特許第6851807号(P6851807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社テイエルブイの特許一覧

特許6851807弁装置の動作判定システム及び動作判定方法
<>
  • 特許6851807-弁装置の動作判定システム及び動作判定方法 図000002
  • 特許6851807-弁装置の動作判定システム及び動作判定方法 図000003
  • 特許6851807-弁装置の動作判定システム及び動作判定方法 図000004
  • 特許6851807-弁装置の動作判定システム及び動作判定方法 図000005
  • 特許6851807-弁装置の動作判定システム及び動作判定方法 図000006
  • 特許6851807-弁装置の動作判定システム及び動作判定方法 図000007
  • 特許6851807-弁装置の動作判定システム及び動作判定方法 図000008
  • 特許6851807-弁装置の動作判定システム及び動作判定方法 図000009
  • 特許6851807-弁装置の動作判定システム及び動作判定方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6851807
(24)【登録日】2021年3月12日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】弁装置の動作判定システム及び動作判定方法
(51)【国際特許分類】
   F16K 37/00 20060101AFI20210322BHJP
   G01M 13/00 20190101ALI20210322BHJP
   F16T 1/48 20060101ALN20210322BHJP
【FI】
   F16K37/00 F
   G01M13/00
   !F16T1/48 D
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-246543(P2016-246543)
(22)【出願日】2016年12月20日
(65)【公開番号】特開2018-100706(P2018-100706A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2019年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(74)【代理人】
【識別番号】100170896
【弁理士】
【氏名又は名称】寺薗 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100131200
【弁理士】
【氏名又は名称】河部 大輔
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 健
【審査官】 西井 香織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−127432(JP,A)
【文献】 特開2002−340286(JP,A)
【文献】 特開平01−044515(JP,A)
【文献】 特開2014−163443(JP,A)
【文献】 特開2011−007294(JP,A)
【文献】 特開平04−316701(JP,A)
【文献】 特開平04−296299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 37/00
G01M 13/00 − 13/045
G01M 99/00
F16T 1/00 − 1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力室の圧力を制御するパイロット弁と前記圧力室の圧力に応じて排出路を開閉する主弁とを有するパイロット式の弁装置の異常を判定する、弁装置の動作判定システムであって、
前記弁装置の振動を検出する振動センサと、
前記振動センサによって検出された振動値の変動に基づいて前記弁装置の異常を判定する判定部とを備え、
前記判定部は、前記振動値の変動幅が所定の判定閾値未満の場合に、前記弁装置異常であると判定することを特徴とする弁装置の動作判定システム。
【請求項2】
圧力室の圧力を制御するパイロット弁と前記圧力室の圧力に応じて排出路を開閉する主弁とを有するパイロット式の弁装置の異常を判定する、弁装置の動作判定システムであって、
前記弁装置の振動を検出する振動センサと、
前記振動センサによって検出された振動値の変動に基づいて前記弁装置の異常を判定する判定部とを備え、
前記判定部は、前記振動値の平均値よりも所定値以上離れた前記振動値の極大値及び極小値の個数が所定の判定閾値未満の場合に、前記弁装置異常であると判定することを特徴とする弁装置の動作判定システム。
【請求項3】
