特許第6851617号(P6851617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ミヤワキの特許一覧

<>
  • 特許6851617-計測装置 図000002
  • 特許6851617-計測装置 図000003
  • 特許6851617-計測装置 図000004
  • 特許6851617-計測装置 図000005
  • 特許6851617-計測装置 図000006
  • 特許6851617-計測装置 図000007
  • 特許6851617-計測装置 図000008
  • 特許6851617-計測装置 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6851617
(24)【登録日】2021年3月12日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01H 11/08 20060101AFI20210322BHJP
   F16T 1/48 20060101ALN20210322BHJP
【FI】
   G01H11/08 Z
   !F16T1/48 D
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-225805(P2016-225805)
(22)【出願日】2016年11月21日
(65)【公開番号】特開2018-84418(P2018-84418A)
(43)【公開日】2018年5月31日
【審査請求日】2019年10月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137889
【氏名又は名称】株式会社ミヤワキ
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100118049
【弁理士】
【氏名又は名称】西谷 浩治
(72)【発明者】
【氏名】片岡 晋也
【審査官】 後藤 順也
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭63−111625(JP,U)
【文献】 特開2015−145856(JP,A)
【文献】 特開平05−126622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00−17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端が計測対象物に押し当てられる探針と、
前記探針に伝達された前記計測対象物の振動の強度を検出する振動センサと、
前記探針に加わる押当力を検出する押当力センサと、
前記押当力センサによって検出された前記押当力が所定範囲内である場合にのみ、前記振動センサによって検出された前記振動の強度を取得する取得部と、
前記計測対象物の表面温度を検出する温度センサと、を備え、
前記取得部は、更に、前記押当力センサによって検出された前記押当力が前記所定範囲内である場合にのみ、前記温度センサによって検出された前記表面温度を取得し、
前記温度センサは、熱電対を備え、
前記熱電対は、
前記探針の先端の近傍において前記探針を取り囲むように設けられた取り囲み部と、
側面視において、前記取り囲み部が前記探針の長手方向に対して傾斜し、且つ、前記押当力が前記所定範囲の下限値であるときの前記探針の先端よりも先端側に前記取り囲み部の先端が存在するように、前記取り囲み部の後端のみを支持する支持部と、
を備え、
前記取り囲み部は、前記側面視における先端に熱接点を備える計測装置。
【請求項2】
前記探針を、前記探針の長手方向に所定の第一距離だけ移動自在に且つ先端側に付勢して保持する本体部と、
一端が前記本体部に取り付けられ、且つ、前記探針の先端を他端から前記長手方向に前記第一距離より短い第二距離だけ突出させた状態で前記探針を覆う筒状の探針カバーと、
を更に備える請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記本体部は、
前記探針の後端に連結された連結部材と、
前記長手方向の一端が前記本体部に固定され、前記長手方向の他端が前記連結部材に接触するように配置された弾性部材と、
を備える請求項2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記押当力センサは、
前記連結部材の前記長手方向の移動距離を検出するフォトインタラプタを備え、
前記フォトインタラプタによって検出された前記移動距離に基づき前記押当力を検出する請求項3に記載の計測装置。
【請求項5】
前記本体部は片手で把持可能であり、
前記本体部における前記本体部が片手で把持された状態で露出する位置に設けられた表示部と、
前記取得部が取得した前記振動の強度を前記表示部に表示する表示制御部と、
を更に備える請求項2から4の何れか一項に記載の計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測対象物の振動の強度を計測する計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、蒸気や復水が流れるスチームトラップや配管等の計測対象物に探針を押し当てて探針に伝達される振動の強度を検出し、当該検出した振動の強度に基づき、計測対象物の状態を診断することが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、閉弁時のスチームトラップに振動プローブを押し当てて当該スチームトラップの振動レベルを検出することが記載されている。そして、当該検出した振動レベルを、当該スチームトラップで使用される蒸気圧力を用いてシール性能劣化値に換算し、当該シール性能劣化値に基づき当該スチームトラップのシール性能を評価することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2954183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の従来技術では、作業者が計測対象物に探針を押し当てた際に探針に加わる力(以降、押当力)に応じて、探針に伝達される振動の強度が異なる。