特許第6851713号(P6851713)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6851713
(24)【登録日】2021年3月12日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】キッチンペーパー
(51)【国際特許分類】
   A47L 13/16 20060101AFI20210322BHJP
   A47K 10/16 20060101ALI20210322BHJP
   A47L 17/00 20060101ALI20210322BHJP
   B31F 1/07 20060101ALI20210322BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20210322BHJP
   D21H 27/30 20060101ALI20210322BHJP
   D21H 27/40 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   A47L13/16 A
   A47K10/16 Z
   A47L17/00 Z
   B31F1/07
   D21H27/00 F
   D21H27/30 B
   D21H27/40
【請求項の数】4
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-190487(P2015-190487)
(22)【出願日】2015年9月28日
(65)【公開番号】特開2017-63895(P2017-63895A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年8月23日
【審判番号】不服2019-17744(P2019-17744/J1)
【審判請求日】2019年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082647
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 義久
(72)【発明者】
【氏名】藁科 真一
【合議体】
【審判長】 平田 信勝
【審判官】 田村 嘉章
【審判官】 内田 博之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−73281(JP,A)
【文献】 特開2002−88694(JP,A)
【文献】 特開2012−91415(JP,A)
【文献】 特開2012−40775(JP,A)
【文献】 特開2004−130053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47L 13/16
A47L 17/00
A47K 10/16
D21H 27/00
D21H 27/30
D21H 27/40
B31F 1/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンボスが付与された二枚のクレープ紙が、エンボス凸部形成面を対面させて、ネステッド形式の積層構造で一体化され、表裏に前記エンボス凸部に対応する凹エンボスが存在するキッチンペーパーであって、
平面視において、一方紙面に形成されている単位凹エンボスと他方紙面に形成されている単位凹エンボスとが交互に離間して並ぶ環状のエンボスラインが、複数、同心円状に配されてなる角部を有する矩形ではない形状のエンボスセクションを有し、
前記形状のエンボスセクションが3.3〜6.0mmの間隔を空けて配置されて、それらエンボスセクション間が略斜格子状の抜き柄セクションとされ、
その略斜格子状の抜き柄セクションの交差部分の広さが50mm2以上あり、
かつ、前記クレープ紙1枚当たりの坪量が15〜35g/m2、前記単位凹エンボスの底面面積が1.0〜2.5mm2、各クレープ紙における単位凹エンボス間の中心間間隔が4.0〜7.5mm、面積率が4〜10%である、
ことを特徴とするキッチンペーパー。
【請求項2】
前記略斜格子状の抜き柄セクションの交差部分に、前記エンボスセクションを構成する単位凹エンボスの数より少ない数の単位凹エンボスで構成される補助エンボスセクションを有し、補助エンボスセクションとエンボスセクションとの間の間隔が、エンボスセクション同士の間隔以上である、請求項1記載のキッチンペーパー。
【請求項3】
一つのエンボスセクションを構成する単位凹エンボスの個数が40〜80個である、請求項1又は2記載のキッチンペーパー。
【請求項4】
一つの補助エンボスセクションを構成する単位凹エンボスの個数が1〜40個である、請求項記載のキッチンペーパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キッチンペーパーに関し、特にネステッド形式で積層された2プライのキッチンペーパーに関する。
【背景技術】
【0002】
キッチンペーパーは、台所周りや調理器具等の拭き清掃の他、煮物の落とし蓋、油漉し、揚げ物の過剰油分の吸収等に用いられ、吸水性能及び吸油性能などの吸液性能が重要とされる。
【0003】
一方、キッチンペーパーは、エンボス加工を施したクレープ紙からなるシートを二枚積層して形成されたものがある。そして、この種のキッチンペーパーでは、吸水性能は、主に親水性繊維であるパルプを主材とするクレープ紙の構成そのものによるところが大きく、吸油性能についてはエンボスに関する構成が大きな影響を与えることがある。
【0004】
ここで、キッチンペーパーにおけるエンボス加工を施したクレープ紙からなる二枚のシートの積層構造においては、特に、二枚のクレープ紙のエンボス凸部の頂部同士を対面させて接着したティップ トゥ ティップ(TipToTip)形式と称されるものと、一方のクレープ紙のエンボス凸部の頂部が他方のクレープ紙の非エンボス凸部(対面する一方のクレープ紙から見て凸となっていない位置)に位置するように互い違いに位置させ接着したネステッド(Nested)形式と称されるものに大別される。
【0005】