圧力室の圧力を制御するパイロット弁と前記圧力室の圧力に応じて排出路を開閉する主弁とを有するパイロット式の弁装置の異常を判定する、弁装置の動作判定システムであって、
前記弁装置の振動を検出する振動センサと、
前記振動センサによって検出された振動値の変動に基づいて前記弁装置の異常を判定する判定部とを備え、
前記判定部は、前記主弁の開閉動作に起因する振動に固有の所定の帯域幅に含まれる周波数成分のパワースペクトルが所定の判定閾値未満の場合に、前記弁装置異常であると判定することを特徴とする弁装置の動作判定システム。
【請求項4】
圧力室の圧力を制御するパイロット弁と前記圧力室の圧力に応じて排出路を開閉する主弁とを有するパイロット式の弁装置の異常を判定する、弁装置の動作判定方法であって、
前記弁装置の振動を検出する検出工程と、
検出された振動値の変動に基づいて前記弁装置の異常を判定する判定工程とを含み、
前記判定工程では、前記振動値の変動幅が所定の判定閾値未満の場合に、前記弁装置異常であると判定することを特徴とする弁装置の動作判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、弁装置の動作判定システム及び動作判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、弁装置の動作を判定する動作判定システムが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、弁装置としてのドレントラップ(スチームトラップ)の動作を判定する動作判定システムが開示されている。このシステムは、ドレントラップの振動を振動センサによって検出し、検出された振動値の平均値に基づいてドレントラップの異常(シール性能)を判定している。シール性能が悪化して蒸気の漏洩が多くなると、振動値が大きくなる。そのため、振動値の平均値が大きい場合には、シール性能の劣化が大きいと判定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−35378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、弁装置の1つにパイロット式の弁装置がある。パイロット式の弁装置は、圧力室の圧力を制御するパイロット弁と圧力室の圧力に応じて排出路を開閉する主弁とを有している。パイロット式の弁装置の動作中には、主弁が摺動して振動を発生させ得る。そのため、前述の振動値の平均値では、弁装置の異常を判定することが難しい場合がある。
【0006】
ここに開示された技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、パイロット式の弁装置の異常を正確に判定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示された技術は、圧力室の圧力を制御するパイロット弁と前記圧力室の圧力に応じて排出路を開閉する主弁とを有するパイロット式の弁装置の異常を判定する、弁装置の動作判定システムが対象である。動作判定システムは、前記弁装置の振動を検出する振動センサと、前記振動センサの検出結果に基づいて前記弁装置の異常を判定する判定部とを備え、前記判定部は、前記振動センサによって検出された振動値の変動に基づいて前記弁装置の異常を判定する。
【0008】
また、ここに開示された技術は、圧力室の圧力を制御するパイロット弁と前記圧力室の圧力に応じて排出路を開閉する主弁とを有するパイロット式の弁装置の異常を判定する、弁装置の動作判定方法が対象である。動作判定方法は、前記弁装置の振動を検出する検出工程と、前記振動センサの検出結果に基づいて前記弁装置の異常を判定する判定工程とを含み、前記判定工程では、前記振動センサによって検出された振動値の変動に基づいて前記弁装置の異常を判定する。
【発明の効果】
【0009】
前記弁装置の動作判定システムによれば、パイロット式の弁装置の異常を正確に判定することができる。
【0010】
前記弁装置の動作判定方法によれば、パイロット式の弁装置の異常を正確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、動作判定システムの概略図である。
図2図2は、排出機構の概略構成を拡大して示す断面図である。
図3図3は、図2におけるA−A線の断面図である。
図4図4は、排出機構のシリンダ部材を上流側から視て示す斜視図である。
図5図5は、動作判定システム100のブロック図である。
図6図6は、動作判定のフローチャートである。
図7図7は、正常時と蒸気漏れ時の振動値のグラフである。
図8図8は、変形例1に係る動作判定のフローチャートである。
