【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の第一の態様においては、低エンドトキシンのアルカリ性キトサン、キチン、またはこれらの誘導体の製造方法が提供される。この方法は、
(a)キトサン、キチン、キトサン誘導体、またはキチン誘導体をアルカリ溶液と接触させて、混合物を形成する工程と、
(b)該混合物を1時間未満放置する工程とを含む。
【0017】
本発明の方法は、該混合物を乾燥させる工程(c)をさらに含んでもよい。
【0018】
本発明により、低濃度のエンドトキシンを含むアルカリ性キトサン、キチン、キトサン誘導体、またはキチン誘導体を効率的に製造する方法が提供される。本発明の方法には、洗浄工程、濯ぎ工程、界面活性剤や相間移動剤の使用、無菌設備、かつ/またはエンドトキシンフリー水の使用を必要としないという利点がある。さらに、専門的な(specialist)エアフィルターや無菌状態も必要としない。本発明の方法は、キトサンをアセチル化する工程を含まないことが好ましい。また、本発明の方法は、エンドトキシンフリーの設備を使用しない。このことは、無菌設備を必要とする方法と比べると、処理工程のコストを削減することになるので特に有益である。
【0019】
本明細書で使用する用語「キトサン誘導体」とは、部分的に脱アセチル化(partially deacetylated)されたキチンを意味し、所望に応じて脱アセチル化の程度は異なってもよい。一般的には、本発明での使用に適した部分的に脱アセチル化されたキチンは、約50%を超える程度に脱アセチル化されている。より典型的には約75%を超える程度、最も典型的には約85%を超える程度に脱アセチル化されている。
【0020】
また、本明細書で使用する用語「誘導体」とは、キトサンまたはキチンとその他の化合物との反応物を意味する。このような反応物としては、カルボキシメチルキトサン(carboxymethyl chitosan)、ヒドロキシルブチルキチン(hydroxyl butyl chitin)、N−アシルキトサン(N-acyl chitosan)、O−アシルキトサン(O-acyl chitosan)、N−アルキルキトサン(N-alkyl chitosan)、O−アルキルキトサン(O-alkyl chitosan)、N−アルキリデンキトサン(N-alkylidene chitosan)、O−スルホニルキトサン(O-sulfonyl chitosan)、硫酸化キトサン(sulfated chitosan)、リン酸化キトサン(phosphorylated chitosan)、キトサン硝酸塩(nitrated chitosan)、アルカリキチン(alkalichitin)、アルカリキトサン(alkalichitosan)、またはキトサンとの金属キレート(metal chelates with chitosan)などが挙げられるが、これらに限られるわけではない。
【0021】
本発明の第一の態様においては、低エンドトキシンのアルカリ性キトサン、キチン、またはこれらの誘導体の製造方法が提供されるが、以下では、便宜上例示を目的として、キトサンに関連して説明する。
【0022】
キトサンは、食物等級、医療等級、または医薬品等級のキトサンなど、市販のキトサンを用いることができる。したがって、本発明の方法により、市販のキトサンから低エンドトキシンのアルカリ性キトサンを得ることができる。これは、キトサン製造工程の一部としてエンドトキシンの除去または低減を行う工程とは異なる。有益なことに、本発明の方法によれば、含有するエンドトキシンの濃度のために医療分野にはもともとは不適切であっただろう調製されたキトサンから、低エンドトキシンのアルカリ性キトサンを得ることができる。
【0023】
本明細書で使用する用語「アルカリ性キトサン」とは、pH値が7.5を超えるキトサン組成物を意味する。
【0024】
本明細書で使用する用語「アルカリ溶液」とは、pH値が7.5を超える溶液を意味する。
【0025】
エンドトキシンの分子量は様々に異なるので、エンドトキシンの濃度は材料1グラム当たりのエンドトキシン活性単位(EU)で計測する。エンドトキシンの濃度は、特定量の基準エンドトキシンに対する相対量として計測する。
【0026】
