特許第6851820号(P6851820)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6851820蒸着用マスク並びにその設置方法及び製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6851820
(24)【登録日】2021年3月12日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】蒸着用マスク並びにその設置方法及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/04 20060101AFI20210322BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20210322BHJP
   C25D 1/08 20060101ALI20210322BHJP
   C25D 1/10 20060101ALI20210322BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20210322BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   C23C14/04 A
   C23C14/24 G
   C25D1/08 311
   C25D1/10 311
   H05B33/14 A
   H05B33/10
【請求項の数】4
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-257000(P2016-257000)
(22)【出願日】2016年12月28日
(65)【公開番号】特開2018-109211(P2018-109211A)
(43)【公開日】2018年7月12日
【審査請求日】2019年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセルホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】小林 良弘
(72)【発明者】
【氏名】田丸 裕仁
(72)【発明者】
【氏名】上原 基志
(72)【発明者】
【氏名】石川 樹一郎
【審査官】 神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−323888(JP,A)
【文献】 特開2006−156375(JP,A)
【文献】 特開2004−311335(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/04
C23C 14/24
C25D 1/08
C25D 1/10
H01L 51/50
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
独立した多数の蒸着通孔を所定パターンで設けられるマスク本体と、マスク本体と一体に配設される枠体とを備える蒸着マスクにおいて、
前記枠体が、マスク本体と連結一体化される保持枠部と、当該保持枠部と一体に配設される補強枠部とを有し、
前記枠体における保持枠部と補強枠部との境界部分に、貫通孔もしくは凹部の少なくともいずれかが規則的もしくは不規則的に複数線状に並んだ配置とされる、又は、溝が線状に連続する配置とされる、切離し用加工部が設けられており、
前記マスク本体が、枠体に対し内方に収縮しようとする応力を残存させた状態で枠体の保持枠部と一体化され、
前記枠体が、前記応力に基づく力が枠体に加わった状態を仮定して枠体各部の予想変形量をあらかじめ算出されてなり、
前記切離し用加工部が、前記枠体の切離し用加工部を設ける箇所における前記予想変形量が大きくなるほど、当該箇所で前記貫通孔、凹部、又は溝として除去される部分の大きさの、除去されない残部に対する割合をより小さくする形状に設定されることを特徴とする蒸着マスク。
【請求項2】
前記請求項1に記載の蒸着マスクにおいて、
前記切り離し用加工部が、保持枠部と補強枠部との境界部分で線状に連続配置される溝と、当該溝内に溝連続方向へ所定間隔をなす配置で複数穿設される貫通孔との組合せ形状とされ、
当該貫通孔が、貫通孔における溝の連続する方向の端部に鋭角の切欠き部を設けられることを特徴とする蒸着マスク。
【請求項3】
蒸着装置におけるあらかじめ設定された位置に蒸着マスクを設置する蒸着マスクの設置方法において、
前記蒸着マスクが、独立した多数の蒸着通孔を所定パターンで設けられる複数のマスク本体に対し、マスク本体の外周縁と一体に連結可能な保持枠部、及び当該保持枠部の外側を連続的に取り巻く配置で保持枠部と一体に配設される補強枠部をそれぞれ有する枠体を、マスク本体の外側を取り囲むように配置して製造されたものとされ、
前記蒸着装置における蒸着マスク支持用のフレームに、蒸着マスクの枠体における保持枠部を一体に固定し、
前記フレームに固定された状態における枠体の保持枠部に対し、補強枠部を切離して除去しており、
前記枠体が、矩形状の外形を有するものとされ、
蒸着マスクの枠体及びマスク本体各位置における矩形状の枠体外周の各辺と平行な二方向の変位を測定する第一の工程と、
測定された所定箇所の内向きの変位があらかじめ設定された許容範囲に収まらない場合は、最大の変位が生じた箇所の外側にあたる枠体外周部に、最大変位の向きと平行な外向きの所定の引張り力を、前記箇所の変位が前記許容範囲に収まるような大きさの力として加える第二の工程と、
引張り力を加えた状態であらためて枠体及びマスク本体各位置の前記二方向の変位を測定する第三の工程と、
当該測定後、新たに内向きの変位が前記許容範囲に収まらない箇所が生じた場合は、引張り力を加えている状態をそのまま維持しつつ、新たに最大の変位が生じた箇所の外側にあたる枠体外周部に、新たな最大変位の向きと平行な外向きの所定の引張り力を、前記箇所の変位が前記許容範囲に収まるような大きさの力としてさらに加える第四の工程と、
既に引張り力を加えている枠体外周部の内側にあたるいずれかの箇所で、後からの他の引張り力付加に伴って、外向きの変位があらかじめ設定された許容範囲に収まらない状態を測定した場合は、前記箇所の変位が許容範囲に収まるように、前記箇所の外側の枠体外周部に加える引張り力を小さくする調整を行う第五の工程とを含み、
前記第三ないし第五の各工程を、枠体及びマスク本体各位置における測定変位が許容範囲に収まるまで繰り返し行い、
変位が許容範囲に収まった蒸着マスクの枠体における保持枠部を、枠体に引張り力を付加したまま前記フレームに固定し、固定後に枠体への引張り力の付加を解除することを特徴とする蒸着マスクの設置方法。
【請求項4】
多数の蒸着通孔を設けられる金属製の複数のマスク本体と、マスク本体の外側を取り囲んで配置される金属製の枠体とからなる、蒸着マスクの製造方法において、
母型上の複数の所定位置に金属の電鋳で前記マスク本体に対応する一次電着層を形成する第1の電鋳工程と、
前記枠体にあらかじめ設けられた複数の開口内に前記一次電着層が位置するように位置合わせしながら、母型上に枠体を配置する枠体配設工程と、
母型上の枠体に対し所定の除去加工を行って、貫通孔もしくは凹部の少なくともいずれかが規則的もしくは不規則的に複数線状に並んだ配置とされる、又は、溝が線状に連続する配置とされる、切離し用加工部を枠体に設ける枠体加工工程と、
前記枠体の一部又は全部の表面から前記一次電着層の外周縁表面にまたがる所定範囲に、電鋳で金属層を形成し、当該金属層を介して枠体と一次電着層とを離れないよう一体に連結する第2の電鋳工程と、
前記母型から一体の一次電着層、枠体及び金属層を剥離する剥離工程とを含むことを特徴とする蒸着マスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着マスク、並びに、その設置方法及び製造方法に関し、例えば、蒸着マスク法により、有機EL素子の発光層を形成する際に用いられる有機EL素子用の蒸着マスク、及び、この蒸着マスクの設置や製造に適用できる。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electroluminescence)素子の発光層を形成する方法としては、蒸着マスク法が多く用いられている。この蒸着マスク法では、ガラス等の透明材質からなる基板上の所望の位置に有機発光物質を蒸着形成するために、基板の蒸着部位に対応する箇所を除去穿孔した蒸着マスクが使用される。
【0003】
蒸着を行う蒸着装置においては、蒸着対象の基板に対し蒸着マスクを正しく位置合せした状態で設置し、蒸着が実行される。ただし、蒸着に際しては蒸着装置内を蒸着可能な環境とするために一般に加熱がなされることから、蒸着マスクとガラス基板の熱変形状態が異なる場合、蒸着マスクと基板との相対位置関係が変化し、形成される発光層の要求される精度を満足できなくなるという問題がある。
