段階の培養用ユニットを固定可能な係合又は嵌合構造を有するものが好適である。
係合又は嵌合構造としては、特に制限はないが、例えば爪状構造、フランジ構造、フリンジ、これらと嵌合する雌型構造等を挙げることができる。また、当該係合又は嵌合構造は、スペーサー部材や支持体部材を別途に採用して実現する態様も可能である。
【0156】
増殖培養用ユニット(5)は、第1次培養用ユニット(3)の次段階の培養面を有するユニットであって、本体容器ユニット(4)の前段階の培養用ユニットとなる。ここで、増殖培養用ユニットは2以上を入れ子状にして積載又は格納する態様とすることも可能である。
【0157】
増殖培養用ユニット(5)に係る増殖培養用培養面としては、本体容器の増殖培養用培養面(55)又は第1次培養用容器の第1次培養用培養面(27)と同様の特徴を備えたものを採用することができる。
増殖培養用ユニット(5)に係る増殖培養用培養面のサイズとしては、前段階の培養用ユニットに係る培養面の面積を1とした場合の面積比で1より大きく且つ20以下、好ましくは1.5〜15、より好ましくは2〜10、更に好ましくは3〜8の範囲であるものが好適である。
【0158】
2.本発明に係る細胞分取培養容器が備えた機能
本発明に係る細胞分取培養容器(1)を用いることによって、組織や細胞集団から所望の細胞を高効率で分取し増殖することが可能となる。本発明に係る分取培養増殖容器(1)を用いることによって、簡便な操作であり且つ安価にて安定して所望の細胞を高効率で分取し培養増殖することが可能となる。
【0159】
[同一容器内操作による細胞分取及び増殖培養]
細胞分取培養容器が備えた主たる機能
本発明に係る細胞分取培養容器(1)は、細胞分取工程、第1次培養工程、細胞剥離工程、及び増殖培養工程等の一連の操作を行うことによって、所望の対象細胞の分取と増殖培養を同一容器内にて簡便な操作により実行することが可能となる。また、当該一連の工程は、別途容器への増殖培養のための細胞移送操作等のハンドリングを要することなく実行可能とある。
本発明に係る細胞分取培養容器(1)が備えた優れた機能は、各部材ユニットが有する特徴的な構造及び性質が相互に作用することによって初めて発揮される機能である。
具体的には、本発明に係る細胞分取培養容器は、閉鎖系の培養環境又は外部からのコンタミネーション等が防止された滅菌環境を当該容器内に維持した状態にして、細胞分取や各種培養等の一連の工程を行うことが可能となる。
この点、本体容器ユニット内に前段階の培養用ユニットである第1次培養用ユニット等を格納状態にして、同一容器を用いて密閉状態にて細胞分取工程や第1次培養工程を行うことを着想した点により奏される効果である。
また、本発明に係る細胞分取培養容器は、第1次培養用ユニットを構成する容器部分について、自在に次段階の培養面を有するユニット側に開放可能な構造を備えることを着想した点により実現される。
特に、本発明に係る細胞分取培養容器を使用した場合、マイコプラズマやウィルス等の感染、他の細胞源からのコンタミネーション、がん化の危険性等、GMPに関する安全性の担保が必要である幹細胞の分取培養増殖に好適に使用することが可能となる。
【0160】
対象分取細胞の回収効率
本発明に係る細胞分取培養容器(1)においては、培養用ユニットの培養面として刺激応答性細胞剥離作用を有する分子で表面修飾した基材を用いることによって、一層簡便に細胞移送を行うことが可能となる。当該態様を採用した場合、細胞剥離の際の物理的損傷を大幅に低減することが可能となる。特に、トリプシン等の酵素処理等を行う必要があった細胞等では、酵素処理による細胞への刺激を低減することが可能となる。
【0161】
ここで、プレカルチャー段階である第1次培養後においては、対象分取細胞量がまだ十分ではないため、物理的損傷や酵素処理による刺激は可能な限り回避すべきである。特に、刺激感受性が強く多能性が喪失しやすい幹細胞等を分取培養する場合おいては、細胞機能や構造に悪影響を与えずに高品質な細胞を得るために刺激を回避することは重要となる。そのため、培養面に刺激応答性細胞剥離作用を有する分子で表面修飾した基材を用いる態様は、特に第1次培養用ユニットにおいて採用すると有効である。
【0162】
本発明に係る細胞分取培養容器(1)においては、細胞分取ユニットの細胞分取膜(11)として疎水性ポリマーで構成される基材に親水性ポリマーで表面修飾した基材を用いたところ、細胞分取膜への細胞付着を防止することができ、一層効率良く対象細胞分取を行うことが可能となる。特に、対象細胞が貴重な幹細胞等の場合おいては、細胞付着を防止して回収効率を向上させることは重要となる。
【0163】
分取細胞の種類
本発明に係る細胞分取培養容器(1)は、培養面に付着して培養可能な細胞であれば如何なる細胞についても分取対象とすることが可能である。原理的には、付着性を示す全ての真核生物の細胞への適用が可能である。具体的には動物細胞、特には脊椎動物細胞、更には哺乳類細胞への適用を挙げることができる。
また上記理由により、特に幹細胞を分取し増殖するための容器として好適に用いることができる。特に、マイコプラズマやウィルス等の感染、他の細胞源からのコンタミネーション、がん化の危険性等、GMPに関する安全性の担保を可能にしつつ、且つ、効率的な分取培養増殖が可能となる点で好適である。
対象となる幹細胞としては、例えば、胚性幹細胞、組織幹細胞、間葉系幹細胞、iPS細胞、等を挙げることができるが、特にこれらに制限なく適用可能である。
【0164】
[本体容器ユニット開封を回避する態様]
本発明に係る細胞分取培養容器(1)としては、感染及びコンタミネーションのリスクを更に低減するために、培養操作において本体容器ユニットの開封を回避可能とする手段及び/又は構造を採用することが好適である。
【0165】
光透過性部材
本発明に係る細胞分取培養増殖容器(1)は、細胞分取培養増殖容器を構成する容器構成部材として特定位置の部材が光透過性を有する材質にて構成されてなる構造体であって、光透過性を有する部分を介して容器内部の培養面の観察が可能な態様であることが好適である。
当該構成を採用することによって、細胞分取培養増殖容器(1)では、細胞分取工程、第1次培養工程、細胞剥離工程、及び増殖培養工程等の全ての工程において、本体容器ユニット(4)を開封することなく、顕微鏡等にて容器内部の観察を可能とする構造体とすることが実現される。具体的には、実体顕微鏡、倒立顕微鏡、位相差顕微鏡等を用いた容器越しでの直接観察が可能となる。特に、位相差顕微鏡を用いて焦点像を鮮明に結んだリアルタイム観察を行う際に好適となる。
【0166】
当該態様における光透過性を有する部分としては、当該部分を介して容器内部の培養面の観察が可能となる位置が、光透過性を有する材質にて構成されていることが好適である。具体的には、細胞分取培養容器に備えられた全て培養面の少なくとも一部、より好ましくは全て培養面の全面が光透過性を有する材質にて構成されていることが好適である。ここで、培養面としては、第1次培養用容器の培養面(27)及び本体容器ユニットの培養面(55)を指すものであるが、増殖培養用ユニット(5)を備えた態様であっては増殖培養用ユニットの培養面を含むものである。
【0167】
また、光透過性を有する部分として、本体容器ユニット(4)の培養面の対向方向又は略対向方向にある容器構造の少なくとも一部、好ましくは全部が、光透過性を有する材質にて構成されていることが好適である。ここで、対向方向又は略対向方向の構成部分とは、好ましくは培養面に対して上部側にくる構造部分を指す。
具体的には、本体蓋状部(56)の少なくとも一部、好ましくは本体蓋状部の弾性部材等を除く全部が、光透過性を有する材質にて構成されていることが好適である。
【0168】
また、光透過性を有する部分として、各種培養用ユニット(3、5)や細胞分取ユニット(2)の構造において、培養面に対して対向する又は略対向する位置に配設される構造の少なくとも一部が、光透過性を有する材質であることが好適である。好ましくは、全部が光透過性を有する材質にて構成されていることが好適である。
特に、第1次培養用ユニット(3)の上面や天板を構成する構造部分は、光透過性を有する材質であることが好適である。
【0169】
更に好ましくは、細胞分取培養増殖容器(1)を構成する部材のうち弾性部材や細胞分取膜等を除く実質的な全部が、光透過性を有する材質にて構成されていることが好適である。
【0170】
細胞分取膜の位置調整機構
本発明に係る細胞分取培養増殖容器(1)においては、細胞分取膜(11)の膜面が第1次培養用容器内の液体の液面との接触しない状態を実現するため、細胞分取膜の位置調整機構を備える態様を用いることができる。当該位置調整機構を備えることによって、本体容器ユニットを開封することなく、細胞分取工程から第1次培養工程への移行を行うことが可能となる。なお、ここでの位置調整とは、細胞分取膜垂直方向又は略垂直方向の位置調整を指すものである。
当該位置調整機構としては、具体的には、本体蓋状部(56)と細胞分取ユニット(2)とを接続可能な構造として、本体蓋状部の操作と連動して細胞分取膜の位置を調整可能な構造を挙げることができる。より具体的には、本体蓋状部を回動させることによって第1次培養用ユニットから細胞分取ユニット(2)を分離又は転置させて、細胞分取膜の膜面の位置をずらすことを可能とする構造を挙げることができる。例えば、本体蓋状部の回動によって、細胞分取膜(11)の膜面の位置が上側に浮き上がることを可能とする構造を挙げることができる。
当該態様においては、本体容器ユニットの外側からの操作により、細胞分取膜(11)と第1次培養用容器内の液体の液面との接触が遮断された状態が実現され、本体容器ユニットを開封することなく第1次培養工程へ移行することが可能となる。
