【実施例】
【0039】
「ティップ トウ ティップ形式の積層構造との比較試験」
本発明に係るエンボスを有するネステッド形式のキッチンペーパー(実施例1及び実施例2)と、従来市販のキッチンペーパーのエンボスパターン及び積層構造であるティップ トウ ティップ形式のキッチンペーパーとについて、引張強度、伸び、ソフトネスの物性を測定するとともに、吸液性能として吸水量、吸油量、吸水速度、吸油速度を測定し評価した。
【0040】
各例に係る試料は、表裏となるクレープ紙のエンボスパターンに対応する凸エンボスパターンを形成したアクリル板を用い、このアクリル板のエンボスパターンをクレープ紙にそれぞれ型押しすることで、表裏に対応するエンボスパターンを有する各クレープ紙を作成し、これら表裏の各エンボスパターンが付与された各クレープ紙を位置合わせしながら積層することで作成した。各例に係る試料の大きさは、全て120mm四方の大きさのものを作成し、測定に際しては、その中央部分100mm四方を裁断して試験片とした。
【0041】
なお、本比較試験では、エンボスのパターン及び積層構造による対比を行うべく、各例に係るキッチンペーパーを構成するクレープ紙の原紙と、クレープ紙同士を接着するための接着糊の種類は同一のものを使用した。原紙の繊維原料はパルプ100質量%である。また、本比較試験における各キッチンペーパーは、一方のクレープ紙に形成された全ての凸エンボスの頂部のみに接着糊が付与されており、この接着糊付与部分によって二枚のキッチンペーパーが接着されている構造となっている。また、エンボスの深さは、全て1.0mmとした。
【0042】
なお、実施例1は、
図1に示すエンボスパターンであり、実施例2は、
図6に示すエンボスパターンである。実施例2におけるエンボスパターンは、実施例1のエンボスに加えて、抜き柄セクションの交差部分に、エンボスセクションを構成する単位凹エンボスと同構成の単位凹エンボスを各クレープ紙に三個配して、これらが交互配置されて一重環状の補助エンボスセクションを形成したものである。
【0043】
実施例1及び実施例2は、ネステッド形式であるので、一方面から観た際には他方面の凹エンボスが視認されない。したがって、実施例1では、
図2又は
図3のように視認され、実施例2は、
図7又は
図8のように視認される。
【0044】
比較例1のエンボスパターンは、
図9に示すとおりであり、エンボスセクション102と抜き柄セクション103とを有するティップ トウ ティップ形式の積層構造を有するものである(図中、単位凹エンボスは符号122で表す)。
【0045】
比較例2のエンボスパターンは、
図10に示すとおりであり、抜き柄セクションを有さないティップ トウ ティップ形式の積層構造を有するものである。
【0046】
なお、比較例1及び比較例2は、一方面と他方面から同様のエンボスパターンが視認される。したがって、表裏いずれの面から観ても、
図9又は
図10のエンボスパターンが視認される。
【0047】
なお、吸水量、吸油量、吸水速度、吸油速度及びソフトネスの測定方法は、下記のとおりとしている。
【0048】
〔吸水量〕
吸水量の測定は下記(1)〜(5)のとおりとした。
(1)試験片を105℃の乾燥機内で3分間キュアリングした後、その試験片の質量を電子天秤(A&D HR300等)により測定する。
(2)試験片よりも大きいトレイ(例えば、内寸:215mm×160mm)に、20mm程度の深さとなるように、25℃の水を入れる。
(3)試験片を、試験片以上の大きさの剛性のある平網(例えば、120mm×120mm、網目15mm)の上に拡げて載せ、前記水を入れたトレイ内におろして、水面に接触するように試験片を浸水させる。
(4)試験片の表面にまで十分に水が浸みこんだら、平網を水面より真上に上げ、ピンセットにより試験片の角を摘み、四つ折(クロス8頁折り)にし、そのまま30秒静止する。
(5)30秒後に吸水した試験片の質量を電子天秤により測定し、下記式により1m
2当たりの吸水量を算出する。
吸水量(g/m
2)=((上記(4)で測定した吸水した試験片の質量)−(上記(1)で測定した3分間キュアリング後の試験片の質量))×100(注:試験片1枚100cm
2の100倍)
【0049】
〔吸油量〕