ティップ トゥ ティップ形式の積層構造は、積層されるクレープ紙同士が離間して位置する部位が多く、それらの間の空隙に厚み(高さ)があり、特に、吸油量に優れる。その一方で、全体としての紙厚が厚くなる傾向にある。このため、キッチンペーパーの市販態様であるロール状や複数枚の積層束状とした際に、ロール巻径が過度に大径化したり、束厚(束高さ)が過度に厚くなったりして、物流コストや荷資材コストが高まらないように、クレープ紙自体の紙厚を抑えるようにクレープ紙の米坪を低くするようにしており、吸液後のコシの低下がしやすく、油の保持性(油の滲み出しにくさ)については効果的ではないものが多い。また、各クレープ紙のエンボス凸部同士が接着しているため、油を層間に引き込む作用が弱く、吸油速度が遅い。さらに、凸エンボスロールによって踏み固められたエンボス凹部の底部位置(エンボス凸部の頂面)同士が接着位置となるため、硬質でしなやかさに劣る傾向にある。つまり、ティップ トゥ ティップ形式の積層構造は、吸油量は多くしやすいが吸油速度は遅く、クレープ紙自体の坪量を低くするがゆえへたりやすく油保持性については十分ではないものが多い。また、硬質でしなやかさに劣る傾向にあり、食材の液体の吸収用途や、食材を包むといった用途に比して、特に油汚れの拭き取り性に特化したものが多い。
【0006】
一方、ネステッド形式の積層構造は、一方のクレープ紙のエンボス凸部の頂部が他方のクレープ紙の非エンボス凸部に位置しているため、クレープ紙の坪量や厚みを高めにしても、全体としての紙厚が薄くでき、また、クレープ紙同士を繋ぐエンボス凸部の柱が多くなるためしっかりとしており、吸水性(吸水量や吸水速度)、吸油速度に優れる。さらに、一方のクレープ紙における凸エンボスロールによって踏み固められたエンボス凹部の底部位置(エンボス凸部の頂面)と、他方のクレープ紙の非エンボス凸部とが接着位置となるため、しなやかさを発現させやすい傾向にある。しかし、ネステッド形式の積層構造は、ティップ トゥ ティップ形式の積層構造に比して、吸油量が劣る傾向にある。このため、ネステッド形式の積層構造は、野菜などの食材に付着した水分、油分の拭き取りに特化したものが多い。
【0007】
他方、キッチンペーパーにおいて付与されるエンボスは、ティップ トウ ティップ形式であっても、ネステッド形式であっても、見た目の意匠性に影響を与える。しかし、上記のとおりエンボスのパターンは、吸液性能、特に吸油性能に影響を与えるため、係る性能を向上させつつ見た目の意匠性を向上させるのが難しい。従来の多くのキッチンペーパーは、その双方に優れるものがない。
【0008】
また、上記意匠性の向上と吸液性能を向上させるべく、一つ一つの凹エンボス(以下、単位凹エンボスともいう)を複数個集合させてなるエンボスセクションを、間隔を空けて配置することで、そのエンボスセクション以外の部分(以下、抜き柄セクションともいう)からエンボスセクション内に液体を引き込むようにして吸液性能を向上させるとともに、エンボスセクションと抜き柄セクションとのコントラストによって意匠性を向上させるようにしたものもある。しかし、従来のエンボスセクションと抜き柄セクションとを有するものの多くは、抜き柄セクションが直線的に配されている。エンボスセクションと抜き柄セクションとを有するキッチンペーパーでは、抜き柄セクションの部分が脆弱になるため、その抜き柄セクションに沿ってキッチンペーパーが折れ曲りやすくなる。そして、従来多くの抜き柄セクションが直線的に配されているものでは、係る直線状の抜き柄セクションに沿って折れ曲りやすく、多様な形状の食材を包む際に柔軟に形状変化しがたい。このため、食材形状に追従しがたいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013−208298号公報
【特許文献2】特開2008−208501号公報
【特許文献3】特開2004−244772号公報
【特許文献4】特開2008−113695号公報
【特許文献5】特開2003−116741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の主たる課題は、ネステッド形式による積層構造であり、その全体としての厚みの薄さ、吸水性や吸油速度の速さ、しなやかさといった利点をそのままに、ティップ トゥ ティップ形式の積層構造と同等かそれ以上の吸油量を達成し、食材の包みやすさについても優れる、特徴的なエンボスパターンを有するキッチンペーパーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決した本発明及び作用効果は次記のとおりである。
【0012】
〔請求項1記載の発明〕
エンボスが付与された二枚のクレープ紙が、エンボス凸部形成面を対面させて、ネステッド形式の積層構造で一体化され、表裏に前記エンボス凸部に対応する凹エンボスが存在するキッチンペーパーであって、
平面視において、一方紙面に形成されている単位凹エンボスと他方紙面に形成されている単位凹エンボスとを、交互に離間して並ぶ環状のエンボスラインが、複数、同心円状に配されたエンボスセクションを有し、
このエンボスセクションが3.3〜6.0mmの間隔を空けて配置されて、それらエンボスセクション間が略斜格子状の抜き柄セクションとされ、
その略斜格子状の抜き柄セクションの交差部分の広さが50mm2以上あり、
かつ、前記クレープ紙1枚当たりの坪量が15〜35g/m2、前記単位凹エンボスの底面面積が1.0〜2.5mm2、各クレープ紙における単位凹エンボス間の中心間間隔が4.0〜7.5mm、面積率が4〜10%である、
ことを特徴とするキッチンペーパー。
【0013】
〔請求項2記載の発明〕
前記略斜格子状の抜き柄セクションの交差部分に、前記エンボスセクションを構成する単位凹エンボスの数より少ない数の単位凹エンボスで構成される補助エンボスセクションを有する、請求項1記載のキッチンペーパー。
【0014】
〔請求項3記載の発明〕
一つのエンボスセクションを構成する単位凹エンボスの個数が40〜80個である、請求項1又は2記載のキッチンペーパー。
【0015】
〔請求項4記載の発明〕
一つの補助エンボスセクションを構成する単位凹エンボスの個数が1〜40個である、請求項記載のキッチンペーパー。
【発明の効果】
【0016】
以上の本発明によれば、ネステッド形式による積層構造であり、その全体としての厚みの薄さ、吸水性や吸油速度の速さ、しなやかさといった利点をそのままに、ティップ トゥ ティップ形式の積層構造と同等かそれ以上の吸油量を達成し、さらに、食材の包みやすさについても優れる、特徴的なエンボスパターンを有するキッチンペーパーが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第一実施形態のキッチンペーパーを説明するための平面図である。