【0171】
第1次培養用容器内の培地面調整機構
本発明に係る細胞分取培養増殖容器(1)においては、本体容器等に中空管状部材の挿入出を可能とする構造(
60)を配設することによって、本体容器ユニット(4)を開封することなく、細胞分取工程から第1次培養工程への移行を行うことが可能となる。
当該態様においては、本体容器等における中空管状部材挿入出構造(60)に中空管状部材(121)を挿入し、当該挿入した中空状部材を介して第1次培養用ユニット内に充填した液体を吸出することによって、本体容器ユニットを開封することなく、第1次培養用容器に充填された培地液面を低下させることが可能となる。
当該液面の低下によって、細胞分取膜(11)と第1次培養用容器内の液体の液面との接触が遮断された状態が実現され、本体容器ユニットを開封することなく第1次培養工程へ移行することが可能となる。
また、当該機構を利用して、本体容器ユニットを開封することなく第1次培養工程の途中における培地交換を行うことも可能となる。
【0172】
第1次培養用容器等における開放構造の調整機構
本発明に係る細胞分取培養増殖容器(1)においては、本体容器ユニット(4)の外側からの操作により、第1次培養用容器等の開放構造(28)を開いた状態にする調整機構を備えることによって、本体容器ユニットを開封することなく、次段階の培養工程への移行を行うことが可能となる。
ここで、本体容器ユニットを開封することなく当該開放構造を開放状態にする手段及び構造については、詳しくは上記段落1.の開放構造の説明段落に記載した通りである。
当該調整機構を第1次培養ユニット(3)に備えた場合、第1次培養工程から次段階の増殖培養工程への移行を、本体容器ユニットを開封することなく実行することが可能となる。
また、当該調整機構を増殖培養用ユニットに備えた場合においても、次段階の増殖培養工程への移行を、本体容器ユニットを開封することなく実行することが可能となる。
【0173】
第1次培養用容器底面の外壁高調整機構
本発明に係る細胞分取培養増殖容器(1)の態様では、第1次培養用容器を本体容器内に格納した状態において、第1次培養用容器(21)の底面外壁が本体容器の増殖培養面(55)に接触した態様の容器とすることで、コンパクトな容器形態が実現される。
但し、当該態様の容器の場合、増殖培養工程においては、第1次培養用容器(21)の底面外壁を増殖培養面(55)から上方向に分離又は転置させて、両者の間に空隙又は空間を形成させて、細胞培養が可能な増殖培養面(55)の面積を増大させることが好適である。そのため当該態様においては、本体容器ユニット(4)の外側からの操作により、第1次培養用容器底面の外壁高を調整可能とする機構を備えた態様を採用することが好適である。
【0174】
ここで、本体容器ユニットを開封することなく当該外壁高を調整可能とする手段及び構造については、詳しくは上記段落1.の説明段落に記載した通りである。
当該調整機構を第1次培養ユニット(3)に備えた場合、第1次培養工程から次段階の増殖培養工程への移行を、本体容器ユニットを開封することなく実行することが可能となる。また、当該調整機構を増殖培養用ユニットに備えた場合においても、次段階の増殖培養工程への移行を、本体容器ユニットを開封することなく実行することが可能となる。
【0175】
プラズマ処理による表面修飾
本発明に係る細胞分取培養増殖容器(1)としては、各構造体を構成する容器壁や支持体構造として疎水性基材を用いる場合、その表面にプラズマ処理を行って疎水性基材層表面を親水化させることが可能である。当該プラズマ処理を行う態様では、表面エッチングが少なく表面近傍に架橋層が形成されることから、経時劣化が少ない容器表面が実現される。特に低印加電圧で当該プラズマ処理を行う態様では、表面エッチングが極めて少なく表面近傍に架橋層が厚く形成されることから、顕著に経時劣化が少ない容器表面が実現される。
当該プラズマ処理を行う態様では、疎水性基材層の表面近傍に均一に架橋層を形成させた容器を製造することが可能となる。
【0176】
当該プラズマ処理が可能な細胞分取培養増殖容器(1)を構成する各構造体としては、例えば、細胞分取ユニットを構成する構造体(13)、第1次培養用ユニットを構成する容器状構造体(21)、本体容器ユニットを構成する容器状構造体(41)、本体容器ユニットを構成する本体蓋状部(56)、増殖培養用ユニット(5)を構成する容器状構造体、等を挙げることができる。当該プラズマ処理としては、これらの構造体の1以上の構造体の少なくとも一部に対して行うことが可能である。また、これらの構造体の1以上の構造体の全部に対して行うことも可能である。また、これら全部の構造体の全体に対して行うことも可能である。
【0177】
当該プラズマ処理を行って得られた細胞分取培養増殖容器(1)を構成する各構造体は、疎水性ポリマーで構成されてなる基材層の表面近傍に、水酸基、カルボキシル基、及びこれらの官能基を含む化合物構造、から選ばれる1以上が共有結合された構造を有する、及び/又は、疎水性ポリマーで構成されてなる基材層の表面近傍に、当該疎水性ポリマーの良溶媒に対する不溶層を有するものとなる。より具体的な態様としては、水酸基及び/又はカルボキシル基が共有結合された構造を有するものとなる。
当該構造体の表面へのプラズマ処理は、第1次培養用培養面(27)の表面修飾手段と同様にして行うことが可能である。特に、低印加電圧での処理では、膜表面近傍に通常溶ける溶媒(例えばアセトン等)によっても溶けなくなる層を好適に形成させることが可能となる。当該層は表面エッチングが抑えられて架橋層が形成された表面構造と認められ、プラズマ処理の効果を長期に持続させる効果を発揮する。
【0178】
3.細胞分取培養増殖方法を構成する工程
本発明に係る細胞分取培養増殖方法においては、以下に示す細胞分取工程、第1次培養工程、細胞剥離工程、及び増殖培養工程等の一連の操作を行う方法である。なお、本発明に係る方法においては、本発明に係る細胞分取及び増殖が達成できる限りは、これら以外の工程を含むことを除外するものではない。
【0179】
細胞分取工程
本発明に係る細胞分取培養増殖方法においては、様々な細胞を含む組織等培養液の状態から対象細胞を選択的に分取するための細胞分取工程を行うものである。細胞分取工程の一例を示す模式図を
図7に示す。
細胞分取工程では、細胞分取用培地(112)を第1次培養用ユニットの容器状構造体(21)に充填した状態にして、ここに細胞分取膜(11)の膜面と細胞分取用培地(112)の液面とが接する状態にて細胞分取ユニット(2)を配設し、細胞分取ユニットに分取細胞を含む細胞懸濁液を注入して行われる。ここで、細胞分取膜の膜面と液面の間には気泡混入があると分取効率が低下するため好ましくない。
ここで、「膜面と液面とが接する状態」とは、細胞分取膜の膜面と第1次培養容器内に充填した液体全体の液面が揃って接している状態だけでなく、膜保持構造体の外側を第1次培養容器内の液体中に浸漬した状態にして当該膜面と液面とが接している状態も含まれる。また、当該配設状態としては、両部材が固定や接続された状態だけでなく、係合や積載等の配置状態も含まれる。
【0180】
本発明に係る細胞分取工程の態様としては、対象細胞の選択分取が可能とする態様であれば如何なる態様を採用することも可能であるが、好ましくは、対象細胞を能動的に分取するために、対象細胞の移動を誘引又は活性化する手段にて行うことが好適である。特に好ましくは、遊走因子を利用する態様にて対象細胞の移動を誘引又は活性化する手段にて行うことが好適である。
【0181】
細胞分取工程にて使用する細胞分取用培地(112)及び細胞懸濁用培地(111)としては、分取対象となる細胞(101)に適した所望の液体培地を用いることが可能である。また、これらの培地における遊走因子の含有形態については、以下に示す遊走因子の利用態様の違いに応じて調整可能である。
【0182】
本発明に係る細胞分取工程における遊走因子の利用態様としては、具体的には以下の態様が可能である。
細胞分取工程の態様としては、 i)第1次培養用ユニット側に充填する細胞分取用培地として、遊走因子を含有した培地を用いる態様を挙げることができる。当該態様においては、細胞分取ユニット内に分取対象細胞を含む細胞懸濁液を注入した場合、第1次培養用ユニット側の遊走因子の作用によって対象細胞が選択的に誘引され、細胞分取膜の微細孔を通して第1次培養用ユニット側に移動する状態が実現される。
【0183】
また、細胞分取工程の態様としては、ii)細胞分取ユニットに注入前の細胞懸濁液に遊走因子を含有させておき、予め所望の対象細胞の移動活性を活発化させておく態様を挙げることができる。ここで、遊走因子による予めの移動活性の活発化は、細胞懸濁液中に遊走因子を含有させた状態にて数時間培養することによって可能となる。
当該態様においては、遊走因子の作用によって対象細胞の移動活性が選択的に活発されるため、第1次培養用ユニット側に充填する細胞分取用培地に遊走因子が含まれていない状態であっても、細胞分取膜の微細孔を通して第1次培養用ユニット側に移動する状態が実現される。
なお、当該態様では、細胞分取ユニットに注入する前の細胞懸濁液中において対象細胞の移動活性の活発化が予め誘導された状態となる。そのため、細胞分取ユニットに注入する前に、遊走因子を除去する培地洗浄操作を行った場合においても、対象細胞の移動活性の活発化は維持される。即ち、当該態様では、遊走因子を含んだ状態にて細胞分取ユニットに注入操作を行っても良く、培地洗浄操作によって遊走因子を除去した状態にしてから細胞分取ユニットに注入操作を行うことも可能である。
【0184】
