特許第6851905号(P6851905)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6851905電気式脱イオン水製造装置の運転方法および電気式脱イオン水製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6851905
(24)【登録日】2021年3月12日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】電気式脱イオン水製造装置の運転方法および電気式脱イオン水製造装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/469 20060101AFI20210322BHJP
   B01D 61/54 20060101ALI20210322BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20210322BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20210322BHJP
   B01D 61/46 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   C02F1/469
   B01D61/54
   B01D61/58
   C02F1/44 A
   C02F1/44 D
   B01D61/46
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-105208(P2017-105208)
(22)【出願日】2017年5月29日
(65)【公開番号】特開2018-199104(P2018-199104A)
(43)【公開日】2018年12月20日
【審査請求日】2020年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本宮 明紘
(72)【発明者】
【氏名】宮ノ下 友明
【審査官】 高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−184410(JP,A)
【文献】 特開2013−188683(JP,A)
【文献】 特開2012−192379(JP,A)
【文献】 特開2011−190663(JP,A)
【文献】 特開2006−255651(JP,A)
【文献】 特開2008−237971(JP,A)
【文献】 特表2007−511349(JP,A)
【文献】 特開2005−144301(JP,A)
【文献】 特開2016−203085(JP,A)
【文献】 特開2002−251505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/46 − 1/48
1/00
1/42
1/44
B01D 61/00 − 71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気式脱イオン水製造装置の運転方法であって、
(i)電気式脱イオン水製造装置の被処理水水質と、処理水水質を計測し、
(ii)処理水水質に改善が必要な場合には、電気式脱イオン水製造装置についての、過去の被処理水水質および処理水水質のデータと、その際の運転条件のデータの解析結果に基づいて、選択すべき運転条件候補を抽出し、
(iii)抽出された運転条件候補に基づいて運転条件を変更して運転を行い、
(iv)運転条件が変更された運転により目標処理水水質が得られたかを判定し、
(i)〜(iv)の工程を、目標処理水水質が得られるまで繰り返
(iii)において選択すべき運転条件候補は複数であり、目標処理水水質が得られる確率の高い順に優先順位が付けられている、
電気式脱イオン水製造装置の運転方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電気式脱イオン水製造装置の運転方法であって、
運転条件候補は、複数の事業所に設置されている電気式脱イオン水製造装置における、被処理水水質および処理水水質のデータと、その際の運転条件のデータに基づいて得られる、
電気式脱イオン水製造装置の運転方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電気式脱イオン水製造装置の運転方法であって、
