【実施例】
【0057】
[比較例1]
比較例1では、特許文献2に記載の方法によって製造したグラフェン基本骨格を用い、水と混合し、表1に示す条件にしたがって、グラフェン凝集体の製造を試みた。
【0058】
グラフェン基本骨格は、次のようにして製造された。スーパーグロース法で製造された単層カーボンナノチューブ(日本ゼオン株式会社製。以下、「SGCNT」とも称する。)を0.05mg/mLの濃度でNMP(1L)に懸濁させ、30分間超音波処理して分散させた分散液に、質量比でSGCNT:TRGO=1:20となるように剥離法で製造されたグラフェン(以下、「剥離グラフェン」とも称する。)1gを添加して、原料懸濁液を調製した。
【0059】
この原料懸濁液を、複合化装置(特許文献2の
図1)を用いて、圧力100MPaで原料導入部から供給して、複合化モジュールを連続的に5回通液させてグラフェン基本骨格を含有する分散液(濃度:1g/L)を得た。分散液の一部を濾過し、乾燥させて、走査型電子線顕微鏡(SEM)観察し、BET比表面積およびBJH細孔容積を、それぞれ、窒素吸脱着等温線(77K)および細孔分布から評価した。
【0060】
図4は、グラフェン基本骨格のSEM像を示す図である。
【0061】
図4によれば、全体に0.5μm以上5μm以下の範囲の長手方向の大きさを有するグラフェンが確認されたが、図中の四角で示す領域の拡大図に示すように、グラフェン間にカーボンナノチューブが挿入されたグラフェン基本骨格が確認された。また、カーボンナノチューブの外径が1.0nm以上3.0nm以下の範囲内であることを確認した。
【0062】
図5は、グラフェン基本骨格の窒素吸脱着等温線を示す図である。
図6は、グラフェン基本骨格の細孔分布を示す図である。
【0063】
図5によれば、グラフェン基本骨格の吸脱着等温線は、IUPACのIV型に相当し、メソポアが存在することが分かった。吸脱着等温線から算出されたグラフェン基本骨格の比表面積は、410m
2/gであった。
図6によれば、0.1nm以上10nm以下の範囲にピークを有し、その範囲における細孔容積が、0.493cc/gであった。このことから、特許文献2に記載の方法によってグラフェン基本骨格が得られたことを確認した。
【0064】
このようにして得られたグラフェン基本骨格を含有する分散液(500mL)と水(5L)とを混合し、表1に示す条件で攪拌した。ここで、分散液中のグラフェン基本骨格の濃度は、0.091g/Lであった。攪拌後、濾過により溶媒を除去し、生成物を、真空中、50℃で2日間乾燥させた。乾燥させた生成物を観察した。結果を
図7および
図8に示す。
【0065】
[実施例2]
実施例2では、特許文献2に記載の方法によって製造したグラフェン基本骨格を用い、エタノール(5L)と混合し、表1に示す条件にしたがって、グラフェン凝集体を製造した(
図2のステップS210)。水をエタノールに変えた以外は、比較例1と同様であるため、説明を省略する。
【0066】
比較例1と同様に、乾燥させた生成物を観察し、本発明のグラフェン凝集体であることを確認した。観察結果を
図7および
図9に示す。生成物のBET比表面積およびBJH細孔容積を、それぞれ、窒素吸脱着等温線(77K)および細孔分布から評価した。結果を表2に示す。
【0067】
次いで、得られた生成物(グラフェン凝集体)を用いて成膜した(
図2のステップS220)。生成物をNMPに分散させ、導電材料としてケッチェンブラック(KB)と、バインダとしてCMCおよびSBRと混合し、スラリーを得た。ここで、生成物(本発明のグラフェン凝集体)と、導電材料(KB)と、バインダ(CMCおよびSBRの混合物)とは、86:5:9の重量比となるよう混合された。CMCとSBRとは、5:4の重量比で混合された。このスラリーを、Al(アルミニウム)製集電体上にキャストし、真空中、120℃で24時間乾燥させ、電極膜を得た。乾燥させた電極膜を観察し、BET比表面積およびBJH細孔容積を、それぞれ、窒素吸脱着等温線(77K)および細孔分布から評価した。また、電極膜の密度およびシート抵抗を、それぞれ、X線反射率測定法(XRR)および4探針法から求めた。これらの結果を
図14および表3に示す。
【0068】