細胞分取工程としてより好適な態様としては、上記 i)及びii)の態様を組み合わせて、予め所望の対象細胞の移動活性を活発化させた後、第1次培養用ユニット側の細胞分取用培地の遊走因子にて対象細胞を誘引する態様が好適である。
更に好ましくは、予め所望の対象細胞の移動活性を活発化させた後、培地洗浄操作によって遊走因子を除去する操作を行い、その後に第1次培養用ユニット側に充填する細胞分取用培地として遊走因子を含有する培地を用いることが好適である。当該態様においては、細胞分取膜の微細孔を介した第1次培養用ユニット側への分取細胞の移動を、更に効率良く行うことが可能となる。
【0185】
本発明に係る細胞分取工程は、所望の対象細胞が細胞分取膜の微細孔を通過して移動するように、分取対象となる細胞に対して誘引作用や活性化作用を有する遊走因子を利用して行われる。
遊走因子としては、所望の分取対象の細胞に適したものを適宜使用することが可能である。例えば、幹細胞の分取に使用可能な遊走因子としては、G−CSF、bFGF、SDF−1、TGF−β、NGF、PDGF、BDNF、GDNF、EGF、VEGF、SCF、MMP3、Slit、GM−CSF、LIF、HGF、S1P、protocatechuic acid、及び血清等を用いることが好適である。遊走因子の濃度としては、誘引作用や移動活性化作用を奏し且つ細胞分化作用や忌避作用を奏さない濃度であれば良い。例えば1〜500ng/mL程度が好適であるが特にこれに制限されない。
【0186】
細胞分取ユニットに注入する細胞懸濁液に含まれる細胞濃度としては、対象細胞が含まれる割合等を考慮して適宜調整することが可能であるが、例えば膜面積が0.3cm
2の時は3×10
2〜3×10
4細胞/100μL程度が好適である。あまりに細胞濃度が濃すぎる場合には、目詰り等が発生する懸念があり好ましくない。
また、細胞分取工程では、対象となる分取細胞の種類及び性質に応じて、細胞分取膜の微細孔のサイズを選択して使用することが好適である。
【0187】
細胞分取に係る培養条件としては、対象となる分取細胞に適した条件を採用することができる。本体容器ユニットが滅菌フィルター等を備えたガス交換口を有する態様である場合は、所望の雰囲気下にあるインキュベーター内にて培養することができる。また、予め本体容器ユニット内に所望の雰囲気のガスを注入して培養を行うことも可能である。
細胞の分取状態の確認操作は、感染やコンタミネーションのリスクを低減するために、本体容器状蓋を開封することなく容器越しに顕微鏡を用いて行うことが望ましい。
【0188】
第1次培養工程
本発明に係る細胞分取培養増殖方法においては、細胞分取工程にて分取した対象細胞に対して第1次培養工程を行うものである。
当該第1次培養は、増殖培養の前のプレカルチャーに相当する前培養段階であり、細胞密度を細胞間コミュンケーションが適切に行われる関係を保ちつつ、次の培養段階である増殖培養に適した細胞密度に達するために行う培養である。第1次培養工程の一例を示す模式図を
図8に示す。
【0189】
第1次培養工程は、細胞分取膜(11)と第1次培養用容器内の培地の液面との接触状態を維持したままにして並行的に進行させることも可能であるが、好ましくは、所望の細胞分取状態が確認された後においては、細胞分取膜と第1次培養用容器内の培地面との接触を遮断して行うことが好適である。分取細胞の細胞分取ユニット側への逆移動や細胞分取ユニット構造体に付着等を防止することによって、一度分取した細胞のロスを防止することが可能となる。
【0190】
ここで、細胞分取膜(11)の膜面と第1次培養用容器内の培地の液面との接触を遮断する手段としては、以下の態様が可能である。
当該接触遮断手段としては、 i)細胞分取ユニット(2)を第1次培養ユニット(3)から物理的に分離又は転置することによって、細胞分取膜の膜面が第1次培養用容器内の培地面との接触しない状態を実現することが可能となる。当該細胞分取ユニットの分離又は転置は、本体容器ユニットを開封して手動で行うことも可能であるが、本体容器ユニットを開封しない構造を採用して行うことも可能である。
また、当該接触遮断手段としては、ii)第1次培養用容器内の培地の培地面を下げることによって、細胞分取膜の膜面が第1次培養用容器内の培地面との接触しない状態を実現することが可能となる。当該第1次培養用容器内の培地面の培地面低下は、本体容器ユニットを開封して吸出操作にて行うことも可能であるが、本体容器ユニットを開封しない構造を採用して吸出操作にて行うことも可能である。
ここで、上記 i)及びii)に記載の手段及び構造については、詳しくは上記段落1.及び2.における容器構造を記載した段落に示した通りである。
【0191】
第1次培養工程は、第1次培養用ユニットの容器状構造体(21)に充填した液体培地内において行われる。上記工程において、細胞分取膜(11)を通じて第1次培養用ユニット(3)側に移動した分取細胞は、第1次培養用ユニット内の第1次培養用培養面(27)上において培養される。
第1次培養を行うための第1次培養用液体培地(113)としては、分取対象となる細胞に適した所望の液体培地を用いることが可能である。好ましくは、細胞分取用培地に遊走因子が含まれる場合には、第1次培養を行う前に遊走因子を含む細胞分取用培地を取り除いて、遊走因子を含まない新鮮な液体培地に交換して、第1次培養を行うことが望ましい。
【0192】
第1次培養に係る培養条件としては、対象となる分取細胞に適した条件を採用することができる。本体容器ユニットが滅菌フィルター等を備えたガス交換口を有する態様である場合は、所望の温度雰囲気下にあるインキュベーター内にて培養することができる。また、予め本体容器ユニット内に所望の雰囲気のガスを注入して培養を行うことも可能である。細胞の増殖状態の確認操作は、感染やコンタミネーションのリスクを低減するために、本体容器状蓋を開封することなく容器越しに顕微鏡を用いて行うことが望ましい。
【0193】
第1次培養工程から次段階の増殖培養工程に移行する目安としては、適度な細胞密度が維持されている50〜100%コンフルエント、好ましくは60〜80%コンフルエントの状態まで培養することが好適である。特に幹細胞のように刺激を受けやすい細胞については70%以下に留めることが好ましい。
【0194】
第1次培養工程では、ある程度培養が進んだ段階において、第1次培養用ユニットの培養面(27)の細胞を剥離させ、同じ培養面に再播種してより均一な状態にして、第1次培養工程を継続して行うことが好適である。
詳しくは、第1次培養工程では、前段階の細胞分取工程において細胞分取膜を通過した細胞は、細胞分取膜の下付近の培養面に偏って存在する傾向があるため、特に対象となる分取細胞が付着細胞である場合には、単なる浸透等では均一分散が困難な状態となる。そのため、局所的な細胞過密状態による悪影響を回避する目的で、培養途中での剥離操作と再播種を行うことが好適である。当該態様を採用した場合、細胞間コミュニケーションを良好な状態に保つことができ、品質の高い細胞が得られる点及び増殖培養の効率が向上する点で好適である。
ここで、細胞の剥離操作は、後述する細胞剥離工程に記載の方法による行うことが可能である。
【0195】
細胞剥離工程
本発明に係る細胞分取培養増殖方法においては、各培養工程の間又は培養工程の後に、培養を行ったユニットの外側に移動させるために培養面からの細胞剥離工程を行うものである。即ち、本発明に係る方法においては、第1次培養用ユニット(3)での培養後、本体容器ユニット(4)での培養後、更に所望により増殖培養用ユニット(5)での培養後において、細胞剥離操作を行うことが好適である。
【0196】
培養面からの細胞剥離手段としては、物理的な剥離、酵素的な剥離、化学的な剥離、等、対象細胞の生存やがん化等への安全性に問題がない方法であれば、如何なる手段を採用することも可能ではある。但し、対象細胞への損傷や影響を可能な限り低くすることを考慮すると、好ましくは、培養面に細胞剥離作用を示す分子により表面修飾がされた基材を用いて細胞剥離を行うことが好適である。
特に、第1次培養後においては、対象である分取細胞の量がまだ十分ではないため、第1次培養用培養面(27)には細胞剥離作用を示す分子により表面修飾がされた基材を用いることが好適である。
細胞の剥離状態の確認操作は、感染やコンタミネーションのリスクを低減するために、本体容器状蓋(56)を開封することなく容器越しに顕微鏡を用いて行うことが望ましい。細胞剥離工程の一例を示す模式図を
図9に示す。
【0197】
細胞剥離工程により培養面から培地中に浮遊状態となった細胞は、培養用ユニットの容器状構造体に備えられた開放構造を開放状態に調整することによって各培養ユニット容器の外側に放出することが可能となる。例えば、第1次培養工程の場合、第1次培養用容器の開放構造(28)から浮遊状態となった細胞は、培地と共に本体容器ユニット側(又は増殖培養用ユニット側)に放出することが可能となる。
ここで、当該開放構造を開放状態にする手段及び構造については、詳しくは上記段落1.及び2.における容器構造を記載した段落に示した通りである。
【0198】
増殖培養工程
本発明に係る細胞分取培養増殖方法においては、第1次培養工程後の細胞剥離工程を行った後、増殖培養工程を行うものである。当該増殖培養は、対象細胞量を増加させるための本培養に相当するものである。増殖培養工程の一例を示す模式図を
図10に示す。
【0199】
増殖培養を行うためには、第1次培養工程において細胞密度を細胞間コミュンケーションが適切に行われる関係を保ちつつ、増殖培養に適切な細胞密度に達している状態にしてから、増殖培養を開始することが望ましい。