このため、押当力が予め想定していた範囲よりも大きい又は小さいことが原因で、探針に伝達される振動の強度が過度に大きく又は小さくなっているにもかかわらず、当該振動の強度を検出した結果に基づき、計測対象物の状態を誤って診断する虞があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされた発明であり、計測対象物の状態の診断に用いられる、計測対象物の振動の強度を適切に取得できる計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による計測装置は、先端が計測対象物に押し当てられる探針と、前記探針に伝達された前記計測対象物の振動の強度を検出する振動センサと、前記探針に加わる押当力を検出する押当力センサと、前記押当力センサによって検出された前記押当力が所定範囲内である場合にのみ、前記振動センサによって検出された前記振動の強度を取得する取得部と、前記計測対象物の表面温度を検出する温度センサと、を備え、前記取得部は、更に、前記押当力センサによって検出された前記押当力が前記所定範囲内である場合にのみ、前記温度センサによって検出された前記表面温度を取得し、前記温度センサは、熱電対を備え、前記熱電対は、前記探針の先端の近傍において前記探針を取り囲むように設けられた取り囲み部と、側面視において、前記取り囲み部が前記探針の長手方向に対して傾斜し、且つ、前記押当力が前記所定範囲の下限値であるときの前記探針の先端よりも先端側に前記取り囲み部の先端が存在するように、前記取り囲み部の後端のみを支持する支持部と、を備え、前記取り囲み部は、前記側面視における先端に熱接点を備える
【0008】
本構成によれば、押当力が所定範囲内である場合にのみ、振動センサによって検出された振動の強度が取得部によって取得される。このため、押当力が所定範囲内ではないことが原因で、探針に伝達される振動の強度が過度に大きい又は小さい場合に、振動センサによって検出された当該振動の強度を取得することを回避できる。これにより、計測対象物の状態の診断に用いられる、計測対象物の振動の強度を適切に取得できる。
本構成によれば、押当力が所定範囲内になり、計測対象物の診断に適切な振動の強度が得られた場合にのみ、計測対象物の表面温度が更に取得される。このため、計測対象物の診断に適切な振動の強度が得られた場合には、計測対象物の振動の強度だけでなく、計測対象物の表面温度も用いて、計測対象物を診断することができる。これにより、適切な振動の強度のみを用いて計測対象物の状態を診断する場合よりも、診断の精度を向上したり、診断の内容を増加することができる。
本構成によれば、押当力が所定範囲内となるように探針の先端を計測対象物に押し当てる場合に、探針の先端よりも先端側にある熱接点を計測対象物に直接接触させることができる。これにより、熱接点の温度を迅速に計測対象物の表面温度と同じ温度にすることができる。
また、熱接点が計測対象物に接触すると、計測対象物によって熱接点に加えられる力によって、取り囲み部を、取り囲み部の後端を中心にして回動させることができる。これにより、押当力が所定範囲内となるように探針の先端を計測対象物に押し当てている間、熱接点を計測対象物に接触させた状態を維持することができる。
このように、本構成によれば、押当力が所定範囲内となるように探針の先端を計測対象物に押し当てている間、熱接点の温度を迅速に計測対象物の表面温度と同じ温度にし、この状態を維持することで、計測対象物の表面温度を迅速かつ適切に検出することができる。
【0009】
また、前記探針を、前記探針の長手方向に所定の第一距離だけ移動自在に且つ先端側に付勢して保持する本体部と、一端が前記本体部に取り付けられ、且つ、前記探針の先端を他端から前記長手方向に前記第一距離より短い第二距離だけ突出させた状態で前記探針を覆う筒状の探針カバーと、を更に備えてもよい。
【0010】
探針の先端が計測対象物に強く押し当てられ、探針に加わる押当力が大きくなる程、探針が探針の長手方向の後端側へ移動する距離は長くなる。しかし、本構成によれば、探針の先端が計測対象物に強く押し当てられ、探針が長手方向の後端側へ第一距離だけ移動しようとした場合、探針が第二距離だけ移動した時点で探針カバーの他端が計測対象物に衝突し、また、探針は本体部によって先端側へ付勢される。
【0011】
これにより、探針の移動距離を第一距離よりも短い第二距離以下に規制できる。その結果、押当力を、探針の長手方向の後端側への移動距離が第二距離以下となるような所定範囲内に規制できる。
【0012】
また、前記本体部は、前記探針の後端に連結された連結部材と、前記長手方向の一端が前記本体部に固定され、前記長手方向の他端が前記連結部材に接触するように配置された弾性部材と、を備えてもよい。
【0013】
本構成によれば、探針の先端が計測対象物に押し当てられ、探針が長手方向の後端側へ移動した場合に、探針の後端に連結された連結部材が弾性部材に接触する。これにより、探針の先端が計測対象物に押し当てられた場合に探針に加わる衝撃を緩和できる。その結果、探針の損傷を軽減できる。
【0014】
また、前記押当力センサは、前記連結部材の前記長手方向の移動距離を検出するフォトインタラプタを備え、前記フォトインタラプタによって検出された前記移動距離に基づき前記押当力を検出してもよい。
【0015】
連結部材は探針の後端に連結されているので、連結部材の長手方向の移動距離は、探針の長手方向の移動距離と同じになる。つまり、本構成によれば、フォトインタラプタが検出した連結部材の長手方向の移動距離によって、探針に加えられた押当力で探針が長手方向に移動した距離を適切に把握することができる。これにより、当該検出した移動距離に基づき、探針を当該検出した移動距離だけ長手方向に移動させるために探針に加えられた押当力を適切に検出することができる。
【0016】
また、前記本体部は片手で把持可能であり、前記本体部における前記本体部が片手で把持された状態で露出する位置に設けられた表示部と、前記取得部が取得した前記振動の強度を前記表示部に表示する表示制御部と、を更に備えてもよい。
【0017】
本構成によれば、作業者は、本体部を片手で把持した状態で、取得部によって取得された振動の強度が表示部に表示されているか否かを視認しながら、探針の先端を計測対象物に押し当てることができる。このため、作業者は、押圧力が所定範囲内になることで、振動の強度が取得部によって取得されるようになり、当該取得された振動の強度が表示部に表示されるよう、効率よく、探針の先端を計測対象物に押し当てることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、計測対象物の状態の診断に用いられる、計測対象物の振動の強度を適切に取得できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係る計測装置の一実施形態である計測装置を備えた計測診断装置の構成の一例を示すブロック図である。
図2】(A)は計測装置の外観の平面図の一例であり、(B)は計測装置の外観の右側面図の一例である。
図3図2(A)のA−A矢視断面図における探針付近を拡大した拡大図である。
図4】(A)は探針の先端近傍の平面図を拡大した図であり、(B)は探針の先端近傍の右側面図を拡大した図であり、(C)は探針の先端近傍の正面図を拡大した図である。