次に、Al集電体上の電極膜を用いてコイン型の電気二重層キャパシタを製造した。具体的な製造手順は次のとおりであった。ステンレス製のセル(
図3の350)内に多孔性のセパレータ(
図3の340)をこれら電極(
図3の310、320)間に配置し、電解質としてEMI−BF
4および6MのKOH(
図3の330)をそれぞれ充填し、電気二重層キャパシタ(
図3の300)を製造した。なお、電気二重層キャパシタの組み立ては、Arガスで充填されたグローブボックス内で行った。
【0069】
電気二重層キャパシタの電気化学測定を、マルチ−チャンネルポテンショスタットガルバノスタット(Bio−Logic製、VMP−300)を用いて行った。比容量−電圧測定(CV測定)、および、ガルバノスタット充放電測定を、室温において、3.7Vの電位で行った。結果を
図22および
図23に示す。
【0070】
比容量Cs(F/g)を、式Cs=4I/(mdV/dt)にしたがって算出した。ここで、I(A)は定電流であり、m(g)は2つの電極の合計質量であり、dV/dt(V/s)は、Vmax(放電開始時の電圧)と1/2Vmaxとの間の放電曲線を直線フィッティングによって得られる傾きである。エネルギー密度E
cell(Wh/kg)を、式E
cell=CsV
2/8にしたがって算出した。パワー密度P
cell(W/kg)を、式P
cell=E
cell/t(ここで、tは放電時間である)にしたがって算出した。結果を表4に示す。
【0071】
[実施例3]
実施例3では、特許文献2に記載の方法によって製造したグラフェン基本骨格を用い、エタノールおよび水の混合溶媒(5L)と混合し、表1に示す条件にしたがって、グラフェン凝集体を製造した(
図2のステップS210)。水をエタノールと水との混合溶媒に変えた以外は、比較例1と同様であるため、説明を省略する。
【0072】
比較例1と同様に、乾燥させた生成物を観察し、本発明のグラフェン凝集体であることを確認した。観察結果を
図7および
図10に示す。生成物のBET比表面積およびBJH細孔容積を、それぞれ、窒素吸脱着等温線(77K)および細孔分布から評価した。結果を
図12、
図13および表2に示す。
【0073】
実施例2と同様に、得られた生成物をAl製集電体上に成膜し、電極膜を製造した。実施例2と同様に、電極膜を観察した。結果を
図14および
図15に示す。実施例3の電極膜上に電解質としてEMI−BF
4を滴下し、電極膜の濡れ性を調べた。結果を
図17に示す。実施例2と同様に、電極膜のBET比表面積、BJH細孔容積、密度およびシート抵抗を求めた。結果を
図18、
図19および表3に示す。
【0074】
実施例2と同様に、実施例3の電極膜を用いて、電気二重層キャパシタを製造した。電気二重層キャパシタの電気化学測定を行い、エネルギー密度およびパワー密度を算出した。結果を
図22、
図23および表4に示す。
【0075】
[比較例4]
比較例4では、特許文献2に記載の方法によって製造したグラフェン基本骨格を用い、イソプロピルアルコールおよび水の混合溶媒(5L)と混合し、表1に示す条件にしたがって、グラフェン凝集体を製造した。水をイソプロピルアルコールと水との混合溶媒に変えた以外は、比較例1と同様であるため、説明を省略する。
【0076】
比較例1と同様に、乾燥させた生成物を観察した。観察結果を
図7および
図11に示す。生成物のBET比表面積およびBJH細孔容積を、それぞれ、窒素吸脱着等温線(77K)および細孔容積から評価した。結果を表2に示す。
【0077】
実施例2と同様に、得られた生成物をAl製集電体上に成膜し、電極膜を製造した。実施例2と同様に、電極膜を観察した。結果を
図14に示す。
【0078】
[比較例5]
比較例5では、比較例/実施例1〜4で用いたグラフェン基本骨格を、凝集させることなく、Al製集電体上に成膜し、電極膜を製造した。グラフェン凝集体に代えて、グラフェン基本骨格を用いた以外は、実施例2と同様に、電極膜を製造した。電極膜を観察し、結果を
図16に示す。実施例3と同様に、比較例5の電極膜の濡れ性を調べた。結果を
図17に示す。実施例2と同様に、電極膜のBET比表面積、BJH細孔容積、密度およびシート抵抗を求めた。結果を
図20、
図21および表3に示す。
【0079】