増殖培養工程は、本体容器ユニット(4)又は増殖培養用ユニット(5)の容器状構造体に充填した液体培地内において行われる。前段階の培養工程において培養された細胞は、細胞剥離工程の後、前段階の培養用ユニットの開放構造から本体容器ユニット又は増殖培養用ユニットに充填した液体培地内へ流出させるのみによって、細胞移動を実行することが可能となる。
【0200】
当該移動後の培養細胞は、本体容器ユニット又は増殖培養用ユニットの培養面上において培養される。
増殖培養を行うための増殖培養用液体培地(114)としては、分取対象となる細胞に適した所望の液体培地を用いることが可能である。
培養面積の確保及び培地交換等の操作性を鑑みた場合、増殖培養工程において前段階の培養用ユニット(3、5)を本体容器ユニット(4)から取り外した状態にして行うことが可能である。また、前段階の培養用ユニット(3、5)を上方向に分離又は転置した状態にして行うことも可能である。当該前段階の培養用ユニットを上方向に分離又は転置する手段としては、例えば、上記段落に記載した本体蓋状部の回動操作と連動した構造を採用して実現することが可能である。
【0201】
増殖培養に係る培養条件としては、対象となる分取細胞に適した条件を採用することができる。本体容器ユニット(4)が滅菌フィルター等を備えたガス交換口(47)を有する態様である場合は、所望の雰囲気下にあるインキュベーター内にて培養することができる。また、予め本体容器ユニット内に所望の雰囲気のガスを注入して培養を行うことも可能である。
増殖培養の終了の目安としては、対象である分取細胞が所望の細胞量に達するまで培養を行うことが可能である。
また、増殖培養の過程においては、途中に新鮮な液体培地に交換して培養継続して行うことが望ましい。この点、本体容器ユニット(4)には、培地交換口(51)を有する形態を採用することが好適である。
細胞の増殖状態の確認操作は、感染やコンタミネーションのリスクを低減するために、本体容器状蓋を開封することなく容器越しに顕微鏡を用いて行うことが望ましい。
【0202】
本発明に係る増殖培養工程は、基本的態様として、第1次培養工程後に本体容器ユニット(4)を用いて増殖培養工程を1回のみ行う態様を挙げることができる。
また、本発明に係る増殖培養工程においては、増殖培養を多段階的に行う態様を採用することができる。具体的には、第1次培養工程後に増殖培養用ユニット(5)を使用した増殖培養工程を行った後、最後に本体容器ユニット(4)を用いた増殖培養工程を行う態様を挙げることができる。更には、増殖培養用ユニット(5)を2以上入れ子状に配置することで、増殖培養工程を3回以上行う態様とすることも可能である。
また、所望により、培養工程の一部として、所望の細胞処理(誘導、分化等)を行う特殊な培養条件を設定して、増殖培養を行うことも可能である。
【実施例】
【0203】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。
なお、本実施例において、「G−CSF」は、顆粒球コロニー刺激因子であるサイトカインの一種を指す用語であって、幹細胞の遊走因子として使用するものである。また、「FBS」は、ウシ胎児血清を指す用語として使用するものである。
また、以下の実験操作において、容器を開放状態にして細胞を扱う操作は、特に記載が無い場合は滅菌状態を担保するためクリーンベンチ内にて行ったものである。
【0204】
[実施例1]『細胞分取培養増殖容器』
本発明に係る細胞分取培養増殖容器(1)の一態様として、図に示す容器状構造体を製造した。以下、分解図(
図1)及び構造図(
図2〜6)等を参照して、本実施例にて製造した細胞分取培養増殖容器を説明する。
【0205】
(1)「全体構造」
本実施例にて製造した細胞分取培養増殖容器(1)は、細胞分取ユニット(2)、第1次培養用ユニット(3)、及び本体容器ユニット(4)から主として構成されてなる容器状構造体である。
【0206】
(2)「細胞分取ユニット」
本実施例に係る細胞分取ユニット(2)は、筒状構造体(13)、細胞分取膜(11)、及びリング状構造体(17)を含んでなる構造体である。本実施例に係る態様においては、リング状構造体(17)は、膜保持構造体である筒状構造体(13)の補助部材となる。ここで、筒状構造体(13)は、ポリスチレンで構成されてなる光透過性の透明部材であって、外径12mm、内径10mm、及び筒長30mmのシリンダー様の構造部材である。当該筒状構造の底面外周部には、リング幅10mmのリング構造部が形成されている。
リング状構造体(17)は、中央部に開口部(18)を備える内径10mmを有する有孔部材である。
筒状構造体の底面(16)は、第1次培養用ユニット内に充填する培地の液面と接触時において、細胞分取膜(11)と液面との気泡防止対策として、開口部(15)方向に向かって上方向への緩やかな傾斜を有する構造となっている(
図3)。
【0207】
細胞分取膜(11)は、細胞透過孔である微細孔(12)を有する膜状構造部材であって、基材層がPEから構成され且つ親水性ポリマーによって表面分子修飾されたものである。膜厚20μmの外径18mmのメンブレン部材である。
膜への微細孔処理は、WO2014/171365号公報の記載に従って、微細な金型を作成してin printing法により行った。本実施例に係る細胞分取膜(11)は、平均孔径8
μmの微細孔が開孔率20%にて格子状に規則正しく配置された微細構造を有するものである。当該孔径は幹細胞の分取において適した孔径として機能する。
細胞分取膜(11)は、WO2012/133803号公報の記載に従って、膜表面への親水性ポリマーの共有結合処理を行って製造された。具体的には、in printing法によって開孔させたPE膜を、ポリビニルピロリドン/ポリ酢酸ビニル共重合体1000ppm及びエタノール0.1wt%を含む溶液に浸漬し、封止した上でγ線25KGyを照射した。本実施例にて製造された細胞分取膜(11)は、膜表面の性質が改質されて、膜表面への細胞付着が抑制されたものとなった。本実施例に係る細胞分取膜の評価試験の結果は、実施例3に示した。
【0208】
細胞分取ユニット(2)の組み立て後の状態としては、筒状構造体の底面(16)とリング状構造体(17)の間に細胞分取膜(11)が挟持された状態にて、筒状構造体の底面(16)とリング状構造体(17)が係合して固定状態となる。
ここで、筒状構造体の上部開口部(14)から筒状構造内に添加した液体培地等は、細胞分取膜(11)を通過しなければ、第1次培養用ユニット(3)側に到達できない構造となる(
図4、
図7)。
また、筒状構造体の底面(16)には、リング状構造体(17)との係合構造とは別途に、第1次培養容器(21)の上部中央部分への積載を可能とする係合構造が備えられている。
【0209】
(3)「第1次培養用ユニット」
本実施例に係る第1次培養用ユニット(3)は、第1次培養用容器(21)にて主として構成される構造体である。本実施例においては、第1次培養用容器(21)は、上部構造体(22)と下部構造体(26)に分離可能な部材である。
ここで、第1次培養用容器の下部構造体(26)は、ポリスチレンで構成されてなる透光性部材であって、外径61mm(嵌合構造込みで64mm)、内径58mm、及び筒長36.5mm(把持部込みで41.5mm)の円筒状の部材である。当該円筒構造の底面部は、第1次培養用培養面となる平板状部材(27)を保持するための幅3mmの内枠を備えた形状を有する。また、下部構造体(26)の側面下部には、垂直方向幅4mm及び水平方向幅20mmのスリッド状の開放窓(28)が形成されてなる。開放窓(28)は、円筒断面視にて互いに反対側となる位置に2箇所形成されている。
【0210】
第1次培養用容器の下部構造体(26)には、上部構造体(22)の爪状構造(25)と係合するロック孔(33)を形成されている。ロック孔(33)は円筒断面視にて互いに反対側となる位置に2箇所形成されている。
また、下部構造体(26)には、垂直溝が2cm間隔で施され且つ溝間が周囲円筒より5mm高くすることによって形成されてなる把持部(30)を備えてなる。把持部(30)は円筒断面視にて互いに反対側となる位置に2箇所形成されている。本実施例に係る態様においては、把持部(30)への物理的な圧力を適度に加えることによって、容器外形に若干の変形及び歪みを生じさせ、上部構造体の分離を容易に行うことが可能となる。
また、把持部(30)には、本体容器ユニットの本体容器の爪状構造(44)と係合するロック孔(32)を、円筒断面視にて互いに反対側となる位置に2箇所有する。
【0211】
上部構造体(22)の容器上面を形成する部分は、外径57mm、内径50mm、部材高外寸9.1mm、及び部材高内寸7.1mmの円筒状の蓋状構造体である。ポリスチレンである透光性部材にて構成されてなる。円筒形状部分の外枠底部には、第1次培養容器の密閉性保持のために弾性部材であるO−リング(29)を具備されてなる。当該外枠底部は、開放構造閉塞部材(35)として機能する構造部分となる。
上部構造体(22)の上面は全体的にはフラット形状の天蓋構造であるが、当該構造の中央部分には内径22.4mmの開口部(23)を有する。当該開口部(23)の周辺位置には、細胞分取ユニット側の筒状構造体の底面(16)と係合可能な構造を有する。
上部構造体(22)の上部外縁には、幅20mmであり且つ周囲円筒より29.7mm高く形成された把持部(24)が形成されている。把持部(24)は、円筒断面視にて互いに反対側となる位置に2箇所形成されている。把持部(24)への物理的な圧力を適度に加えることによって、容器に若干の変形と歪みが生じ、本発明に係る本体容器ユニットへの下部構造体(26)の着脱を容易に行うことを可能としている。