【0004】
近年、薄いマスク本体の外周縁に、ガラス等の被蒸着基板と同等の熱膨張係数を有する素材又は低熱膨張係数の素材からなる補強用の枠体が装着されたマスク構造を採用することで、被蒸着基板とは熱膨張係数が異なる素材製のマスク本体を用いても、マスク本体が被蒸着基板と同等の熱膨張係数を有する枠体の膨張に追随して形状変化する、あるいは低熱膨張係数を有する枠体に抑制されて形状変化しない状態となり、蒸着装置内での昇温時における被蒸着基板に対するマスク本体の整合精度を担保でき、被蒸着基板上に発光層を高精度に形成できる蒸着マスクが提案されている。
【0005】
このような従来の蒸着マスクの一例として、特開2005−15908号公報に開示されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−15908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の蒸着マスクは前記特許文献に示される構成となっており、熱膨張係数の差異によるマスクと基板の相対変形を抑え、蒸着形成物の位置精度の著しい悪化を防止することができる。
【0008】
ただし、市場ではさらなる高精度化の要求があり、マスクの変位によるずれの発生をさらに抑えることが求められている。しかしながら、従来のマスク本体と枠体との組合せ構造の場合、補強用の枠体も薄くすることが必要であることから、こうした薄型の枠体による高強度化には限界があり、マスク本体側の応力の影響によるわずかな変形も回避できるような剛性を枠体のみで確保することはできなかった。このため、従来のマスク構造では、高精度化に伴い厳しくなる許容範囲にマスク本体の変位を収めることが難しく、蒸着形成物の位置ずれによる歩留まりの悪化が避けられないという課題を有していた。
【0009】
本発明は前記課題を解消するためになされたもので、枠体における補強枠部で保持枠部とマスク本体の変形を起こりにくくして、マスク本体の正しい位置からのずれを抑え、蒸着に係る精度を向上させられる蒸着マスク、並びに、蒸着マスクのマスク本体を保持する保持枠部を蒸着装置側に適切に固定でき、マスク本体を精度よく位置決めした状態が得られる、蒸着マスクの設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の開示に係る蒸着マスクは、独立した多数の蒸着通孔を所定パターンで設けられるマスク本体と、マスク本体と一体に配設される枠体とを備える蒸着マスクにおいて、前記枠体が、マスク本体と連結一体化される保持枠部と、当該保持枠部と一体に配設される補強枠部とを有するものである。
【0011】
このように本発明の開示によれば、枠体におけるマスク本体を保持する保持枠部に対し、これを補強する補強枠部を配設し、マスク本体の応力に対する枠体の剛性を高めることにより、マスク本体各部の本来あるべき位置からのずれを抑えた状態で、蒸着装置に固定設置して、マスクと被蒸着基板との整合状態を確保でき、被蒸着基板の適切な位置に精度よく蒸着が行える。
【0012】
また、本発明の開示に係る蒸着マスクは、必要に応じて、前記枠体における保持枠部と補強枠部との境界部分に、貫通孔もしくは凹部の少なくともいずれかが規則的もしくは不規則的に複数線状に並んだ配置とされる、又は、溝が線状に連続する配置とされる、切離し用加工部が設けられるものである。
【0013】
このように本発明の開示によれば、枠体の保持枠部と補強枠部との境界部分に切り離し用加工部を設けて、補強枠部を保持枠部から切り離す際の加工対象位置とすることにより、蒸着装置側への枠体保持枠部及びマスク本体の位置決め、固定の後など、補強枠部による枠体の剛性確保が不要となった場合に、補強枠部の保持枠部からの切り離し加工が無理なく容易に行え、蒸着装置による蒸着工程にスムーズに移行できると共に、枠体として残る保持枠部の形状や保持枠部によるマスク本体の補強状態に影響を与えずに補強枠部を切り離すことができ、その後の蒸着工程を問題なく進められる。
【0014】
また、本発明の開示に係る蒸着マスクは、必要に応じて、前記マスク本体が、枠体に対し内方に収縮しようとする応力を残存させた状態で枠体の保持枠部と一体化されてなり、前記枠体が、前記応力に基づく力が枠体に加わった状態を仮定して枠体各部の予想変形量をあらかじめ算出されてなり、前記切離し用加工部が、前記枠体の切離し用加工部を設ける箇所における前記予想変形量が大きくなるほど、当該箇所で前記貫通孔、凹部、又は溝として除去される部分の大きさの、除去されない残部に対する割合をより小さくする形状に設定されるものである。
【0015】
このように本発明の開示によれば、枠体がマスク本体の応力に基づく力による枠体各部の予想変形量をあらかじめ見積もられたものとされ、この枠体の切離し用加工部における除去部分を、マスク本体の応力による枠体の予想変形量が大きくなる箇所では、除去されない残部に対する除去部分の割合を小さくする一方、マスク本体の応力による枠体の予想変形量が小さくなる箇所では、除去されない残部に対する除去部分の割合を大きくするように設定して、切離し用加工部を枠体各部位の変形可能性に応じて除去部分を増減調整した形状とすることにより、マスク本体の応力で枠体の変形が大きく見込める箇所では、切離し用加工部における凹部等の除去部分の割合を小さくして枠体の強度を十分に確保する一方、枠体におけるマスク本体の応力が加わりにくい箇所では、切離し用加工部の除去部分の割合を大きくして、適切な強度を確保しつつ補強枠部切離し加工の際の加工能率を高められ、補強枠部の速やかな切り離しを可能にして蒸着工程へスムーズに移行できる。
【0016】
また、本発明の開示に係る蒸着マスクは、必要に応じて、前記切り離し用加工部が、保持枠部と補強枠部との境界部分で線状に連続配置される溝と、当該溝内に溝連続方向へ所定間隔をなす配置で複数穿設される貫通孔との組合せ形状とされ、当該貫通孔が、貫通孔における溝の連続する方向の端部に鋭角の切欠き部を設けられるものである。
【0017】
このように本発明の開示によれば、枠体の切り離し用加工部を溝と貫通孔との組合せ構造とすると共に、貫通孔を溝の連続方向へ一部延出させて鋭角の切欠き部を生じさせることにより、切り離し用加工部を切断加工して枠体の補強枠部を切り離す際に、切欠き部を起点として切り離し用加工部に沿って切断面が無理なく生成されることとなり、保持枠部側にバリ等が残りにくく、蒸着工程に付随する諸作業に悪影響を及ぼさない。
【0018】
また、本発明の開示に係る蒸着マスクの設置方法は、蒸着装置におけるあらかじめ設定された位置に蒸着マスクを設置する蒸着マスクの設置方法において、前記蒸着マスクが、独立した多数の蒸着通孔を所定パターンで設けられる複数のマスク本体に対し、マスク本体の外周縁と一体に連結可能な保持枠部、及び当該保持枠部の外側を連続的に取り巻く配置で保持枠部と一体に配設される補強枠部をそれぞれ有する枠体を、マスク本体の外側を取り囲むように配置して製造されたものとされ、前記蒸着装置における蒸着マスク支持用のフレームに、蒸着マスクの枠体における保持枠部を一体に固定し、前記フレームに固定された状態における枠体の保持枠部に対し、補強枠部を切離して除去するものである。
【0019】
このように本発明の開示によれば、保持枠部の外側に配置した補強枠部で強度を高めて変形しにくくした枠体と複数のマスク本体を連結した蒸着マスクを、蒸着装置のフレームに枠体の保持枠部を固定することで、蒸着装置に支持された状態を得られることにより、枠体でマスク本体の変形を抑えた状態を維持したまま蒸着装置に蒸着マスクを設置でき、マスク本体の変位を防いでマスクと被蒸着基板の整合状態を確保し、蒸着の精度を高めて蒸着製品の歩留まりを向上させられる。また、枠体の蒸着装置への固定後に補強枠部を保持枠部から切離すことで、補強枠部が蒸着マスクの固定支持以降の工程の障害にならず、蒸着装置による蒸着を問題なく進められる。
【0020】