図2】第一実施形態のキッチンペーパーの一方のクレープ紙のエンボスパターンを示す平面図である。
図3】第一実施形態のキッチンペーパーの他方のクレープ紙のエンボスパターンを示す平面図である。
図4】第一実施形態のキッチンペーパーのA−A断面図である。
図5】第一実施形態のキッチンペーパーの吸液態様を説明するための図である。
図6】第二実施形態のキッチンペーパーを説明するための平面図である。
図7】第二実施形態のキッチンペーパーの一方のクレープ紙のエンボスパターンを示す平面図である。
図8】第二実施形態のキッチンペーパーの他方のクレープ紙のエンボスパターンを示す平面図である。
図9】比較例1のキッチンペーパーを説明するための平面図である。
図10】比較例2のキッチンペーパーを説明するための平面図である。
図11】比較例3のキッチンペーパーを説明するための平面図である。
図12】比較例4のキッチンペーパーを説明するための平面図である。
図13】比較例5のキッチンペーパーを説明するための平面図である。
図14】比較例6のキッチンペーパーを説明するための平面図である。
図15】比較例7のキッチンペーパーを説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次いで、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら以下に詳述する。図1及び図6は、クレープ紙が積層されたキッチンペーパーの平面図であり、一部(A部分、B部分)を拡大して表している。図2、3及び図7、8は、上記キッチンペーパーを構成する表裏の各クレープ紙の平面図であり、一部(A部分、B部分)を拡大して表している。図4は、図1のA−A断面である。
【0019】
本実施形態に係るキッチンペーパー1は、エンボスが付与された二枚のクレープ紙10A、10Bの各々エンボス凸部形成面10xが対面されて一体化され、表裏には前記エンボス凸部21A,21Bに対応する凹エンボス22A,22Bが存在するようになっている。そして、特に一方面のクレープ紙10A(10B)におけるエンボス凸部21A(21B)が、他方面のクレープ紙10B(10A)の非エンボス凸部23B(23A)(エンボス凸部以外の部分)に位置する、所謂ネステッド形式の積層構造となっている。
【0020】
このキッチンペーパー1は、特に図1に示されるように、特徴的に、平面視において、一方紙面の単位凹エンボス22Aと他方紙面の単位凹エンボス22Bとを、交互に離間して並ぶ環状のエンボスライン11が、複数、同心円状に配されたエンボスセクション2を有している。そして、このエンボスセクション2が3.3〜6.0mmの間隔L1を空けて配置されて、それらエンボスセクション2の間が略斜格子状の抜き柄セクション3とされ、その略斜格子状の抜き柄セクション3の交差部分12の広さが50mm2以上となっている。なお、好ましくは80mm2以上である。この交差部分12の広さは、交差部分12に隣接するエンボスセクション2によって囲まれる範囲の広さであり、図示のようにエンボスセクションが円形であれば、交差部分12を囲むように位置する各エンボスセクション2に対する内接円の範囲として示すことができる。
【0021】
前記単位凹エンボス22A(22B)の底面の形状としては、円、楕円、角取四角形、四角形(長方形、正方形)が挙げられ、上記の順で好ましい形状となる。単位凹エンボス22A(22B)の形状に角がないものであるほうが、キッチンペーパー1として使用する際に柔らかさを感じやすい。また、上記坪量及び後述の積層構造と相まってなされる吸液性能の向上効果が高まる。これは、単位凹エンボス22A(22B)の形状に角部がないほうが、液体が繊維に沿って拡散しやすいからである。つまり、単位凹エンボス22A(22B)の形状が角部を有するものである場合、その角部における繊維の曲りが強く、液が繊維に沿って拡散しがたくなる場合があるが、角部がない形状の場合は、そのような現象が生じがたいためである。ここで、複数の各単位凹エンボス22A(22B)の形状は、必ずしも同形状である必要はない。但し、同形状であるのが吸液性に関する効果や紙の柔らかさ等の物性に部分的な偏りがなくなるため好ましい。なお、本発明においては、単位凹エンボス22A(22B)の深さL2については、必ずしも限定されない。好適な範囲を示せば、0.2〜1.7mmである。この範囲であれば、本発明の効果を十分に発現できる。
【0022】
他方、一方紙面の単位凹エンボス22Aと他方紙面の単位凹エンボス22Bとが交互に離間して並ぶ環状のエンボスライン11は、好ましくは、一方のクレープ紙10Aにおける隣接する単位凹エンボス22A,22Aの中央位置に他方のクレープ紙10Bにおける単位凹エンボス22Bが位置するものである。つまり、エンボスライン11を構成する各単位凹エンボス22A,22Bの間隔が等間隔となっているものである。このようにエンボスライン11を構成する単位凹エンボス22A,22Bの間隔が等間隔であるとエンボスライン11の位置によってエンボスによる効果の差が発現しない。もちろん、製造上の誤差はあってもよい。
【0023】
他方、本発明に係る前記環状のエンボスライン11が同心円状に配されてなるエンボスセクション2は、図示例では、円輪のエンボスライン11が同心円に配された円形をなしているが、必ずしも同心円である必要はなく、複数重に配されていればよく、全体として略円形,楕円などであってもよい。但し、角部を有する矩形ではないのが望ましい。また、本発明では、このエンボスセクション2を複数有するが、各エンボスセクション2の面積(大きさ)は、必ずしも同一である必要はない。但し、エンボスセクション2の面積(大きさ)が、同一であるほうが紙面における吸油性や柔らかさの偏りがなくなるので望ましい。エンボスセクション2の特に好ましい形態は、図示例のように複数の環状のエンボスライン11が円形をなし、これらが同心円に配された円形形状となっているものである。このような円形形状であると角部がなく、上記抜き柄セクション3の存在とあいまって、意匠性に優れるとともに、キッチンペーパー2を折曲げる際の方向性がなく、食材を包む際などにその食材形状に対する追随性に優れるようになる。なお、エンボスセクション2を構成する最内側の環状のエンボスラインの中に、一つ又は複数の単位凹エンボスが存在していてもよい。
【0024】