電気式脱イオン水製造装置の被処理水は、逆浸透膜分離装置の処理水である、
電気式脱イオン水製造装置の運転方法。
【請求項4】
電気式脱イオン水製造装置であって、
被処理水水質と、処理水水質を計測する水質計測手段と、
処理水水質に改善が必要な場合には、電気式脱イオン水製造装置についての、過去の被処理水水質および処理水水質のデータと、その際の運転条件のデータの解析結果に基づいて、選択すべき運転条件候補を抽出する運転条件候補抽出手段と、
運転条件候補抽出手段において抽出された運転条件候補に基づいて運転条件を変更して運転を行い、目標処理水水質が得られたかを判定し、目標処理水水質が得られない場合に、その時の処理水水質に基づいて運転条件取得手段による運転条件の取得、運転条件候補抽出手段による運転条件の抽出を繰り返す制御手段と、
を含
運転条件候補抽出手段において抽出された運転条件候補は複数であり、目標処理水水質が得られる確率の高い順に優先順位が付けられている、
電気式脱イオン水製造装置。
【請求項5】
請求項に記載の電気式脱イオン水製造装置であって、
運転条件は、複数の事業所に設置されている電気式脱イオン水製造装置における、被処理水水質および処理水水質のデータと、その際の運転条件のデータに基づいて得られる、
電気式脱イオン水製造装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の電気式脱イオン水製造装置であって、
変更すべき運転条件候補は、それぞれが複数の運転条件の組み合わせである、
電気式脱イオン水製造装置。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1つに記載の電気式脱イオン水製造装置であって、
電気式脱イオン水製造装置の被処理水は、逆浸透膜分離装置の処理水である、
電気式脱イオン水製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの電気式脱イオン水製造装置(EDI(Elctro Deionization)装置)を含む電気式脱イオン水製造システムの運転制御に関する。
【背景技術】
【0002】
電気式脱イオン水製造装置(EDI)では、カチオン(陽イオン)のみを透過させるカチオン交換膜とアニオン(陰イオン)のみを透過させるアニオン交換膜との間にイオン交換体(アニオン交換体および/またはカチオン交換体)を充填して脱塩室を構成し、カチオン交換膜およびアニオン交換膜の外側に濃縮室を配置し、脱塩室とその両側の濃縮室とからなるものを基本構成としてこれを陽極と陰極との間に配置している。このとき、脱塩室から見て、脱塩室と陽極との間にアニオン交換膜が配置され、脱塩室と陰極との間にカチオン交換膜が配置される。陽極と陰極との間に直流電圧を印加した状態で脱塩室に被処理水を通水すると、被処理水中のイオン成分は脱塩室内のイオン交換体に捕捉される。同時に、イオン交換膜とイオン交換体との界面あるいはイオン交換体とイオン交換体との界面において生じる電位差により水の解離反応が進行して水素イオン(H+)と水酸化物イオン(OH-)が生成し、この生成した水素イオンと水酸化物イオンとによって、先に捕捉されていたイオン成分がイオン交換されてイオン交換体から遊離する。遊離したイオン成分のうちカチオンは、直流電流によって駆動されてイオン交換体内を移動し、さらにカチオン交換膜を通過して陰極側の濃縮室に移動する。同様に、遊離したイオン成分のうちアニオンは、直流電流によって駆動されてイオン交換体内を移動し、さらにアニオン交換膜を通過して陽極側の濃縮室に移動する。これらの結果、脱塩室に供給された被処理水中のイオン成分は濃縮室に移行して脱塩室から処理水として脱イオン水が得られることとなり、同時に、脱塩室のイオン交換体も再生されることになる。濃縮室にはイオン成分が濃縮することとなるが、濃縮室に水を流すことによって、イオン成分を装置外に排出することができる。
【0003】