図9図9は、変形例2に係る動作判定のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、動作判定システム100の概略図である。動作判定システム100は、ドレントラップ1の振動を検出する振動センサ4と、振動センサ4の検出結果に基づいてドレントラップ1の異常を判定する判定装置6とを備えている。尚、図1において、ドレントラップ1は、断面図で示されている。
【0014】
ドレントラップ1は、パイロット式のスチームトラップである。ドレントラップ1は、例えば蒸気システムに設けられ、蒸気の凝縮によって発生したドレン(復水)を貯留し自動的に排出するものである。ドレントラップ1は、密閉容器であるケーシング10と、排出機構20とを備えている。ドレントラップ1は、弁装置の一例である。
【0015】
ケーシング10は、本体部11と、本体部11にボルト締結される蓋部12とを有している。ケーシング10の内部に、ドレンの貯留室13が形成されている。本体部11は、ドレンの流入通路14および排出通路15を有している。貯留室13の上部には、円筒状のスクリーン18が設けられている。流入通路14はスクリーン18を介して貯留室13の上部に連通しており、流入通路14のドレンはスクリーン18を通過して貯留室13に貯留される。
【0016】
貯留室13には、中空球形のフロート16が自由状態で設けられている。フロート16は、貯留室13のドレン水位に応じて上昇下降する。貯留室13の下部には、フロート16が着座する一対(2つ)のフロート座17が設けられている。一対のフロート座17は、図1において紙面の奥側と手前側(図示省略)とに1つずつ設けられている。また、一対のフロート座17は、フロート16を排出機構20へ案内するガイド部材を構成している。以下で言及する「奥側」および「手前側」は、図1図2において紙面の奥側および手前側を意味する。
【0017】
図2は、排出機構20の概略構成を拡大して示す断面図である。図3は、図2におけるA−A線の断面図である。図4は、排出機構20のシリンダ21を上流側から視て示す斜視図である。排出機構20は、貯留室13の下部に設けられ、貯留室13のドレンのみを排出通路15に排出するものである。具体的に、排出機構20は、貯留室13の側壁19に貫通して取り付けられている。側壁19は、ケーシング10の内部空間を貯留室13と排出通路15とに仕切る仕切部材である。側壁19は、略上下方向に延びている。排出機構20は、シリンダ21と、ピストン31とを備えている。
【0018】
図2にも示すように、シリンダ21は、略円筒状に形成されており、貯留室13の側壁19を排出通路15側からやや斜め上方へ向かって貫通している。シリンダ21の一端部(図2において左側端部であり、以下「先端部」と称する。)は、側壁19から貯留室13に突出している。シリンダ21の内部は、その軸方向に延びる排出路22が形成されている。また、シリンダ21には、排出通路15と排出路22とを連通させる2つの連通口24がシリンダ21を径方向に貫通して形成されている。2つの連通口24は、奥側と手前側(図示省略)とに設けられている。シリンダ21の内部には、内周面から突出して形成された環状の弁座25が設けられている。
【0019】
図3および図4に示すように、シリンダ21の先端部には、貯留室13と排出路22とを連通させる連通口23がシリンダ21を径方向に貫通して形成されている。つまり、排出機構20では、連通口23、排出路22および連通口24を介して、貯留室13と排出通路15とが連通している。
【0020】
ピストン31は、図2に示すように、仕切部32と、ロッド部33と、弁体34とを有している。ロッド部33は、シリンダ21の軸方向に延びる部材であり、シリンダ21と同軸に設けられている。弁体34は、ロッド部33の一端部(図2において左側端部であり、以下、「先端部」という)に設けられている。弁体34は、ロッド部33よりも拡径されている。仕切部32は、環状に形成され、ロッド部33の他端部(図2において右側端部であり、以下、「基端部」という)に取り付けられている。仕切部32は、シリンダ21の内周面と摺動自在に接しており、シリンダ21の内部を軸方向に仕切っている。
【0021】
ピストン31には、弁体34及びロッド部33を軸方向に貫通するパイロット流路35が形成されている。
【0022】
ピストン31は、シリンダ21の排出路22に挿通されている。このとき、弁体34は、弁座25よりも先端側に配置されている。弁体34の先端は、弁体34が弁座25に着座した状態においてシリンダ21よりも貯留室13側に突出している。パイロット流路35の一端は、弁体34の先端に開口している。弁体34の先端は、フロート16の弁座としても機能する。フロート16が弁体34の先端に離着座することによって、パイロット流路35の一端(即ち、弁体34側の開口)が開閉される。
【0023】