吸油量の測定は下記(1)〜(5)のとおりとした。
(1)試験片を105℃の乾燥機内で3分間キュアリングした後、その試験片の質量を電子天秤(A&D HR300等)により測定する。
(2)試験片よりも大きいトレイ(例えば、内寸:215mm×160mm)に、20mm程度の深さとなるように、25℃のサラダ油(日清サラダ油:日清オイリオグループ株式会社製)を入れる。
(3)試験片を、試験片以上の大きさの剛性のある平網(例えば、120mm×120mm、網目30mm)の上に拡げて載せ、前記サラダ油を入れたトレイ内におろして、油面に接触するように試験片を浸油させる。
(4)試験片の表面にまで十分にサラダ油が浸みこんだら、平網を油面より真上に上げ、そのまま26〜27秒静止した後、ピンセットにより試験片の角を摘み、予め秤量された測定容器に試験片を移す。このとき、平網を油面より挙げて静止を開始してから測定容器に移すまで30秒を超えないようにする。
(5)試験片が入った測定容器の質量を電子天秤により測定し、その測定値より測定容器の質量を差し引いて、吸油後の試験片の質量を算出する。そして、下記式により1m
2当たりの吸油量を算出する。
吸油量(g/m
2)=((上記(4)で測定した吸油した試験片の質量)−(上記(1)で測定した3分間キュアリング後の試験片の質量))×100(注:試験片1枚100cm
2の100倍)
【0050】
〔吸水速度〕
吸水速度の測定は下記(1)〜(4)のとおりとした。
(1)試験片を105℃の乾燥機内で3分間キュアリングする。
(2)キュアリング後の試験片を中心部に直径40mm以上の穴を有する台(例えば、アルコールランプ用三脚)の上に、その試験片の中央部が前記穴の上に位置するようにして載置する。
(3)試験片の中心に、試験片面より10mmの高さから、25℃の水300μlをマイクロピペットにより滴下する。この滴下は、例えば、アズワン ピペットガイPG−1000を用い目盛り300として行うことができる。
(4)マイクロピペットからの水が試験片に接触した瞬間から、試験片の水が浸透しきるまでの時間をストップウォッチにより測定し、その時間を吸水速度(sec)とする。なお、浸透終了は、試験片表面から水の光沢反射が消えることを目視にて確認することによる。
【0051】
〔吸油速度〕
吸油速度の測定は下記(1)〜(4)のとおりとした。
(1)試験片を105℃の乾燥機内で3分間キュアリングする。
(2)キュアリング後の試験片を中心部に直径40mm以上の穴を有する台(例えば、アルコールランプ用三脚)の上に、その試験片の中央部が前記穴の上に位置するようにして載置する。
(3)試験片の中心に、試験片面より10mmの高さから、25℃のサラダ油(日清サラダ油:日清オイリオグループ株式会社製)300μlをマイクロピペットにより滴下する。この滴下は、例えば、アズワン ピペットガイPG−1000を用い目盛り300として行うことができる。なお、滴下位置は、抜き柄セクションの交差部分を有するものについては、この交差部分、抜き柄セクションを有するが交差部分を有さないものについては、抜き柄セクションの任意位置、抜き柄セクションを有さないものについては、任意位置とした。
(4)マイクロピペットからのサラダ油が試験片に接触した瞬間から、試験片にサラダ油が浸透しきるまでの時間をストップウォッチにより測定し、その時間を吸油速度(sec)とする。なお、浸透終了は、試験片表面からサラダ油の光沢反射が消えることを目視にて確認することによる。
【0052】
〔ソフトネス〕
JIS L 1096E法に規定のハンドルオメーター法に準じて行い、試験片は、上記のとおり裁断した100mm×100mmの試験片をそのまま用い、ハンドルオメーターのスリット幅は、15mmとして測定した。試験片の縦方向、横方向について各々3回測定し、次式により算出した値をソフトネスとした。ソフトネス(cN)=√((縦方向の平均値)×(横方向の平均値))
【0053】
上記の試験の結果を、各例のクレープ紙の組成、エンボスパターン、物性とともに表1に示す。なお、紙厚の測定については、上記ダイヤルシックネスゲージ(厚み測定器)「PEACOCK G型」(尾崎製作所製)により測定した値であり、この測定方法は、エンボスの潰れやすさに依存するためあくまで参考値である。各例ともに同じ原紙を用い、また、同じエンボス深さ(1.0mm)としているため、積層構造上、実際には厚み(嵩)は、実施例1と実施例2とはほぼ同等、比較例1及び比較例2は、実施例1及び実施例2の概ね2倍程度である。