上記では、[濃縮室(C)|アニオン交換膜(AEM)|脱塩室(D)|カチオン交換膜(CEM)|濃縮室(C)]からなる基本構成(すなわちセル)が陽極と陰極との間に配置されているものとしたが、電極間にこのようなセルを複数個並置し、電気的には複数個のセルが一端を陽極とし他端を陰極として直列接続されるようにして処理能力の増大を図ることも可能である。この場合、隣接するセル間で隣り合う濃縮室を共有することができるから、EDIの構成としては、[陽極|C|AEM|D|CEM|C|AEM|D|CEM|C|AEM|D|CEM|…|C|陰極]の構成となる。このように1または複数のセルが配置されたものをEDIスタックと呼ぶ。EDIスタックの一端には陽極が配置され、他端には陰極が配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−97427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、EDIへの供給水(被処理水)の水質や温度が比較的安定している場合、EDIの運転条件を調整する必要はないが、被処理水中のイオン成分(硬度、炭酸、シリカなど)、pH、水温等の変化により、EDIの運転条件の調整が必要となる。
【0006】
経験豊富な運転員であれば、EDIの処理水水質の悪化の状況を観察して、EDIの処理水水質が改善する可能性の高い方法から順次あるいは同時に実行するなどして水質の改善を図り、それでダメなら処理水量を下げる、運転を停止するなどの処置を講じる。しかし、様々な条件に対して特定の人の経験則を単純に適用しても必ずしも良好な運転ができるわけではない。
【0007】
電気式脱イオン水製造装置においては被処理水の水質だけでなく、運転時間または停止時間の長さ、EDIスタックに印加する電流値、流量値、圧力値、水温など処理水水質に影響する条件が多岐にわたるため高精度の運転制御が必要である。また、電気式脱イオン水製造システムとして、EDIの前段に逆浸透膜分離装置を設ける場合も多く、この場合には逆浸透膜分離装置の運転状態もEDIの処理水水質に影響する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電気式脱イオン水製造装置の運転方法であって、
(i)電気式脱イオン水製造装置の被処理水水質と、処理水水質を計測し、
(ii)処理水水質に改善が必要な場合には、電気式脱イオン水製造装置についての、過去の被処理水水質および処理水水質のデータと、その際の運転条件のデータの解析結果に基づいて、選択すべき運転条件候補を抽出し、
(iii)抽出された運転条件候補に基づいて運転条件を変更して運転を行い、
(iv)運転条件が変更された運転により目標処理水水質が得られたかを判定し、
(i)〜(iv)の工程を、目標処理水水質が得られるまで繰り返
(iii)において選択すべき運転条件候補は複数であり、目標処理水水質が得られる確率の高い順に優先順位が付けられている、
電気式脱イオン水製造装置の運転方法に関する。
【0009】
また、運転条件候補は、複数の事業所に設置されている電気式脱イオン水製造システムにおける、原水水質および処理水水質のデータと、その際の運転条件のデータに基づいて得られるとよい。
【0011】
また、電気式脱イオン水製造装置の被処理水は、逆浸透膜分離装置の処理水であるとよい。
【0012】
また、本発明は、電気式脱イオン水製造装置であって、被処理水水質と、処理水水質を計測する水質計測手段と、処理水水質に改善が必要な場合には、電気式脱イオン水製造装置についての、過去の被処理水水質および処理水水質のデータと、その際の運転条件のデータの解析結果に基づいて、選択すべき運転条件候補を抽出する運転条件候補抽出手段と、運転条件候補抽出手段において抽出された運転条件候補に基づいて運転条件を変更して運転を行い、目標処理水水質が得られたかを判定し、目標処理水水質が得られない場合に、その時の処理水水質に基づいて運転条件取得手段による運転条件の取得、運転条件候補抽出手段による運転条件の抽出を繰り返す制御手段と、を含運転条件候補抽出手段において抽出された運転条件候補は複数であり、目標処理水水質が得られる確率の高い順に優先順位が付けられている、電気式脱イオン水製造装置に関する
【発明の効果】
【0013】
被処理水水質や運転時間等の変動に対して、従来の運転制御よりも精度の高い運転制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】電気式脱イオン水製造システムの構成を示す図である。
図2】事業所からのデータ送信を示すフローチャートである。
図3】データサーバ側でのデータ処理を示すフローチャートである。
図4】対策の候補送信の処理を示すフローチャートである。