たとえば、本発明では、エンドトキシンの濃度はキトサン1グラム当たりのエンドトキシン活性単位で計測する。本明細書で使用する用語「低エンドトキシン」とは、キトサン1グラム当たりのエンドトキシン活性単位が50未満である濃度のエンドトキシンを意味する。
【0027】
したがって、本発明の方法は、エンドトキシンの濃度が50EU/g未満のアルカリ性キトサンを製造するのに適している。
【0028】
本発明により得られるアルカリ性キトサンは、エンドトキシンの濃度が30EU/g未満であり、好ましくは20EU/g未満、より好ましくは15EU/g未満、さらに好ましくは10EU/g未満、最も好ましくは5EU/g未満がよい。
【0029】
本発明の方法では、アルカリ溶液は低濃度であることが望ましいことが分かった。本発明の方法で使用するアルカリ溶液の濃度は約0.01Mから約1Mでよい。好ましくは、アルカリ溶液の濃度は1M未満であるのがよい。より好ましくは、アルカリ溶液の濃度は約0.02Mから0.25M、さらに好ましくは、約0.04Mから0.06Mであるのがよい。典型的には、アルカリ溶液の濃度は0.05Mである。また、アルカリ溶液の濃度は、最大約0.01M、0.05M、0.10M、0.15M、0.20M、0.25M、0.30M、0.35M、0.40M、0.45M、0.50M、0.55M、0.60M、0.65M、0.70M、0.75M、0.80M、0.85M、0.90M、または0.95Mであってもよい。アルカリ溶液の濃度が0.1Mのときに良好な結果が得られることが観察された。
【0030】
いくつかの実施形態においては、キトサンに対するアルカリ溶液の量は、アルカリ溶液約10部に対してキトサン約1部から、アルカリ溶液約1部に対してキトサン約10部までの範囲でよい。好ましくは、キトサンに対するアルカリ溶液の量は、キトサン約2部に対してアルカリ溶液約1部がよく、より好ましくは、キトサン約1部に対してアルカリ溶液約1部がよい。
【0031】
アルカリ溶液は、金属水酸化物(metal hydroxides)、金属炭酸塩(metal carbonates)、金属重亜硫酸塩(metal bisulphites)、金属過ケイ酸塩(metal persilicates)、共役塩基(conjugate bases)、および水酸化アンモニウム(ammonium hydroxide)から選ばれるアルカリ成分またはアルカリ土類成分を単独でまたは組み合わせて含んでよい。
【0032】
好適な金属としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、またはマグネシウムが挙げられる。
【0033】
好ましくは、アルカリ成分は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、または炭酸ナトリウムがよい。典型的には水酸化ナトリウムを使用する。
【0034】
アルカリ溶液をキトサンと接触させるには、当該技術分野において周知である、いずれかの好適な手段により行ってよい。たとえば、アルカリ溶液をキトサンに対し噴霧すればよい。または、キトサンをアルカリ溶液と混合してもよい。また、アルカリ溶液と接触したキトサンを均一に分散するのが好ましい。
【0035】
好ましくは、キトサンをアルカリ溶液と混合するのがよい。低分子量であるなら、キトサンはアルカリ溶液中に完全にまたは部分的に溶解する。キトサンはアルカリ溶液と最大約30分間混合してもよいが、より好ましくは約10分間混合するのがよい。いくつかの実施形態においては、キトサンをアルカリ溶液と30分間を超えて混合してもよい。
【0036】
いくつかの実施形態においては、キトサンはアルカリ溶液に溶解しない。
【0037】
いくつかの実施形態においては、キトサンはアルカリ溶液中で膨潤(swell)しない。
【0038】
いくつかの実施形態においては、アルカリ溶液は、キトサンを溶解せずに、またはキトサンを膨潤させずに、キトサンを湿らせる(wet)。
【0039】
いくつかの実施形態においては、キトサンとアルカリ溶液との混合物を、工程(b)の間断続的に撹拌してもよい。
【0040】
キトサンとアルカリ溶液との混合物はある期間放置される。この期間にエンドトキシンは十分に破壊される。キトサンとアルカリ溶液との混合物を1時間未満放置する。キトサンとアルカリ溶液を1時間未満という短期間放置すると、それ以降の処理工程で結果として得られるアルカリ性キトサン中のエンドトキシンの濃度が望ましい低濃度になることを発見した。