実施例2と同様に、比較例5の電極膜を用いて、電気二重層キャパシタを製造した。電気二重層キャパシタの電気化学測定を行い、エネルギー密度およびパワー密度を算出した。結果を表4に示す。
【0080】
以上の結果を説明する。簡単のため、実施例/比較例1〜4のグラフェン凝集体の製造条件を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
図7は、比較例/実施例1〜4のグラフェン凝集体の外観を示す図である。
【0083】
図7(A)〜(D)は、それぞれ、比較例/実施例1〜4のグラフェン凝集体の外観を示す。
図7によれば、比較例/実施例1〜4のグラフェン凝集体は、いずれも、粒状の様態であることを確認した。比較例1のグラフェン凝集体は、実施例2、3および比較例4のそれに比べて、粒が大きく、アスペクト比も大きいことが分かった。
【0084】
図8は、比較例1のグラフェン凝集体のSEM像を示す図である。
図9は、実施例2のグラフェン凝集体のSEM像を示す図である。
図10は、実施例3のグラフェン凝集体のSEM像を示す図である。
図11は、比較例4のグラフェン凝集体のSEM像を示す図である。
【0085】
図8によれば、比較例1のグラフェン凝集体は、粒径が100μmを超えるものを含み、角ばった形状を有し、アスペクト比も5を超えるものが多かった。
図9(A)〜(C)によれば、実施例2のグラフェン凝集体は、粒径が0.5μm以上30μm以下の範囲にピークを有しており、球状であった。
図10(A)〜(C)によれば、実施例3のグラフェン凝集体は、粒径が1μm以上10μm以下の範囲にピークを有しており、アスペクト比が0.8〜1.2を満たす球状であった。
図11(A)および(B)によれば、比較例4のグラフェン凝集体は、粒径が0.5μm以上30μm以下の範囲にピークを有するものの、角ばった形状を有し、アスペクト比が2を超え、球状ではなかった。また、
図9(B)および(C)、および
図10(B)および(C)を参照すれば、グラフェンの面の向きがランダムであり、グラフェン基本骨格は、点接触するようランダムに凝集していることが分かった。
【0086】
図12は、実施例3のグラフェン凝集体の窒素吸脱着等温線を示す図である。
図13は、実施例3のグラフェン凝集体の細孔分布を示す図である。
【0087】
図12によれば、グラフェン凝集体の吸脱着等温線は、グラフェン基本骨格のそれと同様に、IUPACのIV型に相当し、メソポアが存在することが分かった。吸脱着等温線から算出されたグラフェン凝集体の比表面積は、310m
2/gであった。
図13によれば、0.1nm以上10nm以下の範囲にピークを有し、その範囲における細孔容積が、0.451cc/gであった。実施例2のグラフェン凝集体も同様の吸脱着等温線および細孔分布を有した。結果を表2にまとめて示す。
【0088】
【表2】
【0089】
表2から、実施例2および実施例3のグラフェン凝集体は、グラフェン基本骨格(比較例5を参照)の比表面積よりも小さいものの、比較的大きな比表面積および細孔容積を有しており、グラフェン基本骨格の特性を維持しており、多孔体であることが示された。
【0090】
以上から、グラフェン基本骨格を、少なくとも炭素数が1以上5以下である低級アルコール(さらに水)と混合することによって、本発明のグラフェン凝集体が形成でき、本発明の製造方法の有効性が示された。
【0091】
図14は、実施例/比較例2〜4の電極膜の様子を示す図である。
【0092】
図14(A)〜(C)は、それぞれ、実施例/比較例2〜4の電極膜の様子を示す。
図14(A)によれば、実施例2の電極膜は、比較的均一であった。
図14(B)によれば、実施例3の電極膜は、極めて均一かつ平滑であった。
図14(C)によれば、比較例4の電極膜は、皺がよった状態であり、電極としての使用はできなかった。図示しないが、比較例5の電極膜は、一見すると平滑な様態であった。
【0093】
図15は、実施例3の電極膜のSEM像を示す図である。
図16は、比較例5の電極膜のSEM像を示す図である。
【0094】
図15(A)および(B)によれば、実施例3の電極膜において、球状のグラフェン凝集体が維持されており、さらに上面および内部ともに空間を有していることが分かった。