図5】(A)〜(C)は、フォトインタラプタによる連結部材の移動距離の検出動作時におけるフォトインタラプタ近傍の平面図を拡大した図である。
図6】計測対象物の振動の強度及び表面温度を取得する動作の一例を示すフローチャートである。
図7】計測対象物の振動の強度及び表面温度を取得する動作の一例を示すフローチャートである。
図8】計測対象物が正常な状態である場合において、探針の先端を計測対象物に押し当てた際に探針に加えられた押当力と、振動センサによって検出された振動の強度と、の関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(実施形態)
(計測診断装置100の構成)
以下、本発明に係る計測装置の一実施形態である計測装置1を備えた計測診断装置100について説明する。図1は、本発明に係る計測装置の一実施形態である計測装置1を備えた計測診断装置100の構成の一例を示すブロック図である。
【0027】
図1に示すように、計測診断装置100は、互いに無線通信可能な計測装置1及び診断装置9を備えている。
【0028】
計測装置1は、蒸気や復水が流れるスチームトラップや配管等の計測対象物の振動の強度及び表面温度を取得し、当該取得した計測対象物の振動の強度及び表面温度を診断装置9へ送信する。
【0029】
具体的には、計測装置1は、先端が計測対象物に押し当てられる探針10と、振動センサ2と、温度センサ3と、押当力センサ4と、制御部5と、操作部11と、表示部12と、通信部13と、記憶部14と、を備えている。
【0030】
振動センサ2は、探針10に伝達された計測対象物の振動の強度を検出する。具体的には、振動センサ2は、圧電素子21と、振動測定回路22と、を備えている。
【0031】
圧電素子21は、探針10から伝達される振動の強度に応じた電気信号を出力する。振動測定回路22は、圧電素子21が出力した電気信号をA/D(アナログ/デジタル)変換し、当該変換後の振動の強度を示すデータを制御部5へ出力する。
【0032】
温度センサ3は、計測対象物の表面温度を検出する。具体的には、温度センサ3は、熱電対31と、温度測定回路32と、を備えている。
【0033】
熱電対31は、二本の熱電対素線を備え、探針10の先端が計測対象物に押し当てられた場合に、前記二本の熱電対素線の一端同士を接合した熱接点が計測対象物に接触するように構成されている。熱電対31の構造については後述する。
【0034】
温度測定回路32は、前記二本の熱電対素線の他端間の電位差に基づき、計測対象物において前記熱接点が接触している部分の温度を算出し、当該算出した温度を計測対象物の表面温度として検出する。そして、温度測定回路32は、当該検出した表面温度を示すデータを制御部5へ出力する。
【0035】
押当力センサ4は、探針10に加わる力(以降、押当力)を検出する。具体的には、押当力センサ4は、フォトインタラプタ41と、押当力測定回路42と、を備えている。
【0036】
フォトインタラプタ41は、押当力によって後述の連結部材611が探針10の長手方向に移動した距離(以降、移動距離)を検出し、当該検出した移動距離に応じた電気信号を出力する。
【0037】
押当力測定回路42は、フォトインタラプタ41が出力した電気信号をA/D変換し、当該変換後のデータが示す移動距離に基づき、連結部材611を当該移動距離だけ移動させるために探針10に加えられた押当力を検出する。そして、押当力測定回路42は、当該検出した押当力を示すデータを制御部5へ出力する。押当力センサ4による押当力の検出方法の詳細については後述する。
【0038】
制御部5は、計測装置1の各部を統括制御する。具体的には、制御部5は、例えば、所定の演算処理を実行する不図示のCPU(Central Processing Unit)と、所定の制御プログラムが記憶されたEEPROM等の不図示の不揮発性メモリと、データを一時的に記憶するための不図示のRAM(Random Access Memory)と、これらの周辺回路と、を備えている。
【0039】
制御部5は、不揮発性メモリ等に記憶された制御プログラムをCPUに実行させることにより、計測装置1の各部を統括制御する。制御部5は、計測装置1の各部を統括制御するに当たり、例えば、取得部51及び表示制御部52として動作する。
【0040】
取得部51は、押当力センサ4によって検出された押当力が所定範囲内である場合にのみ、振動センサ2によって検出された振動の強度及び温度センサ3によって検出された計測対象物の表面温度を取得する。
【0041】
表示制御部52は、取得部51が取得した振動の強度や表面温度を後述の表示部12に表示する。取得部51及び表示制御部52の動作については後述する。
【0042】
操作部11は、計測装置1に対する各種指示を作業者に入力させるためのスイッチを備えている。スイッチは、例えば、メンブレンスイッチやメカニカルスイッチによって構成されている。操作部11は、作業者によってスイッチが操作されると、当該スイッチに対応付けられた指示を示す信号を制御部5へ出力する。
【0043】
表示部12は、液晶ディスプレイによって構成されている。表示部12には、制御部5による制御の下、計測装置1の操作画面、振動センサ2より検出された計測対象物の振動の強度、温度センサ3より検出された計測対象物の表面温度及び診断装置9から受信した診断結果等の各種情報が表示される。
【0044】
通信部13は、診断装置9との間で無線通信を行うための不図示の通信インターフェイス回路を備えている。通信部13は、制御部5による制御の下、前記通信インターフェイス回路を用いて、計測装置1において取得された計測対象物の振動の強度及び表面温度を診断装置9へ送信する。また、通信部13は、診断装置9が計測装置1へ返信した後述の診断結果が前記通信インターフェイス回路によって受信されると、当該受信された診断結果を制御部5へ出力する。
【0045】
記憶部14は、不揮発性メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、或いはSSD(Solid State Drive)等が有する記憶領域の一部によって構成されている。記憶部14には、表示部12に表示される各種情報や、制御部5による制御に必要なデータが記憶されている。また、記憶部14には、制御部5による制御の下、各種データが記憶される。
【0046】
診断装置9は、タブレット端末やノートパソコン等の無線通信可能な情報処理装置である。診断装置9は、計測装置1によって送信された計測対象物の振動の強度及び表面温度を所定数受信すると、当該受信した所定数の振動の強度及び表面温度を用いて、公知の診断処理を行う。これにより、診断装置9は、計測対象物が正常な状態であるか否かを診断し、当該診断の結果(以降、診断結果)を計測装置1へ返信する。