【0041】
混合物を1時間未満放置した場合、エンドトキシンの濃度が適切に低濃度となることが観察された。処理という観点から見れば、キトサンとアルカリとの混合物を放置する時間が短ければ短いほど、より望ましい。本発明の方法の利点の一つは、キトサンとアルカリ溶液を混合し続ける必要はなく、それらの混合物を放置できることである。
【0042】
いくつかの実施形態においては、60分未満、55分未満、50分未満、45分未満、4 0分未満、35分未満、30分未満、25分未満、20分未満、15分未満、10分未満、または5分未満の間、混合物を放置してもよい。
【0043】
好ましくは3分間未満、より好ましくは2分間未満、最も好ましくは1分間未満。混合物を放置するのがよい。
【0044】
好ましくは、工程(b)では、以降の処理工程、たとえば、乾燥工程(c)のために混合物を調製するのに要する時間だけ混合物を放置するのがよい。混合物を1時間以内乾燥した場合、時間の経過とともに(約1−3週間で)エンドトキシンの濃度が低下することが観察された。
【0045】
工程(a)でキトサンをアルカリ溶液と接触させた直後に混合物を乾燥させると、良好な結果が得られることが観察された。ここで「直後」とは、工程(b)で、乾燥工程(c)のために混合物を調製するのに要する時間だけ混合物を放置することを意味する。典型的には放置する時間は約30秒未満であり、好ましくは20秒未満、最も好ましくは10秒未満がよい。
【0046】
したがって、本発明の一つの態様においては、低エンドトキシンのアルカリ性キトサン、キチン、またはこれらの誘導体の製造方法が提供される。この方法は、
(a)キトサン、キチン、キトサン誘導体、またはキチン誘導体をアルカリ溶液と接触させて、混合物を形成する工程と、
(b)該混合物を直ちに乾燥させる工程とを含む。
【0047】
上記の方法では、工程(b)で、次の段階の処理工程のために混合物を調製するのに必要な時間だけ混合物を放置する。たとえば、工程(b)では、乾燥処理のために混合物を調製するのに必要な時間だけ混合物を放置してよい。その後、乾燥工程(c)で混合物を乾燥してもよい。
【0048】
工程(b)では、室温および室圧(room pressure)下で混合物を放置してよい。ここで「室温」および「室圧」とは、約20〜25℃の温度と、約1気圧(atm)の圧力を意味する。このように、混合物を無菌設備内に放置する必要はないという利点がある。
【0049】
好ましくは、混合物を清潔な容器内に保存する。混合物を不活性雰囲気下で保存してもよい。
【0050】
混合物は防腐剤をさらに含んでよい。防腐剤により、たとえば、混合物を長期間放置する場合に起こりうる微生物の増殖という危険性を取り除くことができるという利点がある。防腐剤としては、生体適合性(biocompatible)があり、アルカリ性環境での使用に適しているものであれば、任意の防腐剤を使用できる。好適な防腐剤としては、銀イオン、亜鉛イオン、クロルヘキシジン、またはこれらを組み合わせて使用できる。
【0051】
乾燥工程は、当該技術分野で周知である、いずれかの従来の乾燥手段により行ってよい。好ましくは、乾燥工程は、オーブン内で行うか、または空気乾燥器に通して濾過することにより行う。乾燥工程においても、特別な無菌設備は必要ない。
【0052】
いったん乾燥工程で混合物を乾燥させると、時間が経過しても乾燥した混合物のエンドトキシン含有量は著しく増加しないことを発見した。実際に、上述したように、エンドトキシンの含有量は時間の経過とともに低下しうることが観察されている。この知見は、さらに処理を進める前に混合物をある程度の期間保存することができることを示しており、有益である。
【0053】
前述のとおり、エンドトキシンの濃度が50EU/g未満の低エンドトキシンのアルカリ性キトサンが得られる。低エンドトキシンのアルカリ性キトサンは水不溶性であってよい。低分子量であれば、低エンドトキシンのアルカリ性キトサンはある程度の水溶性を示すことがある。
【0054】
本発明の他の態様においては、本明細書に記載の方法により得られる低エンドトキシンのアルカリ性キトサン、キチン、またはこれらの誘導体が提供される。
