(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
上記各視点の好ましい形態を以下に記載する。
【0011】
上記第1視点の好ましい形態によれば、(B2)成分は、水酸基を有する置換基が9位に2つ導入された第1のフルオレン成分を含む。
【0012】
上記第1視点の好ましい形態によれば、(B1)成分は1,2−プロパンジオール成分を含む。(B2)成分は、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分を含む。
【0013】
上記第1視点の好ましい形態によれば、(A3)成分は、カルボキシ基及び/又はエステル基を有する置換基が9位に2つ導入された第2のフルオレン成分を含む。
【0014】
上記第1視点の好ましい形態によれば、(A1)成分はテレフタル酸成分を含む。(A2)成分は2,6−ナフタレンジカルボン酸成分を含む。(A3)成分は、9,9−ビス(カルボキシエチル)フルオレン成分を含む。
【0015】
上記第1視点の好ましい形態によれば、(A2)成分の含有率は、(A)成分の総量に対して25mol%以上70mol%以下である。
【0016】
上記第1視点の好ましい形態によれば、(B1)成分の含有率は、(B)成分の総量に対して3mol%以上30mol%以下である。(B2)成分の含有率は、(B)成分の総量に対して70mol%以上97mol%以下である。
【0017】
上記第1視点の好ましい形態によれば、(A1)成分と(A2)成分のモル比が、(A1)成分/(A2)成分=0.2〜0.9である。(A1)成分と(A2)成分の合計と、(A3)成分とのモル比が、((A1)成分+(A2)成分)/(A3)成分=1〜5である。
【0018】
上記第1視点の好ましい形態によれば、(A2)成分と(A3)成分のモル比が、(A2)成分/(A3)成分=0.8〜3である。
【0019】
上記第1視点の好ましい形態によれば、(B1)成分と(B2)成分のモル比が、(B2)成分/(B1)成分=4〜30である。
【0020】
上記第1視点の好ましい形態によれば、ポリエステル樹脂のガラス転移温度が145℃以上である。
【0021】
上記第1視点の好ましい形態によれば、ポリエステル樹脂の複屈折が5×10
−4以下である。
【0022】
上記第1視点の好ましい形態によれば、ポリエステル樹脂は厚さ10μm〜100μmのフィルム形状を有する。
【0023】
上記第1視点の好ましい形態によれば、ポリエステル樹脂は、光学部品として使用される。
【0024】
本明細書及び特許請求の範囲において、各酸成分及び各アルコール成分にはその誘導体も含まれ得る。例えば、酸成分には酸成分の誘導体(例えばエステル)も含まれ得る。
【0025】
本開示において、ポリカルボン酸とは、カルボキシ基を複数有する化合物及び/又はその誘導体のことをいう。また、ポリオールとは、ヒドロキシ基を複数有する化合物(ポリヒドロキシ化合物)及び/又はその誘導体のことをいう。
【0026】
本開示において、重合体には、2種類以上の単量体成分から構成される共重合体(コポリマー)、及び架橋重合体(クロスポリマー)も含み得る。
【0027】
第1実施形態に係る本開示のポリエステル樹脂について説明する。
【0028】
本開示のポリエステル樹脂は、ポリカルボン酸成分とポリオール成分との第1の重合体(ポリマー)を含む。本開示のポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂の質量に対して、第1の重合体を90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは98質量%以上、さらに好ましくは100質量%含むと好ましい。本開示のポリエステル樹脂は、第1の重合体以外の重合体(例えばポリエステル樹脂)を含むブレンド体(ポリマーアロイ)であってもよい。
【0029】
[(A)酸成分]
ポリカルボン酸成分は、(A1)単環式芳香環を有する第1のポリカルボン酸成分、(A2)多環式芳香環(縮合環式芳香環)を有する第2のポリカルボン酸成分、及び(A3)フルオレン骨格を有する第3のポリカルボン酸成分(フルオレン系ポリカルボン酸成分)を有する。単環式芳香環には、例えばベンゼン環が含まれ得る。多環式芳香環は、複数のベンゼン環が連結したような構造を有する。多環式芳香環には例えばナフタレン環が含まれ得る。
【0030】
(A1)単環式芳香族ポリカルボン酸成分には、ベンゼン環に、カルボキシ基を有する置換基が複数導入された成分が含まれ得る。(A1)成分としては、例えば、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分等を挙げることができる。(A1)成分のうち、テレフタル酸が50mol%以上であると好ましく、70mol%以上であるとより好ましく、80mol%以上であるとより好ましく、90mol%以上であるとより好ましく、100mol%であるとさらに好ましい。テレフタル酸を主とすることにより耐熱性を向上させることができる。