他方、本発明のキッチンペーパー1では、上記のとおり複数のエンボスセクション2が3.3〜6.0mmの間隔L1を空けて配置されて、それらエンボスセクション2の間が略斜格子状の抜き柄セクション3となっており、その略斜格子状の抜き柄セクション3の交差部分12の広さが50mm2以上となっている。本発明におけるキッチンペーパー1では、係る構成を採ることにより、他の構成と相まってネステッド形式の利点をそのままに、高い吸油性を発揮する。つまり、図5に示すように、キッチンペーパー1の紙面に触れた油等の液体Xは、毛細管現象によって、抜き柄セクション3の交差部分12においては、これに隣接するエンボスセクション2へ引き込まれる作用(図中矢印a)と、エンボスセクション2の間に引き込まれる作用(図中矢印b)とが働く。つまり、エンボスセクション2は、単位凹エンボス22A,22Bと表裏関係にある単位凸エンボスによる柱が各クレープ紙間に存在しているため、この柱間に油等の液体Xが引き込まれる。それとともに、本発明のキッチンペーパー1では、エンボスセクション2が環状のエンボスライン11が同心円状をなしていることにより、上記のとおり図中矢印bで示すように、隣接するエンボスセクション2の間の最も狭小な部位に向かっても引き込まれるようになる。この結果、油等の液体Xがエンボスセクション2の縁部に沿って拡散しやすく、また、その縁部から、エンボスセクション2内に油等の液体Xが引き込まれるため(矢印cの作用)、吸油速度が確保でき、さらに高い吸油量も達成できる。ここで、エンボスセクション2の間の距離が、3.3mm未満又は6.0mmを超えると、油等の液体が抜き柄セクション3からエンボスセクション2に直接的に引き込まれる作用(矢印aの作用)と、エンボスセクション2の間に引き込まれる作用(矢印bの作用)のバランスが悪くなる。つまり、エンボスセクション2の間に油を引き込む作用が小さくなり、本発明のキッチンペーパー1の効果が発現しなくなる。なお、エンボスセクション2の間の距離L1は、隣接するエンボスセクション2の縁に位置する単位凹エンボス22A(22B)の中心間間隔ではなく、離間距離である。
【0025】
さらに、本発明のキッチンペーパー1では、略斜格子状の抜き柄セクション3の交差部分12の広さが50mm2以上となっているが、これにより、この交差部分に留まる油の量を増加でき、キッチンペーパー全体としての吸油量がさらに高まる。但し、抜き柄セクション3の交差部分12の広さが過度に広いと、エンボスセクション2やそれらの間への油の引き込み作用が弱くなるとともに、交差部分12がへたりやすくなり油保持性が悪化するため、105mm2以下とするのが望ましい。
【0026】
他方で、本発明のキッチンペーパー1においては、特に図6図8に示す形態のように、前記略斜格子状の抜き柄セクション3の交差部分12に、前記エンボスセクション2を構成する単位凹エンボス22A,22Bの数より少ない数の単位凹エンボス22Cで構成される補助エンボスセクション4を設けてもよい。この補助エンボスセクション4により、抜き柄セクション3の交差部分12の厚み方向の脆弱性が改善され、抜き柄セクション3の交差部分12における吸油量が増加し、キッチンペーパー全体としての吸油量を増加できる。但し、この補助エンボスセクション4を設ける場合、エンボスセクション2と補助エンボスセクション4との間の距離は、エンボスセクション2の間の距離L1と同等以上とする。エンボスセクション2の間の距離L1よりも、補助エンボスセクション4とエンボスセクション2との間の離間距離が狭いと、エンボスセクション2の間に油を引き込む作用が小さくなり、本発明のキッチンペーパー1の作用が発現し難くなる。ここで、一つの補助エンボスセクション4を構成する単位凹エンボス22Cの好ましい、個数は1〜40個である。この程度であれば、エンボスセクション2と抜き柄セクション3とによる効果を過剰に阻害せず、補助エンボスセクション4による相乗効果が得られる。
【0027】
ここで、一般的なキッチンペーパー1の大きさは、200〜800cm2である。一つのエンボスセクション2における単位凹エンボス22A,22Bの個数が過度に多く、単位凹エンボスの面積総和が過度に広いと、一般的なキッチンペーパー1とした際に、キッチンペーパー1の実使用時において、本発明に係るエンボスセクション2と抜き柄セクション3とが十分に存在できず、その効果が得られ難くなる。したがって、エンボスセクション2を構成する環状に配列されている単位凹エンボス22A,22Bの個数は、1〜30個、エンボスライン11の個数(条数)は、2〜6条、エンボスセクション2内の単位凹エンボス22A,22Bの総個数は、10〜80個であるのが望ましい。また、一つのエンボスセクション2における単位凹エンボス22A、22Bの底面面積の総和は1〜200mm2であるのが望ましい。係る範囲であれば、本発明の効果が十分に発揮される。もちろん、エンボスセクション2が二つ以上、それらの間に抜き柄セクション3が存在すれば、本発明のエンボスによる吸油性向上の効果は奏する。なお、本発明においてキッチンペーパー1は、その端部に、エンボスセクション2の一部により形成される半円形や扇形形状の単位凹エンボスの集合部分が存在していてもよい。
【0028】
ここで、エンボスセクション2の配列が規則正しくない場合や、全ての単位凹エンボス22A(22B)の形状、面積が同一ではない場合、位置によってエンボスセクション2の間の距離が部位によって異なる場合もあるが、その場合であっても3.3〜6.0mmの範囲内にあればよい。
【0029】
なお、本発明に係るキッチンペーパー1における最も好適なエンボスセクション2と抜き柄セクション3との配置態様は、図1に示されるように、抜き柄セクション3の延在方向D1が、クレープ紙10A(10B)のMD方向に対して、30〜60°の傾斜(図中∠A)を有する、さらに好ましくは43〜47°の傾斜を有する方向となっているのが望ましい。係る抜き柄セクション3の延在方向D1とすることで、クレープ紙10A,10Bのクレープ延在方向(皺延在方向)との関係で、より、液拡散性の方向性にムラが無くなり、吸水及び吸油性に関する本発明の効果がより高く発揮される。また、クレープ紙の縦横における剛性の差が、抜き柄セクションの存在によって小さく感じられるようになり、しなやかさを感じやすくなる。
【0030】
