(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電磁クラッチを廃止して、クラッチレスの構成を採用することにより、駆動機構のコストの低減を図ることができる。ただし、クラッチレスの駆動機構では、モータとプーリ(スライドドア)とが常に接続されているので、スライドドアを手動で開閉操作可能にするには、モータのフリクションおよび減速機の減速比を低く設定せざるを得ない。
【0006】
そのため、スライドドアを手動で開閉操作するモード(手動操作モード)では、操作者の力の入れ具合が大きかったり、坂道駐車でスライドドアの自重が操作方向に作用したりすると、スライドドアの移動速度が過大になるおそれがある。スライドドアの移動速度が過大になった場合、スライドドアが全開または全閉となって停止するときに、スライドドアの慣性にモータの慣性が重なって、その慣性による大きな衝撃がベルト、減速機およびプーリに加わり、それらの耐久性が低下する。
【0007】
本発明の目的は、スライドドアが過大な移動速度で移動方向の終端(全開状態または全閉状態)に到達することを抑制できる、電動スライドドア制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明に係る電動スライドドア制御装置は、スライドドアをモータの駆動力で開閉可能であり、また、スライドドアを手動で開閉可能な電動スライドドアのための制御装置であって、スライドドアが手動で開閉されるときに、スライドドアの移動方向の終端よりも手前の第1所定位置までスライドドアが移動したことを検出する検出手段と、検出手段による検出に応じてモータに電流を供給し、第1所定位置よりも終端側の第2所定位置におけるスライドドアの移動速度が目標速度となるようモータを制御する制御手段とを含む。
【0009】
この構成によれば、スライドドアが手動で開閉されるときに、スライドドアがその開閉による移動方向の終端よりも手前の第1所定位置に到達すると、それ以降は、モータに電流が供給されて、第1所定位置よりも終端側の第2所定位置におけるスライドドアの移動速度が目標速度となるようにモータが制御される。
【0010】
そのため、スライドドアが第1所定位置に到達するまでは、操作者の任意の速度でスライドドアを移動させることができ、スライドドアが第2所定位置に到達する時点では、スライドドアの移動速度が目標速度に収束する。これにより、操作者がスライドドアの素早い開閉(移動)を所望する場合にそれに応えることができながら、スライドドアが過大な移動速度で移動方向の終端に到達することを抑制できる。その結果、スライドドアが終端に到達するときに、スライドドアの慣性による大きな衝撃がスライドドアの駆動機構に加わることを抑制でき、駆動機構の耐久性の低下を抑制できる。
【0011】
また、スライドドアと車体との間での異物の挟み込みが万一生じた場合でも、その挟み込み時のスライドドアの移動速度が過大となることを抑制でき、異物に与えるダメージを低減することができる。
【0012】
スライドドアの駆動機構は、動力伝達経路上に電磁クラッチを備えていないクラッチレスの構成であってもよい。
【0013】
この場合、スライドドアが第2所定位置に到達する時点でのモータの回転速度を低減できるので、スライドドアが終端に到達するときに、モータの慣性による大きな衝撃が駆動機構に加わることを抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、操作者がスライドドアの素早い開閉を所望する場合にそれに応えることができながら、スライドドアが過大な移動速度で移動方向の終端に到達することを抑制できる。そのため、スライドドアが終端に到達するときに、スライドドアの慣性による大きな衝撃がスライドドアの駆動機構に加わることを抑制でき、駆動機構の耐久性の低下を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0017】
<車両の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る電動スライドドア制御装置が搭載される車両1の右側面図である。
【0018】
車両1は、たとえば、ミニバンタイプの自動車である。
図1には、車両1の右側面のみが示されているが、車両1の左右の両側面には、フロントドア開口2およびリヤドア開口3が形成されており、そのフロントドア開口2およびリヤドア開口3をそれぞれ開閉するヒンジドア4およびスライドドア5が設けられている。
【0019】
ヒンジドア4は、その前端部に配置されたヒンジを支点とする揺動により、フロントドア開口2を開閉する。ヒンジドア4の外表面には、ヒンジドア4を開閉するために操作されるアウトドアハンドル6が設けられている。
【0020】