また、本発明の開示に係る蒸着マスクの設置方法は、前記枠体が、矩形状の外形を有するものとされ、蒸着マスクの完成状態で、枠体及びマスク本体各位置における矩形状の枠体外周各辺と平行な二方向の変位を測定する第一の工程と、所定箇所の内向きの変位があらかじめ設定された許容範囲に収まらない場合は、最大の変位が生じた箇所の外側にあたる枠体外周部に、最大変位の向きと平行な外向きの所定の引張り力を、前記箇所の変位が前記許容範囲に収まるような大きさの力として加える第二の工程と、引張り力を加えた状態であらためて枠体及びマスク本体各位置の前記二方向の変位を測定する第三の工程と、当該測定後、新たに内向きの変位が前記許容範囲に収まらない箇所が生じた場合は、引張り力を加えている状態をそのまま維持しつつ、新たに最大の変位が生じた箇所の外側にあたる枠体外周部に、新たな最大変位の向きと平行な外向きの所定の引張り力を、前記箇所の変位が前記許容範囲に収まるような大きさの力としてさらに加える第四の工程と、既に引張り力を加えている枠体外周部の内側にあたるいずれかの箇所で、後からの他の引張り力付加に伴って、外向きの変位があらかじめ設定された許容範囲に収まらない状態を測定した場合は、前記箇所の変位が許容範囲に収まるように、前記箇所の外側の枠体外周部に加える引張り力を小さくする調整を行う第五の工程とを含み、前記第三ないし第五の各工程を、枠体及びマスク本体各位置における測定変位が許容範囲に収まるまで繰り返し行い、変位が許容範囲に収まった蒸着マスクの枠体における保持枠部を、枠体に引張り力を付加したまま前記フレームに固定し、固定後に枠体への引張り力の付加を解除するものである。
【0021】
このように本発明の開示によれば、マスク本体の応力によって変形が大きく生じ得る枠体の所定箇所に対し、外部から引張り力を加えて、変位を許容範囲に収める工程を、枠体及びマスク本体のいずれの位置でも変位が許容範囲に収まる状態となるまで繰り返し、変位が許容範囲に収まった枠体及びマスク本体の状態をそのままにして枠体の保持枠部をフレームに固定し、蒸発マスクを蒸発装置に設置した状態としてから、枠体に加えた引張り力を解放することにより、蒸発マスクにおける、枠体の変形を伴うマスク本体の正しい位置からのずれを、外力の付加で枠体ごと変形を抑える手法で確実に防ぎながら、枠体をフレームに固定して、蒸着マスクの蒸着装置への適切な設置状態を確保でき、蒸着に係る精度をさらに向上させられる。
【0022】
また、本発明の開示に係る蒸着マスクの製造方法は、多数の蒸着通孔を設けられる金属製の複数のマスク本体と、マスク本体の外側を取り囲んで配置される金属製の枠体とからなる、蒸着マスクの製造方法において、母型上の複数の所定位置に金属の電鋳で前記マスク本体に対応する一次電着層を形成する第1の電鋳工程と、前記枠体にあらかじめ設けられた複数の開口内に前記一次電着層が位置するように位置合わせしながら、母型上に枠体を配置する枠体配設工程と、前記枠体に対し所定の除去加工を行って、貫通孔もしくは凹部の少なくともいずれかが規則的もしくは不規則的に複数線状に並んだ配置とされる、又は、溝が線状に連続する配置とされる、切離し用加工部を枠体に設ける枠体加工工程と、前記枠体の一部又は全部の表面から前記一次電着層の外周縁表面にまたがる所定範囲に、電鋳で金属層を形成し、当該金属層を介して枠体と一次電着層とを離れないよう一体に連結する第2の電鋳工程と、前記母型から一体の一次電着層、枠体及び金属層を剥離する剥離工程とを含むものである。
【0023】
このように本発明の開示によれば、母型上にマスク本体となる一次電着層を形成し、この一次電着層の周囲に位置するように枠体を配置し、さらに枠体表面から一次電着層の外周縁表面にまたがる所定範囲にこれら枠体と一次電着層とを連結するための金属層を形成する過程の中で、枠体に対し所定の除去加工により切離し用加工部を設けることにより、母型から一次電着層、枠体及び金属層を一体に剥離して蒸着マスクを得た状態で、枠体に切離し用加工部を境界として、内側のマスク本体を一体に保持する領域と、外側の枠体全体を補強する領域とを設定でき、枠体の切離し用加工部より外側の領域を十分大きくすれば、マスク本体の応力に基づいてマスク本体から枠体に加わる力に対する枠体の剛性を高められることとなり、マスク本体各部の本来あるべき位置からのずれを抑えた状態で、蒸着マスクを蒸着装置に固定設置して、マスクと被蒸着基板との整合状態を確保でき、被蒸着基板の適切な位置に精度よく蒸着が行える。また、蒸着装置側への蒸着マスクの固定設置後、枠体の切離し用加工部より外側の領域による枠体の剛性確保が不要となった場合に、切離し用加工部で切り離し加工を行うことで枠体の外側領域部分を無理なく容易に切り離せ、蒸着装置による蒸着工程にスムーズに移行できると共に、枠体として残る内側領域部分の形状やこれによるマスク本体の保持状態に影響を与えずに外側領域部分を切り離すことができ、その後の蒸着工程を問題なく進められる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1の実施形態に係る蒸着マスクの概略平面図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る蒸着マスクの要部構成説明図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る蒸着マスクの要部概略断面図である。
図4】本発明の第1の実施形態に係る蒸着マスクにおける枠体の平面図である。
図5】本発明の第1の実施形態に係る蒸着マスクにおける枠体の切離し用加工部の一部拡大図である。
図6】本発明の第1の実施形態に係る蒸着マスクの製造における一次パターンレジスト形成過程説明図である。
図7】本発明の第1の実施形態に係る蒸着マスクの製造における一次電着層形成工程説明図である。
図8】本発明の第1の実施形態に係る蒸着マスクの製造における二次パターンレジスト形成過程説明図である。
図9】本発明の第1の実施形態に係る蒸着マスクの製造における金属層形成工程及び蒸着マスクと母型の分離状態説明図である。
図10】本発明の第1の実施形態に係る蒸着マスクの製造装置フレームへの載置過程説明図である。
図11】本発明の第1の実施形態に係る蒸着マスクの製造装置フレームへの固定状態説明図である。
図12】本発明の第1の実施形態に係る蒸着マスクにおける枠体からの補強枠部切離し状態説明図である。
図13】本発明の第1の実施形態に係る蒸着マスクを設置する他の製造装置フレームの概略構成説明図である。
図14】本発明の第1の実施形態に係る蒸着マスクの他の製造装置フレームへの固定状態説明図である。
図15】本発明の第1の実施形態に係る蒸着マスクにおける枠体の他の切離し用加工部の概略配置状態説明図である。
図16】本発明の第2の実施形態に係る蒸着マスクの製造方法における枠体への除去加工工程説明図である。
図17】本発明の第3の実施形態に係る蒸着マスクの製造完了状態における枠体の変形状態説明図である。
図18】本発明の第3の実施形態に係る蒸着マスクの製造装置への設置時における枠体への第一段階の引張り力付加状態説明図である。
図19】本発明の第3の実施形態に係る蒸着マスクの製造装置への設置時における枠体への第二段階の引張り力付加状態説明図である。
図20】本発明の第3の実施形態に係る蒸着マスクの製造装置への設置時における枠体への第三段階の引張り力付加状態説明図である。
図21】本発明の第3の実施形態に係る蒸着マスクの製造装置への設置時における枠体への第四段階の引張り力付加状態説明図である。
図22】本発明の第3の実施形態に係る蒸着マスクの製造装置への設置時における枠体への第五段階の引張り力付加状態説明図である。
図23】本発明の第3の実施形態に係る蒸着マスクの製造装置への設置時における枠体への第六段階の引張り力付加状態説明図である。
図24】本発明の第3の実施形態に係る蒸着マスクの製造装置への設置時における枠体への第七段階の引張り力付加状態説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(本発明の第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係る蒸着マスクを図1ないし図12に基づいて説明する。本実施形態においては、有機EL素子用蒸着マスクに適用した例について説明する。
【0026】
前記各図において本実施形態に係る蒸着マスク1は、多数の蒸着通孔8を所定パターンで設けられる複数のマスク本体2と、マスク本体2の外側を取り囲んで配置される枠体3とを備える構成である。
【0027】
前記マスク本体2は、ニッケルやニッケルコバルト等のニッケル合金、その他の電着金属を素材として、電鋳によりシート状に形成され、蒸着物質を通す独立した多数の蒸着通孔8を所定パターンで設けられる構成である。
【0028】
マスク本体2は、多数の蒸着通孔8を設けられる内部のパターン形成領域2aと、電鋳により形成される金属層7を介して枠体3と一体に接合される外周縁2bとを含むものである。パターン形成領域2aでは、多数の蒸着通孔8が発光層形成用の蒸着パターン9を形成している。
【0029】
マスク本体2の厚みは、好ましくは10〜100μmの範囲とし、本実施形態では20μmに設定した。各蒸着通孔8は、例えば平面視で前後の長さ寸法が70μm、左右幅寸法が170〜200μmの四角形状を有しており、これら蒸着通孔8は、前後方向に直線的に並ぶ複数個の通孔群を列とし、複数個の列が左右方向に並列状に配設されたマトリクス状の蒸着パターン9を構成している。
【0030】