【0055】
本発明のさらに他の態様においては、エンドトキシンの濃度が50EU/g未満であるアルカリ性キトサン、キチン、またはこれらの誘導体が提供される。
【0056】
アルカリ性キトサン、キチン、またはこれらの誘導体が含有するエンドトキシンの濃度は 30EU/g未満がよく、好ましくは20EU/g未満、より好ましくは15EU/g未満、さらに好ましくは10EU/g未満、最も好ましくは5EU/g未満がよい。
【0057】
低エンドトキシンのアルカリ性キトサン、キチン、またはこれらの誘導体は、濃度が約1M未満のアルカリを含んでいる。好ましくは、濃度は約0.5M以下、より好ましくは約0.25M以下、さらに好ましくは約0.2M以下、最も好ましくは約0.1M以下であるのがよい。
【0058】
低エンドトキシンのアルカリ性キトサンは、たとえば、誘導体または共重合体などの他のキトサン生成物(product)の製造、または低分子量のキトサンまたはキトサンオリゴ糖の製造で中間物(intermediate)として使用することができる。また、低エンドトキシンのアルカリ性キトサンは、キトサン系の繊維(fiber)、織物(fabric)、塗料、フィルム、ゲル、溶液、シート、発泡体などのその他の形態のキトサンやキトサン誘導体または共重合体を製造するための原料としても有用である。
【0059】
特に、低エンドトキシンのアルカリ性キトサンは、低濃度のエンドトキシンを含むその他の有用なキトサン生成物、たとえば、中性キトサン、キトサン塩、およびその他のキトサン誘導体などを調製する際に使用することができる。その他の有用なキトサン生成物としては、カルボキシメチルキトサン(carboxymethyl chitosan)、ヒドロキシエチルキトサン(hydroxyethyl chitosan)、アシルキトサン(acyl chitosan)、アルキルキトサン(alkyl chitosan)、スルホニルキトサン(sulphonyl chitosan)、リン酸化キトサン(phosphorylated chitosan)、アルキリデンキトサン(alkylidene chitosan)、金属キレート(metal chelates)、塩化キトサン(chitosan chloride)、乳酸キトサン(chitosan lactate)、酢酸キトサン(chitosan acetate)、リンゴ酸キトサン(chitosan malate)、およびグルコン酸キトサン(chitosan gluconate)などが挙げられる。
【0060】
前述のとおり、本発明の他の態様では、本明細書に記載の方法により調製されるアルカリ性キトサンを酸と接触させる工程を含む、低エンドトキシンの中性キトサン、キトサン塩、またはキトサン誘導体を製造する方法が提供される。
【0061】
本発明の方法により、医療的に有用な、低濃度のエンドトキシンを含む中性キトサン、キトサン塩、またはその他のキトサン誘導体を得ることができる。
【0062】
アルカリ性キトサンを酸と接触させる工程は、本明細書で前述した、低エンドトキシンのアルカリ性キトサンの製造方法における乾燥工程(c)の前に行うことができる。
【0063】
あるいは、アルカリ性キトサンを酸と接触させる工程は、本明細書で前述した、低エンドトキシンのアルカリ性キトサンの製造における乾燥工程(c)の後で行ってもよい。このような実施形態では、低エンドトキシンの中性キトサン、キトサン塩、またはキトサン誘導体の製造方法は、アルカリ性キトサンを酸と接触させる工程の後に、さらに乾燥工程を含んでもよい。この乾燥工程は、当該技術分野で周知である、いずれかの従来の乾燥手段により行ってよい。好ましくは、乾燥工程は、オーブン内で行うか、または空気乾燥器に通して濾過することにより行う。
【0064】
酸をアルカリ性キトサンに接触させるには、当該技術分野で周知である、いずれかの好適な手段により行ってよい。たとえば、アルカリ性キトサンに対し酸を噴霧するか、またはアルカリ性キトサンを酸と混合してもよい。
【0065】
好ましくは、アルカリ性キトサンを酸と混合するのがよい。
【0066】
本明細書で使用する用語「中性キトサン」とは、そのpH値が約6.5から約7.5の範囲にあるキトサン組成物、好ましくは、pH値が約7であるキトサン組成物を意味する。
