(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記(C)シランカップリング剤100質量部に対する前記(D)ボレート化合物の配合割合が1質量部〜300質量部であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の2液型歯科用接着性組成物。
前記(C)シランカップリング剤100質量部に対する前記(E)水の配合割合が20質量部〜1500質量部であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の2液型歯科用接着性組成物。
前記第1剤が、(F)有機溶媒をさらに含み、前記第1剤における前記(F)有機溶媒の配合割合が30質量%〜90質量%であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つに記載の2液型歯科用接着性組成物。
前記第2剤が、(F)有機溶媒をさらに含み、前記第2剤における前記(F)有機溶媒の配合割合が10質量%〜99質量%であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の2液型歯科用接着性組成物。
前記第1剤および前記第2剤が、各々(F)有機溶媒をさらに含み、前記第1剤と前記第2剤との合計量に対する前記(F)有機溶媒の合計量の割合が63質量%〜85質量%であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1つに記載の2液型歯科用接着性組成物。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<2液型歯科用接着性組成物>
本実施形態の2液型歯科用接着性組成物は、互いに分包された第1剤および第2剤を有し、(A)酸性基含有重合性単量体、(B)硫黄原子含有重合性単量体、(C)シランカップリング剤、(D)ボレート化合物、および、(E)水からなる5成分を少なくとも含む。そして、第1剤には、上記(A)〜(E)に示す5成分のうち、(A)酸性基含有重合性単量体および(B)硫黄原子含有重合性単量体のみが含まれ、第2剤には、上記(A)〜(E)に示す5成分のうち、(C)シランカップリング剤、(D)ボレート化合物および(E)水のみが含まれる。
【0027】
なお、第1剤には、上記(A)〜(E)に示す5成分のうち、(C)〜(E)に示す成分は原則として含まれないが、(C)〜(E)に示す成分が不純物等の形態で不可避的に極微量含有されることは許容される。同様に、第2剤には、上記(A)〜(E)に示す5成分のうち、(A)〜(B)に示す成分は原則として含まれないが、(A)〜(B)に示す成分が不純物等の形態で不可避的に極微量含有されることは許容される。
【0028】
ここで、(A)酸性基含有重合性単量体は、主に、歯質(象牙質、エナメル質)、卑金属(鉄、ニッケル、クロム、コバルト、スズ、アルミニウム、銅、チタン等あるいはこれらを主成分として含む合金)、および、ジルコニウムなどの金属と酸素とを主成分として含む金属酸化物(ジルコニアセラミックス、アルミナ、チタニアなど)に対する接着性を向上させ、(B)硫黄原子含有重合性単量体は、主に貴金属(金、白金、パラジウム、銀等あるいはこれらを主成分として含む合金)に対する接着性を向上させ、(C)シランカップリング剤は、主にケイ素酸化物を成分として含むシリカ系酸化物(ポーセレン、シリカ粒子、シリカ系ガラスセラミックス、シリカ系ガラスなど)および複合樹脂材料(樹脂マトリックスと、シリカ粒子、シリカ系ガラス繊維などのシリカ系酸化物を成分として含む無機充填材と、を複合化した材料)に対する接着性を向上させる。したがって、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物は、歯質、金属(卑金属および貴金属)、金属酸化物、シリカ系酸化物、複合樹脂材料、といった様々な歯科用材料のいずれに対しても優れた接着性を発揮することができる。
【0029】
これに加えて、(D)ボレート化合物は、第1剤と第2剤とを混合した後の混合組成物の重合硬化を促進する重合促進剤として機能するため、様々な被着体に対する接着性をさらに向上させる機能を持つ。これに加えて、有機過酸化物とアミン化合物とを含む化学重合性歯科用組成物(たとえばレジンセメントなど)と、歯質、金属(卑金属および貴金属)、金属酸化物、シリカ系酸化物、複合樹脂材料などの歯科用材料とを、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物を用いて接着する場合において、(D)ボレート化合物は、(A)酸性基含有重合性単量体に起因する上記化学重合性歯科用組成物の重合活性の低下を抑制して、接着強度が大幅に低下するのを抑制することもできる。
【0030】
さらに、(E)水は、酸成分の1種である(A)酸性基含有重合性単量体の存在下において、歯質の表面を脱灰して歯質に対する接着性を向上させると共に、(C)シランカップリング剤の存在下において、シリカ系酸化物および複合樹脂材料に対する接着性も向上させる機能を持つ。また、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物では、被着体表面に対して、第1剤と第2剤とを混合し、塗布することにより、上述した各成分と被着体との相互作用や、上述した各成分の相互作用による化学重合等が進行し、接着性が発揮される。
【0031】
一方、上記(A)〜(E)に示す5成分を一度に混合して得られた混合組成物は、混合直後においては歯質、卑金属、貴金属、金属酸化物、シリカ系酸化物、複合樹脂材料のいずれに対しても優れた接着性を発揮することができるものの、長期間保管した場合はゲル化が進行し、最終的には接着材として使用できなくなる。混合組成物のゲル化の進行は、(A)〜(E)に示す5成分のうち、いずれか2成分以上の相互作用に起因するものと考えられるが、その詳細は不明である。しかしながら、本発明者らは、試行錯誤の結果、(A)〜(E)に示す5成分を、(A)酸性基含有重合性単量体および(B)硫黄原子含有重合性単量体を含む第1剤と、(C)シランカップリング剤、(D)ボレート化合物および(E)水を含む第2剤とに、分離した形態で保管することで、様々な歯科用材料に対して優れた接着性を確保できると共に、優れた保管安定性も得られることを見出した。
【0032】
なお、第1剤には、必要に応じて(A)酸性基含有重合性単量体および(B)硫黄原子含有重合性単量体以外のその他の成分(但し、上記(C)〜(E)に該当する成分を除く)がさらに含まれていてもよく、第2剤には、必要に応じて(C)シランカップリング剤、(D)ボレート化合物および(E)水以外のその他の成分(但し、上記(A)および(B)に該当する成分を除く)がさらに含まれていてもよい。なお、第1剤および第2剤に対してさらに添加可能なその他の成分の詳細については後述する。また、第2剤には、(A)酸性基含有重合性単量体以外のその他の酸成分も含まれないことが特に好ましい。第2剤中に酸成分が含まれる場合、保管中に酸成分が(C)シランカップリング剤を構成するアルコキシ基などの加水性分解基の加水分解を促進したり、(D)ボレート化合物の分解反応が生じたりすることにより、第2剤の保存安定性が大幅に低下しやすくなるためである。
【0033】
ここで、「第2剤が酸成分を含まない」とは、第2剤中に実質的に酸成分が含まれないことを意味し、全く含まれないことが特に好ましい。言い換えれば、長期保管後における接着強度および保存安定性に悪影響を及ぼさない限り、不純物などとして極微量の酸成分が含まれる場合は許容される。また、「酸成分」とは、水中に1mol/Lの濃度で溶解および/または分散させた水溶液あるいは水性分散液において、pHが4以下となる物質を意味する。「酸成分」としては、塩酸、硝酸等の無機酸、酢酸、クエン酸等の有機酸などの公知の酸成分であればいずれも挙げられるが、特に歯科用組成物に用いられる酸成分として、リン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基あるいはカルボキシル基などの酸性基を含む重合性単量体、リン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基あるいはカルボキシル基などの酸性基により表面修飾された充填材などが挙げられる。
【0034】
また、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物は、保管時においては、第1剤と第2剤とに分包された状態で保管される。ここで、分包の形態は、第1剤を構成する組成物と、第2剤を構成する組成物とが、保管時において互いに接触および混合しない限りは特に制限されないが、通常は、シリンジ、袋、瓶などの各種の容器内に、第1剤と第2剤とがそれぞれ別々に保管される。一方、使用時においては、第1剤と第2剤とを混合して混合組成物を調製し、次にこの混合組成物を歯質等の被着体表面に付与することが通常であるが、被着体表面に対して第1剤と第2剤とを同時に付与または別々に順次付与することで、被着体表面上において第1剤と第2剤とを混合することも可能である。
【0035】
本実施形態の2液型歯科用接着性組成物の使用時における第1剤と第2剤との混合比率(第1剤/第2剤)については、接着性および操作性が大幅に損なわれない範囲で適宜選択できるが、取扱い性や製品パッケージ化の容易さなどの実用上の観点からは、混合比率(第1剤/第2剤)が、体積比で1/5〜5/1の範囲内が好ましく、1/3〜3/1の範囲内がより好ましく、あるいは、質量比で1/5〜5/1の範囲内が好ましく、1/3〜3/1の範囲内がより好ましい。また、通常、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物の利用者は、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物の開発者、製造者あるいは販売者が定めた混合比率(以下、「指定混合比率」と称す)に従って、第1剤と第2剤とを混合する。なお、使用時の実際の混合比率は、接着性および操作性が大幅に損なわれない範囲であれば指定混合比率からずれることは許容され、たとえば、指定混合比率を基準(100%)とした場合の使用時の実際の混合比率は33%〜300%の範囲であってもよく、50%〜200%の範囲が好ましい。
【0036】