【0031】
(A2)多環式芳香族ポリカルボン酸成分には、ナフタレン環に、カルボキシ基を有する置換基が複数導入された成分が含まれ得る。本開示にいう(A2)成分には、(A3)成分は含まれない。(A2)成分としては、例えば、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、1,5−ナフタレンジカルボン酸成分、1,6−ナフタレンジカルボン酸成分、1,7−ナフタレンジカルボン酸成分、1,8−ナフタレンジカルボン酸成分等を挙げることができる。(A2)成分のうち、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分が50mol%以上であると好ましく、70mol%以上であるとより好ましく、80mol%以上であるとより好ましく、90mol%以上であるとより好ましく、100mol%であるとさらに好ましい。2,6−ナフタレンジカルボン酸成分を主とすることにより耐熱性を向上させることができる。
【0032】
(A3)フルオレン系ポリカルボン酸成分には、フルオレンに、カルボキシ基を有する置換基が複数導入された成分が含まれ得る。フルオレン系ポリカルボン酸成分の化学式の一例を下記化1に示す。(A3)成分には、例えば、フルオレンの9位に、カルボキシ基及び/又はエステル基を有する置換基が2つ導入された成分が含まれ得る。化1において、R
1とR
2は同じ置換基とすることができる。R
1及びR
2は、例えば、カルボキシアルキル基(−(CH
2)
nCOOH)とすることができる。(A3)成分としては、例えば、下記化2に示すような9,9−ビス(カルボキシエチル)フルオレン成分等を挙げることができる。(A3)成分のうち、9,9−ビス(カルボキシエチル)フルオレン成分が50mol%以上であると好ましく、70mol%以上であるとより好ましく、80mol%以上であるとより好ましく、90mol%以上であるとより好ましく、100mol%であるとさらに好ましい。9,9−ビス(カルボキシエチル)フルオレン成分を主とすることにより複屈折をより低減することができる。
【0035】
(A1)成分の含有率は、酸成分の総量に対して、5mol%以上であると好ましく、8mol%以上であるとより好ましく、10mol%以上であるとさらに好ましい。(A1)成分の含有率が5mol%未満であると、複屈折が高くなってしまう。(A1)成分の含有率は、酸成分の総量に対して、30mol%未満であると好ましく、29mol%以下であるとより好ましく、28mol%以下であるとさらに好ましい。テレフタル酸成分の含有率が30mol%以上になると、耐熱性が低下してしまう。
【0036】
(A2)成分の含有率は、酸成分の総量に対して、25mol%以上であると好ましく、30mol%以上であるとより好ましく、35mol%以上であるとさらに好ましい。(A2)成分の含有率が25mol%未満であると、耐熱性が低下してしまう。(A2)成分の含有率は、酸成分の総量に対して、70mol%以下であると好ましく、60mol%以下であるとより好ましく、55mol%以下であるとさらに好ましい。(A2)成分の含有率が70mol%を超えると、複屈折が高くなってしまう。
【0037】
(A3)成分の含有率は、酸成分の総量に対して、5mol%以上であると好ましく、10mol%以上であるとより好ましく、15mol%以上であるとさらに好ましい。(A3)成分の含有率が5mol%未満であると、複屈折が高くなってしまう。(A3)成分の含有率は、酸成分の総量に対して、50mol%以下であると好ましく、45mol%以下であるとより好ましく、40mol%以下であるとさらに好ましい。(A3)成分の含有率が50mol%を超えると、耐熱性が低下してしまう。
【0038】
酸成分は、(A1)成分、(A2)成分及び(A3)以外の成分を含むことができる。酸成分のうち、(A1)成分、(A2)成分及び(A3)の総量は、酸成分の総量に対して、80mol%以上であるとより好ましく、90mol%以上であるとより好ましく、95mol%以上であるとより好ましく、100mol%であるとさらに好ましい。(A1)成分、(A2)成分及び(A3)の総量の含有率が高いと、高耐熱性及び低複屈折を実現することができる。
【0039】
(A1)成分と(A2)成分のモル比は、(A1)成分/(A2)成分が0.1以上であると好ましく、0.2以上であるとより好ましく、0.3以上であるとさらに好ましい。(A1)成分/(A2)成分が0.1未満であると複屈折が大きくなるからである。(A1)成分/(A2)成分が0.9以下であると好ましく、0.8以下であるとより好ましく、0.75以下であるとさらに好ましい。(A1)成分/(A2)成分が0.9を超えると耐熱性が低くなるからである。