把持部(24)の上端から10.5mmの位置には、下部構造体(26)のロック孔(33)と係合可能な爪状構造(25)が備えられている。爪状構造(25)は円筒断面視にて互いに反対側となる位置に2箇所形成されている。
【0212】
第1次培養用培養面である平板状部材(27)は、細胞剥離作用を有する表面修飾がされた培養プレートであって、第1次培養用培養面を形成する部材である。本実施例に係る平板状部材(27)としては、ポリスチレン樹脂で構成されてなる透光性部材であって、外径57mm及び基材厚1mmの円板形状部材である。
平板状部材(27)の基材表面には、温度応答性ポリマーであるポリ−N−イソプロピルアクリルアミドが基材分子にグラフト共重合された表面修飾構造を有する。本実施例においては、第1次培養用平板状部材としてセルシード社製のUpCell(登録商標)を使用した。
本実施例に係る第1次培養用培養面である平板状部材(27)の細胞剥離作用に関する評価試験の結果は、実施例4に示した。
【0213】
第1次培養用ユニット(3)の組み立て後の状態としては、
図4に示すように、下部構造体(26)の内側底面に、第1次培養用培養面となる平板状部材(27)が嵌め込まれて、更にその上側に上部構造体(22)が積載された構造となる。
ここで、第1次培養用培養面である平板状部材(27)は、下部構造体(26)の底部内枠と上部構造体(22)の側面によって、弾性部材であるO−リング(29)を介して挟持された構造となる。そのため、上部構造体(22)を最下まで挿入した状態においては、下部構造体(26)における開放構造(28)は閉じた状態となり、内部の液体培地等を保持することが可能な構造となる。本実施例では、上部構造体の側面底部が開放構造閉塞部材(35)として機能する部分となる。
このような部材構造によって、本実施例に係る第1次培養用ユニットでは、第1次培養用容器(21)を構成する集合部材構造体の内側部分が、実質的に培養可能な有効内径(φ50mm)となる。当該容器における培養可能な有効底面積は19.62cm
2である。一方、上部構造体(22)を上側に移動させた場合、開放窓(28)は開いた状態となる。
【0214】
(4)「本体容器ユニット」
本実施例に係る本体容器ユニット(4)は、本体容器(41)及び本体蓋状部(56)から主として構成される容器状構造体である。
【0215】
本実施例における本体容器は、上部構造体(
42)と下部構造体(
54)により構成されてなる。
下部構造体(
54)は、略直方体状の容器形状の部材であって、ポリスチレンで構成されてなる透光性部材である。下部構造体(
54)の内側底面は、増殖培養用の培養面(55)となる。容器内側底面の内寸は97.5mm×81.5mmであり、容器底面積は78.6cm
2である。当該面積は、第1次培養用ユニットおける培養面積の約4倍である。なお、本体容器(41)の外寸は98mm×83mmである。また、容器高は、内寸30mm及び外寸34.2mmである。
上部構造体(42)は、中央付近に培養ユニットの挿入出を可能とする開口部(43)を備えた部材であって、下部構造体(54)と嵌合固定されて本体容器の上面周辺部を構成する部材となる。ポリスチレンで構成されてなる透光性部材である。本実施例においては、下部構造体(54)と気密性が確保されるように接着固定された形態となる。
開口部(43)には、内径61.4mmの円形開口構造で、開口部を形成する内枠部分には、前段階の培養ユニットである第1次培養用ユニット側と係合する爪状構造(44)を有する。爪状構造(44)は、円筒断面視にて互いに反対側となる位置に2箇所形成されてなる。また、開口部(43)の外縁には、本体上部から延設された短円筒状の構造(45)が形成されてなる。当該短円筒状構造は、本体蓋状部(56)と嵌合し接続する嵌合構造部(45)として機能する。当該短円筒状の嵌合部の外側面には、本体蓋状部(56)と係合可能な爪状構造(46)が形成されている。爪状構造(46)は、円筒断面視にて互いに反対側となる位置に2箇所形成されている。
【0216】
上部構造体(42)は、培地交換口(51)を有し、当該口には増殖培養用の培地交換を容易に実行することを可能とする培地交換用管(52)が接続されている。培地交換用管(52)は、内径3.6mm、外径7.6mm、円筒長40.2mmのパイプ状構造体であって、その下端が本体容器(41)の底面から0.1〜0.2mmの位置になるよう固定された構造となる。培地交換用管(52)にキャップ(53)を接続することによって、本体容器ユニット(4)を密閉状態に維持することが可能となる。
上部構造体(42)は、ガス交換口(47)を有し、滅菌フィルター(49)を備えたガス交換用ポート(48)が接続された構造を有する。本実施例においては、上部構造体(42)にガス交換口(47)が2箇所形成された構造を有する。
【0217】
本体蓋状部(56)は、本体容器の上部構造体(42)と係合可能な蓋状部材である。外径81.2mm、内径74mm、蓋高外寸10.8mm、及び蓋高内寸8.8mmの円筒状の蓋状構造物である。ポリスチレンで構成されてなる透光性部材である。
本体蓋状部(56)の上面はフラットな円板形状である。本体蓋状部(56)の側面構造は、上部構造体の嵌合構造部(45)の爪状構造(46)と係合可能なロック孔(59)を有する。更に、本体蓋状部(56)の側面構造の上部内側には、密閉性保持のためのO−リング(57)が備えられてなる。
また、本体蓋状部(56)の底面中央部には、細胞分取ユニットの筒状構造体(13)の上面と嵌合して接触固定するための短円筒状構造(58)を備えている。
【0218】
本体容器ユニット(4)の組み立て後の状態としては、
図2に示すように、本体容器下部構造体(54)と本体容器上部構造体(42)とが、気密性が確保された状態にて接着固定された状態となる。また、上部構造体(42)においては、培地交換口(51)に培地交換用管(52)が接続され、ガス交換口(47)には通気フィルター(49)を備えたガス交換用ポート(48)が接続された構造となる。
本体蓋状部(56)は、本体容器上部構造体(42)にある蓋嵌合構造部(45)とO−リング(57)を介して嵌合され、容器全体を密閉状態にすることが可能となる。また、本体容器ユニット(4)は、細胞分取ユニット(2)及び第1次培養用ユニット(3)を本体容器ユニット内に格納した状態において、容器全体を密閉状態にすることが可能となる。
【0219】
[実施例2]『幹細胞の細胞分取及び増殖』
上記実施例にて製造した細胞分取培養増殖容器を使用して、幹細胞に対する細胞分取工程、第1次培養工程、細胞剥離工程、及び増殖培養工程を行った。
【0220】
(1)「細胞及び培地」
本実施例においては、分取前の組織細胞及び各種液体培地として下記表に示すものを用いた。なお、抗生物質としてはゲンタマインシン及びアンフォテリシンを用いた。また、遊走因子としてはG−CSFを用いた。
【0221】
【表2】
【0222】
(2)「細胞分取工程」
実施例1にて製造した細胞分取培養増殖容器(1)を用いて、
図1、2に示すように、細胞分取ユニット(2)、第1次培養用ユニット(3)、及び本体容器ユニット(4)を組み立て準備し、イヌ大犬歯由来歯髄組織からの幹細胞の分取を行った。本実施例における細胞分取工程の概念を示す模式図を
図7に示した。
【0223】
細胞分取培養増殖容器(1)から、
図4に示すように、細胞分取ユニット(2)及び本体蓋状部(56)を取り外し、第1次培養用容器上部構造体の開口部(23)から遊走因子を含む細胞分取用培地を第1次培養用容器内に注入し、当該開口部(23)から気泡を脱気させた。
細胞分取ユニット(2)を当該開口部(23)の上部に配置して係合固定させ、細胞分取膜(11)が細胞分取用培地の液面と気泡混入することなく接するように積載した。
次いで、イヌ大犬歯由来歯髄組織細胞を懸濁させた細胞懸濁用培地を、膜保持構造体の上側開口部(14)から内側に注入充填し、本体蓋状部(56)を取り付けて、CO
2濃度5%及び37℃のインキュベーター内で48時間培養した。ここで、ガス交換口(47)2カ所を開いた状態とし、培地交換口(51)は閉じた状態とした。
【0224】
分取培養後、本体蓋状部(56)を開封することなく、当該容器上方から位相差顕微鏡を用いて観察した。その結果、第1次培養用培養面(27)上に、70〜280細胞程度の細胞が分取されていることが観察された。また、細胞分取膜(11)への細胞付着は確認されなかった。本工程における分取培養後の細胞の写真像図を
図11Aに示した。
【0225】
(3)「第1次培養工程」
上記(2)に記載の細胞分取工程の後、所定の細胞量に増殖させる第1次培養を行った。本実施例における第1次培養工程の概念を示す模式図を
図8に示した。
【0226】
上記分取培養後、本体蓋状部(56)を開封し、
図4に示すように細胞分取ユニット(2)及び本体蓋状部(56)を取り外し、第1次培養用容器上部構造体の開口部(23)から、遊走因子を含む細胞分取用培地を第1次培養用培地に交換した。その後、本体蓋状部(56)を閉め、再びCO
2濃度5%及び37℃のインキュベーター内で60〜70%コンフルエントになるまで培養した。
【0227】
培養後、本体蓋状部(56)を開封することなく、当該容器上方から位相差顕微鏡を用いて観察した。その結果、第1次培養用培養面(27)上に、幹細胞が培養されていることを確認した。本実施例に係る容器においては、第1培養用培養面の底面積と本体容器の増殖培養用面(55:第2次培養用培養面)の底面積比を考慮すると、次段階の増殖培養に適した十分な細胞量が増殖していることを確認した。本工程における第1次培養後の細胞の写真像図を
図11Bに示した。
【0228】