図5】複数の処理パターンでの処理結果を示す図である。
図6】実施例1、比較例1での処理水水質を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。なお、本発明は、ここに記載される実施形態に限定されるものではない。
【0016】
図1には、電気式脱イオン水製造装置(EDI)を含む水処理装置(電気式脱イオン水製造システム)の構成が示されている。図1に示すように、原水は、ポンプ10によって、逆浸透膜分離装置12に供給される。ここで、原水の水質は、水質センサ(水質計測手段)14によって計測される。例えば、水質センサ14では、電気伝導度が計測される。
【0017】
逆浸透膜分離装置12の内部には逆浸透膜が設けられている。逆浸透膜分離装置12において、逆浸透膜を挟んで原水が供給される側を1次側、逆浸透膜を透過してきた透過水が得られる側を2次側と呼ぶ。
【0018】
逆浸透膜分離装置の1次側には、背圧弁と逆浸透膜のフラッシングを行うためのフラッシング弁とが接続している。通常の運転時にはフラッシング弁は完全に閉じられており、ポンプ10によって原水を加圧して逆浸透膜分離装置12に供給すると、背圧弁の作用によって逆浸透膜分離装置12の一次側が一定の圧力に保たれるので、原水の一部が逆浸透膜を透過し、そのときに不純物が除去され、逆浸透膜分離装置12の2次側から不純物が除去された逆浸透膜透過水が得られる。なお、透過水の一部は、必要に応じて原水側に循環される。
【0019】
また、原水のうち逆浸透膜を透過しなかった分は、不純物が濃縮されている濃縮水として背圧弁を介して外部に排出される。また、定期的にフラッシング弁を開け、一次側を洗浄し、フラッシング排水が外部に排出される。
【0020】
この逆浸透膜透過水は、水質センサ16で水質が計測された後、電気式脱イオン水製造装置18の脱塩室18a、濃縮室18b、電極室(陽極室、陰極室)18cに被処理水として送られる。
【0021】
電気式脱イオン水製造装置18は、上述したように、[陽極|濃縮室(C)|アニオン交換膜(AEM)|脱塩室(D)|カチオン交換膜(CEM)|濃縮室(C)|陰極]、[陽極|C|AEM|D|CEM|C|AEM|D|CEM|C|AEM|D|CEM|…|C|陰極]の構成を有する。電極室(陽極室および陰極室)18cからの電極水、濃縮室(C)18bからの濃縮水が外部に排出され、脱塩室(D)18aを通過することによってイオンが除去された処理水が脱塩室(D)18aから排出される。
【0022】
電気式脱イオン水製造装置18の処理水は、水質センサ20で水質を計測し、流量計22で水量が計測され、後段でさらなる処理がされた後、またはそのまま使用場所に供給される。なお、処理水の一部は必要に応じて原水側(ポンプ10の吸い込み側)に循環される。
【0023】
制御部50は、水質センサ14,16,20、流量計22からの計測データを得て、これらに基づいて、各種装置の運転を制御する。
【0024】
ここで、制御部50は、通信装置52を有しており、この通信装置52によって通信ネットワークを介し接続されている外部のデータサーバ60に各種データ(計測データおよび運転条件データ)を供給する。データサーバ60には、他の事業所(本事業所をA、他の2つの事業所をB,Cとする)B、Cからの各種データも供給されている。そして、データサーバ60は、各事業所A〜Cから供給される各種データを保存記憶する。データサーバ60には、演算装置62が接続されており、この演算装置62が、データサーバ60に蓄積されているデータに基づき、各種の統計演算を行い、各事業所A〜Cにおける電気式脱イオン水製造装置18を含む電気式脱イオン水製造システムの運転について、運転条件の変更などの提案を作成し、通信装置52に供給する。従って、制御部50は、事業所内の各種データのみでなく、演算装置62から供給されるデータに基づいて、電気式脱イオン水製造装置18を含む電気式脱イオン水製造システムの運転を制御することができる。
【0025】
「電気式脱イオン水製造システムの自動制御」
まず、電気式脱イオン水製造装置18に印加する直流電源装置の電流値を決定する。これは原水の水質分析から逆浸透膜分離装置12の処理水水質をシミュレーションで算出し、電気式脱イオン水製造装置18に供給される水質条件から決定される。
【0026】
