特許第6851601号(P6851601)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6851601
(24)【登録日】2021年3月12日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】鉄分供給容器
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/73 20170101AFI20210322BHJP
   A01G 33/00 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   A01K61/73
   A01G33/00
【請求項の数】16
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-103343(P2018-103343)
(22)【出願日】2018年5月30日
(65)【公開番号】特開2019-154427(P2019-154427A)
(43)【公開日】2019年9月19日
【審査請求日】2020年4月28日
(31)【優先権主張番号】特願2018-40422(P2018-40422)
(32)【優先日】2018年3月7日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518078131
【氏名又は名称】株式会社アベゼン
(73)【特許権者】
【識別番号】516070427
【氏名又は名称】林 明夫
(73)【特許権者】
【識別番号】511058464
【氏名又は名称】吉村 悦郎
(73)【特許権者】
【識別番号】509298012
【氏名又は名称】公立大学法人宮城大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147740
【弁理士】
【氏名又は名称】保坂 俊
(72)【発明者】
【氏名】林 明夫
(72)【発明者】
【氏名】吉村悦郎
(72)【発明者】
【氏名】北辻政文
【審査官】 田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−236571(JP,A)
【文献】 特開平11−137117(JP,A)
【文献】 特開2012−075398(JP,A)
【文献】 特開2009−077640(JP,A)
【文献】 特開平05−068446(JP,A)
【文献】 特開2005−088221(JP,A)
【文献】 特開2009−045006(JP,A)
【文献】 実開平04−060055(JP,U)
【文献】 特開2002−058382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/70−61/78
A01G 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空間(内部空間という)を有する容器において、前記内部空間に配置されたスラグおよびキレート剤を含む混合体を配置した鉄分供給容器であって、
前記鉄分供給容器は、海水中又は水中に設置して、前記鉄分供給容器内部空間に海水または水を取り込んで、前記取り込んだ海水または水と一緒にスラグ中に含有される鉄分が海中または水中にキレート鉄として鉄分を供給する機能を有するとともに、
前記鉄分供給容器は、前記内部空間に接続する容器の開口部(内部空間接続開口部という)および前記内部空間接続開口部に配置された透水性を持つ透水性蓋(鉄分供給容器透水性蓋という)を含み、
前記鉄分供給容器透水性蓋は開口部で開閉可能であり、
前記内部空間に配置された混合体は前記鉄分供給容器透水性蓋を開閉して交換可能であり、
前記鉄分供給容器を海水中又は水中に設置されているときは、前記鉄分供給容器透水性蓋は閉じた状態であり、
前記内部空間接続開口部に配置された前記鉄分供給容器透水性蓋を通して海水または水と一緒にスラグ中に含有される鉄分が海中または水中にキレート鉄として鉄分を供給する機能を有することを特徴とする、鉄分供給容器。
【請求項2】
前記内部空間接続開口部は、前記鉄分供給容器において複数存在し、海水または水が前記複数の内部空間接続開口から流入または流出することを特徴とする、
請求項1に記載の鉄分供給容器。
【請求項3】
前記混合体は、一定時間後に海水や水に溶ける材質を持つ材料の中に袋詰めされ、前記袋詰めされた状態で前記内部空間に配置されるか、
あるいは、前記混合体は、メッシュ状容器に収納された状態で前記内部空間に配置されることを特徴とする、
請求項1または2に記載の鉄分供給容器。
【請求項4】
前記鉄分供給容器の一部/または全部はスラグを骨材とする透水性コンクリート(スラグ骨材透水性コンクリートという)であり、
前記スラグ骨材透水性コンクリートを通して、海水または水と一緒に鉄分が海中または水中にキレート鉄として鉄分を供給する機能を有することを特徴とする
請求項1〜3のいずれかの項に記載の鉄分供給容器。
【請求項5】
前記スラグ骨材透水性コンクリートは、さらに、その表面から形成された複数の孔部、前記孔部の表面における開口部(孔部開口部という)、前記複数の孔部に配置されたキレート剤、前記孔部開口部に配置された透水性を持つ透水性蓋(孔部開口部透水性蓋という)を含み、前記孔部開口部透水性蓋および前記スラグ骨材透水性コンクリートを通して、海水または水と一緒に鉄分が海中または水中にキレート鉄として鉄分を供給する機能を有することを特徴とする、請求項4に記載の鉄分供給容器。
【請求項6】
前記孔部に配置されたキレート剤は前記孔部に挿入可能なカートリッジ容器に入れられ、前記カートリッジ容器は、前記孔部に配置され交換可能であることを特徴とする、
請求項5に記載の鉄分供給容器。
【請求項7】
前記カートリッジ容器の一部または全部は透水性材料か、あるいは前記カートリッジ容器はメッシュ状容器であり、