【0067】
このように、中性キトサンを調製するには、アルカリ性キトサンを、適切な容量および/または濃度の酸と混合し、pH値が6.5から7.5の範囲にある中性溶液を形成すればよい。アルカリ性キトサンを中和するために必要な酸の容量および濃度は、アルカリ性キトサンのpHに応じて異なるだろう。
【0068】
また、キトサン塩またはキトサン誘導体を調製するには、アルカリ性キトサンを、中性キトサンを得るために必要な容量および濃度より多い容量および濃度の酸と混合してもよい。
【0069】
本発明で使用する好適な酸は、有機酸(organic acids)、カルボン酸(carboxylic acids)、脂肪酸(fatty acids)、アミノ酸(amino acids)、ルイス酸(lewis acids)、一塩基酸(monoprotic acids)、二塩基酸(diprotic acids)、多塩基酸(polyprotic acids)、核酸(nucleic acids)、および鉱酸(mineral acids)から単独でまたは組み合わせて選ぶことができる。
【0070】
好適な有機酸は、酢酸(acetic acid)、酒石酸(tartaric acid)、クエン酸(citric acid)、アスコルビン酸(ascorbic acid)、アセチルサリチル酸(acetylsalicylic acid)、グルコン酸(gluconic acid)、および乳酸(lactic acid)から単独でまたは組み合わせて選ぶことができる。
【0071】
好適な脂肪酸は、ミリストレイン酸(myristoleic acid)、パルミトレイン酸(palmitoleic acid)、サピエン酸(sapienic acid)、オレイン酸(oleic acid)、エライジン酸(elaidic acid)、バクセン酸(vaccenic acid)、リノール酸(linoleic acid)、リノエライジン酸(linoelaidic acid)、α−リノレン酸(α-linoleic acid)、アラキドン酸(arachidonic acid)、エイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid)、エルシン酸(erucic acid)、ドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid)、カプリル酸(caprylic acid)、カプリン酸(capric acid)、ラウリン酸(lauric acid)、ミリスチン酸(myristic acid)、パルミチン酸(palmitic acid)、ステアリン酸(stearic acid)、アラキジン酸(arachidic acid)、ベヘン酸(behenic acid)、リグノセリン酸(lignoceric acid)、およびセロチン酸(cerotic acid)から単独でまたは組み合わせて選ぶことができる。
【0072】
好適なアミノ酸は、ヒスチジン(histidine)、リシン(lysine)、アスパラギン酸(aspartic acid)、グルタミン酸(glutamic acid)、グルタミン(glutamine)、グリシン(glycine)、プロリン(proline)、およびタウリン(taurine)から単独でまたは組み合わせて選ぶことができる。
【0073】
好適な鉱酸は、塩酸、硫酸、および硝酸から単独でまたは組み合わせて選ぶことができる。中和目的には塩酸が好ましい。
【0074】
酸の濃度は、約0.001Mから可能な最大濃度までの範囲でよい。たとえば、典型的な最大濃度の硫酸は、約98%硫酸である。酸の濃度は、約0.01Mから5M、0.01Mから3M、または0.1Mから2Mの範囲でよい。酸の濃度は約1Mであるのが好ましい。酸の濃度は、最大約0.01M、0.05M、0.10M、0.15M、0.20M、0.25M、0.30M、0.35M、0.40M、0.45M、0.50M、0.55M、0.60M、0.65M、0.70M、0.75M、0.80M、0.85M、0.90M、0.95M、または1.0Mでもよい。
【0075】