変動要因としては、原水水質や逆浸透膜分離装置12の閉塞や経年劣化による除去率の低下、電気式脱イオン水製造装置18に内包されているイオン交換樹脂のイオン形の変化などがあり、これらが変動することで処理水水質にも影響が出る。これ以外にも電気式脱イオン水製造装置18の運転条件(特に自動制御可能な運転条件)は様々なものがあり、逆浸透膜分離装置12への供給流量、処理水流量、供給水圧力、濃縮水圧力、逆浸透膜分離装置12へ加圧水を供給するためのポンプ10の駆動(ポンプ10に電力を供給するインバーターの出力)、電気式脱イオン水製造装置18の流量、装置起動時または停止時の循環運転時間などがある。
【0027】
このようにして、基本的な運転条件が決定され、通常は決定された運転条件で電気式脱イオン水製造システムが運転される。しかし、各種の要因で、電気式脱イオン水製造装置18の処理水水質が悪化する場合がある。表1には、処理水水質が悪化した場合の推定原因とその対処方法例を示している。
【0028】
【表1】
【0029】
このように、処理水水質が悪化する原因は複数あり、その対策も複数知られている。しかし、実際にどのような対処が有効であるかは、必ずしも明確ではない。特に、処理水水質の悪化には、複数の要因があり相互に関連するものもあるため、適切な対処が何であるかを特定するのは難しい。
【0030】
従って、制御部50における自動制御は、EDIへの給水水質が悪化して処理水水質が悪化している場合に、EDIの電流値を高くし、それでも処理水水質がよくならない場合にEDIの処理水量を低下させるなど比較的単純なものに限定している。このため、処理水の悪化に対し、自動制御では対処できないことも多く、電気式脱イオン水製造システムの運転者は、このような場合に、経験を基に他の運転条件を変更し、処理水水質の改善を図っている。
【0031】
本実施形態では、多くのデータ(運転条件データ、水質データなど)をデータサーバ60に蓄積し、これを演算装置62によって解析して、各種の状況に対する多数の解決策を用意する。従って、演算装置62からの情報に基づいて、各種の自動制御を行うことができる。
【0032】
例えば、事業所Aに設けられた電気式脱イオン水製造システムにおいて、少なくとも電気式脱イオン水製造装置の被処理水水質(逆浸透膜分離装置12の処理水質)と処理水水質を連続または断続的に計測し、その計測結果を運転条件とともに、データサーバ60に送信する。なお、電気式脱イオン水製造システムへ流入してくる原水水質、逆浸透膜分離装置12の運転条件もデータサーバ60に送信するとよい。
【0033】
また、データサーバ60には、他の事業所B,Cにおける電気式脱イオン水製造システムにおける同様のデータも供給される。従って、データサーバ60では、各事業所A〜Cにおける、各段階での水質が各種機器の運転条件とともに保存される。
【0034】
そして、各事業所においては、各種の状態が発生し、通常の制御では対処できない場合には、経験豊富な運転者によるマニュアル的な対処がなされる。従って、このような対処を行った場合のデータもデータサーバ60に蓄積されていく。
【0035】
演算装置62は、データサーバ60に蓄積されている、複数の事業所の電気式脱イオン水製造装置の被処理水水質および処理水水質のデータと運転条件を確率統計的に解析する。なお、逆浸透膜分離装置の被処理水水質、処理水質のデータと運転条件についての解析を行うことも好適である。
【0036】
特に、各種のデータを時系列のデータとして記憶しておくことによって、運転条件の変更と処理水水質の変化の関係なども解析される。そして、このような多くのデータの確率統計的な解析によれば、処理水水質が悪化した場合における対処法を1つだけでなく複数用意することができる。すなわち、各事業所A〜Cの運転データから、処理水水質悪化の際の対処は多くあり、データ解析結果から対処として適切な候補が複数得られる。
【0037】
そして、事業所Aにおける処理水水質が悪化した際には、演算装置62は、データサーバ60にある膨大なデータを解析して得られた複数の対処策(運転条件の変更)の候補を制御部50に供給する。ここで、対処策は、目標処理水水質が得られる確率(成功確率)の高い順に優先順位をつけて供給されことが好適である。また、対処策の運転条件は、自動制御可能な機器の運転条件とすることで、対処策を自動的に実行することが可能となる。
【0038】