前記カートリッジの透水性材料またはメッシュの隙間を通してキレート剤が前記スラグ骨材透水性コンクリートの鉄分供給容器に溶出しキレート鉄を形成して、前記キレート鉄が前記スラグ骨材透水性コンクリートの鉄分供給容器の外側に溶出する機能を有することを特徴とする、請求項6に記載の鉄分供給容器。
【請求項8】
前記鉄分供給容器は、さらにパイプ状の鉄分供給容器(パイプ状鉄分容器という)を含み、
前記パイプ状鉄分容器の外壁はスラグを骨材とする透水性を持つ透水性コンクリート(スラグ骨材透水性コンクリートという)であり、前記パイプ状鉄分容器の内部空間にキレート剤が配置されており、前記パイプ状鉄分容器は、海中または水中に設置して、前記パイプ状鉄分容器の外壁を通して海水または水と一緒に鉄分が海中または水中にキレート鉄として鉄分を供給する機能を有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれかの項に記載の鉄分供給容器。
【請求項9】
前記鉄分供給容器はパイプ状容器であり、前記パイプ状容器の外壁に前記内部空間接続開口部である複数の孔が前記パイプ状容器の内部空間に接続しており、前記孔に前記鉄分供給容器透水性蓋が配置され、前記パイプ状容器の内部空間に前記混合体が配置されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかの項に記載の鉄分供給容器。

【請求項10】
前記パイプ状容器は、網状またはスノコ状に配置されていることを特徴とする、請求項8または9に記載の鉄分供給容器。
【請求項11】
前記透水性蓋は、1部または全部に透水性部分を有する蓋であることを特徴とする、
請求項1〜10のいずれかの項に記載の鉄分供給容器。
【請求項12】
前記キレート剤は、クエン酸、グルタミン酸、グルコン酸、これらの塩類、およびこれらの精製前物質から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、
請求項1〜11のいずれかの項に記載の鉄分供給容器。
【請求項13】
前記スラグは、製鋼スラグ、一般廃棄物の溶融スラグ、銅スラグ、フェロアロイスラグ、ミルスケール、酸洗工程で生じた塩化鉄から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、
請求項1〜12のいずれかの項に記載の鉄分供給容器。
【請求項14】
鉄分供給容器透水性蓋、透水性コンクリート、透水性材料、スラグ骨材透水性コンクリート、および孔部開口部透水性蓋の透水係数は、1×10−7cm/sec〜10cm/secの範囲であることを特徴とする、
請求項1〜13のいずれかの項に記載の鉄分供給容器。
【請求項15】
請求項1〜14に記載の鉄分供給容器を水中または海中に配置する鉄分供給容器の配置方法であって、空気浮舟上に鉄分供給容器または鉄分供給容器を連結した鉄分供給容器連結体を載せた後、前記空気浮舟の空気を抜いて鉄分供給容器または鉄分供給容器連結体を水中または海中に沈めて、水底または海底に配置することを特徴とする、鉄分供給容器の配置方法。
【請求項16】
水中または海中に設置された請求項1〜14に記載の鉄分供給容器を水上または海上に引き上げる鉄分供給容器の引き上げ方法であって、水中または海中に設置された鉄分供給容器または鉄分供給容器連結体の下に空気浮舟を配置した後、空気浮船に空気を入れて浮力で海上まで浮き上がらせることにより鉄分供給容器を引き上げることを特徴とする、鉄分供給容器の引き上げ方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海藻類等の成長を促進するために海水中や水中に安定して鉄イオンを供給する手段および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年川、湖沼や海への廃棄物が減少し、水生植物や海藻類等の植物の生育が悪くなっている。特に鉄分は植物の光合成に必須の元素であるが、この鉄分の量が海水や川水や湖沼水等で不足している。植物は鉄分を2価の鉄イオンとして吸収し、植物の成長に利用している。そこで、鉄分を人工的に供給することが行なわれている。たとえば、製鋼スラグ中には2価の鉄イオンが豊富に含まれており(3〜20原子%)、これらのスラグを海底に散布すると2価の鉄イオンが海水中に溶けていくので、これらのスラグは鉄分供給体として使用されてきた。しかし、スラグや廃棄物等の物質中の2価の鉄イオンが海水や水に溶けて単独で海水中や水中へ出ていくと速やかに酸化されて3価の鉄イオンになり酸化鉄として沈殿し、植物には吸収されなくなる。すなわち、2価の鉄イオンの水中での寿命は短く、スラグ単独では鉄分供給体としては効率が悪い。
【0003】
一方、鉄鋼スラグとグルタミン酸やグルコン酸等のキレート剤を混合させて水に溶かすと、2価の鉄イオンをキレート化したキレート化合物(錯体)を生成する。この鉄キレート化合物は海水中に溶解するとともに海水中でも長期間安定して2価の鉄イオンの形態を維持できる。海藻類はこの鉄キレート化合物を摂取して2価の鉄イオンを体内に取り込むことができる。(特許文献1)また、2価の鉄イオンキレートが3価に酸化された場合、さらに、スラグ中の3価の鉄をキレートした場合でもキレート鉄が溶解していれば海藻類はこれを2価に還元してから鉄を取り込むことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−160764