前記枠体3は、マスク本体2よりも肉厚の矩形状の薄板を枠形状としたもので、マスク本体2の補強用としてマスク本体2の外周に配置され、金属層7を介してマスク本体2と連結一体化される構成である。詳細には、枠体3は、マスク本体2の外周縁と連結一体化される保持枠部4と、この保持枠部4の外側を連続的に取り巻く配置で保持枠部4と一体に配設される補強枠部5とを有するものである。
【0031】
この枠体3は、低熱膨張係数の材質、例えば、ニッケル−鉄合金であるインバー材、あるいはニッケル−鉄−コバルト合金であるスーパーインバー材等のような材質で形成される。そして、枠体3は、電鋳により形成された金属層7により、マスク本体2のパターン形成領域2aの外周縁2bと互いに離れないよう連結一体化される。
【0032】
枠体3の材質としてインバー材やスーパーインバー材を採用した場合、その熱膨張係数が極めて小さいことで、蒸着工程における熱影響によるマスク本体2の寸法変化を良好に抑制できる。すなわち、マスク本体2が、例えばニッケルなどの、熱膨張係数が被蒸着基板(図示を省略)である一般ガラスの熱膨張係数に比べて大きいものである場合のように、蒸着時の高温による熱膨張率の違いから、常温下で蒸着マスク1を被蒸着基板に整合させた際の、基板に対する通孔位置と、実際の蒸着時における蒸着物質の蒸着位置との間にずれが生じることもなく、マスク本体2を保持する枠体3の熱膨張係数が小さい特徴により、昇温時におけるマスク本体2の膨張に起因する寸法変化、形状変化をよく抑えて、常温時における整合精度を蒸着時の昇温時にも良好に保つことができる。
【0033】
なお、枠体3の材質は、被蒸着基板であるガラス等に近い低熱膨張係数の材料、例えばガラスやセラミックのようなものを用いることもできる。この場合、これら材料の少なくとも表面に導電性を付与させることとなる。
【0034】
枠体3は、図4に示すように、マスク本体2に対応する6つの開口3aを備える薄板製の矩形枠形状に形成され、6枚のマスク本体2を一枚の枠体3で保持している。すなわち、枠体3は、その板面上に6つの開口3aが整列配置されており、各開口3aに一枚のマスク本体2が装着される。枠体3のうち、補強枠部5のある幅広の外周部分における幅は、例えば約60mmとされ、そのうち保持枠部4の幅は約10mm、補強枠部5の幅は約50mmに設定される。また、枠体3の厚み寸法は、例えば0.1〜5.0mm程度とし、本実施形態においては1.0mmに設定した。
【0035】
この枠体3における保持枠部4と補強枠部5との境界部分には、線状に連続する溝3cと複数の貫通孔3dとを組み合わせた形状の切離し用加工部3bが設けられる。切離し用加工部3bの幅は、例えば、約2mmに設定される。
【0036】
この切離し用加工部3bは、保持枠部4と補強枠部5との境界部分で線状に連続配置される溝3cと、この溝3c内に溝連続方向へ所定間隔をなす配置で複数穿設される貫通孔3dとの組合せ形状とされる。このうち貫通孔3dは、この貫通孔における溝3cの連続する方向の端部に鋭角の切欠き部3eを設けられる。
【0037】
なお、切欠き部3eの尖端(鋭角の隅部)位置は、切離し用加工部3bの幅方向の中心位置から保持枠部4寄り又は補強枠部5寄りにずらすように設定するのが好ましく、マスク本体2側の保持枠部4寄りにずらすのがさらに好ましい。
【0038】
切離し用加工部3bは、枠体3へのエッチングにより設ける他、機械加工やレーザ加工で不要部分を除去することにより設けることもできる。
なお、切離し用加工部3bは、貫通孔3dを切欠き部3eのある断面形状とするものに限られるものではなく、単純な四角形や円形断面の貫通孔としてもよい。また、切離し用加工部3bは、溝3cと貫通孔3dとを組み合わせた形状の他、貫通孔が所定間隔で併設されない溝が、線状に連続する配置として設けられる構成としてもかまわない。この他、切離し用加工部3bは、貫通孔もしくは凹部の少なくともいずれかが規則的もしくは不規則的に複数線状に並んだ配置として設けられる構成とすることもできる。
【0039】
この切離し用加工部3bをあらかじめ設けられた状態の枠体3が、蒸着マスク1の製造工程に供され、マスク本体となる一次電着層15の形成後、この一次電着層15の周囲に位置するように母型10上に配置されるが、この他、未加工の枠体3を母型10上に配置し、それ以降の製造工程における途中段階で、枠体3に切離し用加工部3bを設けるようにすることもできる。
【0040】
前記蒸着マスク1は、母型10の表面に、一次電着層15の非配置部分に対応させて一次パターンレジスト14が設けられた後、母型10上に電着金属の電鋳により一次電着層15を形成され、この一次電着層15を囲むように枠体3を配置され、さらに、一次電着層15のパターン形成領域2a対応部分を覆う二次パターンレジスト18を形成された後、枠体3の表面と一次電着層15の外周縁2b表面とを覆うように電鋳により金属層7を形成されて、この金属層7を介して一次電着層15と枠体3とを離れないよう一体に連結された状態で、これら一体の一次電着層15、枠体3及び金属層7と母型10とを分離することで製造されるものである。
【0041】
本実施形態に係る蒸着マスク1の製造工程で用いられる前記母型10は、ステンレス材や真ちゅう、鋼等の導電性を有する材質で形成され、蒸着マスクの製造工程で分離されるまで、マスク本体2をなす一次電着層15他を支持するものであり、蒸着マスク製造工程の各段階で、表面側に一次パターンレジスト14、一次電着層15、二次パターンレジスト18、及び金属層7が形成される。一次電着層15や金属層7の形成の際には、この母型10を介した通電がなされることで、母型10表面のレジストに覆われない通電可能な部分に電鋳により一次電着層15又は金属層7が形成されることとなる。
【0042】
母型10は、例えば、42アロイ(42%ニッケル−鉄合金)やインバー(36%ニッケル−鉄合金)、SUS430等の低熱膨張係数の素材とすることもできる。この他、母型は、ガラス板や樹脂板など絶縁性基板の表面にクロムやチタンなどの導電性を有する金属からなる金属膜を形成したものでもかまわない。
【0043】
蒸着マスク1の製造工程では、母型10上に電鋳により金属層7が形成されたら(図9(B)参照)、母型10がこれらから分離除去される(図9(C)参照)。母型10がステンレス材の場合には、力を加えて蒸着マスク側から物理的に引き剥がして除去する方法を用いるのが好ましく、また、母型10が他の金属材の場合、薬液を用いて溶解除去するエッチングの方法を用いるのが好ましい。エッチングの場合、母型10は溶解するが一次電着層15や枠体3、金属層7をなす材質が冒されないような選択エッチング性を有するエッチング液を用いることとなる。
【0044】
前記一次電着層15は、電鋳に適したニッケルやニッケル−コバルト等のニッケル合金からなり、母型10上の一次パターンレジスト14のない部分に、電鋳で形成される構成である。蒸着マスク1において、一次電着層15は、被蒸着基板における発光層等の蒸着対象箇所に対応する蒸着通孔8を除いた、被蒸着基板の表面を覆うマスク本体2をなすものとして形成されることとなる。
【0045】
前記一次パターンレジスト14は、一次電着層15の電鋳で使用する電解液に対する耐溶解性を備えた絶縁性材で形成され、母型10上にあらかじめ設定される一次電着層15の非配置部分に対応させて配設され、一次電着層15の形成後には除去されるものである(図6図7参照)。
【0046】
この一次パターンレジスト14は、母型10上に一次電着層15の形成に先立って配設され、感光性レジスト、例えば、ネガタイプの感光性ドライフィルムレジストを、母型10に所定の厚さ、例えば約20μmの厚さとなるようにして配設し、蒸着マスク1のマスク本体2位置、すなわち、一次電着層15の配置位置に対応する所定パターンのマスクフィルム12を載せた状態で、紫外線照射による露光での硬化、非照射部分のレジストを除去する現像等の処理を経て、一次電着層15の非配置部分に対応させた形状で形成される。
【0047】
前記二次パターンレジスト18は、金属層7の電鋳で使用する電解液に対する耐溶解性を備えた絶縁性材で形成され、あらかじめ設定される金属層7の非配置部分に対応させて配設され、金属層7の形成後には除去されるものである(図8図9参照)。
【0048】
この二次パターンレジスト18は、金属層7の形成に先立って配設され、感光性レジスト、例えばネガタイプの感光性ドライフィルムレジストを、母型10及び既に配置された一次電着層15上に所定の厚さ、例えば約15μmの厚さとなるようにして配設し、蒸着マスク1の金属層7及び枠体3位置に対応する所定パターンのマスクフィルム17を載せた状態で、紫外線照射による露光での硬化、非照射部分の感光性材料を除去する現像等の処理を経て、金属層7の非配置部分(マスク本体2のパターン形成領域2a)に対応させた形状で形成される。