【0047】
尚、診断装置9は、受信した所定数の振動の強度及び表面温度を用いて計測対象物が異常な状態であると診断した場合に、例えば、当該異常の程度(例えば、中(M)等)や当該診断に用いた温度等の当該異常に関連する情報を更に生成してもよい。そして、診断装置9は、当該生成した情報を、前記診断結果に含めて計測装置1へ返信するようにしてもよい。
【0048】
(計測装置1の構造)
次に、計測装置1の構造について詳述する。図2(A)は計測装置1の外観の平面図の一例であり、(B)は計測装置1の外観の右側面図の一例である。図2(A)及び図2(B)に示すように、計測装置1は、本体部61と、探針カバー62と、を備えている。
【0049】
本体部61は、片手で把持可能な形状を有している。例えば、本体部61は、右手の親指を本体部61の上面に当て、右手の残りの指を本体部61の底面に当てて握ることにより、右手で把持可能となっている。また、本体部61は、左手の親指を本体部61の底面に当て、左手の残りの指を本体部61の上面に当てて握ることにより、左手で把持することもできる。また、このようにして、本体部61における本体部61が片手で把持された状態で露出する位置には、操作部11(図1)及び表示部12(図1)が設けられている。
【0050】
図3は、図2(A)のA−A矢視断面図における探針10付近を拡大した拡大図である。また、図3に示すように、本体部61は、その内部において、探針10を、探針10の長手方向(以降、Y方向)に第一距離L1移動自在に、且つ、Y方向における先端側(以降、+Y方向)に付勢して保持するように構成されている。
【0051】
具体的には、本体部61は、連結部材611と、弾性部材612と、支持板613と、を備えている。
【0052】
連結部材611は、中空部に隔壁6111を備えた筒状の形状を有している。連結部材611の+Y方向の一端は、探針10の後端に取り付けられた圧電素子21(図1)を、連結部材611の隔壁6111よりも+Y方向側の中空部に収容するようにして、探針10の後端に連結されている。
【0053】
弾性部材612は、所定方向に第一距離L1だけ縮むことが可能なコイル状のばねによって構成されている。尚、弾性部材612は、これに限らず、所定方向に第一距離L1だけ縮むことが可能なゴム等の弾性素材によって構成してもよい。弾性部材612は、Y方向における後端側(以降、−Y方向)の一端が支持板613に固定されている。また、弾性部材612は、+Y方向の一部が連結部材611の隔壁6111よりも−Y方向側の中空部に収容され、+Y方向の一端(他端)が隔壁6111に接触するように配置されている。
【0054】
また、弾性部材612は、縮んだ状態になると、元の形状に戻ろうとして、隔壁6111を+Y方向に付勢する。その結果、連結部材611に連結された探針10は+Y方向に移動する。このようにして、本体部61は、探針10を、Y方向に第一距離L1だけ移動自在に、且つ、+Y方向に付勢して保持する。
【0055】
つまり、探針10の先端が計測対象物に押し当てられると、探針10の先端に−Y方向の押当力が加わり、探針10は−Y方向に移動する。このとき、弾性部材612は、隔壁6111によって−Y方向に押され、−Y方向に第一距離L1だけ縮むことができる。これにより、探針10の先端が計測対象物に押し当てられた場合に探針10に加わる衝撃を緩和できる。その結果、探針10の損傷を軽減できる。
【0056】
一方、図2(A)、図2(B)及び図3に示すように、探針カバー62は、筒状の形状を有し、一端621が本体部61に取り付けられている。探針カバー62のY方向の長さは、本体部61側の一端621から探針10の先端までのY方向の長さよりも、第二距離L2だけ短くなるように構成されている。尚、第二距離L2は、第一距離L1よりも短い距離である。これにより、探針カバー62は、探針10の先端を他端622から第一距離L1よりも短い第二距離L2突出させた状態で探針10を覆うように形成されている。
【0057】
探針10の先端が計測対象物に強く押し当てられ、探針10に加わる押当力が大きくなる程、探針10が−Y方向へ移動する距離は長くなる。しかし、本実施形態の構成によれば、探針10の先端が計測対象物に強く押し当てられ、探針10が−Y方向へ第一距離L1だけ移動しようとした場合、探針10が第二距離L2移動した時点で探針カバー62の他端622が計測対象物に衝突し、また、探針10は本体部61によって+Y方向へ付勢される。
【0058】
これにより、探針10の移動距離を第一距離L1よりも短い第二距離L2以下に規制できる。その結果、押当力を、探針10の−Y方向への移動距離が第二距離L2以下となるような所定範囲内に規制できる。
【0059】
(熱電対31の構造)
次に、熱電対31の構造について詳述する。図4(A)は、探針10の先端近傍の平面図を拡大した図である。図4(B)は、探針10の先端近傍の右側面図を拡大した図である。図4(C)は、探針10の先端近傍の正面図を拡大した図である。
【0060】
熱電対31は、図4(A)〜(C)に示すように、取り囲み部34と、支持部35と、を備えている。
【0061】
取り囲み部34は、図4(A)及び図4(C)に示すように、探針10の先端の近傍において、薄板状の二本の熱電対素線311、312によって環状に探針10を取り囲むようにして形成されている。尚、これに限らず、薄板状の二本の熱電対素線311、312によって、三角形やひし形等の多角形の形状となるように探針10を取り囲むことで、取り囲み部34を形成してもよい。二本の熱電対素線311、312は、互いに異なる材質の金属線で構成されている。例えば、熱電対素線311はクロメル線、熱電対素線312はアルメル線によって構成されている。
【0062】
また、取り囲み部34は、図4(B)に示すように、側面視における先端348に、薄板状の二本の熱電対素線311、312の一端同士を接合してなる熱接点341を備えている。側面視とは、Y方向と直交する方向(図2(A)におけるA−A矢視方向)に計測装置1(図2(A))を見たことを示す。一方、側面視における取り囲み部34の後端349は、図4(A)及び図4(C)に示すように、熱電対素線311の一端349aと熱電対素線312の一端349bとによって構成されている。
【0063】
支持部35は、図4(B)に示すように、側面視において、取り囲み部34がY方向に対して傾斜し、且つ、探針カバー62の他端(+Y方向側の一端)622よりも先端側に取り囲み部34の先端348が存在するように、取り囲み部34の後端349のみを支持する。
【0064】
具体的には、支持部35は、図4(A)に示すように、熱電対素線311と同じ材質の熱電対素線351と、熱電対素線312と同じ材質の熱電対素線352と、を備えている。