指定混合比率は、混合比率情報表示媒体に表示することができる。この混合比率情報表示媒体としては、たとえば、i)紙箱等からなる製品パッケージ、ii)紙媒体および/または電子データとして提供される製品の使用説明書、iii)第1剤および第2剤を各々密封状態で保管する容器(ボトル、シリンジ、包装袋等)、iv)紙媒体および/または電子データとして提供される製品カタログ、v)製品とは別に電子メールや郵便物等により製品利用者に送付される通信文などが利用できる。また、指定混合比率は、上記i)〜v)に示す以外の態様により製品利用者が認知しうる態様で、製品利用者に提供されてもよい。
【0037】
なお、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物に用いられる成分Xおよび成分Yについて、成分Xおよび成分Yの一部が、第1剤に含まれ、残部が第2剤に含まれる場合、本願明細書に開示される成分Xの配合量を基準量とした成分Yの配合割合Zは、以下に説明するように第1剤と第2剤とを混合することを意味する。すなわち、第1剤と第2剤とは、配合割合Zを満たすような混合比率で混合されることを意味する。
【0038】
次に、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物に用いられる各成分の詳細について説明する。
【0039】
(A)酸性基含有重合性単量体
第1剤に配合される酸性基含有重合性単量体は、分子内に、1つ以上の酸性基と、1つ以上の重合性不飽和基とを有する化合物を意味する。ここで、酸性基としては、ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)
2}、カルボキシル基{−C(=O)OH}、リン酸二水素モノエステル基{−O−P(=O)(OH)
2}、リン酸水素ジエステル基{(−O−)
2P(=O)OH}、スルホ基(−SO
3H)、あるいは、酸無水物骨格{−C(=O)−O−C(=O)−}を有する有機基などの水溶液中で酸性を示す基が挙げられる。また、重合性不飽和基としては、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アクリルアミド基、メタアクリルアミド基、スチリル基などが挙げられる。
【0040】
酸性基含有重合性単量体としては、分子内に、1つ以上の酸性基と、1つ以上の重合性不飽和基とを有する化合物であれば特に限定されないが、歯質あるいは卑金属に対する接着強度の観点から、下記一般式(A1)または(A2)で示される化合物が好適に使用できる。
【0042】
一般式(A1)中、R
A11は、水素原子またはメチル基を表し、W
1は、オキシカルボニル基(−COO−)、イミノカルボニル基(−CONH−)、または、フェニレン基(−C
6H
4−)を表し、R
A21は、(i)結合手、(ii)炭素数1〜30である2〜6価の炭化水素基、または、(iii)炭素数1〜30であり、エーテル結合およびエステル結合から選択される少なくとも一方の結合を含む2〜6価の有機残基を表し、X
1は1価の酸性基を表す。
【0043】
また、m1は、1〜4の整数を表し、n1は1〜6−m1の整数を表す。ここで、m1+n1はR
A21の価数を表す。
【0044】
なお、W
1がオキシカルボニル基又はイミノカルボニル基の場合、R
A21として、(ii)炭化水素基、または、(iii)有機残基、のいずれかが選択される。また、R
A21として結合手が選択される場合は、m1=n1=1である。
【0045】
一般式(A2)中、R
A11およびR
A12は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、W
1およびW
2は、それぞれ独立に、オキシカルボニル基(−COO−)、イミノカルボニル基(−CONH−)、またはフェニレン基(−C
6H
4−)を表し、R
A21およびR
A22は、それぞれ独立に、(i)結合手、(ii)炭素数1〜30である2〜6価の炭化水素基、または、(iii)炭素数1〜30であり、エーテル結合およびエステル結合から選択される少なくとも一方の結合を含む2〜6価の有機残基を表し、X
1は1価の酸性基を表し、X
2は2価の酸性基を表す。
【0046】
また、m1及びm2は、それぞれ独立に1〜4の整数を表し、n1は1〜6−m1の整数を表し、n2は1〜6−m2の整数を表す。ここで、m1+n1はR
A21の価数を表し、m2+n2はR
A22の価数を表す。
【0047】
なお、W
1がオキシカルボニル基又はイミノカルボニル基の場合、R
A21として、(ii)炭化水素基、または、(iii)有機残基のいずれかが選択され、W
2がオキシカルボニル基又はイミノカルボニル基の場合、R
A22として、(ii)炭化水素基、または、(iii)有機残基のいずれかが選択される。また、R
A21が結合手の場合は、m1=n1=1であり、R
A22が結合手の場合は、m2=n2=1である。
【0048】
一般式(A1)および(A2)中、X
1及びX
2は前記定義に従う酸性基であれば、その構造は特に限定されることはないが、好ましい具体例は次の通りである。
【0050】
一般式(A1)および(A2)中、R
A21およびR
A22の構造は特に制限されることはなく、(i)結合手、(ii)炭化水素基、または、(iii)有機残基が採用され得るが、好適な基を具体的に例示すると次の通りである。ここで、下記に示すR
A21およびR
A22の具体例中、p1、p2、及びp3はそれぞれ独立に0〜10の整数であり、かつp1+p2+p3は1以上である。
【0052】
なお、一般式(A1)において、R
A21が結合手の場合とは、m1=n1=1であり、基W
1と基X
1が直接結合した状態をいう。また、W
1がオキシカルボニル基またはイミノカルボニル基の場合には、R
A21として、(ii)炭化水素基、または、(iii)有機残基、のいずれかが選択される。
【0053】
また、一般式(A2)において、R
A21が結合手の場合とは、m1=n1=1であり、かつ、基W
1と基X
2が直接結合した状態をいう。また、W
1がオキシカルボニル基またはイミノカルボニル基の場合には、R
A21として、(ii)炭化水素基、または、(iii)有機残基、のいずれかが選択される。同様に、R
A22が結合手の場合とは、m2=n2=1であり、かつ、基W
2と基X
2が直接結合した状態をいう。また、W
2がオキシカルボニル基またはイミノカルボニル基の場合には、R
A22として、(ii)炭化水素基、または、(iii)有機残基、のいずれかが選択される。
【0054】
一般式(A1)および(A2)で表される酸性基含有重合性単量体の好ましい具体例を以下に示す。なお、下記に示す具体例において、Phはフェニル基を表し、R
A11は一般式(A1)または(A2)に示すものと同様である。
【0057】
なお、最下段に示す化合物におけるq1、q2、及びq3はそれぞれ独立に0〜2の整数である。なお、該化合物は、q1、q2、及びq3がそれぞれ異なる化合物の混合物として得られることが多く、該混合物におけるq1、q2、及びq3の和の平均は3.5である。
【0060】
酸性基含有重合性単量体としては、上記に説明したもの以外にも、ビニルホスホン酸類や、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸等も挙げられる。
【0061】
上記に例示した酸性基含有重合性単量体の中でも、歯質に対する接着性の点からは、酸性基としてホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)
2}、カルボキシル基{−C(=O)OH}、リン酸二水素モノエステル基{−O−P(=O)(OH)
2}、リン酸水素ジエステル基{(−O−)
2P(=O)OH}を有するものを使用するのが、接着強度の観点から特に好適である。
【0062】
上記に例示した酸性基含有重合性単量体の中でも、歯質、卑金属および金属酸化物に対する接着性の点からは、一般式(A1)で表わされる酸性基含有重合性単量体としては、以下に説明する分子構造を有する長鎖型リン酸基含有重合性単量体を用いることが好ましい。すなわち、一般式(A1)に示すR
A21として、(ii)炭化水素基あるいは(iii)有機残基を選択し、ここで、(ii)炭化水素基は、主鎖の炭素数が6〜14である2〜6価の鎖状炭化水素基であることが好ましく、(iii)有機残基は、エーテル結合およびエステル結合から選択される少なくとも一方の結合を主鎖に含むと共に主鎖の原子数が6〜14である2〜6価の鎖状有機残基であることが好ましい。ここで、長鎖型リン酸基含有重合性単量体におけるR
A21の具体例としては、主鎖の炭素数が6〜14(好ましくは6〜10)のアルキレン基が挙げられる。また、X
1は、リン酸二水素モノエステル基{−O−P(=O)(OH)
2}またはホスホノ基{−P(=O)(OH)
2}であることが好ましい。
【0063】
また、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物においては、酸性基含有重合性単量体として、一般式(A1)で表わされる酸性基含有重合性単量体のみを使用することもできるし、一般式(A2)で表わされる酸性基含有重合性単量体のみを使用することもできるし、あるいは、一般式(A1)で表わされる酸性基含有重合性単量体と一般式(A2)で表わされる酸性基含有重合性単量体とを組み合わせて使用することもできる。
【0064】
接着性および接着耐久性をより向上させるために一般式(A1)で表わされる酸性基含有重合性単量体と一般式(A2)で表わされる酸性基含有重合性単量体とを組み合わせて使用する場合、酸性基含有重合性単量体の配合割合の観点では、一般式(A1)に示される酸性基含有重合性単量体および一般式(A2)に示される酸性基含有重合性単量体の合計量(100質量%)に対する一般式(A2)に示される酸性基含有重合性単量体の配合割合が、3質量%〜40質量%であることが好ましく、5質量%〜30質量%とすることがより好ましい。一般式(A2)で表わされる酸性基含有重合性単量体の配合割合が3質量%未満では、ボレート化合物との反応性向上による接着性向上効果が十分に得られない場合があり、40質量%を超えると、卑金属および金属酸化物に対する接着耐久性が低下する場合がある。
【0065】
一方、酸性基含有重合性単量体の分子構造の観点では、一般式(A1)で表わされる酸性基含有重合性単量体として上述した長鎖型リン酸基含有重合性単量体を用い、一般式(A2)で表わされる酸性基含有重合性単量体としては、以下に説明する分子構造を有する短鎖型リン酸基含有重合性単量体を用いることが好ましい。すなわち、一般式(A2)に示すR
A21及びR