他方、本発明に上記エンボスセクション2を構成するエンボスライン11は、一方のクレープ紙10Aと他方のクレープ紙10Bに付与された各単位凹エンボスが交互に並ぶものであるが、各クレープ紙10A(10B)における各単位凹エンボス22A(22B)は、底面面積が1.0〜2.5mm2、単位凹エンボス間の中心間間隔L3が4.0〜7.5mmとなっている、ここで、底面面積は、すべて一定である必要はない。また、中心間間隔L3とは、クレープ紙面において一つのエンボスラインを構成する隣り合う単位凹エンボスの底面の重心間の間隔である。なお、紙面における単位凹エンボスの距離は全て一致していなくてもよい。本発明においては、クレープ紙10A(10B)に存在する各単位凹エンボス22A(22B)の底面形状や面積に相違がある場合、また、単位凹エンボス22A(22B)の配列に製造上の誤差や、若干のバラツキがあり規則正しく配列していない場合には、中心間間隔L3が一定とはならないが、この場合でも各単位凹エンボス22A(22B)の中心間間隔が4.0〜7.5mmの範囲内に収まっていればよい。但し、本発明の吸液性の効果や物性において紙面に部分的な偏りが発生しないよう、等間隔で配列されているのが望ましい。
【0031】
本発明に係るキッチンペーパー1では、各クレープ紙10A(10B)に付与された単位凹エンボス22A,22Bが上記構成を採り、この単位凹エンボス22A,22Bの構成を有するクレープ紙10A,10Bをネステッド形式で積層し、さらに、積層後の状態において上記のエンボスセクション2及び抜き柄セクション3とすることにより、早い吸油速度を達成しつつ、高い吸油量を達成する。また、本発明に係るクレープ紙10A,10Bにおけるエンボスのパターンでは、エンボス面積率が4〜10%である。エンボス面積率は、一方のクレープ紙10A(10B)の表面積に対する単位凹エンボス22A(22B)の面積の総和の割合である。換言すれば、製品時における一枚のキッチンペーパー1に一方面全体の面積におけるその面の単位凹エンボス22A(22B)の面積の総和の割合である。このエンボス面積率は、従来のネステッド形式のキッチンペーパー1よりもやや低い値である。このように低いエンボス面積率であることにより、吸油量が多くなり優れるようになる。
【0032】
ここで、本発明に係るキッチンペーパー1を構成するクレープ紙10A,10Bの坪量は、15〜35g/m2、好ましくは17〜25g/m2である。なお、坪量は、JIS P 8124(1998)による。上記坪量の範囲であると、紙面に水や油などの液体が触れた際に、十分な液拡散性が得られ、特に吸水性能が十分となり、また、ネステッド形式でありながらも高い吸油量を奏するという本発明の特徴的なエンボス構成による効果が得られやすくなる。また、上記坪量の範囲内であれば、拭き取り操作の際の柔らかさ、拭き取り面に対する追従性といったネステッド形式のキッチンペーパーの利点も低下しない。ここで、本発明に係るクレープ紙10A,10Bの1枚当たりの坪量の測定に関しては、積層構造となっているキッチンペーパー1の坪量を測定し、これを積層枚数、すなわち2枚で割った数値とする。なお、この坪量には、厳密には、積層構造とするための接着糊40を含むが、接着糊40の質量は、通常は、これを含まないクレープ紙10A,10Bそのものの質量に比して、無視できる程度であり、少なくとも、本発明におけるエンボス構成及びそれらと相まって奏する本発明特有の効果との関係では、十分に無視できる。
【0033】
他方、上記クレープ紙10A,10Bは、その繊維材料がパルプを主材とするものである。そのパルプ組成は、キッチンペーパー1における既知の組成が採用できる。特に、パルプを50質量%以上、好適には90質量%以上、より好適には100質量%を含むのがよく、本発明特有の効果が顕著となる。パルプ組成は、例えば、NBKP(針葉樹クラフトパルプ)やNUKP(針葉樹未晒しパルプ)などの針葉樹パルプと、LBKP(広葉樹クラフトパルプ)やLUKP(広葉樹未晒しパルプ)などの広葉樹パルプと、を適宜の比率で使用できる。特に、針葉樹パルプを広葉樹パルプに比してより多い組成のパルプ組成であることが好ましい。特に、針葉樹パルプ:広葉樹パルプの比が50:50〜80:20であるのがよい。針葉樹パルプは、広葉樹パルプに比して、繊維長が長いため、針葉樹パルプを多く含むパルプ組成では、針葉樹パルプの長いパルプ繊維に沿って液体が拡散しやすく、本発明の効果が特に発現しやすい。また、しっかりとしたコシが発現しやすくなるため、特に液体を拭き取ったり吸収したりする用途に用いられるキッチンペーパーの使用態様に適する。
【0034】
本発明に係るキッチンペーパー1の紙厚は、特に限定されない。ネステッド形式の積層構造であることにより、エンボス凹部22A,22Bの深さ(エンボス凸部の高さ)L2が、同一のクレープ紙をティップ トウ ティップ形式で積層するよりも全体としての紙厚を薄くできることは層構造上明白であり、そのことによって本願発明の効果が得られる。なお、具体的な紙厚の参考値は、下記測定方法により測定されるもので450〜700μmである。この紙厚の範囲であれば、キッチンペーパーの一般的製品態様であるロール状、束状とした際に過度に嵩高とならず、また、本願発明のエンボス構成による効果、さらにキッチンペーパーとして使用する際の厚み感や強度も十分に発現する。係る紙厚の測定方法は、試験片をJIS P 8111(1998)の条件下で十分に調湿した後、同条件下でダイヤルシックネスゲージ(厚み測定器)「PEACOCK G型」(尾崎製作所製)を用いて測定する。紙厚は各プライを剥がすことなく測定する。測定の具体的な手順は、プランジャーと測定台の間にゴミ、チリ等がないことを確認してプランジャーを測定台の上におろし、前記ダイヤルシックネスゲージのメモリを移動させてゼロ点を合わせ、次いで、プランジャーを上げて試料を試験台の上におき、プランジャーをゆっくりと下ろしそのときのゲージを読み取る。このとき、プランジャーをのせるだけとする。プランジャーの端子は金属製で直径10mmの円形の平面が紙平面に対し垂直に当たるようにし、この厚みの測定時の荷重は、120μmの際に約70gfである。なお、厚みは測定を10回行って得られる平均値とする。なお、紙厚の測定する場所については、少なくともプランジャー端子内に一つの単位凹エンボスの一部が収まるようにする。但し、この紙厚の測定方法は、エンボスの態様によって、測定時におけるキッチンペーパーの厚み方向の潰れ方に差が生ずるため、上記のとおり紙厚については、参考値である。
【0035】
他方、本発明に係るキッチンペーパー1の主たる製品態様は、帯状で適宜の間隔で分断用のミシン目線が配されたものを紙管に巻き付けたロール状のもの、或いは、ピックアップ式、ポップアップ式等と称される、枚葉のキッチンペーパーが折畳み積層されたものが例示できるが、これらの製品態様が限定されるものではない。