【0065】
熱電対素線351は、図4(A)に示すように、Y方向に延びるようにして、探針カバー62内に取り付けられている。熱電対素線351は、ガラス繊維やフッ素樹脂等の被覆材33によって被覆されている。熱電対素線351の一端は、熱電対素線311の一端349aと連結され、熱電対素線351の不図示の他端は、本体部61の内部に設けられた温度測定回路32(図1)と接続されている。これと同様に、熱電対素線352は、Y方向に延びるようにして、探針カバー62内に取り付けられ、被覆材33によって被覆されている。熱電対素線352の一端は、熱電対素線312の一端349bと連結され、熱電対素線352の不図示の他端は、温度測定回路32(図1)と接続されている。つまり、支持部35は、二本の熱電対素線351、352の一端によって、熱電対素線311の一端349aと熱電対素線312の一端349bとによって構成される取り囲み部34の後端349のみを支持している。
【0066】
また、熱電対素線352の一端は、図4(A)及び図4(B)に示すように、側面視における取り囲み部34と熱電対素線352とがなす探針10側の挟角θが90度以上180度未満となるようにして、熱電対素線312の一端349bと連結されている。更に、熱電対素線352の一端は、側面視において、探針カバー62の他端622よりも+Y方向側に取り囲み部34の先端348が存在するように、熱電対素線312の一端349bと連結されている。尚、熱電対素線352の一端と熱電対素線312の一端349bの連結は、熱電対素線352と熱電対素線312とを別の部材で構成し、当該部材の一端同士を接合することで実現してもよいし、一の部材を折り曲げて、当該折り曲げた箇所を熱電対素線352及び熱電対素線312の一端とすることで実現してもよい。これと同様にして、熱電対素線351の一端は、熱電対素線311の一端349aと連結されている。つまり、探針カバー62が、取り囲み部34の先端348に存在する熱接点341を、探針カバー62の他端622から+Y方向に突出させた状態で熱電対31を覆うようになっている。
【0067】
本実施形態の構成によれば、作業者が探針10の先端を計測対象物に押し当てて、探針10の先端を探針カバー62の他端622まで移動させる場合に、探針カバー62の他端622よりも先端側にある熱接点341を計測対象物に直接接触させることができる。これにより、熱接点341の温度を迅速に計測対象物の表面温度と同じ温度にすることができる。
【0068】
また、熱接点341が計測対象物に接触すると、計測対象物によって熱接点341に加えられる力によって、取り囲み部34を、取り囲み部34の後端349を中心にして回動させることができる。これにより、探針10の先端が探針カバー62の他端622の位置に存在する間、熱接点341を計測対象物に接触させた状態を維持することができる。
【0069】
また、取り囲み部34は、薄板状の二本の熱電対素線311、312によって探針10を取り囲むように形成されている。このため、取り囲み部34の先端348にある熱接点341が計測対象物に接触し、取り囲み部34が取り囲み部34の後端349を中心にして回動する場合に、薄板状の二本の熱電対素線311、312の弾性力によって回動方向とは反対の方向に熱接点341を付勢することができる。これにより、熱接点341が計測対象物に接触した状態を維持することができる。
【0070】
このように、本実施形態の構成によれば、探針10の先端が探針カバー62の他端622の位置に存在する間、熱接点341の温度を迅速に計測対象物の表面温度と同じ温度にし、この状態を維持することで、計測対象物の表面温度を迅速かつ適切に検出することができる。
【0071】
また、本実施形態の構成によれば、探針カバー62の他端622から突出した状態にある熱接点341を強く計測対象物に押し当てた場合に、探針カバー62の他端622を計測対象物に衝突させて、取り囲み部34が回動する距離を制限することができる。これにより、取り囲み部34が回動するときの中心となる取り囲み部34の後端349にかかる負担を軽減することができる。その結果、取り囲み部34の後端349の劣化を抑制することができる。
【0072】
(押当力センサ4による押当力の検出方法)
次に、押当力センサ4による押当力の検出方法について説明する。図5(A)〜(C)は、フォトインタラプタ41による連結部材611の移動距離の検出動作時におけるフォトインタラプタ41近傍の平面図を拡大した図である。図5(A)〜(C)に示すように、フォトインタラプタ41は、発光素子411と受光素子412とを備えている。
【0073】
発光素子411及び受光素子412の−Y方向の一端は、弾性部材612(図3)と同様、支持板613(図3)に取り付けられている。発光素子411は、受光素子412に向けて所定の光量の光を照射する。受光素子412は、受光した光の光量を示す電気信号を押当力測定回路42(図1)へ出力する。
【0074】
また、図3及び図5(A)〜(C)に示すように、連結部材611の外周部の−Y方向の一端には、発光素子411と受光素子412との間に移動可能な遮光壁6112が設けられている。
【0075】
具体的には、図5(A)に示すように、遮光壁6112は、探針10の先端が計測対象物に押し当てられていず、探針10が−Y方向に移動していない場合に、−Y方向の一端が支持板613から+Y方向に第一距離L1離間した位置に存在するように設けられている。
【0076】
探針10の先端が計測対象物に押し当てられると、探針10の先端に−Y方向の押当力が加わり、探針10は−Y方向に移動する。これに合わせて、探針10の後端に連結された連結部材611が−Y方向に移動すると、遮光壁6112は、図5(B)に示すように、発光素子411と受光素子412との間に移動する。これにより、遮光壁6112は、発光素子411から照射された光を遮光する。このとき、受光素子412は、発光素子411から照射された光のうち、遮光壁6112によって遮光されていない光の光量を示す電気信号を押当力測定回路42(図1)へ出力する。
【0077】
尚、連結部材611が−Y方向に第一距離L1だけ移動すると、図5(C)に示すように、遮光壁6112の−Y方向の一端は、支持板613に接触して停止する。この場合、受光素子412は、発光素子411から照射された光が全て遮光されるので、光量「0」を示す電気信号を押当力測定回路42(図1)へ出力する。
【0078】
つまり、図5(B)及び図5(C)に示すように、連結部材611の−Y方向の移動距離が長くなる程、遮光壁6112によって遮光される光の光量が多くなる。このため、受光素子412は、連結部材611の−Y方向の移動距離が長くなる程、小さい光量を示す電気信号を出力する。
【0079】