(4)「細胞剥離工程」
上記(3)に記載の第1次培養工程の後、培養した細胞を第1次培養用培養面からは剥離させる操作を行った。本実施例における細胞剥離工程の概念を示す模式図を
図9に示した。
【0229】
上記第1次培養後、本体蓋状部(56)を開封し、第1次培養用容器上部構造体の開口部(23)から第1次培養用容器内の培養用培地を交換して、再び本体蓋状部(56)を密封した。
その後、容器全体を第1次培養用培養面(27)の表面修飾分子の相転移温度を下回るよう4℃で60分間冷却し、当該容器上方から位相差顕微鏡を用いて観察して剥離状態を確認した。
次いで、
図5に示すように、本体蓋状部(56)を開封して、第1次培養用上部構造体(22)を取り外し、第1次培養用容器下部構造体の側面部における開放窓(28)を開放状態にすることによって、剥離細胞を懸濁状態で含む液体培地を本体容器(41)側へ流出させた。また、第1次培養用培養面(27)を再度液体培地でリンスし、残りの細胞も本体容器(41)側に完全に本体容器(41)側へ流出させた。
ここで、本工程後の第1次培養用培養面からの細胞剥離率は90%以上であった。本工程における細胞剥離後の細胞の写真像図を
図11Cに示した。
【0230】
(5)「増殖培養工程」
上記(4)の操作の後、増殖培養のための第2次培養を行った。本実施例における増殖培養工程の概念を示す模式図を
図10に示した。
【0231】
上記剥離工程における一連の操作の後、
図6に示すように、第1次培養用容器下部構造体(26)を取り外し、本体蓋状部(56)を密閉して、容器全体を揺らして底面の細胞を均一にした。その後、CO
2濃度5%及び37℃のインキュベーター内で培養した。
増殖培養後、本体蓋状部(56)を開封することなく、当該本体容器の上方から位相差顕微鏡を用いて観察した。その結果、幹細胞が十分に接着し増殖されていることが確認された。本工程に係る増殖培養後の細胞の写真像図を
図11Dに示した。
【0232】
(6)「細胞特性評価」
上記(1)〜(5)の一連操作及び工程によって分取増殖された細胞について、細胞特性を評価した。
幹細胞表面抗原メーカーであるCD105、G−CSFR、CXCR4について、各抗体を用いてフローサイトメトリーでの解析を行った。対照として未分取のイヌ大犬歯由来歯髄細胞を用いて、フローサイトメトリー法によって本発明に係る細胞分取培養増殖法で分取した細胞特性との比較を行った。幹細胞マーカーの陽性率を示す結果を表3に示した。
その結果、上記(1)〜(5)の一連操作及び工程によって得られた細胞は、対照である未分取細胞より高い幹細胞マーカー陽性率を示し、幹細胞の特徴を示す細胞であることが確認された。
また、第1次培養工程後の細胞剥離工程として、温度感受性ポリマーを利用した細胞剥離工程を行った場合であっても、幹細胞の細胞特性には影響がないことが確認された。
【0233】
【表3】
【0234】
(7)「応用例」
本実施例は、上記(1)に記載のように、細胞分取前の組織細胞として歯髄組織細を用いた実証例であるところであるが、細胞分取膜(11)の微細孔の孔径、遊走因子の特徴、及びWO2012/133803号公報の記載を併せて考慮すると、本実施例に係る容器を用いて骨髄組織及び脂肪組織等からの直接的な幹細胞の分取増殖も可能であると認められる。
【0235】
[実施例3]『細胞分取膜に関する評価』
上記製造した細胞分取培養増殖容器について、細胞分取ユニットを構成する細胞分取膜の微細構造及び細胞付着抑制能を検証した。
【0236】
(1)「微細構造に関する構造評価」
上記実施例にて製造した細胞分取ユニットを構成する細胞分取膜の微細構造を検証した。
【0237】
上記実施例1(2)にてin printing法により製造した細胞分取膜について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて表面微細構造を観察した。顕微鏡写真の撮影結果を
図12に示した。
その結果、上記実施例で製造した細胞分取膜は、平均孔径8
μmの微細孔が、開孔率20%にて配置された微細構造を有する膜であることが確認された。また、孔は膜表面をほぼ垂直に連通し、格子状に等間隔で規則正しく配置されていることから、孔どうしの重なりによる微細孔の拡大は確認されなかった。
一方、対照として、従来法の重粒子線照射によってPEに対して微細孔を形成させた膜では、孔の配列はランダムであり、重なりあって大きな孔が存在し、更に粒子が垂直に貫通していない場合には楕円状の孔となっていた(
図13)。当該現象は、開孔率を上げる程顕著になると認められた。
この結果が示すように、上記実施例で製造した細胞分取膜は、サイズによる細胞の選択性の高い膜であり、且つ、透過効率に優れた膜であることが微細構造によって示された。なお、当該孔径は、特に幹細胞の分取に適した孔径であった。
【0238】
(2)「細胞付着抑制能に関する機能評価」
上記実施例にて製造した細胞分取ユニットを構成する細胞分取膜の細胞付着抑制能を検証した。
【0239】
上記実施例1(2)にてin printing法により製造した細胞分取膜について、親水性ポリマーの濃度の違いによる細胞付着抑制能に関する評価を行った。
in printing法によって開孔させたPE膜を、表4に記載の濃度のポリビニルピロリドン/ポリ酢酸ビニル共重合体及び0.1wt%エタノールを含む溶液に浸漬し、した状態でγ線25KGyを照射した。
得られた親水性ポリマー表面修飾を行った細胞分取膜を、ポリスチレン製の24wellプレートに適合するインサート容器に融着させ、幹細胞を含む細胞分取用培地を播種してCO
2濃度5%のインキュベーター内で48時間培養した。
本実施例においては、イヌ犬歯髄組織由来のFI65N DPSCs 継代3世代目の幹細胞を、1wellあたり2×10
4細胞用いた。また、培養用培地としては、10%FBS含有DMEM培地を用いた。
【0240】
培養後、容器から膜を取り出してギムザ染色を行い、画像解析ソフトImageJにて細胞(核)数及び面積を測定した。得られた値を用いて次の式(1)によりPE膜への細胞非接着面積率(%)を算出した。結果を表4及び
図14に示した。また、細胞分取膜の顕微鏡写真像を
図15に示した。
【0241】
式(1):細胞非接着面積率(%)=(総画像面積−細胞面積)/総画像面積×100
【0242】
その結果、親水性ポリマー濃度0.1%以上の溶液を用いてPE膜に対する表面処理を行うことによって、PE膜表面の性質が劇的に改変され、細胞分取膜への細胞付着抑制効果が十分に発揮されることが示された(試料3−2〜試料3−4)。
【0243】
【表4】
【0244】
[実施例4]『細胞剥離に関する評価』
上記製造した細胞分取培養増殖容器について、第1次培養用ユニットにおける第1次培養用培養面の細胞剥離作用を検証した。
【0245】
培養シャーレに上記実施例1(3)に記載の第1次培養用培養面である板状構造体(細胞剥離機能プレート)を配置した。当該板状構造体は、当該表面に温度応答性ポリマーであるポリ−N−イソプロピルアクリルアミドにて分子修飾された構造を有するプレートである。
当該板状構造体であるプレート上に、幹細胞を含む培地を播種してCO
2濃度5%のインキュベーター内で24時間培養した。本実施例においては、イヌ犬歯髄組織由来のFI65N DPSCs 継代4世代目の幹細胞を、1プレート(φ35mm)あたり4×10
4細胞を播種した。また、培養用培地としては、10%FBS含有DMEM培地を用いた。
【0246】
培養後、プレート表面の修飾分子の相転移温度を下回るよう4℃で60分間冷却した。低温培養の直前、低温培養30分経過後、低温培養60分経過後、及び低温処理後のピペッティング後のそれぞれにおいて、板状構造体のプレート表面の観察及び浮遊細胞数(未接着細胞数)のカウントを行った。
得られた値を用いて下記式(2)により板状構造体への細胞剥離率を算出した。結果を表5及び
図16に示した。また、板状構造体のプレート表面での顕微鏡写真像を
図17に示した。
【0247】
式(2):細胞剥離率(%)=(浮遊細胞数/播種細胞数)×100
【0248】
その結果、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドで表面修飾されたプレートを用いた場合(試料4−1)では、低温処理によりプレート表面での相転移が起こり、板状構造体のプレート表面からの細胞剥離作用が発揮されることが示された。詳しくは、30分間の低温処理によって、約54%の細胞が剥離することが示された。更に、60分間の低温処理では剥離効果は劇的に向上し87%、更にピペッティングによる物理的処理を行うことで93.5%の細胞の剥離が確認された。
【0249】
【表5】
【0250】
[実施例5]『全工程を本体容器ユニット未開封で行う態様』
上記実施例にて製造した細胞分取培養増殖容器を改良し、本体容器ユニットを開封することなく、幹細胞に対する細胞分取工程、第1次培養工程、細胞剥離工程、及び増殖培養工程を行った。
【0251】
(1)「細胞分取培養増殖容器」
上記実施例にて製造した細胞分取培養増殖容器において、構成部材の一部仕様を変更した以外は、実施例1に記載の方法と同様にして細胞分取培養増殖容器(1)を製造した。本実施例において変更した部材は次の通りである。
【0252】
i)部材構成の仕様変更
第1次培養用ユニットにおける第1次培養用容器上部構造体(22)として、上面部の天板部に中空管状部材挿入出構造(34)である径8mmの開口部を備えた構造体を用いた。また、上部構造体(22)として、2つの把持部(24)の上端に、本体蓋状部の側面構造のロック孔に接続可能な爪状部を配設した構造体とした。