【0049】
前記金属層7は、電鋳により形成されるものであり、ニッケルやニッケル−コバルト合金等からなり、母型10及び既に配置された一次電着層15及び枠体3上の、二次パターンレジスト18が配設されず露出した部分に、電鋳で形成される構成である。
【0050】
この金属層7は、マスク本体2と枠体3とを連結するものである。金属層7は、パターン形成領域の外周縁2bに係るマスク本体2の上面に電鋳により積層される。詳しくは、金属層7は、マスク本体2におけるパターン形成領域2aの外周縁2bの上面と、枠体3の上面及びパターン形成領域2a側の側面と、マスク本体2と枠体3との間隙部分に形成されており、これでパターン形成領域2aの外周縁2bと枠体3の開口周縁とを離れないよう一体に連結する。
【0051】
なお、金属層7は、枠体3の保持枠部4と補強枠部5の両方を含む表面(上面)全体に形成するようにできるが、後の切離し用加工部3bでの切断により、枠体3の補強枠部5は分離除去されることから、金属層7は、保持枠部4の表面のみに形成するようにしてもよい。
【0052】
次に、本実施形態に係る蒸着マスクの製造工程及び蒸着装置への設置工程について説明する。
蒸着マスクの製造工程については、まず、母型10上にあらかじめ設定される、マスク本体2の蒸着通孔8、すなわち一次電着層15の非配置部分、に対応させて、母型10にレジスト層11を配設する(図6参照)。具体的には、母型10の表面側に、例えば、ネガタイプの感光性ドライフィルムレジストを、形成する一次電着層15の高さに対応する所定厚さ(例えば約20μm)に合わせて一ないし数枚積層し、熱圧着によりレジスト層11を形成する(図6(A)参照)。
【0053】
そして、レジスト層11の表面に、前記蒸着通孔8に対応する透光孔12aを有するなど、一次電着層15の配置位置に対応する所定パターンのマスクフィルム(ガラスマスク)12を密着させた後、紫外線照射による露光での硬化(図6(B)、(C)参照)、マスクされていた非照射部分のレジストを除去する現像、乾燥、といった各処理を行う。こうして、一次電着層15の非配置部分に対応させた一次パターンレジスト14を母型10上に形成する(図7(A)参照)。
【0054】
なお、このような一次パターンレジスト14は、フォトレジスト等を使用したリソグラフィー法その他の任意の方法で形成することができ、その形成方法は上記に限定されるものではない。
【0055】
この一次パターンレジスト14を有する母型10を、所定の条件に建浴した電鋳槽に入れ、一次パターンレジスト14の厚さの範囲内で、母型10の一次パターンレジスト14で覆われていない表面(露出領域)に、ニッケル合金等の電着金属の電鋳により、例えば20μm厚の、マスク本体2となる一次電着層15を形成する(図7(B)参照)。
【0056】
この後、一次パターンレジスト14を溶解除去することにより、所定の蒸着パターン9をなす独立した多数の蒸着通孔8を設けられたマスク本体2となる一次電着層15が得られる(図7(C)参照)。
【0057】
一次電着層15が得られた後、この一次電着層15の形成部分を含む母型10の表面全体に、レジスト層16を配設する。具体的には、母型10の表面側に、例えば、ネガタイプの感光性ドライフィルムレジストを、あらかじめ設定された所定厚さ(例えば約15μm)に合わせて一ないし数枚積層し、熱圧着によりレジスト層16を形成する(図8(A)参照)。
【0058】
そして、レジスト層16の表面に、図8(B)に示すように、マスク本体2のパターン形成領域2aに対応する透光孔17aを有するマスクフィルム17を密着させた後、紫外線照射による露光で硬化させる処理を行う(図8(B)、(C)参照)。これにより、パターン形成領域2aに対応する部分が露光されたレジスト層16a、それ以外の部分が未露光のレジスト層16bとなる。
【0059】
ここで、あらかじめ切離し用加工部3bが設けられている枠体3を、一次電着層15を囲むように位置合せして母型10上に配置する(図8(C)参照)。
ここでの枠体3は、未露光のレジスト層16bの粘着性により、母型10上に容易に動かないよう仮固定できる。
【0060】
枠体3配置後、表面に露出している未露光のレジスト層16bを溶解除去する処理を行って、パターン形成領域を覆う二次パターンレジスト18を形成する(図9(A)参照)。なお、枠体3の下側に存在する未露光のレジスト層16bは、表面に現れていないことで除去されず、母型10上に残って枠体3を固定する役割を続けて果たすこととなる。
【0061】
この後、二次パターンレジスト18に覆われず、パターン形成領域2aの外周縁2bに係る表面に露出する一次電着層15の上面、枠体3と一次電着層15との間で表面に露出する母型10の表面、及び枠体3の表面上に、電着金属の電鋳により金属層7を形成する(図9(B)参照)。この金属層7により一次電着層15と枠体3とを離れないよう一体に連結できる。
【0062】
この場合、金属層7は、パターン形成領域2aの外周縁2bに係る表面に露出する一次電着層15の上面や、一次電着層15と枠体3との間で表面に露出する母型10表面における厚さが30μmとなるように形成される。一方、枠体3の表面での金属層7の厚さは15μmとなる。この厚さの差異は、金属層7が母型10の表面から順次積層されて、未露光のレジスト層16bの高さ寸法を超えて枠体3に達してはじめて、枠体3が母型10と導通状態となり、枠体3の表面への金属層7の形成が開始することによるものである。
【0063】
金属層7の形成が完了したら、最終工程として、母型10から一体の一次電着層15、枠体3及び金属層7を剥離する(図9(C)参照)。さらに、二次パターンレジスト18及び枠体3の下側に存在する未露光のレジスト層16bを除去することで、蒸着マスク1の製造が完了となる。
【0064】
前記各製造工程を経て得られた蒸着マスク1は、そのマスク本体2が外側の枠体3に対し内方に収縮する方向の応力Fを生じる状態とされる構成である。
詳細には、母型10に対し熱膨張係数の大きい材質で電鋳により一次電着層15を形成することで、電鋳を行う常温より温度の高い環境で一次電着層15は母型を上回る線膨張状態で母型表面に形成され、母型10上では変形を規制されていることで、常温の環境では母型10より多く収縮しようとするものの収縮が生じず、一次電着層15には内方に収縮する方向の応力が生じる。
【0065】
一方、枠体3は母型10に対し常温環境で配設され、枠体自体も低熱膨張係数の材質で形成されていることから、金属層7の形成で一次電着層15と枠体3とを連結した状態でも、一次電着層15は内方に収縮する方向の応力を内在させたままである。このため、一体の一次電着層15と枠体3を母型10から分離すると、一次電着層15、すなわちマスク本体2は、枠体3に対し内方に収縮しようとし、枠体3に内向きの引張り力を作用させることとなる。
【0066】
続いて、本実施形態に係る蒸着マスクの蒸着装置への設置工程について説明する。
上記のように、マスク本体2が枠体3に対し内方に収縮する方向の応力を発生させる状態で形成されていることで、マスク本体2からは枠体3を変形させようとする力が加わる。ここで、枠体3は保持枠部4の外側に補強枠部5を一体に配置した構成を有し、枠体3における内側のマスク本体2を保持する保持枠部4に対し、補強枠部5が外側から補強する構造となっている。これにより、マスク本体2の応力に起因して枠体3を変形させようとする力に対する枠体3の剛性は高められ、力を受けた枠体3が大きく変形することはない。そして、枠体3が変形しにくいことで、マスク本体2の変形も起こりにくい状態となる。
【0067】
こうしたマスク本体2と枠体3との組合せからなる蒸着マスク1を、蒸着釜等の蒸着を行う蒸着装置に対し、蒸着可能に設置する。設置に際しては、まず、蒸着マスク1を、蒸着装置に蒸着マスク支持用として設けられるフレーム50に対し適切に位置決めしてから固定する(図10図11参照)。フレーム50は、例えば、インバー材など低熱膨張係数の材質からなる枠状部材であり、その厚さを10〜25mmとして形成される。
この固定は、蒸着マスク1の枠体3における保持枠部4を、フレーム50にスポット溶接などの溶接により強固に且つ蒸着時の熱に耐えうる状態で一体化することでなされる。
【0068】
なお、保持枠部4のフレーム50への溶接による固定は、蒸着装置内に設けられたフレーム50に対し行う他、フレーム50を蒸着装置から取り外し可能な場合は、蒸発装置外に取り出して取り扱いやすくしたフレーム50に対し行うこともできる。
【0069】