【0054】
【表1】
【0055】
本発明の実施例1及び実施例2は、比較例1及び比較例2に比してネステッド形式の利点である早い吸油速度となっている。その上で、吸油量において、ティップ トウ ティップ形式の積層構造を有する比較例1及び比較例2と同様またはそれ以上の結果が得られた。また、吸水速度については同等以上の結果となった。
【0056】
さらに、ソフトネスについては、単位凹エンボスが疎で型押しによる硬質化、接着糊による硬質化が低減されていることに起因して非常に良好な結果となった。また、エンボスセクションが全体として円形をなしていることも起因すると考えられる。この結果、本発明の実施例は、食材を包みやすいものとなっていると言える。
【0057】
吸水量については、比較例2よりやや劣る結果となったが、吸水量は、クレープ紙の構成に依存するところが大きく、比較例2よりやや坪量の高いクレープ紙とするなどすれば十分に改善できる。その場合でも、紙厚は、ネステッド形式の利点を十分に発揮できる。
【0058】
本試験は、原紙、エンボス深さを同等として比較した試験であり、エンボスのパターンと積層構造との相違のみによる、結果の相違が確認できる。そして、その結果からすれば、本発明に係るエンボスパターン及び積層構造とすることにより、ネステッド形式でありながら、ティップ トウ ティップ形式と同等またはそれ以上の高い吸油量を達成できる。
【0059】
「ネステッド形式の積層構造同士の比較試験」
さらに、本発明に係るエンボスを有するネステッド形式のキッチンペーパー(実施例1及び実施例2)と、本発明とは異なるエンボス(従来市販のエンボスパターン)を有するネステッド形式のキッチンペーパー(比較例3〜7)とについて、引張強度、伸び、ソフトネスの物性を測定するとともに、吸液性能として吸水量、吸油量、吸水速度、吸油速度を測定し評価した。
【0060】
各例に係る試料は、「ティップ トウ ティップ形式の積層構造との比較試験」と同様に、表裏のエンボスパターンに対応する凸エンボスパターンを形成したアクリル板を用い、このアクリル版のエンボスパターンをクレープ紙にそれぞれ型押しすることで、表裏に対応するエンボスパターンを有する各クレープ紙を作成し、これら表裏の各エンボスパターンが付与された各クレープ紙を位置合わせしながら積層することで作成した。各例に係る試料の大きさは、全て120mm四方の大きさのものを作成し、測定に際しては、その中央部分100mm四方を裁断して試験片とした。
【0061】
なお、本比較試験においても、エンボスのパターン及び積層構造による対比を行うべく、各例に係るキッチンペーパーを構成するクレープ紙の原紙と、クレープ紙同士を接着するための接着糊の種類は同一のものを使用した。また、本比較試験における各キッチンペーパーは、一方のクレープ紙に形成された全ての凸エンボスの頂部のみに接着糊が付与されており、この接着糊付与部分によって二枚のキッチンペーパーが接着されている構造となっている。また、エンボスの深さは、全て1.0mmとした
【0062】
実施例1及び実施例2のエンボスパターンは、上記「ティップ トウ ティップ形式の積層構造との比較試験」における実施例1及び実施例2と同様である。
【0063】
比較例3は、
図11に示すエンボスパターンを有するものである。この比較例3に係るキッチンペーパー101は、一方紙面の単位凹エンボス122Aと他方紙面の単位凹エンボス122Bとが交互に紙面上下方向に並ぶエンボスラインを有し、このエンボスラインが紙面横方向に複数並んで全体として六角形のエンボスセクション102を形成している。そして、このエンボスセクション102の間に等幅直線状の抜き柄セクション103を有している。抜き柄セクションに交差部分はないが、三筋の抜き柄セクションの集合箇所112を有している。
【0064】
比較例4は、