【0036】
なお、本発明に係るキッチンペーパー1は、二枚のクレープ紙10A,10Bがネステッド形式で積層された構造を有するが、各クレープ紙10A,10Bは、接着糊40によって接着することができる。この接着糊40は、積層構造を採るキッチンペーパーに採用される公知の接着剤が使用できる。例えば、ポリビニルアルコール、デンプン、変性デンプン、カルボキシメチルセルロース等のセルロース系接着剤等である。本実施形態のキッチンペーパー1は、特に、好ましい態様として、一方のクレープ紙10A(10B)のエンボス凸部21A(21B)の頂部に付与された接着糊40によって、一方のクレープ紙10A(10B)と他方のクレープ紙10B(10A)とが接着されている。このように、一方のクレープ紙10A(10B)のエンボス凸部21A(21B)に付与された接着糊40により、両クレープ紙10A,10Bが接着されている接着態様では、接着剤による吸液性能の阻害が小さく、また、各クレープ紙の積層構造、とりわけネステッド形式の積層構造における両クレープ紙の空隙が維持されやすく、液保持性が効果的に発揮される。但し、本発明においては、各クレープ紙10A,10Bの双方のエンボス凸部21A,21Bに接着剤40が付与されていてもよい。
【0037】
他方、本発明に係るキッチンペーパー1は、公知のスチールラバー式のエンボス付与方法によるクレープ紙へのエンボス付与、さらに、貼り合せ方法により製造することができる。
【0038】
以下、本発明の効果について検証した実施例を参照しつつ、さらに本発明に係るキッチンペーパーを説明する。
【実施例】
【0039】
「ティップ トウ ティップ形式の積層構造との比較試験」
本発明に係るエンボスを有するネステッド形式のキッチンペーパー(実施例1及び実施例2)と、従来市販のキッチンペーパーのエンボスパターン及び積層構造であるティップ トウ ティップ形式のキッチンペーパーとについて、引張強度、伸び、ソフトネスの物性を測定するとともに、吸液性能として吸水量、吸油量、吸水速度、吸油速度を測定し評価した。
【0040】
各例に係る試料は、表裏となるクレープ紙のエンボスパターンに対応する凸エンボスパターンを形成したアクリル板を用い、このアクリル板のエンボスパターンをクレープ紙にそれぞれ型押しすることで、表裏に対応するエンボスパターンを有する各クレープ紙を作成し、これら表裏の各エンボスパターンが付与された各クレープ紙を位置合わせしながら積層することで作成した。各例に係る試料の大きさは、全て120mm四方の大きさのものを作成し、測定に際しては、その中央部分100mm四方を裁断して試験片とした。
【0041】
なお、本比較試験では、エンボスのパターン及び積層構造による対比を行うべく、各例に係るキッチンペーパーを構成するクレープ紙の原紙と、クレープ紙同士を接着するための接着糊の種類は同一のものを使用した。原紙の繊維原料はパルプ100質量%である。また、本比較試験における各キッチンペーパーは、一方のクレープ紙に形成された全ての凸エンボスの頂部のみに接着糊が付与されており、この接着糊付与部分によって二枚のキッチンペーパーが接着されている構造となっている。また、エンボスの深さは、全て1.0mmとした。
【0042】
なお、実施例1は、図1に示すエンボスパターンであり、実施例2は、図6に示すエンボスパターンである。実施例2におけるエンボスパターンは、実施例1のエンボスに加えて、抜き柄セクションの交差部分に、エンボスセクションを構成する単位凹エンボスと同構成の単位凹エンボスを各クレープ紙に三個配して、これらが交互配置されて一重環状の補助エンボスセクションを形成したものである。
【0043】
実施例1及び実施例2は、ネステッド形式であるので、一方面から観た際には他方面の凹エンボスが視認されない。したがって、実施例1では、図2又は図3のように視認され、実施例2は、図7又は図8のように視認される。
【0044】
比較例1のエンボスパターンは、図9に示すとおりであり、エンボスセクション102と抜き柄セクション103とを有するティップ トウ ティップ形式の積層構造を有するものである(図中、単位凹エンボスは符号122で表す)。
【0045】
比較例2のエンボスパターンは、図10に示すとおりであり、抜き柄セクションを有さないティップ トウ ティップ形式の積層構造を有するものである。
【0046】
なお、比較例1及び比較例2は、一方面と他方面から同様のエンボスパターンが視認される。したがって、表裏いずれの面から観ても、図9又は図10のエンボスパターンが視認される。
【0047】
なお、吸水量、吸油量、吸水速度、吸油速度及びソフトネスの測定方法は、下記のとおりとしている。
【0048】
〔吸水量〕
吸水量の測定は下記(1)〜(5)のとおりとした。
(1)試験片を105℃の乾燥機内で3分間キュアリングした後、その試験片の質量を電子天秤(A&D HR300等)により測定する。
(2)試験片よりも大きいトレイ(例えば、内寸:215mm×160mm)に、20mm程度の深さとなるように、25℃の水を入れる。
(3)試験片を、試験片以上の大きさの剛性のある平網(例えば、120mm×120mm、網目15mm)の上に拡げて載せ、前記水を入れたトレイ内におろして、水面に接触するように試験片を浸水させる。
(4)試験片の表面にまで十分に水が浸みこんだら、平網を水面より真上に上げ、ピンセットにより試験片の角を摘み、四つ折(クロス8頁折り)にし、そのまま30秒静止する。
(5)30秒後に吸水した試験片の質量を電子天秤により測定し、下記式により1m2当たりの吸水量を算出する。
吸水量(g/m2)=((上記(4)で測定した吸水した試験片の質量)−(上記(1)で測定した3分間キュアリング後の試験片の質量))×100(注:試験片1枚100cm2の100倍)
【0049】
〔吸油量〕
吸油量の測定は下記(1)〜(5)のとおりとした。
(1)試験片を105℃の乾燥機内で3分間キュアリングした後、その試験片の質量を電子天秤(A&D HR300等)により測定する。
(2)試験片よりも大きいトレイ(例えば、内寸:215mm×160mm)に、20mm程度の深さとなるように、25℃のサラダ油(日清サラダ油:日清オイリオグループ株式会社製)を入れる。
(3)試験片を、試験片以上の大きさの剛性のある平網(例えば、120mm×120mm、網目30mm)の上に拡げて載せ、前記サラダ油を入れたトレイ内におろして、油面に接触するように試験片を浸油させる。
