【実施例1】
【0016】
まず、本発明である溶解保持炉を有する鋳造装置について説明する。
図1は、鋳造装置の全体概観を示す正面断面図である。
図1に示すように、鋳造装置100は、固体の材料を加熱して液体にし、それを鋳型に流し込んで冷やして固めることにより、目的の形状に成形する装置である。鋳造装置100は、溶解保持炉200、ヒータ300、材料供給装置400、及び鋳型装置500等を有する。材料としては、主にアルミニウム等の金属又は合金である。
【0017】
溶解保持炉200は、材料供給装置400から供給された材料を、鋳型装置500に送るまで入れておく容器である。溶解保持炉200は、炉槽210、及び蓋材220等を有する。溶解保持炉200は、炉槽210内に材料を入れ、蓋材220に設置したヒータ300で材料の融点より高い温度で加熱して材料を溶解させ、所定の温度で加熱することにより材料を溶解した状態で保持する。なお、溶解炉と保持炉が別々になっていても良い。溶解炉において材料を溶解させ、樋などを介して溶解した材料を保持炉に送り、保持炉において材料を溶解した状態で保持すれば良い。
【0018】
ヒータ300は、材料を加熱、溶解及び保持するための加熱手段である。ヒータ300は、溶解保持炉200の蓋材220に取り付けられ、炉槽210内の材料を上方から加熱する。ヒータ300としては、シースヒータ(シーズヒータ)やマイクロヒータ等の電気ヒータを使用すれば良い。例えば、蓋材220の下面に複数のシースヒータを配置して赤外線により熱輻射させる。
【0019】
材料供給装置400は、材料を溶解保持炉200に送る供給手段である。溶解炉と保持炉が別々になっている場合は、材料供給装置400が溶解炉を備え、溶解保持炉200が保持炉を備えれば良い。溶解炉は、例えば、インゴット等の固体の材料を入れる坩堝と、坩堝内の材料を加熱するためのガスバーナ等を有し、発生した燃焼ガスは排気口410から排出し、材料を溶解させた溶湯600は保持炉に移送されれば良い。なお、溶解炉においてもヒータ300で加熱しても良い。
【0020】
鋳型装置500は、溶解保持炉200に貯留された溶湯600を鋳型に流し込んで、冷やし固めることにより所定の形状に成形する装置である。例えば、溶湯供給手段510が溶解保持炉200から溶湯600を吸入し、鋳型装置500に溶湯600を注入することにより、溶湯600を鋳型内に充填させれば良い。
【0021】
次に、本発明である溶解保持炉について説明する。
図2は、溶解保持炉の概観を示す正面断面図である。
図2に示すように、溶解保持炉200は、固体の材料を溶解させる溶解炉と、液体の材料である溶湯600を保持する保持炉とが一体となった炉槽210を、ヒータ300を配置した蓋材220で塞いだものとする。
容器である。
【0022】
溶解保持炉200の炉槽210に材料としてアルミニウム合金等のインゴット610を投入し、蓋材220を載置してヒータ300で加熱することによりインゴット610を溶解させる。インゴット610が溶解した後の溶湯600は、炉槽210内においてヒータ300により所定の温度で保持される。
【0023】
材料がアルミニウム合金の場合、融点(液相点)が約610℃であることから、約700℃で加熱すれば良い。このとき、溶湯600の表層は温度が高くなり、酸化アルミニウム等の酸化物620が生じやすい。また、炉底の材質でも違うが、例えば一般的レンガ材の場合で示すと、バーナによる加熱では溶湯600の深さが1m深くなるごとに約70℃温度が下がることから、溶湯600の表層と底付近との温度差が大きくなる。従って、溶湯600の表面を加熱する場合、溶解保持炉200は、出来るだけ深さを浅くした方が良い。一般に、溶湯600表層50mm程度と炉底50mm程度は酸化物等が多く鋳造には適さないので、表層や炉底の溶湯600を使用しないで中間層を汲み上げて鋳造に利用するのが良い。
【0024】
ヒータ300として電気ヒータを使用し、物体から放射される波長のピーク値はウィーン(ヴィーン)変位則によって求められる。例えば、約4μmの中赤外線を放射した場合、ヒータ300の温度は、約500℃となる。また、波長が約2.5μmの近赤外線を放射した場合、ヒータ300の温度は、約800℃となる。この温度域になると可視光の赤い色の波長帯も発生し、色々なものが赤く見えて暖かさを感じるようになる。温度を上げて行けばピーク値が短波長にずれて行き、プランクの法則からも明らかなように、約1100℃も超えると紫外線も出てくるようになる。ニッケル基合金のシースヒータの耐熱性は最大1000℃程度であり、これ以下でヒータ設計すべきである。