シリンダ21のうち、先端部と反対側の端部(図2において右側端部であり、以下、「基端部」という)には、プラグ37が設けられている。シリンダ21は、プラグ37によって側壁19に押し付けられて固定されている。シリンダ21の基端部の開口は、プラグ37によって閉塞される。シリンダ21、プラグ37及び仕切部32によって圧力室36が区画されている。圧力室36は、パイロット流路35を介して貯留室13と連通している。圧力室36には、貯留室13のドレンがパイロット流路35を介して流入する。ピストン31は、圧力室36の圧力に応じてシリンダ21の軸方向に進退(変位)する。尚、ピストン31の仕切部32には、圧力室36と排出路22とを連通させる小径の逃がし流路32aが形成されている。
【0024】
このように構成された排出機構20においては、弁体34及びシリンダ21が圧力室36の圧力に応じて排出路22を開閉する主弁として機能し、フロート16及び弁体34が圧力室36の圧力を制御するパイロット弁として機能する。以下、排出機構20の動作について説明する。
【0025】
貯留室13の水位が低い場合、圧力室36の圧力が低くなるので、ピストン31は、プラグ37の方へ後退し、弁体34が弁座25に着座する。このとき、弁体34は、連通孔23を閉鎖しており、排出路22が閉じられた状態となる(図2に実線で示す状態)。それに加えて、フロート16は、ピストン31の弁体34に着座し、パイロット流路35を閉じる。このとき、フロート16は、弁体34だけでなくフロート座17にも着座している。
【0026】
貯留室13の水位が上昇すると、それに伴ってフロート16が上昇して弁体34から離座する。そうすると、パイロット流路35が開放され、貯留室13のドレンがパイロット流路35を通じて圧力室36に流入する。ここで、ドレントラップ1では、流入通路14及び貯留室13が高圧側、排出通路15が低圧側となっている。また、圧力室36では、圧力室36(高圧側)と排出通路15(低圧側)との圧力差によって、逃がし流路32a、排出路22および連通口24を介して排出通路15にドレンが流出する。ただし、逃がし流路32aは小径なので、逃がし流路32aを介して流出するドレンの流量は、少量である。貯留室13からパイロット流路35を介して圧力室36に流入するドレンの流量の方が逃がし流路32aを介して流出するドレンの流量よりも多い場合には、圧力室36の圧力はドレンの流入に伴って上昇する。圧力室36の圧力が所定の圧力に達すると、その圧力によってピストン31が押圧され、貯留室13の方へ前進する。これにより、ピストン31の弁体34が弁座25から離座し、やがて、連通孔23が開放され、排出路22が開かれる。そうすると、貯留室13のドレンは、連通口23、排出路22および連通口24を介して排出通路15に排出される。
【0027】
排出通路15からのドレンの排出量が流入通路14からのドレンの流入量よりも多い場合には、貯留室13の水位がしだいに低下する。すると、圧力室36の圧力が低下し、ピストン31が後退して、弁体34が連通口23を閉鎖する。この状態では、貯留室13のドレンは、パイロット流路35、圧力室36及び逃がし流路32aを介して排出通路15に流出する。ただし、その流量は少ない。流入通路14からのドレンの流入量が逃がし流路32aを介したドレンの排出量よりも多い場合には、貯留室13の水位は上昇し始める。貯留室13の水位が上昇すると、前述の如く、圧力室36の圧力が上昇し、弁体34が連通口23を開放し、排出路22が開く。
【0028】
このように、流入通路14からのドレンの流入量しだいで弁体34が連通孔23の開閉を繰り返しながら、ドレンが排出される。
【0029】
尚、流入通路14からのドレンの流入量が逃がし流路32aを介したドレンの排出量よりも少ない場合には、弁体34が連通孔23を閉じた後も貯留室13の水位は低下する。やがて、フロート16が弁体34に着座してパイロット流路35を閉じる。その結果、逃がし流路32aを介したドレンの排出も停止される。
【0030】
一方、流入通路14から蒸気が流入した場合には、排出機構20は、流入通路14からのドレンの流入量が少ない場合と同様の動作をする。具体的には、貯留室13に蒸気が貯留されるのに伴ってドレンの水位は低下する。その結果、弁体34が連通孔23を閉じ、さらには、フロート16がパイロット流路35を閉じる。こうして、排出機構20からの蒸気の排出が阻止される。
【0031】
このように構成されたドレントラップ1のケーシング10に振動センサ4が取り付けられている。振動センサ4は、ドレントラップ1の振動に関するパラメータとして、振動の加速度を検出する。
【0032】
図5は、動作判定システム100のブロック図である。振動センサ4は、加速度センサ41と、加速度センサ41からの検出結果に信号処理を施す処理部42と、外部機器と通信を行う通信部43とを有している。
【0033】