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、スラグとキレート剤を混合させた混合体を海水中や海底に散布したり、布等の袋に入れて海水中や海底に設置しただけでは、生成したキレート化合物が海水中に拡散したり、海流等で流されたりして、折角生成した鉄イオンを含む鉄キレート化合物が設置した領域に長期間滞留せず、その領域内の海藻類に充分供給されないという問題がある。また、スラグとキレート剤の混合体が海水の流れにより移動して所定の領域からなくなってしまうという問題もある。さらにキレート化合物の生成は海水の流れに任せているだけで制御されていないので、海藻類への鉄分供給方法としては効率が悪く、海藻類の育成および収穫に多くの労力とコストを要している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、スラグおよびキレート剤の混合体を容器内の空洞に配置して、空洞内に浸入した海水で生成したキレート鉄をコントロールしながら容器の外側へ溶出する手段を提供する。具体的には、以下の特徴を有する。
(1)本発明は、内部に空間(内部空間)を有する容器において、前記内部空間に配置されたスラグおよびキレート剤を含む混合体を配置した鉄分供給容器であって、前記鉄分供給容器は、海水中又は水中に設置して、前記鉄分供給容器内部空間に海水または水を取り込んで、前記取り込んだ海水または水と一緒にスラグ中に含有される鉄分が海中または水中にキレート鉄として鉄分を供給することを特徴とする鉄分供給容器である。
(2)本発明は、(1)に加えて、前記鉄分供給容器は前記内部空間に接続する容器の開口部および前記開口部に配置された透水性蓋を含み、前記透水性蓋は開口部が開閉可能であり、前記内部空間に配置された混合体は前記透水性蓋を開閉して交換可能であり、前記鉄分供給容器を海水中又は水中に設置されているときは、前記透水性蓋は閉じた状態であり、
前記容器開口部に配置された透水性蓋を通して海水または水と一緒にスラグ中に含有される鉄分が海中または水中にキレート鉄として鉄分を供給し、前記開口部は、前記鉄分供給容器において複数存在し、海水または水が前記複数の開口部から流入または流出することを特徴とする。本発明は、さらに前記鉄分供給容器には、吊り下げ可能な連結具および/または前記鉄分供給容器を連結する連結具が存在し、前記鉄分供給容器を連結する場合、前記鉄分供給容器は立方体または直方体形状であり、前記鉄分供給容器の側面同士が連結され、前記鉄分供給容器の側面および/または上面に開口部が存在することを特徴とする。
【0007】
(3)本発明は、(1)または(2)に加えて、前記混合体は、一定時間後に海水や水に溶ける材質の中に袋詰めされ、前記袋詰めされた状態で前記内部空間に配置され、また前記混合体は、メッシュ状容器に収納された状体で前記内部空間に配置されることを特徴とし、前記鉄分供給容器の材質はコンクリートまたはスラグを骨材とする重量コンクリート(スラグ含有重量コンクリート)であり、前記スラグ含有重量コンクリートは透水性コンクリートであることを特徴とする。
(4)本発明は、少なくともスラグを骨材とする透水性コンクリートである鉄分供給容器において、前記コンクリート鉄分供給容器表面に形成された複数の開口部、前記複数の開口部から前記コンクリート鉄分容器内部に配置された孔部、前記複数の孔部に配置されたキレート剤、前記開口部に配置された蓋または透水性蓋を含む鉄分供給容器であって、前記鉄分供給容器は、海中または水中に設置して、前記透水性コンクリート鉄分容器および/または透水性蓋を通して海水または水と一緒に鉄分が海中または水中にキレート鉄として鉄分を供給することを特徴とする鉄分供給容器であり、前記キレート剤は前記孔部に挿入可能なカートリッジに入れられ、前記カートリッジは、前記孔部に配置され交換可能であり、前記カートリッジは、前記カートリッジ容器の一部または全部は透水性材料か、またはカートリッジ容器はメッシュ状容器であり、前記カートリッジの透水性材料またはメッシュの隙間を通してキレート剤が前記コンクリート容器に溶出しキレート鉄を形成して、前記キレート鉄が前記コンクリート容器の外側に溶出することを特徴とする。
【0008】
(5)本発明は、(1)に加えて、前記鉄分供給容器はパイプ状容器であり、前記鉄分供給容器の外壁は少なくともスラグを骨材とする透水性コンクリートであり、前記鉄分供給容器の内部空間にキレート剤が配置されており、前記鉄分供給容器は、海中または水中に設置して、前記鉄分供給容器の外壁を通して海水または水と一緒に鉄分が海中または水中にキレート鉄として鉄分を供給することを特徴とする。
(6)本発明は、(1)〜(5)に加えて、前記キレート剤は、クエン酸、グルタミン酸、グルコン酸、これらの塩類、およびこれらの精製前物質から選択される少なくとも1つであり、また、前記スラグは、製鋼スラグ、一般廃棄物の溶融スラグ、銅スラグ、フェロアロイスラグ、ミルスケール、酸洗工程で生じた塩化鉄から選択される少なくとも1つであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、スラグとキレート剤を混ぜた混合体を内部空間に配置した鉄分供給容器であり、内部空間に浸入した海水中でキレート鉄が生成され、そのキレート鉄が透水性蓋を通して鉄分供給容器の外側に制御されて溶出するので、鉄分供給容器周囲を鉄分量が豊富な状態に長期間維持できる。このため、鉄分供給容器の上面や側面等、あるいは鉄分供給容器周辺に海藻類の育成・成長を促進させて、多量の海藻類の収穫を実現できる。鉄分供給容器は、混合体を交換することにより繰り返し使用できる。この結果、海藻類のコスト低減をはかることもできる。また、混合体は鉄分供給容器に保持されるので、海流等により流失することもなく、効率良く鉄分が供給される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の鉄分供給容器の実施形態を示す図である。
図2図2は、本発明の鉄分供給容器の別の実施形態を示す図である。
図3図3は、図3は、本発明の単体の鉄分供給容器を連結した鉄分供給容器連結体を示す図である。