【0040】
(A1)成分と(A3)成分のモル比は、(A3)成分/(A1)成分が0.4以上であると好ましく、0.5以上であるとより好ましく、0.6以上であるとさらに好ましい。(A3)成分/(A1)成分が0.4未満であると複屈折が大きくなるからである。(A3)成分/(A1)成分が3以下であると好ましく、2.7以下であるとより好ましく、2.5以下であるとさらに好ましい。(A3)成分/(A1)成分が3を超えると耐熱性が低くなるからである。
【0041】
(A2)成分と(A3)成分のモル比は、(A2)成分/(A3)成分が0.8以上であると好ましく、1以上であるとより好ましく、1.2以上であるとさらに好ましい。(A2)成分/(A3)成分が0.8未満であると耐熱性が低くなるからである。(A2)成分/(A3)成分が3以下であると好ましく、2.7以下であるとより好ましく、2.5以下であるとさらに好ましい。(A2)成分/(A3)成分が3を超えると複屈折が大きくなるからである。
【0042】
(A1)成分と(A2)成分の合計と、(A3)成分とのモル比は、[(A1)成分+(A2)成分]/(A3)成分が1以上であると好ましく、1.5以上であるとより好ましく、1.8以上であるとさらに好ましい。[(A1)成分+(A2)成分]/(A3)成分が1未満であると耐熱性が低くなるからである。[(A1)成分+(A2)成分]/(A3)成分が5以下であると好ましく、4.5以下であるとより好ましく、4以下であるとさらに好ましい。[(A1)成分+(A2)成分]/(A3)成分が5を超えると複屈折が大きくなるからである。
【0043】
[(B)アルコール成分]
アルコール成分は、(B1)脂肪族の第1のポリオール成分、及び(B2)フルオレン骨格を有する第2のポリオール成分(フルオレン系ポリオール成分)を有する。
【0044】
(B1)脂肪族ポリオール成分には、炭素数2〜4のアルカンジオール成分が含まれ得る。(B1)成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール等を挙げることができる。(B1)成分のうち、1,2−プロパンジオール成分が50mol%以上であると好ましく、70mol%以上であるとより好ましく、80mol%以上であるとより好ましく、90mol%以上であるとより好ましく、100mol%であるとさらに好ましい。1,2−プロパンジオール成分を主とすることにより、他の脂肪族ポリオールに比べガラス転移温度を上昇させることができる。
【0045】
(B2)フルオレン系ポリオール成分には、フルオレンに、ヒドロキシ基を有する置換基が複数導入された成分が含まれ得る。フルオレン系ポリオール成分の化学式の一例を下記化3に示す。(B2)成分には、例えば、フルオレンの9位に、ヒドロキシ基を有する置換基が2つ導入された成分が含まれ得る。化3において、R
3とR
4は同じ置換基とすることができる。R
3及びR
4は、例えば、ヒドロキシアルコキシアリール基とすることができる。(B2)成分としては、例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン成分、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレン成分、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジエチルフェニル]フルオレン成分等を挙げることができる。このうち、(B2)成分としては、特に、下記化4に示すような、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分であると好ましい。(B2)成分のうち、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分が50mol%以上であると好ましく、70mol%以上であるとより好ましく、80mol%以上であるとより好ましく、90mol%以上であるとより好ましく、100mol%であるとさらに好ましい。9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分を主とすることにより耐熱性の向上と複屈折の低下を実現できる。特に、(B2)成分のうち、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分が70mol%以上であるとより好ましく、80mol%以上であるとより好ましく、90mol%以上であるとより好ましく、100mol%であるとさらに好ましい。
【0046】