加速度センサ41は、ドレントラップ1の加速度を検出する。処理部42は、加速度センサ41からの検出信号に増幅及びA/D変換等の信号処理を施す。通信部43は、外部機器と無線通信を行うように構成され、外部機器へ信号を送信したり、外部機器からの信号を受信したりする。振動センサ4は、ドレントラップ1の振動を検出し、その検出結果を振動値として判定装置6に無線送信する。
【0034】
尚、判定装置6には、ドレントラップ1に流入するドレンの流量を検出する流量センサ5の検出結果も入力されている。流量センサ5は、図1に示すように、ドレントラップ1の上流側の配管、即ち、流入通路14に接続される配管に設けられている。流量センサ5は、検出部51と、検出部51からの検出結果に信号処理を施す処理部52と、外部機器と通信を行う通信部53とを有している。
【0035】
検出部51は、流体の流量を検出する。処理部52は、検出部51からの検出信号に増幅及びA/D変換等の信号処理を施す。通信部53は、外部機器と無線通信を行うように構成され、外部機器へ信号を送信したり、外部機器からの信号を受信したりする。流量センサ5は、ドレントラップ1に流入するドレンの流量を検出し、その検出結果を判定装置6に無線送信する。
【0036】
判定装置6は、振動センサ4及び流量センサ5の検出結果を定期的に収集すると共に、振動センサ4よって検出された振動値の変動に基づいてドレントラップ1の異常を判定する。判定装置6は、外部機器と通信を行う通信部61と、情報が入力される入力部62と、情報を記憶している記憶部63と、動作判定に関する演算を行う演算部64とを有している。
【0037】
通信部61は、外部機器と無線通信を行うように構成され、外部機器へ信号を送信したり、外部機器からの信号を受信したりする。通信部61は、振動センサ4の通信部43と無線通信を行い、振動センサ4の検出結果(振動値)を受信する。同様に、通信部61は、流量センサ5と無線通信を行い、流量センサ5の検出結果を受信する。
【0038】
入力部62には、振動センサ4の振動値及び流量センサ5の流量が入力される。
【0039】
記憶部63には、入力部62からの入力された、振動センサ4の振動値及び流量センサ5の流量を記憶する。記憶部63には、振動値及び流量がそれらの測定時刻と関連づけて記憶されている。
【0040】
演算部64は、プロセッサで構成され、各種演算を行う。例えば、演算部64は、記憶部63に記憶されている、振動センサ4の振動値に基づいてドレントラップ1の異常判定を行う。
【0041】
以下、ドレントラップ1の異常診断について説明する。図6は、動作判定のフローチャートである。
【0042】
ステップSa1において、演算部64は、振動値及び流量を記憶部63から読み出す。具体的には、演算部64は、現在時刻から遡って所定期間内に含まれる振動値及び流量を記憶部63から読み出す。
【0043】
ステップSa2において、演算部64は、所定期間内の平均流量が所定の判定閾値α以上であるか否かを判定する。判定閾値αは、弁体34が連通孔23の開閉動作を繰り返す程度のドレンの流量に応じて設定されている。前述の如く、ドレンの流入量が少ない場合には、貯留室13のドレンは、パイロット流路35、圧力室36及び逃がし流路32aを介して排出通路15に流出し、弁体34は連通孔23を閉じた状態で停止している。つまり、演算部64は、ドレンの流量が弁体34が開閉動作を繰り返す程度の流量か否かを判定している。尚、ドレン流量の判定は、平均流量ではなく、所定期間内の全期間において流量が判定閾値α以上であるか否かで判定してもよい。
【0044】
流量が判定閾値α未満の場合には、演算部64は、ステップSa1,Sa2の処理を繰り返す。
【0045】
一方、流量が判定閾値α以上である場合には、演算部64は、所定期間内の振動値の平均値を算出すると共に(ステップSa3)、各振動値を平均値で除する(ステップSa4)。この振動値を平均値で除する処理を標準化と称する。振動値は、ドレンの流量又は圧力によって変化する。ドレンの流量又は圧力が小さいときには、振動値が小さくなる一方、ドレンの流量又は圧力が大きいときには、振動値が大きくなる。標準化を行うことによって、ドレンの流量又は圧力にかかわらず、様々な条件下における振動値を同様に評価することができる。
【0046】
続いて、演算部64は、所定期間内の振動値の変動幅を算出する(ステップSa5)。振動値は、標準化された振動値である。ここで、振動値の変動幅とは、所定期間内に含まれる振動値の最大値と最小値との差である。
【0047】
尚、振動値の変動幅は、振動値の最大値と最小値との差に限られるものではない。例えば、振動値の変動幅は、所定期間内に含まれる振動値と平均値との差の絶対値のうち最大のものであってもよい。
【0048】
続いて、ステップSa6において、演算部64は、算出された変動幅が所定の判定閾値β以上か否かを判定する。
【0049】