A22として、それぞれ独立に、(ii)炭化水素基あるいは(iii)有機残基を選択し、ここで、(ii)炭化水素基は、主鎖の炭素数が2〜4である2〜6価の鎖状炭化水素基であることが好ましく、(iii)有機残基は、エーテル結合およびエステル結合から選択される少なくとも一方の結合を主鎖に含むと共に主鎖の原子数が2〜4である2〜6価の鎖状有機残基であることが好ましい。ここで、短鎖型リン酸基含有重合性単量体におけるR
A21およびR
A22の具体例としては、主鎖の炭素数が2〜4のアルキレン基が挙げられる。また、X
2は、リン酸水素ジエステル基{(−O−)
2P(=O)OH}またはホスフィニコ基{=P(=O)OH}であることが好ましい。長鎖型リン酸基含有重合性単量体と短鎖型リン酸基含有重合性単量体とを組み合わせて用いた場合、これらのリン酸基含有重合性単量体と、ボレート化合物との反応性が向上するため、接着性をより一層向上させることが容易となる。
【0066】
また、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物においては、酸性基含有重合性単量体と硫黄原子含有重合性単量体とを少なくとも含む全重合性単量体を100質量部としたとき、酸性基含有重合性単量体の配合割合を5質量部〜30質量部とすることが好ましく、10質量部〜20質量部とすることがより好ましい。配合割合が5質量部未満では、歯質に対する十分な接着強度が得られない場合があり、30質量部を超えると卑金属および金属酸化物に対する接着耐久性が低下する場合がある。
【0067】
中でも、卑金属および金属酸化物に対する接着耐久性をより向上させるためには、以下の配合とすることが好ましい。具体的には、(A)酸性基含有重合性単量体が、一般式(A2)で表わされる酸性基含有重合性単量体を含む場合において、全重合性単量体を100質量部としたとき、一般式(A2)で表わされる酸性基含有重合性単量体が1質量部〜10質量部となることが好ましく、1質量部〜5質量部となることがより好ましい。
【0068】
なお、本願明細書において、「全重合性単量体」とは、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物の構成成分として使用される全種類の重合性単量体を意味する。例えば、重合性単量体として、(A)酸性基含有重合性単量体、および(B)硫黄原子含有重合性単量体のみを使用する場合には、「全重合性単量体」はこれら2種類の重合性単量体を意味し、、「全重合性単量体」の量は、(A)酸性基含有重合性単量体の量と(B)硫黄原子含有重合性単量体の量との合計量を意味する。また、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物の構成成分として、(A)酸性基含有重合性単量体および(B)硫黄原子含有重合性単量体に加えて、さらに(G)その他の重合性単量体を使用する場合、「全重合性単量体」は、これら3種類の重合性単量体を意味し、「全重合性単量体」の量は、(A)酸性基含有重合性単量体の量と(B)硫黄原子含有重合性単量体の量と、(G)その他の重合性単量体の量との合計量を意味する。なお、本願明細書において、後述する重合性基を有するシランカップリング剤は、「重合性単量体」には分類されない。したがって、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物の構成成分として、重合性基を有するシランカップリング剤を用いた場合であっても、「全重合性単量体」の量には、重合性基を有するシランカップリング剤の量は含まれない。
【0069】
(B)硫黄原子含有重合性単量体
第1剤に配合される硫黄原子含有重合性単量体は、分子内に、硫黄原子(但し、スルホ基などの硫黄原子を含有する酸性基を構成する硫黄原子を除く)と、1つ以上のラジカル重合性基とを有する化合物を意味する。ここで、ラジカル重合性基としては、たとえば、メタアクリロイル基、スチリル基などのエチレン性不飽和二重結合を含む基が挙げられる。また、硫黄原子は、分子内においてスルホ基などの酸性基を構成しない形態で含有され、分子内において、たとえば、>C=S、>C−S−C<、などの部分構造を形成するなどして、酸性基以外の部分構造を構成する形態で含有される。
【0070】
硫黄原子含有重合性単量体は、分子内に、硫黄原子(但し、スルホ基などの硫黄原子を含有する酸性基を構成する硫黄原子を除く)と、1つ以上のラジカル重合性基とを有する化合物であれば特に限定されないが、下記一般式(B1)〜(B5)に示される互変異性によりメルカプト基を生じ得る化合物;下記一般式(B6)〜(B9)に示されるジスルフィド化合物;下記一般式(B10)〜(B11)に示される鎖状若しくは環状のチオエーテル化合物等が挙げられる。
【0072】
一般式(B1)〜(B11)中、R
B1は水素原子またはメチル基であり、R
B2は炭素数1〜12の2価の飽和炭化水素基、−CH
2−C
6H
4−CH
2−基、−(CH
2)
o−Si(CH
3)
2OSi(CH
3)
2−(CH
2)
p−基(但し、o及びpはそれぞれ1〜5の整数である。)、又は−CH
2CH
2OCH
2CH
2−基であり、Z
1は−OC(=O)−基、−OCH
2−基、または−OCH
2−C
6H
4−基であり(但し、これらいずれの基Z
1においても右端の炭素原子は、基Z
1 に隣接する不飽和二重結合を形成する炭素に結合し、左端の酸素原子は基R
B2に結合している。)、Z
2は−OC(=O)−基(但し、基Z
2中の右端の炭素原子が、基Z
2 に隣接する不飽和二重結合を形成する炭素に結合し、左端の酸素原子が基R
B2に結合している。)、−C
6H
4−基、又は結合手であり(ここで、基Z
2が結合手の場合とは基R
B2と基Z
2 に隣接する不飽和二重結合を形成する炭素が直接結合した状態をいう。)、Yは−S−、−O−、又は−N(R
B3)−である(但し、R
B3は水素原子、又は炭素数1〜5のアルキル基である。)。
【0073】
ここで、一般式(B1)〜(B5)に示される互変異性によりメルカプト基を生じ得る重合性化合物としては、次に示す化合物が挙げられる。
【0077】
また、一般式(B6)〜(B9)に示されるジスルフィド化合物としては、次に示す化合物等が挙げられる。
【0079】
さらに、一般式(B10)〜(B11)に示される鎖状若しくは環状のチオエーテル化合物としては、次に示す化合物等が挙げられる。
【0081】
硫黄原子含有重合性単量体は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。また、硫黄原子含有重合性単量体を含有する第1剤の保存安定性の観点からは、硫黄原子含有重合性単量体は、互変異性によりメルカプト基を生じ得る重合性化合物、又はジスルフィド化合物であることが好ましく、さらに接着強度の観点からは、互変異性によりメルカプト基を生じ得る化合物が最も好ましい。なお、2種以上を組み合わせて使用する場合には、硫黄原子含有重合性単量体の配合割合は、全種類の硫黄原子含有重合性単量体の合計量を基準とする。
【0082】
硫黄原子含有重合性単量体の配合割合は、特に限定されるものではないが、全重合性単量体100質量部に対して、0.001〜30質量部とすることが好ましく、0.01〜10質量部とすることがより好ましい。配合割合が0.001重量部未満では、貴金属に対する十分な得られない場合があり、30質量部を超えると硬化性が低下し接着強さが低下する場合がある。
【0083】
(C)シランカップリング剤
第2剤に配合されるシランカップリング剤としては公知のものが制限なく使用でき、たとえば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリ(トリメチルシロキシ)シラン、ω−メタクリロキシデシルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルペンタメチルジシロキサン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が例示できる。
【0084】
なお、シランカップリング剤としては、シリカ系酸化物および複合樹脂材料に対する接着性の観点から、(メタ)アクリル基などの重合性基を有するものが好ましい。さらに、シランカップリング剤を含有する第2剤の保管安定性の観点から下記一般式(C1)に示す化合物を用いることが特に好ましい。
【0086】
一般式(C1)中、Xは酸素原子または窒素原子であり、R
C1は、メチル基または水素原子であり、R
C2は、炭素数1〜10のアルキレン基であり、R
C3、R
C4およびR
C5は、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数1〜10のアルコキシル基である。但し、R
C3、R
C4およびR
C5から選択される少なくとも1つの基は、炭素数2〜4のアルコキシ基である。
【0087】
また、シリカ系酸化物および複合樹脂材料に対する接着性をさらに向上させる観点からは、R
C3、R
C4およびR
C5のいずれもがアルコキシ基であることが好ましい。また、アルコキシ基の炭素数は2〜4であることが好ましく、2が最も好ましい。アルコキシ基の炭素数を2以上とすることにより、第2剤を長期保管した後に、第1剤と混合して使用しても優れた接着強度を得ることがより容易となる。また、アルコキシ基の炭素数を4以下とすることにより第2剤を調整した直後の時点からの接着強度をより向上させることが容易となる。それゆえ、R
C3、R
C4およびR
C5は、それぞれ独立に、炭素数2〜4のアルコキシル基であることがより好ましい。
【0088】
なお、一般式(C1)に示すシランカップリング剤の中でも特に、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシシランが好適である。
【0089】
また、上記のシランカップリング剤は1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。2種以上のシランカップリング剤を組み合わせて使用する場合には、シランカップリング剤の配合割合は、全種類のシランカップリング剤の合計質量を基準とする。なお、シランカップリング剤としてγ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシシランのような重合性基を有するシランカップリング剤を使用した場合、重合性基を有するシランカップリング剤は、(A)、(B)および(G)に示すいずれの重合性単量体にも分類されず、(C)シランカップリング剤と見なし、配合割合を算出するものとする。
【0090】