(B2)成分は9,9−ビス(アリール−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分を実質量含まないと好ましい。9,9−ビス(アリール−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分とは、例えば、下記化5に示すような9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン成分を挙げることができる。9,9−ビス(アリール−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分を含むと、機械物性が低下して、成形性が低下してしまう。ここで、「実質量」とは、9,9−ビス(アリール−ヒドロキシ(ポリ)アルコキシアリール)フルオレン成分の作用効果が生じ得る量をいう。
【0050】
(B1)成分の含有率は、アルコール成分の総量に対して、3mol%以上であると好ましく、5mol%以上であるとより好ましく、8mol%以上であるとさらに好ましい。(B1)成分の含有率が3mol%未満であると、樹脂の流動性及び機械物性が低下して脆くなったり、成形性が悪くなったりしてしまう。(B1)成分の含有率は、アルコール成分の総量に対して、30mol%以下であると好ましく、20mol%以下であるとより好ましく、15mol%以下であるとさらに好ましい。(B1)成分の含有率が30mol%を超えると、耐熱性が低下してしまう。
【0051】
(B2)成分の含有率は、アルコール成分の総量に対して、70mol%以上であると好ましく、80mol%以上であるとより好ましく、85mol%以上であるとさらに好ましい。(B2)成分の含有率が70mol%未満であると、耐熱性が低下してしまう。(B2)成分の含有率は、アルコール成分の総量に対して、97mol%以下であると好ましく、95mol%以下であるとより好ましく、92mol%以下であるとさらに好ましい。(B2)成分の含有率が97mol%を超えると、樹脂の流動性及び機械物性が低下して脆くなったり、成形性が悪くなったりしてしまう。
【0052】
アルコール成分は、(B1)成分及び(B2)以外の成分を含むことができる。アルコール成分のうち、(B1)成分及び(B2)の総量は、アルコール成分の総量に対して、80mol%以上であるとより好ましく、90mol%以上であるとより好ましく、95mol%以上であるとより好ましく、100mol%であるとさらに好ましい。(B1)及び(B2)の総量の含有率が高いと、高耐熱性及び低複屈折を実現することができる。
【0053】
(B1)成分と(B2)成分のモル比は、(B2)成分/(B1)成分が4以上であると好ましく、6以上であるとより好ましく、7以上であるとさらに好ましい。(B2)成分/(B1)成分が4未満であると耐熱性が低くなるからである。(B2)成分/(B1)成分が30以下であると好ましく、20以下であるとより好ましく、10以下であるとさらに好ましい。(B2)成分/(B1)成分が30を超えると樹脂の流動性及び機械物性が低下して脆くなったり、成形性が悪くなったりしてしまう。
【0054】
[ガラス転移温度]
本開示のポリエステル樹脂のガラス転移温度は、145℃以上であると好ましく、150℃以上であるとより好ましい。ガラス転移温度が145℃未満であると、高温環境において使用することができない。本開示のポリエステル樹脂のガラス転移温度は、170℃以下であると好ましく、160℃以下であるとより好ましい。ガラス転移温度が170℃を超えると、成形時に残留歪みにより複屈折が増大する場合がある。
【0055】
本開示にいうガラス転移温度とは、示差走査熱量測定(DSC;Differential Scanning Calorimetry)におけるガラス転移による吸熱挙動の中間点温度をいう。
【0056】
[複屈折]
本開示のポリエステル樹脂の複屈折は、8×10
−4以下であると好ましく、5×10
−4以下であるとより好ましく、3×10
−4以下であるとさらに好ましい。複屈折を低くすることにより、位相差の小さい光学部材を得ることができる。
【0057】
本開示の複屈折は、波長588.9nmの単色光で測定した値とすることができる。測定試料は、270℃〜280℃で押出成形した(延伸前)ポリエステルシートを、ガラス転移温度よりも30℃〜35℃高い温度で一軸方向に10%/秒の速度で3倍に延伸させて作製したポリエステルフィルムとすることができる。
【0058】
[固有粘度(極限粘度)]
本開示のポリエステル樹脂の固有粘度(IV値)は、0.35dl/g(10
2cm
3/g)以上であると好ましく、0.4dl/g以上であるとより好ましい。固有粘度が0.35dl/g未満であると、機械物性が低下して脆くなる場合がある。本開示のポリエステル樹脂の固有粘度は、0.6dl/g以下であると好ましく、0.5dl/g以下であるとより好ましい。固有粘度が0.6dl/gを超えると成形性が低下するためである。
【0059】