【0025】
図3は、物質の波長に対する放射率(吸収率)を示す表である。なお、放射率と吸収率は同じ数値である。
図3に示すように、溶湯600の表層に生じた酸化アルミニウム(Al
2O
3)の吸収率は、中赤外線(波長が約4μm)のとき約0.30、近赤外線(波長が約2.5μm)のとき約0.40、近赤外線(波長が約1μm)のとき約0.40である。いずれの波長でも非酸化面に比べれば熱エネルギーの吸収効率は良く、更にアルミニウム合金にはケイ素を含むものが多く、溶湯600表面にできる酸化ケイ素は赤外線の吸収がより良いので単純な酸化アルミニウムより良くなる。溶湯600の表層が良好に加熱されれば、熱伝導の良いアルミニウム合金は底付近まで効率良く熱伝導される。溶湯600の深さが300mmの場合で試験したとき、その中での温度差は4℃程度であった。
【0026】
次に、本発明である溶解保持炉が有するヒータについて説明する。
図4は、ヒータの一部を示す横断面図である。
図4に示すように、ヒータ300は、電気エネルギーを熱エネルギーに変換する電気ヒータとする。ヒータ300は、金属管310、発熱体320、絶縁体330、端子340、コーティング材350等を有する。
【0027】
ヒータ300は、金属管310の内部中央に発熱体320を配置し、金属管310と発熱体320の間に絶縁体330を充填した上で、電気を流すための端子340を発熱体320に繋げたものである。シースヒータの場合、金属管310としてオーステナイト系ステンレス鋼(SUS)等の鉄基合金やインコネル(商標)等のニッケル基合金などを使用し、発熱体320としてニクロム線(80%ニッケル、20%クロム)などを使用し、絶縁体330としてマグネシア(MgO)粉体などを使用すれば良い。
【0028】
金属管310の表面には、コーティング材350を塗布又は溶射する。コーティング材350としては、アルミナより輻射率の良いセラミック等、熱輻射(熱放射)の特性が良好な物質を使用する。輻射電熱は、ヒータ300表面の輻射率と、受熱側である溶湯600表面の輻射率との積で決まる。そのため、ヒータ300表面の輻射率は、1に近い値が望ましい。コーティング材350については、めっき等の表面処理によって薄膜を形成させても良い。
図3に示すように、チタニア等は、遠赤外線をより多く放射する材料である。チタニアの放射率は、遠赤外線(波長が約8μm)のとき約0.90、中赤外線(波長が約5μm)のとき約0.40、近赤外線(波長が約1μm)のとき約0.40であり、ステンレス等よりも高い。
【0029】
金属管310にコーティング材350を溶射する場合、まずニッケル系又はニッケルクロム系の合金を下地材として溶射し、その上に赤外線領域で輻射率の高いセラミックスを溶射すれば良い。コーティング材350によって金属管310の表面の状態を変えることで、熱輻射(熱放射)の効率を向上させることができる。コーティング材350としては、アルミナ単体であると赤外領域における輻射率が良いとは言えないので、ジルコン(ZrSiO
4)やコージライト(2MgO・2Al
2O
3・5SiO
2)等の複合酸化物の遠赤外線放射体を改良した非特許文献1に記載の遷移金属酸化物(鉄、コバルト、マンガン)とコージライトとの複合酸化物が近赤外から遠赤外領域まで高効率で赤外線を放射するセラミックス等が最適である。
【0030】
このように、炉上に設置したヒータ300で、溶湯600の底付近まで加熱するので、材料を効率的に加熱、溶解及び保持することができる。材料に熱吸収されやすい波長帯の赤外線をヒータ300から出すことにより、溶湯600の表層と底付近との温度差を小さくすることができる。また、当該赤外線を熱輻射しやすいコーティング材350をヒータ300の表面に塗布又は溶射することで、より効率良く材料を加熱することができる。
【0031】
以上、本発明の実施例を述べたが、これらに限定されるものではない。例えば、本実施例では、ヒータの表面にセラミック等をコーティングしたが、ヒータの表面を加工して表面粗さを変えることにより熱輻射の効率を向上させても良い。