図12に示すエンボスパターンを有するものである。この比較例4に係るキッチンペーパー101は、一方紙面の単位凹エンボス122Aによるエンボスラインと、他方紙面の単位凹エンボス122Bによるエンボスラインとを有し、各々のエンボスラインが環状となっている。そして、一方紙面のエンボスラインと他方紙面のエンボスラインとが交互に同心円状に配置されているものである。この比較例4に係るキッチンペーパーは、抜き柄セクションは有していない。
【0065】
比較例5は、
図13に示すエンボスパターンを有するものである。この比較例5に係るキッチンペーパー101は、一方紙面の単位凹エンボス122Aと他方紙面の単位凹エンボス122Bとが交互に紙面横方向に並ぶエンボスラインを有し、このエンボスラインが紙面上下方向に複数並んで全体として四角形のエンボスセクション102を形成している。そして、このエンボスセクション102の間に等幅直線状で斜め格子状に配された抜き柄セクション103を有しているが、交差部分を有していない。
【0066】
比較例6は、
図14に示すエンボスパターンを有するものである。この比較例6は、比較例1をネステッド形式としたものであり、一方紙面の単位凹エンボス122Aと他方紙面の単位凹エンボス122Bとが紙面上下方向及び横方向に交互に配置された全体として四角形のエンボスセクション102を形成している。エンボスセクションの間には等幅直線状で斜格子状の抜き柄セクション103を有しており、交差部分112が形成されている。
【0067】
比較例7は、
図15に示すエンボスパターンを有するものである。この比較例7は、一方紙面の単位凹エンボス122Aによる円弧状のエンボスラインと、他方紙面の単位凹エンボス122Bによる円弧状のエンボスラインとを有する。各々のエンボスラインは環状にはなっていない。そして、一方紙面のエンボスラインと他方紙面のエンボスラインとが交互に同心円状に配置された、葉模様状のエンボスセクションを形成している。
【0068】
各比較例のうち、比較例4及び比較例7は、エンボスラインが直線的ではなく、円弧状に配列されており、やや柔らかな印象を与える特徴的な意匠性を有するものとなっている。
【0069】
各例において行った、吸水量、吸油量、吸水速度、吸油速度及びソフトネスの試験手順や測定方法は、上記「ティップ トウ ティップ形式の積層構造との比較試験」と同様である。
【0070】
上記条件のもと行った試験の結果を、各例のクレープ紙の組成、エンボスパターン、物性とともに下記表2に示す。なお、紙厚の測定については、上記ダイヤルシックネスゲージ(厚み測定器)「PEACOCK G型」(尾崎製作所製)により測定した値であり、この測定方法は、エンボスの潰れやすさに依存するためあくまで参考値である。
【0071】
【表2】
【0072】
吸油量については、本発明の実施例1及び実施例2、比較例7において高い数値となっている。これらは、上記の「ティップ トウ ティップ形式の積層構造」の比較例1及び比較例2と同等かそれよりさらに高い。しかし、比較例7は、吸油速度が遅い。これは、そのパターンとして、明確な抜き柄セクションがないがゆえ、油をエンボスセクション内に引き込む作用が小さいと推測される。
【0073】
また、比較例3〜6については、吸油量の顕著な改善が観られない。また、抜き柄セクションのない比較例4では、吸油速度が非常に遅くなっている。
【0074】
さらに、ソフトネスの値については、円弧状のエンボスラインを有し、明確な抜き柄セクションはないものの、エンボスセクション間にある程度の空間を有する比較例7についてやや良好になっているものの、その他比較例では、本発明の実施例よりも劣る。
【0075】
各例を比較してみると、吸油量、吸油速度さらにソフトネスについて顕著に良好な結果が得られたのは本発明の実施例1及び実施例2のみである。
【0076】
つまり、本発明の構成を採ることにより、吸油量、吸油速度に優れ、さらにソフトネスに優れて食材の包みやすさにも優れるようになるといえる。
【0077】
以上の「ティップ トウ ティップ形式の積層構造との比較試験」と「ネステッド形式の積層構造同士の比較試験」との結果からして、本発明のエンボスパターン及び積層構造とすることにより、紙厚を薄くでき吸油速度が速いというネステッド形式の利点はそのままに、「ティップ トウ ティップ形式の積層構造」以上の吸油量を達成でき、しかも柔らかさ、しなやかさにも優れるようになる。