スライドドア5は、
図1に二点鎖線と実線とで示されるように、前後方向のスライドにより、リヤドア開口3を開閉する。スライドドア5の外表面には、スライドドア5を開閉するために操作されるアウトドアハンドル7が設けられている。
【0021】
なお、図示されないが、ヒンジドア4およびスライドドア5の車室内側の面にも、それぞれヒンジドア4およびスライドドア5を開閉するために操作されるドアハンドル(インドアハンドル)が設けられている。以下の説明において、スライドドア5のアウトドアハンドル7とインドアハンドルとを区別する必要がないので、これらを総称して「ドアハンドル7」という。
【0022】
<電動スライドドア>
図2は、スライドドア5の開閉動作の制御に関する電気的構成を示すブロック図である。
【0023】
車両1には、マイコン(マイクロコントローラユニット)を含む構成のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が搭載されている。マイコンには、たとえば、CPU、ROMおよびRAM、データフラッシュ(フラッシュメモリ)などが内蔵されている。
図2には、スライドドア5の開閉動作を制御するためのECU(スライドドアECU)11のみが示されているが、車両1には、各部を制御するため、複数のECUが搭載されている。スライドドアECU11を含む複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。
【0024】
スライドドア5には、電動スライドドア(パワースライドドア)が採用されており、スライドドア5は、手動での開閉はもちろん、電動での開閉が可能である。スライドドア5には、電動開閉のためのドアスライドユニット21が設けられている。ドアスライドユニット21には、ドアモータ22およびスライド機構23が含まれる。
【0025】
スライド機構23は、たとえば、ドアモータ22の駆動力により回転されるプーリおよびプーリの回転に伴って走行移動するベルトなどを備え、ドアモータ22の駆動力によりスライドドア5を前後方向にスライドさせる機構である。スライド機構23は、その動力伝達経路上に電磁クラッチを備えない、いわゆるクラッチレスの構成を採用している。
【0026】
ドアスライドユニット21にはさらに、ドア位置センサ24およびモータ電流センサ25が含まれる。
【0027】
ドア位置センサ24は、たとえば、スライドドア5の移動に伴って回転する回転体(ローラなど)に関連して設けられ、その回転体の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力する。ドア位置センサ24の検出信号は、スライドドアECU11に入力される。スライドドアECU11は、ドア位置センサ24から入力されるパルス信号の数に基づいて、スライドドア5の位置を取得する。また、スライドドアECU11は、ドア位置センサ24の検出信号から回転体の回転速度(回転数)を演算により取得し、さらに、その回転体の回転速度からスライドドア5の移動速度(以下、「ドア速度」という。)を演算により取得する。
【0028】
モータ電流センサ25は、ドアモータ22に供給される電流に応じた検出信号を出力する。モータ電流センサ25の検出信号は、スライドドアECU11に入力される。スライドドアECU11は、モータ電流センサ25の検出信号からドアモータ22に流れる電流値を取得する。
【0029】
また、スライドドア5には、ドアクローザユニット31が設けられている。ドアクローザユニット31には、クローザモータ32およびロック機構33が含まれる。
【0030】
ロック機構33は、スライドドア5にそれぞれ回動可能に設けられたラッチおよびラチェットを備え、ラッチが車体に設けられたストライカを拘束した状態で、ラチェットがラッチと係合することにより、スライドドア5を全閉状態で保持する機構である。
【0031】
より具体的には、スライドドア5が全開状態から閉方向に移動すると、その移動の途中で、ラッチに形成された係合溝に車体に設けられたストライカが受け入れられて、ラッチがハーフラッチ位置に回動する。これにより、ラッチがストライカを拘束するとともにラチェットがラッチと係合し、スライドドア5がいわゆる半ドア状態となる。スライドドア5が半ドア状態から閉方向にさらに移動すると、ラッチがハーフラッチ位置からフルラッチ位置に回動して、ラチェットとラッチとの係合が一旦外れた後に再び係合する。この係合により、ラッチの回動が規制されて、スライドドア5が全閉状態で保持される。
【0032】
ドアスライドユニット21によるスライドドア5の閉方向への移動時(電動閉時)には、ラッチがハーフラッチ位置に回動すると、ドアモータ22の駆動が停止される。そして、クローザモータ32が駆動され、そのクローザモータ32の駆動力により、ラッチがハーフラッチ位置からフルラッチ位置に回動する。ラッチのハーフラッチ位置からフルラッチ位置への回動に伴って、ストライカが移動し、スライドドア5が半ドア状態から全閉状態に遷移する。