本開示に示す固有粘度は、フェノール:テトラクロロエタン=60:40(質量比)の混合溶媒に試料0.5000±0.0005gを溶解させ、ウベローデ粘度管を装着した自動粘度測定装置を用いて測定した、20℃における固有粘度とすることができる。
【0060】
[成形体]
本開示のポリエステル樹脂は、種々の形状に成形することができる。例えば、本開示のポリエステル樹脂は、シート形状、フィルム形状、レンズ形状を有することができる。ポリエステルフィルムは、例えば、10μm〜100μmの厚さを有することができる。
【0061】
本開示のポリエステル樹脂は、成形容易性も有すると好ましい。例えば、本開示のポリエステル樹脂は、270℃〜280℃における押出成形によってシート形状に成形したときに、ポリエステルシートが割れ等の欠陥を有しないと好ましい。また、このように作製したポリエステルシートは、一軸方向に3倍以上延伸可能であると好ましく、5倍以上延伸可能であるとより好ましい。これにより、欠陥を発生させることなく、厚さ10μm〜100μmのフィルムに成形することができる。
【0062】
本開示のポリエステル樹脂は、本開示の効果を阻害しない範囲において、上述した以外の公知の添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、重合触媒、帯電防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、離型剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、顔料、染料等を使用することができる。
【0063】
次に、本開示の第1実施形態に係るポリエステル樹脂の製造方法について説明する。
【0064】
まず、例えば、酸成分とアルコール成分との直接エステル化反応、あるいは、酸成分のエステル誘導体(例えば、酸成分のジメチルエステル化合物)とアルコール成分とのエステル交換反応によってエステルプレポリマーを生成する。酸成分及びアルコール成分の配合割合は、上述の本開示のポリエステル樹脂に示した含有割合とすることができる。エステル化反応又はエステル交換反応は、例えば、加熱装置、攪拌機及び留出管を備えた反応槽に原料を仕込み、反応触媒を加えて大気圧不活性ガス雰囲気下で攪拌しつつ昇温し、反応により生じたメタノール等の副生物を留去しながら反応を進行させることにより行うことができる。反応温度は、例えば、150℃〜270℃、好ましくは160℃〜260℃とすることができる。反応時間は、例えば、3〜7時間とすることができる。
【0065】
エステル化反応又はエステル交換反応における触媒としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、チタン、リチウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、スズ、コバルト等、公知の金属化合物を1種以上使用することができる。エステル交換反応の場合、反応性及び得られる樹脂の色調の観点から、特にカルシウム化合物及びマンガン化合物が好ましい。エステル交換触媒の添加量は、例えば、生成するポリエステル樹脂の質量に対して、30ppm〜3000ppm、好ましくは50ppm〜1000ppmとすることができる。エステル化反応又はエステル交換反応において、触媒を使用しないことも可能である。
【0066】
次の重合工程を円滑にするために、エステル化反応又はエステル交換反応が終了した後にリン化合物を添加すると好ましい。リン化合物としては、例えば、リン酸、亜リン酸、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト等を挙げることができる。このうち、トリメチルホスフェートがより好ましい。リン化合物の添加量は、生成するポリエステル樹脂の質量に対して、例えば、40ppm〜2000ppm、好ましくは50ppm〜1500ppmとすることができる。
【0067】
次に、エステル交換反応又はエステル化反応につづいて、エステルプレポリマーに重合触媒を添加して、所望の分子量となるまでさらに重縮合反応を行うことができる。槽内の圧力は、例えば、常圧雰囲気下から最終的には0.4kPa以下、好ましくは0.2kPa以下まで減圧することができる。槽内の温度は、例えば、220〜230℃から徐々に昇温し、最終的には250〜290℃、好ましくは260〜280℃まで昇温することができる。溶融粘度が所定のトルクに到達した後、槽底部から反応物を押し出して回収することができる。例えば、反応生成物を水中にストランド状に押し出し、冷却した上で、カッティングし、ペレット状のポリエステル樹脂を得ることができる。
【0068】