図7に、正常時と蒸気漏れ時の振動値のグラフを示す。図7の振動値は、標準化する前の値である。詳しくは、弁体34が正常に動作(連通孔23の開閉動作)している場合には、弁体34に起因する振動が検出される。弁体34に起因する振動の変動幅は、図7の実線で示すように、或る程度大きい。一方、弁体34が何らかの理由で動作していない場合には、弁体34に起因する振動が検出されない。例えば、弁体34がシリンダ21のどこかに引っかかった場合には、弁体34が動けなくなる場合がある。特に、弁体34が連通孔23を開いたまま停止した場合には、蒸気漏れの虞がある。蒸気漏れが発生している場合には、蒸気の流出に起因する振動が検出される。ただし、蒸気の流出に起因する振動は、弁体34の振動に起因する振動と異なり、変動幅は小さい。
【0050】
そこで、変動幅が判定閾値β以上の場合には、演算部64は、ドレントラップ1が正常であると判定する(ステップSa7)。一方、変動幅が判定閾値β未満の場合には、演算部64は、ドレントラップ1が異常であると判定する(ステップSa8)。振動値は前述のように標準化されているので、変動幅も標準化された値(即ち、振動値の平均値で除された値)である。そのため、ドレンの流量又は圧力が異なる条件下においても同じ判定閾値βを用いて異常判定を行うことができる。
【0051】
演算部64は、このような動作判定を定期的に実行する。
【0052】
こうして、判定装置6は、振動値の変動幅に基づいてドレントラップ1の異常を判定することができる。ドレントラップ1に蒸気漏れが発生したときには、蒸気漏れに特有の振動が発生する。しかし、ドレントラップ1が前述の如くパイロット式の場合には、ドレントラップ1の正常な動作中に弁体34が開閉動作を行うため、弁体34に起因する振動が発生する。そのため、ドレントラップ1の振動の大きさ、又は平均値では、蒸気漏れと弁体34の正常動作とを判別することが困難な場合がある。それに対し、振動値の変動幅を用いることによって、蒸気漏れと弁体34の正常動作とを判別することができる。蒸気漏れの場合には、振動値の変動幅が小さく、弁体34の正常動作の場合には、振動値の変動幅が大きくなる。その結果、パイロット式のドレントラップ1の異常を正確に判定することができる。
【0053】
以上のように、圧力室36の圧力を制御するフロート16及び弁体34(パイロット弁)と圧力室36の圧力に応じて排出路22を開閉する弁体34及びシリンダ21(主弁)とを有するパイロット式のドレントラップ1(弁装置)の異常を判定する動作判定システム100は、ドレントラップ1の振動を検出する振動センサ4と、振動センサ4の検出結果に基づいてドレントラップ1の異常を判定する判定装置6(判定部)とを備え、判定装置6は、振動センサ4によって検出された振動値の変動に基づいてドレントラップ1の異常を判定する。
【0054】
換言すると、ドレントラップ1の異常を判定する動作判定方法は、ドレントラップ1の振動を検出する検出工程と、ドレントラップ1の振動に基づいてドレントラップ1の異常を判定する判定工程とを含み、判定工程では、検出された振動値の変動に基づいてドレントラップ1の異常を判定する。
【0055】
この構成によれば、判定装置6は、ドレントラップ1の異常を判定する債に、振動値の大きさではなく、振動値の変動を用いる。一般に、ドレントラップ1に異常が発生して、蒸気漏れが発生した場合には、振動値が大きくなる。しかし、パイロット式のドレントラップ1は、摺動する部材、即ち、弁体34を有しているので、正常に動作している場合であっても弁体34に起因する振動が発生し得る。そのため、振動値の大きさでは、ドレントラップ1の異常を判定することが難しい。それに対し、蒸気漏れに起因する振動と弁体34に起因する振動とでは、振動値の変動態様が異なる。そこで、振動値の変動に基づくことで、ドレントラップ1の異常を正確に判定することができる。
【0056】
具体的には、判定装置6は、振動センサ4によって検出された振動値の変動幅に基づいてドレントラップ1の異常を判定する。つまり、判定装置6は、振動値の変動態様として、変動幅に基づいてドレントラップ1の異常を判定する。弁体34に起因する振動の振動値の変動幅は、蒸気漏れに起因する振動の振動値の変動幅に比べて大きい。そのため、振動値の変動幅によれば、蒸気漏れに起因する振動と弁体34に起因する振動とを正確に判別して、ドレントラップ1の異常を正確に判定することができる。
【0057】
〈変形例1〉
続いて、動作判定システム100の変形例1について説明する。変形例1に係る動作判定システム100は、振動値の変動態様として、振動値の極値の個数に基づいてドレントラップ1の異常を判定する。図8は、変形例1に係る動作判定のフローチャートである。
【0058】
詳しくは、ステップSb1,Sb2の処理は、ステップSa1,Sa2と同様である。演算部64は、現在時刻から遡って所定期間内に含まれる振動値及び流量を記憶部63から読み出すと共に(ステップSb1)、所定期間内の平均流量が所定の判定閾値α以上であるか否かを判定する(ステップSb2)。流量が判定閾値α未満の場合には、演算部64は、ステップSb1,Sb2の処理を繰り返す。