酸は、酸と非溶媒とを含む酸液(acid liquor)として存在してよい。非溶媒としては、キトサンが溶けない任意の溶媒を使用することができる。典型的な非溶媒としては、乳酸エチル、酢酸エチル、酢酸メチル、エタノール、アセトン、またはこれらの混合物が挙げられる。好ましくは、非溶媒としては酢酸エチルまたはエタノールがよい。より好ましくは、非溶媒はエタノールと水が80:20の割合で構成されているものがよい。エタノールと水が80:20の割合で構成される非溶媒を使用した場合に反応がより速く進行することが観察されており、このような非溶媒を使用することは有益である。
【0076】
酸液に対するキトサンの割合は、約5対1から約1対5でよい。好ましくは、酸液に対するキトサンの割合は約2対1であるのがよい。
【0077】
いくつかの実施形態において、低エンドトキシンのアルカリ性キトサンは、酸と最大約30分間以下混合してよい。より好ましくは約10分間以下、最も好ましくは約5分間以下混合するのがよい。その後、混合物を乾燥させながら、反応を生じさせてもよい。
【0078】
アルカリ性キトサンと酸を混合させて得られる生成物は酸性塩を含んでもよい。好ましくは、生成される酸性塩が生体適合性を有するように、アルカリ溶液と酸を選ぶ。たとえば、アルカリ溶液は水酸化ナトリウムを含み、酸は塩酸を含む。この例では、酸性塩は生体適合性を有する塩化ナトリウムであろう。
【0079】
酸性塩は、アルカリ性キトサンと酸との反応により生成される副産物である。
【0080】
キトサン生成物における酸性塩の存在は、キトサン生成物の有用性に影響を与える可能性があることが分かっている。たとえば、キトサンがゲル化する程度は水中と比べると生理食塩水中では低いこと、そして2倍濃度の生理食塩水中ではさらに低いことが観察されている。ここで「2倍濃度の生理食塩水」とは、1.8%の塩化ナトリウムを含む生理食塩水を想定している。したがって、結果として得られるキトサン生成物における酸性塩の含有量はできる限り少ないことが望ましい。理想的には、酸性塩の含有量は、キトサン生成物の有効性にほとんどまたはまったく影響を与えない程度がよい。
【0081】
驚くべきことに、濃度が0.25M未満、好ましくは0.01Mからから0.2M、より好ましくは約0.01Mから約0.1Mのアルカリ溶液を使用すると、含有するエンドトキシンが望ましい低濃度になるとともに、中性キトサン、キトサン塩、またはキトサン誘導体を製造する以降の工程で生成される酸性塩副産物の量が減少することを発見した。有益なことに、酸性塩副産物の量が少なくなれば、結果として得られるキトサン生成物の使用時のゲル化が、酸性塩をより多く含む生成物と比べて改善されることがわかったのである。本発明の方法により、キトサン生成物の洗浄または濯ぎを必要とすることなく、酸性塩の含有量が適切に少ないキトサン生成物を得ることができる。さらに、洗浄または濯ぎの工程で、エンドトキシンフリー水を使用する必要がないという利点もある。
【0082】
さらに、本明細書に記載する低濃度のアルカリ溶液を使用することにより、中性キトサン、キトサン塩、またはキトサン誘導体を製造する際のキトサンの粘度低下が少なくなることも分かった。
【0083】
ここで「低濃度のアルカリ」とは、約0.01Mから約1M、好ましくは1M未満、より好ましくは約0.02Mから約0.25Mの濃度を意味する。いくつかの実施形態においては、アルカリ濃度は、0.02Mから0.1M、好ましくは0.05Mから0.1Mである。濃度が約0.1Mであるアルカリ溶液を使用する場合、良好な結果が得られることが観察された。また、いくつかの実施形態においては、アルカリ濃度はこの明細書で前述した通りであってよい。このように、本発明の方法において低濃度のアルカリ溶液を使用することにより、キトサンの損傷を低減できることは有益である。つまり、キトサンからエンドトキシンを取り除くことができるとともに、粘度の変化を最小限にとどめることができる。本発明の方法においては、キトサンの粘度低下を約25%未満、好ましくは約15%未満、より好ましくは約10%未満にすることが望ましい。
【0084】
本発明の方法により低エンドトキシンの中性キトサンを製造する場合、得られる生成物は、その他のキトサン系生成物を製造する際の中間物として使用するのに好適である。具体例の1つとしては、キトサン塩の製造での使用が挙げられる。キトサン塩は、その吸収特性(absorbent properties)により出血を制御するための止血剤の調製で使用するのに好適である。キトサン塩は水溶性であることが望ましい。