図4図4は、本発明の別の実施形態を示す図であり、鉄分供給容器本体がスラグを用いた透水性コンクリートで形成され、鉄分供給容器内にキレート剤が配置された構造である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、海水中へ海藻類の成長に必要な鉄分を制御しながら供給する手段を提供するものであり、海藻類、海草類や水生植物の成長に必要な鉄イオンを含むキレート化合物(鉄イオンキレート化合物やキレート鉄とも記載)を供給する鉄分供給容器および鉄分供給方法に関する発明である。ここで、海藻類とは海に生える藻であり、たとえば、コンブ、ひじき、モズク、ワカメ、アオクサノリ、テングサ、アオサ、アオノリ等である。海草とは海に生える種子植物であり、たとえば、アマモ、スガモ、ウミヒルモ等である。水生植物とは、ここでは海以外の水場(河川、池、湖沼、養殖池等)に生える植物で、たとえば睡蓮、ハス、ヒシ、ジュンサイ等である。ただし、水生植物には、広義には海藻類や海草類も含まれる。以下では、総称して海藻または海藻類または海藻類等と称する。
【0012】
図1は、本発明の鉄分供給容器の実施形態を示す図である。図1(a)は本発明の鉄分供給容器11の斜視図で、図1(b)は図1(a)の斜視図における上面側から見た透視平面図である。図1において直接的に見えない部分は破線で示している。図1は鉄分供給容器を海底、河川底や湖沼底(以下、海底(等)に統一して記載)に設置した状態、あるいは海水中や水中(以下、海水中(等)に統一して記載)に設置した状態で示す。従って、鉄分供給容器の上面側は海上を向いており、鉄分供給容器の下面側は海底を向いていると考えて良い。
【0013】
図1に示す鉄分供給容器は立方体形状または直方体形状であり、鉄分供給容器11の内部には空間(内部空間とも言う、または空洞とも称す)13が存在し、この内部空間13は鉄分供給容器11の向かい合う対側面11−S1および11−S3に形成された開口部12(12−1)および12(12−2)に直接的につながり、内部空間13および開口部12に何もなければ、海水中等に沈めたときに海水等の流れが一方の開口部12から入り、内部空間13を通って他方の開口部12から出ていく。本実施形態では、開口部12(12−1)および12(12−2)には透水性の開閉蓋(透水性蓋または透水性開閉蓋とも記載)14(14−1)および14(14−2)が開閉自在に取り付けられている。内部空間13にはスラグとキレート剤の混合体(スラグ・キレート剤混合体とも記載)15を配置している。
【0014】
透水性蓋とは透水性を有する材料または透水性を示す構造(形態)で作製された蓋を言う。透水性を持つ材料として、多孔質材料(鉄鋼スラグ、軽石等)や透水率の高い材料(たとえば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、およびポリウレタン等のプラスチック類、あるいは植物繊維等の天然有機材料)が挙げられる。透水性がないか透水性の低い材料の場合、透水性を高める(透水性を示す)構造を採用すれば良い。透水性を示す構造として、たとえばインターロッキング(ブロック)構造や間隙率を高めた構造が挙げられる。あるいは、これらの材料を組み合わせたり、これらの材料と構造を組み合わせたりすることもできる。尚、本発明で使用する透水性蓋の透水係数は1×10−7cm/sec〜10cm/secの範囲が良い。透水係数が1×10−7cm/se未満の場合はとキレート鉄の溶出量が少なすぎる。また透水係数が10cm/secを越える場合はキレート鉄の溶出量が多すぎて短期間にキレート鉄量が少なくなってしまう。海藻類の育成〜収穫期間に対応して、この透水係数の範囲内で透水性蓋の透水係数や厚さを調節してキレート鉄の溶出をコントロールする。
【0015】
本発明で用いるスラグは、金属の製造(製錬)過程で生じる鉱滓(こうさい)であり鉄分(特に2価の鉄イオン)を一定量含有する。たとえば、製鋼スラグ、一般廃棄物の溶融スラグ、銅スラグ、フェロアロイスラグ、ミルスケール、酸洗工程で生じた塩化鉄などであり、これらの混合物も含む。たとえば製鋼スラグには3〜20質量%の鉄分が2価鉄として含有されており、本発明に用いる鉄イオン供給物として好適である。
【0016】
キレート剤は、金属イオン(鉄イオン)とキレート錯体を形成する有機物である。スラグは2価の鉄イオンを含有するので、海水中へ2価の鉄イオンが溶出するが、2価の単独鉄イオンは海水中では安定せず、速やかに酸化して3価の鉄イオンとなり、不溶性の水酸化鉄や酸化鉄となるので、植物では利用されない。すなわち、海藻等の植物の成長に必要な鉄成分は海水に溶けた鉄イオンである。海水中で安定的に(2価または3価の)鉄イオンを存在させる方法としてキレート化がある。鉄イオンとキレート錯体を形成する有機物として、たとえばカルボン酸、アミノ酸が挙げられ、カルボン酸としてたとえばクエン酸やグルコン酸、これらの塩類(たとえば、クエン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム)が挙げられ、アミノ酸としてたとえばグルタミン酸やグルタミン酸塩が挙げられる。上記キレート剤は精製して最終製品とするが、本発明で使用する場合は、精製前の状態でもスラグ中の鉄イオンを十分にキレート化できるので、精製前のもの(精製前物質)も本発明のキレート剤として使用できる。たとえば、クエン酸はクエン酸発酵により製造する(クエン酸発酵の培養液からクエン酸を精製する)が、精製工程を省いた培養液から抽出したもの(精製前物質)を本発明のキレート剤として使用できる。このように最終精製工程を省いても得られる効果(キレート鉄の生成)はほぼ同じなので、キレート剤の価格低減をはかることができる。