【0033】
ドアクローザユニット31にはさらに、ラッチの回動位置を検出するため、ハーフラッチスイッチ34、フルラッチスイッチ35およびラチェットスイッチ36が含まれる。
【0034】
ハーフラッチスイッチ34は、たとえば、ラッチがハーフラッチ位置に位置するときにオフ信号を出力し、ラッチがハーフラッチ位置以外の位置に位置するときにオン信号を出力する。
【0035】
フルラッチスイッチ35は、たとえば、ラッチがフルラッチ位置に位置するときにオフ信号を出力し、ラッチがフルラッチ位置以外の位置に位置するときにオン信号を出力する。
【0036】
ラチェットスイッチ36は、たとえば、ラチェットがラッチに係合した状態でオフ信号を出力し、ラチェットとラッチとの係合が解除された状態でオン信号を出力する。
【0037】
スライドドアECU11は、ハーフラッチスイッチ34、フルラッチスイッチ35およびラチェットスイッチ36から出力される信号に基づいて、ラッチがハーフラッチ位置、フルラッチ位置またはハーフラッチ位置およびフルラッチ位置以外の位置のいずれに位置するかを取得する。
【0038】
また、スライドドアECU11には、ドアハンドルスイッチ41のオン/オフ信号が入力される。ドアハンドルスイッチ41は、モーメンタリ動作式のスイッチであり、ユーザによりドアハンドル7(
図1参照)を手前に引き寄せる操作(以下、単に「操作」という。)がなされている間はオン信号を出力し、その操作がなされていない間はオフ信号を出力する。
【0039】
たとえば、スライドドア5の全閉状態でドアハンドル7の操作がなされると、スライドドアECU11により、スライドドア5の位置および移動速度ならびにドアモータ22に流れる電流の電流値などに基づいて、スライドドア5が開動作するように、車両1に搭載されているバッテリからドアモータ22に供給される電流が制御される。また、スライドドア5が全開状態でドアハンドル7の操作がなされると、スライドドアECU11により、ドアモータ22に流れる電流の電流値などに基づいて、スライドドア5が閉動作するように、車両1に搭載されているバッテリからドアモータ22に供給される電流が制御される。また、ロック機構33のラッチをハーフラッチ位置からフルラッチ位置に変位させるために、スライドドアECU11により、バッテリからクローザモータ32に供給される電流が制御される。
【0040】
<手動閉動作制御>
図3は、スライドドア5の手動による閉動作時の制御の流れを示すフローチャートである。
図4は、その閉動作時のドア速度の変化の一例を示す図である。
【0041】
車両1のイグニッションスイッチがオンであり、スライドドア5が全開状態、全閉状態または開閉途中での一時保持状態で停止しているときに、スライドドアECU11により、
図3に示される手動閉動作制御が実行される。
【0042】
手動閉動作制御では、スライドドア5が手動で閉方向に動かされているか否か、つまりスライドドア5の閉方向への手動操作がなされているか否かが判別される(ステップS11)。ドアハンドル7が操作されて、ドアハンドルスイッチ41からオン信号が出力され、かつ、ドア位置センサ24の検出信号からスライドドア5の閉方向の移動が検出されると、スライドドア5の閉方向への手動操作がなされていると判別される。
【0043】
スライドドア5の閉方向への手動操作がなされていない間は、その手動操作がなされたか否かの判別が一定の周期で繰り返される。
【0044】
スライドドア5の閉方向への手動操作がなされている場合(ステップS11のYES)、スライドドア5が半ドア状態となる所定位置A、言い換えれば、ロック機構33のラッチの回動位置がハーフラッチ位置となるときのスライドドア5の所定位置Aよりも閉方向上流側の所定位置Cに到達したか否かが判別される(ステップS12)。
【0045】
スライドドア5が所定位置Cに到達すると、ドア位置センサ24の検出信号から所定位置Cにおけるドア速度Vcが演算により取得される(ステップS13)。
【0046】
その後、スライドドア5が所定位置Aと所定位置Cとの間の所定位置Bに到達したか否かが判別される(ステップS14)。
【0047】
スライドドア5が所定位置Bに到達すると、ドア位置センサ24の検出信号から所定位置Bにおけるドア速度Vbが演算により取得される(ステップS15)。
【0048】
そして、所定位置Aにおけるドア速度の目標値である目標速度をVaとし、所定位置Aと所定位置Bとの間の距離をDbとし、所定位置Bと所定位置Cとの間の距離をDcとして、次式(1)に従って、ラッチ制御電流値Iが設定される(ステップS16)。
【0049】