このようにして、フォトインタラプタ41は、受光素子412によって受光される光の光量に基づき、連結部材611の−Y方向の移動距離を検出し、当該検出した移動距離が長い程、小さい光量を示す電気信号を出力する。
【0080】
尚、押当力測定回路42(図1)は、上述のように、フォトインタラプタ41が出力した電気信号をA/D変換し、当該変換後のデータが示す移動距離に基づき、連結部材611を当該移動距離だけ移動させるために探針10に加えられた押当力を検出する。
【0081】
具体的には、探針10に加えられた−Y方向の押当力が大きい程、探針10の−Y方向への移動距離は長くなり、連結部材611の−Y方向への移動距離も長くなる。そこで、押当力測定回路42は、前記変換後のデータが小さい程、つまり、フォトインタラプタ41によって検出された連結部材611の−Y方向の移動距離が長い程、大きくなるように押当力を検出する。
【0082】
例えば、押当力測定回路42は、図5(C)に示すように、連結部材611を−Y方向に第一距離L1だけ移動させるのに必要な押当力を示す定数から、前記変換後のデータを減算した結果(=定数−変換後のデータ)を押当力として検出する。
【0083】
そして、押当力測定回路42(図1)は、当該検出した押当力を示すデータを制御部5へ出力する。
【0084】
連結部材611は探針10の後端に連結されているので、連結部材611のY方向の移動距離は、探針10のY方向の移動距離と同じになる。つまり、本実施形態の押当力センサ4によれば、フォトインタラプタ41が検出した連結部材611のY方向の移動距離によって、探針10に加えられた押当力で探針10がY方向に移動した距離を適切に把握することができる。これにより、当該検出した移動距離に基づき、探針10を当該検出した移動距離だけY方向に移動させるために探針10に加えられた押当力を適切に検出することができる。
【0085】
(計測対象物の振動の強度及び表面温度を取得する動作)
次に、計測対象物の振動の強度及び表面温度を取得する動作について説明する。図6及び図7は、計測対象物の振動の強度及び表面温度を取得する動作の一例を示すフローチャートである。
【0086】
図6に示すように、計測装置1が起動すると、表示制御部52は、起動画面を表示部12に表示する(S11)。起動画面には、計測装置1の製造会社のロゴ等が含まれる。
【0087】
次に、表示制御部52は、診断装置9から一の計測対象物に関する情報(以降、計測対象物情報)を取得する(S12)。計測対象物情報には、当該一の計測対象物の製品名、当該一の計測対象物の種類(例えば、フロート型スチームトラップ、蒸気バイパス等)、当該一の計測対象物の使用条件(例えば、計測対象物に流れる流体の温度や圧力等)、当該一の計測対象物が配置されている場所を示す情報等が含まれる。
【0088】
具体的には、S12において、表示制御部52は、通信部13(図1)によって、一の計測対象物情報の送信を要求する信号(以降、要求信号)を診断装置9に送信させる。診断装置9は、当該要求信号を受信すると、当該一の計測対象物情報を計測装置1へ返信する。表示制御部52は、当該返信された一の計測対象物情報を取得する。
【0089】
次に、表示制御部52は、一の計測対象物情報の表示欄を備えた診断画面を表示部12に表示し、S12で取得した一の計測対象物情報を前記診断画面の前記表示欄に表示する(S13)。
【0090】
尚、診断画面が表示部12に表示されている場合に、作業者によって、操作部11が備えるスイッチ111(図2(B))(又はスイッチ112(図3))が押下操作されたとする。この場合、表示制御部52は、S12と同様にして、前記診断画面の前記表示欄に表示されている計測対象物情報の前(又は次)の計測対象物情報を診断装置9から取得し、当該取得した計測対象物情報を当該表示欄に表示する。
【0091】
また、診断画面が表示部12に表示されている場合に、作業者によって、操作部11が備えるスイッチ113(図2(B))が押下操作されたとする。この場合、表示制御部52は、診断画面に代えて計測画面を表示部12に表示する。尚、計測画面には、取得部51が取得した計測対象物の振動の強度及び表面温度や、当該振動の強度の時系列変化を示すグラフ等の表示欄が含まれる。表示制御部52は、表示部12に表示する画面を計測画面に切り替えた後、当該計測画面の前記表示欄に、取得部51が取得した計測対象物の振動の強度及び表面温度や、当該振動の強度の時系列変化を示すグラフを表示する。
【0092】
次に、押当力センサ4は、押当力の検出を開始する(S14)。そして、取得部51は、押当力センサ4によって検出された押当力が所定範囲に到達するまで待機する(S15;NO)。
【0093】
尚、所定範囲の下限値は、例えば、探針10を−Y方向へ第二距離L2(図3)移動させるために探針10に加えられる押当力に定められている。具体的には、探針カバー62の他端622(図4(B))が計測対象物に接触するように、探針10の先端を計測対象物に押し当てたとする。この場合、探針10の先端は、側面視において探針カバー62の他端622(図4(B))の位置まで移動するので、探針10が−Y方向へ移動した距離は、第二距離L2(図4(B))となる。
【0094】
このように、探針カバー62の他端622(図4(B))を計測対象物に接触させ、探針10の先端を側面視における探針カバー62の他端622(図4(B))の位置まで移動させるために、探針10に加えられる押当力が所定範囲の下限値として定められている。したがって、押当力が所定範囲の下限値である場合、探針10の先端は、側面視における探針カバー62の他端622(図4(B))の位置まで移動することになる。
【0095】
つまり、S15において、取得部51は、探針カバー62の他端622(図4(B))が計測対象物に接触することによって、押当力が所定範囲の下限値になるまで待機する。
【0096】
一方、所定範囲の上限値は、探針10を−Y方向へ、第一距離L1(図3図5(A)〜(C))よりも短く、且つ、第二距離L2よりも長い所定距離移動させるために、探針10に加えられる押当力に定められている。
【0097】
押当力センサ4によって検出された押当力が所定範囲に到達すると(S15;YES)、制御部5は、通信部13(図1)によって、計測対象物の振動の強度及び表面温度の計測を開始することを示す通知信号を診断装置9へ送信させる(S16)。
【0098】
尚、診断装置9は、S16で送信された通知信号を受信すると、所定のタイミングで、計測対象物の振動の強度及び表面温度の送信を要求する信号(以降、送信要求信号)を計測装置1へ送信する。また、診断装置9は、計測対象物の状態の診断に必要な所定数の振動の強度及び表面温度を計測装置1から受信すると、計測対象物の診断に必要なデータの受信が完了したことを示す信号(以降、受信完了信号)を計測装置1へ返信する。