【0085】
前述したように、本発明の他の実施形態では、本明細書に記載の方法で得られる低エンドトキシンの中性キトサンを酸と接触させることにより、低エンドトキシンのキトサン塩を得ることができる。
【0086】
本発明では、所望のキトサン塩を得るのに適した任意の酸を使用することができる。たとえば、所望のキトサン塩が酢酸キトサンである場合、酢酸を使用すればよい。また、所望のキトサン塩がコハク酸キトサンである場合は、コハク酸を使用すればよい。このように所望に応じて任意の酸を使用することができる。本発明の方法により低エンドトキシンのキトサン塩を製造する際には、本明細書に記載の酸のいずれを使用してもよい。
【0087】
低エンドトキシンのキトサン塩またはキトサン誘導体を製造するための本発明の方法は、低エンドトキシンの中性キトサンと酸との混合物を乾燥する工程をさらに含んでよい。乾燥工程は、当該技術分野において周知である、いずれかの従来の乾燥手段により行ってよい。好ましくは、乾燥工程は、オーブン内で行うか、または空気乾燥器に通して濾過することにより行う。
【0088】
このように、エンドトキシンの濃度が50EU/g未満である低エンドトキシンの中性キトサン、キトサン塩、またはキトサン誘導体を得ることができる。
【0089】
得られる低エンドトキシンの中性キトサンは水不溶性であってもよい。
【0090】
得られる低エンドトキシンのキトサン塩は水溶性であってもよい。
【0091】
本発明の他の態様においては、本明細書に記載するいずれかの方法により得られる低エンドトキシンの中性キトサン、キトサン塩、またはキトサン誘導体が提供される。
【0092】
本発明のさらに他の態様においては、エンドトキシンの濃度が50EU/g未満である中性キトサン、キトサン塩、またはキトサン誘導体が提供される。
【0093】
中性キトサン、キトサン塩、またはキトサン誘導体が含有するエンドトキシンの濃度は30EU/g未満であり、好ましくは20EU/g未満、より好ましくは15EU/g未満、さらに好ましくは10EU/g未満、最も好ましくは5EU/g未満がよい。
【0094】
本発明の低エンドトキシンのキトサン塩は、血液の流れを止める止血剤として使用するのに好適である。
【0095】
このように、本発明の他の態様においては、前述したとおり、血液の流れを止める止血剤として使用される、低エンドトキシンのキトサン塩が提供される。低エンドトキシンのキトサン塩は、内部出血用または外部出血用の止血剤として使用できる。内部出血用として手術で使用するキトサン塩については、エンドトキシンの濃度は5EU/g未満が望ましい。
【0096】
本発明の低エンドトキシンのキトサン塩は、表部における生命に別状のない出血用または生死に関わる出血用の創傷被覆材に含有させてもよい。
【0097】
このように、本発明の他の態様においては、前述したとおり、表部における生命に別状のない出血用または生死に関わる出血用の創傷被覆材で使用される、低エンドトキシンのキトサン塩が提供される。
【0098】
本発明の低エンドトキシンのキトサン塩は、血液の流れを止めるための創傷被覆材の調製で使用するのに好適である。本発明の他の態様においては、本明細書に記載の低エンドトキシンのキトサン塩を含む止血用創傷被覆材が提供される。
【0099】
本発明のさらに他の態様においては、本明細書に記載の低エンドトキシンのキトサン塩を含む止血材料が得られる。
【0100】
止血材料および/またはキトサン塩は、粒子状、粉末状、顆粒状、フレーク状、繊維状、ゲル状、発砲体状、シート状、フィルム状、または液状などの任意の好適な形態であればよい。
【0101】
本発明のさらに他の態様では、可能であれば創傷領域を任意に洗浄する工程と、本明細書に記載の低エンドトキシンのキトサン塩を含む止血用創傷被覆材を該創傷領域に適用する工程と、ゲル状凝血塊が形成されるまで該創傷領域に一定の圧力を加える工程とを含む方法が提供される。
【0102】
一定の圧力は創傷領域に約3分間以上加えるのが好ましい。
【0103】
有益なことに、本発明の止血材料を調製する際に使用するアルカリ溶液の濃度が低ければ低いほど、止血材料は、浸透性、凝血塊の形成、および止血においてより良好な性能を発揮する。