尚、クエン酸として、クエン酸の製造工程で排出されるクエン酸を含む副産物やクエン酸を含む廃棄物を利用することもできる。さらには、クエン酸の製造工程で排出されるクエン酸を含む副産物やクエン酸を含む廃棄物から抽出したクエン酸を利用することもできる。あるいは、食品の製造工程で排出されるクエン酸を含む副産物やクエン酸を含む廃棄物も利用することも可能である。さらには、食品の製造工程で排出されるクエン酸を含む副産物やクエン酸を含む廃棄物から抽出したクエン酸を利用することもできる。たとえば、柑橘類はクエン酸を多く含むので、食品として柑橘類を挙げることができる。柑橘類の中でもたとえば、シークワーサー、レモン、ライムはクエン酸の含有量が多いので、これらの柑橘類の場合はクエン酸の収集効率が良い。ただし、クエン酸の多い食品はもちろん、クエン酸の余り多くない食品でもろ過や蒸留等で濃縮してクエン酸量を増大することもできる。
【0017】
スラグとキレート剤は水を通す袋{混合体袋または混合体容器とも言う。たとえば、布性袋、網目状繊維製容器(袋)}15に入れられており、鉄分供給容器11の開口部12の蓋14を開くか取り外して開口部12から内部空間13に配置する。スラグやキレート剤は適当な大きさの粉状、粒状、または塊状で充分に混合された混合体として混合体袋に収納される。混合体袋のサイズは開口部12および内部空間13のサイズより小さく、開口部12および内部空間13に入れやすくなっている。人間でも運搬しやすいように混合体袋は小分けされても良い。鉄分供給容器のサイズが、たとえば1辺が1mの立方体形状の場合、開口部の大きさが80cm×80cm、内部空間が1辺80cmの立方体形状(ただし、開口部までの接続部分を含む場合は、80cm×80cm×100cm)であり、混合体袋のサイズはこの開口部および内部空間以下の大きさとなる。
【0018】
スラグおよびキレート剤を混合した混合体を入れる袋(混合体袋)は水を通すと同時にスラグおよびキレート剤が外側に漏れ出ないようになっている。すなわち、混合体袋は、水が袋内に浸入し、また浸入した水が浸出しやすい材料や適度な隙間を有するもので構成されており、かつ、ズラグおよびキレート剤が粉状、粒状、または塊状であれば、混合体袋は、その粉等のサイズより小さな隙間を有しており、ズラグおよびキレート剤が外側に漏れ出ないようになっている。また、混合体にはズラグおよびキレート剤以外の材料(たとえば結合剤やキレート促進剤)も含まれても良い。
【0019】
混合体袋の材質として、布等の繊維製袋(または容器)、スチール等の金属製メッシュ袋(または容器)、プラスチック製メッシュ袋(または容器)、あるいは一定時間後に海水や水に溶ける材質(たとえば、水溶性フィルム(たとえば、ポリビニールアルコールを主成分としたもの))の袋(または容器)などが挙げられる。これらを用いれば、海水中でもスラグやキレート剤の溶出を防止しながら、混合体袋を交換可能である。
【0020】
混合体袋15を内部空間13に配置した後に、開閉蓋14で開口部12を閉じて、海水等の水流で混合体袋15が鉄分供給容器11の外側に出て来ないようにする。開閉蓋14は留め具で鉄分供給容器11の(外枠)に固定する。あるいは、鉄分供給容器11の(外枠)に取り付けたガイドに開閉蓋14を嵌め込んで固定しても良い。鉄分供給容器11の外側に所定量の鉄分が供給されなくなったときには、混合体袋15内の鉄分の量が少なくなったときと判断して、鉄分供給容器11を水中から引き揚げて開閉蓋14を開くかまたは取り外して、内部空13に配置した混合体袋15を取り出す。再度鉄分供給容器11を使用して海水中に鉄分を供給する場合は、新しい混合体袋15を内部空間13に配置し開閉蓋14で開口部12を塞いだ後に、再度鉄分供給容器11を海水中に沈めて海水中や海底の所定場所に設置する。
【0021】
鉄分供給容器11の上部(たとえば、図1に示すように、開口部14のない対側面11−S2、11−S4と上面11−Uとの交叉角部中央)に窪み部16を設け、その窪み部16にフック(連結具)20が装着されている。鉄分供給容器11を海域や水域(以下、海域と記載)の所定場所に設置する場合、運搬船に鉄分供給容器11を積載して、所定場所まで鉄分供給容器11を運び、鉄分供給容器11に備えたこれらのフック20にロープや鎖等を取り付けて運搬船のクレーンを使って鉄分供給容器11を海域の所定場所に設置することができる。この窪み部16は、開口部14のある側にも設けても良く、それらの窪み部に装着されたフック20にもロープ等を取り付けて、鉄分供給容器11の上面側4か所でロープ等を4角錐状にして、クレーンで引き上げれば、鉄分供給容器11を安定した状態に保持できる。
【0022】
混合体袋15を内部空間13に配置した鉄分供給容器11を、下面11−Bを下側にして海水中等に沈め海底に設置する。鉄分供給容器11が移動しないように、鉄分供給容器11を配置する海底は平坦であることが望ましいが、傾斜面である場合は、あらかじめ砂や砂利等で海底等を平坦にしても良い。砂や砂利に換えておよび/または加えてスラグを敷いて海底等を平坦にしても良い。スラグを用いた場合はスラグ中の鉄分もある程度供給されるので海藻類の成長には好ましい。鉄分供給容器11の上面が傾斜せず水平状態であれば、鉄分供給容器11の上面に成長した海藻類を機械等を用いて収穫しやすい。海底等までの水深が深く、鉄分供給容器11を海底等に設置困難である場合や任意の深さの海水中等に配置する場合は、前述したフック20に取り付けたロープ等の別の一端にブイ(浮き)を取り付けて鉄分供給容器11を海水中等に浮遊させることもできる。ブイをつけておけば、海域のどの場所に鉄分供給容器があるかも即座に分かる。ブイ等に発振器等をつけておけば仮に移動した場合でも鉄分供給容器の位置を知ることができる。
【0023】