そして、電気式脱イオン水製造装置においては、供給された対処策に応じて各種機器の運転条件を制御する。特に、複数の対処策が優先順位をつけて供給されている場合には、優先順位に応じて対処策をその制御結果つまり処理水水質が適正値となるまでトライアンドエラー法によって変更する。なお、対処策実行後に処理が落ち着くまでに所定の時間が必要であり、その時間は待ってから評価を行う。また、1以上の対処策を実行しても、目標処理水水質まで改善されない場合には、再度その時の状態のデータに基づく、対処策を入手することを繰り返す。
【0039】
なお、逆浸透膜分離装置12も含め、電気式脱イオン水製造システムの各段の処理装置についてのデータ(被処理水水質、処理水水質、運転条件)を収集し、これを解析して、解析結果に基づき、各段の処理装置の運転条件を含めシステム全体として、適正な処理を行うように運転条件を制御するとよい。
【0040】
また、十分なデータの蓄積がない初期は仮定値を入力しておき、上述のような経験豊富な運転員による運転調整を行った結果をデータサーバ60へ入力してデータの精度向上を図るとよい。そして、十分なデータが蓄積された後は、自動運転データとトライアンドエラー法による自動制御へ移行する。
【0041】
また、入力条件つまり原水水質と処理水水質およびその時の運転条件についてのデータは、随時データサーバに供給され蓄積されていくため、演算装置62による解析結果としての、成功確率の高い対処策としての運転条件も常に更新される。これによって、データの蓄積に応じて精度が向上していく。また、データ量が多いほど精度向上の速度も速くなることから、データサーバへのデータの蓄積にはインターネットでの通信、クラウドへの集積などが好適であり、演算装置での解析にはビッグデータ解析の利用が有効である。
【0042】
なお、制御部50は、データを随時データサーバ60に提供しており、演算装置62は随時各種の解析をしている。演算装置62は処理水水質の悪化を検出したときに自動的に運転条件の変更についての情報を制御部50に提供してもよいし、管理者に悪化を通知し、管理者が操作(許可)したときのみ、演算装置から対処策を制御部に送るようにしてもよい。さらに、演算装置62は常に対処策について制御部に供給しておき、管理者が許可したときに、対処策を実行するようにしてもよい。
【0043】
また、データサーバ60にデータが十分に蓄積されており、成功確率の高い対処策が決まっていれば、制御部50はある程度の対処法などを内部に記憶しておき、これに基づいて対処策を実行してもよい。
【0044】
<データ処理>
図2には、事業所Aにおける、制御部50の、データ送信処理について示してある。まず、各種機器の運転条件を取得する(S11)。電気式脱イオン水製造装置の被処理水水質、処理水水質を取得する(S12)。基本的に、自動計測可能な電気伝導率などを検出するが、温度、硬度、遊離炭酸、TOC(全炭素)の他、一般的な水質項目も取得するとよい。特に、データ蓄積時には多くの水質項目についての検出値を取得するとよい。そして、取得した運転条件、水質を、データサーバに送信する(S13)。このような処理を所定時間毎に繰り返す。送信する水質項目は毎回異なってもよいが、自動計測できるデータは毎回送信することが好ましい。
【0045】
図3には、データサーバ60、演算装置62の処理について示してある。まず、事業所からの各種データを受信する(S21)。受信したデータを運転条件、水質項目毎に記憶する(S22)。演算装置62は、記憶されているデータを確率統計的に解析し、処理水水質が悪い場合の運転条件、良い場合の運転条件、悪化傾向にあった処理水水質が回復傾向となる場合の運転条件などを解析する(S23)。そして、解析結果を記憶する(S24)。このような処理を所定時間毎に繰り返すことで、解析結果が更新される。なお、解析結果は、問い合わせを受けた場合に、送信してもよいし、随時事業所に送信してもよい。
【0046】
図4には、事業所から、対策についての問い合わせを受けた場合の、データサーバ、演算装置の処理について示してある。問い合わせを受信した(S31)場合には、その問い合わせの問題となる水質、運転条件をすでに記憶している解析結果を比較する(S32)。次に、比較結果に基づいて、運転条件候補(運転条件変更候補)を優先順位を付けて複数抽出する(S33)。そして、得られた選択すべき運転条件候補を事業所に送信する(S34)。なお、選択すべき運転条件候補は、それぞれが複数の運転条件の組み合わせである場合が多い。すなわち、電流を大きくするとともに、処理水量を減少するなどの複数の条件変更を行う。