シランカップリング剤の配合割合は、特に限定されるものではないが全重合性単量体100質量部に対して、0.1質量部〜30質量部とすることが好ましく、1質量部〜20質量部とすることがより好ましい。配合割合が0.1重量部未満では、シリカ系酸化物および複合樹脂材料に対する十分な得られない場合があり、30質量部を超えると硬化性が低下し接着強さが低下する場合がある。
【0091】
(D)ボレート化合物
第2剤に配合されるボレート化合物としては、公知のボレート化合物であればいずれも制限無く用いることができるが、分子中にアリール基を有するアリールボレート化合物を用いることが好ましい。アリールボレート化合物としては、1分子中に3個または4個のアリール基を有するアリールボレート化合物が例示される。
【0092】
1分子中に3個のアリール基を有するトリアリールボレート化合物としては、モノアルキルトリフェニルホウ素、モノアルキルトリ(p−クロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−フルオロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、モノアルキルトリ[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、モノアルキルトリ(p−ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m−ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m−ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリ(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、トリブチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等が挙げられる。
【0093】
また、1分子中に4個のアリール基を有するテトラアリールボレート化合物としては、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p−クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p−フルオロフェニル)ホウ素、テトラキス(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、テトラキス[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、テトラキス(p−ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(p−ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(アルキル基はn−ブチル基、n−オクチル基、n−ドデシル基等)のナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、トリブチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩、ブチルキノリニウム塩等が挙げられる。
【0094】
なお、上記に列挙したアリールボレート化合物の中でも、第2剤の保管安定性の観点からは、テトラアリールボレート化合物が好ましく、テトラアリールボレートのアルカリ金属塩がさらに好ましい。
【0095】
ボレート化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。2種以上を組み合わせて使用する場合には、ボレート化合物の配合割合は、全種類のボレート化合物の合計質量を基準とする。
【0096】
ボレート化合物は、既述したように重合促進剤としての機能を有する。なお、重合促進剤としては、ボレート化合物以外にも、(a)過酸化ベンゾイルなどの有機過酸化物類、(b)アゾビスブチロニトリルなどのアゾ化合物類、(c)ベンゼンスルフィン酸ナトリウムなどのスルフィン酸塩類、(d)アミン類(N−メチルアニリンなどの第二級アミンあるいはトリエチルアミンなどの第三級アミン)、(e)カンファーキノンなどのα−ジケトン類、(f)2,4−ジエチルチオキサントンなどのチオキサントン類、(g)2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1などのα−アミノアセトフェノン類、(h)ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドなどのアシルフォスフィンオキサイド類、(i)5−ブチルバルビツール酸などのバルビツール酸類、(j)3−チエノイルクマリンなどの色素類、(k)2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジンなどの光酸発生剤類、(l)トリフェニルボラン、トリブチルボラン、あるいはトリブチルボラン酸化物などの有機ホウ素類、(m)塩化鉄、塩化銅、硝酸鉄、クエン酸鉄などの遷移金属化合物類のも挙げられる。
【0097】
しかしながら、本発明者らが試行錯誤した結果、ボレート化合物の代わりにボレート化合物以外の重合促進剤と、(A)〜(C)および(E)に示す成分とを組み合わせた2液型組成物では、歯質、卑金属、貴金属、金属酸化物、シリカ系酸化物、複合樹脂材料から選択される少なくともいずれかの被着体に対する接着性が不十分となったり、あるいは、ボレート化合物の代わりに上記(a)〜(m)に示す重合促進剤を用いた場合において第1剤と第2剤とにそれぞれ配合する成分の組み合わせを色々と変えても接着性および保管安定性の双方を十分に両立させることができなかった。但し、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物においては、接着性のさらなる向上などを目的として、ボレート化合物と共に、上記(a)〜(m)に示す重合促進剤を必要に応じて併用してもよい。
【0098】
ボレート化合物の配合割合は、特に限定されるものではないが、全重合性単量体100質量部に対して、0.1質量部〜15質量部とすることが好ましく、1質量部〜10質量部とすることがより好ましい。配合割合が0.1重量部未満では、重合硬化反応が十分促進されず、特に象牙質の接着強さが低下する場合があり、15質量部を超えると重合性を有しないボレート化合物の反応後の化合物が多くなるため、硬化性が低下し接着強さが低下する場合がある。
【0099】
(E)水
第2剤に配合される水としては、貯蔵安定性、生体適合性及び接着性の観点で有害な不純物を実質的に含まない事が好ましく、例としては脱イオン水、蒸留水等が利用できる。
【0100】
水の配合割合は、全重合性単量体100質量部に対して、5質量部〜50質量部とすることが好ましく、10質量部〜40質量部とすることがより好ましい。配合割合が5重量部未満では、歯質、シリカ系酸化物および複合樹脂材料に対する十分な接着強さが得られない場合がある。一方、配合割合が50質量部を超えるとエアブロー後に水が残留しやすくなり、接着強さが低下する場合がある。さらには、シランカップリング剤の保存安定性が低下し、特にシリカ系酸化物の接着強度が低下する場合がある。
【0101】
第2剤における(C)シランカップリング剤、(D)ボレート化合物、および(E)水の好適な配合割合は、特に制限されるものではないが、以下の配合割合を満足することが好ましい。すなわち、(C)シランカップリング剤100質量部に対する(D)ボレート化合物の配合割合は1質量部〜300質量部が好ましく、10質量部〜200質量部がより好ましく、10質量部〜150質量部がさらに好ましい。(D)ボレート化合物の配合割合を1質量部〜300質量部とすることにより、第2剤自体の保存安定性、特にシランカップリング剤の保存安定性をより向上することができる。また、同様の観点で、(C)シランカップリング剤100質量部に対する(E)水の配合割合は20質量部〜1500質量部が好ましく、25質量部〜1250質量部がより好ましく、100質量部〜850質量部がさらに好ましい。
【0102】
(F)有機溶媒
本実施形態の2液型歯科用接着性組成物を構成する第1剤および第2剤の少なくとも一方には、必要に応じてさらに有機溶媒を添加してもよい。有機溶媒としては、公知の有機溶媒であればいずれも制限無く用いることができるが、通常は、沸点が100℃未満の揮発性の高い有機溶媒を用いることが好ましい。
【0103】
このような有機溶媒としては、たとえば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;エチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸エチル、蟻酸エチル等のエステル類;トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等のハイドロカーボン系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等の塩素系溶媒;トリフルオロエタノール等のフッ素系溶媒等が挙げられる。これらの中でも、溶解性および保存安定性等の理由で、アセトン、トルエン、エタノール、イソプロピルアルコール等が特に好ましく使用される。有機溶媒は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。2種以上を組み合わせて使用する場合には、有機溶媒の配合割合は、全種類の有機溶媒の合計質量を基準とする。
【0104】
有機溶媒は、第1剤のみに添加してもよく、第2剤のみに添加してもよく、第1剤および第2剤の双方に添加してもよい。また、(a)第1剤に添加される有機溶媒としては、1種類の有機溶媒のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。これは第2剤においても同様である。また、(b)第1剤および第2剤のぞれぞれに有機溶媒を添加する場合、第1剤に用いる有機溶媒と、第2剤に用いる有機溶媒とは同一であっても異なっていてもよい。
【0105】
また、使用する有機溶媒としては、常圧(1気圧)における沸点が50℃〜65℃の有機溶媒(以下、「低沸点有機溶媒」と称す場合がある)と、常圧(1気圧)における沸点が75℃〜90℃の有機溶媒(以下、「高沸点有機溶媒」と称す場合がある)とを少なくとも用いることが好ましい。この場合、全重合性単量体100質量部に対して、低沸点有機溶媒を200質量部〜400質量部用い、かつ、高沸点有機溶媒を25質量部〜120質量部用いることが好ましい。
【0106】