重合触媒としては、公知の触媒を使用することができる。好ましい重合触媒としては、例えば、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム等の金属化合物を挙げることができる。ポリエステル樹脂を光学系に用いる場合には、反応性、並びに得られる樹脂の透明性及び色調の観点から特にチタン化合物及びゲルマニウム化合物が好ましい。重合触媒の添加量は、例えば、生成するポリエステル樹脂の質量に対して、10ppm〜1000ppm、好ましくは100ppm〜800ppmとすることができる。
【0069】
ポリエステル樹脂の成形体は、例えば、ポリエステル樹脂を押出成形、射出成形、トランスファー成形、ブロー成形、カレンダー成形、延伸成形するによって所望の形状に製造することができる。
【0070】
本開示のポリエステル樹脂の製造方法においては、用途及び成形目的に応じて、滑剤、離型剤、熱安定剤、帯電防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、顔料等の各種添加剤を適宜配合することができる。これらの添加剤は、反応工程及び成形加工工程のいずれの工程において配合してもよい。
【0071】
第1実施形態に係る本開示のポリエステル樹脂は、高い耐熱性を有している。したがって、本開示のポリエステル樹脂は、使用時に高温となる環境においても使用することができる。
【0072】
第1実施形態に係る本開示のポリエステル樹脂は、低い複屈折を有している。したがって、本開示のポリエステル樹脂は、例えば、液晶ディスプレイ等に使用する光学部品に好適に適用することができる。
【0073】
第1実施形態に係る本開示のポリエステル樹脂は、所望の形状に成形することができる。例えば、本開示のポリエステル樹脂から後述する第2実施形態に係る成形体を製造することができる。第1実施形態に係るポリエステル樹脂によれば、最終製品までの一連の工程において欠陥の発生を抑制することができる。これにより、最終製品を歩留まり高く生産することができる。
【0074】
第2実施形態に係るポリエステル樹脂の成形体及びその製造方法について説明する。
【0075】
第2実施形態に係るポリエステル樹脂の成形体は、第1実施形態に係るポリエステル樹脂と同様の組成を有する。第2実施形態に係る樹脂組成物の組成については上述の説明を援用する。
【0076】
本開示のポリエステル樹脂の成形体としては、例えば、ポリエステルフィルムを挙げることができる。ポリエステルフィルムは、例えば、10μm〜100μm等の厚さを有することができる。ポリエステルフィルムは、上述の複屈折を有することができる。本開示のポリエステルフィルムは、例えば、位相差の小さい光学フィルムとして適用することができる。
【0077】
ポリエステルフィルムは、ポリエステル樹脂を厚さ100μm〜200μmのシートに成形した後、ポリエステルシートを、ガラス転移温度よりも25℃〜50℃高い温度で一軸方向に、例えばシートの大きさの3倍〜5倍の大きさに、延伸させて作製することができる。
【0078】
延伸速度は、3%/秒以上であると好ましい。延伸速度が3%/秒未満であると、生産性が低下してしまう。延伸速度は、20%/秒以下であると好ましく、10%/秒以下であるとより好ましく、5%/秒であるとさらに好ましい。延伸速度を遅くしたほうが複屈折を低下させることができる。二軸延伸する場合、縦方向(MD;Machine Direction)と横方向(TD;Transverse Direction)の延伸速度は同じであると好ましい。これによって、方向依存性のないフィルムを製造することができる。
【0079】
ここで、延伸速度の単位「%/秒」とは、延伸処理前のシートの延伸方向の長さを基準として、1秒間に延伸するフィルムの延伸方向の長さの割合を示している。例えば、延伸前のフィルムの縦方向の長さが100mmである場合、延伸速度4%/秒とは、1秒間にフィルムを縦方向に4mm延伸することを意味する。
【0080】
未延伸シートを延伸する倍率は、任意の倍率に設定することが可能であるが、延伸処理前のフィルムの延伸方向の長さを基準にして、2.5倍以上であると好ましく、3倍以上であるとより好ましい。延伸倍率が2.5倍以上であると、効率よく薄膜フィルムを製造することができる。延伸可能倍率は、破れを生じることなく延伸可能かどうかによって判断することができる。また、未延伸フィルムを延伸する倍率は、延伸処理前のフィルムの延伸方向の長さを基準にして、6倍以下であると好ましく、5倍以下であるとより好ましい。倍率が6倍を超えると、延伸時に破れが発生することがあり歩留まりが低下する場合がある。二軸延伸する場合には縦方向と横方向の延伸倍率は同じであると好ましい。これによって、方向依存性のないフィルムを製造することができる。
【0081】
二軸延伸方法は、縦方向と横方向とを同時に延伸する同時延伸であってもよいし、縦方向と横方向とを順次延伸する逐次延伸であってもよい。フィルムの方向依存性を低下させるためには、同時延伸のほうが好ましい。
【0082】