図15(C)によれば、グラフェンとカーボンナノチューブとの存在が確認でき、電極膜内のグラフェン凝集体においても、グラフェン基本骨格が維持されていることが分かった。図示しないが、実施例2の電極膜も同様の様態であった。一方、
図16によれば、比較例5の電極膜は、一見すると平滑であったが、その内部は、グラフェンがその面方向に配列するよう極めて密集しており、空間を有しなかった。
【0095】
図17は、実施例3および比較例5の電極膜の濡れ性を示す図である。
【0096】
図17(A)および(B)は、それぞれ、実施例3および比較例5の電極膜の濡れ性を示す。
図17(A)によれば、実施例3の電極膜上の電解質は、5分経過後に8割以上が電極膜内に浸透し、60分経過後はすべてが電極膜内に浸透した。一方、
図17(B)によれば、比較例5の電極膜上の電解質は、60分経過後も、ほとんど電極膜内に浸透しなかった。このことからも、本発明の電極膜は、グラフェン凝集体によって多孔性を維持しており、電解質イオンの吸着および移動に優れていることが示された。
【0097】
図18は、実施例3の電極膜の窒素吸脱着等温線を示す図である。
図19は、実施例3の電極膜の細孔分布を示す図である。
図20は、比較例5の電極膜の窒素吸脱着等温線を示す図である。
図21は、比較例5の電極膜の細孔分布を示す図である。
【0098】
図18によれば、実施例3の電極膜の吸脱着等温線は、グラフェン基本骨格、グラフェン凝集体のそれと同様に、IUPACのIV型に相当し、メソポアが存在することが分かった。吸脱着等温線から算出された電極膜の比表面積は、280m
2/gであった。この値は、グラフェン凝集体の比表面積よりわずかに小さいものの、グラフェン凝集体の特性を維持していることが示唆される。
図19によれば、0.1nm以上10nm以下の範囲にピークを有し、その範囲における細孔容積が、0.324cc/gであった。図示しないが、実施例2の電極膜も同様の吸脱着等温線および細孔分布を有した。
【0099】
一方、
図20によれば、比較例5の電極膜の吸脱着等温線は、明瞭なヒステリシスを示さなかった。このことからも、比較例5の電極膜は細孔を有さないことが示唆される。
図21によれば、比較例5の電極膜の細孔径分布は、ピークを示さず、グラフェン基本骨格がバインダや導電材料と混合されて、細孔がふさがれたことが示された。これらの結果を表3にまとめる。
【0100】
【表3】
【0101】
表3には密度およびシート抵抗の値も併せて示す。表3によれば、実施例2および実施例3の電極膜は、0.2g/cm
3以上0.7g/cm
3以下の範囲の密度を有することが分かった。また、これらの電極膜は、いずれも低いシート抵抗を有しており、電極として十分な導電性を有することが確認された。また、実施例2および実施例3の電極膜は、比較例5の電極膜と比較して、大きな比表面積および大きな細孔容積を有しており、多孔性を維持していることが確認された。
【0102】
図22は、実施例2および実施例3の電極膜を用い、電解質がEMI−BF
4の場合の比容量−電圧曲線(CV曲線)を示す図である。
図23は、実施例2および実施例3の電極膜を用い、電解質がEMI−BF
4の場合の充放電曲線を示す図である。
【0103】
図22のCV曲線は、いずれも、掃引速度10mV/sの結果である。実施例2および実施例3の電極膜は、いずれも、理想的な電気二重層キャパシタを表す矩形のCV曲線を示した。図示しないが、比較例5の電極膜は、矩形のCV曲線にならなかった。なお、CV曲線(電解質:EMI−BF
4、電圧:3.7V)に基づいて、実施例2および実施例3の電極膜の比容量(F/g)を算出したところ、それぞれ、134±4および172±3の高い値が得られた。一方、比較例5の電極膜の比容量(F/g)は、9±2であった。
【0104】
図23の充放電曲線は、いずれも、電気二重層キャパシタに典型的な定電流充放電曲線を示した。図示しないが、比較例5の充放電曲線は、放電時間が極めて短かった。得られた比容量に基づいて、算出したエネルギー密度およびパワー密度を表4に示す。表4に示されるように、グラフェン凝集体を含有する電極を蓄電デバイスに用いれば、比容量、エネルギー密度およびパワー密度ともに向上することが示された。
【0105】
【表4】