全重合性単量体100質量部に対する低沸点有機溶媒および高沸点有機溶媒の配合量を上記範囲内とすることにより、歯質に対して、金属、セラミックス、ハイブリッドレジン、CAD/CAMレジンブロックなどの補綴物を、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物と共に歯科用レジンセメントも併用して接着する際に、補綴物が浮き上がった状態で接着されるのを抑制することが容易となる。
【0107】
低沸点有機溶媒および高沸点有機溶媒は、各々、第1剤および第2剤のいずれか一方のみに添加されていてもよく、双方に添加されていてもよい。また、低沸点有機溶媒としては、たとえば、アセトン(沸点:56.5℃)などが挙げられ、高沸点有機溶媒としては、イソプロピルアルコール(沸点:82.4℃)、エタノール(沸点:78.4℃)などが挙げられる。なお、当然のことではあるが、低沸点有機溶媒、および高沸点有機溶媒は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。2種以上を組み合わせて使用する場合には、低沸点有機溶媒、および高沸点有機溶媒の配合割合は、それぞれの有機溶媒の合計質量を基準とする。
【0108】
また、第1剤、第2剤に有機溶剤を配合する場合には、各剤において、以下の割合を満足するように調整することが好ましい。すなわち、第1剤に有機溶媒を添加する場合、第1剤中の有機溶剤の含有量は30質量%〜90質量%の範囲内が好ましく、50質量%〜70質量%の範囲内がより好ましい。同様に、第2剤に有機溶媒を添加する場合、第2剤中の有機溶剤の含有量は10質量%〜99質量%の範囲内が好ましく、30質量%〜90質量%の範囲内がより好ましい。第1剤および第2剤における有機溶媒の含有量を上記範囲内とすることにより、各剤における保存安定性の向上、ならびに、第1剤と第2剤との混合および接着面に塗布された本実施形態の2液型歯科用接着性組成物からなる被膜の厚みコントロールが容易となる。
【0109】
さらに、第1剤および第2剤が、各々有機溶媒をさらに含む場合、第1剤と第2剤との合計量に対する有機溶媒の合計量の割合は63質量%〜85質量%が好ましく、65質量%〜80質量%が特に好ましい。第1剤と第2剤との合計量に対する有機溶媒の合計量の割合が63質量%未満の場合、第1剤と第2剤とを混和した後の化学重合の進行により、十分な操作時間を確保できない場合がある。第1剤と第2剤との合計量に対する有機溶媒の合計量の割合が85質量%を超える場合、接着面に塗布された本実施形態の2液型歯科用接着性組成物からなる被膜の厚みが薄くなり接着性が低下する場合がある。さらに、第1剤と第2剤との合計量に対する有機溶媒の合計量の割合を上記範囲内とすることにより、第1剤と第2剤の混合が容易となる。
【0110】
(G)その他の重合性単量体
本実施形態の2液型歯科用接着性組成物には、歯質に対する接着性および接着耐久性の観点から(A)酸性基含有重合性単量体および(B)硫黄原子含有重合性単量体以外の(G)その他の重合性単量体をさらに用いることが好適である。
【0111】
その他の重合性単量体は、分子内に、酸性基および硫黄原子(但し、スルホ基などの硫黄原子を含有する酸性基を構成する硫黄原子を除く)を含まず、かつ、1つ以上の重合性不飽和基を含む化合物であれば公知の化合物を特に制限無く用いることができる。ここで、重合性不飽和基としては、酸性基含有重合性単量体に含まれる重合性不飽和基と同様のものが挙げられるが、接着性の観点からは、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アクリルアミド基、メタアクリルアミド基などが好ましい。
【0112】
その他の重合性単量体の好適な具体例としては、たとえば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、グリジジル(メタ)アクリレート、2−シアノメチル(メタ)アクリレート、ベンジルメタアクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート等の単官能性重合性単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリオイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシエトキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’−ビス{4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,2,4−トリメチルヘキサン、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,4,4−トリメチルヘキサン、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート等の多官能性重合性単量体;フマル酸モノメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマー等のスチレン、α−メチルスチレン誘導体;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物を挙げることができる。
【0113】
上述したその他の重合性単量体の中でも、歯質に対する接着性および接着耐久性の観点から多官能性重合性単量体が好適に使用される。好適に使用される多官能性重合性単量体を具体的に例示すると、2,2’−ビス{4−[2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ]フェニル}プロパン、トリエチレングリコールメタクリレート、2,2−ビス[(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン]、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,2,4−トリメチルヘキサン、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,4,4−トリメチルヘキサン、トリメチロールプロパントリメタクリレートが挙げられる。
【0114】
その他の重合性単量体は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。その他の重合性単量体は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。2種以上を組み合わせて使用する場合には、その他の重合性単量体の配合割合は、全重合性単量体の合計質量を基準とする。また、(G)その他の重合性単量体は、第1剤および第2剤のいずれか一方、あるいは、双方に添加することができるが、通常は、第1剤のみに添加することが好ましい。
【0115】
その他の重合性単量体の配合割合は、特に制限されるものではないが、全重合性単量体100質量部に対して、(A)酸性基重合性単量体、および(B)硫黄原子含有重合性単量体を除いた量となる。酸性基含有重合性単量体および硫黄原子含有重合性単量体に由来する接着性向上効果も十分に確保する観点からは、その他の重合性単量体の配合割合は、全重合性単量体100質量部に対して、40質量部〜95質量部とすることが好ましく、さらに70質量部〜90質量部とすることが好ましい。
【0116】
(H)有機過酸化物および(I)分解促進剤
本実施形態の2液型歯科用接着性組成物には、重合活性をさらに向上させることを目的として、必要に応じて、有機過酸化物およびその分解促進剤を添加することも好適である。この場合、特に象牙質に対する接着強度を向上させることより容易となる。
【0117】
有機過酸化物としては公知の化合物が制限なく使用できるが、代表的には、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリールパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネートを挙げることができる。これら有機過酸化物の具体例としては、次のようなものが挙げられる。
【0118】
ここで、ケトンパーオキサイド類としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイド等が挙げられる。
【0119】
パーオキシケタール類としては、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n−ブチル 4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパンが挙げられる。
【0120】
ハイドロパーオキサイド類としては、P−メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドが挙げられる。ジアルキルパーオキサイドとしては、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等が挙げられる。
【0121】
ジアシルパーオキサイド類としては、イソブチリルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアリルパーオキサイド、スクシニックアシッドパーオキサイド、m−トルオイルベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。
【0122】
パーオキシジカーボネート類としては、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジー2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−2−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0123】
パーオキシエステル類としては、α,α−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−m−トルオイルベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス(t−ブチルパーオキシ)イソフタレート等が挙げられる。
【0124】
なお、これら以外にもt−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等が好適に使用できる。これら有機過酸化物は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよいが、重合活性の点から、ハイドロパーオキサイド類を使用するのが特に好ましい。
【0125】