【0099】
S16が実行されると、図7に示すように、取得部51は、振動センサ2によって検出された計測対象物の振動の強度を取得し、当該取得した振動の強度を記憶部14に記憶する(S21)。また、取得部51は、温度センサ3によって検出された計測対象物の表面温度を取得し、当該取得した表面温度を記憶部14に記憶する(S22)。
【0100】
尚、表示制御部52は、表示部12に前記計測画面が表示されている場合は、S21及びS22で取得した計測対象物の振動の強度及び表面温度と、当該振動の強度の時系列変化を示すグラフと、を前記計測画面の前記表示欄に表示する(S23)。
【0101】
そして、診断装置9によって送信された前記送信要求信号が通信部13によって受信されていた場合(S24;YES)、制御部5は、記憶部14に記憶されている計測対象物の振動の強度及び表面温度を通信部13(図1)によって診断装置9へ送信させる(S25)。一方、前記送信要求信号が通信部13によって受信されていなかった場合(S24;NO)、制御部5は、処理をS26に移行する。
【0102】
その後、押当力センサ4によって検出された押当力が所定範囲内であるが(S26;YES)、診断装置9によって送信された計測対象物の状態の診断結果が、通信部13によって受信されていなかったとする(S27;NO)。この場合、制御部5は処理をS21に戻す。その後は、S21以降の処理が行われる。
【0103】
一方、押当力センサ4によって検出された押当力が所定範囲内であり(S26;YES)、且つ、診断装置9によって送信された計測対象物の状態の診断結果が、通信部13によって受信されていたとする(S27;YES)。この場合、表示制御部52は、表示部12に前記診断画面が表示されているときには、当該受信されていた診断結果を前記診断画面の前記表示欄に表示し(S28)、処理を終了する。
【0104】
また、押当力センサ4によって検出された押当力が所定範囲よりも小さくなり又は大きくなり、当該押当力が所定範囲内ではなくなったとする(S26;NO)。そして、この場合に、前記受信完了信号が通信部13によって受信されていなかったとする(S29;NO)。つまり、診断装置9において計測対象物の状態の診断に必要な所定数の計測対象物の振動の強度及び表面温度の受信が完了していないうちに、押当力が所定範囲内ではなくなったとする。この場合、診断装置9は計測対象物の状態を診断できなくなる。このため、制御部5は、所定のエラー処理を実行し(S30)、処理を終了する。尚、制御部5は、S30のエラー処理において、例えば、押当力が所定範囲内ではなくなった旨の警告メッセージを表示部12に表示する。
【0105】
一方、押当力センサ4によって検出された押当力が所定範囲内ではなくなったが(S26;NO)、前記受信完了信号が通信部13によって受信されていたとする(S29;YES)。この場合、診断装置9において計測対象物の状態の診断に必要な所定数の計測対象物の振動の強度及び表面温度の受信が完了しているので、制御部5は、診断装置9によって送信された計測対象物の状態の診断結果が、通信部13によって受信されるまで待機する(S31;NO)。そして、診断装置9によって送信された計測対象物の状態の診断結果が通信部13によって受信されると(S31;YES)、表示制御部52はS28を実行した後(S28)、処理を終了する。
【0106】
以下、本実施形態の構成により奏する効果について説明する。図8は、計測対象物が正常な状態である場合において、探針10の先端を計測対象物に押し当てた際に探針10に加えられた押当力と、振動センサ2によって検出された振動の強度と、の関係の一例を示すグラフである。
【0107】
計測対象物が正常な状態であっても、作業者が計測対象物に探針10を押し当てた際の押当力に応じて、探針10に伝達される振動の強度は異なる。このため、例えば、図8に示すように、押当力が範囲FR1で変動すると、これに応じて、振動センサ2によって検出される振動の強度は、範囲LR1で変動する。ここで、S15(図6)及びS26(図7)で用いる所定範囲が、図8に示す範囲FR0であるとする。また、計測対象物の状態が正常な状態である場合に、押当力が範囲FR0内となるように計測対象物に探針10の先端を押し当てたとき、振動センサ2によって検出される振動の強度は図8に示す範囲LR0内であるとする。
【0108】
この場合、計測対象物の状態が正常な状態であっても、範囲FR0よりも大きい押当力が探針10に加えられたことが原因で、範囲LR0よりも大きい振動の強度が検出される虞がある。これにより、診断装置9は、当該検出された振動の強度に基づき、計測対象物が不良な状態であると誤って診断する虞がある。
【0109】
また、範囲FR0よりも小さい押当力が探針10に加えられた場合であっても、計測対象物が不良な状態にあり、計測対象物の振動の強度が正常時よりも大きいことが原因で、範囲LR0内の振動の強度が検出される虞がある。これにより、診断装置9は、当該検出された振動の強度に基づき、計測対象物が正常な状態であると誤って診断する虞がある。
【0110】
しかし、本実施形態の構成によれば、押当力センサ4によって検出された押当力が所定範囲FR0内である場合にのみ、振動センサ2によって検出された振動の強度が取得部51によって取得される。このため、押当力が所定範囲FR0内ではないことが原因で、探針10に伝達される振動の強度が範囲LR0内ではない場合に、振動センサ2によって検出された振動の強度を取得することを回避できる。これにより、計測対象物の状態の診断に用いられる、計測対象物の振動の強度を適切に取得できる。
【0111】
また、本実施形態の構成によれば、押当力が所定範囲FR0内になり、計測対象物の診断に適切な振動の強度が得られた場合にのみ、計測対象物の表面温度が更に取得される。このため、計測対象物の診断に適切な振動の強度が得られた場合には、計測対象物の振動の強度だけでなく、計測対象物の表面温度も用いて、計測対象物を診断することができる。これにより、適切な振動の強度のみを用いて計測対象物の状態を診断する場合よりも、診断の精度を向上したり、診断の内容を増加することができる。
【0112】
また、本実施形態の構成によれば、作業者は、本体部61を片手で把持した状態で、取得部51によって取得された振動の強度が表示部12に表示されているか否かを視認しながら、探針10の先端を計測対象物に押し当てることができる。このため、作業者は、押当力が所定範囲内になることで、振動の強度が取得部51によって取得されるようになり、当該取得された振動の強度が表示部12に表示されるよう、効率よく、探針10の先端を計測対象物に押し当てることができる。
【0113】
(変形実施形態)
尚、上記実施形態は、本発明に係る実施形態の例示に過ぎず、本発明を上記実施形態に限定する趣旨ではない。例えば、以下に示す変形実施形態であってもよい。