本開示のポリエステル樹脂(成形体含む)における上述以外の特徴は、本開示のポリエステル樹脂の組成、構造又は特性により直接特定することが困難なものもあり、その場合には製造方法によって特定することが有用である。例えば、本開示のポリエステル樹脂の特性が、組成等によって直接特定できない場合、製造方法によって特定することが適切な場合もある。
【0083】
以下に、本開示のポリエステル樹脂及びその成形体について実施例を用いて説明する。本開示のポリエステル樹脂及びその成形体は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0084】
ポリエステル樹脂を作製し、その耐熱性及び複屈折を評価した。
【0085】
[ポリエステル樹脂の作製]
容量30リットルのステンレス製反応容器に、表1に示す配合となるようにポリエステル樹脂の原料を投入し、反応容器内を窒素置換した後150℃で原料を溶解させた。テレフタル酸成分(以下、「TPA」と表記する)の原料としてテレフタル酸ジメチルを用いた。2,6−ナフタレンジカルボン酸成分(以下、「NDC」と表記する)の原料として、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルを用いた。9,9−ジ(カルボキシエチル)フルオレン成分(以下、「FDP」と表記する)の原料として、9,9−ジ(メトキシカルボニルエチル)フルオレンを用いた。表1において、「EG」はエチレングリコール成分を表す。「1,2−PG」は1,2−プロパンジオール成分を表す。「1,2−BG」は1,2−ブタンジオール成分を表す。「BPEF」は、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン成分を表す。「BOPPEF」は、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン成分を表す。
【0086】
次に、エステル交換触媒として酢酸マンガン・4水和物及び酢酸カルシウム・1水和物を投入し、240℃まで4時間かけて徐々に昇温し、さらに240℃に保持したまま1時間反応を継続した。副生物の留出が無くなり、且つ所定の副生物が留出したことを確認した。次に、トリメチルホスフェート及び二酸化ゲルマニウムの水溶液として添加した。そして、徐々に昇温と減圧を開始し、90分後には270℃かつ0.13kPaとし、この状態で重縮合反応を行い、所定のトルクに到達するまで反応を継続した。所定のトルクに到達したら、窒素で反応容器内を加圧にし、樹脂を冷却水中にストランド状に押し出し、カッティングしてポリエステル樹脂のペレットを得た。
【0087】
[ポリエステル樹脂の組成分析]
得られたポリエステル樹脂について、核磁気共鳴(NMR;Nuclear Magnetic Resonance)を用いて組成分析を行った。ポリエステル樹脂の組成は、溶媒として重水素化クロロホルムを用い、基準物質としてテトラメチルシランを用いて、ブルカー・バイオスピン社製FT−NMR装置(DPX400型)を使用して
1H−NMRスペクトルの特異吸収ピークから定量した。その結果、ポリエステル樹脂の組成は、原料成分の配合組成と整合することが確認された。
【0088】
[ポリエステル樹脂のガラス転移温度測定]
得られたポリエステル樹脂についてガラス転移温度(Tg)を測定した。パーキンエルマー社製示差走査熱量測定装置(DSC−7)を使用して、窒素雰囲気中で50℃から10℃/分で昇温し、ガラス転移による吸熱挙動の中間点温度をガラス転移温度(Tg)とした。測定結果を表2に示す。
【0089】
[ポリエステル樹脂の複屈折測定]
得られたポリエステル樹脂について複屈折(Δn)を測定した。得られたポリエステル樹脂を270〜280℃でシート状に押出成形し、厚み100〜200μmのシートとした。得られたシートを90mm×90mmの大きさに切り出した。切り出したシートをガラス転移温度(Tg)+30〜35℃の温度で、10%/秒の速度で一軸方向に3倍延伸し、試験片を得た。得られた試験片について、王子計測機器社製位相差測定装置KOBRA−WRを用いて、588.9nmの単色光で複屈折を測定した。測定結果を表2に示す。
【0090】
試験例1〜7及び12においてはガラス転移温度を145℃以上とすることができたが、試験例8〜11においてはガラス転移温度が145℃未満となった。試験例8〜11においてはTPAが多いことがガラス転移温度の低下に影響したものと考えらえる。これより、TPAは、酸成分の総量に対して60mol%未満であると好ましく、55mol%以下であるとより好ましく、50mol%以下であるとより好ましく、40mol%以下であるとより好ましく、35mol%以下であるとより好ましく、30mol%以下であるとより好ましく、28mol%又は29mol%以下であるとさらに好ましいと考えられる。また、TPAは、酸成分の総量に対して、5mol%以上であると好ましく、10mol%以上であるとより好ましく、15mol%以上であるとさらに好ましいと考えられる。