(4)試験片の表面にまで十分にサラダ油が浸みこんだら、平網を油面より真上に上げ、そのまま26〜27秒静止した後、ピンセットにより試験片の角を摘み、予め秤量された測定容器に試験片を移す。このとき、平網を油面より挙げて静止を開始してから測定容器に移すまで30秒を超えないようにする。
(5)試験片が入った測定容器の質量を電子天秤により測定し、その測定値より測定容器の質量を差し引いて、吸油後の試験片の質量を算出する。そして、下記式により1m2当たりの吸油量を算出する。
吸油量(g/m2)=((上記(4)で測定した吸油した試験片の質量)−(上記(1)で測定した3分間キュアリング後の試験片の質量))×100(注:試験片1枚100cm2の100倍)
【0050】
〔吸水速度〕
吸水速度の測定は下記(1)〜(4)のとおりとした。
(1)試験片を105℃の乾燥機内で3分間キュアリングする。
(2)キュアリング後の試験片を中心部に直径40mm以上の穴を有する台(例えば、アルコールランプ用三脚)の上に、その試験片の中央部が前記穴の上に位置するようにして載置する。
(3)試験片の中心に、試験片面より10mmの高さから、25℃の水300μlをマイクロピペットにより滴下する。この滴下は、例えば、アズワン ピペットガイPG−1000を用い目盛り300として行うことができる。
(4)マイクロピペットからの水が試験片に接触した瞬間から、試験片の水が浸透しきるまでの時間をストップウォッチにより測定し、その時間を吸水速度(sec)とする。なお、浸透終了は、試験片表面から水の光沢反射が消えることを目視にて確認することによる。
【0051】
〔吸油速度〕
吸油速度の測定は下記(1)〜(4)のとおりとした。
(1)試験片を105℃の乾燥機内で3分間キュアリングする。
(2)キュアリング後の試験片を中心部に直径40mm以上の穴を有する台(例えば、アルコールランプ用三脚)の上に、その試験片の中央部が前記穴の上に位置するようにして載置する。
(3)試験片の中心に、試験片面より10mmの高さから、25℃のサラダ油(日清サラダ油:日清オイリオグループ株式会社製)300μlをマイクロピペットにより滴下する。この滴下は、例えば、アズワン ピペットガイPG−1000を用い目盛り300として行うことができる。なお、滴下位置は、抜き柄セクションの交差部分を有するものについては、この交差部分、抜き柄セクションを有するが交差部分を有さないものについては、抜き柄セクションの任意位置、抜き柄セクションを有さないものについては、任意位置とした。
(4)マイクロピペットからのサラダ油が試験片に接触した瞬間から、試験片にサラダ油が浸透しきるまでの時間をストップウォッチにより測定し、その時間を吸油速度(sec)とする。なお、浸透終了は、試験片表面からサラダ油の光沢反射が消えることを目視にて確認することによる。
【0052】
〔ソフトネス〕
JIS L 1096E法に規定のハンドルオメーター法に準じて行い、試験片は、上記のとおり裁断した100mm×100mmの試験片をそのまま用い、ハンドルオメーターのスリット幅は、15mmとして測定した。試験片の縦方向、横方向について各々3回測定し、次式により算出した値をソフトネスとした。ソフトネス(cN)=√((縦方向の平均値)×(横方向の平均値))
【0053】
上記の試験の結果を、各例のクレープ紙の組成、エンボスパターン、物性とともに表1に示す。なお、紙厚の測定については、上記ダイヤルシックネスゲージ(厚み測定器)「PEACOCK G型」(尾崎製作所製)により測定した値であり、この測定方法は、エンボスの潰れやすさに依存するためあくまで参考値である。各例ともに同じ原紙を用い、また、同じエンボス深さ(1.0mm)としているため、積層構造上、実際には厚み(嵩)は、実施例1と実施例2とはほぼ同等、比較例1及び比較例2は、実施例1及び実施例2の概ね2倍程度である。
【0054】
【表1】
【0055】
本発明の実施例1及び実施例2は、比較例1及び比較例2に比してネステッド形式の利点である早い吸油速度となっている。その上で、吸油量において、ティップ トウ ティップ形式の積層構造を有する比較例1及び比較例2と同様またはそれ以上の結果が得られた。また、吸水速度については同等以上の結果となった。
【0056】
さらに、ソフトネスについては、単位凹エンボスが疎で型押しによる硬質化、接着糊による硬質化が低減されていることに起因して非常に良好な結果となった。また、エンボスセクションが全体として円形をなしていることも起因すると考えられる。この結果、本発明の実施例は、食材を包みやすいものとなっていると言える。
【0057】
吸水量については、比較例2よりやや劣る結果となったが、吸水量は、クレープ紙の構成に依存するところが大きく、比較例2よりやや坪量の高いクレープ紙とするなどすれば十分に改善できる。その場合でも、紙厚は、ネステッド形式の利点を十分に発揮できる。
【0058】
本試験は、原紙、エンボス深さを同等として比較した試験であり、エンボスのパターンと積層構造との相違のみによる、結果の相違が確認できる。そして、その結果からすれば、本発明に係るエンボスパターン及び積層構造とすることにより、ネステッド形式でありながら、ティップ トウ ティップ形式と同等またはそれ以上の高い吸油量を達成できる。
【0059】
「ネステッド形式の積層構造同士の比較試験」
さらに、本発明に係るエンボスを有するネステッド形式のキッチンペーパー(実施例1及び実施例2)と、本発明とは異なるエンボス(従来市販のエンボスパターン)を有するネステッド形式のキッチンペーパー(比較例3〜7)とについて、引張強度、伸び、ソフトネスの物性を測定するとともに、吸液性能として吸水量、吸油量、吸水速度、吸油速度を測定し評価した。
【0060】
各例に係る試料は、「ティップ トウ ティップ形式の積層構造との比較試験」と同様に、表裏のエンボスパターンに対応する凸エンボスパターンを形成したアクリル板を用い、このアクリル版のエンボスパターンをクレープ紙にそれぞれ型押しすることで、表裏に対応するエンボスパターンを有する各クレープ紙を作成し、これら表裏の各エンボスパターンが付与された各クレープ紙を位置合わせしながら積層することで作成した。各例に係る試料の大きさは、全て120mm四方の大きさのものを作成し、測定に際しては、その中央部分100mm四方を裁断して試験片とした。
【0061】