また、重合活性をさらに向上させる観点からは、有機過酸化物と共に、この有機過酸化物の分解を促進する分解促進剤を併用することがさらに好ましい。分解促進剤は、ボレート化合物の共存下において有機過酸化物の分解を促進する作用を持つ化合物であれば特に限定されないが、特に以下に例示するバナジウム化合物、鉄化合物、銅化合物、モリブデン化合物、マンガン化合物、コバルト化合物およびタングステン化合物からなる群より選択される金属化合物を用いることが好ましい。
【0126】
ここで、金属化合物の具体例としては、酸化バナジウム(V)、酸化バナジウムアセチルアセトナート、バナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウム等のバナジウム化合物、塩化鉄(III)、鉄(III)アセチルアセトナート、ナフテン酸鉄(III)、クエン酸鉄(III)等の鉄化合物、塩化銅(II)、クエン酸銅(II)、銅(II)アセチルアセトナート、ステアリン酸銅(II)等の銅化合物、酸化モリブデン(VI)、酸化モリブデンアセチルアセトナート等のモリブデン化合物、酸化マンガン(IV)、ナフテン酸マンガン等のマンガン化合物、ナフテン酸コバルト、コバルト(III)アセチルアセトナート等のコバルト化合物、酸化タングステン(VI)、タングステン酸ナトリウム、ケイタングステン酸等のタングステン化合物などが挙げられる。
【0127】
保存安定性の観点から有機過酸化物は、第2剤に添加することが好ましい。この理由は、第1剤に有機過酸化物を添加した場合、有機過酸化物と(B)硫黄原子含有重合性単量体とが保管中に反応しゲル化が生じるため、第1剤の保存安定性が低下するためである。さらに、分解促進剤も併用する場合は、保管中における有機過酸化物の分解を抑制するために、分解促進剤を第1剤に添加することが好ましい。
【0128】
有機過酸化物の配合量は特に限定されないが、重合活性の観点から、ボレート化合物1モルに対して0.1モル〜10モルが好ましく、0.5モル〜5モルがより好ましい。また、分解促進剤の使用量は特に限定されないが、重合活性の観点から、有機過酸化物1モルに対して0.001モル〜1モルが好ましく、0.05モル〜0.1モルがより好ましい。
【0129】
(J)被膜強化剤
本実施形態の2液型歯科用接着性組成物を用いて接着を行う場合、第1の被着体の表面に第1剤および第2剤を混合した混合組成物からなる被膜を形成し、この被膜を介して、第1の被着体と第2の被着体とを接着する。そして、第1の被着体と第2の被着体との接着は、通常、化学重合により硬化する被膜が硬化し終える前の段階で実施される。このため、接着時における被膜の強度が低いと、接着時にこれら被着体の間で被膜が押し潰されて被膜が極めて薄くなり、接着強度が大幅に低下してしまうこともある。それゆえ、このような接着強度のばらつきを抑制し、接着時に常に安定して高い接着強度を確保し易くするために、被膜強化剤を用いてもよい。
【0130】
被膜強化剤としては、接着作業時における未硬化状態の被膜の強度を向上させることができる物質であれば特に制限されないが、たとえば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂などの樹脂材料、シリカ粒子、シリカ−ジルコニア粒子、石英、フルオロアルミノシリケートガラスなどの無機充填材、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルメタクリレート−ポリエチルメタクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体などの有機高分子からなる粒子(有機充填材)、上述した無機粒子と重合性単量体とを混合した後、重合させ、粉砕して得られる粒状の有機無機複合充填材などを用いることができる。被覆強化剤は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。2種以上を組み合わせて使用する場合には、被覆強化剤の配合割合は、全種類の被覆強化剤の合計質量を基準とする。
【0131】
被膜強化剤は、第1剤および第2剤の少なくともいずれか一方、あるいは、双方に添加することができる。但し、保存安定性の観点から、シランカップリング剤と反応する可能性のあるシリカ系の無機充填剤は第1剤に添加することが好ましい。
【0132】
被覆強化剤は、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物の接着性や保管安定性に顕著な悪影響を与えない範囲で使用することができる。そのため、被覆強化剤を使用する場合には、全重合性単量体100質量部に対して、被覆強化剤を0.1質量部〜100質量部とすることが好ましく、さらに1質量部〜50質量部とすることが好ましい。
【0133】
(K)その他の添加剤
また、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物には、上記に説明した以外のその他の添加剤を必要に応じてさらに用いることができる。このような添加剤としては、着色剤、光重合開始剤、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノン、4−ターシャルブチルフェノールなどの重合禁止剤などを例示することができる。なお、光重合開始剤を用いた場合、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物は光照射によっても接着あるいは硬化が可能となる。
【0134】
光重合開始剤としては、公知の光重合開始剤を制限無く用いることができるが、たとえば、α−ジケトン類及び第三級アミン類の組み合わせ,アシルホスフィンオキサイド及び第三級アミン類の組み合わせ、チオキサントン類及び第三級アミン類の組み合わせ,α−アミノアセトフェノン類及び第三級アミン類の組み合わせ等の光重合開始剤が挙げられる。
【0135】
α−ジケトン類としては、カンファーキノン、ベンジル、α−ナフチル、アセトナフテン、ナフトキノン、p,p'−ジメトキシベンジル、p,p'−ジクロロベンジルアセチル、1,2−フェナントレンキノン、1,4−フェナントレンキノン、3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン等が挙げられる。
【0136】
三級アミンとしては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル、N,N−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノフェネチルアルコール、p−ジメチルアミノスチルベン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、2,2'−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を配合して使用することができる。
【0137】
アシルホスフィンオキサイド類としては、ベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0138】
チオキサントン類としては、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン等が挙げられる。
【0139】
α−アミノアセトフェノン類としては、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1等が挙げられる。
【0140】
上記光重合開始剤は単独で用いても、2種類以上のものを混合して用いても良い。2種以上を組み合わせて使用する場合には、光重合開始剤の配合割合は、全種類の光重合開始剤の合計質量を基準とする。光重合開始剤を使用する場合には、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物の接着性や保管安定性に顕著な悪影響を与えない範囲で有効となる量の光重合開始剤を使用することが好ましい。具体的には、全重合性単量体100質量部に対して、光重合開始剤を0.01質量部〜10質量部とすることが好ましく0.1質量部〜8質量部とすることが好ましい。
【0141】
なお、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物を審美的な治療に用いる場合、通常、光重合型開始剤自体の色により、第1剤と第2剤との混合物が着色しやすくなる。この場合、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物に光重合型開始剤を添加しない方が好ましい。また、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物を混和皿に採取後の環境光下における操作時間を長くしたい場合も、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物に光重合型開始剤を添加しない方が好ましい。
【0142】
<歯科治療方法>
本実施形態の2液型歯科用接着性組成物を用いた歯科治療方法については、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物が2つの被着体同士の接着に用いられるのであれば特に制限されないが、代表的には以下に説明する歯科治療方法が挙げられる。
【0143】
すなわち、第一の本実施形態の歯科治療方法は、歯牙(歯質)の表面に、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物を付与する第一の組成物付与工程と、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物が付与された歯牙の表面に、重合性単量体、充填材および光重合開始剤を含む光重合性歯科用組成物を付与する第二の組成物付与工程と、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物および光重合性歯科用組成物が付与された歯牙の表面に対して光照射する光照射工程と、を少なくとも含む。ここで、光重合性歯科用組成物は、一般的にコンポジットレジンと呼ばれるものである。
【0144】
光重合性歯科用組成物に用いられる重合性単量体、充填材および光重合開始剤としては、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物に用いられるものも含めて、公知のものを適宜組み合わせて利用することができる。
【0145】