【0114】
(1)熱電対31は、図3図4(A)〜(C)に示した構造に限らない。例えば、側面視において、取り囲み部34の先端348が、探針カバー62の他端622と同じ位置に存在するようにしてもよい。また、取り囲み部34は、薄板状の二本の熱電対素線311、312に限らず、薄板状ではない二本の熱電対素線によって探針10を取り囲むようにして形成してもよい。または、熱電対31は、支持部35において、取り囲み部34に代えて、二本の熱電対素線311、312のうちのいずれか一の熱電対素線と同じ素材で構成された、探針10を取り囲む形状を有する接触板を保持するようにしてもよい。そして、当該接触板上に、他の熱電対素線の一端と接合してなる熱接点を備えるようにしてもよい。
【0115】
(2)計測装置1に温度センサ3(図1)を備えないようにし、S22(図7)を省略してもよい。これに合わせて、前記計測画面に計測対象物の表面温度の表示欄を設けないようにし、S23(図7)において、表示制御部52が計測対象物の振動の強度のみを表示するようにしてもよい。また、S25(図7)において、制御部5が計測対象物の振動の強度のみを送信するようにしてもよい。また、診断装置9が計測対象物の表面温度を用いず、計測対象物の振動の強度のみを用いて、計測対象物の状態を診断するようにしてもよい。
【0116】
(3)本体部61の形状は、図2(B)に示したような、片手で把持可能な形状に限らず、片手で把持できない大きさを有する形状であってもよい。または、表示部12及び操作部11は、図2(B)に示す本体部61の側面における本体部61が片手で把持された状態で露出する位置に代えて、当該側面とは反対側の本体部61の側面における同様の位置に設けてもよい。
【0117】
(4)遮光壁6112(図3図5(A))は、探針10の先端が計測対象物に押し当てられていず、探針10が−Y方向に移動していない場合に、−Y方向の一端が支持板613から+Y方向に、第二距離L2(図3)離間した位置に存在するように設けてもよい。つまり、連結部材611が−Y方向に第二距離L2だけ移動した場合に、遮光壁6112の−Y方向の一端が支持板613に接触して停止するようにしてもよい。
【0118】
または、遮光壁6112は、探針10が−Y方向に移動していない場合に、−Y方向の一端が支持板613から+Y方向に、第二距離L2よりも長く、且つ、第一距離L1よりも短い距離離間した位置に存在するように設けてもよい。
【0119】
(5)圧電素子21(図3)は、探針10の後端に限らず、探針10の周面に取り付けてもよい。これに合わせて、連結部材611の隔壁6111を探針10の後端と当接するように設けてもよい。
【0120】
(6)本体部61(図3)が探針10を固定して保持するようにしてもよい。具体的には、連結部材611(図3)の−Y方向の一端を固定して保持する支持板を本体部61の内部に設けてもよい。或いは、連結部材611(図3)を備えないようにし、圧電素子21(図3)の−Y方向の一端を固定して保持する支持板を本体部61の内部に設けてもよい。
【0121】
ただし、この構成の場合、探針10がY方向に移動しなくなるので、押当力センサ4(図1)は、フォトインタラプタ41(図3)による連結部材611(図3)のY方向の移動距離の検出結果に基づいて押当力を検出することができなくなる。そこで、この構成の場合、計測装置1に、押当力センサ4(フォトインタラプタ41及び押当力測定回路42)(図1)を備えないようにし、制御部5(押当力センサの一例)が、振動センサ2(図1)によって検出された計測対象物の振動の強度に基づき、押当力を検出するようにしてもよい。
【0122】
具体的には、計測対象物毎に、図8に示すような、計測対象物が正常な状態にある場合における、探針10の先端を当該計測対象物に押し当てた際に探針10に加えられた押当力と、振動センサ2によって検出された振動の強度と、の関係を定めたデータテーブルを実験値に基づいて生成し、当該データテーブルを記憶部14に予め記憶しておけばよい。
【0123】
そして、S14(図6)では、振動センサ2が計測対象物の振動の強度の検出を開始すればよい。S15(図6)及びS26(図7)では、制御部5が、記憶部14に予め記憶されている、S12(図6)で取得された一の計測対象物情報が示す計測対象物に対応するデータテーブルを参照し、当該データテーブルにおいて当該S14で検出された振動の強度に対応付けられている押当力を、探針10に加えられている押当力として検出すればよい。取得部51は、制御部5によって検出された押当力を用いた判定を行えばよい。
【0124】
尚、S15(図6)及びS26(図7)で用いる所定範囲は、上記実施形態で説明したような探針10のY方向の移動距離に基づく範囲ではなく、作業者が探針10の先端を計測対象物に押し当てる際に調整可能な範囲に適宜定めればよい。
【0125】
また、本変形実施形態の構成においても、側面視において、取り囲み部34の先端348が、押当力が所定範囲の下限値であるときの探針10の先端よりも先端側に存在するようにしてもよい。具体的には、本変形実施形態の構成の場合、探針10が固定されているので、押当力に応じて探針10の先端の位置が変化することはない。このため、図4(B)に示すように、支持部35が、側面視において、取り囲み部34がY方向に対して傾斜し、且つ、探針10の先端よりも+Y方向側に取り囲み部34の先端348が存在するようにして、取り囲み部34の後端349のみを支持するようにすればよい。
【0126】
(7)計測装置1に探針カバー62(図3)を備えないようにしてもよい。これに合わせて、温度センサ3を、計測対象物の表面から発せられる赤外線の強さに基づき、計測対象物の表面温度を検出する所謂赤外線検知型の温度センサによって構成してもよい。
【符号の説明】
【0127】
1 計測装置
10 探針
11 操作部
12 表示部
13 通信部
14 記憶部
2 振動センサ
21 圧電素子
22 振動測定回路
3 温度センサ
31 熱電対
311、312 熱電対素線
32 温度測定回路
34 取り囲み部
341 熱接点
348 取り囲み部の先端
349 取り囲み部の後端
35 支持部
351、352 熱電対素線
4 押当力センサ
41 フォトインタラプタ
411 発光素子
412 受光素子
42 押当力測定回路
5 制御部
51 取得部
52 表示制御部
61 本体部
611 連結部材
6111 隔壁
6112 遮光壁
612 弾性部材
613 支持板
62 探針カバー
621 一端
622 他端
9 診断装置
100 計測診断装置
L1 第一距離
L2 第二距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8