蒸着マスク1の枠体3に対し、フレーム50は著しく剛性が高く、保持枠部4をフレーム50に固定した状態で、保持枠部4はフレーム50に対しずれたり変形したりせず完全に一体化し、保持枠部4内側に連結されて保持されるマスク本体2も、応力で変形するようなことはなく、フレーム50に対する位置関係を維持できる。なお、フレーム50は、枠形状の中間部を横断するバー51を設けたものであってもよい(図13図14参照)。この場合、蒸着マスク1をフレーム50に固定した状態で、蒸着マスク1の自重による中央部分の撓みを抑えることができる。バー51は、フレーム50に対し縦、横、斜めのいずれの向きでもよく、また格子状に組み合わせるなど、どのように設けてもよいが、マスク本体2に重なると蒸着の障害となるため、枠体3と重なるように設ける。このバー51は、フレーム50に当初から一体化させた状態としてフレーム50と同時に形成してよいが、フレーム50とは独立に形成されたものをフレーム50に後から取り付けて一体に組み合わせるようにすることもできる。また、バー51は、例えば、インバー材やセラミックなどの低熱膨張係数の材質で形成され、厚さを5〜8mmとされるものであるが、このバー51の材質については、フレーム50と同じものと、フレーム50とは異なるものとのいずれを採用してもかまわない。
【0070】
フレーム50への保持枠部固定後は、枠体3の保持枠部4の剛性を枠体3自体の構造で担保する、すなわち、保持枠部4をその外側の補強枠部5で補強する構成をそのまま維持する必要がなくなる。蒸着の工程において、蒸着マスク1は小さい方が都合がよいことから、補強目的で残す必要がなく、不要部分となった補強枠部5については、保持枠部4との境界に設けられた切離し用加工部3bで切断し、保持枠部4から分離除去する(図12参照)。
【0071】
この保持枠部4の除去において、あらかじめ枠体3に切離し用加工部3bを設けて、補強枠部5を保持枠部4から切り離す際の加工対象位置とすることで、切り離し加工が無理なく容易に行えると共に、枠体として残る保持枠部4の形状や保持枠部4によるマスク本体2の保持状態に影響を与えずに補強枠部5を切り離すことができ、蒸着装置による蒸着工程にスムーズに移行できる。
【0072】
加えて、加工対象となる切離し用加工部3bは、線状に連続配置される溝3cと、溝3cの連続方向へ所定間隔で複数穿設される貫通孔3dとの組合せ形状とされると共に、貫通孔3dには鋭角の切欠き部3eを設けた構造となっている。このため、この切離し用加工部3bを切断加工して補強枠部5を切り離す際に、切欠き部3eを起点として切離し用加工部3bに沿って切断面が無理なく生成され、保持枠部4側にバリ等が残りにくく、蒸着工程に付随する諸作業に悪影響を及ぼさないようにできる。
【0073】
このように、本実施形態に係る蒸着マスクは、枠体3における内側のマスク本体2を保持する保持枠部4に対し、これを外側から補強する補強枠部5を配設し、マスク本体2の応力に基づいてマスク本体2から枠体3に加わる力に対する枠体3の剛性を高めることから、マスク本体2各部の本来あるべき位置からのずれを抑えた状態で、蒸着装置に固定設置して、マスクと被蒸着基板との整合状態を確保でき、被蒸着基板の適切な位置に精度よく蒸着が行える。
【0074】
また、蒸着マスク1の設置に際しては、蒸着マスク1における枠体3の保持枠部4を、蒸着装置のフレーム50に溶接等で固定して、蒸着装置への設置状態を得られることから、枠体3でマスク本体2の変形を抑えた状態を維持したまま蒸着装置に蒸着マスク1を設置でき、マスク本体2の変位を防いでマスクと被蒸着基板の整合状態を確実なものとして、蒸着の精度を高められ、蒸着形成物の歩留まりを向上させられる。また、枠体3の蒸着装置への固定後に補強枠部5を保持枠部4から切離すことで、補強枠部5が蒸着マスク1の固定以降の工程の障害にならず、蒸着装置による蒸着を問題なく進められる。
【0075】
なお、前記実施形態に係る蒸着マスクにおいては、枠体3の切り離し加工部3cを、線状に連続する溝3cと溝連続方向に所定間隔で複数穿設された貫通孔3dとを組み合わせた形状とし、保持枠部4と補強枠部5との境界部分のいずれの箇所でも一様な形状として設ける構成としているが、これに限らず、枠体3上の位置ごとに切り離し加工部3cの形状を変えたものとすることもでき、例えば、枠体3に対し内方に収縮しようとする応力を残存させた状態で一体化されるマスク本体2に対応する形で、枠体3を、前記応力に基づく力が枠体に加わった状態を仮定して枠体各部の予想変形量があらかじめ算出されたものとし、その切離し用加工部3bを、この切離し用加工部3bを設ける枠体3の所定箇所における予想変形量がより大きくなるほど、この箇所の切離し用加工部3bをなす貫通孔、凹部、又は溝として除去される部分の大きさの、除去されない残部に対する割合をより小さくする形状に設定する構成とすることもできる。
【0076】
この場合、枠体3の切離し用加工部3bを枠体各部位の変形可能性に応じて除去部分を増減調整した形状とする、すなわち、切離し用加工部3bにおける除去部分を、マスク本体2の応力に基づいて枠体3に加わる力による枠体3の変形量が大きくなる箇所では、除去されない残部に対する除去部分の割合を小さくする一方、枠体の変形量が小さくなる箇所では、除去されない残部に対する除去部分の割合を大きくするように設定することで、枠体3の変形が大きく見込める箇所では、切離し用加工部3bにおける凹部等の除去部分の割合を小さくして枠体3の強度を十分に確保する一方、枠体3の変形を予想しにくい箇所では、切離し用加工部3bの除去部分の割合を大きくして、適切な強度を確保しつつ切離し加工の際の加工能率を高められ、補強枠部5の速やかな切り離しを可能にして蒸着工程へスムーズに移行できることとなる。
【0077】
具体例としては、図15に示すように、枠体3において、比較的剛性が小さく、マスク本体2の応力に基づく力の影響を受けやすい、枠体各辺のうち矩形状のマスク本体2の各辺に沿う縁部中間位置近傍の切離し用加工部3bでは、貫通孔、凹部、又は溝として除去される部分をできるだけ少なくして、除去されない部分の割合を大きくし、除去部分による剛性低下を最小限とし、実際の変形を起こりにくくすることができる。一方、剛性大でマスク本体2の応力に基づく力の影響を受けにくい、枠体3の各枠辺が交わるコーナー部分近傍の切離し用加工部3bでは、貫通孔、凹部、又は溝として除去される部分の大きさの、除去されない残部に対する割合を増やして、切り離し加工の際の手間を少なくすることができる。
【0078】
また、前記実施形態に係る蒸着マスクの製造においては、一次電着層15と枠体3とに接するように金属層7を形成して、金属層7で一次電着層15と枠体3の一体化を図る構成としているが、これに限らず、枠体配置の前に、一次電着層15を枠体配設位置に及ぶように形成すると共に、枠体3を下側の一次電着層15に対し接着剤を介在させつつ載置して、一次電着層15と枠体3とを接着で一体化する構成とすることもでき、一次電着層、すなわちマスク本体2と、枠体3との一体化を簡略に実行でき、マスクの製造能率の向上が図れる。なお、マスク本体2の表面と枠体3の表面を覆うように金属層7を形成することで、マスク本体2と枠体3の接合状態をより好ましいものにできる。特に、接着剤の表面(側部)を金属層7で覆うことで、洗浄処理や昇温に起因する接着剤の変質を効果的に防ぐことができ、マスク本体2と枠体3との接合状態を長期にわたり維持できる。
【0079】
また、前記実施形態に係る蒸着マスクの製造においては、母型10上に枠体3を配置した後、枠体3表面に金属層7を形成するようにしているが、これに限らず、電鋳で金属層7を形成する前に、枠体上面の一部又は全部にレジストを配設して、金属層7を枠体上面全体には形成せず、必要な部位以外は金属層7を枠体上面の一部にのみ設けたり、省略したりして、枠体3表面に応力緩和部を設けた構成とすることもできる。
【0080】
この場合、枠体3の上面において金属層7が一様に連続せず部分的、断片的なものとなることで、金属層に仮に内部応力が発生しても枠体3全体ではなく部分的、断片的に作用するものとなり、枠体3が変形などの悪影響を受けにくく、平面形状を確保できる。
【0081】
また、前記実施形態に係る蒸着マスクの製造においては、一次電着層15が形成された後、一次電着層には特に表面処理を行うことなく、金属層7を形成するようにしているが、これに限らず、一次電着層15が形成された後、レジスト層16を形成する前の段階で、一次電着層15の金属層7を重ねて配設する予定の所定範囲に対して酸浸漬や電解処理等の活性化処理を施すこともできる。
【0082】
この場合、無処理の場合に比べて、一次電着層15の活性化処理部分とその上の金属層7との間の接合強度の大幅な向上を図れることとなる。また、活性化処理の代わりに、一次電着層15の所定範囲に対して、ストライクニッケルや無光沢ニッケル等の薄層を形成してもよい。これによっても、一次電着層15の薄層形成部分とその上の金属層7との接合強度の向上を図ることができる。
【0083】