【0091】
試験例1〜5及び8〜11においては、複屈折を5×10
−4以下とすることができたが、試験例6〜7及び12においては、複屈折が5×10
−4よりも高くなった。試験例12において、複屈折が高くなったのは、NDCの含有率が高いためであると考えられる。これより、NDCは、酸成分の総量に対して70mol%未満であると好ましく、60mol%以下であるとより好ましく、55mol%以下であるとさらに好ましいと考えられる。試験例6〜7において複屈折が高くなったのは、FDPの含有率が低いためであると考えられる。これより、FDPは、酸成分の総量に対して、10mol%よりも多いと好ましく、15mol%以上であるとより好ましく、20mol%以上であるとさらに好ましいと考えられる。
【0092】
試験例5においては、高い耐熱性及び低い複屈折を実現することができた。しかしながら、試験例5のポリエステル樹脂でフィルムを作製するとき、延伸前のシートに成形したときにすでにシートに割れが生じるものがあった。したがって、ポリエステルフィルムの生産性を高めるためには、BPEFは、アルコール成分の総量に対して80
mol%以上であると好ましいと考えられる。また、BOPPEFは、アルコール成分の総量に対して10
mol%以下であると好ましく、実質的に含有しないとより好ましいと考えられる。
【0093】
ガラス転移温度が145℃以上であり、複屈折が5×10
−4以下となったのは試験例1〜5であった。このうち、ポリエステルフィルム作製時に欠陥が生じにくいのは試験例1〜4であった。したがって、試験例1〜4に係る組成であれば高耐熱性及び小位相差を実現可能であり、かつ高生産性も実現可能なポリエステル樹脂を得ることができる。すなわち、酸成分は、TPA、NDC及びFDPからなるとより好ましい。TPAは、酸成分の総量に対して5mol%〜40mol%であると好ましく、10mol%以上30mol%未満であるとより好ましい。NDCは、酸成分の総量に対して30mol%〜60mol%であると好ましく、35mol%〜55mol%であるとより好ましい。FDPは、酸成分の総量に対して10mol%〜50mol%であると好ましく、15mol%〜40mol%であるとより好ましい。アルコール成分は、1,2−PG及びBPEFからなるとより好ましい。1,2−PGは、アルコール成分の総量に対して3mol%〜30mol%であると好ましく、5mol%〜20mol%であるとより好ましく、5mol%〜15mol%であるとより好ましい。BPEFは、アルコール成分の総量に対して70mol%〜97mol%であると好ましく、80mol%〜95mol%であるとより好ましく、85mol%〜95mol%であるとより好ましい。
【0094】
また、高耐熱性及び低複屈折を実現するためには、少なくとも以下のモル比を満たすと好ましいと考えられる。TPA/NDC=0.1〜0.9、好ましくは0.2〜0.8。FDP/TPA=0.4〜3、好ましくは0.5〜2.5。NDC/FDP=0.8〜3、好ましくは1〜2.8。(TPA+NDC)/FDP=1〜5、好ましくは1.5〜4.5。BPEF/1,2−PG=5〜12、好ましくは7〜10。
【0095】
試験例1及び4は、複屈折1×10
−4以下と特に低くすることができた。これより、NDCとFDPのモル比は、NDC/FDPが1.6以下であると好ましく、1.5以下であるとより好ましいと考えられる。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
[延伸フィルムの作製]
複屈折測定試験における試験片の作製と同様の方法で試験例1〜4のポリエステル樹脂から延伸フィルムを作製した。延伸フィルム作製までの工程において、ポリエステル樹脂に欠陥は観察されなかった。
【0099】
本開示のポリエステル樹脂(その成形体含む)及びその製造方法は、上記実施形態及び実施例に基づいて説明されているが、上記実施形態及び実施例に限定されることなく、本発明の範囲内において、かつ本発明の基本的技術思想に基づいて、各開示要素(請求の範囲、明細書及び図面に記載の要素を含む)に対し種々の変形、変更及び改良を含むことができる。また、本発明の請求の範囲の範囲内において、各開示要素の多様な組み合わせ・置換ないし選択が可能である。
【0100】
本発明のさらなる課題、目的及び形態(変更形態含む)は、請求の範囲を含む本発明の全開示事項からも明らかにされる。
【0101】
本書に記載した数値範囲については、別段の記載のない場合であっても、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし範囲が本書に具体的に記載されているものと解釈されるべきである。