なお、本比較試験においても、エンボスのパターン及び積層構造による対比を行うべく、各例に係るキッチンペーパーを構成するクレープ紙の原紙と、クレープ紙同士を接着するための接着糊の種類は同一のものを使用した。また、本比較試験における各キッチンペーパーは、一方のクレープ紙に形成された全ての凸エンボスの頂部のみに接着糊が付与されており、この接着糊付与部分によって二枚のキッチンペーパーが接着されている構造となっている。また、エンボスの深さは、全て1.0mmとした
【0062】
実施例1及び実施例2のエンボスパターンは、上記「ティップ トウ ティップ形式の積層構造との比較試験」における実施例1及び実施例2と同様である。
【0063】
比較例3は、図11に示すエンボスパターンを有するものである。この比較例3に係るキッチンペーパー101は、一方紙面の単位凹エンボス122Aと他方紙面の単位凹エンボス122Bとが交互に紙面上下方向に並ぶエンボスラインを有し、このエンボスラインが紙面横方向に複数並んで全体として六角形のエンボスセクション102を形成している。そして、このエンボスセクション102の間に等幅直線状の抜き柄セクション103を有している。抜き柄セクションに交差部分はないが、三筋の抜き柄セクションの集合箇所112を有している。
【0064】
比較例4は、図12に示すエンボスパターンを有するものである。この比較例4に係るキッチンペーパー101は、一方紙面の単位凹エンボス122Aによるエンボスラインと、他方紙面の単位凹エンボス122Bによるエンボスラインとを有し、各々のエンボスラインが環状となっている。そして、一方紙面のエンボスラインと他方紙面のエンボスラインとが交互に同心円状に配置されているものである。この比較例4に係るキッチンペーパーは、抜き柄セクションは有していない。
【0065】
比較例5は、図13に示すエンボスパターンを有するものである。この比較例5に係るキッチンペーパー101は、一方紙面の単位凹エンボス122Aと他方紙面の単位凹エンボス122Bとが交互に紙面横方向に並ぶエンボスラインを有し、このエンボスラインが紙面上下方向に複数並んで全体として四角形のエンボスセクション102を形成している。そして、このエンボスセクション102の間に等幅直線状で斜め格子状に配された抜き柄セクション103を有しているが、交差部分を有していない。
【0066】
比較例6は、図14に示すエンボスパターンを有するものである。この比較例6は、比較例1をネステッド形式としたものであり、一方紙面の単位凹エンボス122Aと他方紙面の単位凹エンボス122Bとが紙面上下方向及び横方向に交互に配置された全体として四角形のエンボスセクション102を形成している。エンボスセクションの間には等幅直線状で斜格子状の抜き柄セクション103を有しており、交差部分112が形成されている。
【0067】
比較例7は、図15に示すエンボスパターンを有するものである。この比較例7は、一方紙面の単位凹エンボス122Aによる円弧状のエンボスラインと、他方紙面の単位凹エンボス122Bによる円弧状のエンボスラインとを有する。各々のエンボスラインは環状にはなっていない。そして、一方紙面のエンボスラインと他方紙面のエンボスラインとが交互に同心円状に配置された、葉模様状のエンボスセクションを形成している。
【0068】
各比較例のうち、比較例4及び比較例7は、エンボスラインが直線的ではなく、円弧状に配列されており、やや柔らかな印象を与える特徴的な意匠性を有するものとなっている。
【0069】
各例において行った、吸水量、吸油量、吸水速度、吸油速度及びソフトネスの試験手順や測定方法は、上記「ティップ トウ ティップ形式の積層構造との比較試験」と同様である。
【0070】
上記条件のもと行った試験の結果を、各例のクレープ紙の組成、エンボスパターン、物性とともに下記表2に示す。なお、紙厚の測定については、上記ダイヤルシックネスゲージ(厚み測定器)「PEACOCK G型」(尾崎製作所製)により測定した値であり、この測定方法は、エンボスの潰れやすさに依存するためあくまで参考値である。
【0071】
【表2】
【0072】
吸油量については、本発明の実施例1及び実施例2、比較例7において高い数値となっている。これらは、上記の「ティップ トウ ティップ形式の積層構造」の比較例1及び比較例2と同等かそれよりさらに高い。しかし、比較例7は、吸油速度が遅い。これは、そのパターンとして、明確な抜き柄セクションがないがゆえ、油をエンボスセクション内に引き込む作用が小さいと推測される。
【0073】
また、比較例3〜6については、吸油量の顕著な改善が観られない。また、抜き柄セクションのない比較例4では、吸油速度が非常に遅くなっている。
【0074】
さらに、ソフトネスの値については、円弧状のエンボスラインを有し、明確な抜き柄セクションはないものの、エンボスセクション間にある程度の空間を有する比較例7についてやや良好になっているものの、その他比較例では、本発明の実施例よりも劣る。
【0075】
各例を比較してみると、吸油量、吸油速度さらにソフトネスについて顕著に良好な結果が得られたのは本発明の実施例1及び実施例2のみである。
【0076】
つまり、本発明の構成を採ることにより、吸油量、吸油速度に優れ、さらにソフトネスに優れて食材の包みやすさにも優れるようになるといえる。
【0077】
以上の「ティップ トウ ティップ形式の積層構造との比較試験」と「ネステッド形式の積層構造同士の比較試験」との結果からして、本発明のエンボスパターン及び積層構造とすることにより、紙厚を薄くでき吸油速度が速いというネステッド形式の利点はそのままに、「ティップ トウ ティップ形式の積層構造」以上の吸油量を達成でき、しかも柔らかさ、しなやかさにも優れるようになる。
【符号の説明】
【0078】
1,101…キッチンペーパー、10A,10B…クレープ紙、10x…エンボス凸部形成面、21A,21B…エンボス凸部、22A,22B,22C…エンボス凹部(単位凹エンボス)、23B…非エンボス凸部、11…エンボスライン、2…エンボスセクション、L1…エンボスセクション間の離間距離、3…抜き柄セクション、12…抜き柄セクションの交差部分、L2…エンボス凹部の深さ、4…補助エンボスセクション、L3…単位凹エンボスの中心間間隔、D1…抜き柄セクションの延在方向、∠A…クレープ紙のMD方向と抜き柄セクションの延在方向との間の角度、40…接着糊。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15