本体容器ユニットにおける本体蓋状部(56)として、上部における天板中心から37mmの位置に、外径37mmで部材厚0.5mmの円筒形状のシリコーン樹脂が埋設されてなる中空管状部材挿入出構造(60)を備えた構造体を用いた。また、本体蓋状部(56)の側面構造の内側には、第1次培養用容器上部構造体の把持部の爪状部と、係合可能なロック孔を備えた構造とした。
【0253】
ii)組立構造の仕様変更
本実施例における細胞分取培養増殖容器(1)の組み立てにおいては、一部の構成を変更した以外は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。本実施例における変更箇所は次の通りである。
【0254】
本実施例に係る容器においては、本体容器ユニット(4)内へ第1次培養用ユニット(3)を格納し、本体蓋状部(56)にて本体容器を密封する際において、第1次培養用容器上部構造体の把持部(24)の爪状部と、本体蓋状部(56)のロック孔を係合し接続した構造となる。
当該構造により、本体蓋状部を回動操作と連動して、側面底部が開放構造閉塞部材(35)となっている第1次培養用容器上部構造体が上方向に転置するため、第1次培養用容器下部構造体の開放窓(28)が開放状態となる。当該操作においては、本体蓋状部の上部内側のO−リング(57)が気密性を確保するため、本体容器ユニットは密封状態に維持された状態にて実行可能となる。
また、本実施例に係る容器においては、本体容器ユニットに第1次培養用ユニットを格納した状態において、本体容器の増殖培養面と第1次培養用容器の底面外壁との間に細胞増殖を可能とする空隙が設けられた状態となる。
【0255】
本実施例に係る容器においては、本体蓋状部の中空管状部材挿入出構造(60)と第1次培養用容器上部構造体の中空管状部材挿入出構造(34)とが、上面視にて重なる位置になるように配設された構造となる。
【0256】
(2)「幹細胞の細胞分取及び培養増殖」
上記(1)で製造した細胞分取培養増殖容器(1)を用いて、幹細胞に対する細胞分取工程、第1次培養工程、細胞剥離工程、及び増殖培養工程を行った。本実施例においては、実施例2に対して次の操作を変更して実験を行った。なお、それ以外の操作や実験条件等は、実施例2に記載の方法と同様にして行った。
【0257】
i)第1次培養用容器内の培地交換操作
細胞分取を行った後、本体蓋状部の中空管状部材挿入出構造(60)に20G針長38mmのシリンジ針を備えたシリンジを挿入して、第1次培養用容器上部構造体の中空管状部材挿入出構造(34)を介して、第1次培養用容器(21)内の細胞分取用培地を第1次培養用培地に交換する操作を行った。ここで、培地交換での新鮮な培地の注入時においては、第1次培養用培地の液面が、細胞分取膜(11)の膜面より低くなるように充填した。当該一連の操作は、本体容器ユニット(4)を開封することなく行った。当該操作の概略を示す模式図を
図18に示した。
【0258】
ii)第1次培養工程での再播種操作
第1次培養を開始してから4日経過後、4℃で60分間冷却して細胞剥離操作を行った。その後、容器全体を振盪して剥離細胞を培地中に均一にして、再びCO
2濃度5%及び37℃のインキュベーター内で60〜70%コンフルエントになるまで培養した。当該一連の操作は、本体容器ユニット(4)を開封することなく行った。
【0259】
iii)開放構造の開放操作
第1次培養工程が終了した後の細胞剥離を行った後、本体蓋状部(56)を回動して第1次培養用容器上部構造体(22)を上方向に転置させ、第1次培養用容器下部構造体の開放窓(28)を開放状態とした。本体容器を振盪させて、剥離した懸濁細胞を本体容器(41)側に完全に流出させた。当該一連の操作は、本体容器ユニット(4)を開封することなく行った。
【0260】
iv)増殖培養工程
第1次培養用容器等を格納状態のままにして、本体容器ユニット(4)を開封することなく増殖培養工程を行った。
【0261】
(3)「評価」
上記一連操作及び工程によって分取増殖された細胞について、実施例2と同様にして細胞特性を評価した。その結果、本実施例にて得られた細胞は、対照である未分取細胞より高い陽性率を示し、幹細胞の特徴を示す細胞であることが確認された。
また、本実施例においては、第1次培養工程での再播種操作を行ったところ、実施例2に比べて幹細胞含有率が高くなり、増殖培養工程での増殖速度も向上することが明らかになった。
以上により、本実施例に係る細胞分取培養増殖容器(1)を用いることによって、本体容器ユニット(4)を開封することなく、幹細胞の細胞分取及び培養増殖を実行可能であることが示された。即ち、感染やコンタミネーションが大幅に低減された状態にて幹細胞の細胞分取及び培養増殖が可能となることが示された。
また、第1次培養工程の途中段階での再播種操作は、幹細胞の回収効率向上の点で有効であることが示された。
【0262】
[実施例6]『回動調節機構を備えた態様』
上記実施例にて製造した細胞分取培養増殖容器を改良し、本体容器ユニットの本体蓋状部の回動操作の操作性を向上させた回動調節機構を備えた細胞分取培養増殖容器を製作した。
【0263】
(1)「細胞分取培養増殖容器」
上記実施例にて製造した細胞分取培養増殖容器において、構成部材の一部仕様を変更した以外は実施例1に記載の方法と同様にして、
図19に示す細胞分取培養増殖容器(1)を製造した。本実施例において変更した部材は次の通りである。
【0264】
i)部材構成の仕様変更
第1次培養用ユニットにおける第1次培養用容器上部構造体(22)として、上面部の天板部に中空管状部材挿入出構造(34)である径8mmの開口部を備えた構造体とした。また、2つの把持部(24)の上端に、本体蓋状部の側面構造のロック孔に接続可能な爪状部を配設した構造体とした。また、第1次培養用容器下部構造体(26)として、2つの把持部(30)の上部にフランジ構造を有し、当該フランジ上に本体蓋状部の側面構造のロック孔に接続可能な嵌合構造を配設した構造体とした。
【0265】
本体容器ユニットにおける本体容器上部構造体(42)として、本体蓋状部との嵌合構造(45:短円筒構造)の外周にクリックロックリング(62)を接触配設した(
図19参照)。クリックロックリング(62)は、弾性を備えた硬質樹脂製(ポリカーボネート製)のリング状構造部材であって調節部(63)を8つ配列して備えた構造の部材である(
図20A)。
調節部(63)は、クリックロックリング(62)の中心からの放射角にて20〜35°の間隔にて4つがリング円周上に並んで配設された構造であり、当該リング(62)の中心の対称側にもそれぞれ4つが配設されてなる。調節部(63)は、0.2mmの部材高を有するボス(64)を2つ一組にて上面に備え、その下部構造は、ボスへの上側からの押力が加わった際に下側に撓んで変形可能な窪み構造(65)が形成されてなる(
図20B)。なお、当該実施例の態様においては、調節部(63)を構成する2つのボスのうちの1つを、逆転回動を防止するために内側に垂直面を有する台形形状の逆転防止ボス(64b)とした。
【0266】
本体容器ユニットにおける本体蓋状部(56)として、上部における天板中心から37mmの位置に、外径37mmで部材厚0.5mmの円筒形状のシリコーン樹脂が埋設されてなる中空管状部材挿入出構造(60)を備えた構造体を用いた。
また、本体蓋状部(56)としては、本体蓋状部(56)の側面構造の内側には、第1次培養用容器上部構造体の把持部(24)の爪状部と係合可能なロック孔を備えた構造とした。また、本体蓋状部(56)の側面構造の内側には、第1次培養用容器下部構造体の把持部(30)のフランジ上の嵌合構造と係合可能なロック孔を備えた構造とした。また、本体蓋状部(56)の側面構造の下側には、クリック用突起部(66)を備えた構造とした。クリック用突起部(66)は、下側を頂点とする山型三角形状の構造体であって、クリックロッリング(62)の中心から点対称の位置に2つ形成されてなる。
【0267】
ii)組立構造の仕様変更
本実施例における細胞分取培養増殖容器(1)の組み立てにおいては、一部の構成を変更した以外は、実施例1に記載の方法と同様にして行った。本実施例における変更箇所は次の通りである。
【0268】
本実施例に係る容器の態様においては、本体蓋状部の回動操作によって、本体蓋状部(56)の側面構造の下側に配設されたクリック用突起部(66)が調節部(63a)を構成するボス(64)を通過する際に押力変化の感触及びクリック的な音が発生する構造となる。これにより、本発明に係る容器では、本体蓋状部の回動度合の段階及びそれに対応した容器構造の変形状態を操作者に容易に認知させることが可能となる。
【0269】
本実施例に係る容器においては、本体容器ユニット(4)内へ第1次培養用ユニット(3)を格納し、本体蓋状部(56)にて本体容器を密封する際において、第1次培養用容器上部構造体の把持部(24)の爪状部と、本体蓋状部(56)のロック孔を係合し接続した構造となる。当該状態においては、クリックロックリング(62)に配設された4組のうちの最右側の調節部(63a)を構成する2つのボス(64)の間に、本体蓋状部(56)の側面構造の下側に配設されたクリック用突起部(66)が収まった状態となる(
図21A)。
当該状態において本体蓋状部を回動させてクリック用突起部(66)を右から2番目の調節部(63b)に移動させた場合、当該操作と連動して側面底部が開放構造閉塞部材(35)となっている第1次培養用容器上部構造体が上方向に転置し、第1次培養用容器下部構造体の開放窓(28)が開放状態となる(
図21B)。
【0270】