海底等や海水中等に設置した鉄分供給容器11において、海水等は透水性開閉蓋14を通って内部空間13に入り混合体袋15内にも浸水する。混合体袋15内のキレート剤は海水等に徐々に溶けていき、キレート液としてスラグ中にも浸入し、スラグに含まれる鉄分と反応してキレート鉄となる。内部空間13内は徐々にキレート鉄が増えていき、透水性開閉蓋14を通って鉄分供給容器11の外側に溶出していく。この結果、鉄分供給容器11の周囲はキレート鉄としての鉄分の量が増えて、鉄分リッチの海水等になる。鉄分供給容器11の周囲に存在する海藻類はキレート鉄を吸収して充分な鉄分を補強される。その結果、成長が促進されて、鉄分供給容器11の周囲に海藻類が豊富に育成される。海藻類の胞子等が少ない場合は、あらかじめおよび/または設置後に鉄分供給容器11やその周囲に海藻類の胞子等を供給しておけば良い。たとえば、フック20に取り付けたロープや鎖等に海藻類の胞子等の供給装置を設置しておき、必要な時に適宜その供給装置から海藻類の胞子等を海水中に散布すれば、鉄分供給容器11の上面や周囲に海藻類の胞子等が付着して、鉄分供給容器11から長期間成長に必要な鉄分が供給されることもあり、鉄分供給容器11の上面や周囲に海藻類を成長させることもできる。
【0024】
海水中に海水の流れがある場合(通常は存在する)は、図1に示すように海水流17が透水性開閉蓋14(14−1)を通って内部空間13内へ入り、内部空間13内で形成されたキレート鉄を含んだ海水は、内部空間13内でも水流19となり、他方の透水性開閉蓋14(14−2)から水流18となり鉄分供給容器11の外側に出ていく。透水性開閉蓋14を通過する海水の量は、主として透水性開閉蓋の透水化率(透水係数)、透水性開閉蓋の厚み、水流の速度によって決まる。また内部空間13内のキレート鉄の濃度は定常化するので、透水性開閉蓋14を通過する(鉄分供給容器11の外側へ溶出する)キレート鉄量も主として透水性開閉蓋の透水化率、透水性開閉蓋の厚み、水流の速度によって決まると考えられる。
【0025】
海藻の成長に最適な鉄分の量を鉄分供給容器11から溶出すれば、海藻は鉄分供給容器11の周囲に繁茂するから、あらかじめ鉄分供給容器11を設置する場所における水流速度を測定しておき、鉄分供給容器11の外側に出ていくキレート鉄量を一定に維持するための透水性開閉蓋の透水化率と透水性開閉蓋の厚みを適宜選択し、最適化することができる。さらに、キレート剤とスラグの混合比率を変化させることによって、キレート鉄の生成量や生成期間をコントロールすることができるので、海藻の成長期間に合わせた海藻の成長に必要な鉄分量を供給できる混合比率と総量に調節しておけば良い。また、鉄分供給容器11を設置する領域における生成環境のpH値も海藻類の生育に合わせるように、コンクリートは主としてアルカリ性であり、キレート剤は酸性であることを考慮して、キレート剤とスラグの量を調節して制御できる。さらに、キレート剤の形状(粉状、粒状、塊状等)や粒度、スラグの種類や形状、粒度によってもキレート鉄の生成量や生成速度をコントロールできるので、混合体における最適な組み合わせを選択すると良い。
【0026】
図1では、鉄分供給容器11の2つの対向する側面に開口部を設けて透水性開閉蓋を取り付けているが、他の側面または上面や下面に開口部を設けて透水性開閉蓋を取り付けることもできる。4側面に開口部・透水性開閉蓋を取り付けておけば、水流の向きが変化しても鉄分供給容器11から溶出するキレート鉄量を比較的一定とすることもできる。あるいは、鉄分供給容器11を円筒形状にしておき、円筒形の側面周囲全体または一定間隔で開口部・透水性開閉蓋を取り付けておけば、水流の向きがどのように変化しても鉄分供給容器11から溶出するキレート鉄量を一定にすることができる。
【0027】
図2は、本発明の鉄分供給容器の別の実施形態を示す図であり、立方体形状または直方体形状の鉄分供給容器31の斜視図である。図2において直接的に見えない部分は破線で示している。図1に示す鉄分供給容器と異なるのは、開口部32が鉄分供給容器31の上面31−U側にある。鉄分供給容器31の内部に内部空間33が存在し、開口部32に接続する。開口部32は透水性蓋34で固定具35を用いて閉鎖できる。内部空間33には、スラグとキレート剤を含む混合体38が収納される。混合体38はたとえば袋状容器{たとえば、布性袋、網目状繊維製容器(袋)}38に入れられており、鉄分供給容器11の開口部32の透水性蓋34を開くか取り外して開口部32から内部空間33に配置する。混合体38を内部空間33に収納した後、透水性蓋34で開口部32を閉じる。上面側に窪み部36が2箇所以上に形成されており、その窪み部36にフック37が備わっており、このフック37にロープや鎖を結びクレーン船のクレーン等で所定の海水または水中に沈める。
【0028】
海水中や海底に設置された鉄分供給容器31の下面31−Bが下方を、上面31−Uが上方を向いており、海水は(たとえば、破線矢印39で示すように)透水性蓋34を通して内部空間33へ入り、定常状態では内部空間33は海水で満たされる。キレート剤は内部空間33に入った海水に溶けてスラグ中の鉄分を取り込んで、キレート鉄が形成される。このキレート鉄は(たとえば、破線矢印40に示すように)徐々に透水性蓋34を通して鉄分供給容器31の外側に出ていき、鉄分供給容器31の上面31−Uや側面(31−S1、S2,・・)等の周囲にキレート鉄の豊富な領域が形成される。鉄分供給容器31の上面や側面(31−S1、S2、・・)等に海藻等の胞子等が付着していれば、キレート鉄を吸収して成長する。海藻等の充分な成長期間中に必要な鉄分を供給可能な混合体38を内部空間33に収納しておけば、海藻等の収穫までは混合体38を新たに供給する必要はない。鉄分供給容器31の上面31−U等に海藻等を成長させる場合は、海藻等を収穫した後に、透水性蓋34を開くか取り外して、内部空間に収納した混合体38を取り出して、新しい混合体を収納した後に、再度透水性蓋34を閉じるか取り付けて、所定の海水中や海底に設置し、再度海藻等を育成できる。このように本発明の鉄分供給容器は(劣化するまで)繰り返し使用できる。尚、透水性蓋は透水性が弱くなれば(たとえば、目詰まりしたり、表面が汚れたりして)、その都度交換すれば良い。
【0029】