また、前記実施形態に係る蒸着マスクの製造においては、一次電着層15や枠体3と金属層7とが重なる箇所は単純に平面同士で接触する構成とされているが、この他、一次電着層15(マスク本体2)におけるパターン形成領域2aの外周縁2bの全周にわたって多数個の貫通孔又は凹部を設けて、一次電着層15の外周縁2b上に形成する金属層7については、前記貫通孔又は凹部を埋めて金属層7が外周縁2bに一部食い込む状態に形成する構成とすることもできる。
【0084】
この場合、金属層7は、一次電着層15に対し、パターン形成領域2aの外周縁2bの上面に加えて、外周縁2bの各貫通孔又は凹部内に存在して、一次電着層15の外周縁2bとの接合強度をより大きなものとする。これにより、金属層7を介して、マスク本体2と枠体3とをより強固に連結一体化できることとなり、枠体3に対するマスク本体2の不用意な脱落や位置ずれを確実に抑えられ、蒸着精度及び蒸着形成物の再現精度の向上を図ることができる。
【0085】
(本発明の第2の実施形態)
前記第1の実施形態における蒸着マスクの製造においては、枠体3を母型10上に配置する工程で、あらかじめ切離し用加工部3bが設けられた枠体3を用いるようにしているが、この他、第2の実施形態として、図16に示すように、枠体3を母型10上に配置した後、マスク製造の一工程として、枠体3に切離し用加工部3bを設けるようにすることもできる。
【0086】
この場合、切離し用加工部3bを除去加工で設ける方法として、母型10上に配置した枠体3をエッチング液に浸漬して溶解させる方法を用いることができる。このエッチングの場合、枠体3は溶解するが母型10など枠体以外の部位の材質が冒されないような選択エッチング性を有するエッチング液を用いたり、除去加工対象となる枠体所定範囲を除く部位に対して、マスキング材19を配設する(図16(B)参照)。
【0087】
具体的には、エッチングの対象としない部位を覆うように、例えば感光性フィルムレジストを熱圧着等により配設し、このレジストに対し、除去部分へのマスク配置、紫外線照射による露光での硬化、現像等の処理を行い、マスキング材19を硬化形成する。この他、マスキング材としては、エッチング液への耐性を有した保護フィルムを、エッチングの対象としない部位を覆うように配設したりするようにしてもよい。
【0088】
マスキング材19を形成したら、枠体3を母型10ごとエッチング液に浸漬して、マスキング材19で覆われていない枠体3表面側の一部が露出した部分をエッチングで所定深さまで溶解、除去する(図16(C)参照)。このエッチングで枠体3の一部を除去した部位が、枠体3の他の部分より薄肉で切断しやすい切離し用加工部3bとなる。
【0089】
エッチングを経て、所望の深さ及び形状の切離し用加工部3bが得られたら、マスキング材19を所定の除去剤で溶解させてそれぞれ除去すると、枠体3や一次電着層15が露出して、金属層を電鋳で形成可能な状態となり、この後は前記第1の実施形態同様、電鋳で金属層を形成する工程以降が進行することとなる。
【0090】
なお、エッチングにより枠体3に切離し用加工部3bを設ける他に、母型10上に配置した枠体3に対し、機械加工やレーザ加工で不要部分の除去加工を行って、切離し用加工部3bを設けるようにすることもできる。
【0091】
このように、本実施形態に係る蒸着マスクの製造方法は、母型10上にマスク本体となる一次電着層15を形成し、この一次電着層15の周囲に位置するように枠体3を配置し、さらに枠体3表面から一次電着層15の外周縁2b表面にまたがる所定範囲に、これら枠体3と一次電着層15とを連結するための金属層7を形成する過程の中で、枠体3に対し所定の除去加工により切離し用加工部3bを設けることから、母型10から一体に剥離された一次電着層15、枠体3及び金属層7が蒸着マスク1をなす状態では、枠体3に切離し用加工部3bを境界として、マスク本体2を一体に保持する内側の領域(保持枠部4)と、枠体全体を補強しつつ不要時には切離し可能な外側の領域(補強枠部5)とを生じさせることができ、枠体3の切離し用加工部3bより外側の補強枠部5を十分大きくして、マスク本体2の応力に対する枠体3の剛性を高められ、マスク本体各部の本来あるべき位置からのずれを抑えた状態で、蒸着マスク1を蒸着装置に固定設置して、マスクと被蒸着基板との整合状態を確保でき、被蒸着基板の適切な位置に精度よく蒸着が行える。
【0092】
また、蒸着装置側への蒸着マスク1の固定設置後、枠体3の切離し用加工部3bより外側の補強枠部5による枠体3の剛性確保が不要となった場合に、切離し用加工部3bで切り離し加工を行うことで補強枠部5を無理なく容易に切り離せ、蒸着装置による蒸着工程にスムーズに移行できると共に、枠体3として残る保持枠部5の形状やこれによるマスク本体2の保持状態に影響を与えずに補強枠部5を切り離すことができ、その後の蒸着工程を問題なく進められる。
【0093】
(本発明の第3の実施形態)
前記第1の実施形態における蒸着マスク1の蒸着装置への設置においては、蒸着マスクの製造完了後、蒸着マスク1をそのまま蒸着装置のフレーム50に固定するようにして、蒸着装置に蒸着マスクを設置するようにしているが、この他、第3の実施形態として、図17ないし図24に示すように、蒸着マスク1における枠体3の外周各部に引張り力を付加して、枠体3及びマスク本体2の変位を許容範囲に収めた上で蒸着装置に設置するようにすることもできる。
【0094】
蒸着装置に設置する前の、製造完了状態の蒸着マスク1においては、前記第1の実施形態同様、マスク本体2が枠体3に対し内方に収縮する方向の応力を発生させる状態で形成されていることで、マスク本体2からは枠体3を変形させようとする力が加わる。ここで、枠体3は保持枠部4の外側に補強枠部5を一体に配置した構成を有し、枠体3における内側のマスク本体2を保持する保持枠部4に対し、補強枠部5が外側から補強する構造となっている。これにより、マスク本体2の応力に起因して枠体3を変形させようとする力に対する枠体3の剛性は高められ、力を受けた枠体3が大きく変形することはない。そして、枠体3が変形しにくいことで、マスク本体2の変形も起こりにくい状態となる。
【0095】
しかしながら、枠体3も蒸着マスク1の一部として薄く形成する必要性からあまり厚くできない上、フレーム50への固定の際の取り扱いの関係上、補強枠部5の大きさにも一定の制限があることから、枠体3の剛性強化には限度があり、枠体3の変形を完全に抑えることはできない。
【0096】
このため、マスク本体2から加わる力が大きいと、枠体3の一部が内方にわずかに変形し、枠体3と一体のマスク本体2の収縮する変形を許容した状態となって、結果としてマスク本体2のわずかな変形を抑えられないことがある。この時、蒸着形成物の寸法精度条件が厳しく、マスク本体2の位置ずれに係る許容範囲が小さい場合は、マスク本体2の所定箇所で許容範囲を超える変位が生じることとなり、蒸着形成物の歩留まり悪化につながるおそれがある。
【0097】
これに対し、蒸着マスク1の蒸着装置への設置において、マスク本体2の応力に基づいて枠体3を変形させようとする力に対抗する力を枠体3に加えて、枠体3の変位を許容範囲に収め、この枠体3の変位が許容範囲に収まった状態をそのまま維持しつつ、枠体3の保持枠部4をフレーム50に固定する工程を採用する。これにより、枠体3の変形を抑え、同時に枠体3の変形を伴うようなマスク本体2の正しい位置からのずれも抑えられることとなる。
【0098】
具体的な設置の工程は、まず、蒸着マスク1をなす枠体3及びマスク本体2の本来の状態からの変位を測定し、変位が大きく生じた位置の外側となる枠体3の外周所定箇所に対し、外部から引張り力を加えて、変位を許容範囲に収める一連の工程を、枠体3及びマスク本体2のいずれの位置でも変位が許容範囲に収まる状態となるまで繰り返し行う。そして、引張り力付加で変位が許容範囲に収まった枠体3及びマスク本体2の状態を維持したまま、枠体3の保持枠部4をフレーム50に固定する。その後、枠体3に加えた引張り力を解放する、といった手順となる。なお、枠体外周における引張り力を加える位置としては、枠体内側の格子状部分の外側(延長線上)となる枠体外周位置を除いた位置を対象とする。これは、枠体外周部のうち枠体内側の格子状部分の外側にあたる箇所は、格子状部分との結合で剛性が高く、マスク本体の応力に基づく変形がそもそも生じにくいことと、仮に変形が生じた場合に外部から引張り力を加えても、変形を相殺するような逆向きの変形を与えにくいことによる。
【0099】
詳細には、第一の工程として、蒸着マスク1の枠体3とマスク本体2の各位置における矩形状の枠体外周各辺と平行な二方向の変位を測定する。そして、第二の工程として、所定箇所の内向きの変位があらかじめ設定された許容範囲に収まらない場合は、最大の変位が生じた箇所の外側にあたる枠体3の外周部に、最大変位の向きと平行な外向きの所定の引張り力を、前記箇所の変位が前記許容範囲に収まるような大きさの力として加える。