そして、当該本体蓋上部の回動操作によって、第1次培養用容器下部構造体の把持部(30)のフランジ上の嵌合構造と、本体蓋状部(56)のロック孔が係合して接続した状態が実現される。ここで、本実施例に係る容器においては、クリック突起部(66)が右から1番目の調節部(63a)又は2番目の調節部(63b)にある状態では、第1次培養用容器下部構造体(26)の底面外壁が本体容器の増殖培養面(55)に接触した状態のままである(
図21B)。
この状態にて更に本体蓋状部の回動を行ってクリック用突起部(66)を右から3番目の調節部(63c)に移動させた場合、当該操作と連動して第1次培養用容器下部構造体(26)の底面が上方向に転置し、第1次培養用容器下部構造体(26)の底面外壁と本体容器の増殖培養面(55)との間に細胞増殖を可能とする空隙が形成される。本実施例に係る容器では、当該空隙形成によって増殖培養工程を行う際の培養面の面積が増大した容器形状への構造変形が実現される(
図21C)。
【0271】
本実施例に係る容器においては、上記のような調節部(63)を8つ(4セット2組)配列して備えたクリックロックリング(62)及びクリック突起部(66)が回動調節機構(61)を構成する主たる部材である。
本実施例に係る容器における上記操作は、本体蓋状部の上部内側のO−リング(57)が気密性を確保するため、本体容器ユニットは密封状態に維持された状態にて実行可能となる。
また、本実施例に係る容器においては、本体蓋状部の中空管状部材挿入出構造(60)と第1次培養用容器上部構造体の中空管状部材挿入出構造(34)とが、上面視にて重なる位置になるように配設された構造となる。
【0272】
(2)「幹細胞の細胞分取及び培養増殖」
上記(1)で製造した細胞分取培養増殖容器(1)を用いて、幹細胞に対する細胞分取工程、第1次培養工程、細胞剥離工程、及び増殖培養工程を行った。本実施例においては、実施例2に対して次の操作を変更して実験を行った。それ以外の操作や実験条件等は、実施例
2に記載の方法と同様にして行った。
【0273】
i)第1次培養用容器内の培地交換操作
上記(1)で製造した細胞分取培養増殖容器(1)を第1次培養用容器下部構造体(26)の底面が本体容器培養面(55)と接触した状態で格納された状態とした。当該状態ではクリック突起部(66)は右から1番目の調節部(63a)に緩く嵌合した状態になる。細胞分取を行った後、本体蓋状部の中空管状部材挿入出構造(60)に20G針長38mmのシリンジ針を備えたシリンジを挿入して、第1次培養用容器上部構造体の中空管状部材挿入出構造(34)を介して、第1次培養用容器(21)内の細胞分取用培地を第1次培養用培地に交換する操作を行った。当該一連の操作は、本体容器ユニット(4)を開封することなく行った。
【0274】
ii)第1次培養工程での再播種操作
第1次培養を開始してから4日経過後、4℃で60分間冷却して細胞剥離操作を行った。その後、容器全体を振盪して剥離細胞を培地中に均一にして、再びCO
2濃度5%及び37℃のインキュベーター内で60〜70%コンフルエントになるまで培養した。当該一連の操作は、本体容器ユニット(4)を開封することなく行った。
【0275】
iii)開放構造の開放操作
第1次培養工程が終了した後の細胞剥離を行った後、本体蓋状部(56)を右方向に回動させ、クリック突起部(66)が右から2番目の調節部(63b)に緩く嵌合した状態にくるまで移動させた。当該操作により第1次培養用容器上部構造体(22)が上方向に転置し、第1次培養用容器下部構造体の開放窓(28)は開放状態となった(
図21B)。
そして、本体容器を振盪させて剥離した懸濁細胞を本体容器(41)側に完全に流出させた。当該一連の操作は、本体容器ユニット(4)を開封することなく行った。
【0276】
iv)増殖培養工程
本体蓋状部(56)を更に右方向に回動させて、クリック突起部(66)が右から3番目の調節部(63c)に緩く嵌合した状態にくるまで移動させた。当該操作によって第1次培養用容器下部構造体(26)の底面が上方向に転置し、第1次培養用容器下部構造体(26)の底面外壁と本体容器の増殖培養面(55)との間に細胞増殖を可能とする空隙が形成された状態となった(
図21C)。そして、剥離した懸濁細胞が増殖培養面(55)に広がるように軽く振盪させた。
本実施例においては、第1次培養用容器等を格納状態のままにして、本体容器ユニット(4)を開封することなく増殖培養工程を行った。
【0277】
培養終了後は、本体蓋状部(56)を更に右方向に回動させてクリック突起部(66)が右から4番目の調節部(63d)に緩く嵌合した状態にくるまで移動させた。当該状態にて本体蓋状部を上方に引き上げ、本体蓋状部に接続状態にある第1次培養用ユニット及び細胞分取ユニットごとまとめて取り出し、本体容器内の培養細胞を回収した。
【0278】
(3)「評価」
上記一連操作及び工程によって分取増殖された細胞について、実施例2と同様にして細胞特性を評価した。その結果、本実施例にて得られた細胞は、対照である未分取細胞より高い陽性率を示し、幹細胞の特徴を示す細胞であることが確認された。
以上により、本実施例に係る細胞分取培養増殖容器(1)を用いることによって、本体容器ユニット(4)を開封することなく、幹細胞の細胞分取及び培養増殖を実行可能であることが示された。即ち、感染やコンタミネーションが大幅に低減された状態にて幹細胞の細胞分取及び培養増殖が可能となることが示された。
そして、本体蓋上部に第1培養用ユニットの形状変化と連動した回動調節機構(61)を備えた態様を採用することによって、操作者が本体蓋状部の回動操作における回動度合及び容器構造の状態を段階的に認知可能となることが確認された。
【0279】
[実施例7]『プラズマ処理を利用した細胞分取膜の製造』
細胞分取膜の製造態様として、プラズマ処理による疎水性基材層表面への親水化処理が可能かを検証した。
【0280】
(1)疎水性基材のプラズマ処理
細胞分取膜(11)の基材層として利用可能な膜厚20μmのポリエチレン(PE)膜に対して、低エネルギーでの真空プラズマ処理を行った。真空プラズマ処理は、エステック株式会社製のベリンジャー型真空プラズマ装置を用いて表6に示す電圧印加条件にて行った。PE膜表面の接触角を測定した結果を表6に示した。
その結果、0.5〜1.75kVの電圧印加での真空プラズマ処理を行うことによってPE膜表面の接触角が減少して親水化した膜構造体となることが示された。当該親水化傾向は、印加電圧の上昇と相関して向上する傾向があることが示された。
また、当該接触角の値はPE膜上でほぼ均一であったことから、親水化がPE膜表面にて斑なく実現されていることが示された。
【0281】
以上の結果から、PE膜に対して低エネルギーでの電圧印加によるプラズマ処理を行うことによって、疎水性基材層の表面が均一に親水化した細胞分取膜が製造できることが示された。当該製造態様にて製造された細胞分取膜は、印加電圧の高い処理と比較して6ヶ月後の接触角の変化も無いことがわかり、表面エッチングが極めて少なく経時劣化が少ない細胞分取膜であると認められた。
【0282】
【表6】
【0283】
[実施例8]『培養面基材層におけるプラズマ処理』
第1次培養用培養面及び増殖培養用培養面の製造態様として、プラズマ処理による疎水性基材層表面への親水化処理が可能かを検証した。
【0284】
(1)培養面表面のプラズマ処理
第1次培養用培養面及び増殖培養用培養面の基材層として利用可能なポリスチレン(PS)製の板状プレート部材(φ35mm)に対して、低エネルギーでの真空プラズマ処理を行った。真空プラズマ処理は、エステック株式会社製のベリンジャー型真空プラズマ装置を用いて0.5kV又は1.0kVの電圧印加条件にて行った。
当該部材表面の接触角を測定したところ、その角度は対照である未処理のPS製プレート部材(市販培養プレート:接触角90.5°)よりも親水化した表面特性に改変されていることが示された。なお、当該プレート表面の親水化の程度は、接触角の値から判断して、細胞の接着が阻害されない程度の適度な親水化であると認められた。
また、当該プラズマ処理後のプレート部材にアセトン処理を行ったところ、薄い不溶層の残存が確認されたことから、疎水性基材表面に表面架橋層が形成されていることが確認された。ただし、印加電圧1.0kVの条件では、アセトン処理によって残存する不溶層の量が印加電圧0.5kVの場合に比べ少ないことから、印加電圧が高いためエッチングが起こり、表面の改質の程度が低くなり、接触角が大きくなったと推定された。
【0285】
以上の結果から、当該プラズマ処理による製造態様にて製造された培養プレート部材は、表面エッチングが少なく経時劣化が少ないプレート部材であると認められた。特に0.5kVの処理では架橋層が多く形成されており、表面エッチングが極めて少なく経時劣化耐性が特に優れたプレート部材であることが示された。
【0286】
【表7】
【0287】
(2)細胞培養試験
上記(1)にて製造したプレート部材を4等分に切断し、切断したプレートの表面に、1プレートあたり1×10
4細胞の幹細胞を播種し、CO
2濃度5%のインキュベーター内で60時間培養し、培養状態を経時観察した。幹細胞として、イヌ犬歯髄組織由来のVW190 DPSCs 継代5世代目の細胞を用いた。また、培養用培地としては、10%FBS含有DMEM培地を用いた。経時的な観察結果を
図22及び表8に示した。
【0288】
その結果、プラズマ処理によって表面特性が適度に親水化したプレート部材を用いた場合であっても、対照である未処理のプレート部材(市販培養プレート)と同程度の細胞増殖が可能であることが示された。
以上の結果から、プラズマ処理にて表面特性が適度に親水化したプレート部材は、第1次培養用培養面及び増殖培養用培養面として好適に使用可能であることが示された。
【0289】
【表8】