図3は、本発明の第3の実施形態を示す図である。図3は、たとえば図1図2で示した本発明の(単体の)鉄分供給容器を横(水平)方向に連結した鉄分供給容器連結体51を示す図である。単体の鉄分供給容器52は水平方向に多数並べて配置できるように、同じ大きさの直方体形状または立方体形状が望ましい。鉄分供給容器52を同じ型等で多数量産的に作製できるので作製コストも安い。鉄分供給容器連結体51の窪み部周辺54を拡大したものを下図(図3(b))に示す、隣接する鉄分供給容器52に備わる窪み部53に取り付けられたフック55に連結冶具56を取り付けて隣接する鉄分供給容器52を連結する。水平方向(X方向×Y方向)に並べていくためには、単体の鉄分供給容器52の窪み部は図3(a)に示すように4側面の各側面に配置する必要がある。
【0030】
これを多数接続して連結すれば、任意の面積の鉄分供給容器連結体51を作製できる。単体の鉄分供給容器52の大きさを1mの立方体として25個連結すれば、5m×5m=25mの大きな面積の鉄分供給容器連結体(高さ1m)を作製できる。単体の鉄分供給容器52の大きさを1m×2mの大きさの直方体として50個連結すれば、50個連結すれば、10m×10m=100mの大きな面積の鉄分供給容器連結体(高さ50cm)を作製できる。この鉄分供給容器連結体を運搬船に積んで所定海域(水域)まで運んで海水中または海底に設置すれば良い。小型の運搬船の場合は、単体の鉄分供給容器のまま所定海域(水域)まで運んで、その場で大面積の空気浮船を造り、その空気浮船上で単体の鉄分供給容器を連結して鉄分供給容器連結体を作製した後、空気浮船の空気を抜いて鉄分供給容器連結体を沈めれば良い。空気浮船は回収すれば繰り返し使用できる。
【0031】
鉄分供給容器連結体用の単体の鉄分供給容器は図2に示すような上面に透水性蓋を用いた容器を使用できる。図1に示すような鉄分供給容器の場合は、4側面の各側面に透水性蓋を備えて、側面が接触している場合にも側面を通して海水が通るようにすることができる。あるいじは、隣接する単体の鉄分供給容器同士の間を少しあけて、海水が側面から入り易くするとともに、キレート鉄がその隙間から鉄分供給容器連結体全体や周囲に溶出させるようにするのが良い。あるいは、側面だけでなく上面や下面にも透水性蓋(および開口部)を設けても良い。
【0032】
鉄分供給容器連結体の場合、大面積の平坦面が上面として形成されるので、この大面積の平坦面に海藻等の畑を形成することができ、大面積の平坦面で成長した海藻を容易に収穫できるので収穫効率が良い。鉄分供給容器連結体の場合は、単体の鉄分供給容器の重量が余り大きくなく海流に流される可能性がある場合でも、連結することによって総重量が重くなって海流に流されて移動されないようにすることができる。鉄分供給容器連結体を海上へ引き上げて成長した海藻を収穫する場合は、クレーン船を用いてフックにかけたロープ等を用いて鉄分供給容器連結体を引き上げることができる。あるいは、前述した空気浮船を鉄分供給容器連結体の下方に配置して空気浮船に空気を入れて浮力で海上まで浮き上がらせることもできる。同一サイズの単体の鉄分供給容器連結体を用いれば、鉄分供給容器連結体の上面を平坦にすることができるので、機械等で容易に成長した海藻を収穫することもできる。
【0033】
図1図3に示す鉄分供給容器の材料は、たとえば通常のコンクリートであり、コンクリートブロックと称しても良い。すなわち、骨材(砂や砂利等)、水などをセメント等の糊状のもので結合させたものであり、強度補強用の鉄筋や繊維等を含んでも良い。小型クレーン船で運搬する場合は、単体の鉄分供給容器の重量は1トン〜5トン程度のものが良い。海流等の流速が大きくて移動する可能性がある場合は、比重の大きい骨材を用いて作製した重量コンクリートにするか、サイズを大きくしても良い。スラグを骨材として用いた重量コンクリートでも良く、前述した様に効率は良くないがある程度の鉄分供給の役割も果たすこともできる。鉄分供給容器連結体の場合は、個々の鉄分供給容器が小さくて軽量でも連結によりサイズが大きくなり重くなるので、海流等による移動を防止できる。
【0034】
図4は、本発明の別の実施形態を示す図であり、鉄分供給容器本体61がスラグを用いた透水性コンクリートで形成され、鉄分供給容器61内にキレート剤が配置された構造となっている。すなわち、鉄分供給容器本体61のコンクリートの骨材は主としてスラグである。スラグ自体は多孔質体であるがさらに多孔質性を高める処理(たとえば、水砕処理)により透水性を高めることもでき、このスラグを骨材の主成分とする。骨材としてスラグの他に通常の砂や砂利を加えることにより透水性コンクリートの透水性(透水係数)を調節することもできる。透水係数として0.02cm/sec以上を有するスラグが望ましい。スラグには鉄分が相当量含まれているので、本実施形態の鉄分供給容器は鉄分含有コンクリートブロックである。
【0035】
鉄分供給容器本体61内に複数の孔62を形成し、その孔62の開口部(図4では、鉄分供給容器本体61の上面に開口しているが、鉄分供給容器本体61の側面61−S1、S2等に開口しても良い。)からクエン酸等のキレート剤67を挿入して開口部63を蓋または栓等で閉じる。孔62にキレート剤67が充填された状態を符号69で示す。このキレート剤含有透水性スラグ使用コンクリート製鉄分供給容器61を海水中または海底に設置すると、海水が透水性コンクリート(鉄分供給容器)61を浸透してキレート剤が挿入された孔部62に達する。海水が透水性コンクリートを通過する間にコンクリート中の鉄分が鉄イオンとして海水に溶出する。孔部62に浸入した海水にキレート剤が溶けて、海水中の鉄イオンとキレート剤が反応してキレート鉄となる。あるいは、キレート剤が溶けた海水が鉄分供給容器61に浸透するときに鉄分供給容器61中のスラグ鉄イオンを取り込んでキレート鉄となる。キレート鉄は鉄分供給容器61中に浸透した海水とともに鉄分供給容器61の外側に出ていき、鉄分供給容器61の周囲はキレート鉄(鉄イオン)リッチの環境となる。鉄分供給容器本体61の表面または周囲に海藻類の胞子が存在すれば、海藻等はこのキレート鉄を吸収して大きく成長する。孔62の開口部を塞ぐ蓋または栓は孔62に挿入されたキレート剤67が外側に出ていかないようにするためであり固定具で固定することもできるが、蓋または栓自体を透水性蓋(栓)としても良く、その場合は、透水性蓋を通して海水が孔62に浸入し、また透水性蓋を通して海水が鉄分供給容器61の外側に出ていく。