【0100】
続いて、第三の工程として、引張り力を加えた状態であらためて枠体及びマスク本体各位置の前記二方向の変位を測定する。この測定後、第四の工程として、新たに内向きの変位が前記許容範囲に収まらない箇所が生じた場合は、引張り力を加えている状態をそのまま維持しつつ、新たに最大の変位が生じた箇所の外側にあたる枠体外周部に、新たな最大変位の向きと平行な外向きの所定の引張り力を、前記箇所の変位が前記許容範囲に収まるような大きさの力としてさらに加える。
【0101】
また、第五の工程として、既に引張り力を加えている枠体外周部の内側におけるいずれかの箇所で、後からの他の引張り力付加に伴って、外向きの変位があらかじめ設定された許容範囲に収まらない状態を測定した場合は、前記箇所の変位が許容範囲に収まるように、前記箇所の外側の枠体外周部に加える引張り力を小さくする調整を行う。
【0102】
そして、前記第三ないし第五の各工程を、枠体3及びマスク本体2各位置における測定変位が許容範囲に収まるまで繰り返し行うこととなる。
【0103】
具体例を用いて説明すると、製造完了後の蒸着マスクにおいて、マスク本体2の位置Aで最大変位として枠体3の縦方向(y軸方向)に−6.1μm、すなわち枠体内方に6.1μmの変位が測定により確認されている(図17参照)。この変位は許容範囲(±1μm以内)に収まらないことから、最大変位が生じた位置Aのy軸方向の外側にあたる枠体3の外周部(上辺中央と下辺中央)に、最大変位の向きと平行なy軸方向で枠体の外方となる各方向へ40Nの引張り力を加える(図18参照)。
【0104】
ただし、この40Nの引張り力を付加した段階で枠体及びマスク本体各位置の変位の測定を行うと、依然として、マスク本体2の位置Aで最大変位として枠体3のy軸方向に−3.0μmの変位が確認されている(図18参照)。この変位は許容範囲に収まらないことから、前記同様に位置Aのy軸方向の外側にあたる枠体3の外周部(上辺中央と下辺中央)の計二箇所に、y軸方向で枠体の外方となる各方向へ、位置Aの変位が許容範囲に収まるような大きさの力として、80Nの引張り力を加える(図19参照)。
【0105】
このy軸方向に80Nの引張り力を付加した後、枠体各位置の変位の測定を行うと、新たに、マスク本体2の位置Bで最大変位として枠体3の横方向(x軸方向)に−2.4μm、すなわち枠体内方に2.4μmの変位が確認された(図19参照)。この変位は許容範囲に収まらないことから、先のy軸方向の引張り力(80N)もそのまま付加した状態を維持したままで、最大変位が生じた位置Bのx軸方向の外側にあたる枠体3の外周部(左辺中央付近の二箇所と右辺中央付近の二箇所)の計四箇所に、最大変位の向きと平行なx軸方向で枠体の外方となる各方向へ、位置Bの変位が許容範囲に収まるような大きさの力として、40Nの引張り力をそれぞれ加える(図20参照)。
【0106】
このx軸方向に40Nの引張り力を付加した後、枠体及びマスク本体各位置の変位の測定を行うと、新たに、マスク本体2の位置Cで最大変位として枠体3のy軸方向に−1.5μm、すなわち枠体内方に1.5μmの変位が確認された(図20参照)。この変位は許容範囲に収まらないことから、先のy軸方向の引張り力(80N)やx軸方向の引張り力(40N)もそのまま付加した状態を維持したままで、最大変位が生じた位置Cのy軸方向の外側にあたる枠体3の外周部(上辺中央から少し離れた二箇所と下辺中央から少し離れた二箇所)の計四箇所に、最大変位の向きと平行なy軸方向で枠体の外方となる各方向へ、位置Cの変位が許容範囲に収まるような大きさの力として、20Nの引張り力をそれぞれ加える(図21参照)。
【0107】
このy軸方向に20Nの引張り力を付加した後、枠体及びマスク本体各位置の変位の測定を行うと、新たに、マスク本体2の位置Dで最大変位として枠体3のy軸方向に+1.1μm、すなわち枠体外方に1.1μmの変位が確認された(図21参照)。この変位は許容範囲に収まらないことから、先のx軸方向の引張り力(40N)をそのまま付加した状態を維持したままで、最大変位が生じた位置Dのy軸方向の外側にあたる枠体3の外周部(上辺中央と下辺中央)の二箇所で、先にy軸方向で枠体の外方となる各方向へ加えていた引張り力(80N)を60Nまで小さくすると共に、枠体3の外周部(上辺中央から少し離れた二箇所と下辺中央から少し離れた二箇所)の計四箇所で、先にy軸方向で枠体の外方となる各方向へそれぞれ加えていた引張り力(20N)を30Nまで大きくし(図22参照)、位置Dの変位が許容範囲に収まるようにする。
【0108】
こうしてy軸方向に付加していた引張り力を増減調整した後、枠体及びマスク本体各位置の変位の測定を行うと、新たに、マスク本体2の位置Eで最大変位として枠体3のx軸方向に−1.1μm、すなわち枠体内方に1.1μmの変位が確認された(図22参照)。この変位は許容範囲に収まらないことから、先のy軸方向の引張り力(60N、30N)やx軸方向の引張り力(40N)もそのまま付加した状態を維持したままで、最大変位が生じた位置Eのx軸方向の外側にあたる枠体3の外周部(左辺中央から少し離れた二箇所と右辺中央から少し離れた二箇所)の計四箇所に、最大変位の向きと平行なx軸方向で枠体の外方となる各方向へ、20Nの引張り力をそれぞれ加える(図23参照)。
【0109】
このx軸方向に20Nの引張り力を付加した後、枠体及びマスク本体各位置の変位の測定を行うと、新たに、マスク本体2の位置Fで最大変位として枠体3のy軸方向に−1.2μm、すなわち枠体内方に1.2μmの変位が確認された(図23参照)。この変位は許容範囲に収まらないことから、先のy軸方向の引張り力(80N)やx軸方向の引張り力(40N、20N)をそのまま付加した状態を維持したままで、最大変位が生じた位置Fのy軸方向の外側にあたる枠体3の外周部(上辺中央から少し離れた二箇所と下辺中央から少し離れた二箇所)の計四箇所で、先にy軸方向で枠体の外方となる各方向へ加えていた引張り力(30N)を20Nまで小さくし(図24参照)、位置Fの変位が許容範囲に収まるようにする。
【0110】
こうしてy軸方向に付加していた引張り力を調整した後、枠体及びマスク本体各位置の変位の測定を行うと、枠体3及びマスク本体2の最大変位としては位置Gにおいてx軸方向に−0.8μm、すなわち枠体内方への0.8μmの変位が確認された(図24参照)。この変位は許容範囲に収まることから、測定と引張り力の付加、調整の工程の繰り返しは終了となる。
【0111】
こうした前記各工程の繰り返しで、変位が許容範囲に収まったら、蒸着マスク1の枠体3における保持枠部4を、枠体3に引張り力を付加したまま、蒸着装置内又は蒸着装置の外に位置させたフレーム50に固定する。保持枠部4をフレーム50に固定して、枠体3と共にマスク本体2がずれなく適正な位置に保持される状態が得られた後、枠体3に対する引張り力の付加を解除すると共に、前記第1の実施形態同様、枠体3の補強枠部5を、保持枠部4との境界に設けられた切離し用加工部3bで切断し、保持枠部4から分離除去する。フレーム50が蒸着装置内の場合はこの状態で、また、フレーム50が蒸着装置の外の場合はフレーム50及び蒸着マスク1を蒸着装置内に据え付けると、蒸着マスク1の設置工程完了となる。
【0112】
このように、本実施形態に係る蒸着マスクの設置方法は、蒸着マスク1におけるマスク本体2の応力によって変形が大きく生じ得る枠体3の所定箇所に対し、外部から引張り力を加えて、変位を許容範囲に収める工程を、枠体3のいずれの位置でも変位が許容範囲に収まる状態となるまで繰り返し、変位が許容範囲に収まった枠体3の状態をそのままにして枠体3の保持枠部4をフレーム50に固定し、蒸発マスク1を蒸発装置に設置した状態としてから、枠体3に加えた引張り力を解放することにより、蒸発マスク1における、枠体3の変形を伴うマスク本体2の正しい位置からのずれを、外力の付加で枠体3ごと変形を抑える手法で確実に防ぎながら、枠体3をフレーム50に固定して、蒸着マスク1の蒸着装置への適切な設置状態を確保でき、蒸着に係る精度をさらに向上させられる。
【符号の説明】
【0113】
1 蒸着マスク
2 マスク本体
2a パターン形成領域
2b 外周縁
3 枠体
3a 開口
3b 切離し用加工部
3c
3d 貫通孔
3e 切欠き部
保持枠部
補強枠部
7 金属層
8 蒸着通孔
9 蒸着パターン
10 母型
11 レジスト層
12 マスクフィルム
13 薄肉部
14 一次パターンレジスト
15 一次電着層
16 レジスト層
17 マスクフィルム
18 二次パターンレジスト
19 マスキング材
50 フレーム
図1
図2
図3
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