【0059】
一方、流量が判定閾値α以上である場合には、演算部64は、所定期間内の振動値の平均値を算出すると共に(ステップSb3)、各振動値を平均値で除する(ステップSb4)。そして、演算部64は、所定期間内に含まれる振動値の極大値と極小値の個数を計数する(Sb5)。このとき、演算部64は、全ての極大値及び極小値ではなく、変動が大きい極大値及び極小値だけを抽出する。具体的には、演算部64は、平均値から所定値γ以上離れた極大値及び極小値を抽出する。
【0060】
続いて、ステップSb6において、演算部64は、極値の個数が所定の判定閾値δ以上か否かを判定する。図7に示すように、弁体34が正常に動作している場合には、振動値の変動が大きいので、変動が大きい極値の個数が多い。一方、蒸気漏れが発生している場合には、振動値の変動が小さいので、変動が大きい極値の個数が少ない。
【0061】
そこで、極値の個数が判定閾値δ以上の場合には、演算部64は、演算部64は、ドレントラップ1が正常であると判定する(ステップSb7)。一方、極値の個数が判定閾値δ未満の場合には、演算部64は、ドレントラップ1が異常であると判定する(ステップSa8)。振動値は前述のように標準化されているので、極値も標準化された値(即ち、振動値の平均値で除された値)である。そのため、ドレンの流量又は圧力が異なる条件下においても同じ判定閾値δを用いて異常判定を行うことができる。
【0062】
演算部64は、このような動作判定を定期的に実行する。
【0063】
以上のように、動作判定システム100は、ドレントラップ1の振動を検出する振動センサ4と、振動センサ4の検出結果に基づいてドレントラップ1の異常を判定する判定装置6とを備え、判定装置6は、振動センサ4によって検出された振動値の変動に基づいてドレントラップ1の異常を判定する。具体的には、判定装置6は、振動センサ4によって検出された振動値の極値の個数に基づいてドレントラップ1の異常を判定する。
【0064】
つまり、判定装置6は、ドレントラップ1の異常を判定する際に、振動値の変動態様として、極値の個数を用いる。弁体34に起因する振動の振動値の極値は、蒸気漏れに起因する振動の振動値の極値に比べて多い。そのため、振動値の極値の個数によれば、蒸気漏れに起因する振動と弁体34に起因する振動とを正確に判別して、ドレントラップ1の異常を正確に判定することができる。
【0065】
〈変形例2〉
続いて、動作判定システム100の変形例2について説明する。変形例2に係る動作判定システム100は、振動値の変動態様として、振動値の周波数特性に基づいてドレントラップ1の異常を判定する。図9は、変形例2に係る動作判定のフローチャートである。
【0066】
詳しくは、ステップSc1,Sc2の処理は、ステップSa1,Sa2と同様である。演算部64は、現在時刻から遡って所定期間内に含まれる振動値及び流量を記憶部63から読み出すと共に(ステップSc1)、所定期間内の平均流量が所定の判定閾値α以上であるか否かを判定する(ステップSc2)。流量が判定閾値α未満の場合には、演算部64は、ステップSc1,Sc2の処理を繰り返す。
【0067】
一方、流量が判定閾値α以上である場合には、演算部64は、所定期間内の振動値の平均値を算出すると共に(ステップSc3)、各振動値を平均値で除する(ステップSc4)。そして、演算部64は、所定期間内に含まれる振動値にフーリエ変換を施す(Sc5)。
【0068】
続いて、ステップSc6において、演算部64は、所定の周波数成分のパワースペクトルが所定の判定閾値ε以上か否かを判定する。ここで、所定の周波数成分は、弁体34の振動に固有の周波数成分(例えば、弁体34の共振周波数の成分)である。図7に示すように、弁体34が正常に動作している場合には、振動値は、何らかの振動数で変動している。この振動数は、弁体34の振動に固有の振動数である。
【0069】
そこで、演算部64は、所定期間内の振動値にフーリエ変換を施し、弁体34の振動に固有の周波数成分のパワースペクトルを求める。求められたパワースペクトルが判定閾値ε以上の場合には、演算部64は、演算部64は、ドレントラップ1が正常であると判定する(ステップSc7)。一方、求められたパワースペクトルが判定閾値ε未満の場合には、演算部64は、ドレントラップ1が異常であると判定する(ステップSc8)。振動値は前述のように標準化されているので、パワースペクトルも標準化された値である。そのため、ドレンの流量又は圧力が異なる条件下においても同じ判定閾値εを用いて異常判定を行うことができる。
【0070】