【0036】
鉄分供給容器本体61内にはスラグが多量に存在するので鉄分の供給は十分であるが、その鉄分量に見合うキレート剤の量は少ないので、定期的に補充する必要がある。海藻類の育成中にキレート剤を補充するのは効率が悪いので、海藻類が充分成長して収穫した後にキレート剤を補充(交換)することが望ましい。従って、孔62に収納するキレート剤が生成するキレート鉄としての鉄分量が海藻類の成長に必要な孔を海藻類の成長に必要な鉄分量を供給できるキレート剤が収納できる程度の大きさとするのが良い。孔62に収納するキレート剤の交換は、鉄分供給容器61に備わる窪み部70に配置されたフック等71にロープや鎖等を取り付けて、クレーンを用いて鉄分供給容器61を引き上げて、孔62にキレート剤を挿入しても良いし。潜水者が海水中でキレート剤を孔62に挿入しても良い。
【0037】
図4に示すように、孔62に適合するカートリッジ65にキレート剤67を入れて蓋(または栓)66で閉じて、キレート剤入りカートリッジ65を孔62に挿入して嵌め込むこともできる。カートリッジ65の容器壁を透水性材料で作製すれば、繰り返しカートリッジ65を使用できる。あるいは、カートリッジ65の容器壁をメッシュ状にすれば海水は自由に流入・流出できる。メッシュの隙間の大きさはキレート剤の粒子サイズより小さくしておけばキレート剤が漏れることはない。メッシュ材料は海水に対して耐性を持つ材料(たとえば、プラスチック、ステンレス製)にすれば、メッシュ製カートリッジも繰り返し使用できるので、コストを低減できる。カートリッジ形状は、図4においては円柱形または円筒形で示したが、これに限定されず、たとえば角柱形状でも良い。また、孔62は上面から下面に貫く貫通孔でも良く、カートリッジを下面側からも交換できるだけでなく、上面側だけでなく下面側にもカートリッジの蓋(栓)を設けて、その蓋(栓)を透水性蓋(栓)とすれば、海水は上面側だけでなく下面側からも流入または流出でき、キレート鉄を鉄分供給容器の周辺に効率的に散布できる。
【0038】
あるいは、カートリッジ65の容器壁を海水で分解(溶解)可能でしかも環境に負荷を与えない材料で作製すれば、孔62に海水が流入して一定時間後にカートリッジ65の容器壁がなくなり、孔62の内部にキレート剤だけが存在する状態にできる。キレート剤がなくなったら、蓋66を外して(回収して)新しいキレート剤入りカートリッジ65を挿入すれば良い。このような材料として前述した水溶性フィルムを挙げることができる。このように、カートリッジ方式にすれば、水中でも水上でも交換も容易であり、作業効率が飛躍的に高まり、コスト軽減をはかることができる。
内部が空洞で外側がスラグを骨材として用いた透水性コンクリートのパイプ状のものも鉄分供給容器として使用できる。パイプの内部の空洞部分にキレート剤を挿入して、海中に配置すれば、海水がパイプの外壁(スラグを含む透水性コンクリート)を浸透してパイプ内部のキレート剤を溶解してキレート鉄を生成する。このキレート鉄はパイプ外壁を通ってパイプの外側に溶出し、パイプ周辺はキレート鉄の豊富な領域となる。あるいは、パイプの外壁が通常のコンクリート、塩化ビニールやプロピレン等のプラスチック、ステンレス等の金属のものでも、パイプ外壁に複数の孔をあけて、パイプ内部には少なくともスラグとキレート剤の混合体を入れて、前記孔を透水性蓋等で塞ぐことによって、キレート鉄が透水性蓋等を通して前記孔から溶出するので、パイプ外壁周辺はキレート鉄の豊富な領域となる。この場合、孔の大きさを調節すれば透水性蓋を用いずに開放しておくだけでもキレート鉄量を調節することができ、パイプ周辺はキレート鉄の豊富な領域とすることができる。パイプの外壁に海藻の胞子を付着させておけば、海藻はキレート鉄を摂取して活発な光合成を行ない大きく成長する。たとえば、このようなパイプで網状にしたり、スノコ状にしたりして、大量の海藻(たとえば、海苔)を収穫することができる。また、洋上風力発電の基礎として使用する護岸となるコンクリートに本発明を使用することもできる。
【0039】
以上詳細に説明した様に、本発明の鉄分供給容器は安定して長期間鉄分を海水中に供給できるので、鉄分供給容器の周囲に海藻類を効率良く効果的に育成・成長させ、収穫でき、海藻類の成育収穫コストの低減をはかることができる。尚、本明細書において、明細書のある部分に記載し説明した内容について記載しなかった他の部分においても矛盾なく適用できることに関しては、当該他の部分に当該内容を適用できることは言うまでもない。さらに、前記実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施でき、本発明の権利範囲が前記実施形態に限定されないことも言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
スラグ中には、鉄分のほかにカルシウム等のミネラルも含有されているため、これらのミネラルがキレート剤によりキレート化してキレート化合物となり海水中へ溶出する。海水中へ溶出したキレートミネラルは海藻等に摂取されて海藻の成長に寄与するので、本発明の鉄分供給容器はミネラル供給容器としても適用できる。
【符号の説明】
【0041】
11・・・鉄分供給容器、11−S1、S2、S3、S4・・・側面、
12・・・開口部、13・・・内部空間、14・・・透水性蓋、
15・・・スラグ・キレート剤混合体、16・・・窪み部、17・・・海水流、
18・・・海水流、19・・・海水流、20・・・フック(連結具)、

図1
図2
図3
図4