また、第二の本実施形態の歯科治療方法は、歯質、卑金属、貴金属、金属酸化物、シリカ系酸化物、複合樹脂材料およびこれらを2種類以上組み合わせた複合材料からなる群より選択される被着体の表面に、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物を付与する第一の組成物付与工程と、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物が付与された被着体の表面に、重合性単量体、充填材および化学重合開始剤を含む化学重合性歯科用組成物を付与する第二の組成物付与工程と、を少なくとも含む。ここで、化学重性歯科用組成物は、一般的にレジンコアあるいはレジンセメントと呼ばれるものである。
【0146】
化学重合性歯科用組成物に用いられる重合性単量体としては、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物に用いられることができる重合性単量体および充填材も含めて、公知のものを適宜利用することができる。
【0147】
また、化学重合開始剤としては、公知の化学重合開始剤を用いることができるが、有機過酸化物とアミン化合物とを含む化学重合開始剤を用いることが好ましい。
【0148】
ここで、有機過酸化物としては、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキサイド類、過酸化ジt−ブチル、過酸化ジクミル等のジアルキルパーオキサイド類、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイル等のジアシルパーオキサイド類等が挙げられる。これらは単独で使用しても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0149】
これら有機過酸化物のなかでも、第三級アミンとの組み合わせの重合活性や保存安定性等の観点から、ジアシルパーオキサイド類が好ましく、過酸化ベンゾイルを用いるのが最も好適である。
【0150】
また、アミン化合物としては、第三級アミン化合物を用いることができる。第三級アミン化合物は、一般に窒素原子に芳香族基の結合した芳香族第三級アミンと、窒素原子に脂肪族基しか結合していない脂肪族第三級アミンとに大別される。
【0151】
ここで、芳香族第三級アミンとしては、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン等のトルイジン系芳香族第三級アミン類;N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン等のアニリン系芳香族第三級アミン類;p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル、N,N−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル等の芳香族環にカルボニル基が結合した芳香族第三級アミン類;、p−ジメチルアミノフェネチルアルコール、p−ジメチルアミノスチルベン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン等を挙げることができる。
【0152】
また、脂肪族第三級アミンとしては、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、2,2'−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等が挙げられる。
【0153】
アミン化合物は1種あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0154】
有機過酸化物とアミン化合物とを含む化学重合開始剤を用いた化学重合性歯科用組成物が重合硬化する際に、系中に酸性基含有重合性単量体が存在すると、通常、酸性基含有重合性単量体の酸性基がアミン化合物を中和してしまう。この場合、化学重合開始剤の重合活性が大幅に低下し、硬化障害を引き起こす。
【0155】
しかしながら、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物が付与された被着体の表面に、有機過酸化物とアミン化合物とを含む化学重合開始剤を用いた化学重合性歯科用組成物を付与した場合、本実施形態の2液型歯科用接着性組成物の第1剤に含まれる酸性基含有重合性単量体は、上述したような硬化障害を引き起こさない。これは、2液型歯科用接着性組成物の第2剤に含まれるボレート化合物が、酸性基含有重合性単量体と反応してラジカルを発生させ、化学重合性歯科用組成物に含まれる化学重合開始剤の重合活性を阻害しなくなるためである。
【0156】
なお、化学重合性歯科用組成物は、光重合開始剤もさらに含まれ、光重合でも化学重合でも硬化できるいわゆるデュアルキュア型の化学重合性歯科用組成物であってもよい。
【実施例】
【0157】
以下に本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものでは無い。
【0158】
1.物質の略称
以下に、各実施例および各比較例の歯科用接着性組成物において使用した物質の略称について説明する。
【0159】
<(A)酸性基含有重合性単量体>
・MDP:10−メタクリルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
・MHP:6−メタクリルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート
・PM1:モノ(2−メタクリロキシエチル)アシッドホスフェート
・PM2:ビス(2−メタクリロキシエチル)アシッドホスフェート
・PMB2:ビス(2−メタクリロキシブチル)アシッドホスフェート
【0160】
<(B)硫黄原子含有重合性単量体>
・MTU−6:6−メタクリロイルオキシヘキシル 2−チオウラシル−5−カルボキシレート
・MMT−11:2−(11−メタクリロイルオキシウンデシルチオ)−5−メルカプト
−1,3,4−チアジアゾール
【0161】
<(C)シランカップリング剤>
・MPS:γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン
・MPTES:γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシシラン
【0162】
<(D)ボレート化合物>
・PhB−TEOA:テトラフェニルホウ素のトリエタノールアミン塩
・PhB−Na:テトラフェニルホウ素のナトリウム塩
【0163】
<(E)有機溶媒>
高沸点有機溶媒
・IPA:イソプロピルアルコール
【0164】
<(G)その他の重合性単量体>
・BisGMA:2.2’ ―ビス[4―(2―ヒドロキシ―3―メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン
・3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
・HEMA:2―ヒドロキシエチルメタクリレート
【0165】
<その他の成分>
・BMOV:オキソバナジウム(IV)ビス(マルトラート)
・パーオクタH:1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド
・CQ:カンファーキノン
・DMBE:4−ジメチルアミノ安息香酸エチル
・BPO:過酸化ベンゾイル
・DEPT:N,N−ジメチルーp−トルイジン
・PTSNa:p−トルエンスルフィン酸ナトリウム
【0166】
2.歯科用接着性組成物の調製
表1〜表4に示すように各成分を混合することで、第1剤および第2剤からなる2液型歯科用接着性組成物を調製した。但し、比較例11に示す歯科用接着性組成物は、第1剤のみからなる1液型歯科用接着性組成物とした。
【0167】
3.歯質−コンポジットレジン間の接着強度評価
屠殺後24時間以内に抜去した牛前歯を、注水下、耐水研磨紙P600で研磨し、唇面に平行かつ平坦になるように、エナメル質平面を削り出した被着体および象牙質平面を削り出した被着体を準備した。
【0168】
次に、これら2種類の被着体のそれぞれの研磨面に、直径3mmの穴を開けた両面テープを貼り付けた。続いて、研磨面のうち両面テープの穴から露出している接着面に、表1〜表4に示す各実施例および各比較例の歯科用接着性組成物を塗布し、5秒間エアブローして乾燥させた。
【0169】
なお、歯科用接着性組成物は、第1剤と第2剤を混和皿上で混合液とし、接着面に塗布した。第1剤と第2剤との混合比率は、表1〜表4に示す各成分の配合割合がそのまま維持されるように設定した。たとえば、
比較例14であれば、第1剤:250質量部に対して第2剤:250質量部を混合した。また、歯科用接着性組成物が第1剤のみからなる1液型の場合は、接着面に対して第1剤のみを塗布した。
【0170】
また、接着面に塗布する歯科用接着性組成物としては、歯科用接着性組成物を調製した直後のもの、および、歯科用接着性組成物を調製した後に容器内に密封しさらに50℃の恒温槽中で8週間保管した後のものの2種類を使用した。なお、比較例8、11の歯科用接着性組成物については、調整後から1時間程度で第1剤がゲル化してしまった。このため、調製直後の歯科用接着性組成物を接着面に塗布する場合、第1剤については、ボレート化合物以外の成分を混合した後、使用直前にボレート化合物を添加して第1剤を調整した。そして、比較例8については、第1剤の調製後、直ぐに第1剤と第2剤とを混合し、接着面に塗布し、比較例11については、第1剤の調製後、直ぐに第1剤を接着面に塗布した。
【0171】
直径8mmの穴が設けられた厚み0.5mmのパラフィンワックスを、パラフィンワックスの穴と、両面テープの穴とが同心円となるように歯科用接着性組成物が塗布された接着面に貼り付けて模擬窩洞を作製した。この模擬窩洞に歯科用コンポジットレジン(エステライトΣクイック、トクヤマデンタル社製)を充填してポリエステルフィルムで軽く圧接した後、可視光線照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマ製)を用い、光照射10秒による光硬化を行った。その後、あらかじめ研磨したSUS304製丸棒(直径8mm、高さ18mm)をレジンセメント(ビスタイトII、トクヤマデンタル社製)で接着した。最後に、37℃の水中にて24時間浸漬することで接着強度測定用のサンプルを得た。なお、使用したコンポジットレジン(エステライトΣクイック)は、カンファーキノンおよびアミン化合物を含む光重合性の組成物である。
【0172】