尚、弁体34の振動に固有の周波数成分は、単一の周波数成分ではなく、所定の帯域幅に含まれる複数の周波数成分であってもよい。つまり、演算部64は、弁体34の振動に固有の周波数成分が含まれる所定の周波数帯域において、判定閾値ε以上のパワースペクトルが検出された場合に、ドレントラップ1が正常であると判定してもよい。
【0071】
演算部64は、このような動作判定を定期的に実行する。
【0072】
以上のように、動作判定システム100は、ドレントラップ1の振動を検出する振動センサ4と、振動センサ4の検出結果に基づいてドレントラップ1の異常を判定する判定装置6とを備え、判定装置6は、振動センサ4によって検出された振動値の変動に基づいてドレントラップ1の異常を判定する。具体的には、判定装置6は、振動センサ4によって検出された振動値の変動の周波数特性に基づいてドレントラップ1の異常を判定する。さらに具体的には、判定装置6は、振動センサ4によって検出された振動値の変動における、弁体34の振動に固有の周波数成分のパワースペクトルに基づいてドレントラップ1の異常を判定する。
【0073】
つまり、判定装置6は、ドレントラップ1の異常を判定する際に、振動値の変動態様として、振動値の変動の周波数特性を用いる。弁体34が正常に動作している場合、検出値は、弁体34の振動に固有の振動数で変動する。そのため、振動値の変動の周波数特性によれば、蒸気漏れに起因する振動と弁体34に起因する振動とを正確に判別して、ドレントラップ1の異常を正確に判定することができる。
【0074】
《その他の実施形態》
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、前記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、前記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0075】
前記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0076】
例えば、ドレントラップ1は、蒸気の排出を阻止するスチームトラップに限らず、空気の排出を阻止するエアトラップ、又はガスの排出を阻止するガストラップ等であってもよい。
【0077】
また、ここに開示された技術は、ドレントラップ1に限らず、流体として気体又は液体の流通を制御する任意の弁装置に適用することができる。
【0078】
また、排出機構20は、前述の構成に限られるものではなく、圧力室の圧力を制御するパイロット弁と圧力室の圧力に応じて排出路を開閉する主弁とを有するパイロット式の排出機構であれば、任意の構成を採用することができる。
【0079】
振動値の変動幅、振動値の極値の個数、及び、振動値の変動の周波数特性は、振動値の変動の一例に過ぎない。振動値の変動に関する限り、任意のパラメータに基づいてドレントラップ1の異常を判定してもよい。
【0080】
流量センサ5は、省略してもよい。弁体34が開閉動作を行う程度の運転領域か否かを判定できる限りは、流量センサ5以外の方法を採用できる。あるいは、ドレントラップ1が、常時、弁体34が開閉動作を行う程度のドレン流量の元で使用される場合等には、流量センサ5は不要である。
【0081】
また、振動値を平均値で除して標準化を行っているが、これに限られるものではない。判定閾値をドレン流量又は圧力に応じて変更する場合には、振動値を標準化しなくてもよい。また、ドレン流量又は圧力があまり変動しない条件下においては、振動値を標準化しなくてもよい。
【0082】
ドレンの流量が判定閾値α以上である場合にのみ、振動値の変動に基づくドレントラップ1の異常判定を行っているが、これに限られるものではない。例えば、ドレンの流量にかかわらず、振動値の平均値が所定の判定閾値以上の場合に、振動値の変動に基づくドレントラップ1の異常判定を行ってもよい。つまり、振動値の平均値が大きい場合には、蒸気漏れの可能性があるので、蒸気漏れか弁体34の正常な動作かを振動値の変動に基づいて判定してもよい。
【0083】
また、ドレンの流量が判定閾値α未満の場合には、ドレントラップ1の異常判定を行っていないが、これに限られるものではない。弁体34が開閉動作を行わない運転領域においては、単純に、振動値の大きさ、例えば、平均値に基づいて蒸気漏れの有無を判定してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0084】
ここに開示された技術は、弁装置の動作判定システムについて有用である。
【符号の説明】
【0085】
100 動作判定システム
1 ドレントラップ(弁装置)
16 フロート(パイロット弁)
21 シリンダ(主弁)
22 排出路
34 弁体(主弁、パイロット弁)
36 圧力室
4 振動センサ
6 判定装置(判定部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9