I=α{Vb+(Vb−Vc)*(Db/Dc)−Va} ・・・(1)
ただし、α:制御電流補正係数
【0050】
ラッチ制御電流値Iの設定に応じて、そのラッチ制御電流値Iの電流がドアモータ22に供給される(ステップS17)。ドアモータ22への電流の供給により、ドアモータ22の駆動力がスライドドア5に制動力として伝達される。そのため、
図4に実線で示されるように、スライドドア5が所定位置Bを所定位置A側に越えた後は、ドア速度が目標速度Vaに向けて低下する。
【0051】
なお、式(1)中の「Vb+(Vb−Vc)*(Db/Dc)−Va」が負の値となる場合、つまり所定位置Bと所定位置Cとの間でのドア速度の変化量から予測される所定位置Aでのドア速度が目標速度Vaを下回る場合には、ドアモータ22への電流の供給は行われない。これにより、スライドドア5の移動がドアモータ22の駆動力でアシストされることを防止できる。
【0052】
その後、ロック機構33のラッチがハーフラッチ位置に変位したか否かが判別される(ステップS18)。たとえば、ハーフラッチスイッチ34およびラチェットスイッチ36の両方からオフ信号が出力されると、ラッチがハーフラッチ位置に変位したと判別される。
【0053】
ラッチがハーフラッチ位置まで変位すると(ステップS18のYES)、スライドドア5が半ドア状態となり、ドアモータ22への電流の供給が停止される(ステップS19)。
【0054】
ドアモータ22への電流の供給の停止に応じて、クローザモータ32への電流の供給が開始される(ステップS20:クローザ作動)。
【0055】
クローザモータ32の駆動力により、ラッチがハーフラッチ位置からフルラッチ位置に向けて変位する。その後、ラッチがフルラッチ位置に変位したか否かが判別される(ステップS21)。たとえば、フルラッチスイッチ35およびラチェットスイッチ36の両方からオフ信号が出力されると、ラッチがフルラッチ位置に変位したと判別される。
【0056】
ラッチがフルラッチ位置まで変位すると(ステップS21のYES)、スライドドア5が全閉状態となり、クローザモータ32への電流の供給が停止されて(ステップS22:クローザ停止)、手動閉動作制御が終了される。
【0057】
<作用効果>
以上のように、スライドドア5が手動で閉方向に操作されるときに、スライドドア5が所定位置Bに到達すると、それ以降は、ドアモータ22にラッチ制御電流値Iの電流が供給されて、所定位置Bよりも閉方向下流側の所定位置Aにおけるドア速度が目標速度Vaとなるようにドアモータ22が制御される。
【0058】
そのため、スライドドア5が所定位置Bに到達するまでは、操作者の任意の速度でスライドドア5を移動させることができ、スライドドア5が所定位置Aに到達する時点では、ドア速度が目標速度Vaに収束する。これにより、操作者がスライドドア5の素早い開閉(移動)を所望する場合にそれに応えることができながら、スライドドア5が過大な移動速度で所定位置Aに到達することを抑制できる。その結果、スライドドア5が所定位置Aを越えてスライドドア5が全閉状態となる終端(フルラッチ位置)に到達するときに、スライドドア5の慣性による大きな衝撃がスライド機構23に加わることを抑制でき、スライド機構23の耐久性の低下を抑制できる。
【0059】
また、スライドドア5と車体との間での異物の挟み込みが万一生じた場合でも、その挟み込み時のスライドドア5の移動速度が過大となることを抑制でき、異物に与えるダメージを低減することができる。
【0060】
さらには、スライド機構23がクラッチレスの構成であっても、スライドドア5が所定位置Aに到達する時点でのドアモータ22の回転速度を低減できるので、スライドドア5が全閉状態となる終端に到達するときに、ドアモータ22の慣性による大きな衝撃がスライド機構23に加わることを抑制できる。
【0061】
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
【0062】
たとえば、スライドドア5が電動で開閉する電動開閉モードとスライドドア5を手動で開閉する手動開閉モードとを切り替えるためのメインスイッチが設けられた構成では、メインスイッチの操作により手動開閉モードが選択されている場合に、
図3に示される手動閉動作制御が実行されてもよい。
【0063】
また、スライドドア5の手動による閉動作時に限らず、スライドドア5の手動による開動作時にも手動閉動作制御と同様の制御が行われてもよい。
【0064】
前述の実施形態では、スライドドアECU11がそれ単独で1つのECUとして構成されているが、1つのECUにスライドドアECU11の機能と他のECUの機能とが組み込まれてもよい。
【0065】
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。