これらサンプルについて、島津製作所製オートグラフ(クロスヘッドスピード2mm/分)を用いて引張接着強度を測定した。各実施例および比較例について、4個のサンプルの測定値を平均し、測定結果とした。また、測定は、接着強度測定用のサンプルを水中から引き上げて約1日以内に実施した。
【0173】
接着面に対して調製直後の歯科用接着性組成物を塗布することにより得られたサンプルの接着強度(初期接着強度)の測定結果を表5〜表6に、接着面に対して調整後にさらに50℃の恒温槽中で8週間保管した後の歯科用接着性組成物を塗布することにより得られたサンプルの接着強度(長期保管後接着強度)の測定結果を表7〜表8に示す。また、接着面に対して調製直後の歯科用接着性組成物を塗布することにより得られたサンプルをさらに水温5度の水槽と、水温55度の水槽とに、それぞれ30秒間ずつ交互に浸漬する浸漬処理を1セットとし、これを3000回繰り返し実施した後の接着強度(耐久試験後接着強度)の測定結果を表9に示す。
【0174】
なお、後述する長期保管後の外観評価において第1剤あるいは第2剤のいずれかがゲル化していた場合は、接着面への歯科用接着性組成物の塗布が困難となったため、長期保管後接着強度の評価は省略した。
【0175】
4.各種被着体−レジンセメント間の接着強度評価
下記に示す7種類の被着体を準備した。
(1)屠殺後24時間以内に抜去した牛前歯を、注水下、耐水研磨紙P600で研磨し、唇面に平行かつ平坦になるように、エナメル質平面を削り出した被着体。
(2)屠殺後24時間以内に抜去した牛前歯を、注水下、耐水研磨紙P600で研磨し、唇面に平行かつ平坦になるように、象牙質平面を削り出した被着体。
(3)歯科用金―銀―パラジウム合金「金パラ12」(トーワ技研社製、縦10mm×横10mm×厚み3mm)を#1500の耐水研磨紙で磨いた後にサンドブラスト処理した貴金属合金からなる被着体。
(4)歯科用コバルト―クロム合金「ワークローム」(トーワ技研社製、縦10mm×横10mm×厚み3mm)を#1500の耐水研磨紙で磨いた後にサンドブラスト処理した卑金属合金からなる被着体。
(5)シリカ系酸化物「ジーセラコスモテックII」(ジーシー社製、縦10mm×横10mm×厚み3mm)を#1500の耐水研磨紙で磨いた後にサンドブラストしたシリカ系酸化物(ポーセレン)からなる被着体。
(6)複合樹脂材料「エステライトブロック」(トクヤマデンタル製、縦10mm×横10mm×厚み3mm)を#1500の耐水研磨紙で磨いた後にサンドブラストした複合樹脂材料からなる被着体。なお、「エステライトブロック」は、樹脂マトリックス中にシリカ粒子を含有する複合樹脂材料である。
(7)ジルコニアセラミックス「TZ−3Y−E焼結体」(東ソー社製、縦10mm×横10mm×厚み3mm)を#1500の耐水研磨紙で磨いた後にサンドブラストした金属酸化物(ジルコニアセラミックス)からなる被着体。
【0176】
次に、これら2種類の被着体のそれぞれの研磨面に、直径3mmの穴を開けた両面テープを貼り付けた。続いて、研磨面のうち両面テープの穴から露出している接着面に、表1〜表4に示す各実施例および各比較例の歯科用接着性組成物を塗布し、5秒間エアブローして乾燥させた。
【0177】
なお、歯科用接着性組成物は、第1剤と第2剤を混和皿上で混合液とし、接着面に塗布した。第1剤と第2剤との混合比率は、表1〜表4に示す各成分の配合割合がそのまま維持されるように設定した。たとえば、実施例2であれば、第1剤:250.1質量部に対して第2剤:250質量部を混合した。また、歯科用接着性組成物が第1剤のみからなる1液型の場合は、接着面に対して第1剤のみを塗布した。
【0178】
また、接着面に塗布する歯科用接着性組成物としては、歯科用接着性組成物を調製した直後のもの、および、歯科用接着性組成物を調製した後に容器内に密封しさらに50℃の恒温槽中で8週間保管した後のものの2種類を使用した。なお、比較例8、11の歯科用接着性組成物については、調整後から1時間程度で第1剤がゲル化してしまった。このため、調製直後の歯科用接着性組成物を接着面に塗布する場合、第1剤については、ボレート化合物以外の成分を混合した後、使用直前にボレート化合物を添加して第1剤を調整した。そして、比較例8については、第1剤の調製後、直ぐに第1剤と第2剤とを接着面に塗布し、比較例11については、第1剤の調製後、直ぐに第1剤を接着面に塗布した。
【0179】
続いて、歯科用接着性組成物が付与された接着面に、さらに歯科用接着性レジンセメント(エステセム、トクヤマデンタル製)を用いてあらかじめ研磨及び歯科用接着性組成物を付与したSUS304製丸棒(直径8mm、高さ18mm)を接着した。なお、接着時に接着面からはみ出た余分なレジンセメントは、針などを用い除去した。その後、温度37℃湿度100%に保たれた恒温槽に約1時間放置して歯科用接着性レジンセメントを化学重合させた。最後に、37℃の水中にて24時間浸漬することで接着強度測定用のサンプルを得た。なお、使用した歯科用接着性レジンセメントは、光重合開始剤およびベンゾイルパーオキシド−アミン化合物系の化学重合開始剤を含むものであり、重合硬化に際しては、光重合および化学重合のいずれも可能である。本接着試験においては、化学重合のみを利用してレジンセメントを硬化させた。
【0180】
これらサンプルについて、島津製作所製オートグラフ(クロスヘッドスピード2mm/分)を用いて引張接着強度を測定した。各実施例および比較例について、4個のサンプルの測定値を平均し、測定結果とした。また、測定は、接着強度測定用のサンプルを水中から引き上げて約1日以内に実施した。
【0181】
接着面に対して調製直後の歯科用接着性組成物を塗布することにより得られたサンプルの接着強度(初期接着強度)の測定結果を表5〜表6に、接着面に対して調整後にさらに50℃の恒温槽中で8週間保管した後の歯科用接着性組成物を塗布することにより得られたサンプルの接着強度(長期保管後接着強度)の測定結果を表7〜表8に示す。また、接着面に対して調製直後の歯科用接着性組成物を塗布することにより得られたサンプルをさらに水温5度の水槽と、水温55度の水槽とに、それぞれ30秒間ずつ交互に浸漬する浸漬処理を1セットとし、これを3000回繰り返し実施した後の接着強度(耐久試験後接着強度)の測定結果を表9に示す。
【0182】
なお、後述する長期保管後の外観評価において第1剤あるいは第2剤のいずれかがゲル化していた場合は、接着面への歯科用接着性組成物の塗布が困難となったため、長期保管後接着強度の評価は省略した。
【0183】
5.長期保管後の外観評価
表1〜表4に示す各実施例および各比較例の歯科用接着性組成物を調製した後に容器内に密封し、さらに50℃の恒温槽中で8週間保管した。続いて、恒温槽から取り出した第1剤が密封された容器と、第2剤が密封された容器とについて、それぞれの外観を目視観察し、保管前後における第1剤および第2剤の変化の有無やゲル化などの変性について評価した。結果を表7〜表8に示す。
【0184】
6.操作時間の測定
実施例2、6、7、8および9の歯科用接着性組成物について、操作時間を測定した。操作時間の測定は以下の手順で実施した。まず、常温常湿環境下(温度23℃、湿度50%)において、各実施例および比較例の歯科用接着性組成物0.04mlを混和皿に採取した。なお、2液型の歯科用接着性組成物の場合は、第1剤および第2剤を採取すると同時に混和皿にて混合した。続いて、採取時点を0秒として、所定の時間が経過した後に混和皿に採取された歯科用接着性組成物を、ミニブラシを用いて被着体サンプル(屠殺後24時間以内に抜去した牛前歯を、注水下、耐水研磨紙P600で研磨して唇面に平行かつ平坦になるように削り出したエナメル質平面)の表面に塗布した。この塗布テストは、混和皿への歯科用接着性組成物の採取1回に対してミニブラシによる塗布1回を1セットとし、採取から塗布までに要した時間を変える度に、新たに混和皿へ歯科用接着性組成物を採取して、ミニブラシによる塗布を実施した。そして、塗布した際に、ミニブラシにより被着体サンプルの表面上で歯科用接着性組成物をスムーズかつ十分に引き伸ばせるかどうかにより、塗布性が良好かどうかを判断し、良好な塗布性を示す最大時間を操作時間とした。結果を表10に示す。なお、適正な操作時間の目安は60秒以上である。
【0185】
7.補綴物の浮き上がり量の評価
実施例2、6、7、8および9の歯科用接着性組成物について、補綴物の浮き上がり量を評価した。補綴物の浮き上がり量は以下の手順で実施した。まず、窩洞内に顕著な隅角部を有する1級窩洞が形成された樹脂製の模型歯を用いて、窩洞内にコンポジットレジン(エステライトフロークイック、トクヤマデンタル製)を充填し、さらに光照射することでコンポジットレジンを硬化させた。次に、模型歯の窩洞の開口部が形成された側の面を、窩洞内にて硬化したコンポジットレジン(複合樹脂材料からなる補綴物)と共に研磨することで、窩洞内の補綴物の上部表面と、模型歯の窩洞開口部周辺の表面とが完全に面一(段差0μm)となるように研磨した。そして、研磨後、窩洞から補綴物を取り外した。
【0186】
次に、窩洞の内壁面および補綴物の表面(窩洞の内壁面と接触する面)に対して、各実施例および各比較例の歯科用接着性組成物を塗布し、さらにその上に、歯科用レジンセメント(エステセム、トクヤマデンタル製)を塗布し、続いて、窩洞内へ補綴物を挿入して、模型歯に対して補綴物を装着した。なお、2液型の歯科用接着性組成物の場合は、第1剤と第2剤を混和皿上で混合液とし、接着面に塗布した。その後、窩洞と補綴物との接着界面からはみ出た余剰な歯科用レジンセメントを除去し、光照射することにより歯科用レジンセメントを硬化させた。これにより、補綴物の浮き上がり量の評価用サンプルを得た。なお、歯科用接着性組成物および歯科用レジンセメントの塗布作業中、模型歯の温度は口腔内と同等の温度(37℃)に設定した。また、歯科用接着性組成物を窩洞内に塗布した後、窩洞内の隅角部に厚い被膜が形成されるのを抑制するために、約5秒間エアブローを実施した。
【0187】
得られたサンプルについては、レーザ顕微鏡を用いて、模型歯の窩洞開口部周辺の表面と補綴物の上部表面との段差を、補綴物の上部表面の周方向に沿って約90度毎に4箇所測定し、これら4箇所の段差の平均値を、補綴物の浮き上がり量とした。結果を表10に示す。なお、実臨床においては窩洞に対して50μm以上のスペースを設けた大きさで補綴物を作製するため、本試験における補綴物の浮き上がり量が、50μm以下であれば良好と判断される。
【0188】
【表1】
【0189】
【表2】
【0190】
【表3】
【0191】
【表4】
【0192】
【表5】
【0193】
【表6】
【0194】
【表7】
【0195】
【表8】
【0196】
【表9】
【0197】
【表10】