【0047】
図5には、対策実施についての処理を示してある。運転条件等の変更後ある程度の時間(例えば、処理装置内の水が入れ替わるのに必要な時間)が経っており、処理が安定しているかを判定する(S41)。処理が安定していれば(S41、Y)、電気式脱イオン水製造装置の被処理水、処理水の水質を取得し(S42)、処理水水質が要求を満足しているかを判定する(S43)。要求を満足していなければ(S43、N)、解析結果との比較を行う(S44)。次に、比較結果に基づき、対策としての運転条件候補を複数決定する(S45)。そして、制御部50は、運転条件候補に基づいて運転条件を変更する(S46)。ここで、各条件の比較、候補決定は、制御部50において行ってもよいし、データサーバ60、演算装置62側で行ってもよい。データサーバ60、演算装置62側にて比較を行う場合には、運転条件、電気式脱イオン水製造装置の被処理水および処理水水質をデータサーバに送信し、演算装置62が解析結果をとの比較を行い、候補を決定して、制御部50に結果を送信する。
【0048】
このような対策を順次変更しながら、処理水水質が要求基準を満たすまでトライアンドエラーで繰り返し、最終的な判定でYesとなることで処理を終了する。
【0049】
なお、図5の処理における運転条件の変更を1回以上行った場合に、随時データサーバ60に新たな運転条件データ、被処理水水質・処理水水質データを送信して、新しい運転条件候補を入手するとよい。これによって、演算装置62において、すでに行った対処のデータを含め、新しい運転条件候補の選定が行え、制御部50においてそれを入手することができる。なお、対処策としては、表1において解決できない場合の対処として示した交換なども含めるとよい。
【0050】
<実施例1>
図1に示す電気式脱イオン水製造システムにおいて、起動時には、EDI18の処理水を逆浸透膜分離装置12の流入側に循環する循環運転を行う。この起動時の循環運転時間は通常1分で自動制御されている。このような通常制御状態において、原水水質が初期の設計値よりも高くなった場合には電流値を高くすることで処理水水質を悪化させないように対応をするが、それでも処理水水質が悪化傾向にある場合は処理水量を減らす操作をする。その対応でも改善しない場合は運転を停止することとなる。
【0051】
実施例1においては、データサーバ60に記憶されている複数の事業者の電気式脱イオン水製造システムのデータに基づく解析から、原水水質が上昇傾向にあるときは、起動時の循環運転時間を長くする、電流値を上げる、処理水量を減らすという操作の順番の運転条件候補が提供された。実際の運転において、それら提示される手順に基づいて操作を行ったところ、循環運転時間を長くすることで、処理水水質が安定するようになった。
【0052】
上述のように、循環運転時間の変更は通常の自動制御では、考慮されないものであるが、ベテランの管理員などが、このような対処を行うことがあり、そのような対処が利用可能になる。また、EDIの濃縮室への濃縮水量や、逆浸透膜分離装置の供給圧力、循環量なども、運転条件候補として採用することが可能となった。
【0053】
図6は、EDIの被処理水の水質が、5μS/cmから10μS/cmに悪化した際の実験結果を示したものである。この被処理水の水質悪化に対して、比較例1ではEDIの電流値を10%上昇させて対応したのに対し、実施例1ではEDIの電流値を10%上昇させることに加えてEDI起動時の循環運転時間を初期設定の1分から3分に長くすることにより対応したものである。
【0054】
図6から、比較例1の条件では、EDIの処理水水質が悪化したが、実施例1の条件では、EDIの処理水水質が悪化することを抑制できた。このことから、EDIの起動時に、循環運転の時間を長くすることでEDIに充填されているイオン交換樹脂のイオン形を適正な状態に保つことができたために、EDIの被処理水の水質悪化に対応できたものと推定される。
【符号の説明】
【0055】
10 ポンプ、12 逆浸透膜分離装置、14,16,20 水質センサ、18 電気式脱イオン水製造装置、22 流量計、50 制御部、52 通信装置、60 データサーバ、62 演算装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6